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金紅の麗人が馳せるはキノコへの思慕か


ストーリー Story

「――ではお次でお待ちの方、どう……ぞ……」
 学園の案内窓口。
 そこの受付嬢が右手を挙げ、順番待ちをしていた女性を促そうとして、息を吞む。
 女性は金髪紅眼の麗人で、漆黒の――ともすれば、不吉ともとれるドレスを身に纏っていた。『歩く』という所作ひとつをとっても一切の隙は無く、そして、どこか柔和で物憂げな視線に、受付嬢は釘付けになっていた。
 やがて女性が窓口の前まで来ると、受付嬢はその佇まいに圧倒されつつも、なんとか口を開いた。
「ほ……本日は、どのようなご用件……でしょうか……?」
 いつの間にか、その場にいた全員が、その女性の一挙手一投足に注目していた。女性はほんの少しだけ間を置くと、遠慮がちに、おずおずと口を開いた。

「――キノコ」

「……………………へ?」
 受付嬢は何が起こったのか理解できず、間の抜けた声で訊き返した。
「えっと……いま、なんと……おっしゃい……ました……か?」
 女性はすこしだけ驚いた表情を見せると、気を取り直し、見る者全てを凍てつかせるような表情で、再度『キノコ』とだけ答えた。
 ――沈黙。
 その空間が、まるで永久凍土に閉じ込められたのではないか、と錯覚してしまうほどの中、突然、メイド姿の女性が息を切らしながら女性の横に立った。
「す、すみません! 寝てました!」
「……はい?」
 受付嬢は事態が飲み込めず、あからさまに首を傾げてみせた。
「あの! わたし、この方の従者で【マリア・アレストポーチャー】と申します。本日は、この方の通訳として同行させて頂きました!」
「は、はぁ……ということは、こちらの方がさきほど仰っていたのは……?」
「わたしたちの言語でございます!」
「そ、そうなんですねー……へー……」
 とても承服できないという表情を浮かべながら、受付嬢は自分を納得させた。
「そ、それで、本日はどのようなご用件で?」
「……マイタケ」
 女性がポツリと、呟くように言う。
「あの、そちらの方は今何と……?」
「『本日は魔物の討伐依頼でこちらへ伺いました』と、仰っております!」
「あ、そうなんですね。わかりました。では、依頼の詳細をお教えいただけますか?」
「……エリンギ」
 もはや、女性とは目すら合わせなくなった受付嬢は助けを乞うように、マリアに目配せをした。
「『わたくし、じつはキノコ狩りが趣味でして、毎年秋には山へキノコを狩りに行くのです。その時期に生えるキノコというのはとても美味でして、食感、味、香り……どれをとっても天へと昇るほどの高揚感、多幸感を味わえるのです。それはまさに、天からの贈り物。それはまさに、自然が生み出せし神秘の結晶。わたくしは――』」
「ちょっとちょっと! ちょっと、待ってください!」
 受付嬢が手のひらをマリアに向け、話を中断させた。マリアは話を中断させると、不思議そうな顔で受付嬢を見た。
「いかがなさいましたか……?」
「いやいや、『いかがなさいましたか……?』じゃなくてですね、おかしいでしょう! 私の耳が確かなら、そちらの方はエリンギとしか仰っていないように聞こえたのですが? 本当にそう仰っているのですか?」
 マリアはすこし眉を顰めると、女性に向かって『ブナシメジ』と言った。女性はマリアの言葉を聞くと、受付嬢をまっすぐに見て、しっかりと『ブナシメジ』と答えた。
「えっと、なんと仰っているのですか……?」
「『マリアは信頼できる従者です。嘘偽りを述べる筈はありません』と、仰っております!」
 受付嬢は軽くため息をつくと、『中断させてしまい申し訳ございません。……ですが、出来るだけ要点のみをお願いできますか』と答えた。
「……シイタケ」
「『はい。では、話を続けさせて頂きます。……もちろん、わたくしは毎年それを楽しみにしていたのですが、最近キノコ狩りが流行っているのか、多くの方たちがキノコを狩るようになってきました。すこし複雑ではありますが、皆さんがキノコの良さに触れ、キノコを美味しく食しているというのは大変喜ばしい事です。ですが、最近では狩ったキノコを自分では食べず、高値で市場に卸す不届きものが出没するようになってきたのです。これでは本当にキノコを食べたい方が食べられなくなってしまいます。ですので、このわたくしが秋になる前のこの時期に、キノコをひとつ残らず狩り尽くし、栽培し、皆さんに配ろうと考えていたのですが……最近、その山にジャバウォックという魔物が住み着いたと聞きまして、わたくし、実際に確かめに行ってきました。そこで見たのはエリンギのように発達した爪と、マイタケのように鋭い牙を持った魔物でした。これではキノコを狩る前にわたくしが狩られてしまいかねません。……ちなみにこれはキノコジョークです』と、仰っております!」
 マリアがそこまで言うと、女性は何か期待するような眼差しで受付嬢を見た。
「……いや、笑いませんよ?」
 受付嬢はそうやって冷たく突き放すと、女性はあからさまにシュンと小さくなってみせた。
「はい。大体の話はわかりました。要するにジャバウォックの討伐依頼ですね」
「……エノキタケ」
 女性が声を発した瞬間、受付嬢はすぐさまマリアを見た。
「『もし、この課題を達成していただけましたら、わたくしセレクトの珠玉のキノコと少しばかりのお気持ちを差し上げます』と、仰っております!」
「承りました。では、その様に募集させていただきますね」
「……トイレドコ」
「はあ?」
「『御手洗はどこですか?』と、仰っております!」
 受付嬢は何か言いたそうにすると、『み、右手方向をそのまま進んで、突き当りを左です』と、グッと飲み込んだ。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2019-08-08

