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ギガンテス・ネゴシエーション


ストーリー Story

「ばいばーい!」
「またねー!」
 ボソク島の船着場から、子供達が見送りながら手を振っていた。
「またねー!」
 ぶんぶん手を振りかえすのは巨人の子供【ガニメデ】だ。
 彼は、魔王軍に操られ島を襲ったのだが、学園生達の奮闘で解放されている。
 その後、学園生達の協力もあり島で生活していたのだが、故郷へ連れ帰るための船が用意出来たので、帰郷となった。
「……もう、見えない」
 船のへりで、ずっと島を見ていたガニメデだが、もはや島が点にしか見えないぐらいに離れている。
 今ガニメデが乗っている船は、風を操る魔法と水を操る魔法を使った高速艇。
「……ぐす」
 一緒に遊んだ友だち達の姿が見えなくなり、涙ぐむ。すると――
「そう湿っぽい顔すんな。また会いに来れば好いんだからよ」
 明るい声が掛けられる。
 声の主は【ガラ・アドム】。
 商人にして学園卒業生の彼は、ガニメデを故郷に返してやるために船の手配をした人物だ。
「……また、遊びに行ける?」
 ちょこんと、身体を縮めるようにして座りながらガニメデは問い掛ける。
「心配すんな。また来れるさ」
 ガラは、ちょこんと座るガニメデを見上げながら言った。
「ボソク島との交易路を拡充する為にも、船は定期的に出すつもりだからな。ちゃんと準備すれば、遊びに行けるぞ」
「ほんとう?」
「ああ。でも、その前に家族を安心させてあげないとな。会いたいだろう?」
「うん……父ちゃんと母ちゃんにあいたい……おうち、かえりたい……」
 話している内に、望郷の念が湧いて来たのか、大きな一つ目に涙を貯めるガニメデ。
「心配すんな! おいちゃんが返してやるからよ!」
 ガラは笑顔で言った。
「帰る時は学園生に――ほら、前に島で遊んでくれた兄ちゃんや姉ちゃん達がいただろ? そこに護衛で来て貰えるように手配してるから、何の心配もないぞ」
「……うん!」
 泣き笑いで応えを返すガニメデに、ガラは笑みを浮かべながら続けて言った。
「それでな、みんなで一緒に行くんだけど、そん時に、学園生以外の大人も一緒について来るけど、そっちも心配しなくても良いからな」
「おとなの、ひと?」
 首を傾げるガニメデに、ガラは続ける。
「研究都市セントリア、って難しいこと言っても良く分かんないわな……んー、まぁ、色んなことを調べたりしてる所なんだけど、そこの人が付いて来るんだ」
「なんで?」
 好奇心を浮かべて尋ねるガニメデに、ガラは応える。
「ガニ坊の父ちゃん達に、作って欲しい物があるんだ。ガニ坊の父ちゃん達は、なんでも造れるんだろう?」
「うん! 父ちゃんたち、すごいの。いろんなもの、つくれる」
 ガニメデ達、巨人種サイクロプス族は、雷を操り様々な物を作ることに長けている。
 しかし、その業が災いし、彼らの武具を巡って争いが起きたことがあり、今ではトロメイアにある大陸随一の高山、アルマレス山に連なる山岳地帯に隠れるようにして住んでいた。
(ガニ坊のことがあるから、こっちの印象は悪く無いが、交渉は気を使わねぇと)
 ただでさえ魔王軍にガニメデが浚われて気が立ってる。
 最初に話をしに行った時は、生きた心地がしなかったぐらいだ。
(その辺も、後輩たちに任せるかね)
 御膳立てに全力を尽くすことにしているガラは、その後のことは学園生達に任せることにしていた。

