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我は猫なりニャ!


ストーリー Story

 路地裏を抜けると、そこは猫の楽園であった。
 日向、日陰。木の上に草の影。見渡す限りに十匹もの猫が溢れていた。
 「猫は、いいよなぁ……」
 小さなエリアル【アデル・ミドラ】の口から、小さなつぶやきが零れた。
 木洩れ日の眩しい森の中で、彼は猫達の、ふかふかな毛の感触を楽しむように顔を埋める。
 試験、人間関係、プレッシャー……。
 『今日も一日お疲れ様』……猫は何も言ってはくれない。けれど、何も言わずとも小さく暖かな身体が、疲れた自分を労ってくれる……気がする。
 膝に乗ってきたキジ猫の小さな欠伸に、誘われるように小さな欠伸が漏れた。
(それにしても、ここは本当に静かでいい場所だよ……。こんなに居心地がいいのに、不思議だなぁ……)
 手ごろな岩に背を預け。そして、目を閉じること数分。
 猫達と、そしてアデルの寝息。微かな草木の揺れる音だけが辺りを包み込む。

 ことは数日前、アデルが街中で猫を見かけたのが始まり。
 可愛いなぁ……。と、目で追い。いつの間にか路地裏から次々と猫が合流し、猫の群れになってどこかに行くのだ。
(猫の群れ……? 誰か、猫が好きな人が餌を配ってるのかな?)
 もしそうなら、そこに行けば猫が沢山触れるかも? と、欲望のままについて行けば……。
 まさに、『猫の楽園』。
 そしてなにより嬉しいことは、猫達は人にとても慣れていた。
 手を差し出せばほおずり。頭を撫でれば喉を鳴らし、胡坐をかけば、膝の上に乗ってくる。
 そして、猫達はふかふかの毛を撫でてくれとばかりに転がり、見せつけ。そしてすり寄ってくるのだ。
 もう、たまらない!
 気が付けば毎日のように足を運んでしまうようになってしまった。

