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豆まきフェス!!


ストーリー Story

 購買部に程近い、フトゥールム・スクエア校舎内の一角にて。
 これでもかと大量の木箱を積み上げた青年【カル・レケト】は、満面の笑みでその数を数え続ける。
 彼は近くを通りすがった少女に気づくや否や、箱をひとつ抱えていそいそとそちらへ近づいていった。
「おっ、良いところに来たっすね! 『節分』ってヤツに興味ないっすか?」
 カルがぱかりと箱を開ければ、そこには大量の豆、豆、豆。
 見ているだけで腹が膨れそうなそれを見て、少女【リルルノア・ヴィード】は思わず一歩後退りしてしまう。
「……な、何よその箱。え、まさか後ろの山、全部それが入ってるの?」
「その通りっすよ?」
 当然、といった顔でカルが首を傾げると、リルルノアはこめかみを抑えてため息を漏らした。
 カルのそばにある箱の数は、ざっと見ただけでも五十を超えている。
 これで大食い大会をするにしても、余程の猛者か人数が現れない限り使い切るのは難しいだろう。
 どうすんのよそれ、とリルルノアが腰に手を当てて問うと、カルはにやにやと笑って箱の山の後ろから何か大きな杖のようなものを取り出した。
「これっすよ、これ!」
 どーん、とカルが掲げたのは見慣れない形の杖。
 長い木の棒の先端に透明な球体が乗っており、中は空洞になっているようだった。
「……ええと、それで?」
「察しが悪いっすねぇ〜」
 その言葉にリルルノアが苛つくのを他所目に、カルがとんと球体をつつく。
 彼は壺のようにぽっかり口を開いた球体へ、箱の中の豆を詰めていった。
 豆でぱんぱんになった杖を振り上げ、軽く魔力を籠めれば――ダダダッ、と途端に大量の豆が弾のように射出される。
「きゃああ!?」
 思わず腰を抜かしたリルルノアに、どうっすかとカルは得意げに胸を張って杖を床についた。
「これで豆を撒いて、邪を払う『節分』ってのがあるんすよ。なんかそういうイベントがとある施設で開催されるらしいっす。参加するならガチで行きたいっすよね?」
 ――勿論賞品とか出るっすよ。
 カルがひそっと囁けば、リルルノアは少し興味を持って。
「……で、その施設ってのはどこなのよ」
「おぉーっ、さては行ってくれるっすね? 開催場所は『レゼント』の――」
 詳しい場所を告げ、カルはがさがさと箱の後ろを漁る。
 彼の手が次々に掴むのは、先程と同じ杖や豆の詰まった爆弾、手頃な大きさのバケツ等。
 大小形様々なそれらを取り出して、カルはぽんとリルルノアの肩に手を置いた。
「じゃ、俺はこれ運んでおくんで! リルさんは意欲ある生徒の皆さんを集めてほしいっす!」
「は!?」
 声を裏返すリルルノアにくしゃくしゃの紙を押し付け、カルはすたたっとどこかへ走り去ってしまう。
 何なのよ、とリルルノアが手元の紙に視線を移せば――それはカルが言っていた施設のイベントのチラシであった。
 ――みんなで豆まき! 鬼バルーンを沢山割って、豪華賞品を手に入れよう!
「鬼バルーン……?」
 ぱらり。リルルノアがチラシの裏面を見れば、そこには詳しいルールが記載されていた。
 ターゲットは会場の至るところに設置された鬼の顔付きの紙風船。
 その中に入っているメダルを沢山集めると、ぬいぐるみやお菓子、近くの商店の割引券などの景品と交換することができるらしい。
 そして――一番下。
 チラシとは別に、何か小さな付箋が貼られている。
 リルルノアがよーく目を凝らすと、そこには。
「ただバルーン潰すだけじゃつまらないっすよね。そんなもんで終わらないように施設に掛け合ってあるっす! 皆さんのウデの見せ所っすよ!!」
 ……どこまでも余計なやつめ。
 リルルノアはまたため息を付きながら、イベントに参加する生徒を集めるべく校舎の中を歩き出すのであった。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2020-02-09

