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嘘つきはメメたんの始まり


ストーリー Story

「おっすおっーす! 遅かったじゃ~ん。メメたんすっかり待ちくたびれちまったぜ☆」
 相変わらずの明るい調子で、『フトゥールム・スクエア』学園長【メメ・メメル】が部下である【コルネ・ワルフルド】に話しかける。
「………………」
 対するコルネは、メメたんを見つめたまま微動だにしない。顔面蒼白で口をつぐみ、今にも泣き出しそうな表情を浮かべている。
「んも~、何か暗いなあ! スマイルスマイル! 教師がそんな辛気臭い顔してたら示しがつかないぜ!?」
「示しがつかないのはどっちですか! 何で逮捕されてるんですかああああああっ!!」
 2人の間を隔てる鉄格子を両手で握りしめたコルネは、泣き叫びながら膝から崩れ落ちたのだった。


「――いや~、びっくりしました。いつかこんな日が来るかもとは思ってましたけど、実際目の当たりにした時の衝撃が大きくて。でも、学園長の容疑が晴れて本当に良かったです」
「……コルネたん、さりげなく酷い事言ってない?」
 数分後。学園長から説明を受けたコルネは、『メメたん逮捕』の知らせが誤報であった事に胸をなでおろしていた。
「それにしてもいい度胸してますね。学園長の名を騙って無銭飲食するなんて……」
 メメ・メメルの『偽者』が、街中を手玉に取った。犯行のあまりの大胆さに、コルネは感心せざるを得なかった。
 現在2人がいる場所は、煙と極楽の街『トルミン』を守る自警団、『ギルッチ団』の屯所である。
 今回学園長がトルミンを訪れたのは、知り合いの旅芸人一座の座長から、街最大の温泉郷『ギンザーン』での公演を観に来て欲しいという招待状を受け取ったためであった。
 トルミンに到着して早々、学園長は詐欺の容疑で捕まる羽目になった。しかし、被害者の1人である宿の仲居が犯人は学園長とは別人であると証言してくれたため、すでに濡れ衣であった事が判明している。
「偽者が泊まってた『馬閣楼』の女将とは顔見知りだから、オレサマの名前で別人が好き勝手してたらすぐにバレるはずなんだけどな! 生憎今はトルミンを離れているとかで、まんまと騙されちゃったみたい。……んな事より、メメたんちょ~っち気になる事があるんだよね」
 手招きをした学園長が、コルネに小声で話し始める。
「実はその偽者、数日前から行方不明らしいぜ! しかも荷物をそっくりそのまま、宿に置いたままなんだって!」 
「……なるほど。状況から考えて、性質の悪い連中に捕まった可能性がありますね」
 コルネは理解した。メメたんが牢から出ない理由は、『本物』がいる事を誘拐犯に知られないようにするためだったのだ。
「コルネたんはすぐに学園に戻って、捜査に参加してくれる学生を集めて。頼んだぜ!」
「分かりました!!」
 学園長の命を受け、力強く頷いたコルネは外へと飛び出していった。
「今日は1日、芝居を観たり温泉に入ったりしてのんびりするつもりだったんだけどなあ。人気者は辛いぜ☆」
 牢屋の壁に背中をもたせかけながら、独り苦笑いを浮かべるメメたんであった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2021-04-05

