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故に彼女はめえと鳴く


ストーリー Story


 【メッチェ・スピッティ】は羊のルネサンスであり、学園の客員教授であり、眠りと魔法の研究の第一人者であり、学園の保健室では対処しきれないような怪我人に対する切り札といえる存在である。美術室に足を運ぶと毎回入口で顔を合わせるような気もするが、本業は間違いなく研究者である。
 どのような分野であれ、この道の第一人者、と言われるような人間である以上相応の実績があり、やろうと思えば研究以外の業務もしなければならない学園ではなく、もっと良い環境に身を置くことだってできるはずだ。なのにそんな彼女が何故学園に身を置いているのか――という話は、よくよく考えると不思議な話である。
 ここよりはるか東の国では『いのち』を意味する文字は『命』であり、それは『めい』と読むらしい。
 めいとめえは似ているから自分は学園で復活担当をしているんだめえ――ってメメたんのいとこの母親の旦那さんの奥様の娘のいとこが聞いたって言っとった! 故に彼女はめえと鳴くのでござる!!! とは学園長の言なのでうっかり信じて公衆の場でそんなこと言ってみようものなら指さして笑われること請け合いなので注意が必要である。
 とはいえ、座学で眠くなるといった弊害こそあれど、その独特のしゃべり方には人気があることは確かであり、彼女の存在が学園にとってなくてはならないものであることはまた事実であろう。


 どんな職種にだって繁忙期というものは存在する。その日はメッチェにとってそういう日だった。ことのあらましを一言で表せばそうなる。
 朝には調子に乗ったルーキーが魔の森に足を踏み入れた結果デュラハンに袋叩きにされて消滅しかけの状態で戻ってきて、昼には火山でトロルと取っ組み合いを演じた結果親指立てながらトロルと共に火山口に沈んでいったという卒業間近の学生たちが担ぎ込まれ、それが終わったと思えば薬草を調合していたはずなのにとんでもない猛毒が生まれてしまいあろうことかそれを合コンのノリで一気飲みしたという馬鹿が運ばれてきた。その合間合間にも保健室では捌ききれない怪我をした学生が運ばれてきたり手伝いもしない学園長が遊びに来たりするものだからたまったものではない。
 『たいりょく』が尽きて行動不能になったり重傷を負ったような学生を処置できるほどの技術があるとはいえ、メッチェ自身の魔力を無尽蔵というには少々無理がある。嵐のような時間が過ぎ去りようやく落ち着いてきた、と思えるようになってきた頃には既に彼女は満身創痍といってもいい状態であった。
「メェぇぇぇぇ……」
 艶を失った足にも届くような長髪を投げだし、地獄の底から湧いてくる亡者もかくやのうめき声と共に研究室のテーブルに突っ伏す様はちょっとしたホラーである。
 ともあれ、忙しさの波は去った。去ったのだ。座学を一つ休講にしてしまった申し訳なさもあるが、それ以上に一段落着いた達成感や安堵の色が今のメッチェの心には強い。
 今日はもうこのまま眠ってしまおう。そうでもしないと身体が持たない。せめて備え付けのベッドに、とか、このままでは流石に女として、とか、そういった思慮は全て疲労がどこかへ蹴りだしてしまった。身体中に絡みつく錘のような疲労に逆らうことなく目を閉じて、息を吸って、吐いて、まどろみが訪れて。
「せんせー!!! たたた大変なんですー!!!」
 全部終わったら好きなだけ甘い物を食べよう――そんな決意を支えに顔を上げる。【パルシェ・ドルティーナ】をはじめとする学生の一団が扉を蹴破らんばかりの勢いで部屋に押し入ってきた。
 学生たちはホラーの現場かと思わんばかりのメッチェの容貌に一瞬たじろいだ様子だったが、それでもパルシェが真っ先に立ち直り、抱えていた血まみれの学生をメッチェへ見せた。
「じゅ、重傷です! 依頼先でゴーレムの一撃をモロに受けちゃって……保健室だけじゃ処置しきれないそうなんです」
「そこに寝かせてあげて……今、行く、メェ……」
 絞り出すような声と共に普段寝床にしているベッドを指し示し、一度目を閉じ一秒、二秒、三秒で意識を切替えて立ち上がる。この調子だと日付が変わるくらいまでは安息は訪れないだろう。そんな確信めいた予感に溜息一つ。景気づけにと机の隅にある、水属性の魔法で低温が維持された箱の中に手を伸ばす。
 ……無い。手探りではなく実際に視線を箱へとやり、箱の中を確かめる。どれだけ目を凝らしてみてもお目当ての代物がそこには存在しない。
「先生?」
「パルシェはここで手伝って貰いたくて……おまえさまたち、怪我人を運んできた面倒ついでに、一つ頼まれてほしいんだメェ~」
 怪訝そうな表情を浮かべているパルシェをはじめとした学生たちに向けて、メッチェはもう一度溜息一つ、そんな風に切り出した。

