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ホンテッド/ハンテッド



ストーリー Story

『緊急 アルバイト募集。興味のある方は大図書館受付まで』

 眼鏡の青年がポスターを貼っている。
 図書委員と書かれた腕章を目で追ってしまったのが運の尽き。
「おや! 興味がおありですか!?」
 もの凄い勢いで距離を詰められた。
 脳裏に過るロックオンの文字。
 ちょっとした恐怖を感じる距離の詰め方だ。
「はいっ、どうぞ! 放課後に説明会があるのでよかったら来てください!」
 高いテンションでチラシを押し付けられた。
 裏返してみるが、肝心の仕事内容が書かれていない。
 書き忘れだろうか?

「ようこそ長口上は以下省略っ、知識の宝庫『大図書館(ワイズ・クレバー)』へ!」
 単純に図書館のアルバイトに興味があった者。
 困っているならとお人好しを発揮してしまった者。
 本を返しに来たら『君は選ばれし勇者ですさぁさぁ今こそ勤労タイムナウ』と問答無用で扉の裏へと引きずりこまれてしまった者。
 様々な理由を持つ者が一同に会した。
 
「八色の街『トロメイア』はご存じですか? 大陸一大きなアルマレス山のふもとにある、多種族がたくさん集まっている町なんですが」
 【オズマー・クレイトン】と名乗った図書委員が街の地図を取り出すと、机の上に広げた。
「この街の東側に『百神殿街』という遺跡群がありましてね。今回、その内の一つにお使いに行ってほしいのです」
 百神殿街とはアルマレス山に集った百の精霊を祀る神殿が建ち並んでいる区画だ。
 神殿として機能しているのは半分ほどで、残り半分は商会などが買い取って観光施設として運営している。
 地図の横には一枚の朽ち果てた風景画が置かれている。
 白いチェス盤を思わせる床に崩れた円柱。
 中心には地下へと繋がるであろう階段の入り口が見えていた。
「ここは、かつて神殿書庫として使われていた建物のうちの一つです。ありがたいことに、保存されている魔導書の一部を学園に貸してくれるとお申し出がありました。皆さんには現地に向かってもらって可能な限り沢山の魔導書を狩ってきてもらいたいのです」
 やけに早口の説明だ。 
 ニュアンスのおかしい部分も聞こえたが『借りてきてもらいたい』と言い違えたのだろうと聞き流すことにした。
「装備は戦闘用を持って行って下さいね、お願いします。あ、これ、お小遣いと檻です。お土産よろしく」
 当然のように渡された檻が重い。
 何故檻が必要なのだろう。
 ノンストップ・ザ・不吉な予感。

 空が青い。本日は雲一つない快晴。
 遠くに見えるアルマレス山の稜線がくっきりと鮮やかに見えていた。
 活気あるトロメイアの街中を抜け、百神殿街に近づくほど神秘的な空気が色濃くなる。
 神職めいたローブを纏うアークライトもいれば、観光目当てでやってきたのか、はしゃぐルネサンスの家族もいる。
『歓迎、ようこそフトゥールム・スクエアの皆さん』
 そして静かな百神殿街の入り口にヒューマンの女性がガイド用三角フラッグを持って立っていた。
 案内役として来た垂れ目の彼女曰く。
「好きな魔導書を持ち出して構いません。ただし、日が沈むまでに神殿書庫から持ち出せた本に限りますが」
 階段の下は暗くて見えない。
 地下から流れ出る冷たい空気がひやりと足元を覆う。
「地下にはゴーレムが配置してあります。飾りではなく本物です。『きりょく』『たいりょく』『まりょく』の高い方が近づくとうっかり稼働しますので気をつけてくださいね。もっとも、奥に行かない限りは会わないでしょうけど。ふひゃははは」
 笑いごとではない。
 よく見れば説明する目が死んでいる。
 何があった。
「魔導書には保存魔法がかけられておりますので、多少乱暴な扱いでも平気です。それと、ここが一番大切なことなのですが。魔導書の所有権を神殿書庫から学園へと移さない限り、本は書庫の外に出すことができません。所有権の譲渡方法は簡単です。魔導書に力を認めてもらうだけ。つまり」
 スッと人差し指が立てられた。
「魔導書と戦って勝てば、めでたく貸し出しができるという訳です。ふひゃはははは」
 重ねて言うが笑いごとでは無い。
「しかし簡単に持ちだせるとは思わないことですよ! 暗くて無音の神殿書庫! どこを見ても本棚ばかりで気が狂いそうな閉鎖空間! 闇の中からゴーレムに襲われるんじゃないかとビクビクしてたら同僚の悪戯でした~、から始まる微妙な空気の悪さ! どうですか。貴方たちはこの恐怖に勝てますか!? さぁ、狩るのです。狩って狩って持ってってー!!」
 何かトラウマでも刺激してしまったのだろうか。
 悲壮感とやけっぱち感に満ち満ちた女性に見送られ、一行は地下へと向かった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2019-08-25

