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でんせつのゆうしゃのつるぎ


ストーリー Story

「是なるは伝説の聖剣――月光の勇者が振るったとされる『蒼の神月』である!」
 学園の敷地を出て北東数十キロ地点の農村、ザレン。
 居丈高に蒼く煌めく大剣を掲げた隻眼の男【モナト・アルヴァルク】は、眼下の村人たちに言い放った。
「蒼き月の光を紡ぎしこの剣は、光の一閃で万の魔物を討ち滅ぼす! 万物を断ち切る光の刃は、邪悪なる敵を決して逃がすことは無い!」
 強く、荘厳な言葉で剣の力を讃える。
 ……しかし、誰もが思っていた。その剣から全く力を感じられないと。
 蒼い水晶のような物質でできた刃や、意匠を凝らした彫金、所々に金細工を仕込んであるなど、見た目は確かに伝説の剣のように煌びやかだ。
 ただ、それだけだ。見た目こそ伝説の剣のように見えるが、内包している力らしきものを感じられる人はいなかったのだ。
 村人たちの疑惑の視線を払いのけるかのように、掲げていた剣を自身の体の前に構えた。
「ご安心召されよ! この剣は『神月の日』に力を発揮する! 蒼き満月が輝く時に! そしていつの日か! 醜悪にて冷酷、残忍な魔物が胎動せんとする時、『蒼の神月』は必ず力を取り戻す! その時は我が伝説の剣の所有者として、一騎当千の勇者として歴史に名を刻むだろうッ!」
 その後もモナトの演説は続いたが、衆目は次第に一人一人と離れていった――物好きな村人を何人か残しながら。

 所変わりフトゥールム・スクエアの職員室――とある村の伝説の剣の話を生徒から聞いた教師、【ガルベス・ユークリッド】は豊かに蓄えた白い顎髭を触る。彼の癖であり、人と話す時もそれは変わりない。
「――と、あるらしいが。ネルウァ殿はどう思われる、この伝説の剣とやらを」
 ネルウァ殿――そう呼ばれた童顔の男が椅子を回してガルベスに正対した。
 新雪のように真っ白な長い髪を頭の後ろで結った教師、【ネルウァ・シン】は興味なさげに反応した。
「なら、ぶち折ってみればいい」
 話の流れすらぶち折る一言を、ネルウァは一切の躊躇なく言い切った。
「ほう……ぶち折るか……って、いやいや待つのだ! それは些か短絡過ぎというか、そもそも話は聞いていたのか!?」
「聞いていたさ。本物が仮にあるとしてそれが偽物・贋作の類なら、ただの剣の形を模した綺麗な水晶の塊に過ぎない。折ることはおろか、粉々にすることすら容易いだろうね。本物でなければ、の話だけど」
「いや、そういうことではなくてだな。そもそも勇者志望の学生に他人の物を壊させるのは如何なものかと……」
「魔王や武神に村人、黒幕賢者誰でもいいさ。適当にスキ作って折るなり粉々にするなりしてくれれば誰でもね」
 ――だからそういう問題ではないのだが。
 この年若い教師は底抜けのひねくれものであり、時に教員という立場や当人の倫理観すら疑うようなこともやってのける。物を壊す、自然破壊スレスレの行為をするのは最早当たり前。自分の知識欲のために私財を投げ打ち、学園に内緒で個人で様々な実験をしているとまで噂されているのだ。
 そんなガルベスの心中の非難が顔色に表れていたのか、ネルウァは肩をすくめる。
「じゃあ、お堅い君の腑に落ちるように理由をくれてやろうか」
 椅子を回してくるりと一回転すると、ガルベスへと改めて正対して簡潔に説明する。
「このまま偽物の伝説を広められると中々厄介な事になる。それを阻止するためにも、あの剣を折ることは必要かつ肝要なことなのだよ」
「厄介な事?」
「偽物だろうと贋作だろうと、人が讃え信仰してしまえば、それはいずれ伝説になってしまうのだよ」
 抽象的かつ濁した言い方だったが、察しのいいガルベスはその意図を掴んでいた。
「なるほど、剣自体をプロパガンダの象徴にするということか」
「まあ、そこまで深く考えているかは知らんがね。ただ、妙な集団が現れる前に旗印はへし折るのは正しいことだ。騒乱の芽は悪さをする前に摘み取るに限る」
 モナトという男がどのような意図をもってして、架空の伝説の剣を喧伝しているのか――それが今回の『蒼の神月』の破壊の理由に尽きる。
 偽物の伝説を作り喧伝する意味を深読みすると、ホイホイ釣られた愚か者を手玉に取り、大規模な叛乱の人手を集めているかも――などと考えられる。それほど大きな理由がなくとも、力に釣られた連中がモナトの傀儡にされることもありかねない。
 ならば、『偽物の伝説』という火の手が広がる前に、さっさと大本から鎮火してしまえばいい。剣を折ってしまうという、ネルウァの過激とも取れる発言の理由は大凡こんなところだろう。
 うぅむ、とガルベスはつい唸ってしまう。年若いが起こり得る未来を見据えているなと、素直に驚嘆したのだが――。
「それにもし、その『蒼の神月』とやらが本物だったらそれはそれで面白い。真の力を発揮したならば、生徒たちに戦ってもらってレポートを取ってもらえればいいだけだ」
 口角の両端を上げて嗤うネルウァを見て、ガルベスは再びうぅむと唸る。
 ――この教師……大儀や騒動鎮圧云々よりも知識欲を優先しているのではなかろうか?


