;



宇波 GM 

皆様初めまして
ウーパールーパーには未だなり切ることのできない宇波(うぱ)と申します∈( ºωº )∋
基本的には日常ジャンル等のほのぼのしたお話を好んで書きます∈( ºωº )∋
しかし個人的には、救いのないお話も大好物です∈( ºωº )∋
どうぞよろしくお願いします∈( ºωº )∋

∈( ºωº )∋∈( ºωº )∋∈( ºωº )∋∈( ºωº )∋∈( ºωº )∋∈( ºωº )∋
追伸
最近身内にもコメディのはずなのに文体ホラーと言われました∈( ºωº )∋

担当NPC


《学園職員》ウケツ・ケ
  Lv43 / Rank 1
学園窓口受付職員 その名は、ウケツ・ケ! 安直な名前と思うことなかれ ケ家の歴史は古く、代々受け継がれる事務職員としての意思 ウケツも見事その意思を継ぎ、フトゥールム・スクエアで立派な窓口受付職員となった しかし歴史は云々、受け継がれる意思云々はウケツの従兄弟の再従兄弟の叔父の叔母の父母の祖母から、ウケツの母が宴会で酒を飲んだ勢いで聞いていたもののため、真実かどうか定かではない 目が悪い 常にメガネが手放せない 普段穏やかな口調と表情でいることが多いが、反面、敬語で無礼な輩を罵倒することも稀にあるとか 人情に厚い訳ではないが、人並みに喜んだり、心痛めたりすることもある しかし受付職員として常に冷静に仕事をしようと努めている 真面目すぎて疲れやすい 最近のストレス発散法はボクシング ルールに厳しい一面がある 特に、破ると自分に不利になるルールには、殊更厳格に守ろうとする節がある 具体的には出勤、退勤時間と給料、残業代 「本日も、定時上がりを目指して頑張りましょう」 「修羅場で残業せざるを得ない時ですか? 当然、残業代を請求しますよ」 「はい……ただ怒鳴り散らしたいだけのクレーマー……ですか。なるほど、彼の頭の中にはカスタードクリームがたっぷり詰まっていらっしゃるようですね」 ◾︎公認NPC 担当GM:宇波 ◎禁止事項 ・交友申請(受理は可) ・公式クラブ以外の参加と発言 皆様のご理解、ご協力、感謝いたします∈( ºωº )∋

メッセージ


やだ……最近コメディ多すぎ……?
そろそろシリアスを出したい∈( ºωº )∋

作品一覧


わがはいはケットシーである! (ショート)
宇波 GM
「わがはいはケットシーである!」  学園窓口に入ってきた彼を、ぽかんと見下ろす。  自分たちよりもはるかに小さな彼を、ぽかんと。 「名前はまだにゃい!」  おい、それは大丈夫なのかと心配したくなるような、どこかで聞いたセリフを彼は続ける。  しかし、よくよく聞けば、 「名前は『マダニャイ』」  ケットシーの名前は『マダニャイ』ということらしい。  名無しのケットシーかと思ったじゃないか。  人騒がせなことである。 「わがはいは学園に依頼を持ってきたのにゃ!」  マダニャイの続けた言葉に、窓口内がしん、と静まり返る。  静まり返った窓口に、その声はよく響いた。 「ケットシーが、依頼……?」 「えっと、依頼内容は護衛ということで、よろしいのでしょうか……?」  困惑した表情を押し隠す受付嬢に、二足歩行で行動する猫、ケットシーのマダニャイは勢いよく頷く。 「いかにも! わがはいはアルマレス山に咲き誇る百合の花を手に入れたいのにゃ!」 「それでは、護衛ではなく採取依頼をお勧めいたしますが」  受付嬢の言葉に、ケットシーはかぶりを振る。 「それじゃ意味ないのにゃ。わがはいは自分自身で手に入れたいのにゃ」  マダニャイはあくまでも自分自身で花を手に入れたいと言って譲らない。 「ご参考までに、護衛を頼んでまでご自身で手に入れたい、その理由をお聞かせください」 「うむ、よかろう! あれは雨が降る昼下がりのころ」  マダニャイは回想を始めた。  長く続いた思い出話を要約してみると、つまり、雨に降られて途方に暮れていたマダニャイを、暖かな家とご飯でもてなしてくれた女性に恩返しがしたい、ということらしい。 「その後は猫嫌いな家人に蹴り出されてしまったのにゃ。だけど、わがはいはあの温かさにいつも感謝しているのにゃ」  そしてつい先日、マダニャイはその女性が結婚することを耳にしたという。 「あの人の結婚式に、あの人が好きだと言っていたアルマレス山の花でブーケを作ってプレゼントするのにゃ! それがわがはいの恩返しなのにゃ!」 「と、いうことで、皆さんに護衛依頼です。護衛対象はケットシーひと……り? 一匹? になります。護衛対象の目的はアルマレス山に咲く百合の花。麓に近い場所なので、半日もあれば往復可能です」  学園職員はぱらぱらと資料をめくる。 「また、道中にはゴブリンの出現報告があります。ゴブリンとは小人のような体躯に醜い顔をした魔物で、徒党を組み集団で襲い掛かる魔物です。知能は低く、本能のままに動き、己の欲望に忠実な、まるで一歳から二歳児にも等しい知能レベルの魔物ですね。交渉事などはできないでしょう。  近接戦闘型で、武器は主に棍棒や斧、剣を使用していることが報告されています。知能が低いため防御のいろはは心得ておらず、盾を持つ個体は基本的にはいませんが、稀に盾を持つ個体が存在します。その個体のいる集団は大抵他の、ゴブリンよりも格上の魔物が上位に就いていることがあります。  上位の魔物は、ハイゴブリンが多く目撃されています」 「ハイゴブリンとは?」  一人が手を上げて質問をすると、職員は表情を変えぬまま、説明を続ける。 「はい。ハイゴブリンとは、言ってしまえばゴブリンの強化版の魔物です。ゴブリンよりも高い知能を有してはいますが、それでもかなり低い知能になります。こちらも交渉事ができない程度の知能ですね。  戦闘スタイルはやはり近接戦闘型で、武器はゴブリンと同じく棍棒や斧や、剣を使用します。ただ、ここに盾が装備されているという違いがありますね。盾を装備していることにより、皆さんの攻撃が弾かれてしまうおそれがあります」  いずれの場合においても、油断をすれば危険ですし、最悪の想定だってあり得ます。  職員が念を押すように注意を促せば、場の空気が一層引き締まる。  それを確認した職員は、改めて現状の説明を始める。 「また、今回の道中は整備された穏やかな山道ですが、道を挟んで両側には木漏れ日が入る程度に木が生い茂っています。隠れるには絶好の地形でしょう。  その道を抜けた先にある百合の群生地は、見晴らしの良い開けた場所で、世にも珍しい青色の百合が咲き乱れているという話です。とても美しい景観なのでしょうね」  資料を閉じた職員は、それから、と続ける。 「今回依頼人は、自分自身の手で花を入手することにこだわっております。また、贈り物の花であるため、護衛対象の他に、花にもできるだけ気を配ってあげてください」  それでは、頑張ってください。  職員はそう言って、一同と一匹を送り出した。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-01-22
完成 2019-02-08
心の夢を見せる森 (ショート)
宇波 GM
 理解のできない、不可思議で恐ろしいものに惹かれるというのは、どこにでもある話だ。  現にそれは、肝試しや怪談話を娯楽遊戯として人々が行っていることからも明らかだろう。  それはここ、魔法学園『フトゥールム・スクエア』でも例外ではない。  放課後の教室。  そこには幾人かの男女が集まり、季節外れの怪談話で盛り上がっていた。 「それじゃあ、こんな話は知っている?」  場も温まってきたところで、一人が声を上げる。  日が暮れて、明かりを付けていない教室内は薄暗く、だれが声を発したのかは分からないが、仲間のうちの誰かであるということは、皆容易に思いつくこと。  しん、と静寂が教室内に落ちる。  その中で語りだされた物語は、どこにでもありふれたお話。  むかしむかし、愛し合っていた二人の男女がいた。  二人はとても仲睦まじく、結婚すればだれもが羨むほどいい夫婦になれそうな恋人で、なぜ結婚していないのかをだれからも不思議がられたという。  男は女の作った木の腕輪を、女は男が買ってくれた貝殻の髪留めを、それはそれは大切にしていたそうだ。  その二人は、お互いに愛し合っていたため、いつかは結婚をしようと思っていた。  しかし、それは永遠に叶うことはなかった。  あるとき、出先から町に戻って来た男が、見知らぬ女を傍に侍らせ、恋人である女に告げた。 「俺、この女性と結婚するから」  自分の何が悪かったのか分からず、女は男になぜ、と詰め寄った。  しかし男は、鬱陶しそうに僅かに眉間にしわを寄せただけで、何を答えることもなく女の元から去って行ってしまった。  その悲しみに耐えきれなかった女は、町の外れにある森の前で自ら命を絶ってしまった。  さて、ここまでならどこにでもある、ただの悲恋物語だよね。  本番はここから。  女が命を絶ってからしばらく。  その森から不気味な怨嗟の声が夜な夜な響いたというんだ。  怪しがった人々は、幾人かを集めて調査に向かった。  しかし、その調査隊は戻ってくることはなかった。  二回目も、三回目も調査に向かわせても、そのどれもが戻ってくることはなかった。  魔物の仕業か。  そう思い始めた頃、調査に向かった一人が、ふらりと戻ってきた。 「おい、今までどこにいたんだ」  そう問い詰めた住人に、彼はぽつりとこう言ったそうだ。 「死んだおふくろと、遊んでたんだ」 「はぁ?」  彼はそう言ったきり、黙り込んでしまい、二度とその話は聞くことは叶わなかった。  どういうことだと人々が集まって頭を悩ませているうちに、二人、三人とぽつぽつ、いなくなった人々が戻ってきた。 「助けてくれ、苦しんだガキの声が、耳にこびりついて離れねぇ!」 「久しぶりに、友人と会ってきましたよ。ええ、素晴らしい時間でした」 「いやだ、いやだいやだいやだ、もうあそこに戻るのはごめんだ!」 「ああ、またあの森に行きたいなぁ」  戻ってきた人の証言は、まったく一致しない。  ある者はすばらしく幸福な時間を味わい、またある者は地獄もかくやという苦痛が与えられた。  その、幸福か苦痛かの二択でさえ、大まかにも分類分けはできないほど、規則性がない。  明らかに悪人のような風貌で、本人の悪評も周りに知れ渡っているような者が、幸福そうな表情をしていたり、普段温厚で、悩みも何もなさそうな明らかに善人に見える者が苦痛に呻いていたり、また、その逆も。  曰く、我々は夢を見ていたのだ。と。  しかし、その証言には必ず、揺らめく女の姿を見たことも、付け加えられている。 「リバイバル、か?」  『リバイバル(魂霊族)』であるのかという疑問は、否と首を振られる。 「リバイバルとは、あれは絶対に違う。理性がなくて、彷徨っているような感じで。あえて言うなら、怨霊……かな」  帰ってきた内の一人は、そう言って口を噤んだ。 「お前は何を見た?」  調査隊に入って、そして戻ってきたある男は、ぼんやりと焦点の合わない眼差しで問いかけた人を見た。 「彼女を見た」  男は以降、口を開くことは一切なかった。  後日その男一人で森に入ってしまったきり、行方が分からなくなったという。  その男が行方不明になってから、森から響く怨嗟の声はぱたりと止んだというよ。  曰く、その男とは、恋人を新しい女ができたからと振った男で、怨嗟の声はその恋人の女が発していたものとかいう話だよ。  男が女の元へ戻ったから、怨嗟の声も止まったっていうお話。  でもね、それからも森から不思議な声は度々聞こえて、その度に一人、また一人と森に吸い込まれるように消えていくんだって。  もしかすると、連れて行った男で足りなかった女が未だに残って、誘っているんだろうね。  夢を見せてさ。    教室内はしん、と始まる前と同様に静まり返る。  ふと、誰かが自身の腕を、寒さに耐えるように摩った。 「ねえ」  声は楽しそうに続ける。 「その森、近くにあるらしいし、行ってみない?」
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-12-22
完成 2020-01-10
忍べ!隠密訓練! (ショート)
宇波 GM
