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祖父は覚えていた


ストーリー Story


『じいちゃーん! 早く早くー! 俺もう頂上着いたよー!』
『アーカシ、もうちょっとゆっくり歩いてくれんか……爺ちゃんもう疲れたよ』
『だらしないなー。じゃ、ちょっと待っててよ。山ミカン取ってきてあげるから!』
『おいおいアーカシ。お前じゃまだ樹には登れないだろう。お前が怪我でもしたら爺ちゃんが婆ちゃんに殴られるよ』
『えー』
『じゃあ、もっとアーカシが大きくなったら、その時は山ミカンを採ってきてもらおうかな。出来るか? アーカシ』
『うん!』


 フクロウ便が知らせてきた祖父が危篤状態にあるという報に、【アーカシ】という青年が生まれ故郷の村に戻ってきたのは5年ぶりの事だった。
 村を出た時と何も変わっていない周囲の光景にしばし懐かしげに目を細めていたが、目的を思い出したかすぐに実家へと駆け戻る。
 バン、と勢いよく扉を開ける。お茶を飲んでいた祖母が驚いたような表情でこちらを出迎えた。
「アーカシ! 早かったねえ。お前の父さんと馬で来るだろうから爺ちゃんの顔はもう見せられないだろうって言ってた所だよ」
「友達が運送の仕事してて、こっちに行くグリフォンに途中まで乗せて貰って来たんだよ。まだ、生きてるんだよね?」
「ああ、話は難しいだろうけど、まだ身体も光になってないよ。さ、お前の顔を爺ちゃんに見せてやっておくれ」
 人は完全に死ぬと光の粒子と化し、骨すら残らず世界に融けて消えてしまう。その前にたどり着けたということはグリフォンの相乗りを許してくれた友人に今度酒でも奢らねばなるまい。
 そんなことを思いつつ、焦る気持ちを抑えて祖父の寝室へと移動する。
「ほらあんた。アーカシだよ。あんたが危ないって連絡したら、駆けつけてくれたんだ。ありがたいねえ」
「……ァ、…………」
「爺ちゃん……」
 ベッドに横たわる祖父の痩せこけた手を握り、それ以上の言葉が出せない。
 最早物を満足に食べることもままならないのだろう。頬はこけ、横たわる身体は記憶よりも一回り小さい。
 何かを喋ろうと祖父が口を動かしても、声にならない空気の流れがわずかに部屋の中を動かすのみだ。何かを伝えたいのは分かるのに、それを解する手段が無いことがもどかしくてたまらない。
 一目でわかる、もう手の施しようがない老衰だ。むしろ立派に生きたと胸を張って良いくらいだろう。
「なあ、爺ちゃん。何か食べたいものとか無いのか? 俺、買ってくるよ」
 買っても食べられないだろうことは分かる。だが、まだ生きている祖父に何かをしてやりたい一心で、アーカシは祖父の耳元でゆっくりと聞かせるように問いかけた。
 けれど返ってくるのは、言葉として理解できない吐息だけだった。もどかしさと無力さに、息が詰まる。
「それなんだがな、アーカシ」
 声のした背後を振り返る。自分が戻ってきたという報を聞いて来たのだろう、父親が母親を伴って立っていた。

「お前、今からフトゥールム・スクエアへ行ってもらえないか?」



 フトゥールム・スクエアと村はそこまで距離が離れていないのが幸いし、その日のうちにアーカシの依頼は教室に張り出されることとなった。
「勇者の皆さん、お集まりいただいてありがとうございます。アーカシって言います。今回お願いしたいのは、俺の村の近くにある、スィーデって山の頂上までの護衛です」
「スィーデって、15、6年くらい前だったかな。魔物が住み着いたって山?」
 教師の問いかけにアーカシは「ええ」と頷いて、
「厳密には山頂付近に住み着いた、ですね。当時も討伐するかどうかでちょっと話し合いがあったらしいです。結局は山頂に行く用事も殆ど無いし、向こうも麓に降りてきてこっちを襲うようなことも無いから放っておこうってことになったって聞いてます」
「で、その山にどういう用事なの?」
「俺の祖父がちょっと危ない状況なんですね。正直、明日光になって消えてもおかしくない感じです。でも、まだ喋れるだけの元気があった頃に、山オレンジが食べたいと言っていたそうなんです」
 そこまで喋ってから、アーカシは数秒の間を置いて息を整えた。
「『山オレンジ』ってのはスィーデの山頂の樹になる、オレンジみたいな実のことです。村での俗称なんですけどね。俺もまだ魔物が出てこなかった頃、連れてって貰って食べたことあったりしました」
「成程。つまり、それを採りに山頂まで行きたいけれど、魔物がいて危ないから護衛が欲しい、ってことだね」
 そういうことです、と頷いたアーカシに頷き返すと、教師は勇者候補生の方へと視線を向けた。
「ここからは私がちょっと補足しようかな。スィーデに住み着いてる魔物って基本的には手出しされない限り襲ってこないタイプが多いんだけど、一種類だけ暴れん坊がいるんだよね。レインボウモンキーって言って、火とか水とかの属性を個体ごとに持った猿みたいな魔物だね。どの属性持ちなのかは体色で判別できると思うよ」
 黒板にデフォルメされた猿を描きながら、教師は付け足すように再び口を開いた。
「ああ、ちなみに猿っぽいからってバナナで釣ろうとか考えちゃだめだよ。人間から餌が出ると分かったら人を襲い始める危険があるからね」
 ちょっとおさらいしようか、と教師が黒板に白墨で文字を書き連ねる。
 世界のありとあらゆるものには魔力が宿っており、その魔力には『属性』と呼ばれる性質が秘められている。
 属性間には相性が存在しており、相性のいい属性を持つ者に攻撃するならその威力は上がるだろうし、相性の悪い者が相手なら逆に威力は弱まってしまう。
「この辺は各々授業の内容を思い出しておくこと。今日はもう遅いから明日の朝から山に向かって貰うことになる。夜の山は危険だからね、どんなに急いでいようとも許可できない。アーカシさんもそれでいいね?」
「はい。護衛を受けて頂けるだけでもありがたいですから。皆さん、改めてよろしくお願いします」
 勇者候補生に向けて、アーカシは深く頭を下げた。


