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蒼炎恋歌


ストーリー Story

 その客がフトゥールム・スクエアを訪れたのは、もう夜半も過ぎた頃。
 来訪の知らせに担当の職員がブツブツ言いながら出た所、門に立っていたのは女性。見慣れない異国の衣装に身を飾った、若い女性だった。
「阿保が、おりゃんして」
 害意はなさそうと判断され、応接間に通された彼女。ソファに座ると、唐突にそう言った。
「これが、随分な身の程知らずでありんしてねぇ。魔王とか言う古物に魅せられんして。同じ高みに上がろうと、巣を抜けたんでありんす」
 唄う様な言綴り。漂う、奇妙な香。彼女が、纏う。
「そこな時、出がけの駄賃に幾つか持ち出しんして。『苗床』にするつもりだったんしょう。此方に来てから、あちこちにばら撒いた」
 取り出す煙管。何もしないのに、焔が灯る。『ごめんなんし』などと言いつつ、返事が返る前に一吸い。吐いた煙は、ヤニではなく甘い薬草の香り。
「で、『そろそろ』と言う頃合いで。尻拭いにわっちが出張ってきた訳でありんすが……此れが、意外」
 ポンと叩く手。どうにも大仰で、わざとらしい。胡散臭そうな職員の目など無視して、続けた話。
「もう、こちらの生徒さん方が、『風』と『土』を調伏済みでありんした」
 それが、眠たげだった職員の目を覚まさせる。顔を上げた彼を妖しげな微笑みで見つめると、また煙管を揺らす。
「全く、大したモンで。『風』は封じた様でありんすが、『土』は見事に滅して見せた。実に、見事」
 『風』と『土』。学園の生徒達が関わった事件。心当たりが、ある。
「それで、わっちも一つ悪心が湧きまして」
 職員の問いを塞ぐ様に、にやける女性。
「『残り』も、お任せする事にしんした」
 途端、女性の姿がユラリと霞む。察した職員が咄嗟に捕縛の魔法を発動するが、既に手応えはない。
「差し当たり、『火』の鍵を解きんした。後、半刻程で動き出しましょうか」
 揺らぎ溶けていく、彼女。哂う声が、言う。
「何、『火』は『風』や『土』程に荒んくはございせん。此方のわっぱ達でも、十分でありんしょう。それと……」
 ポトリ。
 何かが、テーブルに落ちる。
「代価くらいは、置いていきんす。使ってくださんし」
 見れば、そこには幾つかの指輪と符。
 声だけが、言う。
「差し当たり、滅するが近道ではありんしょう。けど……」
 また、笑い。チラつく、悪意。
「急くのも、考えモノでありんしょなぁ。何のかのと、『哀れな娘』ではありんすから」
 どういう事かと問う職員の前に、『読みんし』と落ちる一冊の古書。
「入り用な事情は一切合切、書いてありんす」
 遠のく、声。
「ではでは。此方自慢のわっぱ達の手際と心意気、存分に愉しませて貰いんす」
 消える、気配。
 後に残るは、白い煙と甘い薬香。

 ◆

 正しく、異変は程なく起こった。
 東に広がる、のどかな田園地帯。農民達が穏やかに暮らすその中心で、突然異常な魔力反応が起こった。次いで、周囲の気温が異常上昇。『暑い』ではなく、『熱い』。耐えかねた住民達は我先にと逃げ出した。
 地元の有志が集まり、耐熱魔法を使って灼熱地獄の中に侵入。熱感に耐えながら、魔力の元を探る。
 行き着いた先。そこは、住民達の話では古い祠らしきモノがあったと言う林。燃え尽きた木々の残骸の向こう。彼らが見たモノは、見上げる程に巨大な青い火球だった。
 原因は明白。正体の解明は後回しにされ、大規模な消火活動が行われた。浴びせられる、大量の水。
 けれど。
 無意味だった。
 いくら水をかけようとも、衰えない炎。それどころか、明確に熱量が増してくる。
 ――只の炎ではない――。
 皆が、そう思い始めた矢先。
「何方か、居られますか……?」
 声が、聞こえた。
 途端、火球が焔柱となって天に向かう。驚く人々。その中に在ったモノに、再度驚愕した。
 青白く燃える地獄の中、座していたのは蒼く焼け付く巨大な鐘。そして、其れに巻き付く半人半蛇の少女が一人。
 ルネサンス? 否、そうではない。異形。魔力。明らかな、『人外』。
「ああ、何と言う僥倖……」
 絶句する隊員達に、少女は場違いに静かな声音で語り掛ける。
「そこな方々、今世の人方と存じます……。こうして来たれりも、何かの縁……。無礼は承知で、お頼み申します……」
 願いは、簡潔だった。
 ――やつがれを、殺めてはいただけませぬか――?
 息を呑む皆に、少女は続ける。
「やつがれでは、どうにも出来ぬのです……。己で滅ぶ事も……。この忌しき鐘を壊す事も……。『この方』から離れる事さえも、叶いません……」 
 瑠璃色の燃える眼差しから落ちる、燐火の涙。鐘に巻き付く蛇体で弾け、きらりきらりと散って溶ける。
「このままでは、いずれやつがれは己を失いましょう。この地に住まう、全ての方々を共連れにして……」
 ズルリと蠢く蛇体。灼熱する鐘を、愛しく抱く。
「時が、ありませぬ……。どうか、どうか……我が浅ましき情念を、滅ぼし下さいませ……」
 鐘の上で両手を突き、平服する少女。長い髪がサラサラと泣いて、火粉を舞う。
 青焔の煉獄で泣く可憐の様を、美しいと思った事は罪だろうか。
「どうか……」
 呆然と見守る皆の前。
 最後の懇願を遮る様に、炎の柱は蒼珠と閉じた。

 ◆

 明らかに、超常と思しき存在起因の災禍。当然の様に伝えられた学園では、教師達によって奇妙な女が残していった品物の検分が行われていた。
 そこに伝わった異形出現の報。出現の時刻。『火』と言う関連語。聡明な教師達が気づかぬ道理はない。
 急ぎ開かれたのは、例の古書。
 果たして、そこに事の真相らしき事が記されていた。

 ◆

 かの半蛇の少女の姿をしたモノは、名を『清姫(きよひめ)』と言う。
 時は、遠い昔の頃。
 彼女は遥か遠東にあるらしい異国、その下級貴族の娘だった。
 生まれつき身に『火乃蛇』と言う霊獣の加護を得て、齢12歳にして稀なる炎術師の才を観出されていた彼女。階級の低い家の希望として、大事に育てられていた。
 当の本人は優しく大人しい性格で、幼くして想いを寄せた同い年の少年以外は何もいらないと、静かに嫋やかに日々を送っていた。
 けれど、災いは突然に起こった。
 何処からか現れた魔物の群れが、清姫の住む都を強襲。その数は多く、戦力の足りない都は瞬く間に蹂躙を許してしまった。事態を危惧した時の帝が下したのは、冷酷にして悍ましき邪法の使用許可。
 白羽が建てられたのは、霊獣の加護を持つ清姫。
 帝室付きの術者達は、高い位への昇級を餌に、清姫の父親と親族を説き伏せた。その後、都から清姫と恋人の少年を連れ出す。戸惑う彼女の眼前で、彼らは少年を斬った。
 半死の状態になった少年を、呪法で生み出した大鐘の中に閉じ込める。鐘にすがり付き、泣き叫ぶ清姫。鐘の中で途切れ行く少年の声。ついに彼女の心は壊れ、内に秘められていた火乃蛇の権能が暴走を始める。意思なき業火は術師達に繰られ、魔物を一体残らず焼き滅ぼした。
 全てが終わった後、術師達は火乃蛇の浸食によって異形と化した清姫を、しがみつく鐘ごと封印した。
 憎悪と恋慕の炎。溶けた彼女は、もはや魔性。抱く憎念が、都に新たな災いを招かぬ様にと。

 ◆

 読み解き、沈黙する教師達。そこへ、新たな報が届く。
 清姫が核となる火球の温度が、どんどん上昇している。もはや有志住民が持つレベルの耐熱魔法では対処不能。このまま上昇を続ければ、炎は大気さえも発火させる。燃えた大気は導線となって炎を伝播させ、大火災を引き起こす。
 少なくとも、周辺の村は無事では済まない。
 今のうちに、何とかしなければ。
 時が、迫る。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2020-08-04