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2019-08-18

登場人物 3/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《人間万事塞翁が馬》ラピャタミャク・タラタタララタ
 カルマ Lv22 / 魔王・覇王 Rank 1
不気味で人外的な容姿をしたカルマの少女。 愛称は「ラピャ子」や「ラピ子」など。 名前が読み難かったらお好きな愛称でどうぞ。 性格は、明るく無邪気でお茶目。 楽しいと面白いと美味しいが大好き。 感情豊かで隠さない。隠せない。ポーカーフェース出来ない。 そしてちょっと短気なところが玉に瑕。 ギャンブルに手を出すと確実に負けるタイプ。 羞恥心を感じない性質で、露出度の高い衣装にも全然動じない。 むしろ前衛的なファッション格好いいと思ってる節がある。 戦闘スタイルは我流の喧嘩殺法。 昔は力に任せて単純に暴れるだけだったが、 最近は学園で習う体術を取り入れるようになったらしい。 しかしながら、ゴリ押しスタイルは相変わらず。 食巡りを趣味としているグルメ。 世界の半分よりも、世界中の美味しいモノの方が欲しい。 大体のものを美味しいと感じる味覚を持っており、 見た目にも全く拘りがなくゲテモノだろうと 毒など食べ物でないもの以外ならば何でも食べる悪食。 なお、美味しいものはより美味しく感じる。Not味音痴。 しかし、酒だけは飲もうとしない。アルコールはダメらしい。 最近、食材や料理に関する事を学び始めた模様。 入学までの旅で得た知識や経験を形に変えて、 段々と身に付いてきた…と思う。たぶん、きっと、おそらく。

解説 Explan

【目的】
 ●魔物の討伐。
 ●ジャバウォックの討伐若しくは捕獲をお願いします。
 ●ジャバウォックの生死は問わずです。生け捕ろうが、死体を持ち帰ろうが報酬は変わりません……が、ジャバウォックを生け捕りにしたら、十中八九依頼人の女性は困った顔をします。出来れば討伐してあげましょう。

【場所や状況】
 ●夏の山です。舗装はされていませんが、人が通るような道はあります。しかし、すぐ横に逸れれば木や草などが鬱蒼と生い茂っています。ジャバウォックは大抵そこにいます。以下にジャバウォックの特性等を記載。

