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迫る脅威、探る道標


ストーリー Story

 その日、『魔物の大群』がとある村へと押し寄せた。
 人々は近隣の都市『シュターニャ』へ身を寄せ、魔法学園の生徒と、わずかに残った村の衛兵達が、魔物の群れを退けた。
 文にするだけならば、1、2行にも満たないような出来事。
 しかしながら、それは、人々と村へ、多大な影響を与えた。
 ……あの出来事から、2か月が経過した。
 未だ人々は故郷へ帰ることはなく、村には時折、シュターニャの傭兵達が交代で見張りにつく。
 悪化……とまではいかないまでも、魔物も、そして人々も。
 全てが行動することもなく、ただ、立ち止まったまま。
 そして今日も。
「……はぁ」
 誰かが、この日何度目かもわからないため息を吐く。
 気が滅入るのも仕方がない。衛兵達から入る情報は今日も変わらず『特に異常なし』の1点のみだからだ。
 ……確かに、あの日以来、村へに現れる魔物の数は極端に減っていた。
 1日に1匹か2匹、弱い魔物が顔を表す程度……。
 しかし、それも森の外のみ。
 調査に出た衛兵達からは、森の中には、そこら中に魔物のものであろう痕跡が残っているとの報告もある。
 ……恐らく、未だ森の奥には、魔物達が大量に蔓延っていることだろう。
 ――森の中だけで留まるそれを、平和と呼ぶべきか。
 それとも、いつまた起こるかもしれない、災厄と捉えるか。

「――以上が、屯駐兵達の報告だ。事態は悪い方向にも、良い方向にも動いていない。……だが、今、村人たちを村に返すわけにはいかない」
 また何時魔物が、再び現れるかもわからない。傭兵組合『シュッツェン』の代表、【ニキータ・キャンベル】はそう付け足す。
「けれど、わたし達も、いつまでも村人さん達を置いておくわけにはいかないわ……。申し訳ないけれど」
 観光組合『アイネ・フォーリチェ』の代表、【マチルダ・アベーユ】が口を開く。
 幾ら、彼女と仲の良いニキータの判断でも。マチルダは観光組合の代表として、言葉を述べる。
「今、こちらにいる村人さん達を泊めている宿泊施設。その間、お客さんを止めることはできない、観光業が滞ってしまう。一触即発ってところね」
「シュターニャにとっては、早めに対応した方がよい……か。……ところで」
 ちらり。目の端にいる大男を、ニキータが睨むように見上げる。
 元凶……ではないものの。彼は間接的に、面倒ごとを長引かせた原因のような者。あまりニキータの心証はよろしくない。
「貴方は、この事態に何か心当たりはないのか? ガープスさん」
「……俺に聞かれても、困る」
「あー、ニキータさん。こいつは超鈍感脳筋ヤローなんで、あんま頼んねーでくださいっス」
 元・最強の戦士【ガープス・カーペンター】の横で水を差すのは、商人【ピラフ・プリプク】。
 ニキータがガープスを敵視するのは勝手だが、それでまた、現在の状況をガープスが責任を負う必要はない。……と、ピラフは考える。
「……まぁ、ピラフの言う通りだ。申し訳ないが、そういったことは苦手なんだ」
 ピラフの軽口に何かもの言いたげであったが、ガープスは口を慎む。ここで変に反論する意味もないだろう。
「第一、こいつ(ガープス)は村の出身でも、長らく住んでいるわけでもねぇ。おまけに注意力っつーのがあんまねぇっす」
「……申し訳ない」
「……いいえ、気にしないで。ではピラフさん。貴方は、何か心当たりがあるかしら? 魔物が出てくる前、森の中に入ったと聞いたのだけれど」
「んー……、オレは1泊しただけなんで、村の知識はこいつ以下っスよ?」
 そう言って隣にいるガープスを小突く。
 幾ら衛兵や強い戦士がいたとしても、原因や発生源が分からなければ動くことはできない。
 鎮まる面々の顔を眺め、またため息が漏れる。
「やはり、落ち着くまで待つしかない……か。歯がゆいが、それが一番確実だろ――」
「……あ」
 ニキータの声を遮るように、思い出したようにピラフが声を上げる。
「そういえば、オレ、一度森にはいったんスけど……。森の中に家? っつーか、小屋みてーのが見えたんっす。あの小屋? の持ち主とかなら森のこととか詳しかったり?」
「小屋? 山小屋みたいなところかしら?」
「いや、山小屋っつーか、秘密基地……みてーな感じで……」
 思い出そうとするピラフの言葉に、ガープスが反応する。
「……村の子供たちのものだろう。俺が村に来る以前……、魔物がいなかった頃は、森は子供たちの遊び場だったらしい」
 その言葉に、ニキータが反応する。
「何故、それを早く言わない! 以前の様子を知る者がいるなら、その者に聞けば何かわかるかもしれないだろう!」
「ま、まぁまぁ! そうね……、貴方たちが知らなくても、知っていそうな人に聞いた方がいいかもしれないわ! 他に、何か知ってそうな人に心当たりは?」
「……そうだな――」

