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【水着】アメシスト・ティファニーの休日



ストーリー Story

 鼻孔をくすぐる潮の風。
 白波は浮き輪という揺り籠を揺らし、さざ波は子守唄となって眠りを誘う。
 目の前に広がるそれは紛れもなく、疑いようもなく、空と同じ色を反射して輝く――そう、海である。
「ここまでお疲れ様。そしてようこそ、未来の英雄さん達。どうぞゆっくり、なさってね」
 別荘の主にして、最近若者を中心に人気を博している歌姫【アメシスト・ティファニー】が出迎える。
 人々どころか魔物をも引き寄せ、ケットシーとデスレイプニールを手懐ける歌姫より、依頼を請け負った生徒一同は、アルチェにある彼女の別荘に招かれた。
 依頼内容はアルチェで休日を過ごす間、彼女の写真を撮ろうとするパパラッチや、浜辺から彼女に招かれたかのように出てくる魔物からの護衛だ。
「その代わりと言っては何ですが、別荘のプライベートビーチを好きに使ってくださいな。水着も用意してあるから、お好きなのを選んで頂戴」
 というわけで、依頼をこなしながらアルチェでバカンス! 
 ――と行きたかったのだが、パパラッチは生徒らを見て自ら撤退していくものの、魔物は彼女がビーチに来ると、これでもかとばかりに海から出てくる!
 そして今度はフラッシャーの群れ!
「あら、また来たのね? 困ったわ。今日はクロールを練習しようと思っていたのに」
 彼女、果たしてこのビーチで泳いだことがあるのだろうか?!
 白い肌が映える歌姫の美しい水着姿を拝みたいところだが、今はとにかく彼女を護れ! 未来の英雄達!


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2020-07-19

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2020-07-29

登場人物 4/8 Characters
《海中の君臨者》マーレ・フォンターナ
 ローレライ Lv12 / 王様・貴族 Rank 1
■容姿■ 見た目:色白お姉様 髪:勿忘草草色のグラデーション、毛先は紫 目:若緑色 ■本名■ フィオーレ・ソットマリーノ ■性格■ 豪快 ■好き■ 水泳、酒盛り、自由 ■嫌い■ 雷、堅苦しいこと ■口調補足■ 二人称→名前呼び捨て きちんとした式典ではおしとやか 式典時の一人称→私 式典時の二人称→貴方様、名前様 式典時の敬語→あり ■サンプルセリフ■ 「あたしはマーレ。泳ぐことと酒が大好きなローレライだ」 「こんななりだが、一国の姫だ。今は勉強のために在学中だぜ」 「なんだい?いっぱいやっていくかい?」 「硬っ苦しいのは嫌いなんだよ。自由に行こうぜ!」 『みなさま、ご機嫌麗しゅう。』 『式典くらいはきちんと致しますよ。』
《2期生》シルワ・カルブクルス
 ドラゴニア Lv15 / 村人・従者 Rank 1
細い三つ編みツインテールとルビーのような紅い目が特徴のドラゴニア 元々彼女が住む村には、大人や数人ぐらいの小さい子供たちしかおらず同い年程度の友達がいないことを心配した両親にこの学校を薦められて今に至る 一見クールに見えるが実際は温厚な性格であり、目的である世界の平和を守ることはいわば結果論、彼女の真の目的は至って単純でただの村人として平穏に暮らしたいようである しかし自分に害をなすとなれば話は別で、ドラゴニアらしく勇猛果敢に戦う 一期生にはたとえ年下だとしても「先輩」呼びをするそうだ 「私はただの村人、できる限りのことをしただけです」 「だれであろうと私の平穏を乱す者はすべて叩き伏せます」 ※口調詳細(親しくなったひとに対して) 年下:~くん、~ちゃん 同い年あるいは年上:~さん ※戦闘スタイル 盾で受け流すか止めるかでダメージを軽減しつつ、斧で反撃するという、いわゆる「肉を切らせて骨を断つ」戦法を得意とする
《比翼連理の誓い》オズワルド・アンダーソン
 ローレライ Lv22 / 賢者・導師 Rank 1
「初めまして、僕はオズワルド・アンダーソン。医者を志すしがないものです。」 「初見でもフレンド申請していただければお返しいたします。 一言くださると嬉しいです。」 出身:北国(リゼマイヤ)の有力貴族の生まれ 身長:172㎝ 体重:60前後 好きな物:ハーブ、酒 苦手な物:辛い物(酒は除く) 殺意:花粉 補足:医者を志す彼は、控えめながらも図太い芯を持つ。 良く言えば真面目、悪く言えば頑固。 ある日を境に人が触ったもしくは作った食べ物を極力避けていたが、 最近は落ち着き、野営の食事に少しずつ慣れている。 嫌悪を抱くものには口が悪くなるが、基本穏やかである。 ちなみに重度の花粉症。 趣味はハーブ系、柑橘系のアロマ香水調合。 医者を目指す故に保健委員会ではないが、 保健室の先輩方の手伝いをしたり、逃げる患者を仕留める様子が見られる。 悪友と交換した「高級煙管」を常に持ち、煙草を吸う悪い子になりました。
《新入生》スリーズル・ヴァン
 ルネサンス Lv13 / 武神・無双 Rank 1
【外見】 ・132㎝と小柄 ・短い茶髪 ・赤金のオッドアイ 【内面】 ・非常に神経質で、警戒心が強い ・慣れると大胆に絡んでくる 【呼び方(普通)】 ・一人称:あちき ・二人称:あんさん/あんさんら      名前は呼ばず○○の人のように呼ぶ      ○○には身体的な特徴、職業が入る EX)「そこの緑の人」「ローレライの人」 【呼び方(交友)】 ・一人称:あちき ・二人称:あんさん/あんさんら      名前は呼ばず○○の人のように呼ぶ      周りに交友のみいる場合、名前で呼ぶ 【好き】 ・自然 ・果物 ・水泳 【嫌い】 ・狩猟 ・自然破壊