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2019-08-23

難易度 難しい 報酬 通常 完成予定 2019-09-02

登場人物 3/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け

解説 Explan

 ザレンの村に居る男【モナト・アルヴァルク】の持つ剣『蒼の神月』の破壊が今回の目的となります。
 今は食客として村長の家に泊まっており、夜遅くまで話に興味を持った村人四名とリビングで談話しています。
 
 家の大きさは六十平方メートルほどで、間取りはリビングを中心にして四方にそれぞれ部屋があります。

 リビング:モナトらが談話中。
 東方:客間。窓は施錠してある。
 西方:玄関。未施錠だがリビングからすぐに視認できる。
 北方:村長夫妻の寝室。就寝中で大きな物音がすると目覚める。
 南方:台所。地下室の倉庫に繋がる階段がある。
 屋根:天窓に似た通用口があり、中央の梁へ乗ることができるが、梁の耐久性から一人しか乗れない。村長夫妻の寝室以外へは伝って移動できる。
 地下室:倉庫。台所に繋がっており外から侵入することができるが施錠されている。

 破壊方法は村人たちに危害・被害が及ばないことを前提とします。
 発見されると破壊は困難になりますので、こっそりと、他の生徒と協力して挑んでください。

 モナトは『蒼の神月』を常に携帯しており、他者の接近には敏感です。非常時には『蒼の神月』で攻撃することもあります。
 また傭兵家業を生業としているモナトは戦闘経験豊富であり、装備もそこそこ充実しています。
 もし正面から戦って剣を折る場合は十分な準備と計画を以て挑むことを推奨します。

 以下、モナトが行う可能性のある行動です。
 1.両手剣での斬撃、刺突
 2.回転斬撃による範囲攻撃
 3.体術と斬撃を組み合わせた単体への五連撃
 4.砂かけによる目潰し。暗闇の状態異常を受ける
 5.辺りの物を投擲。射程2~3
 6.『蒼の神月』による攻撃

●NPC
 【モナト・アルヴァルク】
 今回の勇者の剣騒動の中心人物。傭兵家業で生計を立てており、対人・対魔物と戦闘経験は豊富。
 性格は実直で誠実、ストイックに剣の腕を鍛える求道者的な人間だが、何故今回のような騒動を起こしたのか……?


作者コメント Comment
 どうもみなさま、読み難い名前のGMこと伊弉諾神琴(いざなぎみこと)です。

 勇者の世界には必須の伝説の勇者の剣――。
 はてさて、彼が持つ『蒼の神月』は本物なのでしょうか?


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:135 = 90全体 + 45個別
獲得報酬:3000 = 2000全体 + 1000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
●作戦
真っ向勝負は厳しそうなので、罠にはめる方向で。
1.プラムが剣から引き離した隙に蒼の神月や大剣を奪取
2.チョウザ中心に煽てて試し切り…硬物切りに乗ってこなければ、丸太や藁束の中に硬いものを仕込んだり
3.どれもダメなら力押し。天命を信じて部位狙い

●事前準備
『蒼の神月』『月光の勇者』またモナト自身についても調査、情報共有して行動の参考に

●行動
主に非常時の備え…特に一般人を誘導に使う場合、モナトが激高して襲う危険もあるので
荷物カバンに偽装して盾を携帯、有事には庇って戦えるように。
また戦闘時にモナトの様子がおかしい場合、一か八か『欲望吸収装置』を試してみる。金銭欲や名誉欲の暴走なら抑えられるかも?

