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美容を捕まえろ!


ストーリー Story

「――っ!? パターン青!! ヤツです!!」
 水面に触れ、察知の魔法を展開していた女性のローレライが声をあげる。
 緊張で張り詰めたその場に、より一層の緊張が広がり――。
「やるっきゃねぇぞ!! 俺らの未来はここを超えた先にある!! 全従業員は一層気張りやがれぇっ!!」
 髭を蓄えた屈強な男の叫びに呼応するように、投網や釣り竿を持った従業員達は腕を上げて進む。
 目指すは、川の中に居るはずの――――ヌシである。

 *

「私達の未来が掛かってるんです!!」
 依頼を受けた生徒達に力説するのは、白く濁った水を漂わせているローレライの女性。
 【キヌガワ・ユフイン】と自己紹介した彼女は、依頼の内容よりも先に、先のことを口にしたのだ。
 依頼の内容が分からなければ、と困惑する生徒達へ、ハッと気が付いた様子で手を振り回すキヌガワ。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私みんなからせっかちだって言われててそれで……。えっと、依頼の内容ですね?」
 それ以外に何があるのかと思うが、それを口にするとさらに説明が遅くなりそうだと悟り、ツッコむのを控える生徒達。
「実は、私達は温泉旅館を営んでおりまして……。中でも目玉は『ガルファラ』と呼ばれる小魚型の原生生物によるドクターフィッシュ風呂なんですけど……」
 ドクターフィッシュ。人の古くなった角質を食べ、その食べるときの刺激でマッサージ効果などがあるとされている魚の事で。
 しかしそれが原生生物であるとは初耳な生徒達は警戒を強める。
 と、それに気付いた様子でキヌガワは慌てて手を振り――、
「違うんです違うんです。ドクターフィッシュとして使用するのは稚魚の時だけで、成長したら食用に様々な所に出荷しているんです」
 と説明。
 温泉で育ったドクターフィッシュは身の締まりがよく、味も他と比べてよくなるのだとか。
 稚魚と聞き思わず肩の力を抜くが、ならば何故依頼をしてきたのか。
 その疑問を誰かが口にすると、キヌガワはモジモジしながら小さく呟いた。
「大きくなり過ぎちゃったんです」
 と。
 そこからの説明は生徒達に取って全て初耳となるもので。
 依頼として持ち込んでくる内容として、納得出来るものだった。
 何でも、ドクターフィッシュの稚魚は毎年、旅館の従業員達で卵を持ったガルファラを捕獲することで用意しているらしく、今年も例年通り捕獲しに行ったところ――。
 見たこともない大きさのガルファラだったらしく手も足も出なかった、と。
 そこで、そのガルファラを捕獲し、ドクターフィッシュを、卵を確保して欲しい、という内容だった。
「ドクターフィッシュ風呂や、出荷出来ないとなれば私達の旅館は風前の灯火です。どうか――どうかお力添えを……」
 キヌガワに頼み込まれた生徒達は、それぞれどうやってガルファラを捕獲しようかと相談を始めた。
 心なしか表情が期待に満ちあふれているのは、
「依頼達成の折は、精一杯もてなさせていただきます!」
 というキヌガワの言葉のお陰だろうか。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2019-08-12

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2019-08-22

登場人物 3/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け
《ギャンブラー》エズミ・デュラック
 エリアル Lv11 / 教祖・聖職 Rank 1
エズミは良い導きを求めている。 主、風、心、あなた。誰のものでも。

解説 Explan

 ガルファラと呼ばれる原生生物を捕獲するのが目的です。
 通常のガルファラは鯉程度の大きさのようですが、何故だか今回のガルファラはイルカサイズまで大きくなっているようです。
 その為か通常の釣り竿や投網ではどうやら捕獲できない様子。
 そこで、皆さんの知識や力を合わせてこの巨大ガルファラを捕獲して下さい。

 ヌシガルファラについて
 通常のガルファラは川の中を気ままに泳いでいますが、今回捕獲対象のヌシガルファラは水面付近で停滞しています。
 巨体過ぎるが故に、満足に動けないようで、主な動きは上下の動きのみとなります。
 空腹な様で餌への反応は早いですが、巨体からなる力によって竿は一瞬で持って行かれてしまいます。
 ヌシガルファラの周りには、通常のガルファラが五~六匹程度群れています。
 攻撃を自ら行っては来ませんが、警戒させすぎると水底へ潜ってしまい捕獲が不可能となってしまいますので注意してください。
 
