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剣……抜けちゃいました


ストーリー Story

「ふぅ。これで準備OKだな」
「しかし、これでうちらの村に人が押し寄せるのかねぇ……」
「今更疑ってもしょうがねぇよ。けどまぁ……なるようになるだろ」
 別に珍しくとも何ともない、ちょっと寂れて平均寿命が駄々上がりのとある村。
 そんな村の広場に位置する場所で、暗闇の中、何やらゴソゴソしている集団――というか男達。
 その中央には、何やら土台に刺さった、どこかで見たことある様な剣が一振り。
 ご丁寧にも、その剣には『勇者の剣』というプレートが、ぶら下げられたりしていた。

 *

「と言うわけで、村おこしを狙ってみたんだが……」
 男一同、雁首揃えて学園へと足を運び、どうやら依頼を出した様子。
 しかし、一体そのような状況で何を依頼しようというのか……。
 よもやサクラなど――。
「実はよう……。中々抜けない剣を抜けた奴を、勇者としてもてなすっつー催し物でさ!」
「参加料さえ払えば、誰でも、何回でも参加可能にして金を巻き上げるって寸法だったんだけどよ!」
 興奮気味に話す男達。
 ふと、視線を落とすと、『勇者の剣』とプレートがぶら下がっている剣が……。
「見ての通り、試しに抜こうとしてみたらあっさり抜けちまいやがったんだ!!」
「一応早朝で誰も参加者がいなかったから明日からってことにしたんだが……」
「俺らじゃこいつを抜けなくする方法が思いつかなくてよ!!」
 藁にもすがる。その思いで、依頼を受けるために集まった生徒達へ懇願し始める男達。
「知恵を出し合って、こいつが抜かれない方法を見つけてくれ!!」
 何だが痛くなってきた頭を抑え、依頼だから仕方無い……と、生徒達は意見を出し合う。
 あっさり抜けてしまった勇者の剣を、二度と抜けなくするために……。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2019-11-14

難易度 簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2019-11-24

登場人物 5/8 Characters
《這い寄る混沌》ニムファー・ノワール
 アークライト Lv20 / 王様・貴族 Rank 1
ニムファー・ノワール17歳です!(ぉぃぉぃ ニムファーは読みにくいかも知れないので「ニミィ」と呼んでくださいね。 天涯孤独です。何故か命を狙われ続けてます。 仲間やら友人はいましたが、自分への刺客の為に全て失ってしまいました。 生きることに疲れていた私が、ふと目に入った学園の入学案内の「王様・貴族コース」を見て考えを改めました。 「自分が命を狙われるこんな世界、変えて見せますわ!」 と思っていた時期が私にもありました(遠い目 今ではすっかり学園性活に馴染んでしまいました。 フレンドになった方は年齢にかかわらず呼び捨てタメ口になっちゃうけど勘弁してね、もちろん私のことも呼び捨てタメ口でも問題ないわよ。 逃亡生活が長かった為、ファッションセンスは皆無な残念女子。 な、なによこの一文。失礼しちゃうわ!
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《ゆうがく2年生》アリア・カヴァティーナ
 アークライト Lv14 / 村人・従者 Rank 1
 幼い頃から聞かされてきた英雄譚に憧れて、いつしか勇者さまを導く人物になりたいと願ってきた。  その『導き』とはすなわち、町の入口に立って町の名前を勇者様に告げる役。  けれども、その役を務めるということは、町の顔になるということ。この学校でたくさん学んで、いろんなことを知ることで、素敵な案内役になりたい!  ……それが自分の使命であると信じて入学したけれど、実のところ勉強よりも、花好きが高じた畑いじりのほうが好きだったりする。そのせいで、実はそこそこの力持ちだったりする。  たぶん、アークライトの中ではかなり変人なほうなんだと思うけれど、本人はあんまり気にしていない模様。  基本的に前向き……というか猪突猛進なところがある、かも。
《妖麗幽舞》サクラ・ブラディー
 リバイバル Lv14 / 黒幕・暗躍 Rank 1
イタズラ好きのリバイバル。 自分の名前や常識等以外記憶から抜け落ちている。 リバイバルになるための強い感情も抜け落ちておりなんで今ここに存在しているのかも本人にもわからない。(という嘘をついている) 取り敢えず毎日が楽しく過ごせればいい。 黒幕・暗躍コースなのは自分の特性がうまくいかせそうだったから 楽して成績優秀なら空いた時間は自由に使えるじゃろ? 趣味は人を揶揄うこと。 特技はなぜか舞踊、剣舞ができる。 また、占いもすることがあるようだ。 偶に変な雑学を披露する。 とある生徒の部下ではあるがそれを理由に相手をおもちゃにするために部下になってる ただ、ちょっとしたことならお願いは聞いているようだ 二人称:おぬし、または 名前殿
《ギャンブラー》エズミ・デュラック
 エリアル Lv11 / 教祖・聖職 Rank 1
エズミは良い導きを求めている。 主、風、心、あなた。誰のものでも。

