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【心愛】バレンタイン戦争


ストーリー Story

「またこの時期がやってきたか……」
 風紀委員会の腕章を付けた男子生徒が重々しく溜息を吐いた。
 バレンタインは男女に限らず、家族や友人、恋人にチョコレートを贈り、愛と感謝を伝える日。……だけで済むわけがなく、愛と憎悪は紙一重。バレンタインとは愛と戦争の日なのだ。
 恋の鞘当てはもちろん。そうバレンタインに欠かせないチョコレート――いや、チョコモンスターとの戦いが各地で勃発する。チョコレートを粗末する者には天誅を! 食べ損ねられた恨みに加え、非リア充の負の感情を吸収したチョコモンスターが人間に反旗を翻す。
 もう一度言う。バレンタインとはそういう日なのだ。
 暴徒化したチョコモンスターが人間を見かけ次第体当たりを食らわせ、嫌がらせの如くチョコを浴びせる。チョコまみれになった人型のオブジェがところどころにある中、恋人同士がイチャイチャする地獄の光景がさぞかし見られるだろう。


 毎年この時期になると風紀委員会は学園の治安維持のために忙しくなる。チョコレートの管理指導から注意喚起、はたまたはチョコモンスターの退治だけでなくリア充爆発しろ! とチョコモンスターに混じってひゃっはー! しだす輩まで制圧しなければならない。
 毎年注意喚起を呼びかけていてもやはり被害はなくならない。
「よって各個人でのチョコレートの扱いは慎重に扱うように。バレンタインデーのチョコ製作する場合は、事前に風紀委員会に通達して欲しい」
 ドラゴニアの風紀委員長【エンマ・ルルー】から直々に伝えられたのはそんな話だった。苦虫を噛み潰したような表情でいるのは風紀委員長だけでなく、他の風紀委員のメンバーもだった。
 フトゥールム・スクエアでバレンタインを過ごしたことのない生徒が、そんな大げさな、と笑う。その生徒を真顔のまま一瞥すると、
「これまで学園内で起こった例を挙げよう。これらはあくまで一例に過ぎない」
 風紀委員長はしかめっ面のまま話し始めた。

 とある男子生徒はポケットに溶けたチョコレートを入れっぱなしにし、食べ損ねられたチョコレートは恨みの果てにチョコモンスター化したそうだ。当の男子生徒は全身チョコレートをかけられた状態で発見された。
 他にも汚部屋となった寮室から生み出されたチョコモンスターの怒りは凄まじかった。それもそうだ、食べかけのチョコを一ヶ月以上放置された恨みは大きかったのだろう。
 汚部屋がチョコレートがけの汚部屋となるまでそう時間はかからなかった。元々足の踏みいれ場のないほど立派な汚部屋だったが、しつこく念入りに部屋にあった物すべてをチョコで固め、チョコ部屋へと変わってしまったらしい。
 さらに止めを刺したのが、とある飯マズで有名な女子生徒だ。彼女は風紀委員会のブラックリスト入りの生徒だ。
 アレンジャー、カゲンシラーズ、アジミネーゼの三つを備えていたのもまずかった。
 その女生徒はバレンタインチョコを作ろうと思い立ちこっそり調理した結果、冒涜的なチョコレートを大量に作ってしまったことからチョコモンスターが大量発生した。
 よりにもよってカカオから作ろうとしたのだ。その結果。生み出されたのは鍋からチョコモンスターが発生する永久機関だった。倒しても倒しても生み出され続けるチョコモンスター。悪夢のような光景。チョコレートのオブジェとなった仲間達。発生源となったカカオの入った鍋からは異臭が漂う。次々と仲間が倒れていく中、やっとのことで鍋ごと破壊したことにより無限発生は納まった。残されたのはチョコモンスターの残党に、チョコまみれとなった部屋の数々。

「そうこれらの惨状が現在進行形で学生寮内で起こっている。先程、通報があったからだ」
 淡々と告げる風紀委員長の言葉に束の間の沈黙の後、学生達は動揺し始めた。
 それもそうだ。自分たちが生活する寮内で事が起こっているのだ。誰しもチョコまみれとなった部屋で生活するのは嫌だろう。さらに事が収まったとしても掃除は免れない。
 今年もまた悪夢が繰り返されようとしている。

