「はい、ほな試験を始めます。相手するうちは【白尾・刃】（しらお じん）。隣のルネサンスが【ティグー・ラント】。こっちが【ネル・シュワルツ】。よろしゅうなぁ」
　緊張している中、緩いペースで始められる。場はしらけたが、刃は構わず続けた。
「試験会場はここと、お城の中な。森に入ったらあかんよ？　何かあったとき救援とかできんから。はい！　じゃあ構え！　よぉい……どん！」
「行きます、せぇの！」
「とぉ！」
「プチコード！」
　【タスク・ジム】が発煙筒と共に投げた板や枝などの簡易トラップは刃の突撃を、【プラム・アーヴィング】の臭い袋はティグーの嗅覚を封じる。
（じゃあ先輩？　ちょぉっと、失礼）
　【エリカ・エルオンタリエ】のプチコードと発煙筒の煙で視界が封じられている中、瞬く間に自身と依頼人に変装を施した【チョウザ・コナミ】がプラムと【オズワルド・アンダーソン】の二人を連れ、わざと背中に描いた的を見せるようにして城へ走る。
　直後、液状化でトラップも煙もすり抜けたネルが攻撃するが、プラムとオズワルドの二人が相殺。仕留めきれずに後を追った。
「あ、先行かれた！　ほなうちも――」
「先輩は行かせませんわ！」
　晴れゆく煙の中、刃に飛び込む【朱璃・拝】（しゅり おがみ）自慢の正拳は、ガードの上から奥へ押し込む。
「先輩のお相手はこの私！　拝・朱璃！　この身に代えて、ここで止めますわ！」
「威勢がえぇな。ほんで可愛ぇ子やなぁ君。うちの人はホラ、化け物やさかい」
「誰が化け物よ！」
　【仁和・貴人】（にわ たかと）の攻撃と対しながら、ティグーは抗議する。
　大鎌を片手で受け止めながら言われてもと後輩らは思ったが、言う勇気はない。ただ一人、貴人は違った。
「先輩、少しいいか」
「何？　手加減ならしてあげるよ」
「そうではない。ただ……オレは貴女に惚れた！　貴女が欲しい！」
「え」
　固まるティグー。静寂の中で、刃の笑いを堪える声が目立つ。
「オレの将来に、貴女は必要な人だ。オレの下へ来て欲しい」
　思わぬ事態が相当面白いらしく、刃は笑いを堪えようと必死。
　ティグーは自ら大鎌を弾いて自ら硬直を解いたが、どうやら好意を直接ぶつけられるのは苦手らしい。明らかに動揺している。
　ただ貴人にとっては魔王になる悲願成就のために必要だという意味での発言なので、この場合は偶然、足りない言葉選びが思わぬ形で彼女の動揺を誘っていた。
「そ、その……嬉しいけど、試験中だし。私、気になってる人もいるし……だから――」
「そうか……なら、仕方ない！」
　大鎌で空を斬り、貴人は構えた。
「ならばこの試験で、その気になる人を上書きする！」
　大鎌の一撃を躱し、ティグーが突っ込む。だが間に【ビアンデ・ムート】が入り、攻撃を防いだ。直後に下がった彼女の頭上を通り過ぎ、貴人の鎌がティグーを後退させる。
　明らかに動きが鈍い。動揺は隠しきれない。
「突然あんなこと言うから、ビックリしちゃいました」
「オレは自分の意志を伝えただけだ。だがあの人にオレを認めさせるには、一人では難しい。協力してくれるか」
「もちろんです。そういう作戦ですし、仲間を護るのが私の役割ですから！」
「えぇなぁ、青春やなぁ……ま、うちは彼女おるけど。でもあの仮面の子、おもろ――」
　意識が逸れているところを見逃さない。タスクの剣が刃を掠める。
「朱璃さん！」
「了解、ですわ！」
　拳と蹴りの応酬が休むことなく刃を襲う。応酬の最中にあるわずかな隙目掛けて刃は木刀を振るが、タスクが間に入って防いだ。
「部長！」
「えぇ！」
