;
【想刻】空蝉の随に


ストーリー Story

●揺らぐ空蝉
 エイーア大陸の最東端。
 北にエルメラルダ、南にトロメイアを置いたその場所には、『幻灯(げんとう)』という名の國(くに)が存在する。
 歴史としてせいぜい200年程度のこの國は、同じく大陸の最東端に位置する港『来々(ライライ)』を所有し、今も発展を続けている貿易都市だ。
 そして、その名前からも想像できるように、幻灯はエイーア大陸の中でも珍しい、東方の文化に満ちた場所である。
 というのも、幻灯は元々、この大陸に住まう東方民やその子孫が集って、作りあげた國なのだ。
 エイーア大陸に住まいながらも、東方に縁の在る者達が、遠き故郷を懐かしんで創設した、仮初のふるさと。
 だからだろうか、建物や食べ物、服装に至るまで。オリエンタルな雰囲気に包まれているこの場所は、エイーア大陸出身者にとっては、異国情緒が楽しめる観光地ともなっている。
 たとえば、繁華街『灯火(ともしび)』。
 東西南北それぞれに、東方にて祀られているという四頭の獣の像を置き。
 それらにちなんだ名前を持つ門が建てられた繁華街は、主に東方から輸入された食品や工芸品、生活雑貨などで溢れている。
 もちろん東方の料理を得意とする飲食店も豊富なため、『食通ならば、一度は足を運ぶ』とまで言われている。
 しかも、四つ辻……二つの通りが交差する場所であり、繁華街の中央には、見るからに立派な旅館が、荘厳な存在感を放っている。
 『雀の宿』(東方に伝わる御伽噺が、名前の由来らしい)という高級旅館は、東方では『楼閣形式』というタイプの建物であり。
 空にそびえる五枚の屋根は、それぞれに地・水・火・風・空を表しているというのだから、なんとも幽玄だ。
 その他にも、幻灯には様々な東方文化が散らばっており。故にこの國を訪れた東方の民は、口を揃えてこう言うそうだ。
「あぁ、懐かしい。たとえ今は遠くとも、我が心は。あの美しき桜の都(みやこ)を、忘れてはいない――」

●消える陽炎
「じゃあ、そこに行ったら、カズラのことも何かわかるのか?」
 ひょこり。ベンチの影から突然現れるような形で、【フィーカ・ラファール】は、そう告げた。
 その隣には、マフラーを引っ張られるようにして、フィーカに連れ回されていたらしい【カズラ・ナカノト】の姿もある。
 突然の介入者に『きみ』は――夏休みに入り、時間のゆとりも出来た『きみ』は。中庭にて偶然出会った【シトリ・イエライ】との世間話に興じていた――、記憶の糸を手繰り寄せる。
 そういえば、カズラという名前以外、何も覚えていないというこの青年が。学園内で空腹に倒れていたのを発見したのも、フィーカであったと聞いている。
 あの時は『鬼』が出たなどの騒ぎにもなったのだが、今ではすっかり、カズラも学園に通う生徒の一員だ。
 そしてその傍には、だいたいフィーカの姿があったようにも、『きみ』は思う。
 考えてみれば、幼い頃に故郷を焼き払われたというフィーカ(確か、それが原因で『カリドゥ・グラキエス』という翼竜が暴れる事件が起きたはずだ)という少年もまた、カズラと同じように、過去を『失くした』と言えるのだろう。
 しかし、カズラの場合は、ただ過去を見失っているだけに過ぎない。
 ならば――。
「何か、思い出せるか? そしたらまた、家族にも、会える?」
 『きみ』の物思いを継ぐように、フィーカは言葉を繋いだ。
 かぞく。それはきっと、フィーカがもう決して取り戻せない温もりであり、彼にとってとても大切な思い出だ。
 隣に立つカズラはピンと来ない様子ではあったが、もしも家族と離れ離れになっているのなら、会わせてあげたいとフィーカが思うのは、必然なのかもしれない。
 だからだろうか。彼の手には、カズラが学園に来た経緯と身体的特徴を書いた紙の束――そういえば、最近レゼント内でこれを、よく見かける気がする――があり。
 そんな彼へ、シトリはやんわりと微笑みかける。
「それは……私には、わかりません。ですが、確かに『カズラ』とは、つる草を指した東方の呼び名です」
 行ってみる価値は、あるのかもしれませんね。
 そう続いた言葉に、フィーカは満面の笑みを見せ、そして、
「いこう、カズラ! 家族のこと、何かわかるかもしれないぞ!」
「……フィーカが、いきたい、なら」
「いきたい! きまり!」
「こらこら、お待ちなさい。まさか今から、向かうつもりで?」 
 カズラのマフラーを引っ掴んだまま走り出そうとしたフィーカの外衣を、シトリの指が掴む。
「……だめか?」
「駄目ではありませんが、あなたがた二人だけでは、危険です。せめて何人か、護衛を雇ってから……」
 ふいに、言葉を止めたシトリが、そのまま『きみ』へと顔を向ける。そうだ。
「せっかくですから、社会科見学も兼ねて、頼まれてはくれませんか? 依頼料は私が払いますし」
 ちょっと大目に包んでおくので、お小遣いとして、どうぞお使いください。
 なんて笑うシトリの向こうでは、きらきらとした瞳でこちらの返答を待つ、フィーカがいる。
 だから『きみ』は苦笑して、けれどしっかりと、頷いたのだった。



 それから、『きみ』は。同じくシトリに声をかけられた学友たちと共に、幻灯に降り立つ。
 ちなみに、グリフォンを使った移動は野盗に襲われる心配もなければ、幸運にも空を縄張りとする魔物に遭遇することもなく。
 ゆえに、多少距離があったとはいえ、『きみ』達にとっては快適な旅路となった。
 だからこそ、『きみ』は。シトリの言った『危険』という言葉をいささか不思議に思ったが、そんな疑問は賑やかな声を前にして掻き消える。
 何故なら右も左も、視界いっぱいに行き交う人、ひと。ヒトの波が、『きみ』達を迎えたからだ。
「すごいぞ! 色んな種族のヒトが、いっぱいいる! これなら、カズラを知っているヒトがいるかもしれないぞ!」
 興奮しているのか、白猫の尾を揺らすフィーカに対し、カズラはやはり、ぼんやりとするだけ。
 けれどそんなことは気にもせず、フィーカは『きみ』たちに頭を下げてから、こう言った。 
「護衛、ありがとな! おれたちはまず、こちょーらんゆうぎりせんせーってひとに、会ってくる!」
 【胡蝶蘭・夕霧】(こちょうらん ゆうぎり)。
 その名前は、『きみ』達が出発する前、シトリがフィーカに教えていたものだ。
 なんでも、幻灯の国境警備施設に籍を置いている女性で、フトゥールム・スクエアの黒幕・暗躍コースの先生でもあるという。
 『といっても。夕霧はもう随分と長い間幻灯に居り、学園を目指して入港した東方民のサポートをしているので。会ったことがない方のほうが、多いかもしれませんが』。
 なんていうシトリの表情はどこか爽やかで、もしかしたら苦手な相手なのかな、なんてひそひそ声を『きみ』は聞いたような気もしたが。
 ともあれ、シトリから頼まれた護衛の任務は幻灯に着いた時点で達成しており、今からは、自由時間の始まりである。
 このままフィーカ達の動向を見守ってもいいし、気の向くままに街を歩いてみるのもいいだろう。
 耳に聞こえる言葉や目に入る看板の文字を見るに、幻灯では大陸共通言語と東方で主に使われてる言葉のどちらもが使われているらしい。
 ならばコミュニケーション上の心配はなさそうだ。そう思った『きみ』は、心の赴くままに、足を動かし始める。
 ちりん。どこかの軒下に吊り下げられた風鈴が、涼やかな音を立てた。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2020-08-17

