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根来言 GM 

初めまして、根来言(ねこごと)です。
キャラクターの皆様が生き生きとご活躍できるシナリオの作成を心がけています!
得意なジャンルとしましてはほのぼのとした日常もの、動きのある課題。戦闘よりもキャラクター同士の絡み等をより力を入れています!
どうぞ宜しくお願いします!


最近PBW専用Twitter作ってみました!
※イメージを壊してしまう恐れあり。自重しないアカウントです
(@nekogoto) https://twitter.com/nekogoto?s=09

以下、根来言所有の公認NPCの簡易説明
【アデル・ミドラ】
魔法学園の生徒。フェアリータイプのエリアル。
気弱で、覇気という言葉の真逆にいるような少年。
どのようなトラップにも引っ掛かることができる、、、、、、という、謎の特技がある(制御はできない)。

【ベル・プリズン】
魔法学園の食堂職員。シマリスのルネサンス。
見た目は小さいくせに、態度はでかい。
料理を作るだけでなく、食材を自らの足で取りに行くフットワークの軽さを持つ。
因みに、彼女の中では『植物=食材』であり、『動物=食材』であり、ついでに『魔物=食材』らしい。

担当NPC


《先輩》アルマ・クレーティス
  Lv29 / Rank 1
数年前、突然アークライトに覚醒したヒューマンの少女。 元々は学園の近くの小さな村で暮らしていた、 ごく普通の村人であった。 精霊や神という存在に対して強い信仰心があり、 自分自身が覚醒したことは、何かの啓示であると考え 学園に入学を志願した。選択したのは当然世界を救う という目的に最も近い勇者・英雄専攻。 2017年後期に入学。 現状覚醒したアークライトの力を使いこなせない事が多く、 日々勉強と研鑽を重ねている。 学園長より、入学生の卒業までを記録する、 成長モデルケースに選ばれ、生徒会に所属している。 同時期に加入したメグリとの仲は良好。 基本的には友達想いで気さくな性格。 また、見た目が中性的であることもあって、 男女を問わず友人がいる。
《学園職員》ベル・フリズン
  Lv4 / Rank 1
学園内の食堂で働く料理人の1人。 小さな身体に似合わない、偉そうな態度。そして大きなしっぽを持つシマリスのルネサンス。 (豪快で世話焼き、食堂のおばちゃん、、、の、ような女性)。 基本的に明るく、元気だが好き嫌い抜きのお残しには落ち込む。 それ以外には料理法、食材、ありとあらゆる工夫をして食べさせようと奮起する。 □装備 ・何時も特注のお玉を持ち歩き、孫の手のように使う。 使用例:居眠り中の生徒を起こす、かき氷やご飯をよそう 魔法がかかっているらしく、汚れてもいつの間にか綺麗になっている。衛生面の心配はないらしい。 ・腰に粗末な石のついた小型のナイフを複数所持している。武器のようだが、武器として、そして調理器具としても使われている姿は見られない。 □技術 ・『ふわふわのかき氷』等の彼女が考案したメニューはいくつかあり、何かと重宝されている。 ・時折、唯の料理人とは思えない身のこなしをする。本人いわく、食堂に務める前は冒険家として各地を回っていたから、その頃に身についたとのこと。 □その他 ・商人兼冒険家の産まれ。世界を渡り歩くうちに、世界各地の料理に影響を受けてきた。本人曰く、自身も旅を通して様々な料理や料理人達に影響を与えてきたという事だが、真偽は定かではない。 ・料理は、実はあまり得意ではない。料理人よりも暗殺者や狩人としての才能のほうが恵まれている。眼が良く、魔物や植物の『急所』を見抜くことが得意らしい(動物を捌いたり血抜きをするために使われる)。料理が上手いのは技術としてよりも食材について熟知していたり、天性の目の良さのお陰。 ■担当GM:根来言 規約により、以下のことはお誘い頂いてもできません。 予めご了承ください! ・フレンド申請(受けることは可能です) ・公式クラブ以外への参加/発言
《同輩》アデル・ミドラ
  Lv19 / Rank 1
気の弱そうなフェアリータイプのエリアル。 上級生に当たるはずだが、先輩らしさはまるでない。 弱虫、泣き虫、意気地なしを体現したかのような少年である。 同じ年頃の子供(エリアル)と比べれば、幾らか大人びた雰囲気を纏っているようにも見える。 ●悪戯 悪戯好きの村に産まれるものの、悪戯をすることには向いていなかったよう。逆に引っかかることには一種の才能があるかもしれない。 (原因は妙に凝り性かつ、慎重でノロマなこと) ●コンプレックス 一般的に背の低いフェアリータイプのエリアル……の、中でも低い背丈を気にしている。背を高くするために、妙な行動力を発揮することもある。 ・背を伸ばすため、薬の倉庫から大きくなれる薬を盗む ・貯金全部を使って、特注のシークレットブーツを購入する ■公認NPC □担当GM:根来言 規約により、以下のことはお誘い頂いてもできません。 予めご了承ください! ・フレンド申請(受けることは可能です) ・公式クラブ以外への参加/発言

メッセージ


◎シリーズ物の一覧です!

≪ガイギャックス家の書≫
  ≪登場人物≫
   ※シリーズを通して登場する、主な人物(公式NPC・公認NPC・公式ページ掲載NPC:https://frontierf.com/5th/index_top.cgi?act=world を除く)
 【ガープス・カーペンター】
  元・最強の戦士と謂われたヒューマンの男。
 ヒューマンとは思えない巨体と身体に刻まれた傷が特徴。
 元々は魔法学園の生徒として、かなり優秀な成績を残していたらしい。
 現在は引退し、ある村でひっそりと暮らしている。

 【ピラフ・プリプク】
  『ピラフ商店』という名前のキャラバン隊を率いるローレライの男。
 扱う商品は魔物、珍しい植物、あるいは特殊な魔具などなど……。構成員の殆どが冒険者や衛兵上がりらしく、それを生かした商売が主。
 元々は魔法学園の生徒として、戦士を志していた……らしい。
 魔法や魔道具に一種の苦手意識のようなものを持つ。

 【レオナルド・ガイギャックス】
  故人。ガイギャックス家の末裔であり、恐らくごく最近亡くなった様子。
 学園職員であるベル・フリズンとは何らかの接点があったようだ。
 因みに彼の生前を知るもの達は、彼について皆が口を揃えたように、以下のような言葉を語る。
 『彼はどうしょうもないロクでなしだった』、と。

 【ブラッド】
  ガイギャックス家に仕えるカルマ。その姿は見るからにボロボロで、左腕がない。彼曰く「クソ犬に切り落とされました」とのこと。
 表情はあまり変えないが、感情の起伏はなかなかに激しい方。良かれと思って色々やらかしたりしている。特に家のことが絡むと誰かしらが不幸な目に合う。
 現在、封印術を使用できる唯一の存在。

 ●1章 魔物の群れと、弱き剣
  ≪あらすじ≫
   シュターニャ近隣のとある村へ、魔物の大群が迫っていた。
  学園生らと共に戦うのは、シュターニャの衛兵達とその代表【ニキータ・キャンベル】をはじめとする精鋭たち。彼らがそんな戦いの中、見つけ出した元凶は……。

  第一話 弱き剣、強き枷
https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=316

  第二話 弱き民、迫る脅威
https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=365

  第三話 迫る脅威、探る道標
https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=436

  第四話 探る道標、掲げる剣
https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=519

 ●2章 曇り空と、都合の良い託し言
  《あらすじ》
   場所は変わって、グラヌーゼ『幻惑の森』。その土地は、件の書物を造りし者達ーーーガイギャックス家の本家が遺されていた。(現在ここまで)

  第一話 【幸便】晴れた霧と曇り土地
https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=545

  第二話 【幸便】曇り顔と隠されたモノ
  https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=573

  第三話 【幸便】隠された影と封じられた魔物
https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=624

  第三話 coming soon

前日談が少しだけ。始まりの少しだけ前のお話。

*
 魔法学園からその年卒業した四人は、中々の曲者ぞろいだった。
 実力は申し分なく、その年の卒業生の中では優秀者に違いなかったがその一方で、彼らは色々『悪』であった。

 1人は戦士。
 巨漢にして、不滅。戦事には負けた試がなく、寡黙。戦士の理想と謳われ、後に着く二つ名は『最強の戦士』。
 しかしその実、彼はタダの戦闘バカである。戦闘以外のことになると頭が悪い。
「……城壁を、作りたい。いかなる攻撃も跳ねのける壁だ……、その中心で戦死するのが夢だな」
 1人は同じく戦士……いや、本人は魔法戦士を名乗るのだから恐らくはそうなのだろう。
 野営、魔道具に関する技術ならば彼の右手に出る者はいない。彼一人がパーティにいるだけで生存率はうなぎ上り、優秀なスカウトだ。
 しかしその実、彼は姫(と、呼んでいるお嬢様)ラブで盲目的だ。おまけに口が非常に悪い。多少マシになりつつあるが姫がいなければそれは酷い有様だ。
「いやいや、それじゃ城壁の意味ねーわバカ。オレの夢は勿論姫の願い全てっすね、てかそれ以外生きる希望ねっしょ」
 1人は聖職者。
 誰もが振り返るような美貌を持ち、彼女の声は魔物でさえも酔いしれてしまうほどに美しい。
 回復魔法、補助魔法の扱いで彼女の上を行くものは滅多にいないだろう。
 わざわざ彼女の施しを受ける為に負傷する生徒もいたようだ。
 しかしその実、彼女は非常に性格が悪い。姫というよりはもはや女帝のようだ。一見は分からないが、彼女と深く付き合うほどに見た目とのギャップに人は絶望していく。
「そうねぇ……、まずは国に帰ってからでしょう。そして皆様にご挨拶して、あぁ、お父様へご報告をして。ふふ、忙しいことになりそうね」
 そして1人は魔法使い。
 第二のメメ・メメルを自称し、実際にその口上を裏づけるような魔力量と才能を有している。
 また、1度はメメルに勝利したという噂もあり、当時の生徒であるならばその存在を知らない者はいなかったという。(真実は、幾度も挑んでくる彼をはじめはおちょくっていたメメルが飽き、『めんどくさいからもうキミの勝ちでいいよ』と発言したため。その言葉が独り歩きしたらしい)
 しかしその実、態度が悪い。かなり態度がでかく、謙虚等という言葉を知らないその姿勢。協力性なんて全くないような男だ。実力がなければ、ただの厄介な自己中男といったところか。
「キミらは夢がねーのな? ボク様の夢はでかいぜ? 何時かメメ・メメルを越える男になって、そんで女の子にモテモテになってさ、最後には好きな子を庇って死にたいね! ロマンだろそういうの、超かっこよくね?」

