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我が故郷は水面(みなも)の下に


ストーリー Story


 その昔、伝説の魔王の脅威にこの世界が脅かされていた頃。
 八種族はそれぞれの方法で脅威へと立ち向かったのだという。
 たとえば、ドラゴニアは果敢に魔物討伐へ乗り出し、ヒューマンは勇者として立ち上がる……といった具合に。
 その中でローレライは、多くの者が海の底へと身を隠した。自分たちを守るために。
 僕はその頃生まれていなかったけど、近所に住むじい様から話をよく聞いたものだ。
 ここは当時のローレライが築いた海底の街なのだ、と。
 海の底から天を見上げると、水面が揺れ、陽光は帯となって差し込んでいた。
 泡沫に反射したその美しさは、今でも時々夢に見る。
 

「遺跡の調査、ですか?」
 フトゥールム・スクエア、廊下にて。考古学の教師である【エヴァン・テール】は、自分の胸くらいの位置にあるとんがり帽子に首を傾げた。
「そーそー。なんでも最近、遺跡周辺の精霊の元気がないみたいでね。ちょっくら行って解決してきてほしいのだよ」
 帽子の主は【メメ・メメル】。彼女にしてはいくらか真面目な口調だった。
 エヴァンは少し皴の寄った目元に苦笑を浮かべた。
「この老体になかなか酷なことを言いますね」
 思わずメメルは彼の体を上から下までじっと眺めてしまった。
 少し年の行った印象はあるものの、彼の風体は30代後半のそれである。
「その見た目でなにを言っとるか」
「いやあ、メメル先生には負けますよ」
 永遠の14歳と永遠の30代が顔を見合わせる。
 ははは……。
 廊下に乾いた笑いが響いた。事実には触れない方が幸せだと二人は察した。
「で、その遺跡はどこに?」
「んー。エヴァたん向きの場所だぞ☆ ちょっと待ってー……」
 メメルはどこからともなく写法筆を取りだすと、空中に大陸地図を描き始めた。
 中心にはフトゥールム・スクエア。
 筆をとん、と学園の位置に置くと、メメルはそのまま真下に線を引っ張る。
「学園から真南にずーっと、ずーっと……」
 いくつかの街を越え、川を越えてもなお線は伸び続ける。
「あの、そのまま行くと――」
「ここだ!」
 筆が止まったのは、大陸の端を少し飛び出たところ。エヴァンが察した通り海の上だった。
 エヴァンのハシバミ色の瞳がわずかに揺れた。
「そこは……」
「な。エヴァたん向きの場所だろ?」
「ええ……よく知ってます。それに、精霊の元気がない原因も覚えがあります」
 だってそこにあるのは。
「僕の故郷ですから。よく、知っています」
 メメルはそうだった、と笑うと、ぽんとエヴァンの背中を叩いた。
「久しぶりの里帰りだと思って、満喫してきたまえ☆」
 

 その翌日、エヴァンは考古学の授業で生徒たちに呼びかけた。
 フィールドワークとして、海底に沈む遺跡の調査へ向かうこと。
 そこで課題を1つこなしてもらいたいこと。
「向かう遺跡は、かつてローレライのとある部族が住んでいた集落です。五百年ほど前には住む者も居なくなってしまいましたが、住居や道具などは現存しています。皆さんにとって珍しいものもあるかもしれませんね」
 生徒の一人から質問の手があがる。
 エヴァンは穏やかな口調で丁寧に答えていった。
「呼吸の心配はいりません。僕の調合した魔法薬を飲めば、陸地と変わらず呼吸ができ、体が浮くことも無く海底を歩くこともできます」
 高度な魔法に生徒たちから驚きの声があがる。今の自分たちには到底届かない芸当だ。
「とはいえ水の中なので、体は重たくなりますし、ある程度の制限はありますが……」
 さて、とエヴァンは一度言葉を切る。
「みなさんにこなしていただきたい課題は、『水霊の涙(すいれいのなみだ)』という魔法道具の作成です」
 水霊の涙は濁ってしまった水を綺麗にすることができる魔法道具なのだという。
「あの遺跡では数百年に一回、水流が滞り水が濁ってしまうことがあるんですよ。水が濁ると精霊も我々も暮らしづらいですからね、早めに解決したいところです」
 作り方と材料は紙にまとめました。
 エヴァンはそう告げると、生徒たちに羊皮紙を配り始めた。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2020-09-13

