;
可笑しなお菓子クラブ


ストーリー Story

 テーブルクロスには、蝶をあしらったレースを。
 家具のひとつひとつには、花をあしらったカバーを。
 小鳥の描かれたティーセットの食器には、クリームたっぷりのケーキを。
 『かわいい』ものをたんと集めた一室、2人の女性がただ、優雅に紅茶を啜っていた。
 女性のうちの片方。長身のドラゴニアの女性【ローズ・スカーレット】は、この空間に合わせたように上品なドレスに身を包む。
 そして、飲みかけの紅茶を置く。
 辺りの家具、ケーキ、その全てに視線を流し、最後に、手元にあった紅茶を見つめ、はにかむ。
「……ふふ、ふふふ、『かわいい』! 流石、さっすが私! 超可愛いですわ!」
 淑女にあるまじきその大声に、隣に座る執事服を着た女性が小さく咳払いをする。
「お嬢様、『良い淑女』になるからと言って、お父様に出資していただいた店でしたよね? ここ。何時でもボクは、お父様へ報告できる。ということをお忘れなく」
 もう1人の女性はそんなローズを冷ややかな目で見つめる。
 ローズとは対照的な小柄なヒューマンの少女【ラズニア・ホワイト】は、ただ冷静であった。
「うぐ……、も、勿論。私は淑女ですもの。はしたない真似も、そして悪だくみなども一切ありませんわ! そう、全ては私が領民、いいえ! 皆に慕われる後継ぎとなる、その為の店ですもの!」

 『ドルチェ・ハウス』。学園内に新設されたばかりの、小さな建物の名前である。
 貴族令嬢であるローズによって(無理やり)建てられたそこは、小さなデッキ席が付けられている、かわいらしいカフェのような構造をしていた。
 建物の中も、ローズによって(無理やり)集められたかわいい物が、これ見よがしに使われている。
 しかし、店のような外観をしてはいるものの、実は店として使う予定は毛頭ない。
 ドルチェ・ハウスの表立っての目的……それは、新しくローズが設立予定のお菓子好きな生徒の集まるクラブ『ドルチェ・クラブ』の集会所として使うこと。
 因みに、裏の理由は、ローズの『かわいい物に囲まれながら美味しいものを食べたい、作りたい』という欲望。それだけだ。
 勿論、申請を行えば部活棟に部屋を準備することは可能だろう。しかし、ローズの『部活棟を改造しても、かわいくない』、という一言で急遽、新しく建てられたのだ。
 