作品一覧


大きな大きな… (ショート)
根来言 GM
 広い広い学園にも七不思議や怪談というものが幾らか存在する。それはある日、突然語られ始めることもあれば、学園が建設されるはるか昔から語られているようなものまで多彩である。その数は日々変化しており、おそらく正確な数を知るものはいないだろう。今回の場合は前者であった。  『校舎の隅にある教室で何かが唸る声を聞いた』  『大きな、何かを打ち付けるような音が何度も聞こえる』  『巨大な魔物を学校で誰かが飼っている』等といった話が1日のうちに広がっていったのだ。  君は『他の生徒を脅かすことなどあってはならない!』と、意気込んだ勇気ある者か。  『面白そうだから見に行ってみようかな?』と好奇心満載のお調子者か。  それとも『飼い慣らすことができれば、強力な使い魔になるだろう!』と企む者か。  何れでも構わない。どんな者であれ、恥を捨てて命乞いをしよう。なけなしの小遣いではあるが、報酬だってもちろん出そう。だから……  『僕を、僕を助けてくれ』  教室いっぱいに収まった、大きな大きなフェアリータイプのエリアル【アデル・ミドラ】は泣きそうな顔をしながら君たちに頼み込んだ。君たちは勿論、エリアルという種族のフェアリータイプがどのような姿をしているかを知っている。全長1メートルほどの、小さな妖精のような姿をした種族であったはずだ。だが、目の前にいるアデルは君たちの知るフェアリータイプのエリアルとは全く違っていた。  ざっと見積もっても10メートルは超えているだろうか? 体はパンパンに肥大化してしまっており、これなら喋るトロールだと言われたほうがしっくりとくるだろう。  横たわらなければ身動きすらもできないようで、動こうとするたびに、天井や壁に頭や体をぶつけて『ゴン』という鈍い音を響かせた。ぶつけた頭をかばうように、おそるおそる押さえながらも、彼はこうなった経緯を話し始めた。  彼の身長は80センチ、フェアリータイプのエリアルの中でもかなり小柄な彼は、自分の見た目に大きなコンプレックスを抱えていた。そんな時に偶然、魔法薬の授業にて一時的に体を大きくすることができる薬『ビッグ』の存在を知り、手に入れば背の高くてかっこいいエリアルになれるのでは? と考えてしまったらしい。  その薬は身体に直接塗り込み使用する。  ひとたび塗れば文字通り、フェアリーですらもビックになってしまうこの薬。  主に、武力を持たない村人が戦わずして魔物を遠ざけるためにであったり、造形があまりに巨大な建物を建築する際に使われる場合がある。しかしそうした、そのハチャメチャな効果ゆえに、そもそもあまり使われないマイナーな薬であった。  しかし、アデルはその薬の効果に興味を持ってしまう。そして、学園内にあるということを知ってしまった。  薬剤室のひとつを管理している教師【マーディ・ウィリアム】の目を盗み、その薬を手に入れることに成功した。そうした後、誰もいなくなるまでこっそりと隣の空き教室に身を潜めることにした。計画では身を潜めたあとに寮に戻り薬を試そうとしていたが、我慢することができずに少しだけならと蓋を開けようとした。しかし、薬を飲もうとした時に誤って体中に浴びてしまい、気が付くと巨大な体になってしまったという。  隣の教室が騒がしいと様子見に来たマーディには『貴方がそうなってしまったのは自分のせいでしょう? バツとして効果が切れるまでそこで反省をしていなさい。食事とトイレだけは何とかしてあげるから』と言われてしまう。しかし、1日中じっとしているのも飽きるし、かといって外にでようにも教室のドアはとても今のアデルには小さすぎる。浴びた量も多く、あと何日こうして我慢しなければいけないかもわからない、と、アデルは説明しながらもまた泣き出しそうになった。 「今回の件はあまりにも、酷い仕打ちではありませんか! ただの生徒のいたずらに、ここまでする必要もないでしょう!」  顔を赤くした新任男性教師の声が、薬剤室にこだまする。  それはというのも、アデルの噂はその日のうちに広がり、聞きつけた彼が己の正義感から、直接マーディのもとへ抗議に来たからであった。  その言葉に『はぁ』と、老年のヒューマンの女性、マーディは小さく息を吐いた。  そして、興奮した新任教師とは対照的な、落ち着いた声で話し始める。 「たまに、居るんですよ。ああやって、薬剤をいたずらに使おうとしたりする生徒。えぇ、やりすぎだと言いたいのでしょう? 顔に出ていますわ」 「ですが」 「たしかに、薬が切れるまでおおよそ2日といったところでしょうか。授業に出ることもできないので、成績にも影響が出てしまうかもしれませんね?」  遮るようにマーディは言葉を続ける。新任教師は、まるで心を読まれたかのような彼女の指摘に、思わず目を泳がせる。 「薬品棚には多種多様の薬があります。触るだけで爆発してしまうものも、蓋を開けるだけで呪われてしまう危険なものも沢山。ですから、今後は近づかないように少々痛い目にあってもらわなくては。言い方は悪いですが見せしめ、として。あぁ、しかし、解放する頃合いかもかもしれませんね。彼も反省しているようですし」  マーディは少し考えるように、目を細めた。『頃合いをみて治療を行う』というやり方では、『どうせすぐに許してもらえる』と、いたずら好きな生達は考えてしまう可能性がある。どうせなら『たまたま助かった』ように、見せなければならない。 「ですが、ただ解放するだけでは……」  言いかけた彼女は、ふと、薬剤室の外に視線を移す。そこには、曇りガラスで見えにくいものの、確かに数名の生徒の姿があった。  この時間、彼らが向かう方向で行われている授業はなく、ただ空き教室がいくつか並んでいるだけだろう。  その空き教室のひとつには勿論、アデルがいるはずである。 「そうですね、ちゃんとあの子たちが授業を聞いているか、突発ではありますがテストとさせてもらいましょうか」  彼女はそう言い、ニヤリと笑った。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-06-01
完成 2019-06-18
かき氷を求めて (ショート)
根来言 GM
 冷たい料理はすべて売り切れ、涼しい風の届く席は目には見えないものの、毎日小さな取り合いが繰り広げられていた。 「やはり、か……ま、そうなるわなぁ!」  あっはっはと暑さに参っている生徒たちを、さも可笑しそうに指さして笑う。そんな女性が1人。  彼女の名前は【ベル・フリズン】。大きな尻尾を持つ、リスのルネサンスであり、食堂の料理人の1人である。  食堂にいる生徒たちを、まるであざ笑うかの言動や仕草をするベル。そんな彼女へと向けられる視線は2種類あった。  1つは、怒り。そんなに自分たちの姿が愉快かと、苛立つ者たち。  しかし、その一方。もう1つの視線は、なにやら期待に満ちた眼差しであった。  決して、後者のうち全てが、特殊な性癖を持つ者たちというわけではない。  そこに付け加えるならば、後者は全て上級生、前者は全てが下級生たちのものである。 「君たちも参る頃合いだろうと思ってね! そろそろこれの出番だろう? よいしょっと」  ニヤリと笑う彼女は、大きな布に覆われたものを食堂の机の上に置いた。 「じゃぁぁーん! 君たち! よくぞここまで、この暑さに耐えてくれた! ご褒美の解禁といこうじゃないか!」  ワザとらしく叫ぶと、一気に布を取る。   布の下、そこにあったものは、1台の機械であった。  機械は歪な形をしていた。  まず、4本の足場は、互いに支えあう様固定されていた。そんな足場の中心にはコップと呼ぶには些か大きい器。頭部……のような場所に置かれているのは穴の開いた皿。そして、一番奇妙な部位は、生徒たちから見て右側のみに付けられた、巨大なハンドルだろう。  『かき氷機』。それが、この魔法道具の名前である。 「さて、君たち。かき氷が食べたいかー!」  煽るような声に、上級生たちは『うおぉぉぉぉ!』と、一斉に立ち上がる。  彼らは知っている。ベルのかき氷のおいしさを。  確かに、食べようと思えばかき氷を食べることができる場所はいくつも思いつくことだろう。  ただのかき氷と同じように思ってはいけない。  氷を削っただけの手抜き料理かと思われるかもしれない。しかし、ただの氷ではないことは上級生たちの反応を見ればすぐに察することができるだろう。  一度食べたものは、皆同じように『綿のように軽く、雲のようにふわふわ』で、他のかき氷が食べられなくなると語る程のものであった。  自信にあふれたベルの姿、そして歓声を上げる上級生たちの姿を見て、興味を抱く下級生たち。 「ふんふん」  生徒たちの反応を見て、『じゃぁ』と、ベルは続けた。  場所は変わり、学園が管理する施設のひとつ。小さな洞窟の前に君たち、そしてベルが集まっていた。  屋外は生暖かい風と共に降り注ぐ日差しが眩しい。本日はまさしく、嫌気を覚えるほどの『お天気日和』であった。  しかし、その日差しを浴びてもなお、今の君たちは汗一つかかないほど心地よい気温だと感じることができるだろう。  心地よさの正体は、この施設にある。洞窟の入り口からはよく冷えた風が吹き出ており、君たちの肌を撫でていく。  ベルは改めて今回の目的を君たちへ告げる。 「今回君たちに頼みたいのは『美味しい氷』の運搬だ。夏場でも涼しい洞窟に、冬の間泉から取った氷を沢山、この中に保存しているんだ。中は当然ながら涼しい、寒いくらいに。だからと言って、火を使うなよ? 氷が溶けてしまうからな」  コンコン。洞窟の入り口にある看板を叩く。そこには『氷保存中のため火器、また火を扱う魔法の使用を禁ずる』と、達筆な文字で書かれていた。 「一番涼しい場所……最奥に氷を積んでいるんだけども。道中なかなか危険な場所もあってね、地面が凍っていて滑りやすい場所がいくつかあるんだ。あ、あとツララとかもあるから、上にも下にも気を付けてね。……うん、まぁ、いろいろ言ったが、一番は君たちが元気でいることだ。厳しいと判断したらすぐ帰ってきたまえ」  持ち物、体調の確認を一通り済ませた後にベルは『まぁ、君たちなら大丈夫だとは思うけど』と、一言付け加えた。 「出来るだけ多く持ってきてくれたらうれしいな。あと、シロップを用意しておくから、欲しい味を言いたまえ。君たちにこの夏最初の、最高のかき氷をプレゼントしよう」
参加人数
2 / 8 名
公開 2019-07-12
完成 2019-07-24
かの勇者曰く、最悪の敵とは (EX)
根来言 GM
 その昔、強者と呼ばれる勇者がいた。彼はのちに、とある言葉を残したそうだ。  『真の強敵とは、すなわち己なり』と。  校門前にて、巨大な馬車が数十台の大所帯でたむろしていた。  そのうち数台の荷台に当たる部分には巨大な檻が数台あり、中に入っているのは小さい魔物から巨大な植物まで様々。  馬車を率いる者たちは、屈強そうな傭兵や商人たち。それぞれが、同じ紋章の入った服装を身に着けていた。 「今回もまいど! 『ピラフ商店』をご利用ありがとうございます、メメル先生!」  門の前にて、気さくそうに話す青年。青白い肌とは真逆の活発さをもつローレライ。  キャラバン隊の隊長【ピラフ・プリプク】。  彼らピラフ商店が扱う商品は主に魔物。戦闘練習用に食料、研究。魔物の使用方法は多様である。  勿論、そんな彼ら商店にとってフトゥールム・スクエアも得意先のひとつだ。 「いやいや~☆ ピラフたんも、いつもありがとね! それで……今日はどんなのを持ってきてくれたのかな~?」  ピラフと対面するは小柄な少女……の、見た目の、学園長【メメ・メメル】である。 「我らがメメル先生のために、今回はレアな商品を持ってきたんすよぉ!」  ピラフは意気揚々と、近くにあった馬車のドアへ手を掛ける。 「コイツは喜んでくれると思いますよー」  そういって、勢いよくドアを開ける。  ……しかしながら、そこにあったものはメメルも、そして馬車の持ち主であるピラフさえも予想することができていなかった。  そこにあったものは、黒い卵。大きさは1mほどだろうか。  ぶくぶくと膨れ、腕、足、そして服や装備さえも形作っていく。 「実はオレぇ、メメたん先生のこと、好きだったんスよねぇーッ!」  突然、叫ぶような大声が、馬車から響いた。声の主は黒い影。指は5本、瞳も、髪の細部さえも人の形を作り上げていた。  馬車の中にいたのは、ピラフであった。  ただし、先ほどまでメメルと話していたピラフよりも肌や服の色が暗く、そしてニヤニヤと不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりと腰についたレイピアを抜く。 「――っ! まっずいな、揺れで籠が壊れちまったんスかねぇっ!」  馬車の外のピラフも、倣う様に腰のレイピアを抜く。  瞬間、馬車からピラフが飛び出し、刃と刃が重なった。  『ギィンッ、ギィン』と、刃が重なる度に響く音。2人は全く、相違ない動きでお互い全く譲らない。 「ほほぉ、ドッペル……『ドッペル・ジャマー』だね。ピラフたん、すごいレアな魔物を見つけてきたねぇ」  メメルは2人のピラフを感心するように見守る。  ドッペル・ジャマーは魔物である。通常は1メートルほどの黒い卵のような姿をしている。  しかし、この魔物の特性は2つ『見たものの姿に変身する』こと、そして『見たものの記憶や秘密を喋る』。  1体1で対峙すれば、ほぼ互角のまま戦場は動かず。複数人で囲めば、秘密を叫ばれチームワークが崩れていくという恐ろしい能力である。 「その特性のせいで、何人もの戦士が散って行ったことか。色んな意味で。……うんうん、悲しいかな」  独りただ、納得するメメル。  『キィンッ!』。  ひと際高い音が響くとともに、戦場が動いた。 「っく、メメル先生! あぶねぇ!」  ピラフ、ドッペル両者の武器がはじけ飛ぶ。武器を失ったドッペルが次に狙いを定めたのは、メメルであった。  ドッペルは『ボコ、ボコ』と体を変形させ、メメルの姿を形どっていく。  黒いメメル、もといドッペルは杖の先をメメルへと向け、何かを暴露しようと口を開く……だが。 「オレサマ、実はねぇーぇッ!?」 「えぇーい☆」  そんなドッペルを向かい入れたのは、ドッペルを丸まる包み込んでしまうほどの巨大な光の玉と、その球をボールのように軽く扱うメメルの姿であった。  神々しい光を放つその玉を杖の先で『つん』とつつくと、ドッペルへとふわふわ飛んでいき、そして甲高い叫び声と『ぽしゅっ』という気の抜けた音とともに光の玉も、ドッペルも消えてしまった。 「……メ、メメル先生は流石っすねぇ……いつ見ても爽快っスわぁ」  アハハ……乾いた笑いを浮かべるピラフとは対照的に、『ところで』と、珍しく真面目な顔をしたメメルがピラフに問う。 「ピラフたん? さっきのドッペルは全部で何体持ってきたのかなぁ~? チミが戦っている間に2体、学園に飛んで行ったんだけど」 「……え? いや、そんな……ッ! ま、まじっすか……ええと、さっきの合わせて3体っス」  つまり、残りの2匹が学園内のどこかに紛れ込んでしまったようだ。  肩を落とし、『これ、やばいんじゃ……生徒の安全とか……』と、青い顔を更に青くするピラフ。  対照的に『ふんふん、そうだね! 確かに、このままじゃ危ないかもね』と、何故か明るい表情をするメメル。 「よぉし! みんなー! 課外授業をはっじめるよー!」 「え!? これ使うんスか!?」  楽し気なメメルの声が校舎内へと響いていった。 「ところでピラフたん? オレサマのこと好きなの?」 「や、学生の時は好きだったんスけど。今は女房一筋なんスよ」
参加人数
6 / 8 名
公開 2019-08-16
完成 2019-08-31
可笑しなお菓子クラブ (ショート)
根来言 GM
 テーブルクロスには、蝶をあしらったレースを。  家具のひとつひとつには、花をあしらったカバーを。  小鳥の描かれたティーセットの食器には、クリームたっぷりのケーキを。  『かわいい』ものをたんと集めた一室、2人の女性がただ、優雅に紅茶を啜っていた。  女性のうちの片方。長身のドラゴニアの女性【ローズ・スカーレット】は、この空間に合わせたように上品なドレスに身を包む。  そして、飲みかけの紅茶を置く。  辺りの家具、ケーキ、その全てに視線を流し、最後に、手元にあった紅茶を見つめ、はにかむ。 「……ふふ、ふふふ、『かわいい』! 流石、さっすが私! 超可愛いですわ!」  淑女にあるまじきその大声に、隣に座る執事服を着た女性が小さく咳払いをする。 「お嬢様、『良い淑女』になるからと言って、お父様に出資していただいた店でしたよね? ここ。何時でもボクは、お父様へ報告できる。ということをお忘れなく」  もう1人の女性はそんなローズを冷ややかな目で見つめる。  ローズとは対照的な小柄なヒューマンの少女【ラズニア・ホワイト】は、ただ冷静であった。 「うぐ……、も、勿論。私は淑女ですもの。はしたない真似も、そして悪だくみなども一切ありませんわ! そう、全ては私が領民、いいえ! 皆に慕われる後継ぎとなる、その為の店ですもの!」  『ドルチェ・ハウス』。学園内に新設されたばかりの、小さな建物の名前である。  貴族令嬢であるローズによって(無理やり)建てられたそこは、小さなデッキ席が付けられている、かわいらしいカフェのような構造をしていた。  建物の中も、ローズによって(無理やり)集められたかわいい物が、これ見よがしに使われている。  しかし、店のような外観をしてはいるものの、実は店として使う予定は毛頭ない。  ドルチェ・ハウスの表立っての目的……それは、新しくローズが設立予定のお菓子好きな生徒の集まるクラブ『ドルチェ・クラブ』の集会所として使うこと。  因みに、裏の理由は、ローズの『かわいい物に囲まれながら美味しいものを食べたい、作りたい』という欲望。それだけだ。  勿論、申請を行えば部活棟に部屋を準備することは可能だろう。しかし、ローズの『部活棟を改造しても、かわいくない』、という一言で急遽、新しく建てられたのだ。   「それはそうと、セバスチャン。広報活動は進んでいるかしら?」 「ボクはセバスチャンではありませんよ、お嬢様。クラブ設立に向けてのメンバー募集、ですよね。ええ、とても滞りなく順調に。……ただ」  顔色1つ変えず、淡々と話すラズニアであった。しかし、話が進むにつれ、言い淀んだ。 「うまくいっているのでしょう? なら、何故嬉しそうにしないの? もしかして、あまりよろしくない方々がいらっしゃったとか……?」  それはない。そう言いかけるローズであったが、彼女は一応、貴族の端くれである。  彼女の一族に恨みを抱く輩も、もしかするといるかもしれない。 「ええと、大丈夫、です。皆様お菓子作りやかわいいものに、非常に好意的です。ボクが言いたいのはですね。