;
誰がために鐘は鳴る――遺跡探索


ストーリー Story

――暗い。
 ここは暗い。寒い。何もない。

 ――ここはどこだ。
 何もわからない。何故ここにいるのか、何をしていたのか。

 ――ああ、ただ。
 死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 シニタクナイ。


●校外授業
「それでは、授業を始める」
 漆黒のドラゴニア【エイデン・ハワード】は、静かに、しかし教室中に響き渡る声で宣言した。
「本日の授業は、校外にて行う。いわゆる実地訓練だ。しばし座学とする予定であったが、とある遺跡に少々不備が出た。つまり、魔物が湧いた。よって、実技訓練を兼ねた校外授業とする」
 ハワード先生が言うには、こういう話だ。

 遺跡というが、その実態は坑道なのだと言う。幾つもの坑道口がある為に、全てまとめて遺跡と呼ばれているような状態だ。元々は鉱山で、それなりに良質な石が取れたらしい。
 今回探索を行う坑道の構造はいわゆる水平坑道と言われるもので、高低差はほぼ無い。有毒なガスや水があふれているなどの事態にはなっていないので、洞窟探索と考えても良さそうだ。
「もちろん、罠が作動しなければ、だが」
 廃坑とする際、魔物などが棲みついたりしないよう、元所有者が罠を仕掛けたそうなのだ。今も稼働するとなれば、それはもしや死に直結しうる罠の可能性も捨てられない。
「もっとも、魔王・覇王はもちろん、勇者や賢者を目指すのであれば、いついかなる時でも様々な事態を想定し、準備を怠ることなく臨むべきだ」
 さて、坑道の内部は木材で補強はしてあるが、いかんせん古いものだ。多少の爆発には耐えうるだろうが、積極的な破壊活動を試みたならば、天井が落ちる可能性がある。
 また坑道は小規模のもので、半日あれば十分探索が可能だという。幾つかの分かれ道はあるものの、迷子になるようなことはないだろう。
 湧いた魔物は、ゴブリン、キラーバット、スライムナイトと取るに足らない存在ではあるが、坑道を根城に数を増やされると厄介な存在だ。これらの討伐が、目下の目標となる。
「今回の坑道は、さして広くない。人数が多ければ、2つの坑道を探索してもらう。場合によっては私が引率として後ろから眺めることにするが、基本的に手出しはしない。各々準備を怠るな」

「それでは、移動する」
 学園内のトーブを利用して、一瞬で件の坑道へと辿り着く。荒涼とした山腹。坑道の入り口で穴だらけになった岩肌が現れたのだった。
「――む?」
 ハワード先生が眉間にシワを寄せる。
 決して強大な力ではない。だが――強い意志を感じる。これは、一体、何だ。
「先生?」
 生徒の一人が不安そうに声をかける。ハワード先生は口をつぐんで逡巡する。
 このまま生徒だけで行かせて大丈夫だろうか。この強い意志は、悪意ではないものの、敵意になりうる強さだ。――言葉の通じる相手ならば良いが。
「――坑道の奥に『何か』がいるようだ。邪悪なそれではなさそうだが……さて、何者か」
 腕を組み、坑道をじっと見つめる。ざわざわと蠢く魔物の他に、ただ1つの思念のもとうずくまる『何か』がいる。
「――『シニタクナイ』……か」
 ポツリと言い、生徒がハワード先生を振り仰ぐ。ハワード先生は神妙な顔つきで、生徒を見やった。
「『何か』の調査も追加とする。心してかかるように」


