;
雷鳴と烏鴉


ストーリー Story

「俺たち不死身の『雷鳴と烏鴉(サンダークロウズ)』!!」
 大中小。
 それぞれ気合の入ったパンクロッカー風の恰好をした男が三人、学園の受付に陣取っていた。その光景に少し圧倒されたのか、受付嬢は眉の端をひくひくさせながら続けた。
「は、はあ……サンダークロウズさんですね。本日はどういったご用件でしょうか」
「依頼だァ!」
 三人の中で一番身長が高い男が言う。
「それもとびっきりイカしてる、クレイジーなやつだ!」
 三人の中で二番目に高い身長の男が言う。
「ヒャッハー!!」
 三人の中で一番背の低い男が、両手を胸の前で交差しながらシャウトした。
「そ、そうでしたか……では依頼内容をお聞かせいただけますか?」
「俺たちがいつも世話ンなってる姐さんがいるんだがよ」
「ちなみにその人はここの生徒なんだ」
「……えっと、では今回はその方へのお礼参り、という事でよろしかったでしょうか?」
「ば!? ち、ちっげえよ! 世話になったってそういう意味じゃねえ!」
「色々と俺たちの助けをしてくれたってことだ!」
「ちなみにその人の名前は【雷鳴】と書いてカミナリ・メイだ!」
「カミナリメイ……カミナリメイ……もしかして『武神・無双コース』のメイさんの事で……」
 受付嬢はその生徒の名前を出すと、黙り込んでしまった。
「……あの、ほんとうにメイさんがあなた方と知り合いなんですか?」
「どういう意味だ」
「い、いえ……なんというか、メイさんは優等生で品行方正で、あと箱入り娘のような感じで……とてもあなた方のようなガラの悪い方とお付き合いがあるようには見えないのですが……」
 受付嬢がそう指摘すると、男三人は胸を押さえ、苦しそうに呻き出した。
「ぐぬおッ!? こ、こいつ……めちゃくちゃ言うじゃねえか……!」
「俺たちの心をえぐりに来るとは……この女、大した野郎だぜ……!」
「だがしかし、俺たちももう改心したんだ。この格好は単なる趣味だぜ!」
「……ちなみに普段はイチゴ農家なんかをやってます」
 三人はそう言うと懐から名刺を取り出し、受付嬢に丁寧に手渡した。
「あ、これはご丁寧にどうも……」
 受付嬢は名刺を受け取ると、手元に三枚きっちり並べて置いた。名刺にはそれぞれ【コルニクス・カラス】【ヴァローナ・カラス】【レイヴン・カラス】と書かれていた。
「……ところで、質問なのですが、あなた方とメイさんとのご関係は……?」
「それはメイ姐さんの名誉のために言うことは出来ねえ!」
「姐さんが地元のワルをまとめ上げてた総長で、俺たちはその舎弟だなんて言えるわけがねえ!」
「素手喧嘩で無敗伝説を打ち立てたなんて決してな!」
「あの……全部言ってますけど」
「はッ!?」
「い、今言ったことは聞かなかったことにしてくれ!」
「でないと俺たち……あわわわわ! た、頼む! この通りだ!」
 三人はそう言って、何度も机に頭を打ち付けた。
「わかりました! 言いませんから! ……ですから、受付カウンターを血で染めるのはやめてください……!」
 受付嬢がそう懇願すると、三人はガバッと顔を上げた。
「さあ、話を戻すぜ!」
「き、切り替えが早い……」
「メイ姐さんの事についてだが」
「俺たちはまだメイ姐さんに恩を返せてねえんだ!」
「そこで何かできることがないか俺たちなりに必死に考えてみたんだが……」
「これがさっぱり思い浮かばねえんだ!」
「そこで知恵を貸してもらおうとここまで来たわけだ!」
「ここには色んなやつらが集まる」
「だから、色々な意見を聞けるんじゃねえかって思ったわけだな!」
「要するに、メイさんに何をプレゼントしたらいいか……を聞きに来たわけですね?」
「そういう事だ!」
 三人が元気よくそう言うと、受付嬢はため息をつき、わかりやすく頭を抱えてみせた。
「……ひとこと、よろしいですか?」
「おう」
「さっそく何か思いついたか!?」

