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怪盗Uの挑戦状


ストーリー Story

 煌びやかなシャンデリアの光に照らされ、赤い絨毯は踏み出した足を沈めるほど柔らかい。
 船首から船尾にかけ、船首の白銀から船尾は鮮やかな水色に変化するグラデーションで彩られた豪華客船。
 そんな豪華客船に足を踏み入れたのは、魔法学園【フトゥールム・スクエア】の生徒たち。
 いったいなぜ彼らがこの豪華客船に乗船することになったのか。
 それは一通の手紙が届いたことから始まる。

『魔法学園【フトゥールム・スクエア】の生徒諸君。
 ご機嫌よう、私は【怪盗U】。
 ついこの間、私はとある富豪の元から、時価数億はくだらないある宝石を盗み出した。
 この世界の魔法属性を濃縮したような、6色に輝く美しい宝石だ。
 だが、それを私だけが愛でるのは実につまらない。
 そこで提案だ。
 私は君たちとゲームをしたい。
 君たちが勝てば、宝石は潔く渡そう。
 だが、君たちが負けたその時は――。

 さて、ルールを説明しよう。
 君たちと遊ぶ舞台は、とある豪華客船。
 その中の一室の中央に、宝石をケースに飾っておこう。
 ケースの中には、爆弾を仕掛けておく。
 君たちが時間に間に合わなかったり、ルールを守らなかった場合は、たちまち爆弾は爆発する。
 ああ、安心してほしい。
 ケースはその爆発に耐えうるものを使っている。
 ケースの中で爆発するのだから、周囲に危害は及ばない。
 ただし、宝石は木っ端微塵だ。
 君たちが宝石を無事に取り戻すためには、ふたつの行動から選ばなくてはならない。
 まずひとつ目。
 私は船の中に様々な謎をちりばめた。
 時間内にその謎を解き明かし、ケースにパスワードを入力すれば、ケースは開く。
 ケースが開いた時点で、爆弾は止まるよう設定してある。
 ああ、ズルができないように、謎を解いた暁には記念として、数字の刻印された宝石を入手できるようにしておこう。
 怖がらないで。
 その宝石は偽物だからさ。
 もうひとつ。
 爆弾を止めるためには、停止ボタンを押さなくてはならないのが世の常と聞く。
 よって私は、船のどこかに爆弾を停止するボタンを隠しておいた。
 その停止ボタンを押すことで、爆弾を解除、ついでにケースも開けてあげようではないか。
 だが気を付けてほしい。
 停止ボタンがあるということは、強制的に爆発させる爆破ボタンも対になっているものだ。
 爆弾が爆発したときに発生するものとは、つまり光だ。
 光とともに爆破させ、停止は全てを無に還せばいい。
 君たちに与えられる時間は2時間。
 その間に、ぜひとも宝石を取り戻して見せてくれないか。
 ……ああ、間違っても、ケースを壊して取り出そうなどと無粋なことは考えてくれるなよ?
 ケースを壊した時点で爆破する。
 ケースが無事であれば、中の宝石が木っ端微塵になるだけで済むが、ケースという防壁がなければ周囲はどうなるか分からない。
 最悪のケースも想定したまえ。

 ……さて、名残惜しいが、そろそろゲームを始めよう。
 私は優しいからね。
 手掛かりとなる、始めの謎を、ゲームの舞台である船の乗船チケットと一緒に同封しておくよ。
 それではよい奮闘を。

 愛を込めて【怪盗U】』

「中々ふざけた手紙ですね。だれかへのラブレターですか?」
「残念ながら、学園の生徒へ宛てたラブレターのようです」
 学園窓口に届けられた一通の手紙と、招待チケット。
 それから、何を表しているのか分からない、意味の分からない文章の書かれた一枚のカード。
 それらは今、ここに集った君たちの眼前に晒されていた。

『王の宴に6人の王は踊り狂う。その背後には道が示されているであろう』

「この手紙は、その宝石を盗まれたとある富豪が持ってきました」
「え?学園の名前を出しているのに?」
「きっと間違えてしまったのでしょう。学園としては、みなさんに向かってもらいたいのですが、どうしますか?」
 君たちは顔を見合わせた。