難易度 とても難しい 報酬 多い 完成予定 2020-08-14

登場人物 7/8 Characters
《比翼連理の誓い》オズワルド・アンダーソン
 ローレライ Lv22 / 賢者・導師 Rank 1
「初めまして、僕はオズワルド・アンダーソン。医者を志すしがないものです。」 「初見でもフレンド申請していただければお返しいたします。 一言くださると嬉しいです。」 出身:北国(リゼマイヤ)の有力貴族の生まれ 身長:172㎝ 体重:60前後 好きな物:ハーブ、酒 苦手な物:辛い物(酒は除く) 殺意:花粉 補足:医者を志す彼は、控えめながらも図太い芯を持つ。 良く言えば真面目、悪く言えば頑固。 ある日を境に人が触ったもしくは作った食べ物を極力避けていたが、 最近は落ち着き、野営の食事に少しずつ慣れている。 嫌悪を抱くものには口が悪くなるが、基本穏やかである。 ちなみに重度の花粉症。 趣味はハーブ系、柑橘系のアロマ香水調合。 医者を目指す故に保健委員会ではないが、 保健室の先輩方の手伝いをしたり、逃げる患者を仕留める様子が見られる。 悪友と交換した「高級煙管」を常に持ち、煙草を吸う悪い子になりました。
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《ゆう×ドラ》アレイシア・ドゥラメトリー
 リバイバル Lv11 / 村人・従者 Rank 1
「あたしはアレイシア、あなたは?」 姉妹の片割れ、妹 思考を重ね、最善を探す 奥底に、消えない炎を抱えながら 容姿 ・淡い薄紫のミディアムウェーブ、色は紫色寄り ・目は姉よりやや釣り目、同じくやや水色がかった銀色 ・眼鏡着用、目が悪いというわけではない。つまるところ伊達眼鏡 性格 ・妹と対照的に、考えで動くタイプ。人当たりは良く、社交的 ・好奇心旺盛、知りたいことはたくさんあるの! ・重度のシスコン、姉の為ならなんだってする ・結構子供っぽい所も、地は激情家 ・なぜか炎を見るとテンションが上がるらしい、熱いのが好き、というわけではない模様 姉について ・姉が全て、基本的に姉・自分・それ以外 ・人当たり良くして姉の居場所を増やしたい 好きなもの 姉、本 二人称:基本は「あなた」 先輩生徒「センパイ」 初対面には基本敬語
《ゆうがく2年生》蓮花寺・六道丸
 リバイバル Lv13 / 芸能・芸術 Rank 1
名前の読みは『れんげじ・りくどうまる』。 一人称は『拙僧』。ヒューマン時代は生まれ故郷である東の国で琵琶法師をしていた。今でもよく琵琶を背負っているが、今のところまだ戦闘には使っていない。 一人称が示す通り修行僧でもあったのだが、学園の教祖・聖職コースとは宗派が異なっていたため、芸能・芸術コースに属している。 本来は「六道丸」だけが名前であり、「蓮花寺」は育ててもらった寺の名前を苗字の代わりに名乗っている。 若い見た目に不釣り合いな古めかしい話し方をするのは、彼の親代わりでもある和尚の話し方が移ったため。基本的な呼び方は「其方」「〜どの」だが、家族同然に気心が知れた相手、あるいは敵は「お主」と呼んで、名前も呼び捨てにする。 長い黒髪を揺らめかせたミステリアスな出で立ちをしているがその性格は極めて温厚で純真。生前は盲目であったため、死んで初めて出会えた『色のある』世界が新鮮で仕方がない様子。 ベジタリアンであり自分から肉や魚は食べないが、あまり厳密でもなく、『出されたものは残さず食べる』ことの方が優先される。 好きなもの:音楽、良い香りの花、外で体を動かすこと、ちょっとした悪戯、霜柱を踏むこと、手触りのいい陶器、親切な人、物語、小さな生き物、etc... 嫌いなもの:大雨や雷の音
《不屈愛の雅竜天子》ミサオ・ミサオ
 ドラゴニア Lv18 / 魔王・覇王 Rank 1
「ミサオ・ミサオ。変な名前だろう。 この名前は誰よりも大切なあの子からもらったんだ。」 名前はミサオ・ミサオ。無論本名なわけがない。 外見年齢は20代、本年齢は不明。 本人曰く100越えてんじゃないの、だとか。 職業はギャンブラー。 学園に入る前は彫刻師、薬売りなどいくつか手に職を持っていた。 魔王コースを選んだのは、ここが楽だと思ったからだそうだ。 遠慮なくしごいてくれ。 性格はマイペースで掴み所がなく飄々としており、基本滅多に怒ることがない。 面白そうなことや仲の良い友人が居れば面白そうだとついて行き、 好きな人や大切な人にはドロドロに甘やかし、自身の存在を深く刻み付け、 飽きてしまえば存在を忘れて平然と見捨てる外道丸。 いい子には悪いことを教えたり賭け事で金を巻き上げ、 そして悪友のオズワルドや先輩先生にこってり絞られる。 恋愛したい恋人欲しいと言っているが、一途で誰も恋人を作ろうとしない。 たくさん養ってくれる人大好き。 趣味は煙草と賭け事。 特技は煙草芸、飲み比べ、彫刻。
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《新入生》馬場・猿二
 ルネサンス Lv8 / 武神・無双 Rank 1
(未設定)

解説 Explan

【目的】
 清姫から生じる炎を消し、大火災を防ぐ事。
 作戦開始から20Rが経過し、目的が達成出来ていない場合は火災が発生。失敗判定となる。


【状況説明】
 殆どの物質が自然発火する、灼熱地獄。全ての障害物が焼滅し、更地の状態。


【各種プラン】
【プランA】
 清姫本人を討伐する。
【プランB】
 鐘を破壊し、清姫を解き放つ。
【プランC】
 PC独自の方法を提案する。

 相談にて、方針決定。


【清姫(きよひめ)】
【格】
 5
【生態】
 上半身はヒューマンの少女。下半身は長さ15mに及ぶ大蛇。
 全身は常に高熱を発し、広範囲を灼熱の結界で包んでいる(自身での制御不能)
 恋人への恋慕に縛られ、【大鐘】から離れる事が出来ない。
 性格は大人しく、理性的。この状態では抵抗してこない。会話も可能。
 人心を残している為、説得出来れば大鐘の破壊に何らかの形で手を貸してくれる場合もある。
【本能】
 体力が半分になると意識が混濁・狂化し、攻撃を始める。
 鐘から離れられないのは同様。
【属性得意/苦手】
 火/水 
 物理・魔法共に有効(ただし風・火属性は無効)。水属性の場合、ダメージが倍になる。
【得意地形】
 結界内全域。
【戦闘スタイル】
 オールレンジ型。
 火焔の吐息(長・全)
 炎髪での縛殺(中・複数)
 咬み付き・爪での切り付け・締め付け(共に短・単)
【状態異常】
 全ての攻撃が『灼熱』付与。


【大鐘】
【格】
 7
【生態】
 巨大な釣り鐘。
 式神の一種。
【本能】
 内部に清姫の恋人である少年を閉じ込め、因果によって縛り付けている。
 破壊すれば、清姫は解放される。
 中の少年の生存は絶望的である。ただし、魂は残留している。彼も術師(清姫と対を成す水術師)であった為、意思の疎通が出来れば何らかの協力が望める可能性あり。
【属性得意/苦手】
 火/水 
 物理・魔法共に無効。
 水属性の攻撃のみが、2倍のダメージで通用する。
【得意地形】
 無。
【戦闘スタイル】
 動く事はなく、攻撃も行わない。
 非常に硬く、体力も高い。
【状態異常】
 無


作者コメント Comment
【特殊アイテム(全員に付与。今回限り)】

【水燐符】
 謎の女性が置いて行ったモノ。
 心臓の上に張る事で、全身を水霊の加護で包む。高熱下でも行動可能になる。
 毎R、魔力が『5』消費される。
 魔力が尽きると加護が失われ、脱落となる。

【氷魔輪】
 同じく。
 利き手の人差し指にはめる事で、任意の攻撃・魔法に水属性を付与する。
 使用する度、攻撃・魔法の消費魔力が『5』増える。
 
【綴りの糸輪】
 同じく。
 糸の両端を互いに小指に結ぶ事で、魔力の譲渡を行う。


【NPC】
【チセ・エトピリカ】
 新入生。
 16歳。
 ヒューマン。
 女性。
 まだ新人。戦闘参加は出来ない。
 綴りの糸輪の片割れを所持し、結界外からPCへ魔力の補助を行う。
 彼女の魔力が尽きるまで(作戦開始から10R)は特殊アイテムによる魔力消費が全て免除となる。


【マスターより】
 こんにちは。土斑猫です。
 今回は少々難しい課題になります。
 力を合わせて。乗り切ってください。
 皆様のプラン、楽しみです!



