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温泉シャバダ!


ストーリー Story

●あらまぁ、びっくり遠足
「お前ら、毎日授業と課題で疲れてンだろ。たまにゃ温泉行こうぜ温泉ー」
 武神・無双コースを担当している教師【ペトラ・バラクラヴァ】は学園の昇降口で学生達を集めると偉そうに腰へ筋骨隆々とした手を当てた。
「温泉……ですか? 温泉というとトルミンの?」
「それ以外にどこがあるってんだよ。なんかさぁ、トルミンの温泉周辺に魔物が出たってゆーからまずそいつらブッ倒してさ。で、その後に謝礼として温泉を自由に使ってほしいってさー。アタシも同行するからボランティア兼湯治に行こうぜー」
 その提案に学生たちは顔を見合わせた。
 魔物といえど千差万別、その辺の森にいるゴブリンのような弱い者ならともかく狂暴極まりない魔物がいるなら危険だ。
 そんな彼らに対しペトラは『ははっ』と笑う。
「今回暴れてる奴らはそんなに強かねぇんだと。ただ、数が多いから自警団や傭兵だけだと心もとないってんで手を貸してほしいそうだ。だからまだ戦闘経験の少ない奴らもどんと来いって話になってる」
「……それなら良かった」
 ほっとする新入生。そこでペトラは続けて指を3本立て、トルミンの温泉の特徴を紹介を始めた。
「トルミンの魅力、まずひとつめ。トルミンの中心街にほど近い大温泉郷『ギンザーン』の共同露天風呂はなんと混浴。水着着用前提で、集団で入っても問題ないぐらいの広さがある。水着も貸し出しているそうだから気兼ねなく利用してほしいそうだ」
「こ、混浴!?」
「でも変なことは考えんなよ。もし何かあったら監督責任でアタシの拳を飛ばすぜ?」
 筋張った拳を力強く突き出すペトラ。
 それにぶるりと震えながら学生達は黙って話の続きを聞く。
「で、ふたつめは中温泉郷『ザ・ウォウ』。ここはトルミン中心部から北東に離れた位置にある小規模な温泉郷で、白く濁った泉質が特徴の共同露天風呂がある。湯温がちっとばかり高いから長湯には向かねえが、静かな場所でのんびり休みてえって奴には向いてるかもな」
「なるほど」
「で、問題はみっつめだ。マルカス・デガラス内に秘境温泉地『セミナルーゴ』って地域があるんだが……そこは間欠泉があって熱湯が噴き出すことがあり、慣れていないと危険だ。おまけに魔物も当たり前のように居やがる。だから今回はそこの利用だけは禁止する。セミナルーゴにはギルッチ団の屯所もあることだし、治安維持は奴らに任せた方がいいだろう」
 とにもかくにも、今回はトルミン周辺からザ・ウォウまでの魔物を駆逐すれば十分らしい。
 ペトラは『ま、そんなに離れたとこに突っ込まなきゃ丁度いい体慣らしと息抜きになんだろ』と不敵に笑うと指の関節をゴキゴキ鳴らした。

●温泉に着いたら何をしよう?
 魔物討伐の課題は思いのほか呆気なく終了した。
 それは魔物の多くがさほど強くないものだったのと、学生達に負けるまじと傭兵達が奮起したことも大きな理由である。
 いずれにせよ学生達には大きな時間が与えられたわけで。
 彼らは『これからどうしよう?』と顔を見合わせた。
 トルミンはかつて火山活動のもとで『死した領域』とまであだ名されるほど荒れた地だったという。
 しかしある修行中の勇者が温泉を発見、そこで傷を癒したことから今や見事な温泉街として発展していた。
 今の学生達の目の前に広がる風景は立ち並ぶ温泉宿や土産屋、その後ろに広がる雄大な山々。
 秋色に染まり始めた山の木々は少しだけアンニュイな彩りだが、それもまた美しい。
 ……ヴド・ベルゲだけは火山灰の影響で殺風景な山肌を晒しているが、それもこの街ならではの光景だろう。
 そんな中でさすがに遠出こそできないが、湯に浸かりながら何か物思いに耽るのはいいことかもしれない。
 または親しいひとと言葉を交わし、楽しい時間を過ごすのも。
 商店街でまだ見ぬ土産品やグルメを探してみるのも面白そうだ。

 ――さて、あなたは帰還までの時間をどうやって過ごされますか?


