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ストーリー Story

「ちっ、こんなに降ってくるなんてついてねぇ!」
 魔法学園フトゥールム・スクエアに存在する、大図書館『ワイズ・クレバー』。
 ルネサンスの男子生徒、【牛尾・虎太郎】は当て所もなくフラフラと彷徨い歩いていた。
 そこに突如として、激しく彼の頭部へ降り注ぐ雨、と、耳に届いているのは獣の唸り声のような雷鳴の予兆音。
 彼が雨と雷から身を守るには大図書館へと逃げ込むしかないのだが――。
 渋々とたまたま近くにあった大図書館への入口の一つに飛び込もうと駆け寄る。
 大図書館へ赴く事などそうないだろうと思わせる、やんちゃな風貌の男子生徒。
「なるようになれ……、だな」
 扉を押し開ければ、外の天候のせいもあってかわずかに薄暗い。
 だが、人の利用はそれなりにあるのか、居心地悪そうに、奥へ奥へと、何かに誘われるように進み、人気の少ないゾーンへ突入してしまっていた。
 不慣れな彼は図書館での作法など、特に気にも留めていない様子で奥まった場所で本棚に寄りかかる態勢で、ドサリと座り込む。

 すると……、――パタリ。
 座り込んだ彼の真横に人がもう一人座り込むかのように、一冊の本が落ちていた。落ちてきた?
 元々は赤い表紙であったのだろうか、煤けて見えるその本は、何処かから持ち込まれた物なのだろうか。
 恐る恐る手を伸ばすと、本の隙間から白い紙が貌を覗かせている。
 はた、と、手が止まる。が、好奇心には勝てなかった虎太郎はその紙のみを拾い上げてしまう。

「――ギャアアアアアアアア!!!」
  
 図書館内に響きわたる大絶叫に、図書館内でもどよめきが起こる。
 何事かと慌てて駆け付けた図書委員のエリアルの女子生徒【エル・クロシェット】が目にしたのは、床に落ちた一冊の本とその本を前に恐怖で固まる男子生徒の姿だった。 
 
 彼が手に持っていた紙には、赤い文字でこう書かれていた。
 【この本を見た者は呪われる】


 図書委員の誰一人として、見たこともないと口を揃えて言うその本が何処から来て、どんな曰くがあるのかは誰も解らない。
 解るのは、異常に怯えた男子生徒が居るということ。そして、確かにそこに存在する謎の本と呪いの宣告の紙があるという【事実】だ。

 依頼者は怯える男子生徒、虎太郎の第一発見者である、エル。
 彼女が語るには、その日から、虎太郎は気が付くと図書館に居て、その本を手に取っている。
 今まで図書館で見かける事がなかった相手を見かける事の異常性を感じ、彼に話しかけてみた所、
「呪いの本が呼んでいる」
 と、ただそれだけしか話しを聞くことができなかった。
 だが、彼女には一つ、一つだけ引っかかることがあったのだ。
 去年の夏に図書委員会の面々で催された、創作怪談大会。
 そこで自分が語った話が、彼に振りかかった恐怖と、とてもよく似ていたのだ。 


