ゲーム紹介

ゆうしゃのがっこ~!とは

特徴
プロローグ
ストーリーノベル

コンテンツ説明

イラスト
ボイス
エピソード

第5回全校集会「歴史証すグロリア」 エピローグ!



●悪夢が見る邪悪

 ――これはこれは、まさかこのような面白い存在に出会えるとは。

 頭の中に声が聞こえる。
 ぼんやりと、靄がかかった景色。
 やけに低い視点。
 そのせいで、音が目の前の黒い影から出ていたことに気づくには、ある程度の時間を要した。

 ――夢を喰らい、己の糧とする。まるでかの夢の世界の住人のようですねぇ?
 もしかすると、夢や現と変わらぬように、世界の隔たりなど、あって無いに等しいのかも知れませんが――。

 黒い景色が人の足であると分かったのは、それがしゃがみながら仮面を押しつけてくる時であった。
 まるで頭の中で荘厳な鐘が暴虐の限りをもって打ち鳴らされるが如く。
 付けられた仮面から漏れ出る漆黒の粒子が、心と体をかき乱す。

 ――どうです、とても良く染みていくでしょう? 貴方達が求める知的生命体のエネルギー。
 この世界ではそれは魔力という名の禁忌の果実……。
 果実にも種類があるように、魔力にもさまざまな形がある。
 時に身を癒やし、時に他を滅ぼし、時に摂理すらをも覆し。
 ……ククククッ。中でも、悪心にまみれた心は実に扱いやすい。
 暴風に晒されながらも、ただ燃えさかる事しかできない、哀れな業火――。

 何を言っているか分からない。
 だが渇く。とにかく渇く。渇望する。
 血でも肉でも恐怖でも。
 形容しがたい何かが欲しくてたまらない。
 どうすればこの渇きは癒されるのであろうか?
 教えてほしい。授けてほしい。早く早く……。
 イイカラハヤクッ!!!

 ――考える必要はないのです。
 この魔法陣を通れば、貴方の大好きな『まりょく』が待っていますよ?
 美味しい美味しい、土の果実が――。

 ――モウ、カンガエナクテモイイ――。

 そう。
 考える必要なんてないんだ。
 この手に研ぎ澄まされている爪を立てる。
 目の前の果実を貪るようにかきむしる。
 ただそれだけで、この渇きは満たされる――。

『ラ~ラ~~ララララ~♪』

 その時だった。
 微かに流れる歌声が。天使の歌声のような金管の奏(かなで)が。
 『俺』の意識を少しだけ取り戻してくれた。
 このままじゃマズい。
 だから。
 俺は俺の意志で狂爪を振るう。

『ツッッッ!!!!!!』


●巨象護りしもの

「ガアアアアアァァァァ???!!!」
「きゃあぁぁぁぁ!?」
「ちょっと、ヒューズさん大丈夫!?」
 【ヒューズ・トゥエルプ】が爪のように突き立てた二対の短剣。
 それは鮮血を伴いながら、彼自身の太腿を深々と貫いていた。
 突然の出来事に、彼の隣で歌を歌っていた【スピカ・コーネル】の悲鳴があがり【三保・カンナ(みほ・かんな)】も驚きに目を見開く。
「っあああーーー??!! だ、大丈夫っす。ええ、ちょっと手が滑っただけなんで……」
「だとしても、ケガしていることには変わりありません。そのままじっとしていて下さいね」
 スピカの歌に合わせて演奏を奏でていた【レーネ・ブリーズ】も、『天使の歌』と呼ばれるラッパの音色に癒やしを込めてヒューズへ届けていく。
「あの黄色目のバクちゃんを倒してからヒューズさん、ずっと膝をついたままから眠ったみたいに動かなくなってしまったから心配していたのよ?」
 【マーニー・ジム】もまた、『リーラブ』の魔法でケガを癒やすべく、ヒューズに駆け寄り手を傷口へ伸ばす。
「眠ったみたいに?」
「そう、かなり長い間ね。バク達の不思議な歌を沢山聴いてしまったからみたい」
「……そうか。あれはバク達の夢。最後に俺が聞いたのはスピカさんの歌とレーネさんの演奏、ってわけか……」
 マーニーの言葉から事情を察し、迷惑をかけてすまないと謝るヒューズ。
 だがスピカもレーネも首を振って応えた。
 入学してからの日数など関係ない。
 出来る人が出来る事をして支え合う。
 これが自然と成せるのが学園生の学園生たる繋がりの強さなのだ。
「そういえば、他のみんなは……?」
「あそこだよ!」
 スピカが指さす先では、ヴィルスパイダーの持つ魔力の糸から解放された巨象の心臓が力強く波打つと、黒柿のような濃い茶色の輝きを放ち始める。
 その様子を一番近くで見つめる【ニムファー・ノワール】は、時の剣『C・au・D』を下ろすと額の汗を拭った。
「ぜぇぜぇぜぇ……。さてと。全部糸を切り終えた訳だけど、一体どうなるのかしら?」
 ニムファーは早い段階からその身に宿した特殊な力を覚醒させてしまっており、力を使い切った今の身体はまるで鉛のように重い。
 こんな時は温泉にでも入って身体とお肌を労ってやりたいところだが、それはこの事態を無事に解決してからだ。
「まぁ、ここまでやって襲われるような事はないと思うが」
 そんな彼女を庇うように、共に糸の切除に当たっていた【クルト・ウィスタニア】も、剣を構えそっと前に出た。
 ニムファーとクルト。そして対峙する巨象の命。
 間を流れる暫しの沈黙。
 ドクンドクンと脈打つ、鼓動だけを除いて。
「気ぃつけよ? あの鼓動。徐々に早なってる」
「はいっ」
 【リズリット・ソーラ】【ビアンデ・ムート】もまた、各々の武器に力を込める。
 そして遂に。早鐘のような鼓動は一際大きく躍動すると、周囲に眩い光を放った。
『っ!?』
 その場にいた全員が目を覆う。
「わー! ゾウさん、やっと出られたね~!」
 そんな中、ふわりと光へ飛んでいく【リーエル・アムフィリム】
 徐々に弱まる光の中からは、彼女が顔に抱きついた1体の子象が姿を現した。
「アララ。どうやらもう終わっちゃったみたいネ」
 そこに一同の頭上から【アルバリ・サダルメリク】の声が聞こえてきた。
 その隣には、彼が呼んできた学園の先輩【サラシナ・マイ】の姿もある。
「あーまぁなんだ。今説明すると面倒くせぇから後にするとして。取りあえず、アース・トロングの出産は無事終了、って所だ。お疲れさん。みんな帰ろうぜ」
「出産……って、この象、メスだったのー!?」
「ダーリンは、ハニーだった……?」
 先程までの沈黙を破るかのように。
 【ビャッカ・リョウラン】【ラヴィ・ガロット】を始めとした、一行の驚きが体内に響き渡った。