偏っている、ということです」 「偏っている?」 「えぇ、お嬢様の『甘味とお茶で、学園内の貴族や有力者、それから伸びるであろう勇者候補方とのコネクションを作る』、というお考えは大変すばらしいと思います。会話から情報を聞き出すことも、商談を行うことを考えての建物でございますし、お父様も期待されております。ゆえにボクもお力になりたいと考えています」 す」  淡々と語られる過去の嘘、出まかせ。ローズは思わず頭を抱えたくなった。 ラザニアの言葉は、以前父親へ、出資してくれるよう説得するべく、ローズ自らが言った言葉であったからだ。  勿論、そのような考えは今も持っていない。持っているのは欲望だけだ。 (あの時の私、なんでそんなに頭が回ったのかしら? あぁ、ラズニアの全てがわかっているって視線が痛いわ)  そんなローズの内心を知ってか知らずか、ラズニアは続ける。 「しかし、甘味という言葉からか。それともこの建物の外観からか。希望者は女子、そう。女子生徒ばかりなのです。男性がございません」 「……ええと、それに何か問題が?」  可愛らしくていいじゃない、ドレスの着せあいっことか、ガールズトークとかしてみたいわ。 「大ありです。貴方は女性とだけコネクションを結ぶおつもりですか? いずれお嬢様は、男性と親しい間柄になることもありましょう。それに、スカーレット家と縁の深い商人方、男性の方が多いですよね? 貴族として、皆に慕われる後継ぎとなるべく。男性に、今のうちに慣れておくべきかと。何時までも逃げるわけにはいきませんよ?」 「……、……ん、んん~……はぁ、分かりましたわ。ええ、そうですね、必要ですものね!」  昔、ローズの屋敷には父親以外の男性がいなかった。そのため彼女はあまり男性に免疫がなく、学園に入学した現在も無意識に男性を避けてしまうのである。  ラザニアをはじめとした『男装をした女性』や、『女装をした男性』とは会話をすることができるようになった。しかし、かといってこれから出会う男性の全てに女装を強要するわけにはいかない。 「で、では。こうしましょう。近日中にどういった活動を行っているのかを知っていただくため、体験会のようなものをしましょう。店……としても機能できるような構造に作ってもらいましたので、文化祭の出店のようにして。キッチンはもう使えますわね?」 「ええ、問題なく。問題なのはどうやって男性を集めるか、ですが」 「……男性が入りにくいというならば、男性がいるという安心感を与えるとよいだけですわ。男性何人かに頼んで、客や店員役になっていただきましょう。ツテで男性の客を呼んでいただければ一石二鳥ですわ」  女性しかいないから入れない、入りにくいというならば初めから男性を入れてしまえばいいのだ。 「しかし、お嬢様。このような店、もし女性しか手伝いの応募がなければどういたしますか?」 「……ラズニア、執事服の在庫。確認をしてください」 「……お嬢様?」 「男装女子は、男子のうち。ですわ。それに……かわいさの中にかっこよさが入って……最高じゃないですかっ! 私はそれが見たい、ですわ」 「お嬢様、願望が口に出ています」
参加人数
4 / 8 名
公開 2019-09-10
完成 2019-09-25
【優灯】 トリックスターへ捧ぐ (ショート)
根来言 GM
 何年前も、きっと何年後も。この日は彼にとっては最悪で、憂鬱な日になったはずだ。……今年も、そうであったはずだ。  『何も仕掛けられていないごく普通の手紙』。それと、クソ真面目な季節の挨拶と、長ったらしい用件。  要約すれば簡単なことなのに、どうしてこうも、今日はめんどくさい。いつもに増して今日の文言は酷く、眩暈すらもしてしまうようだ。  僕達の間には、『帰ってこい』。それだけの言葉と、適度ないたずら。  それだけあれば、心配などせずに済んだのに。  手紙の受取人は小さな男子生徒。フェアリータイプの【アデル・ミドラ】。  寮の一室にて、背丈に不釣り合いなほど大きな椅子を左右に揺らし、アデルはその封筒の中身に思わず眉をひそめた。  宙に掲げたり、火にあぶってみたり、特定の文字を飛ばしてみたり。  すべてが徒労に終わり、更に眉間のしわを深くした。  少しばかり慎重に封を開いた手紙には、当然のようになにも仕掛けられてはいない。 (普段の手紙にはあれほど、手の込んだことを仕掛けておいて……今日は様子がおかしい)  手紙の差出人のアデルの旧友【マシュー・マグラ】は毎回何かしらのいたずらを手紙に仕込む。  びっくり箱のメッセージカード、開けると小さな爆発を起こして読む前に消滅する手紙、逆から読まなければ読めない文章なんてものもあった。  そして、それを読んだアデルが『面白かった』『読めなかった、ナイセンス』『めんどくさい』等、感想を送り返る。  この関係はアデルが寮に住んだ当初から当たり前のように続いていた。なのに、今回はやけに他人行儀というべきか、この手紙は違和感の塊となっていた。 (今回はこういういたずら……? いや……こういう系統のいたずらをするときには、マシューは必ずもう1つネタばらしの手紙を送ってくるはず。だから……多分、あれかな……)  アデルには何となくではあったがその正体に思い当たる節があった。 (ここまで、頑張って読んだんだけどなぁ……また来年)  ちらり。机の上に置かれた分厚い愛読書をみてため息が出る。  手紙を読む前までは熟読していた『いたずらに対する行動・対応全集』に小さく手を振り別れを告げ、本棚に。  代わりに取り出したものは、図書館でもらった回覧紙。  いつもは手に取ることもないが、今回ばかりは、少し気になる小さな見出しがみえたから。  アデルの故郷の村周辺で起きたことが取り上げられていたから。  たったそれだけの些細なきっかけで持ち帰ってしまったけれど、これが、ここで役に立つとは思わなかった。  近隣の村が襲われた、どこの街で生徒が活躍したという記事を読み飛ばして……目当てのものを見つける。 「噂には聞いていたけど……」  そこに書かれていたものは、記憶を奪う魔物。そんな恐ろしい存在が噂されているという小さな見出し。  村々を襲い、大切な記憶を奪い、恐怖を植え付ける怪物。  見た目の被害はなくとも、去った後の村では何かが失われている。そんな噂。  文化・習慣が記憶として認識されているのであれば、今アデルの村で何が起こっているのかが何となく読めてきた。  『いたずら』。それが、アデルの村から消えている。間違いない。  アデルの出身地であるエリアルの村の者たちは、過去、現在全てにおいていたずらとともに生きてきた。  甘いお菓子の中に辛いソースを混ぜてみたり、家の出入り口に落とし穴を掘ってみたりとやんちゃ者ばかり。  『やってやった』と『されてしまった』。そしてそれがコミュニケーションのひとつとして定着した小さな村。  そんな彼らが本領を発揮する日。世間をにぎわせるハロウィン。  お菓子があってもいたずらを。お菓子がなければもっといたずらを。  するものもされるものも、最後には『やった』。『やられた』と笑顔になる。  何時もいたずらをされる方ばかりのアデルも、今年こそは自分もと張り切っていた。そんな時のこと。  ……村の皆から奪われてしまったハロウィン。  フェアリータイプのエリアルというものは、いたずら好きの者が多い。アデルの村の皆も、そしてアデルも例外ではない。  そんな彼らがいたずらの記憶を奪われたとすればそれは……。  ……きっと、喜びという感情を奪われたようなものなのかもしれない。 「……とりあえず、は」  アデルは『帰ってこい』との言葉通りに里帰りの支度を始めることとした。  持ち物は着替えにおやつ。ロープに激辛ソース。それから花火に……いたずらに使えそうな部屋の物を片っ端からカバンに詰めていく。  忘れてはいけないのは、いたずらに詳しそうな友達数名。早速手紙を送ってみよう。きっと来てくれるはずだ。  いたずらはあまり得意ではない。いつも手際が悪くて下準備もバレバレで誰も引っ掛からないから。  いたずらをするのはあまり好きではない。けれど……皆が笑っていないのもいやだ。  これは皆のため。何時もの仕返しじゃないんだ。多分。
参加人数
2 / 8 名
公開 2019-10-07
完成 2019-10-23
秋の味覚! モッタイナイオバケ (ショート)
根来言 GM
「本当にいいの? もう返さないよ?」  そう言ってはいるが、返す気等毛頭ない。  彼女の顔を見れば心中は直ぐに察すことはできる。  単純な……いや、素直で可愛らしい。  言葉を飲み込み『どうぞ』と、にこやかにもう1人の彼女も笑顔をつくる。  人気のない廊下にルネサンスが2人。1人は両手をいっぱいに広げ袋を抱え、幸せそうに頬を染めた。  彼女は教員の【コルネ・ワルフルド】。コルネと会話をしつつも、あたり落ち着きなく見渡すもう1人は、学園内の食堂の料理人、【ベル・フリズン】。 「返さなくていい、いいけども。その代わり例のアレをね? 今年も手伝って欲しくてだね?」  目を細めて、小さく囁くベル。  コルネは目を丸くするが、ベルの言うアレ、のことは直ぐにわかった。 「もしかしてアレのこと?」 「そう! 大事に育てすぎちゃってねぇ? 手に負えなくなっちゃって」  その言葉にコルネは思わず頬を引きつらせる。が、抱えた干しブドウは決して手放さない。  しょうがないなぁ。小さく聞こえたその言葉にベルは目を輝かせた。 「言ったねぇ? 言質は取らせてもらった、対価も払った。証人もいる。逃がさないよ?」 (厄介なこと、引き受けちゃったかも?)。  わかっていても、手は袋をがっちりと掴んで離れない。 「うぅ……わかったよ。って、証人?」  コルネの言葉に、ベルは指を鳴らす。と、近くの教室の窓が開く。 「ふ、ふぇ……すすすみません! コルネせんせぇ」  教室側の窓から顔をのぞかせるのは気の弱そうな少女。生徒【パルシェ・ドルティーナ】だ。 「社会見学もかねての課題ってことでさ、よろしく先生?」 「えぇと……、コルネ先生。よろしくお願いしますぅ……っ!」  学園の敷地内に1つ、普段ならば立ち入りを禁止されている食料庫がある。  泥棒、つまみ食い、そしていたずらをしないよう。  ケガをしないよう、お腹を壊さないよう、気分を害さないように。 「たぁぁぁっ! ……はぁ、はぁ……」  息を切らしながら、コルネは小さな魔物と戦っていた。 「今年は量が多いね! それに隠れるのが上手いッ!」  棚の上から飛び掛かる魔物……『キュウリ』を、コルネは右手を高く上げ、瓦割のように切り裂いた。  キュウリを仕留めたその後ろからとコルネに向かって『ジャガイモ』と『シイタケ』。  跳躍。そのまま落ちる勢いを使ってキック。  ダァンッ! バシンッ! 「そりゃ、丹精込めて丁寧に作ってるからね!」  棚を隔てて、悪びれる様子のないベルの声が響く。 「それにしても数が多いッ!」  見慣れない、白い触手のようなものがコルネの腕に巻き付く。 「……んぅ、このっ!」  なかなかほどけない触手……うどんをぶちぶちと引きちぎる。そして、正面から勢いよく向かってくるカボチャを頭突きで砕いた。 「はぁ……はぁ……まだいるの?」  棚に積まれた木箱の隙間から、ちらちらと見える野菜たち。  永遠に続くような野菜地獄。それが、ここにあった。 「必殺、勇者斬りぃっ!」  パルシェは現れる野菜たちを次々にスライスにしていく。 「まだ……! うりゃりゃぁぁッ!」  次々に野菜たちを肩で息をしながらも、がむしゃらに切り刻む。 「そんなに焦らなくても、野菜はにげりゃぁしないからね」  パルシェが次々と野菜を倒すその間。ベルは背に背負った籠に切られていく野菜を回収していく。 「大丈夫、ボクもっと頑張れます!たぁっ!」  勢いよく切られたナスがその勢いのまま天高く舞う。  普段ならば、これだけの魔物が飛んでれば、気の弱いパルシェは萎縮してしまったことだろう。  しかし今は、いつもの魔物ではなく(ほぼ)野菜だ。  面白いくらいにサクサクと切れる野菜たちに調子づき、奥へと進んでいく。 「どんどん行きま……ひぇッ!?」  パルシェのやる気に満ちた表情は、すぐさま泣き顔に変わった。 「い、い、いやッ!?」  4本の太く、たくましい蹄。がっちりと付いたモモ肉。  こんなところにケンタウロスが……いや、ケンタウロスよりも恐ろしい、てかてかと輝く首、鱗。  そしてその上には……大きな目とヒレ。尾や鬣にはふさふさとした毛の代わりにぴっちりとした鱗。  馬の下半身。首から上は魚の頭という悍ましい魔物であった。  ぱからっ。  馬、のようなものは怯えるパルシェの元へと駆け寄る。そして。 「ひひぃーっん」  魚の口から発せられた鳴き声と。 「い、いやぁーッ!」  パルシェの悲鳴が倉庫内に響き渡った。 ● 「うぅ、ぐすっ」 「よしよし。うんうん、怖かったね」  膝を抱えてすすり泣くパルシェ。その背を、コルネは優しくさする。 「魚と馬肉、隣同士に置いていたから、くっ付いちゃったみたいだねぇ。いやー、ユニークな生き物だ。さて、どうしようか」  お玉を回しながら、何かを考えるベルの様子を見てコルネが口を開く。 「もしかして、キミ。食べるつもりなの?」 「そりゃぁそうさ。だってあれ、元々は食べものだからね」 「でも、流石にあれは?」 「賞味期限を気にしているのかい? ピンピン動いてるだろう? 新鮮な証拠さ!」  ベルには、何を言っても無駄だろう。食べないという選択はない。 「……うーん、確かにあの馬? がリーダーかな? あれを倒さないとお野菜も回収できないかも」  野菜たちの奇襲に奇襲をかけたような戦い方。司令塔がいてもおかしくはない。  倉庫の中にはまだまだたくさんの野菜が眠っている。  しかし、隣を見れば、涙目でただ、小さく震えるパルシェ。  コルネ1人だと、大量のモッタイナイオバケを食い止めるので精いっぱいだろう。  かといってパルシェに馬のような魔物の相手をさせるのも……。  どうしたものか。 「うーん、どうしよう」  コルネは小さくため息を吐いた。 ●  時期は数か月ほど戻ったある日。 「うぅぅ……、ぐすっ」  小さくカットされたニンジンが皿の上に一切れ。ちょいと皿の隅っこに追いやる。 「この切り方もダメかい? 混ぜても、ジュースにしてもダメ。困ったねぇ」 「あうぅ、ごめんなさい。……食べたら、パフェ……パフェ食べるんだ……ッ! えい!」  勢いのまま食べようとするものの、独特の歯ごたえに思わずぎゅっと目を瞑る。  鼻をつまむと、錠剤のように飲み込み、流し込んだ。 「ぅ……ッけほっ!」 「これは難題だねぇ」  好き嫌いがあるのは仕方がないことだ。どうしても受け付けないモノはあるだろう。  嫌いなものを克服したいと向き合うパルシェの姿勢を、ベルは評価したい。  ……だが、味もなにも、まずい薬のように食べられるのは正直、料理人として悲しいところだ。 「だってぇ、苦くて、美味しくないんだもん。……ふにふにで、つるんって食べられたらいいのに」  残ったニンジンをフォークでつつきながら、パルシェは呟いた。 「あっはっは! そんな野菜聞いたこともな……」  ない。いや、あったな。 (見た目、味は殆ど変わらず。それで触感が食べやすければいいのかね? なるほど?)  1つ思いついた。  少々荒療治かもしれないが、似た魔物を自分で狩って……いや収穫して食べてもらうとしよう。味はそこまで変わらないから、……慣れる練習にはなるはずさ。 「なるほど……っ!」 「ひ、ひぇっ!?」  大変結構。料理人としてのプライドがズタズタになりそうになるが、それはそれ。  魔物を入り口に、食べられるようになれば良いだけではないか!  ぐるりとお玉を回し、そしてパルシェへ先を突き付ける。 「パルシェ。とっておきの場所へ招待しよう。普段生徒は入れない貴重な場所だ! お好みの用心棒を連れてくるから、逃げないでくれたまえ?」
参加人数
6 / 8 名
公開 2019-11-13
完成 2019-11-30
始まりの一筆 (ショート)
根来言 GM
 深夜に響き渡るその音を。君たちはただ、静かに聴くことだろう。  欲望、雑念、心残りを過去へ置き去り。  不安と、それ以上の期待を胸に抱き。 「ハッピーニューイヤー! 今年も、素敵な年でありますように!」  最後の音が消えるが早いか、叫ぶが早いか。もう待ちきれない、と。誰かの声が遮った。  鐘が告げるは新たな年の始まり。  今年もきっと、充実で満ちた年になりますように。  人々は笑いあい、そして言い合う祝いの言葉があふれていく。  『あけましておめでとう』と。 ● 「今年の目標はー?」 「いっぱい、美味しいもの食べる! とか?」  その空間を一番初めに見つけたのは、少女2人組であった。  新年最初のご馳走を食べ終えた2人は、目的無く、校内をぶらぶらと散歩していた。  トークテーマは『今年の目標』。 「あんた、いっつもそればっかだよね、他には……。ねー、あんな教室あったっけ?」  苦笑する彼女は、ある違和感に気づき、足を止めた。  彼女の指さす先にあったものは、教室のドアとドアの狭い空間に収まった小さな扉。  少ししゃがまなければ入ることができないほどの不自然な扉。  ただの飾りにしてはやや、不格好。少し触れてみれば、厚めの紙を貼り合わせただけの粗末なつくり。ドアノブなんてものはなく、周囲の正月飾りから浮いていた。  扉の横には、ぐにゃぐにゃとした黒い墨で『書道室』。  『妖精用のドアかしら?』と、笑いながら、2人そろって中を覗くと、ふわりと漂う稲藁と墨の匂い。  作り物の扉では無かったようで、扉はからからと音を立てながら横に動いた。  中には。 「ショドー……? んんん? 中にあるのは、紙と筆と……」 「『1年の抱負を書いてみませんか』? だって」  2人入れば少し狭いその空間には縦に長い紙に筆、たっぷりとパレットのような入れ物に注がれた墨。  そして、文字が書かれた紙が壁に数枚。  よくよく観察してみれば、何やらそれぞれに抱負らしきものが書かれているようだ。 「彼女ができますよーに? こっちは、商売繁盛? 七夕みたいだねー」 「でもでも、健康! とか、家内安全? ってのもあるね」 「ホーフって、自分がこうするぞーっていう意味だったっけ? たしか」 「今年1年こうするぞー……? うーん」  顔を見合わせ、暫し考えた後。2人は筆をとった。    貴方の今年挑戦したいこと、期待したいこと。書いてみませんか?
参加人数
4 / 8 名
公開 2019-12-29
完成 2020-01-15
我は猫なりニャ! (ショート)
根来言 GM