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2020-09-23

登場人物 3/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《海中の君臨者》マーレ・フォンターナ
 ローレライ Lv12 / 王様・貴族 Rank 1
■容姿■ 見た目:色白お姉様 髪:勿忘草草色のグラデーション、毛先は紫 目:若緑色 ■本名■ フィオーレ・ソットマリーノ ■性格■ 豪快 ■好き■ 水泳、酒盛り、自由 ■嫌い■ 雷、堅苦しいこと ■口調補足■ 二人称→名前呼び捨て きちんとした式典ではおしとやか 式典時の一人称→私 式典時の二人称→貴方様、名前様 式典時の敬語→あり ■サンプルセリフ■ 「あたしはマーレ。泳ぐことと酒が大好きなローレライだ」 「こんななりだが、一国の姫だ。今は勉強のために在学中だぜ」 「なんだい?いっぱいやっていくかい?」 「硬っ苦しいのは嫌いなんだよ。自由に行こうぜ!」 『みなさま、ご機嫌麗しゅう。』 『式典くらいはきちんと致しますよ。』
《ゆうがく2年生》シィーラ・ネルエス
 ローレライ Lv18 / 賢者・導師 Rank 1
「えぇ、私異世界から来たの」 「…そうね、そのはずなのに」 「うみにかえりたい、たまにそう思うの」 いつもおっとりした言葉遣いが特徴的なローレライの女性 おっとりとした言動とは裏腹にわりと勢いとノリがいい 自称、異世界からやってきたとのことだが… 容姿 ・海色のロングウェーブ、たれ気味の薄青の瞳 ・ゆったりとした服を好んで着ている ・胸は大きめ 性格 ・マイペースでおっとりとした性格…と見せかけてその実やりたいことはとことんやる、言いたいことはぶっちゃける ・困っている人には手を差し伸べるが、必要以上に他人と接しようとしない。あえて一定の距離を置いている節がある。人嫌い、というわけではない模様 ・ちなみに見た目よりかなり年上だが、間違っても「おばさん」とかは言ってはいけない ・笑いの沸点が低く、ちょっとしたことでもすぐ笑う ・取り繕うのは上手、なので平然とした顔で内心大笑いしていることは多々あり 好きなもの 海、歌 二人称:アナタ、~さん 仲良くなった人には呼び捨て、~ちゃん、〜くん 三人称:皆様、アナタ方

解説 Explan

◆目的
 海底の遺跡に行き、魔法道具『水霊の涙』を作成する。

◆水霊の涙の作成方法
1.材料を集める
 3個の魔石を遺跡内で集めてください。
 
2.魔石に力を注ぐ
 集めた魔石に皆さんのまりょくときりょくを注ぎます。
 必要な量はそれぞれ30ずつ。1人が負担してもいいですし、分担しても良いです。
 どうしても足りない場合はエヴァンが手伝います。

◆舞台
 ・海底の遺跡
  かつてローレライが住んでいた集落。今は誰もいないが、住居・生活道具は残っている。
  主なスポットは以下の通り。

  1.倉庫
  民家に隣接した倉庫。宝箱が10個あり、どれか1つに魔石が入っている。
  ただし10個中3個はミミックなので、噛まれないように注意が必要。
  
  2.集会所
  ここで部族の会議や祭りが行われていた。
  ヒビの入った透明な箱があり、中に魔石が入っている。
  蓋が無いため、なんとかして中身を取り出してください。
  他にも、集落で使われていた様々な道具が置いてあるようです。
  
  3.濁り水の溜まり
  遺跡の北の端にある、濁った水が溜まっている場所。
  ここの濁りを解消することが今回の調査の主旨です。
  魔石が落ちていますが、俊敏な動きが特徴の魔物・フラッシャー(2体)が妨害してくるので注意が必要。
  
  4.南の民家
  遺跡の南に位置する民家。エヴァンは基本的に課題中はここで待機しています。
  他の場所と違い、砂埃も積もっておらず、古びた雰囲気があまりありません。

