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カラスに灸を据える


ストーリー Story

 おいしい料理を食べた時、人は幸せになるという。心と体が満たされたことにより、幸福感を抱き、気持ちがあったかくなるからだ。
 しかしそれとは逆の料理とは、気持ちを落胆させ、不愉快な感情を呼び起こす。最悪、殺意すら抱かせることがあるという。
(……さすがにそこまでは思われてないだろうけど、似たような思いだったんだろうな)
 そんな誰かが偉そうに言った言葉を思い出しながら、魔法学園フトゥールム・スクエアの料理人の一人、【ウトー・サオシ】は魔法学園の料理人休憩室でため息をつきながら、天を仰いだ。
 魔法学園にある食堂は数多くの学生達が来てもいいように、広く清潔に作られている。
 食事の種類も多様な種族に対応することが可能となるように、各種の野菜や魚介類、多様な肉類が豊富に揃っている。
 しかしそんな彼らが、支度やまかない飯を食べるための場所である休憩室は、意外と質素で狭い。精々数人が入れば満員状態になるほどしか面積はなく、設置されたものもいくつかの机と椅子。私物入れ程度である。
 そんな場所で彼は、今一度ため息をついた。
 と、その休憩室のドアが開いた。
「おや、いたんですか、ウトーさん。お疲れ様です……って、どうかしたんですか?」
「これだよ」
 若手の黒髪黒目の人間、【スユウ・ショソミ】が入ると同時に尋ねてきた。その顔は意外さを前面に押し出していたが、ウトーが顎でしゃくったその先にあるものを見たとき、それは苦笑いへと自然に変化した。
「ああ、あれですか、メニュー改善の要望ですね……」
「そうそう、確かに来るだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く来るとは思わなかったよ……」
 頭をかきながら、休憩室の片隅に山の様に積まれた投書をちらりと目の端で見た。筆跡や文章はそれぞれ違ったが、中身はほぼ同じ。『貧乏村人セットの改善』を望む声だった。
 学園内の食事には貧乏村人セットと呼ばれる食事がある。その名称から色々と察することができる様に、値段も無料である。
 しかし世の中には『タダより高い物はない』という言葉がある。
 無料であればこそ油断してはいけない世の中、この貧乏村人セットもそれと同様、曲者であった。
 このメニュー、有体に言ってしまえばてきとーで、微妙。
 量だけは多いが、飯の味付けは深く考えて作られていない。食べても一応腹が膨れる、ただそれだけなのである。
「ま、確かに昨日出したようなメニューじゃ、改善を要求したくなる気持ちは分かるけどね」
 ウトーはあるものを見やった。
 それは自らが書いたものであり、改善要求にもつながったもの。つまり昨日の献立表だ。
 上の方にはあるのは有料のメニューで、様々な種族もおいしく食べることができるよう、多種な材料を使った料理が書かれている。
 そして一番下に書いてあるのが、貧乏村人セット。その内容は以下の様になっていた。
『料理長のストレス発散にも貢献! マッシュポテト』
『肉の大切さをかみしめよう! ハム2枚』
『フルパワーもやし炒め塩コショウ増量中』
 炭水化物、たんぱく質、ビタミン類、と栄養学的に言えば決して不正解ともいえないが、それでもまともな食事とはいいがたいのは否定できない。改善要望がでるのが普通といえよう。
「味は仕方ないとしても量も少ないですね。確か本当は、これにトウモロコシを一本丸ごと焼くかゆでたのをつける予定でしたっけ?」
「そうそう、他の食事と比べてどうしても見劣りするこのセットを、何とか食べる分くらいは多くできないかと思って、トウモロコシをつける予定だったんだけどな……」
「あれが起きましたからねえ……」
 2人ほぼ同時に嘆息しながら、つぶやいた。
『カラスがなあ……』
 野生生物、その中でも鳥類というものは、果実や蔬菜の旬というものを非常に熟知していることが多い。最もおいしくなった時に食べられてしまうことは珍しくなく、多くの農家を悩ませているものである。それはこの魔法学園も同じであった。
 魔法学園の片隅で栽培中だったトウモロコシ畑、収穫を明日に控えた完熟のそれが、カラス達に食い荒らされてしまったのである。
「あんときほど腸が煮えくり返る、って言葉をかみしめた時は無かったぞ。なんだって俺らのところのトウモロコシを食いやがったんだあの野郎は」
「多分いい餌場を見つけたとか、そんなくらいにしか思ってないんじゃないですかね? ほら、野生生物って餌をあげたらまたもらえると思っていつくって聞きますし」
 至極まともにカラスの生態を考慮したうえでの解説、しかしそれが憂さを晴らすことにつながるはずもない。ウトーは顔を歪めながら頭をかいた。
「だったらそこら辺にいる昆虫でも食っていろよ。丹精込めたトウモロコシが餌扱いされるなんて、むかつくことこの上ないんだけど」
「飛び立つ姿しか確認できませんでしたけど、ちょっと普通のカラスより大きかったですし、恐らく昆虫程度じゃ栄養が足りないんでしょうね」
「だからって俺らのを食うんじゃないっての。違うものにしろよなー……カスミとかキリとかモヤとか」
「全部栄養になりそうにないものばかりなんですけど」
 まるで吐き捨てるかのように語るウトー、そんな彼の心境に理解を示しつつ、その暗雲を何とか払うことができないか、スユウは思案していた。
 と、そこである考えに思い至った。
「……どうでしょう、いっそ生徒達にこれを解決させるというのは」
 つぶやく様に発したそれに、ウトーはまず無言で見つめて先を促した。
「自分たちが食べる食事ですよ、その分必死になって解決してくれるかもしれないし、『私にいい考えがある』と何かを言ってくる子もいるかもしれませんよ? そうでなくても解決に協力してくれる人が出ても不思議じゃないですよ」
「……悪くない考えかもしれんけど、俺じゃ出せるものも限られてるぞ? 報酬が少ないんじゃ、やる気が出ないんじゃないか?」
「確かにウトーさんの安月給じゃお礼は期待できませんけど、ことは毎日の食事に関わってきます。ここで何とかしないとご飯が貧しくなる。それを避けるためにやってやる! と判断してくれる人もいるかもしれませんよ?」
 安月給は余計だ、と口では言いながらも、悪い話ではないかもしれない。ウトーはそう思っていた。
 今回の主目的は野菜を守ること。それが叶えばいいのであってカラスを殺さなければならないわけではない。
 つまり危険度は低い。戦いが苦手な生徒も関わることができるだろう。敷居が低ければ参加者も増えるかもしれない。
 それに相手はカラス。仮に戦闘になったとしても深刻な被害にもならないのではないか。一般人ならともかく、これからの将来を担う彼らならば遅れをとることは万が一にもないだろう。
 そういった思考の末に、ある考えにたどり着いたウトーは席を立ちあがって、こう言った。
「頼んでみるとするか」


