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嘆きの古城に踏み入りし者。


ストーリー Story

 暗い古城に響く、湿った音。
 ぺたり。
 ぺたり。
 ぺたり。
 人など居なくなってどれほどの時が流れたろう?
 されど、この古城に響く音が消えた試しはなく。
 毎夜足音だけが木霊するのだ。
 ぺたり。
 ぺたり。
 ぺたり。
 そこは誰が呼んだか『嘆きの古城』。
 昼間にすら高い木々が暗い闇を落とし、足を踏み入れれば帰る者無しと言われる古の城塞。
 そこに、足を踏み入れる者がまた一人……。


 ばいん。
 ばいん。
 ばいん。
 その豊満な胸部を揺らし、【コルネ・ワルフルド】は教壇に立つ。
「やっほー!」
 ばいん。
 何か動作をする度に大きく揺れるそれに、男子達の目は釘付けである。
「今日はね~……」
 資料を取り出そうと屈めばグッと息を飲む光景が広がる。
 ……非常に集中力を削ぐ教師である。
 これをただただ天然でやっているというのだから、尚質が悪い。
「あった! 今日は皆に古城探検をしてもらうよ!!」
 そう言ってコルネは課題の説明を開始する。
「簡単に言うと、トロメイアの近郊の森の中にある薄暗いお城なんだけど……この辺りかな。みんな『嘆きの古城』って知ってる?」
 黒板に貼り出された地図を指差すと、説明を続ける。
「実は、ちょっと前にこのお城に行くって言ってた男の人が行方不明になっちゃったらしくてね、恐らくこのお城に向かったんだろうって話にはなったんだけど……」
 ふと、声を押さえてコルネは言う。
「実は……出るらしくてね……」
 出るとはなんの事だろうか?
「……お化け」
 教室は静まり返る。
 ただし、恐怖というより何を言っているのだろうという困惑によってだが。
 今更ゴーストが出てきた所で驚くような……。
「違う違う……ゴーストとか魔物の類いじゃなくて……お化け……♪」
 こちらを怖がらせたいのだろうか……。
 そもそもなにが違うのかは分からないし、ゴーストでないなら十中八九リバイバルだろうに。
 まぁ、とりあえず面倒なので話の続きを促す。
「もう、つまらないなぁ。なんだか昔からそこに住んでいた貴族の女の子の魂が~……とか。そこで殺された召使いの怨霊が~……とか。そう言う話が後を絶たないんだって」
 ……まぁ、よく聞く話ではある。
 というか、そうだとすればやはりリバイバルではないか。
「ウソかどうかはともかくとしても、何かしらが居る可能性は捨てきれないわけだし、そんな場所にもし迷い込んじゃったんだとしたらほっとけないでしょ? 本当はアタシ達がやるようなことじゃないんだけど、どこも手一杯だし、それに……」
 ふと言い淀む。
「え~と……実は、その男の人は旅の人らしくて……依頼をしてきた町の人達も、善意でお金なんか出せないって話らしくてね……」
 つまり……。
「だから……学生なら……授業の一環で動かせるんじゃないかと……」
 ……呆れた話である。
 まぁ、行方不明で捜索願いを出してやるだけまだ有情と言った所か。
「でもでも、なんか随分羽振りの良い旅人さんだったらしくて、助ければ……その…………旅人さんが……お金は……出してくれる……カモ……」
 どんどん声が小さくなっていく。
「ええい! お金お金と器量が小さいッ!! 勇者を目指す者が人助けぐらい無償でやって見せなくてどうする!!」
 少々理不尽な事を叫び、がおーと吠える。
 ならばなぜさっき脅かそうとしたのかと問いただしたくなったがぐっとこらえた。
「もちろん課題は課題! という事で、希望者は前に出るように!!」
 こうして、古城探索の課題が始まった。
 ゴーストが居れば討伐。
 リバイバルなら今更恐れることも無い。
 そんな軽い思いで生徒たちは立候補していく。
 ……これからなにが起こるのか、それを生徒達はまだ知るよしもなく……。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 3日 出発日 2020-05-21