「そうだな。これからの季節、学園内にはチョコモンスターが跋扈するだろうからな……一応チョコモンスターについて説明をしておこう。チョコモンスターはカカオポッドが負の感情や瘴気を吸収し暴走した姿だ」
 ちなみにカカオポッドは『食べ物系の謎の生物』分類扱いされている。
「バレンタインの時期になると、カカオポッドも繁殖期のせいか負の感情を吸収しやすい。後は食べ残したチョコや捨てられたチョコがここぞと恨みを晴らすためにチョコモンスター化するのだ」
 カカオポッドと見た目こそ変わらないもののチョコモンスターの纏う禍々しい雰囲気ですぐに見分けがつくそうだ。
「人に恨みを抱いているので人を見かけ次第、無差別に体当たりしてくるのですぐにチョコモンスターだと分かる。奴らは徒党を組んで襲ってくる。弱いからといって侮るといつの間にか囲まれて全方位からチョコを浴びる羽目になるぞ……それから、チョコモンスターは追いつめられると合体し巨大化するので、注意するように」
 さらりと不穏な言葉が聞こえたが、風紀委員長が真顔なので突っ込みしづらい。
「チョコモンスターはさほど脅威ではないのだ。そこらの住民でも倒せるほどに弱い……だが、問題は後始末なのだ! 蔓延する甘いチョコレートの匂いが数日たっても消えず、制服についたチョコレートのシミに悩み、チョコレート塗れになった廊下や教室を掃除する清掃委員に死んだ目で見られるのが辛い……」
 哀愁漂う風紀委員長の言葉に周囲の風紀委員も同意するよううんうんと頷く。
 仏頂面で分かりづらいが、性格と同じように真っすぐな角と同じ黒い翼がどことなく黄昏ているようにも見える。心なしか首から顔にかけてある鱗の艶が褪せているのは気のせいか。
 風紀委員長の憂鬱な態度に嫌な予感を感じつつも集められた生徒たちは黙って話を聞いていた。
 余談だが、風紀委員にはチョコレートが苦手どころかチョコレートの匂いを嗅ぐのすら嫌なものが多い傾向にある。
「天井についたチョコレートを取るのは苦労するぞ! 後始末に駆り出され疲れ果てた清掃委員会に虚無の表情を見たくなければ、早急に! 早急にだ! 即座に倒さねばならん」
 実感のこもった風紀委員長の叫び。
「絶対にチョコオブジェになるな! 風呂に入るまでさんざん周囲に迷惑をかけ、風呂に入った後もチョコレートが中々落ちずベタベタ感を味わいたくなければな!」
 さすが経験者の言葉は重い。かつ悲痛だ。それご自身が味わった経験ですか? と問いかけたくなる衝動を抑え、学生たちは表情を引き締めた。
 これ以上寮内をチョコレートまみれにされない為にも!
「風紀委員一同および有志を集めてチョコモンスターを外へ誘導するので、君たちは寮内の平穏を取り戻すためにもチョコモンスターを退治して欲しい」
 その言葉に学生たちは頷くのだった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2020-02-27

難易度 とても簡単 報酬 少し 完成予定 2020-03-08

登場人物 3/8 Characters
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《ゆうがく2年生》ヒューズ・トゥエルプ
 ヒューマン Lv21 / 黒幕・暗躍 Rank 1
(未設定)
《新入生》櫻井・桜花
 ローレライ Lv10 / 賢者・導師 Rank 1
名前:櫻井 桜花(さくらい おうか) 【外見】 ピンクの腰までのロングウェーブを高く結っている 水は髪からずっと滴り落ちている ピンクのタレ目 口元右下にほくろ 細身の巨乳お姉さん 本を読み過ぎて目が悪いのか眼鏡を着用 【性格】 努力家でいつも一生懸命 ただ、ちょっとドジっ子 言葉の端々や仕草に色気がある 年下の子を甘やかす傾向にある 人に憧れ、近づきたいお姉さん 読書が趣味 マイペース 桜のリキュールのローレライなだけありお酒が大好き 【服装】 白い振り袖に制服のコートを羽織っている 帽子と手袋着用 眼鏡着用 ※アドリブ大歓迎!