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 4日 出発日 2020-07-17

難易度 簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2020-07-27

登場人物 5/8 Characters
《新入生》シェイミル・ウッズ
 エリアル Lv10 / 芸能・芸術 Rank 1
「うちは、シェイミル・ウッズ。村の外は初めて来たから教えて欲しいんだよ」 「縫い物なら任せてね」 「一緒に音楽はどう??」 【容姿】 体型→やや小さい 髪 →若緑/やや癖毛/腰までの長さ 瞳 →深緑/ぱっちり 服装→ノースリーブワンピース、グラディエーターサンダル、ゼラニウムの花飾り 【趣味】 歌、演奏、裁縫、お絵描き 【性格】 楽しいこと好き、世間知らず
《新入生》マルガレーテ・トラマリア
 ヒューマン Lv12 / 王様・貴族 Rank 1
「仮面が気になりまして?言わずとも分かりますわ、特注品ですもの!」 仮面をつけたヒューマンの少女 素顔に刻まれし呪いに臆せず、今日も不敵に微笑む 容姿 ・黒色のウェーブボブ、白色の瞳。頭にはリボンの飾りがついたカチューシャをつけている ・目元を覆うベネチアンマスクが特徴的、頼まれれば普通に取る ・仮面の下にはヒビのような痣が両目の周囲に広がっている 性格 ・感情豊かで負けず嫌い、何事にも基本は真面目に取り組む ・普段は優雅な振る舞いを心がけているが、余裕がなくなると感情的になりやすい。そこは欠点として自分でも自覚している。 ・呪い道具への関心が強く、よく図書館で本を探すことも ・可愛いもの、綺麗なものが好き。それを身につけた綺麗で可愛い人を見るのはもっと好き。 ・顔の痣はそこまで悲観的に捉えてはおらず、頼まれれば普通に見せる ・「いちいち腫れ物に触る様に、声をかけられるのも面倒です」とは本人談 好きなもの 紅茶、りんご、童話の本、可愛いものや人 苦手なもの 薬、暑さ、暗くて狭いところ 愛称:マギー 二人称:貴方、〜様、仲が深まれば呼び捨て。敵対者にはお前 三人称:あの方
《自称「モブ」》チョウザ・コナミ
 ヒューマン Lv34 / 村人・従者 Rank 1
「よーこそお出ましゆーしゃ様。 ザコちゃんの名前?…あー、チョウザ・コナミ。 お気軽気楽に『ザコちゃん』って呼んでくれていーよぉ? 面倒だったらこの記憶はまとめてポイして経験値にしたって、 全然丸っと了承了解?」 「ゆーしゃ様の近くでただ在るだけがザコちゃん。 モブへの用件ならいつでも呼びつけ招いちゃってよ。 何かの名前を呼び続け連呼とか?森の浮浪者とか? はたまた魔物に狙われ襲われな第14人目位の村人とかぁ?」 ■■ 名前:蝶座 小波(自称 身長:176cm 実年齢:20歳(自称 瞳の色:エメラルドグリーン 髪色:カラフルなメッシュ入りのマゼンタ 肌色:魚の文様が頬にある日本人肌 髪の長さ:編まれ端を結んだロング その他外見特徴:古びた布の服に大量の装飾品。 常に腰か手元に携帯する水煙草の瓶は『預かり物』だとか。 頭や腕に謎の斑模様で派手なスカーフを巻く。 一人称:ザコちゃん・(ごく稀に)あーし 二人称:『ゆーしゃ様』等の平仮名表記の立場+様 特徴+様、(稀に)名前+様 他 呼称:「ザコちゃん」呼びを望む。 「モブ」も反応するが、それ以外だと気づかない事が多い。 口調:投げやりで適当な話し方。敬語は一切使わない。 似た言葉や語感を繰り返し、まるで言葉遊びのように話す。 口先は冗談とでまかせ、ノリとハッタリで構成される。 貴族や東の国関係に妙な嫌悪を持つ。 魔法を扱う気は微塵も無いとか。 他者からの詮索、視線、物理接触、色恋話を避ける節がある。
《新入生》レイラ・ユラ
 リバイバル Lv8 / 黒幕・暗躍 Rank 1
レイラ・ユラです。 行きたい場所、やりこと。沢山あります。 よろしくお願いします。 ■何かをしたいという思いだけが残っていたリバイバル。 些かマイペースで感情の起伏が見えにくい表情(ただ微笑んでいたり)でいることが多いが、基本素直で真っすぐな性格ゆえ、感情のまま走り出しそうになることも。 そのせいで言葉少なく動き出そうとすることもあるため、何を考えているのかわからなく見えるかもしれない。 【姿形】 手足が長く全体的に凹凸が少なめ。 やや釣り目で涼し気な目もと。色は深みのある真っ赤な紅色。 膝の辺りまで根性で伸ばした暗めの紫色のロングストレート。 ぱっつん前髪に合わせるように目じりから耳の前の髪を頬骨の下を口元辺りでぱっつんと。 右側(←)のサイドトップ(耳上あたり)には黒いラナンキュラスの髪飾り。 服装は基本的に黒のシフォンのマキシワンピースや黒の着物などに黒いレースの手袋(デザインなどはその日の気分だがリボンがついていたりとかわいい系の物を好んで着ている) 【傾向】 交流を断絶して生きていたことから、他者との交流に人並以上に感心がある。 自分ではないものの意見や経験、思考に触れるのが好き。 口調はやや硬く、それが通常運転になっているため親しさと口調は比例しない。
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。

