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仮初のJune bride


ストーリー Story

●妖精猫の見る夢は
 晴れやかな空の下、広がる花畑の中心で。お嬢様が笑みを零した。
 絹糸のような白銀色の髪をきらきらと煌めかせ、澄んだサファイアの色をした両目を細めるお嬢様は、それはもう美しくて、可憐で、麗しくて。
「ねぇ、【レオン】……」
 微笑みを湛えたお嬢様が、真っ直ぐにわたくしを見る。
 いつもなら魔法式車椅子の上でピクリとも動かない両脚が、しっかりと大地を踏みしめているのを見るだけで、わたくしは泣きそうになってしまう。
 そんなわたくしを『見た』――普段なら、盲目であるお嬢様の瞳は、閉じられているのに――【ステラ】様は……、
「私、レオンのことが大好きよ。あなたと出会えて本当によかったって、思っているの」
 まるでこの恋心すら許してくださるような、慈愛の眼差しで、わたくしに微笑んでくださる。
 だからわたくしは、もうどうしようもなく、耐えられなくてしまって。
「ステラさま~~~っ!!! わたくしも、ステラさまが、だいっ、だいっ、大好きなんです~~~!!!」
 ぎゅっと抱き着いて。何度でも、何度でも、口にするのだ。
 ――現実世界では、きっと許されないだろう。お嬢様に捧げる、この気持ちを。

●グリモワール:『ジューン・ブライド』
「はぁ……ステラお嬢様……」
 有り余るほどの多幸感や、胸の痛みと共に零れたのは、淡いため息。
 明らかなる恋心をその声に宿した、茶トラ柄のケット・シー(ケット・シーとは、祖流族と妖精族の特性を真似て作られた、二足歩行をする大型猫のような魔物である)……レオンは、まあるい猫の両手を器用に使って、その本を閉じた。
 時刻は昼、場所はフトゥールム・スクエアの中庭……の隅っこにある、草むらの中。
 この日レオンは、最近始めたお仕事――彼の飼い主でもあるお嬢様が入学したその日から、毎日のように学園へ忍び込んでいたレオンは。その度に、この学園で教師をしている金髪の導師に注意され、ついには『いちおう魔物の括りなのですから。うっかり退治されないよう、私の使い魔として、申請しておきましょうか』と苦笑され、そのお礼として手伝いをするようになったのだ――でもらった、初めてのお給金で、あるものを購入していた。
 まるで天鵞絨(ビロード)のように艶やかな、赤色の装丁を施されたその本は、グリモワール:『ジューン・ブライド』という名前で知られている、魔生族に向けて造られた魔導書である。
 未だに謎の多いカルマという種族は、それが良いか悪いかの話はさておき、『感情』らしきものを発現させない者が殆どであるらしい。
 そんなカルマ達が抱く、マスターの『心』をもっと理解したい、という要望に応えた魔導書群の一冊が、この『ジューン・ブライド』なのである。
 だが、しかし――。
(まさか、自分が『恋愛小説の主人公』になれる本が存在するなんて。魔法使いってすごいんですね~)
 正確に言えば『他者に向ける恋や愛、自身に向けられる愛を擬似的に体感し、学べる本』なのだが、既に感情を知っている生物にとっては、『疑似恋愛が楽しめる本』として扱われ、学園内でも『一度は読んでみたい本』と話題に上がることも多い。
 ゆえにレオンが、初めてのお給金を握りしめ。レゼントの街を駆け回り、この本を手にしたのは、必然でもあった。
 なぜなら彼は……未だ猫と偽ったままであるお嬢様に、身分違いどころか種族違いの、『恋』をしているからだ。
(でも、この本があれば。擬似的ではありますが、ステラ様とお話ができます~)
 しかも回数無制限だなんて、素敵ですね~。
 たとえ夢のようなものであるとはいえ、現実にはけして叶えられないことを体感させてくれるこの魔導書は、レオンにとっては間違いなく『幸せな時間をくれる。素晴らしいもの』であった。
 ゆえに、そんな彼が。『そうです~、この幸せを、皆さんにもお裾分けしたいです~』と考え、購買を担当する職員に入荷の検討をお願いしにいったのは、言わずもがなであり。
 『確かに、カルマの生徒や、愛を与えられない過酷な状況を過ごしていた生徒もいるだろうし。心の癒しとしても、並べてみるのはアリかもしれない』なんて会議の末に、購買部の魔導書コーナーに並んだのも、当然の結果だったのである。



 だからこそ、『きみ』がこの魔導書を手にしたのも、必然だったのかもしれない。
 『購買部に入荷されたという話を聞いて』、『そもそもどんな本かは知らず、見たことのない物だから購入した』などなど、理由はそれぞれに、色々とあるのだろうが。
 今『きみ』は、自室にて購入したばかりの魔導書……『ジューン・ブライド』の表紙を開こうとしている。
 ――そうして始まるのは、『きみ』を主人公として取り込んだ、恋物語だ。
 ハッピーエンドも、メリーバッドエンドも。全ては『きみ』の中にある、愛の形次第だろうか。
 時間にして1、2時間。けれどその間、確かに恋をし、愛をその胸に抱いていただろう『きみ』は。
 いったいどんな表情で、どんな言葉で。『愛しいヒト』との時間を過ごしているのだろう。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2020-06-15

