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命知らずの冒険少年


ストーリー Story

●それはちょっとした好奇心から
 グラヌーゼの地に残る悲劇の痕跡――サーブル城。
 そこはかつて苛政にて民を苦しめた魔族の居城。
 今なお魔王との戦いの名残でまともな商業がなりたたず、困窮しているグラヌーゼの民にとっては何とも苦々しい建造物だ。
 しかし城の周辺は幻惑の森をはじめとした危険な区域に囲まれており、解体しようにも手を付けられない状況でもある。
 今日も今日とて年老いた民は畑の手入れをしながら忌々しい城へ視線を投げかけた。
「ああ、何とかあれを壊せないもんかねえ」
「本当にねえ。ノア一族が死んだとはいえ、噂では新しい魔族が棲みついたとか……嘘か真かわからないけどサ」
「それは困る。ただでさえ近づけないってのに、そこに棲みついたなら……例え学園に優れた学生を送ってもらっても対応しきれないかもしれないじゃないか……」
 城も怖いが幻惑の森もまた恐ろしい。
 ノア一族の幻惑魔法は今もなお怨念のように森に残留し、入り込んだ者をたちまち幻惑の虜にし――いつしか森の贄の如く死に追いやると言われているのだから。
「あれだなァ、もし本格的に解決するなら森ごと燃やすしかないンかな」
「それじゃ『グラヌーゼの悲劇』の再来になるだろうよ。ただでさえ乾燥してんだ、これ以上の火種は勘弁してほしいよ。それより学園や勇者様達が幻惑魔法の解呪法を探してくれる方が間違いないさ」
「だな。俺達は余計なことはせず、子供達が帰ってくる村を守るしかねえな」
 ざく、ざく。
 夏の終わりに刈り終えた麦畑に鍬を振るう老人達。今の彼らにはそれが精一杯だった。
 ――そんな老人達の話にそっと聞き耳を立て、にんまりと笑うのはグラヌーゼのやんちゃな子供達。
 彼らは祖父母や両親から常々『森にだけは行っちゃいけないよ』と言い聞かせられていたが、その奥に見える城がなんとも魅力的に思えていたのだ。
「なぁ、ノアの魔法ってアレだろ。城にまだすげぇモンが残ってるから奪われないようにかけてあるんじゃね?」
「それは俺も思ってた。だってノア一族ってすごく強い魔族で、強い魔物も連れてたんだろ? きっと普段からとんでもない価値のある食器とか飾り物とか使ってたんだろうなって」
「もしかしたら城の奥には金とか宝石がぎっしり入った宝箱があったりして……」
「馬鹿、宝箱なんてもんじゃないだろ。きっと部屋そのものがお宝みたいな場所があんだよ。絶対!」
 額を突き合わせてごにょごにょごにょ。
 ――そうしているうちに彼らはひとつの結論に辿り着いた。
『サーブル城に行ってお宝を見つけるぞ!』
 何しろこの地は今も貧困にあえいでいる。
 子供達の両親が1年のほとんどを出稼ぎに費やしているのは魔物達が豊かだった麦畑を焼き払った――過去にこの地を手酷く荒らしたからなのだ。
 だったら今度はこちらが仕返しにお宝を奪っても問題はあるまい。
 集めたお宝を裕福な貴族や骨董商に売り払えば大人達は出稼ぎに行く必要がなくなり、祖父母が重い鍬や鋤を持って働く必要もなくなる。
 何よりも両親が帰ってきてくれるのなら子供達にとってそれ以上の喜びはない。
 彼らは早速打ち合わせをすると食糧と思いつくかぎりの冒険道具を用意して、翌日に森の東部からこっそりと忍び込むことにした。

