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泡沫のJune bride


ストーリー Story

●Azalea
 痛い、いたい、イタイ。
 どうしてこんなことになったのだろうと。朦朧とする意識の中、思う。
 今日はいつも通り、この場所に、薬草を摘みに来ていたのだ。私はしがない薬草売りで、それで生計を立てていたから。
 けれど、この日。いつもの場所に、アイツがいたのだ。赤い目をした、狼のような、魔物が。
 それで、私は。逃げようとして、でも、追いつかれてしまって。
 ぐちゃぐちゃに、されて。痛くて、いたくて、堪らなくて。
 泣いていたら、アイツは飽きたのか、何処かへ行ってしまって。
 だから、今のうちに村に帰ろうと思っても、体が、ぜんぜん、動かなくて。
 あぁ、私は。死んで、この世界に、還るんだと。
 そんなことを、まるで他人事のように、思って。
 なみだが、あふれて。
 いやだ、嫌だ、イヤだ――死にたくない。
 私には約束があるのだ。数か月後に、結婚の約束を、しているのだ。
 幼い頃から憧れて、大好きだった、あのヒトと。
 やっと、結ばれて。これから幸せな毎日を、贈る予定、だったのに。
 どうしてこんなことになったの? 神様、どうして、私をこんな目に合わせるの?
 どうして私は、あなたを置いて、消えてしまうの?
 いやだ、イヤだ。
 嫌だ、いやだ、イヤだ……!
(消えたくない……っ!)
 あなたに、会いたい。あなたに、愛していると、言いたい。
 ずっと憧れだった花嫁衣裳を着て、あなたに、綺麗だと、笑われたい。
 きっとあなたは、照れくさそうに言うんだろう。ぶっきらぼうに、でも、優しそうに。
 いやだ。
 嫌だ、イヤだ、いやだ嫌だイヤだ……っ!
(わたしは、あなたと。生きて、いたい……っ!)


………

……




「あれ、わたし。……わたしは、だれ?」

●Tatarian aster
「さて。今回の依頼について、なのですが……」
「私がリバイバルになった理由……失くしてしまった『何か』を、一緒に探し出して、欲しいのです」
 六月のある日。雨を受けた紫陽花が、きらきらと涙を零す、その日。
 『きみ』はある教室に来ていた。本日参加する予定の、課題の概要を聞くためだ。
 教卓の前には、担当教官である【シトリ・イエライ】と、薄紅色の髪をした女性が立っている。
 【アザレア】と名乗ったそのヒトは、リバイバルだった。体全体が薄らと透けている彼女は、穏やかな表情で、言葉を紡ぐ。
「それが原因で、私は消えてしまうかもしれないと、シトリ先生より聞き及んでおります。ですが、どうしても、私は思い出したいのです」
 どうして? と誰かが言った。女はゆるりと、微笑んで、
「わかりません。ですが、今の私は、とても大切な『何か』を、失ってしまったように思うのです」
 そして自分は、その『何か』のために。リバイバルとして、この世界に残ったような、気がして。
 答える彼女に、『きみ』は尋ねる。思い出して、この世界から消えてしまっても、良いのかと。
「消えてしまうのは、怖い……と、思います」
 ……ですが、私は。
「このまま、心にぽっかりとした穴が。空いたままでいることも、とても、辛いのです」
 何か、なにか、とても大切なことを。どこかに置き去りにしているような、気がして。
 呟く彼女は、哀しげに、瞳を伏せた。困惑、悲哀、そして、どうしようもない、喪失感。
 様々な影を落とす彼女の隣で、シトリが声を発する。
「皆さんもご存知の通り、リバイバルは『死んだ瞬間の記憶や思い』を持つことは出来ません。思い出した瞬間、魂がその重みに耐えられず、崩壊してしまうからです」
 命あるモノは皆、死を迎えた後。その体や魂ごと、光の粒子(魔力の残滓)へと姿を変え、この世界から消えてしまう。
 ヒトによってはそれを『世界に還る』と言ったり、『次の輪廻への、準備に入った』と考えるようだが。
 人間族の中では、極まれに。消滅を免れる――正確に言えば、消滅するよりも前に。『消えたくない』という思いが周囲の魔力をかき集め、自らへと補い、この世界に魂だけをの残した状態で存在してしまう――ことがあるのだという。
 それが即ち、リバイバル……『魂霊族』と呼ばれる人達だ。
 だからこそ、リバイバルは不安定な在り方をしていると言っても、過言ではない。
 その体は普通の人間族とは違い、魔力で構成されているため、実体としては存在していないのだ。
 ゆえに、思わぬ場面で。自分がどのように死んだのか。そしてその時、どのように、思っていたのか。
 そういった、自分の死に纏わる強い想起に直面することで、突然消滅してしまうこともあるのだという。
 まるで、ふわふわと浮いていたシャボン玉が、ふいに弾けて、消えてしまうように。
「それでも……私は、思い出したいのです」
 アザレアは懇願した。『きみ』の顔を見て、迷いのない眼差しで、告げる。
「消えるまでの、束の間でも良いのです。どうか、私に、……わたし、に」
 何を失ったのかもわからない女は、そのまま口を噤む。眉を顰める彼女は、精一杯に言葉を探しているようだった。
 けれども彼女は、それきり何も言わずに、頭を下げた。
 ――何を失ったのかも、わからないが、ゆえに。
 
◆ 

 アザレアが教室を出た後。
 一人の男――フードを目深にかぶったその人は。壁にもたれる様な形で、ずっと室内にいたようだ――が教壇に立った。
 そして、ゆっくりとした動作で、フードを脱ぐ。ドラゴニア特有の黒い角が、姿を現した。
 シトリが口を開く。
「そして、彼が。今回の課題の、もう一人の、依頼主です」
「俺の名前は【紫苑】(しおん)、生前の彼女の婚約者で、恋人だ」
 彼女とは、結婚の約束をしていてな。
 続くその言葉に、『きみ』は、気付いてしまった。
 あぁ、それが。アザレアがこの世に残した未練、消えたくないと願った、想いなのだろうと。
 だから、そんな『きみ』を見て、紫苑は苦笑する。
「恐らく、君たちが想像した通りだと思う。彼女は数か月前、不遇にも魔物に襲われて、リバイバルになったようなのだが……」
 紫苑が語るに、事は中々、複雑なようだった。
 数か月前にリバイバルとなった彼女は、偶然通りがかった冒険者に保護され、彼女と紫苑が暮らしているのとは別の村で日々を過ごしていた。
 しかし、彼女を必死に探していた紫苑が、彼女の居場所を見つけ、出会ったことで、歯車が回り始める。
「彼女は、俺に会って、今までの記憶を思い出し始めているようなのだ」
 自分はアザレアという名前で。故郷の片田舎で、薬草を売って生計を立てていたこと。
 家族には先立たれていて、既に天涯孤独の身の上であること。
 けれど、とても大切で、大事な、『誰か』がいたこと。
「だが、その誰かが俺であることには気づいていないようだ。恐らく、リバイバルになった原因と、深く関わりがあるからだろう」
 ゆえに、自分はアザレアには、それ以来会っていない。
 けれど、アザレアは。全てを思い出したいと、最近、生まれの村に帰ってきたらしい。
「だから、手を貸して欲しい。俺は彼女に……消えて欲しくない。生きていれば、きっと、新しい思い出も、別の形の幸せも、手に入れられると思うから」
 そのために、彼女にバレないように村を出る、手伝いをして欲しい。
 男は頭を下げ、教室の中が静まり返る。
 だから『きみ』は、何かを言おうとして、口を噤んだ。
 ――自分の言葉が、行動が。選択が。二人の未来を、まるで違うものにしてしまう可能性に、気付いたからだ。


