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夏の浜辺のスイカマン


ストーリー Story

●真昼の怪談?
 とある海岸。水着姿の若者達が束になって青春を謳歌している。
 その一角に、うら若き女性たちの一団。
「喉渇いたわねー」
「何か飲み物買ってくる?」
「なんだか頭がボーッとしてこない?」
「そりゃ、これだけ暑いもの」
「雲が一つもないもんね」
 そんな彼女たちの頭の上にぽんぽんと、麦藁帽子が被せられる。
 続けて爽やかなイケメンボイス。
「お嬢さんたち、この炎天下に無防備な姿でいてはいけない。日射病にかかってしまうよ?」
 女性たちは声がした方角に顔を向けた。
 見えたのは、たくましく引き締まった青年の体。
 顔はその瞬間には分からなかった。帽子のつばに視界が遮られていたもので。
「あ、ありがとうございます」
「すいませーん」
 女性たちは先を争い、帽子を押し上げた。可能なら首から上もイケメンであれと願いつつ。
 そして凍りつく。
 青年の首から上はスイカだった。かぶりものとかそういうのではない。純度100%のスイカ。
 それを青年は自らの手で一口サイズに割り、彼女らに差し出す。
「日射病対策には水分補給が大事だ。さあ、私の顔をお食べ」

●怪しいもの発見
 スモウレスラーのごとき体型をした御年70のドラゴニア、【ドリャエモン】は、海風にふんどしをはためかせ悩んでいた。自分が担当している『魔王・覇王コース』に在籍する【ガブ】【ガル】【ガオ】の狼ルネサンス三兄弟について。
 さる放置施設のリフォーム作業をきっかけに、素行の面が前よりちょっとはましになってきているが、基本的な所はあまり変わっていない。
 魔王を目指す熱意はふんだんに持っているようなのだが、事あるごとに課題をサボリたがる。
 本日も強化水練合宿に来ているのに、ちょっと目を離したが最後、波打ち際で遊びほうけ始める始末。
(そこをどうにかさせないとなあ……)
 何よりいけないのは、彼らの魔王に対する認識だ。彼らは魔王を、『すんげー強くて、すんげー偉くて、回りに命令だけしていればいい存在』と思っている。
 もちろんそんなことはない。『魔王』はある意味『王』より難易度が高いのだ。王であるなら基本人間を統治することを考えるだけでいいが、 魔王はその上に、魔物・魔族を心服させることを考えなくてはならないのだ。魔物も魔族も人間よりはるかに強い。そして、凶暴性の高いものが多い。
 それを心服させることがどれほど困難か、入学してから結構たつのに、よく理解していないのではないだろうか。
「やはり、一度きちんと魔物と対峙させなくてはいかんのう……しかし、いきなりあまり強いものをあてがってもいかんしな」
 ドリャエモンは、ため息。
 それに合わせるように、プピーという気が抜けた音。
 振り向いてみればチャルメラを持ったピクシー【ピク太郎】。
「おお、お前は確か、『おいらのカレー』で客寄せのバイトをしておる者だったな?」
 そうだ、というようにピク太郎は頷く。そして、手招きをする。
 ドリャエモンが近づいて行くと、ぴょんぴょんと後ろに下がって、また手招き。その繰り返し。
 どうやら、どこかへ自分をいざなおうとしているようだ。
 思いながらドリャエモンは、そのままついていってみる。
 すると『おいらのカレー・夏季出張店』と銘打たれた屋台にたどり着く――何故かピク太郎の相棒であるミミックの【ミミ子】が、素知らぬ体でレジスター横に並んでいた。
 そこで突如、キャーという叫び声が。
 何事かと浜辺へ目をやれば、スイカ頭をした競泳パンツの男が、女性らを追いかけている。一口サイズに割られたスイカを手にして。
「遠慮しなくていい、私の顔は食べられても元に戻るんだ! さあ、お食べ!」
「イヤー!」
「来ないでー!」
 よくは分からないが、どうやら緊急事態であるようだ。
 ドリャエモンは早速ガブ、ガオ、ガルを呼びに行く。
 この際だから彼らに、実戦経験を積ませてやろうと。






エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 6日 出発日 2020-08-29

難易度 とても簡単 報酬 通常 完成予定 2020-09-08

登場人物 4/8 Characters
《人間万事塞翁が馬》ラピャタミャク・タラタタララタ
 カルマ Lv22 / 魔王・覇王 Rank 1
不気味で人外的な容姿をしたカルマの少女。 愛称は「ラピャ子」や「ラピ子」など。 名前が読み難かったらお好きな愛称でどうぞ。 性格は、明るく無邪気でお茶目。 楽しいと面白いと美味しいが大好き。 感情豊かで隠さない。隠せない。ポーカーフェース出来ない。 そしてちょっと短気なところが玉に瑕。 ギャンブルに手を出すと確実に負けるタイプ。 羞恥心を感じない性質で、露出度の高い衣装にも全然動じない。 むしろ前衛的なファッション格好いいと思ってる節がある。 戦闘スタイルは我流の喧嘩殺法。 昔は力に任せて単純に暴れるだけだったが、 最近は学園で習う体術を取り入れるようになったらしい。 しかしながら、ゴリ押しスタイルは相変わらず。 食巡りを趣味としているグルメ。 世界の半分よりも、世界中の美味しいモノの方が欲しい。 大体のものを美味しいと感じる味覚を持っており、 見た目にも全く拘りがなくゲテモノだろうと 毒など食べ物でないもの以外ならば何でも食べる悪食。 なお、美味しいものはより美味しく感じる。Not味音痴。 しかし、酒だけは飲もうとしない。アルコールはダメらしい。 最近、食材や料理に関する事を学び始めた模様。 入学までの旅で得た知識や経験を形に変えて、 段々と身に付いてきた…と思う。たぶん、きっと、おそらく。
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《奏天の護り姫》レーネ・ブリーズ
 エリアル Lv29 / 芸能・芸術 Rank 1
いろいろなところをあるいてきたエルフタイプのエリアルです。 きれいな虹がよりそっている滝、 松明の炎にきらめく鍾乳石、 海の中でおどる魚たち、 世界にはふしぎなものがいっぱいだから、 わたくしはそれを大切にしたいとおもいます。
《新入生》ルーシィ・ラスニール
 エリアル Lv14 / 賢者・導師 Rank 1
一見、8歳児位に見えるエルフタイプのエリアル。 いつも眠たそうな半眼。 身長は115cm位で細身。 父譲りの金髪と母譲りの深緑の瞳。 混血のせいか、純血のエルフに比べると短めの耳なので、癖っ毛で隠れることも(それでも人間よりは長い)。 好物はマロングラッセ。 一粒で3分は黙らせることができる。 ◆普段の服装 自身の身体に見合わない位だぼだぼの服を着て、袖や裾を余らせて引き摺ったり、袖を振り回したりしている。 これは、「急に呪いが解けて、服が成長に追い付かず破れたりしないように」とのことらしい。 とらぬ狸のなんとやらである。 ◆行動 おとなしいように見えるが、単に平常時は省エネモードなだけで、思い立ったときの行動力はとんでもない。 世間一般の倫理観よりも、自分がやりたいこと・やるべきと判断したことを優先する傾向がある危険物。 占いや魔法の薬の知識はあるが、それを人の役に立つ方向に使うとは限らない。 占いで、かあちゃんがこの学園に居ると出たので、ついでに探そうと思ってるとか。 ◆口調 ~だべ。 ~でよ。 ~んだ。 等と訛る。 これは、隠れ里の由緒ある古き雅な言葉らしい。

解説 Explan

Kです。
今回は、夏の浜辺で楽しく過ごす、ただそれだけの依頼です。
開始早々変なのが現れましたが、ご安心ください、彼は魔物ではなく精霊の部類に入るものです。人間に害は与えません。多少恐怖は与えているかもですが。
彼が魔物ではなく精霊だと分かったら、各々好きにしてください。夏の休日を楽しみましょう。
夜になったら花火が上がります。


データは以下です。

名前:スイカマン
分類:精霊。首から下はイケメン。
性質:親切。誰に頼まれもしないのに、毎年夏の浜辺に出没し、勝手にライフセーバーをしている。頼めば(頼まなくても)顔部分であるスイカを食べさせてくれる。スイカは常にほどよく冷えており、美味。夏以外の季節何をしているかは不明。