解説 Explan

 今回の依頼では、参加者に呪いのような怪現象が起こる可能性があります。
 (いたずら程度の軽度なものですので戦闘などは起こりません)
 エルの作った怖い話はオチのない、中途半端なものであったこともあり、どうすれば呪いと思われる現象が解決するかはわかりません。
 中身が全て白紙になっている、ぼろぼろな本とそこから出てきた謎の紙、その組み合わせから怪談を連想してしまい、怖いと思う気持ちが強迫観念になってしまい、ここに通ってきているのかもしれない。
 それならば、本の装丁を修復ついでに明るくなるようなものにすればいいのでは、そう考えたエルの気持ちが吉と出るか凶と出るか。 
 ですので、今回は、みなさんで装丁や本文を付け加えて、呪いの本を楽しい本へ変えてしまいましょう。
 本の修復が成功すれば、呪いの正体が明らかになるかもしれません。


 本の題名も決めてもらいたいです。
 また、本文は一つの内容を皆で考えてもらうのも良いですし、短編集にしたり、共著してもらっても構いません。イラストなどを貼ったり描いたり、絵日記のようなページを作ってみるのも楽しいかもしれません。
 ページ数は100ページ程と考えてください。
 
 【牛尾・虎太郎】
 名前の通り、虎のルネサンス。
 【エル・クロシェット】
 エリアルの図書委員。1mに満たない体躯で4枚の羽を持つ、フェアリータイプ。

 プランに書いて欲しい事は、
 ・どのような装丁、本文にしたいか。
 ・呪いに対する向き合い方。(呪われそうな生徒さんの場合、呪われたらどんな反応になるか)
 相談が必要な部分は会議などで話し合って決めてください。


 


作者コメント Comment
はじめまして。閲覧いただきありがとうございます。
この度GMとして登録されることとなりました、佐渡れむと申します。

私にとって、ゆうがくでの初めての物語。
そのオープニングということで得意なジャンルで挑むことにしました。
梅雨のじめじめした季節、ささやかなホラーをお楽しみいただければと思います。

結末へ導くみなさんの素敵なプラン、楽しみにお待ちしております。



個人成績表 Report
シェイミル・ウッズ 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
何やら呪いがどうこう言っていたんだよ。
もしそれが本当なら、ちょっと怖いけど、びっくり系じゃなければ耐えられるんだよ!
びっくり系だったら、変な声は出ちゃうかもなんだよ…

もしよければ、うちは、この本を絵本みたいな本にしちゃいたいんだよ。
他の参加者さんの書いたお話に【絵画】で可愛いイラストを付けたんだよ。
色は暖かい色をメインで使って、画材はクレパスとかがいいと思うんだよ。
これなら、明るいイメージになりそうなんだよ。

うちは、あんまり文章書くのは得意じゃないから、基本的には、絵本調で物語を書いていこうと思うんだよ。
内容は、元々ある怖い話は、実は怖くない!みたいにしたいんだよ。

マルガレーテ・トラマリア 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
呪いですって?えぇ、呪いと聞いては…ワタクシ、黙って見ているわけにはいきませんわ
…お話の続きを?あら、それは良いと思いますわ!

・本の装丁
暗い色合いより、明るい色合いだとよろしいのではなくて?
例えばシールを貼るとか……
美術に関する創作は何分経験が非常に浅いので…
提案は積極的にしていきたいですわね!

・内容
オチ?…ええと、結末ということかしら?
読者の想像に任せる、というのは…確かに色々考えてしまいますわね
なら、穏やかな結末にしてしまうのはどうかしら?
例えば…ポルターガイストのような現象は
「恥ずかしがり屋の魔法使いが、うっかり魔法に失敗したけど、恥ずかしくて誰にも言えなかった」なんて…

チョウザ・コナミ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:45 = 15全体 + 30個別
獲得報酬:900 = 300全体 + 600個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
え、何?おもしろ愉快な事起きてる感じ?なのに解決に向けちゃうの?
ひゅー、もったいなぁい。せっかくならザコちゃんもまーぜて。治るまであそぼ。…調査探索だって。ほんとほんと。

とりまあれ、本の装丁をぱやぱやで謎現象起きないよーに、ってしてっけどさ。
それで治ったら治ったで、それが実質的に呪いの本だった、ってなっちゃうし。治らなかったらなおのこと謎みだし。
なんせよ何かの偏見レッテルは残んじゃん?大図書館なりその本なりに。

だからザコちゃん、謎現象起きてる内に色々あそ…【推測】して発生源とか、どういう理屈で起きてんのか、発生の多い場所範囲とかある程度まとめとく。
魔法でないと成立しないか、人為でいけっか的な。