解説 Explan

 此度の依頼内容は歌姫【アメシスト・ティファニー】の護衛です。
 ビーチに出没したフラッシャーの群れから彼女を護ることが、メインの内容となります。
 フラッシャーは名の由来である「フライングシャーク(飛翔する鮫)」の通り、水中だけでなく、短時間ながら空中でも活動する、獰猛かつ好戦的な鮫です。
 鋭い牙はもちろん、食い付けば決して放さず、水中に引きずり込もうとしますので気を付けて下さい。
 群れの数は15体。特別大きなボスはいませんが、スピードもパワーもありますので充分にご注意ください。
 NPCのアメシスト・ティファニーは戦闘には参加しません。また、彼女の性質上、殺生する場面は見せない形にして頂きたく思います。
 フラッシャーを倒し、歌姫のビーチにて海を満喫しましょう!


作者コメント Comment
 こんにちは。或いはこんばんは。七四六明(ななしむめい)と申します。
 此度も簡単ながら、戦闘もののエピソードを用意させて頂きました。挙って参加頂ければ嬉しいです。
 アメシスト・ティファニーの水着は残念ながら皆様の想像に託すところとなりますが、皆様の水着姿を楽しみにしております。


個人成績表 Report
マーレ・フォンターナ 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
○戦闘
【魚心あれば水心】で仲間の行動を支援
支援方法としては、
・【権威】できりょくを減らすことを試みる
・引きずり込まれそうな仲間の救出
・歌姫に近い敵に攻撃
等を行う

基本は、〈双鉄扇〉での通常攻撃
オズワルドが護衛中の間は、敵を追い払うように立ち回る
歌姫が敵を視認しなくなったら、本格的に攻撃を開始
「よっし、こっからは、切り刻んでも問題ないな!」
「はっはっは、海洋国家産まれの恐ろしさ、その身に刻んでいけ!」

○戦闘後
サメは食べられないのか他の参加者に聞く
食べられそうなら、食べようとする
「あたしの国では、サメも食べたが、こいつは食べられるのか?」

【水泳】で海を全力で楽しむ

シルワ・カルブクルス 個人成績:

獲得経験:90 = 60全体 + 30個別
獲得報酬:2250 = 1500全体 + 750個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
今回もまずは、フラッシャーたちを『挑発』してできるだけ多く彼女が見えない場所まで引き付けて『忍耐』や『衝撃享受』、『部分硬質化』で対処する
また、水に引き込まれそうになった場合は『基本斧術』での『通常反撃』でダメージを与えることによって怯んだ隙に距離を開けておく
ちなみに、きりょくの回復が必要と感じた時に「ちまき」を使って回復する