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
そんなに凄い逸話な剣だと勘違い出来ちゃうくらいにきれーな刀身。
…砕いたらもっときらきらにできそーだよね。装飾品にお誂え二重丸じゃん?砕く以上の指示ってなかったよね?ふふ。

戦いに持ち込むのはぶっちゃけめんどいし、やりたくない。
そー考えっと、あっちが意図的に割る、或いは割らざるを得ない状況下に持ち込むのが1番お手軽かなーって。

だからとりまザコちゃんも、お話聞いてる村人様達の中にまーぜて。しょーもな面白お話ちょーだい。

その剣の逸話に詳しいんだー、初めて実物やったー、って【ハッタリ】かまして、ある事ないことぶち込んじゃお。ホントは知らないのは【隠匿】系。
調子乗らせないとだから【会話術】で盛り上げてく。

プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
「それは、神が人に与えたもうた一振りの輝き。
あぁ、貴方が救世主様…!」

【化粧品セット】【変装】でシスターになる。

年相応の好奇心を抑えて大人びた振る舞いをしていても、モナトの話には目を輝かせずにはいられない清楚なシスター設定。
【人心掌握学/心理学/会話術/演技/説得】を駆使してモナトを信用させ、ハニートラップを仕掛け隙を作る。

しかし、上記作戦で剣を破壊出来なかった場合は、
翌日の早朝にシスターという立場、モナトにも使った技能で村人を集め
『あの剣は蒼き月が無くとも、岩程度であれば簡単に一刀両断できる。』
と吹聴し、モナトが起きてきたら一刀両断ショーを開始せざるを得ない状況にし、モナト自身に破壊させる。

リザルト Result

 時刻は満月の夜十一時、北東の農村、ザレン。丘の上から三名の勇者の卵たちが村を見下ろす。
「ここが月光のゆーしゃ様がいるっていう村ねぇ。月明りが村をキレーに照らしてくれて、イイ雰囲気醸してるじゃん?」
 蒼い月明りが照らす小さな農村を眺め、【チョウザ・コナミ】は作り笑いを見せる。
「その月光の勇者ってのも偽物臭いけどね。調べてみたけど、子供向けの絵本みたいなお話ばっかりだったわよ」
 剣と盾を荷物に偽装して持っている【フィリン・スタンテッド】が、件の傭兵モナトが現在いるとされる村長の邸宅に目を向ける。
「まあ真実なんてすぐに分かるでしょ。本人の口から直接聴けばいいんだからね……フフッ」
 男子生徒であるが何故かシスターの変装をした【プラム・アーヴィング】が、蠱惑的な笑みを浮かべる。
「じゃあ手筈通りに。私は『プランB』の用意と破壊攻撃に備えて隠れているわ」
「おーけー」
「了解したよ」
 鞄を抱えてフィリンが村長邸の方角へと一人駆けていくのを見送り、チョウザとプラムはやや時間をおいて村長邸に向かう。