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2020-02-19

登場人物 5/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《這い寄る混沌》ニムファー・ノワール
 アークライト Lv20 / 王様・貴族 Rank 1
ニムファー・ノワール17歳です!(ぉぃぉぃ ニムファーは読みにくいかも知れないので「ニミィ」と呼んでくださいね。 天涯孤独です。何故か命を狙われ続けてます。 仲間やら友人はいましたが、自分への刺客の為に全て失ってしまいました。 生きることに疲れていた私が、ふと目に入った学園の入学案内の「王様・貴族コース」を見て考えを改めました。 「自分が命を狙われるこんな世界、変えて見せますわ!」 と思っていた時期が私にもありました(遠い目 今ではすっかり学園性活に馴染んでしまいました。 フレンドになった方は年齢にかかわらず呼び捨てタメ口になっちゃうけど勘弁してね、もちろん私のことも呼び捨てタメ口でも問題ないわよ。 逃亡生活が長かった為、ファッションセンスは皆無な残念女子。 な、なによこの一文。失礼しちゃうわ!
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。
《ゆう×ドラ》シルク・ブラスリップ
 エリアル Lv17 / 村人・従者 Rank 1
「命令(オーダー)は受けない主義なの。作りたいものを、やりたいように作りたい……それが夢」 「最高の武具には最高の使い手がいるの。あなたはどうかしら?」 #####  武具職人志願のフェアリーの少女。  専門は衣服・装飾だが割と何でも小器用にこなすセンスの持ち主。  歴史ある職人の下で修業を積んできたが、閉鎖的な一門を嫌い魔法学園へとやってきた。 ◆性格・趣向  一言で言うと『天才肌の変態おねーさん』  男女問わず誘惑してからかうのが趣味のお色気担当。  筋肉&おっぱい星人だが精神の気高さも大事で、好みの理想は意外と高い。 ◆容姿補足  フェアリータイプのエリアル。身長およそ90cm。
《ゆうがく2年生》アリア・カヴァティーナ
 アークライト Lv14 / 村人・従者 Rank 1
 幼い頃から聞かされてきた英雄譚に憧れて、いつしか勇者さまを導く人物になりたいと願ってきた。  その『導き』とはすなわち、町の入口に立って町の名前を勇者様に告げる役。  けれども、その役を務めるということは、町の顔になるということ。この学校でたくさん学んで、いろんなことを知ることで、素敵な案内役になりたい!  ……それが自分の使命であると信じて入学したけれど、実のところ勉強よりも、花好きが高じた畑いじりのほうが好きだったりする。そのせいで、実はそこそこの力持ちだったりする。  たぶん、アークライトの中ではかなり変人なほうなんだと思うけれど、本人はあんまり気にしていない模様。  基本的に前向き……というか猪突猛進なところがある、かも。

解説 Explan

・舞台やルールについて

 冬のお昼、商業施設裏にある広場での『節分』をテーマにしたお話となります。
 用意されている豆専用武器(プロローグ内の杖、豆の詰まった爆弾、バケツのどれか)か、もしくは豆を弾などの代わりに使っても問題のない武器をご用意ください。

 広場にセッティングされた迷路の中に、一枚ずつメダルの入った紙風船(人間の頭部くらいの大きさ)が設置されています。豆の弾を使ってその風船を割り、中のメダルを拾い集めてください。
 迷路はかなり入り組んでおり、更にNPCの取り計らいで『鬼のお面を被り、同じように豆武器を持ったお邪魔スタッフ』が登場します。
 スタッフに見つからないように進む、迷路を上手く進んで効率的にメダルを集めるなど是非戦略を立てて挑んでください。

・成功条件について

 賞品と交換できる量のメダル(最低でも20枚程度)を集め、何か一つ賞品を持ち帰ること。
 終了後『どんな賞品が欲しいか』もプランにお書きいただければと思います。
 子供が喜びそうなぬいぐるみやお菓子といったものから、飲食店の割引券やちょっとしたアクセサリー等。商店街のくじ引きの景品くらいのラインナップです。

 補足説明は以上となります。
 ご参加、お待ちしております!


作者コメント Comment
はじめまして、新しくゲームマスターとして登録を頂きましたみかろっとと申します。
まずは楽しく遊ぶようなシナリオをと思いまして、節分というテーマで書かせて頂きました。

半分日常、半分戦闘です。豆を使った模擬戦、といった具合で捉えて頂ければと思います。

精一杯、楽しんでいただけるよう執筆致します。
是非お気軽にご参加下さいませ。宜しくお願い致します!