戦闘後は、ドリングを飲みながらティファニーのライブを楽しんでいく

オズワルド・アンダーソン 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:165 = 60全体 + 105個別
獲得報酬:3750 = 1500全体 + 2250個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
メイン:彼女の護衛

護衛:メイン活動。
散歩と嘘をついてビーチから距離を取る。
彼女の視界に入らないよう自然友愛の精霊にアピールをお願いする。

視界が外れたら
「雨の恵み」を使い雨が降ったところで
医学の知識で風邪をひくから、しばらく彼女に別荘地に戻ってもらうよう
「信用、説得」を試み、確認を取ったところで仲間と合流

戦闘:遠距離攻撃、回復や状態異常の支援に回る。

「言の葉の詩:ノクターン」で眠気を誘い、
「あぶないくすり」を鮫の口に放り込み、
「アクラ、マドガトル」で遠距離攻撃。
怪我をした仲間には「リーラブ」を使用。

まりょくが半分のところで魔力の実をかじる。


戦闘後:陣地作成で綺麗な状態に直してから歌姫と合流。

スリーズル・ヴァン 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■初めての課題で、サメと対峙とは…
初めての課題で緊張しているが、表に出さないようにしている。

■近頃のサメは、とべるでありんすか?
接敵した段階で、アメシストに避難するように声掛けをする。
護衛は、他の人にお任せをして、自身は、戦闘態勢にうつる。

戦闘では、【気合/追跡/跳躍】で数が多いので逃がさないようにしながら通常攻撃。
食いつかれないように立ち回り、【心頭滅却/緊急回避/やせーの勘】で応戦。

引きずり込まれた場合は【息止め/水泳】で救助が来るまで、耐える。
味方が引きずり込まれた際は、脱出できるように攻撃を行う。

■海はきれいでありんすね…
無事に対処できれば、【水泳/運動神経】海を楽しむ。

アドリブ度:A

リザルト Result

 【オズワルド・アンダーソン】と【シルワ・カルブクルス】は経験済みだったが、改めて、【アメシスト・ティファニー】の魔物を引き寄せる力の凄さを実感させられる。
 空を飛翔する鮫、フライングシャーク――通称、フラッシャーの群れが一五体。
 大口を開けて飛び込んできた一体の下顎に、振り向きざまのアッパーカットを決める。
 食いしばった衝撃と合わせて歯が砕けたが、さすが鮫。折れても入れ替わるようにすぐさま生えて来る。
 仕留めるまでには至れなかったが、【スリーズル・ヴァン】は気合充分とばかりにジャブして見せた。
「体が小さいからって、そう簡単に行くと……! 思わないことでありんす」
 大口を開けて威嚇するフラッシャーの真横から、風の塊が激突。海へと吹き飛ばす。
 咆哮を上げない鮫の代わりに、【マーレ・フォンターナ】の軽快な笑い声が響き渡る。
「あんた達! あたしはマーレ・フォンターナ! 海洋国産生まれの恐ろしさを、名前と一緒に刻んでおけ!」
 二枚の鉄扇で扇ぎ、自分目掛けて飛び込んで来る大口の中へ、風を送る。
 口の中で回る風に飛ばされた鮫は目が回ったのか、海に叩き込まれるとピクピクと痙攣し、疑似的な混乱状態に陥って動かなくなった。
「……オズワルドさんは、上手くやっているようですね」
 硬質化した腕にわざと食いつかせ、斧で首を両断。
 直後飛んできた鮫の顔面に、食い付いた鮫の頭を払いつつ、硬質化した拳での裏拳で殴り飛ばした。
「来なさい、フラッシャー。このシルワ・カルブクルス。平穏を乱す者に容赦はしません」