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 5日 出発日 2020-10-08

難易度 普通 報酬 通常 完成予定 2020-10-18

登場人物 3/8 Characters
《比翼連理の誓い》オズワルド・アンダーソン
 ローレライ Lv22 / 賢者・導師 Rank 1
「初めまして、僕はオズワルド・アンダーソン。医者を志すしがないものです。」 「初見でもフレンド申請していただければお返しいたします。 一言くださると嬉しいです。」 出身:北国(リゼマイヤ)の有力貴族の生まれ 身長:172㎝ 体重:60前後 好きな物:ハーブ、酒 苦手な物:辛い物(酒は除く) 殺意:花粉 補足:医者を志す彼は、控えめながらも図太い芯を持つ。 良く言えば真面目、悪く言えば頑固。 ある日を境に人が触ったもしくは作った食べ物を極力避けていたが、 最近は落ち着き、野営の食事に少しずつ慣れている。 嫌悪を抱くものには口が悪くなるが、基本穏やかである。 ちなみに重度の花粉症。 趣味はハーブ系、柑橘系のアロマ香水調合。 医者を目指す故に保健委員会ではないが、 保健室の先輩方の手伝いをしたり、逃げる患者を仕留める様子が見られる。 悪友と交換した「高級煙管」を常に持ち、煙草を吸う悪い子になりました。
《新入生》クルト・ウィスタニア
 ヒューマン Lv9 / 勇者・英雄 Rank 1
「まったく……彼女はどこに行ったんだ!」 「俺は魔法はさっぱりだけど……入ったからには、頑張ってみるさ」 「もう、だれも傷つけたくない。傷つけさせない。そのための力が欲しい」 [略歴]  以前はとある国で、騎士として活躍していた。  しかし、とある出来事をきっかけに国を離れ、パートナーと共に各地を旅していた。  その道中、事件に巻き込まれパートナーとはぐれてしまう。  人の集まる魔法学園でなら、パートナーの行方の手がかりがつかめるかもしれないと考え、入学を決めた。 [性格]  元騎士らしく、任務に忠実で真面目。常識人っぷりが仇となり、若干苦労人気質。 [容姿] ・髪色…黒。 ・瞳……淡い紫。 ・体格…細マッチョ。ちゃんと鍛えてる。 ・服装…学園の制服を着ている。が、若干イタイんじゃないかと心配もしている(年齢的に)。 [口調補足] ・一人称…俺。改まった場では「私」も使う。 ・二人称…君、名前呼び捨て。目上の人には「さん」「様」をつける。 ・語尾…~だ。~だろう。目上の人には敬語。 [戦闘] ・剣を扱う。 ・「もっと守る力が欲しい」。  そう思い、最近は魔法と剣を融合させた剣技を習得したいと考えている。
《枝豆軍人》オルタネイト・グルタメート
 リバイバル Lv15 / 魔王・覇王 Rank 1
■性別■ えだまめ(不明) ■容姿■ 見た目:小柄で中性的 髪:緑のショートヘア 目:深緑色 服:生前の名残で軍服を好む。 あとなぜが眼帯をしてる。 ※眼帯に深い理由はない。 ■性格■ 元気(アホの子) 意気揚揚と突撃するが、結構ビビりなのでびっくりしていることもしばしば。 ■趣味■ 枝豆布教 ■好き■ 枝豆(愛してる) ■苦手■ 辛いもの(枝豆が絡む場合は頑張る) ■サンプルセリフ■ 「ふはっはー!自分は、オルタネイト・グルタメートであります。」 「世界の半分を枝豆に染めるであります!」 「枝豆を食べるであります!おいしいのであります!!怖くないのであります!」 「これでも軍人さんでありますよ。ビビりじゃないであります!」 「食べないで欲しいでありますー!!自分は食べ物ではないであります。」

解説 Explan

●今回の校外授業について:
坑道遺跡群における、魔物の討伐及び、最奥にいる『何か』の調査

●坑道について:
・構造:水平坑道。毒ガス、浸水などの心配はない。暗いので灯りの準備が必要。
・最奥:少し広い空間になっており、それなりに価値のあるものが隠されている。
・罠:あるかもしれないので、注意が必要。
・宝:あるかもしれないので、探索してみよう。

●討伐対象について:
・ゴブリン、キラーバット、スライムナイト
・出現数は、GMのサイコロの出目(1D6〜2D6)による。

●班分けについて:
・3〜5人1組にて1坑道の探索を行う。6人以上になった場合は、2つの坑道を1組ずつ探索を行う。
・2組に分かれる場合、ハワード先生が適当に振り分ける。
・ただし、どうしても同じ班が良い場合は、互いのプランに記載がある場合に限り同じ班となる。
・参加人数が2人以下の場合、ハワード先生が引率となる。ただし、行動指針は生徒のプランに従う。積極的な手助け・助言はしない。

●最奥にいる『何か』について:
この『何か』は、強く強く『シニタクナイ』という思念を放っているようです。
これは『何か』、『何か』にどう対処するか、推理と対処法を書き添えてください。
もし班が2つになる場合、どちらかの坑道にいます。


作者コメント Comment
2度目まして、鶴野あきはる(つるの・あきはる)です。
校外授業といえば洞窟探索! 洞窟探索といえば新たな謎!
それでは、どうぞよろしくお願いいたします。