●陽が高くとも目が昏く眩む世界
 子供達はいつものように老人達が畑に向かうのを確認するや、ぼうぼうと生えた草の中を手を繋いで駆け抜け森へ向かった。
 それは子供にとってかなりの距離ではあったが、好奇心と使命感に満たされた彼らにとっては疲労などあってないようなもの。
「よし、全員腰にロープをつけたな。城にはここからまっすぐ北西に向かえば着けるはずだ。幻惑魔法だの呪いだの大人達は色々言ってるけど、まっすぐに歩くだけなら迷うはずなんてない。大丈夫だろ」
 リーダー格の少年はそう言うと太陽の方向を確認した。太陽はしっかりと南の空に高く上がっている。視界もよし、迷う道理などない……はずだ。
「とりあえず陽が翳ってきたら帰ろうね。一応ろう石を拾ってきたから、目立つ木に印を書いておくよ」
「あとは魔物……いるのかなぁ、本当に。いたらどうしようか」
「そしたら全員ダッシュで逃げりゃいい。今までだって平原で獣を追いかけたり、悪戯しては逃げて無事だった俺達じゃんか。どうにかなるって」
 慎重な仲間達に対して妙に強気な態度を示すリーダー。その様子に彼の参謀役が小さく俯く。
(そういやリーダーの兄貴も去年から出稼ぎに出てるんだよな……煉瓦職人のとこに奉公に行ったって聞いたけど。あれがやっぱり辛かったのかな……)
 自分もできることなら父親と一緒に遊びたいし、存分に母親に甘えたい。
 それに――あの城の怪異を乗り越えたなら村の勇者と褒められるかもしれない。
 そんな虚栄心が参謀の胸を疼かせる。
「……ま、冒険は今日だけじゃないんだし。少しずつ進めていこうぜ」
 参謀の提案に少年達は頷くと薄暗闇の空間に足を踏み入れていった。

 それからどれだけの時間が経ったのだろう。
 陽はまだ高いはずなのに子供達は既に考えることもできないほどの距離を歩いた感覚に陥り、疲労も露わに巨木の根へ腰を下ろした。
「おっかしーな……森の入り口と城の距離感からするととっくに着いててもおかしくねーのに」
「どこかで道、間違えた?」
「まさか。北西に一文字に進むだけだろ。間違えようがねえよ」
 リーダーは飴玉を口に放り込み、周囲を見回す。
 すると異常なことに気がついた。
 同行する仲間が記していた、ろう石の白い線が彼らを囲むようにびっしりと書き込まれている。
「おい、お前! 何やってんだ!! 目印をあちこちに書いたら意味ねーだろっ!!」
「そ、そんなことないよ。僕、リーダーのすぐ後ろにいただろ!? この通り体を縄で繋いでるんだからそんな変なことできるわけないよっ」
「だったらなんだよ、これは最初から書かれてたっていうのかよ!」
 リーダーは錯乱したのか仲間達に当たり散らし、縄を地面に叩きつけた。
 城の影はまだ遠く、陽は怪しげな光で彼らを照らしている。
 いや、あれは本物の太陽なのだろうか?
 もしかしたらあれもノア一族の呪いの幻惑魔法の断片なのかもしれない。
 少年たちはたちまち心が不安に揺れ――大声で泣き出した。

●老人達の懇願
 学園にグラヌーゼの老人達から縋るような文言が綴られた文書が届いたのは翌日のことだった。
 彼らによると村でも選りすぐりのやんちゃ小僧達が突然姿を消したらしい。
 馬が残されている一方で、食糧とランタンやフック付きの縄など遠出の際に使う道具が一通りなくなっていることから『もしかしたら幻惑の森に探検しにいったのでは……』と老人達はただひたすらに案じ、近辺を徹夜で探索までしたという。
 だからこそ――教師は生徒達を集めて声を張る。
「幻惑の森は危険な場所よ。噂ではまた魔物が棲みつき始めたのではとも言われているの。だから一刻も早く子供達を救出して」
「そんなに危険なところなんですか?」
「昔あそこに棲んでいた魔族の魔法が今も侵入者の五感を惑わせ、死ぬまで森を彷徨わせると言われているわ。もし獣や魔物がいたとしても、まずは子供達の救出を最優先にして。空腹と疲れで動けなくなっているかもしれない……そこを襲われでもしたらおしまいよ」
 教師の声は切実だった。
 だからこそ【メルティ・リリン】はその思いに答えようと――救済の誓いを小さく口にした。