「成程、確かにメッチェ先生の依頼状だね」
 場所は変わって『リリー・ミーツ・ローズ』と称される植物園。そこで管理業務をしている職員は、学生たちの持ってきた書状を確かめ、一つ頷いた。
 メッチェにとって、こういった忙しさはこれまで遭遇したことが無いようなものではない。休む間もなく働かなければならないような時、彼女は滋養強壮に良い特性のポーションを飲みつつ誤魔化し誤魔化し何とか乗り切ってきている。
 が、今日に限ってお供のポーションが切れていた。植物園で調合しているそのポーションを貰ってきてほしい、というのが彼女の依頼であった。
「先生の依頼なら是も非も無く、と言いたい所なんだけれど、今そのポーション切らしちゃってるんだよね」
 頭をかいて職員は申し訳なさそうに呟いた。最近妙に件のポーションの需要が高まっており、在庫を切らしてしまっているのだという。
「君たち、お使いのお使いで悪いんだけれど、今から栽培所まで行って、マンドラゴラを採ってきてもらえないかな。その間に僕は薬の調合準備をしておくよ」
 マンドラゴラ? と一同が首を傾げる。
「そ、マンドラゴラ。聞いた事くらいあるんじゃないかな。引き抜いた時凄い叫び声上げる植物。色んな薬に使えるんだよ。ああ、勿論養殖物だから天然物ほどの危険はないよ。ちょっと魔力とか精神力とかに来る叫びが厄介だとは思うんだけれど、学園生なら何とかなると思うんだ」
 よろしく頼むよ、と頭を下げる職員。ここまで来たら乗り掛かった舟という奴である。学生たちは職員に向けて頷き返した。


 栽培所、と呼ばれる場所は植物園の中にはいくつかあり、今回向かうように指示された場所もそんな区画の一つであった。
 養殖とは言えマンドラゴラは動き回るからね、と職員が注意していたのを思い出す。植物という括りに反して動きはかなり機敏だというのだから注意が必要だろう。
 外部の影響が及ばないように、あるいは内部の影響を外に出さないように、四方を壁で覆われている栽培所の一つ。その扉をおそるおそる開ける。
「――ッッ!!」
 途端、視線の先、10mほど離れた距離にある土の中から何かが3つ、耳をつんざくような奇声と共に這い出してきた。枯れ切った人参に手足と目を付けた。そんな風に言えば伝わるだろうか。マンドラゴラだ。
 マンドラゴラたちは収穫のために学生たちがこの場を訪れたのだということを本能で察したのか、一同から逃げるように退き始めている。
 メッチェ先生の、ひいては重傷を負った者達のためにも逃がす訳にはいかない。
 学生たちは、じりじりとマンドラゴラへ迫るのであった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2019-11-17

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2019-11-27

登場人物 2/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《ゆうがく2年生》クラウス・アイゼンブルク
 ヒューマン Lv12 / 勇者・英雄 Rank 1
よお、俺は「クラウス・アイゼンブルク」20歳 以前は樵をやっていたんだが、勇者や英雄になる夢を諦めきれなくてこの学園に入学したんだ。 力仕事なら任せてくれ。 どんな魔物だってぶん殴ってみせるぜ! ただし、頭を使うことだけは勘弁な。