「――ご自分たちで考えてください!!」

 受付嬢がバン、とカウンターを叩く。
「あなた方は腐ってもメイさんの舎弟なワケですよね? なら、あなた方が一番メイさんに詳しいはずでしょう?」
「そ、それは……」
「そうだけど……」
「それに、こういった贈り物は他人の意見を取り入れるより自分で選ぶべきです。他人が選んだものに心は籠りません。自分たちで悩み、選んだものに心が籠るのです。たとえば私がブランド物の香水を送ってくださいと言って、あなた方が実際に買ってメイさんに贈ったとしましょう。それで、メイさんになぜこの香水を選んだのか、と問われたらあなた方はどう答えるつもりですか? 私の言う通りにした……とでも答えるつもりですか? そんな喜ばせるだけの目的でモノを貰ってうれしいはずがないでしょう?」
「た、たしかに……!」
「あんたの言う通りかもしれないんだぜ……!」
「でも、姐さんが何を贈られて喜ぶかなんて……」
「では……たとえば、メイさんの好きなものってなんですか?」
「姐さんの好きなもの……」
「拳と血と暴力と殺戮と……」
「あとは強者か……」
「……あの、しつこいようですけど、本当に私の知ってるメイさんと同一人物なんでしょうか?」
「雷鳴なんて滅多に聞く名前じゃないだろ」
「ですよね……」
 受付嬢が項垂れるようにして答える。
「……ともかく、他にもっと情報はないですか? 別に強者との戦いとかもいいですけど、もっとこう……なんというか、物! 物でいきましょうよ、物で!」
 受付嬢は半ば投げやりな感じで話を続けた。
「物か……」
「武器とかどうよ?」
「いや、姐さんのスタイルは裸拳での殴り合いだ。余計な武装をすると狙いが狂うと言っていた」
「じゃあ武器の類は一切ナシだな……」
「いや、あの、私が言っているのは指輪やネックレスとか小物系なんですけど……」
「余計にダメだな」
「指輪は殴る時に邪魔になるし、ネックレスはフットワークで攪乱する時に揺れてうざったいと言っていた」
「じ、じゃあ服! 服でいきましょう! メイさんと言えば清楚な……」
「服……そうだよ、特攻服があるじゃねえか!」
「おお! そういえば、常に着てたな赤い特攻服!」
「赤は返り血が目立たなくていいって言ってたしな!」
「ど、どんな理由ですか……でも、いいのかな?」
「よし、贈るものは決まったな!」
「それと布よりも本革のほうがいいよな! 丈夫だし」
「あとはどう調達するかだけど……」
 三人はそこまで言うと、揃って受付嬢の顔を見た。
「……わかりました。革の調達でしたらお任せください。衣類の革であればアーラブルなんかがオススメかと」
「そこらへんは任せるぜ!」
「とりあえず、皮を用意しておいてくれ!」
「わかりました。では、そのように手配しておきます。……気持ち、伝わるといいですね」
 受付嬢はこそっと悪戯ぽく、三人に言ってみるが――。
「ん? ああ、そうだな」
 と、三人からそっけない返事が返ってきた。
「……あれ? 今回の贈り物って告白的なアレじゃないんですか?」
「告白ぅ?」
 受付嬢の言葉を聞いた三人は目を丸くすると、その場で大笑いしだした。
「な、なんですか? 私、なにか変な事言いましたか?」
「ムリムリムリ」
「たしかに姐さん、顔はいいけど」
「付き合ったりしたら殺されちま――」
 ――ビュウ、と突然風が吹き荒れる。受付嬢はたまらず目を閉じてやり過ごすが、目を開けた時にはすでに三人の姿はなかった。
 得も言われぬ緊張感の中、受付嬢は額に滲んだ汗を拭うと片手を上げた。
「つ、次、お待ちの方……」


