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どこまでも高く積み上がる皿


ストーリー Story

 あらゆる場所に、暗黙の了解――あるいはタブーと言われる物事がある。
 飲食店においては清潔感を欠き、虫などをお客様の目に触れさせるようなことは絶対のタブー。
 そんな絶対常識とは別に、学園都市内に存在する飲食店にはタブーとされる暗黙の了解があった。
 それは――――。
 『食べ放題』や『大食いチャレンジ』の禁止である。
 料理によっては安定して手に入るものでは無い食材を使うため、当然と言えば当然なのだが……。
 それとは別に、この暗黙の了解が出来るに至った最大の元凶というのが……。
「お腹すいたの~」
 くぅ~。という可愛いお腹の音を響かせながら歩いている【キキ・モンロ】という少女の存在だ。
 『空皿積みのキキ』とは誰が呼び始めたか、彼女にかかれば、用意した一日分の材料すらあっという間に平らげられる。
 これでは商売にならない、と全ての飲食店が食べ放題や大食いチャレンジを取りやめたのだった。
 が、人には怖いもの見たさというものがある。
 更には、勝手に勝負と思い込み、熱くなる人すら存在する。
 ここは、とある大衆食堂。
 山のように積まれた食材を前に、腕を組んで不敵に笑う店主が一名。

 *

 学園内に配られたビラには、『大食いチャレンジ!! 食べ切れたなら料金タダ!! 優勝者には賞品進呈!!』と書かれていた。
 手に取り確認した生徒、教員は、静かに胸の中で拝む。
 店主……南無、と。
 そして、そのビラが出回った日と丁度同じ頃に、一つの依頼が張り出された。
 切実な文章で、臨時のアルバイトをやって欲しいという依頼。
 それは、どういった訳か、ビラを配った大衆食堂からの……依頼だった。
 依頼を見れば、空皿積みのキキに恐れをなして、従業員が全員休暇申請をしてきたらしい。
 休めぬなら、退職も辞さない、と。
 この時点で身に余る勝負を仕掛けてしまったかと思ったらしいが、一度宣伝してしまった以上はやりきらねば店の沽券に関わる問題。
 藁にもすがる思いで依頼を出したが、店主も自ら知り合いに声を掛けて人手を確保しようとはしているらしい。
 そんな、すでに負けた気分になっている店側の思いなど知る由も無く、キキは鼻歌交じりに大食いチャレンジを行う食堂へと歩いて行くのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2019-10-09