 翌日、勇者候補生たちはアーカシを伴いスィーデの山道を進んでいた。
 スィーデという山は標高自体はそれほど高い訳ではない上、子供でも数時間あれば頂上までたどり着ける程度に傾斜もなだらかな山だ。
 魔物が出てこなかった頃は村人たちの憩いの場として親しまれていたのだろうが、今となってはかつての山道にも草が生い茂り、周囲の木々からは枝が道を塞ぐように伸びているため中々登りにくい。
「そういえば、山ミカンなんですけどね。あれすっげえ酸っぱいんですよ」
 何度目かの休憩の最中、ふとアーカシがそんなことを言い出した。
「野生の物だから栄養も日当たりもそんな良くないし、当然なんですけどね。でも、なんで爺ちゃんはそんな物食べたいなんて言い出したんでしょうね。俺が出稼ぎに出ないといけない程度に貧しい村ですけど、果物食いたきゃもっと美味い物だってある筈なんですよ」
 そこまで呟いた時だった。不意に周囲の鳥が一斉にその場を飛び去った。
 続いて登山道の奥から興奮気味にこちらへ近づいてくる猿が三体。それぞれ体色は赤・黄・黒。火、雷、闇属性持ちのレインボウモンキーだろう。
「もしかしたら魔物に合わないで済むかもって思ってたけど、無理でしたね……すみません、皆さん。よろしくお願いします。あいつらを追っ払えれば頂上はすぐです」
 言葉を託し、アーカシは邪魔にならないようにと退く。

 それを見計らったかのように、三匹の猿が勇者候補生目がけて襲い掛かってきた。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2019-04-09

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2019-04-19

登場人物 6/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《比翼連理の誓い》オズワルド・アンダーソン
 ローレライ Lv22 / 賢者・導師 Rank 1
「初めまして、僕はオズワルド・アンダーソン。医者を志すしがないものです。」 「初見でもフレンド申請していただければお返しいたします。 一言くださると嬉しいです。」 出身:北国(リゼマイヤ)の有力貴族の生まれ 身長:172㎝ 体重:60前後 好きな物:ハーブ、酒 苦手な物:辛い物(酒は除く) 殺意:花粉 補足:医者を志す彼は、控えめながらも図太い芯を持つ。 良く言えば真面目、悪く言えば頑固。 ある日を境に人が触ったもしくは作った食べ物を極力避けていたが、 最近は落ち着き、野営の食事に少しずつ慣れている。 嫌悪を抱くものには口が悪くなるが、基本穏やかである。 ちなみに重度の花粉症。 趣味はハーブ系、柑橘系のアロマ香水調合。 医者を目指す故に保健委員会ではないが、 保健室の先輩方の手伝いをしたり、逃げる患者を仕留める様子が見られる。 悪友と交換した「高級煙管」を常に持ち、煙草を吸う悪い子になりました。
《人間万事塞翁が馬》サティア・ブランシュ
 ルネサンス Lv7 / 王様・貴族 Rank 1
都会や華やかな社交界に憧れる田舎令嬢。 有名な学園で学べることを喜んでいるが、 入学してから見た洗練された級友や先輩達に衝撃を受け、 「自分は芋っぽいのでは」と言う悩みも。 形から入るタイプであり入学するにあたって丁寧な口調を 使うようにしたのだが、不慣れなのと適当な性格なため 咄嗟の時や気を抜いている時は元の口調(~だよ、~かな) で喋ることも。 基本的には人と話す時は丁寧に、独白・心情は元の口調。 【外見】 ・野兎のルネサンス ロップイヤー ・薄茶のロングヘア(背中まで) 白いリボン ・青色の瞳 たれ目気味 【性格など】 ・表情豊かで明朗快活な性格 ・自分本位な部分もあるが基本的には善良 ・物事を楽観的に考える事が多い ・あまり表には出さないがさみしがり屋で甘ったれな所も ・家族の事が気掛かりで心配している ・流行や有名人に弱く、知ったかぶるミーハーな一面も ・噂話やゴシップ好き
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」
《メメルの婚約者☆》仁和・貴人
 ヒューマン Lv33 / 魔王・覇王 Rank 1
「面倒にならないくらいにヨロシクたのむ」                                                                                                                                                 名前の読みは ニワ・タカト 身長:160㎝(本当は158cm位) 体重:45kg前後 好きなもの:自分の言う事を聞いてくれるもの、自分の所有物、メメたん 苦手もの:必要以上にうるさい奴 嫌いなもの:必要以上の労働、必要以上の説教 趣味:料理・・・だが後かたづけは嫌い    魔王っぽく振る舞っている    此方の世界の常識に疎い所がある キャラとしてはすぐぶれる 物理と科学の世界からやってきた異邦人だが、かの世界でも世界間を移動する技術はなくなぜここに来れたのかは不明。 この世界で生きていこうと覚悟を決めた。 普通を装っているが実際はゲスで腹黒で悪い意味でテキトー。 だが、大きな悪事には手を染める気はない。 保護されてる身分なので。 楽に生きていくために配下を持つため魔王・覇王科を専攻することにした。 物欲の塊でもある。なお、彼の思想的には配下も所有物である。 服装は魔王っぽいといえば黒。との事で主に黒いもので固めていて仮面は自分が童顔なのを気にして魔王ぽくないとの事でつけている。 なお、プライベート時は付けない時もある 色々と決め台詞があるらしい 「さぁ、おやすみなさいの時間だ」 「お前が・・・欲しい」 アドリブについて A  大・大・大歓迎でございます 背後的に誤字脱字多めなので気にしないでください 友人設定もどうぞお気軽に

解説 Explan

●解説

・依頼概要
 学園にとある村の青年から、危篤状態にある祖父が食べたいと願っている果物採取の護衛依頼が舞い込んだ。
 曰く、スィーデという山の頂上に自生しているオレンジのような果物らしいのだが、十年ほど前から山頂付近に魔物が住み着くようになってしまい、村人が一人で採取に向かうのは危険だということである。
 その翌日、依頼人と共に山頂を目指していたが、道中で魔物と遭遇してしまった。