エピソード情報 Infomation
タイプ マルチ 相談期間 7日 出発日 2020-06-29

難易度 普通 報酬 多い 完成予定 2020-07-09

登場人物 13/16 Characters
《模範生》プラム・アーヴィング
 ヒューマン Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
「俺はプラム・アーヴィング。ラム肉を導く修道士だ。…そうは見えない?そりゃそうだ、真面目にヤる気ないからな。ま、お互い楽しく適当によろしくヤろうぜ。ハハハハ!」                                       ■身体 178cm/85kg ■人格 身に降り注ぐ事象、感情の機微の全てを[快楽]として享受する特異体質持ち。 良心の欠如が見られ、飽き性で欲望に忠実、貞操観念が無い腐れ修道士。 しかし、異常性を自覚している為、持ち前の対人スキルで上手く取り繕い社会に馴染み、円滑に対人関係を構築する。 最近は交友関係を構築したお陰か、(犬と親友と恋人限定で)人間らしい側面が見られるように。 現在、課題にて連れ帰った大型犬を7匹飼っている。 味覚はあるが、食える食えないの範囲がガバく悪食も好む。 ■口調 修道士の皮を被り丁寧な口調の場合もあるが、普段は男口調を軸に雑で適当な口調・文章構成で喋る。 「一年の頃の容姿が良かっただァ?ハッ、言ってろ。俺は常に今が至高で完成されてんだよ。」 「やだ~~も~~~梅雨ってマジ髪がキマらないやんけ~~無理~~~二度寝決めちゃお~~~!おやすみんみ!」 「一応これでも修道士の端くれ。迷えるラム肉を導くのが私の使命ですから、安心してその身をゆだねると良いでしょう。フフ…。」 ■好き イヌ(特に大型) ファッション 極端な味付けの料理 ヤバい料理 RAP アルバリ ヘルムート(弟) ■嫌い 教会/制約 価値観の押し付け
《猫の友》パーシア・セントレジャー
 リバイバル Lv19 / 王様・貴族 Rank 1
かなり古い王朝の王族の娘。 とは言っても、すでに国は滅び、王城は朽ち果てた遺跡と化している上、妾腹の生まれ故に生前は疎まれる存在であったが。 と、学園の研究者から自身の出自を告げられた過去の亡霊。 生前が望まれない存在だったせいか、生き残るために計算高くなったが、己の務めは弁えていた。 美しく長い黒髪は羨望の対象だったが、それ故に妬まれたので、自分の髪の色は好きではない。 一族の他の者は金髪だったせいか、心ない者からは、 「我が王家は黄金の獅子と讃えられる血筋。それなのに、どこぞから不吉な黒猫が紛れ込んだ」 等と揶揄されていた。 身長は150cm後半。 スレンダーな体型でCクラスらしい。 安息日の晩餐とともにいただく、一杯の葡萄酒がささやかな贅沢。 目立たなく生きるのが一番と思っている。
《ゆうがく2年生》ヒューズ・トゥエルプ
 ヒューマン Lv21 / 黒幕・暗躍 Rank 1
(未設定)
《甲冑マラソン覇者》ビアンデ・ムート
 ヒューマン Lv20 / 勇者・英雄 Rank 1
●身長 148センチ ●体重 50キロ ●頭 髪型はボブカット。瞳は垂れ目で気弱な印象 顔立ちは少し丸みを帯びている ●体型 胸はCカップ 腰も程よくくびれており女性的なラインが出ている ●口調 です、ます調。基本的に他人であれば年齢関係なく敬語 ●性格 印象に違わず大人しく、前に出る事が苦手 臆病でもあるため、大概の事には真っ先に驚く 誰かと争う事を嫌い、大抵の場合は自分から引き下がったり譲歩したり、とにかく波風を立てないように立ち振舞う 誰にでも優しく接したり気を遣ったり、自分より他者を立てる事になんの躊躇いも見せない 反面、自分の夢や目標のために必要な事など絶対に譲れない事があれば一歩も引かずに立ち向かう 特に自分の後ろに守るべき人がいる場合は自分を犠牲にしてでも守る事になんの躊躇いも見せない その自己犠牲の精神は人助けを生業とする者にとっては尊いものではあるが、一瞬で自分を破滅させる程の狂気も孕んでいる ●服装 肌を多く晒す服はあまり着たがらないため、普段着は長袖やロングスカートである事が多い しかし戦闘などがある依頼をする際は動きやすさを考えて布面積が少ない服を選ぶ傾向にある それでも下着を見せない事にはかなり気を使っており、外で活動する際は確実にスパッツは着用している ●セリフ 「私の力が皆のために……そう思ってるけどやっぱり怖いですよぉ~!」 「ここからは、一歩も、下がりませんから!」
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《新入生》シャルロッテ・リアン
 ヒューマン Lv12 / 教祖・聖職 Rank 1
【命ある限り、誰であろうと人の命を救う。】を座右の銘に生きている。 学園の門を蹴り上げた彼女は沢山の野戦病院を踏みにじった治療師である。 「どんなときでも冷静に、感情的にならぬこと」を心掛け 誰に対しても常に落ち着いた表情で話すが、 仕事第一の性格なので患者含めて他人の話を聞かないどころか 「人を助ける」という目的の為だけに人や物、神だろうとありとあらゆるものを利用し尽くすし拳も振るう ある意味天使の皮を被った悪魔。 誰もにこりと微笑んだ姿など見たことがない。 故郷の母が作ってくれてた人参のケーキが好きらしい。が口に出さない。 好き:清潔、清掃、生、医学、人参のケーキ 嫌い:毒、不潔、死
《新入生》ウィトル・ラーウェ
 エリアル Lv9 / 黒幕・暗躍 Rank 1
不思議な雰囲気を漂わせるエリアル どちらつかずの見た目は わざとそうしているとか 容姿 ・中性的な顔立ち、どちらとも解釈できる低くも高くもない声 ・服装はわざと体のラインが出にくいものを着用 ・いつも壊れた懐中時計を持ち歩いている 性格 ・のらりくらりと過ごしている、マイペースな性格 ・一人で過ごすことが多く、主に図書館で本を読みふけっている ・実は季節ごとの行事やイベントには敏感。積極的に人の輪には入らないが、イベント時にはそれにちなんだコスチュームを纏う彼(彼女)の姿が見れるとかなんとか ・課題にはあまり積極的ではなく、戦闘にも消極的 ・でも戦闘の方針は主に「物理で殴れ」もしかしなくとも脳筋かもしれない 「期待しすぎるなよ、ぼくはただの余所者だ」 二人称:きみ、あんた 相手を呼ぶとき:呼び捨て 「ぼくのことは、ラーウェと呼んでくれ。ウィラでもいいぞ。前にちょっと世話してやった家出少年はそう呼んだよ」
《熱華の麗鳥》シキア・エラルド
 ヒューマン Lv25 / 芸能・芸術 Rank 1
音楽と踊りが好きなヒューマンの青年 近況 自我の境界線が時々あやふやになる みっともない姿はさらしたくないんだけどなぁ 容姿 ・薄茶色の髪は腰の長さまで伸びた、今は緩く一つの三つ編みにしている ・翡翠色の瞳 ・ピアスが好きで沢山つけてる、つけるものはその日の気分でころころ変える 性格 ・音楽と踊りが大好きな自由人 ・好奇心>正義感。好き嫌いがハッキリしてきた ・「自分自身であること」に強いこだわりを持っており、自分の姿に他者を見出されることをひどく嫌う ・自分の容姿に自信を持っており、ナルシストな言動も。美しさを追及するためなら女装もする。 好きなもの 音楽、踊り、ともだち 苦手なもの ■■■■、理想を押し付けられること 自己犠牲 二人称:キミ、(気に入らない相手)あんた 初対面は名前+さん、仲良くなると呼び捨て
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《幸便の祈祷師》アルフィオーネ・ブランエトワル
 ドラゴニア Lv23 / 教祖・聖職 Rank 1
異世界からやってきたという、ドラゴニアの少女。 「この世界に存在しうる雛形の中で、本来のわたしに近いもの が選択された・・・ってとこかしらね」 その容姿は幼子そのものだが、どこかしら、大人びた雰囲気を纏っている。  髪は青緑。前髪は山形に切り揃え、両サイドに三つ編み。後ろ髪は大きなバレッタで結い上げ、垂らした髪を二つ分け。リボンで結んでいる。  二重のたれ目で、左目の下に泣きぼくろがある。  古竜族の特徴として、半月型の鶏冠状の角。小振りな、翼と尻尾。後頭部から耳裏、鎖骨の辺りまで、竜の皮膚が覆っている。  争いごとを好まない、優しい性格。しかし、幼少より戦闘教育を受けており、戦うことに躊躇することはない。  普段はたおやかだが、戦闘では苛烈であり、特に”悪”と認めた相手には明確な殺意を持って当たる。 「死んであの世で懺悔なさい!」(認めないとは言っていない) 「悪党に神の慈悲など無用よ?」(ないとは言っていない)  感情の起伏が希薄で、長命の種族であった故に、他者との深い関りは避ける傾向にある。加えて、怜悧であるため、冷たい人間と思われがちだが、その実、世話焼きな、所謂、オカン気質。  お饅頭が大のお気に入り  諸般の事情で偽名 ”力なき人々の力になること” ”悪には屈しないこと” ”あきらめないこと” ”仲間を信じること” ”約束は絶対に守ること” 5つの誓いを胸に、学園での日々を過ごしている
《ココの大好きな人》アンリ・ミラーヴ
 ルネサンス Lv18 / 教祖・聖職 Rank 1
純種が馬のルネサンス。馬の耳と尻尾を持つ。 身長175cm。体重56kg。 16歳。 性格は温厚。 あまり表情を変えず寡黙。 喋る際は、言葉に短く間を置きながら発していく。 少しのんびりした性格と、言葉を選びながら喋るため。 思考や文章は比較的普通に言葉を紡ぐ。 表現が下手なだけで、年相応に感情は豊か。 好奇心も強く、珍しいものを見つけては、つぶらな瞳を輝かせながら眺めている。 群れで暮らす馬の遺伝により、少し寂しがり屋な面もある。 やや天然で、草原出身の世間知らずも合わさって時折、突拍子の無い発言をする。 好きな食べ物はニンジン。 食べていると美味しそうに目を細めて表情を和らげる。 趣味はランニング。運動自体を好む。 武術だけは、傷付ける行為を好まないため苦手。 入学の目的は、生者を癒し死者を慰める力を身に着ける事。
《終わりなき守歌を》ベイキ・ミューズフェス
 ローレライ Lv27 / 教祖・聖職 Rank 1
深い海の色を思わすような、深緑の髪と瞳の彷徨者。 何か深く考えてるようにみえて、さして何も考えてなかったり、案外気楽にやってるのかもしれない。 高価そうな装飾品や華美な服装は好まず、質素で地味なものを好む。 本人曰く、「目立つということは、善きものだけでなく悪しきものの関心も引き付けること」らしい。 地味でありふれたものを好むのは、特異な存在として扱われた頃の反動かもしれない。 神には祈るが、「神がすべてをお救いになる」と盲信はしていない。 すべてが救われるなら、この世界に戦いも悪意もないはずだから。 さすがに口に出すほど罰当たりではないが。 ◆外見 背中位まで髪を伸ばし、スレンダーな体型。 身長は160センチ前半程度。 胸囲はやや控えめBクラスで、あまり脅威的ではない。 が、見かけ通りの歳ではない。 時折、無自覚にやたら古くさいことを言ったりする。 ◆嗜好 甘いものも辛いものもおいしくいただく。 肉よりも魚派。タコやイカにも抵抗はない。むしろウェルカム。 タバコやお酒は匂いが苦手。 魚好きが高じて、最近は空いた時間に魚釣りをして、晩ごはんのおかずを増やそうと画策中。 魚だって捌いちゃう。
《真心はその先に》マーニー・ジム
 リバイバル Lv18 / 賢者・導師 Rank 1
マーニー・ジムよ。 普通のおばあちゃんとして、孫に看取られて静かに逝ったはずなんだけど…なんの因果か、リバイバルとして蘇ったの。 何故か学生の時の姿だし。 実は、人を探していてね。 もし危ないことをしていたら、止めなければならないの。 生きてる間は諦めてたんだけど…せっかく蘇ったのだから、また探してみるつもりよ。 それに、もうひとつ夢があるの。 私の青春、生涯をかけた行政学のことを、先生として、みんなに伝えること。 これも、生前は叶える前に家庭持っちゃったけど、蘇ったいま、改めて全力で目指してみるわ。 ※マーニーの思い出※ 「僕と一緒に来てくれませんか?」 地方自治の授業の一環でガンダ村に視察に行ったとき、そこの新規採用職員であったリスク・ジムからかけられた言葉だ。 この時点で、その言葉に深い意味はなく、そのときは、農地の手続きの案内で農家を回る手伝いといった用件だった。 「よろしくお願いします。」 これ以降、私たちの間では、このやり取りが幾度となく繰り返されることとなる。 その後、例のやり取りを経て婚約に至る。 しかし、幸せの日々は長くは続かない。 結婚式の前夜、リスクは出奔。著作「事務の危機管理」での訴えが理解されない現状に絶望したとのことだが… 「現状の事務には限界がある。同じことの繰り返しじゃ、世界は滅ぶよ」 結婚前夜の非道な仕打ちよりも、消息を絶つほど思い詰めた彼の支えになれなかったことを今も後悔している。 ※消滅キー※(PL情報) リスク及びリョウに感謝を伝えること 片方に伝えると存在が半分消える(薄くなる) メメ・メメル校長はこのことを把握しているようで、これを逆手にとって消滅を遠ざけてくれたことがある。 (「宿り木の下に唇を盗んで」(桂木京介 GM)参照)