難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2020-05-31

登場人物 4/8 Characters
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《新入生》シアン・クロキ
 ルネサンス Lv12 / 黒幕・暗躍 Rank 1
「おいらはシアン・クロキ。よろしくなのだ。ん?誰がちびなのだ。お前さんが大きいのだ。」 「こら、耳を引っ張るな、やめるのだ」 ■容姿■ 身長→小学校低学年サイズ 瞳 →紫。瞳孔は✕型。 髪 →黒色のショートカット 動物→うさぎ 耳 →ロップイヤー 服装→ワイシャツ、ショートパンツ、サスペンダー、ブーツ ■性格■ 背が小さいのでなめられないように必死。 かわいいものや甘いもが好きだが、ばれないようにしてたり、わざとぶっきらぼうな態度をとっている。 そのせいで、基本ツンツンしているように見られてしまう。 仲良くなれば甘えてくるかもしれない。 ■サンプルセリフ■ 《基本》 「ジロジロ見てなんなのだ。言いたいことははっきり言えなのだ。」 《仲良し(低)》 「なんだ、お前さんなのか。何か用なのだ?用がないなら、あまり見ないで欲しいのだ。」 《仲良し(中)》 「もう少し付き合ってやってもいいのだ。え、いらない?そ、そうなのか…」 《仲良し(高)》 「遅いのだ!どれだけ待たせるのだ。って、別に待ってなんかないのだ。勘違いしないで欲しいのだ!!」 ■趣味■ カードゲーム、ボードゲーム ■好き■ ニンジン、かわいいもの、あまいもの、紅茶 ■嫌い■ 身長を馬鹿にする人、耳を引っ張られること、ちびと言われること ■苦手■苦いもの、兄、姉 ■口調■ 一人称:おいら 二人称:お前さん。お前さんら。苗字呼び捨て
《ゆうがく2年生》蓮花寺・六道丸
 リバイバル Lv13 / 芸能・芸術 Rank 1
名前の読みは『れんげじ・りくどうまる』。 一人称は『拙僧』。ヒューマン時代は生まれ故郷である東の国で琵琶法師をしていた。今でもよく琵琶を背負っているが、今のところまだ戦闘には使っていない。 一人称が示す通り修行僧でもあったのだが、学園の教祖・聖職コースとは宗派が異なっていたため、芸能・芸術コースに属している。 本来は「六道丸」だけが名前であり、「蓮花寺」は育ててもらった寺の名前を苗字の代わりに名乗っている。 若い見た目に不釣り合いな古めかしい話し方をするのは、彼の親代わりでもある和尚の話し方が移ったため。基本的な呼び方は「其方」「〜どの」だが、家族同然に気心が知れた相手、あるいは敵は「お主」と呼んで、名前も呼び捨てにする。 長い黒髪を揺らめかせたミステリアスな出で立ちをしているがその性格は極めて温厚で純真。生前は盲目であったため、死んで初めて出会えた『色のある』世界が新鮮で仕方がない様子。 ベジタリアンであり自分から肉や魚は食べないが、あまり厳密でもなく、『出されたものは残さず食べる』ことの方が優先される。 好きなもの:音楽、良い香りの花、外で体を動かすこと、ちょっとした悪戯、霜柱を踏むこと、手触りのいい陶器、親切な人、物語、小さな生き物、etc... 嫌いなもの:大雨や雷の音
《2期生》シルワ・カルブクルス
 ドラゴニア Lv15 / 村人・従者 Rank 1
細い三つ編みツインテールとルビーのような紅い目が特徴のドラゴニア 元々彼女が住む村には、大人や数人ぐらいの小さい子供たちしかおらず同い年程度の友達がいないことを心配した両親にこの学校を薦められて今に至る 一見クールに見えるが実際は温厚な性格であり、目的である世界の平和を守ることはいわば結果論、彼女の真の目的は至って単純でただの村人として平穏に暮らしたいようである しかし自分に害をなすとなれば話は別で、ドラゴニアらしく勇猛果敢に戦う 一期生にはたとえ年下だとしても「先輩」呼びをするそうだ 「私はただの村人、できる限りのことをしただけです」 「だれであろうと私の平穏を乱す者はすべて叩き伏せます」 ※口調詳細(親しくなったひとに対して) 年下:~くん、~ちゃん 同い年あるいは年上:~さん ※戦闘スタイル 盾で受け流すか止めるかでダメージを軽減しつつ、斧で反撃するという、いわゆる「肉を切らせて骨を断つ」戦法を得意とする