「それはそうと、セバスチャン。広報活動は進んでいるかしら?」
「ボクはセバスチャンではありませんよ、お嬢様。クラブ設立に向けてのメンバー募集、ですよね。ええ、とても滞りなく順調に。……ただ」
 顔色1つ変えず、淡々と話すラズニアであった。しかし、話が進むにつれ、言い淀んだ。
「うまくいっているのでしょう? なら、何故嬉しそうにしないの? もしかして、あまりよろしくない方々がいらっしゃったとか……?」
 それはない。そう言いかけるローズであったが、彼女は一応、貴族の端くれである。
 彼女の一族に恨みを抱く輩も、もしかするといるかもしれない。
「ええと、大丈夫、です。皆様お菓子作りやかわいいものに、非常に好意的です。ボクが言いたいのはですね。偏っている、ということです」
「偏っている?」
「えぇ、お嬢様の『甘味とお茶で、学園内の貴族や有力者、それから伸びるであろう勇者候補方とのコネクションを作る』、というお考えは大変すばらしいと思います。会話から情報を聞き出すことも、商談を行うことを考えての建物でございますし、お父様も期待されております。ゆえにボクもお力になりたいと考えています」
す」
 淡々と語られる過去の嘘、出まかせ。ローズは思わず頭を抱えたくなった。
ラザニアの言葉は、以前父親へ、出資してくれるよう説得するべく、ローズ自らが言った言葉であったからだ。
 勿論、そのような考えは今も持っていない。持っているのは欲望だけだ。
(あの時の私、なんでそんなに頭が回ったのかしら? あぁ、ラズニアの全てがわかっているって視線が痛いわ)
 そんなローズの内心を知ってか知らずか、ラズニアは続ける。
「しかし、甘味という言葉からか。それともこの建物の外観からか。希望者は女子、そう。女子生徒ばかりなのです。男性がございません」
「……ええと、それに何か問題が?」
 可愛らしくていいじゃない、ドレスの着せあいっことか、ガールズトークとかしてみたいわ。
「大ありです。貴方は女性とだけコネクションを結ぶおつもりですか? いずれお嬢様は、男性と親しい間柄になることもありましょう。それに、スカーレット家と縁の深い商人方、男性の方が多いですよね? 貴族として、皆に慕われる後継ぎとなるべく。男性に、今のうちに慣れておくべきかと。何時までも逃げるわけにはいきませんよ?」
「……、……ん、んん~……はぁ、分かりましたわ。ええ、そうですね、必要ですものね!」
 昔、ローズの屋敷には父親以外の男性がいなかった。そのため彼女はあまり男性に免疫がなく、学園に入学した現在も無意識に男性を避けてしまうのである。
 ラザニアをはじめとした『男装をした女性』や、『女装をした男性』とは会話をすることができるようになった。しかし、かといってこれから出会う男性の全てに女装を強要するわけにはいかない。
「で、では。こうしましょう。近日中にどういった活動を行っているのかを知っていただくため、体験会のようなものをしましょう。店……としても機能できるような構造に作ってもらいましたので、文化祭の出店のようにして。キッチンはもう使えますわね?」
「ええ、問題なく。問題なのはどうやって男性を集めるか、ですが」
「……男性が入りにくいというならば、男性がいるという安心感を与えるとよいだけですわ。男性何人かに頼んで、客や店員役になっていただきましょう。ツテで男性の客を呼んでいただければ一石二鳥ですわ」
 女性しかいないから入れない、入りにくいというならば初めから男性を入れてしまえばいいのだ。
「しかし、お嬢様。このような店、もし女性しか手伝いの応募がなければどういたしますか?」
「……ラズニア、執事服の在庫。確認をしてください」
「……お嬢様?」
「男装女子は、男子のうち。ですわ。それに……かわいさの中にかっこよさが入って……最高じゃないですかっ! 私はそれが見たい、ですわ」
「お嬢様、願望が口に出ています」


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2019-09-18

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2019-09-28

登場人物 4/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《模範生》レダ・ハイエルラーク
 ドラゴニア Lv16 / 黒幕・暗躍 Rank 1
将来仕えるかもしれない、まだ見ぬ主君を支えるべく入学してきた黒幕・暗躍専攻のドラゴニア。 …のハズだったが、主君を見つけ支えることより伴侶を支えることが目的となった。 影は影らしくという事で黒色や潜むことを好むが、交流が苦手という訳ではなく普通に話せる。 ◆外見 ・肌は普通。 ・体型はよく引き締まった身体。 ・腰くらいまである長く黒い髪。活動時は邪魔にならぬよう結う。 ・普段は柔らかい印象の青い瞳だが、活動時は眼光鋭くなる。 ・髭はない ・服は暗い色・全身を覆うタイプのものを好む傾向がある。(ニンジャ…のようなもの) ・武器の双剣(大きさは小剣並)は左右の足に鞘がついている。 ◆内面 ・真面目。冗談はあまり効かないかもしれない。 ・立場が上の者には敬語を、その他には普通に話す。 ・基本的に困っている者を放っておけない性格。世話焼きともいう。 ・酒は呑めるが呑み過ぎない。いざという時に動けなくなると思っている為。なお酒豪。 ・交友は種族関係なく受け入れる。 ・伴侶を支えるために行動する。 ◆趣味 ・菓子作り。複雑な菓子でなければ和洋問わず作ることができる。
《やりくり上手》ルーノ・ペコデルボ
 カルマ Lv10 / 村人・従者 Rank 1
【外見】 褐色肌 丸関節 眼鏡 銀髪外ハネ短髪 赤目 紋章は右手の甲と左目 【性格】 感情が余り出ないが無い訳じゃない 合理的 上からの命令に従順 入学の一番の目的は『感情を理解して表に出す事』 家事が得意 【備考】 人間と同じになりたい願望があるのか普段は手に手袋をつけている 見られるとちょっとだけ罰が悪そうな顔をする ※アドリブ大歓迎!
《新入生》アルバリ・サダルメリク
 エリアル Lv13 / 黒幕・暗躍 Rank 1
【外見】 糸目だが開いた目をよく見ると緑色 黒い短髪 エルフ系エリアル 見た目怪しい中国人 【性格】 腹黒守銭奴 お金をくれるなら大体なんでもやってくれる いつもなにか含みがある事を言ってる 金を稼ぐのは最早趣味 『口調』 ~ヨ、~ネ。 エセ中国人風 【服装】 中華系の袖の広い服を好んで来ている。 ※アドリブ大歓迎!