個人成績表 Report
オズワルド・アンダーソン 個人成績:

獲得経験:259 = 216全体 + 43個別
獲得報酬:11520 = 9600全体 + 1920個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
ルートBを選択。

【行動前】
清姫に対して「少年を助ける(鐘を壊す)ためにきた」と「信用、説得」を試み、また鐘破壊の協力を仰ぐ。


【行動】
メイン:結界内で遠距離の魔法攻撃
サブ:仲間のサポート

鐘の破壊では「アクラ」や水属性に付与した「マドガトル、全力攻撃」を行う。
必要であれば「魚心あれば水心」で仲間の支援行動に「集中」する。
仲間、清姫の体力が下がっている場合「リーラブ」を使い回復に専念する。

【行動後】
少年のために雨の恵みを使い火を鎮める

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:324 = 216全体 + 108個別
獲得報酬:14400 = 9600全体 + 4800個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
鐘の中さぁ、中の人がまだいんのか、リバイバルにでもなってて喋れんのか。
それかザコちゃんたちの知らない現象とか状態異常なのかって。
開けるまではなんがし分かんないんだよね。
こーいうのなんてーの?『スネークファイヤーの猫』…だっけ?そんなやつ。

何せよ鐘開けるまではわかんないんだしさぁ。一応は。
中のお人…人?が、仮に死んでたとしても。消滅まではいってない可能性もあんじゃん?
魔力か気力か体力が残ってたらいーんだから。
だから、ザコちゃんの小指ににある魔力の紐、元贄巣様からザコちゃんに渡すんじゃなくってー、ザコちゃんから鐘の中のお人に魔力渡す。
鐘の隙間無い?あるなら突き刺すし、ないならてきとーに挟むか括る。

アレイシア・ドゥラメトリー 個人成績:

獲得経験:259 = 216全体 + 43個別
獲得報酬:11520 = 9600全体 + 1920個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
異国の魔物、でしたっけ?随分と…毛色が違うようだけど
まぁいいわ、どのみち放ってはおけない

・対話
清姫に「信用」「対話」「精神分析」でひとまず会話へ
彼女の話から鐘への対処を「物理学」「魔法学」から検証
危険視するべきは高耐久、高体力
弱点属性だけでいいのか?可能なら清姫から少年への呼びかけ及び鐘への干渉についても
…まぁ、試したことはあるでしょうけも

・戦闘
前衛へのサポート
魔力の積極的供給及び中距離での射撃

蓮花寺・六道丸 個人成績:

獲得経験:259 = 216全体 + 43個別
獲得報酬:11520 = 9600全体 + 1920個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
アドリブ絡み歓迎
プランB
NPCの説得に【説得】【人心掌握学】を使用し協力を乞う
【オカルト】【オカルト親和:Ⅰ】で東方の呪術に関する知識を引き出し、鐘の呪術的な弱点や、中に入るすべが無いかを探る
1ラウンドで見つからなければ、スコップ(大)で下の地面を掘り起こし、空気の逃げ道を作ってひとまず鐘を下からこじ開け、少年との接触を可能にする
ザコちゃんどのたちが蘇生を試みて、失敗した場合は先ほど調べた弱点を突く、あるいは水属性を付与した【ダード】or【全力攻撃(ダードの属性変更ができない場合】で鐘を攻撃(この攻撃に協力をお願いし、必要なら氷魔輪を渡す)
清姫を無事解き放った場合、なるべく正式な形で二人を供養

ミサオ・ミサオ 個人成績:

獲得経験:259 = 216全体 + 43個別
獲得報酬:11520 = 9600全体 + 1920個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
女を泣かすなんて酷い奴だな少年は。
さぁゆうしゃのお仕事をしようか。ただし魔王だがな!

オレぁ頭は悪いほうでねぇ、頭脳については仲間に任せてオレは攻撃に専念させてもらおうか。
魔王・覇王コースだからねぇ!


Bルートを選択、鐘の破壊に全力を挙げる。

戦闘:近距離攻撃メイン
「部分硬質化」で「龍爪撃、三日月斬り、切り落とし」と組み合わせたり
輪で「灼けつく息吹」を水属性にして攻撃を行う。

魔力の不安があれば仲間にお願いするぜ。


クロス・アガツマ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:648 = 216全体 + 432個別
獲得報酬:28800 = 9600全体 + 19200個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
まずは清姫に大鐘をどうにかすると説得し、協力を仰ぐ
この悲劇を、正しい形へと導くんだ

では……やってみるか
集中に入り、大鐘に向けて憑依を試みる
この鐘が魂を縛っているのなら、つまりこれと少年は結びついている筈だ
それを手繰り精神の共有を図ろう
助けてほしい、という意思を伝える

その後水属性の、魔導書の通常攻撃と仲間の攻撃に合わせたマドガトルで大鐘を撃つ
但し後を考えてマドガトルは三度まで


だが、このままだとこちらが持ちそうにない
賭けだが、俺の氷魔輪と……これだけではきっと不足だ
水燐符も清姫に託す

そして大鐘に物体透過を試みて、燃える前に飛び込む
少年に清姫の想いを伝え、そして……もう1つの可能性にも賭けてみようか

馬場・猿二 個人成績:

獲得経験:259 = 216全体 + 43個別
獲得報酬:11520 = 9600全体 + 1920個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
自分の分の【綴りの糸輪】の片割れは魔力を主に利用する人に渡す!
チセちゃんと一緒に結界外から魔力を送る。

今回の課題!僕には適正が無いようだ!
でも!清姫さんの力になりたいって思った!
だから!ほんの雀の涙だけど!僕の魔力も使って!


リザルト Result

「……凄いな……。肺が、焼け付く様だ……」
 満ちる熱に、【クロス・アガツマ】が声を漏らす。
 まるで、燃え滾る溶鉱炉の傍に立つ様な感覚。その場所までは、まだそれなりの距離があると言うのに。
「それ程までに、強い想いなのだろうよ」
 隣に立った、【蓮花寺・六道丸(れんげじ・りくどうまる)】が遠くの『地獄』を見晴らしながら呟く。
「幾星霜、傍に居れども繋ぐ事の叶わぬ手。その無念、如何程のものか……」
「恋心は身を焦がす、なんて洒落を聞いた事がある……。よもや、その通りだとはね……」
 クロスは苦笑し、そして目を細める。
「哀しい力だ。こんなものに頼らなければ守れぬ世界を、俺は認めたくない」
「然様」
 頷く、六道丸。
「既に魔に堕ちているのであれば、魔獣として討ちもしよう。だが、人の心があるうちはせめて人として、眠らせねばならぬ。衆生無辺誓願度……たとえそれが、死による救いであったとしても……」
 静かな、決意。二人が、向こうを見やる。蒼く燃える、炎の境界。深海のそれの様に青い炎は、まるで『彼女』の心の色。

「お久しぶりです、チセさん。また会えて、嬉しいです……」
「はい、オズワルド様。わたしも、嬉しいです……」
 微笑みかける【オズワルド・アンダーソン】の前には、嬉しそうに。けれど、恥ずかしそうにはにかむ少女。
 【チセ・エトピリカ】。
 先に起こった、『土蜘蛛事件』の関係者。オズワルド達に助けられ、その後、学園に入学した。
「髪、切ったんですね」
チセの、濡れ羽色の髪。長かった筈のそれが詰められているのを見て、オズワルドが言う。
「はい。動くのに、邪魔でしたし……」
「それと、服」
 見慣れた巫女服とは違う、綺麗な紋に彩られた衣装。
「故郷の、服です。これだけ、持ってきました。せめてもと、思って……」
 彼女の故郷は、もうない。
 決して、幸せな境遇ではなかった。それでも、彼女はそこにいた人々の証を望む。
 そんな優しさが、愛しい。
「あの……」
「はい?」
 小首を傾げるオズワルド。心配そうに、チセが問う。
「変じゃ、ありませんか……?」
「いいえ、綺麗ですよ。とても……」
 心から、返す言葉。
 彼女の顔が、とても嬉しそうに綻んだ。

「何だぁ? 随分と、良い雰囲気じゃないか」
 後ろからそんな声が聞こえて、ポンと肩が叩かれる。ビクリと飛び上がったオズワルド。ギギギギギ、と首を回す。飛び込んで来たのは、ニヤニヤ笑う悪友の顔。
「ミサオ……」
「なかなかの別嬪さんだなぁ。何処で引っ掛けた? ん?」
「か、彼女とはそんなんじゃ……」
 顔を赤くしてしどろもどろになるオズワルドを弄る【ミサオ・ミサオ】。見かねたチセが、助け船を出す。
「そ、そうです。オズワルド様は決してそんな……」
「ん?」
 急に視線を向けられて、ビクッとする。
「ああ、悪い悪い。そういや、まだ名前聞いてなかったな」
「は、はい……」
「新入生かい? 聞かせておくれよ。これから背を、預ける仲だ」
「失礼いたしました。チセ・エトピリカと申します。よろしく、お願いいたします」
 そう言って頭を下げる彼女に、ピンと来る。
「チセ? 確かこの間、オズワルドが……。ほほー、そうかいそうかい」
 聞いた顛末。思い起こして頷く、いい笑顔。
「オレぁ、ミサオ・ミサオ。オズワルドとは、長く仲良くさせてもらってるもんだ。今後とも、よろしく頼むなぁ」
 言って、チセの髪をクシャクシャと撫でる。ビックリして肩を竦める彼女に向けるのは、妙に意味ありげな視線。
「おい! いい加減にしろ!」
 困っているチセから、オズワルドがミサオを引き離す。
「お、悪い悪い。大切な彼女の髪、先に愛でちまったな」
「だから! そうじゃなくて!」
 喧嘩面したじゃれ合い。そんな二人を、チセはちょっとだけ羨ましそうに見つめた。

