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始まりの一筆


ストーリー Story

 深夜に響き渡るその音を。君たちはただ、静かに聴くことだろう。
 欲望、雑念、心残りを過去へ置き去り。
 不安と、それ以上の期待を胸に抱き。
「ハッピーニューイヤー! 今年も、素敵な年でありますように!」
 最後の音が消えるが早いか、叫ぶが早いか。もう待ちきれない、と。誰かの声が遮った。

 鐘が告げるは新たな年の始まり。
 今年もきっと、充実で満ちた年になりますように。
 人々は笑いあい、そして言い合う祝いの言葉があふれていく。
 『あけましておめでとう』と。

「今年の目標はー?」
「いっぱい、美味しいもの食べる! とか?」
 その空間を一番初めに見つけたのは、少女2人組であった。
 新年最初のご馳走を食べ終えた2人は、目的無く、校内をぶらぶらと散歩していた。
 トークテーマは『今年の目標』。
「あんた、いっつもそればっかだよね、他には……。ねー、あんな教室あったっけ?」
 苦笑する彼女は、ある違和感に気づき、足を止めた。
 彼女の指さす先にあったものは、教室のドアとドアの狭い空間に収まった小さな扉。
 少ししゃがまなければ入ることができないほどの不自然な扉。
 ただの飾りにしてはやや、不格好。少し触れてみれば、厚めの紙を貼り合わせただけの粗末なつくり。ドアノブなんてものはなく、周囲の正月飾りから浮いていた。
 扉の横には、ぐにゃぐにゃとした黒い墨で『書道室』。
 『妖精用のドアかしら?』と、笑いながら、2人そろって中を覗くと、ふわりと漂う稲藁と墨の匂い。
 作り物の扉では無かったようで、扉はからからと音を立てながら横に動いた。
 中には。
「ショドー……? んんん? 中にあるのは、紙と筆と……」
「『1年の抱負を書いてみませんか』? だって」
 2人入れば少し狭いその空間には縦に長い紙に筆、たっぷりとパレットのような入れ物に注がれた墨。
 そして、文字が書かれた紙が壁に数枚。
 よくよく観察してみれば、何やらそれぞれに抱負らしきものが書かれているようだ。
「彼女ができますよーに? こっちは、商売繁盛? 七夕みたいだねー」
「でもでも、健康! とか、家内安全? ってのもあるね」
「ホーフって、自分がこうするぞーっていう意味だったっけ? たしか」
「今年1年こうするぞー……? うーん」
 顔を見合わせ、暫し考えた後。2人は筆をとった。
 
 貴方の今年挑戦したいこと、期待したいこと。書いてみませんか?


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2020-01-05

難易度 とても簡単 報酬 少し 完成予定 2020-01-15

登場人物 4/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《ゆうがく2年生》御影・シュン
 ルネサンス Lv11 / 黒幕・暗躍 Rank 1
おおっ!貴殿…初めましてでござるな!? しかも拙者と同じく新入生と見える! これは自己紹介といくでござろう! 拙者は御影・シュンでござる!あ、「ミカゲ」が苗字でござるよ。 種族は見ての通り祖流種…ルネサンスで、専攻は黒幕・暗躍科でござる! 敵地に忍び込んでの情報収集や、嫌いなあんちくしょうの闇討ちはお任せあれでござるよ! ……あ、物騒でござったか? そうでござるなー…居なくなったペットの捜索とかも請け負うのでござるよ!犬いいでござるよね!なんか親近感湧くー! 細々とした依頼は是非、拙者を頼って下され!…成功報酬は頂くかもしれないでござるがね? 拙者、ご学友の皆と比べるとちょーーっと歳が行っているでござるが、仲良くしてくれると嬉しいでござる! ◆プロフィール 狼のルネサンス 身長176cm 赤味がかった茶の短髪 素早く動く事に特化したしなやかな筋肉を持つ 顎と口元にかけて刀傷の跡が残っている 性格は明るく、社交的 表情がころころと変わり、喜怒哀楽もやや大げさに表す ただし人によっては、その感情に違和感を覚えるかもしれない 実は「ござる」口調はキャラ付けの意味で使っている ボロが出ると標準語になる 「シノビも客商売でござるからね~。キャラ付けは、大事。」 ※アドリブ歓迎でござるよ! ※フレンド申請も歓迎でござる!
《大空の君臨者》ビャッカ・リョウラン
 ドラゴニア Lv22 / 勇者・英雄 Rank 1
とある田舎地方を治め守護するリョウラン家の令嬢。 養子で血の繋がりはないが親子同然に育てられ、 兄弟姉妹との関係も良好でとても仲が良い。 武術に造詣の深い家系で皆何かしらの武術を学んでおり、 自身も幼い頃から剣の修練を続けてきた。 性格は、明るく真面目で頑張り屋。実直で曲がった事が嫌い。 幼児体系で舌足らず、優柔不断で迷うことも多く、 容姿と相まって子供っぽく見られがちだが、 こうと決めたら逃げず折れず貫き通す信念を持っている。 座右の銘は「日々精進」「逃げず折れず諦めず」 食欲は旺盛。食べた分は動き、そして動いた分を食べる。 好き嫌いは特にないが、さすがにゲテモノは苦手。 お酒はそれなりに飲めて、あまり酔っ払わない。 料理の腕前はごく普通に自炊が出来る程度。 趣味は武術関連全般。 鍛錬したり、武術で語り合ったり、観戦したり、腕試ししたり。 剣が一番好みだが他の分野も興味がある。 コンプレックスは身長の低さ。 年の離れた義妹にまで追い抜かれたのはショックだったらしい。 マスコット扱いしないで欲しい。