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2019-04-17

難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2019-04-27

登場人物 3/8 Characters
《模範生》レダ・ハイエルラーク
 ドラゴニア Lv16 / 黒幕・暗躍 Rank 1
将来仕えるかもしれない、まだ見ぬ主君を支えるべく入学してきた黒幕・暗躍専攻のドラゴニア。 …のハズだったが、主君を見つけ支えることより伴侶を支えることが目的となった。 影は影らしくという事で黒色や潜むことを好むが、交流が苦手という訳ではなく普通に話せる。 ◆外見 ・肌は普通。 ・体型はよく引き締まった身体。 ・腰くらいまである長く黒い髪。活動時は邪魔にならぬよう結う。 ・普段は柔らかい印象の青い瞳だが、活動時は眼光鋭くなる。 ・髭はない ・服は暗い色・全身を覆うタイプのものを好む傾向がある。(ニンジャ…のようなもの) ・武器の双剣(大きさは小剣並)は左右の足に鞘がついている。 ◆内面 ・真面目。冗談はあまり効かないかもしれない。 ・立場が上の者には敬語を、その他には普通に話す。 ・基本的に困っている者を放っておけない性格。世話焼きともいう。 ・酒は呑めるが呑み過ぎない。いざという時に動けなくなると思っている為。なお酒豪。 ・交友は種族関係なく受け入れる。 ・伴侶を支えるために行動する。 ◆趣味 ・菓子作り。複雑な菓子でなければ和洋問わず作ることができる。
《ゆうがく2年生》ドライク・イグナ
 ルネサンス Lv14 / 村人・従者 Rank 1
「あっしはライク・・・そう、ライクって呼んでほしいっすよ」 一人称は『あっし』『ライクさん』 二人称は『そちらさん』『~のにーさん』『~のねーさん』 ドラゴニアの方限定で『未来の我が主』 ただし、レダさんに限ってはホイッパーのにーさん 語尾は~でヤンス、~でゲス、~っスと安定しない。 三下ムーブ。 笑うのが苦手 身長:180㎝ 体重:85kg前後 好きなもの:自分を特別扱いしない人、自然に接してくれる人、美味い食べ物 苦手もの :家族、集落の人々。自分を持ちあげてくる人。 嫌いなもの:まずい食事。自分の名前。 趣味は筋トレ、狩り、釣り。 サバクツノトカゲのルネサンス 感情が豊かで涙もろい・・・が種族の特徴なのか能力が暴走しているのかよく血の涙を流す。 その血に毒性はないし、勢いよく噴射することもできないが血には変わりはないく不健康そうなのは常に貧血気味のため。 シリアスはホラーにコメディではカオスになる? ちょろい。よく餌付けされる。 将来の展望は特になく卒業までに何かしらの職につけるだけの技能を習得出来たり、ドラゴニアの主君を得られればラッキーくらいにしか考えてない。 祖流還りによる必殺技は『毒の血の涙(目からビーム)』 そこそこの量の毒性を持った血液を相手に向かって噴射する。 自分は貧血になりぶっ倒れる。 相手はびっくりする。血がかかったところが痒くなる。
《新入生》ルッシュ・アウラ
 アークライト Lv3 / 賢者・導師 Rank 1
初めまして僕の名前は【ルッシュ・アウラ】 気軽にルッシュって呼んでくれると嬉しいな 今まで様々な国を転々としてきたけど まだまだ僕の知らない事ばかり ちゃんとこの僕自身の力量を知って この学園で沢山学んで、一人でも多く仲間や友達と 出会って将来的には困ってる他者を 助けられたらいいなって思ってるんだ 好きなもの:紅茶・植物育成 嫌いなもの;雷・大きな音 2019/12~暫くお休みします 返信等遅いです。

解説 Explan

 畑の作物を食い荒らすカラスを撃退するクエストです。撃退と書きましたが、戦闘で倒すもよし、罠でとらえて処分は他に任せるもよし、防護対策を練ってそれでカラスを追い出す作戦を考えてもよし。色々な手段が取れると思います。
 カラス自体は通常のカラスより大きめですが、戦闘力自体は魔物の比ではないくらい低いです。ただし翼をもっているため、三次元的な動きが可能であり、機動力もかなり備えています。戦う場合や捕まえる場合、その動きの対策が必要になるかと思います。
 攻撃方法は爪と嘴による攻撃があり、急所に当たると怪我をします。またカラスの本能も備えているため、知能こそ高いですが、光る物に対しては好物であるため飛びついてきます。罠を仕掛ける際にはこのような本能を利用するのもいいと思います。


作者コメント Comment
 初めまして、この度初めてPBWを書かせていただくことになった狼煙といいます。よろしくお願いします。
 今回はカラス撃退ということで、作りとしてはかなり簡単です。行える作戦も多様な仕様となっています。他のプレイヤーの方々と協議することでじっくり作戦を練って、魔法学園のこれからの食事を守っていってください。このシナリオでは初心者の方でも熟練の方でも、その方面に詳しい方でも、どなたの参加をお待ちしています。