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2021-04-15

登場人物 5/6 Characters
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。
《新入生》神鵺舟・乕徹
 ドラゴニア Lv10 / 芸能・芸術 Rank 1
 文字通りの意味で流れ着いてやってきた、異国の侠客。  用心棒や刺客、はたまた小間使いや芸子としてあらゆる手段で食い扶持を稼いできた苦労人。切った張ったの世界に居座り続けていた為か、思考が少々短絡的。  それだけに本来はそれなりの実力を持っていたが、エイーア大陸の魔物や勇者の戦技は祖国とは勝手が違うため、経験や知識から学び直し、自らの流れに取り入れている最中である。  元の世界では、『戮妓』と呼ばれる剣闘士のようなものをしていた。屈強な戦士や魔物を舞の如き動きで殺め、強さと美しさを見世物にする、絶望の時代ならではの卑賎な稼業である。だが、滅びを求めている魔族や権力者には強く支持されており、人気のある戮妓にはパトロンが付くこともあったという。  人気はあったものの、それ以上に悍ましき本性が勝っていたからか、彼女には誰も寄り付かなかったため、生活には結構苦労していたらしい。  また、過去の果し合いにより、左目の下に裂傷を負い、更に角をねじり折られた後遺症で枯れ木の枝のような醜い角が生えるようになってしまった。が、本人は名誉の負傷としている。  尚、今の名前はかつて愛用していた脇差から借りた偽名である。  話に聞いたエイーア大陸は、魔王の居城があるとされる場所の筈だった。人などが到底住める土地ではなかったとずっと信じていた。  ようやく大陸や学園での生活に慣れてきたものの、今度は平和ボケで腕が鈍りそうになることを恐れている。  また、同性でも自分より背の高い人が多く(というより元の世界の国ではこのくらいが平均だった)、少しだけ気後れしている。  油断すると稀に訛りが強く出てしまうらしい。非常に荒っぽくまるで喧嘩腰のように聞こえるため、極力出さないようにしている。(広島弁や播州弁に似ています。難しいと思いますので、用意された台詞以外はあまりリプレイに反映しないで大丈夫です) 『何だか、妙なとこに来たみたいじゃねえ』 『消えた後に地獄でも待っとるとしたら、そんなのでも救いになり得るのかのぅ?』 『そりゃ誰もが全て見えてりゃ苦労せんわい。目を逸らせるなら、都合のいいものしか見たくないじゃろ』 『えぐい化生共がぎょうさんと。あー邪魔くさいのぅ。わっち、せっせと帰にたい』 出身地:極東の島国 身長:五尺 体重:十貫(よりは少し重いらしい) 実年齢:数え年で二十二 好きなもの:粋な音楽、刃物 嫌いなもの:説教や小言 特技:剣舞、推察 読み:カヤフネ・コテツ
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《1期生》アケルナー・エリダヌス
 ローレライ Lv20 / 勇者・英雄 Rank 1
目元を仮面で隠したローレライの旅人。 自分のことはあまり喋りたがらない。適当にはぐらかす。 ふとした仕草や立ち居振舞いをみる限りでは、貴族の礼儀作法を叩き込まれてるようにもみえる。 ショートヘアーで普段は男物の服を纏い、戦いでは槍や剣を用いることが多い。 他人の前では、基本的に仮面を外すことはなかったが、魔王との戦いのあとは、仮面が壊れてしまったせいか、仮面を被ることはほとんどなくなったとか。 身長は160cm後半で、細身ながらも驚異のF。 さすがに男装はきつくなってきたと、思ったり思わなかったり。 まれに女装して、別人になりすましているかも? ◆口調補足 先輩、教職員には○○先輩、○○先生と敬称付け。 同級生には○○君。 女装時は「~です。~ですね。」と女性的な口調に戻る。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に

解説 Explan

【課題の目的】
 煙と極楽の街『トルミン』を探索し、メメたんの『偽者』を救出する事。

【偽者について】
 1週間程前からトルミン各地に出没。メメたんの名を騙り、ツケ払いで豪遊していた。
 3日前の朝、泊まっていた旅館『馬閣楼』から出かけたのを最後に行方不明となる。部屋には荷物が残されたままであり、何らかのトラブルに巻き込まれたと考えられる。