◆◆◆

「それにしても、心臓から子供を産むなんて。世の中私達が知らないような不思議はまだまだ眠っているということですね」
 救助に来たマイの助力により、アース・トロングの体内から脱出する事となった学園生一行。
 巨象の鼻先に立ちすっかり日の暮れた景色を見据える【ハイネ・セレネイド】の瞳には、6頭のグリフォンによって運用される巨大な荷車によって、体長3mはゆうに超える子象が空の散歩を楽しんでいる姿が映っていた。
「生物の命の営みは多種多様だ。未知なる事象に驚きはすれど、いちいち慄(おのの)く暇はない。違いを知り、その知見を持って狩るか飼育するか共生するか……適切に対応すれば良いだけの話だ」
 ハイネの語り掛けに応えた【グレイ・ルシウス】の視線は、鎧越しに今なお周囲を警戒している。
「ここに来る前も今も、象の体内は散々警邏(けいら)はしたんだし、外には先輩達。さっき最後の仮面も破壊したし、もうバクも蜘蛛の魔物も残ってないと思うけど」
 そんな様子のグレイに【フィリン・スタンテッド】が声をかける。
「だろうな。だが……」
「安心しきった時が一番危険だ、って言いたいんでしょ? あなたならそういうだろうと思ってたけどね」
 フィリンから見れば、入学当初からの付き合いで、課題だって共にこなした事のある仲だ。
 それ故に、心中全てを見通す事はできなくとも、心の僅かを垣間見るくらいであればできるつもりはあった。
「……分かっていればそれでいい」
「さ、私達が乗るグリフォン便が来ましたよ?」
 そうしてハイネ達も、この巨大な生きた迷路の中を脱出していく。
 巨象の鼻先に残されたのは、血はおさまったものの、足に傷を負い満足に動く事ができないヒューズ。
 そんな彼を、両肩から支えるカンナとビアンデ。
 念の為の護衛として残ったリズリットの4名だけとなった。
「このぶんやと、うちらの順番が来るのはもう少し先になりそうやね」
 そう言うリズリットの視線の先には、6頭のグリフォンによって運用される巨大な荷車によって、子象が運搬されていた。
「そうですね。今ここに来ているグリフォン便は、先程のフィリンさん達ので最後みたいですし、先に行った皆さんの便が戻ってくるのを待つしかなさそうです」
「悪いっすね。俺のために一緒に待ってもらって、肩まで貸して貰っちゃって……重くないっすか?」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます、ヒューズさん」
 ビアンデの柔らかな笑顔が向けられた。
 普段はまるで村娘のように、おとなしく気弱な印象を受けることの多い彼女。
 だがそれ故に、彼女の背中に光る重量級の両手盾『ヴァン・ガード』を駆りパーティーの護り手となる戦闘中の姿は、より強いギャップを感じさせる。
「ねえ。私の気のせいかもしれないんだけど……」
 カンナの声に他の3人の視線が集中した。
「何だか、もの凄く奥に引っ張られてる気がしない?」
「ん? 象やし、呼吸してるだけちゃうかな?」
「それはそうだと思うけど、今までもよりも何だか風の勢いが強いような……」
「確かにそうっすね。まるで深呼吸してる……的な?」
「深呼吸、ですか。だとすれば……」
 自分達が通って来た道。
 巨象の体内を見据える各々。
 その時、足下がぐらつき始める。
「な、なんだ!?」
「鼻が……象が、動いとるん?」
 震える大地に何とか姿勢を保とうとする4人。
 その間にも、象の鼻先は遠くにある山へと向けられた。
「マズい、来るわ!」
 カンナの声も虚しく。
 まるで台風かとも思えるような巨象の鼻息に、4人は遙か遠くへと吹き飛ばされてしまうのであった。


