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黒猫と20本の尻尾



ストーリー Story

 細い月が、夜空から少女を見下ろしていた。
 少しの夜更かしなら黙認されるとはいえ、【ルーナ・レイニーデイ】は初めての夜の外出に不安が隠しきれていない。
 迷うような足取りで、月の視線に怯えながら、ルーナは夜の居住区域を往く。
 ルーナの姿を見れば、誰しもが『こんな時間に無理をしなくても』と思うだろう。
 しかし、ルーナは『こんな時間に無理をしてでも』行きたい店があった。
 ルーナが住んでいる寮の南口から真っ直ぐ進み、67個目の街灯を左に曲がり、王冠が描かれたパン屋の看板を目印に右へ曲がった先――。
 路地裏に潜む猫の看板が、月と同じように目を光らせていた。

 ルーナが重たい扉を開くと、暖かい空気が彼女の頬を撫で、木の香りが彼女の頬を緩ませた。
 ルーナの視界に飛び込んできたのは、艶やかなカウンターテーブルと、いくつかのテーブルセット、赤い木の木目。
 まだ人のいない、静かな店内はまるで小さな図書館のようだが、壁に並べられているのは本ではなく酒瓶。黄味がかった間接照明に照らされて、彼らは手に取られるのを待っている。
 ――夜の酒場。
 本を読むように酒と時間を楽しむ。その行為に少女が憧れていたとすれば、それは少女が背伸びをする理由になるだろう。
 しかし、そうではない。
 ルーナには別の目的があった。
「こ、こんばんは……」
「あら、いらっしゃい。……見ない顔ね。初めてかしら?」
「は、はい」
 カウンターテーブルの向こう側に立つ少女。実際には少女ではないのだが、ルーナより年下にしか見えない、黒猫の特長を持つルネサンスの女。彼女がこの店の店主である【シャオヘイ】だ。
 ルーナと目を合わせて、シャオヘイは黒い猫の耳を動かし、4本の黒い尻尾をゆらゆらと揺らす。
 ルーナを警戒しているのか、それとも興味を示しているのか、シャオヘイの読めない表情にルーナがおどおどしていると、シャオヘイは『ふっ』と笑った。
「そんなに怯えなくて良いわよ。学園の生徒さんよね? それで、今日はお客さんとして来てくれたのかしら? それとも、お手伝いに? それとも――」
 シャオヘイの言葉に合わせて、ルーナの足元で黒猫が『なー』と鳴く。
 黒猫達は1匹や2匹ではなかった。同じような見た目をしながら、微妙に表情の違う黒猫が8匹、いつの間にかルーナを取り囲むようにして、黒猫達は集まっていた。
 その黒猫達の数に対して、尾の数はさらに多い。
 1匹につき2本、計16本の尾がゆらゆらと、ルーナを誘うように揺れていた。
 その不思議な黒猫達を見て、ルーナは思わず笑顔になる。
「――その子達と遊びに……来てくれたみたいね」
 ルーナの表情を見て、シャオヘイはそう言った。
 ここは学園のどこかにある、小さな酒場『小黒(シャオヘイ)』。
 猫の姿をした魔物である『ネコマタ』と戯れられる酒場である。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 3日 出発日 2019-04-01