難易度 簡単 報酬 少し 完成予定 2019-10-19

登場人物 6/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《新入生》クロード・クイントス
 ヒューマン Lv11 / 賢者・導師 Rank 1
色々と考えてから行動するタイプ。 あまり感情的にはならずニッコリ笑顔を心がけている。 でも顔は笑っていても眼は笑ってない。 厳格な家庭で育ったため人間関係に疲れて孤独を好み、自立するために家を飛び出し、秘めていた好奇心をさらけて放浪癖を患う。 ※アドリブ歓迎
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《イマジネイター》ナノハ・T・アルエクス
 エリアル Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
フェアリータイプのエリアル。 その中でも非常に小柄、本人は可愛いから気に入っている。 明るく元気で優しい性格。天真爛漫で裏表がない。 精神年齢的には外見年齢に近い。 気取らず自然体で誰とでも仲良く接する。 一方で、正義感が強くて勇猛果敢なヒーロー気質。 考えるよりも動いて撃ってブン殴る方が得意。 どんな魔物が相手でもどんな困難があろうと凛として挑む。 戦闘スタイルは、高い機動性を生かして立ち回り、弓や魔法で敵を撃ち抜き、時には近接して攻め立てる。 あまり魔法使いらしくない。自分でもそう思っている。 正直、武神・無双コースに行くかで迷った程。 筋トレやパルクールなどのトレーニングを日課にしている。 実は幼い頃は運動音痴で必要に駆られて始めたことだったが、 いつの間にか半分趣味のような形になっていったらしい。 大食漢でガッツリ食べる。フードファイター並みに食べる。 小さな体のどこに消えていくのかは摩訶不思議。 地元ではブラックホールの異名(と食べ放題出禁)を貰うほど。 肉も野菜も好きだが、やっぱり炭水化物が好き。菓子も好き。 目一杯動いた分は目一杯食べて、目一杯食べた分は目一杯動く。 趣味は魔道具弄りで、ギミック満載の機械的な物が好き。 最近繋がった異世界の技術やデザインには興味津々で、 ヒーローチックなものや未来的でSFチックな物が気に入り、 アニメやロボットいうものにも心魅かれている。 (ついでにメカフェチという性癖も拗らせた模様)
《模範生》レダ・ハイエルラーク
 ドラゴニア Lv16 / 黒幕・暗躍 Rank 1
将来仕えるかもしれない、まだ見ぬ主君を支えるべく入学してきた黒幕・暗躍専攻のドラゴニア。 …のハズだったが、主君を見つけ支えることより伴侶を支えることが目的となった。 影は影らしくという事で黒色や潜むことを好むが、交流が苦手という訳ではなく普通に話せる。 ◆外見 ・肌は普通。 ・体型はよく引き締まった身体。 ・腰くらいまである長く黒い髪。活動時は邪魔にならぬよう結う。 ・普段は柔らかい印象の青い瞳だが、活動時は眼光鋭くなる。 ・髭はない ・服は暗い色・全身を覆うタイプのものを好む傾向がある。(ニンジャ…のようなもの) ・武器の双剣(大きさは小剣並)は左右の足に鞘がついている。 ◆内面 ・真面目。冗談はあまり効かないかもしれない。 ・立場が上の者には敬語を、その他には普通に話す。 ・基本的に困っている者を放っておけない性格。世話焼きともいう。 ・酒は呑めるが呑み過ぎない。いざという時に動けなくなると思っている為。なお酒豪。 ・交友は種族関係なく受け入れる。 ・伴侶を支えるために行動する。 ◆趣味 ・菓子作り。複雑な菓子でなければ和洋問わず作ることができる。
《新入生》鳥珠・菖蒲
 ルネサンス Lv12 / 芸能・芸術 Rank 1
名前:鳥珠 菖蒲(ぬばたまの あやめ) 種族:黒狐のルネサンス 【外見】 ・黒髪ゆるウェーブで右側お団子サイドテール ・グラマーな巨乳 ・紫の瞳 ・左目に泣きぼくろ ・妖艶な色香が漂う女性 【服装】 ・黒のオフショルダーミニ着物 ・制服のマント着用 【性格】 はんなりマイペース お茶目で悪戯っ子だがドジっ子な為に悪戯が成功しない 料理が壊滅的に下手なのに出来るはずとやりたがる 舞妓に憧れており舞を習えるのが嬉しい ゆうがくの皆の事を「我が子」と同然と捉えておりすんごく可愛がる 基本的にポンコツお姉さん 【口調】 普通の時は ~ですわ。 ~かしら。 テンション高い時 ~でありんす。 どうやら素は~でありんす。の方で意識してないと方言が出てしまうらしい。

解説 Explan

 キキちゃんの暴食に震える店主に手を差し伸べる――だけでなく、大食いチャレンジに挑戦するチャレンジャーとしても参加出来るシナリオです。
 店主に手を貸して調理側に回るか、大食い側に回ってキキちゃんと肩を並べて掻き込むかプランにお書きください。

 大衆食堂ですのであらゆるメニューが大食いチャレンジ化しています。
 バカみたいに盛られた定食や、そびえ立つパスタ麺などなど。
 調理側はどんなメニューを作るか、食べる側はどんなメニューを注文するかをお書きください。

 キキちゃんは店主自らが相手をすると意気込んでいますので、キキちゃんに料理を振る舞う事が出来るのは店主の心が折れた後になります。
 調理側での参加者がいなくても、店主が声を掛けた応援者で埋まりますので、気兼ねなく大食い側での参加もお待ちしております。