解説 Explan

 何とも残念な男達に肩入れし、一度抜けてしまった『勇者の剣』を抜けなくするのが目的です。

 土台について
 ・剣の刀身に合わせた土台であり、ちょっとやそっとじゃ抜けない……筈でしたが抜けてしまいました。
  一度抜けてしまったせいか、緩くなっていて、ここに剣を押し込んだ程度では簡単に抜けてしまいます。


 どんな突拍子な意見でもネタにして取り入れようと思っているので、極論、「地面に穴掘って、下から剣を引っ張り続ける」などでも可です。



 ただし、『勇者の剣』ですので、「土台を破壊する」等の、『勇者の剣』としてのアイデンティティを失うような行動は男達が泣きながら妨害しますのでご留意ください。


作者コメント Comment
 勇者とは(哲学)。
 と言うわけでいつもの馬の馬によるコメディーエピソードです。
 どんなプランが跳んでくるのか全く予想できないので、存分に遊んじゃってください。
 


個人成績表 Report
ニムファー・ノワール 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
さて第一の仕掛けよ。
まずは単純に【柄に油たっぷり塗りこむ】わよ。これで滑りまくって力が入りにくくなるわ。

第二の仕掛けは【剣の刀身を長く】するわよ。そして普通の長さに剣がささってる用にしておくわ。長さは太郎太刀なんて目じゃないわよ。一丈以上の長さにしたいわね。
長くすることにより重くなるし、しかもいくら抜いても切っ先の先端が出ないから抜けきれないという寸法よ。

そして最後の仕掛けは【刀身の先を逆棘状にして土台に引っかかるようにする】よ。
刺さった穴を工夫する必要がちょっとあるけど少なくとも力尽くでは抜けなくなると思うわ。

こんなところかしら。

あとは村人さんたちの努力に期待するわ。

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
よくわかんない催しで人呼びしよーとしたんだね。
てかさぁ、そもそもうっかりで剣壊れたり岩ごと盗まれたりとか、粗は考えなかったのかな。あと勇者の剣ならこんな見た目の剣じゃないだろうとか、そもそも岩に長期間刺してたら錆び付いて尚のこと長持ちはしないだろうとか、色々気にはなんだけどね。
商売にするってならもうちょっとやりようあったくない?なんでもいーけど。

とりまザコちゃんは、二重に抜けにくくしとくかなーって。
ひとつは物理的に。砕いた【砥石】と【カラフルチョーク】と水を混ぜて、剣との隙間埋めてく。西の国の…せめんと?みたいなイメージで。
チョークの原料の石灰って、これと近いんでしょ確か。 学園で知ったけど。

アリア・カヴァティーナ 個人成績:

獲得経験:22 = 15全体 + 7個別
獲得報酬:450 = 300全体 + 150個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
抜けなくなる方法ばかり考えたところで、あまりに抜けずに白けてしまうだけですわ!
ですので…抜けてしまっても村おこしになる方法を考えましたわ!