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:165 = 55全体 + 110個別
獲得報酬:4500 = 1500全体 + 3000個別
獲得友情:5
獲得努力:5
獲得希望:5

獲得単位:0
獲得称号:---
私は豆専用武器の杖をお借りいたしますわ。片手に杖、片手にチョークを持ち迷路を進む際チョークで壁に線を引き一度通った道が解るようにしておきますわ

バルーンの位置によっては立体起動や部分強化:跳躍で狙いやすい位置へ上り精密行動でよく狙って杖の豆を使いバルーンを破壊、メダルをゲット。メダルとバルーンの匂いを覚えたら嗅覚強化で臭いを追い効率よくバルーンを探しますわ

お邪魔部隊はやせーの勘や危険察知でいち早く気づくよう努め、攻撃を立体起動等で躱していき、人数が多めの時は祖流還りを使いダッシュ、見事逃げ切って見せますわ。時には参加者と協力も

無事メダル20枚ゲット出来たら景品はケーキ屋の割引券を頂きたいですわ!

ニムファー・ノワール 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
節分ね。私の知ってる節分とはちょっと違うような気がするけど、きにしないでやってみるわ。
まず武器のセレクトね。色々と試してみたけどパチンコがわりと手になじむのでこれをチョイス。

迷路はマッピングはしつつも適当攻略。まぁ、お祭りだしガツガツ攻略もね・・・
鬼役には、豆が詰まった爆弾をパチンコで撃って迎撃・・・
当たった方大丈夫かしら・・・
見なかったことにするわ(ぉぃ

景品は特にこだわらないけど、美味しい高茶葉とかがあったらいいわね。
それかコスメ商品かしら。
なんとなくポケットティッシュで終わるような気がするけどw

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
たのしいイベントですね。ドキドキしちゃいます。

風船を探してすすみながら迷路の壁もよく見て通路の流れを把握しますね。
通路の流れが分かれば隠れられそうなところがわかる。
スタッフさんがいるかもしれないですもの。

物音にも気をつけて足音やほかの参加者さんの声、
豆がなにかにぶつかる音が聞こえたらそっと離れていきます。

そのためにも隠れられそうな場所、逃げられそうな道を
ていねいにさがしていきますね。

風船を見つけたら逃げ方を考えてから
貸りた不思議な杖で撃ってメダルをひろってすぐ離れます。

商品は「虹のおえかきセット」とかもらえるとうれしいです。

「七色の色鉛筆と小さなスケッチブックのセット」ですね。

シルク・ブラスリップ 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
●方針
レッツシューティング!
豆の杖(ガン?)を試しつつ、メダル集め。
皆との協力は現場で臨機応変に…

●行動
武器は豆の杖に、弾丸はMyオニマメ持参です。
まずは先手必勝、鬼役の人が近くのところは後回しで取れるバルーンをゲット。
鬼役の人が近くだったり、一人では取れない所は協力できる人がいるタイミングで狙いに。
鬼役を引き付ける囮を頼んだり、自分が囮になったり、高所なら肩車されたり(サイズ的に自分が乗せるのはたぶん無理…)
協力する時は『言の葉の詩:フォルテ』で応援を。
特にランクインとかは狙わないので、必要な枚数集まったら他は譲ります

●景品
杖は無理そうなので、ぬいぐるみ。くまとかゆるキャラの抱き枕っぽいヤツ

アリア・カヴァティーナ 個人成績:

獲得経験:66 = 55全体 + 11個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:3
獲得努力:3
獲得希望:3

獲得単位:0
獲得称号:---
会場が商業施設なら、ただ目的を達成するだけではなくて、他のお客さんも楽しめるようにしなければいけませんわ!
演技を交えることで、他の方も参加したくなるようにしたいですわ!

わたくしの選ぶ武器は…おおなべ! 道具としてはバケツと変わりませんけれど、あわよくば余った豆で料理しよう、というちゃっかりさをアピールして皆さまを楽しませますわ!
けれど…メダル集めの戦略はゼロ! 余った豆を食べる気満々っぽいのに無駄に豆を減らしてゆく滑稽さは、きっと見ている方をほっこりさせますの!

