ツヴァイ・リデルの1日!

アクションプラン

スポット7 初夢で出会うあの人

穏やかな日差しの中に、白い机と椅子がある
机の上にはいい香りのする紅茶やお菓子が どれも僕の好きなもの
僕の目の前には「僕」がいる 髪の色と目の色は違うけど
今はもういないオリジナルがいる
うわぁ、なんだこれ 死人に会う夢って縁起悪いなぁ
同じ顔の彼が微笑んだ リデル、元気?って
それはお前の名前だろ
僕は「ツヴァイ」だよオリジナル
残念でしたクソ野郎、悪態をついても微笑んでる彼に思わずため息

ねぇこれ食べていいの? まさかと思うけど食べたら夢の住人にならないよね
「疑り深いのは僕と似ないんだね、食べても大丈夫だよ」
当たり前でしょ 僕はきみじゃないしきみは僕じゃない
置いてあるいちごのケーキを一口食べて おいしいのが腹立つ!
で、わざわざ夢にまで様子を見に来たの?
「まさか きみが僕の夢を見てるんだよ」
冗談じゃない また悪態をつく
「行儀が悪いよ」
…わざとだよ あっさり死んでいったお前なんか嫌いだ

リザルトノベル

 僕の話をしようか。
 ある青年によって造られ、そして使命を背負わされたカルマの話。
 ――まぁ、僕自身もあんまり興味ないんだけどね。

 あはは、冗談冗談。
 でもお兄さんに興味があるなら『オリジナル』のことを知っていてもいいかもしれないね。
 退屈かもしれないけど、聞いていってくれるかな。

 んーそうだね……オリジナルって言うぐらいだから、もちろん僕に似た人がいてさ。
 先に言っちゃうと僕をカルマとして造った張本人なんだけど、『救済を騙る災いを振り払え』とか『自分のかわりに、この先生まれてくる子らを守ってほしい』とか、すっごく願いにも似た使命を背負わせてきたワケ。
 なんか僕を自分の代わりみたいに扱ってるようで、なんとなーく気にくわないんだよね。
 使命は使命だからさ、もちろん果たそうとは思ってるよ? ただ、『あいつ』としてではなく『僕』として、ね。

 おっと、新年の夜にまでこんな話に付き合わせてごめんね。
 お兄さんはもう寝ようか……ん、みんなで新年のパーティー? あんまり興味ないかなー、どこかのカミサマを祝おうとも思わないしね。
 僕の話は、また今度会ったときにでも色々聞かせてあげるよ。

 それじゃあ、良い一年になりますように。


 これからきみが覗く話は、きみの人生に何の影響も与えないかもしれない。
 それでもきみには聞いていって欲しいって、もし僕にこの夢の記憶があったなら、迷わずそう言っていたと思うよ。


 なんとなく頭が痛い気がする。
 パーティーに誘われたのを断ったところまでは覚えていて……なんだろう、疲れて眠ってた?
 もう朝なのかな、窓から差し込む日差しが気持ちよくて、表現するなら『冬にしては穏やかな暖かさがある』って感じだね。
 学園の授業も無い年始だし、もう一眠りしたくなるぐらい文句なしの環境なんだけど……どうしても気になることを挙げるとするなら、ここは僕の部屋じゃ無いってとこ。
 目の前にある白い机と椅子は僕の趣味じゃないし、上に乗っているいちごのケーキも……いや、これは大好き。
 その隣で果実酒のようないい香りを漂わせているのは、カシスとブルーベリーのフレーバーティーかな?
 まだ湯気が立っているし、誰かが淹れてからそんなに時間も経っていないみたい。
 状況は明らかに異常……なんだけど、不思議と怖く無いものなんだね。
「やぁリデル、元気?」
 でもまぁ、こうやってお兄さんと似た声で突然話しかけられたりすると、さすがに驚くかな……って、え?
 聞き慣れた声……だけど、僕の声じゃないことはすぐに分かった。
 顔を上げたら、今までいなかったはずの『僕』がそこにいたんだ。
 髪の色も目の色も違うけど、紛れも無い僕――そう、今はいないはずの『オリジナル』が、そこにいた。
「うわぁ、なんだこれ」
 って、思わず声に出してしまったのは内緒だけど、この違和感は『夢』なんだって、やっと確信したね。
 それにしても、新年早々死人に会う夢って……。
 ――縁起悪すぎるでしょ。