個人成績表 Report
レダ・ハイエルラーク 個人成績:

獲得経験:20 = 13全体 + 7個別
獲得報酬:540 = 360全体 + 180個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
カラス退治
カラス料理

◆使用特性・技能・道具
龍の翼
部分硬質化
龍爪撃

刻閃斬
奇襲攻撃
立体機動
動作察知

料理Lv3
推測
緊急回避
聞き耳
隠れ身
忍び歩き
跳躍
追跡
飛行
応急処置
事前調査
肉体言語

調理道具一式(主に泡立て器)

◆プレイング
・【事前調査】でカラスが集まる・とまる場所を調査し【推測】
・調査内容を他の生徒に通達
・カラスは光り物を好む習性があるので、【泡立て器】を囮として使用
・囮の近くで【隠れ身】【忍び歩き】で潜む
・囮に寄ってきたカラスを【動作察知】【聞き耳】で探り、【龍爪撃】【刻閃斬】【奇襲攻撃】で仕留める(【部分硬質化】で防御・殴るのもアリ)
・回避・逃走するカラスには【龍の翼】【立体機動】      ↓に続く

ドライク・イグナ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:40 = 13全体 + 27個別
獲得報酬:1080 = 360全体 + 720個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
あっしの貧乏村人セットが真っ黒黒なカラスちゃん達のせいでさらにひんそーになってたなんて憤慨モノでヤンスよ!!
捕まえて、とっちめ・・・カラスって食えるっスよね?
捕まられたらお肉増えないっスかね?
って事でまずはオーソドックスに狩りするっスよー

お相手は飛んで逃げるでヤンスからね
弓がいいと思うんでゲスよ
畑からちょっと離れたところに隠れてカラスちゃんが来たところをよーく狙って弓矢でシュー!!
チョーエキサイティン!!
外したら祖流還りで『毒の血の涙(目からビーム)』っす!
捕れたらお肉はホイッパーのにーさんに羽根はルッシュのにーさんに提供でヤンスね



畑の作物の上を長い棒で糸を張っとけば少しは効果あるでゲスかね?

ルッシュ・アウラ 個人成績:

獲得経験:16 = 13全体 + 3個別
獲得報酬:432 = 360全体 + 72個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】