難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2020-06-25

登場人物 8/8 Characters
《ゆうがく2年生》樫谷・スズネ
 ヒューマン Lv14 / 勇者・英雄 Rank 1
「ただしいことのために、今の生がある」 「……そう、思っていたんだけどなぁ」 読み方…カシヤ・スズネ 正義感の強い、孤児院生まれの女性 困っている人には手を差し伸べるお人好し 「ただしいこと」にちょっぴり執着してる基本的にはいい人 容姿 ・こげ茶色のロングヘアに青色の瞳、目は吊り目 ・同年代と比べると身長はやや高め ・常に空色のペンダントを身に着けており、同じ色のヘアピンをしていることも多くなった 性格 ・困っている人はほっとけない、隣人には手を差し伸べる、絵にかいたようなお人好し ・「ただしいことをすれば幸せになれる」という考えの元に日々善行に励んでいる(と、本人は思ってる) ・孤児院の中ではお姉さんの立場だったので、面倒見はいい方 好きなこと おいしいごはん、みんなのえがお、先生 二人称:キミ、~さん 慣れた相手は呼び捨て、お前 敵対者:お前、(激昂時)貴様
《新入生》レイラ・ユラ
 リバイバル Lv8 / 黒幕・暗躍 Rank 1
レイラ・ユラです。 行きたい場所、やりこと。沢山あります。 よろしくお願いします。 ■何かをしたいという思いだけが残っていたリバイバル。 些かマイペースで感情の起伏が見えにくい表情(ただ微笑んでいたり)でいることが多いが、基本素直で真っすぐな性格ゆえ、感情のまま走り出しそうになることも。 そのせいで言葉少なく動き出そうとすることもあるため、何を考えているのかわからなく見えるかもしれない。 【姿形】 手足が長く全体的に凹凸が少なめ。 やや釣り目で涼し気な目もと。色は深みのある真っ赤な紅色。 膝の辺りまで根性で伸ばした暗めの紫色のロングストレート。 ぱっつん前髪に合わせるように目じりから耳の前の髪を頬骨の下を口元辺りでぱっつんと。 右側(←)のサイドトップ(耳上あたり)には黒いラナンキュラスの髪飾り。 服装は基本的に黒のシフォンのマキシワンピースや黒の着物などに黒いレースの手袋(デザインなどはその日の気分だがリボンがついていたりとかわいい系の物を好んで着ている) 【傾向】 交流を断絶して生きていたことから、他者との交流に人並以上に感心がある。 自分ではないものの意見や経験、思考に触れるのが好き。 口調はやや硬く、それが通常運転になっているため親しさと口調は比例しない。
《ゆうがく2年生》ナツメ・律華
 ローレライ Lv13 / 賢者・導師 Rank 1
※アレンジ 他の人の絡み歓迎 名前:ナツメ(名前)・リッカ(名字) 目指せ大魔法使い! 追求せよ世界の真理! 【外見】 実年齢:14歳 外見年齢:10歳程度(つるぺた) ……まだ成長期は終わってませんわ! きっとあと数年のうちに素敵なレディにっ! 髪:三つ編み(しないと髪が爆発する…) 【中身】 明るく元気な性格 (よく言えば素直、悪く言えば分かりやすい) 探究心が強く、新たな知識を得るのは大好き 勉強したり本を読むのは大好き 田舎な実家では農作業や牛の世話をしていた。 大魔法使いになって世界の不思議を理解して その力で実家の畑の収穫を楽にするの! という大きいのか小さいのか分からない野望を持つ 田舎から出てきたので、お嬢様キャラで学校デビューを計ろうとするがすすぐにボロが…… 【口調】人と話す時はお嬢様(~ですわ、~かしら) 心の内や慌てたりすると素に戻る(~よ、~ね)
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《新入生》ナレディ・ディトゥーニャ
 ルネサンス Lv8 / 勇者・英雄 Rank 1
『我は一族を護る為の力、そして強き伴侶を求めてガクエンの門を叩いた。ここは地面が固く、大地と隔たりがあるようで慣れん。お前らはこんなので平気なのか?…信じられんな。』                              ――――――― 【種族】 アフリカスイギュウのルネサンス 【性格】 健康的で美しい容姿をしているが、争いの絶えない土地で育ち、幼少より生き残るべく戦闘技術を骨の髄まで叩き込まれてきた為『諍いは力の優劣で決める』脳筋気味の思考をしている。 気性はかなり荒く、一度敵対したら徹底抗戦するが、仲間思いでもあるので学友には努めて理性的に接し親切にしてくれる。 「ただしライオン、貴様は許さん。殺す。」 彼女の部族では文字は一般的でなく、族長や祈祷・呪術師が扱う特別で神聖なものだったので座学は不得手な様子。 なので、貴方が勉学を教えてあげれば大変感激し「我らはもう親族だ!ボト族の地を訪れた時は集落全体で歓迎の宴をしよう」と喜ぶだろう。 男なら彼女を口説く方法として有用だ。 「おお!そうか、ならば我は喜んで妻になろう。」 「―お前が我に勝てたならな!」 …最後には必ず戦闘に入るが。 因みに、パンツは履いていない。 そんな文化はない。 【好き/好意的】 グリーンスムージー(文明が発達した国で口にして感動した) 強い男 ボト族 土、草地(舗装されていない地面) 空 ダンス(宴/祭) 【嫌い/敵対的】 ライオン(ルネサンス、原種問わず) 牛肉 自分の意見がハッキリしない者
《1期生》カンナ・ソムド
 ルネサンス Lv10 / 芸能・芸術 Rank 1
猫耳と猫の尻尾が生えている女性のルネサンスで体つきはかなりセクシーである。とはいえ年齢は高校生~大学生相当と本人は言っているものの、外見はどうみても中学生相当の若さである、いわゆる合法□リ。 性格はかなり受け身でおとなしい。 よほどの事がない限り喋ってくれないのが玉に瑕。 喋ることはほぼないものの、学園生活は普通に満喫している模様。 普段は踊り子としてお金を稼いでいるらしい。 好きなものはスイーツと猫科の動物、嫌いなものは虫。
《2期生》シルワ・カルブクルス
 ドラゴニア Lv15 / 村人・従者 Rank 1
細い三つ編みツインテールとルビーのような紅い目が特徴のドラゴニア 元々彼女が住む村には、大人や数人ぐらいの小さい子供たちしかおらず同い年程度の友達がいないことを心配した両親にこの学校を薦められて今に至る 一見クールに見えるが実際は温厚な性格であり、目的である世界の平和を守ることはいわば結果論、彼女の真の目的は至って単純でただの村人として平穏に暮らしたいようである しかし自分に害をなすとなれば話は別で、ドラゴニアらしく勇猛果敢に戦う 一期生にはたとえ年下だとしても「先輩」呼びをするそうだ 「私はただの村人、できる限りのことをしただけです」 「だれであろうと私の平穏を乱す者はすべて叩き伏せます」 ※口調詳細(親しくなったひとに対して) 年下:~くん、~ちゃん 同い年あるいは年上:~さん ※戦闘スタイル 盾で受け流すか止めるかでダメージを軽減しつつ、斧で反撃するという、いわゆる「肉を切らせて骨を断つ」戦法を得意とする

解説 Explan

・テーマ
 疑似『恋愛体験』

・魔導書『ジューン・ブライド』について
 心を学びたいカルマに向けて造られた、感情を体験できる魔導書群の1つ。
 本書は恋愛感情に特化しており、本を開いた者を強制的に『恋愛小説の主人公』として取り込む。
 しかも『愛』をその身に宿させた状態で、『物語』をしばらく体感させてから、元の世界に帰すという。
 その際、植え付けられた情動は消失するが、本書の中で体感した記憶などは消去されずに残るようだ。
 そのため、『疑似恋愛』が楽しめる魔導書として複製を試みる層もおり、稀に模造品が市場に流れて来るらしい。
 ちなみに、本を開いた者に想い人がいる場合、物語上の恋のお相手は想い人の姿をしているという。
 
・プランにてお書き頂きたいこと
 ■アクションプラン
  『あなた』が宛がわれた恋物語の1シーンをお書きください。
  宛がわれた『物語』は完全にランダムですので、他の世界(異世界パロディ)も可能です。
  補足:『恋』という感情を植え付けられている以外は、本来の『あなた』の性格のままです。

 ■ウィッシュプラン
  あれば、『恋のお相手』に希望するイメージ。
  実際に登録されているPCさんを参考にして欲しい場合は、お相手様のフルネームをお書きください。
  その他、心情/状況設定/服装などの補足があればどうぞ。

・恋愛ゲームのスチルシーンイベントがそれぞれ描写されると考えて頂ければ幸いです。
 また、当エピソード参加者内に限り、恋のお相手として指名することも可能です。
 その場合、【●●さんと参加】のような、お相手様の名前をどこかにお書きください。
 (一方通行の場合は『希望するイメージ』として判定されます)
 お互いの気持ちが本書の中で巡り合った設定となるので、一緒にこの本を開く必要はありません。
 ですが、物語の状況設定内容などはあわせて頂きますようお願い致します。