 そして今に至る。
 豪華客船を見上げている君たちの元へ、ひとりの執事のような恰好をした男がやって来た。
「ようこそ、豪華客船『スクエア』へ。チケットを拝見させていただきます」

「こちらが、件のお部屋となります。私共も知らないうちに、このケースが設置されておりました」
 執事が案内した部屋には、手紙に書かれていたように四角いショーケースの中に宝石が収まっている。
 そのショーケースを支える木の台には、6つの五角形の窪みと、文字を入力するキーボードが設置されている。
 おそらくこれでパスワードを入力するのだろう。
 窪みの上には6人の人物が刻印されていた。
 手紙の通りであれば、このケースの中に爆弾が仕掛けられていて、さらにこのケースはその爆弾の爆破すら耐えるほどの強度であるという。
 中の宝石は赤、青、緑。
 茶色に黄色に紫に、確かに6色が輝く、不思議な宝石だった。
 宝石に魅入っていると背後から、執事の咳払いが聞こえる。
「皆様、よろしいですかな。こちらが船内の地図になります」
 渡された地図を見てみると、この船は5階建て。
 中央に客室が、船首と船尾側に従業員用の住居や、関係者以外立ち入り禁止の部屋がある。
 船首、船尾の先端へ行くためには、従業員エリアを通っていかなくては出られないことも分かった。
「この地図、見やすくていいですね。縁を彩る装飾も独創的で。……ここに描かれている人は誰ですか?」
「はい、上部真ん中に描かれている6人は、左からエンジバ、リーベ、アリアモーレ、プロギュート、イグルラーチ、ボイニテッドになります。船首側に描かれているのはオールデンですね」
「船尾側には何も描かれてないのですね」
「地図を作ったのは別の者ですので……。センスはすべて、その者に依存しております」
 執事と会話をしていると、ふと一人があることに気が付く。
「……あ、この6人、ショーケースに刻印されているものと同じだ」
 厳密にはまったく同じではなく、3人目、アリアモーレと呼ばれた者だけが他の者と比べて随分と小さく描かれていた。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 8日 出発日 2019-07-18

難易度 難しい 報酬 多い 完成予定 2019-07-28

登場人物 2/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《マルティナの恋人》タスク・ジム
 ヒューマン Lv36 / 勇者・英雄 Rank 1
村で普通に暮らしていましたが、勇者に憧れていました。 ここで学んで一人前の勇者になって、村に恩返しをするのが夢です。 面白いもので、役所勤めの父の仕事を横で見聞きしたことが、学園の勉強とつながり、日々発見があります。 (技能はそういう方針で取得していきます) また「勇者は全ての命を守るもの、その中には自分の命も含まれる」と仲間に教えられ、モットーとしています。 ※アドリブ大歓迎です! ※家族について デスク・ジム 村役場職員。縁の下の力持ち。【事務机】 (※PL情報 リスクの子) ツィマー・ジム おおらかな肝っ玉母さん。 【事務室・妻】 シオリ・ジム まじめできっちりな妹 【事務処理】 チェン・ジム のんびりマイペースな弟 【事務遅延】 ヒナ・ジム 可愛い末っ子 【事務雛型】 リョウ・ジム 頑固な祖父 【事務量】 マーニー・ジム 優しい祖母。故人 【事務マニュアル】 タックス・ジム 太った叔父。【税務事務】 (※PL情報 リョウの子) リスク・ジム マーニーの元婚約者でリョウの兄。故人【事務リスク】 ルピア・ジム 決まった動作を繰り返すのが大好きなグリフォン。【RPA事務】 ※ご先祖について アスク・ジム 始祖。呼吸するように質問し、膨大なメモを残す。【事務質問】 「あなたのお困りごと、お聞かせいただけませんか?」 セシオ・ジム 中興の祖。学園設立に向けて、土地や制度等に絡む諸手続きに貢献。【事務折衝】 「先祖の約束を今こそ果たす時。例え何徹してもやり遂げる!」