さらに…鬼を見たら、怖がってギャン泣きしますわ!
鬼が戸惑ってメダルをくれればわたくしもWin、優しさアピールができて施設側もWinですわ!

リザルト Result

●集合
 冷える空気に白い息がぽうと溶ける。レゼントの商業施設、イベント会場として設営された広場の前には参加を決めた生徒達と一般人、そして数々の見物客が集まっていた。
 【レーネ・ブリーズ】が同じ学園生徒の面々を見回せば、自分がこの中で一番弱いのだと気づき――自分はまだ経験が足りないのだと、胸に軽く手を当てて呟く。
 ――だから、いつかあしでまといにならないために。
 その、練習。そう真剣に意気込みながらも、レーネは周囲の楽しそうな声に顔を上げて。
 イベントを知らせてくれた【カル・レケト】の気持ちも大切にしたいと、彼女は豆用の杖をそっと握った。
 一時間後に始まるという主催者のアナウンスが響けば、早速参加者は自らの武器に豆を詰め始める。
「わたくしの知ってる節分とはちょっと違うような気がするけど……」
 そう言いながらも【ニムファー・ノワール】は気にせず様々な武器を見比べて選んでいく。
 わりと手に馴染むと言って彼女がチョイスしたのは、豆爆弾を撃ち出せるパチンコであった。
 一方【シルク・ブラスリップ】はカルから借りた杖をじぃっと見つめながら、興味津々な様子で先端の球に触れる。
 途端にぱかりと口を開いた球へ自前のオニマメ――節分に相応しい邪気祓いの豆を詰め、シルクは不思議そうに杖を見つめて呟いた。
「変わった杖……武器ね。最近出てきたガン、ってヤツのかしら」
 シルクは自分の背丈程の杖を軽く振って手に馴染ませつつ、ふと遠くの声に首を回す。
 武器の自慢の声や豆の試し撃ちが飛び交う中、【アリア・カヴァティーナ】は明るい笑顔で道行く人々に更なる参加を呼び掛けていた。
 アリアがスタッフから鬼の面を拝借して親子連れに声を掛ければ、ひとり、またひとりと首を縦に振る者が増えていく。
 そうして段々と賑やかさが増していく会場に、残り三十分という声が響くのだった。

●フェス、開幕
 ぴぃーっ! と笛の音が鳴った。
「先手必勝、お先っ」
 シルクはひゅいと小柄な身を活かし、杖を携えて素早く迷路に飛び込んでいく。
 鬼面のお邪魔スタッフに見つからないうちにと動き回る彼女の姿は、すぐに迷路の中に消えていってしまった。
 同時に、片手に借りた豆用の杖、もう片手に道標用のチョークを握った【朱璃・拝】(しゅり おがみ)も勢いよく迷路へ駆け出す――が、彼女はその手の長物に視線を落としてぽつり呟いた。
「私、物理で殴る方が得意で杖は使い慣れませんのですが」
 とはいえ、そういうルールなのだと割り切って。
 朱璃は仕方ないという表情を浮かべつつ、壁にチョークで線を引きながら進んでいく。入り組んだ迷路もこうすれば、同じ道を何度も通って迷うことはないだろう。
 そうして進む内に、彼女は早速発見したバルーンに向けて杖を振り上げた。
「鬼は~外、福は~内!」
 この季節にはお決まりの掛け声と共に豆が飛び出し、見事パァン! とバルーンが弾ける。
 潔い破裂音にスカッとしつつそちらへ近づけば、バルーンのあった場所には可愛らしい鬼が彫られたメダルが落ちていた。
 朱璃はそっとメダルに顔を近づけ、すぅと匂いを確認する。
 狼のルネサンスである彼女はその嗅覚を活かし、同じ匂いのする方を目指して駆け出した。
 ぱん、すぱぁん! と次々にバルーンが割れ、朱璃の手にはメダルが集まっていく。
 景品に必要な数まであと少し、と気合を入れた――その時。
 ――ふと、朱璃の耳がぴくりと動く。
「鬼は〜内ッ!」
「甘いですわ!」
 すぱぁん! と朱璃の足が大きく弧を描き、飛んできた豆を蹴り飛ばす。
 不意を打って現れた筈のお邪魔スタッフは目を丸くして後退りながら、すらりとチャイナドレスから伸びる足に慌てて目を塞いでいた。
 ごめんなさい見てません! とスタッフが叫ぶ。
 ――しかし実際、朱璃のドレスは鉄壁の如くその中身を死守していた。
 朱璃は余裕の笑みでメダルを拾い上げ、足音の少ない方を目指して走り出す。
「これでも勇者候補生ですのよ」
 そんな声にスタッフが目を開けた頃には、既に朱璃はその場から姿を消していた。

