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まだみたことのない、すてきなたからもの


ストーリー Story

 わたしにはママがいる。
 わたしにはたくさんのきょうだいがいる。
 でも、わたしにはおかあさんがいない。
 わたしだけじゃなくて、ここにいるきょうだいはみんなおかあさんをしらない。
 あいたい、あいたい。おかあさん。
 どうしたらあえるんだろう?

 太陽が街の一番大きな時計台の屋根に昇る頃、店が開店準備をはじめる。
 魚屋の女将が魚の頭を豪快に切り落とし、肉屋の店主が大きな声で呼び込みをし、パン屋の旦那が店をサボっている。
 そんな街の片隅、いつものように佇む孤児院の子供達。
 ――孤児院へ寄付金を。恵まれない子供達に施しを。
 いつものように子供達は呼び込みをし、いつものように決して多くはない収入を得る。
 いつもの街の光景。ここから街が動き出すのだ。
「なぁ、聞いたか?」
 普段は難しくて、あるいは興味を惹かれなかったからかスルーしていた会話が今日はやけに大きくはっきりと聞こえた。
「あぁ、街外れのボロ屋に住み着いた女の事か?」
「そうそう。なんでも探し物をしているらしい」
「……あの身なりだぜ? 何を探してるってんだ?」
「金目のもんとか、住み家とかじゃねぇの?」
 まるで禿げ鷹のようだな。そう笑っていた大人達の言葉の意味はわからなかった。
 けど、もしかして。
 はやる気持ちを押さえきれず、少女は駆け出した。

 その日、学園にやって来た男は慌てた様子であなた達に助けを求めてきた。
 曰く、彼は孤児院を経営しているのだという。
「実は私の院で暮らしている女の子が行方不明になりまして……」
 少女の名前は【プリムリリィ】
 彼女は『母』というものに強い憧れを常日頃から抱いており、それを周囲にも度々話していたという。
 そしてこうとも話していた。
『おかあさんにあいたい』と。
「最近街では、街の外れに住む女性の噂があります。きっとプリムリリィはその女を自分の母だと思い込んで会いに行ったのだと思います」
 しかし、その女は彼女の母親ではないと院長は断言した。
 何故なら、少女の母親である人物は少女を預けたそのすぐ後に息絶えてしまったから。
 院長はその場に立ち会って、母親を院内の墓所に埋葬したのだと語った。
「プリムリリィには言い出せませんでした。事実を受け止めるには彼女はまだ幼すぎる」
 しかし院長の説得を聞き入れるほど彼女は素直ではなく、確固たる意思を持っているようだ。
「お願いです、わたしたちのあの子を探してください……!」
 そして院に戻るように説得をしてほしいと院長はあなた達に頭を下げた。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2020-01-07

