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【想刻】忘却の勇戦


ストーリー Story

●アリアドネの糸口
 ――【カズラ・ナカノト】が。『オスカーという人物に、奴隷として買われた』という情報を、バグシュタット王国にて入手してから、数日の間をおいて。
 【フィーカ・ラファール】とカズラは、学園教師である【シトリ・イエライ】に呼ばれ、彼の執務室に来ていた。
 その場には『きみ』を含め、今までのカズラの捜索に手を差し伸べた生徒や、シトリに声をかけられる形で、今回初めて協力する者達も多く集っている。
 そんな中、シトリは今までの経緯を纏めるように、質問を重ねていく。
「つまり、カズラさん。あなたは純種ドラゴニアに近いその瞳が原因で、仲間として受け入れられず」
「……うん」
「その結果。経緯は不明だが、奴隷となり。【シュリヒ】と言う男により、【オスカー】という商人へ売られた、と」
「……ん。でも、父さんと母さん、は……幸せを願って、『ナカノト』って名前をつけてくれたかも、しれなくて……それ、で……」
「もしかしたら、弟さんがいるかもしれない、ということでしたね。……そして、フィーカさん」
「はい」
「あなたの御父上は『オスカー』という名前で、ご自身もリストニアルタの出身であることを覚えてはいるが、それ以外のことは……」
「おぼえてない。そもそも『オスカー』が父さんの名前だってことも、聞いたときに、ふっと思い出しただけで」
「では、お母様の名前も?」
[……おぼえてない。『きっと、ショック過ぎて、色々忘れちゃったんだめぇ~』って、メッチェせんせーはいってた」
「なるほど。では、その『ショック』の内容については、お話できますか?」
 気遣うようなシトリの言葉に、フィーカは少しだけ視線を彷徨わせてから、こくりと頷く。
「……おれの村……リストニアルタ、は。でっかいドラゴンに燃やされて、なくなったんだ」
 それは遠い、子どもの頃の思い出。フィーカの話はやはり不鮮明だったが、それでも忘れられない記憶であるからか、その声には熱が籠っていた。
「なんでそうなったのかは、覚えてない。そいつがどうして村にやってきたのかも。でも、そいつがおれたちの幸せをぶち壊したのは、覚えてる」
 あの日、あの夜。見たこともないほど大きくて、恐い目をしたあいつが。何もかもを壊して、燃やし尽くしたんだ。
「おれが覚えているのは、そいつを見上げて、『お前のせいだ!』って叫んでたこと。……動かなくなった母さんを、抱えて」
 でも、子どもがいくら喚(わめ)いても、ドラゴンには何の痛手にもならない。
 そいつは笑うように鳴いてから、悠々と飛び去って。自分たちの前から、姿を消した。
「だから、強くなって。復讐してやろうと、剣を取って。……おれ、『カリドゥ・グラキエス』って奴が、その竜だと、思って」
 でも、間違って。ひどい迷惑を、いっぱいかけた。
「おれ、まだ、謝ってない。……あのときは、ごめんなさい」
 俯くフィーカに首を振って応えたのは、きっと『あの時』あの場所で、炎と氷を纏いし竜の翼を折った者達だろう。
 ゆえに、ふっと微笑んだシトリは、フィーカの頭を軽く撫でててから、片手をあげる。
「ベリル、地図を」
「はい、マスター」
 呼び声に応えたのは、【ベリル・ドロン】と名付けられたカルマの少女だった。
 シトリの補佐役であり、武神・無双コースの先輩にもあたる彼女は、指示された通りに地図を持ち、机の上に広げる。
 そうして目の前に現れたのは、エイーア大陸の縮図だった。その上……円で丸く囲まれた部分――それはシトリが、とある女生徒と共に。流星雨を観測した時につけられたものだ――を、シトリの指先が押さえる。
「フィーカさん。あなたの言うリストニアルタとは、かつてこの地点に『あった』、村の名前です」
 『あった』という言葉から、今はもうないのだろうと、『きみ』は気付いた。恐らくはフィーカの言う、ドラゴンの影響で。
 同じように、誰もが思ったのだろう。しんとした沈黙の中、シトリは言葉を続ける。
「位置としては、グラヌーゼとエルメラルダの間となります。この村は、なんの魔力反応も観測されない夜に、突然更地となり。生存者もいないとされていましたが……」
 なるほど、その原因はドラゴンの襲来であり。そしてあなたが、あの村の、生き残りだったのですね。
 静かに告げるシトリは、フィーカに視線を戻した。改めて、自分の生まれた場所を知った少年は、食い入るように丸のついた部分を見つめている。
「そっか……いくら地図を探しても、見つからなかったのは。もう、村が完全になくなって、記される必要がなかったから、なんだ」
「はい。そしてこの話を知っているのも、学園長を含む、各領地の有力者に限られています。一般の方が知れば、無用な混乱を招きますからね」
 ですから皆さんも、この部屋で聞いたことは、内密に。
 人差し指を唇に寄せたシトリは、まるで内緒話をするかのように、集う生徒達へ笑って見せた。
 けれどすぐに、その表情を真面目なものに入れ替えると、
「……いかがしますか? どうやらカズラさんの過去をさらに探るには、フィーカさんの過去をも取り戻す必要があるようです」
 向かいますか? あなたが全てを失った、あの場所へ。
 その言葉に、フィーカは顔をあげた。あげて、カズラを見る。青と緑の視線が、交わった。
「……カズラは、『思い出したほうが良いのか、悪いのか。わからない』っていってた。そっか、それは。こんな気持ち、なんだな」
 でも。カズラは。
「自分自身に向き合うって決めた。なら、おれも……」
 向き合うよ。それが答えで、次に進むべき、道だった。



 しかし、リストニアルタの跡地に辿り着いた彼等を迎えたのは。歓喜の言葉だった。
「まぁ、あのヒトの言う通り! また会えて嬉しいわ、『鏡の目を持つドラゴニア(わたくしのダイヤモンド)』!」
 歌うように、女が告げる。仮面により表情は見えなかったが、陶酔すらをも感じさせるその声は、どこか場違いで。
 だからこそ、『きみ』は前に出る。その腕でカズラとフィーカを、庇うように。
「いやだ。わたくしの宝石に虫がついてる、潰さなきゃ」
「……だれ?」
「まぁ! 覚えてないの? わたくし、忘れたことなんて、一度もないのに!」
 カズラの言葉に、女が反応する。そして何故か、べらべらと、喋り始めた。
 女は『イストラトス』という犯罪集団を率いる首領であること。
 そして過去に、美しい宝石であるカズラの瞳を奪うため、手下たちと共に襲撃したこと。
 しかしその時、返り討ちに遭い。半分以上の手下を失ったこと。
「けれど、でもでも! それでもあなたの美しさが、わたくし、忘れられなくて!」
 願い、祈り、憎んだ末に。――力を貸してくれる、『あのヒト』に出会えたこと。
「えぇ、だから! 今日が収穫祭なの、おわかり?」
「全く分かりませんが。あなたが私の大事な生徒達に、危害を加えようとしていることだけはわかります」
 トン、と。シトリが大杖で地を叩く。そうして広がる魔法陣は、瞬く間に光の壁を発生させた。
 その向こうには、女と、その取り巻きである男達……恐らくはイストラトスの残党だろう姿が見える。
「……今のうちに、フィーカさんは探索を。しかしこの壁も、攻撃が始まれば、長くは持ちません」
「わかった! おれの家があったあたり、探してみる!」
「お願いします。そして皆さんは、私と共に」
 迎撃を。その言葉に『きみ』は、武器を構える。
 ミシリと、光の軋む音がした。