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2019-09-04

登場人物 4/8 Characters
《新入生》クロード・クイントス
 ヒューマン Lv11 / 賢者・導師 Rank 1
色々と考えてから行動するタイプ。 あまり感情的にはならずニッコリ笑顔を心がけている。 でも顔は笑っていても眼は笑ってない。 厳格な家庭で育ったため人間関係に疲れて孤独を好み、自立するために家を飛び出し、秘めていた好奇心をさらけて放浪癖を患う。 ※アドリブ歓迎
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」

解説 Explan

 トロメイア『百神殿街』にある神殿書庫から、たくさんの魔導書を持って帰りましょう。
 本は自分を持ち出すだけの力があるか試そうとします。

〇神殿書庫
 地下は以下の四つの書架から成り立っています。
 書架によって、所蔵されている魔導書の性質とレア度は異なります。

【第一書架】
 レア度は低いものの、心優しい本が多く眠る書架です。
 力の弱い者、心の優しい者が現れれば、心配のあまり自分から負けてくれるでしょう。

【第二書架】
 悪戯好きで好奇心旺盛な魔導書が多い書架です。
 興味本位で喧嘩をふっかけてきますが、強くありません。
 範囲攻撃や、一ヵ所に集める事が出来ればまとめて捕獲できそうです。

【第三書架】
 レア度の高い気難しい本がいます。
 典型的な『わが力を得たくば汝の力を示せ』系の本が多い書架です。
 一対一(サシ)の勝負を好みます。

【第四書架】
 迷った先で出会えるかもしれない回遊魚の如き書架です。
 レア度は非常に高いですが、気まぐれが多く、すぐに逃げます。

 地下書庫内は薄暗く視界が悪いです。
 一定の間隔でゴーレムが配置してあり『たいりょく』『きりょく』『まりょく』の数値が高い者が近くを通ると起動します。
 稀覯本が多く配架されている書架に行くほどゴーレムの数は増えます。
 ゴーレムを倒すこともできますがタイムロスになるので逃げる事をおすすめします。


作者コメント Comment
 こんにちは、駒米と申します。
 今回は図書館からの依頼です。
 地下書架から、たくさんの本を持って帰ってきてください。
 戦闘系依頼ではありますが、冒険/コメディ色の強いものとなっています。


個人成績表 Report
クロード・クイントス 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
まず「悪戯でした~」的な者がいたら杖で容赦なくぶん殴る
「あれ、ゴーレムかと思った~」

攻略
・ゴーレムは基本無視、お勧め通り逃げる、本と戦えば「たいりょく」等は落ちていくので余計な力は振らない
・ランタンを手にして照らしつつ最初は【第二書架】、次に【第三書架】へ
「可能な限り沢山の魔導書を狩る」というのが依頼なので、序盤は第二で狩り
強くないので杖でぶっ叩いて倒す
倒して数が溜まったら戻って本を檻に
・ある程度本を狩って依頼遂行の目処が立てば時間も気にしつつ第三書架へ
本当はここでレア物を狩るのが本命、魔法も使うし本気で倒す

最後はちゃんとお土産を買って帰る

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
機能を用い書庫内を歩き、ゴーレムはなるべく回避

先ず第一書架へ行き、次いで第三書架へ。ある意味ここが私の目的地。勝ち負けはともかく武人としてサシの勝負と聞けば挑まずにおれませんわ

入り口で礼と来意を示したら構えを取ります。挑戦を受けて下さる本が現れたら改めて一礼の後勝負開始ですわ!