作者コメント Comment
 NPCキャラを掘り下げたい馬に選ばれたのは……キキちゃんでした。
 流石にコルネ先生みたくはならない筈です。ええ、恐らく、きっと。


個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
誰の目も気にせずに、阿かずに。欲のままに食べてられるっていーよね。
ザコちゃんそーいう自由好き。だから隣で見物モブしよ。完食がんばれー。

あ、見たことないよーなおもしろお料理だったら一口だけちょーだい。食べられるか怪しい謎めのお料理とか、魔物肉とか、食べさせる気のない物体とか。

なんか店主様さぁ、引っ込みつかなくなって食べ放題やってる感あるじゃん?
そったらこう、手段を選ばなくなる可能性もないことは無いじゃん?無いとは思いたいけど、人種差別の悪意なんてぶわぶわに散らばってっし。
だから、もし危ういもん仕込んでそうだったらザコちゃんが差し入れあげる。
毒薬なら【毒消し草】、睡眠薬なら【珈琲の葉】みたいな。


クロード・クイントス 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
調理側で参加
賢者や導師めざして勉学に励めば料理の腕前が上がっていたという謎成長で困惑気味
でもまあ特技は伸ばしておこうか

大食いとはいえ食べ物をそまつには出来ないのでコース料理+前品おかわりもあるよ♪で最後まで行けそう&ギブアップし易い様にしておく
基本はおもてなしの精神
そしておかわりしないと優勝できない罠

店主の心が折れた後、
「今日は楽しんでいって下さい」とニッコリ

「お味は如何ですか」とニッコリ
食事中も笑顔で「おかわりありますよ、如何ですか」と丁重にごり押し

ギブアップが出たら優しい声で「これをどうぞ」とお会計票と胃薬<分包>を差し出す

尚、泡立て器にはリスペクトを


朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
「たのもう」

と大衆食堂の玄関を潜り、席に就くと早速注文。私が大食いに挑戦させていただくのはカレーですわ。今日はなんとなくカレーの気分でしたので

大盛りカレーを食べる際は焦らずしっかり味わって。チャレンジ成功を目指すのは勿論ですが、せっかくのお料理、味会わずに食べるのは作って下さった方に申し訳ありませんものね。適度に水も飲んで食べて食べて食べまくります

諦めかけるも気合いを入れ直した後は、狼の誇りにかけて二度と弱音は吐きませんわ!と食べ続けます。ビーフカレー以外にもシーフードカレーと種類を変えて飽きないように工夫もしてみますわ

勝利できた時は

「武人としての意地、貫く事ができましたわ」

と満面の笑顔を

ナノハ・T・アルエクス 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
キキ先輩に挑む

【行動】
大食いチャレンジに参加して優勝を目指すよ。
この日のためにコンディションも万全に整えて、お腹がきつくならないダボダボのワンピースを着てくるよ。

頼む料理はキキ先輩と同じもの。勝負なら同じ条件じゃないとね。
普通サイズ一人前程度を1分半~2分程で食べ切るペースで食べて行くよ。
早食いなら2倍3倍で食べるけど…大食いなら維持が大事だからこのくらい。
周りのペースは今回あまり考えず、自分のペースで食べ続けるよ。

これは食の格闘技…戦いだ!勝ちたければ食え!それだけだ!



こんな感じて食べ続けて約10kg。
これでペースも食べた量も負けてるようなら素直に降参。
あ~、こりゃかなわないわぁ~♪

レダ・ハイエルラーク 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
◆目的
・調理
・奇襲

◆参加
・調理側

◆プレイング
・【味覚強化】【嗅覚強化】【調理Lv3】で料理をし、【精密行動】で繰り返し作業をスムーズに
・食べ終わって気が緩んだところに【奇襲攻撃】で追加を出す
・調理場でつまみ食いをする
・泡立て器は調理に使用 使い道様々

◆備考
・泡立て器歓迎
・アドリブ歓迎
・絡み歓迎

鳥珠・菖蒲 個人成績:

獲得経験:52 = 44全体 + 8個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【PC目的】
皆に愛情込めた手料理を振る舞う

【行動】
☆作る料理☆
~闇鍋~
魚介の旨味を消しながら
エグミと苦味を出し
野菜はどろどろに煮込み
「毒針」で鍋を混ぜながら
魚と肉の臭みを最大限に発揮させる

しこたま作る

食べて貰えない時は手ずから食わせる
問答無用である
是非も無いね!