作者コメント Comment
Kです。
最近沈みがちなエピソードが続いたし、暑いしで、何も考えず遊べる依頼が欲しくなりました。
ドリャエモン、狼三兄弟のみならずピク太郎とミミ子も、夏の海に出張中です。
NPCに絡みたければ、どうぞ好きなだけ絡んでください。





個人成績表 Report
ラピャタミャク・タラタタララタ 個人成績:

獲得経験:54 = 45全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■目的
狼ズと共に魔物?退治
その後グルメを満喫

■行動
あの面妖で変態なスイカの魔物?と戦うのじゃ。
まずは狼ズのお手並み拝見じゃな。
考えてみれば、狼ズが戦ってる姿を見た覚えがないのじゃ。
どんな武器を使っているのかも知らんし、見ておかねばのぉ。

ダメそうなら、あちきも攻めるのじゃ。
雷装を纏って突っ込んで、絶対王セイッ!でスイカ割りよろしくかち割ってやるのじゃ!
暴力とは、こうするのじゃぁぁーーっ!!



スイカの件が終わったら、グルメじゃ。
狼ズも誘って、おいらのカレーを食べてみるのじゃ。
いやぁ、先程から幟が気のなっておってのぉ。
夏に食べるカレーはまた絶品じゃて、すごく楽しみなのじゃ♪

朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:54 = 45全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
浜辺で水練をしていたら女性の悲鳴が聞こえ急いで駆けつけますわ。スイカ頭の方が女性を追いかけているようでしたので、女性を庇いつつスイカ頭の方にどうして女性を追い回すのです?と先ずは尋ねます。狼三兄弟(あら、いらしてたのですね)が攻撃しようとしていたら先ずは抑えて、と目で制して

スイカ頭様が精霊で水分補給の為に頭を食べさせようとしていただけと解ったら、安全かどうか試食してみますわ、と一切れいただきます

せっかくなので、スイカの皮も利用しましょうと調理器具セットを取り出し、スイカの皮に人参やごま油を使ってきんぴらを作ってみますわね。よかったらどうぞ、と狼三兄弟や逃げていた女性や他の方にも提供しますわ

レーネ・ブリーズ 個人成績:

獲得経験:67 = 45全体 + 22個別
獲得報酬:1800 = 1200全体 + 600個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
精霊さんとおはなししてみますね。

「あの、しらない食べ物いきなりだされてもこまるとおもいます」

「畑やお店、なにかの樹、ふつう、なにかの実はそういうところになるんですよね。
それ以外だとわかんない、わかんないものをたべるのはこわいとおもいます」

「それに観光地でしたら屋台とかがありますから、そこに案内してあげて
飲み物を買ってもらった方が、ながい目で見ると全体がにぎやかになってみんなたのしめます」

「優しいおきもちを『おしえてあげる』ということにむけてくれたらうれしいです」

日射病はほんとうにあぶないから、おしえてあげるのはいいこと。
でも、不安で混乱しちゃったらかえってあぶないから。

ルーシィ・ラスニール 個人成績:

獲得経験:54 = 45全体 + 9個別
獲得報酬:1440 = 1200全体 + 240個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
パンツ一丁のスイカなあ……スイカ割りしてえな
ところで、おめえどこからさ来ただ?

スイカっちゅうと、やっぱ冷えちょらんと
ちゅうわけで、海に入っておめえを冷やすべよ

とか言って、驚いてる娘っ子達から、スイカさ遠ざけるだ

悪い奴ならスイカ割りしてお仕置きすっけど、悪い奴じゃねえなら、話さ聞いて目的とか望みを探ってみるだよ

スイカなら浮くじゃろうし……おら、泳げねえから、おめえのスイカ頭さ浮き輪代わりにすっぺよ
何、おらがおめえの頭さ抱えれば、おらは沈まねえだ

おめえはライフセイバーのお仕事できて、Win・Winってやつだべ

日が暮れたら花火さ見物するでよ
おらぁ、海に来たんは初めてだで……今日は楽しかっただよ

リザルト Result

●出会いは突然に
【ラピャタミャク・タラタタララタ】は夏の浜辺を闊歩していた。
 いつもながら露出度の高い格好も、水着姿だらけのこの場には、実によく馴染んでいる。
「夏じゃ! 海じゃ! グルメなのじゃ!」
 と、そこに悲鳴。
 首を向ければ面妖にして変態的風情なスイカの魔物(らしきもの)が娘たちを追いかけているではないか。
 そしてそれを、【ドリャエモン】と【ガブ】【ガオ】【ガル】が追いかけているではないか。
「おお、狼ズとドリャ先生なのじゃ。そして何やら騒ぎの予感……ふむ、グルメを堪能する前にどうにかせねば」
 ラピャタミャクは長柄の斧を肩に担ぎ、勢いよく走り出す。
「さぁて、行くとするかのぉ!」