カラスを畑に近づかせないようにする



【行動】

【ソーングセット】を用いて、カラスのようなぬいぐるみを作成
畑にカラスが警戒するよう設置する

攻撃的な行動をするカラスには、対話を試みつつ
必要であれば、作物や人に十分に気を配りながら
他のメンバーと協力して魔法攻撃で撃退する。


リザルト Result


「ふあ~あ……」
 あくびを堪えきれず、【ドライク・イグナ】は声を漏らした。まだ日が上って間もないから仕方ないかもしれないが、潜伏に近いことをしている現在、まずかったかもと彼はばつが悪そうにした。
【レダ・ハイエルラーク】はそんな彼を見やった。その表情から見られるものは乏しかったが、ある程度の気遣いがそこには確かにあった。
「昨日はしっかり眠れてないのか?」
「いや、寝たのは早かったし、起きれはしたでヤンスよ。ただ、そもそもあんまし暖かくない朝は、ちょっと苦手っスね~……」
「気持ちは分かるが辛抱してくれ。そう時間をかけずにカラスはやってくるだろうからな」
 そう語りながら再び視線をトウモロコシ畑の直上、青空に向けた。朝焼けに照らされた青空にはまだ黒い影はなかった。
 カラスを何とかすると依頼を受けたとき、まずレダはカラスが集まる、もしくはとまる場所を調査し、それを元に推測した。
 カラス等の野生動物は、一度餌にありつけた場所を再訪することがある。もう一度食事にありつけるかもしれない、という可能性のためだ。
 さらに今回の件で食い荒らされたといっても、それは旬を迎えたもの限定。美味しくなる前のトウモロコシはまだ残されている。
(もしかしたらカラスは再び畑にやってくるかもしれないな)
 こう結論付けたレダは、自分の考えを他の仲間たちに通達。そのために朝早くから畑の近辺にある、農具を保管している小屋の中で待機することにしたのだ。最も初日は出没することなく空振りに終わってしまったが、くじけることなく今日も張り込んでいた。
 本来小屋の中は、農具が置いてあるのだが、それらは事前に運び出してあり、今は2人と事前に運び込んだ武器等が並べられている。
 もう1人の仲間がソーイングセットで何とか作った簡単なカラスの人形、ドライクの使用している弓矢、そして一際異彩を放っている泡立て器。これもまた、カラス撃退に欠かせないものであり、レダの私物。これらが並べられていた。
(ほんと、今もそうだしキリッとした感じなのに、この泡立て器があるだけでお茶目に見えるというかなんというか……ホイッパーのにーさんは不思議な人でゲスね)
「……あいつはまだかかるんだろうか?」
 泡立て器と自らが持つ空気とのズレを思われていることなどつゆ知らず、呟くレダ。ドライクもまた、思考を振り払いながら、周囲を広く、大きく見渡した。
「カラスの姿が見えないうちに用意を整えたいところっスけど……お、噂をすればでヤンスね」
 上を見ているレダとは違い、大地の方を見ていたドライクは近付いてくる人影を見逃さなかった。速さこそ遅めながら、あまり物音を立てずに近寄ってくる1人の男を見つけた。
 木製の水筒を体にかけながら、左手にはいくつかのコップを持ち、縫い目の粗い網を右手に握っている。周囲をキョロキョロ見回して、気を配りながらこちらに来ている。
「お待たせしました、食堂から紅茶をもらってきました。これで体を暖めましょう」
 今もう1人の仲間である【ルッシュ・アウラ】が小屋に入ってきた。前日に肩透かしをくらったときいささか寒い思いをしたのだが、それの反省としてウトーに頼んで用意してもらい、持参してきたのだ。
「おお、助かるでヤンスー! あ、砂糖はあるっスか? あっし欲しいでゲス」
「私はそのままでいい」
 分かりましたよ、と答えながらもルッシュは手を動かす。
 左手で持っていたコップを地面に並べて紅茶を注ぎ、右手の網を置いてからポケットにしまっていた砂糖の塊を入れていく。中々の器用さを披露していた。