解説 Explan

●目的
 チョコモンスターを退治せよ!

●チョコモンスターについて
【生態】
 『カカオポッド』が負の感情を吸収し、暴走したもの。
 包装されたチョコレートが飛び跳ねて移動したり、攻撃してきます。狭い場所でも小回りがきき、意外と素早い。
 徒党を組んで襲いかかり、最後には残ったチョコモンスター達が合体して巨大化する。巨大化した場合は、お約束通りパワーアップ。
 倒すと暫くしてからどこからともなく元の生物として復活する。

【戦闘スタイル】
 体当たり、チョコレートを浴びせる

【属性得意/苦手】
 なし/炎(ただし生半可な炎だと溶けて液体なりながら攻撃してくる)

【状態異常】
 拘束・暗闇

【詳細】
 チョコモンスターの大きさは個体差はあるが、成人男性ほどの大きさ。完全に砕けるまで攻撃するか炎で焼け焦げつくすかで倒すことができる。
 完全に倒すと、消滅した際に浄化されるのかカカオポッド時と同じように何故か包装された板チョコが手に入りる。
 バレンタインが近づき暴走状態となっても住民でも倒せるほど弱いが、あなどると集団でぼこられる。


●カカオポッド
 包装されたチョコレートがぴょんぴょん飛び跳ねて移動する分類不能の謎の生物。
 負の感情を吸収して溜め込む性質を持つので、近くにカカオポッドがいるとチョコのいい香りがして気持ちが落ち着く。


●風紀委員会について
 バレンタインが近づくとチョコレートを冒涜するものがいないか取り締まっている。今回は寮内で騒動が起きたので室内の被害を減らす為、外まで誘導を手伝ってくれる。その後は、寮内に残党が残っていないか見回ったりしている。


●風紀委員長について
 勇者・英雄コースの男子生徒で正義感が強い性格で頑固者だが、学園を愛する気持ちは本物。規則にはうるさく融通が利かない性格で、敵も多い。正統派の剣士で集団戦や対人戦にも慣れている。


作者コメント Comment
 バレンタインデーと思いきやザコ狩りです。ただ大量発生しているのでチョコモンスターの集団を相手取らなければなりません。
 愛も恋も全くありませんが、甘いチョコレートだけはあります。チョコモンスターを倒せば倒すほど、一体につき包装用紙に包まれた板チョコ一つ落ちるでしょう。



個人成績表 Report
チョウザ・コナミ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:108 = 40全体 + 68個別
獲得報酬:2280 = 960全体 + 1320個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
今年も来たんだ、この魔物。
去年は一緒に鬼の魔物も来たよね。あの土だか木片みたいな味のやつ。
でもこっちはポコし倒したら包装チョコになっちゃうって?つまんなさ。
分解して調べ遊ぶことも、魔物自体の味見ることも出来ないじゃん、ねぇ?

ザコちゃんの部屋近くでも発生したから倒しには行くけどさぁ。
甘いの好きじゃないから。味もそれ以外も。跳梁跋扈徘徊され続けたら、空気でろ甘になんでしょ?絶対。
ただでさえそーいう恋とか愛とかって無為に口に持て囃されまくってんのに。
口先だけか思い込みかその他かは知んないけど、いい思い出は無い無い。

とりま委員様?とチョコに【挑発】かましてー、謎めきフード様の屋外落とし穴に連れてこ。

ヒューズ・トゥエルプ 個人成績:

獲得経験:48 = 40全体 + 8個別
獲得報酬:1152 = 960全体 + 192個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
俺のサンクチュアリ(寝床)を穢される訳にはいかねーんだわ。

とりま、モンスターゲート(鍋)を処理っしょ。
道中で遭遇した敵は俺の双剣で…
ズバズバッズバシッ!シャキンシャキンシャキーン!『刻閃斬』ですわ。

風紀委員の何人かで穴を掘って貰って埋葬することを提案。

穴の中に熱湯を入れて、足を溶かして登れないようにしとくように伝えておく。

視界を潰されないよう『GO!ゴーグル!』で保護

チョコを顔に浴びせられたら…ゴーグルを拭うか一時的に外すか、なるはやで対処。

鍋を確保したら、『ロープ(大)』で蓋をぐるんぐるんのギッチギチに締めあげて封印を施す。

▶合体されたら
…その時は封印したプチヒドを解禁するしかないだろう…。




櫻井・桜花 個人成績:

獲得経験:48 = 40全体 + 8個別
獲得報酬:1152 = 960全体 + 192個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
【目的】
魔法で動くチョコレートを研究したい
捕まえたい

【行動】
魔法で動くチョコレートだなんて素敵ね!
ローレライから人になる魔法の手がかりになるかも
なんとか捕まえて研究出来ないかしら?