個人成績表 Report
オズワルド・アンダーソン 個人成績:

獲得経験:135 = 90全体 + 45個別
獲得報酬:4500 = 3000全体 + 1500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
役目:罠、敵、宝の捜索、後衛支援

行動:
優先順位は自身と仲間の身の安全
視覚強化で罠の捜索を行い、発見出来次第チョークを罠の目印に使用。
間違って罠発動の際【立体起動】で回避を行う。


戦闘:
単独行動にならぬよう仲間との距離を意識し
魚心あれば水心で仲間の支援をメインにアクラで攻撃し、リーラブで回復。
あぶないくすりをぶっかけます。
また、体力温存のために「敵に罠がかかる」よう【立体機動】を使い、ひきつけます。

スライムナイトの散漫対策に装備、浴衣「杏林」の能力を発動。

何か:幽霊ですかね、何かは「シニタクナイ」というより「苦しみから解放されたい」のではないかと考えている。

クルト・ウィスタニア 個人成績:

獲得経験:135 = 90全体 + 45個別
獲得報酬:4500 = 3000全体 + 1500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
アドリブ:A

新しく赴任されたハワード先生の授業か…なかなかハードそうだ。
これもいい訓練と思って参加させてもらおう。

暗い場所はキラキラ石を活用して進んでいく。
【視覚強化】で罠には細心の注意を払う。
危なさそうなら【緊急回避】。

攻撃は基本剣で前衛。できるだけ広い場所に敵をおびき寄せて崩落防止。
防御には防護魔力を使う。

・「なにか」について
ありきたりな考えだと坑道で事故に遭ったり、崩落に巻き込まれた人とか、だろうか。
古い場所みたいだし…。
もしくはもっと別の……いや、止めておこう。

まだ生きているならなんとか助け出したいな。
体力もあるし、動けないようなら俺が抱えて運ぼう。

オルタネイト・グルタメート 個人成績:

獲得経験:135 = 90全体 + 45個別
獲得報酬:4500 = 3000全体 + 1500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
○心情
シニタクナイ…わかるでありますな…その気持ち

○全体
光源として「キラキラ石」「ピカピカ腕輪」を使用

○索敵
【気配察知Ⅰ】【聞き耳】【事前調査】を使用
素早く簡単に味方に共有

○戦闘
【楽園楽土Ⅰ】【威圧感】でデバフを付与
近くの敵は通常攻撃
遠い敵は【リ6】
敵が複数いる場合は【暴君誕生】で数を減らそうとする

攻撃を受けた場合は、【リ1】【リ2】【リ8】

○『何か』の正体
リバイバル

○『何か』への対応
まずは【説得】【信用】【会話術】で対話を試みる
同じリバイバルであれば、理解できる部分があるはず

怖がらせないように近づき、「シニタクナイ」気持ちに同意
リバイバルなら、自分も同じように願って今の姿になったはずだから

リザルト Result

「シニタクナイ――でありますか」
 深緑の瞳をかすかに歪ませて、【オルタネイト・グルタメート】は呟いた。
「坑道で事故にあったか、崩落に巻き込まれた人とか、だろうか。まだ生きているなら、なんとか助け出したいな」
 オルタネイトの呟きに、【クルト・ウィスタニア】が言葉を続けた。
「まずは坑道の魔物を退けてからですね。お二人とも、忘れ物はありませんか?」
 【オズワルド・アンダーソン】が『あぶないおくすり』を丁寧に包み裾に忍ばせながら二人を振り返る。
「万全だ。……ところで、その浴衣は? 何か特殊な効果でもあるのか?」
「ふふ、そうなんです。この浴衣は『杏林』と言いまして、ちょっと特殊な能力を持っているのですよ」
 もちろん、使わないで済むならそれが一番ですけどね。
 オズワルドは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。詳しい話はそれ以上しなかったものの、何やら意味がある装備だということで、クルトは頷いた。
「杏林……か。医者を目指す己に良い銘をつけたものだ」
 【エイデン・ハワード】が言うと、人好きのする顔でオズワルドが微笑む。
「では、改めて課題について話そう。目下の目的は、この坑道に住み着いた魔物の討伐。そして、坑道の奥にいる『何か』についての調査だ。各々、気を引き締めていくように」
 3人は頷き、暗い坑道へと足を踏み入れた。