 そして船は、アルチェに到着。
 そこからは陸路で向うことにしており、一緒に向かう学園生達を待っていた。すると――

「ああ、居た居た! 巨人が居ると目立つから見つけやすくて助かりますね」
「迷わずにすんで好かったでーす」
 ヒューマンの男性と、フェアリータイプのエリアルに見えるオッサンが近付いて来た。
「どうもどうも。貴方、ガラ・アドムさんですよね? 私、セントリア中央研究所の責任者をしてます【ハイド・ミラージュ】と言います」
「【メフィスト】でーす」
「あぁ、話は聞いてます。同行するのは、お2人だけですか?
「ええ。学園生さん達はともかく、私達があまり大勢で行くと警戒されるかと思いまして」
 ハイドが説明する。
 彼らが同行するのは、サイクロプス達に、必要とする材料を作って貰うためだ。

 少し前、学園生達と共にセントリアで話し合いが行われた。
 それは異世界の技術を流用し、何かが作れないかという物だった。
 幸い、技術面では幾つか目処が立ち始めていたが、肝心の材料を手に入れる算段が出来ていなかった。
 異世界の門となる特異点を安定して固定するための『界錨』や、仮面による支配を防ぐ結界を張るための『支柱』などなど、設計図は組めても作るための材料が無い状況だ。
 それを作れるサイクロプス達と継続して交易できないか、というのが彼らの目的である。

「まぁ、その辺の交渉はお任せします。どーにも、うといもので」
「頼みまーすねー」
 ガニメデと鬼ごっこするメフィストの声を聞きながら、どうしたものかと考えるガラだった。

 この状況で、アナタ達は同行することになります。
 巨人の子供であるガニメデを故郷に届け、サイクロプス族に継続した材料の交易をして貰えるように交渉するのが、皆さんに出された課題です。
 幸い、今までの学園生達の奮闘により、サイクロプス族は皆さんに対して好意的なようですが、交渉を間違えると失敗することもあり得ます。
 今後の魔王軍との戦いのためにも、ぜひ交渉を成功させて下さい。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2021-09-28

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2021-10-08

登場人物 4/8 Characters
《グラヌーゼの羽翼》エリカ・エルオンタリエ
 エリアル Lv33 / 賢者・導師 Rank 1
エルフのエリアル。 向学心・好奇心はとても旺盛。 争い事は好まない平和主義者。(無抵抗主義者ではないのでやられたら反撃はします) 耳が尖っていたり、整ってスレンダーな見るからにエルフっぽい容姿をしているが、エルフ社会での生活の記憶はない。 それでも自然や動物を好み、大切にすることを重んじている。 また、便利さを認めつつも、圧倒的な破壊力を持つ火に対しては慎重な立場を取る事が多い。 真面目だが若干浮世離れしている所があり、自然現象や動植物を相手に話しかけていたり、奇妙な言動をとることも。 学園へ来る前の記憶がないので、知識は図書館での読書などで補っている。
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」
《光と駆ける天狐》シオン・ミカグラ
 ルネサンス Lv14 / 教祖・聖職 Rank 1
「先輩方、ご指導よろしくお願いしますっ」 真面目で素直な印象の少女。 フェネックのルネサンスで、耳が特徴的。 学園生の中では非常に珍しく、得意武器は銃。 知らない事があれば彼女に訊くのが早いというくらい、取り扱いと知識に長けている。 扱いを知らない生徒も多い中で、その力を正しく使わなくてはならないことを、彼女は誰よりも理解している。 シオン自身の過去に基因しているが、詳細は学園長や一部の教員しか知らないことである。 趣味と特技は料理。 なのだが、実は食べるほうが好きで、かなりの大食い。 普段は常識的な量(それでも大盛り)で済ませているが、際限なく食べられる状況になれば、皿の塔が積み上がる。 他の学園生は、基本的に『○○先輩』など、先輩呼び。 勇者の先輩として、尊敬しているらしい。 同期生に対しては基本『さん』付け。  
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。

解説 Explan

●目的

サイクロプス族に、資材の交易を継続して行って貰えるように交渉する。

●流れ

今回は、以下のような流れで進みます。

1 サイクロプスの里に到着

山岳地帯にいるサイクロプス達に、ガニメデを届けることになります。

2 サイクロプス達との交渉

里で歓迎された後、交渉を開始します。

●交渉

サイクロプス族に対して、何を求めるのか?
資材の交易のみにするのか?
それとも、それ以外も求めるのか?