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2019-12-26

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2020-01-05

登場人物 4/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《勇往邁進》オリヴァー・アンダーソン
 ローレライ Lv14 / 武神・無双 Rank 1
「あいつを殺す、邪魔はするな」 出身:北国の有力貴族の生まれ 身長:186㎝ 体重:80前後 好きな物:戦争、酒、チェス 苦手な物:__ 殺意:弟→無し 補足:大きな期待を受けた男は一人の男によってあっさり見棄てられた。 傲慢な男は氷のような外道だった。 補足②:斬れば早いと思ってる脳筋であり、 冷酷かと思いきや実はツンデレで心配性なところがある、ガッカリしてくれ。 補足③:彼は思う以上に不器用な男であり、 褒められたがりな所がある。
《新入生》フランシーヌ・シシルシル
 カルマ Lv6 / 黒幕・暗躍 Rank 1
フランシーヌ・シシルシルと申します。 どうぞ、お見知りおきをお願い致します。 さて、自己紹介、で、ございますか。 わたくしが、わたくしを、紹介する……なるほど、励ませて頂きます。 フランシーヌ、というのは産みの親から頂いた有難い名前、シシルシルは偶さか拾った得難い名前。 年齢は、わたくしにもよく分かりません。見ての通り性別は女でございます。 座右の銘は「同じ日は二度とは来ない」 趣味は絵日記をつけること。 特技は暗殺と節約。 夢は、自分よりも大事だと心から思える誰かのためにこの命を捨てること。 好きなものは紅茶と紅茶に合うお菓子。 嫌いなものはございません。 経歴は……右手を御覧くださいませ。 果たして、上手くできておりますでしょうか? フランシーヌ・シシルシルでした。
《這い寄る混沌》ニムファー・ノワール
 アークライト Lv20 / 王様・貴族 Rank 1
ニムファー・ノワール17歳です!(ぉぃぉぃ ニムファーは読みにくいかも知れないので「ニミィ」と呼んでくださいね。 天涯孤独です。何故か命を狙われ続けてます。 仲間やら友人はいましたが、自分への刺客の為に全て失ってしまいました。 生きることに疲れていた私が、ふと目に入った学園の入学案内の「王様・貴族コース」を見て考えを改めました。 「自分が命を狙われるこんな世界、変えて見せますわ!」 と思っていた時期が私にもありました(遠い目 今ではすっかり学園性活に馴染んでしまいました。 フレンドになった方は年齢にかかわらず呼び捨てタメ口になっちゃうけど勘弁してね、もちろん私のことも呼び捨てタメ口でも問題ないわよ。 逃亡生活が長かった為、ファッションセンスは皆無な残念女子。 な、なによこの一文。失礼しちゃうわ!

解説 Explan

 ・牛革で出来た特攻服を制作するためにアーラブルを倒しましょう。
 ・皮さえ納品していただければ、あとは自由にしてくださって構いません。
 ・今回の依頼期間中、アーラブルが大量発生していたり、町中に出現したわけではありませんので、アーラブルが得意とする平原フィールドでの戦いとなります。
 ・下記にアーラブルの情報を記載しています。是非、討伐の際の参考にしてください。
【生態】
 獣人族の特性を真似て作られた魔物。
 頭に血が上り興奮した状態(通称「荒モード」)になると、肉体が肥大化し一時的に能力が向上する。
【本能】
 獰猛で凶暴且つ好戦的。
 赤いものを見ると反射的に突撃する。
 知能は高くない。
【属性得意/苦手】
 無/無
【戦闘スタイル】
 頭部に生えた鋭く太い角で突き刺したり、硬い爪の生えた手足で殴る蹴るなどしたりする。
【状態異常】
 萎縮