【探索場所について】
 今回のエピソードで探索できる場所は以下の通り。1人で3か所全て回った場合、探索状況によっては時間が不足する可能性がある。

1.大温泉郷『ギンザーン』
 共同露天風呂を中心に多くの温泉宿が立ち並ぶ、トルミン最大の温泉街。その中にある『トルミン商店街』は多くの観光客が散策や買い物を楽しむ場所として有名。
 学園長に招待状を出した旅芸人一座は、現在ギンザーンの芝居小屋で公演している。
2.旅館『馬閣楼』
 ギンザーン最大最古の温泉宿。女将の【馬場・マリアンヌ】は所用により街を離れており、今回のエピソードには登場しない。
3.自警団『ギルッチ団』屯所
 日々トルミン内をパトロールし、軽犯罪を取り締まっている自警団メンバーの屯所。
 メメたんが居座っている牢屋は、本来酔っ払いを保護するためのもの。

【その他】
 偽者の居場所が分かった時点で、課題は自動的に成功したものとする(敵対勢力との戦闘が発生した場合は必ず勝利となる)。


作者コメント Comment
 正木猫弥です。
 エイプリルフールが近いという事で、とある『嘘つき少女』にまつわるエピソードにご案内いたします。

 エピソード種別は『推理』となっていますが、『PL自身が偽者の居場所を推理する』というより、『どの場所でどんな行動を取れば、PCが居場所までたどり着けるか考える』という方がより正確かもしれません。
 前回がゴリゴリの戦闘ものだったので、今回はシティアドベンチャー(TRPGにおける都市を舞台にしたシナリオ)をイメージしたエピソードにしてみました。

 そのため、今回戦闘は成否判定の基準にはしておりません。文字数が足りなければ、戦闘に関するプランは省略しても大丈夫です。
 思う存分温泉街を探索し、お子さんを大活躍させてください。

 皆様のご参加、お待ちしています!


個人成績表 Report
レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
旅館『馬閣楼』にいきますね。

旅館の方にもおてつだいをおねがいします。


学園長先生のニセモノの人がのこしてる荷物をしらべてどんなひとなのか、そして、いなくなった日、どこにいくつもりだったのかを推測します。



ニセモノの人がこの旅館に泊まれたのは学園長先生のお知り合いの女将さんがいなかったから。
それがたまたまでしたらかんけいないです。
でも、女将さんがしばらくおられないってことをしっててやってたのでしたら、それをしった事情をさがすことでその経緯を確認できるかもしれません。



泊まってる他の人がニセモノの人をつかまえて自分の部屋にかくしてないか、
それができそうな部屋がないかも確認しますね。

神鵺舟・乕徹 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:195 = 65全体 + 130個別
獲得報酬:6000 = 2000全体 + 4000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
最初は招待状を出した旅芸人一座を怪しいと踏んだが、知り合いであることを考えれば襲う動機はない。だが念のため調べ、少し外堀を埋めたい。

まずはギンザーンへ赴き、少し商店街で聞き込む。特に背格好や人相などを聞いて、本物との違いを知っておく。
ある程度偽者の外見がまとまったら、一般客を装って芝居小屋にいる旅芸人一座を訪ねる。適当なよもやま話から始め、話がのってきたところで『学園長の偽物がいるらしい』と切り出してみる。呆れていたり困った様子を見せたなら、多分シロだろう。

ギンザーンの聞き込みを終えたら、宿の仲居に『学園長とは別人』であると何故分かったのか尋ねる。まんまと騙されながら、何故偽者に気付けた?

クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
始めに、1で偽者に関する情報の聞き込みを行う
偽者の足取りの通りに進めば、掴めてくるものもあるはずだ

飲食店から回ろう
無銭飲食とくれば、店員はもちろん、その場にいた常連客などからも情報が得られるはずだ
他に、例えば誰かと揉めていたかとか、そういったことも訊ねておこう
ましてや成りすましたのは誰かに恨まれていてもおかしくない人だ。それも持ち込む厄介の度合いは一般人とは違う
人違いで何かに巻き込まれでもしたら一大事だ

他にもうひとつ、馬閣楼の男湯など、男性しか入れないような場所も、女性の仲間のフォローのために調査に入ろう
怪しい人物などがいれば聞き耳を立てるなどしてみる
必要なら、憑依も試そう。ま、こっそりとね

アケルナー・エリダヌス 個人成績:

獲得経験:97 = 65全体 + 32個別
獲得報酬:3000 = 2000全体 + 1000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
学園長の偽者の所在を探る

◆分担
私はギルッチ団屯所に向かうよ

◆調査
コルネ先生や自警団メンバーに偽者の特徴を確認して、自警団メンバーや屯所にお縄になってる連中に、学園長の偽者をどこかで見たり、何処かに居たような話を聞かなかったか尋ねてみよう

勿論、タダでは難しいこともあるだろうし、怪我人の応急手当や調書取りの手伝いなんかもやっておこう
予想外の収穫があるかもしれないしね

確認できた情報は、日にちや時間をもとに時系列を整理し、偽者の行動範囲や行動ルートをまとめてみる

そのうえで、偽者の行動範囲付近に、最近、たちの悪い連中がねぐらにしてそうな廃屋や、連中が出入りする胡散臭い商家等ないか確認
絞り込んでいく

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
メメたんの偽物ねぇ…
怖いもの知らずというかなんというか…
何で行方不明になったかのよりもなんでメメたんと騙ろうとした方の事が気になるな

さて偽物探しだな
と、その前にメメたんに差し入れ(めめたん印の饅頭)でもしておくかなー
そのついでに『自警団』で解ってることを聞いてみようか
有力な情報があるかどうかはわからないが…こういった場所にはある程度の情報が集まるものだからな

聞き込み等が終わってまだ時間があるようなら『馬閣楼』に行こう
荷物に何らかのヒントとかあるかもだしな
例えば普通の人が持ってないものだとか怪しげなモノとか何とか

手に入れた情報は皆で共有したいとこだな


アドリブA 絡み大歓迎

リザルト Result

「――こんな感じでどうだろうか?」
「おお、こりゃ凄え!」
 煙と極楽の街『トルミン』の自警団、『ギルッチ団』屯所。
 【アケルナー・エリダヌス】から渡された書類に目を通したギルッチ団員は、その出来栄えに舌を巻いていた。
「俺たちじゃとてもここまでは気が回らねえ。本当に助かるぜ!」
「何、これ位お安い御用だよ」
 アケルナーが体裁を整えたパトロール記録は、すっきり読みやすい調書へと生まれ変わっている。万が一の場合に備え、習得しておいた『飯の種』。それが意外な所で役に立つのだから分からないものである。
 書類整理に怪我人の応急手当と、短時間で獅子奮迅の働きを見せたアケルナーは、ギルッチ団からの信用を得る事に成功していた。
(さて、と)
 アケルナーにあてがわれた机には、偽者が出没し始めたここ1週間分のパトロール記録が置かれている。この中に、事件に繋がる重要情報が眠っているかもしれない。
「お疲れさん」
 アケルナーと共に屯所を訪れていた【仁和・貴人】が、団員への聞き込みを終えて戻ってきた。
「ここからが本番だけどね。そちらはどうだい?」
「偽者に接触した団員から話を聞けた。あまりに堂々と『メメたん』と名乗っていたので、話をしても全く疑問に思わなかったそうだ」
 『フトゥールム・スクエア』学園長、我らが【メメ・メメル】は非常に目立つ人物だ。一度姿を見ればそうそう忘れないだろうが、その理屈は学園長を見た事がない者には通用しない。
 図太い神経と巧みな話術で、偽者は自分自身をメメ・メメルと思い込ませる事に成功したのだろう。
「しかもその偽者、どういう訳かバニーガールの恰好をしてたらしい。正直意味が分からないが……」
「……まあ『本物』があれだから、却って怪しまれなかったのは間違いないだろうね」
 貴人からの報告を受けて、アケルナーが率直な感想を漏らす。
「無茶な性格は学園長に似てるのかもな。……さて、オレはそろそろ行くか」
 貴人は屯所での聞き込みを切り上げ、偽者が泊まっていたという『馬閣楼』の調査に向かうつもりであった。
「私は残るよ。これから運び込まれる酔っ払いが、偽者を拉致した連中の情報を持っているかもしれないからね。しばらくしたら皆に合流する」
「了解した。じゃ、また後で」
 貴人を見送ったアケルナーは、席に戻って資料の分析を再開した。しかし。
(もし偽者が、本物と性格そっくりだったら……。学園長みたいな人物が他にもいたら大変だ)
 ちなみに、当の学園長は貴人が差し入れた饅頭を平らげた後、牢屋の中でグースカいびきをかいている。流石というか何というか、あんな性格の持ち主が何人もいるなど考えるだけで恐ろしい。
(……コルネ先生の胃に大穴が空いて、そこから干し葡萄がこぼれそうだね)
 デスクワークの最中に埒もない事を考えてしまったようだ。『メメたん達』に取り囲まれて吐血する想像上のコルネに、アケルナーは内心で同情した。