求める物に対して、何か対価を払うのか?
対価を払うとして、それは物にするのか?
あるいは、他の何かにするのか?

交渉の際に、交易以外のことを話すのか?

この辺りを、ハッキリさせておくと良いかもしれません。

●サイクロプス族

成人で10mになる巨人族。
基本的に温厚で戦いは好まない。
争いを避けるために、現在の山岳部に移住した、と『言われている』。

現在住んでいる場所から、『何故か』、かたくなに移住することを拒んでいる。

今までの他のエピソードの結果により、好感度は悪くは無いです。

●NPC

ガニメデ

巨人族の子供。
他のエピソードの結果により、好感度は高いです。

この子を交渉の場に参加させることも可能ですし、させないことも出来ます。

ガラ・アドム

学園卒業生な商人。
事前にサイクロプスの里に訪れており、サイクロプス族たちとは顔見知りです。
継続した交易を築くに当たって必要なことがあれば、彼に言えば可能な限り便宜を図ってくれます。

ハイド・ミラージュ

セントリア中央研究所責任者にして研究員。
技術的なことに対して説明してくれます。

交渉の際に必要であれば協力を求めることが可能です。

メフィスト

異世界人。
なんか連いて来た。

技術的なことに対して説明してくれます。

交渉の際に必要であれば協力を求めることが可能です。

NPC達と協力して交渉することも出来ますし、PC達だけで交渉することも出来ます。
その辺りは自由です。

以上です。


作者コメント Comment
おはようございます。もしくは、こんばんは。春夏秋冬と申します。
今回は、交渉エピソードです。

難易度は普通ですが、この交渉次第で、また色々とエピソードが出て来たり、あるいは消えたりします。

皆さまの結果により、この先もエピソードを作っていく予定です。

それでは、少しでも楽しんでいただけるよう、判定にリザルトに頑張ります。



個人成績表 Report
エリカ・エルオンタリエ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:156 = 65全体 + 91個別
獲得報酬:4800 = 2000全体 + 2800個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
個人的にはガニメデさんを無事に送り届ける事ができれば満足。

その先の交渉は、うまく行けばラッキーぐらいに思っていて
是が非でも成功させねばというほどの義務感は持っていない。

サイクロプス側にどんな事情があるか分からないので、無理強いはできない。
こちらが今持っているサイクロプスの情報やイメージもどこまで正しいか不明。
まずは、聞ける範囲でサイクロプスたちの状況や歴史などを聴き、
可能な所から相互理解や協力関係を深めていき、その先で製作などをお願いできれば。
急ぎ過ぎず、着実な信頼関係を結びたい。

魔王軍によるガニメデさん拉致についての情報交換。
里としての見解や意見を聞き、再発防止や今後の対策を相談したい。

タスク・ジム 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
・サイクロプス族に対して、何を求めるのか?
→今回は「資材の交易」に専念

・求める物に対して、何か対価を払うのか?
→先方が欲しいものを聞き取り、可能な限り調達を約束したい

・交渉の際に、交易以外のことを話すのか?
→以下のポイントを中心にサイクロプス側の事情を聴きたい
<争いを避けるために、現在の山岳部に移住した、と『言われている』>
<現在住んでいる場所から、『何故か』、かたくなに移住することを拒んでいる。>
【信用】を駆使して、「出来ることがあれば協力したいから事情を教えてほしい」という気持ちが伝わるような【会話術】で問いかけ、傾聴する。

道中は不測の事態を警戒しながら一行の護衛役

交流連携大歓迎
アドリブA

シオン・ミカグラ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
私は交渉や交易に役立つよう、サイクロプス族の皆さんから色々と話を聞いてみます
情報共有は大切ですからね。こちらが力になれることなら、知っておけば情報を持ち帰って助けにもなれるかもしれません

魔王軍がここに来た頃のことを尋ねてみます
仮面のこと、それにガニメデさんが誘拐されたこと、気になることはたくさんあります
きっと、大変な思いをしたでしょうから

私達からも、魔王軍のものと思われる活動が多く報告されるようになったことや、他の種族も同様の被害が確認されていることは伝えておきたいです
みんな、傷つけられています