それは…レベル制!
各抜けない策を組み合わせて難易度を設定して、成功したら難易度毎に決められた数のスタンプを勇者認定証に押すようにするのですわ!
そして一定数が貯まると勇者レベルが上がって、記念品や割引権等の景品が手に入りますの!
抜けても何度も挑戦して勇者レベルを上げたくなりますし、抜けなくても難易度を下げてリトライできますわ!

ついでに…挑戦は1日1回までで連続挑戦には追加料金とか、大きな買い物をしたりしてもスタンプ入手とか決めれば、お金を使う理由が増えますわ!

サクラ・ブラディー 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
とりあえず、剣を抜けなくすればいいんじゃろ?
出来る出来ない、実用的かそうじゃないかは別にしておいてアイデアを大量に考えるとしようかの


案その一
穴が緩くなってるんならキツクすればいいんじゃないかのってことで剣と穴の隙間にモルタルとかの接着剤を詰め込む方法

接着剤じゃし、そのうち劣化して剣も抜けるんじゃないかの?

案その二
剣の形状を変えて途中で突っ掛かるようにする

図にすると

  +剣の柄
――|――台座
  +剣先

剣先が膨れる感じにして台座の部分は後填めじゃな

案その三
剣先に穴開けてそこに鎖またはワイヤー通して地面に固定
鎖に遊び作っておけば途中まで抜けるけど抜けない演出も出来るじゃろ

こんなもんかのう・・・?

エズミ・デュラック 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
提案は単純。鍛冶屋を呼び、溶接してしまえ。溶けた鉄を台座の穴に流し込み、その中に剣を差して固める。
由緒のない剣なら構うまい。これを抜けた者は剛腕の士と言えよう。
(判定にエ2使用。ファンブルには神格適正)

所でこんなビジネスを選んだなら、それなりの英雄伝はあるか。この辺出身の偉人の話を集めよう。剣に挑む客を楽しませるトークを作るために。偉大な出身者がいなくとも、ちょっとした成金の成功を脚色する。
そして挑戦者の次の道を示せ。剣術道場、力仕事、狩場、危険だが金になる資源地、戦利品を売る所など。
こういった事業内容を鍛冶屋、宿屋、薬師、毛皮骨肉店といった、戦士が金を落とす産業の人達と議論したい。

リザルト Result

「う~む……。結構なアイデアが出そろったな……」
 腕を組み、そう呟いたのは依頼人の一人の男。
 彼らの依頼に応えるべく、悪知恵――知恵を貸してくれた【ニムファー・ノワール】、【チョウザ・コナミ】、【アリア・カヴァティーナ】、【エズミ・デュラック】、【サクラ・ブラディー】の意見を聞きながら、それは無理。そっちはいけそう、と使えそうなアイデアを選別し終えた頃だった。
 一体どうすれば……等と男が悩んでいたのは束の間、あっという間にすぐにでも出来そうな意見が五人からは溢れてきて。
 今度はどの意見を採用するかを悩ませる事になりそうだった。
「とりあえず元の台座見せてくんない? ザコちゃん達の認識に誤り齟齬があると困るっしょ?」
 というチョウザの言葉を受け、男は五人を村の中にある見晴らしのいい高台へ。
 そこには、プレートでしか『勇者の剣』としか主張されていない剣とは裏腹に、本当に何か神聖な物を奉ってそうな立派な台座が。
「剣とは似ても似つかない厳かな雰囲気の台座ですわ!」
 と、アリアのテンションが上がる程度には、立派な台座。
「いや、悪ぃ……。台座はこっちだ」
 ――の隣にある、如何にも突貫工事で作りました感満載の台座が一つ。
「いやいやいやいや……。隣の台座に雰囲気で負けておるではないか! そもそも、何故あの台座を活用せんのじゃ!?」
「わたくしがお客でも絶対こっちの台座には見向きもしない自信がありますわ……」
 勢いよくツッコミを入れたサクラと、素直な感想を述べたニムファー。
 そこへ、
「いや――むしろ好都合ではないか」
 そう呟いて視線を集めたのはエズミであった。
「どういうことだい嬢ちゃん」
「ここまで立派な台座だ。関する言い伝えや逸話などがあるのではないか?」
「そりゃあまぁ、あることにはあるが……」
「であるならば、その言い伝えに少し脚色すればよい」
 男と会話するエズミの言葉を聞き、他の四人は徐々に理解していく。
「つまりは、『勇者が剣を引き抜いた日』というようなイベントをでっち上げ、言い伝えに全力で乗っかる……と?」
「勇者さまの伝承はいくつか読みましたけど、剣を引き抜いた日どころか引き抜いた、という記録すら見たことありませんわ!」
「元々アコギな商売。今更嘘の一つや二つ、気にする必要無いじゃんね」
「イベントでそれっぽいことにして、今より多くの人を釣って……」
 段々と五人の表情が怪しくなっていく。
 そんな表情を見ながら、依頼主の男は内心、頼もしいやら不安やらで――もうなるようになれ! と諦めたのだった。