◆水中での行動について
 火属性の魔法は使えません。雷属性の魔法の使用も注意した方がいいでしょう。
 薬によって呼吸は普通に可能です。また、体が浮くことなく海底を歩くこともできます。
 もちろん泳いで移動しても問題ありません。
 ただ、動きは陸上に比べ格段に鈍くなります。戦闘の際は特に注意が必要です。

◆NPC
・エヴァン・テール
 ローレライの考古学教師。見た目は30代後半のそれだが、実際はかなりの年数を生きているらしい。


作者コメント Comment
 ロマンあふれる考古学の授業にようこそ!
 課題の達成はもちろんですが、ぜひ遺跡で色々な物を見て、知見を深めていただければと思います。

 今回はローレライをフィーチャーしたエピソードになっています。
 地上戦に比べ、動きの制限もあるので少し難しいかもしれませんが、皆さんならきっと大丈夫です。
 あまりにも困ったらエヴァンも手を貸してくれますのでご安心を。


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
皆と一緒に魔石のあるスポットを順に回っていきますわね。倉庫では宝箱を開ける際ミミックについては危険察知ややせーの勘で自身乃至仲間が噛まれないよう行動を。その後は嗅覚強化でミミックでありそうな宝箱を探ってみますわ

集会所では、特に容器の中の魔石を取り出す手段を思いつかないので私自身は最後の手段として旋体脚での箱の破壊を試みますわ。あと様々な道具類を見て、ルネサンスとの違いを確認したりとお勉強もしておきますわ

濁り水のたまりでは、フラッシャーの動きに対し縮地法で対処、旋体脚で攻撃を。あとフラッシャーに通用するか解りませんが必殺の無影拳も使ってみますわ

魔石に力を注ぐ際は一人一つを担当しますわね

マーレ・フォンターナ 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
○捜索
参加者全員で行動をする
1から順番に回っていく

細かいことは気にせず、ガンガン探していく
【水泳】で移動
1は、【推測】で予想しながら、箱を開けていく
2では、取り出すための道具を探して、取り出しチャレンジを行う

○戦闘
【魚心あれば水心】で仲間の行動を支援
支援方法としては、
・【権威】できりょくを減らすことを試みる
・味方の攻撃に合わせて攻撃をする

等を行う
基本は、〈双鉄扇〉での通常攻撃

○共通
まりょく、きりょくを使いすぎないように気を付ける

シィーラ・ネルエス 個人成績:

獲得経験:78 = 65全体 + 13個別
獲得報酬:2400 = 2000全体 + 400個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
かつてローレライたちが暮らしていた場所…
えぇ、とても興味があるわぁ
それにしても不思議な場所ね
ここ……なんだか、落ち着くわ

・行動
仲間と共に行動
巡回は倉庫→集会所→水溜まり→民家
魔力気力込めは一人一つ

対ミミック
3歩ほど離れた所からキラキラ石を「投擲」で軽く投げてぶつけてみて
【動作察知】「物理学」で箱本来の挙動とは明らかに違う動きがあればミミックと判断
【アクラ】で攻撃 発見時は味方に知らせて

箱も難儀よねぇ
透明ってことは、中は見えるから…んー
刺せるようなものと、トンカチっぽいもの無いかしら?
ヒビの入ってるところを氷を削るのと同じ要領で…無理かしら?