「お偉い皆々様の為に、献身犠牲? ねぇ……」
「どうしました? チョウザさん。難しい顔をして」
 心持ち不機嫌そうな、【チョウザ・コナミ】。気づいた【アレイシア・ドゥラメトリー】が、尋ねる。
「ん? あー、何でもないない。無問題って感じ?」
「はあ……?」
 すぐいつもの調子に戻るチョウザ。アレイシアは小首を傾げて、視線を戻す。
「異国の魔物、でしたっけ? 随分と……毛色が違う様だけど」
 事前に目を通した資料。描かれていた姿絵を、思い出す。半人半蛇の、悍ましい異形。ただ、絵にされて尚悲しげな顔が、妙にはっきりと網膜に張り付いていた。
 青く燃える炎が、昏い衝動を掻き立てる。二度目の生と引き換えに失った記憶。その、向こう。かの少女もまた、あの炎に想いを燃やしているのだろうか。自分と、同じ様に。
「……まぁ、いいわ。どのみち、放ってはおけない……」
 誤魔化す様に呟いた言葉。チョウザが、表情薄く応える。
「そだねー」
 何処かで大気が、パチリと爆ぜた。

「じゃあ、猿二さんはチセさんと一緒に魔力の補助に回ると?」
「うん!」
 己の小指と皆の小指を朱い『綴りの糸輪』で結びながら、【馬場・猿二(ばば・えんじ)】がアレイシアの問いに頷く。
「今回の課題! 僕には適正が無い様だ! でも! 清姫さんの力になりたいって思った! だから! ほんの雀の涙だけど! 僕の魔力も使って!」
 隣りで話す猿二にお辞儀しながら、チセも言う。
「正直、わたしだけの魔力では如何程のお力になれるか不安でしたが……。猿二様が手伝ってくださるのであれば……。未熟者ではありますが、よろしくお願いいたします」
「うん! でもね! そんなに! 畏まらないで! 未熟なの! 僕も! 一緒だし! もっと! 気楽に! ね!?」
「……はい!」
 猿二の言葉に、嬉しそうに返すチセ。そんな彼女に、チョウザが声をかける。
「あのさ、元贄巣様」
「はい?」
「この指輪さ……」
 差し出すのは、右手の人差し指にはめられた指輪。特に飾りらしい装飾もない、質素なデザイン。表面に刻み込まれた小さな文字らしきモノだけが、その特徴。
「なんか、攻撃とか魔法とか、水属性にするってお話解説なんだけども。それって、何? やっぱ、魔法なんかね?」
「ああ、それは……」
 解析した教師達から、先に教えられた話を思い出すチセ。
「何と言うか、指輪が発する水属性の魔力が装備者の攻撃や魔法を染めるモノだそうです。お料理にお塩をかけて、味を変えるみたいに。既存の魔力でコーティングするだけなので、技術で魔力を構築加工する『魔法』とは異なるモノだと……。あくまで、厳密な意味でですが……」
「そなの?」
「はい」
「うーむ。なら、いっかな?」
 複雑そうな顔をしつつ、一応納得するチョウザ。チセと、そして猿二を見る。
「もしもし。ところで元贄巣様、お猿様」
「はい?」
「何?」
 手招きして、ヒソヒソ。驚く二人。
「大丈夫! なの!? そんな! 事!」
「そうです! もし、あの中で魔力が切れたら!」
「へーきのへいざ」
 慌てる二人に、サラリと返す。
「ザコちゃん、魔法使わないから。あんま、消費しないよ? なら、有効有意義。使った方がいーじゃん?」
「…………」
 黙り込む二人。
 どの道、ギリギリの作戦。可能性を広げる策は、多い方がいい。
「……うん! 分かった!」
「でも、どうか御身だけは……」
「りょーかいしょーち」
 そう返して、チョウザはまた遠くの炎をチラリと見た。

「じゃあ、皆。準備はいいな?」
 クロスが、最後の確認をする。皆が、頷く。
「よし。行こう」
 戦場は、蒼く燃える炎の領域。歩み出す前に、オズワルドが魔力の供給役として残るチセの方を向く。
「行ってきます」
「……ご無事で……」
 オズワルドの手を、チセの手がそっと包んだ。
「いいよなぁ。待っててくれる娘がいるってのは」
「だから、そういうんじゃ……」
 からかうミサオを小突くオズワルド。その背を、じっと見送るチセ。
「大丈夫!」
 彼女の肩を、猿二が叩く。
「皆! 強いから! 帰ってくる! 絶対! だから! 頑張ろう! 僕達も!」
「……はい!」
 彼の笑顔に微笑みを返し、チセはしっかりと頷いた。

 ◆

 そこは正しく、地獄だった。
 視界を覆うのは、深海の瑠璃より蒼く輝く炎。紅蓮よりなお灼熱に燃えるそれは、符によって水の加護に守られる筈の身体を容赦なく攻め立てる。
 かつてはのどかな田園地帯だった筈の周囲は、何もない更地と化している。
 水は枯れ。
 植物は燃え尽き。
 地面すらも干割れて崩れる。
 動物など、いる筈もない。
 まして、人など。
 炎々と瑠璃に輝く、無命の世界。
「……焦熱地獄とやらがあるのなら、正しくこの様な有様か……」 
 見回した六道丸が、誰ともなしに呟く。
 自分達が止められなければ、より多くの命が。自然が。人々の安寧が。この地獄に飲み込まれる。
 決意を確認する様に、息を吸う。
 気道に満ちる熱気を飲み下し、皆はただそこへと向かう。
 地獄の起因たる、『彼女』を目指して。

 迷う筈もなかった。
 全てが焼失した地平。たった一つ。やけに大きな影が、ずっと見えていたから。
 皆の、足が止まった。
 見上げる視線の前。聳え立つのは、巨大な釣り鐘。異教の神具を象るそれは、灼熱の瑠璃の中で曇り一つ浮かぶ事なく。ただ凄然とそこにある。
 そして、その威容よりなお皆の目を釘付けたモノ。
 炎熱帯びる鋼に、幾重にも巻き付く蛇体。
 深い蒼玉の鱗に覆われた先を視線でなぞれば、辿り着くのは鐘の頂き。
 物言わぬ鐘を抱く様に腕を這わせ、頬を寄せて眼差し閉じる麗容の少女。
 本来は漆黒であろう長髪は、今は青い燐火に染まって静かにざわめく。身に纏う衣は、話に聞いた異国の装束。呼称は確か、『十二単』。教本では華やかな極彩に染まっていたそれも、この世界では瑠璃蝶の羽。
 でも、それが例え様もなく美しい。
 まるで、そう思う事すら罪と思える程に。
 誰一人、声を上げない。
 上げられない。
 してしまえば、きっと壊してしまう。この、瑠璃の煉獄と言う至極の麗彩を。
 だから。
 だから。
 その束縛を解く事が許されるのは、きっと彼女自身。
 愛しい夢から覚める様に、少女の眼差しが開く。
 ゆっくりと、起き上がる身体。従う様に、這いずる蛇体。高みから、見下ろす瞳。蒼の燐火を灯す視線が、夢浮く様に皆を映す。
 蒼い青い、瑠璃の炎幻。咄嗟にかける声はなく。ただただ、皆は彼女を見つめる。
「……綺麗……」
 聞こえたのは、アレイシアが無意に漏らした言霊、一つ。
 彼女は、【清姫】。
 悲しき恋慕の炎に身を焦がす、八色の魔性が一柱。
 可憐なる、瑠璃の炎妖。
 ――『火の災・蒼火の清姫』――。