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2019-04-11

登場人物 3/8 Characters
《ゆうがく2年生》御影・シュン
 ルネサンス Lv11 / 黒幕・暗躍 Rank 1
おおっ!貴殿…初めましてでござるな!? しかも拙者と同じく新入生と見える! これは自己紹介といくでござろう! 拙者は御影・シュンでござる!あ、「ミカゲ」が苗字でござるよ。 種族は見ての通り祖流種…ルネサンスで、専攻は黒幕・暗躍科でござる! 敵地に忍び込んでの情報収集や、嫌いなあんちくしょうの闇討ちはお任せあれでござるよ! ……あ、物騒でござったか? そうでござるなー…居なくなったペットの捜索とかも請け負うのでござるよ!犬いいでござるよね!なんか親近感湧くー! 細々とした依頼は是非、拙者を頼って下され!…成功報酬は頂くかもしれないでござるがね? 拙者、ご学友の皆と比べるとちょーーっと歳が行っているでござるが、仲良くしてくれると嬉しいでござる! ◆プロフィール 狼のルネサンス 身長176cm 赤味がかった茶の短髪 素早く動く事に特化したしなやかな筋肉を持つ 顎と口元にかけて刀傷の跡が残っている 性格は明るく、社交的 表情がころころと変わり、喜怒哀楽もやや大げさに表す ただし人によっては、その感情に違和感を覚えるかもしれない 実は「ござる」口調はキャラ付けの意味で使っている ボロが出ると標準語になる 「シノビも客商売でござるからね~。キャラ付けは、大事。」 ※アドリブ歓迎でござるよ! ※フレンド申請も歓迎でござる!
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《新入生》ウェルカ・ラティエンヌ
 アークライト Lv15 / 王様・貴族 Rank 1
■身長:152cm ■実年齢:14歳 ■髪形:腰までのストレートロング ■容貌:ややたれ目気味の目元の、大人しそうな容貌の美少女 ■体型:身長は小柄ながら、バストやヒップはかなり大きく、非常に発育は良いが、ウェストや手足等は細めの、極端な体型 ■性格:基本的には内向的で大人しく、穏やかな性格だが、金銭面には非常に厳しく、利害が絡むと冷酷になる面も ■コンプレックス:桁違いに豊満な上、未だに発育途上の胸/[誕生日]の時点で、既に120cmに届くとのこと ■体質:体重が増えるときは、その殆どが胸に集まり、痩せるときは他から痩せるタイプ ■服装:背中の開いたドレス/色は特に決まっておらず、気分次第で変えている ■特技:経営・商売に関連する豊富な知識/一通りの礼儀作法/実は家事全般

解説 Explan

●目的
 小黒(シャオヘイ)の店員として、もしくは客として、店主であるシャオヘイやネコマタ達、そしてPC同士での交流を楽しんで下さい。

●小さな酒場『小黒(シャオヘイ)』
 猫カフェ+酒場=猫酒場です。何歳でも入れます。
 猫カフェで出来そうなこと、酒場(バー)で出来そうなことは、すべて実現可能です。
 置かれているアルコールの種類は多種多様であり、ノンアルコールのリキュールやジュースもあるので、アルコール・ノンアルコール問わず、ほとんどのカクテルを作ることが出来ます。ウイスキーやSAKEもありますので、ご安心下さい。
 料理は軽食やネコマタのエサなら作れますが、凝った料理は材料的に難しいかもしれません。
 ネコマタと遊べるアイテムも数多くあります。言えば何かが出てくるでしょう。持ち込みも可能です。
 店員として働く場合は、『ネコマタの世話』や『簡単な料理や飲み物を提供する』といった仕事を任せられます。また『客を楽しませるトークをする』のも良いでしょう。
 小黒(シャオヘイ)は学園と協力関係にあり、店で生徒の心のケアをしたり、仕事を体験させることで、学園から報酬を得ています。シャオヘイは金に興味がないのと、中身はほとんどおばあちゃんなので、その報酬の一部を生徒に『お小遣い』としてよく手渡します。それ以外に、生徒達と小黒(シャオヘイ)の間での金銭のやり取りはありません。

●ネコマタ
 尻尾が2つに分かれた、ちょっと賢い猫――魔物です。
 人語を理解しており、ごく稀に喋ります。
 猫ではなく魔物なので、何でも食べられます。ただ、好きな食べ物は魚です。
 ネコマタ達は店内をウロウロしていますが、シャオヘイに怒られたことがあるので、テーブルには上ってきません。
 ネコマタ達の名前はそれぞれ『エース』『レン』『サン』『スー』『サンク』『リュー』『セブン』『ユイ』という名前があります。呼べば寄ってきます。