●勇者と魔王を見つめる『面』は

「ちっ。完全に魔力を奪いきることはできませんでしたか」
 学園の敷地を出てからほど近い所にある小高い山の上。
 怒りを湛えた鬼の面を身につけた1人の人物が、手に持った水晶を見つめそう呟く。
 透き通るように透明な水晶の中には、黄土色に輝く豊かな魔力が満ちており、見ているだけで大地の暖かさを感じられそうな美しさが目を引くようだ。
「ですが、これだけあればわざわざあのデカブツから絞り取る必要はない。残りはあの子象で……」
「そこにいらっしゃるのは、どちら様ですの?」
 その時、草むらの向こう側から、少し鼻に掛かったような幼い少女の声が聞こえてくる。
「アァー……そちらこそ、どなた様なんですかねぇ?」
「わたくしですか? わたくしは【アリア・カヴァティーナ】と申しますわ! あちらの学園『フトゥールム・スクエア』に通う学園生なのですけれど、先程現れた不思議な魔物にここまで吹き飛ばされてしまいまして。何とか周辺の状況を把握しようと頂上目指してやってきたのですけれど、こんな所でまさか人にお会いするとは思いませんでしたわ!」
 早口だが聞き取りやすい流暢さで言葉を並べていくアリア。
 だが、誰かに会いたかった彼女とは違い、誰とも会いたくなかったその人にとっては、語り掛ける学園生の言葉は、身につけた面のような怒りが込み上がってくる結果となる。
「もういいですうんざりです耳障りです! ……まったく。どうにもあの学園の人間は間が悪いですねぇ……!」
「ご、ごめんなさいですわ……」
 突如怒りだした相手に、アリアはしゅんとしながら縮こまる。
 恐らく吹き飛ばされた時に傷を負ったのであろう。
 うっすらと血に染まった純白のサマーワンピースや、ボロボロに破けた羽織『夜梅錦』。
 そして力を使い果たし半透明となった翼と天使の輪も相まって、とても痛々しい姿に見えた。
「ハアァァ……。分かりませんねぇ~。どうしてあなた達はそう足掻くのですか? 力無き者に未来を定める術はありません。愚たる存在であるあなた達にはあるべき姿、進むべき定めがあるのです」
 仮面の存在の話を、アリアはワンピースの裾をぎゅっと握りしめながら聞き続ける。
「だが矮小な存在にしか過ぎないにも関わらず、あなた達は勇者だ奇跡だとのたまい己に苦難を課し、下らない日々を惰性に笑って過ごし、望みもなくただその場に惰性と共にあり続ける。わたしは勇者だーと叫び散らして」
 怒りの形相たる仮面の奥から、高笑いが響く。
「実に無意味ですよ。笑ってしまうくらいに。勇者とは何ですか? 世界を救う救世主? 奇跡を起こす伝説の存在? 所詮は好き勝手わめくだけのまがい物。真に摂理を超越し得る魔王が、その力こそが至高なのですよ!!!!」
 両手を広げ、空へと掲げる。
 空気を揺らす音に乗せるは、心酔と確信めいた悪鬼の言の葉。
 だがそれが、小さく肩を震わせ耐え続けた彼女の、堪忍袋の緒を切った。
「そんなことありませんわっ!!!」
 既に自身の中に秘められた力は残されてはいない。
 だが、彼女の心に秘められた憧れは、想いはむしろこれまで以上の炎を燃え上がらせていた。
「救世主としての勇者さまも、絶対救済としての奇跡もない……それはそうかもしれませんわ。でも」
 彼女の潤んだ瞳から、雫が零れ落ちる。
「でも、世界を変えていくのは、きっと皆様一人一人の勇気ですわ! 奇跡なんかじゃない。できる事をやり、したいことをやり、時には誰かの為に自分を傷つけても手を取り合って。そんなそれぞれの行動が世界を少しずつ変えていく。そして最後には、皆が笑顔の素敵な世界になっていくのですわ! それがわたくしが聞かされ続けてきた……いいえ。わたくしが、この学園で学んだ事ですわ!」
 小さな天使の、大きな想い。
 こめられたその言葉の魔力に、鬼の面は不快感をあらわにする。
「……下らない。夢を見るだけの子供の戯言。笑顔を謳いながらこのわたしを不快にさせてくれたご褒美に、その背負わされた十字架の定めよりも早く、消して差し上げるとしましょうか……」
 仮面の者は、手にした水晶に魔力を込める。
 それまで暖かな光を放っていた水晶の魔力に、薄黒い色味が広がっていく。
 今の自分に、それに抗う力はない。アリアはぎゅっと目を閉じる。
「あなた様が何をなさりたいかは分かりません! でも例えわたくしが戻らなくても、きっと他の学園の皆さまが、必ずやあなた様を止めて下さるはずですわ!」
 これが最期の言葉になる。
 そう想い紡ぐ声に続くのは、ドンという大きな音と地響き。
 だが、不思議と身体に痛みは感じない。
 アリアは、おそるおそる目を開ける。