食材は拘って持ち込む

【心情】
大食い大会でありんすか!
ならわっち、皆さんに手料理を振る舞うでありんす♪
わっちの得意料理は「闇鍋」でありんす!
鍋は栄養満点で美味しいからきっと皆喜んでくれるでありんす♪

大食いだから沢山用意しないと(100%善意

え、この手でありんすか?(恥ずかしそうに隠しながら
ちょっと手を切ってしまって
恥ずかしいでありんす



リザルト Result

 戦いの場となる大衆食堂。
 そのカウンター席――血走った目の店主を見据えるように、正面に座った【キキ・モンロ】は、両手に持ったスプーンとフォークを揺らし、料理が出てくるのを今か今かと待っていた。
 そんなキキの隣には、密かにキキと戦うと決めた【朱璃・拝】(しゅり おがみ)と、どんな食べっぷりをするのかを特等席で見ようとする【チョウザ・コナミ】の姿が。
 既に二人は注文を済ませており、朱璃はキキと同じメニューを。
 チョウザはゆっくり食べるために、コースメニューをチョイス。
 そんな三人の後ろで、カウンター席からあぶれてしまった【ナノハ・T・アルエクス】も密かに臨戦態勢を終えていた。
 食べてもきつくならないようワンピースを着て来ている辺り、本気度が窺える。
 そして――目を疑うような量が三皿と、最初のコース料理が運ばれてきて、戦いの火蓋は切って落とされた。

 *

「と言うわけで準備はある程度済ませてある。食材もこれだけ集めたし、あの『空皿積みのキキ』といえど、容易には食べてしまえまい」
 スタッフとして集まった、あるいは集めてきた者達の前で、開店前の朝礼をする店主。
(準備であれだけ用意しているというのならば、恐らくアレも用意されているはずだ。ならば私がやるべき事は……決まった)
 店主の言葉を聞きながら、目の奥と腰に携えた泡立て器を光らせる【レダ・ハイエルラーク】は、どうやら自分の担当する部分を決めたようだ。
 そんな様子を見た【クロード・クイントス】もまた、静かに頷いた辺り、食材を見てどんな料理を作るかを想像しているに違いない。
 唯一は――。
「やっみ鍋闇鍋♪」
 ご機嫌にそんなことを呟いている【鳥珠・菖蒲】(ぬばたまの あやめ)がイレギュラーとも言える存在だったのだが、幸か不幸か。
(今に見ていろ『空皿積み』! 絶対にぎゃふんと言わせてやる!!)
 打倒キキに燃える店主の耳には……届くことは無かった。