解説 Explan

 船内にはいくつか、『~の間』といった風に名前の付けられている部屋があります。
『水仙の間』
 大きな水槽がひとつ置いてあります。

『向日葵の間』
 朝焼けが綺麗に見える部屋です。

『土竜の間』
 夕焼けが綺麗に見える部屋です。

『風車の間』
 医療室です。

『金の間』
 貴重品保管室です。

『薔薇の間』
 ダンスルームです。

『海の間』
 食堂です。

『秋桜の間』
 船首側従業員用エリア出入り口です。

『桜の間』
 船尾側従業員用エリア出入り口です。

『百合の間』
 女性用トイレです。

『鬼の間』
 男性用トイレです。

【PL情報】
〇船内の謎
『招待状の謎』
 Q.魔法学園【フトゥールム・スクエア】の学園長の名前は?
 正解後手に入るもの:5つの謎の在処と黄色の宝石
 宝石の刻印:6

『美しい青年は水面に映る自らに恋い焦がれ、花となった』
 Q.ピクシーから派生した、冬の到来を人々に知らせる魔物は?
 正解後手に入るもの:赤色の宝石
 宝石の刻印:5

『恐怖の対象であり、豆で撃退されるもの』
 Q.敵の武器に攻撃を行う技能の名前は?
 正解後手に入るもの:緑色の宝石
 宝石の刻印:1

『土中の住民は昇る光に恋い焦がれ、光の先に鍵を見る』
 Q.購買部で買える、頭にこぢんまりと乗るオシャレ系の防具は小さな〇〇〇。
 正解後手に入るもの:青い宝石
 宝石の刻印:3

『船の下には恵みをもたらす青がある』
 Q.音楽室によくいる、青いリボンが特徴的な女の子の姓は?
 正解後手に入るもの:紫の宝石
 宝石の刻印:5

『踊り踊るのは大輪の花』
 Q.土の精霊王の名前は?
 正解後手に入るもの:茶色の宝石
 宝石の刻印:5

『ショーケースの問い』
 Q.最後の問題だ。目の前にあるそのものが爆破を止める鍵となる。さあ、君たちの答えを見せてくれ!
 ヒント:集めた答えとショーケースの謎を合わせた答えが開封のパスワード
 ショーケースの形を言い換えると?

 手に入る宝石はすべて五角形です。
 謎は、ワールドガイドや学園内にヒントがあります。


作者コメント Comment
 珍しく推理ものなんて書いてみましたが、なんちゃって推理ものになりそうな予感を隠せない宇波(うぱ)です∈( ºωº )∋
 みなさま学園には慣れてきたころでしょうか?
 それともまだまだ慣らしている最中でしょうか?
 怪盗Uはそんなみなさまに、素敵な(笑うところ)テストを用意したようです。
 ぜひとも素晴らしい答えを回答してください。
 怪盗だけに∈( ºωº )∋
 ……ではサラダバー!(逃げ出した!)


個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:243 = 162全体 + 81個別
獲得報酬:7200 = 4800全体 + 2400個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
自己顕示欲もさもさの誰かの意思に則って振り回されんの気に食わなみ。
いっそ宝石ぶっ壊しちゃってよくない?あっちの思い通りにはなんないけど。…ダメ?

最初に書いてんのは『メル・メメル』学園長様だよね。…謎ってかクイズくない?

水仙の間の謎の答えは『ジャックフロスト』。地域的には歓迎されてる魔物。

鬼の間の答えは『武器破壊Ⅰ』。ザコちゃん入っていーの?いーならいーけど。

土竜の間の答えは『ハット』。てか何で学園の購買販売事情知ってんのこの人。

海の間の答えは『ルイーズム』…この子の付きまといだったから知ってたのかな。

向日葵の間の答えは『プロギュート』ヒューマンには関係ない世界。

で、問題はショーケースだよねぇ。

タスク・ジム 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:486 = 162全体 + 324個別
獲得報酬:14400 = 4800全体 + 9600個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
【事前調査】【読書】普段から図書館に通いつめ、学園やこの世界の知識を収集

客船に乗り込んだら、【信用】【博愛主義】で執事さんと交流、情報を聞き出します。
「この地図、見やすくていいですね。縁を彩る装飾も独創的で」お世辞抜きに賞賛し、地図を頭に焼き付けます。

招待状の謎に秒で答え、智将の証をくいっと上げて残りの謎の場所を割り出します。
青年は水仙、恐怖は鬼、土中の土竜、船下の海、踊る向日葵の間を廻ります。

答えを揃えたらショーケースの前で、時間ギリギリまで推理ショー。自分が正解なら解説、仲間が正解なら突っ込み待ちのボケを、同じ正解同士なら分担して、怪盗に向かって華麗に回答!(内容はウィッシュにて!)