「……み、皆さま!」
 小さな天使の少女の前には、巨大な盾と1人の男性を下敷きに、空から降り立った3人の仲間達の姿があった。
「いったた……ってアリアちゃん!?」
「カンナ、きぃつけて。なんや怪しいやつもおる」
「あ、あのヒューズさん。だ、大丈夫ですか!? すすみません、下敷きにするつもりはなかったんですけど~……」
「だ、大丈夫っす。重くないっすから」
「どいつもこいつも……面倒ですねぇ!!!」
 仮面の存在は、狙いを空から降り立った集団に変えると、水晶から強力な土の魔力を放つ。
「危ないっ!」
 それに最初に反応したのはビアンデだ。
 リズリットとカンナが盾の上から飛び退くのと同時、地面につき刺さったヴァン・ガードを引き抜くと、身体ごと投げ出すようにして勢いよく盾を構える。
「……くうっ?!」
 しかし、敵の魔力は強大だ。
 激しい衝撃に、彼女の身体が投げ出されるが、後ろに控えていたヒューズがそれを受け止める。
「……よくもっ!」
「あわせるわ!」
 だが、その分攻撃の隙が生まれたのだ。
 その機を逃すことなく、リズリットとカンナは双方から斬りつける。
「その程度で何をするんです?」
 しかし、水晶の輝きに反応し足下の砂が盛り上がると、2人の攻撃を阻むようにして壁が生成された。
「次はこれですよ」
 今度は2人の攻撃を受け止めた壁から、まるで針のような鋭い土が盛り上がる。
『危ないっ(ねぇ)!』
 しかし、間一髪でカンナをヒューズが、リズリットをビアンデが飛びつくようにして押しのけ回避することができた。
「ヒューズさん!? そんな無茶をしてはまた血が!」
「気にしなくていいっすよ。女の子を無事に送り届けるのが、紳士の役目ってなもんでね。ま、この前の借り返しだと思ってもらえっと嬉しいっすね」
「ビアンデ、ありがとう」
「いえ。ですが、この人……強いです。もしかしたら、仮面に操られているのかも……」
 ビアンデのその言葉は、以前に同じ出来事に遭遇したからこそ言えるもの。
 4人は次の攻撃に備えて身構える。
 だが、仮面の存在は水晶の輝きを弱めると、ビアンデに向かい強い口調で言葉を放った。
「操られている? このわたしが? バカを言っちゃあいけませんねぇ~?!」
 腹立たしいかのように頭をかきむしる。
 黒いローブの中から、血のように赤い髪が抜け落ちていく。
 同時に仮面の奥から覗く双眸(そうぼう)の黄金色も、そのギラつきを増したように思えた。
「操られてるのではなく、操っているのですよぉ? この仮面を、【ナソーグ・ペルジ】たるこのわたしがねぇ!!!」
「仮面を操る? せやったら、あんたが最近の事件の犯人。……そういうことやね」
 リズリットが握りしめる鎌に力がこもる。
 心なしか、鎌もまたそれに応えるように魔力を高めたような気がした。
「かはははぁ……! その鎌、あの使えない人形の遺物ですか。記憶どころか武器まで奪われるとは情ない……そして右手の魔法陣。どうやらあなたも人形のようだぁ!? お似合いですねぇ? 人形が人形ごっこですかぁ?」
「そうか。あんたが記憶を……奪ったんやね。 ほんなら、あんたが――あいつを人形にしてやらせたんやな?!」
 再びリズリットが飛びかかった。
 だが、また砂の壁の前にその攻撃は遮られる。
「未完成とはいえ、この水晶は霊玉の依代の元になり得るだけの魔力を持っています。君達のような雑魚に止められる代物じゃありませんよぉ?」
 そして再び、土の棘が一行を狙い魔の手を伸ばす。
「ビアンデさんは皆を!」
「はいっ!」
 弾かれたリズリットとヒューズを守るようにビアンデは盾を構える。
「きゃあっ!?」
「はああああっ! 『幻想之刃(オーバー・ブレイド)』!」
 遠くで魔法の脅威にさらされそうになっていたアリアは、カンナが創り出した巨大な光の刃に守られた。
 そして、返す刃でカンナは仮面の者を斬りつける。
「カンナ様!?」
「大丈夫よ、アリアちゃん。私が……貴女を守る!」
 想いと創造の全てを込めた彼女の一撃は、砂の壁ごとそれを押しのけた。
「ん? ……なるほど。どうやら、1匹面白くない妙な虫が混じっているようですねぇ……」
「おあいにく様。私は虫じゃなくて虫を狩る側の人間よ!」
 カンナは、本気を込めて普段自分が一番得意とする構えをとる。
「人と戦うつもりはなかった。でも、この世界の話を聞いていて。この世界の人達を見ていて。皆の素敵な笑顔がすっごく印象的だった。あなたの目的は知らないわ。でも、皆の笑顔を傷つけようとするならば……私はそれを黙って見ているなんて出来ないっ!」
「異界の紛れ者が。――いいご身分ですねぇ?」