難易度 簡単 報酬 多い 完成予定 2020-08-27

登場人物 8/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け
《ゆうがく2年生》ヒューズ・トゥエルプ
 ヒューマン Lv21 / 黒幕・暗躍 Rank 1
(未設定)
《ゆうがく2年生》樫谷・スズネ
 ヒューマン Lv14 / 勇者・英雄 Rank 1
「ただしいことのために、今の生がある」 「……そう、思っていたんだけどなぁ」 読み方…カシヤ・スズネ 正義感の強い、孤児院生まれの女性 困っている人には手を差し伸べるお人好し 「ただしいこと」にちょっぴり執着してる基本的にはいい人 容姿 ・こげ茶色のロングヘアに青色の瞳、目は吊り目 ・同年代と比べると身長はやや高め ・常に空色のペンダントを身に着けており、同じ色のヘアピンをしていることも多くなった 性格 ・困っている人はほっとけない、隣人には手を差し伸べる、絵にかいたようなお人好し ・「ただしいことをすれば幸せになれる」という考えの元に日々善行に励んでいる(と、本人は思ってる) ・孤児院の中ではお姉さんの立場だったので、面倒見はいい方 好きなこと おいしいごはん、みんなのえがお、先生 二人称:キミ、~さん 慣れた相手は呼び捨て、お前 敵対者:お前、(激昂時)貴様
《新入生》ルーシィ・ラスニール
 エリアル Lv14 / 賢者・導師 Rank 1
一見、8歳児位に見えるエルフタイプのエリアル。 いつも眠たそうな半眼。 身長は115cm位で細身。 父譲りの金髪と母譲りの深緑の瞳。 混血のせいか、純血のエルフに比べると短めの耳なので、癖っ毛で隠れることも(それでも人間よりは長い)。 好物はマロングラッセ。 一粒で3分は黙らせることができる。 ◆普段の服装 自身の身体に見合わない位だぼだぼの服を着て、袖や裾を余らせて引き摺ったり、袖を振り回したりしている。 これは、「急に呪いが解けて、服が成長に追い付かず破れたりしないように」とのことらしい。 とらぬ狸のなんとやらである。 ◆行動 おとなしいように見えるが、単に平常時は省エネモードなだけで、思い立ったときの行動力はとんでもない。 世間一般の倫理観よりも、自分がやりたいこと・やるべきと判断したことを優先する傾向がある危険物。 占いや魔法の薬の知識はあるが、それを人の役に立つ方向に使うとは限らない。 占いで、かあちゃんがこの学園に居ると出たので、ついでに探そうと思ってるとか。 ◆口調 ~だべ。 ~でよ。 ~んだ。 等と訛る。 これは、隠れ里の由緒ある古き雅な言葉らしい。
《比翼連理の誓い》オズワルド・アンダーソン
 ローレライ Lv22 / 賢者・導師 Rank 1
「初めまして、僕はオズワルド・アンダーソン。医者を志すしがないものです。」 「初見でもフレンド申請していただければお返しいたします。 一言くださると嬉しいです。」 出身:北国(リゼマイヤ)の有力貴族の生まれ 身長:172㎝ 体重:60前後 好きな物:ハーブ、酒 苦手な物:辛い物(酒は除く) 殺意:花粉 補足:医者を志す彼は、控えめながらも図太い芯を持つ。 良く言えば真面目、悪く言えば頑固。 ある日を境に人が触ったもしくは作った食べ物を極力避けていたが、 最近は落ち着き、野営の食事に少しずつ慣れている。 嫌悪を抱くものには口が悪くなるが、基本穏やかである。 ちなみに重度の花粉症。 趣味はハーブ系、柑橘系のアロマ香水調合。 医者を目指す故に保健委員会ではないが、 保健室の先輩方の手伝いをしたり、逃げる患者を仕留める様子が見られる。 悪友と交換した「高級煙管」を常に持ち、煙草を吸う悪い子になりました。
《不屈愛の雅竜天子》ミサオ・ミサオ
 ドラゴニア Lv18 / 魔王・覇王 Rank 1
「ミサオ・ミサオ。変な名前だろう。 この名前は誰よりも大切なあの子からもらったんだ。」 名前はミサオ・ミサオ。無論本名なわけがない。 外見年齢は20代、本年齢は不明。 本人曰く100越えてんじゃないの、だとか。 職業はギャンブラー。 学園に入る前は彫刻師、薬売りなどいくつか手に職を持っていた。 魔王コースを選んだのは、ここが楽だと思ったからだそうだ。 遠慮なくしごいてくれ。 性格はマイペースで掴み所がなく飄々としており、基本滅多に怒ることがない。 面白そうなことや仲の良い友人が居れば面白そうだとついて行き、 好きな人や大切な人にはドロドロに甘やかし、自身の存在を深く刻み付け、 飽きてしまえば存在を忘れて平然と見捨てる外道丸。 いい子には悪いことを教えたり賭け事で金を巻き上げ、 そして悪友のオズワルドや先輩先生にこってり絞られる。 恋愛したい恋人欲しいと言っているが、一途で誰も恋人を作ろうとしない。 たくさん養ってくれる人大好き。 趣味は煙草と賭け事。 特技は煙草芸、飲み比べ、彫刻。
《後ろの正面》イヴ・イルシオン
 カルマ Lv4 / 黒幕・暗躍 Rank 1
「何事もサクっと進めるのが暗殺のコツなのです」 暗殺技術を高めるために入学したと言う訳では無いのです。 社会適応とかいうのをする為なのです。 その為にはまず金が必要……前の職場同僚の戦場おじさんがそう私に何度も言っていたのです。先立つ物はカネだと。 ここでは収入も得られる上にコミュニケーション渦巻く混沌の世界だと聞いているです。 お手柔らかに会話をお願いするですよ twitter → @ILSION_yusya

解説 Explan

・プランにお書き頂きたい事
 幻灯にて『あなた』がとった行動をご自由にどうぞ。
 気の向くままに一人で、あるいはお友達と、観光を楽しんでも構いません。
 NPCと共に行動をする場合は、『閂』を訪れた後、『灯火』の観光となります。

・幻灯について
 エイーア大陸に住まう東方民やその子孫達が集う『國(くに)』。
 建物や食べ物、服装に至るまで、全てオリエンタル調で整えられているが、エイーア大陸の言語も通じる。
 (オリエンタル=メタな表現で言うならば、和や中華などの、東方的な文化)
 主な名所は以下

 ■繁華街『灯火(ともしび)』
  東に青龍門、北に玄武門。南に朱雀門、西に白虎門を置いた、大規模な繁華街。
  各門には、東方で信じられている四神の置物が置かれている。

 ■港『来々(ライライ)』
  エイーア大陸の最東端にあり、幻灯が所有する港湾。

 ■花街『市(いち)』
  国営の花街であり、芸者屋、遊女屋が並んでいる区域。
  非常にアウトローな場所です。向かう場合はお気を付けを。

 ■国境警備施設『閂(セン)』
  主に、国外から来た貨物や人物の検閲をする施設。
  エイーア大陸の貨幣は東方でも使用されておりますので、幻灯内でも問題なく使用できます。
  フィーカとカズラはまずこの場所で、『胡蝶蘭 夕霧』という人物にコンタクトを取ります。

 ■高級旅館『雀の宿』
  主に要人や国外からの交渉相手をもてなすために造られた、国内最大の高級旅館。
  繁華街『灯火』が交差する場所に存在し、五重塔のような見た目をしている楼閣形式の建物。
  夕霧の手配もあり、本日限定で利用できます。

・同行NPCについて
【カズラ・ナカノト】
 記憶を失ったドラゴニアの青年。学園内にて、空腹で倒れていた所を発見された。
 銀の左目には、なにやら秘密があるようだが……?