 ◆

「……君が、清姫かい……?」
「……はい……」
 クロスの問いに、鈴の様な声が答える。長い蛇体をズルリと降ろし、青燐の眼差しを此方へと寄せる。
「……あなた方は、如何な方でございましょう……?」
 彼女が。清姫が、問う。穏やかな、理と知が宿る言の葉。
 疎通ができる。意思が、届く。
 その事が、少しだけ皆の心を軽くする。
「僕達は、魔法学園『フトゥールム・スクエア』の生徒です。今回の事件を解決する為に、来ました」
 オズワルドの説明に、首を傾げる。
「……まほう、がくえん? ふとぅーるむ・すくえあ?」
「あまり、深く考えないで。ただ、今の事態を解決する為に来たと思って貰えれば、いいわ」
 国の違いか。生きた時の違いか。要領を得ない様子に、アレイシアが説く。その言葉に、彼女が反応した。
「それでは、やつがれを討っていただけるのですか……?」
 紡がれた問い。一瞬、皆が沈黙する。
「……それは、まだ分からない」
 そう言うクロスの横では、六道丸が。
「其方の経緯(いきさつ)は存じておる。故に、其れを為す前に問うておきたいのだ」
「何で、ございましょう……?」
 見つめる蒼燐を見つめ返し、問う。
「其方は、謀られた。大勢の民を救うための、礎とされた。己が意思とは、無関係に。なれば……」
 ほんの少しの、間。
「呪って、おるか? 人を。今だ続く、人の世を……?」
 紡がれた言の葉。皆が息を呑んで見つめる中、清姫は返す。
「……その様なモノは、当の昔に燃え尽きてございます」
 鳴る鈴音。微塵の、濁りもなく。
「今のやつがれは、人ではございません。唯の、魔性にございます。人外に、人の世を呪う道理などありましょうか? そして……」
 人肌の色を残す華奢な手が、愛しげに鐘を撫ぜる。
「化け物が、人の営みを崩す道理もまた、あるべきではございません」
 少しだけ、目を伏せ。また上げる。
「やつがれは、人ではございません。心置きなく、御討ちくださいませ。それで、全ては収まります」
 小さな両手を、六道丸の足元につく。深く下げる、頭(こうべ)。
「どうぞ、お慈悲を……」
「…………」
 黙ったまま見下ろす六道丸の肩を、煙管が叩く。
「だ、そうだ」
 白煙をくゆらせて、ミサオが尋ねる。
「どうするんだい? 坊様よ」
「……論ずるまでも、なかろう?」
 その答えに、薄く笑む。
「ま……」
 動く手。掲げるのは、携えた大鎌。指に嵌めた氷魔輪が、鈍く光る刃を染める。
「そうなるわなぁ!」
 振り下ろす。三日月を描く斬撃。
 響いたのは、甲高い金属音。
「つぅ~! 分かっちゃいたが、かったいねぇ~!」
 目を開けた清姫が見たのは、痺れる手をプラプラと揺らすミサオの姿。そして。
「やはり、そう簡単にはいかないか」
「とにかく、やるしかないから! 徹底的に!」
「上手くすれば、綻びが見つかるかもしれません!」
 次々と、大鐘に向かって攻撃を始める皆。困惑が、浮かぶ。
「どうした? 不思議そうな顔をして」
 ミサオが、笑う。
「何故……?」
「はは。オレ達が、お前さんみたいな別嬪に手ぇ出すと思ったのかい? オレぁ魔王なんざ目指す悪党だが、流石にそこまで爛れちゃいないさ」
「そうよ!」
 相槌を打って、アレイシアも言う。
「あたし達は貴女を殺しに来たんじゃない! 救いに来たんだから!」
「救う? やつがれを?」
 『馬鹿な』、と清姫が言う。
「全てを存在確定に振っているとは言え、『大鐘』の権能はやつがれより上でございます。人の手で、崩せるモノではございません」
「だから、何?」
 振り向きもしないアレイシア。呼びかける。
「時を無駄にしてはいけません。誤れば、近隣の方々が苦界に堕ちます。御討ちください。やつがれを。其が易く、確かでございます」
 『抗いは、いたしませぬ故』と、願う。けれど。
「お断りします」
 水の性を纏ったマドガドルを叩きつけながら、オズワルドが切って捨てる。
「残念ですが、もうその選択肢は僕達にはありません」
「何故?」
「この期に及んでも、貴女は知りもしない人々を気遣った。その心がある限り、貴女は人です。間違いなく。なら、救います。それに……」
 清姫を、見る。
「貴女の目を、知っています」
「え……?」
「強いられて、受け入れた目。大義の為に、全てを諦めた目です」
 思い出すのは、赤土の園。
 そう育てられ。そう生きるしかなかった、あの娘。
「決めたんです。あんな事は、あっちゃいけないって。犠牲を防ぐ為の犠牲なんて、絶対に許さないって」
 小指に絡まる、絆の糸。感じる、彼女の存在。握りしめる。
「あの時の様になんて、させません!」
 刻んだのは、絶対の決意。
「そうでしょう!? チセさん!」
 淡々と燃える清姫の眼差しが、揺れる。

 声が、聞こえた。
 意味を知るチセに、猿二が告げる。
「魔力の消費量が! 増えた! 始まったよ!」
「はい!」
 頷いて、蒼炎の境界を見つめる。
「皆様は、選べたのでしょうか? 正しい、道を……」
「大丈夫!」
 漏らした不安は、絶対の自信に打ち消される。
「皆! 間違わない! 絶対に! その為に! 皆は! 僕達は! ここにいるから!」
 ――『勇者』が、いるのだから――。
 胸が、鳴る。
 そう。
 彼らは、間違えない。諦めない。
 自分に手を伸ばしてくれた、あの時の様に。
 そして、いつかは自分も。この手を、泣いている誰かに向かって。
 あの人の、隣で。
 その為に、今ここに。
「だから! 頑張ろう! 僕達も! 出来る事を! やるべき事を!」
「はい!」
 握りしめる、綴り糸。
 この想いが、届く様に。

 ◆

「駄目です……。止めて、下さりませ……」
 清姫が、懇願する。
 淡々と鐘を撃つ、チョウザに向かって。
「やつがれを、御討ちください……。どうか……それで、全ては終わるのですから……」
「おことわりー。って言うか、不理解無意味って感じ?」
 一点を集中して叩く皆。自分も手を休める事なく、返すチョウザ。
「ってーかさ。盛大完璧、勘違い思い違いしてるよね? ザコちゃん、別に誰かさんの為にやってる訳違うし? 自分がやりたいから、やってるだけだし?」
「……え?」
「だからさー、関係ないんよ。ここにいるのも、これやってんのも。一切合切、オールザコちゃんの意思オンリー。だから、蛇様のご意見要望、聞く気も義務もナッシング。OK?」
「けど……それでは、他の民方が……」
「……てーかさ」
 手を止めたチョウザが、清姫を見る。諦観した様に透明で、けれど確かな意思を持った瞳。その強さに、たじろぐ清姫。
「蛇様は、どーなの?」
 言って、コンコンと鐘を叩く。
「いんじゃないの? こんなかに。『旦那様』」
「!」
 それまで色の無かった少女の顔が、確かに引きつる。それを見止めて、チョウザは続ける。
「既知承知。こんなかに、大事大切なお方がいるって。でもけれど、蛇様、さっきから全然言わないよねぇ」
「…………」
「何で?」
 かけられた問いに、清姫がビクリと震える。
「何で?」
 優しくはないけれど、責める訳でもない。ただ、知りたいから訊いている。それだけ。
「……無駄で、ございます……」
 けれど、何の思惑もないそれが。純水の様に隠した心を、溶かし出す。
「【阿利人(ありひと)】様は……人で、ございます……」
 溶けた心は、浮かび出る。ゆっくりと。確実に。
「時が……過ぎました……途方もない、時が……。人の身で、在れる時ではございません……まして、あの時……」
 小さな手が、顔を覆う。震える、肩。想起するのは、痛みの記憶。
「ああ、成程如何程」
 見ていたチョウザが、なーんだと言った体(てい)で置いていた六角棒を手に取る。
「よーするに、確認視認したくない感じ? 旦那様のご遺体を」
 震える肩が、ピタリと止まる。
「だから、いっしょーけんめー殺せ殺せ言ってた訳ね。納得得心って感じ」
「…………」
「まーいーけど。ザコちゃん、どーこー言う気ないし。でも、気の毒だねー。旦那様も」
 清姫の髪が、ザワリと騒ぐ。
「まー、しゃーないね。蛇様が、会いたくないってんなら」
「……うるさい……」
「まー、そんなもんだよねー。お偉いお高い身分のお方様ってさー。何だかんだ、可愛い大事なのは、御身の御立場御心だしー?」
「黙れ……」
 ザワリザワリと、揺れる髪。纏う、炎。
 けれど、チョウザは止まらない。
「死んじゃった旦那様見てベソかくより、気高いお役目に殉じた非業の方が、かっこいーもんねー」
「黙れ!」
 弾ける燐火と共に、清姫がチョウザに掴みかかる。焼け付く爪が、彼女の顔を抉ろうとした瞬間。
 割り込んだ龍麟の腕と、飛来した魔力の弾丸がそれを弾いた。 
 部分硬質化と、マジック・ブラスター。
「ザコちゃん、あんまり刺激しないで! 事情は、知ってるでしょう!?」
「お前さんらしいと言えば、らしいがなぁ」
 注意するアレイシアと、苦笑いするミサオ。当のチョウザは、素知らぬ顔。
「貴女に……貴女なんかに、何が分かるの……!?」
 涙混じりの声が、皆の耳を打つ。
 清姫が、泣いていた。その目から、蒼火の涙をハラハラと零して。
「阿利人様が、いるから……わたしは……でも、見てしまったら……見たら、もう……」
 嗚咽を漏らして、よろめく様に鐘に身を寄せる。
「阿利人様……阿利人、様……」
 寄せる頬が、求める。近くて遠い、その姿。
「会いたい……会いたいよぉ……名前を、呼んで……抱きしめて……もう一度……もう一度で、いいから……」
 そう。流れた時は、あまりに長く。
 人である身が、在れる筈なく。
 見ずにいれば、時は記憶のまま。
 でも、会いたくて。
 触れたくて。
 解き放ちたくて。
 だけど、怖くて。
 だから、いっそ。
 アレイシアが、覗き込む様に顔を寄せる。泣きじゃくる彼女。リバイバルの身。抱き締める事も叶わない。だから。
 形だけ、寄せる額。優しく、囁く。せめても、痛みを。
「そうだね……。怖いよね。寂しいよね。……辛かったね……」
 大切な人。すごく近いのに、抱けない。如何程か。己の想いを、重ねる。
「何十年、何百年……想い続けてるなんて……うらやましいねぇ」
 煙管を咥えたミサオが、しみじみと言う。
「女を泣かすなんて、酷い奴だなぁ。少年は」
 コンコンと叩く鐘。届くかも、分からないけど。
「……鐘開けるまでは、分かんないじゃん? 一応は」
 聞こえた声に、清姫が顔を上げる。鐘を眺めながら、チョウザ。
「旦那様が、仮に死んでたとしても。消滅まではいってない可能性もあんじゃん? 魔力か気力か体力が残ってたら、いーんだから」
 それは、命の条件。世界の、理。
「もしそうだったら、さっさと蘇生できる施設に持ってくだけ。学園でも、何処でも。だから、早く出してあげないと。ねえ……」
 清姫を見る、薄笑い。
「蛇様?」
「……!」
 知らされた可能性。息を呑んだ清姫が、見回す。合わせた視線。あの時の父達とも、術師達とも違う。
 示された道を抱き締めて。アレイシアに。皆に。その瞳に。願う。
「会いたい……会いたいよ……」
 長い時。飲み込み続けていた言葉。
「お願い……阿利人様を……」
 見上げた瞳。もう一度、想いに満ちて。
「助けて……」
 全てを賭けて、吐き出した。