解説 Explan

●目的『ドルチェ・クラブ』に男性の入部希望者を入れる

 〇ドルチェ・クラブについて
 【ローズ・スカーレット】によって設立予定の、お菓子とかわいいものを求めるクラブです。
 今回は男性の入部希望者を集めていただくことが目的です。

 〇役割について(一例として掲載していますが、ここに書かれていないものも可能です)
 客……一般生徒に紛れ込み、入部を勧める
 店員……ケーキやお茶を運びながら、活動を披露する

 〇装備について
 ローズより、以下2種類の服が貸し出されています。
 1.メイド服……可愛らしさのある給仕服。ロング丈。
 2.執事服……かっこよさのある給仕服。
 女性の場合、ローズは執事服を着ることを強く勧めますが、強制ではありません。
 男性の場合、メイド服を着ることも可能です。勿論、執事服を着ることも可能です。強制ではありません。
 また、服を借りずに、自分の装備を持ち込むことも可能です。


作者コメント Comment
 皆様、こんにちは根来言です。涼しくなってまいりましたね。
 さて、今回は皆様にはある部活へ、男性の入部希望者を募っていただきたいです。
 強要するも、色仕掛けをするも、あるいは物で釣るも……自由です。
 (辞めるのは入った後の生徒達の自由ですので……。ですが、長く続けていただけるようになれば、少し良いことがあるかもしれません)
 皆様の素敵なプランをお待ちしています。


個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
…やっぱどこでも貴族って人種が子を持つと、自由を許さず理由を求めて。ある程度の意向に規制強制力かけてくんのかな。
ほんと、これだから。

めんどい気持ちはほんのり分かっし、微力の助力に混ざんね。
…どっちの服にもいい思い出がな……好きじゃないけど、そっちの執事給仕服貸して。こっちのがギリまし。

でさぁ、男のゆーしゃ様集めればいーんでしょ?質問わず数で。
そったらぶっちゃけ【会話術】でも絡めつつ、楽しげーな雰囲気でここの活動の実際事実伝えればいいだけくない?

『かわいい物と甘味の好きな貴族のお嬢様が、男性と親しい間柄になりたくて、お茶会を開くクラブを設立した』ーって。
…ザコちゃん、嘘は言ってないでしょ?ふふ。

レダ・ハイエルラーク 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:132 = 44全体 + 88個別
獲得報酬:3600 = 1200全体 + 2400個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
・甘味をできるだけ多く

◆服装
・冥土☆服

◆プレイング
・【事前調査】と【推測】である程度需要等を調べておく
・ルーノと連携して作る
・装備はすばやさ重視なので多分テキパキと作れるはず…
・【料理Lv3】【味覚強化】で調理
・同じものを大量に作る時は【精密行動】
・いい塩梅かの見極めで【第六感】(使う前に経験で見極めそうではある)
・ただ調理場を移動するだけでは芸がないので【立体機動】で縦横無尽に駆け巡る
・冥土服なのでメイドとしての振舞いを重視する(【変装】【従者学】等が役立ちそう)
・泡立て器は標準装備
・調理に泡立て器必須
・終わった後はアドリブOK

ルーノ・ペコデルボ 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
一杯、作る

【心情・行動】
料理を作ったら消費して下さると
材料費はそちら持ちでしょうか

全力で作らせて頂きますね

メイド服?あぁ、制服なんですね
じゃあ着ます(普通に着る

給仕もまぁ、昔やってましたので承りますよ

コンセプトは
・愛らしい見目の菓子
・男声受けも考慮
・入部にこぎ着けたい

ですね

承ります

でしたら、甘い物だけではなくしょっぱい物も作りましょう
おつまみ…というと抵抗あるかもですが
お茶に合うしょっぱい茶菓子なら色々需要がありそうですからね

チーズスティック
なんて以下がでしょうか?