エピソード情報 Infomation
タイプ ショート 相談期間 5日 出発日 2020-09-19

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2020-09-29

登場人物 2/8 Characters
《新入生》クルト・ウィスタニア
 ヒューマン Lv9 / 勇者・英雄 Rank 1
「まったく……彼女はどこに行ったんだ!」 「俺は魔法はさっぱりだけど……入ったからには、頑張ってみるさ」 「もう、だれも傷つけたくない。傷つけさせない。そのための力が欲しい」 [略歴]  以前はとある国で、騎士として活躍していた。  しかし、とある出来事をきっかけに国を離れ、パートナーと共に各地を旅していた。  その道中、事件に巻き込まれパートナーとはぐれてしまう。  人の集まる魔法学園でなら、パートナーの行方の手がかりがつかめるかもしれないと考え、入学を決めた。 [性格]  元騎士らしく、任務に忠実で真面目。常識人っぷりが仇となり、若干苦労人気質。 [容姿] ・髪色…黒。 ・瞳……淡い紫。 ・体格…細マッチョ。ちゃんと鍛えてる。 ・服装…学園の制服を着ている。が、若干イタイんじゃないかと心配もしている(年齢的に)。 [口調補足] ・一人称…俺。改まった場では「私」も使う。 ・二人称…君、名前呼び捨て。目上の人には「さん」「様」をつける。 ・語尾…~だ。~だろう。目上の人には敬語。 [戦闘] ・剣を扱う。 ・「もっと守る力が欲しい」。  そう思い、最近は魔法と剣を融合させた剣技を習得したいと考えている。
《新入生》スピカ・コーネル
 ルネサンス Lv7 / 芸能・芸術 Rank 1
「この学園……ううん。世界中に、私の歌を届けたい!」 「私の歌で誰かが幸せになったら、嬉しいなって思うんだ!」 「先生。私、ちゃんと追いつけてるかな……?」 【略歴】  とある海辺の街で、宿屋の一人娘として暮らしていた。  芸術の文化を持たないルネサンスだったが、幼い頃にとある音楽家が聞かせてくれた歌と音楽に心を奪われる。  それ以来、その音楽家を「先生」と慕い、自分も音楽の道を進みたいと考えていた。  「先生」と同じ道を歩むため、学園に入学することを決意した。  リスのルネサンスで、ふわふわの尻尾がチャームポイント。  ただし、触られると怒る。恥ずかしいらしい。 【性格】  天真爛漫で、元気いっぱい。時折、暴走しすぎて周りが見えなくなることもある。 【容姿】 ・髪色…茶色。ロングヘアをポニーテールにしている。 ・瞳……エメラルドのような緑色。 ・体格…普通。スタイルが特別良いわけではない。 ・服装…学園の女子制服をスカートではなくショートパンツに改造して着用。動き回ることが多い故の配慮らしい。 【口調補足】 ・一人称…私。 ・二人称…君、名前呼び捨て。目上の人には「さん」や敬称をつける。 ・語尾…~だよ。~だね。目上の人には敬語。 【芸術について】 ・歌を得意としている。楽器は猛勉強中。 ・明るく、ポップな曲が好き。 ・身体能力を活かして、ダンスにも挑戦したいとか考えている。

解説 Explan

目的:子供達の保護と森からの脱出

森について:基本的に子供達が失踪した東側の入り口~北東部の探索になります。
 幻惑魔法の影響で時間的感覚と方向感覚が乱れやすい状況にあります。
 しかし各所に子供達の足跡やろう石、
 食糧の袋などの痕跡が残っていますので冷静に観察・探索の手段を講じてみてください。

敵情報:ゴブリン8体
 いずれも格【2】。
 知能が弱くあまり強い存在とは言えませんが、子供達にとっては脅威です。
 今のところ群れで行動はしておらず、1体ずつランダムに森の中を徘徊中。
 子供達の存在には気づいていませんが、
 あまりにも時間が経過した場合は子供達の泣き声に気づいて襲い掛かる可能性があります。
 言葉は通じず長距離への攻撃もできませんが、木の棒や剣などでは攻撃してきます。

救出対象:子供5名。年齢は10歳~13歳程度。今のところ負傷なし。
 いずれも腕白で体格が優れているので、ある程度なら自力で移動できます。
 ただし現状では怯えから揃って姿を隠していますのでご注意ください。

備考:今回のエピソードでは幻惑魔法の影響により短時間での長距離移動はかなり困難です。
 何よりも子供の救出が最優先目的のため、
 サーブル城ならびに果てなき井戸に接近することはできませんのでご了承ください。

