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ゆうしゃのなつやすみ。


ストーリー Story

 時は流れる。それは必然だ。
 この世に生まれ落ち、『人生』という砂時計をひっくり返されたその瞬間から。さらさらと砂は零れ行き、嵩(かさ)を増していく。
 その無常さを、夢想論者は『運命』などと表現するのだろうが、つまり私たちは、この砂の流れの上を歩き逝く存在にすぎないのだろう。
 いつ訪れるかもわからない、終わりに向かって。着実に。

 時が流れる。それは有限だ。
 ならば、大切なのは。時折振り返り、砂の上に残した足跡を、拾い集めることなのかもしれない。

 忘れないために。憶えているために。『わたし』が生きた、その証を。



 夏も過ぎ去ったとなれば、吹き行く風は肌寒い。
 今日も忙しなく時間割通りの授業を終えた『きみ』は、中庭に備え付けられているベンチに座っていた。
 何をするわけでもない。ただのんびりと、青と赤が混じり合う夕空のグラデーションを眺めていただけだ。
 けれど理由はあった。単純に、疲れていたのだ。ふぅ、と息をつく動作ですら、体が重く感じられる。
 そんな『きみ』を見かけ、思うところがあったのだろう、ひとりの男性教諭が声をかけた。
「さすがにそう簡単には、戻りませんか」
 思わぬ声に『きみ』が視線を向けると、声色通りの柔らかな微笑みと目が合う。
 ハーフリムタイプの眼鏡をかけた金髪の男性教諭……【シトリ・イエライ】は、魔導士らしいローブに身を包み、やけに分厚い本を抱えていた。
 しかし、戻らない、とは何をさしているのだろう。
『きみ』が答えに迷っていると、シトリはベンチの空いている空間、つまりは『きみ』と少し距離をあけた隣に、腰を落としながら、
「夏休みが明けてから、そんなに日も経ってはいませんからね。授業や課題に追われる生活に、まだ体が戻れていないのでは、と思いまして」
 あぁ、なるほど。彼はこう言いたいのだろう。長期休みを終え、これまでの生活に戻っただけなのだとしても、その差に体が追い付いていないのではと。
『きみ』はそれに対し、なんと答えただろうか。すぐに戻れると自分自身を叱咤した? それとも夏休みに戻りたいと冗談を言ったか、それとも。
 なんにせよ、シトリは笑って聞いただろう。膝の上に乗せた書物――表紙には、『毒を持つ魔物の対処法』と書いてある――を撫でながら、
「空も、風も。葉の色さえも、もうすっかり秋めいてしまいましたね。あんなにも避けていた夏の暑さが、少し懐かしく思うほどです」
 確かにそうだな、と『きみ』は思う。少し前ならば、この時間の空はすっかり夜の帳を広げていたし、夏の暑さのせいだろう、風も涼しく感じられた。
 けれど今は違う。空はまだ夜には遠いし、風はひたひたと冬の寒さを連れてくる。
 あぁ、確かに。夏は終わったのだ、と『きみ』は思う。
 アルチェで行われた臨海学校を筆頭に、『フトゥールム・スクエア』で過ごした初めての夏は、なかなかに騒がしかった。
 だからだろうか、あっという間だった気がする。期間にしてひと月半なのだから、けして短くはないはずなのに。
「とはいえ、学生の希望次第で特別授業も開かれますし。課題に関しては通常通りですから、ひとによっては夏休みのほうが忙しかったのかもしれません」
 そういったシトリは、ゆったりとした声で『きみ』に尋ねた。
「あなたはどうでしたか? この夏休み、どのように過ごされました? 私は特に、平常時と変わりありませんでしたが……」
 ゆるりと吹いた風が穏やかな問いかけを運ぶ。その言葉に、『きみ』はどんな時間を思い浮かべたのだろうか。
 久しぶりに帰った実家で、のんびりとした時間を? 
 それとも『ゆうしゃ』の卵らしく、課題や修練に明け暮れた日々だろうか。
「ひと夏の思い出などは、できました?」
 興味深げにこちらの返答を待っている男性教諭に、他意は見られない。であるならば、これは彼の完全な興味による質問だろう。
 成績や評価が関係ないのなら、体裁を取り繕う必要はない。それならば、『きみ』は。
 どんな夏の思い出を、口にするのだろうか。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2019-09-16