【フィーカ・ラファール】
 巨大な竜に村を焼かれた過去を持つ、ルネサンスの少年。
 自分と同じ、帰る場所のないカズラが気になっている。


作者コメント Comment
 閲覧ありがとうございます、GMの白兎(シロ・ウサギ)です。
 本エピソードは【想刻】の連動エピソードです。
 大筋ではありませんので、いつも通り、皆さんのなさりたいことをして頂ければと思います。
 
 さて、エイーア大陸の最東端には『幻灯』という貿易都市が存在します。
 かの地はエイーア大陸に住まう東方民の子孫達が、遠き故郷を懐かしんで創設した『國(くに)』であり。
 オリエンタルな空気に満ち溢れた、異国情緒漂う場所となっております。
 皆さんはこの地に【カズラ・ナカノト】、【フィーカ・ラファール】の護衛としてやってきましたが。
 既に自由時間となっておりますので、この國にて自分なりの思い出を作って頂ければと思います。
 東方がルーツのかたは、故郷や過去に思いを馳せるのも素敵ですね。

 こちらの文章としましては、プロローグや既出リザルトを参考にして頂けると幸いです。
 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。



個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:140 = 117全体 + 23個別
獲得報酬:5760 = 4800全体 + 960個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
…なんとなく、やなことを思い出す文化圏。
文化にも国にも罪悪ないんだけどね。ただザコちゃんが嫌な思い出あるだけ。
ってもここまであそこの人たちがいることもなさそーだし。そんな奇跡偶然あってたまるか。
少なくとも、あのぴかぴかの宿はなるべく行かないでおこ。やだし。

ヒールだった神父様も、謎めきフード様も花街?いくんだ。
情報収集できてー、たのしーとこ。いーじゃん。
あそこ避ける、って以外はなーんもかんがえてなかったし、ザコちゃんもそっち避難しとこ。

ただなんか…あれだね。
なんかこう、やなことを思い出す視線を感じみ。
品定めてる目?的なやつ。
慣れてはいるけど、気分は最悪さ。
この国の文化?なわけ無いと思いたいけど。

プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:140 = 117全体 + 23個別
獲得報酬:5760 = 4800全体 + 960個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■花街で情報収集する
オリエンタルな雰囲気の花街は初めてだが、悪くない。
カズラの情報収集がてら、ヒューズとザコちゃんと共に遊びに行こうか。

【説得/信用/ハッタリ/会話術/演技/心理学/人心掌握学】と【甘美の口づけ】(マウスtoマウス)で情報収集。

荒事になった時も勿論【甘美の口づけ】(マウスtoマウス)で暴れ倒すが、的確な暴力が必要な時は【ヒドガトル/ウィズマ・アーダ】【全力防御】で対処していくつもりだ。

そういや、アルバリもこういう感じの所の出身だったっけか。
土産の一つくらい、買っていってやろうかな。
当然、俺の新オリエンタルスケベ衣装だが。
…あっ、でもふんどしではないです。

■アドリブ/交流度:A

ヒューズ・トゥエルプ 個人成績:

獲得経験:140 = 117全体 + 23個別
獲得報酬:5760 = 4800全体 + 960個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
『心情』
東の文化…か。
俺や猿さんのルーツと似て非なるってな感じだな。
何はともあれ情報収集だぜ。
詳しい出生は分からねえが、手がかりは反射する眼とナカノトという姓だ。
色町なら芋づる式で情報屋や街の大物と巡り会えるかも知れない。
という訳で…いざ、キャバクラ。嘘、嘘。


アドリブ度A

樫谷・スズネ 個人成績:

獲得経験:140 = 117全体 + 23個別
獲得報酬:5760 = 4800全体 + 960個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
東方の町に行くのに護衛…あぁなるほど
お目付け役 ですか?(主にフィーカの様子を見て苦笑
話は軽くですが、聞きました…優しい子ですね
はい 私達でよければ…ええと 先生
これは私が そうしたいんです

観光もいいけど、手がかりも探さないとな
……名前占い?興味を持っていけば、店主に名前を問われ
樫谷スズネ、すずねの字は…わからないです
占い師が手元のメモに何かを書いてくれた
恐らく、あんたの名を表すならばこれだと
…そうか

じゃあ、彼の名は?
カズラを呼び、共に名前を見てもらうことに
命名占いだなんて、面白いですね
ナカノト、という苗字に聞き覚えは?

ルーシィ・ラスニール 個人成績:

獲得経験:140 = 117全体 + 23個別
獲得報酬:5760 = 4800全体 + 960個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
人多くて迷いそうだで、おらはカズラとフィーカについていくでよ

カズラっちゅうんは、あの木なんかに絡み付くカズラから来てるんだか?
もしそうなら、おめえさんは誰かに寄り添う運命なのかも知れねえな

閂ちゅうんは……門を閉めるために通す棒の事じゃな
つまり、門の先によからぬモンを通さん門番みてえなもんか?

ちゅうても、ただ棒立ちしとる門番とは違うようだけんど

って、フィーカ
勝手に駆け出すでねえべ

迷子さなっちまうぞ

カズラとフィーカが胡蝶蘭先生と話しとるときは、横で聞いておくけんど、聞かれたくない話みてえなら、近くの薬草屋とか覗いて暇潰しすんべ

それでも時間もて余すなら、トランプでカズラのいくべき未来さ占ってみんべ

オズワルド・アンダーソン 個人成績:

獲得経験:140 = 117全体 + 23個別
獲得報酬:5760 = 4800全体 + 960個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【同行者】ミサオ・ミサオ


僕らは旅館の温泉や食事を楽しみつつ、ロビーでお酒を片手に過ごしたいと思っております。

ここを誰かが通れば、誘って一緒に持ってきた果実酒を楽しみましょう。

…って、ミサオはトランプを使った勝負事をしたいようですね。
どうせあなたはイカサマをするでしょうから、
彼の行動パターンを推測し、彼の手元を「視覚強化」に「集中」してイカサマを見破りましょう。
勝負ごとに負けてもイカサマを破れば勝ちですから。

また、彼はきっと他のお客さんとトランプなどの簡単なお遊びをしたがるでしょうから、
「煙草(煙管)」片手に彼の悪に「魚心あれば水心」で手伝ってあげましょう。

ミサオ・ミサオ 個人成績:

獲得経験:175 = 117全体 + 58個別
獲得報酬:7200 = 4800全体 + 2400個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
【同行者】オズワルド・アンダーソン

オレらは旅館のロビーで酒盛りしてトランプゲームをしつつ、通りかかった客にゲームを誘おうかねぇ。
勝負に勝ったらカズラ・ナカノトの事を知ってる人がいるか聞いてみようかねぇ。


勝負事:
オズワルドにはギャンブル、信用、挑発、隠匿を使い、簡単なイカサマを。

他の客とは、共に酒を嗜みつつ「威圧感」で怯ませつつ「挑発、ハッタリ、ギャンブル、演技、隠匿」を使い全力でイカサマをして勝利を狙う。
オズワルドは協力してもらおうかねぇ。

イヴ・イルシオン 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:324 = 117全体 + 207個別
獲得報酬:12600 = 4800全体 + 7800個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
シトリは危険だと言っていたので、最後までカズラとフィーカを護衛するのです。
ただ本人達は必要でないと思っているみたいなので、後ろかひっそりとついていくのです。
胡蝶蘭・夕霧という先生が先にいるのですね…黒幕・暗躍なのに授業のサボりすぎで覚えてないのです。
いくら街の景色が美しいとはいえ、目をそらず任務を完遂してこそプロ。頂く報酬分は働くのです。
帰りまでしっかりついていくのです。