レイラ・ユラ 個人成績:

獲得経験:18 = 15全体 + 3個別
獲得報酬:360 = 300全体 + 60個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
本の表紙には花や動物の形に作った折り紙を貼って華やかで可愛らしい装丁に
空白ページには詩を書きます
虎太郎さんの呪いについても気になりますので護衛のつもりで目を離さないように気を付けます。【オカルト/民俗学/心理学】で助言やサポートができるでしょうか。

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:22 = 15全体 + 7個別
獲得報酬:450 = 300全体 + 150個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
いつもははいらない図書館に雨宿りではいった男の子。
一冊の本ですごくこわい想いをして……
そこにおとずれたひとりの女の子。


おはなしをここからかいてみますね。


呪いの紙はただのいたずらだけど、男の子はそれでもきにしてしまう。
あのときのことがわすれられなくて……

ドキドキするきもちはいつのまにかあのときの女の子とかさなっていく。
でも、男の子は図書委員のあの子と接点はなくて
可憐なあの子に自分がみせてしまったこわがってた姿をおもうと
声をかける勇気もでなくて……

女の子からはなしかけてもらえても
「呪いの本が呼んでいる」とごまかしてしまったり……

ということで「吊り橋効果」からはじまるじれったい恋物語にしてみますね。

リザルト Result


「そもそも呪いとは、一説には『まじない』から変化したものである、という考え方があります」
 【レイラ・ユラ】が神妙な顔と潜められた小声で語る。
「次にまじないとは何か、ですが……。例えば、特定の人物に対して禍を起こしたり、反対に取り除いたりする為に強く念じたり、魔力を込めたりすることを指す場合があるそうです。ですから今回のパターンですと……」
「あの方を特定して狙った呪いということですわね?」
 【マルガレーテ・トラマリア】が自分の身に起きたことのように辛そうに仮面の奥の瞳を陰らせる。
 ここは大図書館の一部である、【牛尾・虎太郎】が呪われた現場だと思われる本棚へと続く道の影である。
 梅雨時の照明のない図書館の一角は薄暗く、話題も相まってひんやりとした空気が漂っている気配すらある。
 今回のような事件の話がなくても、ここにはそうした『呪い』と呼べる代物が存在するのではないか、そのような錯覚すら覚えたのか、何も起こっていないはずなのに、【シェイミル・ウッズ】が小声で、
「なんだか少し怖いんだよ……、でもがんばるんだよ」
 と堪え切れなかったようにぽつりと告げると、ほぼ同じタイミングで、コツ、コツ、コツ……。
 足音だろうか? 何かが通路を歩いてくる音が微かに響く。
 学友たちは、【レーネ・ブリーズ】が虎太郎のために作る本の内容を決めるために行っていた、虎太郎本人についての調査を彼の周囲にいる生徒に行った結果、いつ、どの時間に図書館に来るのか、という行動の足取りを掴む事に成功していた。
 それぞれが把握していた通り、本人がここへやってきているに違いないと踏んで、息を潜める。
 物音を立てて、誰かがいると警戒されては意味がない。
 件の場所に虎太郎が辿り着くまでは、気配を悟られずに……、フワ。
 突如、窓のない場所で生ぬるい風が吹く。
 フワリ、フワリ、フワリ。
 まるで周囲を視覚では捉えられない何かの気配が舞い踊るように。
 空気がぬるく流れた直後に、虎太郎の姿が視認できるようになった。
 学友たちを取り巻いている『なにか』は虎太郎の姿を追っていくように去って行き、その道筋を刻むように、ドサッドサッと通り過ぎた後に本が落ちていく。
「あれってさー、なんか落としてるってより、ぶつかって行ってる感じじゃない?」
 飄々とした調子で、【チョウザ・コナミ】が風の流れを目で追い続けながら、尚も視線を外すことなく言う。
 確かに、風の塊のようにも見えるなにかの動きは飛ぶことに慣れていない鳥のように本棚に収納されている本や紙にぶつかりながら虎太郎を追っている。
「こっちに興味あるようにみえっけど、のろわれゆーしゃ様? への執着の方が吸着してるっていうかー」
 んー、と小さく唸り声で現状を把握しようとしているチョウザの声は奥まった場所に足を踏み入れた虎太郎にはどうやら届いていないらしい。
 こちらに気づいた様子は見受けられない。
 流石に本が落ちている音に気づかないことなどないと思われるが、そちらは気づいていないわけではないらしい。
 本が落ちる度にぴくりと身じろぐことでそれが見て取れるが、それでもここから逃げては行かない。
 風がふわっと足元で吹いても、地団駄を踏むように両足を動かしながらもそこから動かない。何故? 
 虎太郎となにかの邂逅を見守っている学友たちの中で、シェイミルとレーネだけは二人で顔を見合わせて、何事か頷きあっている。
 先程まで怖がっていたシェイミルだが、
「お友達が増えるかもしれないんだよ」
 こう言いながら、表情にワクワクが覗いている。

