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死人と語らうひととき


ストーリー Story

 日没、シュターニャの寂れた裏路地。
「そこのお客さん、ちょっと見ていかないかね」
 70歳の鷲鼻の年老いたヒューマン男性が、行き交う通行人に声を掛けていた。
「儂は名無しの商人と通している商売人なんだがね。面倒なら適当にジジイやらじーさんやら好きに呼んでくれて構わないがね、本名は商売柄勘弁しておくれ。何せ、扱う物が物だけに」
 相手が足を止めると、まずはと名乗った。
「怪談話にぴったりの季節が訪れたという事で、どうだね。少し怖い思いをしてみないかね? この魔法の蝋燭である死人(しびと)帰り蝋燭で、なかなか手に入らない珍しい品だ」
 それから合法非合法の商品がたっぷりと入っている魔法のトランクから、紫色の蝋燭を取り出した。
「蝋燭に会いたいと思う亡くなった人物の名前を書いて、着火したら青い火が点くと共に、現れるんだがね。火が消えるまでの1時間だけ生前と同じように触れたり言葉を交わしたり、飲食をしたり共に過ごす事が出来る。ただし、使う時は騒がれない場所で頼む。品から儂の事が知られて、商売に影響が出てはたまらんからな」
 ニヤニヤしながら使い方を話した。
「最後に、その人物が本物なのか魔法で作られた幻なのかは儂には分からない……どうするね?」
 名無しの商人はそう言ってから、改めて蝋燭を差し出した。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2020-08-03

難易度 簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2020-08-13

登場人物 4/8 Characters
《新入生》フランツ・キャンベル
 ドラゴニア Lv12 / 村人・従者 Rank 1
■容姿■ 見た目:気だるげな中年男性(脱ぐとムキムキ) 髪:銀髪 目:桔梗色 ■口調補正■ 一人称:俺、おいちゃん(主に年下に話すときに使用) 二人称:兄ちゃん、姉ちゃん、名前呼び捨て 語尾:~だぞ。~だわ。 ■性格■ 面倒くさがり 趣味優先 ■趣味■ 道具の製作、修理 ■宝物■ 子どもたちに貰ったお守り 『引き寄せの石』と呼ばれる石を削ったお手製 『どこにいても必ず君を見つける』という意味があるとかないとか。 ■苦手■ 面倒くさいもの ■サンプルセリフ■ 「名前、名前ねぇ…、おいちゃんはフランツ・キャンベルだぞ」 「おいちゃん、めんどくさいことはしたくないんだわ」 「えーはーたーらーきーらーくーなーいー」 「はぁ、しゃーない、ちょっとだけだぞ」 「帰って来れる場所くらい作ってやるよ」
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《ゆうがく2年生》蓮花寺・六道丸
 リバイバル Lv13 / 芸能・芸術 Rank 1
名前の読みは『れんげじ・りくどうまる』。 一人称は『拙僧』。ヒューマン時代は生まれ故郷である東の国で琵琶法師をしていた。今でもよく琵琶を背負っているが、今のところまだ戦闘には使っていない。 一人称が示す通り修行僧でもあったのだが、学園の教祖・聖職コースとは宗派が異なっていたため、芸能・芸術コースに属している。 本来は「六道丸」だけが名前であり、「蓮花寺」は育ててもらった寺の名前を苗字の代わりに名乗っている。 若い見た目に不釣り合いな古めかしい話し方をするのは、彼の親代わりでもある和尚の話し方が移ったため。基本的な呼び方は「其方」「〜どの」だが、家族同然に気心が知れた相手、あるいは敵は「お主」と呼んで、名前も呼び捨てにする。 長い黒髪を揺らめかせたミステリアスな出で立ちをしているがその性格は極めて温厚で純真。生前は盲目であったため、死んで初めて出会えた『色のある』世界が新鮮で仕方がない様子。 ベジタリアンであり自分から肉や魚は食べないが、あまり厳密でもなく、『出されたものは残さず食べる』ことの方が優先される。 好きなもの:音楽、良い香りの花、外で体を動かすこと、ちょっとした悪戯、霜柱を踏むこと、手触りのいい陶器、親切な人、物語、小さな生き物、etc... 嫌いなもの:大雨や雷の音
《ゆうがく2年生》樫谷・スズネ
 ヒューマン Lv14 / 勇者・英雄 Rank 1
「ただしいことのために、今の生がある」 「……そう、思っていたんだけどなぁ」 読み方…カシヤ・スズネ 正義感の強い、孤児院生まれの女性 困っている人には手を差し伸べるお人好し 「ただしいこと」にちょっぴり執着してる基本的にはいい人 容姿 ・こげ茶色のロングヘアに青色の瞳、目は吊り目 ・同年代と比べると身長はやや高め ・常に空色のペンダントを身に着けており、同じ色のヘアピンをしていることも多くなった 性格 ・困っている人はほっとけない、隣人には手を差し伸べる、絵にかいたようなお人好し ・「ただしいことをすれば幸せになれる」という考えの元に日々善行に励んでいる(と、本人は思ってる) ・孤児院の中ではお姉さんの立場だったので、面倒見はいい方 好きなこと おいしいごはん、みんなのえがお、先生 二人称:キミ、~さん 慣れた相手は呼び捨て、お前 敵対者:お前、(激昂時)貴様