 *

「チャレンジメニュー、『カレー三昧』のお客様ー!」
 キキが――つまりは朱璃もナノハも頼んでいたそのオーダーは何というか……。
 曲芸の域にすら達していそうな程に高く盛られた白米であり、何故だか所々にナンが貼り付けられていた。
 肝心のルーが見えず、困惑する朱璃とナノハだったが、
「いただきますなのー!」
 そんなことを気にしないキキがスプーンを白米に突き立てると……。
 ドーム状に盛られているらしく、白米の中から黄金色のルーが溢れてくる。
 なるほど、盛りすぎたためにルーを掛けては白米とのバランスが崩れてしまう。
 それを考慮し、予めドーム状に白米を盛った上で、中にルーを閉じ込めるという方法を取ったらしい。
 その情報は、困惑していた二人を突き動かすのは十分で。
 スプーンを握りしめる手に力を込めた朱璃とナノハが一口、甘みと酸味が口内をくすぐり、僅かに遅れてきた辛みが刺激を与えてくるカレーを堪能した瞬間――。
 ――――シュンッ。
 変な音が聞こえた。
 二口目を運びつつ、音のした方向に顔を向けた二人が見たのは……すでに半分ほどを平らげたキキの満面の笑みであり、一気に急かされた気持ちになる。
 が、焦りはペースを乱し、乱れたペースは本来の食べられる量を減少させる。
 驚きはしたが、最終的にキキより食べれば良い。
 その考えの二人は慌てず焦らず自分のペースで、まずは目の前のカレードームナンを添えて、を切り崩していくのだった。
 そんな様子を尻目に、前菜であるトマトをゼリー状にした物を静かに……。
 いや、キキがカレーを半分ほど吸い込み消した瞬間に思わず吹き出しかけはしたが。
 それでも、まだ静かと表現できる範囲内で食べ進めていたチョウザは、
「お待ちどうでありんすよ。大食いメニューの『闇属性大鍋』でありんすよ~!」
 隣を通ったその鍋から漂う匂いと雰囲気と……あと何か見えてはいけないような禍々しいオーラによって、思わず振り向いてしまった。
 ……果たしてあれは『大食い』以前の問題では無かろうか、と。
 そして、自分の食べていた皿から目を離してしまったチョウザの耳に届いたのは――。
「おかわりですね! どうぞ!」
 と言う言葉で。
 どうやら、その振り向きを、店員を呼ぶ行為と間違えられたらしく、呆気にとられて否定が遅れた瞬間に。
 食べていた前菜が、気付けば最初の量よりも増えていた……。

 *

「みんな味に感動して動かなくなってくれているでありんすよ!」
「作った物をこれだけ気持ちよく食べてくれると気分がいいね!」
「だが、流石はチャレンジメニュー挑戦者達だ。まだ余裕の様だぞ」
 厨房にて、手は止めずに店内の様子を確認し、口を動かしたレダ、クロード、菖蒲は、一層張り切って腕を振るう。
 思う存分に腕を振るい、その振るった料理を思う存分食べてもらえる。
 そんな場を提供してくれた、絶賛在庫の確認とキキの食べるペースの計算に明け暮れる店主へと感謝しつつ。
 ……約一名が出し続ける、被害者の数は――可哀想に計算には、入らないらしい。

 *

「完食……ですわ」
「最初からこの量なんだ……」
「次のお皿まだなのー?」
 どうやら次のメニューがキキに運ばれる前に完食出来た朱璃とナノハは、店員を急かすキキを尻目に水を一口。
 グラスは無く、一人につき一つのピッチャーで用意されている辺り、この水すらもチャレンジ用と分かる。
 ――と、
「お待たせしました。チャレンジメニュー『カレー三昧』のお客様!」
 ドンッ――!!
 三人の目の前に置かれたのは……ピザ。
 否、生地はナン。トッピングはバターチキンカレー。
 見た目をピザに寄せた、正真正銘のカレーである。
 が、特筆すべきはその大きさ。
 顔より大きい、という表現は聞くが、流石に配膳容器からはみ出る大きさは中々無いだろう。
 三人思わず絶句――失礼、一人だけ目を輝かせていた。
 ナイフとフォークで切り分ければ、ナンの中に入れられたチーズがそれはそれは美味しそうに伸びて。
 腹に溜まりやすいナン、チーズという、カレーと相性がいい要素でしっかりと挑戦者達の胃袋を攻撃してくる二品目。
 そんな大きな大きなピザを横目に、何故だか丼で持ってこられたコーンスープに若干狼狽えつつ、チョウザはゆっくりとスプーンを口へと運ぶ。
 あわや前菜だけで満腹にされようとしたおかわり責めを回避したかと思えば、今度は始めから量を増やしてきたらしい。
(ザコちゃん大食いメニューもチャレンジメニューでも無い筈なんだけど? まぁ、食べるけどさぁ)
 そんな思いを微かに覚え、キュイーーン! という日常では全く聞く機会が無い音を聞いて、あぁ、またか。とキキの方へと視線を移し……。
 思わずむせた。珍しく、咳をして。丼とスプーンが当たり、音を立ててしまった。
 その視線の先には――物理法則を無視したような、自分の顔より大きく切り分けたナンを……一口で頬張るキキの姿があった。