・その他補足
 3L可。
 NPCを相手としたい場合、白兎の担当する範囲でのみ可能です。


作者コメント Comment
 エピソードの閲覧をありがとうございます、GMの白兎(シロ・ウサギ)と申します。
 本エピソードは、何気ない日常のお話です。
 
 風の噂で恋愛系のエピソードへの希望を耳にしたので、今回はロマンスものを1つ。
 しかし、恋を自覚するには、まず他者を『恋しく思う』胸の痛みや高鳴りを知ることが肝心です。
 ですので今回は、異世界パロディを内包した、『あなた』の恋物語を体感して頂きます。
 
 皆さんはひょんなことから、魔導書『ジューン・ブライド』を手にし、開くこととなりました。
 そうして始まるのは、『あなた』を主人公とした恋物語。
 今回は、その中から一場面(恋愛ゲームにおけるイベントシナリオのようなもの)を描写させて頂きます。
 ちなみに、時間にして1~2シーン体感すると、現実世界に戻るようですね。

 こちらの文章としましては、プロローグや既出リザルトをご参考ください。
 それでは、皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


個人成績表 Report
樫谷・スズネ 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
恋愛、なあ…
今までの私なら、そんなもの無縁だと切って捨てただろうけど
…見るだけ 見るだけ ちょこっと覗くだけ(こそこそ

内容…現代のようなそうでないような、水辺の街でデートを
待ち合わせの場所にはあの人が
すみません!お待たせしましたか?挨拶を済ませれば手を繋いで

そういえば今日は賑やかですね?
観光地とは聞いていましたが…
へぇ…結婚式が
私達も見に行ってみませんか?

相手と共に見に行けば、新郎新婦がちょうど外にでているところで
何やら人が集まっている、何か…あれ?
空を見上げれば色とりどりの花のブーケが落ちてくる
落としたら大変、そう思ってキャッチすればあちこちから拍手が
へ?……え!?(他の人から聞いて顔真っ赤に

レイラ・ユラ 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【お話】
ここではないどこかの世界の東洋の女学生として『物語』の世界へ
図書委員としての活動中に書庫でエスケープ中だった『恋のお相手』と出会う。
「先生が鬼の形相で貴方を探していましたよ」
少しきつい口調で叱るように告げます。
ですが、相手はそんな私には動じない。陽キャラは陰キャラには眩しすぎます。
書庫で初めて出逢った相手に初めての恋。…になるのでしょうか。
価値観が違いすぎると思いながら相手のペースに飲み込まれて、
腹を立てながらも自分とは違う世界、思考には憧れます。
憧れなのか恋なのか、わからないながらも胸の痛みは強くなるばかり。

そしてラストはやはり結婚式をする夢が見たいです。

ナツメ・律華 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
これが噂に聞く『ジューン・ブライド』!
これで正真っ正銘っのお嬢様になれますわ!
そそそそして王子様との恋も…っ!


隣国の王子の元へ来たけれどやはり政略結婚だから好かれていないのかしら…
でも彼が趣味の庭園のバラはとても手入れされて綺麗で…悪い人では無いのかも

毎日庭園で少しづつ話しをするようになり
日々一番綺麗に咲いたバラをくれるようになって二週間近く

バラを渡すのは今日が最後…?そう言われたのが悲しくて
もしかしてこの気持ちは…?
今日で12本目…?もしかしてこれはそういう意味

本当に困った人だわ…ちゃんと言ってください
そうすれば…私も一本お返ししますわ


えっえっ、ここで終わり!?わたしのおうじさまはっ!?

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
本の中に入れるー、って楽しそーだから来たのに。
…これだもんね。うわぁ。…なんか吐きそう、不快感の詰まった内臓とか。おえ。
婚礼用のドレスなんて二度と着てたまるか、って思ってたのに。二度目来ちゃった。…着ちゃった。

…でもってー?この展開は目の裏に染み付くほど見た。
屋敷の本棚で。てかむしろ、ザコちゃんが知ってる数少ない系統ジャンルってか。
あれでしょ?貴族だの王族だのに気に入り見初められな女の子に求婚されてやったーってやつ。
何もやってないっての。

その癖、胸の奥から無理くり何かを捻り出されそうな感覚があんのも最悪。
何かが欲しいって気持ち。この所有欲が恋なんだろーね。
にしては…こないだの毒っぽいってーか。

パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
人気の本みたいだけど……どんな本かしら?

……って、これは
私が生きてた頃の屋敷?

小さくて狭い屋敷だけど、庭は広くて大きな池があって

池の畔の東屋で、よく兵士や街の人達とお茶を飲んだっけ
若い兵士や見習い聖職者の何人かは、私に好意以上の感情を抱いてたのは……わかってた

だけど、私の微妙な立場を理解して、誰も想いを口にはしなかった

……いえ、口にした人は居たわ
私を守るために戦って、今際の際に「愛した貴女のために死ねるなら……本望だ」なんて

陳腐すぎるわよ
生きて……「愛してる」って私に言いなさいよ

私を、置いていかないで
誰かが居なくなるのは……ひとりは、もういや

忘れてたのに
ひとりにも慣れたのに

なんで……思い出すの

ナレディ・ディトゥーニャ 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
おお、我は運に恵まれている。大地に感謝をしなくては。
この本は正に我の欲していた知識!
しかも、実体験で知識を得られる…フフ、完璧だ。
早速読むとしよう。

■この土地の恋愛を知りたい!

フトゥールム学園での、一般的な恋愛模様を体験する。
学園で課題をこなしていく中で交流し、絆をはぐくみ、いずれ特別な感情が育っていく。
日常の中に溶け込み、恋愛小説に書かれる事のないような、素朴で、学生の多くが一度は経験するような普遍的恋愛。

男が女を組み伏せ、強さを示す事で成立する故郷の恋愛事情と大きく異なるという、この土地の恋愛を我は知りたい。

カンナ・ソムド 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
これは私の知っていそうで知らない世界…?記憶前の世界なのかな…?それとも異世界のお話…?

ある世界で私は奴隷として買われていた…正直待遇はよくなかった、奴隷だし、商品としか見てくれなかった…
とにかくこの世界から出たかった…そして私はなすがまま奴隷オークションに売られた…

そしたら顔つきのいい、性格も良さそうな人間の男が私を高額で買ってくれたんだ…
そしてその男、ペットや奴隷のように扱うかと思ったら、私を家族として迎えてれるって言ってくれた…
普通にご飯もくれたし、お風呂やお部屋も、そして素敵なお洋服もくれたんだ…
そして、その人は、家族以上の存在でいたいと言ってくれて、結婚を申し込んでくれた…という話…

シルワ・カルブクルス 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【物語のあらすじ】

学校にて出会ってからは、長く交際するようになった二人
なにごともなくこの「幸せ」が続く…終わりがあるとしてもこの学校を卒業するまでと思っていた

しかし、現実の「幸せ」の終わりはそれまで待ってくれなかったようだ…

ある日、ある事情に「彼」はより遠い地へ行くことになった
なんとか引き留めようとするシルワ、だがその地へ行くことは変えることはできなかった
そして、二人はある「約束」をする
一つは「必ず、ここに帰ってきて再会すること」
もう一つは…

