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水無 GM 

新米マスターの水無と申します。
あまったるく、むせかえるほどのハッピーエンドや、ご都合主義が大好きです。
鬱な展開はあまり好きではありません。
ですので、私が書く話としては、日常系やネタ系の話が多くなってくるんじゃないかなと思います。戦闘シーンなんかも、あれこれ試行錯誤して書くのが好きです。
PLの皆さんがくすっときたり、ニヤニヤできるようなリザルトを書いていければなと考えています。
どうぞよろしくお願いします。

担当NPC


メッセージ


作品一覧


【夏コレ!】大海原のパンツ (ショート)
水無 GM
 夏だ!  海だ!  浜辺の美女とランデブーだ!  ――というわけで、今年もサビア・ビーチの賑わう季節がやってきた。  今年こそ小麦色に焼けた健康水着美女をゲットすべく、来る日も来る日もバイトと筋トレに明け暮れ、ついにオレは理想の身体と、すこしばかり遊べるほどの財力を手に入れた。あとはこの肉体を浜辺で思う存分アピールすれば、健康水着美女たちはオレを放っておかないだろう……と思っていたんだけど、ここで困ったことが起きた。  オレ……カナヅチだったんだ……それも重度の……。  都会っ子のオレが水と触れ合う機会なんていったら、飲料水を飲む時と風呂に入る時ぐらいだったからな。  そう、オレはこの前、予行練習のつもりで入ったプールで溺れかけたんだ。それも幼児用の浅いやつで。必死になってバシャバシャと酸素を求めていたオレに、子どもたちの見下すような視線が容赦なく突き刺さった。  トラウマだった。  ついにオレはそれ以降、心身ともに水というものが嫌いになってしまった。……あれは一生忘れることはないだろう。今思い出しただけでもツラい。  そしてオレは諦めかけていた。  こんなにもマッシヴで、ゴージャスで、イケイケなオレが、じつは蓋を開けてみれば、ただの水嫌いな筋肉ダルマだと知れば、健康水着美女はどう思うだろうか。  わかりきっている。  失望され、嘲笑され、相手にすらされなくなるだろう。  そんなことになるくらいなら、旅に出よう。  いっそこのまま、大自然の中に消えてしまおう。  そう思い、オレは旅用品を買いに装備屋へ行ったのだが、そこでとあるパンツの存在を知った。  それが『大海原のパンツ』。  その海パンを穿いたものは、10分だけという制限はあるものの、その間、水の加護を受け、陸と同じように水中でも動けるのだという。  10分あれば十分だ。  オレは早速その海パンについて調べ始めた。そしてそれは、案外、すんなりと見つけることが出来た……というのも、その装備屋で取り扱っていた。 「オヤジ、この店で一番いいパンツを頼む」  オレはニヒルな笑みを浮かべると、装備屋の精算カウンターに財布をどん、と乗っけた。すると、装備屋のオヤジは、これでもかというほどの営業スマイルを浮かべると『すみません。現在素材不足で取り扱っておりません』とだけ答えた。  あまりにも普通に返されたのでオレも『え、素材不足ですか? ぼく、どうしても大海原のパンツが欲しいんですけど、どうにかなりませんか?』と食い下がってしまった。  しかし、そんなオレの熱意にとうとう膝を屈したのか、オヤジはある情報をオレにくれた。 「どうにもならない……と、言うわけではないのですが、ひとつだけ手段はございます」 「それは一体……?」 「弊社の大海原のパンツですが、製造工程に特殊な素材を使用しているのですが、それが現在枯渇しておりまして、その素材を持ってきていただければ、弊社でもなんとかご用意することが出来ます」 「……話はわかりました。それはなんとかぼくのほうで用意します。それで、その素材というのは……?」 「『フラッシャーの鱗』でございます」  ――と、いうワケで諸君らにはあの、獰猛で好戦的な空を飛ぶ鮫『フラッシャー』の『鱗』を調達してきてもらいたい。  海パンの素材には一匹いれば十分とのことなので、そこまで難しくはないと思う。たぶん。  見事、かのフラッシャーを討伐できたものには、オレのバイトで貯めた『浜辺でランデブー貯蓄』から切り崩したものを報酬として贈ろうと思う。  健闘を祈る。
参加人数
6 / 8 名
公開 2019-06-26
完成 2019-07-13
金紅の麗人が馳せるはキノコへの思慕か (ショート)
水無 GM