リザルト Result

「この地図、見やすくていいですね。縁を彩る装飾も独創的で」
 【タスク・ジム】は地図の称賛を執事に贈る。
 執事は恭しく頭を下げる。
「勿体ないお言葉です」
 タスクが持つ地図上に描かれた船の案内図は、何度見ても見やすい。
 この地図があれば、この船で迷うことはないだろう。
「……ここに描かれている人は誰ですか?」
 タスクは地図に描かれた、7人の人物を指さし問う。
「はい、上部真ん中に描かれている6人は、左からエンジバ、リーベ、アリアモーレ、プロギュート、イグルラーチ、ボイニテッドになります。船首側に描かれているのはオールデンですね」
 執事は淀みなく答える。
 へぇ。感嘆の声を漏らしたタスクは、船尾の空白が気になった。
「船尾側には何も描かれてないのですね」
「地図を作ったのは別の者ですので……。センスはすべて、その者に依存しております」
 書き忘れなのか、わざとなのか……。申し訳ありませんが、理由は分かりません。
 執事はまた頭を下げる。
 恐縮したタスクが慌てたように顔を上げさせようとしている横で、【チョウザ・コナミ】は招待状に同封されていた謎を見た。
「自己顕示欲もさもさの誰かの意思に則って振り回されんの気に食わなみ。……いっそ宝石ぶっ壊しちゃってよくない? あっちの思い通りにはなんないけど」
「ザコちゃんさん、ダメですよ」
「……ダメ?」
「ダメです」
 ちえー。
 さほど残念でもなさそうに唇を尖らせたチョウザは、タスクの手元にある地図を覗き込む。
 ふと、何かに気が付いたかのように彼女はショーケースの方を見て、また地図を見る。
「……あ、この6人、ショーケースに刻印されているものと同じだ」
 地図上部。
 描かれた6人の人物画が、同じ並びでショーケースに刻印されていた。
「『王の宴に6人の王は踊り狂う。その背後には道が示されているであろう』……。もしかして、6人の王ってこれじゃない?」
「なるほど、では、その背後とはここのことですね!」
 タスクはショーケースの裏側にまわる。
 そこには、小さな文字でこう書かれていた。
 『魔法学園『フトゥールム・スクエア』の学園長の名前は?』。
「『メメ・メメル』学園長ですね」
 秒で答えたタスク。
 銀縁のME・GA・NEをくいっと上げる。
「……謎ってかクイズくない?」
「です、よねぇ」
 困惑気味に顔を見合わせる二人の耳に、がこん、と蓋のようなものが空いた音と、からころと軽くて硬いものが転がる音が届く。
 ショーケースの木製の台座、そこの板が一枚外れていた。
「黄色の宝石……」
「6って書いてんね。これだよね、ずるができないようにーっての」
 チョウザの手元には同じ場所から取り出された大きめの紙が握られている。
「ザコちゃんさん、それは?」
 ひらり。
 チョウザは見せびらかすように紙を揺らし、タスクの目の前へ持って行く。
「残りの謎の在処ー。だってさ」

 『美しい青年は水面に映る自らに恋い焦がれ、花となった』。
 有名なお話だ。
 ナルシズムの語源ともなった話である。
 青年は自分自身を愛するあまり。
「水仙の花になってしまいましたとさ」
 チョウザはぼそりと呟き、水仙の間に立つ。
 室内に一つだけ置かれている水槽の波が揺らめく。
 室内灯の青い光が、波を美しくさざめかせる。
 異様なことは、水槽にはただの一匹も、生きたものが入っていない。
 魚も、水草でさえも。
 代わりに、水槽の底には金属板が沈められている。
「読めまし……た!」
 タスクは水や光に邪魔されて読み辛かった文字をなんとか解読する。
「『ピクシーから派生した、冬の到来を人々に知らせる魔物は?』だそうです」
 タスクの解読に、チョウザは顎に指を当てる。
「たしか……謎の答えは『ジャックフロスト』。地域的には歓迎されてる魔物」
 瞬間、ぽちゃん。と水槽の中に何かが落ちる音が響く。
 天井にでも張り付いていたのか、水槽の中に宝石が落ちていた。
 まるでチョウザが出した回答に、正解と言わんばかりだ。
 赤色の宝石はゆらゆら青い波間を漂い、何かを待つように浮いている。
「5です」
 タスクが拾い上げた宝石には、5の数字が刻印されていた。