リザルト Result


●揺らぐ空蝉
 その場所は、【イヴ・イルシオン】にとって、まさに『異世界』であった。
 見たことのない建物、聞いたことのない言語。されど、目の前に聳(そび)え立つ朱塗りの建物は見るも鮮やかで、思わず目を奪われてしまう。
(『朱雀門』と書かれていますが、あれが繁華街『灯火(ともしび)』の入り口なのでしょうか)
 思いつつ、グリフォン停留所にて配られていた小冊子をめくる。
(なるほど。あれは東方における伝統的建築様式の門であり、ああいった門を牌楼(はいろう)と呼ぶのですね)
 話には聞いていたが、やはりエイーア大陸においての未知とも言える文化に、『幻灯(げんとう)』は満ちている。
 思いながら、【カズラ・ナカノト】と【フィーカ・ラファール】と共にやってきたイヴは、好奇心のままに視線を彷徨わせていたのだが、
(はっ。いけません、本日の任務は『カズラとフィーカの護衛』でした。頂いた報酬分は働くのです)
「では皆々様、また後程」
 両手でスカートの端を摘まみ、軽くお辞儀をしてから、イヴは跳んだ。
 まずは自分の身長よりも高い庇(ひさし)へ飛び乗り、それを足場に隣の屋根へと跳躍。
 それから屋根の上を走り、カズラとフィーカ、二人と共に移動する【樫谷・スズネ】(かしや すずね)と【ルーシィ・ラスニール】を追いかける。
 そんなイヴを見上げ、見送った【ミサオ・ミサオ】は、お決まりの煙管(きせる)から唇を離し、白い息を吐いてから、
「さすがの身のこなしだ。黒幕・暗躍コースの本領発揮ってところかねぇ」
 ヒューズもできるのかい? 今の。尋ねるミサオに、話を振られた【ヒューズ・トゥエルプ】は『いやいや』と肩を竦め、
「出来なくもないが。俺はここぞという時の為に、体力温存していく方針なんで」
「気が合うねぇ、オレもさ」
「ミサオの場合はただの手抜きでしょう。それはさておき、皆さんはこれから、どうなされるおつもりで?」
 『なんでぇ、オズワルド。随分冷たいじゃねぇか』なんて苦情を手で制しながら、【オズワルド・アンダーソン】が場に残った面々へと視線を流す。
 『そうだなぁ』と、小冊子(イヴも眺めていた、観光者向けの、名所や歴史等が書かれているものだ)をめくる【プラム・アーヴィング】は、
「俺は花街に行ってみるかな。……遊びに行くわけじゃないぜ? ああいう場所は規制も緩い、カズラに関する情報も落ちてそうだからな」
「なら、俺もご相伴に預かりましょうかね。プラム様サマがいれば百人力だろうさ」
 『水を得た魚って言葉もあるし?』なんて肩をすくめるヒューズに『アタシを踊り食いして良いのはダーリンだけなの』と笑うプラムは相変わらずだ。
 しかし、【チョウザ・コナミ】だけは、どこかいつもと違う様子――勘違いかもしれないが――に感じたヒューズは、一度思考を巡らすものの、
「ザコちゃんは、どうする?」
 結局は、いつも通りの言葉を選び、声をかける。
 そんなヒューズにふり返ったチョウザは、普段通りの薄ら笑いを浮かべると、
「少なくとも、あのぴかぴかの宿……『雀の宿』だっけ? は行かないでおこっかなーって感じ。とはいえ、行きたい場所も全然思いつかないんだけど」
「そーなんです?」
(意外だな。さっきのイヴさんみたいに、『未知』に対して興味津々ってわけじゃないのか)
 思いつつ、ヒューズは周囲の景色を見る。屋根に連なる赤提灯、異国情緒漂う繁華街は確かに賑やかで、活気に溢れている。
 しかし、国営とはいえ『花街』もあるとするのなら、『持っている者』と『持たざる者』の境目すらもが、明瞭な場所だということだろう。
(薄汚いモンは、キレイに隠されて見えないだけってか。俺や猿さんのルーツと似て非なるって感じだな……正直俺も、お気楽観光気分にはならないわ)
 ならばやる事はただ1つ。情報収集だ。チョウザの事は気になるが、彼女は『自由な』人間だ。
 自分が気にかけなくても大丈夫だろう、と、プラムに声をかけようとしたヒューズは、
「ヒールだった神父様も、謎めきフード様も花街? いくんだっけ。情報収集できてたのしーとこなら、ザコちゃんも行こっかな」
「んんっ……」
 今しばらく、『彼女』を連れて花街と言う場所に出かけて良いものかどうか、(猫のように瞳を丸くしたプラムの視線を受けながら)考えることとなる。

 その頃、カズラを連れたフィーカ、その護衛として共にやってきたスズネ、ルーシィは、『閂(せん)』にやって来ていた。
「たのもー!」
「あ、こら、フィーカ。危ないぞ」
 扉を開けるなり駆け出すフィーカに、スズネも思わず早足になる。
(……全く、元気だな。まるで『あの子たち』の相手をしていた時のようだ)
 『正しい事』に準じ、自らを律することの多いスズネの眼差しが、ほのかに柔らぐ。
(護衛を引き受けたことが『正しい事』なのかは、わからない。私はまた、『自分がしたいから』という理由で、物事を選んでしまった)
 けれど、少なくとも。間違った事ではないのだろうと、スズネは思う。何故ならこんなにも、心は穏やかだから。
(ならば、最後まで見守ろう。せめて、この旅の間だけでも)
 思うスズネの後ろを、だぼだぼな裾や袖をずるずると引きずりながらやって来たのは、ルーシィだ。
「スズネの言うとおりだ、フィーカ。勝手に駆け出すでねえべ、迷子さなっちまうぞ」
 手にはふらふらと人混みに流されそうになっていたカズラのマフラーがあり、それを道標にしたのか、おかげでカズラもしっかりと付いて来ている。
 ゆえに、彼等の足取りをこっそりと追跡していたイヴは、そっと手近な木箱の影に隠れた。
(ここまで順調……皆さんの安全の為に、私はこの場所から。狙撃手などが現れないか、見張っているのです)
 人だけでなく、主に東方からの貨物で溢れる国境警備施設、閂。であれば、隠れる場所も潤沢で、イヴはひっそりと護衛の任を務める体制に入る。
 そんなイヴの様子をちらりと視線だけで見たルーシィは、フィーカが足を止めたのを確認してから、
「『閂』ちゅうんは……門を閉めるために通す棒の事じゃな。つまり、門の先によからぬモンを通さん門番みてえなもんか?」
「ご明察。ここは貨物だけでなく、外からの『ヒト』をも検閲する、歴史ある機関なの。だからあまり、はしゃいでは駄目よ?」
 答えるように、声が返った。思わず全員が視線を寄せた先には、白い狐面の女が立っている。
 といっても、面が覆っているのは顔の上半分だけで、紅(べに)を引いた唇が弧を描いている辺り、笑っているのだと見て取れる。
 ゆえにスズネは警戒心を解きつつも、前へ出た。その背中へ、フィーカ達を隠すようにして。
「……不躾ながらお伺いさせて頂きますが。あなたが、【胡蝶蘭・夕霧】(こちょうらん ゆうぎり)先生で、間違いないでしょうか?」
「えぇ。シトリ先生から久しぶりに飯綱(いづな)が来たかと思えば、可愛らしいお客さんが来るだなんて。私に何の御用?」
「あの! おれたち、せんせーに聞きたいことがあるんだ!」
 我慢できないとばかりに、後ろから顔を覗かせたフィーカに、スズネは苦笑する。
 けれどそれ以上阻むことはなく、前に出たフィーカ達のやりとりを見守っていると、
「カズラのこと、見覚えないか? もしせんせーが見たことあるなら、きっと外から来たヒトだろうって、シトリせんせーが」
「カズラ……そこの、マフラーに顔を埋めている、ドラゴニアの子で間違いないかしら?」
「あっ、カズラ! なに隠れてるんだよ! こっち来て!」
「……うぅ」
(……もしかして、カズラさんは。あまり顔を見せるのが好きじゃないんだろうか)
『そういえばあの、宝石のような左目。なんでもあの輝きは、ドラゴニア純種にしか発現しない筈の特徴で――』
 ――それが理由で。カズラは同族から受け入れられなかった可能性が高いって話だ。
 学園を出発する前に、そう話していたのは、ヒューズだった。
 彼は少し前に、カズラと共にドラゴニアの純種に会いに行き、彼のことを尋ねて来たのだという。
(自分の瞳が原因で、家族と離れ離れになってしまったのなら。嫌いになっても仕方がないのかもしれないな)
 思いつつ、事の成り行きを見守る。
 夕霧と名乗ったルネサンス(と思われる。なぜなら腰の辺りには、紫黒色の尻尾が見えるからだ)は、ひとしきりカズラを観察してから、
「ちょっと失礼」
「……!?」
 驚くカズラを尻目に、手に持っていた扇で軽く前髪を払いのけ、左目を確認する。
 けれど、すぐに手を引っ込め、元の形に戻した夕霧は、
「そんなに綺麗な目をしてるなら、忘れる筈はないと思うんだけど。残念ながら、此処を通した記憶はないわね」
「そっかぁ」
「……ん」
(……おんや?)
 残念な結果に終わり、肩をすくめるフィーカ。けれどその隣には、どこかほっとした様子で肩の力を抜いたカズラ。
 対照的なその様子に片眉を上げたルーシィは、しかし詮索することなく、思う。
(もしかして、カズラは。自分のことを、あまり知りたくないんだべか?)