解説 Explan

 古城探索をし、行方不明の旅人を見つければシナリオクリアです。
 古城探索において、特に変わった様子は無いようですが、兎にも角にも暗いです。
 そしてなぜか暗い闇に光が吸われてしまうらしく、どんなに強い魔法の灯りでもそんなに明るくなりません。
 また、カンテラが支給されます。(シナリオ後に返却されます。また、魔法で生み出す灯りより更に暗いです)
 周囲数mしか効かない視界をどうぞ御堪能下さいませ。
 ちなみにプロローグではコルネが「カモ……」と弱気になってはいましたが、旅人さんは一応報酬を出してくれるでしょう。
 基本的に戦闘や生命の危機はありませんが、曰く付きの古城です。
 まず、お城は本館、時計塔、地下空間の大体三つに分かれています。
 本館は『じわじわ系』
 時計塔は『ビックリ系』
 地下空間は『上記二種複合の私が思いつく限り最大限のホラー展開』
 をご用意しています。

 本館にはプロローグの足音の正体が居ます。
 じっくりと精神に来るような恐怖体験をすることになります。
 足音の正体は怒らせなければ特に何もしてはきませんが、あなたたちは常に視線を感じる事でしょう。
 また、本やらなんやら城内を調べるのは構いませんが、あの子は自分達を知られることをあまり好みません。

 時計塔はあまり広くはありませんが、ちょっぴり怖い目には合うかも知れません。
 ……少しばかり痛い思いもするでしょうがそういうシナリオです。
 時計塔の歯車には触れないように。
 どうしてもというのなら構いませんが。

 地下空間は……恐らく突入したキャラクターは暫く悪夢にうなされるでしょう。
 深くは語りませんが、死にはしないです。
 ただ、怖い目にあわされるだけです。

 また、最終的にどこを探索しようがどこかしらで旅人さんは見つかりますのでご安心を。
 あなた方はただ歩けばよいのです。
 ……恐怖に耐えながら。
 (基本的に上記三か所のどこを探索するのか。どういう反応をするのかお教えいただけると嬉しいです)
 


作者コメント Comment
 始めまして。
 ユウキと申します。
 この度こちらでは初のシナリオ運営となります。
 という訳で肩慣らしに出したお話ですが、ホラーですよ。
 肝試しには少々早いでしょうが、家の子に怖い思いをさせたいという方は奮ってご参加くださいd(・ω・`)。


個人成績表 Report
パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:20 = 13全体 + 7個別
獲得報酬:540 = 360全体 + 180個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
地下空間へ
キラキラ石をランタン代わりに用いて、確保できる最大限の光源・視界確保

普段は人が踏み込まない場所でしょうし、新しい足跡や、誰かが触って埃に跡が残ってる場所等がないか調べ、そういった痕跡や人の声等を頼りに迷い込んだ旅人を探して

何者かの気配がする場所や、物音、声がした場所はもれなく確認
もしかすると、旅人が腰抜かして動けなくなってるかも

拷問部屋とか棺があっても、一通り調査
昔何度かお世話になってるし、今更キャーキャー言わないわ

流石に、改めてお世話になりたくはないけど

天井や床、壁が壊れたりしたら、その奥や瓦礫の下を確認
もし旅人が巻き込まれてたら救出しないと

旅人を見つけたら、保護して帰還しましょう

シアン・クロキ 個人成績:

獲得経験:16 = 13全体 + 3個別
獲得報酬:432 = 360全体 + 72個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【時計塔】

旅人を見つけるだけだって聞いていたのに、なんでこんな怖s…面倒くさそうなのだ。
『聴覚強化』使用。『聞き耳』を立てながら、旅人がいないか耳をすましてみるのだ。
気休めのランタンを頼りに、探そうとおもうのだ。
な、なるべく、同じ場所に行く人と一緒に行くのだ。
べ、別に怖くなんかないのである。相手が迷子にならないように見張っててやろうと思うのだ。

…正直、大きな音とか苦手なのだ。
ただでさえ、聞き耳立てているからぞくっとするのだ。
驚いたらもしかしたら転んで変なところ触ってしまうかもしれないけど、おいらは悪くないのだ!!

万が一、驚いてしまったら、終わったあとに口止めするのだ。
舐められたくないのだ。

蓮花寺・六道丸 個人成績:

獲得経験:13 = 13全体 + 0個別
獲得報酬:360 = 360全体 + 0個別
獲得友情:300
獲得努力:50
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---

シルワ・カルブクルス 個人成績:

獲得経験:16 = 13全体 + 3個別
獲得報酬:432 = 360全体 + 72個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【捜索:本館】
ランタンの光が消えるまえに、旅人を探す
そんな中、書斎のようなところに足を踏み入れてしまい、偶然にも屋敷中に聞こえる足音の主に関する書物を見つけてしまう
書物を読み終えたあと、急にランタンの光が消えてしまい
もうそんなに経ってしまったのかと思うとふと感じる背後からの気配
それが気になり振り向くと…

リザルト Result

 結局、コルネの募集で集まったのは4人だった。
 新入生【パーシア・セントレジャー】【シアン・クロキ】【シルワ・カルブクルス】
 そして一期生【蓮花寺・六道丸】
 若干新入生の比率が高いものの課題そのものは大した事がなく、まして探索目標の旅人の大方の居場所も分かっていると来たものだ。
 『嘆きの古城』の場所にしたって、人の往来こそ無いが危険地帯でもない。
 ――簡単に終わるさ。
 そんな彼等の心を嘲笑うかのように、空には嫌な雲が広がり始めていた。


 城に近付いた頃、4人を季節外れの大雨が襲う。
 轟々と轟く雷鳴から逃げるように城内へと踏み入り、六道丸とシアン。パーシアとシルワの2組に別れた探索が始まった。
 シアンと六道丸は時計塔へ、パーシアとシルワは本館へ。
 学生達のその場の思い付きではあったが、城そのものの規模は大したものではない。
 さっさと旅人を見つけて雨が止むのを待ち、帰る。
 少なくともこんな薄気味悪い場所に、長居などしたくはなかったのだ。
「うぅ……ずぶ濡れになってしまったのだ……」
 シアンが呟く。
 呟きながらずぶ濡れの身体から垂れる水滴に悪戦苦闘しつつ支給されていたランタンに火を付けた。
 ポゥ、と小さな灯りが周囲を照らす。
 が、やけに暗い。
 入り口からうっすらと見えるのは、小さな扉が一つだけ。
 思った通り大した広さは無さそうだが、この小さな灯りだけで歩き回るのは骨が折れそうだと肩を竦めて溜め息をつく。
「ん……先輩?」
 そういえばと周囲を見回す。
 ……六道丸が居ない。
 こんな場所に一人取り残されるなど、考えただけで寒気がする。
 正直、まだ学園の課題に慣れていない緊張もある。
 先輩である一期生が一緒なら、これ以上心強いものはないと思っていたのだが……。
「ま……まぁ、きっとはぐれたのだ……すぐに来るのだ……来るよね?」
 そう言って、少し六道丸の到着を待つことにした。