作者コメント Comment
 こんにちは、こんばんは、くそざこあざらしです。
 『猫酒場に行きたい』と思い立って書いてみました。
 僕はあまり動物に好かれないのですが、猫カフェでは『おやつ』を持っている時だけ大人気でした。カワウソと触れ合える水族館や、牧場とかに行った時も――これ以上は悲しいのでやめておきます。

 それでは、皆さまのご参加を心待ちにしております。


個人成績表 Report
御影・シュン 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:132 = 44全体 + 88個別
獲得報酬:3600 = 1200全体 + 2400個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
癒される

バイト募集と聞いて参上仕ったでござ候!
拙者狼のルネサンスでござるが、猫も好きでござる

働く前に猫又殿達名前と柄、玩具の好みを覚えておきたいでござる
一時的に同僚になるでござるからな、猫又殿達へ挨拶をしっかりするでござ候

お客人と猫又殿達のふれあいを邪魔せぬ様に、隠密系技能を用いて正しく影の様に給仕や裏方仕事を行うでござる
大きな声は出さぬ様心掛け、ザコちゃん殿とラティエンヌ殿と共に良き空間になる様頑張るでござる
軽食等の用意はあまり得意ではござらぬから、使い終わった食器類の片付け等を行うでござる

触れ合い方が分からず戸惑っているお客人には、遊んでいる猫又殿が好きな玩具を差し出したいでござるな

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
猫っぽい魔物が蠢くお店の助力手助け的な。
あの魔物は退治討伐対象じゃないから食べられないんだよねぇ。
…別に食べるとは言ってないじゃん?味は気になるけど。

ザコちゃんはお話会話相手になるかなーって。
ほら、人はお酒飲むと管をまいたりまかなかったりだし?
【精神分析】で話したがりなのか話して欲しーのかを感じ取って、聞き手か話し手かしてるね。
ザコちゃんは話題に困んないし。魔物猫と戯れるお客様に、こないだの課題で食べた魔物の味感想とか【会話術】交えて話とくぅ?

【聴覚強化Ⅰ】で【ヒ2】の【聞き耳】で、あの魔物達が無理な可愛がりされたりとかはないかも確認しとこ。
退治して食べようと試みなお客様もいるかもだし、ねぇ?

ウェルカ・ラティエンヌ 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
『猫酒場』ですか。
素敵な施設ですわね。
折角ですので、お仕事を手伝わせていただくことに致しますわ。

担当としては、主に[軽食]や[お飲み物]を提供させていただくことになりますわね。
手が空きましたら[ウェイトレス]もさせていただきますわ。

[カクテル]については、あまり存じておりませんわね。
年齢の関係上、まだ[アルコール類]はいただけませんが、折角の機会ですから、プロの方から色々と[作り方]を教わりたいですわ。
[ノンアルコール系]の品でしたら、此処でしっかりと覚えておけば、時折作って慣れることも出来そうですわね。

休憩時間には、[ネコマタ]の皆様と戯れたいですわ。
何と申しますか、とても可愛らしいですわ。

リザルト Result

 3人の生徒達は扉を3回叩いて、3歩で『小黒(シャオヘイ)』の店内へと足を踏み入れた。
 艶やかなカウンターテーブル、空席のテーブルセット、天然木の香り、開店30分前の小黒はとても静かで、ネコマタ達も眠っていたから、本当に図書館のようだった。
 いつもなら燦燦(さんさん)と――とは言い過ぎだが、店内の間接照明も少しだけ暗いように見える。
「あら、いらっしゃい。お手伝いに来てくれた3人かしら?」
 その薄暗い店内で4本の尻尾を揺らしながら、小黒の店主である【シャオヘイ】は、3人の生徒達を見て微笑んだ。