 路地裏を抜けると、そこは猫の楽園であった。  日向、日陰。木の上に草の影。見渡す限りに十匹もの猫が溢れていた。  「猫は、いいよなぁ……」  小さなエリアル【アデル・ミドラ】の口から、小さなつぶやきが零れた。  木洩れ日の眩しい森の中で、彼は猫達の、ふかふかな毛の感触を楽しむように顔を埋める。  試験、人間関係、プレッシャー……。  『今日も一日お疲れ様』……猫は何も言ってはくれない。けれど、何も言わずとも小さく暖かな身体が、疲れた自分を労ってくれる……気がする。  膝に乗ってきたキジ猫の小さな欠伸に、誘われるように小さな欠伸が漏れた。 (それにしても、ここは本当に静かでいい場所だよ……。こんなに居心地がいいのに、不思議だなぁ……)  手ごろな岩に背を預け。そして、目を閉じること数分。  猫達と、そしてアデルの寝息。微かな草木の揺れる音だけが辺りを包み込む。  ことは数日前、アデルが街中で猫を見かけたのが始まり。  可愛いなぁ……。と、目で追い。いつの間にか路地裏から次々と猫が合流し、猫の群れになってどこかに行くのだ。 (猫の群れ……? 誰か、猫が好きな人が餌を配ってるのかな?)  もしそうなら、そこに行けば猫が沢山触れるかも? と、欲望のままについて行けば……。  まさに、『猫の楽園』。  そしてなにより嬉しいことは、猫達は人にとても慣れていた。  手を差し出せばほおずり。頭を撫でれば喉を鳴らし、胡坐をかけば、膝の上に乗ってくる。  そして、猫達はふかふかの毛を撫でてくれとばかりに転がり、見せつけ。そしてすり寄ってくるのだ。  もう、たまらない!  気が付けば毎日のように足を運んでしまうようになってしまった。 「んぅ……うぅ、寒い……?」  眠い目をこすり、ぶるりと身をよじる。  気が付けば膝の猫も何処かに行ってしまい、アデルは一人になっていた。  辺りは先ほどよりやや暗く、アデルの眠っていた岩陰周辺は、冷たい影に覆われていた。 (もう夕方だっけ……? 猫もいなくなっちゃったな……) うっすらと目を開け、空を見上げ。 「……」  目の前に広がる、巨大な岩でできた巨体を見上げた。  3秒ほど巨体と目を合わせ、そして、もう一度眠い目をこする。 「……なんだ、まだ夢か」  そう思わなければ。きっと疲れているのだと。  自分に言い聞かせて、横になろうとする。 「夢ではないにゃ。顔を上げい!」  轟くような声に、思わず飛び上がった。 「ひ、ふぇっ!? 夢じゃないの!? てか喋ったぁ!?」  きょろきょろと辺りを見渡しても、彼と巨大な『それ』……目の前に広がる巨大な岩の身体しかいない。  10メートルほどの巨大な背丈。太く、たくましい足。どんな攻撃でも弾かれそうな、巨大な黄金の盾。 「え、えーと……? ご、ごーれむ?」  似ている。しかし、アデルの知るゴーレムとはやや異なっていた。 「馬鹿者。吾輩はゴーレムではない。猫の守り神【ネコレム】、にゃ」  とって付けたような語尾。そして、頭部に付いた、猫を模した耳。猫耳である。 「ネコレム……? えぇと、ネコレム……さん。僕は、食べてもおいしくないと思うん……ですけど?」  恐る恐る、震えるような声で話しかけた。勿論。距離を取ろうと後ずさることも忘れない。 「馬鹿者。汝のような小物、腹の足しにもならん、にゃ」  この時ばかりは、コンプレックスの背丈に少し感謝する。 「汝、吾輩の猫を誑かしているにゃ? 弄んでおるにゃ?」  ぎょろり。  大きな目でアデルをにらみつける。ひぇっと乾いた声が出る。 「た、誑かしてなんて! そんな」 「別に怒ってなんてない、にゃ」 「え? じゃ、じゃあ」 「ただ、タダでお触りなんて。許すまじ、にゃ。対価として肉体労働をするにゃ」  ネコレムは、大きな手で首を掻くような仕草をしながら。一方的に話を進める。 「吾輩の猫ども、昼にも夜にも寝てくれないにゃ。活発すぎて、手に負えないにゃ。なんとかするにゃ!」 「……肉体労働って、猫を寝かしつけろってこと?」 「そうにゃ」 「それだけ?」 「そうにゃ」 (よかった……、そのくらいなら。いつも猫を撫でていることと、なにも変わらないじゃないか)  思っていた以上に簡単な仕事。 「そのくらいなら、うん! 分かった! やる!」  思わず二つ返事で引き受ける。 「わかったにゃ。じゃぁ、この子達の相手をするにゃ」  ネコレムが右手を高らかに上げると、その後ろから数十匹の猫が現れた。  ただし、その猫達はアデルの背丈よりも巨大で。威圧的にぐるると唸る。  この生き物は昔、書籍で見たことがある。  ライオン。ヒョウ。チーター……。  確かに猫っぽくはある……はず。でも、猫ではないはずなのだ。 「猫……?」 「猫にゃ。早く寝かしつけるにゃ」 「ぼ、僕にはちょっと……ッ! ひ、ひぇっ!?」 「逃げる……にゃ?」  腰を抜かしながらも逃げようとするアデルへと、ネコレムの巨大な手が振り下ろされた。  制服のマントが手の下敷きになり、アデルが藻掻くたびにぎゅうと首を絞めつけてくる。  じりじりと迫るは肉食獣の群れ。心なしか、たまに聞こえる呻き声に混ざり、腹の音のようなものも聞こえてくるような……。 (このままだと、僕、食べられちゃうの……!? ど、どうしよう)  そんな四面楚歌のなか、アデルは苦し紛れに叫び声をあげた。 「ぼ、僕よりもっと猫達を満足させてくれる人たち連れてくるから! だ、だから待って! お願い! 助けて!」
参加人数
4 / 8 名
公開 2020-02-22
完成 2020-03-09
新入生へ「ようこそ」を (ショート)
根来言 GM
 『――と、いうわけで! かわいい新入生たん達の入学! オレサマ、楽しみにまってるぞ☆』  by.美少女学園長【メメ・メメル】  ●  締め切りまで、残り2日と10時間。  毎年、この時期の『新聞部』を言葉として表すならばこの三文字だろう。  修羅場。  時折うめき声を上げ、何かを一心不乱に書きなぐる彼らの顔色はアンデットのようである。  アンデット……、新聞部の部員達は皆『新入生へ向けたパンフレット』の作成を行っていた。  手直し、リテイク、校正、そして取材。  何度同じことを繰り返しただろうか。だが、もう、猶予ある日はない。  その場にいる全員はただ、祈りながら『取材班』達の帰りを待っていた。  がらり。  扉が開くやいなや、無事生還した彼の声。 「お、おわったぁぁぁ……! やりましたよ、部長……ッ! 我々は、ついに、成し遂げましたぁぁッ……がくっ」  青白い顔をした取材班(1人)は、ふらりと原稿の束を部長へ差し出すような恰好で、ばたりと倒れた。  おぼつかない足取りで駆け付けた部長【タナカ・ダロー】。首元に手を置き、脈を確認する。 「……、寝ているか。なんて顔、してやがる」  どう見ても血色の悪いその顔は、悔いのない幸せそうな寝顔だった。  握りしめられた原稿は、5回目の文章添削と、本人による30回の描き直し要求の末に出来上がった学園長へのインタビュー記事と掲載予定の肖像画。 「一番快く引き受けてくださった。が、一番の鬼門だったな! あ、可愛いな!……ちっくしょ、可愛いな! 先輩方ありがとう!」  満面の笑みのピースの肖像画。学園長からの資金援助のお陰もあって、インタビューページには学園長がウィンクをしてくれる魔法をかけることもできた。  普段の予算からは考えられないほどの(謎の)高クオリティだ。  芸能・美術コースの先輩方へ、思わず敬礼をする。  他の部員が見つめるなか、咳払いを一つ。 「と、ともかく、皆よくやってくれた! これで今年のパンフレットの完成だ!」  その声とともに、部員たちの力ない歓声がちらほらとあがった。  ここまで長かった。辛く厳しい戦いだった……、と。  タナカは強敵達との闘い(?)を振り返りながら、出来上がった原稿を並べていく。  リテイクの鬼学園長。食べるのが早すぎて、絵として残らない食堂の料理とそれを食べる少女(結局、少女と料理を別々に描くことで、何とか1枚の肖像画として収めた)。  いたずらにのらりくらりとかわされ、一向にすすまない先輩へのインタビュー記事等など……。  これらはすべて、これまでの散っていった部員たちの汗と涙の結晶である。  後は、印刷所へ持ち込み、広報部へ頼むだけ。  ちらりと時計を見れば、もうすっかり遅い時間だ。印刷所の営業時間も過ぎていることだろう。 (今日できる作業もないし……)  部員達はさながら、机に突っ伏した姿勢で動く気力もない。  その姿は成仏したアンデットのようである。 「皆、お疲れ様、だ。明日は休んでいいぞ! あとはこのタナカ部長に任せろ!」  締め切りまでに持ち込みをすればいいだけだろう? このくらい楽勝だな。 ● 「うん? この空白のページは?」 「くうはくのぺーじ?」  そんなもの、あるはずない。こいつは、何を言っているんだ。 「えーと、タナカ・ダロー様。一応確認してくださいな」  印刷所の職員に促されるまま、恐る恐るページをめくる。  『学園長の言葉』、『進路紹介』、『施設』……。 (いや、いやいや。あるはずないだろう、そんなの)  なのに、なぜだろう。この寒気は。  そして、見つけてしまった白紙のページ。しかも数枚。 「なんだ、これ? 昨日見たときには確かに……、ん?」  白紙のページに挟まったメモ書きが足元に落ちる。  こんなもの見た覚えなど……。ある。 (例年のインタビューページ、確保した覚えが。ただ、そこからは他の取材に手一杯だったっけか)  あまりページを使った、ページを埋めるだけのコーナーなら省略はできたことだろう。  しかし、このインタビューは毎年行っており、かなり重要なものだ。  中にはこのインタビューを参考にして入学を決める生徒もいるらしい。つまり、今更省くことはできない。  タナカは顔を青くして職員のほうを見つめた。 「あ、あの……。締め切り、あと一日……。延ばしてください」 『締め切りまでに、適当な生徒にインタビューする』。  締め切りまで、あと1日と2時間。
参加人数
7 / 8 名
公開 2020-03-22
完成 2020-04-08
【新歓】はじめてのトラップダンジョン (マルチ)
根来言 GM
 冒険者……と、いえばなんだろう。  手ごわい敵との血で血を洗う白熱バトル?  それとも、攫われた姫を颯爽と助け出す救出劇?  はたまた、要人や商人達の頼れる付き人という人もいるだろうか。  それらの全てに、彼女はきっと、『それもよきかなっ☆』と、笑顔で答えてくれるだろう。  その日、彼女は新品の制服を着て登校する生徒たちを見かけ、ふと立ち止まった。  期待と不安を胸に抱き、それでも、未知なる未来へと『冒険』しようとする生徒達。  冒険したいお年頃……は、関係なく。皆が皆、日々なにかに挑戦しようとしている。  では、我々にできることは。  ……その冒険譚の初めの初め。冒険の楽しみを知ってもらうことだろう。 「―—と、言うわけで作った☆」 「作った……?」  魔法学園のトラブルメーカー……、学園長【メメ・メメル】は得意げに胸を張る。  彼女の後ろには、数十メートルはありそうな高さの塔が聳え立っていた。 「どう? どう? メッチェたん! ちょ~カッコイイ『メメタン・タワー』! イケてるって感じ~?」 「うーん……。なかなか個性的だメェ~」  教祖・聖職コースの客員教授【メッチェ・スピッティ】はのんびりとした声で答えた。  簡単、安心、安全を兼ね備えた初心者向けのダンジョン『メメタン・タワー』。  白き巨塔、屋根の部分には巨大な帽子を被せて。巨大なメメル……を、イメージしているようにも見える。  塔の中には落とし穴、転がる岩、迫る壁等……、メメルが面白いと思った罠が盛りだくさんのダンジョンとなっている。  『どごーん』『きゅいーん』『ずごごごご』。 「わっちが呼ばれたのは、怪我した生徒を治療するためかねぇ? 凄い音が聞こえてるメェ~」  時折、塔の中から爆発音や悲鳴のような声が漏れている。 「え~? 大丈夫、だいじょーぶ☆ だって、オレサマのメメタン・タワーだぞっ!」  メメルはどこからか水晶を取り出し、くるくると指で円を書くようにかき混ぜる。と、水晶の内側に塔の中の様子が映し出された。  だんだんと鮮明になる塔の中に、先駆者……いや、第一被害者が塔の中をさまよう姿が映し出される。 「ほらほら、生徒たんは怪我ひとつしてないっ! それにしても、流石アデルたん、全部の罠を踏み抜いていくなんて、オレサマ作ったかいがあったな!」 「凄い有様だメェ~……。怪我はしていないようだけど……メェ~」  水晶に映し出されたのは小柄なフェアリータイプのエリアルの少年【アデル・ミドラ】……に、見える。  頭とほっぺに吸盤付きの矢が数本。穴に落ちたのか、下半身は泥にまみれ、服はどこかに引っ掛けてしまったのか裾がほつれている。  半泣きの情けない姿のまま『ここ、どこぉ……。校長ぅ……?』と言う声に、そういえばとメッチェが口を開いた。 「随分と広いようだけど、地図はあるのかメェ~?」 「……、あ。えーと……、渡すの、忘れちゃったぜ☆」
参加人数
8 / 16 名
公開 2020-04-25
完成 2020-05-14
弱き剣、強き枷 (ショート)
根来言 GM
「だーかーらー! 直ぐにでも村をでるべきって、言ってるじゃないっすか! アンタら、死にたいんすか!?」 「商人風情に何が分かる! 俺たちゃ、何十年も住んでるがなーんも起きやしねぇっつーの!」  息を切らせながら叫ぶ商人と、あざ笑うかのように笑う村人たち。  商業と観光の町『シュターニャ』。その郊外に位置した小さな村の些細な言い合い。  いざこざに巻き込まれたくないとでもいうように。または通り過ぎる人々も同じように。  通り過ぎる人々は皆一様に、冷ややかな視線を向けていた。 「何十年も変わらない!? 森の最奥から、バケモノがわんさか溢れてるのをみてねーんすか!? オレ達は現に、今さっき見てきたところなんっすけど!」  商人の乗っていたであろうキャラバン隊の馬車は、見るからにボロボロだ。馬車を引く馬は何かに怯え、座り込んでしまっている。 「バケモノ? はっ、今更。この村に住む冒険者は多い。それに……、ウチにゃ、最強の戦士様々がいらっしゃるんでな! たかだか商人に心配されることじゃないね……っと、噂をすれば!」  村人の男が指さす先には、1人の男が立っていた。  彼は、この村で最強の戦士と呼ばれた男【ガープス・カーペンター】。  ヒューマンとは思えないほどの巨漢、眉間に刻まれた深い傷跡。歴戦の戦士を思わせる風貌に、睨まれ、商人たちは思わず息をのむ。 「……出て行ってくれ、話にならない。村人も、冒険者も話を聞く気は無い……そうだ」 「……ッ、また、また来るっす。アンタらが出ていくまで何度でも」  振り返ることなく去っていく後ろ姿に、やっと帰ったと小さく拍手が起こる。 「さっすがガープス様! こうも簡単に追い返してくれるとは!」 「ハーっ、今回の奴は手ごわかったなァ。これで何人目だ?」 「どうせ、村人追い出して採掘場でも作ろうっつー魂胆だろうさ」 「ひょろひょろの商人が半端な冒険者雇ったところで、ガープス様々にぶっ倒されるつーのが目に見えてるさ」 「何かあっても、オレ達には腕の立つ冒険者とガープス様がいるんだ! 必ず守ってくれる! そうだろ? ガープス様!」  期待に満ちたその声に、静かに男は答えた。 「……、あぁ、俺の出来る限りなら」  深夜、明かりの煌々と輝く一軒。  家の家主は村人たちに『最強の戦士』と崇められた男。ガープス。  昼間の威圧的な雰囲気はどこかへ消え、ただ哀愁さえも感じさせるほどに静かだ。 「昼は、追い出して、すまなかった」  そんな彼の晩酌に付き合っている相手は、昼間彼自身が追い出した商人【ピラフ・プリプク】だった。 「いやー、慕われてて羨ましいっすねー。みぃんな妄信してんじゃねーっすか」 宗教でもたてりゃ、かーなーり儲けが出そうっすねー? と、嫌味や皮肉が調子よく口から零れ落ちる。 「……そうだ。妄信されてしまった。期待、されてしまっているんだ」 「アンタも、アンタら村人もみぃんな知ってるんスよね? どんどん魔物の軍隊が村に迫ってることは。そんでもって、自分たちは生き延びれるって確信しちまってる。まぁ、腕の立つ冒険者を幾らか村に留めさせているから対策はできている……と、思い込んでいるんスねー」 「そうだ。それでもダメなら、俺がなんとかしてくれると、確信している。……俺は引退していると言っても、聞かないほどに」 「その根拠のない自信はどこから……。まぁ、アンタなら生き残りそうっすケド」 「俺だけが生き残っても意味がないだろう」  村を捨てたくはない。だから、捨てなくて済むような理由を無理やりにでも作ろうとする。  それでも。自分を慕ってくれる村人たちを見捨てたくはない。 「アンタから言い聞かせる気は」 「出来るならとっくにやってるさ」 『ガープス様がいるなら、それだけで魔物は逃げていきますよ』『村を捨てる? またまた御冗談を! 貴方が来てから、魔物の被害なんてもう無くなった。今更何を恐れる必要が?』。 「皆、皆が。危機感なんてものを持っていない。雲隠れすればとも考えたさ、だがあいつ等はきっと俺の帰りを待つだろうよ。武器を磨くことも、鎧を着ることもなく」 「まー、中途半端にアンタは強いっすからね。学生の時も、戦闘課題ではいっつも優、優、優。あー……、今になって腹が立つ。商人になって後悔はねぇっすけど」 「戦いしかしてこなかったから、こうなってしまったんだ。戦士になって、俺は後悔している」 「そうだ、ピラフ。俺を皆の前で倒してくれないか? そうすれば、きっと皆目が覚めて」 「戦士様、ご冗談を。オレなんて、アンタに勝てるほど強くねぇっすから」 「……そうか、そうだよな。……はぁ、一体どうすれば」 「……それはそれで、なんかムカつくっすけど。オレじゃなくて、もっと屈辱的な相手に負けを認めた方が効果的になるんじゃないっすか?」 「屈辱的な相手?」 「そうそう、手段問わなければっつーなら……。例えば、後輩の見習い戦士達とか」
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-06-02
完成 2020-06-21
暑い、そして熱い食堂の一日 (ショート)
根来言 GM
