;
あの夜に咲く物語



ストーリー Story

 春が終わる。
 誰にも見せられない記憶を連れて。
 また今年も、春が終わる。

 独り歩く夜の広場は少し暑くて。
 そのはずなのに、なぜか少し寒いような気がして。

 雨は降らない。
 雲ひとつない空に、星だけが輝いている。

 君は何を思い出しているだろうか。
 かつて故郷で仲間と過ごした、騒がしい夜のこと。
 温かいスープを飲みながら家族と過ごした、優しい夜のこと。
 独り読書にふけって過ごした、静かな夜のこと。

 君は何を思い出しているだろうか。
 仲間と争い、別れ、孤独に泣いた夜か。
 家族を恨み、恨まれ、部屋に閉じこもった夜か。
 独りこの世を憂い、憎み、絶望に浸った夜か。

 誰も君を見つけることはできない。
 夜の闇に溶けるような。
 ふと吹いた風に飛ばされて消えていくような。
 そんな心の火を僅かに灯して、君は歩く。

 魔法学園フトゥールム・スクエア。
 様々な価値観を持った者同士が集い、その人生を謳歌する場所。
 君の全てが受け入れられ、その個性が輝く場所。
 生きるという自由を、本当の意味で叶えられる場所。

 それでは君が過ごしていた過去は?
 その価値観は、誰かを揺るがしていただろうか。
 その個性は、誰かに受け入れられていただろうか。
 その自由は、君だけのものだっただろうか。

 誰も君を止めることはできない。
 夜の闇に差す光を求めるような。
 一本のか細い糸を手繰り寄せてたどり着くような。
 そんな奇跡の積み重ねの上に、君は独り立ち尽くす。

 暑くて、寒い。
 そんな夜に。

 君は、何を思う?


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 8日 出発日 2020-07-01

難易度 とても簡単 報酬 通常 完成予定 2020-07-11

登場人物 8/8 Characters
《新入生》フランツ・キャンベル
 ドラゴニア Lv12 / 村人・従者 Rank 1
■容姿■ 見た目:気だるげな中年男性(脱ぐとムキムキ) 髪:銀髪 目:桔梗色 ■口調補正■ 一人称:俺、おいちゃん(主に年下に話すときに使用) 二人称:兄ちゃん、姉ちゃん、名前呼び捨て 語尾:~だぞ。~だわ。 ■性格■ 面倒くさがり 趣味優先 ■趣味■ 道具の製作、修理 ■宝物■ 子どもたちに貰ったお守り 『引き寄せの石』と呼ばれる石を削ったお手製 『どこにいても必ず君を見つける』という意味があるとかないとか。 ■苦手■ 面倒くさいもの ■サンプルセリフ■ 「名前、名前ねぇ…、おいちゃんはフランツ・キャンベルだぞ」 「おいちゃん、めんどくさいことはしたくないんだわ」 「えーはーたーらーきーらーくーなーいー」 「はぁ、しゃーない、ちょっとだけだぞ」 「帰って来れる場所くらい作ってやるよ」
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《勇往邁進》ツヴァイ・リデル
 カルマ Lv11 / 教祖・聖職 Rank 1
「このコースに来た理由?回復って使えると便利だよ…えっ?うん、それだけ」 「僕は僕のやりたいようにやるだけさ」 容姿 ・黄色のメッシュをいれているショートウェーブ ・釣り目、少しまつげあり ・眼鏡着用、度が入ってるのか入ってないのかは不明 ・魔法陣は右手、もう一つは胸の中央 性格 ・のらりくらりのマイペース、基本的にのほほんとしてる ・穏やかであろうと努めているが、仲間が傷つけられると口調が荒れる傾向がある ・宗教に興味はあまりなく、蘇生の技術に関心を持ってコースを選択している ・ある目的を以て造られたカルマ、使命と願いを守るつもりではいるが、縛られたくはない模様。というより反抗心バリバリ ・一方的に知っている子どもたちがいるらしいが…? 好きなもの 物語、魔術本、こどもたち 趣味 おやつの食べ歩き 一人称:僕、お兄さん 二人称:きみ、激昂時:お前
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け
《1期生》アケルナー・エリダヌス
 ローレライ Lv20 / 勇者・英雄 Rank 1
目元を仮面で隠したローレライの旅人。 自分のことはあまり喋りたがらない。適当にはぐらかす。 ふとした仕草や立ち居振舞いをみる限りでは、貴族の礼儀作法を叩き込まれてるようにもみえる。 ショートヘアーで普段は男物の服を纏い、戦いでは槍や剣を用いることが多い。 他人の前では、基本的に仮面を外すことはなかったが、魔王との戦いのあとは、仮面が壊れてしまったせいか、仮面を被ることはほとんどなくなったとか。 身長は160cm後半で、細身ながらも驚異のF。 さすがに男装はきつくなってきたと、思ったり思わなかったり。 まれに女装して、別人になりすましているかも? ◆口調補足 先輩、教職員には○○先輩、○○先生と敬称付け。 同級生には○○君。 女装時は「~です。~ですね。」と女性的な口調に戻る。
《ゆうがく2年生》蓮花寺・六道丸
 リバイバル Lv13 / 芸能・芸術 Rank 1
名前の読みは『れんげじ・りくどうまる』。 一人称は『拙僧』。ヒューマン時代は生まれ故郷である東の国で琵琶法師をしていた。今でもよく琵琶を背負っているが、今のところまだ戦闘には使っていない。 一人称が示す通り修行僧でもあったのだが、学園の教祖・聖職コースとは宗派が異なっていたため、芸能・芸術コースに属している。 本来は「六道丸」だけが名前であり、「蓮花寺」は育ててもらった寺の名前を苗字の代わりに名乗っている。 若い見た目に不釣り合いな古めかしい話し方をするのは、彼の親代わりでもある和尚の話し方が移ったため。基本的な呼び方は「其方」「〜どの」だが、家族同然に気心が知れた相手、あるいは敵は「お主」と呼んで、名前も呼び捨てにする。 長い黒髪を揺らめかせたミステリアスな出で立ちをしているがその性格は極めて温厚で純真。生前は盲目であったため、死んで初めて出会えた『色のある』世界が新鮮で仕方がない様子。 ベジタリアンであり自分から肉や魚は食べないが、あまり厳密でもなく、『出されたものは残さず食べる』ことの方が優先される。 好きなもの:音楽、良い香りの花、外で体を動かすこと、ちょっとした悪戯、霜柱を踏むこと、手触りのいい陶器、親切な人、物語、小さな生き物、etc... 嫌いなもの:大雨や雷の音
《大空の君臨者》ビャッカ・リョウラン
 ドラゴニア Lv22 / 勇者・英雄 Rank 1
とある田舎地方を治め守護するリョウラン家の令嬢。 養子で血の繋がりはないが親子同然に育てられ、 兄弟姉妹との関係も良好でとても仲が良い。 武術に造詣の深い家系で皆何かしらの武術を学んでおり、 自身も幼い頃から剣の修練を続けてきた。 性格は、明るく真面目で頑張り屋。実直で曲がった事が嫌い。 幼児体系で舌足らず、優柔不断で迷うことも多く、 容姿と相まって子供っぽく見られがちだが、 こうと決めたら逃げず折れず貫き通す信念を持っている。 座右の銘は「日々精進」「逃げず折れず諦めず」 食欲は旺盛。食べた分は動き、そして動いた分を食べる。 好き嫌いは特にないが、さすがにゲテモノは苦手。 お酒はそれなりに飲めて、あまり酔っ払わない。 料理の腕前はごく普通に自炊が出来る程度。 趣味は武術関連全般。 鍛錬したり、武術で語り合ったり、観戦したり、腕試ししたり。 剣が一番好みだが他の分野も興味がある。 コンプレックスは身長の低さ。 年の離れた義妹にまで追い抜かれたのはショックだったらしい。 マスコット扱いしないで欲しい。
《過去を刻みし者》グレイ・ルシウス
 ヒューマン Lv16 / 黒幕・暗躍 Rank 1
やるべき事があり、やるべき理由もある。 だがその為の力が。知慧が、技術が、経験が足りない。 それでもやると決めた。決めて、武器を手に取った。 ならば繰り返すしかない。執拗に、着実に、徹底的に。 試行錯誤だ。事が成るなら手段は問わない。 ―――――――――――――――――――――――――――― 【外見】 灰色の髪に灰色の瞳。中肉中背の平凡な青年。 常に古びた皮鎧と要所を補強した皮兜で武装しており、 学生証の種族こそヒューマンとなっているものの 素顔を見たことがある者は極めて少ない。 また、当人もすすんで素性を明かそうとはしない。 【性格】 無遠慮で偏屈。禁欲的で真面目。慎重だが決断は早く、 まるで人間では無いかの様に作業的で事務的。 必要最低限の、自分にとっての事実しか語ろうとしない男。 ユーモアへの理解や相手への気遣い等も意識にはあるが、 とにかく不器用な性質の為、まず表には出てこない。 【戦闘】 良くも悪くも拘りがなく、見切りも選択も速度重視。 有効か、そうでないかの2択のみで物事を即断し、 場で利用出来る物を最大限利用して主導権を奪うスタイル。 その為、一騎討ちや果たし合い・決闘といった 正統派かつ王道の『対戦形式』には苦手意識がある。 【悪癖】 名前を呼ばれると大体1~半テンポ遅れ、 何処となくバツが悪そうな声音で返事をする癖がある。 また、人を呼ぶ時もあまり固有名詞を使わず、 「お前」「そこの」「そっちの」等の代名詞に頼りがち。

