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恐怖チラシ


ストーリー Story

 深夜0時59分。
 男子寮ノホナの一室でのこと。

 フトゥールム・スクエアに籍を置く男子学生【チャッキー・ハマー】17歳は、ガラスが砕けるけたたましい音に目を覚ました。
 おっかなびっくり壁際を覗き込むと、月明かりに照らされて、異様な光景が視界が飛び込んできた。
 板床に飛び散るガラスの破片と、一束のチラシ。
 そう、このチラシの束が何をどうやったのか知らないが、窓ガラスを突き破って部屋に突入してきたのだ。
 チャッキー青年は恐怖におののき、短い悲鳴をあげた。
「ま、まさか……また、恐怖チラシがッ!」
 恐怖チラシとは、悪霊の類と思われる何者かが配布する恐ろしいチラシで、このチラシを見た者は百日分の貯金利息が消え去るのだという。
 少ない小遣いをこつこつと集めているチャッキー青年には、100日分の金利が失われるのは死活問題に等しかった。
 それでもチャッキー青年はぶるぶると震える手で恐怖チラシを拾い上げ、そこに記されているド派手な広告内容を読まずにはいられなかった。
「な、何だってッ! 日頃のご愛顧にお応えして、ボッタクリーブスマーケットで魔斬龍セルセトの胸肉300グラムを超特売価格にてご奉仕致しますだとッ!」
 思わず叫んでしまったチャッキー青年。
 すると両隣の住人達から、
「うるせぇぞッ! 今何時だと思ってんだッ!」
「静かにしやがれ馬鹿野郎ッ!」
 などと口々に怒りの声が飛んできた。
 しかしチャッキー青年は完璧にシカトをかまし、更に恐怖チラシを大声で読み上げる。
「お、恐ろしいッ! 午後3時からはタイムセールスで更に3割引きッ! こ、こんな……こんな、けしからんことがッ!」
 あまりの恐怖と驚きに、チャッキー青年は弓ぞりに体をのけぞらせ、白目を剥いた。ついでに、
「ガハッ!」
 と勢い良く吐血した。擬音や効果音でガハッと吐血するのはよくある話だが、自分でわざわざ、ガハッという台詞をいいながら血を吐くというのは如何なものであろう。
 それはともかく、チャッキー青年は口元を拭いながらクローゼットに駆け寄った。
「こうしてはいられない。恐ろしい胸肉がマダム達の手に亘る前に、何とか阻止しなければ」
 開け放たれたクローゼット内にはびっしりと女性用の服が。チャッキー青年がどういう性向の持ち主であるかは、今は問うまい。
 それよりも彼は、酷く憂鬱な顔で呟いた。
「ひとりでは無理だ。仲間を募らないと……そうだ、フトゥールム・スクエアの暇人達を集め、彼らに何とかして貰おうッ! 我ながら、ナイスアイデアだッ!」
 一般にそういうのを、丸投げ、という。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2019-09-29

難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2019-10-09

登場人物 3/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。
《新入生》アルバリ・サダルメリク
 エリアル Lv13 / 黒幕・暗躍 Rank 1
【外見】 糸目だが開いた目をよく見ると緑色 黒い短髪 エルフ系エリアル 見た目怪しい中国人 【性格】 腹黒守銭奴 お金をくれるなら大体なんでもやってくれる いつもなにか含みがある事を言ってる 金を稼ぐのは最早趣味 『口調』 ~ヨ、~ネ。 エセ中国人風 【服装】 中華系の袖の広い服を好んで来ている。 ※アドリブ大歓迎!