【生態】
 森に住む生物の特性を真似て作られた魔物。
 強力な爪と顎を持つ。
 外見は、熊のようであったり、狼のようであったりと様々で、進化レベルによっては二足歩行をも使いこなす(今回は熊のような外見のジャバウォック)。
 ジャバウォックに共通する特徴として、
 ・「発達した爪と牙」を持つ
 ・「目が異様に赤い」
 といった2点がある。
 以上の事から、通常の生物と魔物とを区別する事が可能である。
【本能】
 知能は無いが凶暴で好戦的。
【属性得意/苦手】
 無/無
【得意地形】
 森や藪の中
【戦闘スタイル】
 鋭い爪と牙による引っ掻きや突き刺し、噛み砕きなど。
 武器は所持していない。
【状態異常】
 無

【書いていただきたいこと】
 ●これといって特に縛り等はありません。ご自由にジャバウォック狩りをお楽しみください。

【注意・その他】
 ●なるたけプランに準ずる描写をいたします。
 ●公序良俗に違反する内容は描写できかねますのでご注意ください。
 ●アドリブがそれなりに入ります。ですので、NGな方はプランに『×』とお書きください。


作者コメント Comment
 閲覧誠にありがとうございます。
 新米GMの水無(みずなし)と申します。
 今回、これが二回目に投稿するエピソードです。至らぬ点は多々ございますが、一生懸命向き合うので、どうかキノコのような香り高い心で笑い飛ばしていただけたらな……なんて、夢想しております。


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
●作戦と分担
熊系ジャヴァウォック(以下、熊ウォック)退治と、アフターケアを

●索敵・事前準備
熊ウォックの出現時期、足跡や排泄物などから類推できる個体数、熊ウォック以外の痕跡がないかを可能な限り確認。

●行動
プランにない部分は皆と連携、あわせて行動。
山に入ったら熊ウォックの奇襲に注意しつつ探索
遭遇後は『勇者原則Ⅰ』を試み、自分は前衛として壁役に。
火力で優れる場合は『衝撃享受』で受け、タイミングを見計らって『通常反撃』、ここぞという時は『勇者之斬』か『マド』の一撃を。

●撃破後
複数体が確認できている場合は全て撃破しきるまで調査。
また依頼人にはキノコの繁殖に問題はないか、必要なら学園の専門家を紹介すると

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:82 = 55全体 + 27個別
獲得報酬:2250 = 1500全体 + 750個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
己のしょーもない誤差レベルの資産追加のために、自然物の乱獲と相場の露骨な吊り上げ、ねぇ。むかつき気に病み感情はわりとわかりみ。
それはそれとして、狩り仕留めたジャバ肉はザコちゃんがもーらう。弄るし食べるし遊ぶ。

とりまジャバ見つかるまでは【聴覚強化】な【聞き耳】と【気配察知】で探しとく。不意打ちされんのもめんどいし。
でもって、先んじてジャバの気配見つかり発見できたんなら、そこに【キラキラ石】とかぶん投げ【投擲】しておびき出すように。無理に突っ込みたくないしねぇ。
なるたけ、きのこ生える森に被害出すのもあれ。出来るだけ広いとこに【挑発】して誘導できるといーかな。
きのこは腐敗した倒木にも生えるとはいえ。

ラピャタミャク・タラタタララタ 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
ジャバウォックを討伐するのじゃ!キノコのために!

【行動】
ジャバウォックを討伐するのじゃ。
仕掛けるタイミングは皆に合わせるのじゃ。

あちきは長柄の斧を構えて突っ込むぞ。
攻撃は最大の防御という言葉がある。
斧の最大の間合いを出来る限り維持しつつ、ガンガン攻撃するのじゃ。

後手に回った時にも反撃じゃ。
急所である右手と左足にだけは食らわないように注意しつつ、
無痛のいたみで耐えながら強引に反撃するのじゃ。

無痛のいたみを維持できなくなったら、もっと攻めに出るぞ。
暴君誕生で斧を振って振って暴れまくりじゃ!
未来の魔神ラピャタミャクの名、その身に刻め!そして、晩御飯となるのじゃ!(報酬のキノコ的な意味で)