「んぅ……うぅ、寒い……?」
 眠い目をこすり、ぶるりと身をよじる。
 気が付けば膝の猫も何処かに行ってしまい、アデルは一人になっていた。
 辺りは先ほどよりやや暗く、アデルの眠っていた岩陰周辺は、冷たい影に覆われていた。
(もう夕方だっけ……? 猫もいなくなっちゃったな……)
うっすらと目を開け、空を見上げ。
「……」
 目の前に広がる、巨大な岩でできた巨体を見上げた。
 3秒ほど巨体と目を合わせ、そして、もう一度眠い目をこする。
「……なんだ、まだ夢か」
 そう思わなければ。きっと疲れているのだと。
 自分に言い聞かせて、横になろうとする。
「夢ではないにゃ。顔を上げい!」
 轟くような声に、思わず飛び上がった。
「ひ、ふぇっ!? 夢じゃないの!? てか喋ったぁ!?」
 きょろきょろと辺りを見渡しても、彼と巨大な『それ』……目の前に広がる巨大な岩の身体しかいない。
 10メートルほどの巨大な背丈。太く、たくましい足。どんな攻撃でも弾かれそうな、巨大な黄金の盾。
「え、えーと……? ご、ごーれむ?」
 似ている。しかし、アデルの知るゴーレムとはやや異なっていた。
「馬鹿者。吾輩はゴーレムではない。猫の守り神【ネコレム】、にゃ」
 とって付けたような語尾。そして、頭部に付いた、猫を模した耳。猫耳である。
「ネコレム……? えぇと、ネコレム……さん。僕は、食べてもおいしくないと思うん……ですけど?」
 恐る恐る、震えるような声で話しかけた。勿論。距離を取ろうと後ずさることも忘れない。
「馬鹿者。汝のような小物、腹の足しにもならん、にゃ」
 この時ばかりは、コンプレックスの背丈に少し感謝する。
「汝、吾輩の猫を誑かしているにゃ? 弄んでおるにゃ?」
 ぎょろり。
 大きな目でアデルをにらみつける。ひぇっと乾いた声が出る。
「た、誑かしてなんて! そんな」
「別に怒ってなんてない、にゃ」
「え? じゃ、じゃあ」
「ただ、タダでお触りなんて。許すまじ、にゃ。対価として肉体労働をするにゃ」
 ネコレムは、大きな手で首を掻くような仕草をしながら。一方的に話を進める。
「吾輩の猫ども、昼にも夜にも寝てくれないにゃ。活発すぎて、手に負えないにゃ。なんとかするにゃ!」
「……肉体労働って、猫を寝かしつけろってこと?」
「そうにゃ」
「それだけ?」
「そうにゃ」
(よかった……、そのくらいなら。いつも猫を撫でていることと、なにも変わらないじゃないか)
 思っていた以上に簡単な仕事。
「そのくらいなら、うん! 分かった! やる!」
 思わず二つ返事で引き受ける。
「わかったにゃ。じゃぁ、この子達の相手をするにゃ」
 ネコレムが右手を高らかに上げると、その後ろから数十匹の猫が現れた。
 ただし、その猫達はアデルの背丈よりも巨大で。威圧的にぐるると唸る。
 この生き物は昔、書籍で見たことがある。
 ライオン。ヒョウ。チーター……。
 確かに猫っぽくはある……はず。でも、猫ではないはずなのだ。
「猫……?」
「猫にゃ。早く寝かしつけるにゃ」
「ぼ、僕にはちょっと……ッ! ひ、ひぇっ!?」
「逃げる……にゃ?」
 腰を抜かしながらも逃げようとするアデルへと、ネコレムの巨大な手が振り下ろされた。
 制服のマントが手の下敷きになり、アデルが藻掻くたびにぎゅうと首を絞めつけてくる。
 じりじりと迫るは肉食獣の群れ。心なしか、たまに聞こえる呻き声に混ざり、腹の音のようなものも聞こえてくるような……。
(このままだと、僕、食べられちゃうの……!? ど、どうしよう)
 そんな四面楚歌のなか、アデルは苦し紛れに叫び声をあげた。
「ぼ、僕よりもっと猫達を満足させてくれる人たち連れてくるから! だ、だから待って! お願い! 助けて!」


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2020-03-01

難易度 普通 報酬 少し 完成予定 2020-03-11

登場人物 4/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に
《1期生》カンナ・ソムド
 ルネサンス Lv10 / 芸能・芸術 Rank 1
猫耳と猫の尻尾が生えている女性のルネサンスで体つきはかなりセクシーである。とはいえ年齢は高校生~大学生相当と本人は言っているものの、外見はどうみても中学生相当の若さである、いわゆる合法□リ。 性格はかなり受け身でおとなしい。 よほどの事がない限り喋ってくれないのが玉に瑕。 喋ることはほぼないものの、学園生活は普通に満喫している模様。 普段は踊り子としてお金を稼いでいるらしい。 好きなものはスイーツと猫科の動物、嫌いなものは虫。

解説 Explan

目的【猫たちを眠らせる】
元気いっぱいな猫達(?)を寝かしつけることが目的です。

●猫達について
一般的な猫よりも大きく、凶暴ですが中身は一般的な猫です。
猫じゃらしやネズミで遊び、日向ぼっことマッサージを好み、俊敏なネコ科動物です。
また、数は全部で10匹ほど。参加人数によって多少変動します。
戦うこともできますが、後述の【ネコレム】が怒る可能性があります。
(課題に失敗する可能性があります。)

●寝かしつける方法について
2つのパターンがありますが、ここに書かれていない方法でも可能です。
1.遊ばせる
 猫じゃらし、追いかけっこなどで身体を動かし、疲れさせます
2.寝かしつける
 歌やマッサージでリラックスさせて眠りに誘います

●【ネコレム】について
自称『猫の守り神』のゴーレムです。
大きな目と猫耳、黄金の盾が特徴です。
普段は猫達を優しく見守っていますが、猫に危険が及ぶようなことがあれば怒ってしまうでしょう。