「こういう服を着ると、なんだか気が引き締まるでござるなぁ!」
 と、渡された制服を着て【御影・シュン】(みかげ シュン)は喜ぶ。
 黒いスラックスに白いカッターシャツ、そして、黒いベストと蝶ネクタイ。細マッチョかつやや身長の高いシュンに、そのフォーマルな制服は似合いに似合っていた。
 そしてシュンの横に立つ、【チョウザ・コナミ】も同じく。
「ザコちゃん的にはもーちょっと派手な方が好きだけどねぇ」
 と言いつつも、チョウザは満更でもなさそうな笑みを浮かべる。
 スレンダーなチョウザにもその服装はピッタリで、フォーマルな雰囲気に、マゼンタ色の髪が独特なアクセントを加えていた。
 着こなしが上手すぎるのか、酒場の店員というポジションがモブを彷彿とさせるからなのか、チョウザはどう見ても『臨時で入ったバイト』には見えない。
「2人ともよく似合ってるわよ。あと……もう1人の子はまだ着替え中かしら?」
 と、シャオヘイはバックヤードの扉にちらりと目を向けた。
 その扉の隙間から、【ウェルカ・ラティエンヌ】は少し赤く染まった顔を見せる。
「き、着替え終わってはいるのですが……」
 と、ウェルカが姿を見せようとした時――。
「おぅーっと、わんこ感あるルネサンス様の顔に虫がいたりいなかったり」
「ござっ!? 前が! 前が見えないでござる!」
 ――第六感で何かを感じ取り、チョウザはすかさずシュンの視界をふさいだ。
 ホールに現れたウェルカは、大半の予想通りというか、むしろ期待通りというか、『まぁそうなるよな』という感じだった。
 ワンサイズ以上大き目の制服、袖は余りに余っているが、胸の中央にあるボタンは引き千切れんばかりに引っ張られ、悲鳴を上げている。
「も、申し訳ございません……。1番大きなサイズの制服を選んだのですが、あの、その、こんな感じになってしまって……」
「ひゅー、さっすが母性あふれる天使様。ザコちゃんじゃそうはいかないじゃん?」
「何がでござるか!? ザコちゃん殿! 手を離してほしいでござる!」
「あの……シャオヘイ様。エプロンを持ってきてありますから、もしよろしければそちらの方を……」
「いけないわ、仲間外れなんて。大丈夫よ。ちょっと動かないでね」
 シャオヘイはどこからかソーイングセットを取り出し、ウェルカに近づく。
 ――次の瞬間、ウェルカの制服は切り取られ縫い合わされ、ウェルカの体に合うように改造されていた。
 異常に高い裁縫の技術、それを目の当たりにしたチョウザとウェルカは言葉を失い、シュンは『見えないでござる』と叫び続ける。
「さぁ、お仕事を始めましょう。もちろん、楽しんでね?」
 そして、シャオヘイは人懐っこい猫のように微笑んだ。