●罠とチョークと丸焼きと
 キラキラ石が照らす坑道は、放棄されたまま朽ちたトロッコレールから始まった。入り口にトロッコはなかったから、どこかに放棄されているのだろう。背の高いオズワルドやクルトが真っ直ぐ立つのには問題がなく、剣を振り回すのにも十分な広さをしていた。
 オルタネイトとオズワルドが罠を確認しながら、一行は進んだ。後ろを守るクルトも、戦闘になればすぐに交代できる位置で二人の背後を守る。
「ここ、壁には触らないでください。スイッチになっています」
 岩壁にチョークで丸を付けながら、オズワルドが振り返った。クルトは小さく頷く。
 クルトも視覚を強化し細心の注意は払っているが、サポートに徹すると言っていた通り、オズワルドは自分よりも素早く的確に罠を見抜いていく。クルトはその様子を感心しながら見つめていた。
 クルトが今回、課題に参加したのは、もっと高みを目指したいと思ったからだった。学園に入学してからしばらく経ち、成長の方向性を見失ってしまったというのもある。今回は坑道の探索と魔物の討伐という単純な課題だが、それに必要な能力は多い。
 まずは、罠や坑道の安全性を保ちながら進む探索スキル。わずかな異変をも見逃さない後援スキルだ。そして戦闘スキル。こちらに関しては、クルトは自信があった。魔法はさっぱりだが、剣技には自信がある。けれど戦闘と一口に言っても、単独によるか集団によるかで戦術はまったく異なる。
 単独での戦闘や行動をできるようにしていくなら、やはりオールラウンダーになる必要があるだろう。伸ばすべき技能は多岐に渡っていく。しかし、集団が前提になるなら、得意だけを伸ばしていっても問題がない。皆でフォローし合えるなら、それぞれが得意を伸ばして、複数人によって大きな壁にしていけば良いのだ。
「ウィスタニア殿、大きな穴が空いているであります。気をつけるでありますよ」
 オルタネイトの声に、クルトはハッとした。
 小柄で中性的な顔のオルタネイトは、くりりとした大きな深緑の瞳でクルトを見上げて首を傾げた。
「大丈夫でありますか? 枝豆を食べると元気が出るでありますよ!」
 どこからともなくパパーン! と枝豆を掲げるオルタネイトは、クルトからすれば本当に年相応の子どもで、思わず笑みがこぼれる。
「大丈夫だよ。ありがとう、オルタネイト君」
「ゴブリンたちが先にこの落とし穴の罠に掛かってくれていたみたいですね。臭いはほとんどしないから……彼らがこの坑道に住み着いたのは、けっこう前、ってことでしょうか」
 オズワルドが穴を覗き込みながら言う。言われてみれば、確かにあまり臭いはしないような気がする。
「あと、ちょっと気になったでありますが……」
 オルタネイトが何かを言いかけて、ほとんど同時に3人が警戒態勢に入った。
 キキィーーーーーーーーー!
「キラーバット!」


「足元気をつけて、前のめりで行くぞ!」
「はいであります!」
 クルトは宝珠の剣を構える。オルタネイトはペリドット・サイスを構えてキラーバットを睨みつける!
 キラーバットたちが一瞬ビクリと強張った。クルトはそれを見逃さない。元騎士らしい無駄のない動きで、キラーバットの群れに突っ込む。
「ハァッ!」
 宝珠の剣を突き出し、そのまま駆け抜けざまに振り抜く! キラーバットたちの耳障りな悲鳴が響いた。その剣技を掻い潜ったキラーバットたちがそのまま後方へ突っ込む。
「しまった!」
 クルトは振り返る。キラーバットのように空を飛ぶ小さな魔物たちに、足止めというものは効かない。クルトの視線の先で、オズワルドの指先に水が逆巻いていた。奇声を上げて飛び込んでいくキラーバットを、魔力の水流が飲み込んだ。
 シン、と坑道が静まり返る。
 気配を探るが、何かが動く気配はない。
「すまない、大丈夫か?」
「問題ありませんよ。初対面のパーティにしては、良い連携ができましたね」
 オズワルドがにこりと微笑む。クルトは小さく頷いた。
「キラーバットは魔物が使役することもあるのであります。奥にゴブリンがいるかもしれないのであります」
 オルタネイトの言葉に、オズワルドも頷いた。
「今の戦闘で気付かれたかもしれません。慎重に行きましょう。その前に――」
 オズワルドがキラーバットの死骸を穴の中へ放り込む。瞬間、炎が上がりキラーバットは綺麗に丸焼きになった。オルタネイトとクルトはギョッと目を丸くする。
「これが臭いがとっくに消えてた原因かもしれません。エグい罠作りますねぇ」
 ニッコリ微笑むオズワルドに、二人は無言で頷く。
 柔らかな物腰の彼の方が、もしや恐ろしい存在かもしれない。
「そう言えば」
 クルトがオルタネイトを振り返る。
「戦闘の前に何か言いかけていなかったか?」
「あ、そうなのであります。ちょっと待ってて欲しいであります」
 オルタネイトはキラキラ石を掲げて地面を探る。今戦闘をした先の道を慎重に確認して、それから戻ってきた。
「自分たちが入ってきた入り口の方には、足跡はなかったのであります。それが変だな、と思って。でも、この穴の向こうは、比較的新しい足跡が、やっぱりあったのであります」
「それって」
 3人は顔を合わせ、頷き合った。表情を引き締め、隊列を組み直してさらに進む。