●イベントは楽しく
 迷路を進むアリアが構えるのはおおなべ。一般の参加者達が「なんでバケツじゃないんだ」と首を傾げれば、彼女はにっこりと笑顔を浮かべて答えた。
「このお祭りで余った豆で、お料理をしようと思いまして!」
 その為のお鍋ですわ、とアリアが告げれば、和んだ笑い声が迷路を包む。
 彼女が狙うのは景品――ではなく、他のお客が楽しめるようこのイベントを彩り、盛り上げることであった。
 ――故に、メダル集めの戦略はゼロである。
 アリアは親子連れの多い通路でバルーンを見つけると、早速お決まりの掛け声とともにおおなべを振り回す。
「お、鬼は外〜っ、ですわ!」
 ばさーっ、と豆が虚しく宙を舞う。
 バルーンは辛うじて数個割れていたが、それに反して失われた豆の数は数えきれない程。
 この調子では料理どころか食べる豆が余るかどうか……といったところだ。
 アリアのそんな様子を目にした子供達は、メダル集めを競って騒いでいたのも忘れて笑い出す。一緒にいた親達もそれにつられてか、微笑ましそうにそれを眺めてほっこりした空気を漂わせていた。
 そんな通路へ、ばたばたばた! と慌ただしい足音が近づく。他の参加者達が逃げろ逃げろ、と騒ぐ中、音のする方からは鬼面を被ったお邪魔スタッフが現れた。
「鬼は内ぃぃっ!!!」
「きゃぁぁぁ!!」
 お邪魔スタッフに向かってアリアは豆を――放つかと思いきや、その場でごーんとおおなべを落として涙を浮かべる。
 スタッフがあれ? と動きを止めた、直後。
「お、お、鬼…………こ、怖いですわー!!」
 アリアはわんわんと大げさに泣き出す。
 勿論、日々の学園生活でモンスターに慣れている彼女がこんなに怖がるわけはないのだが、その鬼気迫る演技にはスタッフもたじたじといった様子であった。
 その泣き声を耳にした周囲の人々は、何だ何だと会場を覗き込む。
 アリアを慰めようとスタッフが優しくメダルを差し出せば、少し参加を渋っていた人々、そして新たにイベントに気がついた人々が次々に参加を決め、会場は更に人の声で溢れていくのであった。