「今日はよろしくお願いするでござるよ!」
 と、起き始めたネコマタ達にシュンが頭を下げると、ネコマタ達が『なー』と鳴いて、小黒の入り口にぶら下げられていた看板が『OPEN』に変わった。
 店の場所からして、『隠れ家的』と言っても過言でない小黒は、魔法学園の生徒達以外が訪れるのは難しかった。
 いや――生徒達でも容易ではなかった。
 客足はまばら、それも常連ばかりなのか、それとも店の雰囲気のせいなのか、彼らは落ち着いて酒を楽しみ、ネコマタと触れ合う。
 バイトの3人が心配していたような事態は、どうやら起こりそうにない。
「そちらのお客様は魔物猫よりもお話会話系? もし良かったらザコちゃんがトークもお酒も提供しちゃうけど? あ、もしかして『依頼を受けに来たんだが』みたいな冒険者系ゆーしゃ様?」
 それっぽく布でグラスを磨きながら、チョウザはカウンターの男の客に話しかける。
 やたらと馴染んでいるチョウザの姿を見て、客は首を傾げた。
「あっれ……君は前から働いて……あれ?」
「ザコちゃんはザコちゃん、みたとーりのどこにでもいるモブだから、見たことあるとかないとか気にしなくていーよぉ? ふむふむ、お客様はどーやら話してほしー系のお客様っぽいねぇ」
「えっ、何で分かっ」
「そりゃ話したいか話してほしーかの2つに1つイエスかノーかだしぃ? 当てずっぽーでも当たるじゃん? じゃあザコちゃんがこの前食べた魔物の味感想とか話してあげるねぇ。まぁ先に落ちを言っちゃうと、美味しいふつーのお肉だったんだけど」
「先に言っちゃうのかよ!」
 会話術を駆使しながら、チョウザは常連っぽい男と盛り上がる。
 そんなチョウザの姿を視界の端に捉えて微笑みながら、シャオヘイはウェルカに仕事を教えていた。
 と言っても、事前に店内の配置を把握しており、軽食も作れるウェルカに、もう教えることはほとんどない。残されていたのは、『それ』ぐらいだろう。
「――ウェルカちゃんはカクテルの作り方を知りたい、だったかしら?」
「はい。折角の機会ですから、プロの方から教わりたいのですわ」
「プロ……なんて柄じゃないけど、ふふっ、良いわよ」
 カウンターテーブルの言わば内側、普段は立つことのない、客席を見渡せるステージに立って、ウェルカはシャオヘイの教えを受ける。
「この3つを使うのだけれど、何か分かるかしら?」
 と、シャオヘイがウェルカの目の前に置いたのは、ラベルが貼られていない3本の瓶。
「えっと……1つはオレンジジュースでしょうか。残りの2つ……色はかなり似ていますが……」
 年齢的に酒が飲めないため、ウェルカは瓶のふたを開けて、匂いで中身を判断しようとしていた。
「もう1つも柑橘系……レモンのような気がしますわ。あと1つは甘い……この香りは恐らく……。すべてリキュール……違いますわね。これらは恐らく……」
「気づいたかしら? じゃあ、このカップでぜんぶ同じ量をシェイカーに入れて、最後にちょっとだけシロップを足してみて」
 シャオヘイの指示通りにウェルカは瓶の中身をシェイカーに移し、ふたをして持ち上げて少しはにかんでから、シャオヘイの教えを復唱する。
「氷をとめる部分に左手の親指を……右手の親指で上の……軽く握って……こ、こんな感じでしょうか?」
「ふふっ、さまになってるわよ」
 ウェルカにカクテルの作り方を教える傍ら、シャオヘイはサンドイッチなどの軽食を作り、皿に盛っていた。
 その皿を運ぶのは、テーブルとテーブルの間を縫うように動く影、もといシュン。
「シュン君、これを3番に持っていってくれるかしら?」
「御意にござる」
 足音を立てないように注意し、大声を出さないように気をつけながら、シュンは料理や飲み物をテーブルに運んでいく。
(おっと……あの尻尾が少しだけ短いのは『セブン』殿でござるな。お客人はセブン殿を撫でたいようでござるが、セブン殿はやや気難しい性格、素手で挑むのは困難でござる。確か……好きな玩具は『魚のぬいぐるみ』……ッ!)
 そして給仕をしながら、シュンはネコマタと触れ合おうとしている客をフォローしていた。
 働き始める前に、シュンはシャオヘイから聞いて、ネコマタ達の名前や特徴、さらには玩具の好みを把握していたのだ。
 触らせようとしないネコマタに戸惑っていた客は、シュンがさりげなく近くに置いた小さな魚のぬいぐるみを使って、ネコマタを釣り上げることに成功する。
(任務成功でござる……ッ!)
 その裏方ぶりは完ぺきだったと言えよう。
 シュンは次の皿を運ぶ前に、小さくガッツポーズをしていた。