リザルト Result

1.
 きらきらと、ゆらゆらと光の帯がたゆたう水底。
 【朱璃・拝】(しゅり おがみ)、【マーレ・フォンターナ】、【シィーラ・ネルエス】は【エヴァン・テール】が用意した薬を飲んで遺跡へと足を踏み入れた。
 全身に感じる水圧、何気なく動かした手が重たい。
 しかし息苦しさはなく、恐る恐る深呼吸をしてみると潮の香りが鼻孔をとおり抜けていく。
「海中でも呼吸が出来て歩く事ができるとはなかなか新鮮な体験ですわ♪」
「本当だな! 泳ぐのもいいが、こういったのも楽しいな!」
 朱璃はにこにこと笑みを浮かべ、マーレはうずうずと体を揺らし、貴重な海中での感覚を楽しむ。
「不思議な場所ね。ここ……なんだか、落ち着くわ」
 シィーラは指の間をすり抜ける海流を感じながら、ほう、と息を漏らした。
 エヴァンは三者三様の反応を眩しそうに見つつ、ゆったりとした低音で三人に告げた。
「僕はこの家で待機していますので、なにかあれば声をかけてください」
 慣れた手つきで鍵を開けるエヴァンを一瞥し、三人はさっそく倉庫の方へと足を向けた。
「ぐんぐん進んで、ガンガン探すぞ!」
 マーレが率先して扉に手をかける。
 砂を巻き上げながら古びた扉を開くと、十個の宝箱が目に入った。
「この中のどれか一つに魔石が入っているんですわね」
 朱璃は強化した嗅覚で倉庫の中の匂いを探ってみるが、
「潮の香りが強いですわね……もう少し数が減れば分かりそうですが」
 海特有の香りが壁となり、一つ一つを嗅ぎ分けるのは難しかった。
 ならば、とシィーラはポケットからキラキラ石を取り出す。
「これを投げてみましょう。違う挙動をするものがあるかも」
 放り投げる。キラキラ石は弧を描いて、宝箱にぶつかった。
 その瞬間。
「今、動いたわね」
「あれは間違いなくミミックですわね」
 シィーラはアクラを放ちミミックを排除すると、次の箱へと石を投げる。
 もう一つ、また一つ。
 そのまま十個の石を投げ切って結果は――。
「十個中一個で反応あり……うーん、意外と我慢強いのかしら」
「でも、少し数も絞れましたわ」
 予想外の収穫は、腐食で耐久度が下がった宝箱が三つ、投擲の衝撃で壊れたことだった。
 しかし魔石は中から出てこず、実質残りは六個。
「もう少しで嗅ぎ分けられそうなのですが……!」
「なら、あとは一個一個見ていくしかないか」
 マーレは近くの箱をじっと観察する。
 わずかに箱の隅に穴が開いている。
 慎重に中を覗く。音も動きもない。
「……変わったところはない、か」
 箱の表面に手を触れた。その時。
「! マーレ様!」
 朱璃がとっさに間に入り、箱をたたき割る。
 今にもマーレの手に噛みつこうと飛び出したミミックは、きゅう、とか細く鳴き声を上げた。
「まったく、人を騙すなどいやらしいモンスターですわね」
「すまん、朱璃。助かった!」
「いえ、お怪我がなくてなによりですわ。これで残りは四つ……これならいけそうですわね」
 朱璃はもう一度嗅覚を研ぎ澄ませると、潮の香りにわずかに混じる魔物の匂いを追う。
 そして、
「あの箱だけ匂いが違う……魔石の箱ですわ」
 身構えつつ箱を開くと、緑色の魔石が中に転がっていた。
 
2.
 倉庫を出た三人は、遺跡の中心部・集会所にやってきた。
 岩を加工して作られた椅子と大きなテーブルが中心に据えられ、背の高い棚がぐるりと壁に沿って並んでいた。
「ここにも魔石があるって話だったな! さっそく探すぞー!」
 マーレは床を蹴ると、水中に身を躍らせる。泳いで高いところを中心に探すようだ。
 頭上を揺れる青色の髪を見ながら、朱璃も手近な棚へと向かう。
(家具もですけど、石でできた道具が多いですわね……やっぱり木だと腐食してしまうからでしょうか)
 ルネサンスの朱璃にとって、ローレライの遺跡は間違いなく異文化の宝庫だ。
 中でも朱璃の目を惹いたのは――。
「貝殻? それも、たくさん……」
 両手で抱えるほどの箱に大量に入った貝殻だった。色も形も大きさもバラバラ。
 これは何に使うのだろう。一枚手に取り、ひっくり返したり撫でてみたり。
「あ、文字が書いてありますわ……『部族会議の決定について』。これは会議の議事録? ということは、羊皮紙の代わり!?」
 たしかに水の中で羊皮紙とインクは使えない。
 代わりにローレライたちは貝殻に刻む形で記録を残していたのだった。
「見た目も綺麗ですし……なかなか洒落ていますわね♪」
 朱璃は新たな知識を胸に刻み、魔石探しを再開した。