解説 Explan

【概要】
 このエピソードは、皆さんの過去を回想するエピソードです。
 学園に入学する前の『夜』の思い出が、主な題材になります。
 故郷で仲間と過ごした楽しい夜でもいいでしょう。
 逆に、一人の部屋で世界を呪ったような、憎い夜でも構いません。
 あなたが過ごした『夜』のお話を、お聞かせください。

【他PCとの絡み】
 もちろん、多人数での描写も可能です。
 学園に入学する前に出会っていた二人が過ごした夜のお話も、お聞かせくださいね。

【プラン記載にあたって】
 物語を綴るにあたって参考にしてほしいが、まだ開示したくない設定や情報がある場合。
 ウィッシュプランの方に【非公開】の欄を作ってお書きください。
 こちらはゲームマスターにしか見えませんので、ご安心を。
 逆に設定を描写してほしい場合は、【非公開】をつけずにそのまま記載していただいて大丈夫です。

【アドリブ度について】
 大事なお子様の設定を尊重して描写させていただきます。
 しかしどうしても把握しきれない部分があると思いますので、アドリブ度の記載をお願いできると幸いです。
 このエピソード特有のものになりますので、下記をご参照ください。

 アドリブ度A:アドリブOK、マスターの解釈に任せて設定を広げても可。
 アドリブ度B:基本的にOK、設定に沿ってある程度の拡張は可。
 アドリブ度C:基本的にNG、プランに記載した設定に付随する描写以外は不可。
 アドリブ度D:アドリブNG、プランに記載した設定のみ描写して欲しい。(描写する文字数が少なくなる場合があります)

【その他】
 難しく書きましたが、いつも通り皆さんの設定を深めていければと思っています。
 じょーしゃの解釈に任せていただける方、はりきって書かせていただきますね!
 ご自身の解釈で設定を深めたい方も、ゆうがく世界のみんなに伝わるように、しっかりと描写させていただきます!
 肩の力を抜いて、思いっきり皆様のプランをぶつけてきてください!


作者コメント Comment
この物語は、皆さんのアナザーストーリーの一部になることでしょう。
どんな夜を過ごしてきたのか、拙い文章ではございますが全力で描写させていただければ、と。
いつもとはまた違ったじょーしゃの文体に触れてみたい方も是非!
プランを受け取るまで、どのような物語になるのか想像がつかないところもまた面白いですね!
それでは、情熱的なプランが豪速球で投げられてくることを、楽しみにお待ちしております!


個人成績表 Report
フランツ・キャンベル 個人成績:

獲得経験:81 = 67全体 + 14個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
アドリブ度A

○回想
思い出したのは学園に来る前…道具屋をやってた頃…
そして、ガキどもが村を出たあとの夜だ。

俺の店は、お世辞にも繁盛してるとは言えねえ、趣味でやってる店だった
そのせいか、ガキどもが遊び場にしやがってた。
村の奴らもやつらも「おじじのとこなら、安心だ」とか言いやがってた。
託児所じゃねぇぞっていつも思ってたさ。

毎日毎日、ガキどもは来て、やれあれはなんだ、これはなんだと言ってくるんだ…
疲れるったらありゃしねえ…

そんなアイツらも、大きくなって、今日…旅立って行った。
清々した。やっと静かになれる。やっと子守りから開放される…
だけどなんでかな…貰ったお守り見るとよ…涙が止まらねえのを思い出した…

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:81 = 67全体 + 14個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
夜ってさ、色々思い出さない?
楽しいこともだし、めんどいのとか、反吐りそうなこととか。

夜に鳴いてる虫の音聞く度、諸々脱ぎ替えて枯葉に体突っ込んで寝た時のこと思い出すしー、
ちょっと冷えて湿気た夜の空気の匂いは、アレして族に襲われ襲撃されかけて追われて、慣れない木登りで笑いと息飲み込んでたの思い出すしー。
月とか星見たら、あのムカつくくらい広大面積な部屋の、嫌になるくらい分厚でっかい窓格子を思い出しちゃうしー。

…で、月とか星の光を見る度、それに照らされたあの部屋の水差し思い出して。
いつも役立ちお世話になったなー。飲む以外の用途でさ。
超絶酷使したよ、1番のお給金出されていーくらいに。もう支払えないけど。

ツヴァイ・リデル 個人成績:

獲得経験:81 = 67全体 + 14個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
入学前の夜、とある町の隅にて
あー…やっちゃった…勢い余って入学
しかも聖職コース!僕、神様なんて信じちゃいないのに
でも学園だし、あの子を見ちゃったし
……ほんと、何やってるんだろうね。ただの記録の映像如きに必死になって
出会ってどうするんだよ、僕

ぼんやりと空を見上げて、ふと過去を思い返して

「いつかあの子達が、すべてを背負っていく
そして、世界を救うんだ」
で、その子たちの為に自分達は死ぬって?
「うん、そうしなきゃダメ」
…お前が見た未来とやらは 本当にろくでもないことで
自分勝手だよ、お前も、あいつらも
その子たちにツケを押し付けるだけだろ
「そうだね、だからキミが支えるんだよ」