　エリカの魔法が追撃する。だが戦塵が晴れたとき、刃は笑みを湛えて立っていた。
「連携よし！　さぁ、次はどないする？」
「攻撃がまったく当たらない……なんて回避能力。燃えて来ましたわ……！」
「食い止めることはできてます。依頼人にはオズワルドさんとプラムさんもついてます。僕らは全力で、刃先輩を押さえましょう」
「えぇ。二人共、気を引き締めていくわよ」
　こちらは数的有利を活かし、ティグーの方はビアンデが防御、貴人が反撃する戦法がうまく働いている。彼女の動揺もあってのことだろう。
　依頼人には魔導書を渡し、戦線より後方に下がって魔法発動ができるとブラフを張ってもらっている。チョウザの上着を被って変装しているし、ティグーはまだ臭い袋で気付いてない。仮に気付かれても、充分対応は可能だ。
　まだ大丈夫だ、こちらは。
（みんな、どうか無事で……）
　城内の戦闘は把握できない故、不安も積もる。だがそれらすべてを振り払い、エリカは自分の頬を叩いて刃に向き直った。
　
　試験開始から二〇分経過。三人は背後から迫りくるネルの猛攻から逃げ続けていた。
　指先から放つ水鉄砲で狙い撃つネルの攻撃は、依頼人扮するチョウザにのみ向けられている。それをプラム、オズワルドが相殺している状況だ。
「俺達には目もくれずか、寂しいなぁ」
「そういう課題ですから、当然ですよ。こっちも倒すくらいの気持ちで攻めないと」
　それこそ、殺すつもりで。
　医学を学ぶオズワルドだからこそ、人命を護ることに容赦はない。それこそ敵を殺してでも、人を救う。それだけの覚悟を持って挑むべき相手だと、オズワルドは考えていた。
「だけど俺達は完全無視だ。どうする？」
「ねぇねぇ。ザコちゃんしか狙わないんだったらさぁ、こういうのはどぉ？」
　目の前に左右の分かれ道。チョウザとプラムが左、オズワルドが右に走る。
（あ？　分かれようと標的のいる方を狙うに決まってんだろ）
　ネルの意識が、体が依頼人の方を向いた直後、ネルの背に向けてオズワルドは走った。
「わかってるよ、本命はおまえだろ」
　放たれた水鉄砲に毛先を散らされながらも、オズワルドは果敢に攻め行く。
　雷の魔法で躊躇なく突っ込み、グリモワールの角で殴らんと振りかぶる。攻撃は躱され、お返しとばかりに蹴り飛ばされるが反撃を忘れない。飛ばされながらも魔法で攻撃、着地し損ねて体を打ち付けたのと同じ瞬間に当ててみせた。
「野郎……」
　雷電が走る腕を振り払い、魔力が練られる。だが――。
「重力思念」
　発動直前、練っていた魔力が霧散して不発に終わる。
　魔力阻害の技能で発動を阻止したプラムは、情欲的な視線でネルを誘っていた。
　ネルの技はかつて海賊船を沈めた経験から名付けられた魔法なのだが、どう解釈したのか情欲を満たせる魅力的な魔法と捉えているのがネルの機嫌を損ねる。
「激しい蹂躙も、ゆっくり嬲（なぶ）られるのも乙なもの。今夜はじっくり楽しみましょう？」
　と言う割に開始からもう二度目、魔法の発動を阻止している。情欲にそそられながらも、役目はちゃんと果たしているのだから抜け目がない。
　与えられた役割をまっとうするのは評価するべきだろうが、その視線が神経を逆撫でる。
「んの変態野郎」
「罵声で責めるのがご趣味ですか？　それもまた一興ですかねぇ」
「ちょいちょい、ザコちゃんいるんだからあまり挑発しないでよぉ」
　チョウザが耳打ちした直後、再びオズワルドが攻める。迎撃せんとしようとしたネルだが、プラムのプチコードに視界を奪われ、その隙に交錯した二人のプチラドが炸裂した。
「さぁ、まだまだ楽しみましょう？　せんぱい？」