解説 Explan

・テーマ
 言葉の重み

・プランにてお書き頂きたい事
 ■アクション
  『誰』に『何』をするか。

 例:アザレアと一緒に、彼女の家を訪れる
   『アザレアに会って欲しい』と、紫苑を説得する
 
 ■ウィッシュ
  自分の立ち位置を以下より選び、思いなどをお書きください。
  
 【A】アザレアの願いを叶えたい
    彼女の願いは、『自分の中から抜け落ちた記憶』を取り戻すこと。
    それは即ち、リバイバルである彼女が消滅する未来を招くこととなります。
    しかし一方で、リバイバルとなる程に『失いたくなかった想い』を取り戻したともいえるでしょう。

 【B】紫苑の願いを叶えたい
    紫苑はアザレアに『新しい幸福の中で、生きて欲しい』と願っています。
    それは即ち、彼女との接触を完全に断つ覚悟であり、その為に彼は宛てのない旅に出る心算です。
    しかし、本当にそれが彼女の幸せなのかを深く悩んでもいますし。
    彼女が自分を探していることを、嬉しく思う気持ちもあるのです。
    
!注意!
 このエピソードは、皆さんのプランにより、未来が変わります。
 ウィッシュプランにて
 ①【A】が多かった場合、アザレアは全てを思い出すでしょう。
  具体的には『幼い頃から、誰かに恋をしていた』、『自分は、その相手から、愛されていた』、『6月には、結婚をする予定だった』。
  そして、『その相手は、紫苑である』。
  これらの要素が蘇り、彼女が全てを思い出した時、消えてしまいます。
  しかし、順番によっては、婚儀を挙げている最中に消滅するルートもあるかもしれません。

 ②【B】が多かった場合、紫苑は旅に出ます。
  二人の時間が交わることは、二度とありません。

 ③同票だった場合。最後の一票は皆さんの行動を見ていたシトリが担当します。
  現在の心境はBですが、皆さんの行動によっては、変わる可能性もございます。
  しかし、彼が積極的に動くことはありません。
  
 以上の事から、皆さんが希望した未来とは相反する結果になることもあります。
 予め、ご了承くださいませ。


作者コメント Comment
 閲覧を有難うございます、GMの白兎(シロ・ウサギ)と申します。
 本エピソードは授業ではなく、『課題』という形になります。
 また、ジューンブライドシリーズの悲恋版といった感じでしょうか。
 
 さて、今回の依頼者は二人。それも、相反する願いを持った男女です。
 皆さんは彼等に対し、自分が『最善』だと考える行動をして頂きます。
 方針を1つに纏める必要はございませんので、皆様らしく行動して頂ければ幸いです。

 ですが、皆さんの言葉によって、彼等の人生はまるで違うものとなるでしょう。
 良くも悪くも、言葉には力があり。時には人を傷つけたり、誰かの人生を左右することもあるのです。
 ですから、これからも多くの課題に触れ、たくさんの人生に触れるだろう皆さんに。
 言葉の重みというものを、今一度、感じて欲しいのです。

 こちらの文章としましては、プロローグや既出リザルトをご参考ください。
 それでは、皆様のご参加を、心よりお待ちしております。


個人成績表 Report
プラム・アーヴィング 個人成績:

獲得経験:129 = 108全体 + 21個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
彼女がリバイバルとなる程の願いを叶えず、喪失感を抱えさせて永遠に彷徨わせる事を強いる。
それがお前の選択だが、覚悟はあるのかと[紫苑]に問う。

紫苑が【A】に同意後、アザレアに【6月の花嫁】を着せ【変装】でメイクをして、修道士として二人の結婚式を執り行う。
―彼女に真実を告げるのは、誓いのその時に。

パーシア・セントレジャー 個人成績:

獲得経験:129 = 108全体 + 21個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
【アザレアさんと話してみる】

抜け落ちた記憶を確かめたい……きっと、大事なものなんでしょう
でも、それは貴女という存在の消滅に繋がるわ

もし、貴女をこの世界に繋ぎ止める喪われた記憶が、誰かと分かち合ったものだったら

分かち合った誰かは……貴女が消滅したりしたら、耐えられないんじゃない?

それでも…知りたいの?

