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【幸便】隠された影と封じられた魔物


ストーリー Story

 仄かに輝く光を求めて、彼は宙を仰いだ。
 幾年眠りについていたのか。その身体は塵が積り、関節を動かす度、嫌な音がする。
 瞬きをするだけでも身体は鉛のように重く、声を出す器官からは風だけが漏れ出ているような音のみ。
 ―――それでも。
 その身体は時間さえかければ、問題なく動くことが出来たらしい。
 手足の関節と指の開閉を確かめた後、瞳を動かす。
 埃の積もった大量の書物の無事を目視で確かめ、辺りに散らばる魔法具の個数を確認する。
 ―――問題なし。劣化以外の傷も、破損もない。では、何故動けるように? 彼は考える。
「……あの忌まわしい獣を、誰かが痛めつけた……と」
 掠れるような音を出し、瞬きを繰り返す。
 うっすらとではあるが、魔力が少しずつ高まっていく感覚。
 ……それは、以前この階層にあった、かつての魔力そのもの。
 そして、かの怪物が彼やこの地から奪い取っていたものだろうか。
 ―――それから変わったものといえば、その彼を観察するように浮遊する精霊が一匹。

 この地はかつて、ガイキャックス一族が栄え、そして衰退を迎えたとある廃屋。
 そして、ごく最近魔法学園の生徒達がキメラと呼ばれた怪物と対峙した地下でもある。
「―――アナタは、その誰かの使い魔ですか? ワタシを解放してくれたのはアナタの持ち主、それとも。……とりあえず、アナタの持ち主の元へ案内をお願いしても?」

 勇敢なる誰か様へ。
 誰ともとれるような曖昧な始まりから始まる手記の中身は、以下の通りであった。
 『我がガイキャックス家は、弱き人々を魔王との戦いから守るために封術を造り、そして更なる戦いの激化からも守り抜くために究極の封印術を求め続けた。その全ては魔物を封じ、人々を助けるため。より多くの者が結界を使い、その生を永らえるために。……しかし、その過程に、恐ろしいモノが出来上がってしまった。……この手紙を読んでいるということは、きっと貴方もそれがどういったものなのか、知っていることだろう』。
 『年月が経ち、我々は新たな技術を手に入れる。―――異端とも言える、キメラを作る技術。我々の中にはその力を使い、より強く、より扱いやすい魔物を使役し、魔王軍と戦おうとする派閥が現れた。……当然ながら、それはあまりに無謀なことで。彼らは数多くの魔物を生み出した後に、その魔物によって滅ぼされていった。ただ一匹の魔物を除いて』。
 『……一番の最悪の災害。幾度も蘇る巨大な魔物【不死鳥】。我々の家紋でもあり、宿命でもある存在だ。その存在を維持するため、特殊な魔力の元で今も生きながらえていることだろう―――』。
 執筆者、【ルネ・ガイキャックス】。彼が託した最後の願いは、彼ら一族が最後に残した負の遺産である『不死鳥の討伐』だった。
「不死鳥……。作られた魔物、ふむん」
 そして、全てを読み終えた【メメ・メメル】は手紙と交互に来客の姿を見比べる。
 中肉中背、ヒューマンであれば見た目は20後半。
 所々にひびが入り、左腕が欠けていることを除けば何処にでもいるような特徴のないカルマだ。
「……もうよろしいですか? この子を送り届けましたので、ワタシ、アナタへの要件はもう無いです」
「いやいや~、オレサマの用件がこれからだ」
 数日前、メメルの精霊を届けに学園に訪問したカルマの男性。彼は【ブラッド】と名乗り、行方知れずであった精霊を手に、メメルの元に訪れていた。
「手紙とキミの話を聞く限り、キミはガイキャックス家に仕えていた執事。んで、この……『不死鳥』を倒そうとしている。ってコト?」
「はい。おおよそその通りです。それが主人が残した命令なので」
 瞬きもせず、淡々と答えるブラッドに、流石のメメルも多少は狼狽える。
 どう見ても強者にはほど遠い出で立ち。壊れかけた四肢は、直ぐに折れてしまうのではないかと思えるほど頼りない。
(さて、どうしたものか……)
「ご心配なく、そこまで弱くはないつもりです」
「……ん~、でも心配だな? その不死鳥ってのをオレサマ知らないわけだけど、少なくとも1人で行くのは無謀だと思うぞ☆」
「協力はお断りします。1人の方が効率も良いので」
「随分な自信家のようだな。しかし、1人で相手できるような相手とは思えないんだけど。……もしかして何か秘策あり? とか」
「……まぁ、はい。ですが、悪用されそうですので黙ります」
「えー? そんなこと絶対しないぞ?」
(うーむ、警戒心が強いな、そして頑固! ……正直、不死鳥を倒す前に倒れそうなんだけども)
 頑ななその態度に、頭を悩ませる。学園としても無謀な人死は出したくはない。
 それにもし失敗すれば、どのような被害がでるかも全く予想できない。
 ……まぁそれ以前に現在その不死鳥とやらがどのような状態なのかも知らないわけなのだが。
「……どうしてもワタシを1人では行かせたくはないみたいですね。なら、同行してもいいですよ」
 ブラッドは目を伏せ、息を吐く。
「ただし」
「ただし?」
 ブラッドは古びた鞄から、本を一冊取り出す。
 埃のこびりつき、タイトルすら書かれていない分厚い古書。
 ……ただ、タイトルの代わりに刻印された文様が1つ。
 ―――不死鳥と、茨の檻。それは正しく、ガイキャックス家の家紋。
 それを、大事そうに胸に抱え、彼はメメルを見据える。
「ワタシより強いと、証明してください。それが条件です」