 戦闘の発生する箇所は、昔は登山道として整備されていたが人が入らなくなったため足首ほどまで草が生い茂っている。(※特に能力値のペナルティは発生しない)
 また、周辺には様々な高さの木の枝が好き放題に伸びている。
 天候・視界共に良好。

・勝利条件
 敵の撃破

・敗北条件
 味方の全滅

・敵情報
 魔物『レインボウモンキー』×3
 猿を模した魔物。動きが機敏であり、手先も器用。無策のままではその動きを捕えるのは苦労するだろう。
 反面、頑丈さはさほどないので、攻撃をうまく当てることが出来れば撃破自体はそう難しくはない。
 
 個体ごとに属性が異なるのが特徴。今回現れた三体はそれぞれ炎・雷・闇。
 属性の有利不利は理解していないが、実際の攻防で生じた相性の良し悪し程度は判別できる。
 
 スキル:
 ・自然環境利用
 周辺の木々等を利用して攻撃を巧みに回避する。先攻・後攻問わず発動可能な『立体機動』相応のスキル。

 ・属性攻撃
 普段は無属性攻撃しか行わないが、まれに自身の属性を帯びた攻撃を行うことがある。
 属性が付与されるだけであり、攻撃時の『つよさ』等に増減は発生しない。
 

・NPC情報
 人間【アーカシ】×1
 一般的な村人。今回学園に依頼を持ち込んできた青年。
 戦闘時は特に指示が無くても後ろに控えており、戦闘の様子を見守っている。
 魔物側も勇者候補生の方を優先するので、基本的に狙われることは無い。
 最低限敵に近づかないように立ち回る程度の護身は行えるが、戦闘への参加は不可能。


作者コメント Comment
 こんにちは、RGDです。今回はRPGには良くあるお使いクエスト的なエピソードです。

 いつか人は亡くなるわけですが、亡くなる人に対して残される人間は何ができるのか。そんなことを考えていたらこんなエピソードとなりました。
 最後となるかもしれない祖父の願いを叶えてあげるために奔走する若者をどうか、助けてあげてください。

 世界は勇者を待ち望んでいる。皆さんのご参加をお待ちしております。


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:180 = 60全体 + 120個別
獲得報酬:4500 = 1500全体 + 3000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
願いをかなえるため、皆で山へ。
山頂に住み着いたという魔物はタスクの事前調査をもとに能力を『推測』。できる限りの能力と、起こりうる事態、攻撃を検証。
依頼としては山オレンジ(みかん?)の収穫なので、殲滅には拘り過ぎず。

レインボウモンキー(以下、魔物)との戦闘では囮と壁、いわゆるタンク、ディフェンダーの役割。
サティアやタスクと共に『勇者原則Ⅰ』をあげ、『衝撃享受』を駆使して防御重視。
オズワルドの『攻撃拠点』に立ち、受け止めた瞬間を他の皆が反撃…みたいにできれば。

果実の収穫、立ち合いはアーカシが拒否しなければ。わかるなら経緯を聞くか調べてみたい。

プラン外の事態は他のみんなに合わせ、補助するよう行動を。

チョウザ・コナミ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:180 = 60全体 + 120個別
獲得報酬:4500 = 1500全体 + 3000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
お猿魔物も食べたことないから来たよぉ?
ついでに、おじおじのためのオレンジ採るのも手伝ってあげっかな。

ザコちゃんは囮前衛兼お猿引き離し剥がし的な役割立ち回りで。

お猿の内側の1匹に狙いつけ定めて【挑発】かまして、ひたすらザコちゃんが【基本棒術Ⅰ】で【ヒ2】な【全力防御】の【忍耐】で、攻撃を受けさばく感じで。
距離あったり来ないとかなら、【精密行動Ⅰ】な【投擲(小物)】で小石ぶつけて。
そったらお猿の背後がら空きだろーから、弱点な魔法なりあえての物理なり、あとは他のゆーしゃ様におまかせ案件。

攻撃避けられるよーな素早みあるお猿っても、逆にザコちゃん側をこーげきさせとけば避けるよゆーもないんじゃん?たぶん。

オズワルド・アンダーソン 個人成績:

獲得経験:60 = 60全体 + 0個別
獲得報酬:1500 = 1500全体 + 0個別
獲得友情:1
獲得努力:1
獲得希望:1

獲得単位:0
獲得称号:---

サティア・ブランシュ 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
●目的
依頼者を護衛しつつ山ミカン採取

●行動
道中はサバイバルナイフで邪魔な草や蔦を払いつつ
聴覚強化、聞き耳で襲撃に備える

会敵時には注意を促すとともに絶対王政で号令を
かけて味方の戦意を上げる
戦闘時は最初に雷属性っぽい黄猿を目標とし
攻撃役としてタスクと協力して当たる
精密行動で慎重に狙い、祖流還りで強化して攻撃
狙われた場合はやせーの勘で回避を試みる
手早く片付け、残りの討伐に加わる

戦闘後は再び警戒し、他の敵にも注意する

帰還後は空気察知で話しかけるタイミングを計り、
つらい思いをしているであろうアーカシを励ます

タスク・ジム 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
出発前の【事前調査】として図書館で山の地形を調べ、【魔物知識】で猿の動きや隠れ方の癖を調べ、仲間の推測も加味、猿の出現位置の大まかな予測と味方が動きやすい位置取りを立て、口頭とメモで仲間に説明。

山頂を目指しながらも、戦闘は不可避と見て、上記予測位置で猿を待ち受けるよう意識。出現したら【勇者原則】で名乗り+決め台詞、【事前調査】結果を元に【攻撃拠点】を形成。猿が出現しやすい場所に迎え撃つように位置取り、仲間もそのように誘導。

上記調査と知識を元に猿の動きを的確に読み、囮が作った隙をつき、サティアさんと連携、【精密行動】で【勇者之斬】を確実に当てる。雷猿優先撃破しオズワルドさんの安全確保。アドリブA

仁和・貴人 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
猿か…素早いし厄介だな
だがサッサと対処しよう
別に倒してしまっても構わんのだろう?