「はぁい、では、本日の授業はぁ、『かくれんぼ』をしてもらいたいと思いまぁす」  ふわっとした口調で告げられた言葉に、生徒たちは首を傾げる。  その首を傾げる動作に、教師である【アキ・リムレット】はピンときた顔で手を一つ叩く。 「かくれんぼについて説明を忘れてましたぁ。かくれんぼは、まず隠れる人と、探す人に分かれますぅ。そしてぇ、隠れる人は色々なところに隠れて、探す人は隠れる人を探すゲームですぅ」 「あの、かくれんぼの遊び方が分からないのではないです。……なぜそれを授業で?」  アキはんー、と少し考えた後、にぱっと笑う。 「隠密行動の訓練ですぅ」 「さて、それではぁ、授業を始めますねぇ」  校庭にて、ほんわかと両手を合わせるアキの両隣には、4人の真っ黒な者たちがいる。  比喩ではなく、足のつま先から頭の先まで黒い装束に身を包んでいる。  例えるのならば、忍者。  口は鼻までマスクに覆われ、見えている部分は目くらいしかない。 「その人たちは?」 「はい、みなさんの先輩方になりますぅ。ここにいる方々は匿名希望のため、このような格好をしていただいておりますぅ」  質問に笑顔で答えるアキ。  その背後にはホワイトボードが鎮座している。 「ではぁ、ルールのおさらいですぅ」  ホワイトボードに黒い文字でルールが書かれる。 「まずはぁ、みなさんに隠れていただきますぅ。隠れたみなさんを先輩方が探しますぅ。これが基本になりますねぇ」  アキがその下にも文字を書く。 「本来であれば見つかったらそれまでですぅ。ですが、今回に限っては先輩方に体のどこかをタッチされない限りは見つかったことになりません。つまりはぁ、みなさんは見つかっても全力で逃げてもいいのですぅ」  アキは見取り図のような図と、そのさらに下に1の字を大きく書く。 「時間制限は1時間、この授業が終わるまでですぅ。使ってもいい範囲はこの地図の中までですぅ。5分後に先輩方はみなさんを探し始めますぅ。ではぁ、みなさん頑張ってくださいねぇ」
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-02-17
完成 2019-03-07
4月1日 (ショート)
宇波 GM
 嘘つき羊飼いは言いました。 「オオカミが来たぞ!」  しかし村人はだれも信用しません。  羊飼いはこれまで何回も嘘を吐き続けてきたためです。  信用されなくなった羊飼いの羊は、本当に来たオオカミに食べられてしまいました。 「……というお話があるのよ。だから、嘘はついちゃいけないって言う戒めね」  【アリス・サミサミ】は絵本をぱたんと閉じる。  音が寝室に響いた。  それを静かに聴いていたのは彼女の愛猫である【マダニャイ】。 「にゃあ」 「うふふ、ちょっと分からなかったかしら? まあ、マダニャイ、あなたは猫だものね」  くすくすと笑うアリスはマダニャイの頭を撫でる。 「でもね、一年に一度だけ、例外があるの。それが、明日。『エイプリルフール』という日よ」 「にゃあ?」 「あら、興味があるの? エイプリルフールはね、嘘をついても特別に許される日なのだそうよ。午前中の間だけね」  だから、明日は午前中の間、平民として過ごしてみようと思うの。  楽し気に笑う主人に、マダニャイはくぁ、と欠伸を返した。  夜はカンテラの灯とともに更けていく。 「わがはいはケットシーではなかったのである! 実はわがはいは犬だったのである!」 「はあ」  いきなり学園窓口にやってきて、ふんすと胸を張り訳の分からないことを言い出すケットシー、マダニャイ。  目が点となっている職員に、マダニャイは昨晩聞いたばかりの知識、エイプリルフールを語りだす。  職員も聞いたことのあるイベントであったのか、合点がいったという顔をした。 「それで、今日はわが主人が平民として市井を練り歩かにゃいので、護衛の依頼はいらにゃいのである!」  職員はしばし沈黙をし、翻訳:エイプリルフールを脳内で行う。 「ああ、つまりご主人様の護衛依頼を出したいのですね」 「出さにゃいのである!」 「はい、かしこまりました、受理いたします……受理しません」  対応はまるで駄々をこねる子供へのそれではあるが、マダニャイは満足そうに頷く。  職員は着々と依頼を提出する準備を始めた。  市井は本日も活気づいている。  しかし今日に限っては、普段とどこか違うことが分かる。 「さー! 高いよ高いよ! 古めの魚! ひとつどうだい!」  と客を呼び込む店先に並ぶのは、通常より安めの新鮮な肉であったり。 「君のことが嫌いだ!」 「あ、あたしだって嫌いよ!」  と言い合っているカップルが、傍から見てとても仲睦まじくハグをしていたり。  市井は今日ばかりは嘘で活気づいている。  度が過ぎない嘘は、こういう時ばかりは娯楽のひとつとして楽しまれているようだ。  今日はどうやって過ごそう。  嘘で溢れる午前中へ、胸を高鳴らせて足を踏み出した。
参加人数
7 / 8 名
公開 2019-03-25
完成 2019-04-10
わびさびわさび (ショート)
宇波 GM
 早朝、まだ日も昇り切っていないころ。  寝ぼけ眼の朝を告げる鳥が、仰天して飛び起きるような怒号が鳴り響く。  発生源はシュターニャにあるとある宿屋。 「ちょっと、どうするのよこれぇーっ!!」 「うわ、ごめ、謝るから! 花瓶は! 花瓶は投げないで!!」  そこは年若い夫婦が切り盛りする宿屋、名前を『朝告鳥(あさつげどり)』。  異国の珍しい食材を扱った料理が売りで、値はやや張るが、評判のいい宿屋であった。  若夫婦も仲睦まじく、旦那は料理を、妻は経営を分担し、バランスの取れた経営を行っていた。  だが、時折波が立つのは、旦那の無計画な浪費癖。  珍しい食材に目がない彼は、味も見ずに大量購入を決めてしまうことが度々あった。  その度、妻がその大量の食材を捌くのに苦労をしていた。  今回の怒号も、また旦那の悪癖に対してであった。 「どうするのよ! この大量の根っこ! 緑色で見た目がなんだか不気味だし、齧ってみたら、なによこれ! 唐辛子のような辛さならまだしも、鼻にツンとくる辛さ! これでどうやって料理を作ればいいの?!」  そう言って指される木箱の中に入っている、緑色のごつごつした茎のような根のようなもの。  外皮は乾燥し、見た目はからからに乾いた緑色のショウガのようだった。  それにしてはやけに真っ直ぐ揃いすぎのような感じもするが。  それが大量に詰められた木箱が、1、2……3桁箱。  どうやら、10箱程度で収めるつもりがこの旦那。  うっかり間違えて、桁をひとつ多く注文してしまったらしい。  東の方の珍しい食材であるということで、値段もそこそこ高かったようだ。  妻が怒るのも無理はない。 「これが全部売れる目処が立つまで、あんたの大好きな晩酌は禁止!」 「そんなっ!?」 「……と、いうことで、なんとか売れるようにしたいんだ」 「まぁ……。それは自業自得ですねぇ」  さくっと切り捨てたのは、魔法学園『フトゥールム・スクエア』の教師の一人、【アキ・リムレット】。  旦那と妻の共通の友人である彼女は、しばらく思考に耽る。  やがて、妙案を思いついたかのように、ぽん、と両手を合わせる。 「ではぁ、こんなのはどうでしょう?」 「ではぁ、授業を始めますぅ」 「……あの、アキ先生、この格好は……?」 「エプロンとぉ、髪の毛が落ちないための三角巾ですねぇ」 「……この場所はどう見ても台所のようですが……」 「はい、授業用キッチンを貸し切りにしましたぁ」 「……これは授業ですか?」 「はぁい、授業ですぅ」  困惑顔の生徒たちの格好は、エプロンに三角巾。  場所は学園内にある、調理授業用の広めのキッチン。 「……今日は、連携の訓練だと伺っていましたが……」 「はい、これはぁ、未知のものに遭遇したときにぃ、いかに連携して対応できるかの訓練になりますぅ」  最早訓練と名が付けば、なんでもありだと思っているのではないだろうか。  生徒たちの視線をものともせず、アキは木箱からひとつ、食材を取り出した。 「本日はぁ、この食材をどれだけ協力して、美味しく調理できるかの授業になりますぅ。ここで考案されたメニューはぁ、材料を提供してくださった宿屋『朝告鳥』で採用されるかもしれないのでぇ、みなさん張り切って調理してくださぁい」  生徒たちは食材を見て、首を傾げた。  内、ひとりが恐る恐る挙手をする。 「アキ先生、この食材はなんという名前ですか?」 「はい、これはぁ、わびさびブランドの『わさび』と言うそうですぅ」
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-03-04
完成 2019-03-16
怪盗Uの挑戦状 (EX)
宇波 GM
 煌びやかなシャンデリアの光に照らされ、赤い絨毯は踏み出した足を沈めるほど柔らかい。  船首から船尾にかけ、船首の白銀から船尾は鮮やかな水色に変化するグラデーションで彩られた豪華客船。  そんな豪華客船に足を踏み入れたのは、魔法学園【フトゥールム・スクエア】の生徒たち。  いったいなぜ彼らがこの豪華客船に乗船することになったのか。  それは一通の手紙が届いたことから始まる。 『魔法学園【フトゥールム・スクエア】の生徒諸君。  ご機嫌よう、私は【怪盗U】。  ついこの間、私はとある富豪の元から、時価数億はくだらないある宝石を盗み出した。  この世界の魔法属性を濃縮したような、6色に輝く美しい宝石だ。  だが、それを私だけが愛でるのは実につまらない。  そこで提案だ。  私は君たちとゲームをしたい。  君たちが勝てば、宝石は潔く渡そう。  だが、君たちが負けたその時は――。  さて、ルールを説明しよう。  君たちと遊ぶ舞台は、とある豪華客船。  その中の一室の中央に、宝石をケースに飾っておこう。  ケースの中には、爆弾を仕掛けておく。  君たちが時間に間に合わなかったり、ルールを守らなかった場合は、たちまち爆弾は爆発する。  ああ、安心してほしい。  ケースはその爆発に耐えうるものを使っている。  ケースの中で爆発するのだから、周囲に危害は及ばない。  ただし、宝石は木っ端微塵だ。  君たちが宝石を無事に取り戻すためには、ふたつの行動から選ばなくてはならない。  まずひとつ目。  私は船の中に様々な謎をちりばめた。  時間内にその謎を解き明かし、ケースにパスワードを入力すれば、ケースは開く。  ケースが開いた時点で、爆弾は止まるよう設定してある。  ああ、ズルができないように、謎を解いた暁には記念として、数字の刻印された宝石を入手できるようにしておこう。  怖がらないで。  その宝石は偽物だからさ。  もうひとつ。  爆弾を止めるためには、停止ボタンを押さなくてはならないのが世の常と聞く。  よって私は、船のどこかに爆弾を停止するボタンを隠しておいた。  その停止ボタンを押すことで、爆弾を解除、ついでにケースも開けてあげようではないか。  だが気を付けてほしい。  停止ボタンがあるということは、強制的に爆発させる爆破ボタンも対になっているものだ。  爆弾が爆発したときに発生するものとは、つまり光だ。  光とともに爆破させ、停止は全てを無に還せばいい。  君たちに与えられる時間は2時間。  その間に、ぜひとも宝石を取り戻して見せてくれないか。  ……ああ、間違っても、ケースを壊して取り出そうなどと無粋なことは考えてくれるなよ?  ケースを壊した時点で爆破する。  ケースが無事であれば、中の宝石が木っ端微塵になるだけで済むが、ケースという防壁がなければ周囲はどうなるか分からない。  最悪のケースも想定したまえ。  ……さて、名残惜しいが、そろそろゲームを始めよう。  私は優しいからね。  手掛かりとなる、始めの謎を、ゲームの舞台である船の乗船チケットと一緒に同封しておくよ。  それではよい奮闘を。  愛を込めて【怪盗U】』 「中々ふざけた手紙ですね。だれかへのラブレターですか?」 「残念ながら、学園の生徒へ宛てたラブレターのようです」  学園窓口に届けられた一通の手紙と、招待チケット。  それから、何を表しているのか分からない、意味の分からない文章の書かれた一枚のカード。  それらは今、ここに集った君たちの眼前に晒されていた。 『王の宴に6人の王は踊り狂う。その背後には道が示されているであろう』 「この手紙は、その宝石を盗まれたとある富豪が持ってきました」 「え?学園の名前を出しているのに?」 「きっと間違えてしまったのでしょう。学園としては、みなさんに向かってもらいたいのですが、どうしますか?」  君たちは顔を見合わせた。  そして今に至る。  豪華客船を見上げている君たちの元へ、ひとりの執事のような恰好をした男がやって来た。 「ようこそ、豪華客船『スクエア』へ。チケットを拝見させていただきます」 「こちらが、件のお部屋となります。私共も知らないうちに、このケースが設置されておりました」  執事が案内した部屋には、手紙に書かれていたように四角いショーケースの中に宝石が収まっている。  そのショーケースを支える木の台には、6つの五角形の窪みと、文字を入力するキーボードが設置されている。  おそらくこれでパスワードを入力するのだろう。  窪みの上には6人の人物が刻印されていた。  手紙の通りであれば、このケースの中に爆弾が仕掛けられていて、さらにこのケースはその爆弾の爆破すら耐えるほどの強度であるという。  中の宝石は赤、青、緑。  茶色に黄色に紫に、確かに6色が輝く、不思議な宝石だった。  宝石に魅入っていると背後から、執事の咳払いが聞こえる。 「皆様、よろしいですかな。こちらが船内の地図になります」  渡された地図を見てみると、この船は5階建て。  中央に客室が、船首と船尾側に従業員用の住居や、関係者以外立ち入り禁止の部屋がある。  船首、船尾の先端へ行くためには、従業員エリアを通っていかなくては出られないことも分かった。 「この地図、見やすくていいですね。縁を彩る装飾も独創的で。……ここに描かれている人は誰ですか?」 「はい、上部真ん中に描かれている6人は、左からエンジバ、リーベ、アリアモーレ、プロギュート、イグルラーチ、ボイニテッドになります。船首側に描かれているのはオールデンですね」 「船尾側には何も描かれてないのですね」 「地図を作ったのは別の者ですので……。センスはすべて、その者に依存しております」  執事と会話をしていると、ふと一人があることに気が付く。 「……あ、この6人、ショーケースに刻印されているものと同じだ」  厳密にはまったく同じではなく、3人目、アリアモーレと呼ばれた者だけが他の者と比べて随分と小さく描かれていた。