それと、もし許しを頂ければ彼らの技術や工房を見てみたいですね
私も銃を分解してみせて、談話をしたいです

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
アドムさんと協力してサイクロプスのひとびととの「対話」を調整します。

ひとによっていうことがちがう、おかしい、
そうおもわれちゃうのは関係構築のおおきなさまたげになる。
発言をさえぎるんじゃなくて、ちがいについて説明できるようにすること、
わたくしたちそれぞれに想いがあってちがう立場もありえること、
そのうえで「対話」をのぞんでるとつたえられるようにしたい。

これはケンタウロスのひとびととの「対話」とおなじです。

でも、もっとおおきな意味があります。

サイクロプスのひとたちにとっては、
「ひととひとのあらそいに自分たちのこどもがまきこまれた」
こうみえてもしかたないからこそ、しめします。

わたくしたちはちがうって。

リザルト Result

 サイクロプスの里に、ゆっくりと一行は向かっていた。

(ケンタウロス族の次はサイクロプス族……)
 周囲を警戒して進みながら、【シオン・ミカグラ】は感慨深げに思う。
(縁が回りまわって、最近はこうして色んな場所へ足を運んでいますね)
 学園に入学する前には、想像もしなかったことが次々起こっている。
(これが、勇者を目指すということなのかもしれません)
 シオンにとって、フトゥールム・スクエアに入学したのは過去を乗り越えるためだ。
 けれどそれは未来に繋がることでもある。
 自分だけでなく、誰かの行く末に関わっていくこと。
 それが勇者を目指すということだ。だからこそ――
(ちゃんと、家族の元に連れ帰ってあげないと)
 ちらりと、ガニメデを見上げ、シオンは思った。すると――
「どうしたの?」
 ガニメデと目が合って、不思議そうに尋ねられた。
 シオンは笑顔で返す。
「もうすぐ、お家に帰れますね」
「うん! おうち帰れる!」
 にこにこ笑顔でガニメデは応える。
 ボソク島の子供達と離れて寂しそうな顔をしていたガニメデだが、故郷に近付くにつれ嬉しそうな顔になっていた。
 それは当然、家族と会えることが一番の理由だが、道中で怖さを感じていないことも一因だ。
「あのね、とうちゃん、色んなもの作れるんだよ」
 ガニメデは、シオンに話し掛ける。
 少し前、ボソク島でシオンは、子供達と一緒に面倒を見てあげていたこともあり懐いていた。
「すごいですね。作っている所を見てみたいです」
「うん! とうちゃんに、たのんでみる!」
 シオンが話を合わせてくれるお蔭で、ガニメデは帰路の旅路に怖さを感じていないようだった。
 それを見ていた【エリカ・エルオンタリエ】は、胸中で呟く。
(よかった。このまま、無事に親御さんの所に連れ帰ってあげないと)
 エリカにとって、今回の最優先はガニメデの帰還だ。
 その先の交渉は、巧くいけば幸運だとは思っているが、是が非でも成功させねばというほどの義務感は持っていない。
(サイクロプス側にどんな事情があるか分からないし、無理強いはできない)
 自分達の利益の前に、サイクロプス側の事情を考えて動こうとしていた。
 そんな彼女に、周囲の警戒をしていた【タスク・ジム】が連絡を入れる。
「後方からは、視認できる範囲で人影などはありません。今のところ順調に進んでいますし、このまま無事に届けたいですね」
「ええ。無事に帰してあげましょう」
 エリカの言葉に、タスクは頷く。
(無事に送り届けてあげること。それを、まず第一に優先しないと)
 タスクは胸中で決意する。
 彼としては、サイクロプスとの交渉に意気込んでいたが、エリカ達、同行する仲間達がガニメデの安否を第一に考えているのを目の当たりにして、考えを揃えている。
 それと同時に、交渉が出来るなら、最善を目指すために下調べに抜かりがないのは彼らしい。
(サイクロプス族は、争いを避けるために今の場所に移り住んだと言われてるけれど……)
 調べる中で、浮かんできた疑問が、どうしても頭の隅に引っかかっている。
(すべて憶測でしかなかった……憶測が、すべて正しいのか?)
 疑問を晴らすべく推考しそうになってしまうが、護衛の途中なので、そちらに集中する。
「視認できる範囲で、気になる物はありません」
 周囲を探索しながら進む【レーネ・ブリーズ】に伝え共有すると、彼女からも応えが返ってくる。
「こちらも、だいじょうぶです。気になる音も、魔法の気配もありません」
 レーネは種族としての特性も活かし、強化された聴覚で周囲を探りながら進んでいた。
「いまのところ、安全だとおもいます。もしなにかあれば、すぐに対処します」
 エーデンユートを手に、レーネは返す。
 回復役としても優秀な彼女だが、攻撃手としても慣れた物だ。
 彼女の頼もしさに、タスクは笑顔で応えると、シオンにも状況を共有するために向かって行った。