「誠、知るにつれ酷き事よ……」
 少し離れた場所で見ていた六道丸が、呟く様に言う。
「さぞや、苦しかったであろうに。だが、よくぞ頼ってくれた……」
 伏せる眼差しは、何処までも優しく。
 けれど、隣りのクロスは苦々しく言う。
「だが、可能性が低い事に変わりはない……。それに、あの娘もまた……」
 そう。今の清姫は、在るだけで災厄を撒く。在り続ける事は、許されない。そして、彼女もまた、望みはしない。
「例え、そうであろうとも」
 理解して、それでも六道丸は言う。
「魂を鎮め、正しく葬り、より良き来世へ送り出す事こそ、僧の本領。何としても、最悪の事態は避けてみせようぞ」
「ああ、勿論だ。この悲劇を、正しい形へと導くんだ」
 クロスもまた、強く頷いた。

 ◆

 時間には、限りがある。
 いずれ、炎の温度が大気の発火を促す。起こる惨事まで、後如何程か。
 微かな焦りを抑えながら、六道丸は大鐘を見つめる。
「この鐘が、其方達を現世に縛り付けておる要……。さて、如何なる呪法に依るものかな?」
「『大鐘』は、現のモノじゃない。術師に使役される、『式神』」
「式神!? 生き物なんですか!? コレ!」
 驚くオズワルドに、頷く清姫。
「正規の生命ではなく、呪法で創られた疑似生命……。組織構成自体が、結界で……」
 切々と説く清姫を、隣りのアレイシアが見つめる。一度壁を取り払った彼女は、普通の少女だった。角の取れた言葉も。涙を拭ってあげた時の顔も。ちょっと賢いだけの、年相応の女の子。
(もし、同じ時に居れたなら……)
 アレイシアの胸が、小さく痛んだ。

「……式神……生き物……そうか!」
「おや? 何か思いついたのかい?」
 訊いたミサオに頷き、クロスは皆に告げる。
「大鐘に、憑依を試してみる」
「憑依を、ですか?」
 怪訝な顔をするアレイシアに、頷く。
「この鐘が魂を縛っているのなら、つまりこれと少年は結びついている筈だ。それを手繰り、精神の共有を図ろう。『助けてほしい』、という意思を伝える」
「助けて……?」
「然様」
 六道丸が、清姫に歩み寄る。
「精査してみたが、この鐘の権能は強固。残念だが、拙僧達の力では足りぬ様だ。故に……」
 清姫に、深々と頭を下げる。
「其方『達』の力も、借りねばならぬ。辛いやもしれぬが……頼めるか?」
 戸惑う、清姫。
「でも、わたしの権能は『火』……。大鐘と同じ。干渉、出来ない……。だから、今まで……」
「分かっている。これを、使ってくれ」
 クロスが差し出したのは、自分の氷魔輪。
「君の故郷の産物らしい。攻撃や術を、水属性に変えてくれる」
 おずおずと伸びた手が、指輪を取る。
「……君の勇気に、答える。必ず」
 指輪を胸に抱く清姫に告げて、クロスは鐘に向き直る。
「さて……」
「吉と出るか、凶と出るか……」
 見守る中で、クロスが鐘に触れる。
 集中。
 意識が浮き、溶け混じる。
 幾つもの、違和感。その中から既知の感覚を探り、捕まえる。人外の相。鐘としての相。胡乱な境界。手探り、手繰った、その先に――。
「――見つけた!」
 クロスが発した言葉に、清姫がビクリと震えた。
「いたか!?」
「やった!」
 沸き立つ、皆。けれど。
「駄目だ!」
 歓喜を遮る、クロスの声。
「反応が弱い! 消耗し切っている! これでは、助けどころか……」
 切羽詰まった発言。皆が息を呑む中、進み出るのは、チョウザ。『これ、どう?』と差し出したのは、彼女の分の綴り糸。二つ。
「鐘の中に入れて魔力補給すれば、何なりともつんじゃない? 旦那様」
 確かに、道理は通る。けれど、その為にはこの堅牢の霊鉄に穴を開けなければならない。間に合うか? 皆が思った、その時。
「……いるんだね? まだ、在るんだね? 阿利人様が……」
 昏い声と共に、怖気。皆が振り仰いだ瞬間。
 走った蒼の閃光が、音と共に鐘を穿つ。
 清姫。
 掴みかかる手には、氷魔輪。水の性に染められた炎が、ギリギリと捻じ込まれる。
「返して……」 
 不朽の大鐘。堅牢にして絶対たる存在が、悲鳴を上げる。
「返して!」
 炎精の蛇姫は吼える。呪わしき腸(はらわた)。其の底から、愛しき者を抉り出す為。
「阿利人様を! 返せぇええ!!」
 墳爆の如く焚け上がる、蒼炎。元よりの力か。爆ぜた想い故か。
「凄い……」
「焦がれる乙女は、怖いと言うが……」
 軋み上げる鐘。『いける』。皆が確信した、その時。
 ――ドクン――。
 悍ましい鼓動が、蠢いた。
「――――っ! う、うぁああぁああっ!!」
 突如悲鳴を上げた清姫。苦悶の表情でのたうち、胸を押さえる。
「清姫さん!?」
「どうしたの!?」
 戸惑う皆。オズワルドが、気づいた。
 清姫の半身を成す蛇体。蠢くそれが、ぶれる。まるで、もう一つが重なり、別の意を持つ様に。
「六道丸さん、これは……」
「む……」
 六道丸の脳裏を、先に得ていた清姫に関する知識が巡る。行きつくのは、ある『存在』。
「……『火乃蛇(ひのへび)』か!?」
 書に記されていたそれは、低位の神格を持つ火の霊獣。清姫の血脈の守護神にして、彼女を変容させしモノ。
 純然な火の存在たる其にとって、氷魔輪の施す水の力は忌ましきモノ。清姫がそれを受け入れた事に怒り狂い、彼女の命を嬲り始めた。
「か……かは……」
 崩れ落ちる清姫。白い肌に走っていく、ひび。
「いかん!」
「指輪を!」
 駆け寄ったクロスが、氷魔輪を外そうとする。けれど。
「……ダメ……」
 拒む、清姫。
「清姫君!」
「ダメ……外したら、届かなくなる……また、届かなくなっちゃう……阿利人、様に……」
「……!」
「や、だ……もう、嫌だ……一人、ぼっちは……やだ……」
 唇を噛む、クロス。
「とら、ないで……阿利人、様……」
「――――っ!!」
 彼の手が、己の胸に伸びる。むしり取ろうとしたそれを、ミサオが掴んだ。
「放してくれ!」
「阿呆! 何をする気だい!!」
「『符』も渡す! そうすれば、火乃蛇を抑えられるかもしれない!」
「何言ってる!? ここが何処か忘れたか!? 符の加護がなくなれば、一瞬で消し炭だ!」
「燃える前に、物体透過で鐘の内部に侵入する! そして、阿利人君に直接……そうすれば!」
「冷静になれ! 鉄さえ溶ける熱だ! 術なぞ使う間があるか!」
「しかし!」
「……いい、の……?」
「!」
 言い合いに割り込んだ声に、振り向く二人。清姫が、見ていた。凛と輝く、眼差しで。
「符(それ)が、あれば……いいん、だね……?」
 華奢な手が、地面を噛む。爪が、剥がれる程に。
 起こる、異変。気づいたのは、アレイシア。
「火が……温度が、下がっていく……」
 正しく。周囲の温度が、急激に低下していく。清姫の権能は、寄生する火乃蛇の支配下。彼女の意思では、制御出来ない。けれど、今ここに至り。
「凌駕したのか……。霊獣の、力を……」 
 呟く、六道丸。恐ろしき、想いの力。
 怒り狂う、火乃蛇。走るひびが、広がっていく。
「清姫さん!」
 駆け寄ったオズワルドが、リーラブを施す。苦しみの中で、ほほ笑む清姫。
「あり、がと……。意識、飛ばなくて……済む……」
 霞む目が、見下ろすチョウザの姿を捉えた。
 変わらない表情で、彼女が問う。
「いーの? 蛇様」
「いい、の……」
 苦しい声。迷いは、ない。
「これ、は……わたしの、意思……本当の、『やりたい』事……」
 笑う。示してくれた導の、お礼に。
「止めない、よね……? 『ザコ、ちゃん』……」
「……とーぜん」
 その時の、顔。きっと、誰にも見せない。
 持っていこう。大事に。
 そう、決めた。