「ありがとうっス、早速もらうでヤンスよ」
 受け取った一杯を、即座にドライクは飲み込む。
 かなりの熱さをもつ液体が舌を通り、喉を流れていく。紅茶の香りと砂糖の甘さが頭を満たしていき、やがて満足感を呼び起こしていく。自然、ドライクも寛ぎを感じていた。
「あー、暖まるっスねー……これで御菓子とかあればもっと最高なんでゲスがねー」
「そうだと思って、何枚かクッキーをもらってきました。ウトーさんの私物らしいんですけど、お願いしたら頂けました」
「おお、助かるっス! ごちになるでゲスよ!」
 差し出されたクッキーを何枚か手に取り、それをドライクは食べていく。笑顔こそ苦手であるが、喜びの感情が彼にないわけではない。ドライクが続けて食べていく様はそれを感じさせた。
 そして誰かが喜んでいる姿は見ている者も幸せにするときがある。ルッシュもまた嬉しさを覚えていた。
 と、ここで気づいた。じっと、レダがこちらを見ていることに。
「ああ、レダさんの分もありますよ。今出して……」
「いや、それはいい……ただ、お前はいいやつだなと思っていた」
 仲間への気遣い、連想する願望への対処。それらをこなしていたルッシュに、レダは思ったことをそのまま口にしていた。
 ただ本人にしてみると、予想外のことを言われたのだろう。多少気恥ずかしそうに笑った。
「そんな……大したことじゃ……」
「だからこそ改めて聞きたい。今回の作戦、少し辛いものがあるかもしれんが、大丈夫だろうか?」
 そしてその笑いの寿命は短かった。ルッシュの顔から笑いは消え、真剣なものに変化した。
 カラスは人の顔を覚える習性がある。情けをかけ、驚かせるだけに留めてしまえば、一時は撃退できたとしてもいずれまた襲ってくるだろう。
 だがだからといって、殺すという選択は重く、抵抗や迷いも生まれやすい。しかもルッシュの様に優しさがある者ならばなおのことだ。
 故にレダは問いを放った。多くの意味を込めて。
 ルッシュはそれに、頷きを返した。しっかりと大きく、レダを見つめ返しながら首を縦に振った。
「……ありがとう」
 故に、これ以上の問いはしなかった。ただその思いを汲み、感謝するだけに留めた。
「……ん、漸くお客さんの到着みたいでヤンス。お出迎えの準備するっスか」
 2人の会話を聞きながら見張りの代行をしていたドライクは、空にいくつかの黒い塊を見た。辺りを見渡すようにしながら、空をくるりと回るカラスの影を。
 飲みかけの紅茶を置き、レダは網を、ドライクは弓と矢を、ルッシュはレダ愛用の泡立て器と自作したカラス人形を。各々が打ち合わせ通りのものを持つ。
「それじゃホイッパーのにーさん、お願いするでゲス。あっしとルッシュのにーさんで引き付けるんで」
「ああ、任せておけ」
 半開きとなっていた扉からドライク、ルッシュが出てくる。そして2人のちょうど陰になるようにして、レダも出発する。
(仕掛ける──!)
 移動速度こそ遅いが、足音を消しながらの移動。レダは少しずつ作戦を行うための場所へ向かった。
「……?」
 結果カラス達はドライクとルッシュという、2人の新たな存在にしか気づけなかった。そして同時に疑問を感じていた。
 こいつらは何なんだ? 通りがかっただけか? それとも邪魔しに来たのか?
 様々な思いが巡り、カラスの中では警戒心が着々と作られていく。
 だがトウモロコシを食べようとする思いを捨ててはいなかった。上空の旋回を止めて、実が熟れたトウモロコシを啄もうと降下しようとする。
「カァー!」
「!?」
 それを止めたのは、1つの叫びだった。正確に言えばルッシュの持った人形から発せられたカラスの鳴き声。鳴き声がするように、事前に魔法を付与しておいたのだ。
「カァー! カァー!」
「……!?」