「この時間帯にお客さんが来ることはほとんどないから、そろそろ休憩にしましょうか」
 開店して2時間ほど経った頃、シャオヘイはそう言って、カウンターテーブルの前に座った3人に8つの皿を差し出した。
 8つの皿にはそれぞれ、ほぼ同量の『豆粒サイズの茶色い何か』が乗っており、出汁のような匂いを放っている。
「わぁーお、美味しそぉ。なんだかカリカリしてそうだよねぇ」
「ふむ、確かにカリカリしてそうでござるなぁ」
「というかこれは……カリカリしてるモノだと思いますわ」
 3人は手分けして皿を持ち、立ち上がって振り返る。
 そのカリカリしているモノが自分達のご飯でないことは、3人ともすぐに理解していた。
『ごはん! ごはんだ!』
 そのカリカリは、ネコマタのご飯である。
 さっきまで『なーお』とか『にゃー』としか鳴かなかったネコマタ達だったが、ご飯に反応して喋り出していた。
「はやく! はやく食べたい!」
「はっはっは、落ち着くでござるよ。ちゃんと全員分あるでござるから、こらこら、ふふふ、落ち着きなさい」
 と、我先にと体にまとわりつくネコマタ達に、シュンは大人な対応を見せる。が、ボロが出ていなくもなかった。
 自分を揉みくちゃにしながらご飯を食べるネコマタ達を、どさくさに紛れて撫でつつ、シュンは『美味しいか』と、標準語でネコマタ達に問いかける。
「私の翼が気になるのですか? ふふ、しょうがないですわね。ちょっとだけなら遊んでも構いませんが、その代わりに――。ああ……素晴らしい毛並みが……もっふもふですわね……」
 ウェルカはすぐに食事を終えたネコマタと翼で戯れ、そしてネコマタをモフっていた。
 ウェルカは胸元に登ってきたネコマタを抱きしめ、手と首筋でそのモフモフ感と温かみを感じながら、翼に飛びつくネコマタを眺める。
「それってさ、ザコちゃんも食べれたりすんの? ……ふぅーん、食べられるんだ。もしかして美味しい感じだったり? ……へぇー、だったら1つ食べてみたいなぁなんて、あ、ダメ? いやいや、さすがに冗談じゃん? でもぶっちゃけくれるなら、あ、ダメ?」
 チョウザは冗談半分でネコマタに交渉をしていたが、断られていた。
 ネコマタの食事はシャオヘイのお手製であり、ネコマタ達いわく、かなり美味いらしい。だからこそ、断られたのだろう。
 チョウザはにへらと笑いながら、じーっとネコマタを見つめつつ、ネコマタの背中を軽く撫でた。

 ネコマタ達の食事が終わった後、3人は軽く食事をして、引き続き休憩をしていた。
 店内にはチョウザの『清廉のオルゴール』の音色が流れ、ネコマタ達はすやすやと寝息を立てている。
 来客の気配は――ない。
「少し早いけど、今日はそろそろ終わりかしら。……せっかくだから、練習の成果を見せてあげたら? ウェルカちゃん」
「よ、よろしいのですか?」
 シャオヘイが頷いたのを見て、ウェルカは立ち上がり、カウンターテーブルを挟んで、シュンとチョウザの前に移動した。
 そして、ウェルカは先ほど習ったカクテルを作り、逆三角形のカクテルグラスに注いで、シュンとチョウザに差し出す。
「オレンジとパイナップルとレモンのジュースの、ノンアルコールカクテル。『シンデレラ』ですわ」
 正確に言えばそのシンデレラにシュガーシロップを足したモノだが、それは隠し味のようなモノで、シンデレラであることには変わりない。
 シュンとチョウザは、グラスに口をつける。
「おぉーう、ふつーに美味しい」
「うむ、さすがでござるな。ラティエンヌ殿」
「よ、良かったですわ……そう言っていただけて」
 と、ウェルカはホッとする。
 レシピからすればミックスジュースと呼べなくもないが、ウェルカが作ったそれは間違いなく、シンデレラという『カクテル』だった。どこがどうと説明は出来ないが、シュンとチョウザは、そう感じていた。
 だからこそちょっと、シュンは『ノン』じゃない方も飲みたくなったのだろう。
「その……良ければでござるが、拙者、他のカクテルも……」
「ふふっ、もちろん良いわよ。……そうね、ザコちゃんも何か作ってみる?」
「いーの? んじゃ、ザコちゃんオリジナルカクテルをお披露目お目見えしちゃおっかなぁ」
「チョウザ様のオリジナルカクテル……それは素敵ですわね!」
 チョウザはノンアルコールのシロップだけを片っ端から味見して、『ほうほう』とか『うんうん』とか呟いてから、適当な酒をシェイカーにぶち込んで振る。
 そして完成したのは――真っ黒なカクテル。
 シュンは膝で眠る真っ黒なネコマタを撫でながら、その真っ黒なカクテルをひと口飲んだ。
「ぐっ……こ、これは……っ! めちゃくちゃ苦いでござる……っ! が……っ! 美味い……いや苦いでござる……っ!」
 ネコマタを起こさぬように、シュンは叫ぶのを堪える。
 不味くはない、むしろ美味いのだが、とにかく苦い。珈琲とも薬とも違う、何とも言えない苦さだが、不味くはない。だが苦い。言い表せない味が、そこにはあった。
 シュンの反応を見て、シャオヘイは思わずシュンのグラスに手を伸ばす。
「これは……凄いわね。店で出しても良いかしら?」
『えっ』