 *
 流した噂話。
 近々勇者が使用していた剣を引き抜いた記念日らしい。――が、正確な資料がないため少しでも掠るように、長期的な催しとして、『勇者の剣、抜いちゃおう祭り』が行われる。
 数回程度じゃ割に合わない、と、今回の依頼の件を相談した村の住人から期間を長期化しようと提案があった。
 もちろん断る理由はなし。五人とも笑顔で受け入れた。
 それに伴って、期間中は村の至る所に台座に埋まった剣を模したオブジェクトを設置していく事。そのオブジェクトも剣を引き抜くことは出来るが、それを引き抜けても『勇者』認定はしないこと。
 引き抜くと剣先に数字が書かれており、それらの数字は祭り期間中に配られるポイントカードに記載されていくこと。
 祭りの期間ならば、そのポイントを使って買い物や宿屋への宿泊が出来ること。
 なども合わせて提案し、村人達は顔を見合わせて快く了承した。
 つまりは、『祭りってことにして財布の紐緩くなった連中から巻き上げてしまおう』大作戦である。
 何ともな作戦の気がしなくもないが、用意された剣を用いて村おこしに繋がる発案なだけに、誰からの異議もなかった。
「んで? 誰の案採用決定な感じ?」
 お祭りの説明が書かれたビラを眺めながら、チョウザがそう、村人達に尋ねた。
 予め誰の案が一番採用しやすいか、村人達に共有していたのだが――、
「全部だ」
 村人達の出した結論は……全部だそうだ。
「しょ……正気なのじゃ!?」
「かなり無茶苦茶な案ばかりだった筈だが?」
「し、信じられませんわ……」
「後悔……しないわよね?」
 その言葉を聞いての四者四様の反応は当然だろう。――が、そんなことには構わずに村人達は続ける。
「引き抜けないようにと試行錯誤して作った台座ならいっぱいある。あとはそこに細工をして剣を設置すれば完成だ。なぁに、祭りの中のイタズラって事で参加者も笑って許してくれるはずさ」
 豪快に笑った男は振り返ると、村人達へと指示を飛ばす。
 指示の内容はもちろん――抜けない剣を作るためのものだ。

 *

 かくして、急ピッチで行われた祭りの準備も無事に終了。
 日が顔を出しはしたが、まだ皆が起きるには早い頃。
 村人達一同と生徒達は、祭り初日の朝礼へと顔を出していた。
「いいか、あくまでも祭りであり、楽しんでもらってお土産や飲食、宿泊などをしてこの村に金を落としてもらうのが目的だ! 臨機応変に、多少の無茶くらいは飲んでやること」
 参加者が聞けば憤慨しそうな正直なその言葉は――しかし、誰も笑うこともツッコむこともしない。
 それだけに深刻な問題なのだろう。
 ――最も、深刻でなければあんな詐欺まがいなイベントなど思いつかないだろうが。
「そして、学園から来てくれた皆には村のあちこちに居てもらい、この祭りの参加者達を盛り上げてくれ」
「質問ですわ!」
「どうしたアリア殿」
 今回の生徒達の役割……剣を抜けなくする案の先にあった祭りの盛り上げ役。
 その事を告げられた時にアリアが手を元気よく挙げた。
「どれだけ盛り上げようと抜けないようにしてしまっていますわ! これでは参加していただいた皆さまが気分を害さないか心配ですわ!」
 なるほど。もっともな意見であろう。
 ――が、
「そんな時は『レベルが足りなかったみたい』とでも言って他の剣へと誘導してくれ。引っこ抜きチャレンジにはこの村に金を落とした時に渡すチケットが必須だからな。レベルを上げようと躍起になって金を使ってくれることだろう」
 と笑顔でゲスい事を言う村人。
 ただの剣を抜かせない以上に性質の悪い方向に行ってしまったのかもしれない……。
「他に質問は?」
 そう言って周りを見渡す男だが、どんな質問をしようと返ってくる答えは目に見えている。――他の剣へと誘導しろ……だ。
 その事を理解した生徒達が手を挙げないことを確認し、男は朝礼の終了を宣言した。
 怪我には注意、という言葉を最後に。

