;



瀧音 静 GM 

初めましての方も、どこかで自分の小説を読んでくださっていて初めましてではない方もとりあえず、初めまして!!

GM活動は初めてですが精一杯頑張ります!
皆様の活躍に華を添える事が出来る様に一意専心活動しますのでよろしくお願いします!!

*

エピソードについてはほのぼの系やコメディを基本に執筆するかと思います。

担当NPC


《先輩》フィリン・アクアバイア
  Lv76 / Rank 1
赤縁メガネがトレードマークのローレライの少女。 賢者・導師コースに所属。 体内で溢れる魔力を調整するため、余った魔力は常に水の羽衣のような形状にして身に纏っている。 濡れているのが何よりも落ち着くので、水分放出は全身から行うタイプ。 既に卒業できるだけの単位などを取得済であるが、一向に学園を去る気配はない。随分と長い間学園に在籍しているようだが、何故彼女がそこまでして在籍しているのか、そもそも彼女が何者なのか、知っている者はほとんどいないという。 彼女に年齢について不用意に質問した者が夜に寝ていると、 突如ベットから水が噴き出して大変な事になったという噂が ある。 基本的には上品な物言いをし、落ち着いていることから、冷静・クールと評されやすいが、知識欲が旺盛かつイタズラ気質のため、からかうように振る舞う場合も多い。 普段はぶらっと現れて、学園生達の様子を眺めている。 「ふむふむ。そんなに妾が気になると申すか?  ならば特別に教えてやっても良いが……  お主は妾に、何を教えてくれるのかのう?」
《先輩》ダヴィヤ・スカーレット
  Lv59 / Rank 1
「皆様おはようございます。本日も元気に勉学に依頼、研究に鍛錬。思いつく限りの最善を尽くしましょう」    紅髪炎眼の長身眼鏡お姉さん。馬のルネサンス。  戦闘スタイルは馬らしく蹴り技メイン。  その為スカートを好まず、男性用制服のズボンを着用。  上着はスーツ風に改造している。  出るとこはそこそこ出ており、引っ込む所は引っ込んでいるが、残念ながら露出皆無の服装である。  腰まで伸びた髪を翻しながら戦う姿は舞のよう。  誰が自分を助けてくれたかも分からないので、学園関係者全てに敬語を使う。  後輩だろうが同級生だろうが関係無し。  また、自分が探す相手に気付いてもらおうと放送クラブを立ち上げ、メメル学園長に許可をもらい、朝、昼休みと放課後に放送を行っている。 「それでは皆様、本日も元気な学園生活を送りましょう」  幼少期には今の名前では無く、『セキト』と呼ばれていたようである。   ■公認NPC □担当GM:瀧音 静 規約により以下のことは不可能となっております。 ・フレンド申請(受けることは可) ・公式クラブ以外への参加と発言
《学園教師》カグラ・ツヅラオ
  Lv4 / Rank 1
「ほぅらちびっ子ども、座学はつまらんかもしれんけど集中して聞きや? 情報言うんは、古今東西最強の武器。知識はその一端を担っとるんやで」  金髪金目、金毛の狐のルネサンス。京言葉で話す。  付け尻尾を八つ程装着し、無理矢理九尾のようにしている。  足元まで伸びる長髪は、生まれてこの方一度も切ったことがない。  クール系グラマー姉御肌で、男性女性問わずファンが多いとかなんとか。ボンキュッモフッ。  本物の自分の尻尾と付け尻尾を区別するため、自分の尻尾の先端に鈴を付けている。  学生の時は学生服を(改造して)着ていたが、教員になってから服装が自由と聞くと、実家から着物を取り寄せ、大きく着崩した格好で授業を行うように。  目のやり場に困るが、その程度で集中出来ないのは集中力が足りない証拠とのこと。  生徒の事を等しく『ちびっ子』と呼んでおり、教員の事を等しく『同志』と呼ぶ。  学園長だけは『雇い主』と呼んでいるが、基本的に『メメたん』呼びをしている模様。  油揚げと魚が好きで、魚の煮つけで晩酌するのが常。  酒飲みであり甘いものはそこまで好きではない。  耳や尻尾を触られるのが嫌いで、あからさまに不機嫌になる。が、たまに毛繕いを他人にやらせている光景を目撃されていたりする。 ■公認NPC □担当GM:瀧音 静 規約により以下のことは不可能となっております。 ・フレンド申請(受けることは可) ・公式クラブ以外への参加と発言

メッセージ


作品一覧


まだ見ぬ知識を求めて (ショート)
瀧音 静 GM
 皆が昼食を終え、昼休みを満喫した後の事。  当然の如く迎えた午後の授業の場所に指定されたのは、この学園の誇る巨大な図書館だった。  第一校舎【フトゥールム・パレス】。  要塞にも見える巨大な城の中にある施設である大図書館『ワイズ・クレバー』――そこが、午後の授業を行う場所として指定されていたのだ。  グリフォン便を利用し、この大図書館へとやって来た生徒達がそこへ足を踏み入れると……。 「ようこそ、大図書館へ。みな優秀ですね。毎年何人かは迷子になっていましたのに」  突如として聞こえたせせらぎの様な声に生徒達は辺りを見渡すが、視界に入るのは無数の本棚と、どこまでも続いてるとさえ錯覚する図書館の広大さと。  誰の姿も見えない受付だけであり、皆が皆一様に困惑した。  ふと、受付の中に明らかに不自然な水たまりがある事を誰かが発見した。  そして、水たまりの周りには衣服が散らかっている事も。 「さて、そろそろ時間ですね」  その水たまりから先程と同じ声が聞こえたかと思えば、見る見るうちに水たまりであったものが人型に形を形成していく。  形成する過程で周りの衣服を巻き込み、すっかり人型をかたどる頃には、自然な着衣をした女性になっていた。  ローレライ種の人種。  それが生徒たちの目の前にいる教師の種族。  水の精霊王の加護を持ち、戦闘を好まず、多彩な魔法を操り、文字や芸術の文化を持つ水そのものの様な種族。  それを表すようにこのローレライの先生はおさげの髪の先端から絶えず水を滴らせていた。  水色を基調とした簡素なドレスに身を包み、片手に名簿と羽ペンを携えた彼女は、 「まずは自己紹介をしましょう。見ての通りローレライ種の【ライライト・アルスハウゼン】と申します。以後お見知りおきを」  柔らかな笑顔を生徒達へ向けながらそう言ってお辞儀をし、すぐに次の言葉を続ける。 「さて、もうすぐ授業も始まってしまいますし、今回の授業の説明をしておきましょう。この学園の誇る大図書館は見ての通り膨大な書物に溢れていて、全ての書物に目を通すのは気が遠くなるような年月が必要です」  持っていた名簿と羽ペンを傍に置いて感情を表すような身振り手振りを交えながらライライト先生は熱く話す。 「本来は学園から指定された図書委員の方が居て、その方に聞けば読みたい本は探せますが生憎今は授業中。ですので、皆さんには本を探していただく事にしました」  閃いた、とでも言いたげなジェスチャーの後、眩しい笑顔を見せたライライト先生の言葉を理解した生徒達は思う。  雑用か……と。 「探して貰うものは自由。皆さんが興味を持った本を持って来てください。ここにある本は皆さんの先輩方が集めて来てくれた文献なので皆さんの知識にも大いに力になってくれる事でしょう。それらを自分の力で探すのもいい経験です」  メガネを怪しく光らせて、そう話す先生の真意は果たして……。 「ですが、自由と言っても縛り無しにしてしまうと手近な所にある本を持って来られそうですし……。そうですね、今の私は液状化を行った事で大多数の魔力を消費していますし、現在の姿を保つだけで精一杯です」  生徒達を驚かせる為に行っていた液状化という行為は、先生と言えども魔力を大量に消費してしまうらしく――。  額に指先を触れさせ、疲れています。とでも言いたげに生徒達へ見せつけて。 「ですので、魔力回復に役立つようなものであれば先生は嬉しく思います」  生徒に隠れ、策士のような笑みを作った先生は、 「防犯魔法や禁書の棚などもありますし、何より授業です。気は抜かないように」  忠告とも取れるその言葉を生徒達に聞かせ、気を引き締めさせる。 「それでは、授業を開始します」  ライライト先生の言葉と、  キーンコーンカーンコーン  授業開始を知らせるチャイムが鳴るのが、同時だった。
参加人数
6 / 8 名
公開 2019-03-26
完成 2019-04-11
限定メニューをゲットせよ (ショート)
瀧音 静 GM
 その日、学園内は、とある噂で持ちきりだった。  その噂というのは、普段は「マスターランク」に達している生徒しか利用できないラウンジ、通称「マスターラウンジ」と呼ばれるその場所でしか食べられない食事に関する事だった。  ちょっとした手違い、あるいは卒業生からの寄付。  噂の始まりに多少の違いはあれど、結論としては一つ。  一般生徒にも利用可能な居住区にある料理店。  そこで、マスターラウンジで使われるような食材を用いた料理が出される――というものだった。  噂は瞬く間に広がり、ほぼ全校生の耳に届く事となる。  当然、お昼時になれば食堂の大混雑が予想され、果たして何人がお昼ご飯にありつけるだろうか。  そんな噂を耳にした生徒達は皆、授業の最初の方こそ集中していたが、お昼の時間が近付くにつれ、段々と集中力は切れてきて。  ――いや、集中が切れるというよりは、別の事に集中し始めた、というのが正しいだろう。  すなわち、いかにして早く、混む前に、食堂へと向かうか、と。  あるものは学園内にある箒で飛ぶ事を思案し。  あるものは無駄に考えずにただただその料理店まで突っ走るだけだ、と意気込んで。  あるものはグリフォン便を利用するための餌を確認し始めて。  各々が各々の考える食堂への向かい方、それの最終確認を脳内で完了させるのと、お昼の時間を皆に伝えるチャイムが鳴り響くのが同時であり、その合図を受けて、まるで弾けるように飛び出した生徒達は食堂へ大急ぎで向かうのだった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-02-25
完成 2019-03-14
ドキドキ魔法薬学実習!(初級) (ショート)
瀧音 静 GM