本棚や他の本を傷めないよう気を配りつつ立体起動で相手を攪乱し、魔牙で攻撃。相手の攻撃は緊急回避で躱します。危険な攻撃はやせーの勘で察知、部分強化:跳躍でジャンプし天井を足場に突っ込みつつ双撃蹴を

それでもピンチの時は

「これは、血が滾りますわね」

と不敵な笑みを浮かべ祖流還りを用い、全力を持っての正拳突きをお見舞いいたしますわ

チョウザ・コナミ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:195 = 65全体 + 130個別
獲得報酬:6000 = 2000全体 + 4000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
本読む事自体はそこまで好きでもないけど。
珍しい本に満ち溢れ豊富な書庫らしいじゃん?そったら気になる。
ザコちゃん、似たような内容概要の本しか読んだことないけど。ここにはあんな本、確実にないでしょ?ふふ。

とりまザコちゃんが興味あんのは第四書架だけ。
珍しい本の方がいいから。面白そうだし。

でさ、第四書架の場所謎、ってもさ。珍しい本のあるとこになるほどゴーレム増えるらしいし、ってことはゴーレム密集集まりしてる方向へ向かい続ければ、どーにでもなるじゃん?見つかるでしょ、多分。

たいりょく、きりょく、まりょくが多いと反応するってことは逆に言えば、少なかったらよゆーなんじゃん?
じゃ、ザコちゃんそれ全部削っから。

タスク・ジム 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
出発まで【事前調査】して仲間に共有
神殿の仕組み、出現する魔道書、ゴーレムの動き、第四書架の動きについて
情報収集して【推測】
また、学園の大図書館の魔道書を収蔵する書架について把握しておく

第一書架へ行き
心優しい魔道書たちに
大図書館に来てほしいと【説得】
【会話術】【博愛主義】も使用
大図書館の魔道書用書架がいかに居心地良いか
図書委員がいかに本を大切に管理してくれるか
勇者の卵達が貴重な魔道書をいかに必要としているか
そして自分がいかに本を愛するか【読書】で切々と訴える

魔道書がどうしても戦いたいなら受けて立ち
【防護魔力】でガードし
【コツンと一撃】でねんねしてもらう

ゴーレムを見たら【全力撤退】

アドリブA

リザルト Result

「『――階段を降りると、そこは迷宮クジラのお腹の中でした』、なんてね」
「その文章、聞いた事がありますわ」
 眼前の光景を絵本の一文になぞらえた【タスク・ジム】に、【朱璃・拝】(しゅり おがみ)が目を輝かせた。
「確か『迷宮クジラの冒険』だっけ」
 ランタンを片手に【クロード・クイントス】が言う。
「ザコちゃんも聞き覚えあっかも。昔すぎて、中身よく覚えてないけど」
 その後ろを【チョウザ・コナミ】が続いた。
 地下書庫の中は、巨大生物の体内に似ていた。
 岩石を削った巨大な赤茶色の部屋。なだらかな曲線を描く天井。隙間なく両脇に並ぶ長身の本棚たち。
「事前に聞いていたよりも広く感じますね」
「もっかしたら、魔法で広く見せてんのかもね?」
 行く先には吸い込まれるような闇が広がっている。そこからフラリと、一冊の魔導書が姿を見せた。
 魔導書の周囲にはリボンのような白い魔法文字が球を作り、舞っている。
 ルネサンスが珍しいのか。魔導書は朱璃の周囲をふわふわと漂っている。
「この本、ブックカースで包まれていますね」
 タスクが呟いた。
「ブックカース?」
「指定された場所から逃げ出すことのないよう、本に施される防犯魔法の一種です。こうやって」
 手にした指揮棒でこつんと叩くと、魔導書を包み込んでいた白い文字列がシャボン玉のようにはじけて消えた。
「衝撃を与えると解除されます」
「第一書架はこうやって貸し出すみたいだね。これなら手荒な真似をせずに済みそうだよ」
 クロードが安堵した表情を見せる。
「我々ルネサンスは文字の文化を持ちませんので、字を読めない者が多いんですの」
 魔導書がショックで震えた。
「そんな我々に文字を学ぶ機会を頂けませんでしょうか?」
 お任せあれ! 魔導書は瞬時に復活を遂げた。
「第一書架の本が協力的って話は、真実本当みたいじゃん?」
 すでに魔導書は朱璃の持つ檻のふたを開け、勝手に中に入っている。
 オズマーから各生徒に渡された檻には、魔導書を安全に保つ魔法がかけられているらしい。
「なら、僕は第一書架の魔導書たちに協力を呼びかけてみます」
「ザコちゃんは反対に、面白珍しい本、探してくんね」
 タスクが言えば、チョウザが反対方向を指さした。
「自分は第二書架か、第三書架に向かってみるよ」
 暗がりに慣れてきた目で、クロードが闇の奥を見据える。
「私は第三書架に向かうつもりですわ。サシの勝負と聞いては黙っていられませんもの」
 楽し気な顔の朱璃が拳を握った。
 果たして、彼らはどんな魔導書を持ち帰るのか。
「うまく行先がバラけましたね」
「そんじゃ、また夕方に」
「地上でお会いましょう!」
「お~っ!」
 貸出し、スタートである。