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2020-10-12

難易度 難しい 報酬 通常 完成予定 2020-10-22

登場人物 7/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《比翼連理の誓い》オズワルド・アンダーソン
 ローレライ Lv22 / 賢者・導師 Rank 1
「初めまして、僕はオズワルド・アンダーソン。医者を志すしがないものです。」 「初見でもフレンド申請していただければお返しいたします。 一言くださると嬉しいです。」 出身:北国(リゼマイヤ)の有力貴族の生まれ 身長:172㎝ 体重:60前後 好きな物:ハーブ、酒 苦手な物:辛い物(酒は除く) 殺意:花粉 補足:医者を志す彼は、控えめながらも図太い芯を持つ。 良く言えば真面目、悪く言えば頑固。 ある日を境に人が触ったもしくは作った食べ物を極力避けていたが、 最近は落ち着き、野営の食事に少しずつ慣れている。 嫌悪を抱くものには口が悪くなるが、基本穏やかである。 ちなみに重度の花粉症。 趣味はハーブ系、柑橘系のアロマ香水調合。 医者を目指す故に保健委員会ではないが、 保健室の先輩方の手伝いをしたり、逃げる患者を仕留める様子が見られる。 悪友と交換した「高級煙管」を常に持ち、煙草を吸う悪い子になりました。
《2期生》シルワ・カルブクルス
 ドラゴニア Lv15 / 村人・従者 Rank 1
細い三つ編みツインテールとルビーのような紅い目が特徴のドラゴニア 元々彼女が住む村には、大人や数人ぐらいの小さい子供たちしかおらず同い年程度の友達がいないことを心配した両親にこの学校を薦められて今に至る 一見クールに見えるが実際は温厚な性格であり、目的である世界の平和を守ることはいわば結果論、彼女の真の目的は至って単純でただの村人として平穏に暮らしたいようである しかし自分に害をなすとなれば話は別で、ドラゴニアらしく勇猛果敢に戦う 一期生にはたとえ年下だとしても「先輩」呼びをするそうだ 「私はただの村人、できる限りのことをしただけです」 「だれであろうと私の平穏を乱す者はすべて叩き伏せます」 ※口調詳細(親しくなったひとに対して) 年下:~くん、~ちゃん 同い年あるいは年上:~さん ※戦闘スタイル 盾で受け流すか止めるかでダメージを軽減しつつ、斧で反撃するという、いわゆる「肉を切らせて骨を断つ」戦法を得意とする
《運命選択者》クロス・アガツマ
 リバイバル Lv26 / 賢者・導師 Rank 1
「やあ、何か調べ物かい?俺に分かることなら良いんだが」 大人びた雰囲気を帯びたリバイバルの男性。魔術師であり研究者。主に新しい魔術の開発や科学を併用した魔法である魔科学、伝承などにある秘術などを研究している。 また、伝説の生物や物質に関しても興味を示し、その探求心は健やかな人間とは比べ物にならないほど。 ただ、長年リバイバルとして生きてきたらしく自分をコントロールする術は持っている。その為、目的のために迂闊な行動をとったりはせず、常に平静を心掛けている。 不思議に色のついた髪は生前の実験などで変色したものらしい。 眼鏡も生前に研究へ没頭し低下した視力のために着けていた。リバイバルとなった今もはや必要ないが、自分のアイデンティティーのひとつとして今でも形となって残っている。 趣味は読書や研究。 本は魔術の文献から推理小説まで幅広く好んでいる。 弱点は女性。刺激が強すぎる格好やハプニングに耐性がない。 慌てふためき、霊体でなければ鼻血を噴いていたところだろう。 また、魔物や世界の脅威などにも特に強い関心を持っている。表面にはあまり出さねど、静かな憎悪を内に秘めているようだ。 口調は紳士的で、しかし時折妙な危険性も感じさせる。 敬語は自分より地位と年齢などが上であろう人物によく使う。 メメル学園長などには敬語で接している。 現在はリバイバルから新たな種族『リコレクター』に変化。 肉体を得て、大切な人と同じ時間を歩む。  
《勇往邁進》リズリット・ソーラ
 カルマ Lv17 / 魔王・覇王 Rank 1
ぼんやりとした表情の記憶喪失のカルマ 男の子なのか女の子なのか自分でもわかってない 口調がとても特徴的 外見 ・黒色の髪に金の釣り目 ・短髪だが、横髪だけ長くそこだけウェーブ ・基本的に無表情 ・魔法陣は右手の甲と左足の太ももの内側 性格 ・基本的にぼんやりとしている ・自分が色々と物を知らないことは何となくわかっているので、色々と勉強したい。最近はとある演劇の課題を通じて物語作りに少し興味を持ち出している ・独特な口調の持ち主(所謂関西弁) ・時折「雑音がする」と元気がない時がある 好きなもの ともだち、きれいな音 嫌いなモノ 人形扱い、雑音、■■■■ 一人称「うち」時々、戦闘中気分が昂ると「ウチ」 二人称「きみ」 名前の呼び捨て
《イマジネイター》ナノハ・T・アルエクス
 エリアル Lv23 / 賢者・導師 Rank 1
フェアリータイプのエリアル。 その中でも非常に小柄、本人は可愛いから気に入っている。 明るく元気で優しい性格。天真爛漫で裏表がない。 精神年齢的には外見年齢に近い。 気取らず自然体で誰とでも仲良く接する。 一方で、正義感が強くて勇猛果敢なヒーロー気質。 考えるよりも動いて撃ってブン殴る方が得意。 どんな魔物が相手でもどんな困難があろうと凛として挑む。 戦闘スタイルは、高い機動性を生かして立ち回り、弓や魔法で敵を撃ち抜き、時には近接して攻め立てる。 あまり魔法使いらしくない。自分でもそう思っている。 正直、武神・無双コースに行くかで迷った程。 筋トレやパルクールなどのトレーニングを日課にしている。 実は幼い頃は運動音痴で必要に駆られて始めたことだったが、 いつの間にか半分趣味のような形になっていったらしい。 大食漢でガッツリ食べる。フードファイター並みに食べる。 小さな体のどこに消えていくのかは摩訶不思議。 地元ではブラックホールの異名(と食べ放題出禁)を貰うほど。 肉も野菜も好きだが、やっぱり炭水化物が好き。菓子も好き。 目一杯動いた分は目一杯食べて、目一杯食べた分は目一杯動く。 趣味は魔道具弄りで、ギミック満載の機械的な物が好き。 最近繋がった異世界の技術やデザインには興味津々で、 ヒーローチックなものや未来的でSFチックな物が気に入り、 アニメやロボットいうものにも心魅かれている。 (ついでにメカフェチという性癖も拗らせた模様)
《ビキニマン》ソフィーア・ル・ソレイユ
 ドラゴニア Lv12 / 武神・無双 Rank 1
生き別れたパートナーを探して、学園にやってきた、ドラゴニアの少女。 金髪ゆるふわカールのロングヘアー。前髪をひまわりのヘアピンで左にまとめている。褐色肌の筋肉質で、無駄な肉は一切ないのにバストとヒップはかなり豊か。大きな翼と長い尾。火柱のような角。後頭部から下顎、鎖骨辺りまで、サンライトイエローの鱗が覆っている。 いかにも女の子らしい容姿だが、性質は男性的で、なぜ、胸に目が入らないのか、よく、男性に間違えられる。 実直で騎士道精神にあふれている。だが、敵にたいしてはわりと容赦ない。闘争本能が強く、戦いを、とくに強者との対峙を好む。そのため、いつでも戦えるよう、入浴中以外は、ビキニアーマーを着込んでいる 武器収集癖があり、手入れを決して怠らない かなりの大食漢。なんでもおいしそうに食べるが、中でも『地球』で食べた、ラーメン、炒飯、餃子が大好き。彼女曰く、『”食”の宇宙三大至宝』であるとか。 ”力なき人々の力になること” ”悪には屈しないこと” ”あきらめないこと” ”仲間を信じること” ”約束は絶対に守ること” 5つの誓いを貫くために、日々鍛錬を欠かすことはない 諸般の事情で偽名 ある人物に、ずっと片思いをしている。勇気がなくて、告白はしていないが、それとなくアピールはしている。 酒乱なので、酒を飲ませてはいけない

解説 Explan

・成功/失敗条件
 イストラトスの手を阻み、【フィーカ】が記憶を探り終わるまでの時間を稼ぐ
 /イストラトスに敗北する

・時刻/場所
 昼/リストニアルタ跡地

・イストラトスについて
 過去には構成員100名ほどの犯罪集団だが、今回対峙するのはその残党であり、数にして30名ほど。
 詳細な戦闘力に関しては下記を参照。

・『蟻』
 格1~3からなる、女王を護る者達。数にして約30名。(推奨レベル:1~7)
 役割も様々で、近接(双剣)/遠隔(弓)/治癒者(本)が揃っている。
 それぞれの役割は、手にした武器で判別可能。

・『女王』【クイーン・アント】(推奨レベル:15以上)
 格4であり、蟻の司令塔。仮面を被っており、顔は見えない。
 使用技能により、『精神汚染を受けている可能性』『腰にも仮面を1つ下げている』事がわかる。
(上記の情報を得たい場合、技能宣言をお願いします。判定によっては不明のままです)