 魔法学園『フトゥールム・スクエア』内にある、第一校舎『フトゥールム・パレス』。  地上三十階。地下四十階という馬鹿げた広さを持つ学園の目玉とも言える施設。  その一室では、これから始まる授業について説明する教員が一人。 「座学なんてずっとやっててもつまらないし、僕の授業は全部実習をするからね。目で、肌で、鼻で、耳で、感じたことを忘れないように好き勝手にやろう!」  おおよそ先生とは思えない内容を熱弁する人物は、魔法薬学の先生である【エルリッフ・パウラス】という『人間(ヒューマン)族』である。  薬の研究も教員業の傍らに行っており、その服装は白衣。  短く整えられた髪型に、眼鏡という特に特徴の無い見た目なのだが、その特徴の無さ故に、生徒達からは簡単に名と姿を覚えられたという。  熱弁をしながら、彼は教卓の上にいくつかの物を置いていく。 「今日は、魔法薬学という授業では、必ず行わなくてはならない、「調合」という行為について授業しようと思うんだ!」  何かの種と、何かの葉っぱ。何かの粉に、薄く黄色い瓶入りの液体。  合計四種のアイテムを置いた彼は、順にソレが何なのかを説明する。 「この学園の施設の一つ、『リリー・ミーツ・ローズ』植物園から失敬してきた『白露菊(しらつゆきく)の種』と『日惑(ひまど)い草』」  まるで興奮した子供のように、材料の説明だけで鼻息を荒くする彼からは、本当に魔法薬に関することが好きなのだということが窺える。 「生物園の『アニパーク』からは『砂漠サイの角の粉末』と『大ガマの油』を貰ってきた」  ガマの油という単語に一部の生徒達から悲鳴が上がるが、エルリッフは大丈夫と手を振るジェスチャーをし、 「全員にこの素材をそれぞれ全部渡すけど、調合に使う使わないは自由。魔法薬のベースはもう用意してあるから、そこに好きな素材を好きな種類入れて魔法薬を作ってみよう!」  と説明する。  続けて、 「素材は全部初級魔法薬を作る素材だし、危険な薬が出来る組み合わせは無いから全部混ぜても、一種類だけにしても構わないよ」  と説明した上でただし、と付け加える。 「せっかく自分で作った薬なんだから、自分で飲んでみようね。今言った通り、危険になるような組み合わせは無いから安心して」  それこそが魔法薬学の醍醐味だ、と満面の笑みで言うエルリッフは、生徒達の目の前で自分の調合用の壺に魔法薬のベースであろう空色の液体と先ほど悲鳴が上がった大ガマの油を入れ――、 「んー……そうだなー」  お菓子を目の前に、どれか一つだけと言われ悩む子供のように手をフラフラと宙に彷徨わせ、 「これにしようか」  砂漠サイの角の粉末を手に取り壺に入れ、ゆっくりとかき混ぜる。  何やら香ばしい香りが教室に漂ってき始めた頃、エルリッフは壺を持ち上げ一気に呷った。  生徒達がどうなるのかと固唾を飲んで見守る中、飲み干したエルリッフは――。 「それじゃあみんな! 楽しい実習の始まりだよ!」  ヘリウムガスでも吸ったように高く高くなった声でそう宣言し両手を横に大きく広げて。  生徒達の目の前の机に魔法薬のベース、調合用の壺と撹拌棒、魔法薬の素材である四種をそれぞれ浮遊させ配るのだった。
参加人数
4 / 8 名
公開 2019-04-26
完成 2019-05-09
命がけのいたずら (ショート)
瀧音 静 GM
 魔法学園『フトゥールム・スクエア』には、多くの先生達がいる。  様々な種族、老若男女問わずに大勢居るその先生達には、もちろんその数だけ様々な噂がある。  どの先生が実はカツラを被っているだとか、あの先生がとある生徒から告白を受けていた、というようなものであったり、ローレライ種の先生専用の井戸がある。等々。  そんな、僅かな話の種にしかならない噂もあれば、思わず確認したくなるような、好奇心をくすぐられるような噂も当然ある。  そして、そんな噂を聞いてしまったら、行動に起こしてしまうというのはこの学園の生徒であるならば、至極当然の事だった……。  「ふんふふ~ん♪」  上機嫌に鼻歌を歌いながら、廊下を歩いて行くルネサンスの教員が一名。  手には『お徳用干しぶどう! 期間限定200%増量中!!』と書かれた特大の干しぶどう入りの袋を持っている、茶髪のロングヘアーにもふもふの獣耳尻尾。  【コルネ・ワルフルド】というその教員は、どうやら残り一割程になった袋の干しぶどうを補充するため、行きつけの店に出向いている途中らしい。  袋を口に当て傾けて、腰に手を当て、風呂上がりの牛乳やコーヒー牛乳よろしく干しぶどうというフルーツを飲み物が如く消費した彼女は、カラになった袋をゴミ箱にダンクシュートし、次なる干しぶどうを摂取するため、お店へと駆け出した。 「おかしい」  店を数軒回り、その回った全ての店にお気に入りの大容量干しぶどうどころかぶどうのぶの字も見当たらず、今までに体験したことの無いモヤモヤとした感覚に襲われた。 「絶対に変だよ!!」  誰に言うわけでも無く、自分の中で疑問とした事を口にするコルネは、周囲に他の先生達が居るにもかかわらず、声を上げて取り乱す。 「だってみんな私が干しぶどう大好きだって知ってるんだよ!? 毎日しっかり私のために仕入れてくれてるし、それが今日に限って無いなんて有り得ないよ!!」 「コ……コルネ先生?」 「ハッ!? そう言えばお店の人はみんな私が今日買いに行ったらなんとも言えない表情をしていた!? ――もしかして……誰かが買い占めた? つまり……陰謀!?」  干しぶどうの摂取がままならない為か、色々と変な想像というか妄想を始めるコルネだが、先ほどコルネを心配するも無視された一人の教員から、この『消えた干しぶどう事件』に関する情報がもたらされた。 「コルネ先生? ……その――最近生徒達の中で噂になっている話があるのですが……」  関係ない話を振るな。私は今干しぶどうの事で頭が一杯で忙しいんだ。  そう言いたげな目でコルネは睨み付けてしまい、思わず話しかけた教員はヒィッと悲鳴をあげてすくみ上がってしまう。  が、話を続けてくれた。 「そ、その噂というのがコルネ先生に関するものでして……」 「何?」 「ヒィッ!? え、えぇと……コルネ先生が干しぶどうを一日摂取しないと大幅に弱体化するというもので……」 「つまり今の状況は……?」 「生徒達が買い占めている可能性が――」  教員がそこまで言ったとき、既にコルネの姿は、残像だけをその場に残し、どこかへと消えていた。  思わずへたり込んでしまった教員の耳に、学園中に響くコルネの慟哭が届く。 「私の干しぶどうはどこだ~!!! ……買い占めた生徒達はグラウンド千周は覚悟しておくんだね!!!」  放課後の夕下がり、いたずらで干しぶどうを買い占めた生徒達と、その干しぶどうを狩猟するコルネ先生の戦いが今――幕を開ける!
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-03-16
完成 2019-03-30
【夏コレ!】夜空の大輪に彩りを (ショート)
瀧音 静 GM
 学園からそう離れてはいない、けれども周りには他の建物は無いような、そんな場所にポツンと建っている工房。  特に飾りのない、言ってしまえばつまらない外見のその工房の中で、黙々と作業する男が一人。  工房であるため、何かしらの芸術や美術品を作っているはずなのだが、彼は絵を描いていたりいているわけでは無いし、彼の周りにもまた、彼の作品と思われるものは見受けられない。 「よし……こんなもんだろ」  作業していた手を止め、顔を上げた男は安堵の息を漏らす。  どうやら一区切りついたらしく、それまでの張り詰めていた空気が一気に緩んだようだ。  立ち上がった彼の手には球体が握られていて、それは祭り等の時に夜空を彩る大きな花となるもので。 「毎度毎度あいつは、思い出したようにこんな時期に仕事依頼しやがるんだから――」  誰に向けての悪態かは分からないが、誰に聞かせるわけでも無く零れたそれは、男の素直な気持ちなのだろう。 「さって……後は色を付けるだけ――」  棚に保管されている筈の、炎の色を決める素材へと手を伸ばした男の手が、途中でピタっと止まる。 「うっわやっべぇ。よりによって紅色がねぇじゃねぇか……。しゃーねぇ、あいつに依頼しとくか。――元はと言えばギリギリに依頼出したあいつが悪いんだ。これくらいはしやがれ」 *  魔法学園、『フトゥールム・スクエア』。その日常の中で、この日はちょっぴり非日常な事が起こっていた。  学園長である【メメ・メメル】から数人の新入生へと呼び出しがかかったのだ。  悪いこと等はしていないのに、教員に、しかもよりによって学園長に呼び出されたとあっては、当事者の生徒達からしてみれば何を言われるか分からずたまったものではないだろう。  そんな思いでビクビクしている新入生を前に、呼び出した本人の学園長はため息を一つ。  思わず身構える新入生だったが、そんな様子を余所に学園長は口を開いた。 「この間、オトモダチに依頼をしてたんだけど~、そいつから材料がないーって連絡来ちゃって~」  いきなりのそんな言葉に目が点になる新入生だが、当然学園長は気にはしない。 「なんか~、オレ様が依頼を遅れてしちゃったのが悪かったみたいでぇー? 依頼品が欲しいなら材料持ってこいって言うのー。メンドーだよねえ」  明らかに面倒だ。という表情で言う学園長を見ていれば、自ずと言いたいことは分かってくる。 「そこで! チミたちに命じる! 材料、取ってきて~」  自分で集めるのがめんどくさいから、新入生へと丸投げしよう。という事なのだろう。 「集める素材と場所はこの紙に書いておいたぞ~。メメたんってばやっさしー! 大サービスで採取の道具も貸したげる! なんて太っ腹~! ここまでしたんだから、もちろん――受けるよね~? 返事は『はい』か『イエス』しか受け付けないぞ☆」  選択肢は無いようで、紙を受け取った新入生達は内容を確認し、依頼の達成の為に意見を出し合うのだった。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-06-23
完成 2019-07-09
暗黒格闘料理勝負 (ショート)
瀧音 静 GM
「首尾はどうだ?」  既に人気の無くなった校舎。  まるで暗躍します! と宣言しているような、全身黒で覆われた数人が、顔を近づけ小さな声で何やら話し合っている様子。 「細工は流々。後は明日を待つだけだ」 「ようやく我らの腕前を披露するときが来たのだな!」 「応とも。納得がいく腕になるまではと思い、今まで密かに行動してきたが、これから我らは日の目を見るのだ!」  何やら良からぬ事を考えていそうな数人組は、ひとしきり怪しく笑った後、普通に歩いてその場を後にした。  彼らの立ち去った後には、とあるポスターが一枚、貼られていたという……。  * 『求む! 挑戦者!! 暗黒格闘料理研究会といざ真剣勝負!!』  昨日までは無かったそんな見出しのポスターを、学園に登校してきた生徒達は足を止めて読んでいた。  要約すると、本日放課後調理室の一つを借り、暗黒格闘料理勝負を行う。というものである。  しかし、肝心要の暗黒格闘料理なるものの説明がまるでされておらず、全く分からない為に首を捻る生徒達がほとんどで、興味を失った生徒から教室へと歩き出す。  そんな光景がある程度続いた時、たまたま通りかかった職員、【ラビーリャ・シェムエリヤ】の口から一言、 「……まただ」  との言葉が漏れ、聞き逃さなかった生徒の一人が彼女へと尋ねる。  暗黒格闘料理勝負を知っているのか? と。  それに対するラビーリャの返答は、 「…………………………胃を殺す勝負?」  という何故だか疑問形のものであり、意味が分からず生徒達が呆気にとられてる間に、彼女はどこかへと姿を消してしまう。  結局それ以上の情報は得られず、興味を持ってしまった生徒は、そのポスターに書かれているとおり、放課後に調理室へと向かうことにした。  * 「よくぞ逃げ出さなかったな!! 恐れをなして誰も来ないかと思ったぞ!!」  調理室の前で同じく興味を持ったらしい生徒に出会い、全員で調理室へ入ってみると、いきなりそんな言葉が飛んできた。  見ると、調理室の扉を開けた先に、こちらの人数と同じ人数で佇む黒ずくめの者達の姿が。  