 それは、姿も、終わりも見えない脅威に思えた。
 しかし今、道標が立とうとしている。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 7日 出発日 2020-11-28

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2020-12-08

登場人物 4/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《1期生》アケルナー・エリダヌス
 ローレライ Lv20 / 勇者・英雄 Rank 1
目元を仮面で隠したローレライの旅人。 自分のことはあまり喋りたがらない。適当にはぐらかす。 ふとした仕草や立ち居振舞いをみる限りでは、貴族の礼儀作法を叩き込まれてるようにもみえる。 ショートヘアーで普段は男物の服を纏い、戦いでは槍や剣を用いることが多い。 他人の前では、基本的に仮面を外すことはなかったが、魔王との戦いのあとは、仮面が壊れてしまったせいか、仮面を被ることはほとんどなくなったとか。 身長は160cm後半で、細身ながらも驚異のF。 さすがに男装はきつくなってきたと、思ったり思わなかったり。 まれに女装して、別人になりすましているかも? ◆口調補足 先輩、教職員には○○先輩、○○先生と敬称付け。 同級生には○○君。 女装時は「~です。~ですね。」と女性的な口調に戻る。
《幸便の祈祷師》アルフィオーネ・ブランエトワル
 ドラゴニア Lv23 / 教祖・聖職 Rank 1
異世界からやってきたという、ドラゴニアの少女。 「この世界に存在しうる雛形の中で、本来のわたしに近いもの が選択された・・・ってとこかしらね」 その容姿は幼子そのものだが、どこかしら、大人びた雰囲気を纏っている。  髪は青緑。前髪は山形に切り揃え、両サイドに三つ編み。後ろ髪は大きなバレッタで結い上げ、垂らした髪を二つ分け。リボンで結んでいる。  二重のたれ目で、左目の下に泣きぼくろがある。  古竜族の特徴として、半月型の鶏冠状の角。小振りな、翼と尻尾。後頭部から耳裏、鎖骨の辺りまで、竜の皮膚が覆っている。  争いごとを好まない、優しい性格。しかし、幼少より戦闘教育を受けており、戦うことに躊躇することはない。  普段はたおやかだが、戦闘では苛烈であり、特に”悪”と認めた相手には明確な殺意を持って当たる。 「死んであの世で懺悔なさい!」(認めないとは言っていない) 「悪党に神の慈悲など無用よ?」(ないとは言っていない)  感情の起伏が希薄で、長命の種族であった故に、他者との深い関りは避ける傾向にある。加えて、怜悧であるため、冷たい人間と思われがちだが、その実、世話焼きな、所謂、オカン気質。  お饅頭が大のお気に入り  諸般の事情で偽名 ”力なき人々の力になること” ”悪には屈しないこと” ”あきらめないこと” ”仲間を信じること” ”約束は絶対に守ること” 5つの誓いを胸に、学園での日々を過ごしている
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  