解説 Explan

 状況:
 朝から多忙を極めるメッチェのもとに重傷者を運び込んだ学生たちは、彼女の依頼でポーションを用意してもらうべく植物園に向かった。
 しかし、肝心のポーションの在庫が切れてしまっており、植物園の管理者から素材となる養殖マンドラゴラを採取してくるように指示される。
 なお、一緒に重傷者を運んできたパルシェはメッチェの手伝いのため不在。

 勝利条件:
 敵の全滅
 敗北条件:
 味方の全滅

 敵情報:
 ・植物『養殖マンドラゴラ』×3 風属性
 リリー・ミーツ・ローズで栽培されているマンドラゴラ。養殖物なので本家のそれよりも素材のランクは落ちるものの、今回必要としているポーションの素材としては十分、かつ採取のリスクもそこまで高くはない。
 収穫されるのが嫌なのか、PC達から逃げるように動く性質がある。動きそのものも俊敏で、普通に追いかけっこに興じていても捕まえられない学生は多いだろう。

 スキルは以下のとおり。
 ・絶叫
 まともに聞いたものは発狂して死んでしまう、と称される咆哮。本家ほどの威力はないが危険であることに変りはない。
 射程2の範囲攻撃。ダメージは『まりょく』か『きりょく』のどちらかにランダムで発生する。ダメージ計算時は物理攻撃として扱われる。

 なお、本シナリオではどれだけのオーバーキルが発生しようと敵が消滅した、という事態は発生しないものとする。(=プレイングで加減をする必要は無い)

 フィールド情報:
 リリー・ミーツ・ローズの栽培室の一つ。8マス×8マス程度の広さ。四方は壁でおおわれている。マンドラゴラには壁を破るほどの力はなく、PC達が入った際に入り口を封鎖しているので、マンドラゴラがフィールドの外に出ることは無い。
 足元は柔らかな土、また雑草や蔓がそこら中に生い茂っており、平地で動き回るような感覚で走り回るのは少々難しい。


作者コメント Comment
 RGDです。実際の所めえと鳴くのは羊のルネサンスだからでしょうなあ。ちょっとタイトル詐欺でした。
 今回は逃げ回る敵です。どう追い詰めるか、あるいはどう誘導するか、頭を使ってみてくださいませ。
 また、今回のダメージはきりょくやまりょくに影響を及ぼします。それらが0になっても戦闘不能になってしまう点、リソースの管理などにお気を付けください。
 
 世界は勇者を待ち望んでいる。皆さんのご参加をお待ちしております。


個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:180 = 60全体 + 120個別
獲得報酬:4500 = 1500全体 + 3000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
…この魔物、明らかに食べられる見た目してんのに、関わったことすらなかったかも。
…あったっけ。
見た目からなんとなーく味は想像できっから、味見は一口だけていーかな。
ただ分解はしたいかも。中身が何詰まってっか気になるし。根菜?魔物?

とりま気づかれないうちにさっさと影なりに隠れとく。
で、そこらの石とかぶん投げ【投擲(小物)】して、逃げた魔物が隠れてるとこの近く通ってくれるように祈っとく。
で、近づいてこっちに寄ってくれてたら、【鉤爪ロープ】の鉤部分を地中の時点で本体に刺さるようにねじ込む。そしたらこの時点で多少は削れんじゃん?体力。
で、あとは新入生のゆーしゃ様が切るのに使える位置で引っこ抜く。終わり。


クラウス・アイゼンブルク 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
コナミさんに引き抜いてもらったマンドラゴラを自分が力任せに叩き斬る。
とにかく自分は力押ししかできない脳筋なので…