ヒューズ・トゥエルプ 個人成績:

獲得経験:129 = 108全体 + 21個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
心中、勝手に察するよ
大切な人を二度も喪う
加えて、自分の手で愛する者の人生の幕を引かにゃあならんと来たもんだ
だが…厳しいかもしれないが、逃げちまうのはいけねぇ。

見誤るなよ 人の理から外れたリバイバル
機を逃しちまったら…。





【紫苑に会いに行き、リバイバルについて持論を述べ、再考を促す】

ビアンデ・ムート 個人成績:

獲得経験:129 = 108全体 + 21個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
*目的
アザレアさんの願いを叶えるために動きます

*行動
アザレアさんと一緒に故郷を見てまわりながら紫苑さんとの思い出を取り戻していきます
紫苑さんと会わせて事情を話せば彼女の願いは叶えられますが、個人的に紫苑さんとの大切な思い出のピースを一つずつ埋めていく感覚で取り戻していったうえで真実を知ってほしいです

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:129 = 108全体 + 21個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
どっちかが割食う選択肢2択、むかつかない?ザコちゃんむかつく。
だからザコちゃん3つ目の選択肢するね。

フードの旅人予定様引きずり出して引き合せる。
でも結婚だかなんだか、ってお話語りは一言一切しない。そんだけ。

新しい人生をー、なんて望み希望するってならさ、
0からの関係性で過ごしてく、って線もあるでしょ?

シャルロッテ・リアン 個人成績:

獲得経験:129 = 108全体 + 21個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
私は紫苑様の話を聞きに行きます。
彼女の心情を伝えるうえで「紫苑様の願いの覚悟」を聞き、彼を精神分析します。

精神分析:
迷いがあるのならそれを伝えた上で本音を聞き、
迷いがなければ私は彼の村を出る手伝いを、
主に仲間の妨害を「真中正拳突き」で殴ってでも行います。

「リバイバルのアザレアの命を救う」ため。

ウィトル・ラーウェ 個人成績:

獲得経験:129 = 108全体 + 21個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
ハッピーエンドが欲しいとこだけど
そう上手くいかないのが現実ってなわけで

そこの居候(シキア)引きずって動かしてっと
ぼくはアザレアかな
説得なんて大層なことむりむり、僕がしたいのはただの確認

思い出すと消えるんだろ
もう一度「死ぬ」んだぞ、本当にいいの?
折角の「もう一度」を謳歌したいとは思わない?

シキア・エラルド 個人成績:

獲得経験:129 = 108全体 + 21個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
………どうしたらいいのかな、ウィラさん

ザコちゃんの案にのっかり とりあえず会わせるように説得
昔のことを 話さなきゃいいんじゃないかな
あなたと彼女が出会うのは初めて
…それで、いいんじゃないの
その上で貴方の考えが変わらなきゃ、それで…

でも会えない内に、またきえたら、どうするの? 
…ごめんなさい、俺、ひどいこと

朱璃・拝 個人成績:

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【A】

大切な思いを失ったまま生きるのは死ぬより辛い、そう思いながら紫苑様の元へ

紫苑様にはアザレア様の願いを叶えていただきますよう説得も用いお話してみますわね。上手く説得できた時は結婚式の準備をし、その場に身支度をしたアザレア様をお連れし紫苑様と引き合わせ挙式を

最後に涙を零しながら紫苑様に頭を下げます

アルフィオーネ・ブランエトワル 個人成績:

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紫苑の存在を消すために下工作をする

・事情を説明し、村人に紫苑は亡くなったことにしてもらう【説得/信用/精神分析/会話術/推測/事前調査】

・紫苑の墓を建ててもらう

・万が一に備え、紫苑は、家族も見間違うほどの遠縁の者”紫菫(シキン)”さんとする

・シトリ先生に相談して、可能なら、公式記録の改ざんをする。

アンリ・ミラーヴ 個人成績:

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紫苑と会い、彼にアザレアさんへ真実を話し、彼女を愛する紫苑の想いを、言葉で伝えて欲しいとお願いする。
結婚していれば、いずれどちらかが相手の最期を看取る事になったはず。
死を受け入れ、最期まで相手のために出来る事をするのも、愛する事ではないかと問い。
死別の悲しみは、生者同士で分かり合えると最後に話す。

ベイキ・ミューズフェス 個人成績:

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【紫苑さんと話をしてみる】

大事ななにかを取り戻したい気持ちもわかりますし、大事な人を2度も失いたくない気持ちも理解できますし
でも、貴方が去っても……何かの拍子に思い出して、消滅してしまうかも

本当の最期の瞬間に、貴方は居ない

それでも、貴方が去った方が彼女の消滅のリスクは減るかも

で、貴方はどうしたいの?

マーニー・ジム 個人成績:

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まず、紫苑さんに一言
相手の消滅が怖くて、愛する人を避け回ってどうするの!と言いたい
愛しているなら悲劇も受け入れなさい!
それが、アザレアさんの一番の望みだと、私は思う

基本的にアザレアさんの記憶は取り戻してあげたいんだけど、
工夫次第で、消滅を回避もしくは延期出来ないかなあ、というのが
私の意見。

アドリブA

リザルト Result

●言葉の重み
「相手の消滅が怖いからって、愛する人を避け回ってどうするの!」
 【紫苑】(しおん)が話し終わり、部屋を出ようとした時。まず声をあげたのは、【マーニー・ジム】だった。
「愛しているなら、悲劇だって受け入れなさい! それが、【アザレア】さんの一番の望みだと、私は思うわ」
「彼女の望みは、『自分の中から抜け落ちた記憶』を取り戻すことだ。悲劇を強いるなど、そんな残酷なことを願うようなヒトではない」
 黙って聞いていた紫苑が、振り返る。
「それに俺は、『消滅が怖いから』などと、言った覚えもない。俺はただ、愛するひとに、『生きて欲しい』と願っているだけだ」
 それはそんなにも、叱責されるべき、『誤り』なのだろうか。
 紫苑の呟きに、【ヒューズ・トゥエルプ】が口を開く。
「間違いじゃない。少なくとも俺は、アンタが間違ってるとは、思わない」
 だって、そうだろ?
「大切な人を二度も喪いかけている。しかも今度は、その理由が、自分ときたもんだ。誰だって、覆す方法を探すだろうさ」
 愛したヒトの幕引きを、自分の手でしたい奴なんざ、いるもんか。
「……でもな、兄弟。彼女は今、人の理から外れた、リバイバルだ。さっきの彼女の様子、お前さんも見ただろ?」
 あれじゃ、亡霊と同じ……『叶わぬ願いに追い立てられるままに、現世を彷徨ってる』みたいだ。
「それなのに、仮にアンタがこのまま旅に出て、その先で不運に見舞われた場合、どうなる?」
 このまま現世に、縛られることになるんじゃないのか? アンタという答えを、永久に、失って。
「それとも本当に、『自分がいなくなれば、彼女が新しい人生を得られる』と、本気で思ってるのかい?」
 たとえばアンタと出会わずに、何一つ思い出していない状況だったら。その可能性もあったのかもしれない。
「でもな……もう彼女は、『思い出し始めて』るんだ」
 ――アンタへの想いを超えるほどの、出逢いに。幸せに、巡り会えない限り。難しいんじゃないのかい?
 それは非情な現実だった。そうだ、つまり紫苑の選択とは、『自分以外の他の誰かに、愛したヒトの人生を委ね、託す』ことでもある。
 だから紫苑は、俯く。眉を寄せ、苦しげに、
「それでも、俺は……彼女が、幸せなら」
 言葉を吐き出す。絞り出すような、声で。
 ゆえにヒューズは、苦笑して、
「なぁ、兄弟……これは経験則だ。自分の気持ちに蓋をした上での選択は、後で絶対に、後悔する」
 なら、せめて。
「……もう少しくらい。納得してから、旅に出ようや」