逃げるも何も、ただ興味が沸いた、気になったから来ただけに過ぎないのだが、余程嬉しかったのだろう、黒ずくめ達は皆抱き合って泣いていた。  黒ずくめ達が落ち着くまで待ち、周りを観察してみれば、結構な量と種類の食材に、各種調理器具に調味料。  別段おかしな部分は見当たらないこの調理室で果たしてこの後何が行われるのか。 「さて。まずはルールの確認としよう」  落ち着いたらしい黒ずくめの集団から一人が出て、そう言った。  初めて聞いた暗黒格闘料理勝負なるもののルールとは果たして――。 「お互いにここに用意した食材を使って調理。その後相手の作った料理を食べる」  後ろでウンウンと頷く黒ずくめ。  ただの一般的な食事会としか思えず、暗黒でも、ましてや格闘とは思えないが、次に続く言葉で納得がいった。 「そして、料理を完食できなかった者は脱落。これを団体戦形式で行い、相手を多く脱落させた方の勝ちだ!! 当然、相手を倒す為の料理なので不味く作る事だ!!」  そして、逃げ出したくなった。 「食材はちゃんと吟味し、どんな組み合わせで調理しようと毒となり得ない食材を用意してある。不味さ以外で我らを倒せると思うなよ!!」  何が悲しくて、不味いと分かっている料理を食べなければならないのか。  そう思って調理室を出ようとするが、外から鍵が掛けられているのかビクともしない。 「ルールを聞いた以上受けて我らに勝たねばここからは返さぬ。――そして、我らが勝った場合は、お前ら全員を我がクラブのメンバーに強制的に引き入れる!!」  理不尽で一方的な要求だったが、現在退路は断たれた訳で。  つまりは不味い料理を作って相手を倒せばいい訳で。  よりによって放課後という夕食前のタイミングで不味い料理を胃に入れなければならないことを呪いつつ、生徒達は話し合って誰が、どんな不味い料理を作るのかを話し合うのだった。
参加人数
7 / 8 名
公開 2019-05-20
完成 2019-06-06
動物(を)セラピー (ショート)
瀧音 静 GM
 その日、動物たちは思い出した。  ――自分たちという存在が、弱肉強食のこの摂理の中で、『弱』に当たるということを。 【アニパーク】内に現れた数人の生徒を追って入ってきた圧倒的捕食者によって……。  * 「ひぃぃっ!! 『奴』だ!! 『奴』が出たぞ~!!」 「クソがっ!! 学園の卒業生は化け物かっ!?」  アニパーク内の全動物たち、並びに入退場をする生徒達を確認するための遠見の魔法が置かれた部屋で、アニパークの職員達は送られている映像を見て、戦々恐々の声をあげる。  水晶に映っているのは、つい先日『フトゥールム・スクエア』の課程を修了し、職員となった一人の教員――茶色の毛の狼のルネサンス……【コルネ・ワルフルド】の姿があった。  しかし、瞳は虚ろ、どこかゆらゆらと不安定な足取りながら大地を踏みしめて歩く様は異形と言われても仕方がないもので。  何やら負のオーラらしき物を背負っているような錯覚を覚える位には、気迫に満ちあふれていた。  蒸気のように吐かれる息は、果たして何を求めて吐き出されたものか。 「一体、『奴』の目的は何だ!!? 何か変わった事はあったか!?」  パニックになりかけながら、何か彼女を刺激した物が無いか情報を得ようと怒鳴った職員に、絶望を突きつけたのは別の職員。 「ほ、本日はセールを行われていたので、動物たちの餌に……と、干しぶどうを――」 「馬鹿野郎!! ソイツが原因だ!! マニュアルにでかでかと書いてあっただろうが!!」  どうやら安かったから、と干しぶどうを買い占めていたらしく、結果はアニパークへと入ってきたコルネを見ての通り。  分厚いマニュアルを引っ張り出し、愚を犯した職員へとページを開いて突きつける職員。 「見ろ!! こんなにでかでかと一ページ丸々使って『干しぶどうは買い占めるほど買わないこと』と書いてあるだろうが!! ――しかも二ページ置きに!!」 「むしろそのせいでフリかと思ったんですが――」 「最重要案件だからに決まっているだろうが!! 大体このマニュアル作ったの学園長だぞ!? あの人の考えなんか分かるもんかよ!!」  職員達が言い合っている中、水晶から悲痛な動物たちの叫びが聞こえてきた。 「マザータイガーが片手で止められ、放り投げられました!!」 「砂漠サイの角が手刀にて切断されました!!」 「七色キリンが頭突き合戦で敗れ、脳しんとうに!?」  報告される内容は阿鼻叫喚そのもので、もはや職員達の手に負えるものでは無かった。 「しょうが無い……学園長を呼ぶぞ」  断腸の思いを乗せた職員の宣言に、全員が覚悟を決めて唾を飲み込む。  直後、緊急サイレンがアニパーク内から鳴り響き――――。  ゴヅンッ!!  という音を立て、建物の天井を貫通して飛来した学園長は、 「全くー。マニュアルにも書いてあるのに干しぶどうを買い占めちゃダメだぞっ☆ 後でオレ様考案のお仕置きなっ☆」  語尾の通りに眩しい笑顔を職員に振りまいて、口から出した言葉で職員を絶望させた後……、 「ほらほらコルネた~ん? ちょっと運動の時間だぞっ♪」  振り返り、正気を失い狂ぶどう化したコルネへと笑顔を向けるのだった。  * 「以上が残っている過去の映像よ」  映像を映し出していた水晶への魔力供給を止め、【ユリ・ネオネ】は集まった生徒達へと声を掛ける。  学園にある学園長管理の特殊資料と前置きされ、見せられたのはどう考えても悪鬼修羅の存在で、あれをどうにかしなくてはいけないのか、と生徒達が身構える中――、 「今回はアニパークからの依頼でね。フラッシュバックでもしたのか、何体かの動物たちが怯えて食事すら取らない程らしいのよ。そ・こ・で、動物たちを扱い、手なずける練習も兼ねて生徒達に何とかして欲しいって」  全員が揃って胸を撫で下ろす中、 「はいはい、コルネ先生を相手にしなくていいと分かったからって気を抜かない。コルネ先生がおかしいだけで、アニパークの動物たちも結構危険なんだからね?」  忠告とも取れる事を口にするユリ。 「ま、動物セラピーって言うか、動物たち『を』セラピーする授業って事で間違い無いわ。それじゃあ、どの動物のセラピーをするか決めるわよ。好きな子を選んで頂戴」  こうして、『ナニか』に怯えた動物たちを、正常に戻すための授業が幕を開けるのだった。
参加人数
2 / 8 名
公開 2019-07-11
完成 2019-07-21
精霊を持って響かせろ (ショート)
瀧音 静 GM
 『絶唱型呪文演習施設』という施設がある。  字面から分かるであろうその施設は、大声はおろか魔法を発した際に起きる轟音をも防ぐ防音性の高い施設であり、その施設はもっぱらストレス解消目的で使用されている。  学園の生徒はもちろん、時には先生達も抱えたストレスなどを発散していた。  しかし、そんなストレス解消目的で利用されるのは、基本的に放課後、あるいは夜の利用が当然多いわけで。  まだ日が高い時刻に、先生の一人がそこを利用しようとするのは大変珍しいわけで。  さらに言えばおおよそ一人では演奏出来ないであろう大量の、多種類の楽器を持ち込むと言うことは、珍しいを通り越して異常であった。 「さてぇ、準備は整いましたしぃ、ようやく授業を行えますぅ」  額に浮いた玉の汗を拭い、そう呟いた呟いた先生は、部屋の中の楽器達を見回すと、 「演奏会が楽しみですねぇ」  そう、微笑みをこぼすのだった。  *  生徒達に伝えられた授業が行われる場所。  それは、絶唱型呪文演習施設『スペオケ』と呼ばれる場所で、今までそんな場所で授業が行われるとは知らなかった生徒達は驚いた。  なにせ、レジャー以外の用途が思いつかなかったからである。  とはいえ授業だから、と気を引き締めて指定された部屋の扉を開けば、視界に現れたのは大量の楽器。  思わずキョトンとする生徒達に、真上から声を掛けた存在が一つ。 「いらっしゃぁい。魔法コントロールの授業にようこそぉ」  おっとりとした女性の声だったが、如何せん急に、しかも頭上から声を掛けられれば、誰でも例外なく驚くこと請け合い。  そんな生徒達の目前に降りてきたリバイバルの先生は、自己紹介を始めた。 「私はぁ、【ストラテリ・ディエロ】と申しますぅ。私の担当する授業はぁ、魔法――とりわけ精霊に関する授業が主でしてぇ」  ふよふよと漂い、楽器達を撫でながら続けるストラテリ先生。 「今日はぁ、その精霊さんを使って皆さんで演奏会をしたいな~と思いますぅ」  魔法と精霊の繋がりは分かるが、それに演奏がどう繋がるか全く理解出来ずに首を捻る生徒達。  そんな生徒達へ、ストラテリは実演を持って見せつける。 「例えばぁ……えい☆」  バイオリンへ向けて指を鳴らし、指揮者のように腕を振るえば、バイオリンが独りでに音楽を奏で始めたではないか。  それを見て呆然とする生徒達へ、 「実はぁ、ここにある楽器達はぜぇんぶ魔法道具なのですよぉ。精霊に反応し、音楽を奏でるようにしてもらっているのでぇ――」  とネタばらし。  そして、 「今日の授業ではぁ、みんなで精霊達をコントロールしてぇ、大合奏をしちゃいましょぉ!」  ストラテリが掲げた腕に合わせてシンバルが鳴る。 「ここにある楽器ならどんな楽器でも自由、一人でいくつ演奏してもいいですがぁ、取り合いになっても困っちゃいますしぃ、一人二個までにしましょうかぁ」  ギターの音が混じったかと思えば、今度はティンパニも参加して混沌へ。 「ふふふ、楽しみですねぇ。――それではぁ、魔法コントロール実習、『精霊交響曲』を始めましょぉ!!」  生徒達が部屋に入ってから、一度も開かれなかったストラテリの目の奥底が、ほんの少しだけ光ったような気がして、それまで鳴っていた楽器達の音色が止まる。  と同時に、授業の開始を示すチャイムが鳴り響くのだった。
参加人数
3 / 8 名
公開 2019-07-22
完成 2019-08-07
美容を捕まえろ! (ショート)
瀧音 静 GM