 ザレンの村――村長の邸宅。
 そこには『蒼の神月』という聖剣の演説を聞き、惹かれた村人たちが居た。今は『蒼の神月』をその手に収めた時の話を彼の口から聞いているところだ。
「『月光の勇者』の墓標に埋葬されていた聖剣を盗掘した墓荒らし共を、一人残らずその手で屠るとは!」
「聖剣の所有者に相応しい実力! やはりアルヴァルク殿は所有者に相応しい!」
 未だ事実か虚偽か判然としない筈の話を、やや妄信的な村人たちは自分の中で勝手に正統なものとしていた。現所有者であるモナト自身も聖剣の力を疑っていない。故に彼の語る物語の一つ一つが真実味を帯びているのだ。
 彼らの話が熱中している最中、ふと玄関のノッカーが鳴った音がする。
「こんな時間に来客か?」
「……警戒して開けてくれ」
 玄関に近い村人に扉を開けることを指示し、モナトは愛用の大剣を抜きやすい位置に手を持ってくる。聖剣を守るためには些か過敏すぎる反応だが無理もない。
 言われた通りにゆっくりと扉を開ける村人を注視するも、玄関前に立っていたのはモナトの予想に反する人物だった。
 一人はゆったりとした黒地の修道服を着るシスター。もう一人は初見で奇抜としか言えないカラフルな装いをした女性。異様な取り合わせの来客に、モナトの猜疑心は大きく膨れ上がる。
「……貴殿は何者だ? 見たところ、教会に仕える者だとお見受けするが、何故このような夜遅くに?」
 心中に湧いた疑問を率直にぶつけたモナトの目には、ありありと懐疑の念が込められている。
「ああ……貴方が『月光の勇者』の後継。神が人に与えたもうた一振りの輝きを持つ勇者……! 私は待っていたのです……本当の勇者の後継がこの地に現れるのを!」
「ザコちゃ……あーしはそのお供ってかんじぃ? 月光のゆーしゃ様のお話聞きたい一モブって立ち位置ぃ?」
 が、二人は怖気づかずに自分のペースに持ち込むよう返答する。芝居がかったプラムの言葉だが、無知な村人たちの心中を揺さぶるには十分だった。恐らく誰も彼がシスターだということを疑っていないだろう。
 唯一訝しんでいるモナトも、剣の破壊を懸念しているだけかは分からないが、プラムのことはシスターとして信じたようだ。……一度呼び名を口籠ったド派手な女性はさておいて。
「……良かろう。入るがいい」
「おぉー寛容寛大感謝感激ー」
「ああ! 有難きお言葉……月光の勇者様のご慈悲、感謝いたします!」
 村長邸の付近にある木の上から、フィリンが開いた扉越しにその光景を見ていたが、さしたる苦労もなく家へと入っていったことに驚嘆していた。
「意外なくらいにすんなりと入っていけたわね……というかよく通したわね……?」
 一番の難関と思っていた『モナトとの接触』も容易にこなした。後はあの二人に任せるとしよう。頭と弁舌の回転力に関して、あの二人ほどこの状況に適切な人をフィリンは他に知らない。自分のやるべきことを為すべく、フィリンは月夜の闇に姿を溶け込ませる。 