　挑発するプラムが一人になり、代わりにオズワルドがチョウザの前へ。だが直後、爆煙から伸びたネルの水鉄砲がオズワルドを抜け、背後で屈んだチョウザの頭を掠めた。
「もう少し下がって貰えますか」
「言われずとも下がるけどぉ、どうせなら一緒に逃げた方がよくなぁい？　逃げられれば、だけどねぇ」

　試験開始からまもなく五〇分。沈み始めた月が白む。
「通しません！」
　飛び込んだティグーの一撃をビアンデが防ぎ、貴人が退ける。未だこの戦況は続いていたが、さすがに時間経過と共に二人に疲労が溜まっていく。ティグーも冷静さを取り戻しつつあった。今までより間髪入れず、攻めてくる。
　反応が遅れたビアンデに迫る鉄拳。だが貴人が間に入って庇い、まともに受けながらも反撃して再び退かせた。
「ぐふっ！　……さすが、俺の見込んだ人だ」
「貴人さん！」
「何……防御の要を失いたくなかったのだ。気にするな」
（私が、私が守らなきゃいけなかったのに……）
　ティグーの動きにキレが戻った程度で動じて、遅れて、防げなかった。代わりに仲間が傷付いた。自分が護るって、誓ったのに。
「刃！」
「はいはいなんでしょかぁ」
　タスクの剣を弾き、朱璃の拳も躱した刃もまた下がる。こちらもまた、絶えず攻めているタスクと朱璃に疲労が見られた。
「奥の……魔導書開いてる子」
　臭い袋の効力が切れたか。ティグーは鼻をヒクヒクさせる。
「チョークの臭いがする」
「なるほど髪を染めたんか。いや、なぁんもせんからおかしいとは思うてたけどな」
　バレた。だが残り十分、耐えきれる可能性はある。
「ほな、依頼人もわかったことやし！　時間もそろそろやし！　実力も大体わかったし！　いっちょここらで行っときましょかぁ」
『ひゃっ！』
　エリカとビアンデが短い声を上げる。刃が突然上半身を晒したからだ。木刀を数度振り下ろして、剣撃を調節する。直後、振り下ろされた木刀が塵を舞い上げた。
「行くで、構えぃ」
　戦塵を自ら斬り払い、迫りくる。圧し掛かって来る気迫に、気圧されそうになる。
　依頼人との間に入ったタスクは振り下ろされた剣撃を受け、成す術もなく片膝をついた。呼吸を忘れ、止まる。
「タスクさん！」
　驚くのは早かった。刃の木刀は持ち手を押されながら手放され、タスクの木刀を軸に回転し、顔面目掛けて迫りくる。
　のけぞって躱した直後、宙を舞った木刀が取られて振り下ろされる。摺り足で下がったすぐ側を通過する風切り音が悪寒を誘い、止まることなく木刀が迫る。
　直後、助けに入ってくれた朱璃のお陰で難を逃れ、距離を取れた。
「大丈夫ですか、タスク様」
「ありがとうございます、朱璃さん」
　自分とはまったく違う、柔軟で型にはまらない、しかし力強い太刀筋。見切れる自信などない。しかしだからこそ、興奮を隠しきれない部分もある。
「タスクさん」
　エリカがタスクを見つめる。タスクは頷き、改めて構えた。
　エリカが心配しているような不安や恐怖、絶望感はタスクの中になかった。剣士として純粋に、技の一つ一つに尊敬する。故に真っ向から勝負したい。そんな好奇心も湧いて来る。
「朱璃さん、依頼人の護衛を。私達で仕掛けるわ」
「あれですわね。わかりましたわ」
　朱璃に指示を送ってから、エリカは依頼人へと耳打ちする。
「先輩は魔法発動のフリを続けて頂けますか。私が代わりに牽制します。危険を感じたら、すぐに朱璃さんか私の後ろに」
　依頼人も頷いた。
　時間はもうわずか。依頼人はもうバレている。ティグーもいる。気は抜けない。だが、タスクにかける。