 青い水着を着た【ルーシィ・ラスニール】は、ビーチパラソルの下、浮き輪を枕に寝転がっている。
 その目の前を、女性達とスイカ男が通過していく。
 眠たそうな半眼をぱちくりさせた彼女は、すぐさま起き上がり後を追う。なにやらよく分からないが、緊急事態らしいので。
「パンツ一丁のスイカなあ……スイカ割りしてえな」

 浜辺から沖合のブイまで泳ぎまた戻って来るという個人水練を行っていた【朱璃・拝】は、6度目のブイタッチを終えたとき、けたたましい悲鳴を聞いた。
 何事かと浜に目をやれば、女性たちが何者かに追い回されている次第。
「一体何事ですの?」
 急ぎとって返した彼女が目撃したのは、一口サイズに割られたスイカを手にし女性達を追う、スイカ男の姿。
「遠慮しなくていい、私の顔は食べられても元に戻るんだ! さあ、お食べ!」
「イヤー!」
「来ないでー!」
 朱璃は波打ち際にたたずみ、自分でも意味不明な呟きをもらす。
「これは……何故アンパンではないのでしょう?」
 きっと版権的な問題が生じるからであろう。
 それはともかく、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「へっ、あんな色物オレたちの敵じゃねえ!」
「見るからに一発屋じゃねーか!」
「三秒で片がつくぜ!」
「お前達、能書きはいいから早くあのあやしげなものを止めてこんか!」
(あら、ガブ様たちいらしてたのですね。ドリャエモン先生も)
 狼三兄弟はたちまちスイカマンに追いつき、我先にとスイカ割りの棒を手にして打ちかかる。
 三つ子だけに息が合った連携攻撃。
 しかしスイカマンは華麗に、それらの攻撃を避ける。
「何をするんだ、君たち、危ないじゃないか。無駄に疲れるだけだから止めたまえ」
 その上になんか、余裕しゃくしゃくな風情。
「なにい、この野郎、スイカのくせに生意気だぞ!」
「やっちまえ!」
「頭カチ割ってやる!」
 台詞だけ聞いてると、狼ズの方が悪役っぽい。
 その時だ、急転直下ラピャタミャクが乱入してきた。
「ええい、まどろっこしいのう汝ら! 暴力とは、こうするのじゃぁぁーーっ!!」
 雷装とタッグを組んだ長柄の斧が絶対王セイッ!とスイカに振り下ろされる。
 スイカが中心からきれいに二つに割れ、砂浜に落ちた。
 しかしスイカマン、やっぱり倒れない。
「ふう、びっくりした」
 と言うや否や、にゅきっとまた新しくスイカ頭を生やす。
 女性たちはその人外な様に改めて引いた。
 狼ズも引いた。
 ここに来て朱璃は、スイカマンが魔物とは違う物なのではと思い始める。
 女性たちを庇うよう前に出て、本人に直接質問。
「もし、スイカの方。差し支えなければご質問したいのですが、よろしいでしょうか」
「む、なんだいお嬢さん。何なりと聞いてくれ。精霊として誠意をもって答えよう」
 どうやら精霊だったらしい。
 遅れてやってきたドリャエモンがそれを聞き、スイカマンに頭を下げてわびる。
「なんと、精霊様でしたか。これは誠に失礼致し申した」
「いやいや、間違いは誰にでもあることだからお気になさらず」
 鷹揚に手を振るスイカマン。
 朱璃は質問を続ける。
「どうして女性を追い回すのです?」
「それは、ぜひスイカを食べてもらいたいからだよ。適度な水分補給は、最大の熱中症予防策だからね」
 スイカマンは片方の手を腰に当て、存在しないはずの白い歯を光らせた。
 そして朱璃へ、一口サイズのスイカを渡した。