解説 Explan

 死人帰り蝋燭を使う場所はどこでも構いません。名前を書いて火を点けると、1時間だけ一緒に過ごす事が出来ます。


作者コメント Comment
 プロローグを読んで頂き、大変ありがとうございます。
 亡き大切な人と貴重なひとときを過ごして下さい。
 少しでも楽しんで頂ければ、幸いです。


個人成績表 Report
フランツ・キャンベル 個人成績:

獲得経験:19 = 16全体 + 3個別
獲得報酬:540 = 450全体 + 90個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■心情
きっと…生きている…そう信じたいんだ…

■行動
蝋燭を受け取る数日前に、村から連絡が来た
一番来てほしくない手紙だった
だから、今回蝋燭を貰えた時、確かめるチャンスだと思った

だが、誰を呼べばいい…
どいつらにも死んでほしくない…生きていてほしい…
立派になって戻るって、言ってたあいつらが、死ぬわけない…
でも、もし…この手紙が本当なら…俺は、確かめなければならない…

…この中で一番の年長者は、ジャックだ。
あいつが、くたばってるなら、あきらめがつくか…

震える手で、蝋燭に火をつける…
…誰も現れない。はは、ガセだよな。
そんな蝋燭あるわけない…
踵を返した先に、あいつはいた。
アァ、神様ってやつは、なんて非情なんだ

フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:19 = 16全体 + 3個別
獲得報酬:540 = 450全体 + 90個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●目的
死別した本物(以下、真フィリン)と邂逅。稽古を頼む

●行動
悩みに悩んだ末、誰もいない深夜の屋外で点火。
謝りたい、伝えたい、聞きたい…いっぱいあるけど、
真フィリンを死なせた自分が許せず、全て飲み込んで
「手合わせ、させて」

生前の罵りにを軽く受け流した時の

『一人で全ては救えなくても、今日助けた貴女が誰かを助けてくれるかも』

という言葉を自分は叶えられたか、見てほしいと。

●補足
装備はギラの守護剣で『全身図4(大剣重装)』
(この姿と戦い方は真フィリンがしてない独自の者)
真フィリンの強さはお任せします。
過去の記憶は『ものすごい強い、絶対かなわない』ですが
今ではフィリンも一期生TOP5の実力者なので…

蓮花寺・六道丸 個人成績:

獲得経験:19 = 16全体 + 3個別
獲得報酬:540 = 450全体 + 90個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
不思議な話に興味を持って蝋燭を受け取ったはいいが、輪廻転生を信じているので、現れるのは初めから幻だと思っている
育て親や友達は懐かしいが幻に会っても虚しいだけ…
そういえば父の顔を見たことがなかった(母とは死んでから会った
今から関係が改善できる事を期待しているわけでもないが、父親の顔くらい折角だから見ておこう

『瀧・吉宗』
そう書いて火をつける
現れるのは白髪交じりの黒髪と黒い目をした、険しい顔立ちの痩せた男

父は不義の子だと思っている拙僧のことを詰る。笑って聞き流す。
母のことを悪しざまに言う。いい気はしないが、議論しても仕方がないので黙っている。
学園生のことに言及しだしたその時、父の姿がふっと消える。

樫谷・スズネ 個人成績:

獲得経験:19 = 16全体 + 3個別
獲得報酬:540 = 450全体 + 90個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
死人と話せる…?不思議な話だな
あの子たちに、先生に会いたいけれど
…今はやめておこう、まだ無様な姿を見せたくないし
そういえば……やってみるか
場所は夜の自室、もし相手が飲食が可能だった時用に簡単なお茶菓子とお茶を用意して
思い描くのは、かつて孤児院にいた頃に一度だけ出会った、とある女性

名前を書かないと…ええと、確か名前…思い出した
「レーア・エラード・ジェンダート」

大地の色の髪、新緑の瞳
…一度しか会わなかったけど、記憶のままの姿だった
私はそもそも、死に立ち合ったわけではない
ただ人伝に聞いただけだけど
久しぶりです、でいいのでしょうか?
「…それで合っているよ。大丈夫。
お話ししたいこと、あるんでしょう?」

リザルト Result

●1章 惜別
 夜、自室。
「…………」
 【フランツ・キャンベル】は貰った死人帰り蝋燭を適当に机に置き、代わりに手紙を取り出して読む。数日前に故郷から来た手紙だ。
「…………あぁ、立派になって必ず村に帰って来るって約束して、村を出たあいつらが……死ぬわけない……」
 いくら読んでも書かれた文章は数日前と変わらないどころか、フランツの心をますます悲しみの海に沈める。
「…………」
 フランツは手紙から顔を上げ呼吸を整え、ひとまず落ち着かせてから、手紙を机に置き、死人帰り蝋燭を手に取る。
「…………心配ない……きっと……生きている……俺はそう信じたい……でも手紙が本当なら……確かめなければ……そのために蝋燭を貰って来たんだからな」
 願いが裏切られている予感にフランツの心は揺れている。
「……だが、誰を呼べばいい……どいつらにも死んでほしくない……生きていてほしい……」
 死人帰り蝋燭を使うと決めたはいいが、名前を書くための手が動かない。脳裏には、村で道具屋を営んでいた日々が昨日の事のように鮮明に浮かぶ。
「……一番の年長者は、ジャックだ。あいつが、くたばってるなら、あきらめがつくか……」
 ついにフランツは決めた。
「……」
 蝋燭に名前を書くフランツは自然と思い出していた。
「フランツおじじ! 今日は何見せてくれるんだ!」
 と言って、わくわくと期待に満ちた目で自分を見る顔を。
「……火を」
 名前を書き終え、震える手で死人帰り蝋燭に火を点け、周囲を凝視する。
「……誰も現れない。はは、ガセだよな。そんな蝋燭あるわけない」
 だが、何も異変は現れずフランツは踵を返し、死人帰り蝋燭に背を向けた。
「フランツおじじ」
 その先に20代前半の青年がいた。村を旅立った数年前と変わらない。
「……あぁ……ジャック……神様ってやつは……なんて非情なんだ」
 彼を見た瞬間、フランツは崩れ落ち嗚咽を洩らした。例え幻でも会えなければいいという期待が見事に打ち壊されたのだ。
「……大丈夫か?」
 ジャックはフランツを心配し、手を差し伸べた。
「…………大丈夫だ。食べながら話でもしよう」
 フランツは自身を落ち着け現実を受け入れる覚悟を決めてから、ジャックの手を握り立ち上がった。
 積もる話はご飯を食べながらとなった。

「俺の店を遊び場にしてはよく悪さをして、怒ったな」
 フランツが食事をしながら口にする話題は、眼前の青年が子供の頃の事。道具屋は趣味のため収入はほぼ無く店柄子供達の遊び場と化し、子供達の面倒もみていた。
「ジャック達が戻って来た時、俺だけが今までのままでは恥ずかしいと思って修行の旅に出たんだ。でもあてがなくて途方に暮れて……その時、学園の存在を知って色々な素材や人材がいるとの事で世話になってるんだ」
 故郷での思い出の後に、フランツが語ったのは自身の近況だ。
 ひとしきり楽しく話した所で、残る話題はただ一つ。
「ジャック、村を出てから何があったんだ?」
 ジャック達が村を出てからの話だ。
「村を出てから……」
 ジャックは皆と見聞きした楽しい話の後、旅の途中で遭遇したフランツにとっては辛い出来事を話した。
「……そうか……みんなを逃がすために襲って来た野党と戦って、残りの安否が分からない、か……お前さんは頼れる兄貴分だったもんな……」
 フランツは胸を締め付ける事実に表情を辛そうにしつつも、子供達を見守ってた身としてジャックの行動に対する思いを見せた。
「フランツおじじ、村を出る時に渡したお守りは…………」
 その時、悲しむフランツに向かってジャックは、思い出したようにある事を訊ねるも死人帰り蝋燭は燃え尽き、言葉は静寂の向こうに消えた。
「…………今でも大事にしている」
 フランツは向かいの席を見つめつつ、ジャックを含む子供達が石を削って作ったお守りを握り締めた。