 ▼攻撃方法
 『我を守護せよ』
  蟻たちへの攻撃命令。この指示は『女王』が戦闘態勢に入るまで継続。
  この命令が発動している間、蟻達は命尽きるまで、何度でも立ち上がる。

 『拝謁せよ、女王が御前である』
  特殊攻撃。己に攻撃が届いた(=戦闘態勢に入った)場合、必ず初手に行う。
  全方位全距離/魔法扱い。
  体力の減少はないが、その場にいる全ての対象者に『萎縮』の可能性・大。
  敵味方の関係はない。

 以降は鞭による通常攻撃を繰り返し、倒れる前に逃亡を計る。
 ただし、この鞭には『毒』が塗られているため、注意が必要。

・現在の状況
 ----------
   ★



  □□□
  □□□
  □□□
   ■  
 -----------
 ★=A班(戦闘要員として残ったメンバー)+同行NPC
 □蟻
 ■女王

 このように、『女王』の前に『蟻』達の壁があります。
 女王に攻撃を届けるには、まず壁を抜ける必要があるでしょう。
 必ずしも女王を撃破する必要はございませんが、生きたまま捕縛を狙う場合は難易度がさらに上がります。 
 ご注意下さい。


作者コメント Comment
<解説の続き>

・プランにてお書き頂きたいこと
 下記より役割を選び、それに関するプランをお願い致します。
 A:イストラトスへの迎撃
 B:フィーカの探索を援助

・同行NPCについて
【カズラ・ナカノト】
 記憶を失ったドラゴニアの青年。
 『蟻』の迎撃を担当。近接アタッカー。

【フィーカ・ラファール】
 巨大な竜に村を焼かれた過去を持つ、ルネサンスの少年。
 時間稼ぎの間、過去を探る。彼に付き添い、手助けすることで、探索に必要な時間が削れる。
 
【シトリ・イエライ】
 ローレライの導師(教員)。
 オールラウンダー(盾/近接・遠隔アタッカー/回復役のどれかを担当)。

 また、A参加者が4名以下の場合は、ベリルも同行致します。

【ベリル・ドロン】
 カルマの武闘家(先輩)。
 近接アタッカー。

 相談の結果、シトリ/ベリルへの行動希望があればプランへの記載をお願いします。
(どなたか1人で大丈夫です)
 特に希望がなければ、彼等なりに動きます。


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:180 = 150全体 + 30個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:1
獲得称号:---
【A】

イスラトス、特に女王のお相手をさせていだたきますわ。その前にいる蟻を突破しないといけませんから蟻前衛に近づき、見切りで攻撃を躱したらその体を立体機動で駆け上がると蟻の体を踏み台に上を突破、女王の前に出てみますわ

上手く女王の前に出られたら、女王の特殊攻撃は勇猛果敢を使用し萎縮を回避。女王の鞭攻撃はやせーの勘と見切りでなんとか躱しつつ推測を用い攻撃パターンを解析、その間は魔牙で攻撃。読み切れたと感じたら祖流還りを用いた上で必殺技、無影拳を用い鳩尾を狙い攻撃。初見なら多分受けも躱せもしないと思います。一撃で気絶出来ればいいですが逃げ出そうとしたら縮地を用い回り込みさらに無影拳。必ず捕えますわ!

オズワルド・アンダーソン 個人成績:

獲得経験:180 = 150全体 + 30個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:1
獲得称号:---
B:フィーカ、クロスと共に探索


行動:
「村でよく行くところ、村の入り口からどうやって自宅に戻るか、戻った際に何があったか」裕福だったかなど、
フィーカくんの村での生活、ルーティン、ショックの内容を伺い、
それをもとに【推測】し彼の実家と思しき所を誘導してもらう。

彼の家と思しき所にて【魚心あれば水心】で捜索を手伝い、
【視覚強化・触覚強化】を使い、村の家の内装を想像しながら手で触れ捜索。


フィーカくんの納得がいくまで付き合いつつ、
捜索が終わり次第【とんでく花火】で打ち上げしA班に終わりを伝えます。


合流:仲間と合流し、【アクラ、言の葉の詩:ノクターン】で援助を行います。

アドリブ度:A

シルワ・カルブクルス 個人成績:

獲得経験:180 = 150全体 + 30個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:1
獲得称号:---
【A 迎撃班】
『挑発』によって迫ってくる敵を『忍耐』や『衝撃享受』、『部分硬質化』でダメージを減らし、『攻防一体』にて敵の「気絶による」無力化を狙おうとする
もし(というより「女王」の命令のせいでわかりきっていたことだろうが)無駄であるならば倒すことに切り替えて、時々『灼けつく息吹』を遠隔や回復に対して(とくに回復を優先的に)放つようにする

女王が戦闘状態に入ってからの初手の攻撃を『勇猛果敢』で対処して、それ以降の攻撃には通常通りに防御しつつ『龍の翼』による『飛行』(『空中適応I』込み)で接近し、無力化あるいは撃破を試みる
その際、「サクラビット」で一度だけ「毒」を消し去る

クロス・アガツマ 個人成績:

獲得経験:225 = 150全体 + 75個別
獲得報酬:7500 = 5000全体 + 2500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:1
獲得称号:---
俺は探索に加わり、フィーカ君を導こう
皆が時間を稼いでくれるうちに、彼をかばうように離脱しながら、言っていた家の跡へ向かう

道中も、フィーカ君が反応するものがないか様子を見ながら歩く
集中して目を凝らせば、何か見つけられるやも

あとは、地面などもよく調べてみよう。地下室や床下収納を作っている家があれば、中は無事かもしれない

それと……荒療治かもしれないが、フィーカ君が思い出せない場合は跡地にヒドガトルで火を放とう
ショックを境に記憶をなくしたなら、同じショックで思い出せるかもしれない……彼には、残酷かもしれないがね

記憶を取り戻したあとも仲間達が戦闘中なら、ダードで危険性の高い敵を優先に狙い、支援攻撃しよう

リズリット・ソーラ 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:427 = 150全体 + 277個別
獲得報酬:13500 = 5000全体 + 8500個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:1
獲得称号:---
記憶がないのは、自分が見つからないのと同じやと思う
それが例え 見たくない自分でも フィーカ達はそれを見つけようとしてる
…邪魔はさせへん はよ行き!!

行動…A
蟻散らし 及び挑発をメインとして
味方が動きやすいように

戦闘開始後 接敵時に【暴君誕生】発動
前線で「挑発」も行うことで蟻たちの気を引く
撃破優先は本=弓>剣
積極的に技能使用 敵攻撃時【全力防御】

女王の行動は【危機察知】で不審な動きがあれば味方に伝達
蟻へはあくまで峰内ち
女王接敵時は「挑発」で気を引き
毒になった際は福の針で効果を打ち消す

カズラの体力が消耗している場合は積極的に庇うように行動
女王逃亡前に【体当たり】も試みる

ナノハ・T・アルエクス 個人成績:

獲得経験:180 = 150全体 + 30個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:1
獲得称号:---
■目的
女王の撃破または捕縛

■行動
蟻の壁に隙間が出来たら、突貫して仕掛けるよ。
スピリアで素早さを上げて、グロリアスブースターも併用して一気に駆け抜けて、
マドガトルで弾幕攻撃。

特殊攻撃には盾を構えて防御姿勢、勇猛果敢で委縮を跳ね返す。
そんなプレッシャーなんかに!

その後は鞭に警戒しつつ、間合いを取りつつ回避重視で動きながら矢を撃って攻撃。
牽制が目的だから、当たらなくてもとにかく撃っていくよ。

ある程度鞭の動きが読めてきたら…仕掛ける。
相手の鞭を振ったのに合わせて、こちらもシールドウィップの鞭を振うよ。
攻撃じゃなく、鞭同士を絡ませて使えないようにするために。
見える!そこだぁぁーーーっ!!