 一方、アメシストを戦線から遠ざけたオズワルドは、掌に作り上げた雨雲の種とも言うべき魔力を吹き付け、上空に送っていた。
(これで充分かな)
 しかし、散歩に行きませんかと誘ったまでは良いものの、二人きりは少しマズかったか。それこそパパラッチに撮られたらと思うと、警戒は怠れない。
 だがオズワルドにとっては、別の問題が発生していたりする。
「ふふっ。私もまた会えて嬉しいわ」
 精霊ハナと戯れる彼女はタオルを羽織っているが、その下は水着だ。
 泳ぐつもりだったのだし、別荘の敷地内なのだから問題はないのだが、オズワルドだって一人の男。思春期こそ終えているつもりだが、ある程度は意識してしまうわけで。
「どうかなさいました?」
「い、いえ。何も」
「ふふっ」
「何か、おかしかったでしょうか」
「いいえ、ごめんなさい。ただ、前にもこんなお話をしたなって思って」
「……よく覚えてらっしゃいますね」
「えぇ。素敵なサプライズをしてくださったのだもの……あら、雨?」
 雨の恵みが届いたようだ。
 これで彼女を別荘に送る口実が出来る。
「アメシストさん。その格好では風邪を引いてしまわれます。医学を学ぶ者として、依頼人に風邪を引かせるわけにはいきません。通り雨のようですから、すぐに晴れます。それまで、別荘に戻られてはいかがでしょう」
 精霊のハナにも身振り手振りで、別荘に戻るよう促して貰う。
 雨足が徐々にだが強くなり始めて、アメシストは残念そうに微笑んだ。
「そうね。これ以上ご迷惑をお掛けしてはいけないわ。エスコート、して頂けますか」
「……もちろんです。歌姫様」