解説 Explan

目的:魔物の大群を探る
 村に現れた、『魔物の大群』に関する情報を集めることが、今回の目的です。
 調査方法は主に『聞き込みを行う』『現地を訪れる』の2種類があります。
 が、他に調査方法として適切なものがあれば、行っていただいても構いません。
 また、調査項目をいくつか挙げていますが、他に調査する事柄を挙げていただいても構いません。その場合、判定の結果によっては何かしらの情報が分かるかもしれません。

●調査対象
 〇人物
 ・子供……魔物が現れ始めるまで、森の中を遊び場にしていたらしい。
      子供の多くは、未だ魔物に怯えているようだ。
 ・老人……魔物の発生源である森の近くに、多く住んでいた。
      村に長く住み、村のことに詳しい反面、当時のことをあまり覚えていない節がある。きっかけがあれば思い出せるかもしれない。
 ・冒険者……魔物が発生する当初、村周辺の見回りを行っていた。
      現在は衛兵組合にて、臨時の衛兵として手伝いをしているものが多いようだ。

 〇魔物
 ・直立した牛のような魔物……斧を持つ巨大な謎の魔物。魔物の群れの中に現れた。

●調査場所
 ・森……魔物の発生源。魔物の痕跡が残る。また、かなり大きい森のため、目印がなければ、土地勘のないものは直ぐに迷ってしまうだろう。
 ・村……現在、屯駐兵が待機している。殆どの建物は無傷で残っている。

●これまでの情報
 前回までに判明したもの
 ・魔物は森から発生し、辺りに散らばる(村が進行方向にあれば、襲う)
 ・魔物は弱っている者や、弱そうな者を優先して襲う


作者コメント Comment
寒くなってきましたね! 根来言です!
今回は『弱き剣、強き枷』『弱き民、迫る脅威』の続編となる課題となります。
また、今回の課題は、判明した情報次第で何かしら次回の課題に影響が出る……というものです。
(例:魔物の弱点、住処等)
有利になるような情報が何か、またどの人がどのような情報を持っているかを予想していただければと思います。

皆様の素敵なプラン、お待ちしています!


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
●作戦と分担
現地調査を担当。森の小屋を中心に魔物の動向、発生源を調査
一度で不明でも次につなげられれば

●事前準備
村で詳しい人に森の地図を概略でいいので依頼。
また帰還時刻と緊急事態(強敵や大部隊との遭遇など)に『とんでく花火』で合図する旨を連絡し、未帰還や合図時は有事に備えて欲しいと

●行動
森では『キラキラ石』を目印に置きつつ、『隠れ身』で小屋に移動。
魔物が拠点にしてないか慎重に調査。
また森では足跡や食事、排せつなど魔物の痕跡を重点的に調査。
襲撃で遭遇した魔物と痕跡の種別が一致するか、人間のものがないか
移動の方角はetc

原因や拠点、重要人物を発見時は即帰還。
遭遇戦も基本『全力撤退』で情報収集第一に。

アケルナー・エリダヌス 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:180 = 60全体 + 120個別
獲得報酬:4500 = 1500全体 + 3000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
私は子ども達と冒険者から情報収集
可能なら先に情報収集→現地調査の流れ

◆準備
羽ペンと羊皮紙を準備
聞き込んだことを記録したり、森の様子がわかる地図を作成

◆情報収集
まずは子ども達に森の大まかな地形や目印になりそうな地形を聞いて、子ども達と一緒に森と周辺の概略がわかる地図を作成
勿論、例の山小屋の位置もね

小屋の中の様子等も、わかる範囲で教えて貰う

その後は、冒険者に地図を見て貰いながら、特に多くの魔物を見かける場所や、魔物のねぐらになりそうな洞窟、廃屋等が他にないか確認する
もしかしたら、例の小屋に迷い込んだ冒険者も居るかもしれないし、その辺も要確認

整理できたら、まずは中立的に判断出来そうなピラフさんに相談

アルフィオーネ・ブランエトワル 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
基本方針:聞き込み対象に対し、お茶菓子で慰労し、時折、とりとめのない世間話をしてみたりなど、話してもらいやすいよう、場の雰囲気作りをする。得られた情報はフィリン・スタンテッドに報告【料理/ティーセット/調理道具一式】

子供【子供親和】
同行者:アケルナー・エリダヌス

アップルティーとパンケーキでおもてなし
「森ではどんな遊びをしていたの?」


冒険者【会話術】
同行者:同上

ジンジャーティーとミートパイでおもてなし
武勇伝を聞く

老人【信用】
同行者:クロス・アガツマ

ハーブティーとミニクッキーでおもてなし
伝承や祭事について聞く


聞くこと
魔物が現れ始めたころ、何かおかしなことはなかったか?
祠や、魔法陣の類はなかったか?



クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
俺は村に住む老人達に話を聞き、情報収集
また、事前調査で何処にどのような来歴の方がいるのかも、出来れば調べておく

慎重に情報を聞き出していこう
順を追った方が彼らも思い出しやすいだろう
長く森を見てきて気づいたことや、以前にも似た事件がなかったかを訊ねてみる
それに、件の魔物の目撃情報や生態、特徴などの情報も集めてみよう
思い出せそうでも詰まる者だったり、意志疎通が難しい状態の者がいたら、憑依でその情報を読み取ろう

それと、ついでだから彼らの健康状態も診てみようかな
可能ならデトルで、お礼代わりに少しでも楽にしてあげたい


森に調査へ向かう仲間には、可能な場合はこれらの情報も先に伝えておく
探索の助けになれば幸いだ

リザルト Result

 上等な宿泊施設の1室で、1人の老人が深いため息をついた。
 月日が移るのは早いもので。もう今年も終わろうとしている。
 革張りのソファーに腰を落とし、暖かな室内から外の寒空を見下ろせば、町民たちが体を震わせ、帰路を急ぐ姿が見えた。
 ――これがただの旅行ならば、彼はこの待遇を、心から喜んだことだろう。
「……どこか痛みますか?」
 傍らの男が心配そうに顔色をうかがう。
 老人は、なんでもない。そう息を吐き、手元のカップを覗き込む。
 覇気のない枯れた老人。カップの中の彼は、そんな姿をしていた。
「……まさか、こうしてまた茶を楽しめるとは思わなかったわい。それに健康診断まで、至れりつくせり……じゃな」
「いえいえ。こちらも協力して頂く身ですので……。ほんのお礼です、これでも勇者ってやつなので」
 老人の言葉に、【クロス・アガツマ】はにこやかにほほ笑む。


 『あの日』から、老人をはじめとした村人達はシュターニャ内の宿泊施設の空き部屋を仮の住まいとして生活をしていた。
 殆どの者たちはかなり豪華な客室に住まうことになったが、浮かれている者などは少数だろう。
 都市からの支援もあり、ほぼタダ当然で部屋を占領しているのだ。当然と言えば当然。
 彼らからすれば、金払いの悪い客が居座っているようなものなのだから。
「生きた心地がせんよ。この町の人々も、態度には出すまいとしているが……。『いつ出ていくのか』、とな。そう思っとるのは知っておる。だがのぅ」
「生きているうちに村に帰れるのか? それとも、ここを追い出されるのか? って、不安なのでしょう?」
 隣でハーブティーを注ぐ【アルフィオーネ・ブランエトワル】のその言葉に、老人はただ小さく笑った。
「そうならないように、わたしたちが頑張って解決します。……万が一の時も、学園は最後まで支援します。……だから、もう少しだけ待っていて欲しいのです」
「こんな小さな子に心配されるなんてねぇ……。情けない。けれど……君たちに頼ってみようかのぉ」