あとはお茶

緑茶もご用意させて頂きますね

あと、来るお客様はご主人様ですからね
精一杯勤めさせて頂きますね、ご主人様(無表情


アルバリ・サダルメリク 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
実権を握り金儲けをする


【行動・心情】
アイヤー、せっかくこんないい設備があるのに趣味だけで終わらせるのは勿体ないネ
ワタシに任せればちょちょいと金儲けもといコネクションを集められる方法を考えるヨ

ドウカナ?ワタシに経営を任せてみないカ?
アナタに献上する金を部費に当てればイイネ
部費だし…3:7でどうヨ?
7くらい貰わないと面白く無いからこれ以上はまけられないネ


ふむ、なるほど
可能ならお酒も取り扱いたいところネ

学校の人なら既に成人済みの方も多いし、酒の席なら言葉が滑りやすいヨ
幸いおつまみみたいなのもあるみたいだしネ

あとは情報を集めたら情報屋としての色々な準備が整う
ローズさんの要望に大体応えられるネ

リザルト Result

「単刀直入ではございますが、今回のお仕事内容を改めて説明させていただきます。皆様、よろしいでしょうか? ……お嬢様?」
 執事姿のメイド【ラズニア・ホワイト】は一同を見渡し、声をかけ……ある1名の様子がおかしいことに気づいた。
 はぁ……。
 と、ワザとらしく出されたため息。決して退屈や落胆の物ではないことは、その主の表情を見れば明らかであった。
 この『ドルチェ・ハウス』の主、【ローズ・スカーレット】は、うっとりとした表情で目の前に広がる光景を見つめていた。
「皆様、着心地はいかがでしょうか? 私はさいっこうですわ!」
 実に楽しそうに聞くローズに対し、一同の反応は様々だった。
「メイド給仕服よりまし、って思ったんだけどさぁ……。こんなきっちりしてっと、なーんか息苦しい感ヤバイねぇ」
 ぴっちりとした執事服を着た女性、【チョウザ・コナミ】は首元のタイを緩めながら答える。
 普段付けているアクセサリーや派手な服装と、今回のきっちりとした執事服は明らかに服の方向性が異なっていた。
 しかし、元々の背の高さやスタイルの良さが違和感なく服装と合わさっていた。
「私は……うん、袖もジャマにならなそうだし。何ら支障はないな」
 ドラゴニア、【レダ・ハイエルラーク】は羽や尻尾の位置を確認。
 そして、両手で何かの動作のシミュレーションをする。右手に細い物、左手に大きな器状のもの。一体何だろうか。
 そんなレダも、フリルのふんだんにあしらわれたメイド服……いや、冥土☆服を堂々と身に付けていた。
 平然とした表情は、従者というよりはむしろ主人のような貫禄すら見える。
 筋肉が程よくついた腕や足、肩幅。それも、見苦しいものではなく、寧ろ美しい……とさえ思わせる。
「有りか、無しか……いいえ、有りですわ!」
 ローズは小さくガッツポーズをした。
「こちらで良いでしょうか? 慣れない服ではありますが、ご奉仕させていただきます」
 カルマの少年【ルーノ・ペコデルボ】は、物珍しそうにロング丈のスカートをぱさぱさと捲る。
 ルーノは元々、最高傑作と言われていたほどの顔に加え、あまり高くはない背丈。
 初めから、彼……いや、彼女と言われてもおかしくないほどには違和感なく着こなすことができていた。
「いけませんわ、かわ……いえ、スカートが崩れてしまいます」
「それもそうですね、やめましょう」
 ローズに指摘されたルーノは、それもそうかと納得して手を放す。
「しかし……まぁ……うふふ……ふふふ……はぁ、私、もう満足ですわ、大満足ですわ」
 1人、やり切ったとでも言いたげな主人に何か言いたげなラズニアであった。
 改めて、お嬢様のこれはさておきまして。と、言葉を続ける。
「今回、皆さまにはローズ・スカーレットが設立予定のクラブ『ドルチェ・クラブ』へ生徒の勧誘をしていただきます。希望者数が多ければ多いほど、うれしいのですが……。出来れば、男子生徒が多く集まると、嬉しいですね。勿論手段は問いません」
 続けて、何か質問は? とラズニアが問えば、1つ手が上がった。
「お菓子を沢山作れば、消費してくれるんですよね? 材料費はそちら持ちでしょうか?」
「えぇ、勿論。前もって必要なものを言ってくだされば用意させますわ」
 ルーノの問いにローズが答える。
 じゃあ、沢山つくりましょう、と、無表情ではあるものの、ルーノはやや明るい声色を出す。
 そして、ともにお菓子の量産をすることとなるだろう相棒、レダへと顔を向けた。
「沢山必要なのか、なるほど……なるほど、つまり、速さか。希望にこたえられるように頑張ろう」
「……男の子の好きなもの、というのは、私にはわかりませんのでそのあたりはお任せしますわ」
「お酒も入れるべきだと思うネ。話、弾むと思うヨ! ところで、ビジネスの話をしたいのだけど」
 間に入ったのは、中華服を着たエリアルの男性【アルバリ・サダルメリク】。
「こんないい設備があるのに、趣味だけで終わらせるのはもったいないネ! ワタシに任せればちょいちょいと金儲……もといコネクション集められる方法を考えるヨ」
 にこにこと、人の好さそうな笑みを浮かべるアルバリであったが、当のローズはというと。
「そ、そうですわ……ね、えっと。前向きに検討いたします、わ」
 と、だけ言い。そそくさとラズニアの後ろに隠れようとする。
「アルバリ様。申し訳ありませんが、お嬢様は少々男性が苦手なものでして……」
「アイヤー、そうだったネ。そうだネ、今回の結果見テ、ワタシの経営の腕見てじっくり考えてみて欲しいヨ。それでどうカ?」
「そうですね、それが良いかと。文書なり、言伝なりでお伝えできるようにこちらもできますので」
「ワカッタ。良い返事を待ってるヨ」