難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2019-09-26

登場人物 8/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《ゆうがく2年生》アリア・カヴァティーナ
 アークライト Lv14 / 村人・従者 Rank 1
 幼い頃から聞かされてきた英雄譚に憧れて、いつしか勇者さまを導く人物になりたいと願ってきた。  その『導き』とはすなわち、町の入口に立って町の名前を勇者様に告げる役。  けれども、その役を務めるということは、町の顔になるということ。この学校でたくさん学んで、いろんなことを知ることで、素敵な案内役になりたい!  ……それが自分の使命であると信じて入学したけれど、実のところ勉強よりも、花好きが高じた畑いじりのほうが好きだったりする。そのせいで、実はそこそこの力持ちだったりする。  たぶん、アークライトの中ではかなり変人なほうなんだと思うけれど、本人はあんまり気にしていない模様。  基本的に前向き……というか猪突猛進なところがある、かも。
《甲冑マラソン覇者》ビアンデ・ムート
 ヒューマン Lv20 / 勇者・英雄 Rank 1
●身長 148センチ ●体重 50キロ ●頭 髪型はボブカット。瞳は垂れ目で気弱な印象 顔立ちは少し丸みを帯びている ●体型 胸はCカップ 腰も程よくくびれており女性的なラインが出ている ●口調 です、ます調。基本的に他人であれば年齢関係なく敬語 ●性格 印象に違わず大人しく、前に出る事が苦手 臆病でもあるため、大概の事には真っ先に驚く 誰かと争う事を嫌い、大抵の場合は自分から引き下がったり譲歩したり、とにかく波風を立てないように立ち振舞う 誰にでも優しく接したり気を遣ったり、自分より他者を立てる事になんの躊躇いも見せない 反面、自分の夢や目標のために必要な事など絶対に譲れない事があれば一歩も引かずに立ち向かう 特に自分の後ろに守るべき人がいる場合は自分を犠牲にしてでも守る事になんの躊躇いも見せない その自己犠牲の精神は人助けを生業とする者にとっては尊いものではあるが、一瞬で自分を破滅させる程の狂気も孕んでいる ●服装 肌を多く晒す服はあまり着たがらないため、普段着は長袖やロングスカートである事が多い しかし戦闘などがある依頼をする際は動きやすさを考えて布面積が少ない服を選ぶ傾向にある それでも下着を見せない事にはかなり気を使っており、外で活動する際は確実にスパッツは着用している ●セリフ 「私の力が皆のために……そう思ってるけどやっぱり怖いですよぉ~!」 「ここからは、一歩も、下がりませんから!」
《ゆうがく2年生》樫谷・スズネ
 ヒューマン Lv14 / 勇者・英雄 Rank 1
「ただしいことのために、今の生がある」 「……そう、思っていたんだけどなぁ」 読み方…カシヤ・スズネ 正義感の強い、孤児院生まれの女性 困っている人には手を差し伸べるお人好し 「ただしいこと」にちょっぴり執着してる基本的にはいい人 容姿 ・こげ茶色のロングヘアに青色の瞳、目は吊り目 ・同年代と比べると身長はやや高め ・常に空色のペンダントを身に着けており、同じ色のヘアピンをしていることも多くなった 性格 ・困っている人はほっとけない、隣人には手を差し伸べる、絵にかいたようなお人好し ・「ただしいことをすれば幸せになれる」という考えの元に日々善行に励んでいる(と、本人は思ってる) ・孤児院の中ではお姉さんの立場だったので、面倒見はいい方 好きなこと おいしいごはん、みんなのえがお、先生 二人称:キミ、~さん 慣れた相手は呼び捨て、お前 敵対者:お前、(激昂時)貴様
《ゆうがく2年生》ナツメ・律華
 ローレライ Lv13 / 賢者・導師 Rank 1
※アレンジ 他の人の絡み歓迎 名前:ナツメ(名前)・リッカ(名字) 目指せ大魔法使い! 追求せよ世界の真理! 【外見】 実年齢:14歳 外見年齢:10歳程度(つるぺた) ……まだ成長期は終わってませんわ! きっとあと数年のうちに素敵なレディにっ! 髪:三つ編み(しないと髪が爆発する…) 【中身】 明るく元気な性格 (よく言えば素直、悪く言えば分かりやすい) 探究心が強く、新たな知識を得るのは大好き 勉強したり本を読むのは大好き 田舎な実家では農作業や牛の世話をしていた。 大魔法使いになって世界の不思議を理解して その力で実家の畑の収穫を楽にするの! という大きいのか小さいのか分からない野望を持つ 田舎から出てきたので、お嬢様キャラで学校デビューを計ろうとするがすすぐにボロが…… 【口調】人と話す時はお嬢様(~ですわ、~かしら) 心の内や慌てたりすると素に戻る(~よ、~ね)
《真心はその先に》マーニー・ジム
 リバイバル Lv18 / 賢者・導師 Rank 1
マーニー・ジムよ。 普通のおばあちゃんとして、孫に看取られて静かに逝ったはずなんだけど…なんの因果か、リバイバルとして蘇ったの。 何故か学生の時の姿だし。 実は、人を探していてね。 もし危ないことをしていたら、止めなければならないの。 生きてる間は諦めてたんだけど…せっかく蘇ったのだから、また探してみるつもりよ。 それに、もうひとつ夢があるの。 私の青春、生涯をかけた行政学のことを、先生として、みんなに伝えること。 これも、生前は叶える前に家庭持っちゃったけど、蘇ったいま、改めて全力で目指してみるわ。 ※マーニーの思い出※ 「僕と一緒に来てくれませんか?」 地方自治の授業の一環でガンダ村に視察に行ったとき、そこの新規採用職員であったリスク・ジムからかけられた言葉だ。 この時点で、その言葉に深い意味はなく、そのときは、農地の手続きの案内で農家を回る手伝いといった用件だった。 「よろしくお願いします。」 これ以降、私たちの間では、このやり取りが幾度となく繰り返されることとなる。 その後、例のやり取りを経て婚約に至る。 しかし、幸せの日々は長くは続かない。 結婚式の前夜、リスクは出奔。著作「事務の危機管理」での訴えが理解されない現状に絶望したとのことだが… 「現状の事務には限界がある。同じことの繰り返しじゃ、世界は滅ぶよ」 結婚前夜の非道な仕打ちよりも、消息を絶つほど思い詰めた彼の支えになれなかったことを今も後悔している。 ※消滅キー※(PL情報) リスク及びリョウに感謝を伝えること 片方に伝えると存在が半分消える(薄くなる) メメ・メメル校長はこのことを把握しているようで、これを逆手にとって消滅を遠ざけてくれたことがある。 (「宿り木の下に唇を盗んで」(桂木京介 GM)参照)
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。

解説 Explan

・時刻/場所
 夏休み期間内でしたら、自由に設定が可能。
 PL情報として、夏休み期間では主に『夏コレ!』や第二回全校集会が開催されていました。
 描写の上で留意してほしいことがあるかたは、簡単な説明をプランかプロフィールに御記載ください。
 (例:実家に帰ります!  → お嬢様の出自で城にお住まいのかた

・夏休みについて
①期間は約1か月半程。
 この期間の内は出席義務のある通常授業のみ休講となり、課題の参加は生徒の自主性に委ねられる。
 授業の担当教諭ごとに宿題の有無は違うため、レポートに追われるひともいれば、読書感想文のみなひとも。
 生徒の希望が多い且つ教員の予定が合致すれば、特別授業(いわゆる『サマーセッション』)が開かれることもある。
 (特別授業に関するプランを頂いた場合、当エピソードでは原則的に【シトリ・イエライ】が担当します)

②寮や帰省について
 寮に滞在/里帰りは生徒の自由。
 例えば、1週間だけ実家に帰り、あとは学園内で過ごすなどの帰省の仕方も可能(逆も然り)。
 寮内で夏休みを過ごす場合、通常通りに門限などの学園規則が発生する。 

・できないこと
 時間を超越したり、世界を越えたり等『この世界の常識で不可能とされること』については不可。
 上記以外でワルなことをしでかしたい場合、学園関係者に怒られる覚悟で挑みましょう。
 度合いによっては、更生施設『プリズン・スクエア』生活な夏休みになる可能性もございます。

・シトリについて
 シトリは季節を通じてオフィスアワーを設けているため、気軽に執務室を訪れることが可能です。
 授業等に関する質問や進路相談、お茶の時間など。話し相手が必要なプランのお相手にでもご利用ください。
(シトリについての簡単な説明はGM頁をご参照ください)

・その他補足
 過去を振り返る形でなく、現在進行形/三人称視点による描写になります。
 お友達と共通の思い出を作られたい場合、その旨をどこかにご記載ください。


作者コメント Comment
 エピソードの閲覧をありがとうございます、GMの白兎(シロ・ウサギ)と申します。
 本エピソードは、授業でも課題でもない、何気ない日常のお話です。

 みなさんは今、青春を謳歌しながらも、授業や課題に追われる学園生活を過ごされているかと思います。
 ですが、『夏休み』という期間ならば寝坊もし放題、時間割に追われることもありません。
 いわば、ひと月半もの『ゆうしゃの休息』を、あなたはどのような形で過ごされたのでしょうか。
 
 久しぶりに実家に帰り、ゆっくりとした時間を満喫されましたか? 
 寮に残り、この場所で出会った学友たちと、素敵な思い出を作ったかたもいらっしゃるのかもしれません。
 
 それとも『ゆうしゃに休息など無用』と、課題や特別授業に明け暮れましたか?
 学内の施設は申請すれば使うこともできますし、自己研鑽や友人との鍛錬も可能でしょう。

 それでは、皆様の『ひと夏の思い出』を、心よりお待ちしております。


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
●夏休みの過ごし方
本物のフィリン(以下、真フィリン)の元へ、遠巻きながらの墓参り

●行動
馬の遠乗りの自主訓練…という名目で臨海学校の直後くらいから数日ほど外泊(自分の墓参りとは言えないので名目上)
真フィリンの記憶が薄れるまでスタンテッド(辺境)領には入るわけにいかないので、フードを被り領地を見渡せる峠から故人に祈りを。
名前も書かず花束だけを手向け、一時だけ『ライア』に戻って。弱音を吐きに。

「まだ学園にきて半年だよ…なんでこんなに、一年が遅く感じるんだろ」
「苦しいよ、フィリン。やっぱあんたみたいにはなれないよ…」

全て出し切って、でもそれが罰なんだと決意を新たに、もう来ないからと学園への帰路へ。

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
なに、教官様。
ザコちゃんの夏休みぃ?

ってもザコちゃん、わざわざお話し語りするよーな事ないよ?