 今度こそ部屋を出た紫苑と、それを追いかける【シャルロッテ・リアン】を見送った後。
「そうか、『彼女が彼と対面し、消える時』は、『愛するヒトの手に、自分を殺めるためのナイフを握らせたのだと、理解する瞬間』でもあるのか」
 紫苑の見せた『怒り』、そしてその言葉を冷静に分析した【ウィトル・ラーウェ】が、静かに告げる。
「もしも紫苑が、何かを恐れているのだとしたら。この残酷な事実に直面したアザレアが、幸福ではなく悲嘆と共に消滅してしまう事、かもしれない」
「……うん。自分の愛するヒトに、自分を殺させたいと、願うようなヒトには見えなかった。今はたぶん、そのことに、気付けていないだけで」
 ウィトルの言葉に、【アンリ・ミラーヴ】がうなだれる。
 その隣では、【チョウザ・コナミ】が肩を竦めた。
「つまりは、記憶求めのリバイバル様が思い出して消えるか。フードの旅人予定様が、今までの全部を捨てて旅に出るか。そのどっちかってこと?」
「お二人の希望を尊重するのなら、そういうことになりますね」
 本当に、『そのような結末を、望んでいらっしゃるのなら』ですが。
 チョウザの疑問に、【ベイキ・ミューズフェス】が答える。
 するとチョウザは、つまらなそうに欠伸を零してから、
「そったらザコちゃんは、3つめの選択肢を提案思案。だってどっちかが割食うだけの選択肢二択って、むかつかない?」
 ザコちゃんはむかつく。だから、フードの旅人予定様を引きずり出して、引き合せる。
 でも結婚だかなんだか、ってお話語りは一言一切しない。
「そんでどお? そも、仮に顔を合わせたとして、秒速で消える訳じゃなし。二人とも、急ぎのせっかち過ぎだと思うんだよねぇ」
「それは、アザレアさんが、自らの足で過去を探し始めているからでしょうね」
 チョウザの言葉に、【パーシア・セントレジャー】が腕を組む。
「仮に、彼女が自分自身の手で、記憶のピースを集めきったとして。その状態で紫苑さんに会ったら、きっと、彼女は消えてしまうから」
「そーだねぇ。だからザコちゃんは、他のコト思い出す前に引き合わせて、それで終了、って考えなわけだけど」
「……それができるなら、万々歳かもしれないが。本当に、可能なのか? それ」
 話を聞いていた【プラム・アーヴィング】が、口を開く。
「確かに、アザレアが死にたくないと願った理由は、『紫苑との結婚の約束』なんだろう。でも、その中で重要なのは、『結婚の約束』のほうなのか?」
 死に行く時に、彼女が強く想ったのは。『愛するヒト』の存在そのもの……『紫苑』自身なんじゃないのか?
「もしそうだとしたら。アザレアの記憶が蘇る最後のキー……つまり、消滅を握っている最大のピースは、『紫苑』じゃないのか?」
 それは、特別を『学んだ』プラムだからこそ、辿り着いた答えだった。
「だからアザレアは、『紫苑と再会したことで、記憶を思い出し始めた』んじゃ、ないのか?」
「私も。『結婚したかった』というよりは、『彼に会いたい』、『もっと一緒に生きたい』。そんな気持ちのほうが強かったのではと、思いますわ」
 引き継ぐように、【朱璃・拝】(しゅり おがみ)が声を繋ぐ。
「ゆえに、紫苑様に会わせること自体が。全てを思い出す危険性を高め、消滅を早める行為になるのかもしれない、とも」
 告げる朱璃の瞳は、僅かに伏せられていた。それは彼女が既に、『大切な誰かを失った』過去を持っているからだろう。
 だからこそ、朱璃は笑って言った。
「例え、それが夢の中だとしても。大好きなヒトの声を聞けば、自然とその頃のことが、思い出されてしまうものですから」
「確かに、『声』は大事な要素かもしれませんね」
 耳を傾けながらも、無言を貫いていた【シトリ・イエライ】が、唇を動かす。
「古来より、言葉には『何らかの力がある』と考えられています。そういった思想を、『言霊(ことだま)』信仰とも言うのですが」
 これは、文字だけを指しているのではなく。それを表す『声』こそが、大事ではないかとも言われています。
「つまり、『音』ですね。賑やかなお祭りでは、爆竹なんかを投げたりするでしょう?」
 あれは『音』を使って魔を祓い、その場を清める為にあるのです。
「他にも、音楽が齎す力などは、芸能・芸術コースの方ならば、よくご存知でしょう」
 そう言って【シキア・エラルド】に笑みを贈ったシトリは、それから、その場に留まる全員を見て、
「ですから……そうですね。もし二人に『初めからやり直す選択』を示すのであれば。紫苑さんの顔だけでなく、声もまた、隠したほうが良いでしょう」
「それは……同じ空間に居るのに。言葉を交わすことさえも、許されない日々が続くという、ことですか?」
 思わずと言うように、【ビアンデ・ムート】が尋ねる。肯定を示すように、シトリが頷いた。
 ならばと、【アルフィオーネ・ブランエトワル】が手を挙げる。
「紫苑という婚約者は亡くなったことにして。名前や姿を変え、彼の遠戚のヒト……別人として、彼女と引き合わせた場合は?」
「難しいでしょうね。『自分には、紫苑という婚約者がいた』のだと。彼女が知った時点で全てを思い出し、消滅してしまう可能性も大いにあります」
 ですが、たとえば……彼女が消滅するその瞬間まで、『紫苑と言う存在を思い出さないまま』、巡り会えたとしたら。
「彼女が『紫苑という存在を認識する』その時までは、同じ空間に居ることも、可能なのかもしれません」
「だったら私は、下工作をしてきます。村人の皆に説明して、たとえ彼女に聞かれても、出来るだけ『紫苑の名前を出さない』とか……」
 あとは、『紫苑に関する話は、極力避けて欲しいとお願いする』とか。
 言うが早いか、アルフィオーネは走り出した。既にアザレアが動き出している可能性があると、思ったからだ。
 その背中を追うように、ビアンデも駆け出す。彼女もまた、アザレアが突然消えてしまう結末こそ、最も避けるべきだと考えたから。
 そんな二人を見送ってから、シトリは告げる。全員の意識を傾けるために、トン、と大杖で床を叩いてから、
「結局は、互いに。幸福な未来を探しているだけに過ぎません」
 だからこそ、自分の思いだけでなく。相手の考えもまた、大切にして頂ければと思います。
「ヒトには誰しも、そう考えた理由、在り方……人生が、あるのですから」

●『遠方にある人を思う』
 時を同じくして、紫苑を追いかけたシャルロッテは、彼の家に来ていた。
 一人にしては少し大きめの住まいには、様々なラベルの貼られた薬瓶や、乾燥を促しているのだろう、壁に吊り下げられた薬草などが多くあり。
 それらをルビー色の瞳に収めたシャルロッテは、得心が行ったように、口を開いた。
「紫苑様は、お医者さまだったのですね」
「あぁ、そうだ。……薬品臭い所で、悪いな」
「お気になさらず、慣れておりますので」
 告げながら、シャルロッテは思う。あぁ、それもあって、
(彼は彼女に、『生きて欲しい』と、願うのでしょう)
 なぜなら医療とは、『生きて欲しい』という願い、そのものだからだ。
 確かに、その根底には『消滅への恐れ』があるのかもしれないが。
(怖いと思って……何が悪いのでしょう)
 浮かんだ思いに、シャルロッテは首を振る。いけない、今大事なのは、『感情的にならずに、状況を判断する』ことだ。
 そう思ったシャルロッテは、部屋の片づけを始める紫苑へと、声をかける。
「旅に出る支度を、なさっているのですか?」
「そうだ。君は、俺の手伝いを頼まれてくれたのだと、考えて良いのだろうか」
「はい。私は、『アザレア様の命を救う』ために、動かせて頂きます」
 ですから、そのために。
「紫苑様の本当の気持ちを、聞かせて頂きたいのです。作業と一緒にで、構いませんので」

「本当に……どうにもならないのかな、ウィラさん」
「それをぼくに聞いて、どうするんだい?」
 シトリの言葉を聞き、皆がそれぞれに動き始めた頃。ウィトルとシキアもまた、足を動かしていた。
 といっても、シキアはウィトルの後ろを、とりあえず追いかけていただけで、何の目的もない。
 どうすれば良いのか、わからなかったのだ。選びたくなかったと、言っても良い。
(だって、アザレアさんは、大切なものを……『自分自身』を、取り戻そうとしているだけだ)
 それがどれだけ、切実な思いなのか、シキアには痛いほどに分かった。自分もそう、『選んだ』から。
(けれど、彼女が自分を取り戻したとき。紫苑さんは、心の底から大切だと思っているヒトを、失うことになる)
 それがどれだけ、哀しい事なのかも、シキアには分かっている。体験もしたし、悲嘆にくれる人々を、『見ていた』から。
 だから。
「……本当に、どっちかじゃなきゃ駄目、なのかな。ザコちゃんが言っていたように、『昔のことを話さないまま』、傍にいるとかじゃ……」
「思い出さないまま、別れないまま、ずっとそのままで? シキア、それでいったい、誰が幸せになれるんだい? お前?」
 シキアの呟きに、ウィトルが振り返る。
「言いたいことはわかる。ハッピーエンドを欲しがる気持ちも、まぁわかる。でもそう上手くいかないのが、人生ってもんだ」
 わかっているんだろう?
「選ばないってことは、ただの停滞だ。問題を先延ばしにして、目を背けているだけに過ぎない」
 それで、誰が幸せになれる?
「思い出せないのなら、その人物はアザレアにとって、赤の他人だ。そんな相手を傍に置き、幸福だろうと手を叩けるのは、事情を知っている外野だけ」
 それに。
「紫苑は二度と素顔を曝せず、愛するヒトと会話を交わすことすら許されない。目の前にいるのに、だ。ぼくはそれを、幸福だとは思えない」
 ならば、選ぶしかないじゃないか。
「トゥルーかビターか。それならぼくは、トゥルーを選ぶ。……付いてくるなら、勝手にすると良い」
「ウィラさん」
「ぼくは、アザレアの元に行く」
 言って、ウィトルは再び、歩を進める。胸に秘めた思いを、抱えながら。
(悪いけど、ぼくからすれば羨ましいくらいだよ。『死』は死……これはどこでも、同じだ)
 リバイバル……『復活』だなんて。『もう一度』がある、世界なんて。
(それだけで十分、――優しいじゃないか)