 この風が何なのか、しっかりと把握しようと観察を続けていても、まるで進展がない。どころかある種完結しているのだ。
 『虎太郎が図書室へ来ると風が付いて回って来て、ずっと吹いている』
 現象と言うとこれだけで、こっちへ来いと矛先を向けようとしても反応しない。
 虎太郎が図書室を出るまで、それが続くのだ。幸いなのは、どうやら図書館外では何も起こっていない、のだ。
 生徒たちが学生寮に戻る、陽が沈む頃になると、虎太郎は踵を返し、図書室を後にしようとする。
 隠れた場所でそれを見届けた学友たちは、図書館で発生する現象なら、図書館の何処かにその原因があるはずだと推測して、今度は虎太郎ではなく、その風のようななにかを追う事にしたのだ。
 そして、その風はふわふわと飛ぶように漂い続けて、とある者を見つけると、真直ぐに其方へ飛んで行ったのだ。

「なぁーんだぁ。これって結局、人為と魔法のダブル案件じゃん」
 間延びした声で吐き出してから、『もっと遊びたかったのにー』とチョウザは溜息を吐き出す。残念そうな言葉とは裏腹、特に気にした風もなく肩を竦める。
 呪いだと思われていた魔力の残滓が【エル・クロシェット】に還って行き、彼女の体の周りをくるりくるりと踊るように舞いながら観測できない程に跡形もなく消えていくのを見てからのコメントである。
「呪いでは……」
「なかったのですわね」
 レイラとマルガレーテが息と一緒に肩の力を抜く。
 両者揃って、自分が思った『呪い』という形ではなかった事にがっかりしながらも、心なしか安堵も見て取れる、複雑な色をその顔に浮かべていた。
「私が……あの人を攻撃してしまっていたなんて……」
 当のエルは愕然としながら床に座り込んでしまっていた。
 誰かを害する呪いだと思っていたものが己の身の内側から発生している事に気づかなかった……、否、気づけなかったのだ。
 何故なら呆然としているエルの胸の辺りから彼女の小さな体より、更に小さな小さな、踊るように舞う何かがぽわんと光が弾けるように現れて、座り込んでしまった彼女の周りをくるくると回っている。
 その事に気づいているのかいないのか。光の塊はエルの目の前に来るとささやきかけるように左へ右へ。自分の存在を気づいてというように。
「クロシェットさん、このこがきちんとみえていますか? きづいてほしいとあなたのとなりにそっているこが、いるんです」
 レーネはエル、そしてエルから生まれた光に寄り添うように隣にそっと座る。
「エルさま、すごいんだよ! 魔力が生まれる瞬間なんて、うちは初めて見たんだよ!」
 怖い事ではないと理解したシェイミルも、エルに飛びつくように勢いよく、レーネとは反対側の隣へやってくると、楽しいことを発見したように声を弾ませ、向かい側のレーネとにこにこと笑みを交わす。
「え、この子……? え……?」
 二人に押された様に自分の目の前に、自分に起こった出来事を認識しようと焦点を合わせてみると、そこに居たのは自分の分身とも言えるような、光。
 その姿はエルの背中にあるものとは違い、飾りのような小さな四枚の羽を背にした、エルの手の平に収まってしまう位のミニチュアな、宿主の形を象った、魔力の塊だった。
 