参加人数
2 / 8 名
公開 2019-07-07
完成 2019-07-28
台本のない演劇舞台 (ショート)
宇波 GM
 街の端のさらに端にある、見るからに寂れた木造の建物。  両開きの大きな扉を開けた先にある空間は、観客席。  数十人入って一杯の広さのそこに置かれた椅子は、折り畳みの椅子が20脚。  その正面にあるのは、これもまた木製の軋んだ舞台。  元は鮮やかな赤色であったと思われるカーテンは見る影もなく煤けている。  その舞台上でたった一人。  白いワンピースをはためかせ、くるくると回り踊るヒューマンの少女。  短い静かな曲を一曲、踊り終わった少女は折り畳み椅子に座る君たちに気付く。 「初めまして。『フトゥールム・スクエア』の生徒さんたちですか?」  少女はふわりと、まるで妖精のように舞台から飛び降りる。 「私はこの劇場の支配人、【アンジェ・リリー】と申します。概要は学園側に伝えさせていただきましたので、伝わっているとは思いますが……」  改めて説明をしようと口を開きかけたアンジェは、乱暴に開かれた扉の音にびくりと肩を揺らす。  どかどかと中に入ってきたのは、ぱりっとしたスーツに身を包んだ3人の男たち。 「……乱暴に扉を開けないでください」  努めて冷静に男たちを睨むアンジェに、男のひとりは肩を竦める。 「もうすぐ私のものになる建物を、どう扱おうが私の自由と思いますが?」  にやにやと下卑た笑みを浮かべる男たちに、悔しそうに唇を噛みしめるアンジェ。  男たちはアンジェの傍にいた君たちに気が付く。 「おや、お友達ですか」 「……この人たちは……」  君たちを庇うように前に出たアンジェに、面白くなさそうに男は鼻を鳴らす。 「まあ、誰だろうと関係はありませんね。一週間ですよ。そこから1分もまけはしませんからね」  男たちは言うだけ言って、またどかどかと扉を開けて出て行く。  残されたアンジェは、泣き出しそうな笑顔で口を開いた。 「詳細を説明、しますね」 「この劇場は、祖母の代から続いていたんです」  舞台の裏にある出演者用の控室に君たちは案内された。 「祖母と祖父が亡くなり、継いだ両親もついこの間……」  悲しそうに目を伏せるアンジェは、両親の代から経営が傾いたのだと告げる。 「さっきの男たちは、両親からこの土地を建物ごと譲るように言ってきた、金貸しです」  この劇場を建てるとき、暴利をふっかける金貸しからお金を借りてしまったのだという。  建物自体の金額は返し終わっているが、膨れ上がった利子を返しきれていないとアンジェは言う。  とうとう返す目処の立たなくなった両親に、金貸しはこの建物と引き換えに借金を無くすことを持ちかけた。 「ですが、両親はこれを拒否しました。……金貸しは、ありもしない風評被害を流し、とうとう少なかったお客さんも来なくなりました。働きすぎて体を壊した両親は、そのまま……」  それを機に、残ってくれていた役者が辞め、脚本家が辞め、演出家が辞めていき、とうとう残ったのはアンジェひとりとなってしまった。 「私には、もうここを続けていくことができません。ですが、最後に一度だけ、お客さんに劇を見せたい。この劇場の、最後の劇を見せたいんです」  金貸しには、一週間の猶予をもらったという。  それまでに、なんとかして役者を集め、脚本を書き、お客さんを集めなくてはならないらしい。 「みなさんには、最後の劇を行うためにお手伝いをしてほしいんです。……どうか」  アンジェはゆっくりと、頭を下げた。  控室の灯りは、ちかちかと不安げに点滅している。  アンジェが手ずから淹れた紅茶は苦く舌に広がった。
参加人数
5 / 8 名
公開 2019-08-31
完成 2019-09-18
村人A (ショート)
宇波 GM
「私はただの村人A。この世界にとっては、いてもいなくても変わらない。そのあたりにある石ころと同じような存在であると思っている」 「私はただの村人A。あるいはこの世界の摂理に捕らわれた、哀れな構成物質のひとつであると思っている」 「私はただの村人A。寝て食べて働いてまた寝て、そうして回る世界に佇んでいるのだと思っている」 「私はただの村人A。そろそろお嫁に行く時期と、両親が相手を探していたことを分かっている」 「私はただの村人A。ついこの間、友達と喧嘩したとき、私が悪かったのだと分かっている」 「私はただの村人A。一度寝たら中々起きられない私が、珍しく浅い眠りについていたのは、こうなることが解っていたからだと分かっている」 「私はただの村人A。それを誰にも言わなかったのは、ただの八つ当たりだって分かっている」 「私はただの村人A。今すごく後悔しているのを分かっている」 「私はただの村人A。誰に知られずいなくなっても、見咎められないはずの存在であると、分かっている」 「ああ」 「でも」 「こうなってもまだ」 「私はただ死にたくないと」 「思っている」 「緊急です。今集まれる生徒たちは至急、窓口まで集まってください」  夜明けの近く、まだ登校している生徒の数が少ない学園の窓口前。  やや切羽詰まったような職員の声に首を傾げながら、窓口前にちらほらと人が集まる。 「一体何が?」 「これはつい先ほど、魔法石により村人から届けられた映像です」  軽い調子で投げかけられる質問に、職員はひとつの映像を見せる。  その映像に、集まった生徒たちは息を呑む。 「なに、これ」 「ひどい」  映し出されたのは、どこかの村が焼かれている映像。  逃げ惑う村人を猟奇的な笑みを浮かべ追いかけるのは、山賊のような恰好の男たち。  否、彼らは正しく山賊なのだろう。  山賊たちは、山賊が持つにしては立派すぎる剣を手に、村人を追い回す。  山賊たちの凶刃は、村人の背を、胸を、頭を容赦なく狙っていく。  思わず目を背けたくなる凄惨な光景が、そこには広がっていた。 「この山賊たちは、昔解散したはずの傭兵団のシンボルマークを身に着けています。傭兵崩れの山賊です」  職員は言い辛そうに口ごもる。 「彼らは戦闘のエキスパートと言っても差し支えないでしょう。対魔物だけでなく、対人戦にも相当手慣れているはずです」  今の皆さんが敵う相手ではないでしょう。  そう言い切る職員に、誰かが苛ついたように問う。  ではなぜ、ここに生徒を集めたのかと。 「山賊の討伐は、その道のベテランに依頼しています。皆さんに行っていただきたいのは、ベテランが到着するまでの間に、山賊たちが村から外に出ないようにすることです。具体的な方法を説明します」  職員は一枚の大きな紙、それに描かれた地図を指し示す。 「この村は周囲に防壁を張っていて、また、その外周にも深い堀が掘られています。この村に侵入する唯一の手段は、入り口に一本だけ架かる跳ね橋です。これを……」  職員は橋にバツの印を付ける。 「この橋を外から壊せば、討伐隊が到着するまでの間、山賊たちは村から出られないはずです。手っ取り早く壊すために、学園の方から火炎魔法石を支給します。橋を壊す目的でのみ、使用を許可します」  『火炎魔法石』。  それは今の自分たちが繰り出すよりも、はるかに大きな威力の炎を発射することができる魔法石。  威力が高すぎる故に、破壊にはもってこいだが微細なコントロールが難しい代物だ。  つまりはそれを用い、橋を壊せばいいのだろう。  しかし、ああ、心情は複雑だ。  あまりにもな話に、生徒たちは不安げに顔を見合わせる。 「あっ! まだ生きている人がいる!」  当てもなく映像に視線を彷徨わせていたひとりが気付く。  家の中や障害物の陰、山賊に見つからずに隠れている人々を。 「よかった、助けに行かなくちゃ」 「だめです!」  安堵の息を吐いた生徒に、職員が声を荒げる。 「村の中に入るのは危険です。それに、この村の周辺にもいくつもの村があります。山賊たちを逃がしてしまえば、彼らの凶行は他の村にも及びます。どうか、何も言わずに橋を壊してください」  生徒のひとりは、震える声で聞き返す。 「まだ、生きている人がいるのに……?」 「それでも、です。被害が甚大になる前に、できるだけ早く最善の行動を」 「村から送られてきた映像って言いましたよね。それって、村からの救援信号ではないのですか」 「……」 「助けを求めている人がいるんですよ!」 「……それでも、です」  職員の表情は苦し気に歪む。  彼も悩んで苦しんでいる。  出した結論が最善と信じられないまま、それでも最善であったと信じるしかないのだ。 「橋を、壊してください、周囲に被害が及ぶ前に、早く」  ただ、信じるしかないのだ。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-04-21
完成 2019-05-03
きつねたぬきせんそう (ショート)
宇波 GM
 世の中には、『きのこたけのこ戦争』なる、仁義なき派閥争いがあるという。  派閥というものは往々にして厄介なものであると相場が決まっている。  きのこたけのこのみならず、犬派猫派。  肉派魚派、紅茶派コーヒー派。  胸派尻派、ウーパールーパー派オオサンショウウオ派と、仁義なき派閥争いの原因は多岐に渡る。  その仁義なき争いは、この学園でも。   「来たな、きつね……! 今日こそその鼻を明かしてくれる!」 「あぁーら! お腹をぽんぽこ鳴らすだけしか能のないたぬきが、一体なにをしてくれるというのかしらぁ?」  学園内でばちばちと火花を散らす二人。  ぽっちゃりお腹は筋肉太り! 鶏肉のささみや茹で卵の白身を好んでお弁当箱に入れている!  たぬき耳を生やしたヘルシー志向のルネサンス! 【タヌーキ・ラクーン】!  全体的にすらりと細身、食べたものはどこに行く? でもけっしてまな板からは成長しない!  きつね耳が愛らしい、永遠のロリ体型ルネサンス! 【キーツネ・フォックス】!  二人は互いの手に持つ雑誌を目敏く見つけ、そしてぎりりと歯噛みする。 「やはりきつねとは相容れないようだ……! なぜこの猫の愛らしさを理解しない?!」 「ただ気紛れに愛嬌を振りまく猫より、従順な犬の方が可愛らしいですわ! たぬきこそ、この可愛らしさを理解しうる頭をお持ちでないようね!」  廊下にぎゃんぎゃんと響くタヌーキとキーツネの声。  すれ違う先輩たちは、またやってると言いたげに微笑ましい表情を残していく。 「……ちょうどいいわ、今日こそ決着を付けましょう」 「……ああ、きつねとはいつか決着を付けねばと思っていたところだ」  争い、その火種は、たまたま廊下で傍観していた君たちの元へ降りかかる。 「君たち! 猫は愛らしいと思うだろう?!」 「いいえ! 犬よ! 犬こそ至高!」  困った顔を見合わせる君たちの心はひとつになる。  あんたたち、きつねとたぬきだろ……。と。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-05-12
完成 2019-05-26
花粉死すべし慈悲はない (ショート)
宇波 GM