作者コメント Comment
皆様いかがお過ごしでしょうか? 根来言です。
2月22日は猫の日! 猫と戯れるエピソードはいかがでしょうか?
皆様のプラン、お待ちしています。


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:156 = 52全体 + 104個別
獲得報酬:4800 = 1600全体 + 3200個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
私は猫?達と遊んで疲れさせてみますわ。そうですわね、先ずは猫じゃらしの代わりに私自慢の尻尾をゆらゆらゆらしてみますわね。お尻を振る事になりますがまぁ、問題ないでしょう。さらに部分強化:跳躍を用いて高くジャンプ、より活発に尻尾を追って猫達が動くように促してみますわ

猫達が飽きてきたら次は追いかけっこですわ。その気にさせる為あえて挑発を用いた所でダッシュし追わせますわ。流石にこの姿では追いつかれるかもしれませんので祖流還りを用いて狼の姿になり加速、立体機動も用いて存分に逃げ回り猫達をもう動けないニャ、という所まで頑張って追い込みますわ

最後に調理器具セットで猫まんまを作り食べさせ満腹にすれば完璧ですわ

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:62 = 52全体 + 10個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
どこにでも居るおっきめ猫と見たことないゴーレム。…喋る猫ゴーレム?喋る以外の要素どーでもいいけど。
ふーん、あれくらいのゴーレムって一応個体違いになんだね。誤差とか個性ってでもなく。

とりま喋る猫に聞きたいんだけどー、そんだけ喋れるんだし、ゴーレムって魔物の括りだし。魔物語どんだけわかんのー?っていうの。
ザコちゃんそれはずっと気になってっからー。少なくともゴーレム個体なんだから、ゴーレム語はわかんでしょ?
その辺ザコちゃんにお伝え教示してよ、だって手伝ってあげんだしさー、ちょっとくらいは…ねぇ?

…あー、もしくはあっちのおっきめ猫達もお話語り出来ちゃう系?
そったらあっちに聞いた方が手っ取り早そだけど。

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:62 = 52全体 + 10個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
猫・・・猫か
取り敢えず、防御拠点、設計、厚手の布、エンジュワカイロを使って寝床を作っておく

手に入るかわからないが、またたび、いぬはっか、キウイの葉っぱ辺りを麻袋に入れて持っていこうと思う
うん、猫たちに与えて様子を楽しむつもりだ


基本的には見ているだけのつもりだが、襲われたら対処はするつもりだ
具体的には千代古令糖の守りで防御を固め甘美の口づけで無力化を目指す

自分もそうだがダメージが大きい場合楽器演奏で天使の歌を演奏するとしよう
これで回復できるはず・・・

それにしても大型のネコ科か・・・

色々と大丈夫なのか?

アドリブ大歓迎!

カンナ・ソムド 個人成績:

獲得経験:62 = 52全体 + 10個別
獲得報酬:1920 = 1600全体 + 320個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
…猫ちゃんといっしょに仲良くなるには、猫のことを知ること…
だから猫の行動を真似てみるのもありかも…
例えば…猫と一緒にぐったりしてみたり…丸まってリラックスしたり…
あとは、猫は頭やお腹…なでられるのが好き…だから優しくなでてリラックスさせてあげるの…

あとはそれでも駄目だった場合は…「祖流還りⅠ」を使って私も猫ちゃんになって、一緒に群れに入る…ただ変身が解けそうになったら猫ちゃんが驚かないように隠れて変身解除…あとは…普段の姿では「純白笑顔」を使って、猫ちゃんをにっこりさせたい…