……今に見てろよ、オリジナル

プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:81 = 67全体 + 14個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
奴の隣を抜け出して、ひとり夜風にあたる。
風が拭っていくのは体温ばかりで、内で巡る思考までは冷ましてはくれない。

■回想

喪失の恐怖も、快楽を貪る様になったのも外部から刻まれた。

元々は感受性が鈍い上に自我が希薄で、要求されたことをこなすか、申し訳程度の生存本能に従って[最適解]を選択し動く、出来立てカルマみたいな奴だった。

転機が訪れたのは、山賊の奴隷になってから。
山賊の玩具になる中で、[快楽]に脳を穿たれ、生存より欲望を満たす事に優先順位が振り切れた。

そして、今度は欲望を満たすために[最適解]を選び続けていたら、身に降り注ぐ全てを[悦楽]として享受する様になっていた。

■アドリブ度B

アケルナー・エリダヌス 個人成績:

獲得経験:81 = 67全体 + 14個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
夜か……
嫌な夜もあった

あれから、もう6年経つのか

「明日はお前の誕生日だから、盛大に祝おう」
「だから、早く寝なさい」
と言ってくれた育ての両親が、政敵の手の者に討たれ、屋敷に火を放たれたあの夜

私は寝間着姿のまま、私兵の傭兵と爺やに連れられて、星のない冬の夜を……落ち延びるしかなかった
ふたりの尽力のお陰で、逃げ切れたと思ったそのとき

闇色の鎧を纏った騎士が現れた
凄腕の傭兵と、父の腹心でもある魔導師だった爺やのふたりでさえも……圧倒される剣と闇魔法

しかし、その騎士は取引を持ち掛け、結果、私達を見逃した
「屋敷の西の川に向かえ
そこには見張りはいない」

「お前が生き延びた方が……世界は面白くなる」

と言い残して

蓮花寺・六道丸 個人成績:

獲得経験:81 = 67全体 + 14個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
アドリブ度B

月の下で一人、琵琶を奏でていると生前の親友のことを思い出す
彼奴も拙僧と同じ旅芸人であった。もっとも芸風が違っていたので、一緒に興行した事はなかったが
新しいもの好きで派手好きで口が悪くて人間不信、何もかも拙僧と真逆のような男だが
根は悪い奴ではないし、何より人一倍努力を重ねる奴なので、拙僧は好きだった

あの夜、拙僧は温泉地で琵琶語りをして、その晩の宿を探していた
銭はあるが泊まれる部屋がなく、困っていたところに彼奴が声をかけてくれ、相部屋ということになった
湯浴みの時に介助してくれたが、助けてもらっておる手前そろそろ上がりたいとは言い出せず、二人してのぼせてしまったっけなあ

ビャッカ・リョウラン 個人成績:

獲得経験:81 = 67全体 + 14個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
剣の型を終えて一息入れ…ふと思い出した。



家族の勧めで入学を決めて、それで入学の準備を進めていたある日の夜。

父様が珍しく私と一戦交えようと言ってきた。
稽古ならいつも付けて貰ってたけれど、戦うって言ったのはなかった。
「ビャッカよ、一剣士として相手をしよう…本気で来い!」
それで挑んだけれど、全く歯が立たずあっと言う間に打ち負かされた。
父様の本気を初めて受けたけど、力強さも速さも鋭さも、全部が桁違いで圧倒的だった。
今思えばだけど…剣の師として、強さの一片を体感させたかったんだと思う。



入学して一年、私も強くなったと思う。だけど、あの域には届きそうにない。
うん、もっと精進しないとだね。よし、頑張ろう!

グレイ・ルシウス 個人成績:

獲得経験:81 = 67全体 + 14個別
獲得報酬:2880 = 2400全体 + 480個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
……夜。目が覚める
細部は忘れてしまった故郷の夢
起きた瞬間覚えていてもすぐ曖昧になってしまう
けれど何度も見る。繰り返し繰り返し
己の罪を突き付けられる様に

冒険者の師に教わり魔物退治を続け
師が逝った後も魔物を殺し続け
殺して、殺して、殺して殺して殺して

俺は何かを為せているだろうか

何か、出来ているのだろうか……等と

血が滲む程拳を握る
それは衝動だ
慚愧、煩悶、忸怩、悔恨、嫌悪ーーいや、憎悪ですらある
「ふざけるな」

ふざけるな。愚昧にも程がある
逃げたのだ。見棄てたのだ
お前が殺したのだ
あの悲鳴を忘れたか
償うなど、補うなど、勘違いも甚だしい

武具を、仕事道具を並べる。手入れを始める
いずれ夜も明ける
魔物を、殺しにいこう

リザルト Result

【フランツ・キャンベル】
 涙で目が覚めた。
 こんな夜はいつぶりだろうか、寝転がったベッドの上で天井を見上げる。
「あいつら、どうしてっかなあ……」
 思い出していたのは、俺が学園に来る前の話だ。

 俺の村は小さかった。
 小さな村に、趣味で『道具屋』を始めた。
 『何でも屋』とか『万屋』とか言えば聞こえはいいが、自らの趣味を雑多に集めた小さな店だ。
 繁盛まではいかなくとも、好きなものを作り、集め、売って、生活する。
 そう、俺にとっての理想……となるはずだったのだが。
「おじちゃん! これはなーに?」
「それはなあ、おいちゃんが作った特製の魔法薬だ。街の薬草屋と話し合って……」
「じゃあこれはこれは!?」
「それは危ねえから触るなよ、すこしでも扱いを間違えたら……ドカーン! だからな!」
 『おじちゃんまた嘘ついたー!』と、ガキがはしゃぎ回る。
 毎日毎日、疲れるったらありゃしねえ。
 親も親で『おじじのとこなら、安心だ』とか言いやがる。
 まったく、託児所じゃねぇんだぞ、ここは。

 とある日の、大雨でガキ共も来ねえだろうと思っていた日の話だ。
「おじちゃん大変なんだ! ルルアが!」
 今日も来やがったな。
 そいつが呼んだ名前は……【ルルア】と言ったか。
 どうせこの雨でぬかるんだ地面に足をとられて怪我でもしたんだろう。
「……ああ、どうしたそんなに慌てて」
 手元の作業から目を離し、ガキの顔を見る。
 その時にガキが見せた、恐怖に怯えた顔は、今でもよく覚えている。
「ルルアが、崖から落ちていなくなっちゃったんだ!」
「バカが、早く言え!」
 カウンターを飛び越えて、ガキと一緒にその現場へ向かう。
 大雨、崖、目下には生茂る木々。
 行方不明。
「おい! 聞こえるか!」
 雨の音にかき消される声。
 ガキをその場に残し、すぐに崖の下へと向かう。
 手当たり次第に茂みをかき分けながら歩いていると、何かに足を取られる感触があった。
「……おじ、ちゃん、きて、くれた……の」
 ルルアが、俺の足を掴んでいた。
「手間かけさせやがって、動けるか?」
 彼に立ち上がるほどの体力は残っていないようで。
「しゃーねえ、一旦俺の店まで連れていく。話はそれからだ」
 彼を背負って崖を駆け上がり、店へと到着する。
「今日はツケにしといてやる、出世したら払いに来い」
 弱った彼に、特製の魔法薬を与えた。
 効果は心許なかったが、少しは回復したようだ。
「あり、がとう……」
「ああ、次どっかに消えちまっても、探してやらねえからな」
 冗談めかして言う俺の顔は、やはり安心で緩んでいた。
「お前ら、今日は泊まって行け。また崖に落ちられると困る」
 次の日、親が謝罪をしにきたりなんだりと、いつもと違う騒がしさがあったが。
 まあガキ共が元気に育ってくれるんなら、それが一番だ。