リザルト Result

●Dear.
 『愛してる』を知りたいと願った、優しい『きみ』へ。
 ――魔導書『June bride』、表紙より。

●「おお、我は運に恵まれている! 大地に感謝しなくては。この本は正に、我の欲していた知識!」
 魔導書『June bride』が入荷されたという噂を聞き、嬉々として購入した【ナレディ・ディトゥーニャ】は、その足で自室へと向かっていた。
 元々彼女は、己の強さを磨くためと、『強き伴侶を求めて』フトゥールム・スクエアの門を叩いている。
 しかし、『恋愛』という言葉のうち、誰かを(ナレディの場合は、主に部族の仲間=家族に対するものだ)大切に思う『愛』はわかっても。
 誰かを『恋』しく思う気持ちがよくわからない彼女にとって、恋人を作るというのは、ちょっとハードルが高かった。
(そもそも、『恋』とは何なのだ? 戦って、その強さを競い合い、お互いを高め合う事か?)
 最近できたヒューマンの友人(しかも既に、『相手』がいるらしい)が聞いたら、『それはちょっと、違うだろうな』と微笑みそうなことを思いつつ。
 ナレディは、さっそく本を開く。
(実体験で知識を得られるなら願ってもない……これで『恋』とやらを学ぶとしよう!)
 かくして、彼女の恋物語は始まったのである。



 とはいえ、ナレディが体験した日々は、今と然程変わらないものであった。
 朝起きて、今日も美味しい朝食が食べられることを大地に感謝して。身支度を整え、学園の門をくぐり、授業を受け、課題に参加する。
 違うと言えば、他のヒトよりもよく話をする人物(といっても授業や課題でよく同じになり、共闘することが多かったからだ)が、居たことくらいだ。
(伴侶としては、とても理想的な男なのだがな……見るからに強靭な肉体に、屈強な戦士。強さとしても申し分がない)
 だが、それが『恋』なのだろうか? 首を傾げるナレディの視線に、相手も気付いたようだ。
「なんだ、ナレディ。腹でも空いたか? 今日の課題はなかなかハードだったからな」
 笑いながら話しかけてくる男に、ナレディもまた笑い返す。恋だ愛だはさておき、こんなふうに話しかけられるのに、悪い気はしなかった。
 彼は、性格がさっぱりしていて好感が持てたし。そのうえ、自分を女として丁重に扱うのではなく、『共に戦う仲間』として接してくれるものだから。
 戦闘の場でも連携が取りやすく、彼となら、思った以上の戦果を成し遂げられることも多かった。
 ゆえに、ナレディは。今日もまた、彼を夕餉に誘う。
「うむ、そうだな! 戦勝祝いに、今日もあの店に行こうか!」
 ――独りで食べるよりも、彼と食べたほうが。美味しいだけでなく、楽しく感じられるように、思い始めていたからだ。



 そんな賑やかな時間を重ね、ナレディがすっかり『恋を学ぶために、魔導書を開いた』ことを忘れていた頃。
(な、なんだろうな……この気持ちは!)
 変化は唐突に訪れた。きっかけは、いつもと同じ店で、彼と夕餉を食べ終わり、『また明日』をしようとした時。
 ふと、『もう暫く、この楽しい時間を続けていたかったな』と、彼女は思ったのだ。
 けれど、それは。まるで親の手を離すことを嫌がって、駄々をこねる子どものようで、気恥ずかしくて。
(なんだか、腹の辺りがもぞもぞするような、虫が踊っているような、とにかく落ち着かない気持ちだな……!)
 思っていると、ふいに、先日ドラゴニアの友人が教えてくれた言葉が、蘇る。
『恋と言えば……最も仲の良い、男と女、という事ですよね』
(はっ。まさかこれが、『恋』なのかっ!?)
 自覚してしまうと、なんだか体も熱くなってきたような気がする。具体的には顔が、火照ってきた。まるで熱を出したみたいに。
「ナレディ?」
「あ、いや……」
 そんな彼女を不思議に思ったのか、男は少し身をかがませて、顔を覗き込んできた。
 どくん。突然距離が近くなって、ナレディの心臓が跳ねる。
「お、おぉ……?」
「どうした? 顔が赤いようだが、風邪でも引いたか?」
「いや、いやいや……」
(組み伏せられているわけでもないのに、胸が高鳴る、だと……?)
 いや、確かに相手は屈強で、簡単に組み伏せられそうなものだが、それよりも前に、まさかこんな……。
「お、落ち着かんな、これは! はは、ははは!」
「……? よくわからんが、落ち着かないなら、散歩でもするか?」
 問いかけられて、ナレディは頷く。どこかはにかむような、けれど嬉しそうな、そんな笑みで、
「うむ。よろしく頼む。なんだか、力の優劣関係なく、お前とずっと一緒に居たい。それだけで幸せなような……そんな気持ちなのだ」
 『恋』を、告げた。

●(恋愛、なあ……。今までの私なら、そんなものは無縁だと。切って、捨てていたんだろうけど)
「……見るだけ、見るだけ。ちょこっと、覗くだけ、だから……」
 なんて、自分以外の誰かがいるわけでもない自室で、言い訳っぽいことを告げながら。
 コッソリと、購入した魔導書を開いた【樫谷・スズネ】(かしや すずね)を、淡い光が包み込む。



 そうして、視界を覆う光が落ち着いた頃、スズネは見たことのない場所に立っていた。
(ん? もしかして、これが話に聞く、『異世界体験』というものだろうか?)
 思いつつ、周囲を見回してみる。公園のように見えるが、金属のような棒が組み合わさって、山のようになっているものがあったり。
 どういう仕組みかわからないが、動物の形をしたつるつるとした陶器? のような物が、上下左右に揺れる乗り物? らしきものが並んでいたり。
(私の知っている、公園ではないな……)
 しかし、幼子の遊び場になっているのは、同じであるらしい。
 耳を打つ、子ども達が楽しげに遊んでいる声に、スズネが頬を緩ませていると……。
「スズネ殿。お待たせしたであります……っ!」
「んん……っ!」
 見覚えのあるヒトが、自分に向かって駆け足で近寄ってくることに気付いて、スズネは肩を跳ねさせる。
(い、いや、でも。首のあたりにカルマ特有の魔法陣はないし、そして、何より……)
 服装が、いつもとちょっと違う。明確に言えば、軍服ではなかった。黒の上着に、カーキ色のシャツを着ている。
 けれど――。
(青色のネックレスは、同じだ……)
 だからスズネは、ほんの少し顔を赤らめて、下を見る。見て。
 気付いた。自分もまた、いつもと違う服装をしていることに。
 具体的に言えば、ひらひらとしていた。空色のネックレスはそのままに、半袖で白のレースワンピースと、足指の見えるサンダル。
(そういえば、前に。『たまにはオシャレしましょうよ。こういうのとか、どう?』と、彼女に見せられたことがあったな……)
 あの時、友人は確か、『もう。サンダルじゃなくて、ミュールっていうのよっ!』などと言っていた気がする。
(いや、確かこのワンピースも、その時に……)
「スズネ殿。今日はとても、可愛らしい服装でありますね」
「ん゛んっ……!」
 考えていると、話しかけれて、瞬間的に顔を上げる。
「そ、そうで、しょうか……」
「はい。とても、似合っているであります」
 重ねるように褒められて、スズネは照れたように、笑い返す。