終始猫に対しては攻撃的な行動はとらない…もし他の人が攻撃的なことをしていたら私が止める…

リザルト Result

 『猫の楽園』。そう呼ばれた森の獣道を、彼らは進む。
 人の立ち入った跡は少なく、道は険しく、人には決して優しくはなかった。
 整備された道が、なんと懐かしいことか。
 視界に映る巨大な影に、もう何度息を止めたことか。
「もう少し集めておきたいところだが……、ッ! どうしたものか……」
 そして、目の前に現れた『それ』の姿に【仁和・貴人】は酷く動揺していた。
 草むらから飛び出した巨大な3つの影……。その正体は、見世物小屋から抜け出してきたような巨大なトラだった。
 その大きな牙と唸り声に圧倒され彼は思わず両手いっぱいの麻袋を落としそうになる。
 『猫を寝かしつければいいだけ! とっても簡単で、誰にでも出来て! その上猫をもふもふできるよ!』と、紹介された課題だったはずだが。
(この世界は、ネコ科動物をまとめて『猫』と呼んでいるのか……。いや、そんなはずはない)
 騙された。隣にいる依頼人の顔を思わず見るが、明らかに目を逸らされた。
「ぐぅぅるる……」
 殺気立ち、にじり寄るトラの姿に、思わず彼はたじろぐ。
(落ち着け……ッ! こういう時はたしか、目線を合わせながら後方に……ッ!?)
 昔に聞いた覚えのある対処法があった気がする……。
(確か、視線をそのままに、ゆっくり、後ろに下がる……だったか?)
 それで戦わずに済むのなら、と。貴人は実践を試みた。
 1歩、2歩……。しかし、これ以上、下がることは不可能だったようだ。
 後ろへ下がろうとする貴人の身体を、何かががっちりと固定していた。
「た、たすけ……、こないでぇ……っ」
「……」
 左腕には、皺ができるほどに貴人の腕をがっしりと掴み、離そうとしない依頼人【アデル・ミドラ】。
 右腕には、腕を、いや貴人の身体ごと掴み離さないネコのルネサンス【カンナ・ソムド】。
 貴人一人ならば、トラを怯ませてでもこの場から立ち去ることもできただろう。
 しかし今は、2人に掴まれ身動きが取れない。
 どうしたものかとカンナのほうを見れば、彼女はただ、じぃっと貴人を見つめるばかり。
『いじめちゃ、だめ』
 声には出さないものの、目が訴えていた。
 近づくトラ、動かない身体。
「な……、で、でも……ッ! ええい! 一か八かだ!」
 ばさり。マントを翻し、2人の盾になるように、トラ達の前に立ちふさがった。
「千代古令糖の守りッ! ――ぐはっ!?」
 全身を固くする防御の技。さぁかかってこいと腕を広げ、飛び掛かるトラが貴人の頭を踏み台にして、3人の後ろに回り込むように着地した。
 3頭のトラが、威圧するように立ちふさがり、3人を取り囲む。
「もう……、逃げ場はないのかッ!?」
「……!」
 悔しがる貴人の腕を掴み、何かを見つけたカンナが空を指さした。
 空……、頭上に広がる枝の上。
「お三方、避けてください! とぉうッ!」
 頭上から聞こえた凛々しい声に、思わず3人ともが上を見上げた。
 ふわり。大きな尻尾をはためかせ、狼のルネサンス【朱璃・拝】が舞い降りた。
「この子達は引き受けましたわ! 寝床の準備、お願いしますね!」
「あ、あぁ。任された! 拝くんも頑張ってくれ!」
 貴人の声と、カンナの期待の眼差しに朱璃頷は静かに頷き、そしてトラの一頭を指さす。
「私はイヌ科、皆様はネコ科、どちらが優れているか勝負ですわ。私を捕まえてごらんなさい!」
 ふわり。
 大きな尻尾が左右に揺れる。トラとて猫。揺れる巨大な猫じゃらしにもはや夢中だ。
「さぁ! いきますわよ!」
 言い終わると同時に、勢いよく駆け出す。左、右。蛇行と急速を繰り返し、徐々に離れていく。
 まるで取りつかれたように尾の後へ続く3頭のトラの後ろ姿を見つめる3人。
「すごいな、拝くん……。よし、オレ達も行こうか……、ソムドくん?」
「……ッ!」
 去っていった尻尾を茫然と見つめていたカンナは、貴人の言葉にハッと我に返る。
(猫と一緒に、楽しそう。私も……、仲良くなりたいな)
 カンナは小さくうなずき、そして貴人とアデルの後を追った。