「どう思うよ、オズワルド」
「カズラくんのことですか?」
 ミサオに連れられる形で、真っ先に『雀の宿』に向かい。温泉を楽しみ、いかにも高価そうな食事に手を付けるか迷っていたオズワルドは。
 突然の質問にもスムーズに答えを返し、暫しの間考えるものの、
「あくまでも、僕の意見ですが。……今の彼は、怖がっているように感じました」
「やっぱりそうかい? ま、『同族に受け入れられませんでした』なんて知ったら、普通はそうなるよなぁ。『これ以上思い出すのは、怖い』って」
 くるくると煙管を回しつつ笑うミサオに、オズワルドは頷く。
「もしも待ち受けているものが、哀しい過去ばかりならば。僕は、思い出さなくても良いのではないかと、思います」
「同意見だ。思い出ってのは、楽しいばっかりじゃない。忘れたい思い出もまた、多くあるもんさ」
「……ミサオも、そうなんですか? この街、ミサオの住んでいた所と、似ているそうですね」
「んぁ? オレぇ? まぁ確かに似てるっちゃあ似てるが、もう随分と昔のことだ。正直なところ、『忘れちまった』ねぇ」
 からからと笑うミサオは何処か、楽し気だ。きっと、『どうとでも取れる』返答をしたことで、沈黙したオズワルドに、気を良くしたのだろう。
 ゆえに、ミサオは金の瞳をゆるりと細めて、
「そんなことよりだ。オレの心がしっかり読める、賢い賢いオズワルド君は、オレの求めてることがお分かりだね?」
「酒と娯楽、ですか?」
「そうさ。だからそれの処置が決まったら、ちょっと付き合えや」
 たとえ今は、思い出すのが怖いとしても。思い出したいと願った時、答えは多いほうが良いだろ?
 笑うミサオに、オズワルドは下を向く。過去に怯えながらも、立ち向かうことは、とても難しい事だろう。
 されど。
「……そうですね。あなたが『あまり悪さをしないよう』、僕が見張っていないとですし」
 それでも、オズワルドは箸を手にした。まずは一口、よそわれた白米を口にする。
 味のしないそれは、けれどまだ、温かかった。

「ねぇ、可愛いお嬢さん」
「ぴっ」
 夕霧にお礼をし、閂を出て行ったカズラ達を追いかけようとしたイヴに、声がかかる。
 振り返れば、いつの間に背後を取られていたのだろう、狐面の女が立っていた。
「もしかして、あなた。私と同じ、黒幕・暗躍コースの生徒さん?」
「は、はい……先生のことは、授業のサボりすぎか、よく覚えていないのですが」
「私は学園にいることが少ないから、わからなくて当然よ。それよりも、あなたの尾行の仕方、とっても『形』になってるわね。素敵だわ」
「ほ、本当ですか……っ!」
 きらきらと瞳を輝かせるイヴに、『本当よ?』と微笑む夕霧。
 それから彼女は、避けられなければイヴの頭を軽く撫でようと、手を伸ばしながら、
「カズラ、と言ったかしら。きっとあの子はあの瞳のせいで、『ただ生きるだけ』でも、とても困難な道となるでしょう」
 だから出来るなら、これからも、見守ってあげてね。
 微笑む夕霧に、イヴはぱちりと目瞬(まばた)いた。『ただ生きる』ことが、難しい。それはイヴも、よく知っている感覚だ。
 だから。
「お任せください。少なくとも今日の旅路は、私達が無事に、成功させて見せます」
 イヴは頷き、駆け出した。言葉通り、己が『任務』を、完遂するために。

 ――然して、その頃。
 ヒューズ・チョウザ・プラムの3人は、追われていた。
「いやいやこれは、予想外ってね!」
 煌びやかな繁華街とは正反対の、狭く薄暗い花街の間を走り、引き付け、駆け抜ける。
 それでもどこか楽しげなプラムとチョウザだが、ヒューズは事前に頭の中に叩き込んだ花街マップを思い出しつつ、足を動かし続けていた。
 何故こんな事態になったのか。話は少し前に、遡る。