「くっ……! 俺はもうここまでだ……!」 「諦めないで! きっとまだ道はあるはず!」 「無理だ……! 無理なんだよ、俺にはできない!」 「なんてこと……! ああ、だれか、だれか!」  嘆く二人の男女の元に、ひとつ、ふたつと暗い足音が忍び寄っていた。 「えー、先ほど届いた依頼です」  学園窓口の受付のその目は心なしか赤い。 「どうしたんですか? 感動ものの映画でも見ていたんですか?」  生徒の軽口に、かゆいんですよ。と目を擦って返す。 「くしゃみも止まりませんし、うまく考えがまとまらないんですよ……。それはさておき、依頼内容の説明をしまっしゅん!」  くしゃみをこらえきれずに、可笑しな語尾でセリフを締めくくる受付。  ほんのりと頬を染め、誤魔化すように書類を捲る。 「依頼者は、街の外れに家を持つご夫婦。依頼内容は、彼らの住む家に魔物が住み着いてしまったそうなので、それらの退治をお願いしたいとのことです」 「魔物の詳細は?」  本題に入ったことにより、真剣味を滲ませたひとりが聞けば、受付も同じく真面目に返す。 「はい、住み着いた魔物は『ポーレンアニマル』。頭部に草や、人間のこぶし大程度の小さな木を生やした動物型の魔物です」 「攻撃手段は?」 「花粉を飛ばします」 「……それだけ?」 「はい。あとは体当たりもしてきますが、その攻撃能力は皆無に等しいと言っていいでしょう」  目を中々擦れないためか、大粒の涙を浮かべた受付。  彼の身を案じつつ、訝し気な表情を浮かべたひとりが質問する。 「とても嫌な予感しかしないのだけれど……。なにか、そう、なにか些細なことに思えて実はずっと重要だったことなんかを隠してない?」 「隠しているつもりはありませんが、そうですね、あえて付け足すとするのならばくしょん!」  すんすんぐしゅぐしゅ鼻を鳴らしながら、懸命に続けようとする受付の姿はいじらしく哀れを誘う。 「ポーレンアニマルはっくしゅん! 頭部に草や小さな木を生やした、『小』動物型の魔物です。頭部に生やした植物の種類も、イネやスギ、ヒノキなどの植物です」  生徒たちに冷や汗が流れる。 「ポーレンアニマルは物理的な攻撃力は皆無、加えて一般人でも、その辺りにある木の棒で一撃でも殴れば倒せる程度の脆弱さを持ちます。しかし、依頼人が対処できなかったその訳は――」  一瞬溜め、しかしその間にもくしゃみを止められなかった受付は、悪態をつきながら一枚の書類を見せる。  覗き込んだ生徒たちは息を呑み、あるいは頬を染め、うっとりと目を蕩けさせる。 「か、かわいいー!!」  そこに描かれていたのは、片手で掴めそうなほどの小動物たち。  頭部には確かに、小さな木々が生えてはいるが、その姿は愛らしい、その一言に尽きる。  生まれたばかりで、足をぷるぷると震えさせ、立ち上がろうとするマンチカン。  遊ぶのが楽しいと言いたげに、目を溌溂(はつらつ)と輝かせ、自分の尻尾を追いかける小さな柴犬。  餌でも探しているのか、ぴんと耳を立ててふこふこと鼻を動かしているウサギ。  頬袋一杯に餌を詰め、きょとんとした顔を向けているリス。  そのほかにも、カワウソやモルモットなどなど……。  アニマル天国かと勘違いするような風景が、そこには広がっていた。  事実、頭部から木などが生えていなければ、動物園の小動物ふれあいコーナーだ。 「ポーレンアニマルは、その愛らしい容姿と花粉を飛ばして身を守ります。依頼人はこの可愛さにやられ、対処ができなかったようです」  ほう、と熱っぽくため息を吐く受付に、何かを感じた生徒は一歩後退る。 「ころんと転がるぷにぷにボディ、仕草はまるでボールのよう。体当たりなんてされた日には、もふもふの感触に翻弄され、その日の仕事が手につかなくなること必至、なんてうらやまけしからん!」  もふもふ好きなのかな。  生徒たちの生暖かい視線に、こほんと咳払いをして取り繕う。 「ポーレンアニマルの放つ花粉は、たちまちのうちに鼻をむずむずさせ、くしゃみを引き起こします。人によっては目もかゆくなります。やがて酸素が行き渡らなくなり、思考能力が低下します。可愛いように見えて、凶悪な魔物なのです。けして、けっして許してはなりません!」  どっちの立場で応援しているのかと問いたくなる受付の熱の籠った演説は、彼の私怨も含まれているようにも感じた。 「ぶえぇっくしょん!」  生徒たちは彼の盛大なくしゃみを背後に聞きながら、件の家へと出立したのだった。
参加人数
7 / 8 名
公開 2019-03-16
完成 2019-03-29
お中元にはスライムを (ショート)
宇波 GM
「それではぁ、本日の授業を終わりますぅ」  さわさわと、桃色の桜も葉が目立つ頃。  その日、午後の授業を終えた教師、【アキ・リムレット】は、席を立つ生徒の幾人かに声を掛ける。  それは授業としてではなく、アキの個人的なお願いだった。 「あなたたちに少し、手伝ってもらいたいことがあるんですぅ」  場所は変わり、授業用のキッチンに、アキと君たちは立つ。  囲むはどーんと置かれたひとつの木箱。  中からはもちゃ……もちゃ……とおよそ嫌な予感しか抱かない音が響いてくる。 「アキ先生、とても嫌な予感しかしないのですが、これは……?」  勇気を持って質問をしたひとりに、アキはとてもいい笑顔で告げる。 「お中元のぉ、材料ですぅ」 「すごく信じられない単語が出てきたのですが?!」  お中元の材料? これが?!  まだ中身は見ていないが、もっちゃもちゃと尚も鳴り続ける音は、明らかにお中元の材料ではない。  わざと言っているのか? それとも本気で? 「はいぃ、毎年この時期にぃ、水饅頭や羊羹を作って贈っているのですがぁ。今年はちょっと手伝ってくれる人がぎっくり腰になってしまいましてぇ」  人手が欲しかったんですよぉ。  のんびりと言うアキの真意は、糸目に隠され分からない。  とにかく、材料を見ないことには進むも戻るもできない。  勇気を出し、恐る恐る木箱の蓋を開けていく。  明らかになった中身は色とりどりの透明なゼリーのようなもの。  フォルムはつるんと丸く、重力によって楕円形に地面に引かれている。  しかし、なんというか。  なんだか、蠢いているような。  ゼリーにしてはプルプル蠢き、しかも自重でプルプルしているだけでなく、動いている……。  さすがに鈍くてもわかる。  これはゼリーではなければ、食べ物の材料でもない。 「スライムだ!」  空気を切り裂く注意を受け、臨戦態勢に入る生徒たち。  そんな中、アキただひとりだけは、相も変わらずのんびりと木箱の中を覗いている。 「あらら、あららぁ? スライムですねぇ? おかしいですねぇ、私は寒天と片栗粉とあんこを頼んだはずなのですがぁ……」  スライムと分かって尚、アキは木箱の中に手を突っ込む。 「アキ先生! 何やってるんですか!」  見ている方がハラハラする行動を起こしたアキは、底の方に何かを見つけ、嬉しそうに笑う。 「あんこは間違いなく入っていましたよぉ」  そこじゃないだろ!  天然なのかわざとなのか、真意はやはり、その糸目に隠されて分からない。  アキはしばらく、蠢くも箱の外へ出られないスライムを見る。  そして名案を思いついたと言わんばかりにポン、と手を打った。 「スライムでもぉ、食べられないことはないでしょうぅ」  とんでもないこと言いよった、この教師。  かくして、軽い気持ちで手伝いに来た君たちはなぜか、スライムを使ってお中元のお菓子を作ることになったのだった。  ……どうしてこうなった?
参加人数
2 / 8 名
公開 2019-07-25
完成 2019-08-12
君が見えない (ショート)
宇波 GM
 見えない。  遠くなる。  ぽつんとひとり。  暗い場所で、ひとり、立っていた。  だんだんと、離れていく。  後姿が、遠くなる。  手を伸ばしたけれど、その姿に届かない。 (ああ、行かないで)  君の姿が遠くなる。 (だめ、行かないで)  君の姿が薄くなる。 (お願い、ここにいて)  君が、見えない。 「『記憶が無くなる迷路』……?」 「はい。最近、噂にもなっているようですね」  記憶が無くなる迷路。  それは、遊園地にでもありそうなアトラクションボックスのようなもの、だとか。  それは、入れば記憶が抜け落ちていく、人の記憶を喰う魔物、だとか。  それは、意志を持った移動型コンテナのようなもの、だとか。  どこか掴みどころのない、一貫性もない、ふわふわとした雲のような噂。  それは、都市伝説や七不思議にも似た、不思議な魅力を纏い、人々の耳から耳へ伝播(でんぱ)する。 「今回、依頼に出されている、討伐対象でもあります」 「迷路を、討伐?」  耳慣れない討伐対象に、首を傾げる生徒たち。  無理もない。  迷路という討伐対象相手に、どう対処すればいいのか、だれもピンときていないのだから。 「はい。この迷路の中には中心となるコアがあり、そのコアを破壊すれば迷路は討伐できます」  受付職員は、そっと目を伏せる。 「しかし、先ほども申し上げた通り。この迷路は入れば記憶が失われます」  それも、その人にとって一番大切な記憶から。  順々に、順々に失われていくという。  大切な記憶。  家族の記憶かもしれない。  幼い時の、初恋の記憶かもしれない。  勇者になりたいと、強く思う気持ちかもしれない。  ……失われる? その、記憶が?  ぞっとする。  鳥肌の立った二の腕を摩り、ひとりは拒否を示した。 「無理です。記憶がなくなるなんて、考えられない!」  彼に賛同するように、ひとり、またひとりと声を上げていく。  職員はぎゅ、と強く目を瞑る。 「……既に、何人か。この迷路に入り、記憶を失っています」  民間人の、力のない被害者がいる。  その言葉に、僅かに揺れ動いた者がいた。  それでも、響かない者もいた。 「……私も、そのひとりです」  生徒たちは耳を傾ける。 「正直、どうしてここにいるのか、分かっていません。顔見知りの人も、もしかしたら、いらっしゃるのかもしれませんが、すいません。覚えていないんです」  彼は、彼が受付職員であるということを忘れているという。  ここにいるのは、僅かに残った責任感と、長年の業務で染みついた習慣のおかげだろう。  彼は頭を下げる。 「迷路を討伐さえできれば、記憶が戻ってくるかもしれないんです……! 被害者の記憶も、これから入るみなさんの記憶も。どうか、お願いします」  大切な記憶を賭け、大切な記憶を取り戻す、迷路討伐。  生徒たちは息を呑む。  あるいは緊張で、あるいは恐怖で。  もしかしたら、未知の体験に湧き上がる冒険心を覗かせた者もいるかもしれない。  職員は空気が揺れ、僅かに変わったことを感じ取る。 「迷路は危険物として登録しています。我々は、件の迷路を暫定的にこう呼んでいます」  『ロスト・メモリー』と。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-06-03
完成 2019-06-20
おお、花嫁よ! (ショート)
宇波 GM
 ――結婚……結婚は人生の墓場だ……――。  耳元で、だれかが囁く。  幸せな結婚式前のこの時期に、輝く未来へ墨汁を垂らす、不穏な囁きを。  ――どうせ結婚したら化けの皮が剥がれるさ……旦那は嫌な男かもしれないぜ……――。 (そんなことないわ。彼は優しいもの)  ――祝ってくれてても……友達は内心嫉妬してるんだ……結婚したらみぃんな離れてく……――。 (やめてよ。どうしてそんなことを言うの)  ――やめてしまえよ……独身の方が気楽だぜ……――。 「やめてよ!」  甲高い、自分の悲鳴で目が覚める。 (夢……?)  荒い息を整えながら、寝室を見渡す。  何の変哲もない寝室。  いつも通りの風景。  そのことに、少しだけ安心する。 「ふぅ……」  額から流れ落ちる汗はシーツに染みる。  彼女はもう一度眠ろうと、して。 「き」  はた。  横向きに入った布団。  ベッド脇にいた、それと目が合った。 「きゃああああああ!!」 「毎日雨でじめじめして……。嫌になりますねぇ」  魔法学園『フトゥールム・スクエア』。  梅雨のじめっとした空気に顔を顰めながら、受付窓口まで集まった生徒たち。  しかし、彼らよりももっと顔を顰め、一層不機嫌そうな者は、彼らと正面から対峙する受付職員。  頭痛持ちなのだろうか。 「雨と言えば、今はジューンブライドの時期ですね」  ジューンブライド。  梅雨のこの時期に結婚すると、一生幸せになれると言う、幸せな言い伝え。  職員は一層、苦虫を噛み潰したように顔を顰めた。 「そのジューンブライドにかこつけて、人の幸せを踏みにじる魔物が出ているんですよ」  なんだと、それは許せない。  生徒たちが憤慨すると、そうでしょう、そうでしょう、と職員も何度も頷く。 「その魔物は、『ブルー・マリッジ』。結婚が決まった花嫁に、結婚に対するマイナスイメージを夜な夜な囁き、記憶に植え付ける魔物です」  なんて悪質な。  