 アルバリとラズニアの会話の後ろ。チョウザとローズの2人は、何やらこそこそと話をしていた。
「きぞく様さー、結構ムリしてんじゃん」
「無理……ですか? いいえ、そんなことは」
「有力者との繋がりを強制させられてんのに? さっきもひきつった顔してたしさー」
 ラズニアの説明中、『男子生徒を集める』、という言葉を聞いた時のローズの表情の変化を、チョウザは見逃さなかったようだ。
 その言葉に、気づかれていたのか、と。ローズは思わず自分の顔を手で覆う。
「顔……出ていましたの? あぁ、恥ずかしい」
 と小さく呟くローズの様子に目を細め、更に続ける。
「そーんな、めんどい気持ちもわかっし。ザコちゃんからくそ貴……面倒な貴族とかと対応するときの三か条を助言しよーかな、ってねー」
「さんか、じょう……ですか?」
「そそ。いーち、肯定も否定も言い切らないこと」
「……え」
「復唱ー。肯定も否定も言い切らないこと」
「こ、肯定も否定も言い切らないこと!」
「にー、表面上は都合のいい存在であること」
「表面上は都合のいい存在であること!」
「さーん、芯は染められず容易い存在にはならないこと」
「芯は染められず、容易い存在にはならないこと!」
「以上ー、これだけ守ってれば悪いようにはならないでしょ、たぶん」
「いじょ……、き、貴族のお教えですか? 難しいですわね……、私にできるでしょうか?」
 不安そうなローズの言葉に、チョウザは軽い口調で。
「さぁ? 気分の問題っしょ。ちょっとは楽になるから。さぁって、ザコちゃんは張り紙でもしてくるかなー。食堂とかに行けば誰かしらいるでしょ」
「ずいぶんと、お詳しいのですね……? ま、まさか! さては名のあるお忍びの王族様では!?」
「いやぁ? ザコちゃんはただの一般モブの……超平凡執事だよ? けどまー、やりたいことは止められてもさっさとやった方がいいよ?」


 ドルチェ・ハウス開店の日がやってきた。
 甘いお菓子目当ての生徒、泡立て……もとい、有名シェフのお菓子目当ての生徒。
 そして。
「聞いたか? なんでも貴族のお嬢様が、男性と親しい間柄になりたいとか」
「マジかよ、うまくいけば玉の輿じゃん」
「だよな、こんなクラブ作る程必死ってことはちょろいって」
 ひそひそと囁かれる噂話。元凶は食堂に張られた張り紙なのだが、当のお嬢様は知る由もない。
「な、なんでそんな噂が……?」
 たまたま聞いてしまい、顔を赤らめるローズ。その横で、
「嘘はついていないっしょ? ふふふ。あ、ゆーしゃ様お帰りなさいませぇ」
 さも当然のように振舞うチョウザの姿を見る。口元が少し笑っているところを見ると……。
「確かに嘘はついていないような。でも、真実とは少し違うような……あ! そう、そういうことですのね?」
 チョウザが以前言っていた3か条を思い出し、1人納得するローズだった。