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2022-02-26

難易度 難しい 報酬 通常 完成予定 2022-03-08

登場人物 3/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。

解説 Explan

目的:【ブラッド】を倒す。
 ブラッドを戦闘不能にし、強さを証明することが目的です。
 攻撃は、手にした古書を使用した攻撃魔法が主です。
 本を取り上げる、又は破壊する、ブラッドへ攻撃する等といった方法が考えられます。

●戦闘について
 ・学園内の校庭に付随する訓練場で行われる予定ですが、提案次第で他の場所でも可能です。地の利は基本的に生徒である皆様にあります。
戦闘場所例:屋外プール、森、山林等。但し溶岩地帯や雪山等、戦う以前に危険な場所の提案は基本的に却下されることでしょう。
 ・戦場には、ブラッドの召喚したゴブリンやジャバウォックが数体、戦闘を開始する前から潜んでいます。
 これらの魔物はブラッドの従属の影響を受けたおらず、生徒であろうと召喚主であろうと関係なく攻撃を仕掛けてくることでしょう。

●ブラッドについて
 ガイキャックス家に当時仕えていたカルマです。
 彼自身は格3程度の強さですが、少々特殊な技を使用することができます。(以下の通り)

〇強制封印 1戦闘で1回のみ
 周囲5mにいる1人の使用したスキル(パッシブスキルを除く)の効果をこの戦闘の間消してしまう。(消されたスキルを再度使用することは可能だが、使用しても効果がない)。

〇一時封印
 周囲10mにいる敵1人の使用したスキル(パッシブスキルを除く)を1度だけ無効化する。
 使用後は30秒再使用が不可能となり、使用回数が増えると再使用の不可能な時間が累積していく。
(例:1回目30秒⇒2回目60秒……)

 上記は使用されるより前のタイミングで使用するため、どのようなスキルでも消してしまう。
(例:交渉系や補正スキル、戦闘とは全く関係のないスキルでも消してしまう可能性がある)

〇召喚・従属
 ガイキャックス家の本を使用し、封印されていた魔物を解放する。
 直立した牛のような魔物を2体解放し、その行動を操作する。
 この効果によって召喚された魔物は本来の魔物の能力よりも低いものとなる。