●第一書架
「こんにちは! 魔法学園、勇者・英雄コース所属のタスク・ジムです。どうか僕たちに力を貸してもらえませんか」
 ブックカースの解ける音。古びた書見台にまた一冊、魔導書が積みあがった。
 空気はひんやりと心地よい。神所特有の静けさはあるものの、第一書架から害意は感じない。
 タスクは魔導書たちに大図書館の魔導書用書架がいかに居心地良いかを語っていた。
 そこで活動する者達が、いかに本を大切に管理しているかも。
 図書委員を目指して日々精進を重ねているタスクにとって、自分の口で説明する事は新しい発見に満ちていた。
 神殿書庫で人寂しい毎日を送っていた魔導書たちにとって、タスクの口から語られる魔法学園の生活は魅力的に聞こえた。
 魔導書とは言え元は本。誰かに読んでもらわなければ存在する意味が無い。
 勇者の卵が自分たちを必要としている。
 しかも、そこは本を愛するタスクのような者が多く集うと言うではないか。
 これ以上の殺し文句はない。
 どちらにも利がある交渉の結果、長い行列が生まれた。
 並んでいた列がようやく途切れ、タスクは満足感と共に額に滲んだ汗をぬぐう。
 澄まされた耳が鎖の引き摺る音を拾ったのは、そんな時だった。
 ――の事務に……。
 総毛立つ悪寒。
 魔力と憎悪を含んだ黒霧がじわりとタスクの足甲を覆っていく。
 ――世界は……。
 黒い霧を引き連れ、棚の影から現れたのは一冊の本だった。
 かつて神殿書庫に封じられた本。
 負の残留思念が魔力を帯び、他者を害するようになったせいで神殿へと持ち込まれた。
 擦り切れた怨嗟の声は本に刻みついた影法師のものであり、薄れることは無い。
「こんにちは」
 しかし、タスクはひるまなかった。
 声をかけてきた少年に鋭い敵意が向けられる。いまや黒い霧が全身を覆い隠そうとしていた。
 タスクは本に対して両手を差し伸べた。そうすべきだと思ったからだ。
「僕と一緒に来てくれませんか?」
 両手を差し出され、優しい声をかけられ。
 本は静止した。声をかけられ戸惑っている風でもあった。
 ――その声は。
 徐々に、悪意を纏った魔力の霧が薄れていく。それが書の答えだった。
 書物は静かにタスクの元へと進み出ると、騎士が臣下の礼をとるかのように傾ぐ。
「これから、よろしくお願いします」
 錠の外れる音。力を失った本は床へと落ちた。
 優しく拾い上げ、タスクは表紙についた埃を払う。ふと、表紙に書かれた題名を目にした瞬間、タスクの両眼が大きく開かれた。  
『事務の危機管理』。
 著者の名は、リスク・ジム。
『あんたが勇者になるのなら、あたしから依頼がある』。
 思い出すのは自分とよく似た優しい声。金髪の後ろ姿。
「これは、おばあちゃまの……」
 乱れる心を覆い隠すようにタスクは本を抱きしめた。

●第二書架
 強化された視野が闇に紛れた書棚を捉える。
 クロードが訪れた第二書架は第一書架と違い、深い海溝を渡るような細い通路だ。
 クロードは両手で『エンディミオン』の柄を握りなおした。
 その尾行に勘付いたのは偶然だ。
 書庫へ入る際に聞いた案内人の注意。
 先程から背中に感じる無邪気な悪意。
 もしかしたら両手杖の中に収められた魔導書が、同族の存在を敏感に感じ取ったのかもしれない。
 理由はさておき、クロードがすべての情報を統合して出した結論は……やられる前にやれ、である。
 今だと告げる第六感に従い、クロードは全力で両手杖を振り抜いた。
 ぱっこーん、と。とても良い音がした。
「あれ、ゴーレムかと思った~」
 クロードは驚く様子もなく、へばりついた棚から重力に負けてズルズルと床に落ちていく魔導書を見やった。
 魔法学園のトンガリ帽子の下には朗らかな笑み。
 残った感触を確かめるように両手杖を握り直していなければ、旧友と再会して喜んでいるようでもあった。
 様子を伺っていたのだろう。他の本が地面に伏せた本にそろりと近寄った。ページでつつき、器用に頁を折り曲げてサインを作る。
 T.K.O。テクニカル・ノック・アウト。
 聞こえるゴングの幻聴。
 第二書架に衝撃が走る。
「それで、次は誰?」
 杖で肩を叩きながらクロードは問いかけた。
「礼儀には礼儀を返すけど、無礼にはそれなりの対応をさせてもらうよ」
 悪戯好きとはいえ、そこは魔導書。
 かしこさは高かった。