「何読んでるんだ?」
「きゃっ!?」
 背中に声をかけられた【レーネ・ブリーズ】が、飛び上がりそうになって後ろを振り返る。
「悪い。驚かせたな」
 グリフォンが快調に飛んでくれたおかげで、貴人はすぐに馬閣楼に到着する事ができた。
 偽者が宿泊していた部屋を訪れた貴人は、調査を始めていたレーネが熱心に読書する場面を目の当たりにしていた。
「い、いえ。これがどうしても気になって」
 申し訳なさそうに頭をかく貴人に、頬を染めたレーネが読んでいたノートを渡す。
「……手品のネタ帳か?」
 パラパラとページをめくった貴人は、びっしり書き込まれたノートの文字を指で追った。ネタ帳は10数冊にも及び、中には様々な手品の方法が記されている。
(これを偽者が書いたのか。バニーガール姿で無銭飲食するような奴とは結びつかない気もするが……)
 ノートの几帳面な書き方が、先程感じた偽学園長のイメージとかけ離れている事を貴人は意外に思った。
「わたくしはもう少しノートを調べてみるつもりです。この中には、ニセモノの人の『本心』が書かれているかもしれませんから」
「確かにそうだな。オレにも手伝わせてくれ」
 破天荒な上辺に隠された真実を紐解く事ができれば、偽者が何を考えていたのか分かるかもしれない。
 手近な椅子に腰を据えた貴人は、レーネと共にノートの分析に取りかかった。


「バニーガール姿の女性? そのようなお客様には覚えがありませんが……」
 商店街で得た偽学園長の情報を伝えても、支配人の反応は鈍い。
 レーネと貴人が、手分けをして偽者のノートを読み始めたのと同じ頃。
 トルミン最大の温泉街『ギンザーン』を訪れた【クロス・アガツマ】は、とある高級レストランの支配人に聞き込み調査を行っていた。
(おや。この手の店は、いかにも偽者が好みそうな気がするが)
 クロスの調べによると、被害を受けた飲食店はトルミンでも名の知られた一流店ばかり。どうやら偽者は、ただ美味しいものを食べたいというより『贅沢する事』に執着があるようだ。
「あれ? でもバニーガール……?」
「? 何か気になる事でも?」
 調査の空振りを覚悟したクロスだったが、首を傾げる支配人に気付いて声をかけた。
「2週間前にパーティーがあったのですが、その余興で若いマジシャンが呼ばれていたのを思い出しまして。お客様ではありませんが、彼女は確かにバニーガールの恰好をしていました」
「それは……実に興味深い話だね」
 偽者がそのマジシャンと同一人物なら、彼女が客として店を訪れなかった事の説明がつく。さらに思考を巡らせたクロスは、マジシャンの『とある可能性』についても思い至った。
「……そのマジシャンは、ギンザーンに来ている旅芸人一座かな?」
「え、ええ。確かにそうですが……」
(これはかなりの手がかりになるかもしれない。早く『彼女』に伝えないと)
 今回の調査メンバーの中には、旅芸人一座の元へ向かう予定の者がいる。
 レストランを辞去したクロスは、足早に【神鵺舟・乕徹】との合流場所へと向かった。