「どうしたのリデル? そんな顔して」
 確実に引きつった笑みを浮かべているだろうね、わざわざ聞いてくるってことは嫌味かな?
「それはお前の名前だろ。僕は『ツヴァイ』だよ、リデル」
 残念でしたクソ野郎、って悪態をついてもオリジナルは微笑むだけで、逆に拍子抜け。
 ため息しか出ないけど、確かにあいつを目の前にしたところで言いたいことも特に無いし、これはこれで普通なのかもね。
 わざわざ構ってやることもないし、机の上には大好きないちごのケーキが置いてあるんだから、興味はそっちに向けることにするよ。
「ねぇ、これ食べていいの? まさかとは思うけど、食べたら夢の住人にならないよね?」
 そう聞いたらオリジナルが少し楽しそうに笑ってさ、その赤色をした目で僕を見つめながら答えたんだ。
「疑り深いのは僕と似ないんだね、食べても大丈夫だよ」
 やっぱり何か気にくわないよね。
 具体的に言えって言われたら表現するのは難しいけど、なんとなーく嫌だなって思う。
「当たり前でしょ。僕はお前じゃないし、お前は僕じゃない」
 そう、僕は僕で、オリジナルとは違う。
 使命を与えられ、あいつの『代替品』として造られたカルマだとしても……ね。
「うんうん、リデルの言う通りかもね。それで、ケーキのお味はどう?」
「だから僕は『ツヴァイ』だって……うん、これは美味しい」
 何度言ったって分かって貰えないだろうからもういいんだけどさ、ケーキが美味しいのだけは、ほんっとうに腹が立つ!
 フレーバーティーは少し冷めてしまったけどそれでも香りがよくてさ、あいつもこの味が好きなのかなーって考えると、さすがに感覚ぐらいは似てるのかもって思っちゃうよね。
 やっぱり気にくわないけど。
「それで、わざわざ夢まで僕の様子を見に来たの?」
 皮肉交じりに聞いてみた。
「まさか。きみが僕の夢を見てるんだよ」
 あはは、冗談じゃない。
 最後まで冷静でありたかったけど、思ったより難しいみたい。
「会いたいか会いたくないかって聞かれたら、僕の答えは後者だと思うよ?」
「そっか、なんか寂しいこと言ってくれるね。せっかく僕が造った――『僕』なのにさ」
「違うって言ってるだろ!」
 何でだろうね、思いっきり机を叩いてしまった。
 頭では分かっていても止められない怒りみたいなものが押し寄せて来て、どうにもならなかったんだと思うな。
「行儀が悪いよ、リデル」
 またその呼び方。
 でも今の僕にはそれすらも清涼剤になってしまって、あいつだけずっとペースを崩していないのも分かってて。
 自分に負けてしまった僕は『……わざとだよ』って、その場の空気を濁すのが精一杯だったんだ。
 それでも言いたいことは言っておかないとね、後味悪いのは嫌だし。
「僕はお前とは違う。遺された『あの子たち』がどんな思いで生きているかも考えられなかったお前と、そう簡単に一緒にされてたまるか」
 あえて言い切ってやろう。
「あっさり死んでいったお前なんか――」
 ――嫌いだ。
 