●2章 父の顔
 夜、自室。
「死人に会える蝋燭……不思議な話に興味を持って受け取ったはいいが、誰の幻に会おうかのう」
 【蓮花寺・六道丸】(れんげじ りくどうまる)は、興味から受け取った死人帰り蝋燭を見ながら、呼び出す人物に頭を巡らせていた。輪廻転生を信じているため、死人帰り蝋燭の力で会えるのは幻と思っているのだ。
「育て親や友達は懐かしいが幻に会っても虚しいだけ……」
 脳裏に育ての親の和尚や友達の顔が浮かび、懐かしく思うも心の奥にしまい、呼び出しはしない。いや呼び出す必要が無いのだろう。
「……そういえば父の顔は見た事がなかったのう。母の顔は死んでから会ったが」
 ふと父親の事が浮かんだ。顔を見た事がないと言うよりは、見る事が出来なかったのだ。何せ生前の六道丸は盲目だったので。
「……今から関係が改善できる事を期待しているわけでもないが、父親の顔くらい折角だから見ておこう……色を映すようになったこの両のまなこで」
 現在は目が見える事が発端の興味から父を呼び出す事に決めた。そこに親愛の情は感じられない。何せ盲目を理由に半ば捨てられる形で寺に修行に出されたのだから。
「……瀧・吉宗、と」
 蝋燭に名前を書いて火を点けた。
 そして、現れたのは白髪交じりの黒髪と黒い目をした険しい顔立ちの痩せた男性。
「……そのような顔をしていらっしゃったのですな」
 父子の再会となれば感動的なのが定番だが、不仲な関係ではそうはいかない。
「フン、二度と会うことはないと思っていたのに、忌々しい顔を見せてくれる……」
 吉宗は鼻を鳴らし、言葉以上に忌々し気に六道丸を睨んだ。
「フフフ……その冷たい態度は、お変わりになりませんな、父上」
 会う前から分かっていた事もあり六道丸は、父親から向けられる嫌悪を笑って流した。
「私を父と呼ぶな、穢らわしい」
 途端、吉宗は悍ましいと言わんばかりに言い放った。六道丸の事を不義の子と思っているのだ。
「……穢らわしい……そうでしょうな」
 六道丸はこれまた笑って流すだけだ。
(拙僧を瀧の本名で呼ぶのもお嫌なようだのう)
 六道丸は、父親から本名で呼ばれていない事に気付きながらも気にする素振りはない。
「時を経てますます不気味になりおってからに……まったく、あの淫売は一体どのようなケダモノと交わってコレを産み落としたのだ?」
 吉宗は苦虫をかみ潰したような顔で、六道丸の事どころか妻の事までも吐き捨てるように言った。
(母の事を悪し様に言われるのはいい気はせぬな。とは言え、こういう手合いと議論をしても仕方が無いからのう……)
 温厚な六道丸の表情が僅かに変わるも、口に出しての口論はしない。固執した相手には何を言おうとも無駄だ。
「どこぞの学び舎に通っているらしいが……こんな化け物が通うところ、どうせロクな処ではあるまい。他の輩もどうせ……」
 周囲を見回し、吉宗が悪態をつき始めるも言い終わらぬ内に、ふっと消えた。
「おや、消えてしもうた。拙僧も短気でいかんな、フフフ……」
 なぜなら、我慢ならなくなった六道丸が死人帰り蝋燭を吹き消したからだ。
「しかし、余った蝋燭はどうしようか。名前を削れば、明かりに使えぬものかのう?」
 六道丸はたっぷりと残った蝋燭を取り、父の名をなぞりながら呟いた。