リザルト Result

「今回の依頼の褒美は何とキノコなのじゃ! それもなにやら、プロが厳選した珠玉のキノコとのこと……今から秋の味覚を一足先に味わえるかと思うと……じゅるり、よだれが止まらぬのう! 止まらぬのう!」
 うだるような真夏の熱気を、完全にシャットアウトするほどの新緑……もとい深緑の森の中。【ラピャタミャク・タラタタララタ】はどこからか拾ったキノコを片手に、鼻歌まじりで草木をかき分け進んでいた。
「どうじゃフィリン? 汝も今から楽しみで仕方なくなっておるのではないのか? 仕方なくなくなくなっておるのではないか?」
 ラピャタミャクに話題を振られた【フィリン・スタンテッド】はラピャタミャクの顔を一瞥すると『そうね……』と、ため息交じりに答えた。その反応を面白くないと感じたのか、ラピャタミャクはずいっとフィリンの顔を覗き込んだ。
「ふふん、表面上はそのようなつれない態度をとっておるが、内心楽しみで楽しみでたまらんのじゃろ? ん? もっと素直にならんか」
「べつに、あなたほどではないわよ。というより、あなたがさっきから持っているそれ……一体何かしら?」
 フィリンはそう言って、ラピャタミャクの手の中にあるトゲトゲした赤いものを指さした。
「ム? 見てわからぬか? これはキノコじゃ。腹が減った時に食おうと思うての。そこらへんで採ってきた」
「……私、決してキノコに対して造詣が深いわけではないのだけれど……例えお腹がすいていたとしても絶対食べないわよ、それ。そもそもあなたの持っているそれ、毒キノコじゃないの? 触って平気なの?」
「毒キノコ? はん、何をバカな! あちきとてそれくらいの見分けはつく。たしかにほんの少し、普段食べているキノコより色鮮やかではあるが……あるが……かゆっ!? 手、かゆっ!? なんじゃこれ!?」
「やれやれね。十中八九毒キノコよ、それ」
「ま、まさか、あちきともあろう者が……! こんな古典的な罠に……!」
「罠って……まったく、これからはむやみやたらとキノコを採取しないことね」
「そうじゃの。気をつけよう」
「……切り替えが早いわね」
「しかし、これではせっかく美味しいキノコを見つけても素通りしてしまいかねん……どうすれば……そうじゃ! これからキノコ狩りをするときは図鑑でも持ってくるかの! あったま良いのう! あちき!」
「……ちょっとちょっと、さっきから元気いいねー赤猫目のまおー様」
 今まで『聞き耳』をたてながら先頭を進んでいた【チョウザ・コナミ】がそれを止めた。
「うむ。あちきは元気いっぱいじゃ!」
「……うん、まあ。それは見てわかンだけど任務が……て、ま、いっか。元気はないよりあったほうがいいしねー」
「うむ! 元気いっぱい頑張るのじゃ!」
「はぁ……なんだかイマイチよくわかってない気もするけど……とりあえず迷惑になるようなことをしなければ、私としては何でもいいわ」
「わかったのじゃ! これからはきちんと図鑑で調べてから、オススメするとしよう!」
「……ほんとうに大丈夫かしら……」
 フィリンはそう呟くと、再度頭を抱えてみせた。
「……のう、ところでザコちゃんよ。まだジャバウォックは見つからぬのか? なんというか……まだ昼なのに辺りはかなり暗いぞ?」
 ラピャタミャクの指摘通り、三人は既に森の奥深くまでやってきていた。そこでは最早、人の声はおろか、鳥の囀りや動物が草をかき分ける葉擦れの音さえも聞こえなくなっていた。
「そうね。今回の討伐対象は熊型のジャバウォックとのことで、私のほうでも色々と痕跡を探したりしているのだけれど……」
「うむ。夏と言えば熊も精力的に活動する季節。つまるところ、そこかしこにマーキングをおってもおかしくないはずなのじゃ」
「マーキングって……」