興味あった課題には混ざってー、他のゆーしゃ様の課題の様子眺めてー、外彷徨いたりー、諸々弄ったり。
おわり。
ほんとそんだけ。

…あ。あー。
そーいや学園周り彷徨いてる時に、人探ししてる外部のお方には話しかけられたかな。

艶やかな腰までの黒髪でー?宝石を越えた緑の瞳でー?触れる事も躊躇う滑らかな肌でー?空気も甘くする穏やかな笑顔のー?女の貴族様ぁ?
しかも名前は教えられないって。
…抽象的過ぎっし、この特徴だけならどーせ学園にうじゃうじゃだよね、たぶん。

教官様が見かけたら教えたげたら?あのお方も誰なのかも知らないけど。

アリア・カヴァティーナ 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
夏休みは…家に帰るのに失敗しましたわ!

それは夏休みも始まる前の6月19日のこと、わたくしは母が倒れたと聞いて、実家に帰らなければなりませんでしたの!
でも…忘れもしませんわ! わたくしの家はかなり遠くにあるので、日付変更のお知らせをしたあと、先生がたにいろんな魔法で助けてもらいつつ往復したのですけれど、翌日のお知らせは3時間くらい遅れてしまいましたわ!

…ですので夏休み中もちゃんと毎日日付変更をお知らせできるよう、わたくしはずっと学園で自習したり遊んだりしてましたわ!
正直、実家の辺りより学園のほうが遊べるところも多くて友達もいて楽しいですもの!

ちなみに母はただの疲れからくる夏風邪でしたわ…よかった!

ビアンデ・ムート 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
自主訓練の休憩中にシトリ先生に夏休みの事を聞かれました
訓練も集中できてなかったので、ちょうどいいのでお話します

私は夏休み中は村へ里帰り。定期的に手紙のやりとりはしてたとはいえ懐かしく感じたのを覚えてます
そして、村の皆は私を歓迎してくれた事、私も皆の元気な姿を見れて嬉しかった事。そしてマリエラちゃんだけが、私を避けていた事

心当たりはあったので、この機会に話をしてまた子供の頃みたいに仲良くしたい。そう思って夜に開催された帰省祝い(という名の大人の飲み会)を抜け出して二人で話して……勇者としての行き方を否定された事。辛かったですが全部話しました

……先生にこんな話してよかったのかな?

樫谷・スズネ 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
夏休みの思い出ですか?
夏休み中:大体課題かバイトしてて言う程遊んでない

何かしてないと落ち着かないんです
焦燥感、と言いますか…何かしないとって
だからあまり普段と変わらなかったような気がします
今でも十分恵まれていて、休むだなんて勿体ない

家には帰らなかったのか?
私の家はもうないですよ?全部燃えました
だから墓参りになるのかな、変な話ですね
みんな光になって消えたんだから、そこには何もないでしょう?

ええと、何の話でしたっけ
あぁ、ずっと課題をこなしていたという話?
友人からもよく言われましたよ、休めと
だから、それらしい思い出なんて……あっ

ナツメ・律華 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
実家に里帰り(田舎の大家族)

ふふふ久しぶりに帰るのだから少しは大人びた所を見せないと
ただいま帰りましたわ!……へ?いきなり牛の世話?
待ってせっかくのお洒落な服がー!

暑いし汚れただろうって川に放り込んだり
もうお口調なんて丁寧でいられない
おかーさーん!ばか兄たちがいぢめるー!

お母さんに髪を解いて貰いながら会話
都会(学校)へ行くとここ(実家)に帰ってこなくなると思ったの?
本当に馬鹿だわ、うちの兄達は……

あのねっ、私はっ、世界の真理を知りたいのも本当だけど
みんなの仕事を少しでも楽にしたくて学校へ行ってるのっ!
大魔法使いになったらちゃんと帰ってくるから!
勝手に帰ってこないとか決めつけないで!




マーニー・ジム 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
夏休みの大半はお墓の中で寝坊し放題だったおばあちゃんが来ましたよ

リバイバルとして復活して、第2の人生を謳歌するため、
孫【タスク・ジム】が通っているこの学園に入学して、教師を目指すことにしたの
それで、入学には色々物入りだから、
村役場で職員やってる息子の【デスク・ジム】にお手紙を書いたのね

「ハハフッカツ シオクリモトム」

隠れて息子の反応を伺ってたら、す~ぐ見つかって、めちゃめちゃ怒られたわ
「うちに二人も学園に通わせる余裕はない!私の涙を返せ~~!」

そんなこんなで何とか学園に入学できたわ

臨海学校は本当に素敵な行事だったわね
孫のお友達と無人島探検、すごく楽しかったわ
その節はご一緒してくれてありがとう

アンリ・ミラーヴ 個人成績:

獲得経験:24 = 20全体 + 4個別
獲得報酬:864 = 720全体 + 144個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
イエライさんと話しをする。
ここでは毎日が特別な思い出。俺が生まれ育った草原とは、全然違うから。
草の匂いもしない。人と建物と、文化がいっぱい。忙しくて楽しくて、夏は村へ帰ってないです。
奉仕科の課題で、人助けしてました。
幼い兄弟の依頼で、祖母の誕生日を手伝いました。祖母へ贈る薬草を一緒に買って、祖母の絵も描いて。
兄弟と祖母は楽しそうで、大好きで大切な人を祝う事が素敵だと思いました。
飼い主が留守の間、沢山飼われている犬の世話もしました。犬は元気いっぱいで、一緒に遊びました。
あと、余命僅かな人が想い続けた人へ大切な物を届けました。
生きる事、死ぬ事、大切にする事を学びました。
哀しくて、嬉しい思い出です。

リザルト Result


●「教官様が見かけたら、教えたげたら? あのお方が誰なのかも知らないけど」
 なに、教官様。ザコちゃんの夏休みぃ? ってもザコちゃん、わざわざお話し語りするよーな事ないよ?
 興味あった課題に混ざってー、他のゆーしゃ様の課題の様子眺めてー、外彷徨いたりー、諸々弄ったり。
 おわり。ほんとそんだけ。