「――ではお次でお待ちの方、どう……ぞ……」  学園の案内窓口。  そこの受付嬢が右手を挙げ、順番待ちをしていた女性を促そうとして、息を吞む。  女性は金髪紅眼の麗人で、漆黒の――ともすれば、不吉ともとれるドレスを身に纏っていた。『歩く』という所作ひとつをとっても一切の隙は無く、そして、どこか柔和で物憂げな視線に、受付嬢は釘付けになっていた。  やがて女性が窓口の前まで来ると、受付嬢はその佇まいに圧倒されつつも、なんとか口を開いた。 「ほ……本日は、どのようなご用件……でしょうか……?」  いつの間にか、その場にいた全員が、その女性の一挙手一投足に注目していた。女性はほんの少しだけ間を置くと、遠慮がちに、おずおずと口を開いた。 「――キノコ」 「……………………へ?」  受付嬢は何が起こったのか理解できず、間の抜けた声で訊き返した。 「えっと……いま、なんと……おっしゃい……ました……か?」  女性はすこしだけ驚いた表情を見せると、気を取り直し、見る者全てを凍てつかせるような表情で、再度『キノコ』とだけ答えた。  ――沈黙。  その空間が、まるで永久凍土に閉じ込められたのではないか、と錯覚してしまうほどの中、突然、メイド姿の女性が息を切らしながら女性の横に立った。 「す、すみません! 寝てました!」 「……はい?」  受付嬢は事態が飲み込めず、あからさまに首を傾げてみせた。 「あの! わたし、この方の従者で【マリア・アレストポーチャー】と申します。本日は、この方の通訳として同行させて頂きました!」 「は、はぁ……ということは、こちらの方がさきほど仰っていたのは……?」 「わたしたちの言語でございます!」 「そ、そうなんですねー……へー……」  とても承服できないという表情を浮かべながら、受付嬢は自分を納得させた。 「そ、それで、本日はどのようなご用件で?」 「……マイタケ」  女性がポツリと、呟くように言う。 「あの、そちらの方は今何と……?」 「『本日は魔物の討伐依頼でこちらへ伺いました』と、仰っております!」 「あ、そうなんですね。わかりました。では、依頼の詳細をお教えいただけますか?」 「……エリンギ」  もはや、女性とは目すら合わせなくなった受付嬢は助けを乞うように、マリアに目配せをした。 「『わたくし、じつはキノコ狩りが趣味でして、毎年秋には山へキノコを狩りに行くのです。その時期に生えるキノコというのはとても美味でして、食感、味、香り……どれをとっても天へと昇るほどの高揚感、多幸感を味わえるのです。それはまさに、天からの贈り物。それはまさに、自然が生み出せし神秘の結晶。わたくしは――』」 「ちょっとちょっと! ちょっと、待ってください!」  受付嬢が手のひらをマリアに向け、話を中断させた。マリアは話を中断させると、不思議そうな顔で受付嬢を見た。 「いかがなさいましたか……?」 「いやいや、『いかがなさいましたか……?』じゃなくてですね、おかしいでしょう! 私の耳が確かなら、そちらの方はエリンギとしか仰っていないように聞こえたのですが? 本当にそう仰っているのですか?」  マリアはすこし眉を顰めると、女性に向かって『ブナシメジ』と言った。女性はマリアの言葉を聞くと、受付嬢をまっすぐに見て、しっかりと『ブナシメジ』と答えた。 「えっと、なんと仰っているのですか……?」 「『マリアは信頼できる従者です。嘘偽りを述べる筈はありません』と、仰っております!」  受付嬢は軽くため息をつくと、『中断させてしまい申し訳ございません。……ですが、出来るだけ要点のみをお願いできますか』と答えた。 「……シイタケ」 「『はい。では、話を続けさせて頂きます。……もちろん、わたくしは毎年それを楽しみにしていたのですが、最近キノコ狩りが流行っているのか、多くの方たちがキノコを狩るようになってきました。すこし複雑ではありますが、皆さんがキノコの良さに触れ、キノコを美味しく食しているというのは大変喜ばしい事です。ですが、最近では狩ったキノコを自分では食べず、高値で市場に卸す不届きものが出没するようになってきたのです。これでは本当にキノコを食べたい方が食べられなくなってしまいます。ですので、このわたくしが秋になる前のこの時期に、キノコをひとつ残らず狩り尽くし、栽培し、皆さんに配ろうと考えていたのですが……最近、その山にジャバウォックという魔物が住み着いたと聞きまして、わたくし、実際に確かめに行ってきました。そこで見たのはエリンギのように発達した爪と、マイタケのように鋭い牙を持った魔物でした。これではキノコを狩る前にわたくしが狩られてしまいかねません。……ちなみにこれはキノコジョークです』と、仰っております!」  マリアがそこまで言うと、女性は何か期待するような眼差しで受付嬢を見た。 「……いや、笑いませんよ?」  受付嬢はそうやって冷たく突き放すと、女性はあからさまにシュンと小さくなってみせた。 「はい。大体の話はわかりました。要するにジャバウォックの討伐依頼ですね」 「……エノキタケ」  女性が声を発した瞬間、受付嬢はすぐさまマリアを見た。 「『もし、この課題を達成していただけましたら、わたくしセレクトの珠玉のキノコと少しばかりのお気持ちを差し上げます』と、仰っております!」 「承りました。では、その様に募集させていただきますね」 「……トイレドコ」 「はあ?」 「『御手洗はどこですか?』と、仰っております!」  受付嬢は何か言いたそうにすると、『み、右手方向をそのまま進んで、突き当りを左です』と、グッと飲み込んだ。