 フィリンがあきれたような顔で、ラピャタミャクの言動にツッコむ。
「まあ、モノホンの熊と魔物とを比べること自体がお門違い……と言われればそこまでなのじゃが、こうも痕跡が見つからんとなると、すでに狩られておるか若しくは……むぅ」
 ラピャタミャクはそこまで言うと、あごに手を当てて押し黙ってしまった。
「やはり、ここはまだ地道に探すほかなさそうね。ということで、私は引き続き痕跡を探しておくから、チョウザ・コナミ、あなたも『気配察知』と『聞き耳』で――」
「まあ、それはそれで良いとして、ひとつザコちゃんのほうから報告、おっけー?」
「……なにかしら? あまり悠長に構えてもいられないわよ。なにせこれ以上暗くなったら、それこそ視界が――」
「そろそろ戦闘態勢に入ったほうがいいかもねー」
「――は?」
 フィリンが訊き返すのと同時に、チョウザの背後の草むらがガサガサガサと大きく揺れる。
「ブモォォオォオオ!!」
 三人の中で一番身長の高いチョウザ・コナミより、二回り以上も大きい熊型のジャバウォックが突如として現れた。目は紅く充血しており、焦点が定まっておらず、極度の興奮状態にあると推察できた。剥き出しの爪は歪に禍々しく尖っており、今まで数多くの獲物をその爪で肉塊へ変えたのだろうと想像できる。
「――熊狩りじゃー!」
「は?」
 突然のジャバウォックの登場に臆することなく、ラピャタミャクは手にした『長柄の斧』で盛大に斬りかかった。その対応力の速さにフィリンが再び気の抜けた声を上げる。
 ――バチコン!
「へぶぅーッ!?」
 ラピャタミャクがハエたたきで叩かれたハエのように、勢いよく地面に叩きつけられる。
「ぐふっ! ……め、目が回る……! こ、こやつなかなかにやりおる……!」
「ちょ……! なにをしているの!? はやく逃げなさい!」
 フィリンは我に返ると、すぐさまラピャタミャクに指示を出した。しかし、ジャバウォックの一撃で頭へのダメージもあったのか、ラピャタミャクは立ち上がろうにも虚しく足をバタバタと動かしているだけだった。
 一方、ジャバウォックはそんなことはお構いなしに、すでに追撃する態勢をとっていた。有無を言わさず、ジャバウォックの禍々しい爪がラピャタミャクを捉える。
「でやぁ……ッ!」
 火花が散る。
 フィリンは寸でのところで、ジャバウォックの一撃を『クリスタルブレイブ』で弾いてみせた。フィリンは息つく間もなく、ラピャタミャクを抱きかかえると、戦線の離脱を試みるが――。
「まずい、逃げ切れない……!」
 ラピャタミャクを抱えたフィリンとジャバウォックとでは、当然ジャバウォックの足が勝った。ふたりを射程に捉えたジャバウォックは丸太のような腕を振り上げる。
 ――バシン! バシン!
 ジャバウォックの顔面に、どこからともなく飛んできた石のつぶてが何度もぶつけられる。ジャバウォックは石が飛んできた場所を特定すると、そこにチョウザがいることを確認した。
「クマの注意はザコちゃんが引き付けとっからー、お二人様は今のうちに態勢を整えておいてー」
 フィリンは軽く頷くと、そのままラピャタミャクを抱えたまま、今度こそ戦線から離脱した。
「さてさて、クマ様。二人の準備が整うまでこのザコちゃんが相手してあげるからねー」
 チョウザは不敵に笑うと、手をくいくいと曲げてジャバウォックを挑発した。
「ブモォォォオォオオォォ!!」
 ジャバウォックは低い雄たけびをあげると、一心不乱にチョウザに立ち向かっていった。
 チョウザはその攻撃を周囲にある木や草などを上手く利用して、ひょいひょいと躱していった。
「……うーん、攻撃をかわし続けるのはこっちのほうが好都合だけど、二人様が迎撃するにはもっと広い場所がいいかもねー……」
 チョウザはそう呟くと、開けた場所を目指し、さらに森の奥へと進んでいった。