 同じく本館へと潜り混んだ2人は、門を抜けてすぐにある大階段の裏手の小さな扉を前に話していた。
「地下室……か」
 小さな扉を開けたパーシアが呟く。
 扉を開けると木製の梯子が真っ直ぐ階下の暗い闇へと伸びていた。
「下から上へ、虱潰しに捜しましょうか」
 シルワの提案に、パーシアは頷く。
 自分が先に降りると梯子に手を掛けると、大丈夫かと心配そうにシルワは聞いた。
「ふむ。ちょっと古いが、作りはしっかりしているようね。それに、私は其方よりうんと軽い」
 それを聞いたシルワが笑った。
 当然だ。
 パーシアの身体は薄く透けている。
 リバイバル。
 既に物理的な肉体を喪失している彼女に体重等というものは存在しないと言っても良い。
 だが、数段下がったところで、バキリと嫌な音と共に妙な浮遊感を感じた。
「パーシアさん!?」
 シルワの伸ばした手が空を切る。
 そのままパーシアは、暗い地下へと落下していった。

「イタタタタ……」
 派手な水飛沫を上げて落下した闇の中、ぶつけた腰を静かに擦る。
「パーシアさん大丈夫ですか!?」
 頭上からシルワの声が響いた。
 とりあえずの無事を伝えると、懐から『キラキラ石』の一つを出して周囲を窺う。
 奥に続く道は脛程度まで水浸しになっており、自身が降ろうとしていた梯子は足元に溜まった水のせいか、腐食して崩れている。
 ……ここからは戻れそうにない。
「ここからは戻れそうにないわ、其方は上を探して頂戴。私は下を探しながら戻る道を探してみるから!」
 最初はシルワも渋ったものの、道が続いている事とここが恐らく水路であることを伝えると、お気をつけてと去っていった。
「さて……」
 落ちた衝撃で壊れたランタンにキラキラ石を詰めると腰にぶら下げる。
 たとえ壊れていなくとも、普通にランタンを光らせるよりはマシな明るさだろう。
 足に纏わり付く水に顔をしかめながら、奥へと進んでいった。


 遅い。
 いくらなんでも遅すぎる。
「いったいいつまで迷っているのだ……」
 一人取り残された孤独感と、降りしきる雨音。
 そして時折轟く稲光がシアンを酷く怯えさせた。
 恐怖心はたったの数刻でさえ何時間もの時を思わせ、ついにシアンの恐怖も限界へと上り詰め始めている。
「うぅ……こんな所に来るんじゃなかったのだ」
 ゆっくりと立ち上がるとランタンを手に取り歩きだした。
 こんな場所で一人恐怖に耐えるより、少しでも歩けば気が紛れる筈だ。
 目の前の扉を開けると、長い廊下が一直線に伸びている。
「…………」
 聴覚を研ぎ澄ませ、聞き耳を立てる。
 今は稲光も少し弱い。
 ……コッコッコッコッ。
 足音だ。
 雨音に紛れ、微かではあるが規則正しく木の床を踏むような音が聞こえてくる。
 恐怖が希望に変わり、足音へと更に集中しようと聴覚を強化する。
 ……その時だった。
 カッと窓の外に閃光が走ると、すぐに一際大きく近い雷鳴が轟く。
「うひゃあッ!?」
 情けない声を上げるとペタンと閉じた耳をぎゅっと抑えてその場にしゃがみこんでしまったシアン。
 一瞬沸き上がった希望が再びの恐怖に支配された。
「もう嫌だァ……森に帰りたいのだァ……」
 足はガクガクと震え、目には涙が溜まる。
 だが、それでもシアンはゆっくりと歩きだした。
 一度やってやると言ったのだ。
 緊張の中、勇気を出して参加した初の課題。
 こんな事で諦めて帰ってなるものかと自身を奮い立たせて足音へと向かっていく。
 一歩。
 また一歩。
 見えてきた階段を這うように上がり、いつの間にか最上階についていたようだ。
 コッコッコッコッ。
 先程より鮮明に響く……音。
 ずっと違和感があった。
 その違和感の理由が今なら分かる。
 ……動いていないのだ。
 まるでリズムを取るかのように同じ場所で響いている。
「なにをしているのだ……?」
 勇気を振り絞り、暗闇に声を掛けたが返事がない。
 薄暗いランタンの灯りを頼りに音へと近付くと、その正体が浮かび上がった。
「なんだ……柱時計なのだ……」
 ずいぶん古ぼけた時計の振り子が、規則正しく時を刻む。
 呆れながら俯く、少なくともこの時計塔はハズレらしい。
 ここまで分岐らしい分岐も無く、こんな暗闇でランタンを点けて歩く人影に気付かぬ筈が……。
 ゴォーン。
「ひぅ!?」
 不意に鳴り響いた柱時計の音に驚き尻餅を付いてしまった。
「もう、驚かさないで欲しいのだ……」
 だが、先程の雷鳴に比べれば大した物ではない。
 ガチリ。
「え……?」
 ガチャン!!
 次の瞬間何かにグイと襟元を引かれ、そのままその細い身体ごと上に引っ張られた。
 歯車だ。
 時計塔の巨大な歯車に襟元の布が引っ掛かり、そのまま持ち上げられている。
「な……あっ……ガ……ッ!?」
 キリキリと細い首を締め上げられ、苦しさから漏れる掠れた悲鳴だけが上がる。
 助けて。
 悲鳴を上げようにも首を絞められ声が出ない。
「か……は……助け……」
 ゴォオオオオオオオンッ!!!
 先程の柱時計の音色とは比べ物にならない時計塔の鐘が鳴り響く。
 薄れゆく意識の中、シアンの目には薄汚れた男が確かに映っていた。