解説 Explan

目的【今年の抱負を書く】
突如現れた部屋『書道室』にて、今年の抱負を書きましょう!

プランについて
●書く文字
一文字でも、長い文章でも構いません。大きな紙から細長い紙まで、豊富に用意されているようです。
また、文字でなくとも構いません。恥ずかしいならば、名前を書かないこともできます。
●思い
今年やりたいこと、楽しみなこと。感情や秘めた思いがあれば是非、プランにご記入ください。
●人数について
『書道室』はとても狭く、2人入るといっぱいいっぱいになってしまいます。
3人一緒に入ると、肘がぶつかってしまうほど窮屈で、書き物をすることは困難です。


作者コメント Comment
あけまして、おめでとうございます。
今年はどのようなことに挑戦したいですか? 楽しみなことは何ですか?
今年も、来年も、その先も楽しいことが沢山あふれることを……

皆様のプラン、お待ちしております。


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:43 = 36全体 + 7個別
獲得報酬:1152 = 960全体 + 192個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
書道室は狭いようですので先客がいれば終わるまで待って、適正人数が入るよう注意しますわね

自分の番が来たら、大きめの紙に向かってしばし目を閉じ考え、カッと目を開くと筆に墨をたっぷりつけて、たどたどしい字で

「字を沢山覚える 武神・無双コース 朱璃・拝」

と書きますわ。そして書いた紙をとっくり眺め

「うん、字は間違っておりませんわよ・・・ね?」

と何度も確かめようやく納得したらにっこり微笑み壁に貼りつけますわ。この学校で結構字を覚えましたが、読めても書くのは中々難しいので、きちんと書けた事に満足。すると緊張が解けたのかお腹がくぅと鳴り

「頭を使って集中したのでお腹が空きましたわね」

と少し赤くなりつつそう呟きますわ

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:43 = 36全体 + 7個別
獲得報酬:1152 = 960全体 + 192個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
書き初め。こんな狭いとこでやるもんだったんだ。
存在は知ってるよ、そりゃあね。東の国の文化なんでしょ?これ。
やったことは無かったけどさぁ。そーいや墨の汚れって落ちにくいんだっけか。あー、ああ。ん、ザコちゃんは気にしてないけど。ザコちゃんは。

なんせよ指図されずにやれんのもこれが終わり最後な可能性あったりなかったりだし。ザコちゃんも混ざっとこ。
とりま紙は適当にもらう。余ってる中でおっきめのやつわーけて。

それ床に敷いといてー、墨でそこに…何書こ。
黒い山とー、鎖とー、粒。あとそれにまみれて笑う何か。終わり。
でもって上に【にぼし】まいとこ。食べるんなら文句も出ないでしょ?たぶん。

御影・シュン 個人成績:

獲得経験:43 = 36全体 + 7個別
獲得報酬:1152 = 960全体 + 192個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
あけましておめでとう!でござる!
むむ、この部屋は…?ショドー、抱負…ああ、書き初めでござるか!
新しき一年をどう過ごすかの抱負を改めて記す…身が引き締まるでござるな!
しかして……拙者は何を為したいのでござろうか…?