作者コメント Comment
 今回の依頼人は受付嬢と話している最中、突然姿を消すような無礼者集団ですが、本当は世話になった雷鳴に恩返しをするような義理堅い小物たちなので許してあげてください。さて、今年ももう残すところぼっちにとって最悪のイベントのみとなってきてしまいました。ワクワクしますね。


個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:60 = 60全体 + 0個別
獲得報酬:1500 = 1500全体 + 0個別
獲得友情:1
獲得努力:1
獲得希望:1

獲得単位:0
獲得称号:---

オリヴァー・アンダーソン 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
仲間の奇襲を合図に自身も【剣突き】を行い、
以降【剣突き】【二連斬り】を交互に敵の視覚、側面から攻撃を行う。
余裕が出て来た、もしくはチョウザに集中している時を狙い、
角、爪を中心に【部位破壊】を狙う

萎縮の異常対策に【勇猛果敢】を発動

チョウザ、他の仲間が危険な目にあった場合、前に出て庇うことが出来れば行いたい。
戦闘後は怪我人を軽く応急処置を施す。

フランシーヌ・シシルシル 個人成績:

獲得経験:60 = 60全体 + 0個別
獲得報酬:1500 = 1500全体 + 0個別
獲得友情:1
獲得努力:1
獲得希望:1

獲得単位:0
獲得称号:---

ニムファー・ノワール 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
攻撃力の高そうな魔物ね。
やはり防御からいくのがよさそうね。
まずは【ブライト・レシール】発動ね。
そのあとはフランシーヌさんの奇襲を悟られないように大技っぽっく攻撃していくわ。
当たればなお良しね。
その後は、突撃を封じる為に足元を狙っての攻撃かしら。
動きが鈍ったら、【覚醒】して一気に畳み込みたいわね。