「悪いね。第三書架まで案内してもらっちゃって」
 ――兄貴の為なら喜んで道案内するッス!
 クロードの持つ檻はずしりと重い。
「ところで魔導書って全員こういうノリなの? イメージとかけ離れている気がするんだけど」
 ――そんな事ないッス! あ、ここッス。この部屋に兄貴にふさわしい魔導書が眠っているッス!
「確かに。今までと空気が違うようだね」
 緊張を全身に巡らせる。円形に並べられた書棚。中心に据えられた白い舞台。まるで古の闘技場だ。
 クロードは迷う事なく中央に設置された円形舞台へと足をかけた。
 朧気に現れた魔導書の影がクロードを取り囲み、やがて輝く三冊が円陣の輪から抜け出した。
「わが名は賢者・導師コースのクロード・クイントス。最初の相手はどなたかな?」
 蒼い表紙の魔導書が実体化し、挑発するように魔力を放出した。
 クロードの口に好戦的な笑みが宿る。
「……お気に召したとあらば光栄の極み」
 足元から吹き上げる風と燐光。
 エンディミオンに宿された魔導書に水属性の魔力が集まる。
 単純な力比べを好むのか。目の前の魔導書も水属性の魔力を集め始めた。
「わが勇者としての器量、御照覧あれ!」
 舞台を揺るがす轟音が、戦端を開く合図であった。

 死闘に死闘を重ね、遂にクロードが手にした三冊の魔導書。興奮のまま拾い上げたそのタイトル。
『古時代料理レシピ 全三巻~第一巻~』。
「いやまぁ、確かに学園に入学して料理の腕は上がったが」
 気を取り直して二冊目。
『古時代料理レシピ~第二巻~』。
「なぜ?」
 今度こそはと拾い上げた三冊目。
『古時代料理レシピ~第三巻~』。
「全三巻揃った!?」
 どんな奇跡だ。自分からそんなオーラ出てたっけ? 
 いや、出て無かったはずだ。たぶん。自信が無くなってきた。
「この手の本は使われてこその価値、なんだろうけど……」
 自問自答を繰り返し。クロードは複雑な思いで表紙を撫で、苦笑する。
「仕方ない。帰ったら借りてみるか」
 
●第三書架
「たのもう!」
 抱拳。
「私は朱璃・拝。是非私と同道して頂きたく、罷り越しました」
 一礼。
 アーチ型の入り口で立ち止まり、朱璃は朗々と名乗りをあげる。
「一手、御指南つかまつりますわ!」
 第三書架。周囲を取り囲む薄氷色の書架以外には椅子一つない部屋。
 クラゲのように青白く丸い天井。周囲から伸びる幾本もの白柱。
 その広い部屋の中心に魔導書が一冊、現れた。
 ――面白い。まさか武に連なる者が神殿書庫を訪れようとは。
 魔導書の周りに風円の轍が刻まれていく。
 ――魔法での闘いにも飽きてきた頃だ。よかろう、第三書架への入室を許可する。かかって来い。
「それでは御免!」
 上体を屈め、朱璃は跳躍した。
 魔導書が挨拶代わりに打ち出した魔力弾を軽々と回避し、朱璃は柱を足場に壁を駆ける。
「魔牙!」
 お返しとばかりに上段から振るった五爪の斬撃。魔力によって急速に巨大化した爪が、見えない壁によってはじかれた。
 ――浅い。
「なら双撃蹴ですわ!」
 崩れた体勢を空中で立て直し、天井を足場に連続蹴りを放つ。
 間髪入れずの猛攻に、魔導書がバランスを崩した。
 次の攻撃に続けようと朱璃が軸足に力を込めた、その時。
 危機感が身体を動かした。
 本能に従い、跳躍する。
 朱璃の居た場所を、見えない斬撃が薙ぎ払った。
 床を抉りながら通り過ぎた余波に巻き込まれ、転がる体躯が強かに本棚へと叩きつけられる。
「……これは、血が滾りますわね」
 しかし不敵な笑みを浮かべて朱璃は体を起こした。
 ――避けたか。しかし、その力。私を貸すには些か足りぬ。
(いいえ、いいえ)
 朱璃の全身が震えた。覗く牙と眼光は普段よりも鋭い。十爪を操っていた腕が銀狼へと変化する。
「全力を持っての正拳突き。お見舞いしますわ!」
 ――よかろう。見せるが良い。
 見据える先は中心点。
「真中正拳突き!」
 ――う、ぬぉっ?
 突き出された拳の先で、硝子の割れる音が響いた。