 そして進み続け、山道へと入る。
 しばらく進んでいると――

「おーう。なんか結界張ってますねー。近付いたの気付かれましたよー」
「え? でも探知機には何の数値も出てないですよ」
 同行していた【メフィスト】と【ハイド・ミラージュ】が盛り上がる。
「探知機に出ない技術が使われてるってことですか?」
「でしょうねー。これ精度上げないとー、霊玉とか大きな魔力の探知は難しいですねー」
 どうも、霊玉や魔力の探知機の実験をしつつ付いて来ているようだった。
「子供が浚われたのでー、新しく結界を張ったんじゃないですかねー」
「それは興味ありますね」
「おふたりさん」
 盛り上がり始める2人に釘を刺すように、同行している【ガラ・アドム】が声を掛ける。
「まずはガニ坊を届けてからにしようや」
 学園生達の負担にならないよう、縁の下の力持ちとして動いていた。
 それをタスクは、学び取る様に見詰めながら、皆と共に奥地に進む。

 そのまま山道を登り続け、巨人達の出迎えを受けた。

「とーちゃん! かーちゃん!」
 両親を見詰めたガニメデは駆け寄ると、倍の背丈はある両親に抱き着く。
「ガニメデ、よく帰って……」
 母親が涙ぐみながら声を掛けると、ガニメデは笑顔で応えた。
「ただいま! あのね、みんなといっしょにきたの!」
 学園生達をガニメデが示すと、父親が代表して言った。
「息子を送り届けてくれて感謝する。歓迎させてくれ」

 案内されて進むと開けた場所に出る。
 そこには高さ数メートルの台と、その上に乗ったテーブルと椅子があった。

「我らと高さを合わせるために作った物だ。急ごしらえで雑な物になってしまったが、許してくれ」
 ガニメデの父である【カリスト】は済まなそうに言うが、見た限り仕事は丁寧に見える。
 階段で台に上がり、テーブルを前にして皆が座ると、大人のサイクロプス達も、向かい合うようにして胡坐をかいて座った。
「改めて礼を言わせて貰う。言葉だけでなく、行動でも示したい。なにか、我らに求めることがあると聞いたのだが」
 今まで交渉していたガラにカリストが視線を向けると、ガラは学園生達を示して応えた。
「それに関しちゃ、学園生から話を聞いて下さい」
「そうか――」
 ガラの言葉を聞いて、カリストは学園生達に視線を向ける。
 それに視線を返しながら、学園生達との話が始まった。

●交渉
「魔王軍によるガニメデさん拉致について情報交換できませんか?」
 最初に、皆を代表して尋ねたエリカに、カリストは意外そうに聞き返す。
「それが最初で良いのか?」
「はい。その方が良いと思っています」
「……そうか。では、話そう」
 カリストは、少しだが、学園生達を見る目を変え話していく。内容としては次のようだった。

 ヒューマンの商人の一団が武器を求め接触してきた。
 断っても、しつこく要求を繰り返し、最後は力ずくで言うことを聞かせようとしてきた。
 仕方ないので追い払った直後に、ガニメデが浚われた。
 その後、ガニメデを浚ったことをほのめかす人物が訪れ武器の要求をしてきたが断った。
 断った後、要求してきた人物は訪れていない。