「魔物が出始めてから、夜は妙に騒がしくてねぇ。こんなに魔物が多く現れたのを見たのは初めてじゃった」
「以前はこのようなことはなかった……と?」
 クロスの言葉に、老人は首を縦に振る。
「人生80年で、初めて見た。……ほんの時々、村に入ってくることはあったが……。村人だけで追い払えるような弱い魔物ばかりじゃったのぉ」
 ……老人の記憶が確かならば、80年間は少なくとも今回のような事例はなかったということになる。
「だから、油断をされていたのですね。何時ものこと、魔物が現れても、すぐに追い払える……と。催事の際はどのように?」
「村に訪れる冒険者に一応警備を頼んで……じゃな。もっとも、殆ど来ることはない魔物を恐れるものは殆どいなかったわい。催事も毎年、滞りなくじゃ」
「滞りなく……? えーと……」
 アルフィオーネは思わず首をかしげた。
 あの村にある魔物を避けるための対策といえば、かなり低い柵や脆い土壁の家程度だろう。
 以前からこのような体たらくで、魔物からどのように村を守っていたのか。
 アルフィオーネは以前村を訪れたことがあるが、彼女が村に訪れるまでの間だけでも、数度魔物に遭遇していた。
 ……つまり、魔物の姿を目撃している。全く魔物がいない地域というわけでもないのだ。
「……あの村周辺は、極端に魔物が現れない地域であったようですね。それとも、誰かが定期的に魔物の討伐を行っていたことは?」
「……うぅむ、冒険者達が立ち寄るついで、道中の魔物を仕留めておると思っておったわい。後は……、ふむ。何もなかったのぉ」
 クロスは老人が一瞬言い留まったのを見逃さなかった。
 何か思うところがあったのか。それとも、よそ者の自分たちにいうべきことではないと判断したのか。
(どちらにしても、手掛かりになるかもしれない。どのようなことでも、聞いておく必要があるだろう)
「何方かが訪ねてきたことがあったと? 魔物の討伐しに、ですか?」
「……、確かに来たことはあったが……。少し森を覗いただけで、すぐに帰ってしまったわい。思いのほか魔物がおらず、拍子抜けしたんじゃろうな」
 特に嘘をつくような仕草はなかった。老人自身も大したことはないと思っているのだろう。
「本当に、何もせず帰ってしまったのですか? わざわざ魔物が少ないと言われる村を訪れて?」
「何も、せずに……じゃな」
 クロスは、会話をしながらも老人へ意識を集中させる。
(思い出そうとしてくれているならば、俺も手伝いをさせてもらおう。……少し身体、お借りします)
 呼吸が止まるほどに、クロスの意識が薄れ、老人の意識に重なる。
 リバイバルの憑依。老人と一体化しながら、記憶の整理を少し手助けしていく。
(かなり多い。だが、探すものが決まっているならば確実にあるはずだ)
 記憶に集中し、奥へ、奥へと入り込む。
 5年、10年、20年……。記憶を遡る。
 100人以上の来訪者たち。記憶の量は確かに膨大だが……。
 彼が探すのは森へ入り、直ぐに引き返した人物。たった1人。
(……見つけた!)
 村を訪れた人物を見つけ出し、着目する。
 ――50年前。色あせた記憶の中、現れたのは1人の老人。
 護衛もなく、村人達への挨拶もそこそこに、森の中へ入っていく。
(討伐に来た……、という装いではないな。武器のような類も――)
 老人が持っていたものは、古く、歪な形をした――。
 見つけた瞬間。強制的に自分の身体に引き戻されるクロス。
 息も絶え絶えに、見つけたものを口に出す。
「――――ふ、はぁ……、はぁ……。これは、本。ですか?」
「……っ! そう、『頁のない本』を片手に、森の中に入っていったのじゃ」