ソフィーア・ル・ソレイユ 個人成績:

獲得経験:180 = 150全体 + 30個別
獲得報酬:6000 = 5000全体 + 1000個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:1
獲得称号:---
ルート【A】


防御壁の前に陣取り、【挑発】で蟻たちを引き付ける。

リザルト Result

●序
「随分とおしゃべりな待ち人のようだね、まるで舞台役者じゃないか」
「ホントだよ、もう! しかも僕らのことを、虫って! 失礼しちゃうなぁ!」
 『女王』の言葉を聞いた【クロス・アガツマ】が肩を竦め、【ナノハ・T・アルエクス】が眉を吊り上げる。
「っていうか! そもそも、カズラは貴方のモノなんかじゃないよ! 収穫祭って、そんな勝手、わかってたまるか!」
「同感だ。仲間に危害を加えようとする存在を、ぼくは許さない」
 その言葉と共に、【ソフィーア・ル・ソレイユ】が前に出る。
 一歩、二歩。足を進め、彼女はとうとう、光の壁の向こうへと抜けた。
 どうやら【シトリ・イエライ】の唱えた魔法壁は、あちら側からの攻撃は阻むものの、こちら側からの干渉は許すようだ。
 ならば、とナノハは弓を構える。『飛燕弓』……異世界の技術を駆使して作られたその弓に、魔力を走らせ、矢羽根(ヴェイン)から指を離した。
 風を切る音と共に、矢が走る。銀色のアローは流星と紛う早さと共に、女王の取り巻きである『蟻』の元へ向かうも、その倍の数の雨が道を阻んだ。
「参ったなぁ、これじゃ届かないよ。反撃として打たれる矢が多すぎる」
「ですが、その狙いは今、主にソフィーアさんへと向いているようです。おかげで魔法壁の傷も浅い」
 告げるシトリの視線の先では、ソフィーアが白く輝く大盾を掲げていた。
 元々ソフィーアは子ども並みに小さいのだ。その理由は彼女の過去によるのだが、今はその小柄さが幸いし、彼女の身体は完全に盾に隠されている。
 ゆえに、あとは我慢勝負だった。太陽の光を纏う盾は格好の的となり、蟻達の遠隔攻撃を引き付ける。
(だが、当たらなければ痛みはない。……一歩も動けることはないが、魔法壁が壊れるまでの時間稼ぎにはなるだろう)
 衝撃に耐えながら、ふっと。ソフィーアの唇が笑みを刻む。
 彼女の思考を読んだのだろう、『今のうちに』とクロスが声をあげた。
「行こう、フィーカくん。皆が時間を稼いでくれているうちに、君の過去を探すんだ」
「わかった!」
「僕もご一緒します。皆さん、ご武運を……!」
 走り出した【フィーカ・ラファール】とクロスを追うように、【オズワルド・アンダーソン】も駆け出す。
 そんな彼らを見送ってから、【リズリット・ソーラ】は女王へと視線を戻した。
「……『舞台役者みたい』って、クロスも言うとったけど。なんやあのひと、変やない?」
 ソフィーアのおかげで、安全な時間が増えたこともあり。リズリットは冷静な思考で敵対者の精神を分析し、推測を重ねる。
「変な感じに、ハイになっとらん? もしかして、あの仮面舞踏会みたいなマスクのせいやろか」
 そういえば、カカオポッドの時も、変なバクと戦った時も、妙な仮面が絡んどったけど。なんか関係あるんかな。
 首を傾げるリズリットに、【朱璃・拝】(しゅり おがみ)が反応する。
「可能性はありますわね。……であれば、今までのことを考えると。あの仮面を剥がすか、壊してしまうなりしたほうが、良いのかもしれません」
「そうですね……彼女は確かに、『イストラトス』という犯罪組織の首領のようですが」
 仮面によって、狂人化されている可能性も否めません。
 シトリの言葉に、リズリットが呟く。
「……そういや、ハロウィンの時。ジャックは出来るだけ、カボチャのような仮面を守るように動いとった。あのヒトも、そうするんやろか」
「あの仮面が何かしらの『力』を与えているのなら、壊されないよう動くのは当然かもしれません。狙うにしても、まずは本体の弱体化が先でしょうか」
「『ほんたい』……」
(まるで、ヒトじゃない……仮面に自由を奪われた、『人形』(マリオネット)のような言い回しや)
 口ごもったリズリットの耳に、【シルワ・カルブクルス】の声が届く。
「方針は決まったようですね。では皆さん、構えてください」
 敵の近接隊が、来ます。
 それは他の者達が、過去の出来事を交えて話し合っている間。戦況を目視し続けたシルワだから、言えた言葉だった。
 たとえ『今まで』を知らなくとも、『今』を見据えさえすれば、出来ることはあるのだ。なればこそ、力を惜しみたくはない。
(ですが、今回の相手は……『魔物』では、ないのですよね)
 人間の形に似た、ゴブリンでもない。今回対峙するのは見た目も、きっと性質だって自分達と何も変わらない、『ヒト』だ。
(護ることは、退ける事です。つまり、『傷を負わせる』こと。それはわかっています。……ですが)
 赤の瞳に戸惑いが揺らぐ。その間も、遠隔隊は初期位置のまま矢を放ち、代わりに近接隊が距離を詰めるよう、自分たちのほうへと向かってくる。
 ゆえに、朱璃は踏み出した。光の壁が壊されるその瞬間に、必ず先制を取れるよう、全身の神経を張り巡らせる。
 それはリズリットも、ナノハも同じだった。鎌を構え、弓を連射し、自分たちに有利な状況を作れるよう、動き始める。
 だからシルワも、進むのだ。迷いつつも朱色の盾を掲げ、斧を手にする指に力を籠めて、前に出る。
 ――護りたいものを、傷つけられぬように。

●破
(……あまり、よくない流れだな)
 フィーカと共に探索にあたっていたクロスは、駆けながらも、思考を巡らせていた。
 隣を走るルネサンスの青年を見れば、その表情はどこか強張っていて、いつもの天真爛漫さは消え失せている。
(ここは今一度、冷静になるべきだ)
 思いと共に、クロスの足が止まる。倣うように、オズワルドも立ち止まった。
 しかし、そんなことにも気付かずに、走り抜けようとしたフィーカの腕を、クロスが掴む。
「っ! なんだよ! はやく、探さないと!」
「落ち着くんだ、フィーカ君。探すというが、宛てはあるのか?」
「それ、は……」
 確かにフィーカは、『家があった辺りを探してみる』とは言っていた。だが、その場所を覚えているとまでは、言わなかった。
 つまり、朧げな記憶と勘を頼りに、走っていたのだ。それではあまりにも、時間がかかってしまう。
 彼自身にもそれはわかっていたのか、クロスの問いかけに白の猫耳を下げたフィーカは、ゆっくりと首を振った。
 ならば、と。今度はオズワルドが、問いかける。
「では、この場所に来て、何か思い出したことは? 『村でよく行くところ』や、『村の入り口から、どうやって自宅に戻るか』とか……」
 他にも、お父さんの職業や、立場とか。
 その言葉に、フィーカは勢いよく顔をあげる。
「そういえば、カズラを売ったっていう奴隷商人が、言ってた。買った商人……とうさんは、リストニアルタの『お偉いさん』だったって」
「『お偉いさん』……たとえば、『村長』さんとかでしょうか?」
「うん……たぶん、だけど。おれも、そうだったような、気がする」
「ならば、地下に部屋を設けている可能性はあるな。村に何かあった時のために、食料を溜め込む場所として利用するヒトも多いと聞く」
 それに地下ならば、地上で何があったとしても、無事なはずだ。
「まずはその入り口を、探してみよう。そこに、フィーカ君に繋がる何かが、眠っているかもしれない」
「ちか、しつ……」
 クロスの言葉に、フィーカが反応する。
「……地下室、あった。あった気がする。ううん、おれ、地下室から『出て来たんだ』。それで」
 かあさんを、『見つけた』んだ。
 呻くような言葉と共に、フィーカが頭を抱える。それはまるで、思い出しかけた記憶が、痛みとなって襲い掛かっているようで。
 思わず彼の背に手を伸ばしたオズワルドは、ゆっくりと擦りながら、元来た道を振り返る。
(皆さんのほうは、大丈夫でしょうか。いえ、皆さんならば、問題ないとは思いますが……)
 あの『首領』を名乗っていた女性の様子は、普通ではなかった。
(手がかりを見つけたら、一刻も早く。合流しなければ――……)