 それから、すごく『あの人』に似ている彼、と。手を繋ぎ、スズネは色々な場所を訪れた。
 まずは水族館――と、建物には書いてあったが、意味はよくわからない――で、透明なガラスケースの中を泳ぐ、魚たちを見て。
 それから、映画館――と、建物には、以下略――で、『魔法で動く絵本の豪華版』(動物もの)のようなものを観賞した。
 それから、それから……。
 美味しいものを食べたり、綺麗な花を見たり。色々なことを彼と体感したスズネは、ふと思う。
(前に、先生に、『デート』ですかって聞かれたことがあったが……)
 これはまさしく、デートだよなぁ。
 気恥ずかしく思っていると、隣を歩いている彼が立ち止まった。『どうかしましたか?』と尋ねれば、視線の先には、
「わぁ……綺麗なウェディングドレス……」
「花嫁さんでありますな。きっと、結婚式を終えて、ブーケトスをするのであります」
「ブーケトス?」
「初耳でありますか?」
 不思議がるスズネに、彼は教えてくれる。結婚式を迎えた花嫁が、幸せのお裾分けとして、ブーケを投げ。
 そのブーケを手にしたものは、『次の花嫁になれる』という言い伝えがあることを。
「へぇ、それは素敵な……って、わわっ」
 ぽんっ。まるでスズネ目掛けて投げられたかのように、頭上にやってきたブーケを、慌てて受け取る。
 すると、左右から。割れんばかりの拍手が、盛大に響いた。
 『おめでとう!』、『次の花嫁は、姉ちゃんだな!』。『隣の兄ちゃんは、彼氏かい?』
 波のように押し寄せる言葉に、スズネは顔を赤くして、慌てて、それから。
「待って、待って、待ってーーーーーっ!」



 ぽんっ。
 叫んだ時、ちょうど魔導書の効果は終わったらしい。
 部屋に戻ったスズネは、けれど今体験したばかりの内容を思い出して、肩を震わせて、
「あっ……あーっ! あーーーっ!!!」
 勢いよく、本を閉じる。
 そんなスズネの胸元で、空色のネックレスが、笑うように煌めいた。

●「これが噂に聞く『ジューン・ブライド』! これで、正真正銘のっ! お嬢様になれますわ!」
(そ、そそ、そして王子様との、恋も……っ!)
 魔導書『June bride』を購入した【ナツメ・律華】(なつめ りっか)は、早足で自室に戻ると、若干前のめり気味で本を開く。



 そうして、ナツメが招かれた恋物語は、有体に言えば『隣国の王子様に嫁いだ、お姫様の物語』だった。
(でも、親同士が約束した許嫁のようなもので、しかも政略結婚だったから。まだお会いできていないのよね)
「はぁ……もしかして、私、好かれてないのかしら……」
 窓の外を眺めつつ、窓枠を支えに頬杖をつくナツメの衣装は、キラキラとしたプリンセスドレス。
 ちょこんと頭の上にはティアラが載せられ、けれどトレードマークの丸眼鏡はそのままに、ナツメお姫様は淡いため息を一つ。
 胸がぎゅっとなるほどに誰かを想い、溜息を零すのもまた、『恋』患いの一要素ではあるのだが、そも、恋は無自覚から始まるもの。
 ゆえにナツメは、『まだ、私の恋は始まっていないのかしら?』と、行動に出ることにする。



 やってきたのは、庭園の一角。王子様が趣味で育てているという、バラ園だ。
「素敵……。それにすごく、手入れもされているみたい」
 ナツメも『本物のお嬢様の友達』が出来てから知ったことなのだが、バラというのは慣れないうちは、とても手のかかる植物であるらしい。
(だから、バラ園には憧れるけど、うまくできないって嘆いてる子も多かったっけ)
 思いながら、バラに彩られたアーチをくぐってみる。芳しい花の香りに包まれて、ナツメはうっとりと頬に手を寄せた。
 野太い声が響いたのは、そんな時だ。
「バラ、好きなのか」
「ひゃ……っ!」
 両の肩を跳ねさせたナツメが、振り返る。
 麦わら帽子を被り、見るからにごつい男(しかも服中、泥だらけだ)と目が合った。
「あ、はい……とても……」
「そうか。なら、やる」
 パチン。軍手を付けた大きな手が、園芸用の鋏を器用に使い、バラを一輪(一番花なのだろうか、花の部分だけだ)摘む。
 そして、ナツメの髪に添えたかと思うと――。
「えっ! あっ、あのっ! ありがとう、ございますっ!」
 何も言わずに作業に戻ってしまった(のか、どこかへ行ってしまった)男の背中を、ナツメは呆然と見送る。
 彼が実は、件の王子様だと知ったのは、ナツメが部屋に帰ってからだ。
「そっか……王子様だもん。本当の自分を出せる場所なんて、きっと、限られているのよね」
(でも、あの庭……すごく綺麗だった。ぶっきらぼうだったけど、きっと、優しい人なんだろうな……)



 それからナツメは、毎日のようにバラ園に足を運び、口下手且つ皮肉屋な王子と交流を育んだ。
 会話を楽しむ、というよりは。バラに関する豆知識を聞いたり、一緒に花の世話をするような、そんなものだったが。
 王子は別れ際、必ずナツメにバラをプレゼントしてくれたし、ナツメは日に日に、今日はどんなバラを貰えるのか、楽しみになっていた。
 けれど、終わりは突然に、やってくる。
「バラは、今日で終わりだ」
「えっ……」
 急に『おしまい』を告げられて、ナツメは両の目を瞠る。
「どうして、ですか? やっぱり、政略結婚なんて……私と結婚なんて、嫌でした?」
 じわりと涙が浮かんで、そうして初めて、『自分がとても、彼に好かれたがっていたこと』にナツメは気付いた。
(あぁ、もしかして。これが『恋』っていう、ものなのかな)
 思っていると、王子は僅かに、首を振る。
「違う。今日は……12本目、だから」
 12本目。その言葉に、ふと。お嬢様の友人から聞いた言葉を思い出す。
(もしかして……『ダーズンローズ』?)
 ――ダーズンローズ(12本のバラ)。
 薔薇の1本1本に、感謝、幸福、情熱、永遠など、12の想いを乗せ。
 花婿が花嫁に渡すことで、『それら全てをあなたに捧げます』と、求婚の意を示すという、あの……。
(ということは、王子様は。本当は、私のことを……)
「もう、困った人だわ……。ちゃんと、言葉にして言ってください」
 そうしたら、私も。『一本お返ししますのに』。
 泣き笑いで告げるナツメに、王子は微笑む。そうか、なら。
「ナツメ。俺は、幼いころ、きみを一目見た時から。ずっと……」
 話し始める王子の周囲を、眩い光が包み込み、ナツメの視界が白く染まる。



 そうして、光が止んだ頃。ナツメは自室へと戻されていた。
「えっえっ、ここで終わり……っ!? 私の王子様はっ!?」
 もうっ、すごく良いシーンだったのにーっ!!
 じたばたと足を揺らすナツメの髪から、はらりと一輪、赤い花びらが零れた。