<見習いの箒>で囮になるわ
ふふ、『精密行動』『立体機動』で相手に敢えて攻撃させてギリギリで避けて体力を奪いましょうか
私なら万が一攻撃を受けたとしても『清流潔白』で状態異常は回復出来るし
何より間近でチョコレートゴーレムを観察出来そうだものね

どうやら火が弱点みたいだけれども
固めるのが大変そうよね

何かあれば『マドガトル』でチョコレートゴーレムを砕きましょうか

最後に、チョコレートゴーレムを仕留めたら
お姉さん皆にチョコ配るわ

リザルト Result

「俺のサンクチュアリを穢される訳にはいかねーんだわ」
 【ヒューズ・トゥエルプ】の辞書内ではサンクチュアリと書いて寝床と呼ぶ。
「とりま、モンスターゲート(鍋)の処理は終わってるちゅーことでいいっすか?」
「ああ、俺達の仕事はチョコモンスターの残党狩りだ、いくぞ!」
「へいへい、後輩使いの荒いこってぇ……」
 風紀委員長【エンマ・ルルー】とヒューズが男子寮内を駆け回る。
「ズバズバッズバシッ! シャキンシャキンシャキーン! 刻閃斬ですわ」
 軽快なステップでチョコモンスターを翻弄しながら双刀が閃いた刹那、チョコモンスターは斬り刻まれた。
「貴様は無駄口を叩かなければ戦えないのか!?」
 へらへらと不真面目な態度で戦うヒューズにエンマの口調も荒くなってくる。
「あーすいませんねぇ、委員長さんと違ってお喋りしてないとやる気が出ないんですわ」
 全く誠意の欠片もない言葉にエンマの額に青筋が浮かぶ。
「……全く敵は1体や2体じゃないんだぞ。君の自室がどうなっても構わないんなら別だがな」
 どうしてこの男、余計な一言が多いのか。
「おたくらが解決してくれてりゃ手間がかからなかったんっすけどね」
 ヒューズがボソッと呟く。エンマの耳に届いたようだで、その証拠に口元が引き攣っている。
「これぐらい簡単に解決できるけど後輩に見本を見せる為にやってるんですよね? ……もちろん、こっちをアッと言わせるような実力を見せてくれるってことを期待してもいいんですよね、先輩!」
「無論だ」
 白々しさを隠しもせずエンマを煽るヒューズ。その言葉に食いつくようにエンマは反応する。ヒューズは内心上手くいったとこっそり笑う。
 互いに衝突し合いながらもヒューズが陽動となり、エンマが陽動から外れた個体を処理していく。初めて戦ったにしては息の合うコンビネーションだが、二人の間には火花が飛び散り、巻き添えとなるチョコモンスター。男子寮は混沌を極めていた。