リザルト Result


 はたして植物に目という器官があるかは不明だが、栽培室へと足を踏み入れた瞬間、『目が合った』と【チョウザ・コナミ】は感じた。そしてその次の瞬間にはすでに植物たちは地面から這い出し、根のような部位を器用に動かし逃走を始めている。
「ありゃあ……」
「逃げ出してしまったな」
 マンドラゴラの迷いのない動きに感心したような【クラウス・アイゼンブルク】の言葉に、そうだねえ、と気だるげに返す。無理もない話ではある。収穫物に意志のようなものが生じてしまえば収穫されることを拒む気持ちも芽生えるに違いない。入口が開いたということはマンドラゴラの側からすれば収穫者の訪れに他ならない以上、扉の開く音に過敏になるのは収穫物の本能なのだろう。
 とはいえ、気付かれたからもう採取は出来ません、とは言えないし、その程度で採取が不可能になるほどの案件ではない。気付かれない内に最初の一体だけでも確保できればとは考えていたのだが、こればかりは現実を受け入れるしかない。
「ゆーしゃ様、ちょっと作戦会議」
「ああ、ひとまずあの植物……左手の方の背が高い奴だ、あそこの陰に行こう。葉が沢山茂ってるから身を隠すには良いんだぜ」
「詳しいんだねぇ」
「元々は樵だったんだぜ」
 適役じゃん、と口笛でも吹くような素振りを見せるとチョウザは腰を落とし、体勢を低く保ちながらクラウスが指し示した植物の陰へと移動する。クラウスもそれに続いた。
「それで、どうするんだ。走って追いかけてもいいが、足元がこれだと追いかけるのも大変だぜ」
 走るには向いていないだろう柔らかな土を、足音を立てないようにつま先で撫でるクラウスにチョウザは懐から鉤爪のついたロープを取り出して見せて。
「ちょーとゆーしゃ様にも頑張ってもらいたいんだけれども、これ使って一本釣りなんてどーお?」


 ぽふ、と隣で雑草が音を立てたことにマンドラゴラは盛大に怯え、音のした地点から離れるように一目散に走っていく。
 音を立てたのはクラウスの投げた小石だ。チョウザが潜む場所から少しばかり離れた場所へ移動した彼は、マンドラゴラの視線と意識が自分のいる方角に向いていない瞬間を見計らっては小石を放り続けている。
 クラウスが小石でマンドラゴラを脅かしチョウザが潜んでいる方角へと誘導し、チョウザが鉤付きのロープで動きを封じる。言葉にすればそれだけのことではあるが、これが中々難しい。石を投げること自体は誰にでも出来るが、今回のように動きを誘導することを目的とした投擲はそれなりに技術が必要となるものだ。
 本来ならばチョウザが適役ではあるのだが、彼女には誘導出来たマンドラゴラへの対処が求められている。例え勇者であろうと腕は二本しかなく、一瞬で出来る行動など限られている。
(とはいえ、焦る必要無さそうだけどねえ)
 職員も言っていた通り、所詮は養殖物、ということだろう。何者かの気配がまだ存在することは分かっているからか警戒自体は続いているようだが、石に反応するのは音を立てた瞬間だけだ。それ以降投げられた石に動き出す気配が無ければそれへの興味は失せてしまっているようだ。どこから石が飛んできて、それが何を意図して飛んできたのかまで考えは及んでいない。
 他方、クラウスの投石は次第に精度を上げている。さっきは力み過ぎていた、その次は狙いが甘かった、次は……、過去の結果から最善を求めるのは身体を鍛える感覚と似ている。だから、淡々と続けるのみである。
 人にとっての成長は発生したミスに次はどうするか、と模索することだが、植物――もっと言えば目の前の養殖物にとっての成長は養分を溜め込むことでしかない。