「身分? ライセンサーとしての? そんなもの関係ない。私は、私自身が望むから。だから、子供の為のヒーローであり続けるわ!!!」
 カンナの刀が、再び光のオーラを纏っていく。
 その光は先程よりも強く、彼女のこれまでのヒーローとしての威光を感じさせるように純粋な輝きであった。
「はあぁぁぁぁぁ……『マジェスティブレード』っ!!!!」
 輝く剣が砂の壁に突き刺さる。
「ちぃぃぃ!!!」
 カンナが放つ膨大な想像力を前に、ナソーグもまた防衛に専念せざるを得なくなる。
「……いま!」
 それを好機と捉えたリズリットは、背後から三度鎌で斬りつける。
「人形が邪魔などっ!」
「何度も同じことはさせませんよ!」
 リズリットの攻撃に気づいたナソーグは、背後にも壁と棘を出現させようとするが、それを読んでいたビアンデが盾と身体を壁にぶつけるようにして棘の出現を防ぐ。
「リズリットさん!」
「はっ!」
 鎌が、砂の壁に深々と突き刺さる。
 先程までより手応えを感じてはいたが、未だ壁を貫くには足りなかった。
「てめぇの言う世界は知らねぇが、このまま平和が続いてく方が俺は好きなんでね。ほら、持ってけ……よっ!」
 そこにヒューズが投擲した『グロリアスアーム』に備えられた短剣が突き刺さる。
 それが引き金となるように、僅かに瓦解する砂の壁。
 だが、その僅かのおかげで、リズリットの、『彼』の鎌は宿敵の背中に傷を刻んだ。
「つっっ!?」
 ナソーグは、その場を飛び退くようにしてカンナの攻撃をかわす。
 障壁を失い、振り下ろされた光の刃の衝撃は、ビアンデ達をものけぞらせる程の衝撃を与えた。
「はわっ!? 皆さまのところにまで攻撃が!?」
「ごめんなさい! 皆、大丈夫?」
「だ、大丈夫。ビアンデの盾に隠れたから」
「流石カンナさん、異世界の勇者様ですね」
「皆。話し込んでいるところ悪いが、まだあいつ、やる気かもしれねぇ……っすよ」
「傷つけられた傷つけられた傷つけられた――」
 仮面の奥の顔を押さえながら。
 押し殺すかのような声を出して。
 金の瞳が憎しみを湛えて5人をにらみつける。
 一行もまた、追撃を気にして身構えた。
 しかし、ナソーグと一行の間に割り込むように、一つの影が舞い降りる。
「そこまでよ」
「ゆ、ユリ先生!?」
 ヒューズが驚くのも無理はない。
 目の前には、この激戦の中どこからか音も立てずに出現した、黒幕・暗躍コースの教師【ユリ・ネオネ】の姿があったのだから。
 ユリは学園生達を一瞥し、この山に飛ばされたとされる全員の安全を確認すると、目の前の仮面の鬼人に視線を戻す。
「……ナソーグ・ペルジの仮面。どうやら先日からの騒動の原因は貴方にあるようね。ここで引いてくれるなら、私もその玉は貴方にくれてあげる」
 でも。
 そういってユリは腰から短剣とクナイを取り出した。
「引かないというなら、私は貴方をここで終わらせる。何としてでも……ね」
 ユリの言葉に状況を察した仮面の者は、指を鳴らす。
 すると、空から紫の魔力をまとった光が、まるでエリアル族のフェアリーと似た姿に収束する。
 ビアンデは警戒し盾を構え直す。
「あれは、一体……」
「魔力の色からいって、闇を司る精霊ね。詳しい事は分からないけれど」
「学園教師に異界の存在。この身体でやり合うには不利ですからねぇ。今はこの収穫だけで満足させて頂くとしましょう。さようなら、皆様?」
 そういうと、ナソーグなる者は霊玉を精霊に預ける。
 頷いた精霊は、再び姿を光に変えると玉と共に飛び去っていく。
 それを確認したナソーグは、不敵に笑うとドンドンと姿が消えていき、やがて姿が完全に消えた所で、身につけていた仮面が真っ二つに割れた。
「……消えた?」
 首をかしげるリズリットに、ユリが応えた。
「転移魔法の一種よ。触媒を通して、自分の肉体に宿る魔力の一部だけを転移させる……まるでリバイバルみたいにね。禁術の1つに数えられるものだわ」
 姿を消して暫く。危機が去ったのは、どうやら間違いないようだ。
 安全を確認したユリが口笛を吹くと、森の中から巨大なトカゲのような生物が3匹現れる。
「コイツは、『カウンタッグ』か!」
「あら。ヒューズさん、詳しいのね?」
「昔乗った事がありましてね」
「なら丁度良いわ。足がなくても指示さえ出せればこの子達は大丈夫だから。ヒューズさんはカンナさんとアリアさんをお願い。残りの皆は私と一緒にこの子に乗って」
「その黒い鎧を纏った一匹には誰も乗らないのでしょうか?」
 アリアの疑問に、ユリはウィンクを返す。
「この子は特別。私達の護衛よ? だって。乗るとしても、私しか乗せてくれないのだもの」