 一方、女子寮の方では、【櫻井・桜花】が見習い箒に乗りながら大量のチョコモンスターを引き連れ廊下を疾走する。
「魔法で動くチョコレートだなんて素敵ね!」
 目を輝かせる桜花は勘違いしていた。チョコモンスターは暴走状態の原生生物であることを、まだ知らない。
(ローレライから人になる魔法の手がかりになるかも。なんとか捕まえて研究できないかしら)
 研究テーマは『ローレライの魔力を駆使してゴーレムを何かに変化させられるか』だ。
「何よりチョコレートゴーレムを観察できそうだものね。研究にはサンプル多ければ多いほどいいわよね」
 もう一度言う勘違いなのだ。学園では嘘だと思うような噂が真実だったにすることもある。またその反対もあるのだ。間違った風聞を耳にした桜花はそれを真に受け、信じ切ってしまっている。その勘違いを正す者はおらず、いるのはチョコモンスターばかり。
「うーん、ちょっと多く連れて来ちゃったかしら?」
 よくよく観察してみると、チョコモンスターはまるで立体機動のごとくぴょんぴょん飛び跳ね回る。ときには同族すら踏み台にして追いかけてくる。しかも意外と早い。
「あれだけ動いてるのに何で割れたりしないのかしら?」
 桜花はますます魔法の力だと勘違いを深めていく。
 チョコモンスター恨みをはらさんとばかりに猛烈なタックルを繰り返すチョコモンスター。桜花はぎりぎりのところで避け続ける。
 だが、それほど横幅のない廊下では避けるのも限界がある。同時発射された液状チョコの砲撃を縦横無尽に避けながらも、逃げ場を失ってしまう。
「プチシルト!」
 とっさに張った魔法陣の盾で防ぐ桜花。さらなる追撃が待ち受けていた。執拗に箒ごと突き落とそうと複数体のチョコモンスターが突撃してくる。
「よいしょっと、大行列行進中なチョコじゃん」
 階段の上から大きく飛んだ【チョウザ・コナミ】が上空からの勢いを利用して一体倒すと、そのまま棒を軸に体をふんわりと羽のように浮かし強烈な回転蹴りを放った。
「今年も来たんだ、これ。去年は一緒に鬼の魔物も来たよね。あの土だか木片みたいな味のやつ」
 校長が育成していたカカオポッドを巡っての騒動を思い出しながら、六角棒を手の内で回転させる。思い出に耽る暇もなく、チョコモンスターの群れがチョウザの元へと押し寄せる。
「でもこっちはポコし倒したら包装チョコになっちゃうって? つまんなさ」
 まずは一体とばかりに六角棒で突けば、その衝撃でチョコモンスターが文字通り砕け散った。破けた包装用紙が桜吹雪のように舞いながら光となって消えていく。
「分解して調べ遊ぶことも、魔物自体の味見ることも出来ないじゃん、ねぇ?」
「あら、それなら私が欲しいわ。なんとか捕まえて研究できないかしら」
「了解オーケー。こんだけいんなら一匹ぐらいいいっしょ」
 ありがとう、と微笑む桜花はすぐに思案気に呟いた。
「砕いたらチョコレートに戻るのかしら、それともチョコレートになるのか、はたまたは別の何かなのかしら?」
「哲学っぽいね、桜のお酒のけんじゃ様。ザコちゃんにとってはどーでもいいけど」
 カカオポッドの生態のことだと思っているチョウザとチョコレートゴーレムだと勘違いしている桜花。その会話は噛み合っているようで噛み合っていなかった。
「時折出てくる色違いは何なのかしら?」
「アレじゃね? ホワイトチョコだとか抹茶チョコとかだったりして」
 チョウザが適当に言った発言は的を射ていた。チョウザは気づいていないが、最初に倒した個体はビターチョコモンスターだった。ちゃんと観察しないと分からない微妙な色違い仕様となっている。