 その日は、ひと際暑かった。  アツイ、ツライ、ウゴキタクナイ。  生徒達が時折漏らす愚痴は、もはや太陽への呪詛となった言葉である。  が、幾ら同じ言葉を言ったところで、冷たい風が吹くわけではない。  ぐったり。  食堂のテーブルに突っ伏した生徒達を後目に、食堂職員【ベル・フリズン】は深いため息をついた。 「もー、君たち口ばっかりかい! 暇なら団扇で仰いでくれてもいいんだが……、うん! 聞いていないな! 別に構わないけども!」  ベルは、食堂の天井に張り付いた魔法機器の蓋を取り外し、軽く埃を払う。  蓋の内側、機器の中身を確認し、そしてまたため息。 (魔法陣がちょっと消えかけてるねぇ……、道理で、冷風を出してくれないわけだ) 「修理……、いやこれはもう買い替えをしなくてはいけないかもねぇ……、よっと」  脚立から軽々と飛び降りると、額の汗を拭う。 「職員さぁーん、何か冷たいの作ってよぅ。このままじゃ暑すぎて、午後の課題の前に倒れちゃう」 「おおっと、そりゃ一大事だねぇ。ちょこっとお待ち……ッ、ぐぅ!?」  ぱたぱたとキッチンへ向かい、食料庫の扉を勢いよく開けると……。  思わず鼻をつまむ。ツンと鼻につく刺激に、涙もにじみそう。  むぁ……。  瞬時に生暖かい風。風に乗って生臭い異臭。  眼下には見た事も無い光景。目を逸らしたくなるような地獄。 「……」  唖然以外の何物でもない。  普段、食料庫は寒くなる程に、冷却の魔法が掛けられているはずだが……。  まさかと、天井を見上げれば、所々の線が欠けており、まったく起動していなかったようだ。 (……この暑さじゃ、食料は全滅だねぇ、勿体ない。これは早急に片さなきゃ案件だ)  学園長に直してもらって……、魔法道具なら【ラビーリャ・シェムエリヤ】か。そんでもって腐った食料の掃除をして……、いや、生徒達への説明が先か。  頭をフル回転させる。幸いにもまだ、昼食の時間にはまだ早い。食材の調達と調理、そして修復を同時に行えば、何とか昼食時間中に立て直しができるだろう。  ……生徒たちはあまり待ってくれそうにはないが。  この事態を今だ知らない生徒達の声が微かに聞こえる。  『ご飯まだー?』『なに!? 変なにおいするんですけど!?』『暑い、熱いし暑い! 冷房入れてよー!』。  ゆっくり考える暇など、全くもって与えてくれないらしい。 (……では、考えないことにしようか)  ノイズ……もとい、ブーイングに忙しそうな生徒達に向かって、大きく吼えることにする。 「諸君、随分暇なようだねぇ! そんなに時間を持て余しているのなら、バイトでもしてくれないかい!?」  人手は全くと言っていいほどに足りない。  だが、これまた幸いなことに。  使えそうな生徒(人手)は、余る程いるようだ。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-07-01
完成 2020-07-19
弱き民、迫る脅威 (ショート)
根来言 GM
「ってことでぇ、ざっと100人くらい? 今から行くんで、よろしくしたいっす。つーか、よろしくしてくんねぇと困るっス」  がたごと、がたごと。  長い一本道を、数台の馬車が慌ただしく走っていた。  縦に長い、特殊な荷台を持つ馬車。普段であれば、商品である植物や魔物を積むためのものだ。  しかし、今のそれは、何人もの老人や子供たちが、窮屈に敷き詰められていた。 「いつからあなたは、奴隷商になったんだ? 愛しの学園長に振られるぞ?」 「やってねぇ! やってねーっすからね!? いや、世話することになんなら、少しは働かせてもいーと思うっすけど」  避難中の暇つぶしにもなるだろうし。彼はそう、言葉を続けた。  先頭馬車から、片肘付きため息交じりに水晶を触るのは、商人【ピラフ・プリプク】。 「軽いジョークだ。……そうだな滞在する間の働き口は、こちらでも幾らかは用意できるとは思うが」  彼の触る水晶から聞こえる声の主は、生真面目そうな女性のようである。 「……まあ、今からのことは何とでもなるだろう。そして、今、かの村の状況は?」  水晶の向こうの声の主……、シュターニャの傭兵組合『シュッツェン』。その長【ニキータ・キャンベル】は商人に問う。  突如としてある村周辺に発生した謎の魔物軍。  対策を幾度立てども、周囲からの傭兵、商人たちの忠告を全く聞く耳無しの村をニキータも危惧していた。  シュターニャの郊外とは言えど、距離はそう離れてはいない。  シュターニャへ魔物がなだれ込むことも、シュターニャへ向かう観光客や商人達が魔物の被害を受けることも予想ができた。善意抜きにしても、自分たちの都市へ何らかの形の被害が現れることだろう。 「ニキータ隊長も心配してたっすもんねぇ。えーと、取り合えず、避難は始めたっすね。とりあえず老人やら子供優先で、馬車に詰め込んでるんで。さっき話した通り、シュターニャで暫く預かりよろしくってところっすね」  ピラフの報告を受け、ニキータは一先ず安堵の息を漏らす。 「そうか、警告を聞き入れてもらえたんだな? 拉致はしていないな?」 「してねぇっすからね? ……こほん、愛しの学園長殿の、これまた愛しの生徒たちが説得してくれたっすよ」 「……あぁ、あそこの生徒たちが」  以前、課題として観光案内や魔物退治にシュターニャへ訪れた生徒たちと関わったことがあった。  右往左往しつつも、課題をこなそうと話し合い、工夫を怠らない生徒達。彼らならば、あの屁理屈達を説得できたかもしれない。  あの時の生徒かはわからないが、不思議と、その姿が目に浮かぶようだ。 (……なるほど、少し、感慨深いものがあるな) 「……さん、ニキータさん? 聞いてっスか!?」 「……聞いているぞ。それで、残りの人数は?」 「……残っている村人が70人……未満っすね。傭兵とか、戦える連中抜けば50人いかねーくらいだと思うんすけど。そんだけの人数がぞろぞろとシュターニャまで歩いていくのも逆にあぶねぇっスからまた乗り物とかが欲しいところっスね」  それと、傭兵をできる限り沢山。まだ魔物が来ていないとはいえ、馬車を連れての長い移動はリスクが非常に高い。まして、戦闘経験の殆どない村人たちばかりを連れて行かないといけないからだ。 「こちらとしてもそうしたい。けれど……今は難しいな」 「今は……? 何かあったんすか?」 「こちら……、シュターニャでも別件で少々傭兵たちが立て込んでいるんだ。数ばかりが多いから、終わり次第すぐに向かうことはできると思うが」  シュターニャに隣接するシュターニャ橋の近辺。現在、多くの魔物が現れ、傭兵たちの多くをその討伐に割いていた。  町の外とはいえ、町のすぐそばでの出来事なのでそちらを優先せざるを得ない状況である。 「しゃーねぇ……っすね。いつ襲ってくるかもわかんねぇんだけど……!? はぁ!? マジっすか!?」  馬の嘶き、商人達や村人の騒めきが水晶越しにニキータにも届いた。 「ピラフ? 何かあったのか?」 「煙……、魔物が、村に来たみてぇっス」 「煙……!?」  思わず、立ち上がり窓を開け、そして空を睨むように見つめる。 「……赤、か」  微かに空に昇る、赤赤と着色された狼煙。  この辺の傭兵ならば、この狼煙の意味はすぐに分かる。  『敵襲あり』だ。 「こっから2時間……、いや、シュターニャ寄った後じゃ、もっとかかるっすね……」 「……ッ、出来る限り、こっちも傭兵を募る。何人集まるかわからないけど……。今の案件片したらそいつらも向かわせる。後、馬車はウチの傭兵用の馬車を使わせる。荷物用の馬車よりは人が乗れるはずだ」 「……了解っす」  簡単にやり取りを済ませ、連絡を絶つ。 (あっちも騒騒しかったな。……道中の魔物に遭遇したか、あるいは村周辺から湧き出た魔物に襲われたか……か?)  村だけで、この騒ぎが収まってくれればいいのだが。 (――祈るだけなら、誰にでも出来るものだ……だが、私にしか出来ないことは) 「直ちに、片を付けるぞっ! 私たちを必要としている者たちがいるならば、私たちは、行かなくてはいけない!」
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-08-10
完成 2020-08-27
【体験】月夜に君と「____」 (マルチ)
根来言 GM
 月夜に君と「____」。  空白を埋めるように、君は目を閉じ、物思いに耽る。  これは、夏の終わりのとある夜。  虫は鳴き、月は輝き、食物は色づき始める。  君は誰と、どのように過ごすのか。  夜はまだ長い。どうか、楽しいひと時を。 ●隠れる 「水面に浮かぶ月も、器に浮かぶ月もまた、風流というやつじゃの」  そう言って、彼女は月の映る杯に口づける。  月の味は苦いのか、甘いのか。隣で物欲しげな顔を見せる彼女へ、意地悪そうな笑みを浮かべ小さく喉を鳴らす。 「クク、お主も一杯どうじゃ? 月見酒、というやつじゃ」  【フィリン・アクアバイア】が奨めるその杯。  【シルフィア・リタイナー】は遠慮なく、と。その杯を受け取るやいなや。  手に持った杯から魔力を溢れさせると、一気に体内へと吸い込んでしまう。  リバイバル式、一気飲みだ。 「美味しい『ジュース』、ご馳走様でしたぁ!」  月の照らすは、小さな小山の河川敷。  そこにいるのは、2人の影と、夏の終わりを訪れる虫の声。 「おー、おー? 騙されなかったか、つれないのぅ……」 「……え、えぇぇ!? な、何か入ってたのですかぁ!? フィリンさん!?」  少し残念そうに、自分の『酒』の入った杯を横から取り出す。  その見た目は、先ほどシルフィアが飲んでいたジュース入りの杯と瓜二つだ。 「……まぁ、酒を飲んでしまっては怒られるのは妾じゃしな。……しかし、仕事前のお主を長らく留めておくわけにはいけないのぅ。残りは妾が美味しく頂こう、無理に飲む必要はないのじゃよ?」  元々、酒に混ぜて飲もうと思っていたジュースじゃしな♪ そう言って、シルフィアの飲んでいた杯を横から掻っ攫うフィリン。  ごくり。液体が喉を抜ける感触を楽しむフィリン。そして、それを恨めしそうに見つめるシルフィア。 「んー、美味しいのぅ♪ これは、飲みすぎてしまうから、シルフィアには渡せないのじゃ」  さぞかし美味しそうに自分の杯を見せつけ、そして一気に残りを飲み干してしまう。 「あーっ!? わたしのジュースぅー!?」  取り戻そうと出した手も、そこにはすでにフィリンは居らず空を切る。 「んふふー……、んはぁ。温い風と、冷たい水。そして熱い酒……、んー、たまらんのぅ」  フィリンが残りの入った酒瓶を手に取り、千鳥足で川の水に足を浸せば。すぐに丁度よく酒で火照った身体を冷たい水が冷ましてくれる。 「お、お酒は飲めませんけどぉ!? わたしにも月見ジュース、楽しませてくださぁい!」 そんなフィリンを羨ましいと、追って手を伸ばすシルフィア。その手を避けようと、一歩後ろへ下がろうとするフィリン。  そして、足場の悪い河川敷。 「わるぅ奴じゃのう。しかし、妾のせいで仕事ができなかったと言われるのも困るから、のっ……!?」 「それはそれ、これはこれですぅ~! だから、一緒に、飲みましょ……きゃっ!?」  ばちゃん。勢いよく、足を滑らせ水しぶきが2人に飛び散った。 「ふぇぇ……、せっかくの浴衣がぁ……」  本来なら、濡れるはずのないリバイバル。しかし、シルフィアが『想像』してしまった冷たい水が、いつの間にやら彼女の浴衣を濡らしてしまっていた。 「水も滴るいい女、というやつじゃの。じゃが、多分大丈夫じゃろ。丁度雲が出てきたからのう」  濡れた浴衣も、闇が隠してくれるじゃろう。小さく息を吐き、フィリンは浴衣の裾を搾る。  フィリンの言葉通り、月明りが消え、辺りに薄い闇が広がっていく。  辺りにある色といえば、辛うじて見える朧月。そして、それが映り込んだ川の水くらいか。 「……あはは。月、消えちゃいましたねぇ……、えっと、陸に上がりましょうか?」 「……無礼講、だったかの? どうじゃ、闇夜でも一杯。ジュースも酒も、幾らか用意があるのじゃが……」 「……! やったぁ、貰いますぅ!」 ●走る 「エミリーちゃーん! スライムだぞー! がおぉー!」 「きゃー! 食べられちゃうー☆」  夜店が並ぶ道を、無邪気に走る2人の少女。  可愛らしいスライムのお面を被り、追う魔王(を、目指す少女)【ルシファー・キンメリー】と追われるアイドル(を、目指す少女)【エミリー・ルイーズム】だ。  2人を照らす道は賑やかなもので、時折商売人や通行人がやんやと2人をはやし立てる。 「おじょーちゃん、これ使いなよ」 「わぁ♪ ありがとう☆」  面白がる野次馬の1人が差し出したそれを、エミリーは後ろ手で受け取った。 「もう怒ったよ! 魔王ルシファーちゃん、キミを倒してやるぞぉ☆」 「な、なんだとぉ! ……そ、それはぁ!」  ルシファーは、ワザとらしく驚き、そして怯えるフリをする。  パルシェの手に握られていたのは、小さく、色とりどりに光る剣(おもちゃ)だった。  時折剣から『きらきらきらー♪』と聞こえる声に、野次馬達は笑いを堪えるのに必死だ。 「ひっさーつ、勇者斬りぃー☆」 「ぐ、ぐあぁああー。やーらーれーたー!」  パルシェがゆっくり、ルシファーを切りつける仕草をすると、これまたゆっくり倒れるルシファー。 「へへん、どうだ……、ふふっ、な、なんだとぉ」  ゆらり、起き上がるルシファーの姿に、思わず吹き出しそうになるエミリー。 「しかーし! アタシがやられても第2、第3の魔王がいるのだー! そしてアタシが第2の魔王! 喰らえー魔王の仇―!」 「えー! 酷いよルシファーちゃん!? きゃー♪」  再び立ち上がり、がおーと両手を上げるルシファー。また逃げるエミリー。  また、鬼ごっこが始まった。 ●微睡む 「月が、綺麗ですね」  【ヤエガシ・メグリ】は月を見上げ、小さく呟いた。 「急にどうしたの?」 「昔、聞いた言葉。月を見ていたら思い出したの、どこの言葉だったかなぁ」 「月が綺麗なのは、当たり前のことじゃないか」  隣に座る【アルマ・クレーティス】の言葉に、それもそうね。と、小さく笑い、再び月を見上げる。  2人が語らうは小さな丘。  空に輝くは月、煌めくは星、聞こえるは微かな虫の音。  祭りが終わり。生徒会としての補導や巡回の仕事が終わるころには、辺りの人影はすっかり失せていた。 「ここで、寝っ転がったらもっと綺麗な眺めでしょうね」 「こんなところで寝たら、汚れてしまうよ」 「……それもそうね。それじゃあ、アルマが膝枕でもしてくれる?」 「それも素敵な提案だね。だけど……」  だけど? と言いかけたメグリの身体が宙を浮く。 「これなら汚れずに、綺麗な景色が見える。……なんてね」 「……、そうね、とても綺麗」  アルマがメグリを抱きかかえ、空を飛んだ。  頬に当たる髪を払い、先ほどより近くなった月夜に息を飲む。 「こんなに近く、何時も空を見れるなんて。羨ましいわ」 「確かに、僕たちは空を飛ぶことはできるけれど、わざわざ飛ぼうとはしないかな。……、一緒に見たいと思わせてくれるのは、君の言葉」  月光を受け、優しく光る大きな翼。暗闇のなか、優しく見つめる灰の瞳。  (アークライト……。本当に、天使様がお迎えに来たみたいな光景ね。……けれど)  けれど。  彼女が羽を広げることができるのは、後、どれ程の時間なのだろう。  (アルマは、寿命なんて、気にしていないように振舞うけれど……。でも、私は) 「しんで……ほしく、ない……」 「……大丈夫。僕は死なないよ」 「……あら、言葉にでちゃったかしら? ーーーふふっ、これも昔聞いた言葉なの」 「メグリの故郷の言葉なのかな? それ、どういう意味?」 「わたしにもよくわからないわ。ーーーでも、悪い意味じゃなかった気がする」
参加人数
6 / 16 名
公開 2020-09-11
完成 2020-10-17
迫る脅威、探る道標 (ショート)
根来言 GM
 その日、『魔物の大群』がとある村へと押し寄せた。  人々は近隣の都市『シュターニャ』へ身を寄せ、魔法学園の生徒と、わずかに残った村の衛兵達が、魔物の群れを退けた。  文にするだけならば、1、2行にも満たないような出来事。  しかしながら、それは、人々と村へ、多大な影響を与えた。  ……あの出来事から、2か月が経過した。  未だ人々は故郷へ帰ることはなく、村には時折、シュターニャの傭兵達が交代で見張りにつく。  悪化……とまではいかないまでも、魔物も、そして人々も。  全てが行動することもなく、ただ、立ち止まったまま。  そして今日も。 「……はぁ」  誰かが、この日何度目かもわからないため息を吐く。  気が滅入るのも仕方がない。衛兵達から入る情報は今日も変わらず『特に異常なし』の1点のみだからだ。  ……確かに、あの日以来、村へに現れる魔物の数は極端に減っていた。  1日に1匹か2匹、弱い魔物が顔を表す程度……。  しかし、それも森の外のみ。  調査に出た衛兵達からは、森の中には、そこら中に魔物のものであろう痕跡が残っているとの報告もある。  ……恐らく、未だ森の奥には、魔物達が大量に蔓延っていることだろう。  ――森の中だけで留まるそれを、平和と呼ぶべきか。  それとも、いつまた起こるかもしれない、災厄と捉えるか。 「――以上が、屯駐兵達の報告だ。事態は悪い方向にも、良い方向にも動いていない。……だが、今、村人たちを村に返すわけにはいかない」  また何時魔物が、再び現れるかもわからない。傭兵組合『シュッツェン』の代表、【ニキータ・キャンベル】はそう付け足す。 「けれど、わたし達も、いつまでも村人さん達を置いておくわけにはいかないわ……。申し訳ないけれど」  観光組合『アイネ・フォーリチェ』の代表、【マチルダ・アベーユ】が口を開く。  幾ら、彼女と仲の良いニキータの判断でも。マチルダは観光組合の代表として、言葉を述べる。 「今、こちらにいる村人さん達を泊めている宿泊施設。その間、お客さんを止めることはできない、観光業が滞ってしまう。一触即発ってところね」 「シュターニャにとっては、早めに対応した方がよい……か。……ところで」  ちらり。目の端にいる大男を、ニキータが睨むように見上げる。  元凶……ではないものの。彼は間接的に、面倒ごとを長引かせた原因のような者。あまりニキータの心証はよろしくない。 「貴方は、この事態に何か心当たりはないのか? ガープスさん」 「……俺に聞かれても、困る」 「あー、ニキータさん。こいつは超鈍感脳筋ヤローなんで、あんま頼んねーでくださいっス」  元・最強の戦士【ガープス・カーペンター】の横で水を差すのは、商人【ピラフ・プリプク】。  ニキータがガープスを敵視するのは勝手だが、それでまた、現在の状況をガープスが責任を負う必要はない。……と、ピラフは考える。 「……まぁ、ピラフの言う通りだ。申し訳ないが、そういったことは苦手なんだ」  ピラフの軽口に何かもの言いたげであったが、ガープスは口を慎む。ここで変に反論する意味もないだろう。 「第一、こいつ(ガープス)は村の出身でも、長らく住んでいるわけでもねぇ。おまけに注意力っつーのがあんまねぇっす」 「……申し訳ない」 「……いいえ、気にしないで。ではピラフさん。貴方は、何か心当たりがあるかしら? 魔物が出てくる前、森の中に入ったと聞いたのだけれど」 「んー……、オレは1泊しただけなんで、村の知識はこいつ以下っスよ?」  そう言って隣にいるガープスを小突く。  幾ら衛兵や強い戦士がいたとしても、原因や発生源が分からなければ動くことはできない。  鎮まる面々の顔を眺め、またため息が漏れる。 「やはり、落ち着くまで待つしかない……か。歯がゆいが、それが一番確実だろ――」 「……あ」  ニキータの声を遮るように、思い出したようにピラフが声を上げる。 「そういえば、オレ、一度森にはいったんスけど……。森の中に家? っつーか、小屋みてーのが見えたんっす。あの小屋? の持ち主とかなら森のこととか詳しかったり?」 「小屋? 山小屋みたいなところかしら?」 「いや、山小屋っつーか、秘密基地……みてーな感じで……」  思い出そうとするピラフの言葉に、ガープスが反応する。 「……村の子供たちのものだろう。俺が村に来る以前……、魔物がいなかった頃は、森は子供たちの遊び場だったらしい」  その言葉に、ニキータが反応する。 「何故、それを早く言わない! 以前の様子を知る者がいるなら、その者に聞けば何かわかるかもしれないだろう!」 「ま、まぁまぁ! そうね……、貴方たちが知らなくても、知っていそうな人に聞いた方がいいかもしれないわ! 他に、何か知ってそうな人に心当たりは?」 「……そうだな――」  それは、姿も、終わりも見えない脅威に思えた。  しかし今、道標が立とうとしている。