まずは闇猿に奇襲攻撃でオーパーツ・レンズでのビーム攻撃
当たったらラッキーってことで
当たるあたらないに変わらず、威圧感を使用。
動きが鈍れば儲けものってね

闇猿が奇襲で倒せてなかったら闇猿に、倒せてたら一番近い猿に攻撃を仕掛ける
その際他者との連携を考える
使えそうなら暴君誕生無理なら通常攻撃、ヘイトを持ってこれそうなら通常反撃で


普通に攻撃を当てるよりもオレの場合、通常反撃の方が当てられそうだからな

念のため、戦闘中でもアーカシの位置取りは気にしておく
何かあったらフォロー出来るように

戦闘が終わって必要なら簡易救急箱を使用か提供

リザルト Result


 興奮を隠そうともせずに走り出す三体のレインボウモンキー。
 それに対して勇者候補生たちは――その場から退くことをまず選んだ。
「って、逃げちゃうんですか!?」
 依頼主である【アーカシ】が思わず声をあげる。それに構わず【オズワルド・アンダーソン】がアーカシの手を引き共に後退させた。
「心配ご無用ですよ、アーカシさん。少しだけ僕たちが動きやすい場所に誘導するだけです」
 猿たちの動きを観察しながら【タスク・ジム】が隣で発する落ち着いた声に、アーカシは言葉の意味を解すべく足を動かしながら考える。
 動きやすい場所、と言ったがそんな都合のいい場所が人の手が入らなくなって長い山の中にあるかと言われれば――あった。あった、というよりも作っていた。道中、拓けた場所がある度、小休憩と称して足を止めることが何度かあった。その時、【サティア・ブランシュ】がナイフで草や蔦を払っていたのだ。手持無沙汰なのかと思って見ていたが、そんな意図があったとは気づかなかった。
「遭遇した場所は周りに樹が多かったからね。あの猿たちが動きやすい所で戦う必要も無いでしょ」
「言われてみれば、確かに……」
 タスクと同様に追ってくる猿の動きを観察しながら、【フィリン・スタンテッド】も二人の会話に混ざった。
 けれど、こちらが引けば向こうも追ってこないかもしれない、という懸念はあった。実際に、勇者候補生たちが退いたことで猿たちは速度を緩める気配を見せた。けれど、そこは【チョウザ・コナミ】と【仁和・貴人】(にわ・たかと)が対策を講じている。チョウザが狙い定めて放った足元の小石が赤い毛並みの猿にぶつかり、また貴人が仮面の上から装着したゴーグルから発せられた怪しげな光が黒い毛並みの猿を貫いたのだ。
 気性が荒いとはいえ『逃げるなら見逃してやろう』という意思はあったに違いないが、二人の行動は猿たちからすれば明確な敵対行動である。ここまでやられて黙っているようならば学園の教師も暴れ者だなどとは紹介しない。出発前にレインボウモンキーの生態を事前調査していた一同の結論であったし、事実特に被害を被った赤い猿と黒い猿は遠目で見ても怒り狂っているのがよく分かる。
「怒ったら血の巡りが良くなりすぎて肉質落ちたりしない?」
「た、食べます……の?」
「そりゃもう。ザコちゃん的にはお猿魔物食べたことないから来てみた、っての大きいし?」
 サティアがおそるおそるといった具合に問えば、チョウザはふふりと鼻を鳴らしてさも当然のように返すのだが、魔物食は一般的とは言えない。本気なのか、とサティアの顔が少し引きつったのだがさておこう。
 そうこうしている内に視界が広くなった。この場所こそが勇者候補生たちの攻めの要となる陣地。オズワルドがアーカシの護衛に入り、更に後方へと退いたことを確認すると、残った五人は猿を待ち構える。
「ガァアアア――ッッ!!」
 貴人が放った光線は猿からしても奇妙なものに映ったのだろう。威圧感のようなものを感じたからなのか、猿たちが陣に飛び込んできたのは五人が陣地の中央で構えてしばし後の事。準備も戦意も、既に整いきっている。

「さあ皆さま、今こそ我らの力を示すときっ、とっとと魔物なんて片付けますわよー!」
 そして、サティアの号令が、整いきった心に火をつけた。
「スタンテッド家の名にかけて……使命を遂行する!」
「勇者・英雄コース、タスク・ジムです。お困りごと、解決いたします!」
 フィリンとタスクが猿に向けて高々と名乗りを上げる。我こそ勇者と宣誓するような二つの声は山中に響き、世界の全てを彼らの味方に付けたようだった。その宣誓に呑まれたか、先程まで怒り狂っていた猿たちは警戒するようにこちらの様子を窺っている。その様子を見るに、上手く相手の出鼻を挫けたといっていいだろう。これならば先手を取るのは容易なはずだ。
「アーカシの祖父さんの事を考えると時間との勝負って所だな。向こうが逃げても深追いはしないつもりだけど、異論は無いだろう?」
「同感ね。殲滅にこだわる必要は無いかなって思うよ」
 鎌を構えて貴人が確認するように発した言葉にフィリンが肯定を返し、残った者達も同様に頷いた。
 方針の統一が出来た所で、貴人は仮面の下で笑ってみせた。それに応じて、彼が着用している仮面の笑みが深くなったような、そんな錯覚。
「とはいえ――別に倒してしまっても構わんのだろう?」
「ザコちゃん的には構わんどころか倒してもらった方がありがたいんだけどねい?」
 茶化すような声は、空気が張り詰め過ぎないための物なのだろうか。その真偽は発した者達にしか分からない。
 ともあれ、これにて仕切り直し。山頂を目指すための障害との戦い、その火ぶたが改めて落とされた。