 時刻は深夜十二時を回る。
 見知らぬ女性を交えた会話は思いの外白熱していた。モナトが語ったことをチョウザとプラムが巧みに煽り立て印象を良く見せる。聞いている村人たちも次第に気が乗っていき、モナトをどんどん持ち上げ始めた。
「済まぬが、湯を頂いてもよろしいか?」
「ええ、どうぞ! 村長からも許可を頂いておりますのでご自由に!」
 過熱する場の雰囲気に耐えかねたのか、この場から遠ざかるように湯浴みの申し出をする。その会話を耳ざとく聞きつけたプラムはここで一気に距離を詰めた。
「でしたら私もお付き致してもよろしいでしょうか?」
「……不要だ。我は童ではない」
「ご遠慮なさらずに。私は傭兵家業の方々の苦労、心労は甚く知っています。ほんの少しでも慰労ができるのであれば、私の身を粉にしてでも貴方に尽くしたいのです」
「むぅ」
 無下にするのもよくないか、とでも思っているのか、しばし考え込んだのち――。
「……許そう」
「ああ……感謝いたします! 勇者モナト様!」
 花のような笑顔浮かべるプラムから顔を背け、モナトは速足に風呂場へと向かった。
「ちょっとお花摘みにしつれー」
 二人が風呂場がある方面に進むのを見計らい、チョウザもそっと後を付ける。
 傍から見れば強引なプラムの行動だが、最早チョウザには見慣れた光景だ。好機と思い隙が出来るタイミングをひた量る。隠れながら二人が風呂に入るところまでを確認したが、『蒼の神月』までは風呂の中まで持っていかなかった。
「月光のゆーしゃ様の見た目麗しな偽物聖剣はどこかなー?」
 ひっそりと呟きながら聖剣の捜索に入ると、服の籠の隣に二つの剣が立てかけてあった。
 片方は黒革の鞘に収まった大剣。
 もう片方は改めて見ずとも一目で分かる。鞘に納められていない水晶体の剣――これこそが『蒼の神月』だ。
「ビーンゴー」
 指を鳴らし、チョウザは聖剣へと手を伸ばした。
「逃げるルートは盛りだくさんだしぃ? テキトーに圧を感じるゆーしゃ様に折ってもらえば――」
「扉の向こうの者、コソコソと何をしている」
 ――なーんでバレてるのかなぁ?
 扉越しに聴こえた声にチョウザの背筋がひやりと冷える。
 プラムが文字通り体を張って気を引いていることには違いないはずだが、よくもまあこちらの気配にまで気が回るものだ。今もモナトへ気のせいだと気を逸らそうとしているが、モナトの意識は何者かがいるであろう扉の反対側に向いていた。敵意を越した、殺気のような気配を。
「……これはムリムリー」
 これ以上聖剣に近づこうものなら、プラムが制止しようと構わずチョウザの元へと行くだろう。チョウザが感じている気配は、殺害すら意に介さないまでに至っている。既に不審がられていることに違いは無いが、これ以上刺激しすぎるのも良くない。
 言葉に従い、チョウザは大人しく脱衣所を後にする。
 出た気配を察知したモナトが風呂場から出てくると、プラムに退出を促した。
「シスター。早く出るがいい」
「え、えっと。お着替えをお手伝いいたしますよ?」
「不要だ。二度は言わんぞ」
 先ほどからプラムも懐柔に苦戦していた。
 モナトの気を引こうと彼自身が持ち得る術全てを尽くすものの、こちらに対する一切の興味も感じられなかった。『惹かれない』というよりも『それすらもどうでもいい』と思っているような、聴いた話とは幾分違う高潔さに似た雰囲気を漂わせていたのだ。
 彼の語気や気配、会話の端々に匂わす印象を心理学に照らし合わせて推察するが、このままだらだらと実りの無い説得や色仕掛けを続けても意味が無いと感じた。
「どうやら、良からぬ鼠もいるようだしな」
 ため息を吐いたモナトを他所に、プラムも指示通りに脱衣所を後にする。
 それから数分後、脱衣所から『蒼の神月』を携えたモナトが姿を現す。
「この聖剣の力を見たいと、先ほどの話でも言っていたな。ついてまいれ」
 短くそう告げるとモナトは家から出ていく。そのまま村長邸の傍にあった岩の前に自ら立ちはだかると、携えていた『蒼の神月』を岩に向け構える。
「ちょっと待って……もしかしてあの人、自分から破壊しようと……?」
 岩の傍に生えた木の上に一時間ほど隠れながら破壊のタイミングを伺っていたフィリンだったが、モナトが『蒼の神月』を下段に構えたことに驚きを隠せなかった。
「チェストォォォッ!」
 真一文字に振るわれた斬撃は、抵抗無く岩の一部を見事に切り裂いた。
 その上肝心の『蒼の神月』は傷一つ付いていない。