 お目当てはガルファラではなく卵なので、強い刺激や熱などを加えると卵が死滅してしまいます。
 なるべく優しく捕獲して、旅館のおもてなしを堪能して下さい。

 また、旅館や学園から捕獲に役立ちそうなものは借りることが出来ます。
 旅館では主に、投網や釣り竿などの捕獲に役立つもの。
 学園からは特別に、箒が借りる事が出来ます。


作者コメント Comment
 皆さんはドクターフィッシュを試したことはございますか?
 自分は一度だけ水族館で試したことがあるんですが、なんとも言えない微妙な刺激にこそばゆくなり、すぐに手を上げてしまいました。
 古い角質が多いせいか、水槽の八割くらいのドクターフィッシュを集めた馬でした。

 と言うわけで温泉にまつわるエピソードを考えていたらドクターフィッシュの事を思い出しまして、なら混ぜちゃえ! と誕生したこのエピソード。
 釣り好きなキャラや美容に気を付けているキャラ、温泉好きなキャラを釣り上げようと思った次第。
 皆様参加の方、よろしくお願いします。
 
 ※旅館は混浴ではありません。描写は男性陣と女性陣で分けてさせていただくと思います。


個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
お魚見に来ただけ。
角質むしゃるお魚、数匹泳いでるとこに手入れたことはあっけど。こんなにどでか膨大だと腕一本むしゃられかねないじゃん?ふふ。

とりまお魚、刺激与えたらだめーって制約縛りだし。無理に仕留め拘束しにくめじゃん?
毎年職員様、卵回収大変だね。専門じゃなし、来れる職員様は一緒に来てもらっとこ。

で、お魚をザコちゃん達が捕まえるってよか、あっちから捕まる状況下を作れっといーかなって。
お魚に気づかれない程度に多少離れた川の浅いとこ、あるんなら分流とか支流のどっかの浅さ調整して、少しずつ浅くなるような流れにしとく。
そこにお魚を餌ぶん投げ【投擲(小物)】で投げるなり、釣竿に餌つけるとかで誘導する感じ。

プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
ガルファラの腹の中に卵を抱えている状態なんだね。
うーん、魔力で解決できない物事って面倒。
でもこれも自分への投資だし、フィッシュエステに興味がある。
角質除去大事。
あの、全身コースあります?

■餌で浅瀬の罠までおびき寄せ、退路を断ち網で捕獲する。

川の浅瀬に大きく深めの穴を掘り、穴に沿うようにして網を張る。
そして、浅瀬に掘った穴から、川の深いところに続くようにガルファラ(大)が通れる程度の水路を掘る。

【豪華な釣り竿】に餌を付け、水路の中に誘う。
リールを巻けば、水路から罠の中までたどる様に釣り糸を配置(垂らす)。

罠の中に入った時点で、板と土で退路を塞ぐ。
そして、網を引っ張り上げ捕獲する。


アドリブ度:A

エズミ・デュラック 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:195 = 65全体 + 130個別
獲得報酬:6000 = 2000全体 + 4000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
魚より卵が目当てなら、産んだ卵の回収の方が大魚の捕獲よりは簡単そう。
ヌシは大きすぎてあまり動かない。ならば今いる周辺で産卵するはず。産卵場となりそうな彼女の周囲の水草を鋸鎌で刈り、産卵場を限定する。
産む場所が限られていれば、後で回収しやすいはず。あの魚は繁殖期が長く、小魚の世話をしない。卵を既に持ってるなら当面の産卵も遠くないはず。
草刈りの為に潜るのでゴーグルとシュノーケルを借りたい。シュノーケルが届く浅さで刈るべき草を見定め、潜って刈って上がる。これを繰り返す。上がる度に祈祷して体力を保つ。
卵を採る機会があれば水ごと水筒に入れ、箒で旅館に急行する。旅館には水温25度の水槽を用意してほしい。