 自分達と同じ様な外見でありながら、自分達と同じ声を出す。それが人間らしきもののすぐ傍にいる。カラス達の一部は混乱したのだろう、辺りを羽ばたいてせわしなく動き続ける。
(今だ!)
「カアー!」
 ルッシュは人形に魔力を込めると、それは空中に浮き始める。緩やかで、攻撃性もない動きだが、動揺しているカラスには効果があった。接近されるのを嫌がり、何羽かのカラスが背を向けて逃走していった。
「!」
 しかし、それで止まらないカラスもいた。他のカラスが逃げ帰るのには目もくれず、威嚇するかのように、カラス人形に突っ込んでいく。
「!」
 体当たりで人形を弾き飛ばす。弾力性のある人形故に破壊はされなかったが、地面に転がっていった。
 そしてそのカラスは手近な木にとまった。そこから軽く跳ねながら枝を移動、トウモロコシの真上まで来て、今度こそ実をついばもうとする。
 だが、
「!」
 今度は急遽飛来した1つの棒に阻まれた。ドライクがうち放った、弓で引き絞られた矢がその進路を通過してきた。
 それをカラスはかわしていた。咄嗟に空中へ逃げて、その軌道から逃げたのだ。
「間違えちゃダメっスよ、歓迎会場はこっちこっち!」
「カラスさん、こっちを見てくださーい!」
 ドライクはもう一本の矢をつがえてカラス側に向けて、さらなる攻撃の継続を表現していた。一方のルッシュは右手で背中に差していた杖を取り出し、左手でレダから託された泡立て器を回して光を反射、カラスを挑発していた。
「!」
 幾度の邪魔がカラスの逆鱗に触れたのか、視線も体も、ドライクとルッシュの方を向く。
 翼を広げ、こちらに飛び掛かってくる。
 人間ではどうあがいても出すことのできない速度で、その先には鋭いくちばしがある。
 もし当たれば大けがさえしかねない一撃。しかしそれは一点だけの話、攻撃面積は狭い。
「左っス!」
「はい!」
 2人して左に飛んで攻撃を避ける。しかも勢いを殺さずに後ろから回り込んで攻撃しようとするカラスから注意の目をそらしていない。今度はルッシュの声が飛んだ。
「今度は右で!」
「分かったでヤンス!」
 右へ飛んでから数瞬もせず、カラスが通過していく。
 幾度も回避しては回り込まれ、再度の攻撃。それも避けてさらに繰り返す。何度同じことをやったのか、分からなくなったときに、ドライクは叫んだ。
「ルッシュのにーさん、そろそろやるっスよ!」
「ここで!」
 何度目かのカラスの猪突がなされたとき、位置を変更して前にルッシュ、後ろにドライクという陣形になる。
 そんなことに一切構わず突進してくるカラス。
 全て事前に打ち合わせしていた通りだった。
(ごめんなさい──!) 
 心の中で謝りつつも、ルッシュは自身の力を覚醒させる。
 半透明であった光の輪と白き翼は実体を持ち、己に宿りし光の魔力が解き放たれた。短時間だが強力で、効果が切れた時回復には長い時間が必要となる特殊な力。
 しかしルッシュにとってそれでよかった。今回必要なのは覚醒後の状態ではなく、覚醒そのものだったのだから。
「!」
 覚醒により発された突然かつ強烈な光はカラスの動揺を誘った。しかも至近距離であったため、その効果は倍増する。
 飛ぶことをやめていないが、その機動は横へ反れた。さらには衝突の恐れから、速度は一気に鈍くなった。
「今だ!」
 隠す必要がなくなったことから強烈に地面を蹴り、しまっていた翼で飛びあがるレダ。その手に折り畳んでいた網をカラスに投げる。
 殺傷能力など皆無で、反応できないほどの速度ではない。もし先ほどまでのカラスであったら余裕で逃げていただろう。
 だが今の機動力が落ちたカラスには、それを避ける術などなかった。
「!」
 漸く眩みから解放されたカラスだったが、羽にまとわりつく網を振り払おうと地面でもがいた。だがその意に反して、それは中々外れない。
「ライク!」
「これなら、外さないでヤンス!」
 風切り音を伴って矢が大気を駆け抜けた。