エピソード情報 Infomation
タイプ マルチ 相談期間 5日 出発日 2020-10-20

難易度 とても簡単 報酬 ほんの少し 完成予定 2020-10-30

登場人物 3/16 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《1期生》スナ・リーエ
 アークライト Lv4 / 魔王・覇王 Rank 1
 青緑色の透き通るようなボブウェーブの髪。 ルビーのような赤の双眸に白磁の肌。  彼女は『スナ・リーエ』 記憶はないけどのんびりマイペースをモットーに生きるアークライトの娘。  穏やか且つ儚げで繊細な雰囲気とは裏腹に、現在の自身の状況「アークライト化、魔王・覇王コース在籍」を内心かなり楽しんでいる。 楽しいことが大好き。 一人称は基本「わたし」たまに「すーちゃん」とも言う。
《大空の君臨者》ビャッカ・リョウラン
 ドラゴニア Lv22 / 勇者・英雄 Rank 1
とある田舎地方を治め守護するリョウラン家の令嬢。 養子で血の繋がりはないが親子同然に育てられ、 兄弟姉妹との関係も良好でとても仲が良い。 武術に造詣の深い家系で皆何かしらの武術を学んでおり、 自身も幼い頃から剣の修練を続けてきた。 性格は、明るく真面目で頑張り屋。実直で曲がった事が嫌い。 幼児体系で舌足らず、優柔不断で迷うことも多く、 容姿と相まって子供っぽく見られがちだが、 こうと決めたら逃げず折れず貫き通す信念を持っている。 座右の銘は「日々精進」「逃げず折れず諦めず」 食欲は旺盛。食べた分は動き、そして動いた分を食べる。 好き嫌いは特にないが、さすがにゲテモノは苦手。 お酒はそれなりに飲めて、あまり酔っ払わない。 料理の腕前はごく普通に自炊が出来る程度。 趣味は武術関連全般。 鍛錬したり、武術で語り合ったり、観戦したり、腕試ししたり。 剣が一番好みだが他の分野も興味がある。 コンプレックスは身長の低さ。 年の離れた義妹にまで追い抜かれたのはショックだったらしい。 マスコット扱いしないで欲しい。

解説 Explan

●目的
 トルミンの温泉街を楽しむ
 戦闘は終了していますのでプランに戦闘の記述は必要ありません。

●行動範囲
 大温泉郷『ギンザーン』と中温泉郷『ザ・ウォウ』、そしてその周辺の温泉街。
 昼間から夕方までの自由時間となります。

●禁忌事項
 えっちなことと、トルミンの温泉街から遠出してしまうこと。

●登場NPC
 ペトラ・バラクラヴァ:武神・無双コースの教師。
  ルネサンス(先祖は猛牛)で『拳で語る』タイプの筋肉熟女。
  昔はもっと荒れていたらしいが、今は大分落ち着いてしまったらしい。
  でもやっぱり口より手が出てしまうタイプなので気をつけるんだ!
  えっちなことや遠出しようとするといつの間にやら背後を取られるぞ!
 ※もしメルティ・リリンと同行したいという方がいらっしゃいましたら
  プランにその旨をご記入ください。


作者コメント Comment
いつも大変お世話になっております、ことね桃です。

最近めっきり涼しくなりましたねー。
という流れでの温泉遠足です。
温泉に入ったり、美味しいものを食べたり、遊んだりして
気分をリフレッシュするといいかもしれません。
お友達、カップル、ご家族連れのご参加も大歓迎です!
(ただしプランには同行者のお名前を必ず記述ください。
 もしすれ違いが発生するとリザルトノベルが悲しい展開になりますので……)

以上、なにとぞよろしくお願いします!