「あそこは、本当に都合の良い稼ぎ場所だったんだよ。昔はな」
 残念そうに肩を落とす冒険者に、アルフィオーネはジンジャーティーをそっと手渡す。
 傭兵組合にて身を寄せる冒険者達は、村を追い出された村人達ほどの被害はなかったらしい。
「魔物は少ない、出てきてもゴブリン程度。おまけにあそこで取れる薬草は珍しいものが多い。それ目的の変り者貴族やら、学者先生の護衛の仕事もあるが……、正直楽ができる。見習い冒険者の良い駄賃稼ぎの場所だったんだけどな」
 ぼやく冒険者に、労いの言葉をかけるアルフィオーネ。
(魔物が少ない……。冒険者の達の間でも有名だったようね。……でも、やっぱり)
 アルフィオーネは先ほどの老人の話を思い出す。
 魔物の少ない村に、魔物討伐に訪れた謎の老人。
 これは明らかに矛盾している。魔物を退治したいのであれば、もっと良い場所はいくらでもあるだろう。
「そういえば、変わったことはなかった? 急に魔物が現れるようになったのでしょう?」
「変わったことといりゃぁ、あの村は地震が他の村より多いってことだな」
「地震?」
「あぁ、といっても3年位前にでかいのが起きて、それっきりみたいだな」
「3年も前……?」
(3年前から見習い冒険者……? と、いうことは置いておいて。地震?)
 以前は頻繁に地震が起きていた。何か、起きなくなるきっかけがあったのだろう。
 そしてそのきっかけは、おそらく今回の事件にも繋がっている。
「地震が無くなってから、魔物が増え始めた……ってことであっているかしら?」
「おぉ、そーなんじゃねぇかなぁ? その頃から、森で遊んでたガキンチョ達も、親に森ん中入るなって言われたらしい。まぁ、倒れた木やら、亀裂やらができたんで遊ばせるにゃ危ない場所になったんだろ」
「……どちらにせよ、危ない場所に変わりはないわね」

 子供たちは意気揚々とペンを握る。
「こっちに、でっかい木があるの!」
「ここ! 池!」
 次々に書き込まれていく地図は、忽ち子供たちの絵や文字で塗りつぶされていく。
 【アケルナー・エリダヌス】はそんな彼らを微笑ましく眺めながら、出来上がっていく地図を観察していた。
 ただ彼らは遊んでいるわけではない。森に詳しい彼らだからこそ、森の地図を作るという重大な仕事を任せられたのだ。
(気になる場所といえば……、これかな?)
 『洞窟?』。
 森の最奥に書かれた、拙い文字。
 先ほど子供たちに聞いた時は、洞窟のような場所に木の板が打ち付けられている所らしい。
 子供も入れないほどに隙間なく打ち付けられた板がある。ただそれだけの面白みのない場所。
(子供が入ると危ない場所……? それとも、何かを封印しているとか?)
「あ、これも書かないと!」
 張り切る子供たちが書いたそれに、気になるものを見つけ指でなぞる。
「……おや? これは何かな?」
 そこに書かれたのは、『家』という文字。
 おずおずと子供の1人がアケルナーに話す。
「えっと、オレのじーちゃんが建ててくれた家! お昼寝したり、絵ぇ描いたりするのっ!」
(ここが、以前ピラフさんが言っていた小屋で間違いなさそうだね)
 子供の言葉に相槌を打つアケルナー。
 森の中でどんな遊びをしたか、元気よく話す彼らはとても楽し気だった。
「そうかい。……楽しそうだね」
「うん! ……でもでも、もう帰れないのかな?」
 魔物が現れてから子供たちは、森の中へ入ることができなくなったという。
 今まで住んでいた家も、遊び場も失ってしまった彼ら。しかしながら、彼ら自身は何もすることができない。
 だからこそ、頼れるのは自分たちなのだろう。
 ……だから、彼女は静かに。
 その言葉に答えた。
「そんなことはないさ。私達が、きっと取り戻す。……約束するよ」

(結構、魔物がいるわね……。でも、今回はあくまで偵察。少し歯がゆいけれど)
 受け取った地図を頼りに、木々の隙間を進む【フィリン・スタンテッド】であったが、調査はかなり難航していた。
 地震の影響で倒れた木々。所々に走る亀裂は草木に隠され、度々足を取られそうになる。
(ゴブリン。……と、ジャバウォックね。この前出てきた種類と一緒)
 息を殺し、魔物達が通り過ぎるのをただ、静かに待つ。
「……っ、行ったみたいね。さてと……」
 音を立てないようにゆっくりと地図を確認する。
 村の地図とアケルナーから受け取った地図を照らし合わせると、彼女のいる場所は森のほぼ中心らしい。
(黄色い実を付ける木、ハートに見える岩……は、分かりにくいけど、多分これ。と、いうことは)
 見上げた先、木々に隠されていたように立つ、今にも壊れそうな小屋がそこにはあった。