 そして年月は流れていく。
 あの日からもう十年以上が過ぎた今日も、雨だった。
「フランツさん、本当にお世話になりました」
 ルルアも含め、ガキ共が今日で村を出ることになっていた。
 お別れの挨拶、ってヤツだ。
「ああ、お前らがいなくなって清々するよ、やっと静かな日々が送れる」
 彼らに目は合わせない。
 一度目を合わせてしまうと、何かの感情が爆発してしまいそうだからだ。
「僕たちは立派になって、必ずこの村に戻ってきます」
「おう、俺が死ぬ前か、店が潰れる前にしろよ」
 ルルアが一歩、こちらへ踏み出してくる。
「これを受け取ってください。ささやかですが、僕たちからの贈り物です」
 それはお手製の小さなお守りで。
 この村に伝わる『引き寄せの石』を削ってできたものだ。
 『どこにいても必ず君を見つける』という意味があるとかないとか。
「今まで、ありがとうございました」
 深くお辞儀をして、彼らが去っていく。
 その背中に声をかけることができず。
 静かな店で一人、音楽を聞くだけだった。

 その日の夜である。
 服をクローゼットにかけようと持ち上げた時、お守りがポケットから地面に転がった。
 拾い上げて、その石を光に透かしてみる。
「ああ、お礼……言いそびれちまったな。まあ、次に会った時に飯でも奢ってやるか」
 清々した。
 やっと静かになれる。
 やっと子守りから開放される。
 だが、その『次』は、いつになるだろうか。
「はは、なんでだろうなあ」
 このお守りを見ていると。
「涙が止まらねえや」

-----

【チョウザ・コナミ】
 雨が上がった、夏の夜。
 湿気を含んだ独特の空気。
 チョウザは学生寮に戻らず、草むらに寝そべって夜を眺めていた。
「夜ってさ、色々思い出さない? 楽しいこともだし、めんどいのとか、反吐りそうなこととか」
 その声は誰に届くこともなく、生ぬるく吹いた風に溶ける。
「湿気ってた日、何したっけ……あー。ふふっ」
 思い出していたのは、『アレ』して族に襲われかけた日のこと。
「結構追われ追跡されたっけ。ザコちゃんよく逃げられたね」
 慣れない木登り。
 その下では、松明を掲げ、声を荒げながら自分を探す人たち。
 笑いと息を飲み込んで隠れた時間。
 そんな夜もあったな、と思い出していると、遠くから虫の声が聞こえてくる。
「んーと、そうだ。虫と一緒に睡眠眠ったりしたっけ」
 今日は草むら、あの時は枯れ葉。
 枯れ葉の山を作って、そこに体を突っ込んで眠る。
「夏でも冬でも関係ない、か。今年のお正月も寝て過ごしたしー?」
 でも虫の鳴き声で思い出すのはそのシーン。
 眠る時に聞こえる鳴き声が、少し心地良かったからなのかもしれない。
 今日もその声に、目を瞑って耳を澄ましてみる。
 次に目を開けたときに見えたのは、星の光。
 月が出ていない夜だから、いっそう明く見える。
「これは、反吐りそうなこと。あんまり思い出したくないけどねー」
 広大な部屋と、分厚い窓格子。
 そこから見える月や星の光。
 そして、その光に照らされた水差し。
「いつも役立ちお世話になったなー。飲む以外の用途でさ」
 誰もいない草むらで、ふふっ、と。
「超絶酷使したよ、1番のお給金出されていーくらいに。もう支払えないけど」
 これは、チョウザがまだ学園に来る前の、日々の一幕。

 今日も月が輝いている。
 ムカつくくらい広い部屋についた、分厚い窓格子。
 全て寝静まった真夜中、その窓から漏れた月の光が照らす水差しに、そっと指先を浸す。
 男が女の指先に唇を沿わす事で所有欲を示す『口付け』という行為による見えない痕が消えることを無為に望みながら。
 そんな夜を何度も繰り返す。

 舞踏会は嫌いだ。
 この屋敷の生活全てが嫌いだが、この『舞踏会』というものは特に嫌いだ。
 ダンスパーティーという名目を置きながら、社交の場として有力な貴族が集まる場。
 眺める景色は、どこを見ても男と女。
 堅苦しい燕尾の服を着た男が、髪の毛までもキツく固め。
 女はきつく締め上げられたドレスに身を包み、人形のように置かれる。
 男が話し、女が媚びを売る。
 男が笑えば、女も笑う。
 酒が出され、料理が出され、飲み、食べる。
 手を取られればそれを拒否することはできず。
 踊る。
 踊らされているのか。
 それが終われば、その手に口付けをされ。
 そしてまた他の誰かに手を取られる。
 テンポの速い曲、遅い曲。
 ぐるぐると回る視界。
 離れれば、また手を取られる。
 無限にも思える時間が繰り返されていく。
 笑顔は崩さない。
 口調は丁寧なままで。
 体に張りついたステップ。
 恭しいお辞儀。
 この繰り返しが変わることはない。
 なぜ誰も不気味に思わないのか、不思議なくらいだ。

 そして舞踏会が終われば、またあの広いだけの部屋に閉じ込められる。
 窓越しに空を見上げれば、月だけが輝いていて。
 昨日と形を変えた月。
 変わらない自分の日常。
 月と水差しの間を結ぶ光の筋を、手のひらで隠す。
 誰かに口付けをされた指先はその陰となり。
 乾いたそれを、また水差しに浸す。
「……このまま、指先が溶けてしまえばいいのに」
 そうすれば手を取られることも、口付けをされることも無い。
 この身の価値もきっと無くなる。
「そうなれば……」
 修復されるまでは、何もされずにいられるのに。

「いやーなこと、思い出しちゃったねえ」
 チョウザはあの時のように、手のひらで月の光を隠す仕草をした。
 今日は月が出ていない。
 月と水差しを結んでいた光も、勿論そこにはない。
 溶けることはなかった指先が、今何かの自由を掴む指先へと変わっていて。
「この自由は……」
 そう言いかけてチョウザは草むらから身を起こす。
 時間なんて確認していないが、長いこと居座っていた気がする。
「もどろうかなー、せっまーい部屋に。ふふっ」
 学生寮へともどるその足取りは、いつもと何も変わらなかった。
 きっと明日も、その足取りが変わることはないのだろう。

-----

【ツヴァイ・リデル】
 今年も夏がやってくる。
 こんな眠れない夜は、いつだってあいつのことを思い出す。
 そう、僕を作ったオリジナル――【リデル】のことだ。

「あー……やっちゃった……」
 僕は人生で一番と言っていいほどに打ちひしがれていた。
 なんでかって? そう、魔法学園フトゥールム・スクエアに入学してしまったから。
「しかも聖職コース! 僕カミサマなんて信じてないのにさ……」
 でも『あの子』がいたんだよなぁ……って。
 ……ほんと、何やってるんだろうね。
 ただの記憶の映像如きに必死になってさ、『あの子』に出会ったってどうしようもないのに。
 ぼんやり空を眺めて、思い出すのはリデルの記憶。

