フランシーヌ・シシルシルと申します。 どうぞ、お見知りおきをお願い致します。 さて、自己紹介、で、ございますか。 わたくしが、わたくしを、紹介する……なるほど、励ませて頂きます。 フランシーヌ、というのは産みの親から頂いた有難い名前、シシルシルは偶さか拾った得難い名前。 年齢は、わたくしにもよく分かりません。見ての通り性別は女でございます。 座右の銘は「同じ日は二度とは来ない」 趣味は絵日記をつけること。 特技は暗殺と節約。 夢は、自分よりも大事だと心から思える誰かのためにこの命を捨てること。 好きなものは紅茶と紅茶に合うお菓子。 嫌いなものはございません。 経歴は……右手を御覧くださいませ。 果たして、上手くできておりますでしょうか?
フランシーヌ・シシルシルでした。
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人が栄える、明るい時代になるほど、影と闇もまた深くなるのもの。 諜報、流言、拷問、脅迫、誘拐、暗殺――あらゆる汚れ仕事を一手に引き受ける『組織』が生まれるのは、ある種の自然の流れであった。 『組織』に所属する研究者がある時その邪悪な脳髄に雷光を走らせて「最高のカルマを造ろう」と思い立ち、実行した。 組織には、カルマを実験台として少ないながら融通するくらいの能力はあったし、それが通るだけの実績が研究者にはあった。 雷だ。雷が鍵だ。 「フランシーヌ」と呼称された傑作が果たして改造された被害者なのか、よもや研究者が一から産み出したのか、彼が資料と共に実験中に焼け死んだために組織は把握していなかったし、使えるのならばなんでも良かった。 その「作品」は優秀だった。能力的にカルマを逸脱している……訳ではなく、種族内で天才と呼べる程度の能力を、一切のブレなく振るう不動の精神性が。 雲のような曖昧さや、雷のような不安定さとフランシーヌは無縁だった。 鍛えろと命じれば死なない範囲で最大効率で自身を鍛え、盗めと命じればあらゆる手段を用いて目的達し、殺せと命じれば一切の油断も緩みもなく、虫けらから魔物、赤子から聖人君子まで殺してみせた。 そして、組織は滅んだ。組織がフランシーヌを重用し、あらゆる情報を彼女に掴まれるほどに信頼するまでにかけた時間は、そのままフランシーヌが意識を持ってから組織を滅ぼすまでにかけた時間だった。
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