 こうして、一行は山を下りる事となる。
 もしもこのまま戦い続けていたら。
 カンナの問いかけに、ユリは静かに答えを述べた。
 本物に及ばずとも、霊玉にほど近い力を持つあの水晶と本気でやり合えば。
 ユリ自身が死ぬ気で戦う必要が出ていたと。
 そして恐らく、学園生達が生き延びる事はできなかったであろうと。

 その言葉に、アリアはじっと押し黙る。
 だが、同時にそれが潤滑油となって、考えは更に巡っていた。
 勇者とは何か。
 魔王とは何か。
 自分の思い描くものと、ナソーグが思い描くものには、きっと大きな差があった。
 それは見る者の目によって、定義が如何様にも変わるという事実。
 もし、今後勇者と魔王に関する事柄を深めていくのであれば。
 様々な面を見ていかなければならないのであろうと。


●ゆう×ドラ祝勝カーニバル

「えー、僭越ながら僕が司会を担当させて頂きますね。それでは、皆さん、今回はナイトメアの討伐お疲れ様です! カンパーイ!」
 【タスク・ジム】のかけ声に、集まっていた面々が高くグラスを掲げる。
 ここはフトゥールム・スクエア第一校舎内、『ファンタ・ブルーム大講堂』。
 とっくに日は落ち、点々と散っていた学園生達も従来の生活を取り戻しつつあった。
 集まりし学園生達は、誰もがみな異界から現れし『ナイトメア』と戦い、見事その悪夢に打ち勝った勇者の卵達だ。
 強敵との戦いを乗り越え、誰もが皆すがすがしい表情を浮かべている。
 ステージ上では、タスクが今回の祝勝会の司会として、学園周辺の被害状況に関する報告や、今回の事件で分かった経緯を述べるなど、事務的な報告を行っていた。
「みんなー、ごはんよー」
 その横では、カンカンと巨大なフォークとナイフを打ち付けながら【アルフィオーネ・ブランエトワル】が大きな声で子供達を集めていた。
 フォークの先には、特大サイズのおまんじゅうが差し込まれている。
 そう。今回は各地でナイトメア騒動の被害に巻き込まれた人々もまた招待されていた。
 突然の襲撃に、全くの被害がなかった訳ではない。
 そうした苦悶の空気を晴らすためにと、学園生達たっての希望でこのような催しが開かれる事となったのだ。
「やっぱり、皆の笑顔はいいものね」
 同じ部活動で活動するタスクの頑張りを聞きながら、【エリカ・エルオンタリエ】は講堂の中を一瞥する。
「グラニテ。このお菓子で泡立て器を使う時は、手首のスナップを意識するんだ。空気を上手く馴染ませてホイップさせることに集中するんだ」
「はい、頑張ってみますね!」
「レダ様。グラニテ様。37番テーブルで追加のお菓子のオーダーですわ」
 一角では、【レダ・ハイエルラーク】【グラニテ・フロランタン】がお菓子屋台を運営し、【朱璃・拝(しゅり・おがみ)】が給仕を担当している。
 朱璃が運んでいる最中、お盆からマカロンが1つ消えた気がするが、これはきっと気のせいだろう。
「ふむ。どうにも戦いというのは肩を張ってしまうが、こうした平和は実に良い。各々の奏でる音色も美しく、笑顔には華がある」
 エリカの言葉に【蓮花寺・六道丸(れんげじ・りくどうまる)】もまた頷いた。
 彼が見据える先では【ルーノ・ペコデルボ】【ルージュ・アズナブール】が、メイン系の料理を担当していた。
「パスタはゆで時間に入りました。ルージュさん、ミネストローネの方がなくなりそうですので、トマトを追加で貰ってきて下さい。ああ、それから、味噌も少し不足しているので、お願い致します」
「はいはーい。あ、ペコデルボさま。わたくしの方、ボルシチの注文がありましたから、ディルの方を添えてお渡しして下さります?」
「ええ、喜んで」
 手際良く料理していく2人の品々を、【タックス・ジム】【レギル・イクシード】が一生懸命にテーブルへと運んでいく。
「えっと、12番テーブルに焼きおにぎり。45番はホットドック。72番はサーモンとアサリのチャウダーで……」
「おや? どうかされましたかなレギル殿?」
「ああいや。ちょっとメモを確認していて……」
「ははは。いやー、こうした暗記は自分なりの覚え方を見つけるとやりやすいですぞ!」
 そういうと、タックスはゾーゼイ、テキゼイ、ユタカナセイ、ジー。
 と鼻歌交じりにどんどん食材を運んでいく。
「俺も負けてられねぇか」
 まだ傷が塞がったばかりであるが、出来ることをやりたいという彼の決意は揺るがない。
 レギルは気合いを入れ直すと、再び講堂の中を歩き出す。
「少し人が混み合ってきたわね。だすく、悪いけど、あそこの空きテーブル、こっちの方へ持ってきてもらって良いかしら?」
「持ってくる? なぜ?」
 【だすく・じむ】の問いにマーニー・ジムは笑顔を浮かべた。
「その方が動線が綺麗になるのと、あなた今サンタの格好をしているでしょう? 近くにいる子供達がきっと喜ぶわ」
「そうか! まま、すごいな! 分かった!」
 意図を理解しただすくは、マーニーと同じくらいの笑顔を浮かべ、のしのし会場を歩いて行った。
「華。すてきなひびきですね。きっと、みなさんの暖かな気持ちが、それを生み出しているんでしょうね」
「なんだか、レーネさんが言うとちょっとした酔っ払いの言い合いも素晴しいデュエットみたいに感じられてしまいそうですね。ほら、例えばあれなんかは、きっと素敵な音が聞こえてきますよ」
 六道丸同様、レーネ・ブリーズや【ベイキ・ミューズフェス】もこの空気を楽しんでいた。
「姉さん!」
「ん? ああ。アレイシア。お疲れ、様」
 ベイキが示す先には、【エトルカ・ドゥラメトリー】【アレイシア・ドゥラメトリー】の姉妹が合流を祝していた。
「大丈夫? どこか痛いところは……ってこれ、ケガしてる!? もう、あたしがいないとすぐに無茶するんだから!」
「大丈夫。これくらい、何ともないアレイシアも、無事で何より。象の中、凄い?」
「へっ? ああ、そうそう! あたしも本で読んだ事無い経験で、すごく面白かったの!」
 彼女達が互いに別々な経験を語り合うなんて。
 この日、いつも一緒の仲良し姉妹はある種貴重な経験をしたのであった。

◆◆◆

 こうして、学園生達は客人を楽しませつつ、自分達を労いつつ、美味しい料理を前に勝利の美酒を味わっていた。
 互いの経験を嬉しそうに語り合う。

 巨大ナイトメアロックとの死闘。
 魔導人形で空を駆ける快感。
 巨象の体内という今後体験しないであろう不可思議空間。

 勿論、その語り合いの輪の中には、異世界より来訪された客人もいた。
 すっかり学園生達とも馴染み、笑顔が絶えない会話が続いていく。
 そうして盛り上がりがまだまだ続く中で、ユリによって異世界の一行は会場を後にする形となった。