 小さく草を踏む音を幾重にも残しながらフィリンが迫ってくるのを前に、空気に呑まれていた猿たちはようやく我に返ったようだった。それを認めてフィリンも剣を抜き放つ。儀式用の宝飾武具とは言え切れ味は本物。光物の一撃を受けてはならぬと本能が警告を鳴らすのか、振り下ろされた剣への反応は三匹とも早かった。それぞれフィリンが振るう刃から逃れるように飛び退ると、ナイフでは落とせなかった太い木の枝を掴み宙を舞うように彼女から距離を置く。フィリンから見て左に黄色、右に赤と黒。
(なるほど、確かに動きが素早い)
 初撃をかわされたフィリンがまず思ったことはそれだった。多少なり整地したこの場所ならば回避する先もある程度は制限できるだろうが、遭遇した地点でそのまま戦い続けていれば苦労していたのは間違いない。そしてこの場であってもやはり無策のままでは猿たちの動きを止めるのは難しいだろう。
「それじゃ、ザコちゃんあっちのお猿たち相手に殴られサンドバッグしてるね」
 聴覚だけが声の主、チョウザを追う。彼女と貴人の足音が右手、赤と黒の猿たちの方へと向かっていく。視線は左、残った黄色の猿へ。敵意を向けていることを感じたか、上等だと言わんばかりに黄猿は甲高い叫びをあげてフィリンへと突っ込んでいく。
「分断は成功ですわね」
「ええ。とは言え、貴人さんとザコちゃんさんとで二匹を抑えて貰っているのも大変でしょう。早く倒さないといけませんね」
 フィリンの左右を固めるようにタスクとサティアが各々の武器を構えた。一対三と二対二の構図。三で一を相手取る以上有利はこちらにある。タスクの言の通り、二人で二体を止めている貴人とチョウザのためにも、そして何よりアーカシの事情のためにも、三人に今求められることは早期の撃破であろう。
 一方、猿の側からすれば数の不利は当然把握しているだろう。とはいえ頭に血の上った魔物は急に止まれない。一直線にフィリンへと突っ込んでいき――跳躍。ぎらり、と両手の鋭利な爪が太陽の光を受けて鈍く輝く。
 上等だ。そんなものに臆していては勇者以上にスタンテッドが務まらない。利き腕とは逆の手に構えた盾をかざし、重心を落として振るわれる双腕を受け止める。黒板を引っ掻いたような不快な音と魔物の腕力が盾越しに与える衝撃にフィリンは顔をしかめて舌打ち一つ。
「この、……!」
 『フィリン・スタンテッド』ならば決して口にしないであろう口汚い言葉が喉の奥から出かかるのを呑み込みつつ、盾を跳ね上げるように猿を振り払う。その辺りは慣れたものなのか、振り払われた猿は空中で器用にバランスを取り、周辺を見渡す。制動のための枝が無い。当然だ、フィリンがそうなるように振り払う先を誘導したのだから。
「どれほど素早く動き回れても、掴まる物のない空中では避けることは出来ないですよね?」
「しっかり任務を遂行して、アーカシさんのお手伝いをしないといけませんの。お覚悟!」
 瞬間、タスクとサティアが宙にいる猿へと仕掛けた。何度も繰り返し身体に染み込ませたサティアの鞭捌きが生む蛇が猿の顔面へ食らいつく。その痛みで防御すら固められないならばもはやそれは猿ではなくただの的だ。
「はぁああッッ!!」
 裂帛の気合と共に振るわれた一太刀は勇者への第一歩か。かつての勇者の模倣でしかない一撃とは言え、ろくに抵抗も出来ない猿には随分と応えたようだ。石造りの剣は斬るには向かずどちらかと言えば鈍器のような勢いで猿の身体を叩きのめし、そのまま地面に伏せさせる。
「まだですわ!」
 片が付いたか。フィリンとタスクがそう思った刹那、ロップイヤーをぴくりと震わせサティアの聴覚が警告を発した。その警告の意味を知らせるように黄猿が四足を使って全力で地面を蹴り、三人の中で一番華奢に見えたからだろうか、サティアへ襲い掛かる。
「っ!!」
 鋭敏な聴覚が襲撃を察知していたためか、はたまたルネサンス特有の野生の勘という奴なのか、不意打ちに近い猿の襲撃にサティアの身体は退くように動いていた。死に物狂いの爪先は雷を帯びたように黄色に染まり、サティアの動きを上回る速度で振るわれる。けれど、腹部を掠めた猿の爪にサティアに感じる痛みは、想像していたほど大きくはない。土属性のルネサンス相手に不利である雷属性を帯びてしまったことが猿にとっては災いしたのだろう。
「悪あがきは――」
「そこまでです!」
 そして、猿に出来たのはここまでだ。左右から猿に迫るフィリンとタスクの剣が黄猿を起点に交錯する。十字を刻む軌跡の剣を受けた猿は、断末魔の叫びすら上げることも出来ぬまま、今度こそ絶命した。
 猿が確実に息絶えていることを確かめたタスクがフィリンとサティアへ頷いて見せる。二人もそれに頷いて返すと、すぐにチョウザと貴人、二人の応援へ向かうべく駆け出した。
 戦いはまだ、終わっていない。