参加人数
4 / 8 名
公開 2020-11-18
完成 2020-12-07
探る道標、掲げる剣 (ショート)
根来言 GM
「回収して、ほしい……な?」  水晶の中、浮かび上がる褐色の少女――【ラビーリャ・シェムエリヤ】は、小首を傾げ、静かに発した。  ……期待と真逆の言葉。  その真意も分からず。  一同みな、彼女と同じように首を傾げるほかなかった。  村近辺の森にて発見されたのは『魔物を生み出す謎の本』。  生み出された魔物達の数は驚異的である。  その上、経験の少ない冒険者ではとても太刀打ちできないような強力な個体も確認されているのだという。  ほんの数か月前、魔物達の一派が討伐された。しかし、未だ安心はできない。  一時的にではあるが、確かに今は平穏である。……そして、平穏な今だからこそ、人々は襲来に備え、警戒と調査、作戦を繰り返していた。  その全ては、失った村を取り戻すため。あるいは、自分たちの街を守るため。  今、作戦会議を行う数人も。そして、その中心人物である彼女――【ニキータ・キャンベル】もその1人だ。  件の村の近隣に位置する町『シュターニャ』は、彼女の守るべき場所、守るべき人々が暮らしている。  だからこそ、ラビーリャの言葉を鵜呑みにして素直に首を縦に振ることはできない。 「……回収したところで、脅威を拭い去ることはできないのではないか? それに、村から回収したとて、どこに保管を行う」  近隣の街であるシュターニャには多くの傭兵がおり、多少の魔物にも対処できる。  ……が、同時に商売の街であるシュターニャ。年中観光客が溢れるような場所にそのような危険なものを置くことは、街の人々、そして観光客達からの信用を失うことに繋がる。 (……第一、何故、回収する必要がある? 私は、封印の方法、あるいは安全に破壊する方法を聞いたつもりだったのだが……)  専門家ではないニキータには、本の事などは全くと言っていいほどに分からない。だからこそ、不安で、未知で……。そこにあるというだけで、とても恐ろしい。 「それに、その危険なものを回収した後……あるいは護送中に魔物が大量に現れたなら……、他の集落にも被害が拡大するのではないか?」 「えぇと……、『ソレ』は多分、危険なものじゃない、よ。今は、危険になっているだけで。それに、運ぶ間だけならなんとかできると思う」  意味が分からない。ニキータはラビーリャのその言葉に、思わず息を吐いた。  ラビーリャ・シェムエリヤという人物は、魔法道具の専門家である。  ニキータにとって、最もこういった未知の魔法道具に詳しい人物であり、傭兵組合と友好関係にある魔法学園の関係者だ。  だからこそ、信頼している。……そして、だからこそ、今回の彼女の発言は理解が難しい。  ——尤も、彼女の言動は少々言葉を選びすぎている為に伝わり辛い点もあるのだが。  ラビーリャもその点は自覚している。 「……えっと」  ニキータの反応を見て、結論を急ぎすぎたとその結論への過程をゆっくり語り始めた。 「水晶越しに、見せてもらった本だけど……。装飾の一部に『ガイキャックス家』の文様があった」 「ガイ……何?」 「……封印とか、結界術とかに長けた魔法使いの一族があったんスよ。めっちゃマイナーな。……んで、そいつらが魔物封印する為に置いてたんじゃないか……? っつーこと……で、あってるっすか?」  ラビーリャの説明に補足をするのは、商人の【ピラフ・プリプク】。  よく知ってるね。と、頷くラビーリャ。 「その本の本来の用途はきっと、魔物を頁に封じ込めて無力化すること。ガイキャックス家自体は、人々を守るため、色んな町に結界を張ったり、勇者の手助けをしていた一族。……封印自体は、ずっと放置されていたみたいだけど。……だから、きっと大丈夫だと思うよ」 「でも、本に封印されている状態ってことには変わりはないのよね? 封印が解けた魔物の様子は? 解けて直ぐに人を襲うの?」 「観察を行っていた調査員によれば、封印された状態の魔物が現れる直前……黒いスライムは本、もっと言えば本の頁……が、変形して成った物だそうだ。つまり、頁の1つ1つが何かしらの魔物と考えていいだろうな」 「その本から出てきた魔物は、本に封印されていた魔物ってことになるのよね? ……え? まって、頁に封印されていたってことは」  【マチルダ・アベーユ】が口を開く。始めに現地調査を行った学生によれば、その本はかなり分厚いものだったという。……そうであるならば。 「うん。多分、あと千匹くらいいる……と、思うよ」 「……ッ!?」  ラビーリャの淡々とした言葉。アベーユは思わず、声にならない悲鳴をあげる。 「数匹であれば、問題なく倒せるだろう。封印から覚めたばかりの魔物はあまり強くはなく、封印が半端な魔物も、動けるようになるまで時間がかかるらしい。……無理に攻撃をせず、距離を取ることができれば避けることはそう難しくはないだろう」 「……だから、無暗に破壊しないように。慎重に学園に届けて欲しいな。……万が一魔物が出てきても、学園ならある程度対処できると思う……多分」 「多分……ま、まぁ。保管してくれるというならありがたいが」  思ってもいない提案にニキータは快諾をする。 「うーん、一番手っ取り早いのは、もう一冊本を持ってきて、それを使うこと。それか、その場で封印をし直すことなんだけど。それも難しそうかしら? ラビーリャさんにはできないかしら?」  アベーユの言葉に、ラビーリャは静かに首を横に振る。 「出来ない……と、思うよ。ガイキャックス家の物なら、一族の血を持つ者にしか扱うことができない。そういう風にされているから。……逆に言えば、自然に解けるまでずっと封印は継続されている」  下手に悪用されないように、かな? 彼女は首を傾げた。 「でも、少しの間だけ……学園まで運ぶ間くらいだったら、なんとかできると思う」 ● 「皆、聞いてくれ! ……これから、我々は作戦に入る」  ニキータの透き通るような声が、村に……、いや。かつての、そして未来の戦場へと響き渡った。  ただ今は武器を置き、静かに耳を澄ませる。 ……静かに息を吸い込み、彼女はきわめて冷静に指揮を伝える。 「作戦の目標は、例の本確保! そして、被害無く村を、そしてシュターニャを救うことだ! ……目標物のある地点の危険性は、未だ未知数。調査員の報告によれば、内部には多数の封印されし魔物が多数確認されているとのこと。……洞窟内、そして外部である森内ともに、目覚めるであろう魔物との激戦が予想される。……潜入する第一部隊は当然ながら、包囲を行う他部隊共に油断せず、迎撃に備えろ」  前回の防衛戦よりも、戦いの規模自体は小さいものとなることだろう。  しかし、同時に屋内と屋外の戦闘ともなれば戦場の把握が困難となる。 「武器の貯蔵の確認、地の利の確保……持てる力の全てを発揮しろ。これは、我々の戦いだが、我々だけの戦いではない」  彼女は祈る。この戦いの先に、平穏が再び戻ることを。 「――――これが、村の存続を決める最後の戦いになるだろう。我々が行うべきことはただ、力の限り戦い、そして災厄に抗うことだ。……全てはこの村のために。……そして、愛すべき、我らがシュターニャのためにッ! 剣を振るうのだ!」  彼女は声を荒げ、叫ぶ。  そして、その叫びに応じるように、人々は拳を掲げた。 ● 「……いやー、マジかー……。アイツ、ただの大嘘つき野郎じゃなかったんスねぇ」  傭兵達が去った、簡素な広場。ピラフは数日前のやり取りを思い出す。 「この場にいてくれりゃ、楽なんっすけど……」 「……居もしない奴の事を、考えても仕方がないだろう」  重装備に身を包み込んだ戦士【ガープス・カーペンター】が静かに言葉で制し、立ち上がった。  数年振りに袖を通す鉄鎧は、日の光を浴び、鈍く輝く。 「ま、そうなんっスけど……。いてくれりゃ、封印直してお終いじゃないっすか? ……へいへい、手も動かすッスから……機嫌直してくれませんかねぇ?」  思わず口に出ていた言葉。明らかに不穏を見せる戦士を宥める。 「ほいっと。注文品の回復薬と、ウチの在庫武器がいくつかと……その他もろもろっス。アンタの言うとーりっスね。今は、生きているかも死んでいるかも分からねー奴よか、可愛い後輩のため、頑張るっすかねぇ」 「……あぁ」  静かに闘気を高め、鞘から剣を抜く。  ……あと少しで、全てが終わる。そして、自分たちの役目も終わる。  だからこそ、力の限り手を貸すのだろう。  ――願うはただ一つ、後輩たちの輝かしい未来のみ。
参加人数
5 / 8 名
公開 2021-03-05
完成 2021-03-23
【幸便】晴れた霧と曇り土地 (ショート)
根来言 GM
 その日、学園内へと足を踏み入れたのは、重厚な装備を身に着けた商人達だった。 「まいどー。これが、例のブツっス……くれぐれも、丁重に扱ってくだせぇッス」  商人の1人が馬車の中から取り出した『それ』は、1冊の本だったもの。  今でこそ、鎖の塊のような姿ではある。が、その内には何百もの魔物を封じられた危険な代物である。  ……今、商人【ピラフ・プリプク】の手から、1人の少女―――魔法学園学園長、【メメ・メメル】へと手渡された。 「……これが」  彼女は手にしたそれに小さく声を上げ、そのまま、目の高さまでゆっくり持ち上げ―――。 「おぉぉっ!? なんとも禍々しい封印だなっ☆ ……では早速中身をー」 「ちょい!? ここで解くんスか!?」   〇 「冗談だぞー? じょ、う、だ、ん! オレサマが、そんなことするように見えるー?」 「見えるっス……。てか、オレが止めなきゃぜってーやってたッスよね? あと、その手をやめて下さ……、ストップ! それ心臓に悪いっスからね!?」  可愛らしく口を尖らせるメメル。しかし、鎖の塊をこねくり回すその手は止まらない。  何時、封印が解け、大量の魔物があふれ出るかも分からない本『ガイキャックス家の書』。  その保管先に選ばれたのは、万が一があった時戦うことができる戦力と魔術的知識を保有する組織である魔法学園だった。  ……が、今そのような代物を、玩具に興味津々になった子供のように目を輝かせて触っているメメルに、若干の不安を抱えているピラフ。 (……、経験上、ほおっておいたら絶対ヤバい!)  元学園生として、このまま帰ると後々なにかが間違いなく起こることを察してた。それもかなりろくでもないことを。 「やーやぁ、メメル学園長! と、ピラフ団長? 何か食材持ってきてくれたのかい?」  ぴょっこり。そんな擬音を鳴らし、2人の間に入り込む影。学園の職員【ベル・フリズン】だ。  ピラフ率いるピラフ商店が大抵持ち込む魔物や、珍しい植物目当てで、商談の様子を探りに来た。  そういった様子のベルだった。が、今回その期待に答えうるものは生憎、荷物には含まれておらず。 「あー……ベルさん、すまねぇっス。今日の品は、魔物が入った本だけっスね」 「魔物が入った本……? へー、最近はそんなのがあるんだねぇ……。ちなみに、どんなの?」 「えーっと、ゴブリンが100匹くらい……? とにかく沢山のヤベーやつっス」 「ごぶりん、ひゃっぴき……。1匹辺り、3人分くらいだから……300人前かねぇ? ……うーん、個人的に買い取ることってできないのかい?」 「……え? 何がっスか?」 「……魔物を食べ物としか見ていないの、ベルたんくらいだよねぇ。でも! その答えはモチロンノーだ! これはオレサマのものだぞ☆」 「……、頼むから、余計な事しねーでくだせえ」 〇 「そういや、アタシ、メメル学園長にお願いがあって来たんだよ」 「お願い?」  商団を見届けた後、突拍子無くベルが口を開いた。 「来週くらいに、ちょいと食堂を休ませて貰えないかと。その間メメサマランチはちょいと我慢して欲しいってお願いをだねぇ」 「えー……やだ!」  メメサマランチ。オムライス、ハンバーグ、パスタにポテトがてんこ盛りの特製プレートである。  手間と時間と材料費がかなり掛かるため、学食職員の数に余力が無ければ作ることが困難なのだ。 「帰ってきたら、沢山作るから……! なんなら、目玉焼きを付けるし、ハンバーグの中にチーズだっていれたげるからさぁ」 「目玉焼き……チーズ……、う、うむむ」  食い下がるベル。  カロリーの暴力。そこに潜むロマン。そのトッピングは美味しいに決まっている。 「わ、わかった! それで手を打とう! ……それにしても、ベルたんが休むって珍しいな! ……何か予定があるのかね? まさかデートとか?」 「予定っていうか、ちょっと現地調査をしたくてだねぇ……。メメル学園長は聞いているかね? グラヌーゼの森の話」  グラヌーゼの森……、と、言えばグラヌーゼの幻惑の森のことだろうか。  森に入るものを幻覚で迷わせ、現地民すらも近づくことが少ない不気味な場所。数々の冒険者や学園生が幾度も調査に訪れたが、今だ全ての地形を把握できていない……らしい。 「もしかして、一部の幻惑が晴れたって噂?」 「そう、それそれ! 今まで幻惑ばかりで土地の調査が出来なかった地域だからね、調査しがいがあると思わないかい?」  確かに最近、そういった噂がある。上空を飛行中のグリフォン便の運転手が森の中に一部変色した地域を見た……とか。  あるいは、迷い込んだ冒険者がある地域に足を踏み入れた瞬間に幻覚が消えた……だとか、そういったものだと聞いている。  ベルの言う調査というのは、今まで封じられていた地域の調査を学園側が試みよう……ということなのだろう。しかし、だ。  生徒や教師というのはまだしも、一介の学園職員(それも食堂の料理人)がそれを行うというのは、少々変な話だ。 「ベルたんベルたん? もしかして、調査の他に目的があるのかな? 例えば~……新種の食材が見つかるかも♪ とか思ってたりする?」 「んんッ!? ま、まさかそんなわけ……! いやいやー、ほら、アタシは調査とか慣れてるから、適切な人選じゃないかなーと思ってだね?」  目を合わせない様子を見るに、この反応は図星というわけだろう。 (確かにベルたんはこういった調査とか、単独行動には慣れてるもんねぇ……。理由はともかく)  今のベルは、何を言っても何かしらの理由をつけて1人で行こうとするのだろう。  少し考え、メメルはそうだ! と、楽しそうに声をあげた。 「ベルたん、どうせなら生徒達も連れて行ってよ! 未開の土地の調査なんて、きっと滅多にない貴重な体験になるんじゃないかな~☆」 ●補足  ちゃりん。ちゃりん。  ひとつ、またひとつと解かれていく鎖。  さも愛おしそうに、露わになった本の表紙。彼女は、擽るように、背表紙をなぞる。 「『不死鳥と茨の籠』……。うん、やっぱり。間違いなくガイキャックスのものみたいだね」  所々欠けた、紋章。それでも、特徴的な印だけは当時の真新しさを残していた。  封術。その一点のみを追求し、発展し、そして衰退していった一族達の残したもの。  それが今、彼女の掌にある。 「オレサマの研究分野ではないんだけど……。ま、いっか☆ 解読できたら色々遊べ……使えそうだし☆」  マイナー中のマイナー。封印だけに特化したような技術者達の集大成。ちょっとしたアーティファクト。  分野は違えど、学ぶ機会はそうそうない。メメルは意気揚々と頁をめくる。  ゴブリン……。スライム……。そして、件の牛のような魔物の絵が綴られた、何の変哲もないように思える頁ばかり。  魔物が出てくる気配はなく、彼女は安堵か落胆か、どちらともつかないため息を1つ。  ある程度の魔物を出し切ってしまったからなのか、はたまた魔物が排出される条件があるのか。  ……はたまた、特定の場所でしか効力を発揮しない代物なのか。 (……そういえば、ベルたんはグラヌーゼに行くって言ってたっけ? 確か、あの辺りは……)    突如現れた魔物の大群。方や、幻想が晴れた未知の領域。  全くと言っていいほど遠く離れた地域の、毛色の異なる2つの出来事。  共通点など、ない。……そのはずだ。 「―――ベルたんの報告次第かなぁ……。いい知らせがあるといいんだけど」  少女は静かに、本を閉じた。
参加人数
5 / 8 名
公開 2021-06-13
完成 2021-07-02
【幸便】曇り顔と隠されたモノ (ショート)
根来言 GM