●秘密結社『えだまめん』ゴブリンを討伐するであります!
 幾つかある分岐を潰しながら、3人は慎重に進んだ。
 分岐といっても深いものではなく、横に掘ってみたものの硬い岩に阻まれて断念したような感じだった。そうした分岐先は大した補強もされておらず、見分けるのは簡単だった。ただご丁寧にその尽くに何らかの罠が仕掛けられており、それを丁寧に避けるのは少々骨が折れる。
 不自然に岩に矢が刺さっていたり、小爆発のような跡も散見された。これはおそらく、先客が引っ掛かったのだろう。
 スイッチの位置や罠の発動場所にチョークで印をつけながら、オズワルドは嘆息した。
 空を飛び回るキラーバットには残念ながら障害にならない。しかし、地を歩く生物にはなかなか厄介な存在だ。だからこそ、時おり飛来するキラーバットを巧みにおびき寄せ、罠へ引っ掛けた。おかげで3人の消耗は最小限に抑えられている。
「それにしても、ここまで執拗に罠を仕掛けてあると、何か意図を感じざるを得ませんね」
 オズワルドは思わず呟く。
 ハワード先生は確かに、魔物が住み着かないように罠を仕掛けたと言っていた。そして、それは一定の効果を上げているようだ。けれど、ぬぐい切れないこの違和感の正体は一体なんだろうか?
 奥にいる『何か』――。
 オズワルドは、その正体は幽霊だろうかと考えていた。
 シニタクナイのではなく、苦しみから解放されたい。もしそうであるならば……医者として、救えるならば、救いたいと思う。
 そもそもは自分が殺されないために、あるいは何かあったとしても自分で何とかできるようにと始めた医術だった。他人は信用できないし、今でも余程のことがなければ他人から受け取ったものを食したりはしない。それに、表面上は協力していても、心の奥底では何を考えているかなど分からない。それが他人だ。
 それでも、医者としての務めを果たすことをオズワルドは意識していた。その意識の揺らぎは、医術を学んだからなのか、学園で人々と交流をするようになったからなのか、オズワルドの意識下では何の変動もないのだけれど。
「この辺から、ずいぶん罠が発動してるんだな」
 クルトの声に、オズワルドはハッとする。
 先ほどまでは分岐のたびに罠を確認していたが、ひと目見て罠が発動したのであろう跡が見て取れた。
「確かに……」
 ゴブリンやスライムナイトは知能が低い。それでも複数の横穴で罠に何度も掛かれば、さすがのゴブリンたちも学習したということなのだろう。
「ただ、それだとゴブリンたちはやっぱり、坑道の奥から入り口に向かったことになりますね」
 オズワルドは口に出して、おぞましい想像をしてしまった。何ということだろうか。もしそれが事実だとすれば、坑道の奥から魔物が湧いたことになる。
「それって……じゃあ、『何か』は……」
 最悪だ。最悪の可能性が、3人の脳裏を過ぎる。
 間違いなく、ゴブリンたちは知能が低い。力も大して強くはない。しかしそれでも、集団で襲い掛かられては、ひとたまりも無いだろう。臆病な彼奴らは強そうなものからは一目散に逃げ回るくせに、相手が弱そうだとか少人数と見れば、数にものを言わせて襲いかかってくる。
 重い空気が流れた。『何か』の生存している確率は、限りなく低い。
「行きましょう。立ち止まり続けるわけにはいきません」
 オズワルドの声に、クルトもオルタネイトも肯く。
 ーーそうだ。立ち止まっている暇は無い。
「……ん?」
 さらに進んでしばらくして、オズワルドが手を挙げて制止を促す。曲がった坑道の先から、明かりが漏れているのがクルトからも見えた。
「ゴブリンの声? 反響の仕方から……広間みたいになってそうですね」
「突撃するか?」
「数が分からないでは、少々危険かと。それなら」
 こしょこしょと2人に耳打ちをして、3人は頷き合った。