 その差が、ついに実を結んだ。

 何度目かに放られた小石が狙い過たずマンドラゴラの背後に落ち、それに反応したマンドラゴラはチョウザの潜む場所へ向け一直線に駆け出した。ある程度の距離を取ると後ろを振り返る。今日何度かあったように音が出たのは一瞬のこと。ならば危機はきっと去ったはずだとマンドラゴラは音のした方角への警戒を緩めて。
「流石ゆーしゃ様だねぇ。ここまでお膳立てされればザコちゃんだって失敗しないよぉ」
 声と共に鋭く攻撃的な風切り音がマンドラゴラへと届き、その直後にはチョウザが投げたロープの先に行に結わえられた鉤爪がマンドラゴラの身体に深く突き刺さった。
「Ahhhhh――ッッ!!!」
 鉤爪が刺さったことを確認するやロープの長さ一杯に距離を取るチョウザだったが、それでもまだマンドラゴラの絶叫の影響範囲だ。音による攻撃への対策にと耳栓は用意しているが、それでも身体の中を揺さぶるような声量が殺しきれない。
 身体の魔力が急速に逃げていく立ち眩みのような感覚にチョウザはしかめ面一つ。けれど掴んだロープは決して手放さない。マンドラゴラが逃げようともがいているのがロープ越しに伝わるが、モブを自称するチョウザの腕力ですら余裕を感じるほどに質量が軽すぎる。
「ゆーしゃ様、後よろしくねぇ」
「ああ、力仕事なら任せてくれ!」
 手首を一つスナップ、それだけでマンドラゴラの刺さった鉤先が斧を構えたクラウスの方へと飛んでいく。こうなれば最早樵だった頃の伐採とやるべきことはさほど変わらない。
「せい、やぁあああああッッ!!」
 裂帛の気合と共に振り下ろされた長柄の斧はマンドラゴラを強く叩き伏せ、地面に落ちた植物はそのままピクリとも動くことは無かった。


 大体の動きは分かった、と以降のチョウザはマンドラゴラの誘導に回った。
 仲間の絶叫で脅威がまだ去っていないのを理解したのか、残ったマンドラゴラはより警戒を深め音の出るもの全てに過剰なまでに反応する。自身が踏みしめた雑草が立てた音にすら驚くほどである。こうも何もかもに驚くのであれば、こちらの意のままに動きを操ることはそう難しい事ではない。チョウザがいくつかの小石をタイミングよく放れば、背後に落ちた石に反応して駆けはじめ、右に落ちてきた石から逃げるように左に曲がって近くの物陰に身をひそめ、クラウスと目が合って。
 一瞬の絶叫。しかる後にとんでもない質量の物体が何かを砕く音。
「ゆーしゃ様生きてるー?」
「……問題ないぜ。まあ、まだ少し耳に来てるけどな」
 至近距離から絶叫を受けてしまったクラウスの声は流石に快調とは言えない色を帯びていたが、さりとて待っている者がいる以上悠長に休んでいる間もないとチョウザは足元の石を何個か見繕って拾い上げる。
「そんじゃ、後一匹だねえ。この調子でがんばれー」
 簡単に言ってくれる、とクラウスは思わず苦笑い。すぐに始まったチョウザの誘導に乗ってしまった残り一体がまたこちらにかけ込んでくる気配に、これでラストだと彼は自身に活を入れた。


 マンドラゴラの収穫を終えた二人は、ポーションが出来るのを待つ間、職員が調合を行う様子を眺めていた。
「見た目で味は何となーく想像できるけど、一口かじってみていーい?」
「いいけど、結構な劇薬だからちょっとだけにしておいてね」
 職員によって透かした先が見える程薄くスライスされたマンドラゴラを手渡され、チョウザはそれをそのまま舌の上に乗せた。
「どんな味がするんだ?」
「本当にちょっとだけすぎてよく分かんないかなあ……」
 興味深そうに尋ねたクラウスの問いへままならないと肩をすくめる。
 そうこうする内にポーションの調合は着々と進んでいたようだ。粉状にすり潰されたマンドラゴラと共に砂糖とスパイス、その他諸々素敵な物を合わせてフラスコ内でかき混ぜる。ぼん、と小さく爆ぜる音が響くのを認めてからフラスコの中身を濾過して容器に移し替える。そこまで終えて職員は一仕事終えたと息を吐きだした。
「お待たせ。これがメッチェ先生注文の特性ポーションだよ。何本かまとめて渡しておくから、しっかり届けてね」
 お疲れ様、ありがとう、と。頭を下げてチョウザとクラウスを見送る職員への挨拶もそこそこに、二人はいまだ奮闘を続けているであろうメッチェが待つ部屋へ急ぐのであった。