　絶えず鳴き続ける風切り音。木刀であるにも関わらず、繰り出される剣圧は鎌鼬の如く空を裂き、踏み込もうとする度恐怖を誘う。
　全身の痛みのせいだけではない。吹き荒ぶ風が伝える威圧感が、一歩一歩を重くする。
　怯むな。臆するな。そう命じて、無理だと返そうとする体に鞭打って一歩踏み込み、己の剣を振るう。だが先に、風を斬る剣が迫りくる。
　だが、生物の生存本能というべきなのか、迫りくる剣撃に対して、タスクの反応速度は自身も知らぬ限界まで上がっていた。火事場の馬鹿力、が正しいか。
　縦横無尽、型なんてあってないような刃の剣に傷付きながらも、タスクは果敢に攻め込む。そしてついに懐に入り込んだ。
「今ぁぁぁっっっ！！！」
　タスク渾身の突きが刃を捉える。直後、その切っ先から放たれたように見せかけたエリカのフドが、刃を吹き飛ばした。
　空中で体勢を立て直して着地するが、初めて刃にダメージが入る。
「なるほど。うちは君に、教えなあかんみたいやな……見るか？　本物の必殺技」

　時間は残り五分を切っていた。
　だがすでに、城内の戦線は終結していた。海賊船を沈めたネルの必殺技クラーケンが、オズワルド、プラムを縛り上げて、チョウザは逃げ場を失っていた。
「まさかここまで手こずるたぁな……必殺技はなるだけ出すなと言われてた。手加減もしろと言われた。だからって必殺技を出さざるを得ない状況にまで持って行かれるとは、思ってなかった。敬意を表すとか大それた台詞は言わねぇが、認めてやるよ。だからもう、終わらせてやる」
「待って」
　ネルが二人を締め落とそうとしたとき、チョウザは自ら背中を晒した。二人から自分へと注意を引くため、依頼人の口調で誘う。
「もういいんじゃない？　二人はもう充分やったでしょ。嬉しそうに縛られてる人もいるけど、二人共最後まで私を護ろうとした。だから終わらせるなら、私で終わらせよ？」
「……そうか」
（ま、ここまで気を惹ければ充分でしょ。これで油断してくれれば万々歳、ってねぇ）

「ぐふっ、ぐはっ……！」
「貴人さん！」
　貴人が鉄拳に沈む。
　反撃を狙って攻撃を受け続けていたが、さすがにダメージが蓄積していた。
　朱璃もビアンデも、もう限界が近い。対してティグーは未だ体力を有り余らせており、また、依頼人目掛けて飛び込む姿勢を見せていた。
「来ますわ！　ビアンデ様！　貴人様のためにも、全力で防御を！」
「……はい、はい！　依頼人は私が護ります！　必ず！」
「良い目。苦しみながら、怯えながら、それでも前に進む姿勢。私は好きだな」
（だから仲間のピンチになると必ず庇う君も、嫌いじゃなかったよ）
　倒れた貴人に一瞥を送り、ティグーは突っ込む。朱璃の正拳よりも先に鉄拳で殴り飛ばし、依頼人目掛けて跳ぶ。直後、ビアンデが防御。体重も乗せたティグーの一撃を真っ向から跳ね返す。
「ここから先、一歩も引きません！」
「私もですわ！」
（こりゃあもう、時間のこと忘れてるね）
　だがそれだけ一生懸命で、必死だということだ。本気でぶつかれないのが、申し訳ない。ふと残り時間を確認したとき、ティグーはわずかに吐息した。
「朱璃さん、と……ビアンデさん、だったね。残り時間一分切ったよ。だから、ごめんね。この一分だけ――私も全力で、ぶつからせて」

　タスクの木刀が落ちる。満身創痍、心身ともに限界が近い。
「終わりか？」
「リーラブ！」
　エリカの魔法がタスクを癒す。しかしこれが最後の回復。
　刃とタスクが一騎打ちをする形になってから、エリカは攻撃魔法をほとんど使わず、タスクの回復に魔力を使っていた。