 魔法学園フトゥールム・スクエアのとある食堂、普段は大変に繁盛している場所なのだが、今は僅かな人しかいなかった。
 レダ、ドライク、ルッシュの3人。厨房の奥にはウトーとスユウの2人がいたが、合計人数5人など、普段賑わうここでは中々ないことであった。
 そんな彼らだが、今はそろって1つのテーブルに集まって、ご飯を食べていた。依頼達成のお祝いということで、ウトーが特別料理を作ることにしてくれたのだ。
 バターや薄力粉といった材料から作られたレダ特製のパイ生地。
 そして恐々ではあったが、ウトーの料理人としての意地をかけて調理したカラス肉。
 これらを組み合わせたもの、ミートパイがそこには出されていた。
 もしこれからカラスを駆除した時のことを考えて、カラスの料理方法を覚えておけばいいのではないか。そう考えたレダがウトーに助言、2人で協力して作成したのだ。
 元々菓子作りの技術があるレダが作ったパイ生地と新鮮なカラスの肉が合っていたのか、それとも好物だったのか、うまいっスうまいッスと言いながらドライクは食べていく。
 一方、ルッシュはまだ抵抗があるのか、あまり食事の手が進んでいない。
『供養するときや新しく作る人形用に使うといいでヤンスよ』
 とドライクから渡されていたカラスの羽を手にもって眺めていた。
「無理して食べなくてもいいぞ。こういうことが苦手な者も数多くいるはずだ」
「いえ……食べます!」
 レダが助け舟のつもりで出した言葉だが、ルッシュはその逆を行った。テーブルに羽を置くと、少しばかり震えつつもフォークを取る。そして目を閉じながらその手でミートパイを切り取り、一気に口へ運んだ。
 噛んで広がる味。肉のうまみと生地の食感が織りなす感覚が脳を刺激する。
 自然に、目は開いていた。そしてこの言葉も呟いていた。
「おいしい……!」
 その答えに、レダは言葉を渡さなかった。ただ嬉しそうに、少しだけほほ笑んでいた。