●3章 私と貴女
 深夜、自室。
「死者に会えるとは……私の会いたい人……誰に……」
 【フィリン・スタンテッド】は、貰った死人帰り蝋燭を見ながら、会いたい人について悩みに悩む。
「……うん、決めた。ここじゃ狭いから外に出よう」
 結果、フィリンは蝋燭を持って屋外へ。

 屋外。
「……誰もいないみたいね」
 フィリンは、周囲を見回し人影が無い事を念入りに確認した後、手にある死人帰り蝋燭に、会いたい死者の名前を記す。
「……フィリン・スタンテッド」
 その名は自身の名前ではなく命の恩人のもの。
(幻だろうと彼女に会えたら、謝りたい、伝えたい、聞きたい……いっぱいあるけど)
 蝋燭にともった火を見つめる内に、胸がいっぱいになる。
「……元気そうね」
 その時背後から相手を気遣う聞き覚えのある優しい声。
「……フィリン」
 フィリンいやライアは勢いよく振り返った。
 そこにいたのはライアによく似た少女。違いはセミロングで、頭半個ぶんほど長身で大人っぽい事。
「私、あなたを死なせた自分が許せなくて……」
 ライアは当時を思い出し、言葉が出なくなる。奴隷であった自分を救おうとフィリンが盗賊のアジトに乗り込み全滅させたにも関わらず、目の前で散った姿を。
「……いいえ」
 いくら言葉を尽くしても足りないと思ったライアは頭を左右に振り、全てを飲み込む。
「手合わせ、させて」
 そしてライアはギラの守護剣を構えた。
「……手合わせ?」
 聞き返すフィリン。
「見てほしいの、あなたが私にかけてくれた言葉を叶えられているのかを」
 覚悟を決めたライアは胸を張って言った。
(一人で全ては救えなくても、今日助けた貴女が誰かを助けてくれるかも……)
 当時、掛けて貰った言葉を胸中で反芻しながら。
「……分かった」
 ライアの覚悟を目の当たりにしたフィリンは、静かに剣を構えた。
 そして手合わせが始まった。
 攻めては守ってと互いに譲らず、闇夜に剣戟の音が響く。
「はぁぁぁぁ!」
 ライアがフィリンの動きを止めたり剣を落とすために部位破壊を狙い、斬撃を繰り出すとフィリンは軽々と回避。
(重い……やっぱり、フィリンはものすごく強くて、絶対かなわない。けど……)
 自身に向けられる鋭い斬撃をギラの守護剣で防御し、衝撃を吸収する。剣から伝わる重みにフィリンの強さを感じる。ライアにはそれで十分だった。例え眼前のフィリンが幻だろうと。
「その姿も戦い方も見た事がない……あなた独自のものね」
 戦いながらフィリンは素直に感心し、嬉しそうであった。
「そうよ。こう見えても色々な事を学び、力もついた。あなたに助けられたあの時とは違う」
 ライアは胸を張って言いつつも気配を読み、フィリンの攻撃を巧みに避けると同時にギラの守護剣に魔力を込めて先端を延長させ、一撃を狙う。
「本当に良かった」
 フィリンは心の底から嬉しそうに笑顔を浮かべ、剣を使い防ぐ。
 その後も、攻防は続くが、なかなか勝敗を決するまでには至らず。
「これが最後になりそうね」
 ライアは残り僅かとなった死人帰り蝋燭を睨んだ。
「そうね」
 フィリンは剣を握り直し最後の一撃に備える。
「はぁぁぁ!!」
 呼吸を整え、ライアとフィリンは、接近し渾身の一撃を放った。
 決した瞬間、死人帰り蝋燭の火は消え、フィリンの姿は薄れ闇の向こうに。
「…………フィリン」
 残されたライアは勝敗を噛み締める様にギラの守護剣を握りつつ、『フィリン・スタンテッド』に戻った。