 それはこの城の主の日誌のようだった。
 パーシアと別れ、おそらく書斎であろう空間に辿り着いたシルワは綺麗に収められた本の内、やけにボロボロな一冊を手に取るとそれを開いた。
 ここまでの道のりの間、背後に付きまとう視線を、良くてリバイバル。
 悪くたって魔物の類なのだからと自身に言い聞かせ無視し続けて来たのだが、ついに耐えられなくなってその扉を開けて鍵を閉めたのだ。
 整然と並べられた本の山を見ていると、背後からの視線は感じない。
 おそらくカギを開けられないのだろう。
 楽観的であるのは重々承知の上ではあったが、そうでもしなければ気が狂ってしまいそうだった。
 この城はやはり何かがおかしい。
 もう何年も放置されているはずなのに、埃臭さを微塵も感じる事が無い。
 まるで誰かが手入れしているように所々飾られた観葉植物は青々と育ち、この本の山にしたって埃一つ被っていないのだ。
 ぺたり……ぺたり……ぺたり……。
「……ッ!?」
 ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ。
 何かが扉の前を歩いているようだった。
 息を殺し、その足音が消えるのを静かに待つ。
 ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ。
 ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ。
 ぺたっ、ぺたっ、ぺたっ。
 ――お願い……神様……っ!
 願いが届いたのか、あるいはただ諦めたのかは知らないが、足音が遠く去っていく音が聞こえた。
 ほっと胸を撫で下ろすと、少しここに隠れていようと手に取ったそれが、城の主の日誌だった。
 他愛ない日常の中に、確かな幸せを感じさせる日々の記録に自然と笑みがこぼれる。
 だが、パラパラとめくっていくととある日を境にそれは不穏な空気を漂わせ始めた。
 それは城の主に子供が生まれたころ。
 酷く病弱だった赤子を救おうと、数々の医者を集めて延命処置を施していく日々。
 そんな子供の終わるとも知れぬ闘病生活に気を病んだ妻が、時計塔の歯車で首を吊り自殺した事。
  ……だが、本当に恐ろしいことは別にあった。
 『リバイバルについて』
 そう書かれたページには、こう記されている。

 幽霊とも違う、意志を持った魂。
 私の可愛いリリィ。
 あの子を生き長らえさせるために、その研究を行っているという男を誘致しようと思う。
 馬鹿らしいかもしれないが、あの子が生き延びられるならなんだってしてやるさ。