ううむ、何か書きたいのでござるが何も思いつかぬとは
既に書かれているショドーを眺め、考えるでござる
ああ、どれも…素晴らしき個性溢れる抱負ばかりでござるな!
ふふふ、なんとも学園らしいでござる

…よし、決めたでござるよ
一筆入魂。名前をしっかりと書き留め、筆を置くでござる

「目標を持つ」

目標を持つ事が抱負…とは、あまりに格好が付かないのでござるが
この拙者にとっては…大事な一歩なんだと思うのでござ候

ビャッカ・リョウラン 個人成績:

獲得経験:43 = 36全体 + 7個別
獲得報酬:1152 = 960全体 + 192個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
抱負を書にする

■行動
書く文字は「勇猛精進」

書き方は書道的に…
習字なら正しく綺麗に書くことを考えるけれど、書道は芸術で個性や感情を出すのが大事。
うまく書こうと考えず、紙いっぱいにに自分のありったけを筆に込めて力強く太い線で描くよ。

昨年は色々あった。今までになかった辛い事やままならないこともあった。
それでも私は進む。強くなる。
そのためには勇気が必要だ。
どんな状況だろうと全力を尽くして懸命に戦い抜く…日々精進で頑張らないとだから。
それが、私の今の抱負!私の目指す勇者!

名前のところには「白花」と書くよ。
これでビャッカって読むんだよ。まぁ、当て字なんだけどね。
雰囲気を考えて、この字で書くよ。

リザルト Result

 静寂に包まれた謎の部屋、『書道室』。
 その中心で、【チョウザ・コナミ】が1人、笑っていた。
「『1年の抱負』? 指図されず、ご自由に?」
 東の国の文化。何となく、昔『情報』としては教わった。
 過去の自分を振り返り、未来の自分の目標を書くこと。だった気がする。
 知識としては知っていても、まさか自分がやるとは思ってもみなかった。
 百聞は一見に如かず。
 濃い墨と干し草の匂い。そして、つるつるとざらざらが一緒になったような、不思議な手触りの紙。
 その全てが初めてで、新鮮だ。
「とりま、余ってる中でおっきめでっかいやつわーけて」
 ばさり。チョウザの背丈ほどもある巨大な紙を床に敷き、六角棒を重しの代わりに置く。
「それ床に敷いといてー、墨でそこに……何書こ」
 大きめの筆にばちゃばちゃと墨を付け、ぐるぐるかき混ぜる。
 書きたいもの、やりたいこと。考えることは嫌いじゃない。
 どうすれば楽しいか、モブらしく笑っていられるか。ザコちゃんなら、どうするか。
 何一つ、自由のない日々を抜け出した彼女。
 そして、自由を誰よりも憧れ焦がれた彼女。
 次に、彼女はどうなりたいか。ぐるぐると思考をめぐらせる。
「んー、ザコちゃんならどうするか……」
 ぴちょん。 
 墨が勢いよく跳ね、チョウザの袖に黒い染みを作り出した。
(墨って落ちにくいんだっけ? ザコちゃんは気にしないけど……あ、そーだ)
 チョウザは筆先を墨の海に叩きつけた。
 じゃぶじゃぶ。
 勢いよく飛び跳ね、紙や机を墨の雫が汚していく。
「収まらなくていーんだった。おっけー、思いついた」
 チョウザは勢いよく筆を走らせ、書初めをはじめた。
 滑らせた筆は真っ黒な山を描く。そして、その周りを囲む鎖や謎の粒。
「そんでぇ……、あんま使ったことなかったっけ? ま、いいや。練習練習っと」
 無造作に袋から写法筆を取り出し。
「葉っぱとー、布と付けてぇ……飛んでけ」
 半紙の上に写法筆で魚を描き、書き終えると、一気に空に放つ。
 放たれた魚には葉っぱと羽、それから布のついた、少し変わった黒い魚。
 形だけの立派な黒い山。それを縛る鎖……その全てを置いていくように。
 少し変わったその魚は、空を優雅に泳ぎ始めた。
「まださみし気? じゃあ」
 さらにその上から空高く、小さな煮干しを勢いよく散らす。
 直ぐに落ちていく煮干し達に目もくれず、黒い魚は書道室を飛び回った。
 紙の中の立派でさみしい魚。紙の上の煮干し。そして、空を飛ぶ魚。
 チョウザはそれらを順番に見て、そして満足そうに笑った。
「黒い山とー、鎖とー、粒。あとそれにまみれて笑う何か。おわり。ザコちゃんの抱負、完成。わー、質素ぉ」