聞けば、中にはそれが原因でマリッジブルーに陥る花嫁や、結婚自体を取りやめた花嫁もいるらしい。 「その魔物はどういった容姿を?」  絶対に許せない。  怒りをそのままに特徴を聞くと、職員は指折り、特徴を伝える。 「黒いシルクハットを被り」 「ほうほう」 「手にはステッキ」 「紳士かな?」  話を聞くひとりが、手帳にメモを取っていく。 「劇画風の太い眉に」 「劇画……」 「きりっとした濃いめの両目」 「……はい」 「くるんと外側に渦を描くちょび髭を生やした」  メモにはいつの間にか絵が描かれている。  なんとなく、紳士のような……百戦錬磨の猛者のような姿見だ。  生徒たちは最後の特徴を聞いた。 「卵型の魔物です」 「イースターはもう過ぎ去ったよ!」  生徒の突っ込みに、はっはっは、と職員は笑う。 「以上が、ブルー・マリッジの外見的特徴になります。花嫁に対する精神的な攻撃が主攻撃で、物理的な攻撃力は皆無と言っていいでしょう。割ればいい目玉焼きになりそうですね」  朗らかに言うものの、職員の目は笑っていない。  苦笑いで返した生徒は、そっと目線を逸らした。 「現在確認されているブルー・マリッジは8体です。奴らは、この教会をねぐらにしているようです」  渡された地図をしっかりと確認していると、職員からそれから、と声がかかる。 「ブルー・マリッジについて重要なことをお伝えしますね。この魔物は、結婚式前の花嫁か、花嫁姿の者にしか目視できません」  うん? 生徒たちは首を傾げた。 「なら、どうやって……」  職員はにっこりと、無言のまま一着の服を取り出す。  白のフリルやレースで厚みを持った、ふわっふわでふりふりな、純白のドレス。  紛うことなき、ウエディングドレス。 「あの、これ……」 「全員分あります」 「いや、だから……」 「女性も男性もそうでない方も、全員着て行ってください」  渡された、もとい押し付けられたウエディングドレスを手に、困ったように顔を見合わせる生徒。  職員は笑っていない目で、ふふふふと笑った。 「検証のために私も着たんですよ……。まったく、人の幸せを祝えない魔物なんて、いなくなってしまえばいいのに」  魔法学園『フトゥールム・スクエア』学園窓口受付職員【ウケツ・ケ】。  彼は存外、根に持つ男だった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-06-11
完成 2019-06-27
【夏コレ!】マグロの食感イカの味 (ショート)
宇波 GM
「青く輝く海ー!」 「うみー!!」 「白い入道雲の浮かぶ青い空ー!」 「そらー!!」 「背後を見れば青々と緑が眩しい山―!」 「やまー!」 「そしてそしてー?」 「そしてー?」  ばっちりと決めた勝負水着。  ウォータープルーフの日焼け止めも塗って、日焼け対策ばっちり。  お気に入りの麦わら帽子も引っ張り出して、凍った飲み物も常備してきた。  ビーチパラソルだって、持っていないから、持っている先輩に借りてきた。  バーベキューの道具だって、レンタルしてきた。  完全に海で遊ぶ気満々だった生徒たちは死んだ目で海を見る。  ひとりは獣もかくやと咆哮した。 「どうして! こんな時に限って魔物なんて出てくるのお!」  ざっぱーん。  水平線に、大きな魚影の波が立つ。  事の発端は、二日前。 「臨海学校の下見、ですか?」 「そうなのですよぉ。今年は私が担当になりましてねぇ」  おっとりと間延びした声は、教師【アキ・リムレット】。  彼女は授業の準備を頼んだ生徒たちに、『お願い』をする。  曰く、下見に行くのはいいのだが、ひとりだとどうも寂しいとは彼女の言。  そのため、生徒たちに共に来てほしいと言う。 「下見とは言っても海だけですのでぇ、みなさんで水着着てぇ、ビーチバレーをしたりぃ、ダイビングをしたりぃ、お昼はバーベキューでご飯にしましょうぅ」  お金は学園持ちですのでぇ。  アキの付け足した言葉に、決断は早かった。 「ぜひ。行かせてください」  人の金で遊ぶ遊びほど、楽しい物はない。  それに、昼食一食分の金が浮くだけ、助かるというものだ。  学生は、案外金策にあえいでいる。    そうしてやって来た、海。  しかしそこには先客がいた。  自分たちの何倍もでかい、巨大なマグロ。  そう、マグロ。  何度だって言おう、マグロがいた。  マグロは我が物顔で海の中を泳いでいる。  一緒に泳ぐとしても、あの巨体で立つ波は大波。飲まれてしまう。  尾びれに当たりでもしたら、いったーい! で済みそうもない。  ざっぱーん。  まるでイルカのように波から跳ねたマグロの横腹。  そこにはでかでかと、模様として書かれていた。  『クラーケン』と。 「マグロじゃねえのかよ!!」  がくー、と脱力する生徒のひとり。  アキは、あらあら、といつも通りの笑顔で頬に手を当てている。  落ち込んだ生徒は嘆く。 「マグロでもクラーケンでもさ、いたら泳げないよー」 「まあ、こう考えればいいよ」  生徒のひとりはぽん、と落ち込む生徒の肩を叩く。 「バーベキューの具材に、マグロが一匹増えるだけだ。って」  生徒たちはざ、っと雰囲気を変える。  その目は、まるで。 「刺身だー!」 「大トロ! 大トロ!」  哀れなマグロを捕食しようとする、捕食者の目だった。
参加人数
3 / 8 名
公開 2019-06-19
完成 2019-07-07
【夏コレ!】ローレライの宴 (ショート)
宇波 GM
 ゆらりゆらり。  さざめく小波ははるか頭上。  昼は潮流が波を作り、いっそ清々しいほど爽やかな青が広がるこの海も、夜の時分。  暗く、夜の闇ほど黒い海の中も、照らす光は青かった。 「うわぁ、綺麗……!」  感嘆のため息を吐くのは、『フトゥールム・スクエア』の一生徒。  その体は、水底の波に揺られてゆったり、ゆったりと揺れる。  水底の砂は、月の光を受けて白く揺らめく。  波にきらきらと浮かぶ、星の数ほどと見紛うランタンは、まるで風船のように浮かび上がる。 「すごいでしょ。あのランタンは、夜光虫を逃げないように閉じ込めてあるの。海の中だからできることよね」  得意げに笑う女性――名前を【ヒュドール】と名乗った――は、海と同化しそうなほど透明感のある体を得意げに振り向かせる。 「ここの海はよく魔物が出没するけれど。私たちにそんなことは関係ないもの」  きょろきょろと物珍しそうに見渡す生徒たち。  空気を閉じ込めた不思議な泡を頭に被り、水中でも容易に息をしている、彼ら。  彼らの空気泡は、今回留守番中の【アキ・リムレット】が作ったもの。  ぽこり吐いた空気は泡となり、水面の飛沫へ消えていく。 「ヒュドールさん、今回はお招きいただき、ありがとうございます」  代表してひとりがちょこんと頭を下げると、ヒュドールは笑いながら手を横に振る。 「いいのいいの。ひとりで行くのも、寂しいじゃない? 旅は道連れ、ってことで」 「いえ、こんなに貴重な体験をさせていただけるのに、お礼を言わないのは失礼に当たります」 「何言ってるの、私たちにとってはある意味日常だから、そこまで貴重でもないわよ」  お礼の言葉を躱し、ヒュドールが目を向けた先。  どんちゃどんちゃと賑やかな、色とりどりの灯りが一行を出迎える。 「ようこそ、ローレライの宴へ!」
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-06-26
完成 2019-07-13
ゲンダイニホンという魔境 (EX)
宇波 GM
 高くそびえる摩天楼。  天までも飲み込もうと高く、高く積みあがったそれらは、大空を隠す。  見上げた彼らの足元には、土より硬い地面がある。  『道路』というそうだ。『アスファルト』という素材で作られた道路は、普段の地面より硬く、均一に均されている。  道路には見たこともない馬車が走り、轟音を合奏する。  馬車には本来いるべき馬がいない。それなのに、馬車よりももっと重そうな鉄の塊が、もっと速く走っている。  魔法は一切使われていない。  最早、ここは別世界だった。 「ここが、『ゲンダイニホン』……!」  発端は、学園に持ち込まれた石だった。 「これは、魔法石ですか?」  見た目は赤色の魔法石のようなもの。  しかし、受付職員【ウケツ・ケ】は首を振る。 「はい。しかし、これは魔物でもあるんです」  ざっ。一斉に構えを取ってしまうのも仕方のないことと言えよう。  そんな生徒らに、ウケツは落ち着くようジェスチャーをする。 「これは魔物ではありますが、正しくはこの石は魔物ではありません」  何かの哲学だろうか。  ウケツは彼らに説明する。 「この魔物は、『マキョー』。魔法石に寄生をし、その内部に魔境を作る魔物です」 「この魔法石は、魔法を使うことはできるんですか?」 「いいえ。現在はマキョーに寄生をされているため、本来の使い方はできません」  じっと見ていたひとりが、壊せばいいのでは? と案を出す。  ウケツは『やってみますか?』と石を手渡す。 「え、かた、硬い!」  大ハンマーで殴ってみても、その魔法石は割れない。  ウケツは頷いた。 「マキョーが寄生している間は、魔法石はどんなものに対しても硬く、壊れないようになります」 「破壊は無理と言うことですね」  納得した生徒は、一度引き下がる。 「なら、魔法石をマキョーに寄生させたままで、保管すると言うのはどうですか」  別の生徒が案を上げる。  ウケツは首を振る。 「それも、できないんです。そもそも、マキョーが魔法石に寄生するのは、仲間を増やすためなんです」 「繁殖、ですか?」 「分かりません。繁殖なのか細胞分裂なのか、あるいは魔法石の魔力で増えているのか、何も」  ただ、とウケツは続ける。 「時間が経つと、魔法石は粉々に砕かれ、マキョーが増えていきます。現実世界に現れたマキョーは強く、倒すには少々厄介な相手になります」 「では、なにをすれば?」  ウケツのメガネがきらりと光る。 「みなさんには、この魔法石の中に入ってもらいます」 「できるんですか、そんなこと」 「はい、できます。魔法石に手を触れた状態で、中に入りたいと念じるだけで入ることができます」  みなさんには。ウケツが続けた言葉には、この場の誰もが目を見張る。 「この中の魔境に入っていただき、魔境の生活を模倣しながら、中にいるマキョーを討伐していただきたいと思います」  魔境の名前は『ゲンダイニホン』。  魔法の無い、『カガク』という力を借りて人々が生活をしている、魔境である。 「入ってからの注意事項をいくつか。まず、服装は、どういうわけかその生活に合ったものになるようです」  その服装から、どういった役割で動くべきかを考察し、その通りに動くこと。 「別に、探すだけなんだから、模倣はしなくていいと思うのですが」 「いえ、模倣をしてください。というのも、マキョーはその魔境に合った動きをしている人は放置しますが、そうでない人は異物とみなし、魔法石から追い出してしまうんです」  追い出された人は、その魔法石の中にはもう入れないという。 「検証したのは私です。私は一度追い出され、それ以降この魔法石には入ることができませんでした」 「怪我はありませんでしたか?」  心配する生徒に、ウケツは大丈夫、と言って笑う。 「ですので、みなさんは模倣をしてもらいつつ、マキョーを探して討伐をお願いします。また、この魔境では魔法が使えません。中にいるマキョー自体はそこまで強くなく、みなさんが殴ったり蹴ったりすれば討伐できるほどには弱いです」 「魔法が使えなくても倒せるということですね。……マキョーの姿かたちは分かっていますか?」  ウケツは言い辛そうに口ごもる。  なにか、悪いことを伝えたいような、そんな雰囲気が伝わってくる。 「マキョーは、見る人によって姿が変わります」 「その人の深層心理とか、そんな感じでしょうか」  いいえ。首を振ったウケツはやや下方向に目を伏せる。 「マキョーは、マキョーを見た人の姿に見えます」 「……え?」 「つまり、マキョーは魔境『ゲンダイニホン』で生活をしている、あなたたちの姿に見えます」  パラレルワールド、でしょうか。  自信なさげに伝えるウケツ。  その表現は、なかなか的を射ていると思う。 「私が検証のために入った時には、マキョーはまだ一体だけだったと思います。ですが、時間が経った今では、増えている可能性もあります。くれぐれも、お気をつけて討伐をお願いします」
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-04-21
完成 2020-05-09
僕らの最期のメッセージ (ショート)
宇波 GM