 チョウザのカクテルは『スペシャルモブ』と名付けられ、小黒のメニューに載った。どうやらよほど、シャオヘイはそれを気に入ったようだ。
「ふふ、ありがとう。また来てね。私達はいつでも、待ってるわよ」
 猫のような気まぐれか、それとも新メニューを生み出した報酬か――。
 やや多めのお小遣いを受け取り、3人は小黒を後にした。



課題評価
課題経験:44
課題報酬:1200
黒猫と20本の尻尾
執筆:くそざこあざらし GM


《黒猫と20本の尻尾》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 1) 2019-03-29 02:12:51
ザコちゃんはお魚が好き。猫もお魚が好き。
ってことはザコちゃんは実は猫のルネサンスだったのかも?耳も尻尾も無いけど。
あ、でもこの理屈だと猫がザコちゃんになる可能性もあんのかな。750年後にはそんな影響も出たり?
保証?ないけど。

ザコちゃんはザコちゃん。みたとーりのモブ。

とりまザコちゃんは会話役になるかなーって来た感じ。揉め事でも、揉めない事でもお話語りは興味ふかふかじゃん?
聞き役でもいーし、話役でも別に。話の種にはありがたい事に困んないしね、おかしな課題もいっぱいだし。
あまりにお客さんいないとか、人手有り余り過剰なら、てきとーに飲み物片っ端から飲んでっけど。

《ゆうがく2年生》 御影・シュン (No 2) 2019-03-30 00:06:01
バイトと聞いて参上仕る!黒幕・暗躍科専攻、御影・シュンでござる!
狼なのに猫酒場とはこれ如何に…何てどこかから聞こえた様な気がするでござるが、愛らしい動物を愛でるのに種族なんて関係ないでござるよねっ!

実の所は仕事3割、癒しを求めて7割位の心持なのでござるが、隠密スキル等を駆使して裏方をやろうかと思っているでござる。
やはり猫又殿達が目立つのが一番でござろう。影ながら支え、こそっとモフらせて頂く……。そんな感じで行こうと思っているでござる。

《新入生》 ウェルカ・ラティエンヌ (No 3) 2019-03-31 11:24:36
ギリギリでの参加、失礼致しますわ。
皆様ご機嫌良う。
王様・貴族コース専攻のウェルカ・ラティエンヌと申します。
宜しくお願い致しますわ。

私は、[軽食&飲み物の提供]に入らせていただこうと思いますわ。
年齢上、まだ[お酒類]はいただけませんが、お客様にお出しすることも有りますでしょうし、折角ですから「カクテルの作り方」等を教わりたいですわね。

休憩時間には、ネコマタ様達と遊べれば、と思いますわ。