 ……あ。あー。
 そーいや学園周り彷徨いてる時に、人探ししてる外部のお方には話しかけられたかな。



 自由な時間というものは良い。
 何にも縛られず、『勇者様』とは違い何の価値のない『モブ』ならば、どこに行っても、何をしても、品定めされない。
(誰にも注目されないってのは、やっぱいいね)
 そんなことを考えながら、今日も着の身気の向くままに『レゼント』の街を歩いていた【チョウザ・コナミ】は、ふと聞こえた声に視線を向けた。
「本当に、見ていないんですか」
 長いつばの帽子に、見るからに上等な生地で織られた光沢のあるコート。
 お金持ちのオーラをふんだんに纏っているその女性は、学園正門に配備された衛兵に詰め寄るような形で、声を荒げていた。
「もっとよく思い出してください! お嬢様は艶やかな黒髪を腰まで伸ばして、まるで宝石と見紛う程に美しい緑の瞳で……」
「だから、そんな特徴だけじゃわかりませんって。ここには王族や貴族向けのコースもあるんです、美しいかたはたくさんいらっしゃいます」
「そんなことはありません! お嬢様は格別美しいのです、見ればすぐにわかります!」
(あーあー、やだやだ……典型的なお貴族様って感じ)
 自分が一番美しく、価値あるものだと思い込んでいる。
 関わりたくないタイプだと素通りしようとした時、チョウザの視界に映るものがあった。
 彼女の被る帽子に、きらりと光る金のブローチ。豪奢な宝石もあしらわれているそれは、見覚えのある形を作っている。
(ということは、あの家の関係者か……まーだ諦めてないなんて、意外だね)
 もっと都合のいい存在を上手く見繕うほうがお気楽手軽なのに。いや、月日とか人脈考えたらそっちのがめんどいのか?
 束の間の思考と共に思わず足を止めたチョウザに、女も気付いたらしい。
 目が合った。――『見ればすぐにわかります』なんて言葉が、頭の中を巡る。
「あなた……っ!」
 途端に詰め寄られ、眉を潜める。けれど、その女は衛兵に尋ねるのと同じ口調で、こう言った。
「この学園に、通っているのでしょう!?」
「……ぁ?」
「いなくなったお嬢様を探しているのです、見てはいませんかっ!?」
 チョウザの返答も待たぬままに、女は先程と同じような質問を繰り返してくる。
 艶やかな腰までの黒髪で、澄んだ緑の瞳は宝石をも越した美しさで。
 触れる事も躊躇う滑らかな肌で、穏やかに微笑むだけでその場の空気を甘くするような、麗しいお嬢様。
(うっわ。いろいろ増えてるー)
 そんな『人間』がいるものか。そう心の中で吐き捨てたチョウザは、いつも通りの笑みを浮かべた。
 両の掌を上に向け、肩を竦めて首を振る仕草に、鮮やかなマゼンタの髪が揺れる。
「知らないし。その特徴だけなら、この学園にうじゃうじゃじゃん?」
「そんなことはありません! お嬢様は特別なんです!」
「じゃー、名前は?」
 会話をするのは心底不愉快だ。しかし自分を目の前にしてのこの言葉に、少しばかりの興味も湧いた。
 この女は、『どれだけ』お嬢様のことを話せるのか。それはつまり、自分の情報をどれほど流されているか、ともいえる。
「教えられません」
「はっ……」
(まさか知らないとか? それとも答えられない?)
 それもそうか。大事な婚姻を前にして逃げ出したお嬢様なんて、家名に泥も良い所だ。
 ならばもう用はない。詰め寄る女にくるりと背を向けて、チョウザは歩き出した。
「話になんない」
 それだけ言い残して、門をくぐる。だんだんと距離は離れていくが、再び声を掛けられる気配はなかった。
(ほーんと結局、世の人種は表面のペラ皮しか見てないーって、事実なんだねぇ)
 あの手の集団が『そこしか求めてない』って可能性もありありなんだけどさ。
 深い息を吐き出し、チョウザはポケットから巻貝を取り出す。
 『アルチェ』で手に入れた真っ白なそれは、光にかざすと夏の光を反射して、虹色に煌めいた。
 
●「帰省というわけではありませんが、夏休みの後半は、遠乗りをしていました。……墓参り、みたいなものです」
「ハイヤッ……!」
 掛け声とともに、フード付きの外套(がいとう)に身を包んだ少女が、足を動かす。
 軽く腹を蹴られた栗毛の騎馬は、【フィリン・スタンテッド】の指示通りに、走るスピードを速めた。
 臨海学校を終え、アルチェから『フトゥールム・スクエア』に戻ったフィリンは、その足で外泊手続きを済ませ、再び学園の外に出ていた。
 目指す場所は、少しばかり遠い。それでもグリフォン便を使わず、馬で遠乗りをすることを選んだのには、理由があった。
(『フィリン』は、剣だけでなく、乗馬技術もあったから)
 思いながら、彼女と出会った瞬間を……『本当のフィリン・スタンテッド』の姿を思い浮かべる。
 ふわりと風に揺れる黒の髪が美しく、自分と同じ色だというのに、青の瞳はまるで宝石のように澄んでいて。
 『力無き人のために』という信念を体現したかのごとく、みすぼらしい姿の自分にも優しく微笑みかけてくれた、スタンテッド家の第一子。
(そうだ、『フィリン・スタンテッド』とは、そういう女性……)
 剣も魔法も完璧で、弱き立場であるもの全ての味方であり。
 自分を陥れようとした人間すらをも身を挺して守ろうとする、絵本の中の『勇者』そのもの。
(ならば私も、同じように)
 ――そんなことが、本当にできるの?
(……できるかどうかじゃない、やるんだ)
 だからこうして、彼女ができたことの全てを会得できるように、自分を慣らしている。
 そんなことを考えているうちに、目的地である峠についたようだ。騎馬を止め、下乗(げじょう)する。
(引っかかった、減点)
 あの日、優雅に降りて見せた彼女と頭の中で比較して、舌打ちする。
 ……さらに減点。
(『フィリン』は舌打ちなんて、しない)
 どこまでも厳しい採点は、自分の中に確固たる像が在るがゆえ。
 月日が経てばひとは忘れるのが常だというのに、彼女の誉れ高さは決して色褪せることがなかった。
 まるで傷口を覆うかさぶたのように。時間が経つほど色が濃くなり、固まっていくのだ。
(それはきっと、私が『フィリン』になりきれていないからだ)
 苦い結論と共に、眼下に広がる景色を見る。スタンテッド領。『フィリン』と出会い、自分の運命が下された場所。
(本当なら、ちゃんと領内の共同墓地に行くべきなんだろうけど)
 彼女の眠る場所に刻まれている名義は、彼女自身のものではなく、『ライア』……みすぼらしい、ただの盗賊くずれの娘の名前で。
(そうでなくとも、『フィリン』の記憶が領民から消え去るまでは、紛い物が領土の中に入るわけにはいかない)
 そう判断し、領地が見えるこの峠を墓参りの場所に選んだ少女は、静かに膝をついた。
 握った手を胸に置き、黙祷する。自分なんかの祈りが、崇高な彼女の元に届くとは思わないけれど。
(それでも、ここに来ようと思ったのは、長期休暇のせいかもしれない)
 だって、何もしなくてもいいような時間も、何をしてもいいなんて選択肢も、今までの自分にはなかったのだ。
 だからどうすれば良いかわからなくなって、持て余した時間を全て鍛錬に費やしてみても、彼女との埋められない差を自覚するだけ。
(なんだっていうんだ)
 生きることに必死だった時は、時間の流れももっと、早かったのに。
「まだ学園にきて半年なんだよ。なんでこんなに、一年が遅く感じるんだろ」
 ぽつりと言葉が漏れた。フードの奥でくしゃりと少女の表情が歪む。
「苦しいよ、フィリン。やっぱあたし、あんたみたいにはなれないよ……」
 それはきっと、ずっと自分を隠し続けていた彼女が、初めて吐き出した本音。
 ああ、けれど。これが、『フィリン』という気高い命をこの世界から消し去った自分への。
(そして今、彼女の地位や自由すらをも自分のものにしている、あたしへの罰)
 そう思った少女は、ハッと息を吸った。唇を噛み、震える息を飲み下し、笑みを作る。
 そうして再び『フィリン』の仮面を被ったフィリンは、待たせていた騎馬へと飛び乗った。
(今のはうまくいった。『フィリン』らしい)
 満足げに頷くと、馬に指示を出し、学園への帰路を走らせ始める。
 ――もうここには来ないと、心に決めて。