リザルト Result

「学園から依頼を受けてくれた生徒が来たぞ。……イカミ、どうする?」
「問題無い」
 川岸にて胡座で座り、自身の膝に肘をつき、顔の前で手を組んで。
 何やら怪しい会話をする二人組。
 日差しから目を守るためか着用されたサングラスがいい味を出していた。
 ……惜しむらくは彼らがいるのが屋外という点だろう。
 そんな二人と対峙するように、学園から出向いてきた【エズミ・デュラック】、【プラム・アーヴィング】、【チョウザ・コナミ】は半ば呆れながらその寸劇を眺めていた。
「気を取り直して作戦会議だが――」
 凍った空気を砕く為、仕切り直しの言葉を吐いたイカミと呼ばれたローレライ、【イカミ・タコミ】は、懐から色の付いた石を取り出して足下へと投げる。
「これを目標のヌシガルファラと仮定する。今は川の中央に陣取って動いていない。思うに産卵まで体力を温存しておきたいか、あるいは今居る場所を産卵場所と定めているのだろう」
「それだと捕まえるどころじゃないと思うけど……」
 動かない。そのヌシガルファラの行動一つで捕まえるという難易度は一気に跳ね上がったように思えたエズミが、つい口を開いた。
「いや、あいつは動いていないため現在食事をまともにしていない。もっともガルファラの主な餌は川底の石などに付いた藻類や昆虫の幼虫なんかだから、あれだけ大きくなってしまえばまともに潜れないからセルフ断食をしているに等しいがな」
「つまりは、餌を目の前に垂らして誘導くらいは出来るって事ですかね?」
「そう考えてもらって構わない。実際俺らが例年通りに釣ろうとしたときも、目の前に垂らされた餌に食いつくために少し移動していた」
 念のための確認をするプラムに、肯定を返すイカミ。
「動くんなら誘い込んじゃって縛って捕まえちゃうが丸くない?」
「浅瀬に穴掘って、そこに誘い込められれば、捕まえるのは楽になりそーだね」
 餌で動く、その事実を確認して、チョウザとプラムが口々に作戦を立案した。
「産卵する場所を今居る場所だと決めていて、動かない可能性もあると思うから、エズミは川に入って産卵場所になり得ない環境にする。……具体的には――」
 それならば、と、ガルファラが動かないと考えられる理由の一つに挙げられた産卵環境の破壊をするが……具体的に何を行えばいいか分からず、イカミの方をチラリと見るエズミ。
「苔や水草を産卵床とする。これらを刈り取るなりすれば、効果があるかも知れない」
「らしいから、エズミはそれをやる」
 チャキ、と取り出した鋸鎌を構え、やる気を漲らせたエズミは、ゴーグルとシュノーケルを借りに、一度旅館へと向かった。
「んじゃ、ザコちゃん達も動いちゃう? 穴掘んないとだし」
「産卵床が無くなるや否や動き出しても面倒だし、彼女が刈り始める前には掘り終えたいよね」
 プラムは呟きながら、チョウザと一緒にイカミの方へと視線を投げて。
 強請(ねだ)っているのだ。早く終わらせるために人手を寄越せ、と。
「従業員の中でも若い奴らを呼んでこよう」
 その意図を察したイカミは立ち上がり、大股で旅館の方へと歩いて行った。
 チョウザとプラムはその後に続き、スコップを借りるために旅館へと向かって行った。

 *

 ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!
「なーんかさー、これってザコちゃん達必要だった?」
「依頼を出してる位だから、必要だったんじゃない?」
 ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ!
 男臭いかけ声が飛び交うのは、ヌシガルファラが停滞している地点からやや下流の脇。
 そこにヌシガルファラが通れるほどの幅の水路を掘り、その深さを徐々に浅く。
 一定進むと、板で退路を断つことが出来るように溝を掘り完成。
 そこまで進むのに、屈強な若い衆を集めたお陰かあっという間だった。
 具体的にはエズミが学園指定の水着に着替えて準備体操を終えるまでに完成したぐらいには、あっという間だった。
 全体を見渡せる大きめの石の上。
 そこに座って現場を眺めていたチョウザとプラムは、若干の消化不良に陥りながらも次の指示を行う。
「んじゃまー、その掘ったばっかの水路に転々と餌をぶち込んじゃってー」
「ついでに水路の底には、網を敷いていつでも捕獲できる用意をしておいて」
『サー! イエッサー!』
 投げられた指示に即座に反応し、足を揃えて敬礼し、声まで揃えて作業に戻る。
 おおよそ旅館で働いているとは思えない動きだが、その事をツッコもうとは誰も思わなかった。
「準備できたし、エズミ、行ってくる」
「産卵期って感情高ぶるイメージあるし? ひょっとすると警戒した方がいいかもねー」
「水草や苔を刈り尽くしたら、ガルファラの後ろで音を立てて貰えると助かる。敵かと思って動いてくれたら儲けものだし」
「分かった。……じゃ!」
 従業員の動きでも移ったのか、敬礼とも取れる動きを右手で行い、エズミは静かに川へと入っていった。
「主よ、エズミは人の願いと己の研鑽の為、魚の子らを搾取しようとしています。その報いをあなたが断ずるならば、エズミは抗いません」
 と神への祈祷を行って。
 