解説 Explan

 恐怖チラシを見てしまったチャッキー青年を助けるべく、有閑マダムが大勢訪れる街の公設市場ボッタクリーブスマーケットへと赴き、魔斬龍セルセトの胸肉300グラムが売れるのを、阻止しなければなりません。
 しかしあからさまに妨害すると威力業務妨害で逮捕されてしまうので、それとなく胸肉からマダム達を遠ざけましょう。
 ところでこのボッタクリーブスマーケットには魅力的な商品があちこちに配置されています。気合を入れてかからないと自分自身が買い物客に墜ちてしまい、マダム達を胸肉から遠ざける任務が疎かになってしまいます。くれぐれもご注意を。
 尚、ボッタクリーブスマーケットはマダム専用市場ですので、男子が入場するにはママとお手々を繋いで一緒に入るか、悠気を出して女装で挑むしかありません。

 他に注意すべき点としては、恐怖チラシをチャッキー青年の部屋に投げ込んだ謎の存在が、矢張り同じくボッタクリーブスマーケットに出現する可能性が高いということです。
 きっととんでもない奴なので、遠慮なくとっちめてしまいましょう。


作者コメント Comment
 本プロローグをお読み下さり、誠にありがとうございます。
 ゆうしゃのがっこ~!では初めましての方が多いかも知れません。
 狂乱の痴悩マスター革酎でございます。しばしお付き合い下さいませ。
 初っ端から頭おかしいプロローグを出してしまいましたが、もしよろしければ、参加をご検討頂けますと幸いです。


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:14 = 12全体 + 2個別
獲得報酬:252 = 210全体 + 42個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
事前に嗅覚強化を用い、チャッキー様にチラシに残った匂いを嗅がせていただきますわ。撒いた人物の匂いが残っているかも

マーケットに入り込んだら演技、信用、ハッタリを用いて件の胸肉以外の商品をアピール、マダム達の購買意識をそちらへ向けるように努めますわ。胸肉を貶めず他の商品を持ち上げるなら業務妨害にはなりませんわよね?

そうしながらも時折嗅覚強化で臭いを嗅ぎ、チラシに残った匂いを感じないか調べます。臭いの持ち主を嗅ぎ取ったら

「恐怖チラシを撒いているのは貴方ですわね!」

と糾弾、逃げるようなら祖流還りで狼になり追いかけ、部分強化:跳躍で飛び越し正拳突きで眼前の地面をえぐり

「おいたはいけませんわ」

と微笑みます

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:

獲得経験:14 = 12全体 + 2個別
獲得報酬:252 = 210全体 + 42個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
マーケット近くで買い物してる客に扮して、ちょっとした噂話を広められないか試してみます

マダム達はスタイルにも関心があるかもしれませんし、予め簡易救急箱の包帯で胸元を締め付けて平坦にし、その上から服を着ておき下準備
新婚の若奥さん的な感じで潜入

マダム達との会話に自然に混じり、
「あの胸肉、ウチの人が好きなんで、よくいただいてるんですよ」
「あの人のために栄養つけようと思っても……なかなか」(平坦な胸部をなでつつ)
「最近は暗くなっても……その、あまり構ってくれなくて」
「隣の未亡人の(脅威的な)胸ばっかり見てるから……浮気されないか心配なんです」

等と、食べると貧相になるようなイメージを植え付け拡散

アルバリ・サダルメリク 個人成績:

獲得経験:14 = 12全体 + 2個別
獲得報酬:252 = 210全体 + 42個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
鶏肉を買い占めたい

【心情】
アイヤー、そんな安く売ってるならワタシ全て買い占めたいネ
品物を安く仕入れて売り捌く
商人としては正しい姿デショ?
買った物を普通に売り捌いてあげるヨ

あー、女性じゃないとダメ?
なら女装するのも仕方ないネ
ちょっと女性にしては背が高いからあれかもダケド
まぁ、体型を隠す服を持っていけばある程度はいけるカナ?

それに、安い品物で他人に競り負ける訳にはいかないからネ
商人の意地を見せなきゃいけないネ


ワタシ、小料理屋をしているヨ
安く仕入れる事ができるならできるだけ数を仕込みたいネ!
ここの鶏肉全部買い取らせて貰うヨ!