●(先生に、こんな話をしてよかったのかな)
(どこにいるんだろう)
 生まれの村に帰っていた【ビアンデ・ムート】は、そっと暗闇の中を見回した。
 自分の帰郷を祝って宴を催してくれたことは嬉しいが、やはり大人が集まると酒の匂いが強い。
 ゆえに宴会場を抜け出して、外の空気を吸いに来たビアンデは、もう1つの目的のために足を進めた。
(……【マリエラ】ちゃん)
 子どものころからずっと一緒で、学園に行ってからも手紙のやりとりをしていた、大切な友達。
 だから、帰ったら色々な話をしようと思っていたのに。
(なんだか、避けられている気がする)
 今だって、彼女は自分と距離を取るかのように、宴会に参加していない。
(やっぱり、怒ってるのかな)
 そう思って眉を下げたビアンデの目に、懐かしい背中が映った。
「マリエラちゃんっ!」
 思わず声を掛けると、びくっと肩を震わせたのが見える。
 それでも勇気を出して駆け寄ったビアンデに、マリエラがふり返った。
「……久しぶり、ビアンデ」
「うん、久しぶり……」
 沈黙が流れる。昔はもっとうまく話せていたのに。
「あの……」
 私のこと、怒ってる? そう尋ねたかったけど、うまく言葉にならなかった。
 そんなビアンデを見て、マリエラは苦笑する。
「私、知ってるんだ。ビアンデがすごく怖がりだってこと」
 小さいころから一緒だったんだもの。そう微笑んだマリエラに、ビアンデは『うん』と微笑む。
「だから、心配なの。無理してないかって。みんなを護る役をやってるんでしょ?」
 この流れには覚えがあった。何回も、なんかいも、マリエラが自分に向けて書いた言葉だ。
 『怖いでしょ?』『もう帰ってきなよ』『勇者の真似事なんかやめて、一緒にのんびり暮らそ?』
 続く言葉を思い出しながら、ビアンデはゆっくりと首を振る。
「私は大丈夫。だからまだ、村には戻らないよ」
 それが彼女を怒らせることになっても。そう思いながら口にした言葉に、マリエラは別の反応を見せた。
「痛くても? 怖くても?」
 傷ついたような顔で、彼女が言葉を繋ぐ。
「それで、いつか。自分が危険な目にあっても?」
「うん……」
 戸惑いながらも、ビアンデが頷く。その反応に、マリエラは目を見開いた。
「おかしいよ、そんなの……」
「マリエラちゃん?」
 俯いてしまった親友に、ビアンデが手を伸ばす。
 パシンと、乾いた音がした。
「えっ……」
 振り払われた。そんなことは初めてで、ビアンデの瞳が揺らぐ。
 だがそうしたマリエラも、自分の行動に驚いているようだった。
「あっ……」
 ――壊れていく。彼女の中で、必死に保っていたものが。がらがらと音を立てて。
「やっぱり、私のせい?」
 崩壊は言葉になって表れた。先程まで穏やかだった声が、少しずつ荒んでいく。
「怖いよ。私のせいで、ビアンデがどんどんおかしくなってく」
「私、別に、おかしくなんて……」
「おかしいよ! 自分は傷ついても良いって、普通は嫌でしょ! 痛いのも、怖いのも、私は嫌だよ!」
 こんなマリエラは見たことがない。呆然としている間にも、彼女の言葉は続く。
「ビアンデが勇者になろうって思ったのは、私を庇って怪我したからでしょ! あんなことが、なければ」
「違うよ。私はただ、誰かの役にもっと立ちたくて……」
「じゃあもうやめてよ! 私の役には、立ってないよ!」
 衝撃に目を瞠(みは)るビアンデ。しかしマリエラの言葉は止まらない。止まれなかった。
「ビアンデが頑張るほど、わたし、辛いよ! 全部私のせいなんじゃないかって!」
「……そんなこと」
「苦しいよ! 何よりビアンデがおかしいって、怖いって思った自分が、イヤで……」
 とうとう泣き始めてしまった友人を、ビアンデは見つめる。
「ごめん、ごめんね……」
 ――払いのけられた手が、痛かった。



 話し終わったビアンデは、そのまま口を閉ざした。
 ちらりと視線だけを寄せると、ふわりと微笑まれる。
「辛かったでしょう。話してくださり、ありがとうございます」
 ですが、と【シトリ・イエライ】は前置き。
「ビアンデさん、あなたの献身に助けられた人はたくさんいます。それもまた、事実です」
 どうかそのことを、忘れないで。
 聞きながら、ビアンデは空を見上げる。
 夕に近づく空はほの赤く、まるで泣き腫らした誰かの瞳のようだった。

●「帰る場所なんて、ないんです。もう全て、燃えてしまったから」
 季節は夏。長期休暇で人影も疎らになった、レゼントでのこと。
「もう、スズネったら。まーたバイトしてるの?」
 かけられた声に、【樫谷・スズネ】がふり返った。この学園で出会った友人が、腕を組みながら頬を膨らませている。
 思わず苦笑したスズネは、肩から下げていた保冷箱を開け、中を示して見せた。
「何かしてないと、落ち着かないんだ。……ということで、ひとつどうだ?」
「スズネのお給料になるのなら、1つでも2つでも買うけどぉ……」
「ありがとうございます」
 芝居がかったように礼を言ったスズネは、保冷魔法のかかった木製の箱から、冷やし飴の瓶を2つ取り出す。
 それからお金を集金用のベルトポーチに入れて貰うと、手慣れたように商品を差し出した。
 けれど友人は、そのうちの1つだけをてのひらに収める。
「残りはスズネの分。バイトも良いけど、水分補給もちゃんとするのよ?」
「はは、ありがとう」
(買ってもらったばかりか、おごられてしまった……)
 申し訳なく思いつつも、彼女は一度言い出したら聞かないことを知っているから、素直に受け取る。
 そうして、初めて口にした冷やし飴は、喉を過ぎれば涼やかな甘さを引き連れて、火照った体を冷ましてくれた。
 それが逆に周囲の暑さを際立たせて、思い出したように額の汗をぬぐう。
(今日は、こんなに暑かったのか)
 太陽がさんさんと輝いているのだから、それも当然だ。
 それなのに、今更ながらに気温の高さを感じたスズネは、苦笑した。
(私は、そんな当たり前のことを忘れるほどに。何かに没頭したかったのだろうか)
 それだけ、この暑さから逃げたかった? それとも、また別の?
 答えが頭の中から出てくる前に、スズネは意識を友人へと戻す。
「キミは、この夏休み。どこかに行ったりしないのか?」
「私? 特に予定はないわねぇ。行きたい場所も、帰りたいところもないし」
 瓶を傾けながら、友人が答える。その言葉にスズネは、青の瞳を軽く見開いてから、
「あぁ。……私もだ」
 あの日、全て燃えて。みんな光になって、消えてしまった。
(帰ったところで、何もない。ならばこうして、課題とバイトを繰り返すのも良いだろう)



「だから、思い出らしいことなんて、何も……」
 ふと、スズネの言葉が途切れる。
 どうしました? と首を傾げたシトリに、スズネは、あ、いえ、と首を振ってから、
「臨海学校でアルチェに行った時、お祭りに参加したこともあったなと、思い出して」
「それは素敵ですね。そこではどんなことを?」
「美味しいものを食べたり、屋台で遊んだり……」
 告げながら、あの夜のことを思い出す。
 暗い夜道を照らすぼんぼり。行き交う人々の、賑やかなざわめき。
 そんな中、傍らに立っていた彼が、次に行く屋台の提案をしてくる。
(そういえば、声を掛けられたのは昔のことを思い出している時だった。……気遣ってくれたのかな)
 だとしたら、彼はとても優しいひとだ。そう思うスズネの瞳に、うっすらと光が宿った。
 蛍火のような淡さではあるが、それでも確かに変化を見せた彼女に、シトリが微笑む。
「楽しかった?」
「はい、とても。射的って難しいんですね。初めてやったんですが、うまくいかなくて」
「あれはコツがいりますからねぇ……景品は取れました?」
「いいえ。でも、一緒に回ってくれたひとが、代わりに取ってくれて」
(ああ、……あるじゃないか。私にも、思い出が)
 なんとなく心が弾んだスズネは、すらすらと言葉を続ける。
「実はそのひととは、最近同じ課題に取り組むことが多くて。今度一緒に、どこか綺麗な景色を見に行こうという話もしていて」
「おや、デートですか? 良いですねぇ」
「えっ!?」
「えっ……?」
 両の肩を跳ねさせたスズネに、シトリが首を傾げる。違いました? とでも言いたげだ。
「で、でーとっ!? わっ、私はただっ、そうできたら嬉しいなと、思っただけでっ!」
「違うのですか?」
「えっ? わかりません。これはその……デートというものに、なるのでしょうか?」
(だとしたら、私はすごく恥ずかしい約束をしてしまったのでは……?)
 思わず下を向くスズネ。そんな彼女を見て、『青春ですねぇ』とシトリが笑った。