 戻り、戦線。
 オズワルドの降らせる雨と相反する形で、戦いは激しさを増していた。
「どうしたでありんすか? あちきはそちらではござりんせん。も少し本気で、追いかけておくんなんし」
 ザラザラの鮫肌も何のその。
 空飛ぶフラッシャーを足蹴に、スリーズルは空中を駆け回る。
 真っ直ぐに口を開いて来るフラッシャーの鼻先を捕まえて膝蹴り。怯んだ脳天に、硬く組んだ両手を振り下ろし、叩き込む。
 丁度、海から飛び上がって来た一体が落とされた一体と共に海に落ちて、再度飛び上がろうと見上げた眉間にスリーズルの足が乗り、足蹴にされる。
 怒ったフラッシャーが追撃のため海面から飛び出し、水面と平行に飛翔。丁度足場を失い、海に落ちたスリーズルへと飛び掛かる。
 が、スリーズルより先に吹きすさぶ風が口の中に突っ込まれて、吹き飛ばされた。
「はっはっはぁ! 寂しいじゃあねぇか! あたしを無視するんじゃねぇよ!」
 二つの鉄扇から繰り出される風が、元々長い間飛べるわけでもないフラッシャーの行く手を更に阻み、邪魔し続ける。
 さすがに邪魔だと思ったか。二体のフラッシャーが挟み撃ちするように、左右から飛び掛かって来た。
「おぉおぉ! 活きが良いじゃあねぇか!」
 左右から同時に二体。鉄扇も二つ。
 だが、マーレは二つの鉄扇で片方にだけ風を送り、向かい風で一度海に沈め、もう一度飛翔させる手間を掛けさせる。
 もう片方が自分に飛び掛かって来る直前、龍の翼を広げて急降下してきたシルワと交代する形で下がる。
 降下の勢いのまま振り下ろされた斧が、フラッシャーの頭を両断した。
 遅れて飛び込んできたフラッシャーは盾で受け止め、砂浜に押さえつけると、斧で一刀両断した。
「マーレさん、大丈夫ですか」
「おぅ! 悪いなぁ、シルワ!」
「構いませんよ。ローレライの特性、ですか。一体遅らせて頂かなければ、片腕差し出していたところです」
「おぉよ! 魚心あれば水心ってな。鮫の心はわからねぇが、仲間の心ならわかって来るってもんよ。まぁ今回、助けられたのはあたしの方だがな! だからあんがとよ!」
 と、丁度海に落ちたスリーズルが砂浜に泳ぎ着いた。
「ぶあぁっ! はぁ、はぁぁ……うっかり海に落ちて焦りんしたが。心配いりんせんしたね。距離も短かったし、何より数がだいぶ減った様子でありんす」
 陸でシルワに両断されたのが五体。
 マーレが翻弄し、スリーズルが空中戦で仕留めたのが四体、海面に浮いている。
 残り六体。だがどうやらここからは、今までと同じ様には行かないようだ。
「なんでありんす?」
「ん?」
 海面に浮かんでいる四体に、残る六体が食らい付いている。
 鮫の類は数万倍に希釈された血の臭いをも嗅ぎ分けると言うし、共食いもする。
 海面に浮かぶ仲間の血の臭いに興奮して、もはや思考回路を停止させて食らい付いているのだろう。
「うちの国では鮫も食ったもんだが。あの鮫、美味いのか?」
「鮫の身は独特な臭いがキツくて食べられないと聞きますが……フラッシャーも、例外ではないかと思われます」
「そもそも、空飛ぶ鮫でありんしょう? 何食べてるかわからないでありんすし、止した方がいいのではござりんせんか?」
(むしろ、よくあの光景を見て、食欲が湧くでありんすね……)
 仮にも仲間同士が喰らい合っていて、海面には血が広がっている。
 スリーズルからしてみればとても食欲が湧くような光景ではなく、祖国の習慣からだとしても、やはり肝が据わっていなければ、その発想は出ないと思った。
 臆してはないものの、二人に聞こえない程度の吐息が、思わず漏れる。
「っと? 治まったか?」
 急に今までの喧騒が消えて、海面を打つ雨音だけが聞こえる静寂に包まれる。
 血は海の中に溶けて、フラッシャーは背びれも見せなくなった。
 嵐の前の静けさ。
 三人の脳裏に同じ言葉が過ぎった瞬間、狙ってましたとばかりに六体のフラッシャーが一斉に海面より飛び掛かって来た。
「一斉に来たでありんす!」
「上等! 海の支配者がどっちか、思い知らせてやるぜ!」
 スリーズルとマーレが構え、シルワも斧を握り直す。が、最後尾のシルワは背後にある気配に気付き、斧を握り締めていた手から力が抜けた。
「どうやら、そこまで身構えなくても大丈夫のようです」
「――宵の夢を」
 仲間を喰らい、食欲を暴走させていたフラッシャーから血の気が抜ける。
 元々長時間の飛行は出来ないフラッシャーだが、オズワルドの言の葉がさらに飛行時間を奪い、三人に届くことなく次々と砂浜にギリギリで届く形で落ちた。
「皆さん、お怪我はありませんか」
「はい、三人共無事です」
 そっと胸を撫で下ろし、オズワルドは三人の下へ。
 砂浜に打ち上げられた形のフラッシャーは苦しんでいる様子で、過呼吸になっていた。
「鮫は回遊魚ですから、泳ぎ続けていないと呼吸が出来ません。フラッシャーも同じです。打ち上げられた状態では、いずれ息絶えるでしょうが……」
 つまり、苦しみながら死んで逝く。
 スリーズルの胸の中で、ズキズキと痛むものがあった。
「あちきは、狩猟が好きでありんせん。これは狩猟ではありんせんが、無暗に苦しめてしまうのなら、せめて一思いにと、思うでありんす」
「そうですね。逃がしても他の人を襲ってしまいます。私とスリーズルさんで解体してしまいましょう。後始末をオズワルドさん、お願いします」
「えぇ。僕は戦闘にほとんど参加できませんでしたから――シルワさん!」
「え――?!」
 オズワルドに叫ばれて気付く。
 同時に六体もの相手に掛けたためにムラがあったのか、個体差が出たのか。まだ動けるだけの力を残していた一体が、シルワに噛み付かんと飛び掛かって来た。
 咄嗟にマーレの鉄扇が起こした風が間に入り、飛び退いたシルワを受け止めると同時、オズワルドが口の中に薬を抛(ほう)る。
 頭上から飛び掛かったスリーズルの鉄拳が口を閉じさせ、無理矢理薬を呑み込ませた。
 薬を呑み、気絶したフラッシャーはそのまま動かなくなる。
 嵐のように過ぎ去った一瞬の攻防に心身疲れ果て、四人は肩で息をする。
「すみません……僕の責任ですね」
「なぁに言ってんだ! そのミスも、あんたが自分で回収したんだろ?! だったらプラマイゼロだろ?! シルワも怪我してねぇんだからノーカンだ、ノーカン!」
 沈みかけた空気を、マーレが鉄扇で扇いだが如く一蹴した。
 シルワも同調し、そうですねと頷く。
「オズワルドさんのお陰で、難を逃れたのです。私が油断していたことも事実。ですから、どうぞお気になさらないでください」
「……すみません」
「では予定通り、あちきとドラゴニアの人とで解体いたしんす。金髪ローレライの人と海洋国家の人とで、後始末を頼むでありんす」
「よぉし、わかった! で、後始末とは具体的にどうする! 食べてみるか!?」
「アメシストさんには刺激が強いと思いますので、今回はご遠慮ください。僕が燃やしますので、鉄扇で風を送って火を強めて頂けますか。消火はやりますので」
「うん、任されてやろう!」
 方針が決まると、オズワルドは青い果実を齧る。
 魔林檎とも呼ばれる、魔力を回復できる魔力の実だ。
「六体全部に言の葉を聞かせるのは、さすがにオズワルドさんでも応えましたか」
「あぁ、実はアメシストさんにも眠って頂いておりまして。あの方に魔物の殺生を見せるのは、どうしても気が引けたものですから。念のためにと」
「……そうですね」
 彼女は知っている。
 自分のために、自分に飛び掛かって来る魔物が、裏で始末されていることを。そして彼女が知っていることを、前回の護衛依頼で二人も知った。
 故にシルワも躊躇なく斧を振ったし、オズワルドも全力を賭した。
 スリーズルとマーレは今回が初めてだったが、二人の様子を見て改めて、歌姫が裏で悲しんでいることを知り、秘密裏に処理するのに、文句を挟む余地など生まなかった。
 シルワが丘で仕留めた分も含め、シルワとスリーズルの二人でより細かく分解。
 終えると、オズワルドのマドガトルが山積みになったフラッシャーを焼き、マーレの鉄扇が送る風を受けてより激しく燃える。
 頃合いを見てオズワルドのアクラで鎮火し、潮の流れに任せて海へと散骨した。
 これで終わり――としたいところではあるが。
 血塗れの砂浜で、尚且つ疲れ切った状態で遊泳、とはいくまい。
「では、後は僕のお仕事ですね」