「ザコちゃんの部屋近くでも発生したから倒しにいくけどさぁ。甘いの好きじゃないから。味もそれ以外も」
「あら、ザコちゃんは甘いものはダメなの?」
 おっとりと前髪をかき分ける仕草も桜花がやるとどこか色っぽい。その間も容赦なくマドガトルを放つ。
「食べれなくはないけど好みじゃないって感じ。跳躍跋扈徘徊され続けたら、空気でろ甘になんでしょ? 絶対。ただでさえそーいう恋とか愛とか無為に口に持て囃されまくってんのに」
 気だるげに話しながらも油断なく隙なく確実に襲い掛かってくるチョコモンスターを撃破しつつ、誘導していく。
「口先だけか思いこみかその他かは知んないけど、いい思い出は無い無い」
「研究を楽しみしつつ、魔法薬学の実験を兼ねたチョコを作ってバレンタイン気分を味わおうと思ってた私としては残念だけど、好きでもないものもらっても困るものね」
「桜のお酒のけんじゃ様の作るチョコには興味があんけど、とりまチョコを片づけてからの話だね」
 屋外まですぐそこだ! 少し遅れて男子寮からチョコモンスターに追われながら走ってくるヒューズ達の姿が見えた。
「とりま委員長様とチョコに挑発かましてー」
 遠くからエンマの『何で俺もなんだ!?』と叫びが聞こえた気がするが、無視無視。
「二番煎じだと飽きるよねぇ。他の魔物みたいに面白味がないからつまんないし」
 いい笑みを浮かべたチョウザが拾った石を投げる。その挑発にさらに怒りが煽られたチョコモンスター達が一斉に飛びかかってきたが、チョウザ達の方が一枚上手だった。
 風紀委員力作の落とし穴にぼこぼこと落ちていく様は壮観だった。
 ヒューズの提案で穴の中は熱湯が入れてあり、チョコモンスターは足が溶けて動けなくなり蠢いている。
「そのまま穴に落ちて仕留められんならそれはそれ。ダメそうなら無理くり棒で追いやり落とすようにポコすか」
 チョウザがつまらなそうに横薙ぎすれば、吹き飛ばされた一体を周囲のチョコモンスターを巻き添えにして落とし穴に落ちる。ぐはあっ!? と劇画調になりながら包装用紙が破けていたのは気のせいだろうか。チョウザにつまらないと言われたのを気にしていたのかもしれない。
 風紀委員渾身の落とし穴は塹壕のように深く掘られていた。
「んー仕留めきれてないっぽい? そこらの石でもぶん投げてみよっか」
「お前達に勇者の心はないのか!? それに熱湯の件、俺は聞いてないぞ!」
 エンマの叫びにヒューズとチョウザは互いに顔を見合わせて、肩を竦めた。
「戦いに卑怯もなにもないっしょ。勝者こそ正義、歴史がそれを証明してるっすわ」
 ヒューズの言い分にも一理あるとエンマが怯むが、
「ゆーしゃ様なら倫理とかあれかもだけど、ザコちゃんモブだし。そこら辺にいるモブAみたいな」
「お前みたいな個性の固まりがモブであってたまるか!?」
 すぐにチョウザの言葉に突っ込みを入れた。
「おぉ、この学園では貴重な突っ込みっすね、先輩」
 ヒューズが思わず感心したようにパチパチと拍手する。エンマはさらに額の青筋を増やし、鬼の形相となっていた。
 さらに遅れて上の階からチョコモンスターを引き連れた風紀委員が別の落とし穴にはめていく。
 落とし穴ではチョコモンスターが渋滞を起こしていた。
 一番下では砕け散ったチョコが淡い光を放って消滅していく中、しぶとく生き残った個体がスクラムを作って落とし穴から這い上ってこようとする。
「穴の中に息のある……息してんの?」
 チョウザが落とし穴から飛び出してきたチョコモンスターを叩き落しながら、ついでとばかりに炸裂の種をぶん投げる。
 ゾンビの如く這い上がってこようとしたものから中心に爆発し弾けていく。
 これではなんというか……、
「私たちが悪役みたいねぇ。研究の為の犠牲とはいえ胸が痛むわ」
 桜花がチョコモンスターに同情している横で、
「襲いかかってくんならぶっ叩くしかないよね、ザコちゃん自身の自衛保身の方が大事だし」
「チョコ達が浮ばれなさすぎて逆襲してきそうだな、こりゃ」
 チョウザは軽くリズムを取るように棒で叩き、ヒューズは派手に吹っ飛ぶチョコを眺めていた。
「おい! 落とし穴をよく見てみろ!」
 エンマが指さした先には、倒したチョコモンスターから取れた包装チョコは無惨にも破れ、落とし穴の中で泥まみれになっていた。
「これもチョコを粗末にした判定に入るんだ! ……マズいな、怒り狂いすぎてるせいか巨大化し始めたぞ」
 炎のように激しい恨みを宿したチョコモンスターがゆらりと立ち向かってくる。そのぎらついた目には憤怒が浮かんでいる。
「んー吸い込まれるように合体すんのね。おもしろ……やっちゃったもんは仕方ない仕方ない」
 チョウザが面白そうに笑うと、棒を構えた。
 チョコモンスター達は蠢くように仲間を吸収して見る見るうちに大きくなり始めた。近くにいたチョコモンスターや落とし穴に落ちたものも引き寄せられるように取り込まれていく。