「っはぁー、燃え尽きましたわ」
 朱璃は笑顔のまま、床で大の字になっていた。
 ――見事。
 付き合いが良いのか、朱璃の隣に寝転びながら魔導書が言う(落ちているようにしか見えない)。
 ――最後の拳は良いものだった。狼の娘、朱璃よ。私と、そこに落ちている神殿の瓦礫の貸し出しを認めよう。
「これですの?」
 戦闘によって崩れたのか。拳大ほどの欠片を持ち上げながら朱璃は首を傾げた。
 ――文字を残す媒体には様々な種類がある。本という形はその一つに過ぎぬ。ここは神殿書庫。神殿自体が文字を書き連ねた魔導書である稀有な場所。
 魔導書は床に大の字になったまま深く息を吸い込んだ(落ちているようにしか見えない)。
 ――私の名は『身体で覚える文字(正典)』。これより世話になるぞ、魔法学園の生徒よ。

 ●第四書架
 紺壁の通路は深海にも似て、冷たく暗い。
 その中を、ゆらゆらと何かが動く。
「よっ、はっ、ほいっと」
 六角棒の先端に灯った手遊びの魔力が軌跡を残して魚を描く。
 明滅するバトンは時に自由な軌道を描き、時に属性の色を纏わせた。
 しばらくすると、集った魔力は闇の中に霧散した。
 しかし【チョウザ・コナミ】に気にしない。
 また新しいマドを生み出し、今度は指先で遊びだす。
 魔力の撒き餌に神殿書庫の守護者たちも黙っていない。ごうんと、廊下の先で重い扉が開いた。
「よーやく御一行様発見」
 侵入者の魔力に反応したゴーレムが闇の奥からのそりと姿を現す。
「さっきより数多めな感じ?」
 ひいふう、と向かってくるゴーレムの数を小声で数え、チョウザは小さく歓声をあげた。
「ってことは、こっちが当たり正解ルート? ザコちゃん、今日はつきまくり」
 チョウザは指先で遊んでいた魔力を背後に投げ捨てた。
 チョウザの服装や顔には汚れが目立つ。すでに何体ものゴーレムから逃げおおせたエメラルドグリーンの瞳が、自らへと振り下ろされる拳に向かって細められた。
「よっと」
 武器となる六角棒を肩に担ぎ、チョウザは背後にステップを踏んだ。
 腹底に響く衝撃。ゴーレムの拳が廊下に叩きつけられ、衝撃で飛んだ小石が壁に当たり反響する。
「んー、んー?」
 再び持ち上げられるゴーレムの腕。そして拳が叩きつけられた廊下。チョウザは二つを見比べた。
「大丈夫そっかなぁ」
 チョウザは両手を下ろした。
 仮に。
 ここにチョウザの事をまったく知らない者が居たなら、今の台詞を聞いて『あの数のゴーレムを相手に勝機があるのか!』と感動しただろう。
 仮に。
 ここにチョウザの事を知っている者が居たなら、今の台詞を聞いて『なにをするつもりだ!?』と慌てた事だろう。
 振り下ろされる二撃目を見上げながら『今度はどこまで耐えれっかなー』とチョウザは暢気に六角棒を横に構える。
 削る体力と気力は相手のものではない。
 自分である。
 
