作品一覧
嘆きの古城に踏み入りし者。
(ショート)
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ユウキ GM
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暗い古城に響く、湿った音。
ぺたり。
ぺたり。
ぺたり。
人など居なくなってどれほどの時が流れたろう?
されど、この古城に響く音が消えた試しはなく。
毎夜足音だけが木霊するのだ。
ぺたり。
ぺたり。
ぺたり。
そこは誰が呼んだか『嘆きの古城』。
昼間にすら高い木々が暗い闇を落とし、足を踏み入れれば帰る者無しと言われる古の城塞。
そこに、足を踏み入れる者がまた一人……。
ばいん。
ばいん。
ばいん。
その豊満な胸部を揺らし、【コルネ・ワルフルド】は教壇に立つ。
「やっほー!」
ばいん。
何か動作をする度に大きく揺れるそれに、男子達の目は釘付けである。
「今日はね~……」
資料を取り出そうと屈めばグッと息を飲む光景が広がる。
……非常に集中力を削ぐ教師である。
これをただただ天然でやっているというのだから、尚質が悪い。
「あった! 今日は皆に古城探検をしてもらうよ!!」
そう言ってコルネは課題の説明を開始する。
「簡単に言うと、トロメイアの近郊の森の中にある薄暗いお城なんだけど……この辺りかな。みんな『嘆きの古城』って知ってる?」
黒板に貼り出された地図を指差すと、説明を続ける。
「実は、ちょっと前にこのお城に行くって言ってた男の人が行方不明になっちゃったらしくてね、恐らくこのお城に向かったんだろうって話にはなったんだけど……」
ふと、声を押さえてコルネは言う。
「実は……出るらしくてね……」
出るとはなんの事だろうか?
「……お化け」
教室は静まり返る。
ただし、恐怖というより何を言っているのだろうという困惑によってだが。
今更ゴーストが出てきた所で驚くような……。
「違う違う……ゴーストとか魔物の類いじゃなくて……お化け……♪」
こちらを怖がらせたいのだろうか……。
そもそもなにが違うのかは分からないし、ゴーストでないなら十中八九リバイバルだろうに。
まぁ、とりあえず面倒なので話の続きを促す。
「もう、つまらないなぁ。なんだか昔からそこに住んでいた貴族の女の子の魂が~……とか。そこで殺された召使いの怨霊が~……とか。そう言う話が後を絶たないんだって」
……まぁ、よく聞く話ではある。
というか、そうだとすればやはりリバイバルではないか。
「ウソかどうかはともかくとしても、何かしらが居る可能性は捨てきれないわけだし、そんな場所にもし迷い込んじゃったんだとしたらほっとけないでしょ? 本当はアタシ達がやるようなことじゃないんだけど、どこも手一杯だし、それに……」
ふと言い淀む。
「え~と……実は、その男の人は旅の人らしくて……依頼をしてきた町の人達も、善意でお金なんか出せないって話らしくてね……」
つまり……。
「だから……学生なら……授業の一環で動かせるんじゃないかと……」
……呆れた話である。
まぁ、行方不明で捜索願いを出してやるだけまだ有情と言った所か。
「でもでも、なんか随分羽振りの良い旅人さんだったらしくて、助ければ……その…………旅人さんが……お金は……出してくれる……カモ……」
どんどん声が小さくなっていく。
「ええい! お金お金と器量が小さいッ!! 勇者を目指す者が人助けぐらい無償でやって見せなくてどうする!!」
少々理不尽な事を叫び、がおーと吠える。
ならばなぜさっき脅かそうとしたのかと問いただしたくなったがぐっとこらえた。
「もちろん課題は課題! という事で、希望者は前に出るように!!」
こうして、古城探索の課題が始まった。
ゴーストが居れば討伐。
リバイバルなら今更恐れることも無い。
そんな軽い思いで生徒たちは立候補していく。
……これからなにが起こるのか、それを生徒達はまだ知るよしもなく……。
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参加人数
4 / 8 名
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公開 2020-05-15
完成 2020-05-28
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