「……最悪、ガニメデが殺されることも覚悟していた」
 苦い声でカリストは言った。
「そうしなければ、多くの死がもたらされる……だから覚悟していたが……貴方達のお蔭で、また会うことが出来た……」 
 涙ぐむカリストを見て、シオンは思う。
(大変な思いをされたんですね)
 父親の姿を見せるカリストに、一瞬だが、自分の父のことが思い浮かぶ。
 けれど振り払い、学園生として尋ねた。
「里に訪れた人たちの中で、仮面をつけた人物はいませんでしたか?」
「仮面?」
「はい。私達、フトゥールム・スクエアは魔王軍と戦ったことがありますが、その時に、指揮していた人物が仮面をつけた人物でした。それと、ガニメデさんは仮面で操られていたんです。もし里に訪れた一団の中で、そうした人物がいたなら、何か関わりを持っている可能性が高いです」
 シオンの言葉に、カリストは応えた。
「いや、仮面をつけた人物はいなかった。だが――」
 言葉を選ぶような間を空けて、カリストは続ける。
「ガニメデを浚ったことをほのめかした者は、いま思い出しても恐ろしい」
「恐ろしい?」
 見上げるほどの巨体と強靭な肉体を持ったサイクロプスが怯えたように言うのに驚いてシオンが聞き返すと、カリストは説明した。
「十指すべてに指輪を付けた、ヒューマンに見える何かだった……それは、どう見てもヒューマンでしかなかったが……それでも、見ただけで吐き気がするほど恐ろしかった」
 思い出しただけで恐怖しているカリストに、エリカが提案した。
「学園と協力体制を築きませんか?」
「……協力体制?」
「はい。ガニメデさんが浚われた時のようなことが起らないよう、再発防止や今後の対策として有効だと思うんです。魔王軍の動向を知らせ合ったり、連携して被害防止が出来るようにしたいんです」
 エリカの提案を広げるように、タスクが続ける。
「可能なら、学園に来て頂ければ皆さんを守ることが出来ると思います。もちろん、里から離れたくないと仰るなら、ここを守れるように協力したいと思っています」
 これにカリストは、悩むような間を空けて応えた。
「……我らは、この地を離れることはできぬ」
「理由を、お聞きすることを許して貰えないでしょうか?」
 タスクは、注意を払いながら尋ねる。
「皆さんは争いを避けるためにこの場所に来られ、離れることを避けている。それには何か理由があるのでしょうか? もしあるなら、僕達で協力できることがあれば、手伝わせて下さい」
「……」
 カリストは、学園生達を見定めるように大きな瞳で見つめ、試すように言った。
「貴方達にとって、魔王軍とは何を意味するのか?」
「それは……」
 唐突な質問に意図を理解できず返せないでいると、カリストは異なる問い掛けをして来る。
「言い方を変えよう。魔王軍には、どのような種族が含まれていると思っている?」
 これにタスクが応える。
「魔族や魔物。あるいは、それらによって操られている人達も含まれると思います」
「その定義であるなら、我らも魔王軍の一員だと言える。なぜなら、我らも貴方達『人』である八種族から見れば魔族だからな」
 すぐには応えを返せない学園生達に、カリストは続ける。
「魔族とは、『八種族ではない意思疎通が可能な種族』のことだ。そして八種族とは、『八つの精霊王から加護を受けた種族』という意味しか持たない。いわば、精霊王の加護を与えられなかった種族が、魔族なのだ」
 静かに聞き続ける学園生達に、カリストは言った。
「貴方達は魔王軍と戦っていると聞いた。だが魔王軍が何であるのか、明確に捉えているようには思えない。それは貴方達だけでなく、里の外に居る『人』達も同じだろう。その中で、我らが『人』目に着く場所に訪れて、ただで済むのか? そもそも今回、ガニメデが浚われたのは、貴方達の争いの巻き添えではないのか?」
 どこか感情を押し殺すような淡々とした声に、学園生達は返す言葉を迷う。
 その中で、応えを返したのはレーネだった。
「おねがいが、あります」
 視線を返すカリストに、レーネは言った。
「サイクロプスのひとびとの思っていることを、もっとおしえてください」
「……何故だ?」
「あなたたちと、対話をしたいからです」
 レーネは視線を合わせ応えた。
「今回のことは、あなたたちサイクロプスのひとたちにとって『ひととひとのあらそいに自分たちのこどもがまきこまれた』とみえてもしかたないとおもいます。だからこそ、しめしたいんです」
「何をだ?」
「わたくしたちはちがう、ということです」
 レーネは、『対話』をするべく続ける。
「わたくしたちは、あなたたちのいう『ひとたち』とはちがいます。でもそれを明らかにするためには、わたくしたちがサイクロプスさんたちのおもいをしり、サイクロプスさんたちがなにをのぞんでるのかをしらないといけないと思います。そして、わたくしたちのことをしってもらわないといけないと思います」
「そのために必要な物が対話だと?」
「はい」
「出来ると思うか?」
「ケンタウロスさんたちとはできました。サイクロプスさんたちとも、そうしたいです」
「ケンタウロスと交流が出来ているのか!?」
「交流しているひとたちもいます」
 淀みないレーネの応えに、サイクロプス達は目配せをする。そして――
「確かに、貴方達とは対話をする必要があるようだ」
 カリストはサイクロプスを代表して言った。
「我らは、この地を離れる訳にはいかぬ。それは里の外で迫害される可能性があるのも理由の一つだが、より大きな『使命』ゆえだ」
「それは、何かを守護しているのではないですか?」
 タスクが尋ねると、カリストは『答え』ではなく、そこへと繋がることを応えた。
「知りたいのなら、魔法国家ミストルテインを調べてくれ。我らだけでなく、精霊王や魔王。そしてカルマと……人柱たるアークライトのことを知ることが出来る筈だ。それらを知ることが出来たなら、我らがこの地から離れぬ理由を答えよう」
 どこか期待するように、カリストは言った。