作者コメント Comment
お久しぶりです、根来言です。
クライマックスに向けて、物語は佳境……です。
今回はガイキャックス家の元執事、ブラッドを無力化することが目的となっています。
元々一族が得意としてきた封術、そして異端とされてきたような従属魔術を使い皆様を苦しめてくるかもしれません。
ですが本人はあまり強くなく、成長した皆様ならきっと無事勝利することができるかと思います!
皆様の素敵なプラン、お待ちしています。


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:270 = 90全体 + 180個別
獲得報酬:6000 = 2000全体 + 4000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
●作戦
『森や藪の中』で戦闘。
スキルが封印されてもくじけず、自分の力を信じて戦い抜く

●行動
「私はあなたほど生きてないけれど、同じように死地に臨む人を何人も見てきたわ。だから、今回も一人では背負わせない」

第一作戦はブラッドの古書へ『部位破壊』(武器破壊)
『強者の定義』は封印対策の見せ札として先手を打って使用(どのみち2回制限なので痛手が少ない)

召喚されたモンスターに警戒しつつブラッドには『部位破壊』で古書狙い
…これも見せ札その2で、奥の手は『基本剣術Ⅳ』での渾身の一撃(パッシブ技能)

牛のような魔物は過去のの戦闘記憶を元に必殺技『還襲斬星断』で早めに処理
これも封じられたら即『スタンテッドキャリバー』

クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
戦場の指定は森や藪の中

動作察知で周囲を警戒しつつ、魔物を片付けていく
ミドガトルやプチシルトで攻防を展開
また、この時にスキルを封印させれば危うくなるような隙のある戦いをあえて行い、ブラッドに一時封印を使わせたい
リキャストを本格交戦前に引き伸ばしておきたいからね
そのような危険な場面は、攻撃や遮蔽を物体透過で回避することで切り抜ける

ブラッドとの戦闘では魔法感知で封印を警戒し戦う
仲間が封印を受けたらアン・デ・カースやアン・デ・フィアで魔物やブラッドの動きを封じて隙を埋める
チャンスが来たらブラッドに必殺技を発動するような気迫で圧し、プチシルトを誤って封印させてみる
そのフェイント後、本命のダートガを放つよ

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:108 = 90全体 + 18個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
味方のひとたちによりそいささえます。

装備した「虹彩の鐘」の調べを「風の旋律」で奏でてもらい
たいりょくとまりょくの回復効果を発生させます。
楽器効果がにてる「天使の歌」とかとちがって
「虹彩の鐘」には「自分を除く」という制限がありません。
わたくしにとっていちばん身近な「味方」はわたくし自身。
そのわたくしをも回復します。
「絶対音感Ⅰ」と「調律」もつかいますね。

そして、「エアル」、「フドーガ」で敵への攻撃もおてつだいしますね。

手の届く範囲にしか広がらない「虹彩の鐘」、
でも、寄り添えばそれでいい。

そして、そこにわたくしは必ずいます。
ですからそれで回復できるまりょくをしっかりつかいますね。

リザルト Result

 戦場は、我らが魔法学園。その敷地内に広がる森林地帯。
 ある時は模擬戦闘、またある時には野営訓練、あるいはレースやキャンプ……。
 生徒であれば誰もが一度は足を踏み入れたことがあるだろう。そう、慣れ親しんだ土地だ。いや、だった、というのが正解かもしれない。
 ……今、その土地は、普段とは少々異なる雰囲気を醸し出していた。