(優しいヒト、なんでしょうね……紫苑さんも、アザレアさんも)
 お互いを、あんなにも。想いあっているのだから。
 思いつつ、マーニーは本の頁をめくっていく。彼女は今、フトゥールム・スクエアが誇る大図書館、『ワイズ・クレバー』に来ていた。
 この場所ならば、リバイバルが消滅を回避できる方法も見つけられるのではないかと思ったからだ。
 しかし、結果は芳しくなかった。『思い出した』と言って、リバイバルが消滅する事例はあっても、その逆は、なかったのだ。
(それじゃあ、私達リバイバルは。忘れたまま、生きるしかないの?)
 溜息と共に、本を閉じる。二人の問題であるのに、自分自身を重ねてしまって、マーニーは苦笑した。
(そういえば、私はどうして、リバイバルになったのかしら)
 死ぬ前に、自分の心残りを孫に託したことは、覚えている。
 であれば、それらは自分の後悔とは別の場所にあるのだろう。ならば、私はいったい、何を――。
「マーニーさん」
 トンと、音が聞こえた。思わず視線を向けたマーニーに、金髪の導師が微笑みかける。
「ここに居らっしゃるだろうと、思っていました。……頼まれてほしいことがあるのですが、良いですか?」
「はい、私でよければ」
 微笑み返したマーニーは、シトリからの『頼まれ事』に耳を傾け始める。
 その影は、どこか、薄れていた。

「アザレアさんは、薬草を売ることで生計を立てていて。その卸先は主に、この村を訪れる旅人さんや……お医者さま、だったみたいです」
 ビアンデが読み上げる冊子(表紙には、可愛らしい丸文字で、『ちょうぼ』と書かれている)の内容に、アザレアは微笑む。
「あぁ、そうでした! でも私、旅人さんにお売りするのがとても苦手で……知らないヒトに話しかけるのって、すごく、どきどきしちゃって」
 まるで昔の友人と、思い出話をしているかの様子に、ビアンデの胸が痛む。
 彼女は今、アザレアの家を訪れ、彼女と共に思い出巡りをしていた。
(といっても、アザレアさんが突然消えたりしないよう。気を付けつつ、ですが)
 つまりそれは、情報の内容が、ビアンデによって加減されているということだ。
 先程の内容も、正確に伝えるのなら。『お医者さま』ではなく、『紫苑先生』と書かれていたのだ。
(ですが、そのまま伝えてしまっては。アザレアさんが全てを思い出してしまうかもしれません)
 それが彼女の願いであっているのかもしれない。けれど。
(でも、できるなら。紫苑さんとの思い出を一つずつ、噛み締めるように取り戻して。その上で、真実を迎えてほしい)
 そして、可能なら。紫苑さんとの結婚式を、少しでも。
 そう思ったビアンデは、震える心を叱咤する。例えどれほど、アザレアが紫苑を愛しているのかを知り。
 待ち行く未来を、見守る覚悟が挫けそうになったとしても。
(彼女たちがお互いに、本当の意味で。前に進めなくなる結末を、迎えないように)
 ――頑張らないと。

(頑張ろう……、紫苑さんに、うまく、伝えられるように)
 そう思いつつ、紫苑の家へと向かっていたアンリは。その途中で、チョウザとヒューズ、プラムに出会った。
 煙草を咥えたり、てのひらの中のキラキラ石を玩んだり、壁に寄りかかりながら空を見上げたりと、三種三様の様子ではあったが。
 彼らは一様に物思いに耽っていて、アンリは思わず、足を止める。
「……アザレアさんたちの事、考えてるの?」
「ん? まぁ、そんなとこかねぇ」
 白い煙と共に答えを返したのは、ヒューズだった。けれどそれ以上のことは言わず、彼は再び思索に戻る。
「俺は、紫苑さんの家に行こうと思う。それで、俺の思ってることを、出来るだけ伝えようって」
「……それで良いと思うぜ。いや、俺も、そうすっかな」
 よっこいせ、なんて掛け声とともに。プラムが姿勢を正す。
「正義ぶって物申すのとか、好きじゃねぇんだけどさ。今回は、ちょっとばかし、言いたいことがあるんだ」
(『自分達』が同じ立場なら、なんて。そんな相手が、俺にも出来ちまったからかねぇ)
 思いつつもへらりと笑ったプラムに、『じゃあ、一緒に行こう』とアンリが頷く。
「なら、俺もお供しますかね。ザコちゃんは?」
「パース。気ぃ向かない」
「ほいさ。そんじゃ」
 手を上げるように挨拶を交わしたヒューズとチョウザがすれ違う。
 そうして歩き出した三人を見送ったチョウザは、足元にあった小石を無造作に蹴って、
「……いくら望んだ人生でも。求めてない犠牲によって押し付けられたいもんじゃないんだよ、ほんと」
 呟いた。

●『あなたに愛される幸せ』
 アンリ達が紫苑の家に訪れた時、既に説得は始まっていた。
「アザレア様の紫苑様への思いは、彼女が彼女である為に必要な物だと、私は考えます」
 だからどうか。
「本当に彼女の幸せを願うなら、その思いを受け入れてあげてくださいませ」
 声に力があるというのなら、思いをそのまま、言葉に籠めて。
 朱璃は告げる、胸の内を。
「紫苑様。彼女に生きていて欲しい、貴方の願いは解ります」
 ですが。
「大切な『想い』や思い出を失ったまま生きるのは、死ぬよりも、辛いことなのです……っ!」
「君は、もしや……」
 朱璃の切なげな表情に、紫苑が目を瞠る。
 けれど続く言葉を遮るように、ベイキが前へ出た。
「大事な人を二度も失いたくない気持ちは、理解できます。ですが紫苑さん、彼女は貴方のことを思い出そうと、もう動き出しているんです」
 貴方が去っても……何かの拍子に思い出して、消滅してしまうかもしれませんよ?
「悩み抜いて決めた道ならば、誰が何と言おうと、私は否定しません。他人なんて、所詮は無責任に口出しするものです」
 ですが本当に、このまま旅に出て、良いんです?
「彼女の最期の瞬間に、傍にいられない可能性を残したままで、良いんですか?」

「良いの? 本当に、思い出して」
 ビアンデと共に、街の中を歩いていたアザレアは。ふいに、パーシアに声をかけられた。
「抜け落ちた記憶を、確かめたい気持ちは分かるわ……きっと、大事なものなんでしょう」
 でも、それは貴女という存在の消滅に繋がるわ。
「本当に、それで良いの? もし、貴女をこの世界に繋ぎ止める記憶が、大切な誰かと分かち合ったものだったら」
「パーシアさん……っ!」
「これは、彼女にとって、大事な前提よ」
 止めようとしたビアンデに、パーシアは真剣なまなざしで告げる。
 だからパーシアは、言葉を繋いだ。彼女がちゃんと考えてから、その選択肢を、選び取れるように。
「ねぇ、もしも。貴方が消滅してしまって、とても哀しむヒトがいたとしても」
 それでも知りたいと、願うの?
 尋ねるパーシアに、アザレアは硬直した。そんなこと、考えてもみなかったと、彼女の表情が物語る。
「同感だね。ぼくも似たようなことを、きみに尋ねようとしていた」
 響いた声に、視線が集う。ウィトルとシキアが立っていた。
 しかし、問いかけるのはウィトルだけで、
「もう一度『死ぬ』んだぞ、本当にいいの? 折角の『もう一度』を、謳歌したいとは思わないの?」
「それは……」
「ねぇ、アザレアさん。リバイバルにも、未来はあるのよ。過去だけではないの」
 惑うアザレアに、パーシアが微笑みかける。
「貴女が存在し続ければ、過去に出逢った大切なヒトの子孫に巡り会えたり。新しい縁だって、結ばれるのかもしれない」
 でも、消えてしまったら。その可能性も全て、失われてしまう。
「未来の代わりに過去だけを見て。その上、大切な誰かを傷つけるかもしれない……今貴女がしようとしていることは、そういうことなの」
 それが貴女の、本当の望みで、あっている?