難易度 普通 報酬 少し 完成予定 2020-01-17

登場人物 4/8 Characters
《勇者のライセンサー》フィリン・スタンテッド
 ヒューマン Lv33 / 勇者・英雄 Rank 1
「フィリン・スタンテッド、よ……よろしく」 「こういう時、どうすれば……どうすれば、勇者らしい?」 (※追い詰められた時、焦った時) 「黙って言うこと聞け! 殴られたいの!?」 「ぶっ殺してやる! この(お見せできない下劣下品な罵詈雑言)が!!」   ###    代々勇者を輩出してきた貴族スタンテッド家(辺境伯)の令嬢。  一族の歴史と誇りを胸に、自らもまた英雄を目指してフトゥールム・スクエアへと入学する。  愛と平和のために戦う事を支えとする正義感に溢れた性格で、『勇者らしく人々のために行動する』ことを大事にする。  一方で追い詰められると衝動的に罵声や暴力に訴えてしまう未熟な面もあり、自己嫌悪に捕らわれる事も多い。 『彷徨う黄昏に宵夢を』事件で対峙したルガルとの対話から思うところあったのか、頑なな勇者への拘りは少し角がとれたようだ。 ※2022年8月追記 全校集会『魔王の復活』後、昨年クリスマスに結ばれたルガルとの子供を身籠っていた事が判明 (参考シナリオ) 恋はみずいろ L’amour est bleu https://frontierf.com/5th/episode/episode_top.cgi?act=details&epi_seq=649 ◆口調補足 三人称:〇〇さん(敬語では〇〇様) 口調:~かな、~ね? その他:キレた時は『私、アンタ、(名前で呼び捨て)、(言い捨て)』 ◆Twitter Sirius_B_souku
《ゆうがく2年生》蓮花寺・六道丸
 リバイバル Lv13 / 芸能・芸術 Rank 1
名前の読みは『れんげじ・りくどうまる』。 一人称は『拙僧』。ヒューマン時代は生まれ故郷である東の国で琵琶法師をしていた。今でもよく琵琶を背負っているが、今のところまだ戦闘には使っていない。 一人称が示す通り修行僧でもあったのだが、学園の教祖・聖職コースとは宗派が異なっていたため、芸能・芸術コースに属している。 本来は「六道丸」だけが名前であり、「蓮花寺」は育ててもらった寺の名前を苗字の代わりに名乗っている。 若い見た目に不釣り合いな古めかしい話し方をするのは、彼の親代わりでもある和尚の話し方が移ったため。基本的な呼び方は「其方」「〜どの」だが、家族同然に気心が知れた相手、あるいは敵は「お主」と呼んで、名前も呼び捨てにする。 長い黒髪を揺らめかせたミステリアスな出で立ちをしているがその性格は極めて温厚で純真。生前は盲目であったため、死んで初めて出会えた『色のある』世界が新鮮で仕方がない様子。 ベジタリアンであり自分から肉や魚は食べないが、あまり厳密でもなく、『出されたものは残さず食べる』ことの方が優先される。 好きなもの:音楽、良い香りの花、外で体を動かすこと、ちょっとした悪戯、霜柱を踏むこと、手触りのいい陶器、親切な人、物語、小さな生き物、etc... 嫌いなもの:大雨や雷の音
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《大空の君臨者》ビャッカ・リョウラン
 ドラゴニア Lv22 / 勇者・英雄 Rank 1
とある田舎地方を治め守護するリョウラン家の令嬢。 養子で血の繋がりはないが親子同然に育てられ、 兄弟姉妹との関係も良好でとても仲が良い。 武術に造詣の深い家系で皆何かしらの武術を学んでおり、 自身も幼い頃から剣の修練を続けてきた。 性格は、明るく真面目で頑張り屋。実直で曲がった事が嫌い。 幼児体系で舌足らず、優柔不断で迷うことも多く、 容姿と相まって子供っぽく見られがちだが、 こうと決めたら逃げず折れず貫き通す信念を持っている。 座右の銘は「日々精進」「逃げず折れず諦めず」 食欲は旺盛。食べた分は動き、そして動いた分を食べる。 好き嫌いは特にないが、さすがにゲテモノは苦手。 お酒はそれなりに飲めて、あまり酔っ払わない。 料理の腕前はごく普通に自炊が出来る程度。 趣味は武術関連全般。 鍛錬したり、武術で語り合ったり、観戦したり、腕試ししたり。 剣が一番好みだが他の分野も興味がある。 コンプレックスは身長の低さ。 年の離れた義妹にまで追い抜かれたのはショックだったらしい。 マスコット扱いしないで欲しい。

解説 Explan

【成功条件】
 プリムリリィが納得して院に帰る。

【登場人物】
 プリムリリィ:
 孤児院で生活をしている女の子です。齢7才程度。
 普段から母親に会いたいと親しい『家族』にはもらしていたようです。
 普段は素直で礼儀正しい女の子ですが、一時決めたら考えを曲げない強情な一面もあります。
 現在彼女は、街で噂話になっている街の外れに一人で向かっています。