「ほーれ。まだまだ動けっと」
 ひと際背の高い木の上から、【チョウザ・コナミ】は高みの見物。
 数頭のライオンの群れに大量のにぼしを投げていた。
 なるべく運動量が多くなるように、満遍なく行きわたるように。
 傍から見れば、チョウザは適当に投げているかのように見える。が、実際ライオン達は、休むことなく走り回っているようだ。
 木の上、草の茂み、岩の影……。香ばしいにおいに誘われて、草むらに落ちた音を頼りに右往左往するライオン達は、実に滑稽で面白可笑しい。
「けど、そろそろザコちゃんの方も品切れ店じまいっぽい? あるだけ持ってきたんだけど、おっきめ猫達食いしんぼすぎっしょ、かさ増し誤魔化しも無くなるし」
 袋いっぱいのにぼしも、にぼしに紛れ込ませた小石や小さな木の枝も、残りは僅か。
 次はどうやって運動をさせるかと1人、ライオン達を観察する。
「お、女武人のルネサンス様」
 木の枝を鉄棒代わりに身体を一回転。
 緩やかにスピードに強弱つけ、捕まりそうで捕まらない絶妙な距離感を保ちつつ走り回る朱璃。
 いつの間にやら彼女の後に続く猫達は増え、縞々模様や斑模様の猫……チーターやヒョウも彼女の後を追っていた。
 彼女を追う猫の数は5頭。増えていく猫達を相手に、余力はもう殆ど残されてはいない。
(流石に、この数は厳しいですね……。いつの間にかどんどん増えて……ッあ!?)
 疲れからか、朱璃は木の根に躓いて転んでしまう。
 しめたとばかりに飛び掛かるトラの1頭。爪が頭を掠めそうになるも、目は逸らさずに次に走り出す方角を見定める。
「……ッ! まだまだッ!」
 咄嗟に狼の姿になり、飛び掛かるライオンの股を潜り、走り出す。
「な、なんとか……、きゃっ!?」
 息を切らす彼女の近くで、何かが落ちるような音を聴き、思わず立ち退く。
 そこにあったのは、ちいさなにぼしが数匹。しかし、それだけでも猫達の気を逸らすには十分だった。
 走り回って小腹がすいたのか、猫達は鼻を動かしながら、草むらに紛れたにぼしを探すことに夢中になる。
「ッ! チョウザ様!」
「ゆーしゃ様お疲れさまー。あっちの仮面のまおーさまと、褐色おどりこ様も準備完了っぽい? ほら、あっち」
 少し離れた場所から立ち上る煙を、チョウザは目を細めて眺めていた。

 猫達の寝床を作っている男子2人から少し離れた煙のもと。
 カンナは1人、朱璃が作ってきた猫まんまを温め、そしてまた適度に葉の団扇で冷ましていた。
(いっぱい、食べてくれるかな?)
 時折、ちょんと器を触り、忙しなく団扇で仰ぐ。
 貴人、カンナ、アデルの3人は、沢山走った猫達のため、心地の良い寝床を作り上げることにしていた。
 沢山動いて、沢山食べて。……きっと、そうすれば気持ちよく寝てくれるはず。
 カンナは、大好きな猫達の寝ている姿を想像し、顔を綻ばせながら作業を続けていた。
 暫くぱたぱたと続けていると、美味しそうな匂いに誘われて、小さな猫が数匹集まってきた。
 彼らは皆、見慣れない料理に興味津々のようで、時折皿をのぞき込む仕草をする。
 しかし、興味はあっても多少警戒しているのか、口に付けることをためらっているように見える。
(食べものって、分からないのかも。一緒に食べたら、この子達も食べてくれるかな?)
 暫く見つめ、スプーンに一口だけ載せて、猫の目の前で食べて見せた。
「……」
 にこり。『おいしいよ』と、猫達に笑いかけると猫も恐る恐るといった様子で口をつけ始めた。
 1匹が食べ始めると、もう1匹も。大きい猫も小さい猫も一緒に食べ、一緒に横になる。
 その姿に優しく目を細め、傍にいた猫の頭を優しくなでる。
(今日は、とってもいい天気。おひさまの下で、眠るの。きっと気持ちがいいの)
 ここが眠るところ。そう猫達に教えるように。
 カンナは厚手の布の上に横になり、静かに目を閉じた。