 『恐怖の対象であり、豆で撃退されるもの』。
「どー考えても……ここしかないよねぇ」
 地図を見ながら、チョウザはちらりとタスクを見遣る。
 タスクは気まずそうに視線をそらした。
「男性用トイレですもんね。……ザコちゃんさんはここで待っていてください」
「入っていーならいーけど」
 気遣うタスクとは対照的に、チョウザの対応は実にあっけらかんとしたものだった。
「謎は僕が解いてきますから」
 分からなかったら持ってきます。
 そう言い残し、タスクはそそくさとトイレの中へ足を踏み入れた。
 鬼の間、男性用トイレの中は、思わず目を丸くしてしまうほどに広く、そして清潔に保たれている。
 ふっかふかの赤いカーペットを恐る恐る踏み、タスクは思う。
 これはもはや部屋だ。と。
「えっと、謎はどこに……」
 タスクはきょろ、と辺りを見渡して、天井に紙が貼られていることに気が付く。
「あんなところに」
 じっと目を細めて見たその紙には、『敵の武器に攻撃を行う技能の名前は?』。
 タスクは顎に手を当てて考える。
「ゆーしゃ様ー。謎見付かったー?」
 トイレの外からチョウザが声を掛ける。
 タスクはやや声を張り上げて返した。
「天井に貼ってあって、取れません!」
「なんて書いてあるー?」
 タスクは紙の内容をそのまま伝える。
「僕、答え思いついたんですけど、ザコちゃんさんは?」
「ザコちゃんもこれしかないんじゃない? て思うけどー」
 タスクはにっこり笑む。
 せーのの掛け声で発された答えは、『武器破壊(ウェポンクラッシャー)』。
 1と刻印された、緑色の宝石がタスクの頭に落ちてきた。
「あいたっ」

 『土中の住民は昇る光に恋い焦がれ、光の先に鍵を見る』。
「夕日がきれいに見える部屋なんだって? ……暗くてなーんにも分かんないね」
「外は暗いですから分かりませんが、この方角は確かに夕日がきれいに見えそうですね」
 タスクは窓枠に手をかけ、外の様子を窺う。
 夜空には星が瞬き、月が丸く浮かび上がっている。
「謎は扉の裏か」
 チョウザが目を向けた先、入ってきた扉。
 太陽の沈む絵が彫られた扉の下に、何か文字の書かれた紙が貼りつけられている。
 『購買部で買える、頭にこぢんまりと乗るオシャレ系の防具は小さな〇〇〇』。
「空欄に文字を当てはめるタイプの問題ですね」
「てか何で学園の購買販売事情知ってんのこの人」
 購買のリストを思い出そうと奮闘しているタスクの横で、チョウザはジト目気味に腕を組む。
「頭に乗せる防具……王冠とかありましたよね」
 でも文字数違いますし。
 悩むタスク。
 チョウザはこともなげに答えを言う。
「『ハット』っしょ」
「ああ! 小さなハット!」
 からん。
 青い宝石が足元に転がる。
「3です!」
 喜ぶタスク。
 チョウザは難しい顔をして口をへの字に曲げる。
「てか、答え言ってるだけなのに、どうして正解かって分かるのか理解不能み」
 案外どこかで見張られてんのかね。
 チョウザの言葉は部屋に消えた。