 *
 
「……そーいやなんだけどさ」
 エズミが川に入って行くのを見送りながら、チョウザがプラムへと問いかける。
「どうかした?」
「ドクターフィッシュって角質ムシャるお魚さんじゃん?」
「そうだね」
「……あの緑目のきょーそ様、食べられない?」
「…………」
 口にしたチョウザの疑問には、誰も答えることが出来なかった。

 *

 エズミの身を案じた全員が、全力で作った水路に餌をばらまいている頃。
 水に入り、外のことが分からないエズミはヌシガルファラを真っ向から見据えていた。
 動かない、という情報通り、エズミの姿を見てもピクリともしないガルファラを確認し、静かに川底へと潜っていく。
 ガルファラが待機している周辺の岩は、これでもかと藻や苔で化粧をしていて。
 水底から生える水草が絶好の産卵床であることをアピールしていた。
(やっぱり、ここから動きたくないんだ)
 動かない理由を確信し、その理由を無くすべく、エズミは岩にへばりついた苔へと鎌を振るう。
 見ていて気持ちがいいほどに、ゴッソリと削ぎ落とせた苔を見て、心に面白さが芽生えたエズミ。
 動かない、そう高を括っていたせいか、僅かに動いたガルファラの挙動を、どうやら見落としてしまったらしかった。

 *

「何してる系男子なの?」
「見ての通り釣り糸を垂らしてるんだけど?」
「それは分かるけど、なんで?」
 水路の入り口――つまり、罠の入り口付近に釣り糸を垂らしていたプラムへと、チョウザは尋ねた。
 餌は十二分に水路に漂っているし、後はガルファラがこちらへ動くのを待つだけなのに、釣り糸を垂らす必要があるのか、と。
 すると、
「パターン青!! 奴です!!」
 川を凝らして見ていた一人が叫ぶ。
 奴が――ヌシガルファラが来た、と。
「おー、でっか。こっからでも魚影わかんじゃん。……あれ? きょーそ様は?」
「……ガルファラの前に居ないかい?」
 …………。
『まさかっ!?』
 声を上げた二人の期待を裏切ること無く、浮上してきたエルザは明らかに後ろを確認しながら泳いでいた。
 後ろ、つまりは自分を追ってくるヌシガルファラを確認しながら。
「やっぱ角質ムシャろうとされてんねぇ」
「あの大きさだと角質どころか身体ごと持って行かれるだろ!? ……掴まれー!!」
 明らかに危険な状況だったエズミを何とかしようと、釣り竿を操作してエズミの進行方向へと持ってくる。
 すぐ後ろまで迫り大口を開いたガルファラを確認し、若干諦めかけたエズミの視界に、何やら赤いものが映り込んで。
 縋(すが)る思いでそれに手を伸ばせば、掴んだ直後に川から引っ張り上げられる。
 エズミが赤くて目立つ浮きを掴んだ瞬間に、プラムとチョウザの手によって釣り上げられたのだ。
 そして、先ほどまでエズミが居た空間に齧(かぶ)りつくも空振りに終わったヌシガルファラは、悔しさを晴らすように撒かれた餌に一心不乱に食いつき始め。
 水路の奥へと誘導されて、従業員達の手によって無事に捕獲されるに至った。
 旅館へ持っていくときまで、ソイヤ! ソイヤ! とかけ声を上げられては、三人の耳から、しばらくその声が離れることは無かった。

 *

 全身の力を抜き、湯船の端を枕にして、全身をドクターフィッシュになされるがままにしているエズミ。
 期せずして一際身体を動かした彼女は、このお礼の一端である温泉にて、その疲れを癒やしていた。
 角質を啄まれる感触に若干くすぐったさを覚えつつ、それでも程よい刺激と程よい温度の温泉とが合わさって、ついつい言葉が口から漏れる。
「気持ちいぃ~」
 貸し切りの浴場に響く彼女の声は、その表情と同じく、恍惚に満ちていた。
 そんな彼女の声を聞いたチョウザは、自分だけに聞こえるようにポツリと呟く。
「まさか人すら餌と思っちゃうとか」
 お礼として提案された温泉には浸からず、足湯にてチャパらせている彼女は、店から貰ったラムネなる飲み物を片手に楽しんでいた。
 日差しの下に居て上がった体温を、冷えた炭酸で下げることのなんたる幸せか。
 時折こみ上がってくる炭酸を器用に消しつつ、彼女の足に群がるドクターフィッシュを眺めながら、
「そーいや、あのでっかいのにはどんだけ卵詰まってる系なんだろ」
 従業員に後ほど尋ねてみよう。
 そう考えた時に、従業員が何かを差し出してきた。