「――っ!? パターン青!! ヤツです!!」  水面に触れ、察知の魔法を展開していた女性のローレライが声をあげる。  緊張で張り詰めたその場に、より一層の緊張が広がり――。 「やるっきゃねぇぞ!! 俺らの未来はここを超えた先にある!! 全従業員は一層気張りやがれぇっ!!」  髭を蓄えた屈強な男の叫びに呼応するように、投網や釣り竿を持った従業員達は腕を上げて進む。  目指すは、川の中に居るはずの――――ヌシである。  * 「私達の未来が掛かってるんです!!」  依頼を受けた生徒達に力説するのは、白く濁った水を漂わせているローレライの女性。  【キヌガワ・ユフイン】と自己紹介した彼女は、依頼の内容よりも先に、先のことを口にしたのだ。  依頼の内容が分からなければ、と困惑する生徒達へ、ハッと気が付いた様子で手を振り回すキヌガワ。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。私みんなからせっかちだって言われててそれで……。えっと、依頼の内容ですね?」  それ以外に何があるのかと思うが、それを口にするとさらに説明が遅くなりそうだと悟り、ツッコむのを控える生徒達。 「実は、私達は温泉旅館を営んでおりまして……。中でも目玉は『ガルファラ』と呼ばれる小魚型の原生生物によるドクターフィッシュ風呂なんですけど……」  ドクターフィッシュ。人の古くなった角質を食べ、その食べるときの刺激でマッサージ効果などがあるとされている魚の事で。  しかしそれが原生生物であるとは初耳な生徒達は警戒を強める。  と、それに気付いた様子でキヌガワは慌てて手を振り――、 「違うんです違うんです。ドクターフィッシュとして使用するのは稚魚の時だけで、成長したら食用に様々な所に出荷しているんです」  と説明。  温泉で育ったドクターフィッシュは身の締まりがよく、味も他と比べてよくなるのだとか。  稚魚と聞き思わず肩の力を抜くが、ならば何故依頼をしてきたのか。  その疑問を誰かが口にすると、キヌガワはモジモジしながら小さく呟いた。 「大きくなり過ぎちゃったんです」  と。  そこからの説明は生徒達に取って全て初耳となるもので。  依頼として持ち込んでくる内容として、納得出来るものだった。  何でも、ドクターフィッシュの稚魚は毎年、旅館の従業員達で卵を持ったガルファラを捕獲することで用意しているらしく、今年も例年通り捕獲しに行ったところ――。  見たこともない大きさのガルファラだったらしく手も足も出なかった、と。  そこで、そのガルファラを捕獲し、ドクターフィッシュを、卵を確保して欲しい、という内容だった。 「ドクターフィッシュ風呂や、出荷出来ないとなれば私達の旅館は風前の灯火です。どうか――どうかお力添えを……」  キヌガワに頼み込まれた生徒達は、それぞれどうやってガルファラを捕獲しようかと相談を始めた。  心なしか表情が期待に満ちあふれているのは、 「依頼達成の折は、精一杯もてなさせていただきます!」  というキヌガワの言葉のお陰だろうか。
参加人数
3 / 8 名
公開 2019-08-04
完成 2019-08-21
ピンク色ハリケーン (ショート)
瀧音 静 GM
 研究棟の一室。  その中で、魔法薬学教員【エルリッフ・パウラス】は今日も今日とて自前の研究である調合に勤しんでいた。  一口に調合と言っても、気温や湿度、混ぜ方に調合する順番まで。  どれかが違えば全く異なった表情すら見せる可能性があるこの調合は、一朝一夕で研究出来るものでは無く。  幾度と無い繰り返しを経て、ようやく教科書に載せることが出来る調合例を手にすることが出来る。  地道で、面倒くさくて。  それでいて、少しでも危険と判断されれば、教科書にも載らずにお蔵入り。  そんな繊細な魔法薬の調合中、エルリッフは――。 「あ、やべ……」  もの凄く不安になる言葉を、ポツリと漏らすのだった。  *  時刻は夕暮れ時。  多くの生徒が授業や依頼を終え、寮へと戻ろうかと移動していたとき。 「ピーンポーンパーンポーン」  どこか間延びした女性の声が、突如として鳴り響いた。  何かを思わせるような音階で発音したその後に、 「えー、テステス。現在通信魔法と魔法石の接続具合のテスト中。お手数ですが、私の声が聞こえた生徒並びに先生方はいなないてください」  と続いた。  どうやら、魔法による学園内への放送のようだが、何事か、と足を止めていた生徒達は、放送を行っている声の主によるふざけた言葉のせいで気が抜ける。  どうせ自分らには関係の無い放送なのだ、と。 「校内に居る皆様へ連絡致します。現在、研究棟の方で魔法薬調合失敗による爆発が発生。周囲にピンク色の煙をまき散らしており、周辺が立ち入り禁止となっております」  そこまで聞いて、立ち止まって放送を聞いていた生徒達は、それ見たことか、と歩き出す。  やはり自分らに関係無いでは無いか、とでも言わんばかりに。  ――しかし。 「なお、この煙には惚れ薬の成分が確認できるとのことで、研究棟に居た生徒並びに教員の一部がこの惚れ薬の効果を受けております」  全員の足が、気持ち悪いくらいに揃って止まる。  今、放送でなんと言ったか。  『惚れ薬』と言わなかったか、と。 「効果を受けた方々は、見境無く告白や激しいボディタッチ、あるいはスキンシップを図ろうとしてきます。くれぐれも注意ください」  何故だろう、もの凄く嫌な予感がするのは。  と思ったとき、遠くで悲鳴が上がった。  声のした方向を見ると、羊の女性ルネサンスが、狼の女性ルネサンスを抱き抱えて何やら囁いているらしく……。  見ている全員が、 「いや、逆だろう」  と心の中でシンクロする。  狼のルネサンスもまんざらでは無い表情をしているのだが、彼女から発せられた言葉に全員が我に返る。 「その言葉は正気の時に聞きたかった!」  と。  そりゃそうだ、と思う正論を胸に落とし、放送を聞いていた生徒、教員全員は何とか事態を解決しようと動き始める。  そんな動きを読んでいたのか、放送をしていた女性は、次のような事を連絡する。 「魔法薬に詳しい教員からの報告ですが、この惚れ薬の効果は伝染してしまうそうです。感染している生徒には、くれぐれも近寄らないでください。また、この惚れ薬の効果は、『ドクハミ草』という薬草で中和されるそうです。魔法薬を作る場所や、リリー・ミーツ・ローズなどで保管されているそうなので、皆様解決を目指す際はそちらをあたってみてください」  放送が終わった後、顔を見合わせ頷いた生徒達は、この惚れ薬爆発事件。  後に、『ピンク色ハリケーン』と学園長から名付けられてしまう事件の解決に向けて、話し合うのだった。  ……全力で安全な場所に逃げつつ。
参加人数
7 / 8 名
公開 2019-08-20
完成 2019-09-05
その筆に情熱を乗せて (ショート)
瀧音 静 GM
 『読書の秋! みんなで読書をして、読書の楽しさを再確認しよう! 読書強化月間開催中!!!』  読書が続く、何というか……言い方は悪いが頭が弱い人が考えたような文句の垂れ幕。  まだ暑さが残るが、肌に感じる気温の変化に、徐々に季節の移り変わりを覚える頃。  大図書館『ワイズ・クレバー』には多くの生徒や先生が足を運んでいた。  ○○の秋、○の中に入る言葉は数多く、垂れ幕にある読書ももちろんポピュラーなものの一つだろう。  そんな言葉の影響か、普段よりも多くの人数が利用する図書館の広間を、重力を感じさせない佇まいで眺める生徒が一人。  種はローレライ。いつ頃からこの学園に居るかを知る者は無く、気ままに自由に、自分の知識欲の赴くままに生活する【フィリン・アクアバイア】という存在。  体内で溢れた魔力は水として、羽衣状にし体外で形成。  そんな羽衣を漂わせながら、人の往来を観察していると……。 「ふむ、ここまで人が来るのならば、今回は提供側となっても面白いかも知れぬのぅ」  赤縁眼鏡をキラリと光らせ、何やら思いついたらしいフィリンは近くを通った図書委員を捕まえて何やら話をし始めた。  問うフィリンに応える委員。  何やら話がついたらしく、妙にご機嫌になったフィリンは――。 「さてさて、妾はどんなものを書こうかのぅ」  楽しそうに、というよりはちょっぴり邪悪な笑みを浮かべて。  フィリンは静かに、図書館を後にした。  * 「と言うわけで、暇そうなお主らを捕まえて妾の手伝いをやらせようと思ったのじゃ」  理不尽ここに極まれり。  と言うわけでと言われても、彼女が何かをしようとしている、と言う事しか分からず。  しかも暇そうな、というのは彼女の主観でしか無い。  しかも手伝いをやらせる、という半ば確定事項のように言われてしまえば、理不尽という感想を抱いても仕方が無いだろう。 「何じゃ、不満そうじゃな? 妾と共に本を作れるなぞ、気まぐれ以外では出来ぬ稀少な体験じゃぞ?」  なるほど、図書館で考えた何かを作る、という行為は、本を作るという事らしい。  ……が、その書いた本をどうしようというのか。 「図書館に置いて読ませるに決まっておるのじゃ。読まれなくして何が本かや?」  何を当たり前のことを……。  そう言いたげに生徒の顔をのぞき込んでくるフィリンは、上機嫌に続ける。 「初めは妾一人で作ろうとも思ったのじゃが、折角じゃ。共著として名を連ね、中身を愉快な本にしてみたくなってのぅ」  彼女を知る生徒が聞けば、 「あぁ、またイタズラ心が鎌首を……」  と納得する言葉と表情。 「どうじゃ? 読書の秋という言葉に釣られ、更には在学生徒の書いた本を手に取った者が楽しくなる内容でもよし」  彼女の魔力で出来た水が、連れてこられた生徒の鼻先を掠める。 「納涼とは時期が遅いかもしれんが、怪談話なんかも好まれたりするのじゃ」  別の生徒の目前を、フィリンの水が舞い踊る。 「情報、お知らせ。あるいは、勝手に創造した噂話なんかも面白いかも知れんのぅ。……どうじゃ? 妾と一緒に本を作ってみぬか?」  興奮気味に生徒へと身を乗り出したフィリンは、晒される胸元も気にせずに、生徒へと詰めかけた。
参加人数
4 / 8 名
公開 2019-09-19
完成 2019-10-07
どこまでも高く積み上がる皿 (ショート)
瀧音 静 GM
 あらゆる場所に、暗黙の了解――あるいはタブーと言われる物事がある。  飲食店においては清潔感を欠き、虫などをお客様の目に触れさせるようなことは絶対のタブー。  そんな絶対常識とは別に、学園都市内に存在する飲食店にはタブーとされる暗黙の了解があった。  それは――――。  『食べ放題』や『大食いチャレンジ』の禁止である。  料理によっては安定して手に入るものでは無い食材を使うため、当然と言えば当然なのだが……。  それとは別に、この暗黙の了解が出来るに至った最大の元凶というのが……。 「お腹すいたの~」  くぅ~。という可愛いお腹の音を響かせながら歩いている【キキ・モンロ】という少女の存在だ。  『空皿積みのキキ』とは誰が呼び始めたか、彼女にかかれば、用意した一日分の材料すらあっという間に平らげられる。  これでは商売にならない、と全ての飲食店が食べ放題や大食いチャレンジを取りやめたのだった。  が、人には怖いもの見たさというものがある。  更には、勝手に勝負と思い込み、熱くなる人すら存在する。  ここは、とある大衆食堂。  山のように積まれた食材を前に、腕を組んで不敵に笑う店主が一名。  *  学園内に配られたビラには、『大食いチャレンジ!! 食べ切れたなら料金タダ!! 優勝者には賞品進呈!!』と書かれていた。  手に取り確認した生徒、教員は、静かに胸の中で拝む。  店主……南無、と。  そして、そのビラが出回った日と丁度同じ頃に、一つの依頼が張り出された。  切実な文章で、臨時のアルバイトをやって欲しいという依頼。  それは、どういった訳か、ビラを配った大衆食堂からの……依頼だった。  依頼を見れば、空皿積みのキキに恐れをなして、従業員が全員休暇申請をしてきたらしい。  休めぬなら、退職も辞さない、と。  この時点で身に余る勝負を仕掛けてしまったかと思ったらしいが、一度宣伝してしまった以上はやりきらねば店の沽券に関わる問題。  藁にもすがる思いで依頼を出したが、店主も自ら知り合いに声を掛けて人手を確保しようとはしているらしい。  そんな、すでに負けた気分になっている店側の思いなど知る由も無く、キキは鼻歌交じりに大食いチャレンジを行う食堂へと歩いて行くのだった。
参加人数