 その後、資材の交易をすることが決まった。
 見返りとして、何かあればすぐに助けに向かう、という約束を交わす。
 そこで活躍したのはタスクだった。

「任せて下さい。学園側に、皆さんの要望を伝えます」
 事前に幾つか草案をまとめていたこともあり、とんとん拍子に進む。
 サイクロプスとのやりとりも問題なく穏やかに進んだが、ひとえにそれは、エリカ達がサイクロプス達の事情を第一に考え対話を先に重ねていたことが一番の要因だった。

 そして、里で採れた木の実や果物で歓迎された後、工房を見せて貰う。

「すごいですね」
 シオンが感嘆する様に言う。
 山をくり抜いて作られた工房には、様々な工具や資材が置かれていた。
 見学する中で、シオンが魔法銃オクタルヴァを取り出し分解してみせる。
「これは八属性の魔法石を有する魔法銃で――」
 サイクロプス達は興味深げに話を聞いていたが、やがてシオンの手で分解されたオクタルヴァを巨大な手であっという間に組み上げる。
「この構造なら、機能を付け足せるな。我らで造ると巨大になるが」
 話が盛り上がり、オクタルヴァを元にした武器を、サイクロプス達は造ることにしたようだった。

 かくして、今回の課題は終わりを見る。
 サイクロプス達との更なる交流と、新たな地へと関わる因縁が生まれる結末となった。



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
ギガンテス・ネゴシエーション
執筆:春夏秋冬 GM


《 ギガンテス・ネゴシエーション》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 1) 2021-09-22 00:02:03
賢者・導師コースのエリカ・エルオンタリエよ。よろしくね。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 2) 2021-09-22 00:41:48
勇者・英雄コースのタスク・ジムです。
よろしくお願いいたします!