 ケットシーのザラザラの猫舌に頬を舐められ、起こされる。
 一体いつから眠っていたのか。
 雨が降って、手を引かれるまま別荘に戻って、ソファに隣り合って座ったまでは憶えているのだけれど、彼の言葉を聞いていたら眠たくなって――。
「お目覚めですか」
 と、ローレライの青い瞳が、顔色を窺っていた。
 少し後ろに、学園から来た他三人の姿も見える。雨は、止んでいるようだ。
 状況は何となく察したけれど、敢えて聞くような無粋なことはしない。
 彼らが護ってくれた平穏を、精一杯楽しむだけ。
「せっかく水着に着替えたのだし。泳ぎたいのですが、皆様もご一緒なさいませんか?」
「えぇ、是非」

「はっはっはぁ! 海洋国家出身のあたしに挑むなんざぁ、いい度胸じゃあねぇかぁ!」
「舐めて掛からないでおくんなんし。イノシシは島から島へと泳いで渡ることも出来る遠泳能力の持ち主でありんす!」
 競争するマーレとスリーズルは、どんどん沖へと泳いでいく。
 オズワルドがリーラブを掛けて回復させてくれたとはいえ、どこまで泳ぐつもりなのか。
 浮き輪で浮くシルワは凄まじい速度で小さくなっていく二人を見届け、すぐ側でオズワルドとクロールを練習するアメシストを見る。
 二人が速いのか彼女が遅いのか両方の理由か。いずれにせよ、前の護衛でも思ったのだが、なんだか邪魔してはいけない雰囲気を感じる。
「……体が冷えて参りましたね。休憩がてら、上がりましょう」
 もっともらしい理由を付けて、翼を羽ばたかせて砂浜へと戻る。
 苦しそうに顔を上げたアメシストは、どんどん沖へと泳いでいくマーレとスリーズルを見て、どうしたらあんなに速く泳げるのかしら、と首を傾げる。
 だが片やローレライ、片やイノシシのルネサンス。ヒューマンのアメシストが二人のレベルに追い付くには、まだまだ掛かるだろう。
「アメシストさんも、だいぶ上達しましたよ。ですが少し休憩を挟まないと。体が冷えてしまいますから」
「そうね。じゃあ戻りましょ――あら」
 とにかく咄嗟の事で、それこそフラッシャーの如く飛び出した結果だった。
 何か柔いものが自分の腹部に当たっていると感じ、それの正体がわかると、頭の中が沸騰しそうなほど顔が熱くなった。
 アメシストが余りにも涼しい顔をしているものだから、余計に恥ずかしくなってくる。
「ごめんなさい。急に脚をつってしまったみたいで」
「い、いえ……って、脚をつられた、のですか。では早く処置をしませんと――」
「なら、エスコートしてくださる?」
「……もちろん」
 とは言っても手を引くわけにもいかず、どうしたかというと、歌姫の異名に相応しく、お姫様抱っこで運ばれる。
「なかなかやるじゃあねぇか! だけどこの先ついて来れるかなぁ!」
「望むところ! 遠泳を得意とするイノシシのルネサンスの真骨頂は、ここからでありんす!」
 マーレとスリーズルの勝負は、まだ決着しない様子。ではもう少し、続けていて貰おう。
 彼女のためにと砂浜にあった血の気をすべて洗い流し、三人がより楽しめるようにとリーラブで体力を回復させてくれた優しい人に少しでも、憩いの時間を与えたい。
「あの。今更ですが何と呼べば?」
「そう、ですね。オズワルドでも、アンダーソンでも、ご自由に」
「じゃあ、また遊びに来てくださいね。オズさん」
 ノクターンでも掛けられただろうかと、錯覚しそうになった。
 今年の夏は暑い。