●4章 面影
 夜、自室。
「死人と話せる……? 不思議な話だな」
 【樫谷・スズネ】(かしや スズネ)は、手に入れた死人帰り蝋燭を不思議そうに死んだ目で見る。
「……あの子たちに、先生に会いたいけれど……」
 会いたい人として真っ先に浮かぶのは、自分が育った孤児院の子供達や先生の姿。魔物に襲われ命を落としたのだ。
「今はやめておこう、まだ無様な姿を見せたくないし……となると……名前を書く前に、飲食が出来るらしいからな。簡単なお茶菓子とお茶を用意しておこう」
 だがそうはせず、思いついたもう一人に決めてから、ちょっとしたお菓子とお茶をテーブルに用意をした。
「…………確か名前は……孤児院にいた頃に一度出会っただけだからな……」
 それから、死人帰り蝋燭に名前を書こうとするが、すぐには出てこない。髪の色、瞳の色、自分に向ける表情はすぐに思い出せるのに。
「思い出した……レーア・エラード・ジェンダートだ」
 必死に頭を巡らして、何とか死人帰り蝋燭に名前を書き記してから火を点けた。
「……よし、火が点いた」
 無事に火が点いた事を確認した瞬間、はっとする。
「……!!」
 いたのだ。
(……一度しか会わなかったけど、記憶のままの姿だ)
 大地の色の髪と新緑の瞳をした女性が。例え幻だろうと何もかもがスズネの記憶のままだ。
「……私はそもそも、死に立ち合ったわけではない。ただ人伝に聞いただけだけど……久しぶりです、でいいのでしょうか?」
 スズネはそろりと、現れた女性レーア・エラード・ジェンダートに声を掛けた。
「……それで合っているよ。大丈夫。お話ししたいこと、あるんでしょう?」
 と言って、レーアは用意されているお茶菓子などに視線を向けた。
「……えぇ、まあ……」
 スズネは先程の驚きを引きずりつつも、椅子に座るように促してから向かいの席に腰を落ち着けた。
「それで、どんなお話をしてくれるの?」
 レーアは柔和な表情で、スズネを促した。
「この学園の勇者・英雄コースに入学して……」
 スズネは学園に入学してからの事をゆっくりと語った。
「あら、このお菓子美味しい」
 レーアは耳を傾けつつ菓子を自然に手に取り、美味しそうに頬張った。
(本当に食べられるのだな……それより、何だ。この感覚は……誰かに似ている……)
 飲食するレーアを見ている内にスズネは、妙な既視感にもやもや。
「……どうかしたの?」
 スズネの視線に気付いたレーアは小首を傾げながら訊ねた。
「いや、何でもない。友も出来て……」
 スズネは我に返り、話を続けた。
「そうか。私の友によく似ているんだ」
 ふと気付いた。目の前のレーアが友人に似ている事に。
「そう、あの子のお友達?」
 察したレーアは、目を細めて笑った。
「はい。良い奴ですよ。最近は色々と迷走してたみたいですが」
 スズネは相手を思い出しているのか、楽しそうに話す。
「…………そっか」
 突然、レーアの手が伸び、新緑の瞳にスズネの瞳が映る。
「ひとつ、約束をしましょう」
 先程他愛のないお喋りで微笑んでいたレーアの表情は、真剣なものに変わっていた。
「約束?」
 スズネは一変した空気に訳が分からず、自分の手に重なるレーアの手を見つつ聞き返した。
「次に『私』と出会ったときは……『私』を、討ちなさい」
 レーアは表情そのままに強い口調で言った。
「……は? 貴方は何を」
 スズネは要領を得ず、疑問符ばかりだ。
「これは貴方が、貴方たちがやるべきことよ。私は貴方に託した、約束と『怒り』を。もしできないのなら……あなたに、あの子に、この世界に未来なんてない」
 スズネの疑問には答えずレーアは、言いたい事を一方的に言うと、死人帰り蝋燭が尽きて、姿は闇夜に消えた。
「待ってくれ! 何の話だ!!」
 スズネは手を伸ばすも届く事は無く、唯々戸惑うばかりであった。



課題評価
課題経験:16
課題報酬:450
死人と語らうひととき
執筆:夜月天音 GM


《死人と語らうひととき》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 フランツ・キャンベル (No 1) 2020-07-29 05:54:52
フランツ・キャンベルだ…
関わりはないだろうが…一応な

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 2) 2020-08-01 09:21:16
勇者・英雄コースのフィリンよ。今回はそこまで絡みないと思うけど、よろしくね。

《ゆうがく2年生》 蓮花寺・六道丸 (No 3) 2020-08-02 02:40:09
拙僧は芸能・芸術コースの蓮花寺・六道丸だ。
向こうで会うことはないかもしれぬが、よろしく。