 〇
 小鳥の囀り、小動物の鳴き声。
 そして、時折聞こえるのは、普段ここにいるはずのない魔物のうめき声。
 森林地帯のその中心部、ある程度開けた場所……といっても、膝丈ほどの草で覆われたようなその場所で、今、戦いが始まろうとしていた。
 そこにいる者は3人の生徒と、1人の学園長。そして1人の部外者。
 それから、そこらかしこに部外者によって持ち込まれた魔物が数匹ほど。
 この戦いの目的はただの1人を止めるため、あるいはその先へ進むためだろうか。
 いずれにしても、生徒達はそれぞれ何かを思い、部外者と対峙する。
「アナタ方と、ここで戦えばいいのですね? そして、今一度確認しますが、ワタシが勝てばほおって置いてくださると言うことでよろしいですね?」
「……私達は勝ちます。あなたをほおっておくわけにはいきませんから」
 【フィリン・スタンテッド】の言葉に【ブラッド】は、ただ目を細めた。
 未来予知などできなくとも、このまま彼を見捨ててしまえば……。
 かつての誰かの姿と重なり、握る拳に力が入る。
(きっとこの人は、相打ちになってでも……。私が、止めないといけないわ)
「なら、倒してみてください。話はそれからです。……出来たら、ですが」
 ブラッドが本を、生徒達が各人の武器を構えたのを確認すると、【メメ・メメル】が不敵にほほ笑む。
「うむうむ、両者とも準備はおっけ~? んじゃっ、試合開始ぃ! 行くのだ、我が優秀な生徒達よ~!」
 妙に抜けた合図を受け、各人が行動へと移した。