 少しだけ時間を巻き戻そう。
 猿を相手に殴られているとチョウザが宣言し、二体の猿に向けて道化じみた笑みを浮かべながら距離を詰めていく。貴人がそのやや後ろをついていく形だ。
 事前にタスクが調査した結果を聞く限り、具体的にどこそこが弱点である、といった類の情報は書籍には無かったようだった。もっとも、今回は依頼人のいる案件である。そんな物があれば教師も最初から教えてくれていただろう。
「やっぱモブあるあるのサンドバッグしかないね。ひゅー、ぶっ倒れたら完璧じゃん?」
「全部終わるまで倒れないでくれよ」
「もち。オレンジ採りもまだ終わってない訳だし? そしたらザコちゃんが倒れるまでにどっちか何とかしといてねえ?」
 言葉と共に、貴人を狙うように突っ込んできた黒猿の爪を持っている棒で受け止める。邪魔をするな、というように威嚇するような声を上げる黒猿に構っている暇もなく、今度は赤猿の爪がチョウザに迫る。身体が一つしかない以上、二匹の攻撃を同時に捌くのは難しいと言わざるを得ない。防御が間に合わず身をよじって致命的な部位への傷を避けたが、その代償として左腕には浅からぬ傷が生まれている。
 だが、その傷が生まれただけの成果はある。チョウザたちの方針も黄猿を相手取るフィリンたちと同様、誰かが猿の攻撃を受け止め、回避への意識が疎かになっている瞬間を狙って攻撃を仕掛けるという物だ。二匹がかりでチョウザに攻撃を加え手応えを感じているのだろう、二匹の猿から貴人への注意が消えている。
 その瞬間を、見逃さない。チョウザへ更なる追撃を加えようと動く黒猿の胴に、強烈な衝撃。貴人のブーツが突き刺さったためだ。
「さぁ、おやすみなさいの時間だ」
 ぶん、と。地面に転がる猿へと目がけ、草を刈るついで程度の気軽さで鎌が迫る。痛みを堪えつつも黒猿は両手両足を使って飛び退ろうとするのだが間に合わない。振るわれた刃は黒猿に突き刺さり、その毛並みに朱色を与える。
 けれど猿はまだ倒れない。チョウザが割って入る間もなく貴人へと振り下ろされた爪の一撃に、貴人はなおも攻撃を選んだ。爪が身体に食い込む痛みに仮面の下で歯を食いしばりつつ、飛び退ろうとする猿を逃がすまいと鎌が真一文字に薙がれる。
「……おやすみの時間だと言っただろ」
 心臓をなぞる軌跡で走り抜けた刃は易々と黒猿の命を奪い、毛並みだけではなく地面も赤に染めた。肉を切らせて骨を断つ一撃は、今回の猿のようなタイプの魔物にはよく効く。攻撃色に染まった頭では反撃の対処までは行えず、さほど頑丈でもない肉体だというのならば、一撃当てさえすれば見ての通りの結果だ。自身の強みを捨ててしまった時点で猿に勝ち目などありはしない。
「ひゅー、やるう」
 対処する相手が赤猿一体だけになり余裕が出来てきたのか、チョウザの軽口が増えてきた。滴り落ちる左腕からの出血の他、一体だけとはいえ捌き切れない攻撃の数々であちらこちらに傷が増えているというのに、半笑いのまま回り続ける口が止まらない。猿に人の言語など分からないだろうが、軽くはない傷を負いながらも消えないチョウザの薄ら笑いが何かしら癪に障るのかもしれない。既に仲間が二体倒されているというのに彼女への攻撃を止めようとしない。
 すなわちそれは赤猿が撤退するタイミングを完全に失ってしまったということである。チョウザの後ろから三組の足音。黄猿を片付けたフィリンたちが合流したのだ。一対三なら確実に撃破できた。ならば一対五ともなればどうなるか。
 答えは言うまでもない。逃げる機会を失った赤猿が地面に伏したのに、それからそう時間はかからなかった。
 


 レインボウモンキーを全て撃破した後、貴人が持ち込んでいた救急箱で特に傷の深いチョウザの治療を手早く済ませ、一同は改めて山道を進んでいた。
「まだ他に魔物が居るかもしれませんし、油断はできませんわね」
 周囲へ注意深く耳を動かしながらサティアが呟くが、それ以降、山頂に至るまで魔物が襲撃をかけてくることも無く、一同は無事に山ミカンと呼ばれる果物が成る樹の下にたどり着いた。
「さあ、僕たちの仕事は終わりました。ここからはあなたの仕事です、アーカシさん」
 タスクの促すような声と背を押すように触れた手にアーカシは頷くと、久しぶりに見た樹に手を触れた。最後にここに来たのは何年前の事だったろう。その頃はまだまだ自分も子供で、大人になった今ではそれほど高いとは思えないこの樹にも登れないほど体も小さかった。
 その頃は、まだ祖父も隣にいて――……。
「どうかしたか?」
「……あ、いえ。ちょっとボーっとしてて。すぐ採ってきますね」
 樹を見上げたまま呆けていたアーカシは貴人の声に我に返ったか、何度か首を横に振ると軽い身のこなしで木を登り始める。程なくすると手近な場所にあった果物を二つほどもぐことに成功したようで、採れた、と示すように片手に収まる二つの果物を眼下の勇者候補生たちに見せる。

 ――不意に、稲妻が走ったように昔の記憶が脳裏を駆け巡る。

『じゃあ、もっとアーカシが大きくなったら、その時は山ミカンを採ってきてもらおうかな。出来るか? アーカシ』
『うん!』

 ああ、ああ。祖父は覚えていた。子供の頃の他愛無い約束を。その約束が果たされることを、ずっと待ち続けてくれていたのだ。
 片手に果物を抱えながら器用に樹から下りたアーカシを迎えた一同に向けて、彼はまず深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございました。俺、思い出したんです。爺ちゃんが何で山ミカンが食べたいだなんて言ってたか」
 子供の頃に祖父とかわした、大人になったら山ミカンを採ってきてやるという約束。アーカシからそれを聞かされると、サティアは自身の家族に置き換えて考えてしまったのか小さく鼻を鳴らす。もらい泣きしそうな彼女にフィリンが寄り添い、いたわるようにその肩に手を置いた。
「その想いは、お爺様にも伝わると思いますわ」
「素晴らしい人だったのね、お爺さん……ちょっと、羨ましい」
「私も両親は大事にしないといけませんわ……会いたいな」
「まだ、いらっしゃるんでしょ? 時間を見つけて会いに行けばいいと思うよ」
「はい! フィリン様はご両親とはお会いになられますの?」
「私の両親は……いないし、知らな……」
「いない?」
 隣で聞いていたタスクが首を傾げ、フィリンは自身の失言に気づいたようだった。あ、と慌てたように手と首を横に振る。
「ううん! いる! いるけど……そう、忙しくて」
 そんなに慌てることだろうか、と一同は首を傾げたが、まあ良いかと先に結論を下した貴人が踵を返した。
「ともあれ、後は帰るだけだ。無事に祖父さんにその山ミカン、届けられると良いな」
「そうそう、モブ同志様はもうここに残り滞在な理由も無いじゃん? さっさとおじおじのとこ帰った帰った。ああ、でもせっかく採り採取なみかん、ぶつけ落として痛まないよーにこれに包んで帰っときなよ?」
 チョウザがアーカシに手渡したのは厚手の布。確かに裸のまま持ち運ぶよりは傷つくリスクも減るだろう。ありがとうございます、とアーカシがもう一度チョウザへ頭を下げると手早く山ミカンを包んだ。
 後は撤収するだけだ、と皆が周囲の警戒をやめないまま山を下り始める。一番後ろを歩くタスクは最後に一度だけ振り返り、山ミカンの樹を視界に収める。
 この樹は言わば、祖父にとって孫の成長の象徴だったのだろう。それを彼が自ら気づくことが出来たのならば、勇者候補生として自分たちが出来ることは完遂できたのではないかと思うのだ。
「お悩み、解決ですね」
 微笑みながらそう呟いて、タスクも仲間たちを追いかけて山を下り始めた。