「よかったら、君もどうぞ」
「ありがとうございます。安全かどうか試食してみますわ」
 齧ってみればスイカは、適度に冷えて甘かった。
「あら、美味しいですわ♪」
 折りよく【レーネ・ブリーズ】がやってきて、スイカマンへ物柔らかな声をかける――彼女はここまでの一連の流れを、脇からずっと見ていたのだ。
「あの、しらない食べ物いきなりだされてもこまるとおもいます」
 スイカマンは彼女の言葉に戸惑う。
「スイカはオーソドックスな果物だと思うが……」
「いえ、そうなんですけど……畑やお店、なにかの樹、ふつう、なにかの実はそういうところになるんですよね。それ以外だとわかんない、わかんないものをたべるのはこわいとおもいます」
 朱璃が大きく頷いて、レーネの意見に同意を示す。
「普通は頭を切って渡されたら逃げますわよ」
 スイカマンはショックを受けたらしい。砂浜にがくりと膝をつく。
「そ、そうだったのか……これまでなかなかスイカを食べてもらえなかったのにはそんな理由が……不明を恥じるばかりだ」
 どうやらスイカマンには真実悪意がなかったらしい。ただ、今ひとつ人の気持ちというものがわかっていなかっただけで。
 思いながらレーネは、フォローを入れる。
「精霊さんの顔じゃなくても、たとえばしらないキノコとかでも、いきなりわたされたら、たべるのはこわいとおもいます。だからそれは特別なことじゃない。ただしらなかっただけのことですもの」
 ついで対案を出す。
「それに観光地でしたら屋台とかがありますから、そこに案内してあげて飲み物を買ってもらった方が、ながい目で見ると全体がにぎやかになってみんなたのしめます。日射病はほんとうにあぶないから、おしえてあげるのはいいことですよ。でも、不安で混乱しちゃったらかえってあぶないから」
 相手の正体が一応知れたので、追われていた女性たちも気を取り直したらしい。続けて相槌を入れてくれた。
「あ、ああー、まあ、そうね」
「そっちの方がいいわよね」
「いきなり顔を差し出してこられても、正直対処に困るし」
 スイカマンはすぐ持ち直した。
「そうか。分かった。では以降そのようにしよう。怖がらせてすまなかったね、許してくれ、お嬢さんたち」
 これにて事件は一件落着。
 レーネも安堵し、にっこり。
 そこでルーシィが、先ほど地面に落ちたスイカの半分を食べながら、スイカマンに聞いた。
「ところで、おめえ、どこからきただ?」
「私かい? 私はスイカの国から来たんだよ」
「はあ、なるほど、スイカの国からな。だば、スイカっちゅうと、やっぱ冷えちょらんと。ちゅうわけで、海に入っておめえを冷やすべよ」
 と言うや、ぴょいとスイカマンの肩に乗る。
「おら、泳げねえから、おめえのスイカ頭さ浮き輪代わりにすっぺよ。愛らしいおらがこうしてくっついてりゃ、さっきみたいに魔物と間違えられて、逃げられるちゅうこたあねえだよ。おらは海を楽しめて、おめえはライフセイバーのお仕事できて、Win・Winってやつだべ」
 朱璃は砂浜に横たわる残りのスイカ半分を取り上げる。
「せっかくなので、このスイカの皮を使ってきんぴらを作ってみましょうか。よかったら皆さん、ご賞味いただけますか?」
 ラピャタミャクは大喜びで手を打つ。
「おう、それはよいの。ついでじゃから皆の衆、『おいらのカレー』に行かぬか? いやぁ、先程から幟が気になっておってのぉ。夏に食べるカレーはまた絶品じゃて、すごく楽しみなのじゃ♪」