(……、誰もいない。当然と言えば当然だけど)
 大人が2、3人寝転がれば窮屈なこの場所には、人の気配など何もない。
 壊れかけた床板を軋ませ、観察を続ける。
 小屋にあるのは子供向けの絵本、クレヨンに木の棒が数本。
 秘密基地というべきか。生活に必要なものは見当たらず。当然武器になりそうな類もなさそうだ。
 思った以上に拍子抜け、といったところか。
(食事の跡もなかったし、人はいなそう……。次は――)
 小屋に備え付けられた小窓から、一瞬何かが見えた。
 慌てて覗き込む。
「……亀裂? の中に何かがある?」
 小屋の裏に現れたそれは、亀裂の中に見える広い空間だった。
 森の下に広がる地下空間が、地震によって一部の天井が落ち、露わとなったようだ。
 外に出て確かめてみると、亀裂の大きさは縦2メートル、横3メートルほど。
 フィリンは恐る恐る顔を近づけ、空間を観察する。
 ……その先には、紫色の薄明かりに包まれた、異質な部屋。
 湿り気を帯びた大小様々な物体が点在し、それらは時折脈打つ……まるで、生きているかのように。
(スライム……? いいえ、違う。でも……あれは、なに?)
 ドクン。ひときわ大きな脈打った1つが、大きく震えだした。
 かと思えば、どろりと溶け出し、『中にあるもの』を吐き出す。
「ギュァァァ!」
 醜い産声を上げ、吐き出されたそれは。ゴブリンだった。
 湿り気を帯びた身体を震わせ、覚束ない足取りで部屋の外へとゆっくり歩みを進める。
 フィリンは少なからず、その光景に動揺していた。
 盗賊として、そして勇者の見習いとして様々な魔物を見てきた彼女だからこそ。
 自分の常識からかけ離れたその光景を信じることはできなかった。
 スライムの中からゴブリンが産まれる。なんて話を、少なくともフィリンは聞いたことはない。
(……でも、アレから魔物が産まれているのは間違いなさそうね)
 戸惑いながらも、観察を続ける。大小さまざまなスライム。
 おそらく、中にはそれぞれ魔物が出生の時を待ち望んでいるのだろう。
「……、あれは」
 ふと、スライムの中に、明らかに異質なものが混ざっている。
 開かれた、奇妙な本が1冊。
(色、装飾……。クロスから聞いていた特徴と同じ。でも)
 その本は、『分厚い本』だった。

「本? それが原因だったのか?」
「えぇ……、多分。少なくとも関係があるものだと思います」
 フィリンの報告に、【ニキータ・キャンベル】は呆気に取られていた。
 まさか、あの魔物達の原因がたった1冊の本でした。……なんて。
「……ただの本ではない、かと。50年前より明らかに増えていたページ。それに、本を中心に発生していた謎のスライムのようなものから魔物が産まれていました」
「……別の本の可能性は?」
「低いと思います。クロスにも確認をしましたが、特徴は一致していました」
 嘘はついていないのだろう。あの学園の学生が、ましてやフィリンのような真面目そうな生徒が冗談を言うとは思えない。
(……1冊の本に振り回されていたかもしれないとは。少し、情けないな)
 ニキータは息を吐く。
 それは、手がかりが得られたことへの安堵のもの。
 あるいは、他の原因があるのではという不安からのもの。
(きっと、『どちらも』なのでしょうね)
 ニキータの返事を、ただじっと待つ。
 彼女が納得しようとしないと、一先ず学生達の仕事は終わったのだ。
 これ以上はニキータの指示を仰ぐほかない。
「わかった。……正直、我々だけでは見つけることができなかった手がかりを見つけてくれたこと、感謝する。……そして」
 小さく、区切る。彼女も言葉にやや困っているのだろう。
 暫し沈黙の後、切り出した。
「今回はご苦労だった。後々学園から報酬を受け取ってほしい。……まだ我々の問題は解決してはいないが、これが道標になるよう、こちらでも調査を行おうと思う」