「ゴブゴブ」
 ーーキラーバットの奴ら、戻ってこないなぁ。
「ゴブゴブ」
 ーーあいつら頭悪いし。
「ゴブゴブ」
 ーー使えない奴らだ。
「ゴブ?」
 ーーん?
 ててーん! という雰囲気で、広間の入り口に仁王立ちしているヤツがいる。
 見たことがないヤツだ。緑色で豆粒のような感じだ。そう、枝豆のような。それが、なぜか偉そうに胸を張っている。
「ふはっはー! 自分はオルタネイト・グルタメート! いずれ自分は、世界の半分をこの枝豆に染める所存! 今からここは、秘密結社『えだまめん』が占拠するであります! 大人しく枝豆を食べるならよし、そうでないなら神妙にせいっ! なのであります!」
 びしぃいいいっ!
 人差し指を突き付けて、そう高らかに宣言した小粒な存在を、ゴブリンたちはポカンと口を開けて見守ってしまった。えーと、今何を言われたのだろうか?
 小粒な枝豆はさらに続ける。
「おおっと、自分は枝豆ではないのであります。食べないで欲しいであります! でも美味しい枝豆はたくさん持っているのであります! さぁ、鬼さんこちらー! であります!!」
 枝豆が両手を前に突き出す。ゴブリンたちは呆気に取られたまま、それを眺めーー枝豆の掌から魔力の塊が放たれた。
 ちゅどぉおおおおおおん!!
「ゴブゴブー!」
 ーーうわぁあああ!
「ゴブゴブーッ!」
 ーー敵襲ーっ!
 ゴブリンたちは、自分たちが攻撃されてやっと、枝豆が侵入者だということに思い至った。
 それぞれに武器を持ち、枝豆に向かって殺到する。がーー、
「ゴブー!」
 ーーぎゃーっ!
 入り口に辿り着いたゴブリンたちが吹き飛ぶ。今度は何だ!?
 後続のゴブリンが足を止めれば、それは枝豆の後ろから姿を現した。
 黒い髪の隙間から、紫の瞳がゴブリンたちを睥睨する。
「ゴブー!?」
 ーーヒィイ!?
「ゴブゴブッ」
 ーーきょ、巨人!?
 枝豆のゆうに倍はあろうかという鎧をまとった巨躯が現われる。
 その一歩一歩は重く、歩くたびにガシャリと重い音を立てた。
「武器の構え方が怪しいやつは、多分スライムナイトです」
「わかった」
 せっかくの偽装も、どうやら侵入者たちにはバレている。
 数は圧倒的にゴブリンの方が多い。ええい、こうなったら総攻撃じゃ!
「ゴブゴブゴブー!」
 ーー突貫ー!
 結局、突っ込むしか能がないのがゴブリンやスライムナイトという種族である。ツルハシや剣を振り回し、巨人に立ち向かう!
「むっ!」
 巨人は盾を突き出してゴブリンの剣を弾く。よろりともしないのが、なんとも腹立たしい。
「ゴブーーーーッ!?」
 ーーギャァああああ!?
 かと思えば、ゴブリンに扮したスライムナイトの悲鳴が上がる!
「ゴブゴブッ!?」
 ーー何事だっ!?
 数を頼みに巨人を突破したスライムナイトが、混乱しているのか、ブンブンと剣を振り回している。密集形態では、何体かのゴブリンがそれのせいで怪我を負っていた。
「ゴブッ?!」
 ーー何してる?!
 ゴブリンたちに動揺が走る。すると、巨人の陰からゆらりと何かが姿を現した。
「ふふふ、いいですね、『あぶないおくすり』。楽しいですよ。薬で苦しむ様は」
 青い瞳がチロリとゴブリンたちを見下す。
「ーーねぇ?」
 その瞳に昏い光を見て、ゴブリンたちは戦(おのの)いた。
 枝豆の暴君は「ふはっはー!」と笑いながら、魔力の玉を繰り出す。巨人は剣を振り回し、重戦車の如くゴブリンやスライムナイトたちをはね飛ばす。金髪の悪魔とも見紛う何かは、昏い笑みを浮かべながら迫ってくる。
 阿鼻叫喚の渦が逆巻き、程なくして26体ものゴブリンとスライムナイトは沈黙した。