 【朱璃・拝】は、1人。紙の前で静かに目を閉じていた。
 しん……と静まり返る一室。
 ただ、彼女の息遣いだけが微かに空気を揺らす。
(確か、こんな漢字……でした……わね? この線が長くて、ここの場所ははねる……と)
 目を瞑り、文字を思いだす。
 書きたい文字は決まっているものの、言葉を文字として現すことはなかなか難しいものだ。
 この1年で数多くの試練に挑んだ朱璃。
 兄を目標に、そして兄の目標を目指し鍛錬の日々。
 そして、学園で出会った友達とともに、学び、そして笑いあう。
 彼女がそこで学んだもの。そしてもっと学びたいと考えるものがあった。
「……行きますわ!」
 カッと、目を見開く。
 そして、筆をゆっくり動かし始めた。
 緊張からか、無意識に呼吸が止まってしまうが、筆と紙からは決して目をそらさない。
 慎重に、慎重に。たどたどしくも力強い一筆を紙に描いていく。
 最後の一筆をゆっくりと描くと、筆を置き、そして思いっきり呼吸をした。
「……ふぅ、うん。字は間違っておりませんわよ……ね?」
 書き終えた文字を見つめ、息を吐き、手に取る。
 幾らかにらむように文字を見つめたのち、彼女は満足そうに微笑んだ。
 『字を沢山覚える』。
 文字の文化を持たない種族の一員である彼女。
 かつて貴族の友人に教えてもらった文字は、複雑で、美しいものだった。
 今年も朱璃には、自分の知らない文字も、やってみたいことも沢山ある。
 そのやりたいことを文字として、先ずは書けるようになりたい。
 きっと、書きたいことを表現することは楽しいことだ。
「さてと、では」
 最後に自分の名前を付け加えて完成。
(名前は、初めて教えてもらった文字。いっぱい練習しましたわ)
 先ほどよりは一回り小さな筆で、小さく丁寧に仕上げをする。
 『武神・無双コース 朱璃・拝』。
 何度も見返して、そして壁に貼り付ける。
「今年も、もっと素敵な文字を覚えますわ! ……あら? これは……」
 ふと、先ほど張った書初めの横に、大きな山の絵が飾られているのに気が付いた。
 大きく、立派な山。顔を近づけてみると、微かに香る香ばしい匂い。
 くぅぅぅ~……。
 不意に、お腹からさみし気な声が響いた。
「頭を使うとお腹がすきますね……、恥ずかしいですわ」
 思わず顔を赤らめる 朱璃。
 そういえば……と、先ほどまで集中していて気が付いていなかった匂いに気が付く。
 書道室のどこかからか、美味しそうなにおいが鼻腔をくすぐった。
「こっちかしら……? これは……魚?」
 匂いの出どころをたどれば、片づけ忘れたのだろうか。机の下に数匹の煮干しが落ちていた。
(どなたか、食べながら書いていたのかしら……? あら、美味しい)

 【御影・シュン】は1人、ただただ関心していた。
 腕を組み、文字を見、そして深く頷く。
「皆、立派でござるなぁ……。うんうん、拙者も頑張らなければ。と、思うものの」
 思うものの。シュンは、いざ書き進めようと筆を持つ。が、一向に思いつかずに途方に暮れていたのだ。
 壁にはすでに数人の生徒たちの書初めが出来上がっており、参考になればと彼らの書初めを眺めていた。
 書初めといえば、新しい一年をどう過ごすか抱負を書き記すもの。であれば。
 次に何をすべきか、書くための目標というものが必要である。
 当然のように既に書道室を後にした先人たちの作品には、それぞれの目標が書かれていた。
「安全第一、お金持ちになる、なるほど……。こっちは、『字を沢山覚える』、と」
 たどたどしく書かれた1枚を見つめ、そして思わず息をついた。
 恐らく、この文字を書いた彼女は文字に不慣れで。それでも必死に書いたであろことがわかる。
「皆、何かしらの目標を持っているのでござるなぁ。どれも眩しいものばかりでござるよ」
 うんうんと、またして頷く。しかし、自分の筆は一向に進まない。
 シュンには、目標がない。
 やりたいことが全くないということではない。
 ただ、この一年の目標としてしたためたい文字が浮かばないのだ。
(……学園に来てからは、穏やかに時が過ぎているようでござるよ、いやまったく)
 床に胡坐をかき、少し遠くから書かれた抱負達を眺める。
 以前までの生活であれば、こうして腰を落とすことも稀だったのにと。思わず苦笑してしまう。
「おっと、こっちは山の絵……? こういうのもありでござるか! まったく、どれも素晴らしく、個性あふれる抱負ばかりでござるな!」
 どういった形であれ、未来を見つめる学生たち。そしてその思いであふれた書初め。
 そこには上手下手も、文体も。全く上下はなく、ただ自由な書初め達であふれていた。
「個性ばかりで、自由にあふれて……。あぁ、なるほど!」
 シュンは一息つき、何かを懐かしむように笑うと、筆をとった。
「自由に書いても良い、というのであれば。こういった目標もありでござるな?」
 筆の感覚を確かめるように筆先を整え、達筆な字を描いていく。
 この学園で、今年こそ何かが変われるように。
 力と願いを込めて、最後の文字を書ききった。
 かたり。
 筆を置いて、改めて自分の書を見つめなおした。
「今年も、楽しい一年になるとよいでござるな」
 『目標を持つ』。
 自分の字を見つめ、静かに書道室を後にした。