●揺蕩う灯火
(なんとなーく、やなこと思い出す文化圏。文化にも国にも、罪悪ないんだけどね)
 ただザコちゃんが、嫌な記憶あるだけで。
 思いながら、チョウザは花街を歩くヒューズとプラムの後ろを歩いていた。
 繁華街とは違い、チカチカした色合わせの布がはためいたりもしなければ。明かりも赤提灯ではなく、黄色で安っぽい紙質のもの。
 先程までの豪華絢爛な空気でないだけマシではあったが、やはりチョウザにとって、あまり気分が良いものではない。
(っても、こんなトコまで、あの人たちが来てることもなさそーかな。……そんな奇跡偶然、あってたまるかっての)
「はー……」
「ん? ザチコヤン、どったの? 気分悪い?」
 微かに漏れた溜息を敏感に感じ取ったプラムが、歩く速度を僅かに緩める。
 そうして肩を並べる形となった青年に、チョウザは肩を竦めて見せてから、
「気分悪いってより、面白くなさみ。なんかこー、やな感じ受けるってか……品定め的な視線とか? この国の文化なわけ無いと思いたいけど」
「あー……お国柄ってより、『花街』独特のアレね。東じゃなくてもこういう場所なら、割とフツーかな」
「ふぅん? 詳しいんだねぇ、ヒールだった神父様」
「まぁねぇ~。でも嫌んなったらすぐ言ってくれよな。情報収集何て、他の場所でもできんだし」
「ん、あんがと」
 『いーえ』と笑うプラムはそのまま歩速を戻し、再びチョウザの前方……ヒューズの隣へと戻る。
 そんな二人を後ろから眺めつつ、チョウザは客引きの言葉を適当にあしらいながら、
(そもそも『花街』ってなに? やたらと『一緒に遊ぼ』的なこと言ってくるけど、遊び相手の吟味厳選する場所ってかんじ?)
 そのための人見ならまだましか。めんどい所有欲の所以じゃないし。
(てかまず、遊ぶって何? ザコちゃんとも遊びたいとかあんの? 魔物バラしとかする系?)
 思うものの、口に出さないのは、知る必要も特に感じないからだろう。
 そんなチョウザの思考とは正反対に、ご機嫌な様子だったのは、プラムだ。
(オリエンタルな雰囲気の花街は初めてだったが、悪くねぇな。そういや、『アイツ』もこういう感じの所の出身だったっけか)
 そんなら、土産の一つくらい、買っていってやろうかな。当然、俺の新オリエンタル魅惑的衣装だが。
 鼻歌混じりに思考を巡らしているプラムに、ヒューズのジト目が向けられる。
「遊びに来たわけじゃあ、ないんですケド」
「なーに言ってんだよ。最初はヒューズくんも『いざ、キャバクラ!』みたいなこと考えてたんだろ?」
「べ、べべつにそんなことないですしぃ! 色町なら、芋づる式で情報屋や街の大物と巡り会えるかもしれないって思っただけですしぃ!」
「あやしぃ。そうだ、俺とチッスでもしてみる? さっきの奴らみたいに、洗い浚い吐きたくなるかもよ? 心に素直になるってキモチイイからなァ!」
「おたく何でそれで聖職者なんです??? あっ、ちょっ、マジでやめっ、ギャーーー!!!!!」
「そういえば、ヒールだった神父様が情報収集的にやってるそれ、なんで口にしてんの?」
『へ?』
 思わぬ言葉が挟まって、プラムとヒューズの間の抜けた声が重なる。
 つられるように視線を向ければ、至極不思議そうなエメラルドの瞳が、彼等を迎えた。
「口づけってさ、所有欲向ける側が、所有したい対象の手の甲に唇当てるやつでしょ? なのになんで、わざわざ唇にしてんの?」
 所有欲行き過ぎたら食欲になんの? 謎。
 最後はいつも通りの薄ら笑い付きではあったが、内容はまるで、キスすら知らない『純粋無垢な少女』のようで、二人は顔を見合わせる。
(もしかして、彼女。ここが『どんな場所』なのかも、分かってない……?)
「お前らかぁ? 『宝石のような瞳を持つ人物』について、探りを入れてるってのは」
 過ぎった推測を押し退けるように、荒々しい声がヒューズの耳を襲う。
 視線を寄せれば、声色通りのガラの悪そうな男たちが立っていた。
「探りを入れるだなんて、人聞きの悪い。こっちはちょっとした、人探しをしてるだけっすよ」
「鏡のように反射する眼を持つ男を、か? そいつは俺達が先に探してた獲物だ。ガキはこんな所で遊んでないで、マッマによしよしされてな」
「言われると思いましたよ、それ。一応これでも、成人してるんですけどねぇ」
「それより、お互い同じ探しモンしてそうなら、情報交換といかないか?」
 挑発を受け流したヒューズに苛立つ男どもへ、プラムが前に出る。
 しかし彼らはプラムの提案を聞き、鼻で笑った。
「するわけねぇだろ。そいつを捕まえたら、どれだけの大金が手に入ると思ってんだ。それにこれは、俺達が、俺達の手で、やらなきゃならねぇんだよ」
「……やるって、何をです?」
「復讐さ! アイツは俺達の仲間を大勢殺した。その報いを受けさせんのさ!」
(なんだって?)
 まさか、カズラが? 一瞬思考が止まったヒューズを、男達は見逃さなかった。
「分かったんなら、お前たちが知っていることを全部吐きなァ!」
 言葉と共に、衝撃が来る。振り下ろされた斬撃を、しかし邪魔する影があった。
 チョウザだ。彼女は手に持っていた六角棒を、がら空きだった男の脇腹に思い切り打ち付けてから、後ろに下がる。
 それによって大剣の軌道が逸らされ、逃げる隙を得たヒューズは、瞬時に距離を取ってから、隣に立つチョウザを見た。
(……そーだよな。彼女は誰かに、『護られるような』女性じゃぁない)
 本当は、彼女が花街についてくると聞いた時、思ったのだ。
 もしも彼女が『嫌な思い』をした時は、それが余計なお世話であろうとも、割り込んでやろうと。
 それはプラムも同じだった。チョウザはプラムの眼から見ても大層な美人で、スタイルが良くて、飢えた男共の格好の的となりそうだったから。
(だからその時は、『主にヒューズの為に、一肌脱いじゃお』、なーんて思ってたケド)
 そうだよな。どうお膳立てしたって、ザコちゃんが俺を残して、ヒューズと二人で逃げたりなんか、しないか。
 ならば三人で、迎え撃つのもいいだろう。容易く思考を切り替え、方向転換したプラムは、ヒューズに言い放つ。
「走れ! お前なら、観光案内の冊子見た時、地図も頭に入れてんだろ! もっと暴れ回れそうな広い場所に案内してくれ!」
「オーキードーキー! お任せあれ!」
 駆け出すヒューズの背中を、チョウザとプラムが追いかけ。その後ろを、耳障りな靴音が続く。
 けれど、先を行く深緑とマゼンタを視界に収めながら、プラムは笑った。
(ま、これぐらいの見せ場を作ったって、バチは当たらないだろ? 『謎めきフード様』)

 その頃、閂を出たスズネ達は、『灯火』に来ていた。
「すごいな! 見たことのないものが、いっぱいある!」
「主に東方からの輸入品だって聞いただ。何か記念に買って帰るのもいいなぁ」
 はしゃぐフィーカと、その後をついて行くカズラを見守っていたルーシィが思案する。
「これなんか良さそうだべ。『強く願った思いが、現実になる』お守り……なんだか太極図にも似てるべな」
「お嬢さん、詳しいねぇ。それは東のほうでお守りによく使われている、勾玉ってもんさ。占い(まじない)に使われることもあるね」
 瑪瑙色の勾玉を手に取ったルーシィに、老婆(どうやらこの店の、店主であるらしい)が声をかける。
 先を歩いていたフィーカ(とカズラ)も、『なになに?』と寄って来た。
「なんかへんな形……あっ、でもこれ、2つをこうくっつけると、1つの円になるんだな!」
「そう、それがお嬢さんの言ってた『太極図』だね。陰と陽、光と影……古来より、この2つは正反対のようで、常に一緒にあると考えられているのさ」
「うーん……? よくわかんないけど、おれ、これにする! 2つ買う!」
「はい、毎度あり。もしも願いが叶ったら、またここに来るんだよ。神様に、お礼をしなくちゃいけないからね」
 チャリン。シトリから貰ったお小遣いを老婆に手渡したフィーカは、くるりとカズラのほうを向き、
「はい、カズラの分。カズラはなんてお願いする? やっぱ、『昔の事を思い出したい』?」
「……えっと」
「願い事なんて、わざわざ考えなくてもええ。『そうなってほしい』と思った時、それにお願いすればええだ」
 口ごもるカズラに、ルーシィが助け舟を出す。
 幼い容姿ながらも、その表情はどこか大人びて見えて、カズラは素直に頷いた。
「お嬢さん。見た目のわりに、随分と落ち着いてるんだねぇ」
「ん? まぁ、色々と事情があるでな。それよりも、『カズラ』について、聞いても良いだか? 占術的にどう見えるか、とか」
「カズラって、植物の葛のことかい? 占いに使うとは、聞かないねぇ。ただ、『木に巻き付いて、枝葉を伸ばす』特質をどう見るかなら、そうだねぇ」
「『宿主の木より大きくはなれず。木が倒れたら、一蓮托生』……とかだか?」
「そうだね。あとは、『木や草にない、紐や綱の代わりになるくらいの柔軟さと、引っ張りに対する強さがある』くらいか」
「やっぱりそうかぁ。ありがとな、ばっちゃ」
「いんや、わしもただの予想だからの。もし気になるなら、そこを進んだところに姓名判断士もおる。あっちにも聞いてみたらどうだい?」