「……いける! チセ君、猿二君!」
 綴り糸を通して届く、意思。
 魔力の補給を受けたクロスが、胸から符をむしり取る。
「頼む!」
 焼け付く痛みに耐えながら投げたそれを、アレイシアが受け取る。
「もたつくな! 行け!」
 ミサオの声に促され、鐘に接触。激しい、抵抗。飲み込もうとする、大鐘の権能。けれど。
(邪魔するな……)
 押し退ける。
(あの娘達が、待ってるんだ)
 彼女に託された、想い。
(伝えるんだ!)
 凌駕する。
「道を、開けろぉ!!」
 吼えた先。
 遠ざかる、闇。明るくなる、視界。
 静かな冷感が、焼けた身を優しく包む。

「清姫さん!」
 クロスから受け取った符を、アレイシアが清姫の胸元に差し入れる。衣の中。少しだけ見えた、身体。あまりにも。滲む涙を拭い、貼り付ける。
 包み込む、水霊の加護。流石の苦痛に、抵抗する火乃蛇。その余波が、清姫を苛む。けれど、彼女は笑う。時間が、少しだけ。だから、『ありがとう』と。
 瞬間。
 鼓動が、もう一つ。
 鐘の中。弱々しいけど。確かに。
 彼女が、呼ぶ。彼の、名を。
「皆の衆!」
 六道丸。皆が、立ち上がる。
 一斉の攻撃。マドガドル。六角棒。マジック・ブラスター。ダード。灼けつく息吹。加減なんて、しない。配分なんて、知らない。ただ。ただ、ありったけを。
「壊れろ! 壊れろ壊れろ壊れろぉ!!」
「彼を返せ! 阿利人君を! 彼女の元に!」
 猛る友人達を笑いながら、ミサオが呼ぶ。
「少年、いつまで寝ているつもりだぁ? いい加減、目を覚ませぇ。でないと……」
 ヘラヘラしながら、クイッと傾ける頭。スレスレを、抜ける閃光。
「怖くて可愛い御伴侶殿が、待ちかねて迎えに行くぞぉ」
 清姫が放った、炎の吐息。渾身のそれが、穿った途端。
 鐘の下部。地面との接地面に、微かな、けれど確かなひび。
 見止めた六道丸が、看破する。如何に式神であろうと、その存在概念は釣り鐘。釣り鐘に、底はない。全くの、空虚。ならば、そこが。
 ――権能の、穴――。
 指示が、飛ぶ。
 攻撃。一点集中。鐘が、鳴く。
 ひびは広がり、ついに小さな穴が開く。
 チョウザが、綴り糸を差し入れる。伝える、意思。待っていた、猿二とチセの元に。
「チセちゃん!」
「はい!」
 頷き合う二人。そして、ありったけの魔力を。
 二人と、皆の想いと共に。
 猿二が『あー! ぼんやりしてきた!』とか言ってるけど、取り合えず、ソレは後。

 鐘の中で、力が弾けた。
 なけなしのそれを。受け取った全てを。己の全てを。振り絞った、命の波動。
 貫かれた大鐘が、沈黙する。
 立ち尽くす、皆の中。
 よろよろと、近づく者が一人。
 清姫。
 露わになった身体は、もう普通の少女のそれ。二つの水霊の力と清姫の抵抗に、辟易した火乃蛇はもういない。それでも、人知外の暴威は少女の身体を犯し、そこに火乃蛇の加護で留められていた時の負荷が襲う。
 満身創痍と言う言葉すら、届かない。
 それでも、少女は進む。崩れていく身体を引きずって。想い焦がれた、彼の元。
 アレイシアが近づいて、綴り糸を絡める。せめてもと、残った魔力を。一糸纏わぬ姿に、触れる事を躊躇うオズワルド。そんな彼の尻を叩き、ミサオもまた。二人分。
 崩れ落ちそうになった彼女を、六道丸が支える。お礼を言う彼女に微笑んで、優しく誘う。
 近づいた、鐘。手を、延ばす。揺れる、波動。広がる、波紋。権能を失った鐘を抜けて、何かが伸びる。小さな、少年の手。微笑む、少女。とても。とても、嬉しそうに。求め合う指先が、触れた瞬間。少女の身体が、光となって崩れ去る。
 誰かが上げた、小さな悲鳴。
 けれど、皆は見る。
 火の残滓と更々と流れる光の中、しっかりと抱き合う少年と少女の姿。
 全ては、一瞬。
 舞い上がる光に溶けて、空へと昇る。
 存在理由を失った鐘が、崩れる。現れたのは、綴り糸の切れ端を握ったクロス。近寄ったミサオが、立ち尽くして見上げる彼の肩を叩いた。

「我消滅!? 身体怠重! 眠眠眠!」
 魔力を使いつくした猿二が、そんな事を喚きながらひっくり返る。
 疲れ切り、それでも満足気にイビキなぞかき始める彼。見たチセはクスリと笑って、空を仰ぐ。遠い明星。流れる、光。

 時は、黄昏。
 闇の精霊王、『ボイニテット』の加護が満ちる頃。
 誰かが、祈る。
 どうか、彼らに慈悲があらん事を。
 例えそれが、どんなにささやかであったとしても。

 ◆

「……鐘の中で、そんな事を……」
「ああ、清姫君の想いを伝えられれば、ひょっとしたら阿利人君をリバイバルへと導けるかと思ったんだが……」
 事件から数週間後、アレイシアとクロスは買い出し当番として街の中を歩いていた。ついでに、暇だからと荷物持ちについてきた猿二も一緒。
「そうか! やっぱ! 頭良いな! クロスさん!」
 猿二の言葉に、けれどクロスは首を振る。
「いや、上手くいくなんて思ってなかった。そして、実際及ばなかった……」
 悔しげな声に、他の二人も顔を伏せる。
「全てを救えるなど、傲慢だと分かってはいるが……」
「……あの二人、せめて来世では一緒にいれるといいな……」
「ああ。そう、祈ろう」
 アレイシアが頷いたその時、彼女の横を誰かが追い抜いた。
 視線を上げる。手を繋いで駆ける、少年と少女。少し離れた所で立ち止まり、振り返った。
「え……?」
「な……」
 アレイシアとクロスが、息を呑む。
 微笑みかける、二人の顔は――。
「清姫、さん……? それに……」
「まさか、リバイバルに……? いや、しかし記憶が……なら、アレは……?」
 呆然と立ち尽くす二人にお辞儀をすると、再び駆け出す少年と少女。
「待っ……」
 アレイシアが追おうとするが、人込みに阻まれる。
「一体、何が……」
「いいんじゃないかな?」
 横を見ると、晴々とした猿二の顔。
 彼は言う。とても、嬉しそうに。
「頑張ったよ! 二人とも! 凄く! 凄く! いいと思う! 精霊様の手違いか! 計らいか! 分からないけど!」
 見つめる先。二人の、笑い合う声。
「その位の! ご褒美があったって!」
 フンスと胸を張る猿二。ポカンとしていたアレイシアとクロスが、破顔する。
「そうだ! そうだよね!」
「……ああ、そうだな。その通りだとも……」
 満ち行く、歓喜。
 それはきっと、皆で紡いだ小さな奇跡。
 遠ざかる影。
 握り合った手は、離れる事無く。黄昏の光。雑踏の向こうに、消えていった。