「おいあんた、ここは立ち入り禁止だぞ」
 公演を終え、一息ついていた旅芸人一座の座長は、楽屋にふらりとやって来た乕徹を呼び止めた。
「いや、実に見事な出し物じゃった。うちの学園長が世話になっとると聞いて、話をしてみたくなってのぅ」
「……ああ! もしかしてメメたんとこの学生さんかい? そうかそうか、よく来てくれたな!」
 乕徹が身分を明かした途端、座長の態度が目に見えて軟化する。
 よもやま話を続ける内に、座長とメメたんは数年来の友人である事が判明した。公演後の打ち上げに参加した事もあるので、学園長は他の座員とも面識があるらしい。
(ふむ。どうやら学園に対して悪意はないようじゃが……)
 座長の真意を探るため、乕徹は慎重に言葉を選びながら会話を続ける。すると、本題に入る機会は程なくして訪れた。
「そういやメメたんはどうしてるんだ? 手紙を送ったのにまだ観に来てくれてないが」
 向こうから招待状の件を口にしたのは意外だったが、乕徹にとっては渡りに船である。
「……実は今それどころではないんじゃ。学園長が詐欺の疑いで捕まってしまっての」
「ええ? そりゃ本当か!?」
 普段から大勢の観客を相手にしているだけあって、座長の面の皮は中々に分厚いようだ。
 しかし、そんな座長に口を割らせるための『切り札』を、乕徹は既に得ていたのである。
「安心せい、そやつが偽者である事はもう調べがついておる。その偽者が、ここの座員である事ものぅ」
「………………」
 クロスの情報は『旅芸人一座にバニーガール姿のマジシャンがいた』というものであり、そのマジシャンが偽学園長である確証はない。
 乕徹が繰り出した渾身のブラフに絶句した座長は、しばし逡巡した後、観念したように口を開いた。
「……やっぱり誤魔化すのは無理か。お願いだ、どうかリリアナを――俺の娘を助けちゃくれねえか。頼む!」
(ようやく白状したか。やはり裏で何かが起きていたようじゃのぅ)
 苦悩の表情を浮かべながら頭を下げる座長を、乕徹は何とも言えない気持ちで見つめた。


 座長への聴取を終えた乕徹が馬閣楼に足を運ぶと、レーネと貴人の他に、ギンザーンで聞き込みをしていたクロスと、ギルッチ団の調査を終えたアケルナーも合流していた。
「……やれやれ。事の発端が親子喧嘩とはね」
 乕徹の調査結果を聞いたアケルナーが、ため息をついて部屋の天井を眺める。
 【リリアナ・メンティス】という旅芸人一座のマジシャンが、自らをメメ・メメルと偽った理由。それは、自らの待遇を巡って父親である座長と大喧嘩をした事がきっかけだった。
「リリアナの手品師としての人気はいまいちらしくてのぅ。苦肉の策で露出の高い恰好をしたものの、男共に媚びを売る毎日に我慢ならなくなったようじゃ」
「それで一座を飛び出したのか。学園長の名を騙るなんて物好きな真似をしたのも、自暴自棄になっていたからなのだろうな」
 もしかすると、有名人であるメメたんに対し、妬みもあったのかもしれない。リリアナの人となりが、クロスには徐々に見えてきたような気がしていた。
 『フトゥールム・スクエアの学園長がバニーガール姿で豪遊している』――その噂話を聞いた時、座長はすぐにその正体がリリアナだと勘付いたらしい。
 どうやって連れ戻すか、手をこまねいている内にリリアナは失踪し、座長はさらに窮地に立たされる事となった。
 娘を助けたいのは山々だが、詐欺行為が表沙汰になれば一座はトルミンにはいられなくなる。座長が何食わぬ顔でメメたんに招待状を送ったのは、フトゥールム・スクエアをこの事件に巻き込み、秘密裡にリリアナを救出させるためであったのだ。
「ネタ帳を調べて分かったんだが、リリアナはノートを日記としても使っていたらしい。中には色々な事が書かれていたよ」
「うれしいときもつらいときも、リリアナさんは毎日ノートをとって手品のべんきょうをしていました。だからこそ、こんな事件をおこしたのがざんねんでなりません」
 一流マジシャンになる夢と、それがままならない現実。リリアナのノートには、彼女の気持ちが赤裸々に綴られていた。
 リリアナのやった事はとても見過ごせるものではない。だがそれでも、1人のマジシャンの『本心』を垣間見た貴人とレーネは、彼女を根っからの悪人とは思えないでいた。
 その後も5人は情報を提供し合い、活発に議論を重ねていった。その結果、学生達は『とある人物』が事件の鍵を握るという推理にたどり着いたのである。