 グラヌーゼの森に位置する霧の地。  その地から生徒たちが帰還して、幾日かの日が経過した。  持ち帰った情報の数々を言葉で表すならば、『未知』。  奇妙な植物に不可解な生物。そこにあった建物からも、これまた未開の地下室が発見された。  それは単なる興味か、はたまた何かしらの使命感かはさておき。  一部の生徒や教師、あるいは学園の関係者たちはその未知を少しずつ探っているようだ。  学園の一角に位置する巨大な植物園「リリーミーツローズ」。  数々の植物の栽培を行い、そしてその植物達それぞれに適した環境を用意できる数少ない施設である。  まさに、植物の研究をするにはこれ以上ない場所といえよう。  水の量、日の当たる位置、湿度に温度。  肥料。あるいは土の堅さ、周囲の植物の影響。  ありとあらゆる環境を試み、やがて彼女達は声を揃えて言った。 「変な植物ですね」 「ヘンテコな植物だな」  ●  学園内に存在する学園長室の、内1つ。  口を尖らせ身振り手振りを交えつつ、ある植物について報告が行われていた。  件の地から生徒達が持ち帰ったとある植物の種子。そしてその成長記録。  学園の植物園は、ありとあらゆる植物を研究し、栽培しているといっても過言ではないほどに大規模な施設だ。  そして、そのような施設の管理を任された2人の少女【リリー】と【ローズ】もまた、ありとあらゆる植物に関する知識と技術を持つ知識人である。  ……が、今回の植物はそんな2人の知識を持ってしても栽培が困難らしく。  2人の言葉を整理したものが以下の通り。  ・成長した植物は種子ごとにそれぞれが米・トウモロコシ・小麦の何れかとなってしまう。  ・成長した物は、大陸で主に普及している穀物と全く同じ物のようである。  分からない・難しい・変。その3単語が永遠と並んだような報告を聞き終わり。 「なるほど~? つまり、くっつけちゃったわけだな!」  1人納得した声を上げる【メメ・メメル】。リリーとローズは互いに顔を見合わせた。 「メメルは何か知っているのです?」 「メメルは何を知っているんだ?」 「……っと、これこれ!」  机に積んだ本の山から、1冊の本を抜き出す。  ドバドバと落ちる他の本も、あーあと口を開けるローズの姿もメメルは全く気にしない。本をめくり、彼女らの問に答える。 「魔力に干渉されない、魔力の壁や障壁。まぁ、すごくわかりやすく言うと、結界だな。実は、封印の裏技みたいな、面白い活用法がある。……理論上はできるのではないか? っていう机上論どまりの論文だけど。結構昔のものだけど」  指さすその項目に書かれた文字をゆっくりと指でなぞる。 「2つの異なる物質を魔力の壁で囲み、1つの部屋を作る。んで、その壁をどんどん小さく、小さくしていき、物質をこれ以上ないほどに押し潰す。……2つの物質はやがて壊れ、けれど魔力の粒子は出口を失い、霧散せずそのまま混ざりあい、溶けあい、1つとなる。上手くいけば2つの性質を持った1つの物質となる。所謂キメラの完成ってわけだな」  そして、そのキメラこそが、今回持ち込まれた植物だろう。メメルはそう結論付ける。 「かなり昔の論文だし、もう実現されていてもおかしくはないと思うぞ。もっとも封印とかを研究している学者とかマイナーだからなぁ……」 「今までの私達の知識を否定されたような魔法ですね? 色んな毒を合わせた毒草とかできてしまいそうです」 「そんなこと出来たら、なんでもアリの植物もできちゃうじゃないか? 怪我とか病気とかをいっぺんに治せる薬草とか」 「まぁまぁ、リリーたんもローズたんも、落ち着き給え☆ キミ達も知っての通り、完璧とはいかないみたいだ。ほら、例の植物は栽培とかほぼ不可能みたいだし」  かの土地で生徒達が見たというコカトリスも恐らく、なんらかの欠陥があったのだろう。報告を聞く限り、敵対心の欠如や石化能力の剥脱……ということだろうか。 (キメラになると、魔物は危険じゃなくなる……? うーむ、サンプルがちょいと少なすぎる。もうちょい調べて……) 「そういえば、そのナントカ家って、封印の研究ばっかりしていたんだよな」 「あ、私もそれ、ちょっと不思議に思いました」 「んぅ? 何か思うことがあったのか?」  顔を見合わせ、やがて2人はほぼ同時に声を発した。 「『封印の研究をしていた過程で偶然キメラを作り出すことが出来たのか』、それとも、『キメラを作り出そうとする過程で封印の研究が必要になった』のか。目的はどっちだったんだろうって」  ●  霧も明け、晴れたかの地にて。  背丈に似合わぬ巨大なシャベルを土に突き刺し、彼女は額につたう汗を拭った。  一仕事を終えて地面に腰を下ろし、やがて仕事の成果に小さく息を吐いた。  掘り返した土はあちこちに飛び散り、ある個所は2.3mほど垂直に掘られた落とし穴と化していた。  満足そうにその穴を見つめ、緩やかに笑う。 「……うん、概ね予想通りで何よりだ」 「おーい、ベルたーん? オレサマ、墓荒らしをするような子に育てた覚えはないぞ?」  遠くから聞こえる声に、【ベル・フリズン】は悪びれもなく、気だるそうに手を振った。  廃屋の裏手は一部のみが掘り返され、墓荒らしの張本人も土だらけ。 「ハハ、何を今さら。許可をくれたのはメメル学園長じゃないかい? あと、アタシも育てられた覚えはないよ!」 「ここまで深く掘るとは、流石のオレサマも予想外だぞ? それで、目的のモノは見つかったのか?」 「勿論、予想通りなーんにも埋まってりゃいなかったさ! 骨1本でものこってりゃ、供養してやったんだけどねぇ」 「アイツは、アタシの住んでた村で死んだ。少なくとも10年くらい前、土と石の劣化からして……その結構前にこの墓石はできたと思う。だから、ここで死んだ奴はレオの名前を騙った誰か。それかレオが名前を騙っていたか……って、思ってたんだけど、それもちょいと難しいかもね」  騙る意味も、そして彼が騙られるような意味も全く分からない。少なくとも、その人物には地位も権力も、知名度も皆無だ。  【レオナルド・ガイキャックス】。メメルはベルの言葉を聞き流しながら、墓石に刻まれたその文字列をなぞる。筆跡は強く、妙に癖のある文字の書き癖。  メメルは静かに声を落とした。 「誰も、何も埋まっていなかった、か。ふむ……?」  頷くベルに、メメルは思い出したように声を出す。 「ちなみにベルたん? オレサマの生徒にも同じ名前の奴が昔いてだな? その生徒の出身がここら辺にあって、妙な癖のある字を書く奴なんだけれども」 「……へ、へぇ……どんなヤツだい?」 「『メメ・メメルの後継者』だとか『世界最強の魔法使いになる男』とかを自称するおもしれ―奴だったぞ☆」 「あー……。多分、同一人物だねぇ、そいつ。ウチの村でもそんな感じだったよ。たしか、『最強の魔法使い』って名乗ってた。……うん、全く嫌な偶然だねぇ」 「おー、全く変わってなかったようで何よりだ! 卒業してから忘れ……いや、話を聞かなかったけどな! まーこの話はおいおいにしてー……。うん、それなら1つ、思いついた仮説がある」 「仮説?」 「———レオナルド・ガイキャックスは、生前に墓を残していたってことさ」  残された、廃屋の、更にその奥に眠るもの。  完璧な答えがあるとは決して言い切ることは不可能。  けれど、答えを知るための足掛かりがあるかもしれない。  そこにあるのは、獣の木霊と、埃被りの本の山。そして―――。  ———勇敢なる誰かを待つ何か。
参加人数
4 / 8 名
公開 2021-09-17
完成 2021-10-07
【幸便】隠された影と封じられた魔物 (ショート)
根来言 GM
 仄かに輝く光を求めて、彼は宙を仰いだ。  幾年眠りについていたのか。その身体は塵が積り、関節を動かす度、嫌な音がする。  瞬きをするだけでも身体は鉛のように重く、声を出す器官からは風だけが漏れ出ているような音のみ。  ―――それでも。  その身体は時間さえかければ、問題なく動くことが出来たらしい。  手足の関節と指の開閉を確かめた後、瞳を動かす。  埃の積もった大量の書物の無事を目視で確かめ、辺りに散らばる魔法具の個数を確認する。  ―――問題なし。劣化以外の傷も、破損もない。では、何故動けるように? 彼は考える。 「……あの忌まわしい獣を、誰かが痛めつけた……と」  掠れるような音を出し、瞬きを繰り返す。  うっすらとではあるが、魔力が少しずつ高まっていく感覚。  ……それは、以前この階層にあった、かつての魔力そのもの。  そして、かの怪物が彼やこの地から奪い取っていたものだろうか。  ―――それから変わったものといえば、その彼を観察するように浮遊する精霊が一匹。  この地はかつて、ガイキャックス一族が栄え、そして衰退を迎えたとある廃屋。  そして、ごく最近魔法学園の生徒達がキメラと呼ばれた怪物と対峙した地下でもある。 「―――アナタは、その誰かの使い魔ですか? ワタシを解放してくれたのはアナタの持ち主、それとも。……とりあえず、アナタの持ち主の元へ案内をお願いしても?」  勇敢なる誰か様へ。  誰ともとれるような曖昧な始まりから始まる手記の中身は、以下の通りであった。  『我がガイキャックス家は、弱き人々を魔王との戦いから守るために封術を造り、そして更なる戦いの激化からも守り抜くために究極の封印術を求め続けた。その全ては魔物を封じ、人々を助けるため。より多くの者が結界を使い、その生を永らえるために。……しかし、その過程に、恐ろしいモノが出来上がってしまった。……この手紙を読んでいるということは、きっと貴方もそれがどういったものなのか、知っていることだろう』。  『年月が経ち、我々は新たな技術を手に入れる。―――異端とも言える、キメラを作る技術。我々の中にはその力を使い、より強く、より扱いやすい魔物を使役し、魔王軍と戦おうとする派閥が現れた。……当然ながら、それはあまりに無謀なことで。彼らは数多くの魔物を生み出した後に、その魔物によって滅ぼされていった。ただ一匹の魔物を除いて』。  『……一番の最悪の災害。幾度も蘇る巨大な魔物【不死鳥】。我々の家紋でもあり、宿命でもある存在だ。その存在を維持するため、特殊な魔力の元で今も生きながらえていることだろう―――』。  執筆者、【ルネ・ガイキャックス】。彼が託した最後の願いは、彼ら一族が最後に残した負の遺産である『不死鳥の討伐』だった。 「不死鳥……。作られた魔物、ふむん」  そして、全てを読み終えた【メメ・メメル】は手紙と交互に来客の姿を見比べる。  中肉中背、ヒューマンであれば見た目は20後半。  所々にひびが入り、左腕が欠けていることを除けば何処にでもいるような特徴のないカルマだ。 「……もうよろしいですか? この子を送り届けましたので、ワタシ、アナタへの要件はもう無いです」 「いやいや~、オレサマの用件がこれからだ」  数日前、メメルの精霊を届けに学園に訪問したカルマの男性。彼は【ブラッド】と名乗り、行方知れずであった精霊を手に、メメルの元に訪れていた。 「手紙とキミの話を聞く限り、キミはガイキャックス家に仕えていた執事。んで、この……『不死鳥』を倒そうとしている。ってコト?」 「はい。おおよそその通りです。それが主人が残した命令なので」  瞬きもせず、淡々と答えるブラッドに、流石のメメルも多少は狼狽える。  どう見ても強者にはほど遠い出で立ち。壊れかけた四肢は、直ぐに折れてしまうのではないかと思えるほど頼りない。 (さて、どうしたものか……) 「ご心配なく、そこまで弱くはないつもりです」 「……ん~、でも心配だな? その不死鳥ってのをオレサマ知らないわけだけど、少なくとも1人で行くのは無謀だと思うぞ☆」 「協力はお断りします。1人の方が効率も良いので」 「随分な自信家のようだな。しかし、1人で相手できるような相手とは思えないんだけど。……もしかして何か秘策あり? とか」 「……まぁ、はい。ですが、悪用されそうですので黙ります」 「えー? そんなこと絶対しないぞ?」 (うーむ、警戒心が強いな、そして頑固! ……正直、不死鳥を倒す前に倒れそうなんだけども)  頑ななその態度に、頭を悩ませる。学園としても無謀な人死は出したくはない。  それにもし失敗すれば、どのような被害がでるかも全く予想できない。  ……まぁそれ以前に現在その不死鳥とやらがどのような状態なのかも知らないわけなのだが。 「……どうしてもワタシを1人では行かせたくはないみたいですね。なら、同行してもいいですよ」  ブラッドは目を伏せ、息を吐く。 「ただし」 「ただし?」  ブラッドは古びた鞄から、本を一冊取り出す。  埃のこびりつき、タイトルすら書かれていない分厚い古書。  ……ただ、タイトルの代わりに刻印された文様が1つ。  ―――不死鳥と、茨の檻。それは正しく、ガイキャックス家の家紋。  それを、大事そうに胸に抱え、彼はメメルを見据える。 「ワタシより強いと、証明してください。それが条件です」
参加人数
3 / 8 名
公開 2022-02-18
完成 2022-03-08
【幸便】封じられた魔物とハレの土地 (EX)
根来言 GM
 エルメラルダのとある土地の話。  その場所は遥か昔、大樹海とまで呼ばれた場所であったらしい。  数多の植物で溢れ、土は潤い、泉は常に透き通り、数多くの動物がその恵みを享受していたらしい。  人々も、自然と同化するように木々の上や洞穴で豊かな生活をしていたらしい。  ……『らしい』というのは、それが今では架空の出来事のようなものとなってしまったから。  その地は毒々しい木々が生え、土は枯れ、雨水以外に飲み水は無く、汚染された動植物や魔物以外の生物が存在しない土地。生命は毒を含む果実や虫、あるいは魔物。常人ならば食料だとはとても思えない物ばかり。  ただ、珍奇なことにそのような土地でも、生活する人々は存在したという話もあったそうだが、それもまた『らしい』に過ぎない。  姿は巨大な鳥。  10m以上もある巨大な翼。  炎のように輝く羽とその身体。  人々はその鳥を『神の使い』とし、畏怖し、そして信仰し。  人々はその鳥を『不死鳥』とし、恐怖し、そして討伐していた。  幾度も蘇り、幾度も倒され、そして再び蘇る。  最後に倒されたのは確か……そう、10年前。 〇  かつて程の強大な魔力はまだ蓄えられておらず、復活したばかりといったところか。  倒すならば、今が絶好の機会と言えよう。しかし。 (この距離でワタシの魔力を……。無意識なのでしょうがなかなかきつい)  【ブラッド】は同行する生徒達と共に、不死鳥の行方を探っていた。  魔物が集まる土地、人々が寄り付かない、あるいは殆ど居ないような場所。  あるいは先代達の残した手記や地図、封印の書物を残した場所。  ……手がかりを元にたどり着いた場所が、この地であった。 「……撤退する前に、少しでも手がかりが欲しいところではありますが」 「早く帰ろ!? このままじゃ死んじゃうよぉ!?」  生徒は、かなり大袈裟に(本人にとっては大真面目なのだろうが)泣き喚く。名前は【アデル・ミドラ】と言ったか。  よわ……いや、慎重そうな雰囲気がある。学園側はブラッドの生存最優先でこのような生徒を送りつけたのだろう。数分でも目を離せばすぐに死んでしまうのではと思わせるほどに頼りない。 (危険な行動は慎めというメッセージなのでしょう。死なれては学園側とこぎつけた協力関係を壊してしまう) 「……今回はここからの観察のみにしましょう」  もう少し近づいて見てみたかったのだが、と。その姿を目に焼き付けようと観察を再開する。 「……あれは」  不死鳥の身体に違和感を感じ、身を乗り出して凝視した。  違和感の正体は、輝く身体に不釣り合いな、色。  本来の柄や色とは異なり、左右対称でもなければ、均一の大きさでもない。  蛍光色の点が幾つか散らばっているのだ。 「なんでしょうあれ。アナタは分かりますか?」 「んー……蛍光塗料っぽいかなぁ? 悪戯で何回かつけられたことがあるけど―――って、言ってる場合じゃないっ! 魔物が来てる、早く逃げよ!」 「……成程」 (バカ息子様はタダで死んだわけでは無かったワケですね。……これは良い収穫です) 〇 「勿論キミはその不死鳥に挑むんだろ?」 「その通り、【メメ・メメル】。必ず連絡をしろという命令をされましたので、これでよろしいのでしょう? 生徒もワタシも無事帰還です」 「命令なんて、オレサマはお願いしただけだぞ♪ ブラッドたんは何をするか分からないからな! ま、無茶しなかったようでよかったよ」 「……アナタから信頼を勝ち取ることは難しそうですね」  不死鳥の住処は、巨大なクレーター状の土地。  その中心で蔦のような物に身を包む不死鳥。その周囲には魔物が溢れかえっている。  1体1体はそう強くはなく、生徒達ならば撃破はそう難しくない相手だろう。 「一番厄介なのはやはり、不死鳥の存在自体。魔力を枯らすんだっけ?」 「不死鳥を討伐するにしろ、封印するにしろ攻撃を与える必要があります。しかし大抵の傷は一瞬で治ってしまう。……ですが」  僅かに頬を緩ませ、ブラッドは続ける。 「以前挑んだ者が着けたと思われる、傷の痕を確認しました。喉元、羽の付け根に幾つか。いずれも不死鳥の弱点かと。そこを狙い撃ちできればかなりの効果があるかと」 「以前……? あぁ、もしかしてレオナルドたん? キミ達と折り合いが悪そうな事を聞いていたけど、なんだかんだ言いつつ、キミ達の為、人々の為に戦ったって感じだな!」 「……。そういえば、そちらにお世話になっていたようで」  第2のメメ・メメル、あるいは最強の魔法使いを自称していた【レオナルド・ガイギャックス】。  その最後は人々の敵である不死鳥と相打ちとなったということなのだろう。非常に勇者らしいものだったのかもしれない。 「優秀だったぞ。実力はオレサマに遠く及ばないがな」 「かの魔法使いにお褒め頂けるとは。バカ息子様も誉でしょう」 (功績はそこそこのものだったのでしょう。少なくとも10年は魔物を無力化できたわけですから。彼が亡くなったことでもう封印に使える血液はワタシが所有しているものだけになってしまったわけですが)  封印の結界を張るために必要なものは3つ。  1つ目は戦力。倒す、封印するにせよ不可欠だろう。  2つ目は封術。封印の術式を使用するための知識、魔力、が必要だ。  3つ目は血液。術を使用する為の触媒として、無くてはならない物である。  1つ目に関しては、学園側との協力を結び、補う手筈になっている。  2つ目と3つ目に関してはブラッドが補うことができる。  ……逆に言えば、ブラッドにしかできないということなのだが。  協力の見返りはブラッドより学園側への知識の提供。これには封術の扱い方、結界や魔物の使役が含まれている。  血液に関しても、いずれは他の血統でも同じような魔術を行使することができるようになるだろう。……何十年も先になるだろうが。 「大事な魔法貰ってもいいの? あ、オレサマもしかしてかなり信頼されちゃったカンジ?」 「いいえ、アナタは全く。ですがアナタの育てた学園というものは信頼に値しますから」 「それもそうか。んじゃ、作戦決行まで、屋敷の構造、魔物とかの情報。後は罠とかもあれば。暫くは学園で準備をするんだろ?」 「そうですね。遺書代わりとして書き綴っておきましょうか。魔物が徘徊していますから気を付けて」  顔色を変えずに淡々と話すブラッドに、メメルは頬を膨らます。 「もー、遺書なんて! ブラッドたんは悲観的すぎだぞ? 死ぬこと前提で準備し始めてさ! もっと夢のあることを語ってくれてもいいんだぜ?」 「アナタは楽観的です。カルマに夢を語れと?」 「誰であろうと何であろうと、だ。暗い話ばっかじゃ士気がさがっちまうぜ☆」 「……飽きました?」 「そうかもしれん! ま、士気が下がるのは本当だぞ? 色々ブラッドたんの事聞けたなら、守りたいな~みたいな感じでやる気がでるかもしれないし!」 「……ワタシはおしゃべりを目的として作られたわけではないのですが」  メメルの飄々とした様子に感化されてか、変なことをブラッドは考える。  偶にはバカらしく、目的のないお喋りをしてみても、なんて。らしくないことを考えてもみる。 (バカ息子様であれば、喜んでこの誘いを受けたのでしょう。……あの方の感情はよくわかりませんでしたけど、今なら理解できるのでしょうか?)  単なる戯れとはわかっている筈。けれど。  ブラッドは少しだけ、羽目を外してみることとした。 「それでは、旦那様が好んでいた、特製ハーブティーのお話でも」
参加人数
6 / 8 名
公開 2022-05-16
完成 2022-06-08