●ひと息、そして
「なかなか、しぶとかった……な」
 肩で息をしながら、クルトは思わず座り込む。
 雑魚ばかりとはいえ、さすがに数が多かった。オズワルドの回復魔法のおかげで傷は浅いし、作戦が功を奏した。しかし、クルトがやったことといえば単純で、力押しの一手だ。防護魔力だけは使い続けてきたが、魔法らしいものはそれだけ。もっと何か……何かできないものだろうか。
「ウィスタニア殿、ずいぶん怖がられてたでありますな」
「お陰でゴブリンたちは勝手に恐慌状態でしたもんね。オルタネイト君の口上が良い感じに効いたっていうのもありますが。クルトさんは、もっと剣を究めたら良いんじゃないですか」
 オズワルドの言に、クルトは顔を上げる。
「そう……か?」
 ガサゴソと放棄された箱をひっくり返しながら、オズワルドは『はい』と笑った。
「どんなに策を巡らせても、それを叶えられる戦力が無いと意味はありません。突破力というのは、どんな状況にあっても重宝します。今回は特に助かりました」
「ーーそうか」
 クルトは自分の手を見やる。剣を握り、豆が何度も潰れてはまた豆ができて、固くなった無骨な手だ。この手は、もっともっと誰かを守る手になれるだろうか。
「アンダーソン殿は、薬のこととなると、ちょっと怖いであります」
 あぶないおくすりをスライムナイトにぶっ掛けた時の顔を思い出し、オルタネイトが呟く。
 オズワルドはきょとんとして、
「そうですか? ーーそんなこと、ありませんよ?」
 ニッコリ。
 ……その笑顔が怖いとは、もう言えないオルタネイトであった。
「さて、」
 オズワルドは木箱を放る。
 目ぼしいものは残念ながら特には見つけられなかった。あったのは腐った煮干しや空になった酒瓶、少しばかり高級そうな煙管程度。宝があるかもしれないと少しばかり期待していたのだが、結果は期待外れだった。
 そして、その木箱の奥に、オズワルドは見つけていた。
「ーーそろそろ行きましょうか」
 そこには、暗い坑道がぽっかりと口を開けていた。