 なんて会話をしている間。イヴは少し離れた地点にて、もぐもぐと『おにぎり』を食べていた。
(まさか遠巻きに様子を窺っていたら、『かくれんぼ』なるお遊びと勘違いされ、しかも『おやつ』を貰うだなんて。なんたる不服……!)
「美味いかい?」
「おいしいです!」
「それは良かった。子どもはよく食べ、よく遊び、もっと大きくならんといかんぞ」
 『どうせ売れ残りだ、もう1個食べると良い』と新たなおにぎりを差し出され、『ありがとうなのです』と受け取るイヴ。
 どうやら自分は、姿を隠す為に使っていた『おにぎり亭』なる看板の持ち主に、『友達と遊んでいる子ども(しかも発育不足)』と認識されたようだ。
(とはいえ、尾行していると言えば、怪しまれるかもしれません。ここは店主の勘違い&優しさに乗じるのです)
 思いつつ、手にした『おにぎり』なるものを食べ進める。
 炊き立てから少し経ったあたりの、熱すぎないお米達を三角形に加圧成型し、黒い『海苔』と呼ばれる何かで包んだそれは。
 時にしょっぱく、けれど何故か食が進む気がする、不思議な食べ物だった。
「『おにぎり』は。この辺りでは、一般的な食べ物なのです?」
「あぁ、そうだな。親が子に作ったり、時には旅のお供に握られることもある」
 お嬢ちゃんは、幻灯の外(そと)の子かい?
 尋ねられ、頷くイヴに、店主の男は優しく微笑む。
「そうかい。昔この店の看板娘をやっとった子も、お嬢ちゃんのようにきれいな白の髪をしていたよ」
 この國(くに)を出て、何処かに嫁いだって聞いたが、今はどうしてるんだろうなあ。
 どこか遠い目をしながら語る店主を、イヴは見上げる。
(……そういえば、カズラの好きな食べ物も。『おにぎり』って聞いた気がするのです)

 イヴが『おにぎり』に夢中になっている間に、フィーカ達一行は『姓名判断士』の元に移動していた。
「名前を構成する文字で占うのですか。宜しければ私も、一緒に見て貰っても良いでしょうか?」
「もちろん。この紙に、坊ちゃんの名前と、お嬢ちゃんの名前を書いて貰えるかね?」
「……カズラ、ナカノト。しか、分からない」
「おやお前さん、どう書くかはわからんのか。お嬢ちゃんのほうは?」
「私は……樫谷はこうですが……すみません、スズネのほうは、書き方がわからなくて」
「その名前ならきっと、こうじゃろう。鈴の音と書いて、『すずね』……どうやらお前さんは、名付け親に、幸多き人生を願われたようじゃな」
 鈴の音色は『魔を祓う』と、考えられているものじゃからの。
 微笑む占者から、『鈴音』の文字が書かれた紙きれを受け取るスズネ。
 その表情はどこか柔らかで、されど嬉しいばかりにも見えず、隣に座るカズラが心配そうな眼差しを贈る。
 そんなカズラに気付いたらしい、スズネは穏やかな笑みを浮かべると、
「大丈夫です。私もカズラさんと同じで、両親の顔すら憶えていないので、なんだか……不思議な感じで」
「……さび、しい?」
「というよりは、興味、かもしれません。私の家族は、いったいどんな人達だったのかなと」
「おやお前さん、もしかして孤児なのかい? それでよく、自分の名前を知っていたもんだ」
「施設の先生が『多分こうだろう』と教えてくれたんです。何でもメモ? を持っていたとか。なのでもしかしたら、本名ではないのかもしれませんが」
「ふぅん? 難儀な話じゃの……さて、カズラ ナカノトくん。きみの場合は当てずっぽうで充てた文字から読むしかないが、そうじゃの」
 繊細な話題だと判断したのだろう。占者は早々に話題を切ると、カズラのほうを見る。
「カズラはわからんが。『ナカノト』の音を有難がる連中ならおる」
「どんな方々ですか?」
「商人達じゃ。今の頑張りは全て『道の途中』、この先の未来にきっと、幸せが待っているのだと。願掛けの意味を込めて、名乗る奴らも多いと聞く」
 じゃから、もしかしたら。お前さんの両親も、そんな気持ちで名付けたのかもしれんの。
 続く言葉に、カズラは目を瞠(みは)る。

 その頃、ミサオは大変に、絶好調であった。
「あーがりっと。はっはっは、またオレが勝っちまったねぇ!」
「があ~~~~~、なんでだ~~~~~!!」
 場所は『雀の宿』のロビー・スペース。
 テーブルを挟まずに、ミサオと向かい合うように座っていた男が、勢いよく両手を持ち上げ、そのまま後ろに倒れ込む。
「お前、ほんっとうにイカサマしてないんだろうなっ!?」
「ないない。そもそもただのババ抜きに、どうイカサマするってんだい? ま、疑うんなら、そのトランプを確認しても良いけどよ」
 胡坐を掻きつつ、自信満々で答え、煙管に口を付けるミサオ。
 対してオズワルドは、トランプを拾い集めては確認し始める男を、にこにことした表情で眺めながら、
(……してますよねぇ、イカサマ)
 実は、この『賭けババ抜き』というイベントの、一番最初の『被害者』は、オズワルドであった。
 もちろんその時は盛大に『負けた』が(そうでないと、『何回挑んでも勝利する、強運のドラゴニア』という『注目』が生まれないからだ)。
 人々の視線を集めるために、何度もミサオに『負け続けた』オズワルドは、既に手の内を理解していた。
(あんなにも精巧な『マークドデック』(背面の絵柄で、中身がわかるトランプ)を、一体どこで手に入れて来たんでしょう?)
 まさか、『あのクラブ』に入り浸っているらしい、不良三銃士の残り二人経由か……?
 考えていると、男がトランプの背面の絵柄を凝視し始めたのが見えた。
 ゆえにオズワルドは、高価な果実酒の入った瓶を軽く揺らしてから、
「まあまあ。大負けした者同士、一杯どうです?」
「うぅ、ありがとう、ローレライの旦那ぁ……」
 どん底気分に落ちた人間ほど、差し出された優しさには弱いもの。
 先程までミサオに負け続きだった男は、何の疑いもなく、オズワルドからの杯を受け取る。
 それから、ぐいっと飲み干すと。酒が余程美味かった(=良いものだった)のだろう、男は機嫌を直した様子で、
「でぇ? 強運の兄さんは、負けに負けたこの俺に、何を求めるってんだい? 金か?」
「いやいや。オレはただ、娯楽が欲しかっただけさァ。面白いコトに美味い酒があれば、たいていのことはどうだって良いモンだろ?」
「かーっ! 良いねぇ、兄さん。その気持ち、俺にもよくわかるぜ。金があっても、人生つまらねぇ事だらけじゃ、やってらんねぇモンなァ!」
(ま、金は欲しいけどな)
 心の中で呟いた本心に、勘付いているのだろう。ニコニコとした笑みをオズワルドに向けられて、へらりと笑うミサオ。
(わぁってるって。金巻き上げるために、こんな小細工したわけじゃねぇよ……『今回は』、な)
 これまた心の中で付け足してから、ミサオは本題に入る。
「でも、そうだなァ。何か貰えるってんなら、情報が欲しいかね」
「情報? いったい何のだい?」
「『カズラ・ナカノト』って名前について、何か知ってるかい? ちょいと人探しをしていてね」
「カズラ? んー……兄さんが知りたい情報かはわからんが、『カズラ』って名前なら、一昔前に幻灯で流行った名前だねぇ」
「ほぉん、どういうことだい?」
 尋ねられ、男は笑う。なぁに、ありがちな話さ。
「葛ってのには、『協力』とか、『助け合い』って意味があるんだとさ。幻灯じゃあまり広まってないが、そういう文化を『花言葉』っていうらしい」
 それで、ほら。そういう浪漫な話、女どもは大好きだろ? だから。
「双子の兄弟が生まれた時、兄に『カズラ』と名前を付けるのが流行ったのさ。弟と手を取り、助け合って生きて欲しいって。願掛けみたいなもんだな」
「……へぇ? そりゃ面白い話を聞いたね」
 話を聞いたミサオはにやりと笑う。その視線の先にはオズワルドが居て、
(……もしそれが、カズラくんの名前の由来だとしたら。哀しいばかりの過去ではないと、言う事でしょうか)
 考えながらも、肩の力が抜けていくオズワルドを確認してから、ミサオは煙管に口を付ける。
(ま。何事も、踏み出して見なけりゃ、……わからねぇもんだよな)
 そんな言葉はふわりと白い煙になって、天井を漂う。