 *

「ナンはまだ焼き上がらないのか!?」
「こっちにもお皿持ってきて貰えます!?」
「次はどの食材を都合するでありんすかねぇ!」
 大食いやチャレンジメニューに挑戦している食堂が戦場ならば、そこへ届ける料理を用意している厨房もまた、戦場である。
 如何に応援と言えど、休んだり一息入れる暇すら無く。
 盛り付け、調理と担当している三人は、汗すら拭う暇が無いほどに忙しい。
 店主の連れてきた、『大衆食堂三銃士』なる、『食器洗いのチョイ』、『配膳のウエタ』、そして、『下ごしらえのデザト』の三人がそれぞれの役割に徹してくれているお陰で何とか持っている……と言う事にしておこう。
「オーダーです! バカ(みたいに盛った)ミ(ートソースパ)スタ二つ!!」
 何やら悪口に聞こえてしまいそうなオーダーをウエタが告げた後、
「来たか……」
 そう呟いたレダは――。
 すでにデザトの手によって茹で上がり、盛り付けを待つだけの大量のパスタ麺に……泡立て器を突っ込むと――。
「――むんっ!!」
 見開いた目に光を宿し、
「我が泡立て器の力に刮目せよ!!」
 捻りを加えて勢いよく、天へと向かって振り抜けば。
 螺旋の力を得て、パスタが天へとそびえるは必然。
 そして、そびえるパスタタワーにクロードがソースで化粧を施して。
 螺旋故に空洞となった中心へ、菖蒲も麺とソースを交互に入れていく。
 ……何故だか毒針で調整を掛けているのは気のせいだろう。
 きっと。知らぬが仏という言葉もある。
『バカミスタお待ち!!』
 三人でハモった瞬間に、パスタが盛られた皿はヒョイと持ち上げられ。
 涼しい顔で注文した客の元へと持っていくウエタだが……。
 もしかすると、三銃士の中で一番凄いのは――コイツかも知れない。

 *

「コース料理のお客様ー! 並びにチャレンジメニュー『カレー三昧』のお客様ー!!」
 チョウザのコース料理、そしていよいよ三皿目に到達するナノハ、朱璃、キキの料理が運ばれてきた。
 チョウザの元へと運ばれてきたのは、紙に包まれた巨大な料理。
 カルトッチョと呼ばれるその料理の包み紙へとナイフを入れると。
 白い湯気と共に、閉じ込められていた香りが周囲一杯に広がって。
 メインのサンマや、その脇役に徹するアサリ、海老は元より、プチトマトやアスパラガスなどの野菜は彩りを与え。
 匂いで美味く、見た目で美味しく、食欲をかき立てる。
 そんな料理がたっぷりサンマ三尾分。
 包み紙の周囲には、これでもかと添えられた大根おろしがまたアクセントとして施されていた。
(だからザコちゃん大食いメニューじゃないんだってば。絶対勘違い間違いされてるよね? 出されたから食べっけど。変に声かけておかわりとか思われたらたまったもんじゃないし?)
 半ば諦めながら、音も立てずにサンマの身を切り分け口に運んでいると――。
 やっぱり聞こえてきた。隣から。
 日常的には聞こえようはずも無い音が。
 ドガガガガガガガガガガガッ!!
 と。
(先ほどから不思議でしたけど、キキ先輩から……何か変な音が出ていませんこと?)
(後ろの音が気になるなぁ……。どんな食べ方してるんだろ……)
 キキとの勝負に没頭し――食べるのに夢中で今まで気にしなかったナノハと朱璃は。
 ここに来て気になってしまったその音を。
 確認するためにキキの方を覗き見て……。
 一皿目とは違い、普通にカレーとして――。
 『普通に』という表現が正しいかはさておいて。
 よく見るカレーとライスの状態で運ばれてきたシーフードカレーを……。
 運ばれてきたままの土鍋を抱えて掻き込んでいた。
 もはや食器ですら無く、多く盛れさえすれば何でもいいという店主の意地が見え隠れしているその三皿目に。
 果たして『皿』という表現が正しいかは疑問だが、朱璃とナノハは手を付けた。
 まだイケる。まだ舞える。まだ食える。
 そんな様子を厨房から確認した店主は……一人焦っていた。