 余談だが。
 色の違いで味も違うのか見てみたいとチョウザは猿の遺骸を持ち帰る気だったようだ。しかし、戦闘から山ミカンの採取までに時間が経過してしまっていたこともあり、戦闘が発生した場所に戻った時には猿たちもまた光になって消えてしまったようだ。
 毒はなさそうだったんだけどねえ、と常の通りの半笑いで肩をすくめる彼女の姿に落胆の色が見えたのは、果たして気のせいだったのだろうか。
 一同は、そんな事を思うのだ。

(了)



課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
祖父は覚えていた
執筆:RGD GM


《祖父は覚えていた》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2019-04-04 06:10:54
勇者・英雄コースのフィリンよ、よろしく。

アーカシさんや祖父の人に思うところはあるけど…依頼としてはオーソドックスな魔物退治ね。
レインボウモンキーの能力はコメント開示分は(PC認識で)確認できる/されてるって前提で進めて大丈夫かしら

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 2) 2019-04-05 08:20:39
同じく、勇者・英雄コースの、タスク・ジムです。
よろしくお願いいたします(ぺこり)
アーカシさんのお悩みごと、みんなで解決いたしましょう!

フィリンさんのおっしゃるとおり、上記情報は仲間内で共有できてる
ことと思いますが、
【事前調査】で、さらに役立つ情報がないか、調べてみますね。
今、元気一杯なので、この際、【魔物知識】についても勉強してみますね!

戦闘では、【勇者原則】でイニシアチブを取れるよう頑張ります。
残りの技能枠は、攻撃と防御どちらを重視するか検討中です。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 3) 2019-04-05 08:23:20
国によっては猿の脳が高級品って聞いたけど。
そんなわけで焼いて塩でいこ。そもそもこの魔物自体初めての存在なんだけど、毒はなさそうだし。

ザコちゃんはザコちゃん。
基本的に適当に棒振り回してる系なそこらのモブ。

ザコちゃんは属性がどーのこーのっても、魔法はからきし使えな案件だし。
魔法がきっちり弱点に突き刺せるよーに、お猿達をなるべく引き離す系の役割すっかなって。いまのとこだけどね。
あるてーど学習能力あるっぽいし、前衛が気引き付け戦闘なとこに、魔法を直撃させて仕留める、のが理想?他あるかな。

あ、ザコちゃんはいつもどーり、囮的な何かしてると思う。
他にできることありそーなら、それもお手伝い助力だけどね。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 4) 2019-04-05 23:58:30
ザコちゃんさん、またご一緒できますね!
よろしくお願いします(ぺこり)
・・・さ、猿の脳って食べれるんですか~!?想像するとコワイです・・・!

僕も属性には無縁なので、通常攻撃しかないわけですが、
魔法使いさんがお一人のようですので、僕もダメージを稼ぐ方に回ります。

前情報では地形を使った回避が強みとのことですので、それを封じたいところです。
僕の出来ることとしては
・【攻撃拠点】を築き、【事前調査】と併せて攻撃を当てやすい環境作り
 (効果:先攻のプラン値増)
 (演出:味方の動きやすい地形を陣取る、相手の出現位置を予測する、など)
・【精密行動】で確実に命中させる(効果:命中増 演出:事前の反復練習)

攻撃拠点をお持ちの方がいたら、一緒に発動すると効果範囲が広がります。
魔法によるとどめのための露払いということでは。ザコちゃんさんと協力し合えると思います。

後は、戦闘前の道中でアーカシさんのお話を聴き(【信用】を使用)、
戦闘後は、アーカシさんが山オレンジをおじい様に差し上げることの意味を
悟ってもらえるよう、ウィッシュに書くつもりです。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 5) 2019-04-06 00:48:17
不測の事態に備えて、下書きプランを提出してきました!
もし、何かありましたら、出来るだけ修正・調整していきます。

今回も、【事前調査】結果を口頭及びメモでお知らせする描写を入れましたので、
もしお役に立てたら嬉しいです♪

《人間万事塞翁が馬》 サティア・ブランシュ (No 6) 2019-04-06 00:57:05
ごきげんよう。王様・貴族専攻のサティア・ブランシュですわ。
アーカシさんのためにも、頑張りましょうね!

うーん、わたしも魔法は使えないから叩くぐらいしか出来ないんだけど…
とりあえず、支援になるかわかんないけど戦闘前に掛け声がてら絶対王政で号令をかけさせて貰えれば!

あと、属性はわたしがルネサンスで土属性なので人間の皆さまと同じく今回は相性を気にする必要はなさそうですが
オズワルドさまがローレライなので火属性の猿はちょっと危険なのでしょうか…?
出来るだけ先に倒しに行った方が良いかもしれませんわね。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 7) 2019-04-06 01:26:39
サティアさん、よろしくお願いします!
教科書を確認すると、ローレライの皆さんは、雷属性に弱いということでしたね。
そのため、雷の猿を優先して撃破するようプランを修正しました。
ありがとうございます!

【絶対王政】素敵ですね!
【勇者原則】とのコラボは、王の命を受け勇者が名乗るようなイメージで、熱いですね!
字数の関係でそういう演出が書けないのが惜しいところですが(><)

《人間万事塞翁が馬》 サティア・ブランシュ (No 8) 2019-04-06 12:21:49
う、大事な箇所を思いっきり間違えてるし!
タスクさまの言われるとおり雷属性が危険でしたわね。
ご指摘ありがとうございますね。(うぅ、属性なんて苦手だ~)

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 9) 2019-04-06 15:36:32
素で忘れておりました。
申し遅れまして、オズワルド・アンダーソンです。

属性は水なので雷は実が手ですねぇ。
それに、僕は清き正しき「ゆうしゃ」ですよ。
たとえ苦手属性だとしても正々堂々戦うつもりです。
お気遣いいただきありがとうございます。
僕もそうですが、他に火や闇が無理という方もいらっしゃるかもしれませんね。