「考え無しに突っ込むなんて……」
 フィリンが抱えていたラピャタミャクを降ろすと、ため息をついた。
「……というか、すごい勢いで叩きつけられてたけど、大丈夫なの?」
「なに、心配いらぬ。さきほどはちぃと目が回って狼狽えておっただけじゃ。死にはせぬ。……それよりも、あちきの作戦が通じぬとは……」
「作戦……?」
「うむ。攻撃は最大の防御。距離をとりつつ、あちきの猛攻で熊の出鼻を挫く! ……はずだったのじゃが……」
「当たり前でしょ。相手は腐っても魔物で、元は野生動物がベースなのだから。瞬発力や爆発力はあっちのほうが上よ」
「ふむ。まあ、それももう学んだ。次はこうはいかぬ」
「……なら治療はいいわね?」
「うむ! ……それよりも一刻も早くザコちゃんを追うのじゃ。逃げ続けると言っても限界があろう」
 ラピャタミャクはそう言うと、すぐさま立ち上がり駆け出した。フィリンは頷くとラピャタミャクの後を追った。

 ジャバウォックの腕が振り上げられ――ものすごい速さで振り下ろされる。
 チョウザはその軌道を完璧に読むと紙一重で躱した。
「おっと、軌道を完璧に読んでも紙一重、とはねぇ……障害物もないし、こりゃ集中力切れたら一巻の終わりかもねー」
 チョウザが森の中でも開けた場所で、乾いた笑みを浮かべる。
 今までは鬱蒼と生い茂っていた木々がカーテンの役割を果たしていたが、この場所では容赦なく真夏の日光が降り注いでいる。そのため、じりじりとチョウザの体力を奪っていた。チョウザのこめかみから頬へ、一筋の汗が伝う。
 しかしそこへ――。
「ザコちゃーん! 助太刀に参ったのじゃー!」
 ラピャタミャクが声とともに現れると、その後ろからフィリンも続くようにして現れた。
「私たちが応戦するから、あなたは――て!?」
 チョウザは一切迷うことなく、ラピャタミャクとフィリンめがけて走りだした。ジャバウォックもそれに釣られるようにしてチョウザの後に続いた。
「ナーイスタイミング。んじゃ、あとは任せたからねー」
 チョウザはそう言い残すと、フィリンと速度を落とさずにすれ違った。
 最初こそ戸惑ったものの、フィリンはすぐに気を取り直し、クリスタルブレイブを構えて敢然とジャバウォックの前に立ちはだかった。
「スタンテッド家の名にかけて……ここで倒す!」
 ――バシィィィイィン!
 フィリンとジャバウォックが正面衝突する。
 そのすさまじい衝撃にフィリンの足元がぐらりと揺れ、仰向けに倒れかけた――が、フィリンはすぐさま右足を半歩下げ、その場に踏みとどまった。
 フィリンは踏ん張ったまま片手を引っ込め、素早く剣を持ち直すと、ジャバウォックのわき腹に突き立てた。
「――ッ!? アオォォン……!」
 急所を突かれたジャバウォックはたまらず、悲痛な叫び声をあげた。
「今よ! ラピャタミャク・タラタタララタ!」
 フィリンが力いっぱい叫ぶ。
「うむ! キノ……熊狩りじゃああああ!!」
 フィリンの背後から飛び上がったラピャタミャクがジャバウォックの脳天めがけ、長柄の斧を振り下ろした。