 院長:
 名前をレオナルドという、40代くらいの男性です。
 父親から孤児院の経営を継いで10年ほどですが、子供達からはとてもよく慕われています。
 孤児院で生活している子供達と自分、そこで働く人たちはみんな『家族』である、が彼の信条です。
 プリムリリィの母親を看取り、弔ったため噂の人物が彼女の母親ではないことを知っています。

 ボロ屋の女:
 プリムリリィとはなんの関係もない、いわゆる浮浪者です。
 協力を仰げば母親の『フリ』をしてくれるかもしれません。
(メタ情報:彼女は子供を亡くした経験があるようです。協力してくれるのはそのためです)
 なお、彼女の探し物は今回の物語に関係ありません。

【現場】
 街の外れにある林、もしくはそこに佇む小屋が舞台です。魔物は出てきません。
 皆さんが今から出発しても、少女が小屋に辿り着く前に彼女と接触ができるでしょう。
 つまり、先回りが可能です。

【その他】
 院長と女は危険が伴う行為以外でしたら協力をしてくれるかも知れません
 なにか説得に有利そうなスキルを持っていると成功しやすいかもしれません。


作者コメント Comment
 ハッピーナポリタン!!! ……あ、まちがえました。
 なにはともあれごきげんよう! 新人ゲームマスターの樹 志岐です。
 子供って意外と頑固ですよね……。
 果たして皆様は少女を納得させることができるのか!
 皆様のプランをお待ちしております!


個人成績表 Report
フィリン・スタンテッド 個人成績:

獲得経験:57 = 48全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
●方針
ボロ屋の女性に接触。
プリムリリィの事情を話し、協力を仰ぎに

●事前準備
接触する順番については調整。
真実を話す人がいる場合、ボロ屋の女性の方が後になるように。
また結果については逐次で情報共有。

●行動
六道丸(リクさん)が真実をそのまま伝えるようなので、自分たちの接触はその後に。
プリムリリィが真実に納得できたようなら二人で慰め、ダメだったら母親を演じてフォローしてもらう

接触まで時間にはプリムリリィの母について『事前調査』した情報や、演技のコツについてを女性に指南(食い扶持にもなるだろうし)
最初は本人、疑われたら『体を借りて天国から話してる』という2段構え。

全てが終わったら女性にはちゃんと礼金を。

蓮花寺・六道丸 個人成績:

獲得経験:57 = 48全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
ありのままを伝える
「プリムリリィどの!ここにおったか、探したぞ
話すときはしゃがみ目線を合わせる
「拙僧は学園の芸能コースの六道丸。レオナルドどのの依頼で其方を探しておった
「いかんではないか、言いつけに背いては…。レオナルドどのは其方を心配しておったのだぞ?
「プリムリリィどの、よく聞いてほしい。其方の母上はな、もうとうに死んでしまわれたのだ
「そこまで親に会いたいと…よし、拙僧に任せよ。生きたまま会わせてやれぬ事もない
「拙僧は琵琶法師、語り部だ。そして優秀な語り部は、聞く者にその語りが今まさに起こっているかのように思わせることができるという
「其方の母上のこと、いつか必ず語って聞かせよう

チョウザ・コナミ 個人成績:

獲得経験:57 = 48全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
同じ箱の中で暮らすの飽きるよねぇ、わかるー。
少なくともそっちはなんかの価値観に染められ編まれたりとかない分、多少は自由引っ張れそうな空気あっけど。似た者はありみ。
…ってもザコちゃんはむしろ、親探し出すぞー、って気持ちはないんだけど。
むしろ会ったら絶対めんどいし。会おうとも思わないけど。

とりまザコちゃん、親がいるいないの有無ーって伝達的なのはどーでも良くってー、むしろ違う価値観面白いかもーって会いに来ただけ。

だってさ、飛び出しちゃん。小屋のお方で間違いないって思う根拠が探し物してるからーってだけでしょ?
その1点でこんなけ盲信に猛進出来んの面白くない?箱の中の猫ってか箱多すぎて訳わかんないでしょ。



ビャッカ・リョウラン 個人成績:

獲得経験:57 = 48全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
プリムリリィと一緒に行動する

■行動
プリムリリィを探す。見つけたら声を掛けるよ。
おーい、プリムリリィちゃーん!