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サンプル


 ……ほんっとーにバカだ。
 神を殺す、なんて言ってのけるその無謀さも。
 そして、そんなのに手を貸すなんて言ってしまったアタシも。

 こんなに近くでヤツの姿を見たのは初めてだった。巨大な鳥、巨大な翼に禍々しい炎。
 自分の10倍以上でかい。正直、震えが止まらない。
 対するは小さな、小さなルネサンスとヒューマンが6人。
 シーフが5人と、魔法使いが1人。
 しかもシーフの装備はナイフが1本ずつ、後は木製の弓と矢が数本、植物を編んだロープだけ。
 バランスも壊滅的、時間も限られていて、対策なんてまったく思いつかない。
 ―――それでも殺す。死ぬか、殺すか。それ以外の選択肢はない、だから殺るだけだ。
 今までもそうだったように。……慣れていた感覚だった筈なのに。
 ―――ぱんっ。気合を入れて、頬を思いっきり叩く。アタシは、アタシの仕事に集中しろ。
 鳥を視界に収め、息を止め。瞬きをしている時間すらも惜しい。今でさえも魔力が取られすぎている。早く仕留めないと、その前に死んでしまう。
 見て、観て、診て視てミテミテミテ。ーーーそして、呼吸と一緒に叫ぶ。
「レザー! シルク! 先ずは首、右羽付け根。肋骨2本目境。左こめかみ、上方から背中方向!」
 レザーが塗料のついた弓を引き、打ち抜く。
 シルクが背の高い木をしならせ、飛び上がりそのままナイフで切りつける。
「左足付け根、仙骨部左。左翼小翼羽。ーーー」
 2人が印をつけ、その間他の仲間が印の場所に攻撃を行う。
 アートピケはロープを引き、鳥の身体へ乗り上げ。
 クロッケは薬を使い、他の仲間のサポートに回る。
 時折鳥が炎の塊を吐き出し、身体をよじり反撃をする。けれど、それがアタシ達の元に届くことはなかった。
 彼……、レオナルドが手を振るう度に炎は掻き消え、仲間を守る壁のようなものが現れる。
 魔法っていうのはよくわからないけど、かなり精度は高いし、今まで見てきた魔法使いの中では詠唱もかなり早い。っていえば、調子にのるから黙るけど。
「なんだぁ? よえーな、不死鳥様も。なーにが神だよ神、ボク様が出る幕もないんじゃないか?」
「……なら、1人で行けばよかったじゃない」
「急に里の守り神が死にましたーじゃ、よそ者のボク様にヘイトが向くでしょーが。満身創痍のボク様を寄ってたかって殺しにくるんでしょキミたち。正直、暗殺者100人も相手に出来る程の体力、残せる気がしねーのよ流石のボク様にも」
「アタシらを共犯者にしようなんて、ホント意地悪だよね。自分たちの神を殺せなんてイカれてる」
「とは言いつつ、乗ってくれたってことは多少なりとも疑問なり、殺意なり持ってたんだろ? 何もしてくれない、ゴクツブシの神様に」
「……」
「外から来たボク様だから言えることか。キミ達が口に出せば、殺されるだろうしね」
 ヘラヘラしているレオナルドに多少の怒りを覚えども、口を噤む。
 減らず口叩く、いけ好かない態度の男だが。彼は本当の事しか言わないから。