 〇
「出し惜しみはしません。―――その力を我が鉾へ、その身を我が盾へ捧げよ。その姿をここへ、双眸のミノタウロスっ!」
 ブラッドが手にした本が、独りでに捲れ、2つ、光の魔法陣を地面に描く。
 ……魔法陣から漏れる光がやがて、1つの塊を作り出した。
 微かな地面の揺れ、そして、揺れと共に鼓動する光の塊。
 それは段々と、魔物の姿へと変貌していき、やがて2体の魔物が姿を表す。
 生徒達が幾度も対峙した、牛のような姿の魔物だ。
(……あの魔物は。……召喚……いや、封印していた魔物を狙って解凍、使役しているといったところだろうか。成程、随分と珍しい術を使うようだ)
 【クロス・アガツマ】は、注意深くその姿を観察する。かの村に現れたものと同種のようには見えるが、その動きは些かぎこちない。
 使役しているブラッドが、動きを制御していることもあるのだろう。おそらく、彼を無力化さえしてしまえば魔物の動きを止めることもできるはずだ。
「……さてレーネ君、周囲の様子はどうかな? 他にも魔物がいるという話だったが」
「十時の方向にひとつ、あとは……、三時の方向に1つです。10m以上はなれているとおもいます」
 高い草木に紛れ、数体の魔物の存在があることは分かっていた。
 【レーネ・ブリーズ】は耳を澄ませ、仲間に知らせる。
 視認できない敵は離れた位置。今のところ、大きく戦場を移動しなければ邪魔はないだろう。
 その敵が接近するより早く、ケリをつけるか。……それとも。
「わかったわ、援護お願いッ! ―――まずはッ!」
 フィリンは聞くや否や、ブラッド目掛けて駆け出す。
 体位を低く、草木に紛れての一閃。
 狙いには寸分の狂いもなければ、魔物が動くよりも早く。
「はぁッ! ―――ッ!?」
「……あぁ、それはいけない」
 飛び上がり、ブラッドの本を狙ったその剣。
(身体が急に重く……ッ!? く、このっ!)
 しかし当たる寸でのところで、身体の力が抜ける感覚。剣を握りしめ、脱力した身体をそのまま受け身の姿勢へと整える。
 ……しかしその横で、斧を振り上げる魔物が1体。 
「く……っがぁッ!?」
 身体を翻し、剣で斧を受け止めるも、その衝撃をモロに食う。
「―――『アン・デ・カース!』 立て直せるか!?」
「―――えぇッ、たあぁぁ!」
 もう1体の魔物が振り上げた斧に、鎖の束が絡みつき、魔物の斧を拘束した。
 拘束された魔物を切りつけ、体勢が整うより前に距離を取る。
 ―――グァァァッ!
「はぁ……ッ!」
 もう1体の魔物が離脱するフィリンへ距離を詰める、斧を振り上げるも、その斧はフィリンの剣によって受け流された。
「かなでます、傷つけさせはしません」
 レーネの奏でる虹採の瞳が甲高い音を辺りに響かせる。
 傷を癒すその音色にブラッドは眉を顰め。
「―――っ、音がっ」
「白兵、援護、妨害……。流石です、ですが。『一時封印』。止めてもらいま……」
「……っ、いいえ、わたくしはやめません」
 身体の重さ、ベルの音が一瞬止み。
(想定していました。これが封印されたなら……つぎは、そして)
 ―――そして、再び鳴りだす。
「天使の歌……、そして、風の旋律。わたくしの力は、幅広い選択肢を持つこと。……なんど封印されようと、あきらめません」
「……厄介、ですね。正直、相手として相性があまりよくない。ならば他から」
 敵影は、魔術師が1人と、魔物が2体。そのうち1体は手負い。
(後は……、だいぶ、近づいてきていますね)
 恐らく相手のリソースはそう多くはないらしい。
 自身よりも格上の魔物2体を召喚し、従属し続ける魔力や体力。そのうえで高度な魔術を使い続けているような状態だ。
 ……戦場に敵が数多くいるように見えても、実際はただの1人だけ。
「……勝てたとしても、それは他の人と共にあるからこそ。わたくし自身がブラッドさんより強いわけじゃない」
「―――では、その力を見せてください」
 ―――ウヴォオォォォッ!
 雄たけび、そして魔物が2体。ブラッドの指揮に従い突進してきた。
「『アン・デ・カース』ッ! フィリン君、行けるか?」
「勿論ッ! たあぁっ!」
 クロスが周囲の木々の合間を縫うように鎖を絡ませ、動きを留めさせる。
 魔物が体勢を整えるより先に、フィリンが1匹の魔物を仕留めた。
「フィリンさん、3歩後ろへ! 出てきます」
「―――っわかった!」
 後ろに下がる、魔物が振りかぶるも、予期せぬ横やりが入った。
 ―――ギュィッ!?
 魔物自身も、視界外からの奇襲を予期することはできなかったのだろう。
 足を見てみれば、草の合間から現れたジャバウォックが、近くにいた魔物に噛みついていた。
 ……戦闘前に召喚されていた魔物が、迫っていたらしい。
 魔物がジャバウォックを投げ飛ばす。も、その時にはもう遅い。
「あぁ……っ。遠い、戻れ!」
 ブラッド自身も周囲の魔物に警戒をしていたようだが、使役する魔物の周囲の様子までの警戒は出来なかったらしい。
「前方向、魔物の気配ありません!」
「これが止めだ。『ダードガ』ッ!」
 周囲に広がる闇の霧。やがて1つの巨大な弾となり、発射される。
(封印……、いや、間に合わないな。なら―――)
「―――っ強制封印!」
 勢いよく発射されたその弾。
 ブラッドがその弾を睨みつけると、弾は霧散し、元の闇へと散っていく。
 ……そして、その先には。
「……なっ」
「―――スタンテッドキャリバーッ!」
 闇の霧から現れた閃光。フィリンが眼前まで迫る。
 2つの封印も使い果たし、魔物はあまりにも離れすぎた。
 フィリンの剣が本を切りつけ、本はやがて頁の雨へと変わっていた。
「……、絶句、です。お見事でした」
 右手を上げ、降参とばかりにその手を左右にゆらした。