 そこから続く日誌に背筋が凍った。
 近くの街から集められた人々。
 地下の拷問室。
 強い生への執着心がリバイバルを生むという憶測から惨殺された……
 ぎぃぃ……。
 不意に響いた音に振り向いた。
 ……扉が開いている。
「見ちゃったね……?」
 不意に耳元に響いた声。
 ゆっくりと振り向いたシルワ。
 そこにいた少女を認めると……。
 ぱたり。
 シルワはそのまま白い眼を向いて意識を手放すと、静かに床に倒れた。


 足元の水は奥に進むにつれ腐臭を放ち、パーシアはその端正な顔を歪めた。
 水のせいだけではない。
 目の前の水路から一段高くなった足場の上にある扉にべっとりとこびりついた赤黒いそれが何を意味しているのか。
 それを理解しているからだ。
「まぁ、一度や二度のお世話じゃ済まなかったかしら」
 その奥に広がっているであろう光景を想像し、自嘲気味に笑った。
 もう一度世話になるつもりもさらさらないが……おそらくは拷問部屋かそれに準ずるものだろう。
 この匂いの原因も恐らく……。
 だが、どうせリバイバルや幽霊ならば親戚のようなものだとその扉を開けて中に入る。
 案の定拷問部屋のようだったが、特に特別なものがあるようには見えなかった。
 だが、よく目を凝らせば奥にもう一つ扉がある。
 そのまま何の疑いも無く扉を開けると、その奥へと入っていった。
 ゴォオオオオオオオン……
 その扉を閉めたとき、地下空間にも響き渡る鐘の音が鳴った。
 ――なにかしら?
 たしか、二人程時計塔に向かったはずなのだが……。
 おそらくはその鐘なのだろうことは想像に難くない。
 この地下室は、時計塔の尖塔よりも高い位置にあったことを思い出した。
 水路の水が落下する流れで時計塔の歯車を動かす仕掛けなのだろう。
 ……もし今の鐘が旅人を見つけた合図なのだとしたら。
 もしそうだとすれば、もしかしたら最初に落ちた地下室の入り口にいた方が良いかもしれない。
 そう思い踵を返すと、扉に手を掛ける。
 ……開かない。
 ガチャガチャとドアノブを回してみたが、扉が開かないのだ。
「……もう!」
 強く扉を蹴飛ばすと、ボトリと何かが足に落ちる。
 ……蛆だった。
 背筋に冷たいものが走り、急いでそれを振り払った。
 ……嫌な予感がした。
 パーシアは、きっとこの決断を一生後悔し続けるだろう。
 ゆっくりと頭上へカンテラを向けて天井を見た。
「い……嫌……噓……噓っ!?」
 天井にへばりついた夥しい数の害虫がひしめき合い、それがぼとぼとと落ちてきているのだ。
 グチャリ。
 不意に引いた足が何かを踏みつける。
 腐った肉のような何か。
 踏みつけたパーシアの細い脚を、虫達が這い上がってくる。
「嫌ぁッ!!」
 思い切り脚を振って虫達を吹き飛ばす。
 一目散に扉へと駆け寄ると、扉を全力で叩いた
「お願い出して!! 誰かッ!!! 出してッ!!!!!」
 恐慌状態に陥ったパーシアは、必死に扉を叩く。
「お願いッ!! お願いだから誰かッ!!!!!」
 誰も居るはずがない。
 そんなことは分かっているのに。
「貴女モいっショに……融けまショう?」
 声が聞こえた。
 後ろから、湿った何かが動く音がする。
「嫌!! 誰か!! 助けて!! 助けてッ!!!」
 ジリジリと湿った音が近づいてくる。
 バタン!!
「痛ェ!?」
 その時だった。
 なぜか少し開いた扉を勢いよく開けて、外へと転がるように飛び出した。
 息が上がって、一瞬聞こえた悲鳴にもパーシアは気付いていない。
「何をするッ!!」
 そう言って叫ぶ男の声に気付いたパーシアが、声の方を見た。
「後ろッ!!」
 パーシアは叫ぶ。
「あ? あぁ~……嘘だろ?」
 男がパーシアの居た扉の先を見た瞬間に悪態をつく。
 バタンと扉を蹴って閉めると、くるりと踵を返してパーシアを抱き抱えて駆け出した。
「逃げるぞ!」
 男の腕の中で放心状態のパーシア。
「あ……え……?」
 状況がうまく掴めない。
「はぁ……俺を助けに来たんだか俺に助けられに来たんだか……」
 そう呆れた声を男はあげた。