6 / 8 名
公開 2019-10-02
完成 2019-10-17
剣……抜けちゃいました (ショート)
瀧音 静 GM
「ふぅ。これで準備OKだな」 「しかし、これでうちらの村に人が押し寄せるのかねぇ……」 「今更疑ってもしょうがねぇよ。けどまぁ……なるようになるだろ」  別に珍しくとも何ともない、ちょっと寂れて平均寿命が駄々上がりのとある村。  そんな村の広場に位置する場所で、暗闇の中、何やらゴソゴソしている集団――というか男達。  その中央には、何やら土台に刺さった、どこかで見たことある様な剣が一振り。  ご丁寧にも、その剣には『勇者の剣』というプレートが、ぶら下げられたりしていた。  * 「と言うわけで、村おこしを狙ってみたんだが……」  男一同、雁首揃えて学園へと足を運び、どうやら依頼を出した様子。  しかし、一体そのような状況で何を依頼しようというのか……。  よもやサクラなど――。 「実はよう……。中々抜けない剣を抜けた奴を、勇者としてもてなすっつー催し物でさ!」 「参加料さえ払えば、誰でも、何回でも参加可能にして金を巻き上げるって寸法だったんだけどよ!」  興奮気味に話す男達。  ふと、視線を落とすと、『勇者の剣』とプレートがぶら下がっている剣が……。 「見ての通り、試しに抜こうとしてみたらあっさり抜けちまいやがったんだ!!」 「一応早朝で誰も参加者がいなかったから明日からってことにしたんだが……」 「俺らじゃこいつを抜けなくする方法が思いつかなくてよ!!」  藁にもすがる。その思いで、依頼を受けるために集まった生徒達へ懇願し始める男達。 「知恵を出し合って、こいつが抜かれない方法を見つけてくれ!!」  何だが痛くなってきた頭を抑え、依頼だから仕方無い……と、生徒達は意見を出し合う。  あっさり抜けてしまった勇者の剣を、二度と抜けなくするために……。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-11-06
完成 2019-11-24
見せた一面 (ショート)
瀧音 静 GM
 異変は、静かに起きた。  学園に通う生徒達が暮らす寮。  その一室で、雨漏りが発生した。  雨漏り……なのだが、天候は晴れ。  ましてや最上階でも無いその部屋で暮らす生徒は、一度首を捻る。  何故水が? と。  そして、自分の上の階に住む先輩が誰かと思案して――。  即座に寮長に相談し、上の階の様子を確認して貰うと……。 「ようやく……誰ぞ来てくれたか。……すまぬのじゃ。……助けを」  弱々しい声に、ベッドに投げ出されたままの身体。  ローレライ特有の浮遊する水は全て床に落ち、それが下の階へと滴っていたらしい。  トレードマークたり得る赤ぶち眼鏡を掛けたまま、救いが来た、と手を伸ばすその存在は。  妖艶にてクール系。知識欲の権化、【フィリン・アクアバイア】その人であった。  一体どうしたのかと聞く声に、 「体調が優れぬ。……原因が分からんのじゃ」  と弱々しく返した直後、がっくりと全身の力が抜けて、伸ばした腕すらベッドに沈む。  どうしたもんかと慌てる寮長と生徒へ、フィリンは魔力を帯びた水に乗せて、一枚のカードを渡した。  魔力による遠隔決済を可能にした支払いカード。  通称『メメペイ』という、現在試用中の支払いシステム。  それを可能にするメメペイカードである。 「ソレを使えば、妾の支払いで購買部で購入できる。……頼む、何ぞ買ってきてもらえぬか?」  あまりにも突飛な話だったが、それだけフィリンの余裕が無いのだろうと察し、カードを受け取った生徒は走った。  目標は購買部――ではなく談話室。  そして、談話室に居た皆へ、状況を説明する。  イタズラ好きでも知られるフィリン先輩。  そんな先輩が弱っているときに、お眼鏡にかなう物を買っていけなければ、快復したときにどんな報復をされるかなど想像すら出来ない。  ならば、自分一人ではなく大勢を巻き込んでしまえば、誰か一人くらいはお眼鏡にかなう物を買うだろう、という魂胆だった。  かくして、この話を聞いた生徒達はメメペイカードを持って購買部へと向かう。  大量の品揃えを持つ購買部に、果たして弱ったフィリンを満足させる物は陳列されているのだろうか……。
参加人数
6 / 8 名
公開 2019-12-03
完成 2019-12-20
メーデーメーデーメーデー (ショート)
瀧音 静 GM
 とある依頼があった。  『村の近くに何かが潜んでいる気がする』。  『近くの川から魚が姿を消した』。  『地鳴りのような声がするようになった』。  だから、周囲の見回りと、何か魔物がいたら討伐を頼みたい。  そんな依頼。  依頼を読んで参加を表明し、話を聞きに行けば、そこには見慣れない姿をした生徒がいた。  真っ赤な紅の髪を腰まで伸ばし、髪よりも赤い炎のような色をした瞳を光らせる女性。  耳と尻尾が生えていることからルネサンスだと分かり、尻尾の形状からどうやら馬のルネサンスであることが窺えた。  凛とした空気を纏い、どこか遠い所に居るような錯覚すら覚える。  ――と、 「おや? 君たちもこの依頼を?」  どうやら自分の存在に気が付いたらしい。  依頼を受ける為に来たことを告げると、そうか、と短く頷かれた。  そこで、彼女の声に、どこかで聞き覚えがあることを思い出す。  一体どこで。そう悩ませて少し、その声は、学園内に度々響き渡る放送を行っている声ではなかったか。  思わず会釈をすれば、それに気をよくしたのか勝手に自己紹介を始めた。 「私の名前は【ダヴィヤ・スカーレット】だ。好きに呼んでくれ構わない。見たとおりに馬のルネサンス。チャームポイントは真っ赤な髪と尻尾だ」  そこまで言って仁王立ちをする彼女に、依頼主はポカンとした顔をするが、すぐに気を取り直して依頼の内容を話し、すぐに村に来て欲しい旨を伝えるのだった。  *  依頼を受け、学園を出発してから三度目の夜営。  森の中でテキパキとした動きでテントを張り、火を熾(おこ)したダヴィヤは、村人が寝たのを確認し、生徒達へとあることを伝えた。 「実は、今回依頼があった村の周辺で、様々な異常な現象が起きている。生物が姿を消すのはもちろん、森の木々が残らず倒されていたり、大きなクレーターが出来ていたりな」  冗談でも、驚かすようでもなく、淡々と。  誰か、もしくは何かによって引き起こされていると推測出来るその情報に、思わず唾を飲む生徒達。 「万が一村の周囲で魔物を見かけても、決して一人で立ち向かおうとするな。すぐに私を呼んでくれ」  君たちも守るのが私の役目だ。  静かにそう言ったダヴィヤは、夜の見張りを代わってもらい、直ぐさま寝息を立て始めた。  依頼主の村には、明日にでも辿り着くだろう。  *  村に辿り着いた――筈だ。  村の周辺には、小さな魔物や野生の動物達を防ぐ柵が立っていた。  ――が、家屋が無い。  壊れ、潰れ、燃え尽きた家屋だった物は溢れているが、およそ大丈夫だと思える家屋は一軒として無かった。 「そ……そんな……」  当然、それが当たり前であるはずがなかった。  信じたく無い、と。  恐らく自分の住んでいた所なのだろう。  もはや瓦礫の山でしかないその場所へ依頼主がフラフラと歩いて行った、そんな時。  ダヴィヤも、他の生徒達も、同じタイミングで同じ物を見つけた。  それは――――時間が経ち、どす黒く変色した……地面に染み込んだ血だった。  途端、 「離れろ!!!」  ダヴィヤが叫ぶ。  それは、依頼主である村人に対してか。  それとも、依頼主を案じて駆け寄ろうとした生徒にだったか。  声に反応し、咄嗟に後ろに飛んだ生徒と、膝から崩れ落ちた直後で顔を上げることしか出来なかった村人との命運は、そこで違った。  ゴウンッ!!  勢いよく瓦礫が吹き飛び、中から一体の『鬼』が現れたのだ。  ニヤけたような顔をしたその鬼は、その表情のまま目の前の村人を裂いた。  上がる悲鳴に飛ぶ飛沫。  一瞬生徒がたじろいだ瞬間、ダヴィヤはその鬼目掛け――疾(と)んだ。  地を蹴り、空気を震わせて。  渾身の踵(かかと)落としを鬼の顔面へと叩き込んだ。  ――が。  鬼はまともに受けたにも関わらず、身動(じろ)ぎ一つしない。  ただ、ダヴィヤを観察するように、じっと見続けていた。 「逃げろ!! 私に構わず、学園まで走れ!!」  怒号にも似たその叫びは、鬼から離れたダヴィヤの口から放たれたもの。  先ほどの一撃で、どうやら自分たちの手に負える魔物では無いと判断したらしい。  その事を理解し、生徒達が走り出した事を確認して、ダヴィヤは二撃目を放つ。  今度は踵落としでは無く、レガースで――自身の脚で、鬼の視界を塞ぐように。  僅かでも、生徒達の姿をその視界から消すように。  けれども、そんなダヴィヤをまるで小バエでも払うが如く、鬼は手首の返しだけで吹き飛ばした。  咄嗟に防ぐも力の差があり、盛大に吹き飛ばされたダヴィヤは、川へと着水――せずに水切りの要領で何度も跳ねて。  何度目か分からぬ跳ねの途中で何とか体勢を立て直し、岸へと跳ぶ。  そこには、おもちゃでも見つけたように、よりニヤけた顔を見せる鬼が立っていた。  *  逃げろと言われ、学園へと全力でダッシュしていた生徒達は、後方で聞こえていた戦闘の音が消えたことに気が付く。  思わず振り返りそうになるが、何か背筋に冷たいものを覚えたような気がして、ひたすらに前のみを見ていた。  俺らに出来る事があったのでは。  先輩一人で大丈夫なのか。  もし――もしも先輩がやられてしまっていたら。  考え出せばキリが無いそんな思考は、不意にかき消された。  逃走を続けていた自分らの横に、ダヴィヤが並走してきたのだ。  祖流還りを行っており、四足で真っ赤な馬体を走らせるその口からは、別の赤いものが垂れていた。  思わず大丈夫かと声を掛けようとしたが、それよりも先にダヴィヤが口を開いた。 「すまない。君たちから遠ざけようとしたが、私が君たちから離れると知って、ヤツは君達を追い始めた。このままのペースだと学園に着く前に追いつかれてしまう。力の差は歴然、申し訳無いが、君達ではまるで歯が立たないだろう」  そんなダヴィヤの説明を受け、足から力が抜けそうになる。  ――が、 「だから私が、学園へ先に向かい報告する。そうすれば、教員やマスターランクの方々の援軍が期待できる。頼む。その援軍が来るまで、耐えてくれ。夜営に使っていた場所で遅滞戦や遅延戦でどうにか……」  僅かながらに希望が出てきて、しっかりと大地を踏みしめる。  それでも、いつ来てくれるか分からぬ援軍を待ち、自分より遙かに強い相手を足止めしろ、という難題はあった。  しかし、目の前の希望を諦めるのは学園の生徒と言えるだろうか。  そう自分に問いかけ鼓舞し、ゆっくりとダヴィヤへ頷いて見せた。  その行為を確認し、並走していたダヴィヤは風を纏って消えていく。  自分たちが殿(しんがり)の撤退戦。  生徒諸君は一層奮励努力せよ。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-01-05
完成 2020-01-24
良かれと思って (ショート)
瀧音 静 GM