倒し終わったら、私も牛革もらっておしゃれな革ジャンでも作ってみようかしら。


リザルト Result

 ――ドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!
 うっすらと霜の降りている平原で、【チョウザ・コナミ】がマゼンタ色の髪と手足を揺らしながら、『土煙』から逃げていた。
「ブモォォォォォオオオオオオオ!!」
 土煙の正体はアーラブル。
 アーラブルは平原全域に響くほどの雄叫びを上げながら、チョウザを血眼になりながら追い回していた。チョウザはこの中では体力のある方ではあったが、その脚力はわずかにアーラブルが上回っており、じりじりと距離を詰められている。
「今です! ザコちゃん!」
 そこへ突然、どこからともなく【ニムファー・ノワール】の声が響く。
 チョウザはニムファーの声を聞き届けると、地面を掴むように手をついて勢いを殺し、なんとかしてその場に留まった。当然アーラブルに立ち止まる気配はなく、その勢いのままチョウザに突っ込んむ。
「ブライト・レシール!」
 再びニムファーの声。それに呼応するように、チョウザの周りに魔力壁が展開される。
 ――ガァン!!
 鈍い衝突音。
 魔力壁とアーラブルの角が激しく衝突して、辺りに火花が散らばる。アーラブルはたまらずその場でたじろぐと、態勢を整え、ひと息つこうとした。
 しかしそこへ、気配を消していた【フランシーヌ・シシルシル】がアーラブルの前に飛び出した。
 一太刀、二太刀――。
 フランシーヌは自身が装備していた双剣『フギン・ムニン』で、アーラブルの体を素早く斬りつけた。
「ブモォォォォォオオオオオオオ!!」
 アーラブルによる怒りの雄叫び。
 フランシーヌがつけた傷はそれほど深くなかったが、その怒りの矛先を変える事は十分だった。フランシーヌはそれを確認すると、踵を返し、戦線からの離脱を試みた。
「モォォォォォオオオオオオオ!!」
 二度目の雄叫び。
 アーラブルはすぐさまフランシーヌの後を追いかけようとするが――。
「剣突き!!」
 アーラブルの意識の外。
 そこから伸びた一本の薙刀『月下美人』がアーラブルに突き刺さった。月下美人の持ち主である【オリヴァー・アンダーソン】は、素早く身を引き、腕を折りたたみながら即座に次の行動に入った。
「二連斬り!!」
 さきほどのフランシーヌの連撃よりも、さらに豪快な斬撃がアーラブルに叩き込まれる。
「俺が相手だ……! デカブツ!」
 今度はオリヴァーがアーラブルを挑発すると、すぐさまバックステップで距離をとった。
「ンモォォォォォオオオオオオオ!!」
 平原全域に響き渡るような雄叫びを上げるアーラブル。
 並々ならぬ威圧感を放つアーラブルと、同じく鋭い眼力を以てアーラブルを威圧するオリヴァー。
 まさに一触即発。
 アーラブルが呼吸を荒げ、体を震わせ、何度も地面を蹴り上げて突進の機会を窺っているの対し、オリヴァーは息をしているかわからないほどに落ち着き払っていた。
「ブモォォォォォオオオオオオオ!!」
 身が縮まるほどのアーラブルの雄叫びが鳴り響く。
 両者長い睨み合いの末、最初に仕掛けたのはアーラブルのほうだった。
 アーラブルはオリヴァーめがけ、ものすごい速度で突っ込んでいく。
 オリヴァーはその速度と軌道を確認すると、右足を軽く引いて、マタドールのようにアーラブルの突進を躱した。
 ――バシィィィン!
 突如、オリヴァーの影から伸びてきた六角棒がアーラブルの鼻を捉えた。
 そして、まさに出鼻を挫かれたばかりのアーラブルの眼前で、マゼンタ色の髪がユラユラと揺れる。
 ――フシュー……!!
 アーラブルはまるで蒸気機関車のような煙を鼻から噴き出すと、燃えるような赤い眼でチョウザに標的を絞った。
 挑発が十分だとみると、チョウザは再びアーラブルに背を向けて走り始めた。
「……行きましたか?」
 どこからかオリヴァーに声がかかる。オリヴァーはその声に対して、特に何か反応は返さず、仏頂面のまま腕組みをした。
「行・き・ま・し・た・か!?」
 オリヴァーの前に突然ニムファーが躍り出た。オリヴァーはちらりと視線だけを動かしてニムファーを一瞥すると、すぐにアーラブルのほうを見つめた。
「聞・こ・え・て・ま・す・か!?」
「……五月蠅い」
「なんで無視するんですか」
「ふん、おまえがくだらん質問をするからだ」
「くだらん質問ってなんですか!」
「見ればわかるだろう。アーラブルはここにはいない。……であるなら、もう行ったという事だ。ガキでもわかる」
「それでも返事をするか、せめて、頷いたりしてくれてもよかったんじゃないですか」
「……そもそも、そこまでコソコソする必要なんてあるのか? おまえも見ていただろ、アーラブルのあの興奮した姿を。今のあの牛の瞳に、チョウザ以外の姿は映っていない」
「万が一、狙いがわたくしにシフトチェンジして、作戦がぼろぼろになってしまうってことがあるじゃないですか。なにせわたくし、いま赤い階級章をつけてますし」
「脱げばいいだろう」
「ほんとに脱ぎますよ?」
 ややうんざりした様子でオリヴァーが言うと、ニムファーが食い気味にかぶせていった。
「……やめてくれ。なら、チョウザだけを囮役にするのではなく、おまえも一緒になって防御に徹していたほうが良かっただろう」
「いえいえ、こうしてアーラブルのターゲットを……というか怒りの矛先を分散させておかないと、いつ興奮値が高まって『荒モード』になるかわかりません。ですからここはまず、体力と気力、そして機動力を削ぐためにこれをあと何回か繰り返します。オリヴァーさんにも説明しましたし、確認もしましたよね」
「たしかに反対はしていないが、叩ける時に叩いておくのもまたひとつの手だ。それに『荒モード』になったとしても大した問題ではない。そのまま、まとめて潰せばいいだけだ」
「……む。随分簡単に言ってくれますね」
「ふん、こんなくだらん任務、本来は俺ひとりで十分なのだからな。おまえたちはせいぜい俺の足を引っ張らないよう、努めていればいいだけだ」
 オリヴァーがそう吐き捨てると、ニムファーは肩を落としてため息をついてみせた。
「……まあ、ともかくわたくしが言いたいのは、怪我は無いに越したことはない。という事なんです」
「それはそうだろう」
「あれ? てっきり否定されるかと思ったのですが……」
「何を言っている。おまえの言う通り、怪我は無いに越したことはない。全員が無事任務を終えてこその任務達成だ。当然だろう」
「そ、それはそうですけど……、わたくしてっきり、オリヴァーさんだったら『怪我? ふん、知ったことか。死んでも殺せ』って言うと思ってました」
「おまえは一体、俺をなんだと思っているんだ。……ところで――」
 オリヴァーはそう言うと、そこではじめてニムファーの顔を見た。
「ところでおまえ、怪我はしてないか? もし怪我をしているのなら俺が持参してきた救急箱で――」
「あの、わたくし草の中に隠れていただけなのですが……」
「草を甘く見るな!」
 オリヴァーが声を荒げ、感情をむき出しにした。その様子にニムファーは面食らってしまい、目を丸くして驚いている。
「何かの拍子に切っているかもしれないだろ……おい、フランシーヌ! おまえはどうだ? 怪我は大丈夫か!?」
 オリヴァーは踵を返すと、そのままずかずかとフランシーヌに詰め寄っていった。フランシーヌはオリヴァーに対してすこし困ったような表情を浮かべたが、すぐに首を横に振ってみせた。
「そうか、ならいい。……いいか、おまえたち、怪我をしたのなら俺に言え。手当ぐらいはしてやる」
 オリヴァーはそれだけ言うと、チョウザとアーラブルの後を追いかけていった。
「な、なんて過保護な……て、あれ? もしかして、さっきからずっと見てたのって、アーラブルじゃなくて……ザコちゃんを心配していたから……ですかね?」