●「ここは……フトゥールム・スクエアではない、どこかの学校、でしょうか?」
 夕焼け色の光が窓から差し込み、並ぶ本棚に影を作る。
 その合間を歩いていた【レイラ・ユラ】は、恋物語の世界で『セーラー服』と呼ばれている、女子学生用の制服に身を包んでいた。
(『魔導書を開けたら、そこは異世界だった』、なんて……魔法って、本当に不思議ですね)
 思いつつも、彼女の表情がどこか楽しげなのは、レイラが本の世界(ひいては物語を)愛し、そのうえ知的好奇心に富んだ女性だからだろう。
 ゆえに、彼女が魔導書『June bride』を手にしたのも、ひとえに『興味があるから』という理由に尽き。
 だからこそ、彼女はこの『まるきり違う世界』で過ごす時間を、心の底から楽しんでいた。
(何より、この世界の授業も、面白いですしね。『春はあけぼの』……)
 少し前に習った古代の物語を思い返していたレイラは、ようやく見つけた人影に足を止める。
「もう、こんなところにいたんですか。先生が鬼の形相で、貴方を探していましたよっ!」
 腰に手をあて、本棚に背を預けながらぼんやりとしていた青年に、声をかける。怒っているのが伝わるよう、彼女にしてはちょっとキツめの言い方だ。
 だというのに、声をかけられた青年はというと、
「俺はただ、図書委員の仕事してるお前が見つけてくれんのを、ここで待ってただけだし」
 全く悪びれのない様子で告げられて、レイラはむっと眉を顰める。
 ろくに話の通じない金髪のこの人物こそ、恐らくは彼女の『恋のお相手』で、そして『幼馴染』として存在している男だった。
(とはいえ、性格は全く合わないのですが。陽キャラは陰キャラには眩しすぎるのです)
 どんなことがあったら、こんなヒトと恋に落ちるのでしょう。
 思っていると、ふいに男が、レイラの手を取った。
「きゃっ……!」
「それよりも、行こうぜ。お前に見せたいものがあるんだ」
「な、なんですかっ、いきなり……っ!」
 それは見てからのお楽しみ。ウィンクと共に振り返り、再び手を引くように歩き出した青年に、レイラは深いため息を一つ。
(本当に、価値観が違い過ぎるのです。いったいどうしたら、こんな相手を……)
 ちょっぴり強引で、どんな時でも気さくに話しかけてきて。そのうえ、思ったことを包み隠さず、そのままぶつけてくるような相手。
 それでも、手を握る彼の指の力は控えめで、痛みなどは感じられなくて。
(まあ、優しいところはあるみたいですけど……)
 思いながら、レイラは目の前で揺れる金色を、ただ見つめる。



 それからも、レイラは青年に、振り回されっぱなしだった。
 ある昼時には、『昼飯を買う金が足りなかったから、お弁当ちょっとちょーだい』と言われたり。
 ある放課後には、『傘を忘れたから、一緒に帰ろう。そんでもって、相合傘しよう』と提案され。
 そしてある夜には、『今日、流星雨が流れるってさ。一緒に見に行こうぜ!』と電話で呼び出された。
 そんな彼に、最初はレイラも『なんて礼儀を知らないヒト!』と怒ったりもしたのだが。
(好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。そうやって、素直に感情を表に出せるのは、美徳なのかもしれません)
 少なくとも、自分には出来ないことだ。強く自分を主張することも、こんなふうに――、
「絶対、幸せにする! 俺、お前の事が、大好きだからさ!」
 『好き』を、ぶつけてくることも。冷静に思う思考に反して、レイラの顔はぼんっと赤くなった。
「なっ、な、なんですか、いきなり……っ!」
「だって、今日から俺のお嫁さんじゃん! だから、これからは毎日言うよ!」
「えぇっ……!?」
 驚いていると、これも魔導書の力なのだろう、ふわっと衣装と、『風景』が変わった。
 レイラが身を包んでいたセーラー服は、純白のフィッシュテールドレスに。黒のラナンキュラスの髪飾りは、大輪の白百合へ。
 そして青年の制服もまた、新郎が身に纏うようなそれに変わり、舞台は教室の一室から、教会へ。
 どうやらシーンとしては、『彼と迎えた、結婚式』に移行したようだ。
(ちょ、ちょっと、さすがにそれは、一気に進み過ぎじゃありません???)
 思わず笑ってしまったレイラは、けれど『嫌な気がしない自分』に納得して、笑う。
 あぁ、そうか。彼のことがいつのまにやら、『好きになっていたから』。
(振り回されることも、失礼じゃなくて『楽しい』だなんて、思えてしまうんでしょうね)

●(もしかして、これは……記憶があった頃の、『私』の、お話……?)
(……どうして、こんなことに、なったんだろう……)
 自分以外に、誰の気配のない牢の中。膝を抱えた【カンナ・ソムド】は、ぺたりと銀色の獣耳を伏せる。
 普段は可憐な踊り子衣装に身を包んでいる彼女なのに、今はぼろぼろになったシャツ(しかもサイズが合っていず、ぶかぶかだ)一枚の姿だ。
(ここは、私の知っていそうで……知らない、世界……?)
 それとももっと、他の?
 首を傾げ、考え始める彼女の首元には、番号が掘られた金属製の首輪が嵌められている。
 ――とある偶然が重なり、魔導書を開くことになったカンナは。宛がわれた恋物語の中で、あまり嬉しくない状況に陥っていた。
 まず、最初に出会ったのは。見た目が格好良いわけでも、性格もまるで素敵ではない、富に飢えるばかりの男だった。
 道端を歩いていたカンナに声をかけたその男は、自分の『モノ』になれと脅し、拒否した彼女を力づくで、連れ帰ったのだ。
 しかも、『妾(めかけ)』ではなく、――『奴隷』として。
(私は、不思議な本を、読もうとしただけなのに……)
 どうして、こんなことに? もしかして、これが『異世界転移』?
 途方に暮れる彼女の心を表すかのように、髪色と同じ耳も、尻尾も、力を失くしてショボンと垂れ下がる。
 そんな時だった。蝋燭一つすらない、月明かりが差し込むだけの牢の中が、突然、明るくなった。
「……キミが、カンナくんかい?」
 顔を上げれば、牢の入り口……鉄格子の向こう側に、ランプを持った青年が立っていた。
 けれど、突如姿を現した男に、カンナは怯える猫のように、身を竦めるばかり。
 しかし、そんな彼女を見た青年は、ゆったりと微笑んでから、
「うん、決めたよ。私と一緒に、暮らさないかい?」



 それからすぐに、牢から出され。穏やかに微笑む青年に手を引かれ、連れて行かれた先は、裕福そうな彼の屋敷だった。
 その一室……彼の自室でもあり、『これからは、キミの部屋でもあるよ』と紹介された個室のベッドにて、カンナは膝を抱える。
(あなたは……だれ……?)
 喋ることが得意ではないカンナは、やはりここでも、声を発さなかった。
 けれど、そんな彼女を咎めることもなく、むしろ優しい手つきで頭を撫でてやりながら、青年は話し始める。
「自己紹介が遅れてしまったね。私の名前は――……」
 そうして語られる青年の話によると、彼はカンナを拘束した男(ちなみに奴隷商人であったらしい)と、多少なりとも面識があり。
 その日久しぶりに顔を合わせたその男が、今日新しく手に入れた『奴隷』を自慢げに語るのが気に入らなくて、言い値で買い取ったのだそうだ。
「とはいえ、私はそういった商売を良い事だとは思っていない。いずれ『対価は払って貰おう』と思って……と、そんな話は、別に良いか」
 怖い目にあったね。もう大丈夫だよ。
 柔らかく微笑んでくれる青年に、頭を撫でてくれるその手つきに、カンナは少しずつ肩の力を抜いていく。
 そんな彼女の様子に笑みを深めた青年は、『キミはとても、可愛らしいね』と白の瞳を細めた。