 後日。学園内の食堂、日当たりのいい席にて。
 目の前のケーキセットを見つめながらメッチェは思う。嵐は去ったのだ――、と。
 思えば途中からパルシェに何を言われても『めぇ』としか返せなかったり備品の補充に来た別の生徒が入ってくるなり自分の表情を見て逃げ出したりと色々死んでいたような覚えもあるが、とにかく去ったのだ。
 二人の生徒が持ってきてくれたポーションの存在はありがたかった。あれがなければおそらく今頃ベッドの上で眠りっぱなしだったに違いない。後から聞いてみれば在庫不足で材料を取りに行く所からやってもらったというのだから頭が上がらない。
「……メェ」
 今度部屋に遊びに来たら何か甘いものでも食べさせてあげよう。そんなことを考えながら、彼女は目の前のケーキへフォークを落とした。

(了)



課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
故に彼女はめえと鳴く
執筆:RGD GM


《故に彼女はめえと鳴く》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 1) 2019-11-12 14:08:00
明らかに食べられそうな見た目外見なのに、そーいえば関わったこともなかったねこの魔物。魔物?根菜?
味は想像つくから一口でいーけど、中身が気になるよね。てか中身あんの?普通に根菜?

ザコちゃん的に思うのが、引っこ抜き収穫な方法は二択なのかなーって。

ひとつはー、待ち伏せるなり追っかけるなりであの根菜魔物抜いて、それと同時にたたっ斬る方。
叫ぶ前にずばーっといっちゃえば、ただの切られた根菜だしね。そん代わり、失敗した時に近いゆーしゃ様しんどそう。

でもってもういっこはー、待ち伏せて近く来た時に地中の本体へ【鉤爪ロープ】とかぶっ刺す方。
こっち見て逃げるー、ってなら、ぶっ刺してこっちに気づいた時点で逃げてくれんでしょ?
そったらロープの端持って反対へ走ったら距離取れんじゃん。で、なるべくの遠距離で抜いちゃう系。
こっちの問題は、耳栓とかぶっ込んでても多少は聞こえるだろーし、あっちの音量に次第になりかねないかなー、って。

《ゆうがく2年生》 クラウス・アイゼンブルク (No 2) 2019-11-15 20:15:21
よろしくお願いするぜ。
これが初めての課題だ。

俺としてはコナミさんが引き抜いたマンドラゴラを俺が叩き斬るってのはどうだい?

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 3) 2019-11-16 21:02:21
んー?お初にお目見えのゆーしゃ様だった感じ。いらっしゃい。
…こ……あー。ザコちゃんはザコちゃんでいーからね。ザコちゃんだし。


ゆーしゃ様が場馴れしてないのもあんだろーし、できっことなら根菜魔物ボロ砕けなろーが確実に、の方がいーんだろーけどさぁ。
ザコちゃんせいぜいへっぽこの一般モブなんだし。

とはいえ人手不足がそーも言ってらんないし、選択肢は尊重傾聴しときたいし。
一応そんな感じにしとく?ただ、バレてからの2匹目からどうすんのか問題はあっけど。
基本は潜伏して、全然に来なげなら離れた所に石なり土なりぶんなげ【投擲】して位置調整してー、
近く来たら【鉤爪ロープ】の鉤ぶっさしてー、なるべく地中の時点で消耗させてー、ゆーしゃ様ずばー、って感じ?
それでダメならしゃーなしで声聞くとになんだけどね。そんときはてきとーに殴ればいけるでしょ。
最近はゴブリンだってポコせば1発だったし。それよか強くは見えないし。

いっそ【炸裂の種】とか逆側にぶんなげて誘導…いや【耳栓】と【鉤爪ロープ】で埋まるか。
こーいう時こそ、もうちょっと持ち込み所持れたら楽なんだけどなぁ。無いもの強請りせびり。
ゆーしゃ様も一応【耳栓】しとくといーよ。やらかして聞いちゃったらしんどいだろーし。

あとそれからー、直接的に課題に関係するもんじゃないけど。
ゆーしゃ様見たとこ、学生証の『自己紹介』とか『経歴』の枠埋めてないんじゃん?
それなりには埋めとかないと、課題の報告書(リザルトノベル)で自分の姿がぼんやり不鮮明になりがちだし。
ちらっとでも埋めとくといーんじゃん?性別欄の右の『編集』から弄れっからね。