「今です! ザコちゃん!」
 ニムファーの声を合図に、チョウザはその場で垂直に高くジャンプする。後を追っていたアーラブルもそれに倣い、頭の位置をもたげたが、チョウザはそこからさらに、もう一段階跳躍してみせた。
 アーラブルはそれに驚くと、急ブレーキをかけたまま、チョウザの足元を通り抜けていった。
「オリヴァーさん、フランシーヌさん、お願いします!」
 再びニムファーの声が響くと、今度はアーラブルの左右からオリヴァーとフランシーヌがそれぞれの武器を構えたまま飛び出した。
「フランシーヌ! 俺に合わせろ!」
 オリヴァーの掛け声にフランシーヌが頷く。
 オリヴァーは『月下美人』で一度、フランシーヌは『フギン・ムニン』で二度、アーラブルに斬りかかった。
 狙いは爪。
 意識が完全にチョウザへと向いていたアーラブルは、急に来た足元への斬撃に対応することが出来ず、ふたりはその一瞬の間に、アーラブルの足の爪を刈り取った。
 ――ガクン。
 今までの疲労が蓄積していたのか、それとも爪を無くしてバランスを崩したか。
 ここに来て、アーラブルが初めてその膝を折った。
「勝った! 皆さんお疲れ様でした! トドメはわたくしにお任せください! 覚醒して、この『サンタのふくろ』で頭を――」
「いや、まだだ!」
 オリヴァーがニムファーの言葉を遮って声を荒げる。
 ――ボコ……! ボコボコボコボコ……メリメリメリ……!
 耳を塞ぎたくなるような不協和音とともに、突然、アーラブルの体が変容していく。
 肩や足などの筋肉がみるみるうちに隆起していき、オリヴァーやフランシーヌに傷つけられた刀傷を隠していった。
 やがて変容を終えたのか、アーラブルは『ブルルフ……!』と小さく鳴くと、そのまま、先ほどと比べ物にならない速度で駆け出した。
「チッ、ひざを折ったのは加速するためだったわけか……! 逃げろニムファー!!」
「こ、こうなったら無理やり覚醒して角ごと受け止めるしか――」
「どけェッ!!」
 ――ドン!
 いつの間にか、アーラブルを追い抜いていたオリヴァーが、ニムファーを突き飛ばした。
「が……は……っ!!」
 瞬間、オリヴァーの横腹にアーラブルの頭がメリメリとめり込む。
「オリヴァーさん!?」
「ぐ……問題ない! 今だ……捕まえている! やれェ……!!」
「わ、わかりましたわ……!」
 オリヴァーの声を合図に、これまで半透明だったニムファーの光輪と翼が実体を持ち、輝きを放ちだした。オリヴァーはそれを見届けると、素早くアーラブルから離れた。
「これで――」
 ニムファーは手に持っていた『サンタのふくろ』を振りかぶると、思い切り、アーラブルの脳天に振り下ろした。
「終わりです!!」
 ――ズン……ッ!
 鈍く、重く、低い音が平原に鳴り響く。
 ニムファーの一撃はアーラブルの角を叩き折り、頭ごと地面にめり込ませていた。
「や、やりましたわ……! オリヴァーさん、立てますか?」
 アーラブルが絶命していることを確認したニムファーは、草の上に大の字で寝転がっているオリヴァーに手を差しのべた。
「ふん」
 オリヴァーはニムファーの手を払いのけると、フラフラになりながら立ち上がってみせた。
「おい」
「は、はい」
「……ところでおまえたち、怪我はなかったのか? 手当をしてやるから見せてみろ」
 オリヴァーがそう尋ねると、ニムファーは呆れた顔でため息をついてみせた。
「……ご自身の心配をなさったほうがよろしいのでは?」