 『船の下には恵みをもたらす青がある』。
 船の下。
 チョウザが真っ先に思い出したのは、この豪華客船。
「客船の下にあるものって言ったら、海しか無さげ」
 と言うことでやって来た海の間。
 夕飯の時間も過ぎたため、キッチンに僅かに残る数人が後片付けをしている音がする。
「謎、ここから探すんですか?」
 タスクが慄く。
 大人数を収容できるよう、部屋は今まで巡ったどの部屋よりも広い。
「ここ探すだけで時間切れになりそ」
 チョウザは顔を顰める。
 謎も佳境、時間は迫る。
 チョウザの言葉を受け、タスクは慌てて近くのテーブルからクロスを捲る。
「あった、ありました!」
 運がよかった、とほっとするタスクの手には、一番目に捲ったクロスの下から出てきた紙。
 『音楽室によくいる、青いリボンが特徴的な女の子の姓は?』。
 二人の頭に、音楽室の女の子が浮かぶ。
 笑顔の素敵な彼女の名前はたしか。
「『ルイーズム』、だったよね。……さっきの購買事情、この子の付き纏いだったから知ってたのかな」
 チョウザは大胆にも机の上に出現した紫色の宝石を弄ぶ。
 宝石には5。
 時間は迫る。
「ザコちゃんさん、次に行きましょう」
「はいよ」

 『踊り踊るのは大輪の花』。
「まんまといっぱい食わされたね」
「マズいですよ、あと30分切りました!」
 二人は大慌てで廊下を駆ける。
 なぜ、こう慌てる結果となったのか。
 時間は遡る。

 大輪の花と言えば向日葵。
 二人が出した答えは、向日葵の間。
 向日葵の間へと着いた二人は、まず時間にそこそこのゆとりがあることに安堵する。
「ちょっと余裕もあることですし、ゆっくり探しましょう」
「海の間では焦ったしねー」
 二人で手分けをして探す謎。
 しかし、いつまで経っても見つからず。
 徐々に二人に焦りが見えてくる。
「もしかして、この部屋じゃない、とかはないですよね……?」
 タスクは部屋のヒントが書かれた紙を広げ、その隣に地図を広げる。
 『踊り踊るのは大輪の花』。
「ザコちゃんさん、僕たちは勘違いをしていたようです」
「奇遇。ザコちゃんもそう思った」
 向日葵は、大輪ではあるが、踊らない。
「ダンスルーム、あるじゃないですか!」

「あ、ありました……!」
 ダンスルーム、薔薇の間。
 踊る大輪の花とは薔薇のことだったのだ。
 ダンスルーム中央に飾られていた大きな花瓶。
 薔薇の飾られたその花瓶に、謎は貼り付けられていた。
 『土の精霊王の名前は?』。
「ヒューマンには関係ない世界だよね」
 チョウザの言葉に、タスクは頷く。
「ですが、時間がありません。解かないと」
 タスクは思い出す。
 執事に説明を受けた、地図の人物名を。
 あれは精霊王の名前だった。
 その中で土の精霊王と言えば。
「『プロギュート』」
 きらりと光る何かが落ちてくる。
 慌てて受け止めれば、それは茶色の宝石だった。
「揃った?」
「はい」
 またも5と書かれた宝石は、タスクの手の中で急かすように輝いた。