 *

「この剣に挑戦するぜ!」
 祭りの参加者の宣言を聞き、チケットを徴収したサクラは目を細める。
 サクラの周囲には三つの剣が台座に刺さっていて、それぞれにサクラの抜けない案を採用してある。
 さて、この参加者はどれを選ぶやら――。
「へへっ、見てろよ嬢ちゃん! 一発で抜いてやるからな!!」
 そりゃっ!! というかけ声と共に勢いよく引き抜かれた剣は――――しかし。
 残念な事に刀身の中央付近で鎮座していた。
 そして、勢いよく抜いたのならば勢いよく止まるのが必然で。
 勢いよく止まるのならば、本来抜かれるために働くはずだったエネルギーは――。
「んぎっ!?」
 可哀想なことに参加者の腰への衝撃へと変化した。
「抜けんかったのぅ。災難な様じゃ。ほれ、病院はあの建物ぞ。……もちろん、代金は必要じゃがの」
 指さされた建物へ、言われたとおりに移動する参加者を見て、
「くわばらくわばら。あの病院ですら金を落としてもらう場所にしてしまうとはの……。罰などが当たらぬとよいのじゃ」
 そう呟いたサクラの元へ、本日二人目の参加者が。
 先ほど刀身が半分まで抜けかかった剣へと歩みを進め……。
 剣の形状的に決して抜くことが出来ないその剣へと力を込める瞬間に目を背け、あと何人犠牲になるのかのぅ……などと、他人事と考えることにしたようだ。
 病院には現在、ぎっくり腰の患者が二名ほど居る。

 *

 暇そうに岩へと腰掛けていたチョウザの元へ、ようやく参加者が現れた。
 チケットを受け取り剣の場所へ。
 見た目も変わらず、別に特筆すべき違和感はないその剣は。
 台座の中は剣と台座の隙間を強度のある泥で埋め尽くしていた。
 聞きかじった知識で作ってみたその泥は、チョウザが試しに抜こうとしてみたところびくともせず。
 あとは抜く直前にとある事を言うだけで、この剣を抜く事は叶わないのではないか。
 そう考えていた。
 そのとある事とは――――、
「あ、そういやーさ」
 柄に手を添え、まさしく抜くために力を込めるその一瞬前。
 計ったタイミングで参加者へとチョウザは声を掛ける。
「その剣、フトゥールムスクエアの学園長が抜けない魔法掛けててさ? 抜きやがったらオレ様特製の魔法を掛けちゃうって言ってたよ?」
 さて、問題である。
 学園長【メメ・メメル】の噂はどのようなものだろうか。
 答えは――ろくでもないものである。
 つまりは……
「抜かないほーが身のためじゃんね?」
 下手に抜くな、と。
 もちろんチョウザのハッタリなのだが、相手はあのメメル学園長。何をしでかしても不思議ではない。
 結果、引き抜く腕の勢いはほとんど皆無であり、参加者はこの剣を選んだことを悔いるのみ。
 ――しかし、メメル学園長が何かしでかすかも、という好奇心がそそられる噂はたちまち広がり、誰か抜かないかとギャラリーがずらり。
 そんなギャラリーへ軽食や飲み物をここぞとばかりに売っていく村人達は、ひっそりチョウザへとサムズアップするのだった。