課題評価
課題経験:216
課題報酬:9600
蒼炎恋歌
執筆:土斑猫 GM


《蒼炎恋歌》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 1) 2020-07-28 23:35:44
始めましての方は初めまして。
賢者・導師専攻のオズワルド・アンダーソンです。
よろしくお願いいたします。

清姫…以前似たようなこともあり、彼女に対して親近感を覚えてしまいます。
個人的にプランBを希望しますが…


《ゆうがく2年生》 蓮花寺・六道丸 (No 2) 2020-07-29 16:18:02
拙僧は芸能・芸術コース、蓮花寺・六道丸。
よろしく頼む。

そうさなあ、拙僧もプランBを推したい。
狂乱状態の清姫にとても敵う気がせぬ……というのもあるが、
僧としてはやはり、人の心が残っている以上、恐ろしい妖魔として討つよりは人として眠らせてやりたいからのう。

《ゆう×ドラ》 アレイシア・ドゥラメトリー (No 3) 2020-07-29 20:15:12
村人・従者コースのアレイシアといいます。皆さん、よろしくお願いしますね。

戦力的にも心情的にもBを希望します
どちらにせよ…今回は時間制限もありますし、厳しい戦いになりそうですね?頑張りましょう

《ゆう×ドラ》 アレイシア・ドゥラメトリー (No 4) 2020-07-31 22:34:29
人数に余裕があるなら、姉さんが来るかもしれません。とだけ

とりあえずBの方法で行く、という方向性で話を進めますね
鐘は清姫以上の格、となると生半可な攻撃では制限時間内に破壊はほぼ不可能に近いはず
…清姫と少年の協力を仰ぐ必要があるとみます。
幸い、出会ったときに清姫は正気です。こちらが余程の対応をしなければ、話を聞いてくれるはず
……属性を水にするのはほぼ必須として、高耐久高体力かぁ
清姫と少年にお願いするのは、その辺りになりそう、かしら

《ゆうがく2年生》 蓮花寺・六道丸 (No 5) 2020-08-01 15:44:28
単に物質的な鐘であれば、拙僧ひとりなら物質透過で入れたろうが……
呪法で生み出した鐘ならば難しいかのう。
壊せぬならいっそ、スコップ(大)で下を掘って傾ける……というのも、時間内にはちと厳しいか。
やはり、素直に清姫どのの力を借りるのが一番の得策やも知れぬ。

《ゆうがく2年生》 蓮花寺・六道丸 (No 6) 2020-08-01 15:44:30
単に物質的な鐘であれば、拙僧ひとりなら物質透過で入れたろうが……
呪法で生み出した鐘ならば難しいかのう。
壊せぬならいっそ、スコップ(大)で下を掘って傾ける……というのも、時間内にはちと厳しいか。
やはり、素直に清姫どのの力を借りるのが一番の得策やも知れぬ。

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 7) 2020-08-01 18:51:59

ふむふむ、事情を説明しつつ協力的な対応を見せれば
清姫もきっと協力してくださるでしょう。

それに清姫だけでなく、水術師である少年にも協力を仰いだほうがいいですね。
というか、人数からして今回はこの二人の協力が確実に必要になりますね。

鐘越しで聞こえるのであれば、そのまま協力をお願いできればいいのですが。
…いっそ六道丸さんのスコップで掘って中に入って中で残留している少年に接触を試みる?

今回はアクラ中心とした水属性の魔法攻撃メインで回らせていただきますね。


《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 8) 2020-08-02 00:07:50
魂、ってのが謎みなんだよね。
リバイバルとして中にいるって感じなのかー、ザコちゃんたちの知らない状態異常なのか。
それ以外のわけわかんないアレなのかが。中身見ないというなんとも言えないのがめんどさある。
こーいうのなんてーの?『スネークファイヤーの猫』だっけ?それ。

とりまさー、全部燃え尽きる(20R)間に、元贄巣様の魔力もらって50、貰わないなら100あれば足りんだよね、まりょく。
ザコちゃん魔法使わないしー、よゆーなんだよね。水のなんとかで攻撃するとしても。…これ魔法かな。魔法ならやだな。

だからさ、ザコちゃんの小指分のやつ、鐘にでもつけちゃおっかなーって。
付け方わかんないから鐘だけど、中の…魂?のお人に魔力上げるつもりで。
だってさー、死亡と消滅のどーのこーの。消滅って気力魔力体力が3つとも無くなったときでしょ?
逆に言えばさ、3つのうちどれかがあんなら、蘇生かけれんじゃん?だから魔力は補おって感じ。
…今聖職コースのゆーしゃ様いないし、蘇生可能な施設まで保てば、だけど、ねぇ。

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 9) 2020-08-02 13:59:41
賢者・導師コースのリバイバル、クロス・アガツマだ。
戦力の足しにでもなればと思い、ギリギリだが参加した。よろしく頼む。

それで、これは予想だが、古い時代の話のようだし、彼には既に戻れる肉体は無いのではないかな……
ただ鐘の力で消滅できずに留めさせられて、死の機会を奪われているのではと。
きっと鐘を破壊するということ自体、彼を殺すことになるのだろう。
勿論、試すこと自体は構わない。それで救える可能性があるのなら遠慮の必用などないだろう。

とりあえず、俺もプランBに賛成として考えるよ。
それと、物体透過と憑依もやれるならやってみたいと思う。
もちろん成功する確証はないので、仮に行動が無駄になってもリスクが少ない人がやった方がいいかなとね。同じリバイバルなら六道丸君の方が時間を活用してやれることも多いだろう。

あとは……清姫にも此度の特殊アイテム、使えるか試してみようかとも思っている。
深読みしすぎな気もするけど、水霊の加護の一文が少しだけ気になってね。駄目元……だけれど。

《不屈愛の雅竜天子》 ミサオ・ミサオ (No 10) 2020-08-03 19:24:19
(スッとチリチリボーンなカツラを被って)
よぉ、毎度おなじみ賭博魔王のミサオ・ミサオだ。
今日が最終日だ、急遽参加させてもらったぜ。よろしく頼む。
本人に制御してもらうってのはまぁ無理だよな。うん。

あぁなるほど、むかしむかしのお話ってやつか。(改めて読みなおして)
いろいろ出来ることは考えて試しておくのがいいかもしれねぇな。


《新入生》 馬場・猿二 (No 11) 2020-08-03 20:19:19
ギリギリの参加でごめんね!
武神・無双コースの馬場猿二だよ!
今回の依頼!あまり適性が無くて!
鐘を破壊するにしても!なんにしても!魔力が枯渇しちゃいそうだから!
結界外からサポート!するよ!
僕の分の糸!魔法主体に扱う人に渡して!結ぼうと思ってる!
雀の涙程しか無いけど!多少は結界内の活動時間が延びると!思うよ!

《ゆうがく2年生》 蓮花寺・六道丸 (No 12) 2020-08-03 21:46:00
うむ、試してみるに越したことはなかろうよ。
拙僧は、せっかくクロスどのが透過を試してくれるというのだし、【オカルト親和】、あと【オカルト】を使って鐘の呪術的な弱点を探ってみようと思う。
同じ東の呪術なら拙僧の方が詳しかろうしな。
それで分からなければ、『スコップで下を掘り起こして倒す』方針に切り替える。
で、ザコちゃんどのたちが蘇生できればそれでよし。不可能であれば少年を安らかに眠らせる。生身の彼に協力が願えるのであれば、さほど難しくもないと思う。
討伐した場合は、なるべく正式に供養しよう。

ギリギリになったが、方針はこんなところだ。
一応最後まで相談には顔を出す故、変更点があれば言うがよい。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 13) 2020-08-03 23:19:42
実際どーかは謎として、【ハッタリ】の口実にはできっしね。
ザコちゃんそんな感じでてきとーに蛇様お願いして、さっき言ったことやっとくかなー。
あとはぽこす。おわり。

なんせよ、そろそろあれだし。出し忘れないよーにね。