「お茶はいかがですかー? 緑茶もコーヒーもあります。フロランタンに、スティックチーズ。甘い物、しょっぱい物、沢山作りました」
 ルーノはカートを転がし、ゆっくりと席の合間を進んでいく。
 無表情で愛想こそないものの、逆に誠実そうな姿はまさに凛々しいメイドであった。
 そんな彼の転がすカートに並べられた物は、可愛らしく皿に飾られたバラの砂糖漬け、小分けにラッピングされたフロランタン。
 女子生徒に大人気のようで、瞬く間に消えていった。
 えびせんやスティックチーズといったしょっぱいお菓子も追加されるたびに次々と消えていく。まさに大盛況。
「あの、一ついただけますか?」
 そんな中、生徒の一人が声をかける。
「ありがとうございます、どちらがよろしいでしょうか?」
「じゃあ……あれ? お酒……? あるんですか?」
 メニュー表に小さく書かれた文字を指さす。
「お酒、人気ですよ。ほらあちらにも楽しそうな方が……」
 ルーノが見つめる先から、千鳥足でふら付く男が現れる。
 男の顔は真っ赤で視界もどこかおぼつかないようだ。
「ねぇちゃぁん……綺麗だねぇ。ねぇ、俺と付き合ってよぅ……」
 男の言葉に、少し考えるルーノ。男性の意図をいまいち掴むことができないが……おそらく。
(僕を女性と勘違いをしているのか、それなら、丁重にお断りをしなければいけませんね)
「『ねぇちゃん』が女性を指す言葉なら、僕は貴方に付き合うことができません」
 予想外にあっけないルーノの言葉に男性は赤い顔を更に真っ赤にしてぷるぷると震えだした。
「……あれ? 完璧な回答だと思ったのですが?」
 無表情のまま、首をかしげるルーノの様子に更に男は激高したようだ。
「んだとぉ……ッてんめッ……んぐぁッ!?」
 男がルーノに拳を振り上げたその瞬間、急に白目をむいて倒れた。
「アイヤー、酔っ払いはダメネ。引き取るヨー」
 倒れた男の後ろに、いつの間にか佇むアルバリ。
 アルバリの手刀は正確に男の首をとらえ、そしてやや平穏にすべてを終わらせていた。
 アルバリに引きずられるように、外に連れていかれる男。そして。
 何事もなかったかのようにルーノ。改めて、生徒に問いかける。
「緑茶がいいですか? コーヒーがいいですか? それとも、お酒がいいですか?」

「ふむ、菓子はこのくらいでいいか」
 レダは厨房を離れ、店内を見回り……いや、『飛び回り』していた。手には当然のようにボウル、そして泡立て器。
 中身は作りかけの生クリーム。勿論泡だて器を動かす手は止まらない。
 本来ならば厨房を任されていたレダであった。
 しかし、ルーノとレダの量産作戦によって現在使えるオーブンがなくなってしまったために手持無沙汰になったのだ。
 普段ならば、店内を飛び回る長身のドラゴニアの姿に悲鳴が上がったことだろう。
 しかし、周りが特に反応しなければ『冥土が飛び回る』は当然の事実として受け入れられているようだ。
 ふと、飛び回るレダは何かに気づき、天井近くにある縁に留まる。
 視線の先は、茶器の横に置かれたケーキセットの一皿。
 スコーンに添えられたクロテッドクリームがやや他のものに比べて少ない! なんてことだ!
 クリームをたっぷり先端につけた泡だて器をたてに持ち、そして思いっきり振るった。
「泡立て器ビーム……ッ! なんてな」
 勢いよく飛んだクリームは、絶妙な角度でスコーンへと吸い込まれていく。
「……? ねぇ、今何か通った?」
「何が? 気のせいじゃないの? そんなことより、このチーズすっごく美味しくない?」
 そんなことはつゆ知らず、美味しそうにほおばる生徒たちの姿。レダは満足そうにそれを見守っていた。