 『ショーケースの問い』。
「問題はショーケースだよねぇ」
 チョウザはショーケースを睨むように眺める。
 精霊王6人が並ぶショーケース。
 その下に書かれた謎。
 『最後の問題だ。目の前にあるそのものが爆破を止める鍵となる。さあ、君たちの答えを見せてくれ!』。
「最初は宝石の色に対応した精霊王の名前を、数字に対応させんのかなって思ったけどさぁ。赤とかそーなると無理みあるんだよね」
 チョウザは頭をひねる。
「ってなると種族名の方かな。ト、ア、エ、ベ、ッ、ー、……いやどっちみち分かんないやこれ。頭疲れた。めんどい。なーげた」
 ぽいっと何かを放り投げる動作をした後、ちらっと横目でタスクを見る。
「色は……今までの答え……数字は何の意味が……あ、そうか、そういうことか」
(文系みあるゆーしゃ様が分かってるっぽいし。ザコちゃんは適当でも良さそうだけどね)
 ちらりとショーケースの中を見る。
 6色の輝きを持つ不思議な宝石。
(お互い間違ったとしても、せっかくなら宝石砕け散るとこ特等席で見れるわけだし。それはそれで)
 チョウザは僅かに口角を上げた。
「分かりました!」
 タスクが立ち上がる。
 手には謎の回答を書いたメモが握られている。
 タスクはすっと姿勢を正し、名探偵よろしく部屋の中を歩き回る。
「まずこの答えは、宝石の色、数字、そして我々が回答した各謎の答えが重要なキーポイントになります」
 タスクは集めた宝石をショーケースの絵柄に合わせて並べる。
「宝石の色は属性。地図にあった精霊王たちの並び順に合わせて、謎を並べます。赤色の宝石の答えは『ジャックフロスト』。数字は5。つまり、ジャックフロストの五番目の文字、『フ』、この文字を抜き出します」
 タスクは赤色の宝石を窪みに嵌める。
「この理論でほかの答えも文字を抜き出していきます。青色の数字は3、答えは『ハット』。抜き出すものは『ト』。緑色は1でしたので『ウェポンクラッシャー』の『ウ』。しかしこの緑色に対応するアリアモーレは小さく描かれていますので、この文字を小さくします。茶色は5、答えは『プロギュ『ー』ト』。黄色は一番初めの問題ですね。6で、『メメ・メメ『ル』』。最後の紫色は5、『ルイーズ『ム』』」
 ひとつずつ宝石を窪みに嵌めていったタスクはショーケースの前でぴたりと止まる。
「目の前にあるそのもの、つまりこのショーケースのことです。これが爆破を止める鍵となる、それを聞いて僕はどういうことか? と悩みました。そうしてようやく分かったのです」
 指で四角の形を作ったタスクは、そこから目を覗かせる。
「ショーケースの形は四角。言い換えると『スクエア』になります。これに先ほど抜き出した答えを合わせると、パスワードは『フトゥールムスクエア』となります!!」
 タスクはキーボードに答えを入力する。
 かちゃ。
 軽い音と共にショーケースの蓋が空く。
 どうやら爆破は逃れたようだ。
 しかし、タスクはまだ油断なく顔を引き締めている。
「見事な手際、感服いたしました。【怪盗U】さん」
 タスクの視線は執事へと向く。
 執事は相変わらず微笑んでいる。
「おかしいと思ったんですよ。最後の答えはともかく、僕たちは答えを記入するでもなく言葉に出しただけでした。しかし宝石は現れた。なぜか? だれかが答えを聞いていたからに違いありません。そして案内役として、あなたは僕たちにずっと着いてきてくれていた」
 あなたが怪盗Uですね。
 タスクが確信を持って言うと、執事から拍手が贈られる。
「素晴らしい。そこまで辿り着けるとは思ってもいませんでしたよ」
 しかし。執事、怪盗Uは一本指を立てる。
「あなた方はまだ謎のすべてを解いていない」
「それは……」
 怪盗Uはにこりと笑む。
「さあ、時間だ。名残惜しいがここまでだ」
「あ、待てっ!」
 ひらり。窓から飛び降りる怪盗Uは空高く舞い上がる。
 マントをはためかせたシルエットが、満月に黒く浮かび上がった。