他の人が噂を流してくれてるその隙を突き全ての鶏肉を買い占めたいネ

リザルト Result

●ザ・バトルフィールド
 フトゥールム・スクエアから徒歩十数分。
 有閑マダム御用達の公設市場ボッタクリーブスマーケットは、その日も大勢の客──主に中流から上流階級のマダム──で賑わっていた。
 時間は午後2時30分。毎日実施されるタイムセールスは午後3時からだから、あと30分もすれば、マーケット内は熾烈なる女の戦場と化す。
 男子寮ノホナの自室に恐怖チラシを投げ込まれた17歳の男子学生【チャッキー・ハマー】は、濃い眉の間に縦皺を幾つも寄せ、目尻の吊り上がった恐ろしい形相で左右を見渡していた。
 チャッキー青年は現在、下手な女装で男子禁制のマーケット内に潜入している。バレれば速攻で叩き出されるのは間違いないのだが、しかしチャッキー青年はそんなことなどお構い無しに、野太い声を不自然なまでに裏返しながらぶつぶつと呟いていた。
「大丈夫だ、まだあの胸肉に手を出しているマダムはひとりも居ないぞ」
 実をいうと、チャッキー青年は恐怖チラシがお買い得として広告に打ち出した魔斬龍セルセトの胸肉300グラムを購入した場合、どれ程の害悪が購入者に襲い掛かるのかは余り理解していなかった。
 ただ兎に角、呪われて酷い目に遭う、ということしか知らない。知らないというより、そういう先入観に囚われており、実例を知っている訳でも、魔法的・学術的根拠がある訳でもない。
 取り敢えず、食ったら美味い、ということぐらいは知っていたのだが。
「アイヤー、そんなに美味デスカ。それなら尚更、全部買い占めてお客様に出さないといけないネ」
 チャッキー青年に聞こえないところで、同じく女装した【アルバリ・サダルメリク】が、腕を組んでふむふむと頷いている。
 アルバリはこのマーケット内では、アンカ・サダクビアという名のチャイナ服女性として通していた。といっても、直接アルバリを誰何した者はひとりもおらず、今のところはアルバリの自分脳内設定として成立しているだけに過ぎないのだが。
「え……買い占めるつもりなんですの?」
 アルバリの傍らで、【朱璃・拝】がぎょっとした顔で一瞬、意味が分からないといわんばかりの視線をアルバリに投げかけた。
 朱璃はアルバリとは異なり、間違いなく女性である。豊満なスタイルが特徴的なルネサンスの武神・無双コース生だ。が、アルバリも朱璃も揃ってチャイナ服を身に着けている為、傍から見ると凸凹女芸人コンビのように見えてしまう。
 少なくとも周りの有閑マダム達は、アルバリと朱璃をそのように見ている節があった。
 そのふたりとは対照的に、びっくりするぐらい地味な服装の【ベイキ・ミューズフェス】は、アルバリとは違った視点で胸肉の買い占めについて、ひとり考察を続けていた。
 否、ベイキの場合は逆買い占め理論といっても良いのだが、中々ひと言で表現出来る内容ではなかった。
「それにしても、見事に絞り切ったもんですわね」
 朱璃が心底感心したように、ベイキの真っ平な胸元をじろじろと覗き込んだ。実はベイキ、朝から頑張って簡易救急箱の包帯を全部使い切り、自身の胸の膨らみと質量を完璧な洗濯板へと変貌させていた。
 これが今回、ベイキが考え出した作戦なのだが、さて、どこまで通用するか。
「はい。仕込みはばっちりです」
 ふふふと不敵に笑うベイキ。見た目は地味だが、若奥様風味を確実に仕上げてきた力量は称賛されて然るべきであろう。
 そんな三人がお互い微妙につかず離れずの距離を保って魔斬龍セルセトの胸肉コーナー付近をうろうろしていると、次第にマダムの数が増えてきた。
 どうやら午後3時からのタイムセールスにスタートダッシュを仕掛ける意図らしい。
 ならば、朱璃とベイキには好都合だ。魔斬龍セルセトの胸肉をディスる相手が、向こうから近付いてきてくれた格好となった。
 アルバリは少し身を引いて、待機。先に手を出して買い占め行動を見せてしまうと、マダム達が魔斬龍セルセトの胸肉が魅力的な商品だと錯覚し、同じように手を出してしまう危険性がある。
 ここは最初に、朱璃とベイキが行動を起こすべきであった。
 そして当然ながら、女装しても全然女性になり切れていないチャッキー青年は遠くから眺めるばかりである。一度丸投げした以上は絶対に関わらないぞという確固たる信念でも持ち合わせているのだろうか。