●「ただいま帰りましたわ」
 ふわり、と。スカートの裾を揺らめかせながら、【ナツメ・律華】が馬車を降りた。
 風が吹くたびに、ロングストレートの亜麻色の髪がさらさらと揺れる。
 まるでどこかのお嬢様のような様相に、彼女の出迎えに集まっていた兄たちは声をあげた。
「どうしたんだよ、ナツメ。ひらっひらじゃないか」
「あら? わたくし、あのフトゥールム・スクエアに留学中の身ですのよ? これくらいのドレス、当然ですわ」
「髪は? いつもぼわっとしてるじゃん」
「これは魔法の技術で綺麗にして貰ったんです。っていうか、別にいつもだって、ぼわっとしてませんわ!」
 一人目を皮切りに、口々に問いかけてくるのは、4人の青年だ。
 大兄ぃ、中兄ぃ、三兄ぃ、小兄ぃとナツメが呼んでいる彼等は、久しぶりに帰ってきた妹の変貌ぶりに顔を見合わせる。
「……やっぱ、そうなんかな」
「かもしんないなァー……」
 対するナツメは、言いようのない達成感に満たされていた。
 兄たちのヒソヒソ話に気付くこともなく、心の中でガッツポーズを決めている。
(ふっふー! やったわ! 貴族コースの子にドレスの着方を教わったり、街で人気の美容師様に整えて貰った甲斐があったというものっ!)
 学園に居る時のナツメは、諸般の事情で『良い所の出のお嬢様』に見えるような行動を心がけている。
 正直うまくできている自信はあまりないのだが、その努力のおかげもあって、本物のお嬢様とも親しくなれていた。
 だから半年ぶりに実家に帰る今日は、少しでも大人になった自分を見せようと、色々なアドバイスを貰って。
(その結果がこれ! ふっふー! 私だって、『ただの田舎娘』のままじゃないんだから!)
 別に自分の出自が嫌いな訳じゃない。むしろ、都会にはないのどかな空気は、とても好きだ。
 けれどナツメは14歳の女の子で、しかも外見年齢が実年齢よりもだいぶ若く見えてしまう体型と、童顔持ちだ。
 当然、背伸びをしたい気持ちもあるわけで……。
(これを期に、子どもっぽい私からの卒業を果たすのよ!)
 考えていると、兄たちが動き出した。
「えっ、どこに行くんですの?」
 思わず後をついていこうとしたナツメに、無慈悲な言葉が返る。
「もちろん、家畜の世話さ。牛舎の掃除をしないと」
「え、えぇっ!? ま、待ってくださいまし! 今からですの!?」
「今からやらなきゃ、晩メシに間に合わないだろ?」
「そうですけど……せっかくオシャレな服できましたのに……」
 ショボン。俯いたナツメの頭を、長兄が撫でる。
「そんな服着なくても、ナツメは可愛いよ」

「……とか言ってたのに、ひどい! おかーさん! 兄ぃたちが私をいじめる!」
 数時間後。ナツメはぼわぼわに戻ってしまった髪を、母親に梳いて貰っていた。
「はいはい、大人しくして?」
 膝を抱えるナツメの後ろに座り、慣れた手つきで櫛を通す彼女が笑う。
「でも、三兄ぃったら! 私を持ち上げて、川に放り込んだのよ!」
 私は服が汚れたって言っただけなのに! そのせいでセットした髪も台無しに!
 ぎゃんぎゃんと吠える少女の口からは、すっかりお嬢様言葉が抜けている。
 そんなナツメに微笑みながら、母親は手を動かした。
「実はね、ナツメが帰ってくるって手紙をくれるまで。兄ちゃんたち、心配してたの」
「心配?」
 思わず振り返ったナツメを、温かな眼差しが包む。
「都会の生活が楽しくて、もうこっちに戻ってこないんじゃないかって」
 だからナツメの姿をみて、もっと心配になったのかもね。
 そう言った母に、ナツメはぐっと唇を噛んだ。
(……馬鹿だわ。うちの兄たちは、本当に)
 そんなこと、あるはずなんてないのに。



 ――数日後。学園行きの馬車に乗る、少し前。
「あのねっ、私はっ!」
 見送りに集まった兄たちに、ナツメは言った。
「世界の真理を知りたいのも本当だけど! みんなの仕事を少しでも楽にしたくて、学校に行ってるの!」
 その姿は、三つ編み姿のいつものナツメだった。
「だから、大魔法使いになったらちゃんと帰ってくるから! 勝手に帰ってこないとか、決めつけないで!」
 叫んでから、ばっと馬車に乗り込み、扉を閉める。
 ちらっと窓の外を見ると手を振ってくれる兄たちが見えて、ナツメは笑った。
(絶対に、夢を叶えてやるんだからっ!)


●「ようこそ、いらっしゃいました!」
 きらきらとした太陽の光を反射する金の髪。深い海を思わせる、ネイビーブルーの瞳。
 白のワンピースをふわりと揺らし、【アリア・カヴァティーナ】は高らかに声をあげた。
「ここは、フトゥールム・スクエアの入り口ですわー!」
 幼さを残した高音が告げるのは、もちろん彼女のいる現在地。
 半透明の羽根をぱたぱたと小刻みに動かしながら、正門を通る人々に声を掛ける姿は、まさに天使だ。
(かわいいなぁ……)
 夏の暑さの中、重い甲冑に蒸されながらも仕事に励んでいる門番たちも、つい頬が緩む。
 ご覧の通り、アリアは夏休みといえど、自分の使命(だと思っていること)に時間を費やしていた。
 『おはよう』と誰かに声を掛けられれば、『おはようございますわ!』と返し。
 お昼の時間になれば、今日の日付とお昼の時間になったことを高らかに告げる。
 理由はもちろん、『学園にいるみんながご飯を食べ損なわないように』だ。
(オープンキャンパスや、『新入生の切実な願いコンテスト』での経験が、活きているような気がしますわ!)
 しかし、炎天下の元、長時間立ち続けるというのはなかなかに辛い。
 天使といえど、暑いものは暑いのだ。ということで。
「わたくし、そろそろ図書館に行ってきますわ!」
「いってらっしゃい。転ばないようにね」
「水分補給もちゃんとするんだよ」
 門番の対応はまるで子ども扱いだが、アリアは気にせず『ありがとうございますわ!』と駆けていく。
 行先は知恵の源泉、大図書館『ワイズ・クレバー』だ。
 これも魔法の一種なのだろう。夏だというのに心地良い涼しさに満たされたその場所は、カフェのような飲食OKの読書スペースも存在している。
 そこでアリアは、道なりで買ったアイスレモネード(喉に良いと、お店の人に薦められたのだ)を飲みながら、お気に入りの一冊を開いた。
 それは幼い彼女に、母親がよく読んでくれた英雄譚の1つ。
 鮮やかな赤色の装丁を開くと、お決まりのシーンが現れる。
 とある村を訪れた勇者が村の名前を尋ね、それに対しひとりの村人が答える場面だ。
(わたくしも、いつかこんな素敵な『導き』ができるようになりたいですわ……!)
 きらきらと瞳を輝かせる彼女は、そのいっぽうで、母のことを思い出していた。
 ――本当は、家に帰るつもりだった。
 しかし彼女の住む村は学園から遠く、とある事情で帰った時は、お知らせをしたい時間にどうしても戻ることができなかったのだ。
(だからわたくしは、夏休みの間もお友達と遊んだり、お勉強をしながら。自分の使命を全うし続けるのですわ!)
 頑張りますね、お母さま!
 そう決意を新たにした少女は、また正門へと向かうのだった。