「あらあら、寝顔は皆可愛いですわね♪」
「さっきまでのが嘘みたい。まったく全然起きる気ないじゃん」
 煙の元へと現れた2人が見たものは。
 沢山の猫達の中心で、小さく寝息を立てるカンナ。
 恐る恐る、ライオンの頭を触るアデル。
 そして、膝にトラの頭を乗せて胡坐をかく貴人の姿だった。
「やぁ、お帰り。そして迎えに行けずすまない、動けなかったんだ」
 動けない、とはいうものの。その声色はどこか優しく、嬉しそうだ。
「皆さん仲良くお昼寝ですの? ……私もご一緒していいかしら?」
 朱璃はゆっくりと腰を下ろし、先ほどまで共に走り回った3頭のトラたちの頭を撫でる。
 ふわり。手のひらを包み込む柔らかな感触に、頬が緩む。
「あんなに元気だったのに……、ふふ。私も眠たくなってきましたわ」
 寝息を立てる猫達の傍に横になり、ひと際大きい猫の耳を優しく触ると、その耳は大げさに動いた。
「でっかいのも、ちーさいのも。こうしてると、あんま変わんないねー。みーんなゴロゴロ喉ならしてゴロゴロして……、そーいや、もっとでっかい猫もゴロゴロって寝んの?」
 チョウザがふと、顔を上げる。そこには大きな顔があった。
「良く寝ているにゃ、吾輩も寝るとするにゃ」
 頭上から、轟くような声が聞こえた。
「皆、疲れたにゃ? いい日差し、日光浴日和だにゃ」
 巨大なゴーレム【ネコレム】はいつの間にか、生徒と猫達の日陰を作るように覆いかぶさっていたようだ。
「でっかい系猫は魔物? 魔物語とか猫語喋んないの?」
 チョウザが以前見たゴーレムは、金で出来ていた。巷ではチョコレートで出来たゴーレム……らしきものも現れたことがあるらしい。
 ……このゴーレムもまた、面白い存在だろう。
 何のために言葉を話すのか? 何故猫を守るのか? 何故? 何故? チョウザは、好奇心に目を輝かせた。
 興味津々、という様子で見つめるチョウザから目を逸らすように、顔を背けるネコレム。
「企業秘密、にゃ」
「えー、ケチぃ」
 『依頼はしっかりこなしたのに』と、不満げに口に出す。しかし、そういう彼女の顔は笑っていた。
 悪だくみでもするかのような、楽し気な笑みだ。
「じゃー、これと交換ってのはどう? そぉれっ」
 とっておきとばかりに、持ってきた袋の一番底に入れていた『それ』を、袋ごと力いっぱいに放り投げた。
「魚……? ッにゃ!? 」
「んー? ほら、ゴーレムなんだし、どっかに魔物語とか書いてないか……あれ?」
 反射的に現れた魚を避けようと、ネコレムが勢いよく胴体を動かす。
 チョウザの狙いは、背中や盾で隠れた何かが見れれば……。というものだったが。
 チョウザの思惑とは少し違う場所から、少し違うものが現れることとなる。
 ぽとり。
 ネコレムの頭の上から小さな影が一つ。チョウザの目の前に着地した。
 影が落ちると同時にネコレムの動きも止まり、そよ風も止み、時が止まる。
 落下したもの、チョウザ、そしてネコレム。ただ、3者ともが動くことはない。
「……猫?」
 一足先に我に返ったチョウザが、思わずぼそりと呟いた。
 チョウザの目の前に鎮座していたのは、小さな1匹の三毛猫であった。
 猫はしばらく、チョウザを見上げ。
「にゃぁ」
 小さく、鳴き声を上げる。
 ネコレムが必死に守ったものは、たった1匹の猫だったらしい。
「……なーんだ、まっいっか」
 興味を失ったように、頭の上で大の字に寝転ぶ。
「た、助かった。にゃ?」
「んー、でっかい喋れる系魔物と思ったら、喋れる系ただの猫でちょっと興ざめ?」