登場NPC
 メルティ・リリン
 相変わらず血のコワイ系リバイバル聖職者見習い。
 でも最近は噴き出すほど大出血以外はなんとか自我を保てるようになってきています。
 子供達を守り抜ければ最後まで皆さんのフォローを務めきれることでしょう。
 祈祷・復活呪文・癒しの言葉を使用可能。


作者コメント Comment
いつも大変お世話になっております。ことね桃です。

今回はちょっと困った冒険少年達を救出する物語です。
少年達には色々な事情があるようですが、
大人達との約束の意味を考えなかったのはいけなかったこと。
この機会にしっかり考えてもらう必要もありそうですね。
皆様のお力と言葉が何より大切です。
どうかお力添えのほどよろしくお願いします。


個人成績表 Report
クルト・ウィスタニア 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:180 = 60全体 + 120個別
獲得報酬:4500 = 1500全体 + 3000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
アドリブ:A
……心細い思いをしているだろう、早く見つけてやらないと。

出口を見失わないようにキラキラ石を要所に置きながら探索。
足りなくなったら木に剣で傷をつけていく。

子供たちの手がかりを見つけたら【推測】を使って、どこへ隠れているか考える。
子供と接するときは【信用】を使って安心感を与える、が自分が怖がられるようなら女性のメルティなどに相手を頼んでもいいかもしれない。

ゴブリンに遭遇したらまず子供の身を第一に考え、深追いはしない。
可能なら討伐するが、数が多い場合などは逃げることを最優先にする。
【防護魔力】などで子供を庇いながら進む。




スピカ・コーネル 個人成績:

獲得経験:72 = 60全体 + 12個別
獲得報酬:1800 = 1500全体 + 300個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
アドリブ:A

暗くてちょっと怖いよ~…!
でもがんばる!

森にビビりながらも、子供達を助けたいので勇気を出して参加。
聞き耳を駆使して、周囲の状況を探り、子供の気配を察知する。

子供達はお腹が空いているかもしれないので、持参したジャック・クッキーを勧めたりする。

戦闘になったら基本的に子供たちを敵との距離を取るように誘導し、離れた箇所から演奏・鼓舞激励で前衛の援護をする。

リザルト Result

●怪奇なる森の中で
 【クルト・ウィスタニア】は幻惑の森に足を踏み入れるや、奇妙な感覚にとらわれた。
 ほんの僅かな瞬間意識が眩み、認識能力が衰える。その気味の悪さに彼は顔を顰めた。
「……あぁ、ここは確かに厄介な地だな。常に周囲を警戒しないと課題で旅慣れした俺達でも迷いそうになる」
「ね、この魔法を使った魔族はもういないんだよね? それなのに幻惑魔法が残ってるのはそれだけ強い魔法なんだよね。私達も迷子になったりしない?」
 クルトに寄り添うようにして【スピカ・コーネル】は少々怯えた様子で耳を立てた。
 何しろこの森は黄昏色のまま、聞こえるものといえば虫の声と草木のざわめきだけ。
 聴力に優れる彼女にとってはひどく不気味に感じられた。
 クルトは彼女を勇気づけるべく『大丈夫だ』と微笑むや、要所や分岐点と判断したポイントへキラキラ石を括りつけていく。
「スピカ、ノア一族は討伐されている。もうあの城と幻惑魔法以外の名残はない。ここは恐れず冷静に子供達の足跡を探そう。……それにこうして目印に光源を残せば、例え陽が落ちても森の入り口に戻れるしな」
「わぁ、綺麗な光! クルト、ありがとう。一生懸命探してみるね!」
「ああ、一刻も早く子供達を見つけてやらないとな。心細い思いをしているだろうから」
 彼の固い決意に【メルティ・リリン】はこくりと頷き、周囲に目を凝らした。
「噂では古城に魔物が棲みついた可能性があるとか。となると、この森も危険という可能性もあるのですよね。……急がないと!」
 スピカが耳を澄ませ、メルティは目を凝らし、クルトが道を切り拓いていく。
 ――こうして3人の学生の冒険は始まった。