 あの日だって、僕らの心と真反対の、雲ひとつない快晴だった。
「ねえツヴァイ、キミは『運命』ってヤツを信じる?」
 リデルの目は、笑っていなかった。
「お前が見た未来を『運命』と呼ぶのなら、それは信じないね」
「そうか、よかったよ」
「何がよかったんだよ、自分だけ世界を知った気になって、それを人に押し付けて」
 僕だって、笑ってない。
「いつか『あの子たち』が、すべてを背負っていく。そして、世界を救うんだ」
 リデルが持つ『未来視』のような力は、確かに今まで何度も仲間を救ってきた。
 僕らが『レジスタンス』として相手取った国家だって、もう崩壊寸前。
 その革命の指揮を執っていたリデルだけは、悟っていた。
「戦いが終われば、この腐った国が変わる。でも僕が起こした反乱を是としない人たちだっている」
 小さな国の、大きな動乱。
 僕らが見ることができた『世界』は、搾取を続ける『国家』という大罪に縛られた小さな『世界』で。
 そこに生きるしかなかった子供たちを救うために、僕らはその罪と戦ってきた。
「僕が生きていれば、いずれまた反乱が起きる。紛争の火種は、いつだって僕ら自身だ」
「だから、自分たちが死ぬって?」
「うん、そうしなきゃダメ」
 この反乱に『勇者』はいない。
 血で勝ち取った平和は、長くは続かない。
 大罪は振り払った。
 今度は、その大罪を血で振り払った大罪――自分たちが振り払われる番だ、と。
「だからあの子たちが、誰もいなくなったこの国を変えていく。キミは、あの子たちを見守ってやってほしい」
 リデルの願いは、それだけ。
「お前が見た未来とやらは、本当に自分勝手だよ。お前も、仲間たちも。そうやって、あの子たちにツケを押し付けるだけだろ」
「そうだね、だからキミが支えるんだよ」
 あまりにも自分勝手だ。
「リデルが生きていたって、この国をいい方向に変えていく方法があるはずだ」
「キミが未来を変えてくれるなら、或いは」
 自分が見た未来が変わらないことぐらい、リデルが一番知っているくせに。
「僕は今できる最善の方法をとるまでさ。キミはキミで、使命を全うしてくれ」
「あの子たちを見守っていてくれ、って?」
「そう、あの子たちと、この先、未来に生まれてくる子供たちも」
 そして……と付け加えられたもう一つ。
「この先、あの子たちに『救済を騙る災い』が降りかかる。それを振り払うこと」
「なんだよ、それ」
 まっすぐと僕を見つめるリデルの目は、燃えていた。
 最期まで自分の意思で、世界を変えようとした男の目だ。
「ツヴァイ、最後にもう一つ」
「なに?」
「そんなに僕の見る未来を変えたかったら、『学園』に行ってごらんよ」
「学園……なにそれ」
「色んな人が集う、学び舎。まぁ入学するにはある程度条件がいるらしいけど」
 きっとリデルが話しているのは、魔法学園フトゥールム・スクエアの話だ。
「もし僕がその学園とやらに入学出来たら、どうなるの?」
「キミは誰かの光になる。必ず」
「リデルが命を賭けて守ろうとした未来が、でたらめになるかもしれないのに?」
 あっはっはっは!! と、急にリデルが笑いだす。
 彼の笑い声を聞いたのは、これが最後だったと思う。
「決まってるよ、僕のリデル」
 ゆっくりと近づいてきて、僕の手を取った。
 右手に刻まれた紋章を、ゆっくりと撫でる。
「そんな最悪で最高な、不確定要素だらけの未来は……」
 ニヤリ、と笑って。
「喜んでキミに託すとも」

 この数日後、リデルとその仲間たちは死んだ。
 表向きには、暴走した仲間をリデルたちが止める形で刺し違えたということになっている。

 学生寮のベッドの上。
「少し眠くなってきたかなぁ……」
 そう呟いて、あの頃の記憶を必死に誤魔化す。
 だけど、言葉にせずにはいられなかった。
「……今に見てろよ、オリジナル」

-----

【プラム・アーヴィング】
 奴の隣を抜け出して、一人夜風に当たる。
「ったく、クソ暑いし風はぬるいし、たまったもんじゃねぇぜ」
 生暖かい夏の風が拭っていくのは体温ばかりで、内で巡る思考までは冷ましてはくれない。
「そーいや昔、こんな中で生きてたこともあったっけなァ……?」
 思い出しているのは、俺が『俺』になった理由とでも言えるような日々の記憶。
 機械的に生きていたような日々と、本能というものに目覚めてしまった日々。
「あー、まぁ実家にいた頃はあんまり覚えてねェ。なんだっけ、英才教育受けてたなァ、確か」
 そして戦争が起きて、疎開して。
 その疎開先に山賊が襲撃してきて。
「奴隷生活……ねェ、懐かしいモンじゃねェか」
 決して楽しいものではなかったはずの奴隷生活を、思い出す。

 戦禍を逃れるために疎開した村に、山賊が襲撃をかけてきた。
 多くのものが死に、若いものは奴隷として山賊の野営地に連れて行かれる。
 幸か不幸か命だけは助かったが、奴隷として数年間をその野営地で過ごすこととなった。
 最初の数ヶ月で、連れて行かれた者達の大半が死んだ。
 皆一様に粗末な食事しか与えられず、女は死ぬまで性処理の道具として使われていく。
 そこに人権などなく、耐えきれずに自ら命を絶つものまでいた。
 誰が見たって明らかな、地獄。
 その中で精神を保っている方が異常で、正常な者から次々と死んでいく。
 その理論で言うなら、俺は『異常』だった。
 そもそも自我などなかった俺に、異常も正常も解らなかったというほうが正しかったんだろうが。
「おい、お前はこいつの掃除でもしとけ」
 無残な姿になった動物の死体が投げられる。
 きっとこの男が鬱憤を晴らす程度の理由で屠ったのだろう。
 粗末な食事しか与えられなかった俺らには、それを食べることが生きるための『最適解』だった。
 過酷な労働だって、逆らえば殺される。
 何も言わずに従う。
 そうやって生きてきた。
 そこに感情などなく、ただ『生きる』ための『最適解』を選び続けていただけで。
 なぜ生きているのかなんて、考えたことはなかった。

 そんな俺に転機が訪れる。
 転機といっても、この生活から解放されるとか、助けが来たとかいう話ではない。
 単純に、奴隷にしていた女がみんな死んだ。
 だから次は、生きていた子供が性処理の道具として使われ始めるようになったのだ。
 もちろん俺も例外ではなかった。
 乱暴に服を脱がされ、玩具のように扱われる。
 飽きるまで何度も続き、それが数人と入れ替わっていく。
 最初はただの『仕事』だった。
 この行為自体が『生きるための最適解』で、また耐えるだけの日々だと思っていた。
 だがそれは、俺が思っていた方向とは全く別の方向に歯車を回し始める。
 波のように押し寄せる快楽。
 脳を揺さぶるような、感情の起伏。
 それを享受するために、勝手に動く体。
 生きるなんて、もうどうでもよかった。
 この快楽だけが、俺の欲望を満たしてくれる。
 そう、『欲望』という言葉の意味を、はじめてここで知った。