●ゴールデントリオ
 朱璃は胸肉コーナー周辺を徘徊しながら、辺りの臭いを嗅ぎまわっている。実は朱璃、事前にチャッキー青年から件の恐怖チラシを借り受け、そこに染みついている臭いを嗅ぎ分けてみた。
 こうすることで、胸肉コーナー付近に恐怖チラシを投げ込んだ犯人が現れた場合、即座に捕らえることが出来ると考えたのである。成否は別として、アイデア自体は悪くない。
 そんな訳で恐怖チラシの臭いをくんくんと嗅がせて貰った朱璃だったが、正直なところ、安物の合成紙であるということぐらいしか分からず、手がかりになるような臭いは全く分からなかった。
 だが、臭いがしないということは、それ自体がひとつのヒントになる。つまり、体臭を持たない何かがこの恐怖チラシを投げ込んだ可能性があるということだ。
(……人間でも魔物でもない、ということでしょうか?)
 朱璃がそんなことを考えていると、胸肉コーナーに屯しているマダム達の横に、ベイキがすっとさりげない調子で身を寄せた。マダムのひとりが件の胸肉を買おうかどうか迷っている節を見せると、ベイキが悲し気な顔を見事に作ってみせた。
「その胸肉、ウチのひとが好きなので、よく頂いているんですよ。あのひとの為に栄養を付けようと思っているのですが、これが中々……」
 包帯をがっちがちに巻き付けた洗濯板の胸元を、これ見よがしに撫でるベイキ。左右のマダムが話を続けろという風に視線を向けた。
 ふふふ、釣り針にかかりましたね──腹の底で会心の笑みを浮かべつつ、しかし実際の面には憂える色を浮かべたベイキ。これが女優魂というものか。
「実は最近、暗くなっても……その、余り構って貰えなくて……それだけじゃなく、隣の未亡人の胸ばっかり見てるから……浮気されないか心配なんです」
 ベイキは言外に、その隣の未亡人とやらが実にけしからん巨乳であることを、それとなく含んでみせた。
 このベイキの、よよよと泣き崩れんばかりの芝居には、マダム達もすっかり騙された様子で、互いに青ざめた表情を見合わせていた。
 ベイキが作ってくれたこの流れを、利用しない手は無い。朱璃は胸肉コーナーのすぐ隣にある鮮魚コーナーで、おおおーっと裏返った声を飛ばした。
「こ……ここで売られている鮭は素晴らしいですわッ! 豊胸にかかせないタンパク質もたっぷり、それにアンチエイジングの効果もあるのですもの……これは早く決断しないと、売り切れてしまいますわねッ!」
 これだけ盛大にぶっ放せば、嫌でも意識はこちらに向くだろう。事前にベイキが威力業務妨害にはならない程度の実にさりげない胸肉ディスでしっかり道筋を立てていたのだから、これならきっと完璧だ。
 と、思って鮭コーナーの生産者カード──自然食品派スーパーなどによくある、顔イラスト入りの、私が作りましたアピールをしているアレだ──をふと見ると、そこに物凄く凶悪な人相の亜人が鋭い鉤爪で鮭をぶら下げている写実的な超リアルイラストが張り付けてあった。
 朱璃は思わず目の前が真っ暗になりそうになったが、ここまで来て後へは退けぬとばかりに、その生産者カードを何食わぬ顔で引っぺがし、近くをうろうろしていたアルバリの買い物籠の中に放り込んだ。
 アルバリは何事かと、ぎょっとした表情で不気味なイラストを凝視していたが、朱璃は素知らぬ風を装って鮭コーナーを離脱。
 これは何ネとアルバリが訊く前に、朱璃は既に別の任務に就いていた。即ち、恐怖チラシのぶっ込み犯を探すことである。
「さて、恐怖チラシ……新聞ではないのが少しアレですけど、ま、寿命が縮むよりはマシでしょうか」
 呟いてから、朱璃はハッと我に返る。
 何故、そんなことを思ったりしたのだろう。何故か自分の精神年齢が凄まじく年老いたような気がしたが、朱璃は努めて冷静に振る舞おうと考えた。
 一方、アルバリはマダムの流れが鮭コーナーに傾いた頃合いを見て、胸肉コーナー前に張り付いた。そして時間は丁度午後3時。タイムセールスが開始の号砲を鳴らす時刻だ。
 この瞬間、アルバリは持てる全ての能力を胸肉と買い物籠に注ぎ込んだ。一子相伝の暗殺者の如く、
「ほあたたたたたたたたたたたたたッ! おあちゃーーーッ!」
 と、怪鳥を思わせる気合の声と共に、アルバリ演ずる小料理屋の娘アンカが次々と胸肉を買い物籠の中へと収めてゆく。
 これはどう見ても、買い占めだ。それもおもちゃ売り場等でよく見かける、異国の転売屋の如き怪しさだ。
 そのアルバリの不埒な行いに気づいた店長さんが、慌てて駆け付けてきたものの、時既に遅し。
「あ、あぁ、お客様ッ! あぁー、お客様ッ!」
「ワタシ、出身は海外ネッ! ワタシ、言葉ちょっと分かるヨッ! 安いってイイネッ! オイシイってイイネッ! イイネイイネっていってるけど、承認欲求丸出しみたいにいわないで欲しいネッ!」
 店長との息詰まる攻防。
 お互い、いってる内容が全然噛み合っていない。だが、それで良い。言葉のキャッチボールが成立してしまうと、アルバリは自ら違法行為をしていることを認めることになる。
 ここはひたすら、カタコトな小料理屋の娘アンカに徹するべきだ。
 情けは無用──アルバリの勝負手に、店長は最早、成す術も無かった。
 アルバリvs店長、胸肉ファイッ!