 一方マーレは、全身で水流を感じながら棚の上を中心に魔石探しを続けていた。
 この集会所は天井が高く、彼女の背丈の五倍程度はあった。その天井付近まで飾り棚が取り付けられている。
「陸だとすっごい大きな梯子が必要そうだなぁ」
 浮力のある水中ならではだ、とマーレは感心しつつ、眼下に見える朱璃とシィーラに手を振ってみせた。
「やっぱり泳ぐのはいいな!」
 上がったテンションのままに宙返りをきめると、飾り棚に近づく。
 どこからか流れ着いたガラス瓶や缶、一見するとガラクタのような物たちに混じって、透明な四角い箱があった。
「お、魔石が入ってる……けど」
 この箱、蓋と呼べる部分が無い。どうやって中を取り出したらいいのか。
 一旦、二人にも声をかけよう。
 マーレはそう決めると体の向きを変え、水底へと戻っていく。

 シィーラは棚に手を伸ばすと、自分の顔より大きな貝殻を引っ張り出した。
 ここに収められた貝殻には絵が描かれている。
 竪琴や笛を奏で、踊りを踊る人々の姿。祭りの風景なのだろうか。
(やっぱり懐かしい)
 そっと絵を指でなぞり浮かんだ感想に苦笑する。
(懐かしいだなんて。記憶もないはずなのに……)
 だって私は『異世界』から来たのだから。
「……えぇ、だから見覚えなんて」
 貝殻を元の場所に戻し、その隣の物を引っ張り出す。
 シィーラの青色の瞳が見開かれる。
「……へび?」
 それが何なのか。何を意味をするのか。
 多分誰にもわからない。
 教師のエヴァンすらも首を横に振るだろう。
 しかし、彼女は確信していた。
 ――しってる。
「……ラ! シィーラ!」
「!」
 名前を呼ぶ声にシィーラは顔を上げた。
 ふわりと隣に降り立ったマーレがどうしたのか、と顔をのぞきこんでいる。
 いつの間にかぼんやりとしていたようだ。
「その絵、なんだ?」
 マーレはシィーラの持つ貝殻、そこに描かれた絵を指さした。
 シィーラはこれは……と口を開いて固まる。
「……何だったかしら?」
 ずるっ。
「知ってるんじゃないのか……」
 脱力するマーレ。シィーラは首をかしげながら貝殻を戻した。
(何か、既視感があったのだけど……どこかの本で見たのかしら?)

 気を取り直して。
 マーレが見つけてきた魔石入りの箱を前に三人はどうしたものかと考えあぐねていた。
「これも難儀なものよねぇ」
「攻撃で破壊してもいいのですけど……中身まで壊れてしまっては元も子もありませんし、それは最後の手段ですわね」
 ううん、とうなっていたマーレは思いついた。
「道具を使ってみるか? 確か棚の上に……」
 再び上までのぼっていき、戻ってきたマーレが手にしていたのは細長い金属の棒だった。
「ここにヒビが入っているから、こいつを差し込めるんじゃないかと思ってな!」
「それならトンカチみたいなものが必要ね」
「確かあちらの道具箱の中にありましたわ」
 朱璃からトンカチを受取ると、シィーラはヒビの部分に金属の棒を差し込んだ。
 カンカン、と軽く打ち付けていく。中の魔石を割らないように、慎重に。
「あら、少しヒビが大きくなった気がしますわ」
「このままいけば……」
 やがて、
「割れた!」
 小さく音を立ててヒビにそって箱が砕ける。黄色の石が水泡と共に転がり出た。
「これで残りは一つだな!」
「ええ、次の場所へ行きましょう」