 0と1とでは、大きな違いがある。
 何も結果を得ることができなかったことと、何かを得られたことも同様に。
 彼らは小さな光を見つけた。
 その光を必要なものだと言って掴もうとするか。
 不要だと手放してしまうか。
 どちらにせよ、彼らは『選択』をすることができるようになった。
 ――――さて。この光は一体、彼らに何をもたらすのだろうか。



課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
迫る脅威、探る道標
執筆:根来言 GM


《迫る脅威、探る道標》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2020-11-22 06:01:40
勇者・英雄コースのフィリンよ。
前回から引き続き参加となるけど、初めての人もよろしくね。

私は現地調査を行ってみようと思うわ。
前回遭遇した『直立した牛のような魔物』も気になるし…

《1期生》 アケルナー・エリダヌス (No 2) 2020-11-23 23:21:41
やあ。私は勇者・英雄コースのアケルナー。よろしく頼むよ。
私は冒険者をメインに情報収集しようかな。子どもの相手はあまり得意じゃないしね。

《1期生》 アケルナー・エリダヌス (No 3) 2020-11-25 06:15:25
現状二人だし、情報収集は私だけか。
一応、子ども達にも話を聞いてみるよ。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 4) 2020-11-26 06:23:15
ありがとう、アケルナー。今回もよろしくね。

情報収集で気になるのはやっぱり森の小屋かしら?
私も魔物たちの動向を調べながら向かってみようと思うわ。

あと一応、有事に備えて『飛んでく花火』を用意してるわ。
何かあった時に打ち上げて合図にできないかやってみるつもり。
どこまで効果あるかわからないけど…

《1期生》 アケルナー・エリダヌス (No 5) 2020-11-26 09:01:17
こちらのイメージとしては、まずは子ども達に森の大まかな地形や目印になりそうな地形を聞いて、概略がわかる地図を作ってみるよ
もちろん、例の小屋の位置もね

小屋の中の様子なんかも、わかる範囲で教えて貰うよ。

その後は、冒険者に地図を見てもらいながら、特に多くの魔物を見かける場所や、魔物のねぐらになりそうな洞窟、廃屋等が他にないか確認する感じで考えてるよ。
もしかしたら、例の小屋に迷い込んだ冒険者も居るかもしれないし、その辺も要確認かな。

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 6) 2020-11-27 05:09:04
教祖・聖職専攻の、アルフィオーネ・ブランエトワルです。二人ともお久しぶりね。あのガープスおじさまとの対決以来かしら?

アケルナーさん、よろしければ、子供の方はわたしが受けもつけど?
不要なら、お年寄りにお話を聞いてみるつもり。

あと、これらの情報って、フィリンさんが現地調査に行く前に、渡した方がいいのではないかと思うのだけど、どうする?

《1期生》 アケルナー・エリダヌス (No 7) 2020-11-27 07:36:25
アルフィオーネさんもよろしく頼むよ。
実は、出発日を一日勘違いして、子どもと冒険者への情報収集で行動送信済みなんだ。

でも、ふたりで話を聞くのは漏れがないようにするにはいいと思う。
ただ、現状ではお年寄りがノーマークだから、個人的にはお年寄りにお話を聞いてもらえると万全だと思うよ。

確かに調査結果は現地に行く前に渡せれば理想的だけど、その辺の流れはどうなるのかな。
融通が利くなら、先に情報収集→現地調査って流れがよさそうだね。

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 8) 2020-11-27 13:28:30
賢者・導師コースのクロス・アガツマだ、最終日ではあるが、よろしく頼む。
俺は主に老人達に話を聞いてみる予定だ。リバイバルの技能も有効ではないかと考えてね。
これで、とりあえず4つの行き先に人員を配置できることになるだろうか。
それと、そうだな……書くだけ、調査の前に有用な情報があったら伝えておくと書いておこう。

《幸便の祈祷師》 アルフィオーネ・ブランエトワル (No 9) 2020-11-27 15:15:05
それではわたしは、それぞれ話し相手にお茶菓子出して、話してもらえやすいようにするわね