「――あ、あの。失礼いたします」
 数時間後。5人が待ち受ける室内に、おずおずと馬閣楼の従業員が入ってきた。
「私に御用があると聞きまして。どうかなさいましたか?」
 その若い娘は、学園長が逮捕された時に偽者の存在を証言してくれた仲居であった。
「ひとことお礼を、とおもいまして。わたくしたちの調査にご協力いただき、ありがとうございました」
 今回の事件が、馬閣楼の名物女将【馬場・マリアンヌ】の不在を狙って行われた犯行であるとすれば、誘拐犯が馬閣楼の内部にいる可能性も考えられる。
 リリアナのノートを読み終えたレーネは、クロスや貴人と男女手分けをして馬閣楼の探索を行い、従業員達には問題が『ほぼ』ない事を確認していた。
「ああ、そんな事でしたか。いくら調べていただいても構いませんよ。何もやましい事はありませんから」
「……確かに馬閣楼はシロじゃ。だからこそ、あんたの行動が気になってのぅ。一度まんまと騙されながら、何故あんたは偽者に気付けた?」
 仲居の笑顔は、乕徹の鋭い舌鋒によって引きつった。
「あんたと学園長に面識がない事は、さっき学園長本人に確認した。なら、何であんたはわざわざ学園長を助けようとしたのか? 答えは単純、学園に事件を解決してもらいたかったからだ。しかも、可能な限り内密に」
「君の事は調べさせてもらったよ。妹が悪い連中と付き合い始めて困っているそうだね? もしかして、君は妹がリリアナを拉致した場面を目撃したんじゃないか?」
「そ、それは、その……」
 貴人とクロスの追及に、仲居はしどろもどろになって俯く。
「トルミンには犯罪グループが多数存在していてね。ギルッチ団のデータだけでは、どのグループの犯行か特定するのが難しいんだ。でも、妹さんのグループが分かれば調査の突破口になるはずだ」
「あなたもつらかったとおもいます。でも、このままリリアナさんが命をおとせば、あなたはもっとつらいきもちになるはずです。おねがいします。わたくしたちに、ほんとうのことをおしえてください」
 アケルナーが、そしてレーネが思いを込めて仲居を説得する。
「ご……ごめんなさい。本当にごめんなさい……」
 学生達の真剣な眼差しに囲まれた仲居は、一瞬だけほっとしたような表情を浮かべた後で、静かにすすり泣きを始めたのだった。


 扉が開き、真っ暗な部屋に一条の光が差し込む。
「くっ……」
 その眩しさに顔をしかめたリリアナは、光の先に見知らぬ者達がいる事に気付いて身を固くした。
「だ、だ……れ……?」
「魔法学園フトゥールム・スクエア。そう言えば私達が誰だか分かるね?」
「ひっ!?」
 アケルナーの言葉はごく穏やかなものであったが、リリアナは恐怖に顔を歪ませて後ずさった。
 その過剰な反応は、リリアナがこの数日間に体験した恐怖の現れであったのだろう。
「わたくしたちは、あなたを罰するために来たのではありません。だいじょうぶです。あなたを傷つけるひとはもういません」
 ゆっくりとリリアナに近づいたレーネが、子供をあやすように優しく語りかける。
「あ、ああ! ああああああああ! うあああああああああ……!!」
 この時、ようやくリリアナは助けが来た事を理解した。レーネの身体にすがりつき、せきを切ったように泣き始めるリリアナの姿は、トルミンを騒がせた詐欺師とは到底思えないものであった――。