「完全に巨大化する前に倒すぞ!」
 エンマは大きく息を吸い込み、灼けつく息吹を放つ。
 チリチリと肌を焦がす炎の舐めるような熱風がこちらにも伝わってくる。
「今だ! 一斉攻撃しろ!」
 エンマの合図を皮切りに、
「仕方ない。手前のケツは手前でぬぐいますよっと! 刻閃斬!」
 時を止めたような素早さで双剣が閃き、吸収が一旦止まった。
「マドガトル!」
 魔力の玉が吸い込まれるように被弾し、チョウザがその隙を逃さず同じ箇所を叩く。
 不完全に巨大化したチョコモンスターはそれでもドラゴンのように大きい。
 攻撃され怒り震えるチョコモンスターも只では終われない。なんとしてでも恨みを果たさねばならん! とチョコを放射する。いや、これはチョコレートの大波だ。
 一番前線に出ていたチョウザが流されまいと踏ん張り、背後にいた桜花は箒に乗って逃げようとするが、チョコレートの津波は簡単に飲み込んでしまう。
「うへぇっ……ベトベトっすわ」
「盾になってやるからとっとと走れ、ヒューズ!」
 エンマが盾を掲げてチョコの大波の合間を縫いながら走り抜ける。その後を追走するヒューズも体どころか顔もチョコ濡れになっていたが、周囲のように動けないわけではない。装着していたゴーグルに保護された目も無事だった。
 巨大化した故に懐に入れば無防備だった。エンマが全身を使って剣を振りかぶり、ヒューズも双剣で斬り刻む。
「灰燼に帰すべし……プチヒドォッ!」
 ヒューズが封印した魔法を解禁し止めを刺す覚悟で、火の玉を放つ。二人の集中攻撃に崩れ落ちるチョコモンスターは地面に伏す直前で光の粒となって消滅した。
「見渡す限りにチョコの山だらけ。どんだけチョコモンスターがいたんだか」
 溢れんばかりの包装チョコの一つをヒューズが拾い上げる。
「これ、どーぞ。エンマ先輩、お疲れさまっす」
「……なんだ、いきなり」
 いきなり殊勝な態度を取り始めたヒューズに不審そうな目を向ける。
「友チョコならぬ後輩チョコっすわ」
「まあ、有り難く受け取っておく。……よくやった」
 最後の一言はかろうじて聞き取れるほどだったが、ヒューズは耳ざとく拾い上げニヤリと笑った。
「チョコゴーレムじゃなくてチョコモンスターだったのね……」
 ようやく真実を知った桜花がひっそりと嘆く。すでに清流潔白でチョコを洗い流した桜花はいいが、全身チョコ塗れとなった周囲が気になっていた。
「清廉潔白は自分にしか使えないし、困ったわ……」
「ヘーキヘーキ。汚れんのはどーでもいーし。合体すんのも見れたしザコちゃん的には全く問題なさげ」
 チョウザは手のひらをひらひらと振ると、寮へ帰っていく。
 その後、ドロップした包装チョコは各自好きに持って帰っていいということになり、残ったものは風紀委員会が回収し、食堂や調理クラブなどに寄付されることになった。



課題評価
課題経験:40
課題報酬:960
【心愛】バレンタイン戦争
執筆:oz GM


《【心愛】バレンタイン戦争》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 1) 2020-02-23 21:12:24
んー、チョコにまみれ汚れんの、そんな嫌?
別に迷惑とか手間とかのどーのこーのは気にしないし、洗えばいーじゃん、って思うんだけど。
てかザコちゃんの服の布だいたいチョコと色一緒だし。バンダナ汚れてくれたらホントのまだらになるだけだし。ふふ。

ザコちゃんは片ぱしからチョコぽこしに行く気でいる。
手抜かり中途半端な火じゃ逆効果っぽいし、棒燃やすくらいじゃ足りないかなーって。
何処までの炎で焦げして無効化できるかーって基準怪しいしね。