「ご苦労様だったんだぜ」
「グッドジョブだぜ」
「約束通り、報酬は払っておくんだぜ」
 アーラブルを討伐したニムファー、オリヴァー、チョウザ、そしてフランシーヌの四人は、革を受け取りに来ていた依頼人の【コルニクス・カラス】、【ヴァローナ・カラス】、【レイヴン・カラス】と会っていた。
「……くだらん。贈り物を贈ってやりたいのなら、自分たちで討伐すればいいものを……」
 オリヴァーはそう吐き捨てると、アーラブルの革を強引に、一番背の高いコルニクスに押し付けた。
「俺たちもそれは考えていたんだが……」
「いかんせん俺たちイチゴ農家だし、姐さんほど強くないし……」
「まあ、適材適所ってことだ。身の程はわきまえてるってワケだな」
「物は言いようか。とにかく、これで依頼は達成したわけだ。帰るぞみんな、長居は無用だ」
 オリヴァーはそう言って踵を返すが、ニムファーだけはその場から動かず、じーっとアーラブルの革を睨みつけていた。
「……おい。聞いているのか、帰るぞニムファー」
「あ、すみません。ちょっといいですか?」
 ニムファーは革を睨みつけたまま、三人組に質問を投げかけた。
「もしよろしければ、そのアーラブルの革なんですが……すこしお譲りしていただけることって可能ですか?」
「ん? どういう事なんだぜ?」
「いちおう考えてはみるけど……その使い道によるな」
「話を聞かせてもらってもいいか?」
「ああ、いえ、ちょっとわたくしもその皮で作る服に興味がありまして……。それに、今いい感じのデザインが頭に浮かんでいるんです」
「うーん……」
「もう一人用の服を作るとなると、革が足りなくなってしまうからな……」
「悪いがそれは聞けない相談なんだぜ」
「そうですか……」
 ニムファーは三人に断られると、しゅんと肩を落としてしまった。
「なんだ、革が欲しいのか……では、もう一度アーラブルを狩りに行くか」
 オリヴァーは落ち込んでいるニムファーに声をかけたが、『いやいや、それはさすがに悪いです!』と断られた。
「ちなみに、どんな服を作りたいんだ? 参考までに聞かせてほしいんだぜ」
 そんなニムファーを見かねた、一番身長の低いレイヴンが尋ねた。
「よくぞ聞いてくれました! 牛と虎の異種間コラボレーションというテーマで、牛皮をトラ柄に仕立てるという、それはそれは斬新でかっこいいデザインの上着です!」
「……さて、帰るか」
 オリヴァーはそれだけ言うと、チョウザとフランシーヌとともにさっさと帰って行ってしまった。
「あれ? 感想は?」
「……さて、俺たちも帰るとするか」
「加工屋に渡さなきゃならねえしな!」
「じゃあな!」
 三人もオリヴァーと同じように、そそくさとその場から立ち去っていった。
「え? なんで? もしかして、かっこよくないんですか!? もしもーし!!」
 その後――学園内で泣きながら特攻服を着ている、黒髪清楚系の女性が話題となった。