 モナト自身の技量により、剣にかかる負荷を可能な限り減らしたこともあるが、水晶体とて刀剣としての形を成しているためか硬度はそれなりにあることもわかったが――。
「ほぇー意外によく斬れるもんだねぇ」
「す、素晴らしい……ですね!」
 これでは何の意味もない。事前にネルウァから『剣の形を模した綺麗な水晶の塊』と言われていた。故に剣としての性能は無いと思い込んでいたが、岩を容易く切り裂いたのだ。現状用意できる物だと全て同様に切られてしまうやもしれない。チョウザとプラムもこれには驚愕する。
「『神月の日』でなくともこの剣は岩程度なら軽く断ち切れる。汝らよ、これで満足か?」
 モナトが放つ威圧感が増していく。少年少女へと放つようなものではない。魔物や悪人と相対するそれに近い。
「こうなったら……!」
 チョウザとプラムが気を引いていられるのも限界だ。こうなったら一か八か破壊を狙うしかない。
 威圧感を大きく強めたモナトに、フィリンは一瞬で判断と覚悟を済ませる。盾と剣が一体になった『クリスタルブレイブ』を抜き放ち素早く構えると、真下に居るモナト目掛けて一気に跳びかかった。
「ッ――何者ッ!?」
 一瞬漏れ出た殺気に反応したモナトだったが、武器破壊を狙ったフィリンの不意打ちを咄嗟に『蒼の神月』の剣脊で受け止めてしまう。
 『クリスタルブレイブ』の切っ先が剣脊の中腹に直撃する――硬質の物体がかち合った甲高い音が鳴り響くと同時に、『蒼の神月』に一筋のヒビが入る。
「ば、バカな!?」
 部位破壊を狙い先端に力を一点集中させた刺突でも、僅かながら水晶体に綻びを作り上げるしか至らなかったが、偽物の証明には十分すぎる傷だった。
「やったの……!?」
 落下しながら突いた勢いを受け身でいなし、フィリンは剣が当たったであろう『蒼の神月』の刀身を見た。当たった場所には確かにヒビが刻まれていたが、果たしてその傷跡をモナト自身が認めるか否か。
「圧を感じるゆーしゃ様の剣捌きに感服感服。んで、ザコちゃんと同じくモブたる村人の皆々様ー? まさか伝説の勇者が持っていた聖剣が、勇者の卵の学生如きの攻撃で壊れる訳は無いよねぇ?」
「強い衝撃如きで壊れるってことはつまり、これでこの聖剣が偽物だと証明されたことだね」
 モナトと置いてけぼりの村人たちに煽りが混じった言葉をかけるチョウザとプラムは、フィリンの前に素早くカバーに入る。熟達の傭兵といえど、一度に三人相手取ることには幾らか躊躇するはずだ。
 それに対しモナトは剣と彼女らを二度三度見合すと、一度肩をがくりと落とす。わなわなと肩を震わせるその様は、騙された、或いは自身の情けなさへの怒りからか。
 怒り狂いこちらへ攻撃を仕掛けてくることを警戒し全員が戦闘態勢に入るが、杞憂に終わる。
「ガハハハハハッ! ああそうだな! まんまと騙されたというわけか、我は!」
 その反応には敵意らしきものは存在していない。聖剣の伝説を真に受けた自分の愚かさを、むしろ自嘲するような気配すら感じ取れる。
「汝には罪は無い。だが済まぬな――ぬぅん!」
 剣へと語った謝罪と共にモナトは剣をヒビが入った峰から岩へと叩きつけた。
 ヒビが入った脆い個所へ強い衝撃を加えられ、『蒼の神月』の刀身は硝子を割ったような音と共に粉々に砕け散る。巻き上がった水晶の雨が蒼い光を乱反射させるその光景に、生徒たち三名は目を奪われる。
「名も知らぬ少女たちよ。今この場で礼を言わせてくれ。この剣が壊れねば、我はいずれ万の民衆に虚偽を吐いた大ぼら吹きに成り下がっていたところであった」
 唯一残った剣の柄と刀身の残骸を鞘に納めたモナトは、憑き物が落ちたような表情で生徒たちに向き合い頭を下げた――少女たちという言い回しは、たぶんプラムのこと含めて言っているのだろうか。
「例え偽物とて、散る時は美しい末路を辿れる方が良かろう!」
 そう言うとモナトは、砕け散った水晶の欠片を拾い上げ、豪気な笑いを上げて森へと去っていった。
 最後は自分で剣を砕くという、あまりにも呆気ない結末だった。
「へぇ……最後は自分で月の雨を作っちゃうってねぇ。面白いよーへい様だぁねぇ」
「本当にあの人、聖剣の存在を信じていたの?」
「そうだろうね。でも確かにあの人の本心は実直そうだったよ。風呂場でもそうだったから」
 砕け散った『蒼の神月』の刀身は、今もなお月光の蒼い輝きを失っていない。
 チョウザは欠片を一つ拾い、フィリンとプラムは去り行く背中を見送っていった。