 その頃。迎撃班は、女王を守る蟻達と激突していた。
「皆さん! 出来るだけ、バラバラにならないように……っ!」
 シトリの声が響く。彼は両手杖を構え、時に振り下ろし、全員の支え役として回っていた。
 とはいえ、魔法には届く範囲というものがある。
 ゆえに、前衛は後衛から離れ過ぎないように気を付け、しかし少しずつ相手の戦力を削り、前進することで、近接隊を押し戻していく。
「もっと後ろの奴らに近付けたら、優先は本を持っている奴や! あいつら、近接隊を回復しよる。これじゃあ、いくらやっても……っ!」
 叫ぶリズリットの声を遮るよう、矢が降る。頬に走った痛みに、舌打ちが漏れた。
「あぁっ、弓もやっかいやな……っ!」
「……おれがいく」
 声と共に、マフラーが揺れる。
 それが、【カズラ・ナカノト】がいつも身に着けているものだとリズリットが理解した時には、もう彼の姿は消えていた。
 突撃する。片腕を青銀色の鱗で覆われた龍のそれへと解放し、もう片手で持った盾を傘代わりに、矢の雨をくぐりつつ、カズラが走る。
 しかし、阻まれた。遠隔隊よりも前に陣取る近接隊が、カズラを標的に定めたのだ。
 その刃を退けたのは、シルワだった。鈍い音と共に盾で受け止めたシルワは、そのまま攻撃に転じる。
 『攻防一体』(パリィ・アンド・カウンター)。それはシルワが、これまでの経験の中で磨き上げて来た、戦闘スタイルだった。
(防御と同時に相手の態勢を崩させ、そこから生じた隙を突き、反撃する……っ!)
 あの日、学園に入学したばかりの時。今も手にしている赤色の斧と盾を見つけた際、頭に思い浮かべた動きを、まさに体現していた。
 成長は、結果となって現れる。思わず双剣を取り落とし、倒れ込んだ男は、見るからに意識を失っていた。
 命を奪うよりも、相手を『死なせないよう気を回し』、『加減』することのほうが、戦場では難しい。
 それでも可能なら、『奪いたくない』と。シルワは思う。
 しかし、その願いを無視するかのように、男は『立ち上がった』。
 武器を拾い上げる間もなく、白目を剥いたまま、殴りかかってくる。
「……っ!!」
 解放した龍の鱗で硬質化した腕で受け止め、弾く。しかし痛みを気にしないかの如く、男はまた、挑んでくる。
「何故ですか……っ!」
 悲痛を含んだその声と共に、熱を孕んだ息吹を吐き出す
 今度は完全に、動かなくなった。
 それに一度、シルワは瞑目するも。すぐに瞼を持ち上げる。
 赤の両目にはもう、迷いよりも、覚悟が滲んでいた。

「うん、そうだ……あの後、おれ。かあさんの、墓を作ったんだ」
「それは、『旅の者』というヒトと、一緒にですか?」
 主に、オズワルドに質問を投げかけられつつ、フィーカは足を進める。
 彼等は来た道を引き返すようにして、走り抜けて来た大地を再確認するように、歩いていた。
 理由は、地下室の入り口と思わしきものを探すためだったが、ここでもう1つの手がかりに辿り着く。
「そう。おれがぐちゃぐちゃに泣いてたら、声をかけてくれたヒトがいて……」
 フィーカが言うに、彼は件のドラゴンが飛び去った後も、母の亡骸を抱きしめたまま、泣き続けて。
 そうして、どれほどの時間が経ったかわからないくらい後に、『旅の者』だと名乗る誰かに、声をかけられたのだそうだ。
 幼いフィーカにとって、哀しみの淵に居る最中に向けられた優しさは、あまりにも温かく、疑う理由なんてなかった。
 だから彼は、拙い言葉で自分の状況を話した後、黙って聞いてくれていたそのヒトと、『かあさん』を土に還したらしい。
「ただ、あの時のおれは小さかったから、ろくに穴も掘れなくて。ほとんどそのヒトが、やってくれたんだけど……」
「では、その目印になりそうなものとかは? たとえば、石や木であつらえた、墓標とか」
「墓標のつもりかは、わかんないけど。たしか、種を植えてた気がする。いつか此処に帰って来た時。おれがこの場所を、見つけられるようにって」
「ビンゴ、それだ。地下室の入り口を探して歩き回るより、この『何もない場所で、何故か咲いている』花を探して走ったほうが、早い」
「そうですね。色を持つ花ならば、走りながらでも目に留まる。見つけたら、其処を起点に、地下室への入り口を探せば良い」
「……そっか。ふたりとも、頭良いな。おれ一人だったら、すごく時間かかったかも」
 ありがと、ついて来てくれて。
 苦笑するフィーカの頭を、クロスが撫でる。
「その『ありがとう』は、探し当てた後だ。それに、俺達がこうやって考えられる時間だって、『仲間』のおかげだろう?」

「ぁぁあああ゛あ゛ーーー……っ!!!!!」
 叫ぶ、足掻く、――猛(たけ)る。
 唇から零れた雄叫びすらをも挑発に換えて、リズリットが鎌を振る。
(記憶がないのは、自分が見つからないのと、同じや)
 けれど、それが例え、見たくない自分でも。フィーカ達はそれを、見つけようとしてる。
 ならば。
「絶対に……っ! 邪魔、させへん……っ!!」
 ダガーを両手に飛び掛かってくる男も、自分に向けて放たれたアローすらをも、全て薙ぎ払う。
 だが、動きは一辺倒ではない。暴君のように振り回していた鎌も、死角を突かれれば咄嗟に盾のように構え直し、全力で防御に回った。
 しかし、リズリットもシルワと同じように、蟻への攻撃は『峰内ち(みねうち)』に留めようと考えていた。
 ゆえに、それは起こる。まるで『意識を失ったままのヒト』が、操られているかのように『立ち上がり』、『攻撃を仕掛けてくる』。
(おかしいやろ、こんなの。ただのヒトに、出来るわけない……っ)
 だからリズリットは、未だ蟻達の壁の向こうに居る、女王を見た。そういえば彼女は、安全な場所に居るものの、一度も攻撃を仕掛けようとはしない。
(……なんで? 手が塞がっている今のうちらは、格好の的やのに?)
 先程の話しぶりを見るに、だいぶ好戦的な人物のようだった。
 なのに、何もしてこないのは。この状況を面白がっている可能性もあるが。
(……『既に何かしていて』、『何もできない』から?)
「なぁ、誰か! 女王になんか、届きそうなヒトおるっ!?」
 殴りかかってくる男達を避けながらも、リズリットが呼びかける。
 曖昧な言葉だったけれど、共に戦う『仲間』であればこそ、意図は届いた。
「任せてっ!」
「やってみますわ……っ!」
 ナノハと朱璃が、動く。それはつまり、蟻達への牽制が薄まったと言う事だ。
 途端に包囲されたリズリットは、その煩さに、眉をしかめる。
 周囲から聞こえる、声、コエ、こえ。それらが重なり、しかしその中に、交じるものがあった。
『なんで、壊さへんの?』
 あの日、夢の中で聞いたような『声』が、語り掛けて来る。
『加減なんてせぇへんで。したいようにしたらええやん』
(……うるさい)
『簡単やろ? 壊すほうが、得意なんやから』
「うるさい、うるさい、うるさい――……ッ!!!!!」
 『知音騒響』(ミラーノイズ)。思考を絡め取るような雑音を、鎌と共に振り払う。
 大振りで放たれた一撃に、多くの蟻達が吹き飛ばされた。
 しかしそこに、『道』が出来る。
 ゆえに、ナノハが進んだ。
「いっけぇーーーー……っ!!」
 空気中に流れる魔力を、『風』を媒介として体に纏わせる。
 そうして軽くなった身体を、グロリアスブースターを噴かせることで、さらに早く。
(前へ、前へ……っ!)
 突進する。隊列を著しく乱された蟻達の間を、一気に駆け抜ける。
 その間も、攻撃の手は緩めない。弾幕も兼ねてマドガトルを連射し、遠隔隊や治癒隊にも攻撃を仕掛けることで、更なる道を作った。
 だから朱璃もまた、行く。
(辛くても、哀しくても。ご自身の過去と向き合う決意をなされたお二方の、邪魔をさせる訳には参りません……!)
「ですから、私。あなた方に構っている暇は、ございませんのっ!」
 自分に剣先を向けてきた男の攻撃を躱した朱璃は、そのまま身を翻し、体勢を崩した男の腕や肩を利用して、跳躍する。
 銀の髪が、煌めいた。きらきらとした輝きは、やがて曲線を描いて『リズリットの攻撃により隊列を乱した男の、背中』へと着地する。
 しかしそれも束の間、瞬時にジャンプした朱璃は、さらに『ナノハの攻撃により隊列を崩した、遠隔隊や治癒隊』を足場にして、宙を進んだ。
「あいつ、俺たちを踏み台に……っ!?」
 驚きの声を背に、壁の向こう側にて着陸する。そのタイミングは、ナノハが女王の元に辿り着いたのと、同時だった。
 だからこそ、朱璃は見る。進みながらもナノハの放った矢が、女王の肩を掠めた瞬間、仮面の女が轟(とどろ)くような声をあげたのを。
『無礼であるぞ! 拝謁せよ、女王が御前である――……っ!!』
 