3.
 濁り水の溜まりにはフラッシャーが潜んでいると聞いている。
 朱璃を先頭に慎重に進んでいくと、黒く淀んだ泥の中に光る物を見つけた。
「あれが魔石か?」
 マーレが二対の鉄扇を油断なく構えながら淀みへと近づく。
 手を伸ばせばすぐにでも届きそうな距離。
 だが、そう簡単に事が運ぶはずもない。
「来ましたわ!」
 いち早く察した朱璃が海底を蹴る。浮き上がった足の下を、獰猛な牙を携えた魚が猛スピードで通り過ぎて行った。
「足を狙ってきたわね」
 シィーラも足元に気を配りつつ、周囲に視線を走らせる。
「もう一体は……マーレさん!」
「ああ!」
 マーレも襲い来るフラッシャーを躱す。
 敵意をむき出しにしたフラッシャーは再びマーレに突進する。
「海を制するのは……あたしだ!!」
 水を震わす堂々たる宣言。その気迫に圧され、動きが一瞬止まる。
 その隙をついてシィーラの放ったアクラがフラッシャーに襲い掛かった。
 水流の勢いに吹き飛ばされる体。
 無防備に水中に投げ出される。
 すかさずマーレは泳いで近づくと、鉄扇を振るった。
「っ、重たいな……!」
 陸のような素早い振りができない。
 鉄扇から巻き起こった風が命中しようかというその瞬間、フラッシャーは体勢を立て直しその場を離脱した。
「朱璃さん! そっちに行ったわ!」
「すまない、頼む!」
 シィーラとマーレが声をあげる。
 すでに一体を相手取っていた朱璃は、横から飛び込んできたもう一体が胴にぶつかるのを直前で回避した。
「お任せください!」
 この数分で水中での感覚にも慣れてきた。
 朱璃はゆっくりと息を吐く。
(普段よりも動きが鈍くなるのですから、タイミングは……今!)
「お願いしますわ!」
 鍛え上げた脚がフラッシャーの腹に命中。
 水泡を巻き上げ、ゆっくりとマーレの方へと飛んでいく。
 気絶しているのか、ピクリとも動かなかった。
 マーレは朱璃から託された言葉を受取り、力強くうなずくと、
「くらえっ!」
 鉄扇を振るい、風を巻き起こす。
 ごぽり、と泡を吹いたフラッシャーは海底に倒れた。
「あと一体ね。援護するわ」
 シィーラは杖を掲げ、先端から水流を放つ。
 直撃を避けようとしたフラッシャーは徐々に朱璃の射程圏内へと追い詰められていった。
「海の中だからとはいえ、負けませんわ!」
 弧を描き放たれる蹴り。普段よりも速度は落ちるが、その一撃の重さは変わらない。
 フラッシャーは一度怯むものの、すぐに朱璃から距離を取ろうと頭上へと泳ぐ。
 だが、その先には。
「こっちは通さないぞ!」
 マーレの鉄扇が水流を生み出し、体を押し戻す。
「あら、こっちも行き止まりよ」
 シィーラもアクラを駆使し、妨害を図る。
「これで終わりですわ!」
 朱璃の渾身の一撃が決まった。
 力を失ったフラッシャーはふらふらと海中へと沈み、光の粒子になった。
 後には淀んだ水と青色の魔石が残った。
 
4.
 エヴァンの待つ民家に顔を出すと、彼は小さな壺を抱えていた。
「おかえりなさい。無事、魔石が手に入ったようですね。ではさっそく、浄化を始めましょうか」

 濁り水の溜まりまでやって来た四人。
 エヴァンは一際水が淀んだ場所を選ぶと、壺を置いた。
「では魔石に力を注いでください」
 三人は一人ひとつ、魔石を手に取る。
 ふっと体の中から何かが溶け出す感覚。連動するように緑、黄、青の魔石が光を放ち始めた。
 エヴァンはそれを回収すると、全てまとめて壺の中に入れる。
「これはどういう作用をいたしますの?」
「見たところ普通の壺のようだけど……」
「もっと複雑かと思ってたんだが、拍子抜けだな」
 三人はまじまじと壺を見つめる。
 エヴァンはすぐにわかりますよ、と微笑むと、杖を掲げた。
「降り注げ『水霊の涙』」
 壺がカタカタと音を立てて揺れる。
 次の瞬間、小さな竜巻が壺の中から飛び出した。
 竜巻は底に沈んだ泥をさらい、濁った視界を晴らす。
 次いで、光の帯が飛び出て、巻き上げた土の粒子を白く焼いていった。
 最後に青色の光が飛び出ると、四人の頭上で弾けた。
 顔に、髪に当たる水滴。しとしとと天から降り注ぐそれは、
「まるで雨ですわ」
「水の中なのにどういうことだ!?」
「これは……不思議ね」
 ぽかんと頭上を見上げる三人に、エヴァンは不思議ですよね、とくしゃりと笑った。
「あの魔石にはそれぞれ風、光、水属性の力が宿っています。風で淀みをはらい、光で汚れを浄化する。そしてすべてを水で――涙で洗い流す」
 気がつけば雨は止み、海の上から差し込む光が、何里もを見渡せそうなほど澄みわたった水を輝かせていた。
「お疲れ様でした、皆さん。これで課題は達成です。よく頑張りましたね」