 *

「んっふっふ~♪ こっちもポイ。この食材も~ホイ♪」
 店主が焦っていた原因は……コレである。
 菖蒲が作っていた『闇鍋』。
 それを……好き勝手に作らせすぎたのだ。
 そして何より、『空皿積み』や、それに釣られて大食いメニューを、チャレンジメニューを頼む客があまりにも多すぎて。
 気が付けば溶けるように集めた食材が消えていった。
 このままではあっさりと完敗してしまうこと必死。
 そうならぬように、何か手はないものか……。
 と、そう考えていた店主に、とある閃きがあった。
 浮かんでしまった……その悪魔のような考え。
 それは――――。

 *

 奇っ怪な音を出しながらもペロリと完食したキキと。
 そろそろ苦しくなってきた朱璃とナノハ。
 大量の米、ナン、チーズ等etc。
 腹に溜まる要素は盛りだくさんであり、単純に量も多い。
 水すら入れるのも惜しい、と身体を揺すって胃にスペースを空けていた二人に。
 そして、キキに。
「チャレンジメニュー『カレー三昧』ラストの料理です」
 先ほどまでと違い腰が引けたままに運ばれてきたその料理は……。
『ウッ!?』
 思わず二人が声を合わせて呻くほどに。
 得体の知れないものだった。
 やや紫色の混じった、沈んだ茶色のルー。
 そのルーが、何故だかゴポゴポと気泡を発していて。
 その湯気はどうしてだか紫色であり。
 トドメに立ちこめる湯気はうっすらドクロマークをかたどった。
 一目で分かる。毒です。本当にありがとうございました。
「さ……流石にコレは……」
「食べる勇気は……ありませんわ」
 勝負よりは身の安全。
 そう思って皿を僅かでも遠ざけようとしたとき……。
「んー、いらない世話ありがた迷惑かもだけど、毒消し草あるよ? 挑戦意識高めなゆーしゃ様達使う? 予防になるか分かんなくて誤魔化し気休め程度かもしんないけど」
 キキを挟んで朱璃の反対側。そこへ座っていたチョウザから声が掛けられた。
 まだやれるなら。満腹だから、ではなく、毒の可能性があるから、と食べないのならば。
 その問題なら、解決出来るよ? と。
「それも食べ物なの? 食べる食べるのー!!」
 そんな葛藤など無いキキは。
 『食べられる』と言う理由だけでチョウザから毒消し草を受け取り、口に含む。
 ならば、と朱璃もナノハも無言でチョウザに向けて頷いて。
 その手から毒消し草を受け取ると、口に含んでスプーンを握りしめるのだった。

 *

「わっちはもう使える食材も無くなったでありんすし、食堂の方へと行って来るでありんす」
 そう声を掛けて厨房を出て行った菖蒲を見送り。
 用意した食材が尽きた、という店側の――店主の敗北によってようやく一息付けたレダとクロードは、残った食材を見て顔を見合わせた。
 この材料ならば。
 これだけの量あるならば。
 どうせ店側の敗北なのだ。まだ店主から調理を止めろとも言われていない。
 ならばやはり、作るべきではないか。
 最後の食材を利用して……最後に相応しい食べ物を!