課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
【水着】アメシスト・ティファニーの休日
執筆:七四六明 GM


《【水着】アメシスト・ティファニーの休日》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 スリーズル・ヴァン (No 1) 2020-07-16 06:06:33
スリーズル・ヴァンでありんす。武神・無双専攻のルネサンスでありんす。
あちきは近づいて、どうにかするしか能がないでありんす。

殺生シーンは見せぬように気をつけていきたいでありんす。

《海中の君臨者》 マーレ・フォンターナ (No 2) 2020-07-18 17:34:20
おっと、いけない。
遅くなってしまった。

マーレだ。よろしく頼むぞ。
権威で相手の力を削ぎつつ、通常攻撃にうつろうと思う。
サメ共に海洋国家産まれの恐ろしさ叩き込んでやるぜ。

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 3) 2020-07-18 19:13:49
今日、でしたね…(遠い目)

僕は彼女の護衛に入りつつ、視界に入らないようにブリキのバケツを被らせたり、自然友愛で視界を外したりしますね。

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 4) 2020-07-18 19:36:46
ふと思ったのですが、ローレライの技能にある雨の恵みで雨を降らせて止むまで別荘に待機させることはオッケーなのでしょうか。
出来ればそれを行いたい。

《新入生》 スリーズル・ヴァン (No 5) 2020-07-18 19:55:47
良かったでありんす。おひとりもお顔を拝見できぬまま現地へ行くことになるかと思ったでありんす。

ご婦人が同意してくだされば可能でありんしょう。
ご婦人については、ローレライの男の人にお願いするでありんす。
何やらあんさんは、守るのが得意そうにお見受けしなんす。

海洋国家の人は攻撃がメインでありんすな?
数減らしよろしくお願いするでありんす。

引きずり込まれそうになったら、お互い声をかけるので、助けていただけるとありがたいでありんす。

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 6) 2020-07-18 20:18:34
うっ…ギリギリまで顔出しせず申し訳ない。

一応書いた護衛の行動ですが
・自然友愛にお願いして彼女のビーチへの視線を外す。
・「雨の恵み」で雨降らし、風邪を引くなど医学の知識を教えつつ雨が止むまで別荘で待機してもらうよう説得を試みる。
・仲間に合流、もしくは彼女に向かう鮫を仕留める。

戦闘は遠距離攻撃が可能ですのでそちらで。

くらいですかね。
成功しやすいよう一般スキル上げときますね。

《海中の君臨者》 マーレ・フォンターナ (No 7) 2020-07-18 21:29:10
ほんとにすまない…

オズワルドが護衛してくれるんだな。
なら、安心して攻撃させてもらおう。
こっちの行動は、前に話した通りだ。
1匹たりとも向かわせないようにしよう。
臣民を守るのも王族の役目だしな。

《新入生》 スリーズル・ヴァン (No 8) 2020-07-18 21:57:56
あ、ちがっ…ちがうでありんす!せめているとか、そういうのではござりんせん!
その、あちきは、初めての依頼でありんす。
それでその、不安だったとか、さみしかったとか、べつにそういうことではござりんせん。決して、そういうことではっ…!(あたふた)

こほんっ…
とにかく、あちきは海洋国家の人と同じで、護衛の人が誘導できるまで、時間稼ぎに徹するでありんす。
どうぞ、宜しくしておくんなんし。

《2期生》 シルワ・カルブクルス (No 9) 2020-07-18 23:04:58
わたしもぎりぎりのところまで顔出しできなくて、すみません
改めてまして、村人・従者コースのシルワ・カルブクルスです

わたしの方は、挑発してできるだけ多くの鮫をティファニーさんから引き離す形になりますね