 意外とあいつは、僕の言葉をすんなりと受け入れてくれた。
 僕の方はというと、黙々とケーキを食べることでその場を乗り切ろうとしていたというか……正直な話、これ以上感情に飲まれるのが嫌だったんだと思う。
 それでもあいつは、僕へ向けて話すことをやめない。
「確かに僕は何も考えてあげられなかったのかもしれないね。ただ、僕は僕の生き方を間違っていたとは思わないよ」
 ――安易すぎる自己犠牲、そんなものの何が正義だ。
「リデル、きみはきみの仲間が絶体絶命の窮地に立たされたとき、どういう行動をとるかな?」
 今は分からない……けど、僕が死んで悲しむ人がいることぐらい、簡単に分かる。
「きみが今何を思っているかは分からないよ。でも、きみもきっと僕と同じように――」
「言っておくけど、僕は自分を犠牲にするつもりなんてない」
 それだけは、絶対に譲らないって心に決めているからね。
「リデル、きみは優しすぎる。その優しさが敵になる日が、必ず訪れる」
 それも分かってるよ。
 何かを守るためには、何かを捨てる勇気も同時に持ち合わせていなければいけないことぐらい、とっくの昔に分かってる。
「僕がきみに与えた使命と、託した願いは……覚えているよね?」
 当たり前だ。
 『救済を騙る災いを振り払え』そして『自分のかわりに、この先生まれてくる子らを守ってほしい』の二つ。
 僕の存在理由でもあり、それでいて僕を縛るものでもある。
 逃れられない鎖のような……それこそカルマだね。
「覚えているなら、分かるはずだよ。僕が何を言いたいかってことぐらいさ」
「分かる、分かるよ。お前の言う災厄が何かは分からないけど、お前が言いたいことは分かる」
 僕だって何も考えずに生きて来たわけじゃないからね。
「使命は果たす。お前の言う『災厄』とやらと戦うし、あの子たちも守る。でも僕は絶対に、自分を犠牲になんてしない」
「……っ!」
 言い切った後に、一瞬空気が凪いだ気がした。
 今日初めて、お前の呆気にとられた顔を見たよ。
「お前みたいに、他人の悲しみを考えない『自己犠牲』だなんて」
 どうだ、これが『ツヴァイ』だよ、オリジナル。
「絶対に、やってやるものか」
 ――ははっ、ざまぁみろ。

「まったく……きみってやつは本当に……」
 ごめんね、やっぱり僕は僕でしか生きられないんだ。
「わかったよ、僕はきみをみくびっていたみたいだね」
「僕は僕のやり方で、お前が出来なかったことをやり遂げてみせるよ。険しい道のりかもしれないけどね」
 自然な笑顔を作れたのは、オリジナルと出会ってからでは初めてかな。
「うん。少しぐらい『僕が造った僕』を信じてあげようかなって思えたよ」
 あはは、やっぱり最後まで気に食わないね。
 そっちがその気なら、こっちだって。
「そうだねー。そしたらこの先、何があっても全部きみの責任。だって……お兄さんを造ったのは『きみ』なんでしょ?」
 『あははは……! それは無理があるね!』と、オリジナルが本当に嬉しそうに笑う。
「うん、責任……ね。じゃあせめてきみのこれからを、僕もどこかで見守ってるよ」
 別に見守らなくてもいいんだけど……まぁ、分かってくれているなら悪い気はしないね。
「じゃあ、がんばってね――」

 ――ツヴァイ。


 きみが覗いた話は、きみの人生に何の影響も与えないかもしれない。
 それでも、お兄さんはきみに僕の話を知ってもらうことができてよかったって、そう思うよ。


 なんとなく頭が痛い気がする。
 パーティーに誘われたのを断ったところまでは覚えていて……なんだろう、疲れて眠ってた?
「んー、なんか不思議な夢を見たような……初夢覚えてないなんてショックだなぁ……」
 もう朝なのかな、窓から差し込む日差しが気持ちよくて、表現するなら『冬にしては穏やかな暖かさがある』って感じだね。
 学園の授業も無い年始だし、もう一眠りしたくなるぐらい文句なしの環境なんだけど……せっかくの休みを寝て過ごすなんてもったいない!
「はー、気を取り直してご飯だ! あまい玉子焼き、まだ残ってるかなぁ?」
 作り置きしておいたはずのあまい玉子焼きを探して調理場へ! ふわふわの玉子がおいしいんだよねー♪
「あれ、なんだこれ?」
 いちごのケーキ……パーティーで余ったものを誰かが持ってきてくれたのかな?
「僕の部屋にあるってことは僕のものだよね、ラッキー! いただきまーす!」

 大好きないちごのケーキのはずなのに。
 確かに甘くて美味しいはずなのに。

 ――なんとなく、気にくわない味がした。

ツヴァイ・リデルの1日!
執筆:じょーしゃ GM




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