 それからの俺は確かに変わった。
 『生きるための最適解』から『欲望を満たすための最適解』を選ぶようになってしまった俺の頭は、身に降り注ぐ全てを『快楽』として享受するようになるまで回り続けた。
 感情の機微の度合いが、享受する快楽の量になる特異体質。
 それは性的なものだけではなく、身近に起こるスリルや喪失感ですら快楽として認識するようになってしまっていて。
 優先順位が振り切れてしまった俺の行動は、今までとは見違えるようになっていた。

 そう、『喪失』も『快楽』になる。
 喪失の度合いが大きいほどに、その快楽が大きくなるのだ。
 つまり、大切にしていれば大切にしているものほど、失ってしまえば快楽へと変換される。
 学園に入学してから、俺にも『友人』や『恋人』ができてしまったみたいだ。
 ただそれを『失ってしまいたい』と思ってしまうことがある。
 莫大な快楽のために。
 殺してしまってでも。
 ただ怖くもある。
 でも面白そう。
 二進も三進もいかずに、めちゃくちゃな感情が堂々巡りしているだけだ。

 夏の風が体温を拭っていく。
「はァ、どうなっちまうのかなァ……俺」
 ふあぁ……と気の抜けた欠伸をしながら、奴の部屋へと戻る。
 この先の俺がどうなるかは分からない。
 だけど今はまだ、このままでいいのかもれない。

-----

【アケルナー・エリダヌス】
 声が聞こえる。
 懐かしい声だ。
 誕生日の前日、眠れない私を優しく寝かしつけてくれた両親の声。
「おやすみ、【マグルダ】ちゃん」

 目が覚めた。
 『おやすみ』の声で目が覚めるなんてどうにかしている。
 呼ばれたのは私の本名で、それを知っているものは数少ない。
「お母さん、お父さん……」
 育ての親である二人を思い出す。
 そしてその二人が、私の前から消えたあの日も。

 その日は、私の誕生日の前日だった。
 幼少期の私は、とても女の子らしく可愛かった……と私は思っている。
 ワガママな私は、明日が楽しみすぎて寝たくないと駄々をこねていた。
「かわいいかわいいマルグダちゃん、明日はきっと素敵な日になるわ」
「明日はお前の誕生日だから、盛大に祝おう」
「そうよ。だから、早く寝ましょう?」
 いつだって優しい、両親の声。
「おやすみ、マグルダちゃん」
 次に目覚めた時、寝室は火の海となっていた。

 幼い私には、理解ができなかった。
 政治的な戦争なんて、どの世界にもありふれたことだ。
 でもそれが目の前で起こっているとは、幼かった私には、全く理解できなかったのだ。
「マグルダ様! こちらへ!」
 傭兵として雇われていた【カストル・ラストノート】が私を助けてくれた。
 隣で防御魔法を張ってくれているのは、いつも優しい顔をしていた爺や。
 その頃は知らなかったが、彼は父の腹心である魔導師だった。
「でも! お母さんとお父さんが!」
 隣の寝室で寝ているはずの二人。
「大丈夫よ! 私たちも一緒に逃げるわ!」
「絶対に守ってやるからな!」
 遠くから二人の声が聞こえる。
「さあ! いきましょう!」
 私は泣かなかった。
 というよりは、何も理解していなかった。
 カストルが私の目の前で人をばさりと斬っていく。
 炎の赤と、血の赤が混ざり合う屋敷。
「どれだけやってもキリがねぇ!」
 押し寄せる敵の数は、見えるだけで数十人。
「これは政治です。カストル」
「必ず、愛娘を守ってやってくれ」
 政敵が二人の命を狙っていることは明らかで。
 その二人が囮になれば、私たちは逃げられることも明らかで。
 どうしようもなく立ち尽くす私に、お母さんが優しく声をかけた。
「本当のお母さんを見つけて、守ってあげなさい」
 それにお父さんも頷く。
「私達の敵討ちなんて考えるな」
 ここで初めて、私は涙を流したことを覚えている。
 だけど感情はぐちゃぐちゃで、最後に両親と何と言葉を交わしたのかは覚えていない。

 その後は、ただただ必死に走った。
 寝巻きのまま、星のない冬の夜を落ち延びるしかなかった。
 気がつけば燃える屋敷がとても小さく見えるほど遠くにいて。
「はぁ、はぁ……ここまで逃げれば、ひとまず安心でしょう」
「老体にはちと堪えるわい……」
 カストルと爺やの二人も、逃げ切れたことに少し安心している。
 その時だった。
「――――!!」
 カストルが気配を察知して後ろに飛び退く。
 彼がいた場所には、鋭い槍が突き刺さっていた。
「私の気配に気づくとはな」
 闇色の鎧を纏った騎士。
 地面に刺さった両手槍を引き抜き、こちらに向ける。
 それが戦闘開始の合図。
「……っはあ!」
 カストルが繰り出す、隼のように舞う剣。
 その間を縫うように繰り出されるのは、鋼をも穿つと言われていた爺やの水魔法。
「……甘い」
 その全てが、闇色の騎士には当たらない。
 そして壁際に追いやられた二人は、死を覚悟する。
「っはは、こいつは割増料金でも遠慮したい相手だ……なあ騎士さんよ、見逃しちゃくれないかい?」
 傭兵が最後のハッタリで軽口を叩く。
「そうだな……カストル・ラストノート。この国随一と言われし傭兵よ、お前の利き腕を貰えるなら見逃そう」
 その言葉と共に、兜を脱ぐ闇の騎士。
 私から、その顔は見えない。
「はは、そういうことかよ……」
 そして躊躇いもなく、カストルは己の腕を切り落とした。
「西の川へと向かえ、そこには見張りはいない」
 それだけ騎士は言い残す。
 去り際、私の顔を一瞥して。
「お前が生き延びた方が……世界は面白くなる」
 その意味を、私はまだ知らない。

 そして素性と名前を偽り、旅人として今日まで生き延びてきた。
 二人は私の知力と武力の師となり。
 そして私は、魔法学園フトゥールム・スクエアへ入学することとなる。
 あの日の記憶はこびりついて離れない。
 それでも私は、今日という日を生きていく。

-----

【蓮華寺・六道丸(れんげじ・りくどうまる)】
 夜空を黄金色に引っ掻く三日月の下で、琵琶の弦を弾く。
 月光を反射して宵闇に浮かぶ青の双眸と、嵐の前ように静かな琵琶の音。
「こうやって琵琶を奏でていると、彼奴のことを思い出してしまう」
 『彼奴』と言っているのは、拙僧の親友だった旅芸人の男のことだ。
 とは言っても、まだ拙僧が遠い東の国で生きていた頃の話。
「新しいもの好きで、派手好きで。口が悪くて人間不信。何もかも拙僧と真逆のような男だが……」
 根は悪い奴ではない、と思っている。
 そして人一倍努力を重ねる姿は、自身も学ばなければいけないと思ったこともあった。
「もっとも芸風が違っていたので、一緒に興行した事はなかったが……」
 その男――【円城院・倉雲(えんじょういん・くらうん)】と出会った日のことを思い出す。