 それっきり『蒼の神月』の噂は途絶えた。モナトという傭兵の噂も聴かない。
 『蒼の神月』の破壊から三日後、学園宛に大量の水晶の欠片が届いた。
 その水晶が果たして何を意味しているのか――それが分かるのはとある教師二名と生徒三人だけだったという。



課題評価
課題経験:90
課題報酬:2000
でんせつのゆうしゃのつるぎ
執筆:伊弉諾神琴 GM


《でんせつのゆうしゃのつるぎ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2019-08-19 22:22:30
最初かしら? 勇者・英雄コースのフィリンよ、よろしく。

『蒼の神月』の破壊は異論ないけれど…モナトって人、説明だと本人の強さも結構な脅威かも。
何かしら策を練らないと8人がかりでも危ないかもしれないわね。

…ちょっと思ったんだけど、話にあるモナトの攻撃って殆どが『蒼の神月』関係ないわよね。
いっそ『蒼の神月』だけを握らせて、他の攻撃ができないようして戦った方が楽な気もするんだけど、どうかしら?

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 2) 2019-08-20 12:45:32
そんなに凄い剣だと勘違い出来ちゃうくらいにきれーな刀身だったら、
砕いたらもっときらきらにできそーだよね。装飾品にお誂え二重丸じゃん?ふふ。

てかザコちゃんが思ってんのはー。
『戦え』とは一欠片も言われてないんじゃん?『砕け』とは言われたけど。
だからさ、あっちが意図的に、或いは調子に乗って砕いてしまうような結果に持ってけば良さみかなって。

村のお人とお話してるくらいだし、害意敵意なかったらふつーにお話出来んでしょ。
会話内容が普通になるかは別としてさぁ。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 3) 2019-08-20 20:11:20
>チョウザ
うん、それでいいと思う。
というか真っ向勝負したら負ける、多分。
自滅させるのは…思いつかなかったけど、何か名案ある?
いけそうならのるわよ。

会話は…方向性の希望があれば、何とかできると思う。
この手の調子こいたバカを乗せるのはなれt…ごめん、今のなし!

えーと、コツは教わったことあるから、なんとかできると思う、わ。

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 4) 2019-08-20 23:33:47
ふんふん、それなら俺が役に立てるかもね?(ナチュラルに会議室に座りながら)
俺の修道士という立場を利用して、煽てるのもアリ。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 5) 2019-08-21 20:36:54
そろそろプランを考えないといけないわね…全体方針としては煽ててポカさせる方向でOK?
騙したり言いくるめるなら、ある程度足並み揃えておかないと足の引っ張り合いになっちゃうから、どう騙すか、誘導するかくらいは伝えておいてもらえると助かるわ。

私の思いついた案だと剣の力を見たいとか、勇者様に稽古をつけて欲しいとか煽てて硬いものを切らせる…
試し切りする者に硬い何かを仕込んでおく、みたいな感じかしらね

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 6) 2019-08-21 22:24:51
ザコちゃんも圧を感じる女ゆーしゃ様と考え認識近めかな。

ほら、村人集めて好き勝手語りやっちゃうくらいだし、
どーせしょうもな自慢驕り語り大好きなお人なんじゃん?だからほら、なんてーの?

ひゅー、ゆーしゃ様かっこいー。魔物まっぷたつにできるんだってねー。
選ばれし者なら岩も1振りで切断できるって逸話があるんだよねー、
あと谷底にぶん投げても、使い手の手の中にひとりでに戻ってくるらしーねー、とか。
そんな感じで、細かな点はなんでもいーけど、そんな感じで煽り持ち上げまくれば良くない?って。

馬鹿正直に乗っかってくれればそりゃお手軽だし、
乗らないなら乗らないで、数少ない信じてるお人のお心がさらに離れるだけ。
言うだけタダだし、損もないし?

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 7) 2019-08-21 23:54:33
じゃあ修道士の立場を利用して「聖書曰く〜」みたいな?
純粋な勇者のたまごx3に尊敬されて悪い気はしないでしょ。
女の子三人に。

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 8) 2019-08-21 23:56:36
あ、後戻りできない感じで村人も巻き込んでしまおうか。
硬いものをどうやっても切らなきゃいけないように。

《模範生》 プラム・アーヴィング (No 9) 2019-08-22 21:35:38
とりあえず、プランの共有だけ。

・俺は今回はシスターとして同行
・話術系技能を駆使し、引き付け隙を作る
→その間に二人に奪ってもらう、もしくは何か調査してもらってもいい

・二段構えとして、失敗した場合に備えて「とてつもなく硬いモノを一刀両断にするよう要求」拒否出来ないよう村人を焚きつける。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 10) 2019-08-22 22:13:12
プランありがとう。

プラムは誘導役ね。
上手く引き離して奪取できそうなら狙ってみるわ。
私は奪取と調査、後失敗時の二段構え…『蒼の神月』を奪えそうにないなら、他の武器だけでも抑えられないか試してみるわ。
後は最悪…戦闘になった場合ね。まぁ二人が十分強いから、私はやることあまりなさそうだけど

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 11) 2019-08-22 22:42:30
んー、ザコちゃんもあっちから処分したり壊したりする方向の会話の感じで組み立ててっかな。
奪う系なことは一欠片も書かなかったから、そっちで行くなら任せちゃっていーい?

戦闘は…そう簡単に壊せる偽物だったとして。
武器無しならお手軽、武器ありならその戦闘の流れで壊す方に移行できれば良さみなんだけどねぇ。