参加人数
3 / 8 名
公開 2019-07-30
完成 2019-08-19
ピーチビーチピッチ! (ショート)
水無 GM
 ピーチ!!(挨拶)  ……諸君、吾輩だ! 桃色軍曹だ! ついにやってきてしまったな、この季節が!  色づく紅葉、爆ぜる芸術、血反吐に塗れるスポーツ、そして全てを喰らう暴食の秋!  そう、つまり桃の俎上の季節だ!  ご存じの通り春先、川に放流された桃の稚魚は豊かな清流に抱かれ、その後大海を知り、人生……もとい桃生の荒波にもまれる! やがて産卵時期に入ると故郷の川へと戻り、命がけで子孫を残そうと、どんぶらこして、果てる!  まさに自然の神秘というやつだな!   そして何より、酸いも甘いも乗り越え、子孫を残そうと必死にもがき、あがき、がむしゃらに川を俎上して桃生を全うした桃たちの果肉は最高に引き締まっており、その味は至高にして至福なのである!  この桃を食している時に感じる多幸感などは、まさに桃源郷と表現して差し支えない程であろう!  ピーチッチッチ!!(笑)  吾輩、またしてもうまい事を言ってしまったようだな!  ……さて、歓談もこれくらいにして、本題へと入ろうではないか! じつは諸君にはこの一大イベントの陰に潜むと噂される――む? なに? 桃の俎上なんて知らないし、聞いたこともない? ましてや、桃が川や水の中を泳ぐなんて信じられない? 鮭と間違えていないのか……だとォ?  ピィィーッチ!!(怒)  諸君、世間知らずにも程があるぞ! 今までの桃生……もとい、人生を如何様に過ごしてきたのだ!! 己が無知と無関心さを恥じるがよい!!  ……などと怒っていても仕方がない!  本題へと入ろう! 事は一刻を争う!  じつは最近、桃の俎上する地域に桃狩りに来ているクマさんが出没していてな……いや、クマさんが桃を食べること自体は何も問題はない。問題は、それが一頭や二頭ではないというか……同志たちによるクマさん目撃情報は相当数で、中には狂暴化しているクマさんもいるらしいのだ!  この時期、例年通りであれば、子供たちからご年配の方まで、様々な方々がやってきて、桃の俎上を通して大自然の過酷さ、美しさ、壮大さを肌で感じてもらっているのだ! その間、吾輩たち『すもももももももものうち隊』がクマさんたちを一時的に川から引き離し、ギャラリーの安全を確保していたワケだが、こうも数が多いと吾輩たちの首も回らん……ということで、『すもももももももものうち隊』は現在、猫の手も借りたいという状況なのだ!  そこで諸君らには、我々の手伝いを頼みたい!  なに、心配するほどの事でもない! 何もクマさんを殺して追い返せなどとは言っていない! 桃には桃の、吾輩たちには吾輩たちの生活があるように、クマさんにもクマさんの生活がある! それを脅かすことは何人たりとも許される行為ではない! 吾輩たちが行っているのは、一時的な誘導! それもあくまで生態系に影響を及ぼさない程度でだ! こちらから危害を加えることは決してない! ……だがまあ、たしかにクマさんたちの攻撃を喰らってしまえば致命的だろう! しかし、我々には秘密兵器である、特別製の熊鈴だ!  熊鈴をひとたびガランゴロンと鳴らせば、クマさんたちは尻尾を巻いて逃げ出していくのだ!  諸君らには期間中、特別製の熊鈴を配布する! これを所定の位置について、時折鳴らすのが諸君らの仕事だ!  報酬についてだが、通常報酬に加え、別途現物支給(桃)も視野に入れている! 是非、奮って参加してくれたまへ!  ……あと、これは注意というより警告だが、海と川の境目……河口付近の浜辺には近づかないほうがいい! どうやらクマさんを狂暴化させ、操っている原因である『セインディーネ』がいるとの噂を耳にした! やつらは美しい女性の見た目に反し、非常に狂暴かつ、残忍で冷酷無比! 敵とみなしたものには問答無用で襲い掛かかるうえに、なんと好物は人肉とのこと!  ピーチ……(震)  そして最も厄介なのが、通常のセインディーネは歌声で水を操るのだが、このセインディーネはクマさんを操っている! つまり、吾輩たちも操られてしまうかもしれないという事だ! 以上の事を念頭において、この一大イベントを管理かつ楽しんでもらいたい!  そして……いいか! セインディーネには決して近づくんじゃないぞ! 絶対だぞ! 特別討伐報酬は出すが、絶対に近づいちゃダメだぞ! 桃色軍曹の約束だ!