「マッシュルーム」
「『この度は誠にありがとうございました。万事滞りなく夏のキノコを保護することが出来ました。これで皆様の食卓に、新鮮で、おいしいキノコをお届けすることが出来るというものです。これも偏にお三方の頑張りのお陰です!』と、仰っておられます!」
 チョウザから連絡を受けた依頼人は、すぐさま使用人である【マリア・アレストポ―チャー】を連れ、三人がいる森へ急行していた。周囲には依頼人の使用人と思われる男たちが黙々とキノコを摘み取っていた。
「いやいや、こちらこそこんなキノコを戴けるとはね。頑張った甲斐があるってもんだよ」
 チョウザはそう言って、依頼人から貰った黄金に輝くキノコ群を見ながら『さて、どうやって調理したものか』と呟いた。
「ああ、そうそう。もう血抜きして部位ごとに分けてあるけど、この熊肉はザコちゃんたちでもらってもよかった感じ?」
「……ヒラタケ」
「『問題ありません。むしろ生け捕りにされたらどうしようかと、エノキタケのように色々と考えておりましたので。もちろんキノコジョークですが……』と、仰っておられます!」
 三人がピクリとも表情を変えないのを見ると、依頼人は少しうつむいてみせた。
「それより、キノコの栽培については問題ありませんか? よろしければ、こちらのほうで栽培の専門家を――」
「……ナメコ」
「『そちらも問題ありません。こちらもキノコに関してはそれなりに詳しいつもりです。……そうだ。よろしければ秋になったらまた当家へお越しくださいませ。立派に育ったキノコを使った至極の料理をご馳走いたします』と、仰っております!」
「おお! 至極のキノコ料理とな! 是非! もちろん行くのじゃ!」
「……バイキンキン」
「『わたくしも楽しみにお待ちしておりますわ。それでは皆様、ごきげんよう』と、仰っております!」
 依頼人とマリアは三人に会釈すると、そのまま森の中へと消えていった。
「――さて、ザコちゃん。そのキノコと熊……もちろん食うんじゃろ?」
「ま、当り前だよね。鍋が一番よさそうだけど……まだまだ暑いしねー。まあ、暑いなか鍋を食べるってのも乙なものではあるんだけど……今回はやめとこっか。うーん、とりま……テリーヌとかかな?」
「てりーぬ……ほう。なかなか美味そうな響きじゃな。もちろんフィリンも食うじゃろ?」
「いえ、私は……」
 フィリンは言いかけると、すこしだけ笑って『ええ、有難く頂戴するわ』と言った。
 ――ジャバウォックが討伐された後、依頼人がキノコを回収したので、密猟者もあえなく撤退した。



課題評価
課題経験:55
課題報酬:1500
金紅の麗人が馳せるはキノコへの思慕か
執筆:水無 GM


《金紅の麗人が馳せるはキノコへの思慕か》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 1) 2019-08-02 00:28:26
キノコとジャバウォックでなんのお料理するか決めとかないとな課題?
だって確実に手に入るんだもんねぇ、ジャバ肉ときのこ。ふふ。
鍋は暑いからちょっと避けたい。テリーヌとか?ザコちゃんは作ったことないけど。

木とか草の茂みに潜んでる、ってなら。そこらに石でも投げ込めば誘い出しはできんのかな。たぶん。
てか依頼内容的に1匹、ってことでいーのかな。いーよね?何十匹もいないでしょ。

あとさぁ、対ジャバも気にはなっけど、転売する輩の方も気にならない?
同時期に発生案件ってなら、ジャバになんか関わってたりすんのかな。使役従えとか。
正当な資産じゃない儲け方してる、知らしめれたら、税金とか増し増しにできそうでたのしそうなんだけどねぇ。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 2) 2019-08-03 07:02:17
まだ顔見知りだけだけど、一応…勇者・英雄コースのフィリンよ、よろしく。

>依頼内容について
>
…さすがに依頼人の裏は学園がとってくれてるわよね。
(依頼人こそが転売犯で邪魔な番犬を処理するために…みたいなのはないわよね。)
数は特に触れてないけど、単独か、せいぜい数匹でいいんじゃないかしら?

転売のほうは気になるけど、まだ夏なのよね。
転売犯が出没する前に狩りつくして管理してしまえ、って話のようだし直接対決は難しいかも?

まぁ気になるといえば…狩り尽くして栽培するって依頼人の人は言うけど
キノコって人の手で簡単に栽培できるのかしら?
私たちが考えるところじゃないのかもしれないけど…

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 3) 2019-08-07 00:04:46
珠玉のキノコと聞いて!!

魔王・覇王コース、ラピャタミャク・タラタタララタ。
よろしくなのじゃ。

ジャバウォックとの戦いは、基本ゴリ押しで斧を振り回すのじゃ。
急所にさえ食らわなければ何とかなるじゃろ。たぶん。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 4) 2019-08-07 23:18:50
ってる間にもうすぐ期限じゃん。全校集会もあんのに、ぱたぱただよね。

とりあえずはなるたけ不意打ちされないようにしなきゃー、ってことと、
攻撃捌ききれなかったら受け側に回るー、みたいな感じのことは書いてっかな、って感じ。

なんせよ、送り忘れはないよーにね。勿体ないし。