「なぁ、紫苑。望みに見合うだけの覚悟を、お前、ちゃんと持ててる?」
 ベイキの言葉に無言を貫く紫苑へ、プラムが声をかける。
「彼女がリバイバルとなる程の願いを叶えず、喪失感を抱えさせて、永遠に彷徨わせる事を強いる」
 お前が今しようとしてるのは、そういうことだぞ?
 プラムの言葉を受けて、アンリも前に出る。
「そもそも、結婚していれば。いずれどちらかが、相手の最期を看取る事になる。その覚悟を、もうお互いに、持っていた筈なんだ」
 だったら、最期まで。相手のために出来る事を探すのも、『愛』なんじゃないのか。
「アザレアさんが今欲しいのは、紫苑さんなんだ。紫苑さんからの言葉、想い、……思い出なんだ」
「そうだ。彼女の渇きを潤してやれるのは、お前だけ」
 あぁ本当に、柄じゃない。そう思いつつも、プラムは告げる。
「なぁ紫苑、彼女の未練が一方通行で無いのなら……」
 お前自身がその願いを、叶えてやってくれよ。

「私の願いは、とても。哀しいものだったのですね」
 ようやく『理解』したアザレアは、小さな声で、呟いた。
 穏やかな顔だった。アルフィオーネやビアンデの導きもあって、ここまで『紫苑』という言葉に触れることはなかったが。
「『大切な誰か』……その言葉に、なんだかとても、納得してしまいました。そうですね。私には、大好きなヒトが、居た気がします」
 でも、私が消えることで、そのヒトを傷つけてしまうのなら。
「そのヒトが、私の『死』に気付く前に。片付けてしまわないと、ですよね」
 思ってもいないアザレアの言葉に、誰もが言葉を失った。
「皆さんが、もしそのヒトをご存知でしたら。どうかアザレアは、旅にでも出たと、お伝えください」
 けれどそれが、彼女の選択で。
 ゆえに『自分から』、彼女は思い出そうと、試み始める。
「そうです、私……好きなヒトがいたんです。子どものころからずっと憧れて、大好きだった、ヒトがいて」
「駄目です……っ」
「そのヒトと、私、結婚の約束を」
「アザレアさん、思い出さないで……っ!」
 ビアンデが叫ぶと同時に、爆音が鳴った。思わず全員を庇うよう前に出たビアンデに、痛みが走る。
(これは……『炸裂の種』?)
「盾もないのに前に出るなんて、やっるー。……で、どぉ? 気絶した?」
「チョウザさん……」
 たずねられ、振り返る。突然の轟音か、思い出しかけたことへの疲弊か、気を失ったアザレアをパーシアが支えていた。
「途中消滅、誰も得しない選択肢じゃん? とはいえ、もう時間の問題かもだけどー」
「ちょっと、今の何……っ!?」
 騒ぎを聞きつけたアルフィオーネ――彼女はずっと、下工作に回っていた――が、全員を見る。そうして理解した少女は、
「引きずってでも、連れて来るわ……っ!」
 駆け出して。弾かれるように、シキアもまた、動き出した。

 多くの言葉を受けた紫苑は、溜息を吐いてから、苦笑する。
「俺だって、叶うなら。……彼女にもう一度、『愛してる』と」
 そう呟いた彼に、シャルロッテは、瞳を閉じる。
(……そうですね。最初からあなたは、そう願っていました)
 シャルロッテだけは、聞いていた。他の誰かがこの家に来る前に、紫苑の抱える、本当の『想い』を。
 ゆえに彼女は、瞳を開けて。拳を握り、構える。たとえ彼の覚悟が、薄れたとしても、
「私は諦めません。アザレア様の命を救うべく、紫苑様をこの場に留めさせて頂きます」
「力ずくで? いいねぇ、わかりやすい」
 彼女を封じ込めようと、ヒューズもまた、鉄扇を構える。しかし双方が動き出す前に、乱暴な音が響いた。
 アルフィオーネが扉を蹴破ったのだ。その勢いのまま部屋に上がり込んだ彼女は、シキアと共に、
「迷ってる暇なんてもうないんだ! このままじゃ、さよならも言えないうちに、お別れになる……っ!」
「決めなさい、紫苑! 彼女は今、あなたのために、消えようとしているっ!」
 叫ぶ。その言葉が決め手となった。椅子から腰を上げ、家を飛び出した紫苑の横顔には、迷いなんかなくて。
(そうです。何を言われても。最後に選ぶのは、自分自身なんです)
 慈愛の眼差しで、ベイキはその背中を見送る。
 それはまるで、聖母のように優しくて、穏やかで……少しだけ、哀しげだった。

●『君を忘れない』
 その後も。誰もが悩みつつ、言葉を探した。
 目を開けたアザレアに、『既に大切なヒトは、あなたのリバイバル化を知っていて。その上で、生存を願っていた』と話したのは、パーシアだった。
 先にそう教えてあげるべきだったと彼女は嘆いて、けれどもアザレアは、『あなたのおかげで、大切なヒトの哀しみに気付けました』と感謝した。
 それからビアンデにも、彼女は微笑みかけた。『あなたのおかげで、私はたくさんの思い出と再会できた』と、俯く彼女を抱きしめた。
 そうして、彼女たちと。『大切なヒトが、待っていますわ』と迎えに来た、朱璃の後を追い、教会へ向かい。
 アザレアはプラムが準備していた、ジューンブライド・ドレスを身に纏うため――リバイバルの身では、『着られない』のだ――魔力で『再現』する。
 半透明とはいえ、淡いパープルの婚礼衣装は。肌の白いアザレアにとても似合っていて、『とっても素敵よ』とアルフィオーネが手を叩いた。
 そんな中、シキアは眉を下げる。その手には、マーニーがシトリに託された、特殊な化粧品セット(魂霊族にも使えるものらしい)が握られていて、
「……やっぱり。俺がやろうか?」
「ううん、やらせて。何も、できなかったから」
 プラムの言葉に首を振り、シキアが前に出る。お願いしますと椅子に座った彼女に、青年は少しずつ、メイクを施していく。



 別室では、ベイキの手を借りつつ、紫苑が支度を進めていた。
 ドレスと同じ、淡いパープルのジューンブライド・タキシードに身を包んだ紫苑に、アンリが声をかける。
「紫苑さん。伝えられる時間のうちに、たくさん、伝えてね」
「あぁ、わかっている」
「……それで、この先で。思い出話がしたくなったら、俺、聞きにいくから」
「君は優しいな。……ありがとう、覚えておくよ」
「それじゃあ。寂しくなった時は、私と『美味しいもの食べ歩きツアー』でもします?」
「……先程も思ったが。君はその見た目で、聖職者らしくない物言いをするな」
「ふふ、同感です」
「はいはーい。お喋りは其処まで、こっち向いて?」
 言葉と共に、眩しさが三人を襲う。瞳を瞬かせた紫苑に、ウィトルはいつもの調子で告げた。
「『写真機』って、魔道具だってさ。シトリ先生に頼まれて、マーニーさんが持ってきてくれたんだ」
 詳しい説明はそこそこに、『それじゃ』と告げて。ウィトルはアザレアの居る部屋へと向かう。



「あ。それ、知ってるわ。私この前、貰ったのよ」
 アザレアの元を訪れたウィトルに、アルフィオーネが反応する。
「写真って言う、即席の絵みたいなものに、現実が描けるの。ずっとじゃないけど、結構鮮明に映せるのよ」
「えっ!」
「あっ、まだ!」
 ガタン。立ち上がったアザレアのせいで、思いっきり口紅がずれる。
 けれど、そのまま。彼女は興奮した様子で、
「じゃ、じゃあ! それで私を映して、それで、あの人にっ!」
「気持ちは分かるけど、その顔で映るのは、やめといたほうが良いわよ」
 苦笑するアルフィオーネが、手鏡を見せる。
「あっ……」
 静かに座り直したアザレアに、シキアは今日初めての、笑みを零した。
「……うん。もう少しだけ、待っていてくれる? 俺があなたを、とびきり綺麗に、するから」