「私は、村でずっと、魔力がない、落ちこぼれだ、と言われていて。それでも私は……自分を信じたくてこの学校に通うことにしたんです」

 ミニチュアエルが消えて行った方の手に触れながら、エルはぽつりぽつりと語りだす。
 自分には魔力がないと思っていた事、それならば大好きな本に触れながら魔法について学ぼうと、図書委員になった事、震える声でエルは語った。
 そして、
「ちょっとした出来心で語った怖い話が、本当に力を持つなんて思わなかったんです」
 それもそのはず。怖い話を語ろうとする者が、『本当に怪奇現象が起こればいい』と思いながら話すことなど、そうない。
 怪談とは、無慈悲だが無責任だから良いとされているのだ。
 実話だろうが、実話でなかろうが、己の身に降りかからない事、それが無意識下での大前提なのだから。
 だが、今回の語り部であるエルの中には、彼女が想像もしていなかったような、魔力が潜んでいたようだ。
 その魔力の塊が主人の話を盛り上げようと『いたずら』する事は不思議な事ではない。
「この場合の不思議ですのは、何故、虎太郎様をエル様の魔力が追いかけたのか、ですわね」
 呪いではないのなら、特定の人物を襲う理由が見当たらない。
 ……エルが虎太郎に恨みつらみを感じていたならともかく、だ。
「図書館のとある窓から見えるんです」
 放課後、図書委員の仕事の時間。本棚の見回りと触っても平気な本であれば、整理なども行う。
 その時間になんとはなしにその窓の外を見てみたら、退屈そうに歩いている男子生徒を見かけた。
 虎の耳が生えている事だけしかわからないその生徒は、いつもその場所を通ってどこかへ行くのが見えた。
 エルが虎耳の生徒への興味を持つのにそう時間はかからなかった。
 図書館にしか行き場のないエルと何処へも行き場がないように見える彼とは何か同じようなものを感じたのだ。
 だから思った。
『彼がここにある本を読んだら、どう感じるのだろう』
 興味が尽きない彼と、大好きな本を近くで見る事ができたら……。
 そう、エルはただ想っていただけなのだ。

「じゃあ、これで決まりってことで。ザコちゃん、ちょちょいっと、どじっことしょいーん様がどじった時に、それ見たのろわれこぞー様がゆーれい枯れ尾花して腰抜かしたってことにしてくるからぁ、あとよろしくおーけい?」
 チョウザは歩き出しながらヒラリと手を振りながら去って行く。
 それならば、残された者は彼女の『ハッタリ』が『真実』であるように振る舞わなければならないだろう。
 それなら最後に必要なのは、虎太郎に事実を話す事。
「エルさん、虎太郎さんに今回の事の顛末全てをお話してもよろしいでしょうか?」
 レイラの問いかけの言葉にエルは弱弱しくだが、しっかりと首を縦に振るのだった。


 皆で話し合った後、エルが真実を告白するためには、やはり最初の依頼でもある、古書の修復は必要だということになった。

『いつもは入られない図書室に雨宿りで入った男の子。一冊の本ですごくこわい想いをして……そこにおとずれたひとりの女の子』
 レーネがこれから生まれる本の最初の大事な一文を書き記す。
 まずは恋のお話に変えてしまおうと考えたのはレーネ。
 そしてそこにマルガレーテが提案をすることで本の方向性は決まった。
 『恥ずかしがり屋の魔法使いと恥ずかしい所を見られた少年』のお話。
「男の子は『呪いの本が呼んでいる』とごまかしながら、まいにち女の子にあいにくるんです」
 『吊り橋効果』から始まるじれったい恋物語。
 悪戯で生まれた呪いの紙と、それを見つけてしまった男の子が、自分の恥ずかしい現場を見られてしまったことで図書委員の女の子を意識する。
 恥ずかしい気持ちと図書委員に声を掛けたいというジレンマに取りつかれる男子生徒。
 だが、実は呪いの紙を作り出したのは、その図書委員の女生徒で、彼女はなんと、魔法使い。魔法使いである図書委員が魔法に失敗した挙句、呪いのアイテムを作り出すに至ってしまい……恥ずかしくて言い出せなかった。というオチが付く。
 『恥ずかしがり屋の魔法使いが、うっかり魔法に失敗したけど、恥ずかしくて誰にも言えなかった』
 この真相はマルガレーテが考えて書き込んでいる。
「じれったいですわね! どうしましょう、ワタクシ、穏やかな結末にしようと思ったのですけれど……。このままですと、この方達はそれぞれのお気持ちをお互いにぶつけることもできないのではないかしら?」
「でしたら、男子生徒さんが図書委員さん宛てに詩をしたためて、本を借りると見せかけてそれをそっと手渡してはいかがでしょうか?」
 レイラが名案だとばかりに両手をぽふと合わせて、苦悩に頭を抱えそうになっているマルガレーテに提案する。
「それは良いアイディアですわね! レイラ様、お願いしますわ」
「では、わたくしは取材した時のメモをもとにエピソードをいれつつ、もっとたのしい恋物語にしていきますね」
「うちは、呪いの紙をピンクのクレパスで描いて、可愛くしちゃうんだよ! たくさん絵も描くんだよ! 男の子の絵に虎耳も描きたいんだよ。そしたら虎太郎さまもこの本読んで笑ってくれると思うんだよ!」
「ゆーしゃ様達が楽しんでるなら、ザコちゃんもそれなりに刺繍がんばっちゃおっかなぁ」
 それぞれのメンバーが意見を出し合ったり合わなかったり、それなりだったりそれなりじゃなかったりと、マイペースに本の空白や表紙、はたまた背表紙に至るまで各人の色をつけていく。
 そんな学友たちをエルはずっと目を細めて、背中に生えた羽を無意識に揺らしながら、嬉しそうに、ただただ制作現場を見守っていた。