 生前の拙僧は盲目であった。
 『拙僧』という一人称のとおり、拙僧は琵琶法師でありながら修行僧として各地を旅していた。
 後に親友となる、円城院・倉雲と出会ったのも、旅の途中のふとした出来事の中からだ。
「ふむ、これは困った」
 この日は少し肌寒い日だった。
 温泉地で琵琶語りをして、その晩の宿を探していたのだが、もう十軒も断られてしまったのだ。
「さすが温泉街といったところであるな。どこも繁盛しているようだ」
 そんなこと言っている場合ではないのだが、旅には想定外がつきものだ。
 十三軒目を断られたとき、一人の男が拙僧の背後から声をかけてきた。
「どうされました? だいぶ遠くの方から歩いてきたようにお見受けしますが」
 声のした方向を向く。
「ええ、もう十三軒も宿を断られてしまって」
「それはそれは。どちらのほうから?」
 今日琵琶語りをした辺りの地名を口すると。
「そんなところから歩いてくるなんてバカですか? しかも目も見えないのに。あなた、名前は?」
「ば、馬鹿……。拙僧は、蓮華寺の……六道丸という」
「六道丸。あなたはワタクシが取っているこの宿に泊まって行きなさい。ワタクシが出て行きますから」
 十三軒も断られたのだ。
 この先どこへ行っても宿などないだろう。
「有難いお話ですが、この先どの宿も満室では?」
「それなら相部屋というのは如何か。多少窮屈にはなりましょうが、屋根がないよりはいいでしょう」
「それでは、お言葉に甘えて」
 部屋へと向かう廊下の途中で、その男に名を尋ねた。
 彼奴の名は『円城院・倉雲』というらしい。
 珍しい名だ、と言うと『旅芸人ですからね』と返ってきたのは、意外であったと覚えている。
 話の歩調が合う奴で、打ち解けるのにはさほど時間はかからなかった。
「今日は少し寒いですね、先に温泉へ行きましょう」
「せっかくの温泉街だ、そうしよう」
 出会って一時間も経たぬうちに、湯浴みの約束までしてしまうのだから、余程波長が合うのだろう。
 各々用意を済ませ、温泉へと向かった。
 戸を開き、硫黄の香りが湯気と共に体にまとわりつく。
 この瞬間が、たまらなく心地いい。
「はあ、これは絶景ですね」
「其方がそう言うのであれば、絶景なのでしょう」
 拙僧は世界を肌で感じることしかできない。
 しかしこの時ばかりは、『絶景』という意味が少し分かった気がした。
「そういえば六道丸は目が見えぬのでしたね。足元が滑りやすくなっています、手を」
「助かる。有り難う」
 久しぶりにくつろげる湯浴みになりそうだ。
「して、其方はどのような芸をなさるので?」
「そうですね、ワタクシの芸は静かなものではありませんから、祭によく出向いています。六道丸は?」
「拙僧は修行の一環で、各地を旅しながら琵琶法師をしている」
「琵琶法師ですか、なるほどこれはいいお声をしているのも納得だ」
 そうやって話していると時間を忘れてしまう。
 気づいた頃にはもう体は熱く、そろそろ上がりたいと思っていたころだが。
 介助してもらっている手前、なかなかそれを言い出せずにいた。
「六道丸、そろそろワタクシは限界です」
 彼奴も、介助している手前、あがりたいと言い出せなかったようだ。
 二人してのぼせてしまった。
 ふらつく足取りを支えてもらいながら、彼奴の部屋までもどったのを覚えている。

 ふと、風が吹いた。
「あのときに飲んだ水が、一番美味しかった気がするなあ」
 三日月の下、琵琶を片手にその頃をしみじみと思い出すのだった。

-----

【ビャッカ・リョウラン】
 刃が薄く月光を映す。
 鋭く放たれた突きは、風を切る音を鳴らす。
 流れるように、二撃、三撃と薙ぐ。
 その舞いは、そこにいないはずの敵を確実に捉えているかのような錯覚を起こすほどだ。
 リョウラン家に伝わる伝統の型。
 剣の道をひたすらに進んできて、最後に『師』から教わった型。
「ふう……ひとやすみ、かな」
 純白の両手剣を壁に立てかける。
 私の『師』である父様は、リョウラン家の当主だった。
 父と言っても実の父ではなくて、両親を失った私を引き取ってくれた養父、というやつだ。
 剣の腕も確かで、その実力は『勇猛剛強』と言われるほどの剣豪だったらしい。
「私も、あの時より強くなれたかな」
 ふと思い出したのは、そんな父様との最後の稽古……いや、戦いの話だ。

 剣が重い。
 両手にしっかりと掴んでいるはずの剣が、少しでも気を緩めれば飛んでいきそうだ。
 それでも止まることはない父様の剣戟。
 防ぎ切るのが精一杯だが、なんとか耐えること数十分。
「よし、いい出来だ。稽古はこれで終わりにしよう。十五年間、よく付いてきた」
 高身長でガッシリとした体格の父様。
 その父様が繰り出す剣戟は、片手剣でも私を圧倒する。
 元々父様が振るっていたという大太刀は、十五年間、稽古場の壁にかけられたままだ。
「父様、私は、外に出ても大丈夫なのでしょうか」
「剣の腕はそこらの剣士よりもいいだろう。私が稽古をつけてやったのだ、間違いない」
 汗を拭う父様の背中は大きくて。
「学園に行けば、私より強い剣士だってたくさんいるかもしれない。本当に世界は広い。それを肌で感じてきなさい」
 剣の道。
 こと稽古に関しては厳格な雰囲気を崩さない父様。
 その最後の稽古は、父様の剣戟をひたすらに耐え抜くことだった。
「剣は攻めるものだ。しかしビャッカが歩んだ剣の道は、守るときにこそ、その真価を問われる」
 そう、『攻める剣』は早々に稽古が終わった。
 十年近くかけて父様に教わったのは、『守る剣』の形。
「相手の攻撃を見切り、受け、そして攻めに転じる。その流れこそが、リョウラン家の剣だ」
「生きてこそ、その剣は輝く……ですね」
「そうだ、覚えておきなさい」
 長かった稽古が終わる。
「ありがとう、ございました」
 深く、父様に礼をする。
 何も語らず、稽古場を出る父の姿は強く、どこか寂しそうだった。

 明くる日。
 父様が稽古場に私を呼び出してきた。
 旅の支度をしている最中だったので、慌てて稽古着に着替えて父様の元へ向かう。
 一礼して門をくぐると、稽古場の真ん中に父様が立っていた。
 その手に握られているのは、十五年間一度も手に取ることがなかった大太刀。
 大きいとは知っていたが、父様の身の丈と同じぐらいある。
 圧倒的な威圧。
「ビャッカよ。お前が旅立つ最後の日だ。一剣士として、私が相手をしよう」
 その気迫は言葉の隅々にまで渡っていて。
 私は手のひらで二度顔を叩き、稽古着をきつく締め直す。
 そして壁にかけてある慣れ親しんだ剣……の隣。
 これから自分がお世話になる、純白の両手剣を手に取った。
「よろしくおねがいします!」
「本気で来い!」
 剣の勝負は、間合いの取り合いでその全てが決まると言っても過言ではない。
 圧倒的なリーチを誇る父様に勝つには、スピード。
 仕掛けられる前に、仕掛ける!
「――っはああ!!」
 次の瞬間、私は天井を見上げていた。
 何が起こったのかは理解できた。
 父様が突きの体勢に入った隙を見逃さず、前へと踏み込んだはずなのに。
 その剣は二度私を薙ぎ、地面へと叩きつけた。
「ビャッカに教えていない、リョウラン家最後の型だ」
 父様が、私の手を取る。
 本気の剣を初めて受けたけど、力強さも速さも鋭さも、全部が桁違いで圧倒的だった。
 剣の師として、強さの一片を体感させたかったんだと思う。
「この型を今日教えよう。それで、免許皆伝とする」
「……っはい! よろしくおねがいします!」