●奇跡の先に待つ日常

「おっすおっす☆ フィッシャーたん、学園長代理、お疲れ様だったのだ!」
「これはこれは。戻られたか、メメル殿」
 ユリにつれてこられた先は学園の外。
 一番最初に開いた巨大なゲートがある場所では、【メメ・メメル】を始めとする、異空間の彼方へ消え去った面々が顔を揃えていた。
「勿論なのだ! いや~、非常に楽しかったぞ! フィッシャーたん達の教え子は優秀だなぁ!」
「ふっ。残念ながら私は教師ではない。私の教えを受けたと言えるものばかりではないさ。最も、あちらの世界で私を知らない人間はいなかっただろうが」
 純金のフィッシャー像を制服の袖で磨きながら、彼はまた白い歯を見せた。
「今、フィッシャーさんの教え子達と言われていましたが……」
「ん? おう、チミ達の世界に遊びにいってきたゾ☆」
 あっけらかんと異世界渡りを公言するメメルに、問いかけた【リリ・リヴァイヴァル】も困惑を隠せない。
 だが、彼女の胸に抱かれる【ハナビ】はわーすごいですーといつもと変わらぬノリで笑顔を浮かべていた。(元々常に笑顔のような表情にも見て取れるが)
「あ、見て! ゲートの大きさが!」
 【中山・寧々美(なかやま・ねねみ)】が指さす先では、最後に残ったゲートが、目に見える早さで縮小を始めているのが見て取れた。
「おおぅ。もう時間か。もっと寧々美たんやカンナたんの太腿を堪能したかったというのに」
「なんでそんなエロ親父思考なんですかっ!」
 カンナがスカートの裾を抑えながら、顔を赤らめる。
「ふぅむ。まぁ、あっちの厨ニロリっ子が精神崩壊する前に、フィッシャーたんを帰してやらんといかんとな」
「確かに。少々長らく待たせすぎてしまっているからな。だがメメル殿。恐らく、あのゲートを利用しての異世界跳躍を想定されているのであろうが……我々の技術ではまだ異世界転移の技術は確立していない。どうすれば良いだろうか」
「そのくらいお任せなのだっ! オレ様、あっちの世界で面白い『友達』が出来たからな! だからきっと大丈夫ぶい☆ それに……!」
 メメルの合図で、近くに着陸していた移動式空母『FS-10ドルフィン』に光が灯る。
「えっ!? ドルフィンの中って、今は無人のはず!?」
「……いえ。魔力を感知。あれは……魔導人形、『FF-01SP:U×Drive(ユードライヴ)』の反応ですね。中に数名乗っているようです」
 驚く寧々美の言葉に、内部を分析したリリが答える。
「あそこには、オレ様が選りすぐった面々がチミ達を送り届けるために稼働準備を整えてくれておるぞ!」
 メメルが杖を振ると、空中にモニターのような画面が生成される。
 そこには4人の学園生達と1人の職員の姿があった。
「寧々美様。ドルフィンでのあーむ? 操作、とても刺激的でしたわ。ありがとうございます」
 【ウェルカ・ラティエンヌ】が、大きくお辞儀をする。
「ありがとー! 私も楽しかったよ! 今度その綺麗な髪、どうやって手入れしてるか教えてね!」
 次は自分の番だと、【ナノハ・T・アルエクス】も大きく手を振る。
「リリ! あにめ? って凄く面白かった! また一緒にみたい! ハナビも、また一緒にユードライヴとアサルトコアで空を飛びたいな!」
「……そうですね。私は別に構いませんが。ナノハ、食べ過ぎには注意ですよ。脳みそまでカロリーに支配されてしまっては、人として終わりですからね」
「はいなのですー。また沢山、この世界のお話を聞かせてもらって、ハナビを優秀なAIに導いてほしいのですー」
 リリはモニターから僅かに目を背ける。
 その横で、カンナはヒューズの姿を見ていた。
「この暫く。ご一緒した期間は色々迷惑かけてばっかだったっすけど……色々刺激的でした。ありがとうございました」
「ふふっ。そんなことないです。最後に守ってくれたところとかは、私の好きなヒーローみたいで、素敵でしたよ」
 今度はカンナの言葉に、ヒューズが照れくさそうに頬をかく。
 その横で、【七枷・陣(ななかせ・じん)】がメメルに向かって呼びかける。
 彼は特に誰かとの思い出があるわけではないが、異世界転移への興味と、乗り込んでいる【ラビーリャ・シェムエリヤ】を気遣っての事だ。
「おい、そろそろ時間切れになるぞ。このままここに幽閉する気か?」
「おーそうかそうか。なら、名残惜しいがここまでだな!」
 メメルがえーいと杖を振るうと、その場にいた面々はドルフィンの内部へ、ユードライヴに乗り込んでいた面々はメメル達がいた場所へ転移させられる。
「さて、慌ただしくはなったが、『オレ様の友達』が用意してくれたビッグなクリスマスプレゼント、楽しんでくれたかね?」
 これがクリスマスプレゼントとは一体どんな友達なのか?
 溢れる疑問は残るものの、事前に付き合いのあったフィッシャーは彼女のこうした性格を知っているので、手で他の面々の驚きを制した。
「世話になった。メメル殿。もしまたの機会があれば……」
「うむ! いつでも歓迎するぞい! チミ達や、特に学園制服を楽しんでくれたボーイ達や、学園生活を堪能してくれたガール達は今すぐにでも入学できるくらいだからな!」
「その言葉、感謝する」
「いやいや☆ 忘れても思い出は思い出なのだ! きっと、残された何かがまた何か面白い事を運んでくれるかもな!」
 そうこう話している内に、上昇したドルフィンはゲートと同じ高さへと到達する。
「さ、お別れの時間だ。『友達』に宜しくなっ!」
 再び杖を振るうと、メメルはドルフィンのすぐ後ろへと転移する。
 そして魔力をドルフィンへ向けて込めると、ドルフィンは光輝き、イマジナリーメメタンドライブだけでなく、イマジナリードライブが起動する。
「さらばだ。世界を照らす、次世代の勇敢な勇者達よ。ドルフィン、発進!」
 フィッシャーの言葉を合図に、ドルフィンと魔力で稼働するユードライヴが飛び立っていき、ゲートの内部へと突入していった。
「達者でなのだ! 悪夢から人々を救う、グロリアスでロボロボなチミ達よ!」
 帽子のないメメルは、杖を代わりにフリフリする。
「チミ達のおかげで、この世界の危機が救われた。感謝してるぞ」
 そうして、メメルの見つめる先でゲートは閉じていくのであった。