 他の坑道とは全く違う気配が、そこには漂っていた。
 暗く、冷たい空気。物理的に冷たいわけではないのに、無意識に体が震える。
 道中に行きついてしまった、嫌な可能性。それを思うと、3人の足取りは無意識に躊躇いがちになった。行かない理由は何一つとしてなかった。しかし、この先に待ち受けているであろう『何か』を思うと、足が重い。
 ーーシニタクナイ。
 声として聞こえるようなほど、空気が震えている。
 オルタネイトは泣きたくなるような心地がした。自分はこれを知っている。この、狂おしい程の切望を。
「わかるでありますな……その気持ち」
 口の中で呟いた時、キラキラ石が照らすその先に、それは居た。息を呑む声がする。
 ーーああ、やはり。
「リバイバル……」
 闇属性を司る精霊の王『ボイニテット』による加護を受けた、元人間。
 キラキラ石の光に照らされたそれは、今なお地面を掻き頬を涙で濡らしていた。
 それは少女のように見えた。長い銀の髪は絡みあい、海の底のような藍色の瞳からは正常な光は失われている。ーーどれだけの月日を、この暗い坑道で、たった1人で、過ごしてきたのだろうか。
「怖がらないで欲しいであります。自分はオルタネイト・グルタメート。自分の言っていることは分かるでありますか?」
 オルタネイトは、少女の前にぺたりと座る。敵意は無いと伝えたかった。
 少女は胡乱な瞳で、それでもオルタネイトの新緑の瞳を見返してくれた。
「自分もーーシニタクナイと思ったことがあるであります。だからこそ、自分は今、学園にいるのでありますよ」
 静かに、優しく声をかける。少女はポロポロと大粒の涙を流しながら、オルタネイトを見上げた。
「一緒に、学園へ行くというのはどうでありますか? 貴殿がそれを望むなら……きっと学園は迎え入れてくれるでありますよ」
 何があったのか、なぜここにいるのか。
 今はとても聴けない。こんな状態では。
 今にも消えそうに、ただ生への渇望だけで、此の世に止まってしまったこの少女には。
 オズワルドは、ただ2人を見守った。一度は死んだ身なのだと、現実を伝えることも優しさだ。けれど、それは今ではないかもしれない。元気な後輩だと微笑ましく見ていたオルタネイトが、あまりにも儚いものに見えて……そして、体を無くしても未だ地面を掻き続ける少女の姿が、その言葉を呑み込ませた。
 クルトもまた別の意味で拳を握りしめていた。こんな坑道の奥の行き止まり。不自然に途切れたトロッコのレール。年端もいかない少女に見えるこの存在が、悪意によって閉じ込められ、傷付けられた可能性を突き付けられて。ーーもっと守る力が欲しい。何者からの悪意を跳ね除けられる、守る力が。この小さな少女を行方不明になったパートナーに重ねて、クルトは決意を胸に抱いた。
 少女はポロポロと涙を零し続ける。深い海の底から、水泡が次から次へと溢れるようだ。
 オルタネイトは手を差し出す。光を無くした少女の瞳が揺らいだ。
 ーーシニタクナイ。ここは寒い。ここは……暗い。
 オルタネイトの小さな掌に、少女の小さな手が重ねられる。ボロボロの手だ。幽体であるはずの小さな手なのに。オルタネイトは精一杯の笑顔を浮かべた。
「大歓迎するでありますよ! 枝豆は好きでありますか? 食べたことがないなら、ぜひ好きになって欲しいでありますよ!」
 こうして学園にまた1人、リバイバルの少女が加わることとなった。



課題評価
課題経験:90
課題報酬:3000
誰がために鐘は鳴る――遺跡探索
執筆:鶴野あきはる GM


《誰がために鐘は鳴る――遺跡探索》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《新入生》 クルト・ウィスタニア (No 1) 2020-10-07 00:47:35
勇者・英雄コースのクルト・ウィスタニアだ。
すっかり出遅れてしまった…あまり時間はないが、よろしく頼む。

俺はとりあえず、キラキラ石を持って行って光源を確保するつもりだ。
戦闘の際は基本的には前衛に出て剣で対処しよう。

しかし「何か」がいるのか……なんだろうな。

《新入生》 クルト・ウィスタニア (No 2) 2020-10-07 00:55:49
ありきたりな考えだと、坑道の崩落に巻き込まれた人とかだろうか…。
古い坑道みたいだし…。

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 3) 2020-10-07 14:41:48
あらま。僕だけだと思ってた、こんにちは。
オズワルド・アンダーソンと申します。

僕は回復をメイン攻撃サブに行わせていただきますね。
あとは、罠を把握できるよう視覚強化を準備します。

イメージ的に巻き込まれた人の、苦しんだ人の声ですかね。正体はそれかと、リバイバルがいるくらいですから。
奥地での何かにどうするかはお互いのプレイングで済ませましょう。

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 4) 2020-10-07 20:28:34
敵についても、全て格1の敵ばかり。
単独行動にならなければ心配するようなものではないですね。

このまま二人で行く流れはハワード先生が付き添う、でいいんですよね。
たしかハワード先生は、ドラゴニアの魔王・覇王コース担当でしたね。
行動指針は生徒のプランに従うだから、なにか指定しとくのもいいかもしれませんね。(現状思いつかない)

《枝豆軍人》 オルタネイト・グルタメート (No 5) 2020-10-07 20:37:36
残念だったなであります!
駆け込み軍人、オルタネイトであります!

気配察知や事前調査でどうにかこうにかするでありますな。
自分にできるのは妨害と攻撃でありますかね。

光源でキラキラ石とピカピカ腕輪を持って行くでありますよ

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 6) 2020-10-07 20:56:39
ありがとうございます、クルトさんに枝豆さ…オルタネイトさんがいれば安心ですね。
よろしくお願いします。

あ、罠解除は難しそうですし、帰りにうっかり発動!とならぬよう分かりやすく目印を準備しますね。
ふと、ちょっとしたお勉強に
一部の罠を使えそうだったら敢えて敵にかけてみたいんですよね。