●それは紛れも無く、奴さ
 その頃、朱璃とベイキは胸肉コーナー近くで呆然と佇む、贅肉で超肉々しい半透明のおっさん幽霊を前にして、互いに顔を見合わせていた。
 超肉々しい半透明のおっさん幽霊は、【ぽっちゃりガイスト】と名乗った。
「ぽっちゃりって自分でいう場合、大抵ぽっちゃりじゃなくて、普通にメタボだと聞きますわね」
「そうですね。私の目から見ても、やっぱりメタボです」
 朱璃とベイキにずばりと事実を突きつけられ、自称ぽっちゃりガイストはひぃぃと甲高い悲鳴を上げた。
「あ、そいつだ……そいつが、恐怖チラシを投げ込んできたやつだッ!」
 不意にチャッキー青年が隣の乾物コーナーから顔だけひょっこり出して、威勢良く叫んだ。
 曰く、恐怖チラシを投げ込んでくる際に、独特の甲高い声が聞こえてくる場合があるそうなのだが、その時の声が、このぽっちゃりガイストの声そのまんまらしい。
 しかしそれにしても、何とも風采の上がらない外観である。見ている方が、何となく気分が滅入ってくるぐらいであった。
 その時、ベイキの背後で数人のマダム達がぼそぼそと囁き合っている。
「んまぁ~、何てことざんしょ。あんなに可愛い奥様でも、胸が無いってだけで、あ~んなデブ亭主に構って貰えないなんて」
「ウチの亭主は無い方が好みだから、ウチのと取り替えたら丁度良いかもって思いましたけど、あれじゃあちょっとねぇ……」
 同情とも嘲笑とも取れる含み笑いが、ベイキの後ろで輪唱のように連なる。
 ベイキが、己の顔が真っ赤に染まるのが、自分でもよく分かった。
 ぽっちゃりガイストは、何をどう解釈したのか知らないが、ベイキに対して憐れむ視線を送った。
「お嬢ちゃん、僕の隣りならいつでも空いてるぜ。カモン、ベイビー。うふふふ……」
 この時、朱璃は隣のベイキから、ブチっと何かが切れるような音を聞いたような気がした。と思った次の瞬間には、ベイキは音も無くぽっちゃりガイストの背後へと廻り、スカートの裾を摘まみつつ、殺さない程度にケツ蹴りを叩き込んだ。
 すると、どうであろう。
 ぽっちゃりガイストは何故か恍惚とした表情で、おほぅ、などと変な声を漏らした。
「え、そっち? そっち系なんですの?」
 ベイキに続いて拳の一発でも叩き込んでやろうかと身構えていた朱璃だが、相手がちょっと、色んな意味でヤバそうなので、慌てて上体を引いた。上体だけでなく、心の底からドン引きだった。
 そして蹴りを入れたベイキも、この幽霊はそっちの気があるのかと引きまくっていたが、当のぽっちゃりガイストは嬉しそうに悶絶しながらすーっと宙空に消えるようにして、姿を消してしまった。
 一応、形としては退散させた、と見て良いのだろう。
 その頃、アルバリvs店長の不毛な戦いは、まだ続いていた。
「お、お客様ッ! あぁー、駄目です、お客様ッ!」
「駄目じゃナイネッ! ここの胸肉、全部買い取らせて貰うヨッ!」
 仁義なき戦い。
 否、そもそもアルバリに仁義は無い。あるのは、商人としての意地のみだ。
 安い品物で他人に競り負ける訳にはいかない──そこには、仕入れ業者としての決して譲れないプライドが、確かに存在した。
 既に恐怖チラシの真犯人は撃退し、マダム達を胸肉の脅威から守り通した。ゆうしゃ候補達は見事に戦い抜いた。
 ひとりはドン引きし、ひとりは哀れなデブ専と勘ぐられ、ひとりは転売屋疑惑。
 それでも彼らは、結果を残したのだ。
 祝え、我らがゆうしゃ候補達の新たなる誕生を。