 シンシンシン。  コンコンコン。  ドザァーーーーッ。  静かに降っていた雪は一転。  突如として降り注いだ。――ゲリラ豪雪とでも言うべきか。  そんな、【コルネ・ワルフルド】もコタツで丸くなるような気候の中、動く影が一つ。  ズンッ、ズンッ、と。  独特な跡を地面の雪に残しながらその影は、猛吹雪の中で何かを象っていた――。  *  一夜明け、朝の日差しを取り入れようとカーテンを開けた生徒は驚愕した。  見覚えの無い建物が目に入ったからだ。  その建物の外見は白く、むしろそれが優雅さを醸し出している。  その生徒は、建物の全容を把握するためにマフラーを巻いて外へと駆け出した。  *  すでに建物の周りには生徒や教員等で人だかりが出来ており、様々な会話が聞こえてくる。 「城?」 「誰が作った?」 「あんな吹雪の中で?」 「何のために?」  けれどもそんな会話の内容も、全て疑問符が付くものばかりであり、それに対する反応も推測の域しか出ないもの。  つまり、誰もが納得出来るものでは無かった。  ――と。  ギイィッ。  どこからそんな音が出るのか不明だが、雪の城の門が開き、中から、 「これはこれは大衆であるな。所で聞きたいのであるが」  威厳と戦痕と強者感を纏った雪だるまが出てきて――、 「この場所、ちと寒すぎでは無いか?」  雪だるまとは思えない言葉を発した。  * 「おー、暖かい。はぁ……末端が感覚を取り戻していくのである」  城の中に招かれた生徒達は、これでもかと寒がるその雪だるまに対して、城の中で焚き火を熾し暖を取らせる、という事を提案した。  これを喜んで聞き入れた雪だるまは生徒達を城に招き入れ、雑談に興じていた。 「我が名は『冬将軍・ジェネラルフロスト』である」  そんな雑談の中で手に入れた雪だるまの情報。  その情報を手に入れた生徒が一人、大図書館『ワイズ・クレバー』へ向かってダッシュ。  名前からして魔物では無いか、と疑ったその生徒はモンスター図鑑を勢いよく捲る。  そうして見つけたジェネラルフロストの情報には、驚くべき事が書かれていた。  一方その頃、焚き火で暖を取り続けていたジェネラルフロストの足下に、ほんの僅かに水たまりが発生している事に、まだ誰も気が付いていなかった。
参加人数
4 / 8 名
公開 2020-01-24
完成 2020-02-10
殺人料理店 (ショート)
瀧音 静 GM
 アルチェの地、メルカ市場。  巨大な魚市場であるそこでは、今日も大きな声で競りが行われており。  そんな活気溢れる場内から少し……いえ、わりと――かなーり離れた所に、ポツンと一軒、食事処がありました。  離れすぎて客足などほとんど無く。そして、ごく稀に来たお客さんも、この店の料理を食べると――いきなり倒れてしまうらしく。  ついたあだ名は呪いの食事処。とすると、怖い物見たさで足を運ぶ人や、毒には強い、と自信満々の生徒達が何人も挑戦しますが、結果は返り討ち。  全員気を失って、店主達に謝られながら、帰る場所へと搬送されます。  帰る場所であり、還る場所ではないのであしからず。  そんな事が起こり続ければ、ついには店主は頭を悩ませ、店を閉める事になりました。 ▼  そして、丁度その頃、『フトゥールム・スクエア』の掲示物展示場所には、一つの記事が載っていた。  その記事は――、 『呪いの食事処 その真実』  という見出しから始まり、 『最初に申し上げておくが、あの店の料理に毒などは入っていない。むしろあらゆる研究が積み重ねられた英知の結晶である』  との文に繋がり、最終的に、 『あの店で出される人を倒しまくる料理の正体、それは――――脳の理解を超えるほどの美味しさで口を、舌を、喉を、胃を。通る場所全てを屈服させてくる暴力的な美味さが原因である』  と締めくくられる。  そして最後に、 『残念な事にあの店の店主は勘違いから店を畳もうとしている。……この学園にいる味覚に、胃袋に自信を持つ諸君! 誰も為し得ていない、店主に『美味しい』という感想を届ける大役を、誰か担って貰えないだろうか』  という悲痛な願いが綴られていた。  時を同じくして、 「明日で店じまい。短かったが、料理は楽しかったよ。けど、食べた人ぶっ倒してりゃあ、こうなるのも必然さ。……どうせ最後なんだ。食材を残してもしょうがねぇ。今日は儲けを考えねぇで、来た客全員に大盤振る舞いといくぜ!」  そう意気込んだ店主は、若干の寂しさを背中に漂わせながら、一つの依頼を出した。  もしかしたら、倒れるのを承知で客が大勢来るかもしれない。  そんな淡い期待を胸に秘めた店主は、店の手伝いを募集する依頼を、学園へと、出すのだった。
参加人数
4 / 8 名
公開 2020-02-25
完成 2020-03-13
始まりの道標 (ショート)
瀧音 静 GM
 春。  それは新たな門出の季節。  満開の桜、あるいは葉桜に見送られ、新しい一歩を踏み出す季節。  そんな季節が到来したここ、『フトゥールム・スクエア』では――、 「相手の胃袋に致命的な一撃を! 『暗黒格闘料理研究会』に興味はないか!?」 「グリフォンに乗って自在に空を駆ける、『鷲獅子乗り隊』は楽しいぞー!!」 「どこぞのゲテモノ食い合う奴らとは違う、誠心誠意の『お料理クラブ』にどうぞー!!」 「一にマッスル二にマッスル!! 三四に筋トレ五にマッスルの『マッスル野郎Aチーム』で共に高め合おうぞ!!」  群雄割拠のクラブ勧誘が行われていた。  そもそも膨大な生徒と先生とが存在するこの学園において、公式非公式問わず様々なクラブが存在しているわけであるが、その何処もが、新入生の加入を心待ちにしているのである。  ……まだ学園のイロハも知らない新入生達。  そんな新入生が入りたいと思うクラブは、果たして何処になるのだろうか……。 * 「と、言うわけであまりにも多すぎるクラブを選んでいただくために、各クラブプレゼンを行っていただきます。プレゼン内容は自由。活動の内容を紹介するも良し、活動で作った物を発表するも良し、食べ物を作っているところならばそれを食べさせる、というのも有りです」  一人で放送クラブを立ち上げ、勝手に学園内に放送を垂れ流している【ダヴィヤ・スカーレット】が今回のプレゼンを行うクラブの皆に説明する。  あまりにも多すぎるクラブの数は、正門を封鎖するのが容易なほどであり。  普通に邪魔だし危険と判断した先生達は、放課後、数週間かけてほとんどのクラブ活動に宣伝の場を設けた。  ――先生の独断で宣伝の許可すら得られなかったクラブもあったりするが、それはまた別の話。
参加人数
5 / 8 名
公開 2020-03-31
完成 2020-04-16
振り返れば「ヤツ」がいる (ショート)
瀧音 静 GM
「あ……逃げてる」  魔法学園、『フトゥールム・スクエア』にて用務員をやっているカルマ、【ラビーリャ・シェムエリヤ】は、自身の作業をする部屋へと入ると一言呟いた。  彼女の役割は、学園内にある魔法道具の修理や修復。  それらを行う部屋としてあてがわれた部屋に戻ってきたとき、自分が修理途中だった魔法道具のいくつかがなくなっていることに気が付いたのである。  とはいえ彼女は首を捻る。  そもそも道具だったわけで。  生き物では当然無いわけで。  ならば勝手に動いてどこかに行ってしまうだろうか? と。  とりあえず部屋の中にないか、部屋をひっくり返す勢いで探し始めたラビーリャの背後で、怪しい眼が三対、計六つ。不気味に光るのだった。  *  学園内はちょっとした騒ぎになっていた。  と言うのも、学園の職員であるラビーリャが倒れているのが発見されたからだ。  発見した生徒はすぐに他の教員へ連絡。  保健室へと運び込まれたラビーリャの容態は――体内魔力の減少。  本来カルマという種族は、体内の魔力を逃がさないような特殊な素材で出来ているため、今のラビーリャのように魔力が減少するということは稀な出来事である。  にも関わらずそうしたことが起こった事実は、同じカルマの生徒達を恐怖に陥れた。  すなわち、特殊な素材に何らかの影響が出て、魔力を維持出来なくなった。  そして、それが突然の出来事で抗うことは出来ない……と。  ――しかし、 「ん……」  見舞いの生徒や教員が見守る中、ラビーリャは意識を取り戻す。  見慣れぬ天井を見上げ、周囲を見渡し保健室であることを理解して、 「……仮面達を、止めて」  彼女にしては珍しいひ弱な声で、周囲へとお願いをするのだった。  * 「皆様こんにちは、【ダヴィヤ・スカーレット】でございます」  いつものように、お昼に学園内全域に響き渡る放送が始まる。 「本日は急を要するニュースがございますのでそちらから。用務員でありますラビーリャさんが倒れた、という話は耳にされたかと思いますが、そちらの方は先ほど意識を取り戻しました」  しかし、いつものようなダヴィヤの声色ではなく、どこか緊張しているような、固い声色で放送をしていた。 「そして、倒れられた理由も明らかになりました。ラビーリャさんは体内の魔力が著しく減少したことが、倒れた要因とのことですが、彼女曰く、『魔力を吸われた』とのことです」  その言葉の後、各地でどよめきが起こった。  ――主に、カルマの生徒から。 「彼女が修復途中だった『マスカレード』と呼ばれる仮面型の魔法道具が、目を離した隙に暴走したとのことです。この『マスカレード』は彼女の魔力を吸った後、学園内の各地へと移動していると思われます」  どよめきは大きくなり、数人の生徒がパニックに。 「『マスカレード』の見た目は仮面であり、狐面、のっぺらぼうの面、無表情の面の三つ。見かけた場合は教員へと連絡するか、捕獲、もしくは破壊して欲しいとのことです」  直後、大図書館である『ワイズ・クレバー』、植物園『リリー・ミーツ・ローズ』、そして湖『スペル湖』で大きな悲鳴が上がった。  どうやら、その場所にそれぞれ仮面が居るらしい。 「なお、仮面は対象を『視る』事によって『魔力を吸う』とのことなので、なるべく見られないようにしてください」  放送を聞いた生徒と教員は、急いで思い思いの場所へと向かうのだった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-05-02
完成 2020-05-19
墓場まで持って行けなかった思い (ショート)
瀧音 静 GM