 パーシアが男に付れてこられたのは食堂だった。
 何本もの燭台が立てられて明るい室内には、なぜか一緒に来たメンバーが全員気を失って倒れている。
「リリィ! 彼女にも何か出してやってくれ!」
 そう男が叫ぶと、ペタペタと音を立てながらはだしの少女が茶を持ってきた。
 半透明の体と男の言葉を理解しているところを見るに、おそらくはリバイバル。
「んで、お前らどうせ街の連中のお節介に付き合わされたんだろう? 良かったな。これで依頼完了だ」
 そう言って男はむすっとした顔で気絶している仲間たちを一瞥すると、さらに続けた。
 男が元々この近くに住んでいたと言う事。
 このリリィと呼ばれたリバイバルが、今この城の主だと言う事。
 本当は驚かす気はさらさらないのに全員リリィを見るとこうして気を失ったり逃げて行ってしまう事。
 久しぶりに顔をのぞかせてみれば、リリィ曰く知らない人が4人も来て怖がっているようだから助けてほしいと頼まれたこと。
「久しぶりに帰って来てみればこの有様だ……特にお前とそこのウサギ。リリィに感謝するんだな。あともう少しで本当に死んでいたぞ?」
 そう言って旅人の男はパーシアを見た。
 ……いや、パーシアは正確にはもう死んでいるのだが。
「そこのウサギはもう少しで首吊りだったし、あの地下道はリリィと違って見境の無い怨霊たちの巣窟になっている。あんなところで……あの肉塊の仲間入りは御免被るだろう?」
 男は一瞬笑うが、すぐにしかめ面に戻る。
「まったく、時計塔から水路に飛び移るなんて2度とやらんからな。学園には送ってやるから少し休んでいろ」
 そう言って旅人の男は部屋を出て行ってしまった。


 こうして、とりあえずの課題は成功と言う事になる。
 皆が目を覚ました頃には雨も止み、男は報酬無しじゃキツかろうとわずかばかりの金銭を支払ってくれた。
 さぁ、帰ろう。



課題評価
課題経験:13
課題報酬:360
嘆きの古城に踏み入りし者。
執筆:ユウキ GM


《嘆きの古城に踏み入りし者。》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 1) 2020-05-18 00:05:04
王様・貴族コースのパーシア。よろしくお願いします。
個人的には、地下空間に行ってみたいなと。

《新入生》 シアン・クロキ (No 2) 2020-05-18 00:33:31
おいらはシアン。黒幕・暗躍なのだ。
おいらは時計塔が気になるのだ。

旅人をさっさと見つけてしまうのだ。

《ゆうがく2年生》 蓮花寺・六道丸 (No 3) 2020-05-18 02:59:50
拙僧は蓮花寺・六道丸。芸能・芸術コースに所属しておる。
怖いものなあ……拙僧は饅頭が怖いかな、フフフ。

拙僧は時計塔が気になるが、本館に行く者があまりに少なければ、そちらへの変更も視野に入れよう。
なあに、どちらへ行こうと拙僧には怖くもなんともあるまいし、同じことよ。
(なお突然の大きな音にはビビり倒す模様)

《2期生》 シルワ・カルブクルス (No 4) 2020-05-18 12:16:46
村人・従者コースのシルワ・カルブクルスです
よろしくお願いいたします

とりあえず、私は本館の方で調べておきますね