参加人数
3 / 8 名
公開 2019-11-22
完成 2019-12-08
雷鳴と烏鴉 (ショート)
水無 GM
「俺たち不死身の『雷鳴と烏鴉(サンダークロウズ)』!!」  大中小。  それぞれ気合の入ったパンクロッカー風の恰好をした男が三人、学園の受付に陣取っていた。その光景に少し圧倒されたのか、受付嬢は眉の端をひくひくさせながら続けた。 「は、はあ……サンダークロウズさんですね。本日はどういったご用件でしょうか」 「依頼だァ!」  三人の中で一番身長が高い男が言う。 「それもとびっきりイカしてる、クレイジーなやつだ!」  三人の中で二番目に高い身長の男が言う。 「ヒャッハー!!」  三人の中で一番背の低い男が、両手を胸の前で交差しながらシャウトした。 「そ、そうでしたか……では依頼内容をお聞かせいただけますか?」 「俺たちがいつも世話ンなってる姐さんがいるんだがよ」 「ちなみにその人はここの生徒なんだ」 「……えっと、では今回はその方へのお礼参り、という事でよろしかったでしょうか?」 「ば!? ち、ちっげえよ! 世話になったってそういう意味じゃねえ!」 「色々と俺たちの助けをしてくれたってことだ!」 「ちなみにその人の名前は【雷鳴】と書いてカミナリ・メイだ!」 「カミナリメイ……カミナリメイ……もしかして『武神・無双コース』のメイさんの事で……」  受付嬢はその生徒の名前を出すと、黙り込んでしまった。 「……あの、ほんとうにメイさんがあなた方と知り合いなんですか?」 「どういう意味だ」 「い、いえ……なんというか、メイさんは優等生で品行方正で、あと箱入り娘のような感じで……とてもあなた方のようなガラの悪い方とお付き合いがあるようには見えないのですが……」  受付嬢がそう指摘すると、男三人は胸を押さえ、苦しそうに呻き出した。 「ぐぬおッ!? こ、こいつ……めちゃくちゃ言うじゃねえか……!」 「俺たちの心をえぐりに来るとは……この女、大した野郎だぜ……!」 「だがしかし、俺たちももう改心したんだ。この格好は単なる趣味だぜ!」 「……ちなみに普段はイチゴ農家なんかをやってます」  三人はそう言うと懐から名刺を取り出し、受付嬢に丁寧に手渡した。 「あ、これはご丁寧にどうも……」  受付嬢は名刺を受け取ると、手元に三枚きっちり並べて置いた。名刺にはそれぞれ【コルニクス・カラス】【ヴァローナ・カラス】【レイヴン・カラス】と書かれていた。 「……ところで、質問なのですが、あなた方とメイさんとのご関係は……?」 「それはメイ姐さんの名誉のために言うことは出来ねえ!」 「姐さんが地元のワルをまとめ上げてた総長で、俺たちはその舎弟だなんて言えるわけがねえ!」 「素手喧嘩で無敗伝説を打ち立てたなんて決してな!」 「あの……全部言ってますけど」 「はッ!?」 「い、今言ったことは聞かなかったことにしてくれ!」 「でないと俺たち……あわわわわ! た、頼む! この通りだ!」  三人はそう言って、何度も机に頭を打ち付けた。 「わかりました! 言いませんから! ……ですから、受付カウンターを血で染めるのはやめてください……!」  受付嬢がそう懇願すると、三人はガバッと顔を上げた。 「さあ、話を戻すぜ!」 「き、切り替えが早い……」 「メイ姐さんの事についてだが」 「俺たちはまだメイ姐さんに恩を返せてねえんだ!」 「そこで何かできることがないか俺たちなりに必死に考えてみたんだが……」 「これがさっぱり思い浮かばねえんだ!」 「そこで知恵を貸してもらおうとここまで来たわけだ!」 「ここには色んなやつらが集まる」 「だから、色々な意見を聞けるんじゃねえかって思ったわけだな!」 「要するに、メイさんに何をプレゼントしたらいいか……を聞きに来たわけですね?」 「そういう事だ!」  三人が元気よくそう言うと、受付嬢はため息をつき、わかりやすく頭を抱えてみせた。 