学園の生徒であること。院長先生に探してと頼まれたこと。
でも直ぐに連れ帰る気はないことを正直に伝えるよ。
今の彼女には、嘘を付いたら味方になれないと思うからね。

後は護衛としてプリムリリィに同行。
どうしたいかはプリムリリィに任せて、サポートしたり危険から守ったりするよ。
件の女の人に会えば、どういう結果になろうと孤児院に戻るはず…やり取りの様子はそっと見守るよ。
女の人に会った後、院に帰らず家出しようとしたら流石に止めるけどね。

帰りも一緒に付き添うよ。
ただいまを言って家族を安心させないとね。

リザルト Result

(もりなんて、はじめてきたから……)
 風が木々を揺らす音や鳥の鳴き声に驚き、足が止まる。
 けれど、大丈夫。ビックリはするけど、怖くはない。
 多分この先に街の人が言っていた、小屋があるはずだ。
 そしてそこには……。
 期待と不安の入り交じるなか、踏みしめた一歩のその下で枯れ枝がぱきりと音を立てた。

「お願いがあるの」
 時間はやや遡る。
 そう切り出した【フィリン・スタンテッド】の姿を、身なりが整っているとはお世辞にも言えないその女性はちらりと一度だけ見ると、すぐに手元の焚き火に視線を戻した。
 まるで興味がない様だ。学園の生徒だと言うことにも、世間のことも、自分が生きていくことだけで精一杯なのだろう。
 それでもフィリンはただまっすぐに彼女を見つめて続けた。
「今、ここに女の子が向かっています。その子は貴女の話を聞いて、貴女を自分の母親だと思い込んで会いに来ようとしてるの」
 女の子。母親。会いに来ようとしている。
 言葉をひとつひとつ拾う度、女の目に彩が宿ったように感じた。
「……それで、アタシに母親のフリでもしろっていうンか?」
「えぇ、貴女がかつて『悲しい思い』をしたのは調べさせてもらったわ。ということは母親の経験はあるわよね?」
 女はその言葉に、フッと短く息を吐くような笑いを返した。
「確かにあるが、……それでアタシに利点はあるンかい?」
 世の中の全ての物事はギブアンドテイク。なにかを求めるなら報酬を、と手を差し出してみせた。
「貴女に生きるための術を教えてあげる。人の感動を誘うような振る舞い方を。……あぁ、そういえば」
 ――その女の子ね、貴女の子供にによく似てるのよ。
 その一言は、女の協力を得る決定打となった。