あとあれ、いっぱい集まったら合体するって動き生体がおもし……倒すの手間になりそーじゃん?
数減り始めた時に、合体阻止れると楽なのかな。物理的にか、誘導的にか。
【ロープ】系のぱやぱやで物理的に引き離してくとかー、【挑発】とかで集まるより分散優先させるとかで。

合体するならするでいいけど。たのし…仕方ない仕方ない。

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 2) 2020-02-23 22:35:01
この際、体にチョコを引っかけられんのは仕方ないとして…
ベッドやら床やらを汚されんのは参っちまうなぁ。
ザコちゃんがちゃかぽこ転がしてくれんなら
その間は鍋を廃棄する方に回ろうかな。

んで、弱点は火属性か…。
いつかの火鳥にも先日の撤退戦でも
丸焦げにされちまったもんだから、すっかりトラウマだぜ。
熱湯とかで何とかなんねーかね。

プールみたいな所におびき寄せられりゃ
始末も楽そうなんだけどなー。

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 3) 2020-02-23 22:46:10
いや、やっぱ敵を動かすのはナンセンスか。
誘き寄せる過程で汚れちまったら意味ないもんな。

《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 4) 2020-02-25 23:54:17
広く薄めに汚すか、狭くベッタベタに汚すか。な差な気はするけどね。
どっちがいいかは別として。
プールなりお風呂場なりへの誘導は、そもそもの発生場所がどこなのかとかにもよりそ。
学園内を跋扈、ってんだし、そこらにこんにちはしてんのかな。外に誘導はしてくれるっぽいけど。

てかあれかな、外への誘導まではやってくれるつてんだし、それこそいー感じの罠でも作ったらお手軽?
問題は合体しない程度にまとめてぽこせる罠って何?って話なんだけど。

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 5) 2020-02-26 03:02:50
そっか、風紀委員が外まで誘き寄せてくれんのか。
風紀委員が協力してくれんなら頭数は足りるっしょ。
ベタに穴っぼこにポイポイと放り込んで埋めちまいますか?
…まぁ、チョコ達が浮かばれなさすぎて逆襲されっかもだけど…。
そんで合体したら、そん時はそん時で〜。的な?


《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 6) 2020-02-26 20:44:51
そったらザコちゃん【炸裂の種】で落ちたのにとどめ決めた方が良さみ?
余裕あったらいっそザコちゃんが飛び込んでぽこしてもいーけど。
汚れんのはどーでもいーし。力尽き果てるまでは。

とりま引き離しとポコすことについては書くようにしとくー。
ギリギリまでは見とくけどさ。

《新入生》 櫻井・桜花 (No 7) 2020-02-26 21:23:31
はぁい、こんにちは♪

賢者・導師コース所属の櫻井桜花お姉さんよ♪

魔法で動くチョコレートだなんてとても楽しいわね!
最悪、私なら囮で万が一攻撃受けたとしても状態異常は【清廉潔白】で治せるから囮を一緒にやろうかと思っていたわ。

ふふ、ギリギリだけど、宜しくね?

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 8) 2020-02-26 23:05:19
>ザコちゃん
炸裂の種の利用については任せますぜ。
とりあえず穴に熱湯を軽く張ってもらって、
体つーか、敵さんの足を溶かしちまえば登って脱出することは叶うまい。
その穴のキャパがやばそうなら…かましちまっても良いかも。
ただ俺の展開予想はまったくアテにならないことに定評があるんで、そういう状況になってるかわからないが。

>桜花さん
黒幕・暗躍コースのヒューズだぜ。よろしく。



《自称「モブ」》 チョウザ・コナミ (No 9) 2020-02-26 23:09:41
…足はなくない?あの魔物。
少なくとも去年ザコちゃんが見た時はだいたい赤の包装紙?皮膚?だった気がする。
ぴょんぴょこってる動き方だったし、溶かして動けなくなる可能性はよゆーにあるんだけど。

そったらなんせよ、【挑発】かまして寄せ付け誘導、あとはポコして様子見つつ飛び込むか投げるかすればいーかな。

《ゆうがく2年生》 ヒューズ・トゥエルプ (No 10) 2020-02-26 23:31:55
オーケー。移動手段的な足に変換しといてくだせー。
ま、ちょっとしたスタンビートだし…暇になることはあるまい。
いつものように暴れて…ミッションコンプリートだぜ。