課題評価
課題経験:13
課題報酬:360
カラスに灸を据える
執筆:狼煙 GM


《カラスに灸を据える》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《模範生》 レダ・ハイエルラーク (No 1) 2019-04-13 02:06:34
黒幕・暗躍専攻、レダだ。宜しくな。

さて、カラスをどうするか。
光り物に寄ってくる習性があるらしいから、あれを囮として使おう。

その後はもう少し練ってから…だな。

《ゆうがく2年生》 ドライク・イグナ (No 2) 2019-04-13 12:09:19
村人・従者コースのドライク・イグナっす
ライクって呼んでほしいっすよ

あっしの貧乏村人セットが真っ黒黒なカラスちゃん達のせいでさらにひんそーになってたなんて憤慨モノでヤンスよ!!
捕まえて、とっちめ・・・カラスって食えるっスよね?
捕まられたらお肉増えないっすかね?

《模範生》 レダ・ハイエルラーク (No 3) 2019-04-13 23:01:08
確か食べられるハズだ。レシピが存在すると聞いている。
捕まえたら何かやってみようか。

《新入生》 ルッシュ・アウラ (No 4) 2019-04-13 23:48:13

初めまして、賢者・導師専攻の
ルッシュ・アウラと申します。

僕は、悪いカラスさん対策ということで
【手鏡】や【厚手の布】【ロープ】を使って案山子
みたいなのを作るのはどうかなって思ったのですが・・

僕はまだまだ未熟なのでアイテムはひとつしか
持てなくてもし宜しければ、ご協力頂けませんか?

あっ!もちろん別な案でも大丈夫なので
是非是非ご意見聞かせてください

《ゆうがく2年生》 ドライク・イグナ (No 5) 2019-04-14 16:43:07
>案山子
案山子でヤンスか…
あっしの経験上短期間だったら効果はあると思うでゲスが、長期間を見越してなら慣れさせて油断したところに案山子に扮した人が驚かしたりとか定期的にやらないと効果が薄いんでヤンスよ?
カラスちゃん、何気に頭いいッスからねぇ…

カラスよけならカラスの死体を畑にぶら下げでもしとけば近づかないでヤンスよ?
まぁ、この方法も死体が腐ったりとかで定期的に変えなきゃでゲスが・・・
カラスに似たぬいぐるみでも作ってぶら下げてみるッスか?

《新入生》 ルッシュ・アウラ (No 6) 2019-04-14 22:39:05
ライクさん>
そうなんですね!知らなかった・・
ライクさんはとても知識豊富なのですね勉強になります!

ぬいぐるみ!試してみる価値はありそうですね
裁縫は得意ではないですが【ソーングセット】でなんとか
形にできるかもしれません・・

レダさんのご意見も聞いてみたいです


《模範生》 レダ・ハイエルラーク (No 7) 2019-04-14 23:02:17
カラスがとまりそうな場所沿いに、棒で糸を張るというのも効果があると聞く。
カラスがとまる足場を無くすのも効果があるそうだ。

音や光も有効だが、規則性があると学習してしまって効果が無くなるとも言われている。

匂いには鈍感だから効果はない。

《新入生》 ルッシュ・アウラ (No 8) 2019-04-16 04:34:38
上手く解決できるといいなー!プランは今日の夜まで
らしいのでプラン提出だけは忘れないようにしなきゃ!

皆さん頑張りましょうね!