●自由時間はいかがです
「んむ、んまい。スイカの皮と人参と胡麻油、意外と合うのう」
 大盛りカレー皿と大盛りきんぴら皿を空にしたラピャタミャクは、さて、と狼ズの方を見た。
「ドリャ先生に聞いたが、汝ら合宿でサボりよったそうじゃのぉ」
 大方反復の基礎訓練に飽きたのだろう。そんな予想を立てつつ、さらに深堀り。
「ちなみにどんな訓練だったのじゃ?」
「あんなの訓練なんてもんじゃねーよな」
「ひたすら泳ぐだけ」
「訓練つったら、模擬試合とかするもんだろー、普通」
 それを聞いているドリャエモンの渋い顔と言ったらない。
 かような生徒を抱えて大変よの、とラピャタミャクは同情する。
「……ほう。なるほどのう。話は変わるが汝ら、魔王を目指しておるのよな? 魔王とはいかなるものと思うておる?」
「そりゃ決まってらあ」
「すげー強くて」
「すげー偉い。魔物を全部言いなりに出来るんだぜ」
「……なるほど、一理あるのじゃ」
 まず相手の言い分を肯定してから彼女は、拳でどん、とテーブルを叩いた。立て板に水の勢いで、狼ズを叱咤した。
「それで、汝等は遊んでいて強くなれると思っておるのか? 偉くなれると思っておるのか? そして、そんな強くも偉くもない奴の命令に誰が従うというのじゃ? 言っておくが、時間が立ったからと言って強くなったり偉くなったりせぬぞ!」
 横で話を聞いていた朱璃は食後の麦茶を喫しながら、『その通りですわね』と口を挟む。
「与えられた課題にまじめに取り組んで鍛練に励む者、それをサボって遊ぶもの、時間がたてばたつほど、両者の差は広がっていきますわね。たとえ初期段階では後者が勝っていたとしても、すぐ追い抜かれてしまいますことよ……実はもう追い抜かれているのかも知れませんけど」
 その指摘を受けたガブガオガルは、面白く無さそうだった。『あんだと?』と朱璃を睨む。
 そこへなお、挑発的な言葉が。
「そういえばあなたがたは、泳げますのかしら? 何なら私と勝負してみませんか? 勿論同じ狼のルネサンスとして負けるつもりはありませんわよ♪」
 好機と見たのかドリャエモン、狼ズの尻を押す。
「ほう、いい機会ではないか。お前達勝負してもらえ。練習なぞせずとも、十分泳げると言っておっただろう?」
 ラピャタミャクも横からけしかける。
「3対1で挑むのだ。まさか全敗するということはあるまいのう?」
 狼ズは、単純にいきりたった。
「誰が負けるか!」
「やったろうじゃねえか!」
「吠え面かかせてやるぜ!」
 いつものことながら彼ら、最初の威勢だけはよい。
 全くの部外者であるルーシィは、スイカマンの頭の上から手を挙げる。
「おめえたち遠泳競争するんだべ? そんならおらたちが判定してやるだよ。なあ、スイカメン」
「ああ、かまわないよ。海で事故が起きないようにするのが、私の仕事だからね」
 ドリャエモンも立ち上がる。
「では、わしも参加しよう。お前達がどれほどの実力を持っているのか、確認してやろうではないか。もしこれで全員完敗したならば、もはや是非もない。残りの合宿の間、つきっきりで補習をさせてやろう」
 レーネも控えめに協力を申し出る。
「それではわたくしは、タイムを計らせていただきます」
 店内では【ピク太郎】が客の話などそっちのけで、床を駆け回っている。落ちた小銭を集め、せっせと【ミミ子】に入れてやるために。

●海辺の夜に
「けっぱれけっぱれ、後一往復だべー。早くしねえと、もう日が暮れちまうべよー」
 海面から出たスイカマンの頭に捕まりつつ、ルーシィはメガホンで声を張り上げる。
 あたりは一面紅色。夕日は海の向こうにとろけ落ちていきそう。
 彼らの前を泳ぐ狼兄弟は既に声を出す元気もない。全くペースを落とさない朱璃とドリャエモンについて行くだけでせいいっぱいだ。
 浜辺で彼らの到着を待っているラピャタミャクは、隣で時計を見ているレーネに言った。
「そういや、今宵は花火大会があるそうじゃの」
「ええ、そのように聞きまして――あ、そろそろ岸につきそうですね。みなさーん、後一息ですよー」
 浜辺に最初に戻ってきたのはやはり朱璃。
「いっちばんっですわー」
 続けてドリャエモン。
「ふう、やはり年か、身にこたえるわい」
 両者多少疲れはあるようだが、元気だ。
 続けてガオ、ガル、ガブが順に戻ってきた。そしてそのまま何も言わず、砂浜に五体投地した。
 ドリャエモンは早速彼らに歩み寄り、説教をする。
「全くお前達は、口ほどにもない。最後は100メートルも離されおって。基礎訓練を怠けてはいかんと言うことが、これで分かったかの」
「うるへー……」
 ラピャタミャクがそこに来て、まあまあ、ととりなす。
「周遅れにならずついていけただけでも、よしとすべきじゃろう。ほれ、御褒美をやろう」
 と狼ズの頭の上に、かき氷屋で分けてもらった屑氷の塊を置いてやる。