「……? 今なんか、すごい音が、聞こえたような……」
 ふいに、立ち止まったフィーカが顔をあげる。そんな青年の腕を、オズワルドが引いた。
「……皆さんのことが気になる気持ちは、わかります。ならば尚更、こちらに集中しましょう」
「うん……」
 頷きつつも、フィーカはオズワルドの顔が、強張っていることに気付いた。
(すごいな。きっと、オズワルドにも聞こえてて。それでも、……冷静なんだ)
「あったぞ! リンドウだ!」
 淡い憧憬(どうけい)に、クロスの声が被さる。
 思わず駆け寄ったフィーカ達は、荒れ果てた大地に紫の花が咲いているのを見た。

 その頃。戦場では、静寂が広がっていた。
 全ての生き物が、動きを止める。それは天を割くような声に威圧され、膝をついた学園側の者だけでなく。
 女王の怒りを伝搬された蟻達もまた、同じだった。
(なんだ、これは……っ!)
 さっきまで荒んだ声が飛び交っていたとは思えない状況に、ソフィーアが目を瞠(みは)る。
 彼女の銀と金のオッドアイには、女王に向かって片膝を立てるようにして座り、首(こうべ)を垂れる蟻達の姿が映っていた。
 それは学園側の者も同じように見えたが、しかし少しだけ、違っている。
 誰一人、俯いてはいなかった。
(抗っているのだ、皆……)
 上空からの、目えざる手によって。まるで『平伏せよ』と、圧し潰されそうなほどの重圧を両肩に感じつつ、ソフィーアは思う。
(誰が……っ!)
 貴様なぞに。従って、たまるものか。
(我は……っ!)
 今に、昔に。誓ったのだ。
(ひとつ……っ)
 『力なき人々の、力になること』。
 それは『彼女』の声でもって、脳内に再生される。
(ひとつ……っ!)
 『悪には、屈しないこと』。
(あぁ、そうだ。だから――)
「負ける、ものかぁ……っ!」
 立ち上がる。
 瞬間、肩にかかっていた力がふっと消え、ソフィーアは盾を拾い上げた。
 その頃には、朱璃、ナノハ、シルワも態勢を整えていたが、リズリットだけはまだ、膝をついている。
(さっきの『うるさい!』が、尾を引いているんだろうか)
 彼女(それとも彼だろうか、ソフィーアには判別がつかなかった)の事はよく知らないが、あれではまるで、『トラウマ』を踏まれた子どもだ。
 ゆえにソフィーアは、一度だけ頭(かぶり)を振ると、リズリットに近付く。
「……大丈夫だ」
 ひとまず、声をかける。それでも何も返らなかったけれど、気にはせずに、腰を落とす。
「『あきらめないこと』、『仲間を、信じること』……」
 唱えながら、盾を構え直す。今度は自分だけでなく、焦点を失った瞳のリズリットの姿もまた、隠すように。
 すると、ふっと、声が聞こえた。
「ソフィーアさん。そのままの状態で、しばらく私とリズリットさんを守っていて頂けますか?」
 できれば、『元気になるおまじない』を、かけ終わるまで。
 場違いなほどに穏やかな声が、鼓膜に触れる。それはシトリによるもので、ソフィーアは頷いた。
(必ず、ぼくが護る)
 思いつつ、ソフィーアは盾を持つ指に、力を籠める。
 『約束を、絶対に守ること』。
 それもまた、『彼女』と交わした5つの誓いの、1つだから。

 戦況が大きく変わる中、探索班もまた、転機を迎えていた。
 花開くリンドウを基点に捜索を続けた結果、地下室への入り口を見つけたのだ。
 まるで地下シェルターの扉を思わせるそれは、鉄製で、ひどく錆びついていた。
(ということは。ここが、フィーカ君の家があった『はず』の、場所か)
 本当に、全て灰になってしまったのだな。それがクロスの、率直な感想だった。
 扉の周りには、やはり広大な大地しか『なかった』のだ。
(ならば。それを引き起こしたドラゴンは、一体どれほどの脅威なのだろう)
 考えながら、フィーカ、オズワルドと共に力を合わせ、重い扉を持ち上げる。
 暗い場所に繋がる、階段が姿を現した。
「……行くかい?」
 『君も』。音にならなかった言葉に、フィーカは気付く。
 この先には、もしかしたら。……たとえば、見つかっていない父親の残骸とか。
 見たくもないものが、眠っているのかもしれない。
 それでも、頷いた。
「……うん」
「そうかい」
 僅かな返答のみ述べたクロスは、ポケットから取り出した紅薔薇のキャンドルに、火を灯す。
 そうして、三人は。淡いオレンジの明かりと共に、――進んでいく。

●急
 リズリットの心が××から解放された頃、戦場は再び、音を取り戻していた。
 しかし、それは。少し前までとは違う声で満たされていることに、シルワは気付く。
(……『女王』への賛美が、なくなった?)
 それだけではない。先程まで、『女王万歳!』と言いつつ剣を振り回していた男たちが、一向に『攻撃を仕掛けてこない』のだ。
 膝をついていた彼らが立ち上がったのは、復帰した朱璃やナノハが再び女王に攻撃を仕掛け、それに対し仮面の女が応戦を始めてからだ。
 だが、それから。男たちは何処か戸惑うように、自分の両手や、鞭を奮う彼らの首領。そして自分たちに対峙していた学園の生徒達を見るばかりで。
 ゆえにシルワは、声をかける。警戒心は解かぬまま、それでも、ほんの少しの祈りを籠めて。
「……もしかして。『今まで、ずっと。意識がなかった』のでしょうか」
「いいや、覚えてる。俺達は、姐さんの指示に従って、『鏡の目を持つドラゴニア』を捕まえに来たんだ」
 その言葉に、リズリットが動く。『絶対に渡さない』とでも言いたげに、カズラの前に立った。
 だが、そんなリズリット、そしてカズラを一瞥(いちべつ)した男は、『ワケが分からない』とでも言いたげに、頭を振る。
「しかし、それはもっと……たとえば、あの白猫を人質とか、そういうつもりで。こんな、力押しでいくはずじゃ」
「聞き捨てならない言葉もありましたが、つまり。あなた方は、誰かに。『体(てい)の良い駒として、使われた』可能性があると言う事ですか?」
 たとえば、彼女が言っていた。『あのヒト』とか。
 シトリの問いに、男は視線を彷徨わせてから、頷く。
「でも、思い出せねぇ。そいつがどういう姿で、どんな奴だったのか。そもそも姐さんだって、昔は『あんな話し方じゃなかった』」
「……待て。どうして君たちは、そんな大事なことをべらべらと、話すんだ。君たちにとって、ぼく等は『敵』だろう?」
 会話が成り立っていることに、逆に不信を募らせたソフィーアが、瞳を細める。
 それに対し男はリズリット、――そしてシルワを見た。
「ワケがわからねぇ状況だが、俺も、きっと他の奴らも、さっきまでの記憶がないわけじゃない」
 だから、覚えてるんだ。
「こんな俺達にも、情けをかけてくれたろう、アンタら。それが理由だが、俺らにだって、護りたいもんがある」
「命か?」
「いいや、仲間だ」
 問いかけるソフィーアに視線を戻した男は、だから、と続け、
「俺達はこれで、退散させてもらう。こんな所で捕まる訳にも、死ぬわけにもいかねぇんだ」
「逃がすと思うか?」
「俺たちに時間を割くのか? 早く行かねぇと、イストラトスの首領『だった』バケモンの相手をしてる奴らが、死ぬぜ?」
「貴様……っ!」
「……ソフィーアさん、今は彼等の言う通りにしましょう。急ぎ朱璃さんと、ナノハさんの加勢へ」
 激昂するソフィーアを、シトリが制す。ゆえにソフィーアは男へ視線を戻すと、思いきり吼えた。
「次に会った時、覚えていろ! 貴様らが悪であったことは、変わらん……!!」
「あぁ、そうだな。だからこそ、……ありがとよ」
 俺たちを。『人間』扱い、してくれて。