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 3) 2021-09-22 18:25:21
今回、難しそうですね。
「交渉を間違えると失敗」とプロローグにあるからには、失敗につながる何らかのフラグや爆弾も想定されます。
慎重に行かないと、ですね。

そこで、方針を決めるために重要と思われる点を自分なりに整理し、
そこに自分の意見を提示してみようかと思います。

・サイクロプス族に対して、何を求めるのか?
→少なくとも今回は「資材の交易」に専念

・求める物に対して、何か対価を払うのか?
→先方が欲しいものを聞き取り、可能な限り調達を約束したい

・交渉の際に、交易以外のことを話すのか?
→まず、サイクロプス側の事情を聴きたい。その際のポイントは以下の情報
<争いを避けるために、現在の山岳部に移住した、と『言われている』>
<現在住んでいる場所から、『何故か』、かたくなに移住することを拒んでいる。>
私見では、魔王またはそれに類する脅威から隠遁、もしくは何かを守護している、あたりかと思います。
そのあたりの事情が分かれば、こちらから話すべきことも出てくるでしょうけれど(例えば、魔王や世界の危機など)、想定による先回りでプランを書くのも限界があるので・・・
まずは、今回は聞き出すことに専念してみては、というのが僕の意見です。

・その他の課題
上記を達成するため、「ガニメデくん」「ガラ先輩」「ハイド氏」「メフィスト様」にうまく協力を仰げるよう、考えたいところです。

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 4) 2021-09-26 00:24:58
色々要素があるけれど、個人的に今回はガニメデさんの里帰りが無事にできれば
自分としてはそれで満足だから、それ以上のことは「うまく行けばラッキー」ぐらいで
交渉締結を急ぐつもりはないわ。

とはいえ、サイクロプスの里との友好・協力関係を結んでおけば
今後の魔族・魔王軍への備えとしても安心だし、相手の様子や要望も見聞きしながら
こつこつとお互いの信頼を結んでいきたいわね。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 5) 2021-09-26 08:16:31
なるほど。
で、あれば、「・交渉の際に、交易以外のことを話すのか?」は、
やはり、サイクロプス側の事情を聴くことに専心するとよさそうですね。
そのことにより、こちら側の「出来ることなら助けるよ」という意思表示にもなりますし。

交渉締結を急ぐよりも、ガニくんの里帰りと里との友好関係構築を
優先することには賛成ですが、
「・サイクロプス族に対して、何を求めるのか?」「・求める物に対して、何か対価を払うのか?」については、決めておくようプロローグで示されているので、僕のプランは上記通りにしておこうと思います。

この点、出発までに、より良いご意見があればぜひぜひ教えてください。

さ~て、全然埋まってないウィッシュプランに何を書こうか・・・(悩

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 6) 2021-09-26 08:22:26
<プラン進捗状況>
サイクロプス側の事情を聴くことについての、PL意図を丁寧に書き込んでみています。

後は、万一の戦闘・護衛方針の記載ですかね~(未着手ですが)

《グラヌーゼの羽翼》 エリカ・エルオンタリエ (No 7) 2021-09-26 09:47:22
お互いに何かを強いるとか搾取的な関係になるのは望まれないだろうけど、
(予想される)苦難や災難に対して協力的な同盟者が居れば心強い。
そんなところを手掛かりにできないかと思うわ。

製作の依頼を行うとか、何かを求めるなら、対価の支払いは当然あってしかるべきよね。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 8) 2021-09-26 19:14:49
そう思います。
対価の調達についてはまだ詰め切れてませんが、そもそも向こうの望みが分からない以上、今回は意思を示せばいいかな、とも思います。

それから、道中は万一に備えて護衛をする旨追記しました。
【我が身を盾に】によるカバーリングと、【コツンと一撃】による無力化です。
【第六感】も持っているので、不測の事態には備えやすいと思います。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 9) 2021-09-26 21:37:58
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。

交流ということでまたおてつだいにきました。
またアドムさんといっしょに行動してみますね。
よろしくおねがいします。

《光と駆ける天狐》 シオン・ミカグラ (No 10) 2021-09-27 20:52:34
教祖・聖職コースのシオン・ミカグラです。よろしくお願いします!

私は情報収集を主に動こうと思います。
既に魔王軍はここを訪れていますし、彼らから話をよく聞いて、こちらにも力になれることがないかを知りたいです。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 11) 2021-09-27 21:53:45
レーネさん、シオンさん、よろしくお願いいたします。
交流と情報収集に力を入れてもらえるということで、心強いです!