 〇
「同行を許可します」
 先ほどまでの戦いは何だったのかと言うほどにあっさり、ブラッドは言葉を出した。
「……おぉっと。なんというか……、あっさりしているな、君。頑固者と聞いていたが」
 クロスは思わず、手にした杖を落としそうになる。
(主の命に部外者を巻き込むことを嫌って……と、言うわけではないのか)
「ワタシは負けましたので、とやかくは言いませんよ。それに、アナタ方をある程度信用することに決めましたので。……さて、何処から話したものか」
「では、教えてください。不死鳥のこと、それからこの試練が不死鳥狩りと関係があったのか……とか」
 フィリンが口を開く。不死鳥とは何なのか。そして、ブラッドが何故このようなことをしたのか。
 正直、分からないことだらけだ。
「……先程の戦いにて、アナタ方の実力、そして気質を観察させてもらいました。そのうえで話をしましょうか」
 ブラッドは少し考えるような仕草をし、フィリンを、そして他の生徒達を順に見回す。
「まず、不死鳥というものについて答えましょうか。簡単に言うと、とても強力な魔物で幾度倒しても10年程かければ元通り。更に、いるだけで周囲の土地の植物は枯れ、他の魔物が頻繁に現れるようになります。えぇ、害悪です。……そして、それを作り出したのが我々ですね。はい」
 随分と簡単に並ぶ言葉の数々。その言葉には誇張、嘘、ごまかしは一切なく。
「……何度倒してもって、もしかして」
「えぇ、我々、実は何度か倒しています。けれどその度に復活するもので少々手を焼いていますね。……だから、そんな魔物を封印しつつ殺す、そんな研究をしていたりします。それがワタシの主人ですね」
 一呼吸あけ、ブラッドは自身の上着を捲る。
 堅い、特殊な板のような胴体。その輪郭に爪を入れ、内部を開く。
 ……その中には心臓や臓器といったものはなく。
 胸部分に収まったフラスコらしき入れ物。その中身は、赤黒い液体が僅か。
「そして、これがその不死鳥を封印するための。ワタシのとっておきです。―――ガイギャックスの血ですね。一族は文字通り血肉を使って封印の魔術を使っていました。封印は、体内にこの血が流れていなければ使えません。ワタシは無理やり流していますが、大規模な魔術を1回使えばもう後はないでしょう。逆に言えば、ワタシから無理やり奪うことができれば好きに使えますね。……皆さんはそんなことはしないと思いますが」。
(一族の血、最後の切り札をもみせたのは、信頼した証なのでしょう。それなら)
 レーネが頷き、ブラッドの手を取る。
「えぇ、もちろんそんなことはしません。ブラッドさん、わたくし達を信頼してくださりありがとうございます。……きっと、ちからになります」
 その言葉に少し目を丸くし、けれども。
「はい、よろしくおねがいします」
 その言葉を口に出した。

 〇
 倒すべき敵、封じるべき敵。
 話に聞く限りはあまりに強大で、恐ろしい怪物のよう。
 けれど、彼らは勇敢なる者として、我々の悲願を成し遂げてくれる。
 止まった時が動き出すような、または枯れた大地に命が蘇るような。
 そんな奇跡を信じていた。
 そしてそれは、きっと遠くない未来に。

 『勇者の再来』が、すぐそこに。



課題評価
課題経験:90
課題報酬:2000
【幸便】隠された影と封じられた魔物
執筆:根来言 GM


《【幸便】隠された影と封じられた魔物》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2022-02-22 06:42:56
勇者・英雄コースのフィリンよ。よろしく。
ガイギャックスの事件もいよいよ佳境ね…
ブラッド本人はさほどではないみたいだけど、搦め手がやっかいなタイプ、と。

力を示せばいいそうだから、スキルに頼らず戦えるくらいの気概で望むのがいいのこな?

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 2) 2022-02-25 02:42:16
賢者・導師コースのクロス・アガツマだ。よろしく頼む。

戦場に散っている魔物との戦いはその方針で行くのが良いかもね。
だが俺としてはここでブラッドに不意打ちさせて一回くらいは使わせておきたいかな。この戦い、長期戦のほうが有利だろうからね。
俺はとりあえず、仲間がスキルを封印されたらリカバリーするようなプランにする予定だ。

それと、俺は特にフィールドの指定はないが、あれば提案してくれて構わない。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 3) 2022-02-25 07:40:57
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。
わたくしはみなさんによりそい、楽器をつかった回復をメインにかんがえてます。
たたかう場所についてはジャバウォックの得意地形「森や藪の中」を希望します。
「気配察知」と「風の民」でまわりを警戒しておしらせしたいっておもいます。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 4) 2022-02-25 22:34:01
よかった、3人になったわね
クロス、レーネ、今回もよろしく。

フィールドは私も希望なかったし、レーネの『森や藪の中』で大丈夫よ