「うーん。母親が居ないってだけで会いにいく、かぁ……」
 少女の行動力とその理由を聞いて、ニヤリと笑った【チョウザ・コナミ】は前を歩く【蓮花寺・六道丸】と【ビャッカ・リョウラン】の後を付かず離れずの距離で追っている。
 なんと危うい、無鉄砲な理由だろう。これが若気の至りというものなのだろうか。
(いやザコちゃんだってまだ若いけどね?)
 心の中で自分の考えにツッコミを入れて、すぐに空しさを感じてやめた。
 一方、ビャッカはというと彼女にかつての自分を重ねているようであった。
 育ての親がいて、親の実子にあたる兄弟がいて。
 とても幸せだった。血の繋がりはなくても、愛を沢山注いでくれた。
 それでも心の奥底では少女と同じ存在を求めていた。
(だから人生の先輩として伝えたいことがあるんだ)
 少女には難しいかもしれないけれど、いずれわかる日が来るから。
「あっ、あの子かな? おーい!」
 前方に簡素な服を身に纏った少女の姿を捉えたビャッカは手を振り声をかける。
「……えっ?」
 少女――プリムリリィは驚いたように振り返った。
「脅かしてごめんね、私たちは学園からきたんだ。あなたはプリムリリィちゃん?」
 目の前に差し出された学生証の意味まではわからなかっただろうが、学園から来た学生らをじっと見つめ、問いかけには黙ってうなずくだけで答えた。
「そうか、……いや、一先ず何事もなくてよかった。レオナルドどのも安心するだろう」
 少女の目線に合わせて語りかける六道丸。彼から発せられたよく知った名前に驚いたように飴玉のような目を見開いた。
「いんちょうせんせい、の、しりあい……?」
「応とも。其方を探すように頼まれてな」
「あ、でも安心してね、無理やり連れて帰る気はないから!」
 少女の気がすむまで付き合う。そして真実を告げる。それがビャッカと六道丸のだした答。
 チョウザはというとこの危なっかしい少女の行く末が見れればそれでいいようで、大きなあくびを噛み殺そうとしているところだった。
「ところでさー、噂のボロ屋ってあれじゃない?」
 チョウザの指差した先。遠目からでもみてわかるがたついた木の扉と、隙間から漏れる焚き火の煙は中に誰かがいる事を物語っていた。
 小さく息をのむ。中に居るものが、自分の望んだものではないかもしれない怖さに足が震える。
「大丈夫」
 ビャッカが少女の背中を押す。
「なにかあったら、私たちが守ってあげるから」
 なんで。
 なんでこのひとたちは、はじめてあったわたしにこんなにしてくれるんだろう。
 わからない。わからないけど、いまたよれるのはこのひとたちしかいない。
 少女のあとに歩幅を合わせて学園生が続く。そして、
「……こんにちは」
 失った者同士が今、邂逅する。