『君たちは、もし明日死ぬとしたら』  課外活動帰り、話しかけてきたアークライトの青年のことは記憶に新しい。  その記憶は、きっと彼の持ちかけた話題の、衝撃的な印象に彩られているのかもしれない。  兎にも角にも不思議な青年だった。  儚げな印象が板についた、とても現世に存在しているなどとは思えぬ青年だった。  もしかするとあの時既に、彼はこの世界の住民ではなかったのかもしれない。  リバイバルがアークライトになることなどありえないことなのに、そんな風に考えてしまえるほどに、彼は儚げな雰囲気を醸していた。  今となっては、なぜその問答をしたのか。  その心の内をもう知る術などないが、ふとした拍子に彼のことが、彼の話題が頭を過ぎるのだろう。 『今日何をして、何を遺したい?』 「明日死ぬとしたら、ですか?」 「そ。明日死ぬとしたら、今日何をして何を遺すのかって空想」  窓口に持ち込まれた話は、依頼に関する話ではなく、単なる雑談。  それも、哲学色の濃い雑談。  話を持ち込んだ、ドラゴニアの生徒は、何を考えているのか分からない笑みを浮かべる。 「前提条件が分かりませんね。明日突然死ぬと言うことは分からないのが普通のはずですが?」  受付職員【ウケツ・ケ】は、彼に首を傾げる。 「いや、それが不思議な話で。明日死ぬことを、俺たちは何となく知っている、そんな状況で。俺たちは俺たちが明日死ぬだろうってことを知っているんだって」  眉を下げるウケツはしばらく悩んだ後、そうですねえ、と言葉を選ぶ。 「やはり、ここで受付業をしていると思いますね。……ああ、でも、迷惑はかけないように退職届は出しておかないと」 「真面目だなぁ」  生徒はふは、と笑い、遠くの景色を見るような目になる。 「どうしましたか?」 「いや。あの話を一緒に聞いた後輩たちは、なんて言っていたかなって」 『もし明日死ぬとしたら、今日何をして、何を遺したい?』
参加人数
6 / 8 名
公開 2019-09-22
完成 2019-10-10
《紅葉狩り:前編》紅葉の調査隊 (ショート)
宇波 GM
 まっかな、まっかな、手。  ふくふくやわらかい、ふくふくやわらかい、手。  もちもちぷにぷにの、もちもちぷにぷにの、手。  あまそうな、あまそうな、手。  おいしそうな、おいしそうな、手。  もぐもぐ、もぐもぐ、手。  たべたら、たべたら、手。  なくなっちゃった、なくなっちゃった、手?  どこだろう、どこだろう、手?  もっと、もっと、手。  ちょうだい、ちょうだい、手。  ほしい。  ほしい。  ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、おかあさん、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、うひゃひゃひゃ、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、たすけて、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、なくな、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、おいしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、いたい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、もっと、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、きっと、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、もっと、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、うまい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、たすけ、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、くるよ、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、よこせ、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、ほしい、手。  もっと、ほしい、ちょうだい、手? 「フトゥールム・スクエアから参りました」 「要請を受けていただき、感謝する」  ここは『トルミン』にある温泉街の一画。  そこでは物々しい装備に身を包んだ、自警団や町人が集っている。  そこに学園からやって来た生徒たちも加わると、簡素な台の上に男が上る。  どうやら、この臨時調査隊のリーダーのようだ。  男は拡声魔法石を口元に持って行く。 「今日は、これだけの人が集まってくれて感謝する! 概要はもう伝わっていることとは思うが、認識を合わせるためにもう一度周知する」  男はこほん、咳払いをする。 「……温泉街で起こった児童行方不明事件。既に二桁に差し掛かる数の児童が行方不明になった。我々はこのことを受け、児童たちを探す調査隊を結成した。それが君たちだ」  男の言葉には熱がこもる。 「この調査では、児童たちが行方不明になった、その真相を探る。そのために、注意事項を設けた。きちんと覚えて行動を開始してくれ」  男は傍らにいた女に目配せをする。  女は一枚一枚、大きく注意事項の書かれた紙を掲げていく。 「まず一つ目。調査を行うにあたり、見つけた児童は救出、及び保護すること」  集まった人々は頷く。  中には子供が行方不明になった親もいるようで、その首肯にはより熱が籠る。 「二つ目。万が一児童が魔物に捕まっていた場合、刺激しないよう、極力戦闘は行わないこと。救出する場合は、隙を突いて行うか、より戦闘力のある者を呼ぶか、状況に応じて選択を頼む」  納得はできる。  冷静に対処できるかは分からないが。 「三つ目。止むを得ず戦闘を行う場合、必ず一撃離脱、隊と身の安全を最優先にし、逃げることを考えてくれ」  そして最後に。  物々しく告げられた言葉は、多くの大人たちを絶望に叩き込んだ。 「四つ目。どうしても敵わない敵に相対した場合、隊と身の安全を最優先にすること。その際、児童を見捨ててでも逃げてこい」 「子供を見捨てて来いというのか!」  憤慨した様子のひとりの言葉を、リーダーは仕方ない、と言い捨てる。 「情報を失くすリスクがあるためだ。……児童がひとり、生き残るのと引き換えに、他の児童がすべて助からないのでは、本末転倒だと、俺は考える」  男は静まり返る群衆を眺める。 「質問はないか? ないのなら、速やかに行動を開始しろ! 児童たちの命は、刻一刻と脅かされているぞ!」
参加人数
7 / 8 名
公開 2019-09-30
完成 2019-10-18
《紅葉狩り:中編》紅葉の強襲 (ショート)
宇波 GM
 虫も寝静まる夜、最中。  星々の煌めきも身を潜め、ただ、ただ、闇が広がるばかり。  まるで死に沈むように深く眠る人々の営みを見守る月も、今日ばかりは身を隠す。  新月。その闇は、世界を深く包み込む。 「……おお、愚かな」  空から営みを見守る監視者が視線を背ける闇の中。  白銀に浮かび上がる彼は、月の役目を奪う。  月のように暖かく見守らず、ただ人々を憐れみ、蔑むだけの月。  彼は口角を上げ、愉快そうに目元を歪める。 「永久に手に入れられぬものを、尚も求めるか」  くくく。含むように笑う、彼の脳裏に、真っ赤な、真っ赤な、真っ赤な紅葉。  ぐちゃぐちゃに踏み躙られた、暖かかった紅葉。  今はもう、凍えるほどに冷えた紅葉。 「これは奴の生命維持とも呼べる行為。わたしに止める道理はないさ」  彼は透明な青色の饅頭を箱から摘まむ。  あむ、と口に含んだ饅頭。ぺろりと舌先で、唇に残る甘みを拭い取る。 「人が生きるために生き物を殺し、食べることと同じ、生命維持」  彼はもうひとつ摘まみ上げた饅頭を、おもむろに握りつぶす。 「命を弄び、挙句片付けてあげもしない人よりも、よほど善良ではなかろうか」  くっくっく。彼は尚も楽しそうに笑い声をあげる。  渓谷から空を見上げ、月の浮かばない闇に笑う。 「さあて」  彼の脳裏には、スライム饅頭を差し入れた、学園生徒たちの顔が浮かんでいた。 「奴らは、あやつをどうするつもりなのか」  彼は立ち上がる。  ふわりふわりと、闇に浮かび上がる白銀。  久方ぶりにおもちゃを買ってもらえた幼児のように、無邪気な笑みを浮かべ、闇に浮かぶ。 「楽しみじゃのう」  温泉街『トルミン』から、魔物の討伐を依頼された。  受付窓口では、その報せを受けて詳細を聞きに来た学生と、情報の処理に追われている受付職員たちと、そして依頼を出した調査隊の面々でごった返していた。 「情報の提供はこちらでお願いします!」 「つまり、この辺りが対象ということで間違いはありませんね?」 「生徒の皆さんはこちらで受付をします!」 「早く、出発の準備をしてくれ!」  てんやわんやとなっている受付。  その理由の主な所は、児童が誘拐された、その真実が明らかとなったこと。  加えて、主犯は魔物。  児童の手ばかりを狙う猟奇的な魔物が主犯で、それは複数の魔物を使役している、らしいと調査で明らかとなっている。  すでに取り返しの付かない場所に来ている、そんなことはない。  児童によっては、まだ生きている可能性さえある。  しかし、それも時間の問題。  長引けば長引くほど、その可能性は閉ざされる。  大人たちは焦っていた。  焦りは判断を鈍らせる。  その鈍った判断は、懸命に働く職員たちに投げかける、怒声となって現れている。 「お集まりいただきありがとうございます。時間がありません、早速情報を共有させてください」  切羽詰まった様子の受付職員【ウケツ・ケ】は、大きな地図を広げる。  温泉街『トルミン』、その端部分を含む、『枯れ果てた山脈『ヴド・ベルゲ』』の地図。  その中の一点、真っ赤に塗りつぶされた洞窟がある。 「件の魔物は、ここを住処にしています。ここの周辺が主な活動場所で、児童を攫うのは、専ら手下の魔物たちのようです」  ウケツは一枚の紙を地図の上に乗せる。  いくつかの魔物の絵が描かれている紙だ。  彼はその中の一体を指さす。  赤い身体、くびれの少ないひょうたん型の、ずんぐりとした魔物。  ぎょろりとした目は、絵であるにもかかわらず、恐怖心を与えてくる。 「この魔物は『紅葉ダルマ』。両手両足の無い魔物で、移動は転がりながら。調査によれば、この魔物の移動速度は案外速いそうです。そして、この事件の主犯でもあります」  ウケツは洞窟を指さし、努めて冷静に告げる。 「児童たちはこの洞窟にいると予想されます。……ですが、おそらく、両腕はもう……」  言い淀む彼の言葉の先を、もう察してしまった。  悔し気に唇を噛む者もいた。 「紅葉ダルマは自身より弱い魔物を操ります。操る方法は詳細には分かっていませんが、おそらくこのぎょろりとしたふたつの目。この目で魔物を操っているのでしょう。今のところ報告されている手下の魔物は、『ゴブリン』、『餓鬼』の二種類。数は多いですが、対処できないほどではないでしょう」  できますよね? ウケツの目は雄弁に、彼ら生徒を挑発していた。 「案外余裕なんですね?」 「なにを。これでも結構切羽詰まっているんですよ」  彼なりのジョークだったのだろう。  生徒たちが頷くのを見ると、ウケツは魔物の描かれた紙を挟んで、小冊子を生徒たちに手渡す。 「詳細はまとめておきました。道中にでも確認しておいてください」  学園の出入り口から、彼ら生徒を呼ぶ声が聞こえる。  出立の準備は既に整っている。 「では、行ってきます」  調査隊の背を追う、彼らの手に握りしめられた地図。  地図上で赤く塗られた洞窟はまるで、紅葉を敷き詰めたようだった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2019-10-20
完成 2019-11-08
《紅葉狩り:後編》紅葉の後日談 (ショート)
宇波 GM