 *

 さて、最終日に勇者の剣が設置される予定の立派な台座付近。
 そこへ陣取ったエズミの元へは、次から次へと参加者が現れた。
 やはり立派な台座が目を引くらしく、その近くの剣は勇者の剣であろうという目算らしいが、そもそも立派な台座に刺さっていない時点でお察しである。
 一人、また一人と挑戦していくが、ビクともしないその剣の前に、皆なすすべもなくやられていく。
 前日の時点で、溶けた鉄を台座に流し込み剣を刺し。
 溢れた鉄は決して見られぬようにと丹念に除去した結果。
 見た目はただの台座に刺さった剣なのだが、その実態はもはや台座と一体化した剣以外の何ものでもなかった。
 そして、そんな剣が抜けないのは必然で、チャレンジ失敗に終わった参加者の元へ、
「兄さん、ちょいと剣がみすぼらしくないかい? 俺の店武器屋なんだけどさ、買えばポイント溜まるし、ポイントで割り引きできるし、今の祭りの期間中限定の出血大サービス中なんだけどさ」
 と上手い具合に店の店主が声を掛けていく。
 一つの自信が砕かれたら。それを何とか補おうとしてしまうのは生き物の性(さが)か。
 ならばそこへつけ込もう、とエズミはあらゆる店へと声を掛けた。
 武器、防具、道具、薬師に、果ては毛皮骨肉店まで。
 あらゆる角度から買い物をさせようとするその目論見は面白いようにハマっていった。
 そして何より、参加するとき、抜けなかったとき、店の者が声を掛けているときに、的確に声を掛けて物を買うように持っていくエズミの演説めいた言の葉は。
 迷える子羊に差し伸べられた、慈悲の手のようにしか見えなかった。
 ――――その手の伸びる先が、参加者の財布なのは気にしてはいけない。

 *

 そこのエリアは、他とは一線を画す光景だった。
 『レベル制』
 そう書かれた看板を掲げ、説明をしているのはアリア。
 このエリアでは、独自のポイント、『経験値』がポイントとは別に付与されるという。
 経験値が上がればレベルが上がり、レベルが上がればポイントが付与される。
 ここでミソなのは必ず一階でレベルが上がるわけではない、と言う点と、この場所以外では『レベル制』が採用されていない点である。
 つまり、レベル制の恩恵を受けるためには何度もアリアの所へ挑戦せねばならず、何度も挑戦しても、初めに上がるのは経験値のみ。
 レベルが上がってようやくポイントが付与されるという仕様上、下手をすれば他の誰よりも効率が悪いエリアとなってしまうのだ。
「と言うわけで勇者候補の皆さま! レベルを上げたいかーですわ!」
 そう煽り立てるアリアは、懸命に大きな声を出して参加者へと説明する。
「でしたら経験を積むしかないのですわ!! この先に無数にある台座に刺さった剣を、時間内に引き抜きまくるのですわ!!」
 一度に複数人、制限時間がある、そして剣の本数は有限。
 ……お分かりいただけるだろうか。無垢な顔をして参加者を――勇者候補を導くアークライトの少女であるアリアが。
 実は一番えげつない提案をしていることが……。