●発見と守り手の覚悟
(ん……これは足跡、か?)
 クルトは足元の草が踏み荒らされているのを目にするなり足を止めた。
 そこでメルティが杖で地を突き、形を割り出していく。
 その中からクルトが5つの足跡を見分けるとキラキラ石で照らし出した。
「失踪した子供達のものと大きさは合致しているが……これが二足歩行の魔物だったら厄介だな。スピカ、周囲の確認を頼む」
 早速スピカは祖流還りでリスに変化。
 高木に瞬時に登り周囲の観察をすると安堵の笑みを湛え、地面に降りた。
「えっと、周りにこれといって目立つ魔物はいないみたい。群れで動いているのも今のところいない感じ」
「ありがとう、それならこれは子供達の足跡とみて良さそうだな。ここからはこの足跡を追いつつ、周囲を警戒していこう」
 そのクルトの提案にスピカは胸をとんと手を当てた。
「聞き耳は私に任せて。その分、目視での探索はふたりにおまかせしちゃうけど。それにここはちょっと怖いけど……私、頑張っちゃう!」
 とはいえスピカはやはりリスの気質が影響しているのか、警戒心が疼くらしい。
 長いポニーテールを揺らし、何度も左右に視線が揺らがせる。
 ――そんな中、クルトはひらけた場所に出ると地面に手を伸ばした。
「これは飴の包装紙……匂いが僅かに残っている。となると、子供達は少し前までここで飴を舐めていたのか?」
「んー、それに周りの木に真新しい白い線がいっぱい。こんなに線を残すと逆に迷いそう。これも子供達が残したものなのかな」
「どうかな。もっとも印は必要な場所にさえつければ十分。少なくとも旅慣れぬ者が残したものだろうさ」
 スピカの疑問にクルトは答え、早速剣で木に目印を刻み込んだ。
 ――がきんっ!
 金属が木を抉る音が響く。その時、手近にある茂みがざわっと揺れた。
「……誰か、いるの?」
 恐る恐る茂みに踏み込むスピカ。そこには5人の子供が棒きれを手に震えていたが、相手がルネサンスの少女だとわかるとすぐにへたりこんだ。
「君達がグラヌーゼの村から森に乗り込んだ子達だね? よかった、皆揃ってる!」
「俺達はフトゥールム・スクエア学園から救助活動に参加した学生だ。今までの道標はつけてある。村まで君達を守り抜いてみせよう」
 スピカとクルトが笑みを浮かべる。
 しかし子供達は疲れ切った顔で『……ありがとうございます』と繰り返すだけ。
 そこでスピカはジャッククッキーを子供達へ振舞った。メルティも果汁入りの水を子供達に差し出す。
 すると子供達は生きた心地を取り戻したのか、涙を零し出した。
 早速クルトは子供達の隣に腰を下ろし、優しげな声音で彼らに問う。
「なぁ、よければ何でこの森に来たのか教えてくれないか。何か理由があるんだろう?」
「それは……」
 子供達はどこか怯えた様子で今までの経緯をぽつぽつと話し出した。
 クルトはそれを一通り聞き取ると『そうか……家族を想う心意気か。その年齢で立派なものだな』と子供達に真摯に語り掛けた。
 だがその胸のうちには苦いモノがある。
 クルト自身も騎士時代に無理を通し、心を通わせていた少女を泣かせたことがある。
 だからこそその罪の重さ、待つ者の痛みがわかるのだ。
 ゆえに――声に僅かな厳しさを滲ませた。
「しかし、それで大切な人達に心配をかけてしまっては元も子もないぞ。本当に誰かを救いたいと思うのなら、せめて自分の身は守れるようになれ。話はそれからだ」
「は、はいっ」
 本当に反省しているのだろう。すっかり竦み上がった子供達にクルトは僅かな罪悪感を覚えた。
(……言い過ぎたか?)
 困りはてた彼に、スピカが咄嗟にフォローを入れる。
「えーと、つまりまずは冒険しても大丈夫なように体を鍛えて、お勉強してねって。あと冒険するなら必ず周りの大人に相談すること。急にいなくなると心配するからね」
「わ、わかったよ。それにしてもあの学園ってねーちゃんみたいなフツーの女の子もいるんだな。なんかもっと凄い強そうなヒトばかり集まる場所だと思ってた」
「ひどいよ~……私はまだ勉強中なの! でもね、冒険することの恐ろしさと、それを越える意義は知ってる。学園で冒険の基礎を教えてもらったからね」
 スピカは子供達の半ばからかいの声にも負けず、凛としていた。その様に子供達は『……ん』と頷き、立ち上がる。彼女の立ち振る舞いに対し、自らの未熟さを恥じたのだ。
 だがその時――草を乱暴に踏み荒らす音が耳に届く。
「招かれざる客か」
「そのようね。音からして数は2、かな。強い魔物じゃなければいいけど」
 すぐさまクルトとメルティは子供達を庇うように立ち塞がり、スピカは子供達に後方へ下がるよう促す。
 目の前に姿を現わしたのは2体のゴブリン。奴らはすぐさま棍棒を振りあげた。
「この程度なら突破できるか。スピカ、メルティ、行くぞ!」
 クルトは防護魔力を宿した盾で棍棒を弾き、すぐさま相手を宝珠の剣で薙いだ。
 腹を斬られたゴブリンが凄まじい悲鳴を上げる。
 そこにスピカが畳みかけるようにプチミドを詠唱。
 強烈な水圧にゴブリンが卒倒するや、もう1体は喚きながら逃げていった。
「今のうちに逃げた方が良さそうですね」
「ああ。もし奴に仲間がいた場合は厄介だ。急ぐぞ」
 しかし子供達はゴブリンの暴力性に怯えを隠せず、顔を引きつらせている。
 そんな彼らのためにスピカは歌を披露した。
 時折楽器演奏を織り交ぜながら、家路に急ぐ鳥達の物語を明るい音色に乗せて。
「大丈夫、私達を信じて。必ず君達をお家に帰すから!」
 スピカには敬愛する『先生』がいる。
 その人物は一介の音楽家に過ぎないが、スピカに希望を与える『音楽』を教えてくれた。
 音楽が持つ幸せの力を伝えたくて彼女は懸命に歌う。
 ゴブリンに再度遭おうとも、怯えずに明るく。
「スピカ、メルティ! あれが最後のキラキラ石だ。出口は目の前だっ!」
 クルトが襲撃してきたゴブリンの頭を剣で突く一方で、スピカが演奏で皆を鼓舞激励。
 メルティは転んだ子供の怪我を癒し、励ましては手を引いていく。
「ほら、あの松明の炎……村の皆さんが待っています。あと少し、頑張って!」
 ――そして全員が永遠の斜陽を駆け抜けた時、空はいつの間にか闇に染まっていた。