 それからの日々は、とても、穏やかだった。
 優しい青年は、カンナを奴隷ともペットとも扱わず、家族の一人として接してくれた。
 同じ食卓で、同じ物を食べて。綺麗な洋服は勿論、『留守番の時、キミが寂しいと思って』なんて、大きなクマのぬいぐるみを買ってくれたりもした。
(私、まだ。一度も、お話、してないのに)
 何て優しい、ヒトなんだろう。それに、今思えば、見た目もすごく、綺麗なヒトだ。
(背が高くて、キラキラの白の髪を持っていて。声も表情も、とても、柔らかくて)
 何故だろう。あのヒトのことを考えるだけで、胸がどきどき、してくる。
(でも、嫌じゃ、ないな……)
 むしろ幸せだなと思いながら、彼のいないベッドに、カンナは寝転がる。
 すると、ガチャリと、扉が開いた。彼が帰って来たのだと飛び起きたカンナは、その目に映ったものに、パチリと瞳を瞬かせる。
「あぁ、驚いたかい? これはね……」
 青年が手に持つウェディングドレスの意味を知り、カンナはその日初めて、彼の名前を呼ぶ。
 ――彼女が元の世界に戻り、手にした魔導書がどういったものなのかを知るのは。もう少しだけ、先の話。

●「此処は……私が、『生きていた』時に住んでいた、あのお屋敷……?」
 魔導書『June bride』を手にし、自室にて開いた【パーシア・セントレジャー】は。彼女の記憶を元にした、恋物語の世界に入り込んでいた。
 まず最初に展開されたのは、ずっと昔、生前の彼女が暮らしていた屋敷であり。今には何も残っていない、とある邸宅だ。
 埃一つとして落ちていない豪奢な絨毯は、思い出通りの柔らかさでもってパーシアの歩みを受け止め、靴跡を刻み、そして。
「これはパーシア様、お散歩ですか?」
「えぇ、少し、気分転換にね」
 まるで、『生きていた』頃のように。執事姿の男性に声をかけられたり、エプロンドレスを身に着けた使用人に頭を下げられたりする。
 だから、昔そうしていたように。王族の娘(といっても妾腹の、王位継承権のない、張りぼてだったが)らしく、背筋を伸ばし、笑みを返しながら。
 パーシアは屋敷の中を見て回り、それから外に出て。お気に入りだったガゼボ(東方では『東屋』とも言うらしい)へと、足を運ぶ。
(小さくて狭い屋敷だったけど。庭は広くて、大きな池があって、結構好きだったのよね)
 王族の娘にしては手狭な屋敷は、きっと他の兄弟姉妹や親戚たちが、自分を疎んでいた証拠だろう。
 それでもパーシアは、この邸宅がそんなに嫌いではなく。このガゼボ……庭に広がる池の岬にある、小さな休憩所で過ごす時間が、好きだった。
(よくここで、兵士や街の人達と、お茶を飲んだっけ……)
 思い返しつつ、設置された椅子に腰を落とせば。テーブル越しの向かい席に、ふわりと『彼が現れる』。
「え……?」
 瞳を瞬かせたパーシアに、『彼』が、声をかけた。
「こんにちは、姫様。今日もとても、お美しいです」
「……ありがとう。でも、そろそろ別の褒め言葉も、覚えたほうが良いわ」
 悪戯に笑うパーシアに、青年は苦笑する。
「武にばかり、力を入れていたもので」
 しっかりと。言葉を返してくるその姿に、今度はパーシアが眉を下げる。
(そうね。あなたは……そんなふうに、私の言葉で困ったように笑った時が、一番可愛かった)
 けして色男とは言えない容姿だったが、背が高くて寡黙がちなその青年は、この屋敷の守護を任された兵士の一人であり。
 そして、彼こそが。パーシアが命を狙われ、屋敷に火を放たれた時。
 最後まで彼女を守ろうと、諦めなかった男だった。
(……あの日のことは、まだ。私の中に、はっきりと、残っている)
 あの時、目の前の青年は、懸命に剣を奮い続けていた。燃える屋敷の中、パーシアを庇うようにして。
 けれど、多勢に無勢の状況では、いつまでも凌げ続けるわけもなく。
 彼は突然、パーシアを抱きしめるようにして。そして全身に矢を受けて、……ハリネズミみたいに、なりながら。
『愛した貴女のために、死ねるのなら……本望です』
(……何よ、それ)
「陳腐すぎるのよ。生きて、『愛してる』って、私に言いなさいよ……っ」
 突如俯き、呟いたパーシアに、青年は眉を顰める。
「パーシア様……?」
「私を置いて、いかないでよ……」
 懇願するようなその言葉に、青年は微笑んだ。
「……置いていきませんよ。私は、ここにいます。この屋敷を、ひいては『あなた』を護るのが。私の務めですから」
「違うの、そうじゃないの……っ」
 まるで過去を再確認するような台詞に、パーシアは首を振る。
「私のせいで、誰かが居なくなるのは……もうイヤなの……っ」
 震え出した声と共に、両手で顔を覆う。指の隙間から零れた雫が、テーブルを濡らした。
(……忘れてたのに、こんな思い。そうして独り、取り残されたことにも、慣れてきたのに)
「なんで……思い、出すの……」
 呟く声に、青年は答えない。
 けれど彼女を見つめる眼差しは、とても、とても――優しかった。