 【ビャッカ・リョウラン】は1人、誰もいない書道室をのぞき込んでいた。
「今は、誰もいないかな?」
 人がいない時を見計らいこそこそと書道室に入る。
 角や羽がドアに当たらないよう、ゆっくりと足を踏み入れれば草と墨、そしてわずかに香ばしい匂い。
「誰か、ごはんを食べてたのかな……? まぁいっか。私も頑張って書かなきゃ!」
 目の前に広がる沢山の書初め達に急かされるように、ビャッカはいそいそと準備を整える。
 いつの間にか、出来た謎の部屋『書道室』という場所。そして書初め。
 普段着慣れない黒い服は、墨で汚れてもいいように。
 そして誰もいないときを狙ったのは、集中できるように。あと、墨がかかって人の服を汚さないように。
 それほどまでに彼女の書きたい書初めは荒々しく、豪快と定まっていた。
 筆、墨、紙。全てを揃えた後、興奮を抑えるように息を吐き、準備を進めた。
 大きめの紙の端を引っ張り、服の袖をめくる。
 真っ白の紙を見つめ、正座。背筋を伸ばし、筆に墨を含ませる。
 試しに一枚、墨を付けて線を書く。墨の濃さも、筆の乱れもない。
 一連の準備を終え、静かに息を吐く。
「私が書きたいのは……」
 小さく。しかし、しっかりと理想を持って、筆を取った。
 去年のビャッカは、一心不乱に課題に、鍛錬に打ち込んだ年であった。
 全ては家族のため、仲間のため。そして、自分のため。
 しかし、助けたい人、力になりたい人も沢山できた。
 その全ての人を守りたい、助けたいとは思っていても。まだ、彼女はそこまで強くはない。
 だから、彼女は思う。
 その辛いことを乗り越えて、強くなりたい。と。
「……、よし!」
 その思いをしたためるため、筆を取った。
 美しさは二の次、荒々しく、力強く。
 力が入りすぎてもいい。伝達のために字を書いていているわけではないのだから。
 飛び散る墨をものともせず、ただ書きたい思いをぶつけて文字を描いた。
 今年の抱負は、もっと強く、正しく。彼女が目指す勇者になること。
 辛いことを乗り越え、どんな状況だろうと全力を尽くして懸命に戦い抜く勇者。
 そのために、日々精進しなくてはならない。
 願いを込めて、最後の一筆を力いっぱいにはらう。
 『勇猛果敢 白花(ビャッカ)』。
「今年も一年、日々精進! 頑張るぞ!」
 誰もいない書道室の中心で、彼女は小さく叫んだ。

 書道室、誰もいない暗闇で小さな人影がいた。
 全ての抱負を指でなぞり、やさしく笑う。
「今年一年、彼らの抱負が叶う年となりますように」

 この学園には、七不思議なるものが多々ある。
 学園長のいたずら、課題の産物、ただの噂。日々変わり、幾つあるかも定かではない、普遍的なもの。
 その中に、『消える部屋』なるものがあるという。
 七夕の願いがどこに届けられるのか。
 星々への願いがどこに行ってしまうのか。
 そして、この書初めに託された願いも、誰かが見守っているものなのか。
 我が子を慈しむように、ゆっくりと教室の扉は閉められ。
 そして、『書道室』は静かに。教室と教室の間の壁へと消えていった。



課題評価
課題経験:36
課題報酬:960
始まりの一筆
執筆:根来言 GM


《始まりの一筆》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2020-01-01 00:06:41
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《ゆうがく2年生》 御影・シュン (No 2) 2020-01-01 21:56:33
黒幕・暗躍科所属…御影・シュンでござる!
初めましての御仁も、そうでない御仁もよろしくお願い致す!

ううむ、新年の抱負を一筆…はて、今年の拙者は何を成したいのでござろうか…。悩ましいでござるなぁ。

《大空の君臨者》 ビャッカ・リョウラン (No 3) 2020-01-03 23:04:08
勇者・英雄専攻のビャッカ・リョウランだよ。
よろしくね。

新年の抱負か…うん、この四文字熟語ってのが浮かんだからそれを書くよ。