僕も【攻撃拠点】があるのでタスクさんのお手伝いができます。
炎属性のサルがいるようですし僕は【アクラ】で攻撃してますね。
あと回復の準備もしますね。
僕はそれくらいしかできませんから。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 10) 2019-04-06 19:34:24
サティアさん、属性はややこしいですよね。
僕も、教科書見ないと分かりませんでしたので。
小さい頃絵本で(訳 ゲームやラノベで)馴染みがある法則より
複雑みたいですから。
僕は逆に、サティアさんのお言葉が、属性を気にするきっかけに
なったのですから、助かったと思っていますよ。

オズワルドさん、タスク・ジムです。よろしくお願いします。
花粉の授業で、ご活躍拝見しました!
【攻撃拠点】があるのは、嬉しいですね!共同で、堅固な拠点を作りましょう!
正々堂々と、というお気持ち、天晴れです!
そのお手伝いに、僕もお役に立てれば嬉しいです。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 11) 2019-04-06 20:30:38
サティア、ジム、オズワルドもよろしく。
最初ちょっと不安だったけど、みんなとなら心配なし、よね。
ジムは事前調査と情報共有の件、ありがとう。
【推測】ならあるから、情報分析なら手伝えるかも。

戦闘は私も属性はないけど、攻撃は十分そうだし、盾捌きと『衝撃享受』で防御を担当してみようと思うわ。
(攻撃は強さ依存だそうだから、対魔法の『防護魔力』は必要ないわよね…?)

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 12) 2019-04-06 22:42:56
ひゅー、圧感じる女ゆーしゃ様的にはザコちゃんだけは頭数に含まれてないんじゃん。
でも確かにモブってそんなもんか。わかる。思う。

正々堂々やりた希望はいーけど、無理して自分の苦手分野な飛び込みダイブしすぎんのも無謀悪手だし?
できる範囲で、でもなるべくは自分の出来ることをやれるゆーしゃ様がやればいい、って感じで。
そのために課題はだいたい複数人で受け受講なシステムなんだろーし?
学園のお偉い様の発想が違う可能性?しらないけど。

今のとこのふわっと予定的には、
・ザコちゃんと圧感じる女ゆーしゃ様(フィリン):お猿引き離しの囮防御的な役割。
・文系っぽいゆーしゃ様(タスク):事前調査と魔物知識でお猿の調査、攻撃と防護は迷い中。
・お医者様志望のけんじゃ様:攻撃拠点の活用、アクラで炎のお猿狙い。
・垂れ耳兎のルネサンス様(サティア):絶対王政で方針の号令?

って感じで合ってる?ふわっとだから細部とか間違ってるかもだけど。
またこっからちくちくつめないと?なのかな。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 13) 2019-04-06 23:30:34
ザコちゃんさん、まとめありがとうございます!
先日は迷っていた攻撃か防御かは、今回は攻撃(命中)を重視することに。
オズワルドさんが属性有利の炎以外のお猿に、ダメージを与える必要がありますからね。

それを踏まえて、改めてまとめてみますね。

■事前調査 フィリンさん、タスク
■攻撃拠点 オズワルドさん、タスク
■属性攻撃 オズワルドさん(対火)
■物理攻撃 サティアさん、タスク
■安全対策(別名ローレライ防衛大作戦)
A:囮防御 ザコちゃんさん、フィリンさん
B:雷猿優先撃破 サティアさん、タスク

最後は、アーカシさんに「仕事」を果たしてもらって、
仲間皆で、良かったねって笑いあいたいなあ、と思っています。
(そういうウィッシュを書いてみました)

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 14) 2019-04-06 23:42:46
フィリンさんの推測、ザコちゃんさんとフィリンさんの囮防御、サティアさんと連携して物理攻撃をすることを織り込み、プランを手直ししてみました。

仲間との連携を字数に詰め込むのは、工夫が要るけど、うまくハマると楽しいですね♪
(こちらの記載で完結することなので、皆様にお手数(=字数)かけていただかなくてOKです)

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 15) 2019-04-07 00:50:50
今回もお纏めありがと。
一元化ってーか、具体的にぱりっとわかりやすく明確にするのって、重要肝要だし。

依頼主目的はぶっちゃけ、お猿を倒すことじゃなくって果物の採取だもんねぇ。さっさと倒してあげたいとこ。
ザコちゃん個人的には、お猿持って帰っけど。そこはそれ。
依頼主が果物採ったら、蜻蛉返りでおじおじに届けなきゃだし、そっからはザコちゃん達のお仕事じゃないし、ね。
気にはなるかならないかだけど、かてーのじじょーに踏み込むのは、ザコちゃん的モブには憚り案件。

ウィッシュなプランは見えないからわかんない不透明だけど、見えてる分のプランでも書き方多種多様だもんねぇ。
こうならこうー、みたいな想定の書き込みはあって困るもんじゃないし。
こうしたいーも、成功したらよきよきだし、納得いくように書くのが1番なんじゃん?

《メメルの婚約者☆》 仁和・貴人 (No 16) 2019-04-07 15:16:17
仁和 貴人だ
ぎりぎりだが、参加させてもらう
よろしく頼む

皆の方向性が決まってるようなのでこちらも方向性を
威圧感を試してみるつもりだ
その後は闇猿の相手だな

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 17) 2019-04-07 23:31:09
>ザコちゃんさん
うまく一元化できたかどうか、まだまだ不慣れで自信は無いのですが、
そう言っていただけると、嬉しいです。
家庭の事情踏み込むのはどうか、ということについては、
おっしゃるとおりだと思うので、
ウィッシュの記述をもう少しマイルドに調整しました。

>貴人さん
おお~いらっしゃいませ!!よろしくお願いします!
威圧感いいですね~!聞きそうですね!
びびらせて動きを鈍くするということならば、
これも、回避という取り柄を削ぐのに有効そうですね。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 18) 2019-04-08 22:39:03
なんにしても、自分のやりたいことやる為にも、周りのことを理解するのが重要肝要だから。
見える化は大事。ってだれだか先生も言ってた気がしたりしなかったり。

もーすぐ締切だかんねぇ。
上手くやるやらないもそーなんだけど、何よりプランの送り忘れだけは、
ないよーに、ねぇ?