 そして旅立ちの日。
「やだやだやだ! ビャッカちゃんが行っちゃうなんてやだ!!」
「父様、落ち着いてくだ……」
 言い切る前に、母様が手刀で父様を堕としていた。
「いってらっしゃい、ビャッカ」
「はい! いってきます、母様!」
 
 入学して一年、私も強くなったと思う。
 だけど、あの域には届きそうにない。
「うん、もっと精進しないとだね。よし、頑張ろう!」

-----

【グレイ・ルシウス】
 よくある話だ。
 魔物が村を襲い、村人が魔物を退治する。
 この世界中のどこかで、今も起こっている話。
 ただ世界の裏側の蝶の羽ばたきが、巡り巡って何十という人の運命を変えることだってある。
 その羽ばたきが、俺たちに当たってしまっただけの話だ。

 その日は晴天だった。
 平和な村に暮らしていた俺はその日、隣の家の酪農を手伝っていた。
 村で一番の酪農家であったその家の仕事は、毎度吐きそうなほどキツかったが、それも村のためだと思えば楽なものだ。
 だが今日は少しだけ違った。
 魔物が一匹、村を襲ってきたからと、その家の主人が駆り出されていった。
 その分仕事はいつもの倍キツかったが、それでもやり通すのが俺だった。
「魔物ってどんな魔物だったんですか?」
 帰ってきた主人に質問したのを覚えている。
「なぁに、そんな強い奴でもなかったさ。少し痛めつけて追い払ってやった!」
 ガハハハ! と豪快に笑う主人は『今日の仕事は大変だったろう』といつもより多くの報酬をくれた。
 日が暮れるころ、父母がいる家に帰った。
 どこにでもある家庭だ。
 その日の夕飯は何だっただろうか、今となってはもう思い出せない。
 そしていつも通りの夜が来る。
 明日の手伝いの準備をし、寝床に入る。
 そしてまた朝が来ると思っていた。

 外がやけに騒がしく、明るい。
 金切り声のような悲鳴と、鈍い殴打の音。
 一面に広がる火の海と、血の匂い。
「おい男ども! さっさと武器を持て!」
 隣の主人の叫び声。
 状況を理解するのに数秒もいらなかった。
 昼間追い払った魔物が仲間を引き連れて戻ってきたのだ。
 寝込みを襲われた村は、ほぼ壊滅。
 村を守るために立ち上がった男たちの中に、父もいた。
 思考している間にも、我が家に魔物が押し寄せてくる。
 逃げきれない。
 芝刈り用に使っていた鎌を片手に持ち出口へ走る。
 捕まった。
 死を覚悟した。
 足の悪かった母が魔物に飛びつく。
 俺に向かって何かを叫ぶ。
 魔物が群がって母を殴打している。
 悲鳴は消えた。
 俺は逃げきれた。

 外に出るとそこは地獄だった。
 隣の主人の息子や、俺の幼馴染が、髪を掴まれ引き倒される様。
 耳から離れない悲鳴。
 髪の毛が焼ける。
 黒煙を吸い込んで喉が焼けるように痛い。
 『逃げろ』と本能が叫んだ。
 死にたくなかった。
 それだけだった。
 山道脇の獣道を、目を瞑り、耳を塞ぎながら走った。
 息をしていたかさえ覚えていない。
 ただ遠くへ。
 遠くへ。
 それだけを考えた。
 気付くと黒煙の届かない場所にいて。
 遠くからは怪物達の歓声が聞こえてくる。
 いつの間にか斬られていた背中の傷。
 燃え盛る炎の海を走り抜けたが故の火傷。
 何度も転んですりむいた膝。
 辛い、苦しい、けれど顔すら上げられない。
 胃の奥から込み上げてきそうなものを必死に押さえる。

 足音だ。
 恐い、恐い、恐い。
 動くな、動くな。
 奴等が来る。
 嫌だ。
 死にたくない。

 呼吸を殺せ。
 それは1秒か、1分か、1時間か。
 どうでもいい。
 生きろ。
 生きろ生きろ生きろ。

 頭を掴まれた。
 視線が合う。
 
 終わった。
 死んだ。
 殺される。
 嫌だ。
 死にたくない。

 けれど視界に滲んだその怪物は、紛れもなく『俺自身』で――。

 じっとりと汗をかいて目が覚める。
 細部は忘れてしまった故郷の夢を、己の罪を突き立てられるかのように何度も何度も繰り返す。
 しかしそれは起きた瞬間に曖昧になってゆき、次に寝付けばまた同じ悪夢を見せるのだ。
 ……いや、これは『夢』ではなく『罪』だ。
 だから悪夢というのはやめよう、これは、俺自身の戦いだ。
 十年程前のあの日から、何も変わらずに燃えている炎。
 決して正義の炎などではない。
 自らを縛るために、自らを炙るために燃やし続けてきた炎だ。

 冒険者の師に教わり、魔物退治を続け、師が逝った後も殺し続けた。
 殺して、殺して、殺して殺して殺して。

 その先に、俺は何かを為せるのだろうか。
 何か、出来ているのだろうか。

 血が滲む程拳を握る。
 それは衝動だ。
 慚愧、煩悶、忸怩、悔恨、嫌悪――いや、憎悪ですらある。

「ふざけるな」

 ふざけるな。
 愚昧にも程がある。
 逃げたのだ。
 見棄てたのだ。
 お前が殺したのだ。
 あの悲鳴を忘れたか。
 償うなど、補うなど、勘違いも甚だしい。

 あの日の俺を何度呪ったか。
 あの日の俺を何度殺そうと思ったか。
 俺は『生きてしまった』人間だ。
 綺麗事も何も要らない。
 血で染め上げられた人間だ。

 武具を、仕事道具を並べる。
 手入れを始める。
 いずれ夜も明ける。

 魔物を、殺しにいこう。



課題評価
課題経験:67
課題報酬:2400
あの夜に咲く物語
執筆:じょーしゃ GM


《あの夜に咲く物語》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 フランツ・キャンベル (No 1) 2020-06-26 20:19:01
そういや、挨拶はしておくべきか…
フランツ・キャンベルだ。
適度によろしくな

《大空の君臨者》 ビャッカ・リョウラン (No 2) 2020-06-29 00:58:20
勇者・英雄コースのビャッカ・リョウランだよ。
こちらこそ、よろしくね。

過去の回想で、自分は特に絡みとかはない感じ。

《過去を刻みし者》 グレイ・ルシウス (No 3) 2020-06-29 12:40:52
……む。ああ、そうか。挨拶が遅れた。
黒幕・暗躍コース。……グレイ・ルシウスだ。

仕事以外では、夜は自室に居る場合が多い。
……恐らく、だが。誰かと交流する事は無いかと思う。

《1期生》 アケルナー・エリダヌス (No 4) 2020-06-30 08:20:14
やあ。私は勇者・英雄コースのアケルナー。ごあいさつが遅れたがよろしく頼むよ。

過去か……さあ?
忘れてしまったよ。

《ゆうがく2年生》 蓮花寺・六道丸 (No 5) 2020-06-30 23:38:07
芸能・芸術コースの、蓮花寺・六道丸だ。よろしく。