 日が落ちた、花火が上がり始めた。
 ルーシィは水着からマンボウ柄の浴衣に着替え、空を見上げる。ハワイアンブルーのかき氷をシャクシャク食べながら、同族のレーネに尋ねる。
「おらぁ、海に来たんは初めてだで……今日は楽しかっただ。おめえは、海が初めてじゃねえだか?」
「はい。わたくしこれまで、色々なところを歩いてきましたので。でも海というものは、何度見てもそのたびに、あたらしく、違ってみえます」
「はあ、そういうもんだべか」
 焼きもろこしを咥えていたラピャタミャクがふと、首を傾げた。
「そういえば打ち上げ花火とゆーのは、真上や真横から見たらどう見えるんじゃろな」
 朱璃は少し考え、論理的見解を示す。
「同じように見えるかと思われますわ。爆発したとき、360度全方位に火花が散ることで、あの形を作っているわけですし」
「ほう、そうか。あちきはてっきり、平べったく円形に弾けとるのかと思うとった」
 花火はそのまま30分ほど続いた後、お開きになった。
 客は次々に浜辺から引き上げていく。
 朱璃とレーネは、それによって訪れた静けさを楽しんだ。
 ラピャタミャクはこれが食べ収め、とまだ明かりがついている屋台を巡っている。
 ルーシィが、お、と波打ち際に走って行った。子供用の水筒が浅瀬に浮いているのを見つけたのだ。
「おや、落とし物だんべ。拾ってやらにゃ」
 浴衣の裾が濡れないようめくりあげ帯に挟みこむ。その格好で脛まで海水に浸し水筒を捕まえる。
 そのとき、なんとか回復し起き上がってきた狼ズが騒ぎだした。
「おい、あれ」
「なんだ」
「海ん中にエルフの女が居るぞ」
 彼らが指さしているのは、ルーシィの足元。
 凪いだ海の水面に、13~14歳ほどの胸囲が脅威的なエルフの姿があった。
 これにはルーシィもびっくりし、思わず足元のエルフを指さす。
「おめえ……なにモンだ!?」
 すると向こうも全く同じポーズで彼女を指さした。それは、水に映った彼女の影だったのだ。
 スイカマンが近づいてきて、興味深そうに言う。
「どうやら海に映っている姿が、本来の姿な様だ。お嬢ちゃんは何か、呪いを纏っているのかね?」
「まあ、心当たりはあるだよ。にしても、今、なんで急にそれが解けた姿が見えただかな?」
「そこは私にも詳しくは分からないが……海は神秘な場所だから、何か浄化の力が働いたのかもしれないね」
「そんなもんかの」
 得心半ばにルーシィは、再度足元を覗き込んだ。
 月のない夜、星明かりだけがその姿を照らしている。







課題評価
課題経験:45
課題報酬:1200
夏の浜辺のスイカマン
執筆:K GM


《夏の浜辺のスイカマン》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2020-08-24 20:04:32
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝ともうします。どうぞよろしくお願いしますね。

ええと、アンパンではないのですね。って、私何を言っているのかしら・・・?

《人間万事塞翁が馬》 ラピャタミャク・タラタタララタ (No 2) 2020-08-24 22:43:40
らぴゃたみゃくたらたたららた!

魔王・覇王コースのラピャタミャク・タラタタララタなのじゃ。
とりあえず狼ズと絡むのじゃ。

《奏天の護り姫》 レーネ・ブリーズ (No 3) 2020-08-27 05:23:13
芸能・芸術コースのエルフ、レーネです。
精霊さんとおはなししたいです。
よろしくおねがいします。

《新入生》 ルーシィ・ラスニール (No 4) 2020-08-28 19:01:33
おらぁ、賢者・導師コースのルーシィいうだ。よろしく頼むだよ。
パンツ一丁のスイカが登場なあ……スイカ割りしてえな。