 頭上から聞こえる小さなネコレム……、いや、三毛猫の声に平然と答えた。
「なっ!? 空耳だにゃ! なんで聞こえるにゃ!?」
「さっきから、でっかい猫の頭の、もうちょい上から声聞こえてっから。なーんか喋れるようになる文字でも埋め込み書き込みされてるかと思ったら、ほら。なんかいるし、無いし?」
 唖然。きっと、猫が人の顔をしていたならば、口はぽかんと開け放たれていたことだろう。
「……ネコレムは、猫を守るゴーレムにゃ。吾輩達を守るように作られてる、ようだニャ」
「ふーん、じゃあこのでっかい猫は猫を守ってるだけ? あんなキョーボーな猫、むしろ人を襲いそうなんだけど」
「凶暴な猫が街に出ないよう、満足させてやる必要があるニャ。……猫と人間の戦いなんて、いやにゃ? ゴーレムが襲いに来るなんて、もっと怖いにゃ?」
 ネコレムは、猫の守り神というのは間違ってはいないのだろう。だが、幾らか猫に対して過保護すぎるようだ。
 猫と人間が戦うともなれば、ネコレムはゴーレムとしての力を惜しみなく使い、街に大きな被害を招いただろう。
「猫語も、魔物語も吾輩には教えられない、にゃ。知らないものは分からないにゃ。でも、それ以外なら……」
 頭を垂れ、三毛猫は項垂れた。
「んー、じゃぁ。この特等席貰っていい? ザコちゃんもちょっとねむみだし」
 日当たりの良い特等席は、温かく。たまに吹くそよ風が心地よい。
 大きな欠伸をして、おやすみーと。気の抜けた声を出した。
「そ、それだけでいいにゃ? 見世物なり、研究なり、煮るなり焼くなり……。今なら許してやるにゃ?」
「いーよ別に。面白いけど今はキョーミないし」
(ザコちゃんが好き勝手すんのはいーけど、他の物好き勝手すんのはなーんか面白くなさげだし)
 心底どうでもいい、という様子のチョウザの言葉にじゃあ、いいにゃ。と、小さく呟いた。

 人知れないところで、人の街は守られていた。
 そして、猫達の楽園も。
 今日も世界は平和である。



課題評価
課題経験:52
課題報酬:1600
我は猫なりニャ!
執筆:根来言 GM


《我は猫なりニャ!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2020-02-27 21:37:37
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 2) 2020-02-28 21:08:38
とりあえず寝かしつけに関しては私は一緒に遊んで疲れさそうと思いますわ。私も体を動かす方が得意ですし。

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 3) 2020-02-29 13:04:28
あー、猫ね、猫。
見てるだけで癒されるよなぁ・・・今回のはサイズは兎も角。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 4) 2020-02-29 18:15:07
知らな無知識なゴーレムいるって聞いて。

…猫?あー、喋んだ。ふーん。
魔物の言語理解してっかはちょっと聞きたいかも。ここにいるゴーレムの含めて。
わかんないならどーでもいい他者存在かな。お土産持ってくからザコちゃんは無視無視でお許し案件。

《1期生》 カンナ・ソムド (No 5) 2020-02-29 23:34:09
(カンナ・ソムド、よろしく…)