 クロス達が階段を降りると、その先には彼の予想通り、地下室があった。
「この匂い……チーズか。随分多いな、村の特産品だったのか?」
「覚えてないけど、父さんは商人だったから。そういうのも、取り扱ってたのかも」
「なるほど」
「フィーカさん、クロスさん!」
 棚に並べられた黄色の塊を見ていた二人に、オズワルドが駆け寄る。
 その手には、埃を被った書物が握られていた。
「これを拾ったのですが、表紙には『Diary』と。もしかしたら、ご家族が書かれたものかもしれません」
「……っ!!」
 弾かれるように顔をあげたフィーカは、しかしすぐに、眉を下げる。
「……おれ。まだ、文字よむの、苦手……」
「では、フィーカさんさえ良ければ。僕が読み上げましょうか」
「良いのか……っ! あ、でも急いでるし、必要そうな部分だけで良いから!」
 なんて言いながらも、フィーカの瞳は輝いて見えた。
 今日初めて、彼が見せた明るい表情に、オズワルドも笑みを返す。
 そうして開かれた日記帳は、こんな一文から始まっていた。
『あのヒトと、ついに結婚することになったの! きっとこれから、幸せな思い出でいっぱいになると思うから。今日から日記を書くことにしました』
 ――それは、とある女性の。思い出綴りだった。
 彼女は元々旅が好きだったが、路銀稼ぎも兼ねてしばらく『幻灯』に滞在していた。
 しかしそこで、『オスカー』という男と出会うが。彼は自分と同じ白猫のルネサンスだったこともあり、すぐに意気投合し、結婚。
 オスカーが村長を務める『リストニアルタ』にて、新たな居を構えることとなったらしい。
(と、言うことは。幻灯にて聞いた『おにぎり屋の看板娘』は、フィーカさんのお母さん、ということでしょうか)
 ならば、と。オズワルドはしばし指を動かす。
 『フィーカ』の並びを目印に頁を捲っていくと、ある記述が目に入った。
『オスカーが新しい子どもを連れて来た。鏡のような瞳をしている、ドラゴニアの子。奴隷だった子を買ったのだそうだ』
 そこには、探していた真実が、綴られていた。
 フィーカの父であるオスカーは、カズラの瞳の価値を知っていて。保護するために、奴隷商人の言い値で購入したこと。
 リストニアルタのような小さな村で目立たずにいれば安全だろうと。ちょうどその頃生まれたばかりの、フィーカの兄役として育てる事を決めたこと。
『それなら、名前を付けようと言うことになって。その子にカズラと言う名前をあげた。幻灯で聞いたけれど、『助け合い』という意味があるらしい』
 辛い人生かもしれないけれど。どうかフィーカと助け合って、生きて欲しい。
『けれど、ルネサンス同士ではドラゴニアは生まれないから。村のヒトの目もあるし、カズラは私達の使用人として育てる必要がある』
 だからと、オスカーが『ナカノト』という姓を贈った。この子の未来が、幸い多きものでありますようにと。商人の常套句から取ったようだ。
『それぞれの名前の理由を、カズラにも話したけれど。カズラの心は傷つき過ぎているのか、何の反応も返さなかった』
 けれど、いつか。その意味を分かってくれると、私達は嬉しい。

(――強い……っ!)
 蟻達が姿を消していく間も、女王と対峙し続けていたナノハは、思わず歯を食いしばった。
 強いのだ。予想以上に力も素早さもあり、耐久力も、そして体力もあった。
 格上の相手だと、経験で感じる。
(でも、こっちは……っ!)
 一人ではない。それが大きな優位性(アドバンテージ)となった。
 女王の武器は、鞭だ。その射程範囲は広く、しかも即効性の毒が塗ってあるのだろう。
 避けたつもりでもほんの少し掠るだけで、酷い痛みと立ち眩みに襲われた。
「くっ……」
 しかし、そんな時に助けてくれるのは、仲間だった。
「こっちも見てくださいなっ!」
 ナノハの不調を感じて、朱璃は迷わず、女王の懐に飛び込む。
 そもそも鞭は、中距離を得意とする武器だ。ゆえに近接アタッカ―である朱璃にとって、相性が良い。
 だからこそ、遠隔アタッカーであるナノハに鞭を奮った瞬間は、好機でもあった。
 瞬時に距離を詰めた朱璃は、己の指先に魔力を籠めると、肥大化した爪で薙ぎ払う。
 女王の服が割け、ぱっと赤が舞った。
 しかし、お返しとばかりに襲い掛かってくる鞭から距離をとるため、後ろに飛ぶ。
 つい先ほどまで朱璃が立っていた場所の大地が、音を立てて割れた。
 入れ替わるように、ナノハが狙い撃つ。
「当たれ……っ!」
 良い位置だ。女王の腹に穴を空け、矢が突き刺さる。
 だというのに、女は笑いながら、再び鞭を振るった。
(まるで痛みなんか、感じていないみたいだ……っ!)
 背筋をひやりとしたものが駆け抜ける。そんなの、『常人』じゃない。
 そもそも女王は、自分たちの攻撃を避ける素振りがない。怯む様子もない。
 ――これでは、どれだけ傷をつけても、隙が出来ない。
 同じ思いを抱きつつも、朱璃とナノハは交互に休憩とアタックを入れ替え、女王に向かっていた。
 けして、退かない。相手の動きを少しずつ把握し、勝機を探る。
「遅くなりました……っ!」
 そこへ、シルワ達が合流する。それは『蟻達が退いた』がゆえに、叶った状況だった。
 ゆえに今度は、『仲間』たちと共に、対峙する。

「そっか……、カズラはおれの、にーちゃんみたいなヒトだったのか」
 新たな情報はないかとオズワルドが頁を捲っていた時、フィーカが呟いた。
「言われてみれば、にーちゃんって呼んでた『誰か』がいた気がする」
「それどころか、弟さんもいるようですよ」
「えっ?」
 驚くフィーカに、オズワルドは最後の頁を見せる。
 そこには、弟の『オルカ』が熱を出したという記述が並んでいた。
『生まれたばかりのオルカは体が未成熟だから、このままにしておくと危ないと、村のお医者さんに言われた』
 だからオスカーが馬車を出し、エルメラルダへと向かった。自然豊かなあの国ならば薬草も豊富で、対処法も見つかるかもしれないと。
『今から行けば、きっと明日の朝にはつくはず。私には祈ることしか出来ないけれど、どうか無事で、いて欲しい』
「これはつまり……弟君と御父上は、生きているという事では?」
 クロスの推測に、フィーカが目を瞠(みは)る。
「この頁で終わっているのなら、『その先は書けなかった』ということだ。きっとこの話が、ドラゴンの襲撃が在った前日だろう」
「じゃあ……、じゃあ……っ!!」
 言葉と共に、フィーカが動いた。駆け足で、階段を上り始める。
「フィーカ君、どこへ……」
「戻るんだ、皆の所へっ! そして伝えるんだ、カズラにっ!」
 おれたちは。ひとりぼっちじゃなかったんだって……っ!