●(あぁ、『恋』とは……こんなにも、胸が痛む、ものなのですね)
 寂しい別れは、【シルワ・カルブクルス】にも起こっていた。
 しかし、何も初めから、全てが哀しい物語だったわけではない。
 ――シルワが偶然魔導書を開き、スタートした恋物語は、『国を護る立派な軍人』を目指す者達が集まる、士官学校が舞台だった。
 しかし、元々体を動かすのが苦ではないシルワにとって、この学校での生活は、さほど大変ではなかったし。
 入学当初から縁があり、共に励んできた友人……白い髪に、翡翠色の瞳をした青年が居てくれたおかげで、彼女の学園生活はとても、楽しかった。
 ゆえに、魔導書を開く前、『恋』というものが全く分からなかったシルワではあったが。
 共に学び、時に対立していくうちに。その青年の誠実さや努力家なところに惹かれ、自分にとって『愛しいひと』だと認識するまでに至っていた。
(けれど、物語はそれで、終わりじゃない……)
 恋とは『孤』独を『悲』しむものだと言ったのは、誰だったろうか。
 シルワが意を決して、『あなたのことが好きです』と告げ、交際をするようになってから、しばらく経った後。
 元々才能が有り、尚且つ勤勉、実直であった青年が。その類稀ない能力を買われ、一足先に『戦場』に行くことが決まったのだ。
(そう、だから。今日が私達の、『お別れの日』……)
「シルワ君……俺は……」
 学校の門の前。見送りに立つシルワの目の前で、『愛しいひと』が、言葉を濁す。何を言えば良いのか、わからないような表情だ。
 ゆえにシルワは、微笑んだ。彼がこれ以上困らないように、安心させる、ように。
「大丈夫です。あなたが、とても悩んでくれたことを。私は、知っていますから」
 優秀な姿を、家族に見せたい。それが悲願であった彼にとって、今回の話は願ってもない話だろうと、シルワはわかっていた。
 けれど、それは、自分との別れを意味する。だから彼が、何日も悩んで、考えて、迎えた結末なのだと……理解している。
(だから、『行かないで』、なんて……)
 眉を下げて俯いてしまうシルワに、彼もまた、下を向いて。
 しかし、それから。顔を上げると、はっきりとした声で、
「約束する。俺は、必ず、君の元に、帰ってくるから」
 迷いのない瞳で告げられて、シルワは瞳を瞬かせる。
 そうして、ゆっくりと微笑んだ彼女は、そっと……青年に、甘えるように、身を寄せた。
 朝を迎えたばかりの静寂の中、軍服に身を包んだ二人が、抱きしめ合う。シルワのか細い声が、震えた。
「……ならば、どうか。無事で帰ってきてください。必ず」
「あぁ、必ず……もう一度、こうやって。君を抱きしめよう」
 すらりとした銀色の尾と、シルワのドラゴニアの黒の尾が、絡み合う。
 それはまるで、互いに『離れたくない』と、言っているかのようだ。
(あぁ、けれど……)
 離れたくない。傍にいたい。この胸の傷みこそ、『恋』なのだろうと、シルワは思う。
 幸せな時間も、もちろん沢山あった。しかし、それだけではなくて。出会うということは、いつか別れるという事と、同義なのだから。
 そう、きっと。誰かを『愛する』ということは、その『いつか』すらをも受け入れて、それでも尚、共に在ろうとする決意なのだろうと。
 ならば、どうだろう。自分は、耐えられるだろうか。
(……できます、私なら。きっと、あなたが。私よりも大切なものに、まっすぐに向かって行ったとしても)
 あなたと過ごした思い出を、一つずつ集めて、抱きしめて。『愛していました』と、きっと、……後悔なんて、何も。
 そう結論付けたシルワは、彼を見上げる。穏やかに笑う青年と、目が合った。
「約束の、証に。……して、くれませんか」
 密やかな声だった。恥じらいがあるのだろう。頬を赤く染めたシルワに、青年も照れたように笑ってから、頷く。
 だからシルワも、瞳を閉じる。
 ――血の味のしない、口づけは。とても優しくて、温かくて、……切なかった。

●「早急に。出しては、いただけませんか」
 くるり、くるりと。色が回る。
 その中心に、【チョウザ・コナミ】は居た。
(……なに、ここ)
 思わず周囲を見渡す。絢爛豪華でだだっ広い部屋の中、赤、青、黄色のドレスに身を包んだ女達が、燕尾服の男達と、踊っていた。
(なに、これ)
 『舞踏会』という言葉が思い浮かんで、チョウザは身を固くする。
 こんな光景に、見覚えがあった。忘れたくても、頭の片隅にこびり付いては、不意に蠢(うごめ)く『あの日々』。
「気持ち悪い」
 視線を下に落とせば、いかにも金持ちが好きそうな大理石に、自分の姿が映る。
 ――白いドレスを、着ていた。だから、反射的に、視線を宙へ逃がす。
 そのまま天井を見上げれば、きらきらと無駄に輝くシャンデリアが目に入って、表情が抜け落ちた。
 しかし。
(きもち、わるい……っ)
 全身を包む滑らかさに、不快感が競り上がって、自身を取り戻す。
 どういうことだ、これは。何が起こっているのだ、――『私』に。
 思い返してみる。確か自分は、『本の中に入れる』と薦められた魔導書(しかし、名前はよく見ていなかった)を購入して、自室にて開いたはずだ。
 それが何故、こうなった。
(婚礼用のドレスなんて。二度と着てたまるかって、思ってたのに)
「ここに居られましたか、お嬢さん」
 その声に、聞き覚えがあるような気がして、顔を向ける。
 けれど声の主――シルエットからして、男性のようだ――は、記憶にない。正確に言えば、『判別がつかなかった』。
 顔を覆うように、黒いモヤがかかっているのだ。しかもその容姿は、気紛れに変化しているようで。
「全く、探したぜ」
 金の髪だったかと思えば、次の瞬間、黒髪に変わり。それに合わせて、口調も、声のトーンも、千変万化していく。
 だが唯一、変わらないものがあった。彼が話す度、微かに香る――、
(……煙草の、匂い?)
 考えていると、男が膝をついた。まるで騎士が姫君にするような体勢に、チョウザは眉を顰める。
 だから、背を向けようとしたのに、足が重い。何故だとドレスの裾をたくし上げれば、硝子の靴がシャンデリアの光を反射した。
 ゆえに唇を噛んだチョウザは、透明な足枷から、足を外す。すると、跪いていた男が、
「十二時の鐘には、まだ早いよ」
 くすりと笑われて、チョウザは戸惑う。
 普段なら、嫌悪感を感じる貴族(ではないのかもしれないが。彼が身に纏っている物は、絵本でよくみる『王子様』の衣装だ)の微笑み、なのに。
(……背中が、ぞわっとしなかった。いや、むしろ)
 胸の奥に、明かりが灯ったような、温かさを感じたのだ。まるで寒い夜に、作り立てのスープを、飲み下したような。
 こんなことが、あり得るのだろうか。困惑するチョウザに、男は言葉を重ねる。
「愛しいひと。あなたに逢うために、私は今宵、この場に参りました」
 慈しみを散りばめたような、穏やかなトーン。『愛』を深く滲ませた声と共に手を差し出され、チョウザは思わず、眉を下げた。
 やけに似ている。あの家で、目の裏に染み付くほど読まされた、物語のワンシーンに。
 しかし今のチョウザは、それらを『つまらない』と一蹴できるだけの思考を持っている。
 なのに。
(……なんで)
 拒絶の言葉が、声にならない。胸の奥から湧き上がる、喜びにも似た感情に、邪魔されるのだ。
 情動や想いが、理性や思考を凌駕する。それもまた『恋』の副作用なのだろうが、今の彼女には、理解できない。
 だが、分かることもあった。この感覚は、『あの時』に、似ている。
(何かが欲しいって、気持ち……)
 あの症状の原因は、惚れ薬だと聞いた。ならばこれが、誰かに『惚れる』……『恋しく思う』という、ことなのだろうか。
 わからない。しかし、気付けることもあった。
(あの時は、くるしかった。でも、今は)
 ほんの少しだけ、嬉しいような気もする。けれどその理由は、わからない。
 でも。
(このひと、なら。触れられても、微笑まれても)
 嫌じゃない。想いは行動に現れて、チョウザはそっと、差し出された手に指を伸ばそうとして、
「……っ!」
 首を振る。振った。そうして今度こそ、背を向けて、走り出す。
 ――壁掛け時計の針が、十二時を指した。

●From.
 『愛してる』を知らないと嘆き。それでもどうにかして知り得ようと足掻いていた、優しい『きみ』へ。
 どうか、忘れないで欲しい。その『分からない』と湧き上がる気持ちこそが、『きみ』を『きみ』たらしめる、証なのだと。
 そして私は、そんな『きみ』を。誰よりも、『愛している』。
 ――魔導書『June bride』、背表紙より、抜粋。



課題評価
課題経験:20
課題報酬:720
仮初のJune bride
執筆:白兎 GM


《仮初のJune bride》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 1) 2020-06-14 23:09:20
王様・貴族コースのパーシア。よろしくお願いします。
さて、人気の本みたいだけど……どんな本かしら?