(はっ! わたくし、もしかして。先生の質問に何も答えられていないのでは?)
 唐突に気付く。シトリが尋ねた内容は『思い出は作れたか』ということなのに、自分はいつも通りのなんでもない日常を話していた。
 もちろん、ありふれた日々が続くこともまた、幸せだ。
 だから、アリアにとってはその『当たり前』が特別なものなのだろうと考えていたシトリは、特に口を挟むこともなく聞いていたのだが。
(質問にも答えられないようでは、立派な導き手にはなれませんわ……!)
 そう思った彼女は、もう1つの思い出を語り始めた。
「それと、臨海学校で! お友達のおばあさまであるかたとご一緒できたことが、印象に残っておりますわ!」
 決まった。今度こそちゃんと答えられた!
 喜びに包まれる様子のアリアに、シトリが笑いかける。
「お友達のおばあさまとは、随分年の離れたかたとご友人になられたのですね」
「はいっ! でも、そのかたはおばあさまには見えないくらいお若くて。でもでも、おばあさまらしい気配りをなさる方で……」
「……お若く見える、おばあさま? それはもしや、メメル校長のような?」
「はい! あっでもリバイバルのかたでいらっしゃいますので、もうお亡くなりなのでしょうか? だとしたら、やっぱり大先輩なのでしょうかっ!?」
(若く見える、リバイバルのおばあさま?)
 シトリは首を傾げながらも、『お友達なんて失礼なのでは!?』と混乱し始めたアリアに、とりあえず落ち着きましょうか、と声を掛けた。

●「夏休みですか? 大半は寝ていました」
「死んだと思ったら今度は生き返っていて。リバイバルとなった瞬間も、眠っていたみたいなんです」
 そう笑う【マーニー・ジム】を見ながら、なるほど、とシトリは思う。アリアが混乱したのも無理はないなと。
 リバイバル……魂霊族にはまだ謎が多いが、魂だけが幽体となって現世に残っている状態のヒューマンであることはわかっている。
 ゆえに、唯一肉体が魔力だけで構成されている彼等は、死した状態の姿で表れるのが常なのだが、自身の見た目を変化させることも可能なのだ。
 ただ、自分が死んだ時の姿を覚えていないということは、リバイバルとなった執着を失うことに直結し、突然消滅する可能性も高いのだが。
(若い頃に関する執着であるのなら、こういうこともあるのかもしれません)
 しかし、リバイバルとはヒューマンが『行動不能』の状態から『消滅』に変わるその瞬間に、新しい生き方を得る種族。
(いわば、肉体が消滅し、光になった瞬間に、リバイバル化するはずなのですが……)
 眠っていたとはどういうことだろう? そう疑問に思うものの、シトリは敢えて口にはしなかった。
 元より、死した存在がリバイバルとして世界に留まっていること事態が、相当な魂への負荷となっているのだ。
 リバイバルとなった瞬間の出来事や、詳細な理由を思い出した魂霊族は、その人生の重みに耐えられず、消えてしまう。
 ――そして、消滅してしまった命は。この世界から完全に、いなくなってしまう。
(ならば、軽率にその辺りに触れるのは、彼女にとって危ないことなのでしょう)
 そう結論づけたシトリは、ゆるりと首を振ってから、
「それでは、どうやって、この学園に?」
「あぁ、それは……」



 夏休みのある日、彼女の孫の出身地である、『ガンダ村』にて。
 意識を取り戻したマーニーは、とある建物の陰からそっと様子を窺っていた。
 視線の先には一人の男、彼女にとって息子にあたる、【デスク】の姿が……あっ。
(今のは目が合っちゃったかしら……)
 突然ふり返られて、サッと姿を隠すマーニー。
 そうして再び様子を窺っていると、男の元に一人の青年が近付いた。
 少し前にマーニーが頼みごとをした、デスクと同じ役所に勤める人物だ。
 彼はマーニーから渡されたメモの切れ端をデスクに渡し。そしてデスクはそのメモを読み――、
「これはどういうことですかっ! 母さんっ!」
 ――迷わず、マーニーの元へ駆け寄る。
「えっ? えっ!? あなた、私だってわかるの?」
 こんな姿なのに? なぜか若い姿になっている自分を示すマーニーに、デスクはくしゃりと表情を歪ませて、
「当たり前じゃないですか! 私の母さんは、あなた一人だ!」
 怒り顔で詰め寄る。じんと、マーニーの胸が震えた。
「まったく、なにが『ハハフッカツ、シオクリモトム』だ! うちに二人も学園に通わせる余裕はない!」
「あはは、ごめんなさい……」
「っ! 私の涙を、返せーっ!」
「うん、ごめんなさいね……」



「そうして、この学園に来たんです」
 笑いながら告げるマーニーに、シトリも笑った。それは息子さんも大変だったろうと。
「それからすぐに、臨海学校にも行って。無人島を探検したりもして。あれは素敵な出来事でした」
 ご一緒してくれた孫のお友達には、感謝しているわ。
 そう微笑むマーニーに、シトリは少しの間、考えてから、
「マーニーさん。あなたは今の自分の状態……魂霊族について、もっと知ったほうが良いのかもしれません」
「どうしてですか?」
 ぱちり。赤の瞳を瞬かせたマーニーに、シトリは言葉を続ける。
「魂霊族はまだ謎の多い種族ですが、とてもあやふやなバランスにあるのです。まるで陽が陰るように、突然消滅することもある」
「そう……なのですか?」
「えぇ。そのとき、あなたを親しく思うかたは、再びの『別れ』を経験するでしょう」
 言われて、マーニーは思い出す。怒りの前、一瞬見せた息子の泣きそうな顔。
 そして、自分がもう長くないと知った時の、孫の哀しむ顔を。
「ですから、あなたはまず、リバイバルについて知ることから始めたほうが良いのかもしれません」
 一度ならず、二度までも。
「あなたの蔵書を図書館に並べたいと思うほどに。慕ってくれているお孫さんを、哀しませたくないのなら」