 それから、暫くして。結婚式が始まった。
 神父役を買って出たのは、プラムだった。彼は修道士として、式の進行に務め。
 そうして、朱璃に手を引かれ、アザレアが入場する。
 きらきらとした照明の光を浴びながら、道を歩く花嫁に。パーシアが、マーニーが、フラワーシャワーを投げた。
 その中を、嬉しそうに笑ったアザレアが。朱璃の手を離れ、紫苑の隣に並ぶ。
 視線が交わる。交わった。瞬間、アザレアは泣きそうな顔をする。
「そうよ、あなただわ」
 どうして私、気付かなかったの。
「探しに来て、くれたでしょう? なのに私、あなたに『誰?』って」
 語り掛けられても、まだ紫苑は、答えなかった。『声』が最後の鍵だと、ヒューズに聞いていたから。
 だからプラムは、式を進める。結婚式の、お決まりの言葉に差し掛かった。
「あなたはアザレアを。妻として愛し、慈しむ事を誓いますか?」
「誓う。俺は彼女を、心から、愛している」
 答えた。その声に、アザレアの瞳から、涙が零れ落ちる。
「ずっと好きだった。君が幼い頃からずっと、幸せを願っていた」
「――しおん」
 蘇る。彼女の中に、幸せだった記憶が。大好きだった、『あなた』への想いが。
「あ……」
 取り戻せた幸福と、彼を置いて逝く哀しみに。何も言えなくなってしまった彼女に、紫苑が微笑みかける。
「愛している、アザレア。抱きしめても、良いだろうか」
「……紫苑っ!」
 始まった。彼女が彼に抱き着いた瞬間、つま先から、光の粒子に変わっていく。
 だから叫んだ。思うがままに、アザレアは言った。
「愛しているわ、紫苑! 私、幸せだった! あなたに恋している間、ずっと!」
 ありがとう。私のために、泣いてくれて。
「ありがとう。『あなた』と、終わりを、迎えさせてくれて……っ!」
 それが最期の言葉だった。泣き笑いの彼女が、紫苑の腕の中で、消えていく。
 後には何も残らなくて。啜り泣くような誰かの声が、いつまでも、続いた。



 後日、写真を元にして描かれた絵画が、紫苑の元に届く。
 その中で、二人は。ずっと、笑っていた。



課題評価
課題経験:108
課題報酬:0
泡沫のJune bride
執筆:白兎 GM


《泡沫のJune bride》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2020-06-24 23:59:04
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 2) 2020-06-25 14:03:21
ザコちゃん思ってんだけど、そもそもこの二択の突きつけってのが気に食わなみってか。
なーんでどっちかがわり食う選択肢しかないんだか。両成敗で良くない?成敗はされてないけど。

だから3つ目の選択肢選ぶね、ザコちゃん。
とりまお2人は引き合せる。フードの旅人予定様が会いたいってんだし会えばいーよ。
でも、記憶の根源については全く話さないし教えない。ただ会わせるだけ。で、そのまま変わらず過ごして。終わり。

新しい人生を暮らして欲しいー、って願うならさ、新しい関係性でそのまま、ってのもまた新しい人生でしょ。
それで今後記憶を取り戻す可能性もそりゃああるけどさ。それはそれとして、今すぐの秒速であげることも無いし。
過ごす中で見つけんのか、記憶伏せたまま似た関係になんのかでも良くない?
消えるまでの時間が1時間って訳でもないのに。なーんか御二方とも急ぎのせっかちな気がすっから。

って感じで、ザコちゃんから3つ目選択肢の提案だけしとくね。ゆーしゃ様達にも。
ただ、もうこの二択で決めてるーってならそれはそれでゆーしゃ様の選択肢だから。好きにしていーよ。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 3) 2020-06-25 14:09:56
…会いたがってんのは記憶求めのリバイバル様の方か。
っても、3つめの選択肢にすんのに変わりはないけどさ。

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 4) 2020-06-25 15:50:03
う~ん。ザコちゃんさんの気持ちはわからないでもないけど、割を食うかどうかの話に限定すれば、他方がそう思わないよう、『利』を提示するのが、わたしたちの役割。と、いうことになるわね。


ずーっとフード目深に被って過ごすのも不自然だから、あなたには紫苑という婚約者がいたけれど、もう故人です。この方はよく似てるけど、遠縁の別人です。とでもすれば、どちらの側に立っても、『利』があると言い張ることはできるわね。シトリ先生がどう判定されるかは、図りかねるけど。

《ココの大好きな人》 アンリ・ミラーヴ (No 5) 2020-06-26 21:38:12
教祖・聖職コース、アンリ・ミラーヴ。よろしく(尻尾ぶんぶん)
俺は、【A】を、選ぶ。紫苑さんを、説得する。
もし、皆の方針が、【A】に決まれば、結婚式を、皆で行う事も、出来るかも。
先に結論を、出しちゃいけない、わけじゃない、はず。
チョウザさんの、【C】案、嫌いじゃない。でも。
お互い、大切なことを、言えないまま、いつ突然、別れるか、わからないのは、とても、辛いと思う。

《熱華の麗鳥》 シキア・エラルド (No 6) 2020-06-26 23:09:04
はいはーい、芸能コースのシキアだよ。よろしく
………俺もザコちゃんの案に乗っかってもいい?
3つ目とかは置いといて、会わせるだけ会わせるのはアリだと思うし

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 7) 2020-06-27 00:09:54
俺もAを選んで、紫苑さんの説得に入るつもりだ。
アンリさんと同様の見解ってね。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 8) 2020-06-27 14:30:20
遅刻、帰国♪
賢者・導師コース、教職志望のマーニー・ジムです。
よろしくお願いいたします。

私も、ザコちゃんさんの発想に感嘆しつつ、
考えとしては「A寄りのC」といったところかしら。

まず、相手の消滅が怖くて愛する人を避け回ってる紫苑さんを
ひっぱた…こほん。根性叩き直…げふんげふん!
説得するとして、と。ほほほ、表現の行き過ぎをお詫びするわね。

基本的にアザレアさんの記憶は取り戻してあげたいんだけど、
工夫次第で、消滅を回避もしくは延期出来ないかなあ、というのが
私の意見。

具体的には
『幼い頃から、誰かに恋をしていた』、
『自分は、その相手から、愛されていた』、
『6月には、結婚をする予定だった』、
『その相手は、紫苑である』。

この4つを揃えなければ、消滅を免れるのでは、ということ。
例えば、結婚しない、とかね。

根拠はないし、無責任なことはしたくないから、
消滅を回避出来る有効な手立てかなければ、考えを変えるかもしれないけれど、
取り急ぎ、現時点の考えをお伝えしておくわね。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 9) 2020-06-27 18:50:44
仮プランを出してみたわ!

自由に動けそうなのは今夜が最後で、
明日から締切時点にかけては動けなさそう。ごめんなさい。

でも、もしご相談や、協力出来ることがあれば、可能な限り対応してみるわね。

《終わりなき守歌を》 ベイキ・ミューズフェス (No 10) 2020-06-28 21:41:31
今更ですが、教祖・聖職コースのベイキ・ミューズフェスです。よろしくお願いします。
ぶっちゃけ、私自身は「どうなってほしい」というスタンスではなく、「ふたりが本当はどうしたいか」に注目したいなーと。

大事ななにかを取り戻したい気持ちもわかりますし、大事な人を2度も失いたくない気持ちも理解できますし。
と言っても、おふたりのどちらかにしか接触できないようですし、私は紫苑さんと接触するつもりですが。

《猫の友》 パーシア・セントレジャー (No 11) 2020-06-28 22:30:29
あ、私は紫苑さん寄りでアザレアさんと話すわ。
アザレアさんが存在し続ければ……いつの日か、紫苑さんの子孫なんかと縁が繋がるかもしれないし、そうならなくても、そんだけ存在してればいいこともあるかもしれないしね。

存在しなかったら、可能性もないしね。

《新入生》 シャルロッテ・リアン (No 12) 2020-06-28 22:38:06
挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。
初めまして先輩方々、私はシャルロッテ・リアンと申します。
【A】の意見がたくさんある中合わせたい気持ちがある所大変申し訳ありませんが、
私は【B】を選択させていただきます。
私は人の命を救うためならどんな思いだろうと結果だろうと救うと決めております。

紫苑様の言い分を改めて聞き、彼の願いの覚悟を聞いた上で
「リバイバルのアザレアの命を救う」ことに集中させていただきます。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 13) 2020-06-28 23:31:44
ふたりが本当はどうしたいのか。
それを叶えてあげたい気持ちは、みんな同じじゃないかと思います。

ただね~、私の場合は、どうしても、
リバイバルとしての自分と重ねてしまうから、
私情が入ってるんじゃないの、と言われては、返す言葉もないけれど。

それでも、二人にとってのベストを、せめてベターを、
探してあげたい気持ちに、嘘はありません。
みんながそういうプランを書いた結果、どんな結果(リザルト)になっても、
私は後悔しない、かな。

《真心はその先に》 マーニー・ジム (No 14) 2020-06-28 23:37:35
マルチであること、正解がないこと、
参加者の行動や言葉に、若い二人の命が左右されること。

初めてづくしの、難しい内容の課題に、
皆さんとチャレンジ出来て、とてもありがたく、
得難い経験になりそうです。

願わくは、どんな形であれ、二人にとって
幸せな結末(リザルト)になりますように。

白兎GM様、ご一緒いただいた皆様、本当にありがとうございました!
あとは、心静かにリザルトを待ちましょう。