「これで条件クリア?」
 先程よりも更に汚れがひどくなったチョウザが奥へと進んでいく。
 ふらふらとした足取りはダメージによるものか。それとも素のものか。判別がつきにくい。
 ゴーレムたちは廊下で沈黙していた。
 かつて神殿書庫にゴーレムを配置した担当者曰く『……え?』である。恐らく草場の影で目を点にしていることだろう。
「あれかなぁ」
 まるで海のような青い部屋の中。大小様々な魚が自由に泳いでいる。
 よく見れば一つ一つが魚の形をした本のページだ。
「捕獲? しなくて良くないかな? ダメ? 食べてみる?」
 魔導書のページたちは現れたチョウザの姿に驚き、群れと化して部屋の中を回り始める。
 ぼうっと空中を泳ぐページの群れを見ていたチョウザに生まれた疑問。
「見てるのも飽きないけど、とはいえ、ちょっとは読みたいのはたしか事実だし。でも、これってどうやって読むのかな」
 取り出したるは虫取り網。
「ま、捕まえてみれば分かっし?」
 これぞ、後にチョウザの捕まえてきた魔導書を見た図書委員が軒並み卒倒した小さな大事件。
『え? 捕れたの? この本を? 虫取り網で? なんで? ~無欲の勝利。ザコちゃんさん、泡麗族神話写本ページ乱獲事件~』の幕開けであった。



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
ホンテッド/ハンテッド
執筆:駒米たも GM


《ホンテッド/ハンテッド》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2019-08-20 00:21:32
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 2) 2019-08-20 21:10:01
さて、一番興味を惹かれるのはやはり第三書架ですわね。武人としては勝ち負けはともかくサシの勝負と聞いて挑まずにはいられませんし。とりあえず最終的に人数がどれくらいになるかでまた考えましょうかしら?

《新入生》 クロード・クイントス (No 3) 2019-08-21 07:02:24
やあ、皆さんお久しぶり。
硬い挨拶は抜きにして本題に入ろうかな。
第二書架か第三書架で迷っています、第四は書架が回遊魚の如き?らしいので狙うのは止めておこうかと。
数の第二かレアの第三か、さてー。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 4) 2019-08-21 23:01:18
色んな見た事もない本がある、ってのはいーよね。ほんと。
ザコちゃんぶっちゃけ、そこまで本ってのが好きなわけじゃないけどさ。
読んだ事のあるの本がほぼ同じだったってのもあって。でもここならそんなことはまずなさそうじゃん?

って訳で、第四書架探しに遊んでくるね。
たまたま持って帰れそうなら持って帰っけど、ほんとに遊びに行くだけの気でいるから、そんな感じで。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 5) 2019-08-23 20:47:51
今の所まだこの三名みたいですわね。二か所回れるなら第一と第三を回ってみましょうかしら?

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 6) 2019-08-24 13:05:04
遅刻遅刻~!
勇者・英雄コースのタスク・ジムです。
魔道書を集める任務、図書館好きとしては見逃せません。
ギリギリの参加で恐縮ですが、よろしくお願いいたします!

僕は、第一書架で優しい本たちと交流し、穏便にお誘いすることを第一優先に考えています。
文字数に余裕があれば、第三書架ですが、朱璃さんと違う形の活躍が出来ればいいな、と考えています。
バトルなら戦闘ではなく論戦とか、もしくは、朱璃さんの一騎討ちの立会人的な役割も、面白いかもしれません。

それとは別に、キャラクター的にどうしても出会いたい本があり、ウイッシュに願いを託して第四書架探しにも取り組みます。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 7) 2019-08-24 18:04:54
タスク様もよろしくお願いいたしますね。第一書架をメインで回っていただけるのでしたら私は第三をメインに、字数があれば第一も回る感じにしてみましょうか。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 8) 2019-08-24 19:39:57
了解です。ほぼ、分担もうまくいきそうですね。
重なるぶんには、特に問題ないと思いますし。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 9) 2019-08-24 22:24:21
プランは提出しましたわ。第三メインで、第一も少し、という感じでしょうか。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 10) 2019-08-24 22:48:17
プラン提出しました。
事前調査と第一だけで終わってしまいました。
もう少し練れるかもしれませんが…第三は朱璃さんにお任せすると思います。

ウイッシュは、叶うかどうかわからない、マイ設定のために全部突っ込みました。
300字分まるまる反映されなくても、僕は後悔しませんが、皆様にはあらかじめお詫び申し上げますm(_ _)m

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 11) 2019-08-25 00:02:08
プラン完成しました!
リザルト楽しみですね。
お互い、武運を祈りましょう