「……ひとこと、よろしいですか?」 「おう」 「さっそく何か思いついたか!?」 「――ご自分たちで考えてください!!」  受付嬢がバン、とカウンターを叩く。 「あなた方は腐ってもメイさんの舎弟なワケですよね? なら、あなた方が一番メイさんに詳しいはずでしょう?」 「そ、それは……」 「そうだけど……」 「それに、こういった贈り物は他人の意見を取り入れるより自分で選ぶべきです。他人が選んだものに心は籠りません。自分たちで悩み、選んだものに心が籠るのです。たとえば私がブランド物の香水を送ってくださいと言って、あなた方が実際に買ってメイさんに贈ったとしましょう。それで、メイさんになぜこの香水を選んだのか、と問われたらあなた方はどう答えるつもりですか? 私の言う通りにした……とでも答えるつもりですか? そんな喜ばせるだけの目的でモノを貰ってうれしいはずがないでしょう?」 「た、たしかに……!」 「あんたの言う通りかもしれないんだぜ……!」 「でも、姐さんが何を贈られて喜ぶかなんて……」 「では……たとえば、メイさんの好きなものってなんですか?」 「姐さんの好きなもの……」 「拳と血と暴力と殺戮と……」 「あとは強者か……」 「……あの、しつこいようですけど、本当に私の知ってるメイさんと同一人物なんでしょうか?」 「雷鳴なんて滅多に聞く名前じゃないだろ」 「ですよね……」  受付嬢が項垂れるようにして答える。 「……ともかく、他にもっと情報はないですか? 別に強者との戦いとかもいいですけど、もっとこう……なんというか、物! 物でいきましょうよ、物で!」  受付嬢は半ば投げやりな感じで話を続けた。 「物か……」 「武器とかどうよ?」 「いや、姐さんのスタイルは裸拳での殴り合いだ。余計な武装をすると狙いが狂うと言っていた」 「じゃあ武器の類は一切ナシだな……」 「いや、あの、私が言っているのは指輪やネックレスとか小物系なんですけど……」 「余計にダメだな」 「指輪は殴る時に邪魔になるし、ネックレスはフットワークで攪乱する時に揺れてうざったいと言っていた」 「じ、じゃあ服! 服でいきましょう! メイさんと言えば清楚な……」 「服……そうだよ、特攻服があるじゃねえか!」 「おお! そういえば、常に着てたな赤い特攻服!」 「赤は返り血が目立たなくていいって言ってたしな!」 「ど、どんな理由ですか……でも、いいのかな?」 「よし、贈るものは決まったな!」 「それと布よりも本革のほうがいいよな! 丈夫だし」 「あとはどう調達するかだけど……」  三人はそこまで言うと、揃って受付嬢の顔を見た。 「……わかりました。革の調達でしたらお任せください。衣類の革であればアーラブルなんかがオススメかと」 「そこらへんは任せるぜ!」 「とりあえず、皮を用意しておいてくれ!」 「わかりました。では、そのように手配しておきます。……気持ち、伝わるといいですね」  受付嬢はこそっと悪戯ぽく、三人に言ってみるが――。 「ん? ああ、そうだな」  と、三人からそっけない返事が返ってきた。 「……あれ? 今回の贈り物って告白的なアレじゃないんですか?」 「告白ぅ?」  受付嬢の言葉を聞いた三人は目を丸くすると、その場で大笑いしだした。 「な、なんですか? 私、なにか変な事言いましたか?」 「ムリムリムリ」 「たしかに姐さん、顔はいいけど」 「付き合ったりしたら殺されちま――」  ――ビュウ、と突然風が吹き荒れる。受付嬢はたまらず目を閉じてやり過ごすが、目を開けた時にはすでに三人の姿はなかった。  得も言われぬ緊張感の中、受付嬢は額に滲んだ汗を拭うと片手を上げた。 「つ、次、お待ちの方……」
参加人数
4 / 8 名
公開 2019-12-19
完成 2020-01-08

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