●シューティング!
 あちこちで物音と声が響く中、レーネが耳を澄ませて風を読み取る。
 曲がり角の向こうにばららっと豆のぶつかる音が聴こえれば、彼女はそっと別の方向へと足を踏み出していた。
(スタッフさんがいるかもしれないですもの)
 道を把握しながらすたすたと進むうちに、ひとつふたつとバルーンが増えていく。
 数本に別れた分岐点なら逃げ道は十分。
 念の為周囲を警戒しつつ、豆用の杖を構えて魔力を――込めた、その時だった。
 レーネの耳が、忍び寄るような足音を僅かに捉える。
「っ!」
「鬼は〜内!」
 突如、通路の影から赤鬼面のお邪魔スタッフがばぁっと飛び出す。
 一瞬早く気づいていたレーネはすぐに確認していた逃げ道を目指すが、その先、向こうから飛んでくる小さな妖精の影に思わず足を止めた。
「お困りのようね……あたしもよ!」
 そう言って現れたシルクは、レーネと合流するや否や後ろを振り向いて杖を掲げる。
 どうやら彼女も追われていたらしく、シルクが放ったオニマメは後方に居た青鬼面のスタッフに直撃して勢いよく散らばった。
「ぐぁぁぁぁぁ!!!」
 鬼役は豆を受けたら力尽きる設定なのだろう。豆を浴びた青鬼面は迫真の演技でばたりと倒れ込むと、そのまま地面に寝そべって動かなくなってしまった。
 つまり――あちらのスタッフにも豆を当てさえすれば、道は開けるということだ。
 レーネとシルクの視線は赤鬼の方のお邪魔スタッフに移る。
 ……正面から豆を投げて当たるだろうか。
 ……このまま逃げて、振り切れるだろうか。
 そんな思考が巡り、数秒の沈黙が走る中。
「……!」
 レーネは風の動き、もう一人誰かが近づいて来ている気配に気づいて瞳を揺らす。
 お邪魔スタッフより軽い足音、きりきりと何か糸を引く音。その発生源を持ち前の視力で確認した途端、レーネは小さな声でシルクに囁いた。
「……向こうに味方がいます」
「分かったわ」
 シルクはふわりと背の羽を震わせ――手に握った杖を、思い切り振り上げた。
 赤鬼面のスタッフが、そちらに気を取られた瞬間。
「鬼は外、っと!」
 ――すぱぁぁん!! と赤鬼の頭が大量の豆を浴びて傾く。
「…………え、えぇぇっ!? あ、や、やられた!」
 状況を理解した赤鬼はばたっ、とその場に倒れ込む。
 赤鬼を狙撃した人影の正体は、パチンコを握ったニムファーの姿であった。
 ニムファーはふうと息をついてレーネとシルクの方へと歩み寄りながら、豆とはいえ重めの一撃を喰らったスタッフにちらと目を遣る。
「……大丈夫かしら」
 そんな呟きと同時に見えたスタッフの顔は――心なしか赤く腫れていた。
 ……大丈夫、と言えるかは怪しい状況だ。
 しかしニムファーは見なかったことにするわと目を逸らしながら、先程の衝撃で割れたバルーンに近づいていく。残っているバルーンをシルクが素早く割っていけば、通路にはかなりの数のメダルがきらきら輝いていた。
 万が一に備えてレーネが周囲を警戒する中、三人は景品を得るのに十分なメダルを揃えるのだった。

●フェス、閉幕
 参加者が全員迷路から脱出したところで、再びぴぴぴーっと笛が鳴る。
 お疲れ様でした、と主催者が声をかけて指差すのは、沢山の景品が置かれた交換所であった。
「ポケットティッシュ……じゃないわね」
 景品に低めの期待をしていたニムファーは、手に持っているメダルと景品の傍の看板を見比べてほっと胸を撫で下ろす。
 少なくとも、明らかに要らないものしか貰えないというわけではなさそうだ。
 紅茶葉か化粧品を……と景品を見回せば、ちょうど二十枚で交換できる瓶詰めの紅茶セットが彼女の目に止まった。
 ニムファーは手の中のメダルとそれを交換すると、ふと近くで唸る少女を視界に捉える。
 どうやら獲得したメダルが一枚足りないらしく、少女は髪留めを見つめて悔しそうに眉を下げていた。
 そちらへ近づき、ニムファーは使わなかった一枚のメダルを少女の手に握らせる。
「これ、余ったからあげるわ」
「いいの!?」
 こくりとニムファーが頷くと、少女はぱぁっと表情を明るくして元気に礼を述べる。
 髪留めを早速付けて駆けていくその背を見送りながら、ニムファーは紅茶葉を手に小さく微笑むのであった。
 そんな食品や日用品が多く並ぶコーナーの横では、朱璃が目的の景品を探して目を凝らす。
 彼女はその片手に、スタッフが良かったらどうぞと配っていた炒り豆入りの枡を持って交換所を歩いていた。
 カラフルに机を彩る短冊状の紙には、それぞれレゼントにある施設や商店の名前、そしてその紙を渡すことで得られる特典が記されている。
 種類も必要なメダルの枚数も様々なそれらの中で、朱璃が手に取ったのはケーキ屋で使える可愛らしい割引券だった。
「これを頂きたいですわ」
「はぁい、じゃあ二十枚ね」
 朱璃は言われた数のメダルをスタッフに渡して券を受け取る。
 そしてぽりぽりと豆の食感を楽しみつつ、沢山のケーキを頭に思い浮かべて胸を踊らせるのであった。
 続き、レーネもメダルを握って交換所をくるくる巡る。
 彼女が足を止めて覗き込んだのは、『虹のお絵かきセット』と書かれた包みだった。
 七色の色鉛筆に小さなスケッチブックがついた、可愛らしい画材のセット。必要な枚数は――レーネの手にあるメダルと同じ、十八枚。
「すみません、これお願いします」
「はい、おめでとさん!」
 スタッフにメダルを渡せば、レーネはきゅっとその包みを抱いて微笑んでいた。
 その少し後ろ、シルクはふわふわのぬいぐるみが並ぶコーナーを眺める。
 小さな猫や犬のぬいぐるみから、何かの動物をデフォルメしたようなキャラクターのぬいぐるみまでバリエーションは様々だ。
 シルクが目を付けたのは更に奥、大きめでふっくらした抱き枕のようなくま。
 隣の看板、必要枚数は少し多めの『二十五枚』と書かれており、シルクは手の中のメダルを数えてその表記とを見比べた。
(二十、五……足りるわね)
 シルクはスタッフにメダルを差し出し、くまのぬいぐるみをもふっと受け取る。
 小柄な身体が大きなぬいぐるみに隠れて浮き上がれば、近くにいた子供が目を輝かせてきゃっきゃと喜ぶ声が聴こえていた。
 そしてぬいぐるみコーナーの隣、沢山のお菓子が積まれた棚の前。
 アリアは持っていたメダルを全てスタッフに手渡すと、腕いっぱいにお菓子を抱えて迷路の出口へ駆けていった。
「うぅぅ、おかぁさぁぁん」
「こわかったぁぁー!!」
 わんわんと泣く子供達。どうやら、スタッフが扮していた鬼に怯えてしまったらしい。
 親やスタッフがごめんねと謝りながら慰める中、アリアは子供達と目線を合わせるようにしゃがみこんで笑いかけた。
「もう怖い鬼はいませんわ! ほら、美味しいお菓子もありますの!」
 沢山のお菓子と彼女の笑顔に、子供達はぐすぐすと鼻をすすりながらも静かになっていく。
 礼を述べる親とスタッフにいえいえ、と首を振りながら、アリアは子供達にお菓子を配って回るのだった。