 *

「もう……欠片も入りませんわ。……武人としての意地、貫く事ができましたわ……」
「流石に……キツかった。僕もこれ以上……無理」
 互いに机に突っ伏しながら。
 されども完食出来た事実に満足げに、満面の笑みを見せる朱璃とナノハは。
 まだ何か出てこないかと心待ちにするキキを、無意識に視界に入れずにいた。
 互いに食べきったのだから引き分けだ……と。
 そこへ、
「? まだ何か運ばれてくる雰囲気空気っぽいけど?」
 地獄かと錯覚するような言葉をチョウザが発し、その言葉の通りに何かが運ばれてきた。
 それは――。
「最後のデザート、巨大アイスケーキですよ」
「季節のフルーツを、そしてケーキの定番である苺をこれでもかと使用した特製のケーキだ」
 レダ、クロード、ウエタの三人がかりで運ばれてきた別腹に該当するものであり。
「むぅ。そうか果物。それも入れておけば良かったでありんす」
 痙攣して首を左右に振っている客を介抱しながら――その口に『闇鍋』を押し込んでいた菖蒲が何かを悔しがったが、そちらに意識を向けた生存している客はいない。南無。
「このケーキをもってこの店の食材は終了だ」
「店主が在庫確認して空っぽになった事実を受け入れられずに気絶しちゃったんだよね。だから、勝手に宣言しちゃう」
『君たちの――勝ちだ!』
 爽やかな笑顔で。満足げな笑みで。
 やり遂げた達成感で満ちた、熱い身体を伝うのは。
 甘く、冷たく、頬を落とすような美味しさのアイスケーキであり。
 店内に居た動ける者達全員で、その勝利の証を頬張っていく。
 吸引力の変わらないただ一人のキキに負けじと、もの凄い速度で食べ進めて頭が痛くなった朱璃とナノハや。
 無休憩でひたすらに料理を作り続けたクロードとレダや。
 一人距離を置いて背景に溶け込みながら一口ずつ味わうチョウザや。
 自分だけアイスケーキを頬張り、介抱している客には『闇鍋』のみを食べさせ、オーバーキルをかます菖蒲まで。
 もう二度と無いであろう大食いメニューやチャレンジメニューに思いを馳せつつ、女性陣は、今日だけは体重計に乗らないと、心に固く誓うのだった。
 数日後にはこの店があった場所が廃墟になっていたり、帰り際にキキが、
「今日は『飲み物』しか出てこなかったのー」
 とか呟いていたりしたが、知らぬが仏。
 きっと気のせいだ、とこの日のことを知っている者達は、そっと記憶から消すのだった。



課題評価
課題経験:44
課題報酬:1200
どこまでも高く積み上がる皿
執筆:瀧音 静 GM


《どこまでも高く積み上がる皿》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 クロード・クイントス (No 1) 2019-10-05 12:50:11
調理するよ、ニッコリ。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 2) 2019-10-05 19:55:01
ザコちゃんは別に、料理が得意でも専門でもないし。
ただ周りの影響も規制もなしなしに、好き勝手に食べられるってのはいーよねって、つくづく。

ザコちゃん近くでちょっかいかけてっかなぁ。
おもしろい食べ物でたら一口貰うけど、別にそっちは主だち目的じゃなくて。
ちょこちょこ口出ししてるだけ。

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2019-10-05 20:33:12
大いに食べさせていただきますわ♪

《イマジネイター》 ナノハ・T・アルエクス (No 4) 2019-10-06 18:06:22
大食い大会…これは食べるしかないよね♪

《模範生》 レダ・ハイエルラーク (No 5) 2019-10-08 08:08:42
調理側だな…。

《新入生》 鳥珠・菖蒲 (No 6) 2019-10-08 22:44:32
ギリギリ参加失礼でありんす♪

ご飯食べたいでありんすかー♪
そうでありんすかー♪
わっち、皆さんの為に心を込めた愛情料理作るでありんすよ!
頑張るでありんす!こんこん♪