 ボロ屋には女が一人。少女の気配に気づくとゆっくりとこちらを振り返った。
 艶をなくした髪に痩せ細って骨と皮だけのような体。それでも女の浮かべた表情はまるで、我が子を愛しむ母親の笑みで。
 物心がつく前には既にいなかった、初めて会う女の人。その女性を見て少女は駆け出した。
「……!」
 小さな腕を目一杯広げ、強く強く抱き締める少女をただただ見つめる女。
 芝居の一幕としてあり得そうな感動的なシーンであった。
 そのあとの、少女の一言さえなければ。
「……おかあさん、じゃない」
 それは本能的なものだったのかもしれない。
 確かに目の前の女は、母親なのだろう。しかしそれは『誰かの』であって、『わたしの』ではない。
(まぁ、そんな簡単に上手くいかないわよね)
 女を母親に仕立てようとしたフィリンはその様子を見て息を吐いた。
 大丈夫、こんなこと想定内なのだから。見破られたなら誤魔化すだけ。
「そう、この婦人は其方の母君ではない」
 少女と目が合うようにしゃがみこんで六道丸は告げる。
「プリムリリィどの、よく聞いてほしい。其方の母君は、もうとうに死んでしまわれたのだ」
 死んだ。
 動かなくなってしまうこと。
 土に埋もれてしまうこと。
 天国に行くこと。
 もう会えないこと。
 少女の頭の中で、死に関する情報がぐるぐると渦巻く。
「この女の人は死んでしまった貴女の母親がいま乗り移ってる状態。だから、正確には貴女の母親ではないの」
 フィリンの説明を聞いて、じぃっと女を見上げる少女に、女は『ごめんね』と小さく呟いた。
「あの、……あのね、プリムリリィちゃん。私もあなたの気持ち、すごくよくわかる。私もあなたと同じだったから」
 いくら代わりのお母さんがいても、本当のお母さんは一人しかいない。そんなことはわかってる。
 でもどんなに離れていても、お母さんは私たちを見守ってくれている。
 それは例え死んでしまっていたとしても同じ。
「だから、私たちは生きなきゃいけないと思うの。お母さんの一番の宝物だって、胸を張って誇れるようにね」
 優しく頭を撫でる手は、大切な家族が与えてくれたもののお裾分け。
 ほろり、目元からこぼれ落ちた熱い雫は事実を認め、優しさを、愛を……それは無意識かもしれないが、受け入れた証だったのかもしれない。
「あー……せっかくだからザコちゃんからも一言言わせてもらうね? 似た者同士か集まるなかで自分は他とは違う、ってナニかを探しだしたい気持ちはわかる。でも長期化すると精神きつい……らしいよ」
 言葉の最後の方、誤魔化し消えるように付け加えた言葉はチョウザの経験則によるものだったのだろうか。
「欲を持つってなら、漠然としないで軸おいとこーね。まぁザコちゃんは親さがすぞー! って気持ちはないんだけど」
 拳をゆるりと天に突き上げてからへにゃりと力を抜いた、おかあさん以上に不思議な学生の話や動きは、少女の興味を惹いた。
「なんで? おかあさんにあいたくないの?」
「めんどい。そーゆー考え方もあんだよ、飛び出しちゃん」
 あまり長話をするとボロがでそうだ。適当にはぐらかせば、不服そうな顔をしてはいるものの納得はしてくれたようだ。
「どうだろう、プリムリリィどの。わかってくれたかな?」
 子供は大人に対してコンプレックスを抱いていることが多い。どうしても対面して会話するとき、子供は大人を見上げる形になるからだ。
 生物は本能的に自分よりも目線が高いものに対して圧や恐怖心をいだくのだという。
 だから六道丸は少女と会話をするときは毎回こうして話をした。
 目線を合わせて、少女にも分かりやすい言葉を選んで。難しい言葉は身振り手振りで補って。
「……」
 彼の問いかけに少女は無言で返した。わかったが、納得はできていないといった風な、なんとも不思議な顔をしている少女に『ならば』と笑って不思議な楽器を出して見せた。
「拙僧は琵琶法師、語り部だ。そして優秀な語り部は、聞く者にその語りが今まさに起こっているかのように思わせることができるという」
 バチで弦を弾くと、聞いたことのない不思議な音が室内に響いた。
「今はまだ、拙僧の技量が足りぬが……其方の母上のこと、いつか必ず語って聞かせよう」
 彼女がどのようにして少女を産んだのか。
 彼女が何故、少女を手離さなければならなかったのか。
 彼女亡きあと、少女が感じた寂しさを。
 すべて、すべてひとつの物語にして届けよう。
「……うん」
 ようやく首を縦に振った少女の頭を撫でる。
 もう突然飛び出していったりしない。孤児院に戻ったらそこで眠っている『おかあさん』に会いに行く。
 ビャッカと六道丸が少女といくつかの約束を交わすなか、フィリンは女にそっと声をかけた。
「無理を言ってごめんなさい。でも貴女が居てくれて助かった」
 これは心ばかり。と手のひらにのせた『お礼』はいままで手にした同額のものよりとてもとても重たく感じて。
「こんなん受け取れないよ。アタシはなンもしてないしね。逆に礼を言いたいくらいさ」
 渡されたそれを突き返し、女は少女を見つめる。
「あぁ、本当によく似ている。アタシの可愛いお姫様(リリー)に」
 向こう側へ逝ってしまった我が子の面影を、自分を母親だと思い込み無鉄砲に飛び出してやってきた少女に重ねているのだろうか。
 少女に向ける視線は、我が子を見守る母親のそれだった。
「さー、帰ろ帰ろ。飛び出しちゃんの家族が心配してるでしょ」
「うん、……あっ」
 少女は頷き、なにかを思い出したように声をあげて『待って』と学生達を呼び止めた。
 少女の足が向かう先、それは。
「いっしょにいこう?『おかあさん』」
 もう一人にしないでね。そう笑いかけた少女を『おかあさん』は強く抱き締めた。