課題評価
課題経験:55
課題報酬:1500
豆まきフェス!!
執筆: GM


《豆まきフェス!!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2020-02-04 21:16:58
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 2) 2020-02-05 17:52:06
わたくしは芸能・芸術のエルフ、レーネです。よろしくお願いします。

《這い寄る混沌》 ニムファー・ノワール (No 3) 2020-02-05 18:17:53
ニムファー・ノワール17歳です!(ぉぃぉぃ
よろしくお願いしま~す。

やっぱり景品交換所にはメダル王がいるのかしらね。

《ゆう×ドラ》 シルク・ブラスリップ (No 4) 2020-02-05 21:52:22
村人・従者コースのシルクよ。よろしくー。

このルールならあたしも楽しめそうだけど…最低20枚は結構大変そうねぇ

《ゆうがく2年生》 アリア・カヴァティーナ (No 5) 2020-02-06 00:53:45
村人・従者コース、アリア・カヴァティーナですわ!
わたくし……こういう時にはどんなことをすれば盛り上がるのか、知っていますわ!
それは……『思いっきり怖がること』!
ただメダルを集めるだけではなく、盛り上げることも考えてゆきたいと思っていますわ! どうぞ、よろしくお願いしますわ!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 6) 2020-02-06 20:40:56
そういえば豆を弾の代わりにする武器を持つ必要があるのですわね。私は普段は小手をつけて殴るだけですのでどれを使った物が迷いますわね。無難にOPの杖あたりを使わせていただこうかしら?

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 7) 2020-02-07 06:37:14
だいじょうぶなんでしょうけれど、わたくしはドキドキしちゃうとおもいます。

武器は拝さんとおなじように杖もかしていただきますけど、購買部でおかいものできるオモチャのパチンコというものもつかえないかなってかんがえてます。

《這い寄る混沌》 ニムファー・ノワール (No 8) 2020-02-07 06:39:39
武器かぁ、そうねぇ。私はスリングショットにしようかしら。
あら、購買部に売って・・・た。名前がパチンコだったからスルーするところだったわw

確かに20枚は以外と大変かもね。共闘するのも手かもしれないけど私はソロで頑張ってみるつもりよ。

《ゆうがく2年生》 アリア・カヴァティーナ (No 9) 2020-02-07 12:55:58
わたくしは……自前の『おおなべ』に豆を入れてゆきますわ!