 一行は南の民家で一息ついた後、地上に戻る支度を始めていた。
 そんな中、朱璃は外の岩に腰かけ遠くを見つめていた。
(ここはエヴァン先生の故郷なのですわね。もう誰もいない故郷)
 もし、自分の故郷がこうなったら――。
 想像が頭の中を巡っていく。
 結論にたどり着くよりも早く、
「朱璃さん? 準備はもういいのですか?」
 エヴァンに声をかけられ、朱璃はええ、とうなずいた。
「もう出発しますか?」
「はい。遅くなってもいけませんから」
 朱璃は岩から降りると、エヴァンの横に立つ。
 じいっとその顔を見つめていると、エヴァンがどうしたのか、と視線を向けてきた。
「先生は……故郷の様子をどう思っているのですか? 誰もいなくなった故郷を」
 エヴァンは少し考えた後、困ったように眉尻を下げた。
「寂しいですよ。でも時代による変化は必然ですし、変わりゆくことは悪いことばかりではありません。それに……」
 エヴァンは宙に手を伸ばす。あの時見た陽光を掴むように。
「誰もいなくなっても、変わらないものがありますから」



課題評価
課題経験:65
課題報酬:2000
我が故郷は水面(みなも)の下に
執筆:海無鈴河 GM


《我が故郷は水面(みなも)の下に》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2020-09-08 18:44:30
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《海中の君臨者》 マーレ・フォンターナ (No 2) 2020-09-10 06:42:51
あたしはマーレ。泳ぐことと酒が大好きなローレライだ!!
よろしくな!!

《ゆうがく2年生》 シィーラ・ネルエス (No 3) 2020-09-10 17:51:48
賢者コースのシィーラです、ちなみにローレライよぉ。よろしくね?
水中だそうね、頑張って泳ぎましょう(無茶振り

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 4) 2020-09-10 19:06:51
マーレ様、シィーラ様、よろしくお願いいたしますね。

さて、魔石集めはどういたしましょう?全員で各スポットを順に回りますか?それとも手分けして探しますか?魔石は1から3のスポットにあるようですけれど。モンスターもいるようですし、今の人数なら全員でひとつづつ回る方がよいでしょうか?

あと魔石に力を注ぐ際はまりょくときりょくは分担いたしましょうか?


《海中の君臨者》 マーレ・フォンターナ (No 5) 2020-09-10 19:53:47
おう、よろしくな!

時間制限は特になかったよな?なら、皆で行くでいいんじゃないか?
集合してーってのも手間だしな。

まりょくきりょくは、分担でいいぜ。と言っても、1人1個に注ぎ込めば問題ないかな??

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 6) 2020-09-11 19:36:08
解りました、それでは皆で回りましょう。

魔石はそうですわね、今3人ですので一人一個に注げばよさそうですわね。

《海中の君臨者》 マーレ・フォンターナ (No 7) 2020-09-11 20:35:09
どこから回ってみる?
1番から順番に行くっててもあるが…

《ゆうがく2年生》 シィーラ・ネルエス (No 8) 2020-09-11 21:18:18
全員で行くのに賛成ね、この人数だと集まった方が探索の効率も良さそうだもの
…そうねぇ、順当に行くなら1からでしょうね
ミミック対策も考えなきゃね、宝箱に軽く何かぶつけたら反応するかしら?

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 9) 2020-09-12 19:29:58
順番は私も1からでよいと思いますわ。

>ミミック
一体出た場合は、嗅覚強化でミミックの匂いを嗅ぎ分けて残り二つを当てないようにしようかと思っていますが、最初の分はシィーラ様の案で様子を探ってみるのは良いかもしれませんわね。