 太陽が街の一番大きな時計台の屋根に昇る頃、店が開店準備をはじめる。
 魚屋の女将が魚の頭を豪快に切り落とし、肉屋の店主が大きな声で呼び込みをし、パン屋の旦那が店をサボっている。
 そんな街の片隅、いつものように佇む孤児院の子供達。
 いつもの街の光景。ここから街が動き出すのだ。
「なぁ、聞いたか?」
「ボロ屋に住んでた女の話か?」
 花屋の婿が、仕立て屋の主人に話しかける。
 普段はスルーしてしまう街の人のやり取りが、今日はやけに大きく聞こえた。
「そう。なんでもレオナルドのとこの院で働き始めたらしい」
「へぇ。しっかしそんなヤツに仕事が勤まるのかね?」
「それが掃除洗濯料理と何をとっても一流だし、なにより……すごく、美人らしい」
 噂話をしているおじさんたちに自慢したい気持ちをぐっと堪え、それでも顔のニヤニヤが止まらない。
 そうだよ、すごいんだよ! わたしのじまんのおかあさんだもの!



課題評価
課題経験:48
課題報酬:1200
まだみたことのない、すてきなたからもの
執筆:樹 志岐 GM


《まだみたことのない、すてきなたからもの》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 1) 2020-01-02 07:44:19
勇者・英雄コースのフィリンよ。よろしく。
家族、か…ごめんなさい、ちょっと考えちゃった。

改めて…全体としての方針はそう必要ないと思うけど
事実を言うかどうかくらいはあわせておいた方がいいかな?

プリムリリィへのアプローチはみんなそれぞれ考えがあるだろうし、無理に合わせる必要はないと思うけど。

すぐに思いついた案としては、浮浪者の方に口寄せみたいな形で演じてもらう…とか。
プリムリリィの様子が心配になって彼女の身体を借りて戻ってきたって感じで、やんわりと事実を伝えられないかなって。

《ゆうがく2年生》 蓮花寺・六道丸 (No 2) 2020-01-02 14:39:43
芸能・芸術コースの六道丸だ。此度はよろしく頼む。
家族、のう……拙僧にはピンと来ぬが、普通の童にとっては恋しいものであろうなあ。

拙僧はプリムローズどのには直接真実を伝えるつもりでおる。
童といえども7つにもなれば、存外ものの道理を判断する力はついておるものよ。
まあ、わからぬとしても、伝える努力は誰かしらがした方がよいだろうしの。

拙僧は琵琶法師であったゆえ、誰かの話を語って聞かせることが生業であった。
そして優れた語り部は、物語の登場人物があたかもそこに居るかのように思わせることができるという。
そのようにしてプリムローズどのを母親と引き合せようと思うておる。
……もっとも、拙僧はプリムローズどのの母親を知らぬ。
下調べがいるので今回だけでは終わらぬやもしれぬが、約束だけはするつもりだ。

《大空の君臨者》 ビャッカ・リョウラン (No 3) 2020-01-03 04:15:56
勇者・英雄専攻、ビャッカ・リョウランだよ。
家族か…私もちょっと考えちゃうね。

私はプリムリリィを探して、護衛として一緒に行動するつもりだよ。
無理に連れ帰ったりせず、
何か危ないことをし始めたら止めたり守ったりするくらいで、
彼女の意志に任せて行動するつもりだよ。
今回は、件の女性に会って話が出来れば、結果はどうあれ一度帰る感じになるはず…たぶん。

プリムリリィには…私からは特に何も伝えないつもり。
ただ、隠したい訳じゃなくて、言うなら院長先生からって個人的に思ってるだけだよ。

《勇者のライセンサー》 フィリン・スタンテッド (No 4) 2020-01-06 22:28:00
そろそろ行動をまとめないとまずいわね。
六道丸…リクさんが事実を話にいくなら、私は何かあった時のフォロー的な感じで搦め手を考えてみるわ。
勿論、伝わってくれるに越したことないし、その場合は慰めくらいになるかな…