「ようやく終わったな……」
 隣の部屋では、リリアナの様子を見ていた貴人がほっと息をついていた。
「ふん。あんなえらい事を仕出かしたのはどんなタマかと思うていたが。ああ泣かれてはツラを拝む気にもなれんのぅ」
 そう語る乕徹の足元には、簀巻きにされたゴロツキ共が転がっている。仲居の妹は、その内のどれかなのだろう。
(これに懲りて、彼女はもう他人になろうとは考えないはずだ。自分を捨てる事が、どれほど愚かであるか思い知ったのだから)
 虚飾の果てにリリアナが得たものは、砂上の楼閣のように消え失せた。
「己を偽り他者になる、か……」
 その虚しさを噛み締めながら、クロスは独り小さく呟いた。



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
嘘つきはメメたんの始まり
執筆:正木 猫弥 GM


《嘘つきはメメたんの始まり》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 1) 2021-03-31 21:03:07
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。
よろしくおねがいします。

《新入生》 神鵺舟・乕徹 (No 2) 2021-03-31 21:44:03
神鵺舟……という事にしとくかの。
考え事は苦手じゃが、ちぃと偽者の顔を拝むのもええかな、と。

むう、レーネはせんどぶり……いや、大体ほろ一月ぶりじゃね。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 3) 2021-04-01 05:48:10
神鵺舟さん。またよろしくおねがいします。

えと、「温泉」と「旅館」と「自警団」の分担、それから「さがすやりかた」、この相談になるでしょうか?

ひろさとかをかんがえますと温泉に二人がいいのかなっておもいます。
わたくしは「そこにニセモノがいない」というときでも、この機会についでにやってみたいことがそれぞれにありますからどこでもだいじょうぶです。
もちろんついで、なのでニセモノさがし優先です。
ほかの方もおかんがえがあるでしょうし、あまりにもかたよるようなことがなければなんとかできるっておもいます。

あと、もちろんおきもち優先ですけど、こだわりがなければ温泉には男の方にもいってもらえたらうれしいです。
ひつようになるかわかんないですけど、温泉はわたくしたち女の子だとはいれないところがいっぱいありますから。
もちろん男の方がはいれないところもありますし。
ただ、どうしても、ってほどでもないですから、なにもなければ、ってかんじですけれど。

《1期生》 アケルナー・エリダヌス (No 4) 2021-04-01 07:52:45
やあ。私は勇者・英雄コースのアケルナー。よろしく頼むよ。
私は自警団に向かいたいけど、早めに言って貰えれば調整するよ。

《新入生》 神鵺舟・乕徹 (No 5) 2021-04-02 01:46:53
ならわっちは温泉にでも行くかのぅ。いや、湯治やなくてな。

偶然じゃ思うが、ギンザーンの芝居小屋での公演の招待状が送られていて、偽者が行方不明になってもた。
どうにも微妙に出来ている気がしてのぅ、その辺りを洗ってみるつもりじゃ。
まあ、招待状の送り主が学園長の知り合いと言うし、杞憂じゃと思うがの。

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 6) 2021-04-04 13:36:15
立て込んでいて挨拶が遅くなった、申し訳ない。
賢者・導師コースのクロス・アガツマだ、よろしく頼む。
表明はなさそうだし、それなら俺が男湯等を兼ねて1の温泉の方を調べてみよう。
真似た人物が人物なので、面倒なことに巻き込まれてなければいいが。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 7) 2021-04-04 19:22:51
それではわたくしは旅館にいきますね。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 8) 2021-04-04 23:31:43
出発直前になってすまない。
魔王・覇王コースの仁和だ。
『自警団』に行こうと思うが・・・どうなるかな?

と、あと少しで出発だからな・・・白紙には注意だ。