課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
雷鳴と烏鴉
執筆:水無 GM


《雷鳴と烏鴉》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 フランシーヌ・シシルシル (No 1) 2019-12-23 12:51:48
おはようございます、こんにちは、こんばんは、はじめまして。
フランシーヌ・シシルシルと申します。

戦闘では双剣を使用致します。初級の雷魔法が使え、静かに動く事と対人交渉も得意です。

右も左も分かりませんが、よろしくお願いいたします。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 2) 2019-12-23 21:32:27
やっほー。いらっしゃい、新入生のゆーしゃ様。
簡潔に完結した分かりやすい自己提示紹介ありがと。

ザコちゃんは何にしても、引き付け囮やる方が面倒くさくないのかな。
んー、ってーか、出来なくはないんだろーけどさぁ。
(自分の編んだ髪を棒の先にくるくると巻きつけ)
…ほら、この色だし。なんもしなくても狙われ襲われじゃん?

ってなかんじでー、ザコちゃんは【挑発】かまして諸々の技術とか【忍耐】力とか使いかまして耐えっから。
攻め手はよろしく。隙見てぽこしたり【炸裂の種】ぶん投げなりくらいはするけどさ。

《新入生》 フランシーヌ・シシルシル (No 3) 2019-12-24 06:57:42
ザコちゃん様、よろしくお願いいたします。
ひとつ思い付いたことがございまして【沈黙影縫】と【隠密】を用いた奇襲をやってみたいのです。
初撃のあとは正面をザコちゃん様にお任せすることになるとは思いますが……

《勇往邁進》 オリヴァー・アンダーソン (No 4) 2019-12-24 22:42:51
武神・無双専攻、オリヴァー・アンダーソンだ。
まったく、こんな面倒な依頼を人に押し付けるとは…(と言いつつ話を聞いている)

…チョウザが囮、フランシーヌが奇襲兼攻撃、俺も攻撃。ということでいいのか。
わかった。

サポート役がいないから萎縮対策に【勇猛果敢】を忘れぬように。

《這い寄る混沌》 ニムファー・ノワール (No 5) 2019-12-25 15:49:44
ニムファー・ノワール17歳です!(ぉぃぉぃ

遅まきながら参戦するわ。
う~ん、私も攻撃に回ろうかしら。

《新入生》 フランシーヌ・シシルシル (No 6) 2019-12-25 21:02:16
オリヴァー様、ニムファー様、よろしくお願いいたします。
袋叩きこそ王道かと。

《新入生》 フランシーヌ・シシルシル (No 7) 2019-12-25 21:05:03
……しかし、草原となれば、ザコちゃん様に釣り出して頂き、みんなで待ち伏せ奇襲というのも、ありでしょうか?

明日、提出でございますから、難しいかもですが