　貴人が倒れたことはわかっているし、ビアンデと朱璃が窮地なのもわかっている。だが刃を通せば、依頼人の的に彼の剣は届く。ここまで来て、そんなのはあんまりだ。
　故の苦渋の選択。二人を信じて、エリカはタスクのサポートに徹する。
「まだ、まだです……」
「あぁいや、すまん。自分が終わりかいう意味やのうて、時間がもう終わりかいう意味やねん。だから、これで最後や」
　渦巻く旋風。弾ける突風。深く引き込まれた木刀に、風という力が渦巻いてまとわれる。
　同時、タスクも引いた。最後の最後、意地で喰らいつく。エリカもまた、残っている魔力すべてを注ぎ込むつもりで練り上げた。
「斬り穿て――エア・レイ！！！」
「っぁぁぁあああ！！！」
　砂塵が舞う。周囲の木々は薙ぎ倒されて、城門の石柱に亀裂が入る。
　沈みかける月を背に放たれた一撃は、さながら月光が真白の刃となって伸びてきたよう。突きも同時に放たれたフドも瞬く間に消し飛び、わずかに威力を削ぐだけに終わる。
　直後タスクが見たのは、朝焼けに燃える空と、自分を心配そうに見下ろしているエリカだった。
「部長……」
　手を借りて体を起こすと、依頼人役の先輩が貴人、ビアンデ、朱璃の三人を介抱していた。オズワルド、プラム、チョウザの三人もネルが運んで来たようで、びしょ濡れだ。
　医者としてオズワルドも満身創痍ながら皆の治療をしていたが、皆の傷は思ったよりも浅く、残るような心配もなかった。
「手加減してくださったのですね、ネル先輩」
「当たり所がよかっただけだろ。必殺技引っ張り出された挙句、囮だったことに終わる直前まで気付かなかった間抜けが、仕留めそこなっただけだ」
　確かに、ネルに必殺技を出させるまで追い詰めた。だがそれは彼が手加減してくれていたからで、最初から本気だったら結末は違っていた。
　今回も最後には捕まってしまった。自分達は負けたのだ。
　だが同時、人の命を護る者として、また同族として、オズワルドは水の魔法をそこまで極めたネルという先輩に尊敬を抱く。自分も強くならなければと、硬く決心した。
「よかった。皆さん無事みたいで」
「起きたか」
　タスクが見上げると、刀を差した和服の女性が見下ろしていた。
　ティグーが暴走した際、試験官と共に待機していた先輩が止めていたと聞いている。多分その人だろう。今回は出番がなかったため、伝令役らしい。
「試験は終了。合格だ、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
　ふと、タスクは刃に気付く。エリカの手を借りて側に駆け寄り、頭を下げた。
「刃先輩、必殺技を真似るようなことをして、すみませんでした！　お相手してくださって、ありがとうございました！」
「自分、立てるんか。なら、行こか」
「え？」
　気付けば、タスクは襟を掴まれていた。抵抗する力もなく、ズルズル引かれていく。
「もう、必殺技欲しいなら言うてよなぁ。フド使うて真似せんでも、うちが教えるのに」
「え？　いや、あの――」
「さ、これから必殺技習得に向けて特訓や！　休んでる暇ないでぇ！」
　展開についていけない。心遣いは嬉しいが、もはや注意を引くための作戦だったなんて言えない。
　そして同じ理由で誰も刃を止められず、タスクは連れられていった。当然、その後必殺技を会得するより前に保健室に運ばれて行ったのは言うまでもない。
　何はともあれ、試験は無事に合格で幕を閉じた。ただし同時、実力不足を実感する試験でもあった。
　故に今日も皆勉学に、鍛錬に励む。いつか先輩達に追いつけるように。強くなって、自分にとって大切なものを、護れるように。