;



GM 

担当NPC


メッセージ


作品一覧


貧困村へ向かう少女行商人の護衛依頼 (ショート)
GM
「困窮してる所から安く買い叩いて、困窮してる所へ高く売りつける、そういうのはわたし、商道から外れてると思うんです!」  迸る激情のままに喋ってそうな小柄な女の子はまだ若く、歳の頃は十五、六といったところだろうか。  幼さを残す身を包む旅商人風の服装は、しかし対照的に深い年季を感じさせた。  身も蓋も無い言い方すると、  ボロかった。  何度も洗いざらして使い続けているのだろう。  服の布地は擦り減ってペラペラだ。  ズボンの膝頭など破けたのだろう、当て布がはられている。  幌つきの荷馬車は手入れはなされてる、が、いかにも根本的に古びている。その荷馬車を引く馬も痩せてはいないが年寄りだ。  儲かってるようにはとても見えないこの行商人が、今回学園教師が貴方達へと紹介した依頼人である。  正義感はありそうだが商才は無さそうな少女曰く、 「十分に物が届かない地域があるんです」  魔王封印から二千年と少々、多くの尽力によりエイーア大陸は平和と呼べるものを取り戻していた、が、それは完全ではなかった。  『魔王によって魔力からこの世に創造された存在』いわゆる『魔物』は未だ滅び去っていない。  魔王による甚大な被害から未だ復興しきれてない地域もある。  例えば大陸北部にあるグラヌーゼ村など、かつて麦の名産地として栄えたが、魔族ノア一族によって焼き払われ『グラヌーゼの悲劇』とまで呼ばれた惨禍により村は衰退し、豊かに麦を実らせていた村北部の大地は今では荒野と成り果てている。  グラヌーゼの周辺にはかつてノア一族が拠点とした『サーブル城』や他にも『幻惑の森』などの危険地帯が存在するせいもあって、未だ復興は完了していない。貧困が問題になっている地域だった。 「今回行商に向かう『グリン村』も同じように魔物の脅威が継続ているせいで貧しい地域です。かつての戦火と魔王封印後も物流が断続的に阻害され続けた為に寂れ、今では人口百人程度の小さな村に成り果てています」  グリン村も昔はそれなりに大きな町だったらしい。  千年以上も前のことなので、数少なくなってしまった末裔達以外に憶えている者はほとんどいないとの事だったが。 「危険な上に人も少なく貧しい村へ商いにいっても普通の手段では儲かりません。ですから、グリン村へ向かう商人は今ではほぼいません。結果、グリン村では必要な物資が恒常的に欠乏しがちです」  塩や布や油や薪、それに鉄など不足するものの幅は広いらしい。食料品の自給が最低限たりているのは救いだが、冬の寒さに老人や子供は震えているという。 「村での生活は不便になり、不便になるから人が減る、人が減ると生産力が落ちてさらに貧乏になる。貧乏になると購買力が減るからますます商人が寄りつかなくなる。負の螺旋です。そうして果てに困窮につけこむろくでもない輩たちが寄ってくる」  声低く怒気を滲ませながら少女は言う。 「わたしはそういう世の中、良くないと思うのです。わたしの父も同じ意見でした。ですから、わたし達親子はグリン村へと定期的に儲けは考えないで物を売りにいっていたのです。厳しい状況に生きる人々の一助となれればと。残念ながら父は先月、不慮の事故死を遂げてしまいましたが、父が斃れてもその遺志は私が継ぎます。…………ただ……」  ただ? 「その、わたしどもも元々あまり余裕があった訳ではないのですが、父が逝ってしまってからは特に出費がかさんでしまって、今、運用可能な資金がわたしの手元にはあまりないのです」  そうなるんだろうな、と思われた。儲けは考えないで――聞こえは良いが、その結果がそれだ。 「それで、いつもは町の傭兵組合さんに道中の護衛をお願いしていたのですが、現状だといつも通りの価格でお願いするのはいささか厳しく…………困っていたら『フトゥールム・スクエアを頼ったら良いんじゃないか?』っておっしゃってくれた方がいて」  魔法学園はシュターニャの町の傭兵組合『シュッツェン』の組合長から信頼をおかれているから、有事の際は『臨時傭兵』として学生に応援要請が来る事がある。学園生に傭兵の代わりとしての依頼が来ている今回のこれも、その流れなのだろうか? 「そ、その……勇者様、わたしがお支払いできる報酬は相場よりいささか低めになってしまうのですが、どうかグリン村までわたしの行商の護衛についていただけませんか? お願いします! ……や、やっぱりこんな厚かましいお願いは、駄目でしょうか……?」  抑えきれぬ情けなさと申し訳なさを表情に滲ませながら上目遣いに少女が貴方達を見た。  『困った時の勇者頼み』であるらしい。  おそらくきっと引き受けたら割に合わない。  まっとうな経済感覚があるなら誰しもきっと引き受けたがらない。 ――どうする? ●一方その頃・道の途中 『カァーッ!!』  奇声が山中を抜ける道に鳴り響いた。  ぎょっとして足を止め、見上げた旅人の男が目にしたのは崖の山肌、土が剥き出しになっている急斜面を土煙をあげながら滑り降りてきている緑肌の小鬼達だった。  その数、五。  それぞれ一様に剣の切っ先を男へ突き出すように構えている。 「むっ?!」  それなりに経験豊富な壮年の旅人は素早く道の端へと飛び退いた。次々に斜面から道の上へとゴブリン達が降り立ってくる。 「数を恃めば己を殺せるつもりか……? ゴブリン風情が、舐めるなよ」  一人旅をしているだけあって腕に自信があるらしき壮年男は、腰から切れ味鋭そうな細身の長剣を勢いよく抜刀する。  じりじりと間合いをはかりながらゴブリン達と睨み合い――次の瞬間、身を硬直させ口から鮮血を吐き出した。 『ギギッ!』  呆気なく絶命した旅人が倒れると、その傍らには血塗れた錆剣を手にした大柄なゴブリンが立っていた。男臭い野太い笑みを浮かべている。ハイゴブリンだ。彼が山林の陰から忍び寄ってきて必殺の一撃を旅人の背に叩き込んだのである。  一方が驚かせて注意を惹いている間に一方がこっそり忍び寄って後ろから刺す、子供でも思いつきそうな単純なやり方だったが決まった時の効果は絶大だった。彼等は傷一つ負うことなく強敵を仕留めたのだ。  ゴブリン達の戦闘能力は決して高いものではない。  だから真っ向からの勝負となったらここまでの完勝は望めなかっただろう。旅人無念。油断禁物。 『ギーッ♪』  ゴブリン達がわらわらと集まってきて斃れた旅人から荷物を奪い、衣服までをも剥ぎ取ってゆく。  ハイゴブリンは山道上に転がっている細身の剣を拾い上げ、顔の前に翳して鋼刃の輝きに目を細めた。 ――人間などたいした生き物ではない。奴等など獲物に過ぎない!  上等な略奪品に気をよくした彼は「ハハハ!」と牙剥き笑い声をあげ、さらなる獲物を欲するのだった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-01-29
完成 2019-02-16

リンク


サンプル