「……、ハイ、ここまでヨ。これだけじゃ、ゼンブは教えられないネ」
「……う、ま、まぁ真偽もわからないような情報じゃぁ、これ以上は金は出せないな!」
 机に置かれた少々の硬貨を弾くアルバリ。そして落胆、あるいは冷やかすような態度をとる男子生徒たち。
 アルバリは数人の男子生徒と、店の端にある席に陣取って情報屋をひっそりと経営していた。
「真偽が分からない? ……ワタシの情報は正確ネ。例えバ……彼女はレモンティーを選ぶヨ」
 アルバリが離れた席に座る女子生徒を指さす。
 彼女は、ルーノから1杯の紅茶を受け取る。カップにレモンが添えられている。遠目でも間違いなく分かる。レモンティーだ。
「サァ、次のお客さんは誰ネ? ワタシの情報は正確ヨー、今なら安くしとくネ?」
 アルバリへと、小さな歓声が沸き起こった。


「皆様、本日はありがとうございました。おかげで、入部希望者がこんなに……夢のようですわ」
「まさかここまで集まるとは思いもしませんでした。男子生徒も多く、これならなんとか……後はお嬢様の頑張り次第ではございますが」
 片づけも終わり、店内はしんと静まり返っていた。ローズは未だ夢心地であり、ラズニアは後々のことを想像する。
 薄暗い店内は先ほどまでの賑やかな様子と変わり、寂しさも感じてしまうほどだ。
「それなのですけれど、ラズニア。私は貴方に、伝えなければならないことがございます」
 一呼吸をおいて、ローズはにっこりと微笑んだ。
「今回、私は知りました。メイドや執事の……いいえ、個の魅力やそれぞれの持つ可愛い部分。そしてお客様がたが喜んでくださる姿を。好きなものだけを集めただけの空間ではありましたが、それでも他の方をも笑顔に出来るのですね」
「……」
 一同は黙る。
 口をはさんではいけない、全員がジャマをしてはいけないことを、察していた。
 その中でただ1人、チョウザだけが口元に笑みを浮かべていた。
(くそ貴族の呪縛から、卒業おめでとー。だいじょーぶ、そのメイドは押しに弱そうだしそのままいっちゃえー)
「だから、ですね。私、もっと好き勝手にしたいと思いました。私も楽しいですし、将来のことなど考えたくはないのです! 私、今しかできないことを思う存分楽しみたいと思うのです!」
「お、お嬢様……? あの」
「ラズニアのお説教も聞きませんわ! そしてそして……っですね、……アルバリ様!」
 怒っているような言葉の羅列をラズニアへと浴びせるローズ。
 しかし、その声とその顔は全くの真逆。とても楽しそうに、まるで夢を語る少女のようにアルバリへと話しかけた。
「私、この『ドルチェ・ハウス』をもっと『可愛い』を広める場所にしたいのです! 可愛いお菓子、かっこかわいい執事にメイド! さぁ、ご協力してくださいませ!」
 その言葉にはぁ……、と肩をすくめる従者ラズニア。
 対照的に、にこりと笑うのは商人アルバリ。
「勿論ヨ、クライアントの期待に応えるようしっかりやるヨ! 報酬もしっかり頂くヨー」



課題評価
課題経験:44
課題報酬:1200
可笑しなお菓子クラブ
執筆:根来言 GM


《可笑しなお菓子クラブ》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 1) 2019-09-13 00:24:15
貴族との繋がりを増やすためのクラブ、ねぇ。
なーんてーか。そーいう家庭の上の存在ってやっぱ面倒い存在なんだよね、ほんと。
そったらザコちゃんが身につ…知ってたこと、ちょっとだけ、教えてあげんね。

それはいーとして。なんせよ人呼べばいーんでしょ?
そったらなんにしても、いー感じに歪…言い換え盛ってる噂流しまくればいーかなって。

…そーじゃなくても出会いを求める貴族のお嬢様達が集まるクラブだー、なんて言っとけば。
質を気にしないなら寄ってきそうなもんだけどね。しかも言ってんのは事実だし。

《やりくり上手》 ルーノ・ペコデルボ (No 2) 2019-09-17 17:24:37
おやつ作り放題出来て消費もしてくれるという夢の様な場所はこちらですか?
え?違う?(首を傾げながら

なんにせよ、給仕も昔はやってましたし、全力でやらせて頂きますね。
え?メイド服を着ろ?

あ、制服なんですね、わかりました(無表情

《新入生》 アルバリ・サダルメリク (No 3) 2019-09-17 23:59:26
アイヤー、金儲けしに来たヨ。
皆宜しくネ!