 『どこかの部屋と答え合わせ』。
 ランタンが一つ。
 僅かな光源に浮かび上がるは、椅子に足を組み座る仮面の人物。
 彼か彼女か、はっきりしない仮面の人物は、演技がかった口調で大袈裟に語り始める。
「と、いうのが事の顛末さ。ああ、申し遅れたね。私は怪盗U。今回の発起人であり……、世界に愉悦と僅かばかりの刺激を届ける、お届け人さ」
 怪盗Uはどこか楽しそうでもあった。
「さて、前置きはこのくらいにしておこう。答え合わせをしようじゃないか」
 ぱっ。
 ライトが怪盗Uの周りを照らす。
「謎の答えはもう知っての通りだね。これは精霊王、そして魔法属性の色をモチーフにしている。謎解明時に得られる宝石を地図に描かれた精霊王の順に並べると、答えが出てくるという仕組みさ」
 からからん。
 怪盗Uの手の上に出てきた、数字が刻印された石が無造作に床に散らばる。
「宝石に刻印された数字は必要な一文字が何番目かを表していたね。例えば一問目の『メメ・メメル』の6は『ル』。これを精霊王順に並べ直し読んでいくと、『フトゥールム』となる」
 怪盗Uの目の前に、開け放たれたショーケースが現れる。
「最後のショーケースの問題。ショーケースの形は四角かったね。四角を言い換えると『スクエア』。つまりパスワードは『フトゥールムスクエア』となる。……そう、君たちの通う学園、それこそがショーケースを開くための合言葉だったのさ!」
 愉悦。
 怪盗Uの浮かべる表情は、これが一番的確だろう。
「だがしかし。私が初めに言ったことを思い出してほしい。私は『目の前にあるそのものが爆破を止める鍵』と最後のショーケースの問題で言っている。なぜ『ショーケースを開く』ではなく、『爆破を止める』なのだろうか。ここで豪華客船で案内した私の言葉を思い出してほしい」
 『ようこそ、豪華客船『スクエア』へ』。
「最後の謎の答えもスクエア。つまり、爆破を止める停止装置はこの豪華客船そのものだったのだよ。……ではどこに停止ボタンがあったか? 思い出してくれ。この船体の色を」
 『船首の白銀から船尾は鮮やかな水色に変化するグラデーション』。
「地図の船首に描かれた光の精霊王、オールデン。地図上に描かれた精霊王の姿。……不自然だとは思わなかったか? 何も描かれていない、不自然な空間のある地図上の船尾を」
 とん。
 ショーケースの上に現れた船内地図を指さす。
「水色の船尾。君たちにも見覚えがあるだろう? 人によってはよく使っているはずだ。……無属性魔法の色だよ。船尾は無属性魔法の色だったんだ。無属性魔法には精霊王がいない。だから不自然な空間が出来上がっていたというわけだ……。さて、ここで私からのメッセージを思い出してほしい」
 『光とともに爆破させ、停止は全てを無に還せばいい』。
「光は光の精霊王、オールデン。無は無属性魔法。つまり! 豪華客船の船首には爆破させるボタンが、船尾には停止させるボタンがあったのだよ」
 怪盗Uは一人拍手をする。
 拍手は虚しく空間に響く。
 気にした風もなく、怪盗Uは手を開く。
「これにて答え合わせはお終い。そして、この舞台もそろそろ幕引きさ」
 怪盗Uは何もない虚空と目を合わせる。
「え? 結局私は何者なのか?」
 怪盗Uは仮面の下で瞑目する。
「そうだね……」
 怪盗Uはしばし考え込み、そして三日月形に歪めた口元に、人差し指をそっと当てる。
「怪盗U。私の名前であり、私のすべて」
 怪盗U。
 彼か彼女か未だ分からぬ仮面の人物は、星の瞬く夜空へ跳んだ。
「それでは、また会おう!」



課題評価
課題経験:162
課題報酬:4800
怪盗Uの挑戦状
執筆:宇波 GM


《怪盗Uの挑戦状》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 1) 2019-07-14 13:19:40
今のとこ人来てないけど、とりあえず最低限書いとくね。
2人以上じゃないとそもそも授業成立しないんだっけか。今のとこそのパターン見た事ないけど。

ザコちゃん、ショーケース以外はわかった、と思う…んだけど、相対のさせ方が分かってなさみ。
もうちょい考えて分かったらあれだけど、わかんなかったらそこまで書いとく感じかなあ。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 2) 2019-07-17 08:23:47
遅刻遅刻~!

遅れましてすみません!勇者・英雄コースの、タスク・ジムです!
ザコちゃんさん、お待たせしました。一人にはさせませんよ!
「いやいや待ってない不必要」とザコちゃんさんならおっしゃるでしょうけれど、
僕にとっては大事な仲間ですから…と、僕は勝手に思ってますから。

謎は全て解けました!
答え合わせしますか?

あと、ザコちゃんさんがコナミさんなので、
僕は装備を和風にして、○田一コスでいこうかと。

《マルティナの恋人》 タスク・ジム (No 3) 2019-07-17 12:34:56
仮プランを送信してみました。
謎の回答に文字数全部使ってしまいましたが、
ほかにすることありましたっけ?

必要な行動や、方針があれば教えていただければ、
出発までに可能な限り調整します。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 4) 2019-07-17 23:13:46
…なんかよくわかんないけど、やりたい姿でいればいーんじゃん?
ザコちゃんは別にそーいう模倣はする気ないけど。独自性を投げ捨てる所業だし。

別に2人だけなんだし、正解不正解は結果で分かるんだしよくない?とは思いみ。
別に答え以外に書かなきゃなことはそんななさそうだけど、余ってるってなら意気込みとか欲しくない?とは。
実際の自分より意欲の過大過小あったらめんどいじゃん?