「ありがとうございました。そして、迷惑をかけてごめんなさい。みなさんに作っていただいた本を持って、これから虎太郎さんに会いに行ってきます」
 本の完成を待ってから、学友たちにお礼と謝罪の言葉を告げると、何度も何度も首を垂れて、エルは虎太郎の元へと向かうのだった。


「ここに今回の顛末が書いてあります。一人で家に帰ったら、この本を開いてみてください」
 柔らかな桃色の糸で刺繍された魚が泳ぎ、紙で形作られたチューリップと兎がその周りを踊る。
 エルが胸に抱く、その可愛らしく華やかな本の表紙には手書き文字で『いたずら妖精の恋のものがたり』と書かれたシールが貼られている。
 そのシールの下にはクレパスで描かれた虎耳が生えた男の子と、その子と手を繋いでいる緑の羽が生えた妖精の女の子。
 シェイミル、マルガレーテ、チョウザ、レイラ、レーネの5人が作り上げた、ここ以外のどこにも存在しない一冊の特別な本を手にエルが選んだのは、勇気を出す事。
 恥ずかしがりやの魔法使いは胸の本を両手で持ち、虎太郎へとずいと差し出す。
「もう一度、呪いをかけてくれないか」
 少年の口から零れ出た言葉はエルの予想できる範囲の物ではなくて。
「呪いじゃなかったんです。あれは私の……!」
 顔を伏せたまま、息を詰めるように。
「俺だけの、俺だけのための呪いだった。それなら」
 虎太郎はエルが差し出す本を少しだけ強引に引くと、エルがたたらを踏むように前に転げそうになる。その腕を、本を引いた時より遥かに、そう遥かに優しい手つきで、彼女を支え、
「君の呪いになら、呼ばれても良いと思ったからここに来たんだ」
 事の顛末を見守り、見届けた学友たちはその先を見続けるのは野暮だと背を向けて、大図書館を後にしたのだった。
 怖がりの虎と恥ずかしがりやの妖精にどうか温かな日差しが降り注げと願ったり願わなかったりしたかもしれない。



課題評価
課題経験:15
課題報酬:300
呪雨
執筆:佐渡れむ GM


《呪雨》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 シェイミル・ウッズ (No 1) 2020-07-13 01:00:24
本を直すなんて楽しそう!!1度やって見たかったんだよ!!

おっと、自己紹介がまだだったよ…うちはシェイミル・ウッズ。
芸能・芸術コースなんだよ。絵は得意な方だから任せて欲しいんだよ。

え?怖いことがあるかもしれない?
それは初めてのことで楽しそうなんだよ。もしかしたら、原因さんともお友達になるかもだよね。

《新入生》 レイラ・ユラ (No 2) 2020-07-16 12:56:56
黒幕・暗躍コースのレイラ・ユラです。
よろしくお願いしますね。

呪いも本の修復も双方楽しそうですね。
しかし、何を書きましょうか…詩集か日記にしようかしら。
少し悩んでみますね。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 3) 2020-07-16 17:14:47
ワルフルド先生のおしらせをみてきました。
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。

「チのない、中途半端なもの」になってしまってる物語、
そのつづきをたのしくかんがえてみたいとおもいます。

よろしくお願いします。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 4) 2020-07-16 17:28:31
ところで、牛尾さんの種族、「ストーリー」ではヒューマン、「解説」ではルネサンスになってるみたいですけど、どちらでしょうか?