 *

「あ゛~……極楽~。つーかあんま寄ってこないんだけど角質無いって事なんかなこれ」
 普段は晒さない素の顔で感想を口にしたプラムは、思ったよりもドクターフィッシュが来ないことに首を傾げる。
「普段から定期的に角質取ってるからかね? あー、ついでにこっちも試して見よう」
 そう言って彼は息を吸い込み……。
 そのまま呼吸を止めて温泉へと顔を浸けた。
 やっぱり多少は群がれど、肌が見えなくなるほどには群がられない事を、どうやら彼は日頃のケアの賜だと納得したらしい。
 息の続く限り顔を浸けて、少しインターバルを置いて、また浸ける。
 納得するまで繰り返した彼が湯から上がる頃には、温泉成分も相まって、肌がツルツルのテカテカになっていた。

 *

「お、上がってきたねー。お一ついかが?」
「先に貰ってるけど美味しいよ」
「ん? 何食べてるんだい?」
 プラムが湯から上がると、何やら大皿にのったものをつまみながら、ラムネで流し込んでいるチョウザとエズミの姿が。
 大皿には、何かを揚げたスティックフライが盛られていて、お皿の端には調味料が添えられていた。
「ザコちゃん達が捕まえたガルファラのフライなんだって。美味しーよ」
「風呂上がりにラムネ最高」
「んじゃ、お呼ばれしましょう。ところでさ――」
 二人の座っているテーブルに着き、ガルファラフライを囓ったプラムは、とある事を二人へと耳打ちするのだった。
 その日以降、何故だか旅館の美容グッズが軒並み入荷待ちになったり、プラム始めエズミ、チョウザの三人の肌の張りや艶が良くなったことは、きっと因果関係は無いと思いたい。



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
美容を捕まえろ!
執筆:瀧音 静 GM


《美容を捕まえろ!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 1) 2019-08-08 00:29:36
角質むしゃるお魚、しょーもないぴかぴかの水槽に数匹入ってたやつに手突っ込んだ事はあっけどさ。
むしろここまで大きかったらその効果も抜群なんじゃん?腕の1本くらいむしゃっちゃいそう。ふふ。

とりまザコちゃんがいまんとこおもうのはー。
どっか川の浅い所に、餌ぶん投げるとかで誘導して、川の中に戻りにくい状況作ったら楽かなーって。
あとは網とかかけてー、頑張って引きずるかなんとか。
なんなら頭とかぶん殴って気絶昏倒させて…って、これですら卵は死んじゃい系?めんどみ。

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 2) 2019-08-08 23:10:05
美容~~~って思ったらまた生臭そうな案件だった。完。

とりあえず、少人数でも出来る漁業…っていうと、ザコちゃん案の罠で待ち伏せするのが一番だろうね。

少し大掛かりかもしれないけど、浅瀬に深い穴を掘って、川からそこまで水路みたいなのを使って誘い出して穴に入ったら網で捕獲と水路を埋めて退路を断つみたいな感じだろうか。

餌は釣り竿の先につけて水路のルートをたどる様に垂らして誘導みたいな。

多分ザコちゃんと思ってるのと同じだと思うんだけど違ったらすみなみ。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 3) 2019-08-10 00:46:25
んー、イメージ的にはぼやっと一致合致かな。たぶん。

退路経つのはいーね。そったら実質生け捕りにできるし、あとは依頼人呼べばいーし。
網でもかけとけば秒速に逃げ出すことは出来ないだろうしね。
そもそも、借りられるあみの大きさがあれよりおっきいか問題はあるんだけど、それはそれ。

《ギャンブラー》 エズミ・デュラック (No 4) 2019-08-11 19:17:47
昨日今日入学の新参が、相談の時間もない瀬戸際に参加するのを許してほしい。
エズミはヌシが大きすぎてあまり動かないことに着目し、彼女が産卵する場所を限定してみようと思う。周辺の水草を刈り、彼女の手が届く所にのみ大きな産卵場となる物を残す。
あの魚は小魚の世話はしないようなので、産むまでの間監視すれば卵を回収できる。
先輩方の捕獲が成功すれば無用になるが、保険にはなるかもしれない。