 一方、荒くれ者どもに追われていたプラム達は。避難(誘導ともいう)した場所にて思いきり暴れ終わり、後処理をしている所だった。
「なんと、フトゥールム・スクエアの生徒さんでしたか! この度は、治安維持に協力して頂き、誠に有難うございます!」
「いえいえ、学園に通う勇者候補生として、当然の事をしたまでです」
 騒ぎを聞いてやってきた男達――どうやらこの國における、自警団のようだ――に、爽やかな笑顔で応じるプラム。
 それを信じられないものを見る目で眺めていたヒューズは、しかし、
(……転がっている奴らから、情報を聞き出せたらと思ったが。そんな隙はなさそうだな)
 溜息と共に、これ以上の情報収集を諦めて。それから。
「さっきはありがとな、ザコちゃん」
 声をかける。それに対し、夕焼け色に染まり始めた彼女は、『ん』としか返さなかったが。
 二人の間では、きっと。それだけで良かった。

●消える陽炎
 それから、集合時間を迎え、空が夕暮れに染まる頃。
 思い思いに時間を過ごした面々は、待たせていたグリフォンたちの元に集まっていた。
「んじゃ、せっかくですし。もし新たに分かったことがあったら、共有といきましょうか」
「そりゃ構わねぇが、ヒューズ。お前、随分ぼろっぼろになったな?」
 出発時よりも薄汚れたフードや乱れた髪型に、ミサオが首を傾げる。
 対してヒューズは、へらりと笑うだけで、
「ちょーっと、思った以上に運動しすぎましてね」
「そりゃ、随分お楽しみだったんだねぇ」
「アタシの好みじゃなかったケドネー」
 つまらなそうに首を鳴らしたプラムに、ザコちゃんも同意、とチョウザが小石を蹴り飛ばす。
 そんな三人を見て、『何があったか、後でよろ』とプラムに耳打ちするミサオを放っておきながらも、ヒューズは、
(ま、俺達が得た情報……『鏡のように反射する眼を持つ男を、探している奴らがいる』ってのは、カズラとフィーカがいない所で共有、で良いだろう)
 そもそも『アイツは俺達の仲間を大勢殺した』と言っていたし、カズラである確証もまだ得られていない。
 ならば、怖がらせる必要もないだろうと判断した青年は、『俺達は特に』とだけ告げ、他のメンバーの発言を待ち。
 そうして口々に集まったのは、繋がるようで繋がらない、けれど希望の持てるような、情報群だった。
「つまり、カズラは東のほうから来たわけではないが。カズラと言う名前は、この『幻灯』が発祥である確率が高く……」
「もしカズラさんに名前を付けたのが、『おにぎり屋』の看板娘だった女性である場合、カズラさんには弟さんがいる可能性もある、ということか」
 ヒューズの後を追うように、スズネが付け足した言葉に、カズラが反応する。
「おと、うと……」
「しかも、カズラは『同族から受け入れられなかった可能性』はあっても、両親からは、『幸せを願われていた』可能性もあるのです」
「……うぅ」
 さらにイヴの言葉を受け、呻くような声と共に、カズラがマフラーに顔を埋める。
 それはまるで、泣き顔を隠す子どものようで、ルーシィはただ、微笑んだ。
「なぁ、カズラ。今は独りかもしれないが、おめえさんは誰かと共に在る運命なのかも知れねえべ」
 だってな? カズラって植物は、常に宿主とした大木と共に在る、孤独と無縁の植物だ。
「ならやっぱり、カズラを愛してくれた人は、この世界の何処かにいたのかもしんねぇ。……それでも、過去を思い出すのは、怖いがか?」
「わか、らない……」
 マフラーに顔をうずめたまま、カズラは答える。
「……みんな、手伝ってくれる、けど。ほんとうは、思い出したほうが良いのか、悪いのか、わか、らない……」
 呟くカズラに、『そうなのか?』とフィーカが尋ねる。
 その言葉に頷いたカズラは、しかし緩やかに、首を振った。
「でも……もし、ほんとうに、家族が……愛してくれたヒトが、いたの、なら……」
 ――その先の言葉は、続かなかった。
 怯え、惑い。僅かばかりの希望以上にまだ、『受け入れられなかった』という哀しみが、勝っているのだろう。
 ゆえにヒューズは苦笑した。ぽんとカズラの肩を叩き、首を振る。
「急いで答えを出す必要はないさ。俺達は、お前が進みたいと思ったらいつでも手を引いてやるし、それを判断するための情報探しも、手伝ってやる」
 だからさ、今は。
「自分の気持ちを、大事にしようや。嬉しい、哀しい、楽しい……感情ってのは、迷った時にどうすれば良いかの、道しるべにもなるもんだ」
 だからさ? なぁ、カズラ。
「今日一日、色々歩き回って、楽しかったか? ここに来て、良かった?」
 尋ねられ、カズラが顔を上げる。
 その表情はいつもほどに無表情ではなく、そして、
「――よかっ、た。たのし、かった……。ありがと、みんな」
 少しだけ、微笑んでいるようにも、見えた。



課題評価
課題経験:117
課題報酬:4800
【想刻】空蝉の随に
執筆:白兎 GM


《【想刻】空蝉の随に》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《後ろの正面》 イヴ・イルシオン (No 1) 2020-08-11 18:32:59
よろしくなのです。私は最後までお二人を尾行して護衛するのですよ。

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 2) 2020-08-11 22:40:56
黒幕・暗躍コースのヒューズだ、よろしく頼む。
俺は情報収集だな。
何処に行こうか悩むが…花街にでも繰り出そうか。

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 3) 2020-08-14 23:12:14
俺と言えば花街。
花街といえば俺。
Goo too SE(規制)

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 4) 2020-08-15 23:27:30
賢者・導師コースのオズワルド・アンダーソンです。
よろしくお願いします。

僕はミサオと旅館のロビーでのんびり過ごさせてもらいますね。
人脈を広げ…他のお客さんと友好を深めたいと思います。