課題評価
課題経験:12
課題報酬:210
恐怖チラシ
執筆:革酎 GM


《恐怖チラシ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2019-09-25 22:48:57
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

マダムたちを遠ざけるには胸肉よりも魅力的な商品がある、という雰囲気を醸し出してそちらへ誘導するとか出来ればよさそうですけれど、具体的にどういたしましょうかしら。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 2) 2019-09-28 11:32:43
教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。

私はそうですね……マーケット近くで買い物してる客に扮して、ちょっとした噂話を広められないか試そうかと。
マダム達はスタイルにも関心があるかもしれませんし、あのお肉を食べ続けた結果、こんなに貧相に……とか言って簡易救急箱の包帯で胸元を押さえて平坦に見せてみようかなとか。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2019-09-28 19:52:25
ベイキ様、よろしくお願いしますね。私は先述の通り逆に胸肉よりも別の物に興味や意識を向ける感じで書いてみますわね。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 4) 2019-09-28 21:09:15
私は、あまりあからさま過ぎると逮捕されそうなんで、少し遠回しに食べない方がいいよ的な事を広めてみようかと。
具体的内容は……コメディにはコメディで返さざるを得ないとか何とか。

《新入生》 アルバリ・サダルメリク (No 5) 2019-09-28 23:53:01
アイヤー、ギリギリでゴメンネ!
チラシは放置して、ワタシは鶏肉を買い占めようかと思ってたヨ!
噂話を流してくれてるならちょっと隙があるだろうからネ!
その隙に買い占めるつもりネ!
(チラシどうするか迷ってたけど、まぁ買ってしまえばコッチノモンダヨネ!)