●転
 パァンと。花火が鳴った。
 それはオズワルドが放った『探索終了』の合図で、戦闘を続けていた者達の緊張を、少しだけ和らげる音だった。
 だがそれをつまらなそうに見上げていたのは、女王だった。
「なぁに? 今の。無粋だわぁ……もう帰ろうかしら」
 せっかく、楽しい気持ちだったのに。
 言葉通りの様子で肩を竦めた女王に、誰もが動いた。
「仮面や……っ! 仮面を狙えっ!」
 言葉と共に、リズリットが体当たりを食らわせる。
 そんなことでは動じない女王だったが、束の間動きが止まった。
 ゆえにナノハが、搦め手(からめて)に出る。
「そこ、だぁぁーーーっ!!」
 盾として使っていたシールドウィップの鞭の部分を使い、女王の鞭を『絡め取った』のだ。
 それはつまり、女王の動きを大幅に制限する結果となる。
「小賢しい……っ!」
「女王様は、色々とご存知の御様子。是非、教えて頂きたいですわ」
 その言葉が声となった時、朱璃の四肢は銀の狼のものに変わっていた。
(兄様、私に力を――……)
「はぁぁぁぁ……っ!!!!!」
 『無影拳』(バニシング・パンチ)。
 片足を引き、逆の足の力を抜き。目に見えぬ速さで体を動かし、相手を視覚的に撹乱(かくらん)することで、文字通り『見えない拳』を放つ。
 ゆえに、女王も避けられなかった。狙い通り、朱璃の突きは女王の仮面……眉間の部分を、正確に捕える。
 ピシリと、亀裂が走った。
「なっ……お前、お前ええぇぇっっっ!!!!!」
「うるさぁぁぁいっ!!」
 叫びながら、ナノハが弓を構えた。
 手にしていた鞭を投げ捨てて、矢を番える。
 だがその時、女王もまた、動いた。
「許さない、すべて、全て、壊れてしまえっ……!!」
 腰に下げられていた仮面に、女王が触れる。
 ナノハが矢を放ったのと、女王が仮面を投げたのは、同時だった。
「……うぅっ!!」
 女王の仮面が砕ける。その逆側で、カズラが倒れた。
 その肩には、仮面が『貼り付いている』。にたりと、笑ったような気がした。
「カズラ……ッ!」
 叫ぶリズリットの瞳に、2つの影が映った。
 1つは、ナノハが再び放った矢により脚を撃ち抜かれた女王が倒れ、その身体から黒い靄(もや)のような物を立ち昇らせたこと。
 そしてもう1つは、カズラの肩に貼り付いた仮面が何本もの黒い触腕のようなものを突出させ、カズラの体を縛ったこと。
「返せ……っ!」
 咄嗟に引き剥がそうと、リズリットが動く。しかしその手を振り払ったのは、他ならぬカズラだった。
「だめ、来ちゃ……あぁ、あああああっっっ!!!!!」
 叫声と共に、カズラの姿が変わる。
 べきり、ごきりと嫌な音が鳴り、蠢いていた黒の束を内側から吹き飛ばすようにして姿を現したのは、――巨大なドラゴンだった。
 全長約20mと思われるドラゴンは、頭、尻尾、翼に至るまで、カズラが腕を龍化させた時と同じ、暗い青銀色の鱗に覆われている。
 その瞳もまた、緑と銀。ゆえに、突如として現れた巨躯を見上げながらも、リズリットは尋ねる。
「カズ、ラ……?」
『―――― ……ッ……―――― !!』
 咆哮。耳を劈くようなその音に、誰もが耳を塞いだ。
 しかしそこに、声が増える。
「お前……」
 フィーカだった。オズワルド、クロスと共に戻ってきた彼は、仲間の近くに立つドラゴンを見て。
「――お前だ! お前のせいだっ!!」
 叫んだ。その言葉に、ドラゴンはオッドアイの瞳を見開き、やがて……閉じる。
「落ち着くんだ、フィーカ君」
「でも!! こいつが、おれの村を焼いた、かあさんを殺したドラゴンなんだっ!」
 腕を取るクロスの手を払い、腰に下げていた剣を抜くフィーカ。
 その姿に、シルワが声を上げる。
「違います! カズラさんです!!」
「えっ……?」
「カズラさんなんです……っ!!」
 悲鳴にも近いその声に、フィーカが破顔する。
 思わずと言ったように周囲を見回すも、カズラの姿は、見当たらなかった。
「じゃあ……じゃあ……っ!!」
 『ぜんぶ、お前のせいなのかよ……っ!』
 震えるようなその声と共に、ドラゴンが飛び立った。
 カズラと同じ色の鱗、双眸を持ったドラゴンは、夕焼け色の空の中、この場に居る者達を見る。
 しかし、それも暫し。もう一度鳴いたかと思えば、何処かへと飛び去って行った。
 破れてしまったマフラーと、転げ落ちた勾玉型の『お守り』だけを、残して。



課題評価
課題経験:150
課題報酬:5000
【想刻】忘却の勇戦
執筆:白兎 GM


《【想刻】忘却の勇戦》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2020-10-05 19:50:49
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

今の所Aの迎撃をしようと思いますわ。

《2期生》 シルワ・カルブクルス (No 2) 2020-10-06 22:01:09
村人・従者コースのシルワ・カルブクルスです
よろしくお願いします

私もAで迎撃をしますが、「女王」に対してはLvが足りていないので当分の間は「蟻」退治に専念させていきますね

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2020-10-07 18:38:59
女王のスキルで萎縮がかかる可能性があるみたいですわね。勇猛果敢は持って行っておいた方がよいでしょうか。

とりあえず私は女王に攻撃を仕掛けてみようとは思いますが蟻の壁を抜けないとだめみたいですわね。立体機動で蟻に「俺を踏み台に!?}等と言わせながら上を抜けてみるとか・・・?女王には必殺技を使ってみようかと。多分初見なら躱されないとは思いますので。

《比翼連理の誓い》 オズワルド・アンダーソン (No 4) 2020-10-07 19:49:35
皆さんAのほうに向かわれますね、
僕は戦闘面はそこまで強くない(レベル無視)ので
フィーカくんの手助けにBの捜索に回らせていただきます。


《勇往邁進》 リズリット・ソーラ (No 5) 2020-10-07 20:40:54
魔王コースのリズリット、カズラたちとちゃんと会うのは今回が初めてやけど、よろしゅうに

探索とかはあんま得意やないし、Aの方にいくわ。
蟻散らしなら任し(サムズアップ)
女王の仮面、気になるんよね……ここ最近の敵に仮面つけてるやつ見かけたし、何か使えそうな技能ないか考えとく。

>女王の処遇について
んで、これは皆がどう思ってるのかの確認やねんけど
撃破か捕縛か、どうする?最低限これだけは聞いておきたい
捕縛になるなら、道具とか必要になるし……

《2期生》 シルワ・カルブクルス (No 6) 2020-10-07 22:56:13
>女王の処遇
…できれば捕縛したいですが、相手が強敵である以上難しくなる可能性がありますね……。
その点についてはみなさまにお任せします

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 7) 2020-10-07 23:01:41
>女王
情報を取るなら捕縛が望ましいとは思いますわね。難しいとは思いますが可能な限り目指してみますか?

《イマジネイター》 ナノハ・T・アルエクス (No 8) 2020-10-07 23:12:39
賢者・導師コースのナノハ・T・アルエクスだよ♪

どう立ち回るかはまだ考え中だけど、とりあえずAの方に行くつもりだよ。

《ビキニマン》 ソフィーア・ル・ソレイユ (No 9) 2020-10-09 08:15:42
ぼくは、武神・無双コース専攻のソフィーア・ル・ソレイユだ。

できる限り先生の防御壁がは長持ちするよう、前に陣取って、敵を引き付けておきたいと思っている。

仮面の女についてだが、今回の任務はあくまで、フィーカの記憶を取り戻させることだ。あまり欲張るのはよくないかもしれない。相手は狡猾なようだ。こちらが欲しているのを気取られると、足元をすくわれるぞ。くれぐれも慎重にな。

捕縛を狙うことに反対はしない。君たちの総意に任せるよ

《運命選択者》 クロス・アガツマ (No 10) 2020-10-09 13:36:22
顔出しが遅くなってすまない。
賢者・導師コースのリバイバル、クロス・アガツマだ。よろしく頼むよ。

Aに向かう人が多いようなので、こちらはBで探索をしてみる。
跡地、とだけあるので具体的にはまだ決まっていないが、既視の景観に連れていければ思い出せるだろうか……

《イマジネイター》 ナノハ・T・アルエクス (No 11) 2020-10-10 02:40:54
よし、決めた!

僕は女王を狙おうと思うよ。
どこかで仕掛けないと、我を守護せよで延々と壁が立ち上がってきそうだから、
隙あらば突っ込んで遠距離攻撃を仕掛けようかと。
その後は、そのまま女王と戦うつもり。毒の鞭にも気を付けないとだね。

《勇往邁進》 リズリット・ソーラ (No 12) 2020-10-11 12:24:54
あぁ…もう出発やね。
クロスとオズワルドはフィーカ達のこと頼むな

改めて、うちは蟻散らしをメインにする
あと、女王の仮面について何か分かったらすぐに伝えるよ
一応毒消し草持っていくから、1回くらいやったらフォローもできると思う
…みんな、頑張ろうな