《勇者暦2019年11月8日》  今日、弟が帰ってきた。  3日くらい前から行方不明になっていた弟よ。  捜索隊も出ていて、あたしも捜索に参加したかったけれど、ダメって言われたわ。  まだ大人から見ると子供だから家にいなさいって。  探しに行けないことで感じていた歯痒い思いを誤魔化すように、あたしはひたすら木を削ってコップを作っていたの。  作ったコップがちょうど40個になった3日目。  弟が帰ってきたわ。  弟はぐるぐる巻きに、まるで腕だけがミイラになったかのように、きつく包帯を巻かれて帰ってきたのよ。 「どうしたのよ、それ」  とあたしが言うと。 「魔物に攫われていたのよ」  と母さんが言う。 「え? 魔物?」  あたしはてっきり、弟は魔物ではなくて、人間に攫われていたのだとばかり思っていたのよ。  まさか、魔物が攫うなんて思わないじゃない。  だって魔物は、たいていが知能が幼児並みに低いって、そればっかり思っていたもの。 「腕が取れかけているから、しばらく安静にってお医者様が言っていたわ」  なんて母さんが言うものだから。  あたしは驚きすぎて、机の上に置いていた工具をぶちまけてしまったわ。 《勇者暦2019年11月15日》  弟の状態は快方に向かっているようね。  今日、お医者様がそう母さんに言っていたのが聞こえたのよ。  あたしはよかったって、心底思ったわ。  弟がよくなれば、きっと母さんが疲れたような顔をすることも少なくなるはず。  あたしはそれを期待している。  そう言えば、宿街の方の【ソムリ】さんが言ってたわ。  騒動が終わった反動が今来ているって。  騒動の時に来れなかった観光客たちが、わっと集まっているんだって。  人手が足りないって、嬉しい悲鳴を上げていたわ。  でも洒落にならない程忙しいらしいから、この皿を作り終わったら、あたしも少し手伝いに行ってみるわ。   《勇者暦2019年11月18日》  今日は、温泉に行ってきたわ。  効能なんて眉唾物の温泉だけど、天然温泉だから、弟がちょっとでもよくなりますようにって。  あ、もちろん、弟の腕はまだくっついていないから、あたしだけ下見。  母さんたちに内緒でね。  下見に行くのは、天然の温泉。  お店のじゃ駄目よ。なんとなく、そう思ったの。  生垣も何もない、青々とした晴天に見守られながら入る温泉は、きっと格別でしょう。  そう、ルンルン気分で行ったはいいけれど、残念ながら先客がいたみたい。  シルエットから男性。  誰かにバレてしまっては、あたしの弟へのサプライズが、その誰かから漏れてしまうかもしれないわ。  仕方がないから、諦めて帰って来たわ。  ああ、でも。  あの男性、なんだか白銀にきらきら輝いていたわね。  きっと、輝いて見えるほどにイケメンだったのかもしれないわ。  ああ、もったいない!  その顔を見ておけばよかったわ! 《勇者暦2019年11月25日》  母さんが言っていたけれど、魔法学園の生徒たちが何回かに分けて街にやってくるみたい。  名目は『ボランティア』。  魔物の被害に遭ったこの街の復興をお手伝いしますってことらしいわ。  あたしのところは、弟の腕が取れかけたけど……。  それでも、弟は生きて帰ってきたから、そこまで悲しい空気にはなっていない。  でも、他の家は違うわ。  五体満足で帰った子たちは3人いるって聞いているけど、裏を返せば、それ以外の子たちは助からなかったってことだもの。  捜索隊を出して。  原因を突き止めて。  討伐依頼を出して。  ……全員、助かっていればよかったんでしょうけど。  あたしが人ごとでいられるのは結局、弟が助かった、その一点だけが他所と違うからなのね。  学園の生徒さんたちは、心に傷を負った子たちや、子供を失ってしまった家庭へのカウンセリングをする人たちも来るらしいわね。  それだけでなくて、期間限定で足りない人手の補充とかもできるらしいわ。  ……あら! ソムリさん、人手不足が解消できそうでよかったじゃない!  あたし、俄然楽しみになって来たわ。  一体、どんな人たちが来るのかしら。
参加人数
7 / 8 名
公開 2019-12-06
完成 2019-12-24
とある受付職員の受難 (ショート)
宇波 GM
「ねえ、聞いた?」 「聞いた聞いた。聞いたどころか見た」 「見た? どうだった?」 「すごいクマ」 「クマすごい?」 「クマすごい」  ひそひそ食堂で囁かれている、世間話程度の噂話。  それは、とある受付職員にまつわるもの。 「【ウケツ・ケ】さん、最近いつ休んでいるの……?」  魔法学園『フトゥールム・スクエア』における、職員の修羅場というものは常に不定期にやって来る。  何月は暇で、何月からすごく忙しくなる、そんなルーティーンは夢にも見てはいけない。  なぜならば、魔物が大量発生したという連絡があれば、現地に赴き下見をし、書類を作成し教室の掲示板に貼りだし。  通常業務に加えて各地からくる問い合わせに対応しなくてはならない。  祭り等イベントをしたいが人手が足りないと連絡があれば、現地に赴き打ち合わせをし、書類を作成し教室の掲示板に貼りだし。  通常業務に加えて参加希望者各位に詳細を説明したり、必要な物資等あれば揃えるために手配したりしなくてはならない。  学園内で干しブドウ欠乏症に陥っている【コルネ・ワルフルド】先生が暴れていると連絡があれば、現地に赴き足止めをし、状況を待機している受付に連絡し、書類を作成し、教室の掲示板に貼りだす前に大声で手伝いを求め。  通常業務どころではないから、作業していた手を止めて。  生徒たちが作戦会議をしている間、受付職員が総出で被害を拡大しないように踏ん張っている。  そんな修羅場は、時期が決まってくるものではない。  どこからともなく現れて、嵐のように去っていく。  それが、職員が対峙する修羅場の印象。  さて、学園窓口では、新年早々、そんな修羅場がまたやって来ていた。  そのため、朝から晩まで受付職員は馬車馬の如く働いていたのだが。  その中でも、ウケツという男は、文字通り休む間もなく働いていた。  いつ、どのタイミングで誰が行っても、ウケツが休んでいるところを、ここ最近見ていない。  受付職員が利用する休憩所にすらも訪れることはなく、常に受付に缶詰めになっている状態だという。 「……ウケツ先輩」 「はい、なんでしょう」 「……今、何徹目ですか」  後輩職員に恐る恐る聞かれたウケツは、指折り数え――その指の数が尋常でない本数であったことを、後輩は見ないふりをした――答えた。 「十五徹目ですね」 「寝てください!」 「大丈夫です。人間、五徹目以降から眠くなくなってきますから」  爽やかに笑うウケツ。  人はそれを、ただハイになっているだけだと言う。 「……なーんてことを言うんだよ、ウケツ先輩」 「はあ、そりゃ大変だったね」  ウケツの後輩職員は、残業終わりに食堂で同僚に愚痴のように話す。 「絶対疲れは溜まっているはずなの! だって!」  後輩は普段のウケツでは絶対にしないはずの失敗をつらつらと並べる。  例えば、書類の誤字や誤用に始まり。  この間はブラックコーヒーに、砂糖と塩を間違えて入れただとか。  うっかりばら撒いた書類の中の重要書類が、生徒の鞄に混入してあたふたと焦って仕事量を増やしてしまっただとか。  チョークを飴と勘違いして、『千歳飴だー』なんて言いながら食べてしまっただとか。 「絶対それ疲れてるわ」 「でしょう?! 今日も仕事を上がるときに、『お疲れ様です』って言いながら、あの人、なんて言ったと思う?!」  同僚は、ぷんぷんと興奮しきりの後輩職員を眺める。 「『私のメガネ知りませんか?』だよ?! 頭の上にあるのに加えて、もうひとつ別のメガネがちゃんとかかっていたのに!」  同僚は言葉もなく笑うしかなかった。 「だからなんとかして休ませたいんだけど……。ここ最近、何かに取り憑かれたように仕事仕事ばかりだから……」  ぶぅ、とホットミルクを口に運ぶ後輩職員。  その背後から、ぬ、とひとりの男性が顔を出す。 「おや、まだ帰ってなかったんですか」  噂のウケツ・ケ、その人だった。 「早く帰って、体を休めてくださいね」  大量の書類を手に、おそらく教室の方へ去っていくウケツのその肩。  なにやら白い、拳大のものがうにゅうにゅ蠢いている。 「せ、先輩。その肩のものは……?」 「肩のもの?」  不思議そうな顔で肩を見るウケツ。  しかし白いものは、視線から逃れるようにうにゅうにゅ移動してしまう。 「埃か何かでしょう。ほら、そろそろ帰って休まないと、明日に響きますよ」  最早欠伸も出なくなった、濃いクマを浮かべた顔で、ウケツは去って行ってしまった。 「……憑いてたね」 「……うん、憑いてた」 「と、いうわけで!」  ばあん! と机を叩くのは後輩職員。  空き教室に集められたのは、授業後の休み時間、のんびりとしていたところを運悪く見つけられてしまった生徒たち。 「今現在、受付職員であるウケツ・ケの肩に取り憑いているのは、『ハンタイのサナギ』と呼ばれる魔物ではないかと推測されます」 「ハンタイのサナギって、どういった魔物でしょうか」  後輩職員は、資料を一枚手に取る。 「性質を反対にしようとする魔物である、と調査した資料には書いてありました」 「性質を反対に?」 「はい。のんびり屋をせっかちに、大食らいを少食に。ウケツ先輩は働き者で、修羅場の際も率先して働いていましたので、その反対の性質と言えば怠け者……」  あるいは、疲れた体を休めたいと思う、生物的な本能が表面に出ているのかもしれません。  後輩職員の説明に、生徒は疑問符を浮かべる。 「それって、悪いこと? 事実働きすぎなんだし、休ませてあげればいいんじゃないの?」  後輩職員は、諦観の笑みを浮かべる。 「ええ、きちんと休んでくれるなら、わたしたちも放置するつもりでした。ですが……」 「ですが?」 「……ウケツ先輩、意志が強いんですよ」 「……はぁ?」  後輩職員曰く、このハンタイのサナギは、取りついた者の『本来の性質でありたいと願う意志』が強ければ強いほど、相反する性質が大喧嘩を起こしてしまうのだとか。  現状、ウケツの『真面目に働かなければならない』という信念にも似た意地がハンタイのサナギの性質を上回っているのだという。  その結果、意固地になった子供のように、『絶対に何があっても休まない』ウケツ・ケが出来上がってしまったのそうだ。 「ハンタイのサナギは、取りついた本人の意志が強ければ強いほど、正反対にする予定だった性質が取りついた人から失われていく。そんな厄介な魔物なんです……」  だが、そうした経緯の末に出来上がった『絶対に何があっても休まないウケツ・ケ』であるが、身体的スペックは元のまま。  一気にスペックが下がったり、いきなり上がったりしない。 「そのせいで、ウケツ先輩の疲労度はもうマックスに……! 本人の意識していないところで、まるでコメディ作品のようなミスを連発しているんです……!」  先輩、火炎魔法石は大きなイチゴ飴じゃないんですよおぉ!!  後輩職員の嘆きは、惨状を思い起こさせるには十分すぎるものだった。 「ええっと、それで……。俺たちはどうすれば?」  同情だったのだろう。  差し出された手を、後輩職員は救いもかくやと握りしめる。 「先輩を……! ウケツ・ケ先輩を休ませてください!」
参加人数
6 / 8 名
公開 2020-02-01
完成 2020-02-19
ゆうカレ! (ショート)
宇波 GM