「多分……出来た」  一枚のカードを手にし、まじまじと見つめる『フトゥールム・スクエア』の用務員。魔法道具の修理や修繕担当のカルマ【ラビーリャ・シャムエリヤ】は。  軽く伸びをしながらふぅ、と息を吐く。  どうやら集中して作業を行っていたようで、結構疲れているようだ。  そんな彼女を疲れさせた道具とは果たして――――。  ……手にしていたカードには、『メメペイ』と書かれていた。  *  『メメペイ』。それは魔力による遠隔決済を可能にする支払いシステム。  しかしそれは現在は試用期間中であり、持っている生徒はごく僅かだった。  ――が、試用中に大きな問題は見られない、と判断されたらしく、さらに枚数を、範囲を拡大して第二試用期間となることが決まった……らしい。  歯切れの悪い言い方なのはこの事を説明したラビーリャに問題があったわけで……。 「みんなで使って……ボンッ?」  ふんわりとしか理解出来なかったのだ。  とはいえ珍しさもあり渡された生徒は好奇心に心躍らせて購買部へ。  適当に商品を見繕っていざ決済! と白狐のルネサンスの男子生徒がカードを専用の魔法具に翳(かざ)したときである。  ――本来は……というか、初期のカードは決済時に、その時の【メメ・メメル】学園長の気分に応じて言葉が変わるはずだった。  ……が、しかし。  聞こえてきたのは――、 「自分の半分くらいの身長のエリアルの女の子に頭をなでなでされたいのでおじゃる」  という、その男子生徒の声での決済音で。  ――周囲が、凍った。  空気が……いや、空気だけでなく、皆の動きが。  男子生徒の思考が。  ――そして……、 「イケメンドラゴニア様にあーんして貰いたい~」 「ぼ、僕より大きなお姉さんに『壁ズダァァァッン(注:壁ドンの最上位)』して貰いたい!」 「素敵なお姉様に寝るまで耳元で愛を囁いて欲しいですわ!」  それぞれの生徒が手にした『メメペイ』カードが共鳴するように。  その持ち主の性癖を暴露し始めたのである。  上がる悲鳴に購買部は大パニック。  ……そんな騒動に巻き込まれた生徒の皆は、果たしてどのような反応をするのだろうか。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-05-14
完成 2020-05-30
未確定を象って (ショート)
瀧音 静 GM
 魔法学園『フトゥールム・スクエア』内、研究棟。  その名の通り、様々な研究が行われているその場所……から地下に潜ることしばし。  秘密裏……とまではいかないが、結構隠されて研究を続けている人物がいた。  白衣を身に纏った薄紫髪のドラゴニア。頭には小さな羽根と、その羽根から生えた角が覗き。  腰からはさらに羽が生えていて、けれども元気がなさそうに羽根は下を向いていた。  そんな羽根を持つ本人は、何やらテーブルの上の物を見ながら頭を掻いて、いくつか資料にメモを取って脇へ。  順調ではない事を示す大きなため息を吐き、煙草を咥えて火をつける。  どこか虚空を見つめて煙草を吸っていたその研究員は、ボソッと、 「メンドくせーからモルモットでも募っかぁ……」  と、呟いた。  *  突然掲示物展示場所に張り出された一枚の掲示物。  その内容の珍しさに、生徒達は歩みを止める。  『求む被験者。即席物質生成魔法薬のサンプル収集に協力を』という見出しのその掲示物は、どうやら学園の研究者の貼ったものらしい。  とはいえ字面だけでは頭に疑問符を浮かべる生徒が多数。だからこそ、歩みを止めて説明の部分を読んでいたのだろう。  説明の部分には、  ・刺激を与えると物質へと変化する魔法薬の開発に成功したこと。  ・その魔法薬を服へと変化させる実験をしていたこと。  ・実験では、服にはなるが形状も種類もバラバラで、何の法則性も見いだせないこと。  ・研究者だけでなく、もっと多くの人数や種族数のデータが欲しいこと。  が書かれていた。  研究が終了し服が思い通りに形成出来るようになれば、普段使いする服はもちろん、戦闘用の服や孤児用、妊婦用などにも幅広く対応が出来る。   だからこそ手を貸してくれと、生徒達へと頼んでいるのだ。  時間指定は今日の放課後、場所は研究棟一階、第一実技ルーム。  未来のため、その研究を手伝うことを決めた生徒達は、日時と場所を、忘れないように心に刻むのだった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-05-29
完成 2020-06-15
いーものあるよ (ショート)
瀧音 静 GM
 学園『フトゥールム・スクエア』からそう遠く離れていない、のどかな村。  その村は今、ちょっとした窮地に陥っていた。  その村の稼ぎの大部分は農業品。その農業品が、どういうわけか売れないのだ。  今までこんなことはなかったはずなのに、てんで売れない。  いよいよと追い詰められた村人たちは、近くで行われるお祭りへと出店を決めた。 * 「らっしゃいらっしゃい!! ポテトフライはいかがですか!!」 「じゃがバターもありますよ!! ご一緒にフライドポテトはいかがですか!?」 「ハリケーンポテトはどうだい!!? ポテトチップスもありますよ!!」  活気よくかけられる声は全て芋。  ――そう、あの村は大量のポテトを抱えて立ち往生していたのだ。  ならば祭りで売ってしまおうと考えた村人たちは……だが。  いかに祭りで財布のひもが緩んでいるとはいえ、代わり映えしないジャガイモ料理には食指は動かないというもの。 「ポテトチップスと一緒にマッシュシェイクはいかがですか!!?」  挙句の果てには、何をとち狂ったかマッシュしたじゃがいもを入れたシェイク、マッシュシェイクなるものまで売り始めている始末。  物珍しさでいくつかは売れたが、残念ながら例年の売り上げにはまるで届かず。  いよいよ恐怖を感じた村人は、学園を頼ることにした。  手段は問わない。大量にありまくるジャガイモを売りさばいてくれ、と。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-06-09
完成 2020-06-27
【水着】スプラッシューン (ショート)
瀧音 静 GM
 校庭に……森が生えた。  慌てた様子でそう話す生徒に、それを聞いた生徒はこう返す。 「どうせメメたんのせいだろ?」  と。  ……どうせという扱いはともかくとして、彼の推理とも呼べない推測は見事に当たっており、森自体は学園長である【メメ・メメル】の仕業である。  ――が、生徒にとって、彼女が何かをした、という事実はさほど重要ではない。  最も重要なのは――、 「皆様おはようございます。【ダヴィヤ・スカーレット】でございます。すでにお気付きの方もいらっしゃるかと思いますが、校庭に森が出現しました。学園長の行ったことであり、その目的について聞いておりますので。私の口から説明させていただきます」  そう、何のためにそんなことをしたか、である。 「ただいまより、校庭に特殊な加工の施された魔法の杖がバラまかれます。その杖を振るい、『メメルでポン』と唱えますと、その杖から水が発射されます。二回被弾すればアウトとなり、森から魔法で退散させられます。森の中に最後まで残った方に、学園長より特別なご褒美があるそうです」  ……どうやら、思い付きでオリエンテーションを行おうとしているらしい。  やる気を出すためなのか、優勝賞品をボカしているのが学園長らしいといえばらしい。 「参加するにあたり、濡れることが予想されますが故に、水着の着用が推奨となっております。また、今から一時間以内に杖を取り、森に入らなかった方は参加の資格を失うとのことです」  さらには、参加したくなければしなくてもいい旨が放送で流れるが、その選択肢を取るのはごく少数。  皆、我先にと更衣室に押し寄せ、杖を取って森へと入っていく。 「試合の開始は一時間後ですが、それまでは戦闘さえしなければ何をしても自由です。今のうちに有利なポジションを確保するもよし。手回しして共闘の体勢を作るもよし。では――皆様の健闘を祈ります」  そう言って放送を終えたダヴィヤもまた、服を着替えていく。  制服から、ぬれても大丈夫な水着へ。  ……と言っても、露出の極端に少ない、水着へであるが。  そうして、彼女専用と書いてある杖を取り、 「えー、テステス。私は実況を務めさせていただきますので、なるべく私には水をかけないでください」  そう呼びかけ、試合の開始を待つのだった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-07-20
完成 2020-08-08
天っ誅ぅっ!! (ショート)
瀧音 静 GM
「ピンポンパンポーン。皆様、本日の授業への出席、並びに、課題への参加お疲れ様です」  間延びした声で、校内放送を使いそう告げるのは、【ダヴィヤ・スカーレット】。  勝手に放送クラブを設立し、なぜかメメたんこと【メメ・メメル】学園長から気に入られ、その放送クラブでの活動を黙認されているダヴィヤは、 「最近、学園付近にて不審者の目撃情報が相次いでいます。また、不審火も相次いで確認されています。外出中や課題中に不審者や不審火を見かけた時は、速やかに学園に報告をお願いします」  そう続けた。  途端にざわつく生徒たち。  そうして、生徒たちは身の安全を確保するために、ある者は外出を控え、またある者は不審者を探そうと学園付近のパトロールを開始。  そうした生徒たちの動きを観察する、数人の集団がいることに、ほかの生徒たちは誰も気が付いていないのであった。 *  そして、ダヴィヤの放送の翌日。  学園エントランスの掲示物展示場に、一つの掲示物が張り出された。  その内容は、不審者の情報を入手した。さらに、その不審者が確認された不審火の犯人である証拠も揃っている。  僕らが動けば解決は簡単だけど、どうせならほかの生徒に経験を積ませたい。  この『事件』を解決したい生徒は、明日、日の出と同時に放送室前に来るように――とのこと。  その掲示物を確認し、日の出の時刻にいの一番に到着した生徒たちを待っていたのは、当然の如くダヴィヤであり。 「時間厳守。以上でこの依頼への参加を締め切ります」  と、数人集まったのを確認して宣言し、放送室へと生徒たちを招き入れる。  そうして部屋に入れると、鍵をかけ、ほかの生徒は入れないようにしてしまい。 「放送室というだけあって防音ですし、この場所ならば誰かに聞かれることもありません」  そう前置きした上で、ダヴィヤは、今回の依頼の事について話し始めた。 「今回の不審者、並びに不審火の犯人は、町に住む漁業を営む【フクロ・ダ・タカレーノ】というヒューマンの男性です。年齢は二十代後半。住んでいる場所はここです」  そして一枚の地図を、生徒たちに見せる。  住宅街の外れの方。そこに、星マークが赤く記されていた。 「犯行の動機についてですが、漁業で思ったように魚が捕れなかったり、思ったように売値が付かなかったりとストレスを覚え、その発散の為というどうしようもない理由です」  淡々と、恐らくは文字通りに自らの脚で集めてきた情報を、集まった生徒たちに共有するダヴィヤ。 「また、本人にも魔法の才能はあるようですが、自分に疑いの目が向かないようにするためか、自作の時限式装置を用い、自分が漁に出ている間に放火をしているようです。……この事から、警戒心が強い可能性があります」  自分は安全な所に逃げながら、罪の無い人を不審火で脅かす。  ……とても、許せない卑劣な行為。 「ただ、先程も言った通り彼は普段は漁に出ておりますし、その時間は明朝から夕方まで。その間は、彼の家は無防備となりますし、時限式装置を用いての放火ということで、まだ自分に疑いはかかっていないと思っているはずです。ですので、彼の家に忍び込むのは容易と考えます」  ここで、集まった生徒たちはダヴィヤの言わんとしていることを察した。  犯人が警戒していない今のうちに動かぬ証拠を家で見つけてこいと言いたいのだ、と。  ――だが、 「そこで、皆さんにはこの【フクロ・ダ・タカレーノ】の家に忍び込み証拠をつかみ――」  ここまでは予想通りだったのだが……、 「思いつく限りの罠を設置し、痛めつけて欲しいのです。これまでの放火に苦しんだ方々の思いを、恨みを、その肉体へと刻み込んでほしいのです」  おおよそ予想していたよりも、過激な発言が飛び出してきた。 「そ、それはどの程度まで許されるのでしょうか?」  集まった生徒の一人がダヴィヤに問う。  罠の程度について。いたずら程度か、命を狙うものまでか、と。  それに対しての答えは、 「当然殺してはダメです。ただ、死ななければぶっちゃけ何しても構いません」  というもので、 「そうですね……合言葉を決めましょう」  続いて、ダヴィヤはそんなことを呟くと……。 「生かさず殺さず逃がさず躊躇わず、というのはどうでしょう? 仕掛ける罠の程度を表すのにピッタリです」  と、集まった生徒たちへと笑顔を向ける。  その向けられた笑顔に、背筋が凍るほどの温度の低さを覚えた生徒たちは、首を勢いよく縦に振った。 「では決まりですね。……あ、それからもう一つ。この不審者、不審火に関する依頼は正式に町の人たちから依頼されたもので、決して私の私怨ではありません」  説明は以上、と放送室のドアへと手をかけたダヴィヤは、言い忘れていたと振り返り。 「我々は天が裁きを下すまで待てないとの声により、天に代わって誅するだけです。それをゆめゆめお忘れなきように」  とだけ告げて、放送室の扉を開く。 「日が昇る頃には犯人は仕事に出かけています。ですが、悠長にしている時間もありません。ここからはスピード勝負。それでは、皆様、頑張ってきてください」  そうしてダヴィヤに送り出された生徒たちは、ある者は寮の自室へ、持ち物から罠に使えそうな物を引っ掴み。  またある者は、購買にて罠の材料を購入し足早に。  確認した地図の家を目指し、どんな罠にしようかと考えながら向かう。  その背に、毎朝恒例のダヴィヤの校内放送を聞きながら。
参加人数
4 / 8 名
公開 2021-11-07
完成 2021-11-25
ニーズに応えて (ショート)
瀧音 静 GM
「頼まれてたもん、出来たは出来たが……。本当にこんなのが金になんのか?」 「うちの情報を疑うん? 今まで外したことあらへんやろ?」 「別にお前を信用してねぇわけじゃねぇが……にわかにゃ信じられねぇな」  学園都市『フトゥールム・スクエア』内、研究棟。  その研究棟を、地下へと進んだその場所で、話し込む影が二つ。  明かりが少ないにもかかわらず、輝いて見える金色の髪の毛と尻尾の持ち主の【カグラ・ツヅラオ】と。  こちらは闇に溶け込むような、薄紫の髪の毛と羽のドラゴニア、【チャロアイト・マリールー】。  方や教員、方や研究員。あまり接点のなさそうな二人だが、どうやら何かを企んでいるらしい。 「ほな、もろてくわ。捌いたらしっかりお金は渡すさかい、待っててな」  そう言ってカグラがチャロアイトから何かを受け取って研究棟を出ようとしたが。 「待て」  チャロアイトから呼び止められる。 「どしたん?」 「出来たっては言ったが、完成したとは一言も言ってねぇぞ?」 「? ……何が足りひんの?」  どうやら、チャロアイト曰くカグラが受け取ったものは未完成らしく。  何をもって未完成なのかとカグラが尋ねれば……。 「データが足んねぇ。ちゃんと効果があるのか、元に戻れるか、その辺のデータがさっぱりねぇんだよ」  と、およそ開発の最終段階の工程が終わってないと告げられて。 「……そのデータ、どれくらいあれば十分なん?」  であれば、と逆にカグラが質問すると……、 「最低十例前後。あとは多けりゃ多い方がいい」  とのこと。 「ちょい待ち。……ん-、どないしよか。……うちとあんたで二例は確保できるとして、残り八前後――」  それを聞いて少しだけ考え込んでいたカグラは、 「そや、あんた魔法薬学の教員証持っとったよな?」  およそ生徒たちには見せられないような、悪い顔をしてチャロアイトへと尋ねるのだった。 *  突如として実習になった魔法薬学。  それも中級の魔法薬学として、危ない魔法薬を実習出来ると聞いて、生徒たちは授業を楽しみにしていた。  やがて始業時間になり、実習室へと入ってきたのは……。 「おう、チビッ子達。揃ってんか?」  商人系の座学を扱うカグラであった。  なぜカグラ先生が? 生徒たちが首をかしげる中、カグラに続いて入ってきたのは見たこともない教員。  薄紫の髪、髪と同じ色の羽と尻尾。白衣と眼鏡、マスクをつけたドラゴニアのその教員は、 「今日の魔法薬学実習を担当するチャロアイト・マリールーだ」  と簡素な自己紹介をすると――、 「早速だが授業の内容について説明すっぞ。まずは各人一つずつ、オレが調合した魔法薬を渡す。別に危険なもんじゃねぇが、体に異変を起こすよう調合してる」  という説明が続き。  その説明を聞いて、生徒たちにどよめきが起きるが、 「別に大した変化じゃねぇって。んで、この授業の目的は、そもそも落ち着いた状況で調合出来る場合なんざ限られてるって話で、目の前で毒に犯された知り合いがいて、普段通りに調合出来ると思うか?」  落ち着けよ、と声をかけ、今回の授業の目的について話し始めた。 「出来ねぇ……違うな。今は無理だろ? だから、普通じゃない状態で調合するっつー場数を踏んで、いつでも冷静に調合できるようにする必要があるわけだ。……魔法薬の調合が繊細なのは今まで習ってきてるよな?」  チャロアイトの問いかけに、静かに生徒たちは頷いた。 「うし、じゃあ、今回の授業の課題。身に起きた変化に惑わされず、その状態の解除薬を作ってみろ。……あ、ただ、材料も作り方も最初は教えねぇぞ? 試行錯誤して辿りつけりゃあその経験は絶対に忘れねぇからな」  生徒たちへ薬を手渡しながら、何かとんでもない事をチャロアイトは言う。 「時間ごとに作り方のヒントは出すが、絶対に自分で作ること。んで、早く出来たやつは余分に作れ。オレとこっちの狐も薬飲むからよ」  さらにとんでもない事を言いながらカグラに薬を手渡して。  手渡されたカグラは、それを躊躇いもせずに飲み干して。 「んで、肝心の体の変化の部分だが――」  ポンッ、と。カグラの周囲に煙が発生したかと思えば……、 「こんな風に、性別を変えてしまう薬だそうやわ」  現れたカグラは、タヌキ耳尻尾の褐色少年へと変貌しており。  身長は半分くらい。毛色も、先程までの金色はどこへやらで、焦げ茶色へと変わっていた。 「姿かたちがどう変わるかは飲んでからのお楽しみ。とはいえ流石に種族までは変わらへんから、勝手が変わることはあまりないはずや」  と先程までとは違う少年声で生徒へと話したカグラは、実習室の教卓へと飛び乗り腰を掛けると。 「ほな、時間もあまり長ないし、さっさと始めよか?」  と授業開始の宣言をした。  その隣で、チャロアイトが高身長お兄さんへと変わっていることに、一切の目もくれず。
参加人数
4 / 8 名
公開 2021-11-25
完成 2021-12-13

リンク


サンプル


 毎日のように聞いている、朝の始業を知らせるチャイム。
 そのチャイムから遡ること十五分ほど。
 それもまたお馴染みの、朝の校内放送が流れてきたのだった。



「皆さん、おはようございます。もう既に朝の部活動や依頼をこなしている生徒の方や、授業で使う資料や道具を揃えている先生方で賑わっているとは思いますが、教室や部室、研究室に職員室の窓は開いていますか?」
 よく通る声を校内に響かせているのは果たして誰なのだろうか。
 落ち着いた表情が読み取れるような、やや低めの魅惑的な女性の声。
 今までとくに気にしていなかった生徒は、毎日こんな放送があったかと首を傾げながらどのようなことが放送されるか耳を傾ける。
「自然の風を取り込み、空気の入れ換えを行うことは結構ですが、先ほど植物園から大量の花粉が舞ったとの情報が入りました。……即座に窓を閉めて下さい」
 何という自然テロ。その放送を聞いた瞬間にガラスが割れるのでは無いかと懸念してしまう程の勢いで、窓が閉められる音が響く。
「さて、かなり珍しい校内放送ですが、初めて聞くという方もいらっしゃると思いますので、自己紹介をさせていただきます」
 コホン、と咳払いを一回。その女性は自己紹介を始めた。
「炎髪灼眼に紅尾、額に流星の一筋を乗せた馬のルネサンス、【ダヴィヤ・スカーレット】と申します。以後お見知りおきを」
 どうやら容姿の説明のようだが、どうにも想像がつかない生徒がほとんどのようだ。
「さて、緊急の放送は先ほど終えましたので先にスポンサーの紹介をさせていただきます」
 しかし、声しか届けていないスカーレットはまるで気にせずに放送を進める。
「この放送は、『メメル先生カワイイヤッター』、『気に入らない子はメメントしちゃうゾ☆』、『メメりメメればメメル時、お前もまた、メメられているのだ』と、ご覧のスポンサーの提供でお送りします」
 瞬間、生徒は、職員は、教員は、察した。
 ――メメル←こいつか……。と。
 そして、映像付きの放送では無いのに、ご覧も何も無いとは思うが、ツッコんだところでどうせスカーレットやメメルには届かないだろうとツッコミを我慢する生徒や先生達。
「スポンサーの紹介も済んだところで、まずは昨日の依頼の達成具合、並びに、本日朝の時点で受けることが出来る依頼の数からです」
 今までのふざけた雰囲気を吹き飛ばすように、急に周囲の空気が変わった。
「依頼の達成具合については先生方の統計次第で、私達生徒が詳しく知ることは出来ませんが、経過は良好。とのことです。また、依頼の数についても、昨日までに達成された依頼と入れ替わる形で入ってきており、昨日時点と数に変化は無いとのことです。授業の無い生徒は、依頼を確認してみるのもいいかもしれません」
 全くと言っていいほど情報が無い様な気がするが、とりあえずやることは――やれることは変わらない。
 それだけを聞いて、既に依頼を確認しようと動き出す生徒がちらほらと出てきた。
「続いて、本日は購買部の特売セールが行われると情報がありました。……特定の時間は干しぶどうを求める一部先生によって修羅の土地となり得る可能性がございますので、はやる気持ちを抑え、安全を確保した上で購買部をご利用下さい」
 どう考えても一人しか浮かばない先生の情報を放送すれば、数人が武器を構えて立ち上がる。
 並々ならぬ闘志を燃やし、まるで、修羅の地へ自ら足を踏み入れようとしているようだ。
「また、本日は絶唱ルームの定期メンテナンスの日となっております。本日一日は利用が出来ませんので予めご了承下さい」
 これには主に女性生徒達から不満が飛んだ。
 放課後行く予定だった。や、今すぐに大声で叫びたいのにー! との言葉がどこからか聞こえたような気がした。
「現在の連絡事項は以上となります。この放送を行うための魔法、魔力を提供していただけているメメル先生に感謝をしつつ最後に――」
 スポンサーに気を遣いながらラストを締めくくるのは……。
「メメたん体操を行います」
 全生徒と教員が、放送から興味を無くして自分のやるべき事に取りかかった。