●新たな目標
 無事の帰還を果たした子供達は村人達に囲まれると涙ながらにもみくちゃにされた。
 その様子を見てほっとするスピカ達。
「まずは一件落着。……それにしても不気味な森だったね」
「そうだな。いずれはこの森も件の城も呪いから解放しなければならないだろう」
 クルトの重い言葉にメルティが真剣な顔で頷く。
 しかし村人達は学生達に深く感謝するばかりだ。
 この地にとって次世代を継ぐ人間こそが最大の宝なのだから。
 そんな中で子供達のリーダーはぽつりと呟いた。
「俺、学園に行ってみようかな」
「リーダー?」
「村の守りも大切だろ。俺、本当に強くなってあの兄ちゃん達のように森や城から魔物が来ても村を守れるようになりたいんだ」
 それに、勇者になればこの世界を旅することができる。
 もしかしたら村を復興するヒントが見つかるかもしれない。
 その言葉に参謀は『それじゃ俺はリーダーを支える賢者を目指すよ』と笑った。
 それは見果てぬ夢の始まりでもある。
 クルトとスピカは顔を見合わせ、ようやく本心から笑い合った。



課題評価
課題経験:60
課題報酬:1500
命知らずの冒険少年
執筆:ことね桃 GM


《命知らずの冒険少年》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 クルト・ウィスタニア (No 1) 2020-09-16 21:49:50
クルト・ウィスタニアだ。
まだ俺ひとりみたいだが……とりあえずよろしく。

俺はキラキラ石を要所に置いて、帰り道を見失わないようにするつもりだ。
戦闘は基本的に深追いしないようにして、村に戻るのを最優先にした方がいいかな。