「えぇっと……これは?」 「現在鋭意製作中の魔法遊戯、『ドキドキラブラブ☆ゆうしゃのカレぴっぴ~新入生だけどがんばるもんっ!~』。略して、『ゆうカレ!』の、箱です」 「箱」 「箱です」 「……それを、学園の受付に持ってきて、こちらはどのようにすればいいのでしょうか」  困惑した風に目の前の(おそらく)依頼人を見つめ返す【ウケツ・ケ】は、ファンシーな図柄とタイトルの書かれた空箱を、困ったように弄ぶ。 「我々は、乙女のきゅんがめいっぱい詰まった魔法遊戯、乙女魔法遊戯を開発したく、日々研究と製作を続けています」 「……はい?」 「その開発のために、こちらの生徒さんたちにお手伝いをしていただきたいと依頼をしに来たのですが」 「あの、その得体のしれない遊戯とはいったい」 「ああ、魔法遊戯が何かを知りたいと仰るのですね?! よいでしょう。私が懇切丁寧に、みっちり、めっちり、びっちゃりと教えて差し上げましょう!」  お手々をわきわき。  じりじりと迫りくる女性に、ウケツは本能的な恐怖を感じて後退った。 『よくわかる! 魔法遊戯!』  魔法遊戯とは! 架空の世界で行われる冒険や、遊びを体感できる遊戯のことである!  まるで異世界! まるで現実! 魔法遊戯の世界の中に入って、ひとりのプレイヤーとして遊ぼう!  時には魔王を倒したり! 時にはよその家のごみ箱を漁ったり!  例えば料理をしてみたり! 楽しくお勉強だって出来ちゃうかも?!  どんな世界を体験できるかは、魔法遊戯の記録媒体次第!  みんなも、別の世界で遊んでみない?!  まるで子供に読み聞かせるかのような紙芝居を取り出し、鼻息荒くウケツに説明した女性。  ウケツのメガネの下は虚無の顔。 (全然わからん) 「どうです? よく分かる説明でしょう!」 「よく分からないことだけは分かりました」  返答に、紙芝居を落とす女性。 「ああ、もう! どうして分かってくれないの!」  むっきぃ。  ポケットから取り出したハンカチをかみかみする女性は、ウケツに向かって硬そうな四角いもの――箱とは違うようだ――を向ける。 「体験してもらった方が早いようですね」 「なにを」 「受付さん。あなたは今から……」  ばーん。  指をさす代わりに、四角いものからピンクの光が流れ出る。 「女学生になってもらいます!」 「ナ、ナンダッテー!」  あたし、ウケツ・ケ!  今日からこの魔法学園に入学するの!  うわぁ、どんなことが起こるんだろう……。  魔法薬の実験で大爆発を起こすかな? 箒に乗って雲のずっと上まで飛んでいくかもしれないわ。  それからそれから、地中から掘り出したマンドラゴラと運命的な出会いをしちゃったり……きゃーっ!  うん、すっごくドキドキしてきちゃった!  きーんこーんかー。  いけない! 入学式の時間だわ。  体育館はどっちかしら、きゃっ!  もう! だれよ向こうからムーンウォークでやってきて、空中バク転三回転を決めたうえできれいに着地してぶつかってきたのは! 「おっと、ケガはないかい、マドモアゼル?」  手を差し伸べてきている、この男の人は、先輩? 「すまないね、少し急いでいて、ついムーンウォークで空中バク転三回転を華麗に決めてしまったんだ」  ああ、『急ぐから』と言って桜舞い散る道を足早に去って行ってしまったあの人。  この気持ちは、まさか……。 『魔法学園の新入生として入学してきた貴女。貴女はこの学園で、たくさんの出会いを繰り返し、そして運命の彼ぴっぴを見付けていくのです』  ふー、と長い溜息。  溜息の分だけ、沈黙が落ちる。 「どうでした? 恋、したくなったでしょう? これが! 『ゆうカレ!』体験版です!」  ウケツは徹夜で書類仕事をした時のように、眉間を人差し指で揉み解す。 「たしかに、魔法遊戯については分かりました。要するに、ある一定の記録を再生し、プレイヤーに没入体験をさせる遊戯ですね」 「ロマンの欠片もない言い方で非常に不満が残りますが、概ねその通りです」 「その記録媒体にそういう魔法を組み込んでいるのでしょうね。よくできていると思います」  女性が得意げな顔になったところ、『だからこそ』とウケツが遮る。 「あのクオリティは看過できません! なんですか、マンドラゴラと運命的な出会いって! なんですか、ムーンウォーク決めた後にバク転する不審人物って!」  そもそも魔法薬学で毎回鍋が爆発してたまるかー!  ウケツの心よりの叫びである。毎回毎回、予算が。 「そしてですね、おそらくこのゆうカレ! のコンセプトは、きっとこの主人公に恋愛をさせる、そんなゲームなのでしょう」 「ええ、そうです」 「だったら!」  ばあん。  ウケツ、机をばあんする。 「せめて魅力的な登場人物を作りましょうよ! 顔がリアル茄子の人間なんて、恋愛対象になり得ないんですよ!」 「モデルと予算が足りねえんだよー!」  女性は魂からの咆哮を響かせた。 「ええー、そういう経緯もありましてね。ここに集まってくれた皆さんにぜひ、この魔法遊戯の登場人物のモデルになってほしいんですよ」  もちろん、集まってくれているのが男性だけとは限らない。 「依頼人からの登場人物についての要望……? これ要望になるんですかね? を伝えさせていただきます」 『百合展開? アリ寄りのアリ』 『薔薇展開? いいじゃない! そうだ、開始時に主人公の性別を選べるようにするのも面白いわね!』 『男装? ……もう! 乙女心擽るナイスアイデア! この案を考えた鬼才はどなた?!』  ウケツはメモをぱたんと伏せた。 「要するに皆さんには、乙女心をくすぐる登場人物のモデルになり、どんな行動をしてどんな台詞を言うのか、考えてほしいそうですよ。……ああ、それから、どんな行動を相手がすれば好感度が上がるか、また下がるか、なんかも」  よろしくお願いしますね。  そう頼むウケツ。  いつもパリッとキメているスーツは、心なしか皺が寄ってくたびれている気がしてならない。  何を隠そう、既にキャラクターのモデルにされたばかりなのである。  やや疲れている彼に同情を禁じ得ないが、それはきっとここにいる誰にも伝わることはないのだろう。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-03-21
完成 2020-04-08
今日は惚れ惚れ (EX)
宇波 GM
「はっ……はぁっ!」  学園の廊下を走る。  当てもなく、ただひたすら走る。  少しでも離れるために。  うっかり目を合わせないために。 「どうしてこんなことに……!」  息も絶え絶えに、逃げ切れたと思った恐怖が目の前に迫るのを見て、絶望に染まった表情を浮かべる。 「わたしに近付かないでください!」  そして彼らは、目が合った。  事の発端は数時間前。  本日、職員の朝礼が始まる直前のこと。  朝礼に遅刻することが稀である勤勉な職員たちが集う職員室に突如転がり込んでくる、歓喜の雄叫び。 「できた……! できたんだよぉ! 聞いてくれよ、できたんだよぉ!」  無精ひげを生やし、長い間手入れしていないのが分かる脂ぎった髪をアフロのように爆発させた男性。  彼の胸元には【ウツ・ケ】と書かれたネームプレートが斜めに下がり、羽織っている白衣は皺だらけになっている。  心なしか、少し臭う。  そんな彼の手にあるのは、大きめの瓶。  中身は白い錠剤がいくつも入っている。 「できたって……それ、なんです?」  比較的勤続年数を重ねている女性職員が顔を顰めながらも彼に話しかけている傍ら、新人として入ってきた後輩職員は、書類を確認しながらコーヒーに舌鼓を打つ【ウケツ・ケ】へ囁く。 「先輩……。あの人、誰ですか?」  ウケツはほんのわずかな時間だけ、ウツに視線を遣る。  その視線はすぐに書類へと戻っていく。 「ああ、この学園に在籍している研究職のひとりで……金食い虫のような男ですよ」  苦々しく吐き出したウケツの言葉に、後輩は思わずウケツの顔を二度見する。  普段穏やかな表情に、一瞬だけ現れた眉間の皺。  すぐに消えたそれが、見間違いかと瞬きを繰り返す後輩の髪がウケツの鼻腔を擽る。 「ところで香水でも変えました?」 「え? 香水なんて付けてませんけど……」 「おかしいですね。いい匂いがすると思ったのですが」  しきりに匂いを嗅ぐウケツの姿は、大型犬を彷彿とさせる。  ややくすぐったく感じている後輩の鼓膜を劈く、女性職員の声。 「ウケツ先輩! コーヒー飲んじゃダメ!」 「え?」  呆けたように呟くウケツ。  その手元にあるマグカップの中身は、既に半分以上、その姿を消している。  顔面蒼白になる女性職員。  訳も分からずマグカップを握りしめているだけのウケツ。  そして、愉快な見世物でも見ているかのように、厭らしく笑むウツ。  マグカップの中のコーヒーが、丸い波紋を浮かべる。 「ウケツ先輩。よーく聞いてくださいね」  女性職員は意を決した様子で、やや早口で伝える。 「この研究職が作ったのは、いわゆる『惚れ薬』です」 「は、はい」 「そしてこの人は、それをウケツ先輩のコーヒーに入れました」  ウケツは条件反射で吐き出そうとする。  無論、吐くものなど何もない。  空咳だけが苦し気に響く。 「先輩、飲んでしまったものはしょうがありません。聞いてください」  女性職員がウケツの肩を掴み揺さぶる。  それは女性職員さえも冷静さを欠いているかのような、やや乱暴な揺すり方。  しかしその視線は泳ぎ、ウケツと目を合わせようとしない。 「それは飲んでから時間を経るごとに効果を増していきます。初めの数分間はまるで出会いたてでまだ恋を知らない少年少女のような甘く初々しい気持ちが芽生えます。そう、目が合った人誰もにその気持ちを抱いてしまうのです」  ウケツは思わず先ほどまで会話をしていた後輩に顔を向ける。  後輩は勢いよく顔を背けた。 「続けて第二段階。薬を飲んでから十分、あるいは十数分の間に起こる症状です。それは思いが通じなくてもどかしくなる、苦しい時期……。そう、片思い期に突入するのです。片思い期では、出会い期に目が合った人限定で苦しい片思いのような気持ちを抱きます」  ウケツは後輩の方向を勢いよく見た。  後輩は筋を傷めないだろうかと心配するほど勢いよく顔を背けたままでいる。 「そして効果はクライマックス。薬を飲んできっかり三十分で起こる症状、熱愛期。片思い期で片思いを抱いた人の内、三十分経ってから初めて目を合わせた人に、狂おしいほどの愛情を抱きます。……厄介なことに、異性だけでなく、同性とそうなる可能性もあるそうで……」  ウケツは以下略。  後輩は以下略。 「惚れ薬の効果で惚れた相手と一緒になれるのなら、別に元に戻さなくても支障はないそうなのですが……」 「至急、元に戻る方法を」  語気を強めた声で、ウケツはウツの方を睨む。  ウツはウケツの視線を受け、興奮に頬を染め、身を震わせながら高らかに叫ぶ。 「なぜ愛情を否定するんだい? それは素晴らしいものであるのに! ああ、それともウケツ。君は人を愛することを恐れているのかい?」 「あなたの一人芝居に付き合っている暇などありません。元に戻る方法を教えなさい、ウツ」  ウツは眉を下げ、つまらなそうに口角を上げる。 「しょうがない。他ならないウケツのために教えてあげようじゃぁ、ないか」  ウツは白衣の裾を翻し、窓際へと歩いていく。 「ひとつ。この薬を飲んだ別の者と、ハグ、オア、キス。段階は互いに関係ないよぉ。薬さえ飲んでいれば、キスで目覚める姫の如く互いに目が覚めるであろう。……ふ、ふふっ」  ウツの含み笑いに、ウケツは眉を顰める。 「他にも方法があるのでしょう。……あなたが人を食うような笑い声を発するときは、大抵他の手を隠して人をおちょくっている時だ」 「ん、んー。昔の純真なウケツはどこに行ってしまったんだろうねぇ? ……まあ、いいさ。そうとも、手はもうひとつある。それは……」 「それは?」  ウツは瓶の中身を窓の外へとぶちまける。 「惚れ薬をもう一錠飲むことさ! さすれば呪いは解かれるであろう!」 口を大きく開き、驚きを表現するウケツたち。 「ああ、安心して? これは偽物だからさぁ。本物はね……」  遠くの方から、騒がしい音が聞こえてくる気がする。  嫌な予感に耳を塞ぎたくなる衝動に駆られる。  ウツは手を薄っぺらく振り、軽薄な笑みを浮かべた。 「学園内にばら撒いてきたからさぁ。食堂とか、購買とか? だからねウケツぅ」  ウツは、ただひたすら睨むウケツを余裕な笑みで流した。 「元に戻れるといいねぇ?」 「……っ! みなさん、今すぐ食堂と購買に連絡を! 至急、流通を止めてください! わたしは今から校内放送で呼びかけます!」  ウケツが再び睨んだ窓際には、ウツの姿はもうなかった。
参加人数
8 / 8 名
公開 2020-05-25
完成 2020-06-12

リンク


サンプル


「ねぇ、乾き、って、どう表現すればいいのかな」
 ぼんやりとした疑問を言語化したような、唐突な疑問。
 吐き出した疑問は、木製ベンチで跳ね返る。
 スズメを数羽、見送って、頬の空気を吐き出し笑う。
「なあに、突然」
 肩を竦め、隣に顔を向け。
 ベンチの隣人は、悠揚とした微笑みを浮かべる。
 細い指は口元へ、何を考えているのか読み辛い糸目は、傾げた首とともに傾く。
「だって、例えば笑うって行動ひとつ取っても、豪快な笑い、とか、忍んだ笑い、とか、泣きそうな笑い、とか、色々あるじゃない」
「そうね」
 眉を下げ、への字の口元をそのままに、細い指は腕組みに仕舞われる。
「だったら、乾きはどう表現すればいいのかな」
 隣人は、再度質問を繰り返す。
 貧相な知識量に窮乏としつつも、捻りだしたのは、やはり面白味もなにもない、陳腐な回答のみ。
「乾燥とか、普通に乾いた、とかじゃない」
「ああ、やっぱりそうよね」
 隣人は、頭上を蓋する青空に手を伸ばす。
 疲れた体をほぐす、ストレッチの動き。
 隣人の動きに合わせ、視線は上下に移動する。
「ねえ」
「なあに」
 問いかけに、反応を示す隣人。
 ぽん、と木製ベンチに跳ね返らせた質問は、ぼんやりとした疑問を言語化したような、ある意味必然の疑問。
「もしかして、アキは渇いているの」
 細い指は体の横に。
 糸目が僅かに揺れ動く。
 隣人は頭上の蓋を大きく見上げる。
「……ねぇ」
「なあに」
 隣人はぼんやりとした答えを言語化する。
「喉、渇いたね」
「そうだね」