◆◆◆

「まったく。あの自由で無法な暴走学園長、結局全部私に押しつけるんじゃないですか。『異世界からの旅人』を承認してしまった以上、あの子のためにも……この異世界転移。認めてあげるしかないですね!」
 ゲート内部の謎の空間を、勇者と魔王の世界に溢れる魔力と想像力で突き進んでいくドルフィン。
 それを見下ろしながら、金髪のツインテールをたなびかせる謎の美少女が存在した。
「きっとあの子はあなたの友達であるから、という理由であればこれを望まないでしょうが。あなたに貰った帽子の分くらいなら、働く気にもなるでしょう」
 彼女はため息を一つ残すと、【公認申請ちゃん】と名乗る不思議な存在は、『メメルの友人』が残した魔法の帽子を被ると、大きく息を吸った。
「レッツ、公認!」
 彼女のかけ声に、ドルフィンの前方に新たなゲートが出現する。

「ん? ゲートの出現を確認。どうやら、出口みたいですね。分析を続行します」
「宜しくリリ! でもどうしよう、また別な世界に辿り着いちゃったりしたら?」
「そうしたら、ハナビはゆうしゃのお話を聞かせてやるのですー」
「それも楽しそうだけど、私達の世界の皆の事も気になるしね」

 4人の和気藹々とする姿に、フィッシャーは小さく頷いた。

(この出会いがもたらすものは何か。それは各々の中で答えを見つけてこそ価値があるというものか。今年二度目のクリスマスを堪能するには、忙しなさがあることは避けられないが、バリューに対する費用対効果を差し置いたとしても、実に有意義な時間であった。彼女達があの世界で培った友情を残せないのは些かもの悲しくはあるが。いずれそれが、再びの縁を作るか、新しい縁を作るのか……。もしそのモーメントにマッチングするならば。そんな未来を一考するのも悪くはないか)

 リリの分析の結果、自分達の世界へと繋がっている事を確認したドルフィンは、そのまま光の中へ舵を取る。
 そうして、ゆうしゃのがっこ~へと迷い込んだ面々は、暖かな光に包まれていく。
 この光の先には、きっと何事もなかったような日常が待っている。
 戦いも、平和も、アサルトコアも。
 全てが慣れ親しんだあの日常が。
 何の理屈もありはしないが、搭乗していた全員がそうした予感めいたものを感じていた。

 光の中。乗り込む面々の意識が徐々に薄れ。
 やがて全員が眠りについた頃。
 メメルの『友達を元の世界に戻してほしい』という想像を叶えた魔法石が、ドルフィンから消えていく。
 それは格納庫から魔力を送り続けていたユードライヴもまた同じ。
 Unknown world Drive。
 未知なる世界から既知なる世界へ。
 役目を終えた夢の機体は、交差する世界の狭間に光となって溶けていくのであった。

◆◆◆

 ゲートが閉じると同時、約束を果たした帽子は、光の粒子となって消えていく。
「さてはて。色々あったこの奇跡も、今回は終わりのようですね。皆様、楽しむ事はできましたか?」
 どこか分からぬ虚空を見つめ、公認申請ちゃんは語りかける。
「奇跡を忘れてしまう場所もあれば、奇跡を覚えている場所もあるようですね。とはいえ、物的証拠は残りますから、この奇跡はグット、承認です!」

 勇者と魔王の物語、そして創造を想像する資格者達の物語の邂逅は、これにて閉幕になります。
 全ての存在は、例外なく、誰かの願いによってそこにいる。
 だからきっと。
 願い続ける限り世界は続くのです。
 あとは、その世界に貴方が活きた証を刻むだけ。
 時に消えてしまうように見えることがあっても。それは忘れてしまうだけ。
 思い出したその時に、世界は、歴史は再び動き出す。

 さぁ、新たな世界へ冒険に出掛けよう。
 さぁ、あの頃の冒険を思い出してみよう。

「ではまた、それぞれの世界で、それぞれの願いの先をご堪能くださいませ。願わくば、全ての世界で全ての人々が素敵な毎日を過ごしていけることを……」

 最大の感謝を込めて。

「皆様のより良い明日を願って、レッツ承認!」


 (執筆 : pnkjynp SD)


 >>>全校集会「歴史証すグロリア」はこちら!
 >>>【イラストキャンペーン】『キャンバスに刻むメモリアル グロドラ!』はこちら!