●「体は戻ってません。むしろ鈍ってるくらい」
「草原では毎日、走ってたけど。学校では勉強するので、あまりできてなくて」
 そう答えながら獣の耳を伏せた【アンリ・ミラーヴ】に、シトリは『そうですか』と微笑んだ。
 耳の形から推測するに、馬のルネサンスだろうか。白い肌に銀の髪を持った青年の言葉に、白毛の馬が草原を駆ける姿を思い浮かべる。
(翠の両目も、青々とした緑にぴったりですね)
 なんてことを思っていると、静かな口調でアンリが言葉を続けた。
「奉仕科の課題で、人助け、してました」
「うん?」
(あぁ、夏の思い出かな)
 自分から質問したことだというのに、すっかり頭から抜け落ちていたのは、アンリの言葉がゆったりとしているからだろう。
 抑揚がないわけではない。けれど穏やかな低音は耳に心地よく、つい気が緩んでしまった。
「幼い兄弟の依頼で、祖母の誕生日を手伝いました。祖母へ贈る薬草を一緒に買って、絵も描いて」
 思い出したのだろう、ベンチの上に横たえられていたふさふさの尻尾が、ゆらりと揺れる。
「兄弟と祖母は楽しそうで、大好きで大切な人を祝う事が素敵だと思いました」
 さらさら、ゆらゆら。言葉を繋げている間も尾が揺れて、なるほど、とシトリは思う。
(どうやら表情よりも。耳や尻尾に感情が表れるようですね)
 長身の青年を捕まえて『可愛らしい』とは失礼だろうが、どことなく愛嬌を感じてしまう。
「飼い主が留守の間、沢山飼われている犬の世話もしました。犬は元気いっぱいで、一緒に遊びました」
 尻尾を揺らしていたアンリは、次の言葉を述べると同時に、俯く。
「あと、余命僅かな人が想い続けたひとへ、大切な物を届けました。生きる事、死ぬ事、大切にする事を学びました」
「それは悲しかったでしょう。頑張りましたね」
「はい。哀しくて、でも嬉しい思い出です」
「……そうですか」
 嬉しい? 不思議に思ったシトリではあるが、問うことはなかった。
 告げたアンリの顔が、清々しく思えたからだ。
(きっと、大事なことを学んだのでしょう)
 ならば水を差す必要はない。ゆえに、シトリは立ち上がった。
「では、行きましょうか」



 シトリを追いかけるようにしてアンリがやってきた場所は、校庭だった。
 でも、どうして? 首を傾げるアンリの隣で、シトリが屈伸運動を始める。
「ほら、あなたも。急な運動は体に障りますからね」
「……はい」
 根が素直なのだろう。アンリは不思議に思いながらも、促されるままにストレッチを始める。
 いっち、にー、さん、し。気の抜けるようなシトリのカウントと共に体をほぐしたアンリは、次の言葉に目を丸くした。
「では、走りましょう。ゴールはあの木の根元ということで」
「えっ……えっ???」
「よーい、どん!」
 楽しげな声を残して、シトリが駆け出す。だからアンリも、つられるように走り出した。
 両脚に力をいれ、勢いよく大地を蹴る。体が地面から完全に離れきる前にもう片足を伸ばし、同じことを繰り返す。
 瞬く間に左右の景色が流れ、冷たさが身を包んだ。
(……気持ちいい)
 それに懐かしい。風を切る感触も、肺が空気を求める感覚も。
 だから夢中で脚を動かしたアンリは、すぐにゴールへとたどり着いた。
 いつのまに追い抜いたのだろう、随分と遅れてシトリも到着する。
「はぁ……っ、さすがに、早いですねぇ……っ」
 ローブを整えながら荒い息を繰り返す男は、見るからに魔法職という感じだ。
 ならばこれは、自分のためだったんだろう。そう思ったアンリは、慌てて頭を下げた。
「あの、ありがとうございます」
「いえいえ。それよりも、ほら」
 笑うシトリが上を指さす。つられるように見上げた空は、赤かった。
 それは、生まれ育った草原で見たのと同じ、夕と夜の狭間の色。
(そっか。同じなんだ、この場所でも)
 草の匂いはなく、人と建物、知らない文化に囲まれた大都市にやってきた。
 自分から来たのだから後悔はない。けれど、少しだけ寂しい時もある。
(でも、変わらないものもあるんだ。空の色、風の匂い、走る感覚だって……)
「あの、先生。また話したり、かけっこして、くれませんか」
 そう尋ねたアンリに、シトリは笑った。
「もちろん。あなたが話したい時、走りたいときに。執務室にでも、遊びに来てくださいね」



課題評価
課題経験:20
課題報酬:720
ゆうしゃのなつやすみ。
執筆:白兎 GM


《ゆうしゃのなつやすみ。》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 1) 2019-09-09 01:15:41
…教官様、おもしろそーな本持ってんね。
読み終わったらザコちゃんにもかーして。知っとけば面倒い対応だいぶ楽になりそうだし。
正しい食べ方と魔物の種類種別の文化とか、なんなら意思疎通の諸々とか分かるかもだし。

で、ザコちゃんの夏休み?特に面白変わったことしてた訳じゃないんだけどねぇ。
いつものよーに、課題に行ったり、他のゆーしゃ様の課題について聞いたり、適当に学園内うろつきさ迷ったり。

…そーいや、人探しに学園に来た人には出会ったかな。
ん?ほんとにそんだけだけど。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 2) 2019-09-09 08:52:24
勇者・英雄コースのフィリンよ。よろしく。

私もイエライ教官に声かけられちゃったわ…
夏休み後半、ちょっと馬で遠乗りしてきてて…ちょっと、墓参りみたいなものね。
帰省ってわけじゃないんだけど、まだ色々きてるかな…

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 3) 2019-09-12 12:45:49
遅刻遅刻~♪
寝坊し放題どころか、夏休みの大半はこの世にいなかった
リバイバルおばあちゃんが来ましたよ。

賢者・導師コース、教員志望のマーニー・ジムです。
よろしくお願いいたします。

私は、通るかどうか分からないけれど、まずは生き返ったときの経緯かしらね…

あとは、孫との関わりを書きたいけれど…他のキャラやエピソードが絡むので、ウィッシュ案件になると思うわ。

あとはね~、欲を言えば、臨海学校の思い出を、ボートでご一緒した、アリアさんと、ビアンデさんと一緒に描ければ、最高かしらね。
お二人とも、文字数等限られてるから、無理はしてほしくないと思うけど、もし、検討してくれたら、大変嬉しいわ。
タスクの話題は、前回たくさん誉めていただいたから、今回は置いておくとして(照れ混じりの苦笑)
航海中や無人島での意外なエピソードが描けたら、嬉しいと思うわ。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 4) 2019-09-14 21:41:37
仮プランを書いてみたわ。
色々ありすぎて、臨海学校に十分な文字数を使えなかったけれど、
楽しかったことと、皆さんへのお礼の気持ちを記載してみたわ!

《ゆうがく2年生》 アリア・カヴァティーナ (No 5) 2019-09-15 12:06:58
マーニーさま、ありがとうございますわ!
アリア・カヴァティーナ、ウィッシュプランにという形にはなってしまいますけれど、臨海学校の思い出を添えておきますわ!

《ゆうがく2年生》 ナツメ・律華 (No 6) 2019-09-15 20:48:18
賢者・導師コースのナツメ・律華ですわ。
わたくしは里帰りして牛の世話……もとい…う、馬にでも乗って楽しむつもりですわ。みなさま、どうぞよろしくお願いします

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 7) 2019-09-15 20:50:28
アリアさん、ありがとう!
とても嬉しいわ。すごくいい夏の思いでを語り合えそうね!

皆さん、今日が出発ですね。
プランの出し忘れ等に気をつけて、素敵な夏の思い出を描きましょう!

《ゆうがく2年生》 アリア・カヴァティーナ (No 8) 2019-09-15 21:59:21
わたくしは問題なしのバッチリですわ!
皆さまもバッチリになりますように!

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 9) 2019-09-15 23:03:41
遅くなった…教祖・聖職コースの、アンリ・ミラーヴだ。よろしく(尻尾を上げてブンブン振る)
イエライさんと、話してくる。