 *

 時に地獄。時に虚無。
 聞く人によっては鳥肌が立つ言葉がある。
 それは……『運ゲー』である。
「ここには大小様々な剣があるのが分かるわよね? それらの剣の先端には、ちゃんとポイントが書いてあるの。でも、柄の所にも数字があるのが分かるかしら? この場所の参加者にはまずこの箱の中からボールを一つ引いてもらいますの。引いたボールに書かれた数字が柄に書いてある剣だけを抜けると言う事ね」
 そんな身の毛もよだつ説明をしているニムファーは心底楽しそうに続ける。
「ちなみにチケット十枚で一回分多く引ける十連福引きもあるから、そちらで挑戦してみるのもいいかもしれないわね」
 以上、沼の開幕である。
 一回多いというお得感から、チケット十枚を集めんと、村へと金を落としていく参加予定者を尻目に、ニムファーは一人、箱の中の数字の書かれたボールを掻き混ぜる。
 さて、ガチャには得てして『確率』なるものが備わっており。
 レアな物ほど当たりにくいのはもはや常識。
 ではこの場合、レアとは何ぞや? ――――ポイントの高い剣であろう。
 かくして、ようやくチケット十枚を集めた参加者達を待っていたものは――
 使用した金額よりも遙かに少ないポイントの付与……という『爆死』という結果だった。
 念のための補足だが、時折大量ポイントの剣を引き当てる者はもちろんいた。
 ――が、それよりも『爆死』し散っていった者の方が圧倒的に多かった。

 *

 村人の財布は、村の財政は潤い。
 参加者達も金銭を犠牲に楽しい日々を過ごした。
 一方的なWIN―LOSEな関係だったが、それでもきっと、参加者達はまた来るだろう。
 何故なら、
「来年もまたやりますから、是非来てください。ポイントは無期限で使えますから」
 という村人達の言葉のせいだ。
 ポイントが余っているうちは、使わなければ勿体ない。
 そう考えてしまう心理を綺麗についた、村人達の――生徒達の勝ちだった。
 後日、とある村が見違えるほどに豪華になっただとか、村人全員が金を湯水の如く使っているという噂を耳にするが、きっとあの村のことではないのだと、生徒達は空を眺めるのだった。



課題評価
課題経験:15
課題報酬:300
剣……抜けちゃいました
執筆:瀧音 静 GM


《剣……抜けちゃいました》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《這い寄る混沌》 ニムファー・ノワール (No 1) 2019-11-09 05:47:42
ニムファー・ノワール17歳です!(ぉぃぉぃ

・・・これって・・・詐欺なんじゃ・・・
しかも抜きにくるのは勇者の卵たる学園の先輩や同級生のような気が・・
いいのかしら?

ちなみに私の年齢は詐欺じゃないからね!

《ゆうがく2年生》 アリア・カヴァティーナ (No 2) 2019-11-09 15:50:28
村人・従者コース、アリア・カヴァティーナ、少しでも勇者さまのお力になるために参上しましたわ!
わたくし……思ったんですの! もしも抜けてしまっても大丈夫な方法を思いつけば、万が一抜けなくなる方法が思いつかなくても……あるいは今後またすぐに抜けるようになってしまっても、問題はないと思いますわ!
つまり……『抜いた回数に応じて勇者レベルが上がる』制度をご提案いたしますわ!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 3) 2019-11-10 07:59:34
あれ、一応商売的な意図での催しオブジェ的な事なんでしょん?
そったら抜けちゃうと盗難とか紛失の可能性になり得るし。あとさくっとすると面白くないし。

ザコちゃんは二重に抜けなくする方で考え検討すっかなーって。
ところでここって立地的にどの辺?それでもちょっと変わんだけど。
学園に依頼出すくらいだし、少なくとも学園には近いのかな。…遠い依頼もあるか。

なんせよ、ザコちゃん達はちょっかいかけにいくだけだし。
最終的な何をどーすっかの決め判断はあっちがただしね。尚のことてきとーにやっとこ。

《妖麗幽舞》 サクラ・ブラディー (No 4) 2019-11-10 10:45:14
黒幕・暗躍コースのサクラ・ブラディーじゃ。

二度と抜けなくするって言ってるしのぅ・・・
固定するか、それに近いことを提案してみようかの。

《這い寄る混沌》 ニムファー・ノワール (No 5) 2019-11-11 18:18:41
それにしても設定Cなのに剣が抜けてしまうなんて誰かにゲージでも交換されたのかしら?二人で毎日設定変えてる弊害がでたのかしらね。

さて、よくよく考えたらこんなイベントに学園生は引っかかるわけないわね。割り切って考えましょ。
とりあえず私もひたすら抜けなくなるようなプラン考えてみるわ。