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:54 = 18全体 + 36個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
私はザ・ウォウで体を休めますわ。先生の仰る通り静かで考え事をするにはいい場所ですわね

もしペトラ先生がいらしたら、よろしければ、と酔いどれ饅頭を手渡し

「一つお聞きしてもよいでしょうか。先生はどうして武神・無双コースを選択なされたのでしょう?」

と質問。同じ武神・無双コースの後輩として興味がありますわ

スナ・リーエ 個人成績:

獲得経験:21 = 18全体 + 3個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
温泉…? みんなで一緒に入るお風呂です?
…あら、広いのです
魔物退治したあとのお風呂、いいですね
すーちゃん、ステキだと思います(目きらきら)

温泉街ならどこいっても良いのでしたよね
すーちゃん、元気に楽しいこと探しに行きます
あら! あれはなんでしょう(いそいそとアクセサリー屋へ)

色んなものが見れて大満足です…

ビャッカ・リョウラン 個人成績:

獲得経験:21 = 18全体 + 3個別
獲得報酬:0 = 0全体 + 0個別
獲得友情:500
獲得努力:100
獲得希望:10

獲得単位:0
獲得称号:---
■行動
私は中温泉郷『ザ・ウォウ』に行くよ。

温泉に入る前にかけ湯を忘れずに。
そして、ゆっくりと温泉に浸かって軽く伸びをしながらじっくりと温まる。
うん、ちょっと熱めだけど…あ~、癒されるよ~…

そして温泉から出たら牛乳を一杯。
腰に手を当てて、グビッと飲み干すよ。
くぅ~、やっぱり湯上りはこれだよね!

リザルト Result

●学園女子のお風呂事情
 学生達が魔物討伐を終えて温泉街に戦果の報告に向かったところ、先に傭兵組合『シュッツェン』から話を聞いていたのだろう。観光組合『アイネ・フォーリチェ』の職員がにこやかに彼らを出迎えた。
 そんな職員達に向けて浴衣と赤銅の髪飾りという小粋な姿の【ビャッカ・リョウラン】がくるりと回って一礼、笑顔を見せる。
「うんうん、街に被害が出なくてよかったよ。組合の皆にも喜んでもらえて一安心……。さて、温泉はどこにしようかな?」
 その弾む声に『……おんせん?』と【スナ・リーエ】が小さく首を傾げた。
 どうやらスナは温泉というものをよく知らないらしい。
 学園で感じたことのない独特の匂いや温泉街に並ぶ華やかな土産物の数々に目を瞬かせている。
 その様子に目を細めた【朱璃・拝】(しゅり おがみ)は側溝をゆるやかに流れる湯を指で示した。
「スナ様、温泉というのは通常の水と異なり地熱により特殊な効能や熱を得た水を使った浴場のことですわ。トルミンでは火山が多いものですからそういった水が日常的に使われていますのよ」
「なるほど……それに何か面白いことがあるのです?」
「温泉によっては体の凝りを解すとか、特定の傷や病気の治療に役立つと言われています。それに共同露天風呂がありますので大空のもと、沢山の方と交流しながら体を温めるのも楽しいかと」
 その声に『ああ、温泉は気兼ねなく利用してやってくれ』と応えたのは引率役の教師【ペトラ・バラクラヴァ】。彼女は『ザ・ウォウ』行きの馬車にどっかと乗り込んだ。その行動にビャッカが紫色の瞳を瞬かせる。
「あ、ペトラ先生は『ザ・ウォウ』に行くんですか?」
「あー。あそこの温度がアタシにゃ丁度いいんだよな。ほら、冷えは女の大敵だしさ」
 その返答にビャッカが『あはは、なるほど……』と頬を掻き、苦笑した。
 何しろペトラは鍛え上げた体を惜しげもなく晒したビキニアーマーを着ているのだ。
 季節による寒暖の差が激しいトルミンにおいてこの時期の軽装は体に毒といえる。
 そこで朱璃はこくり、と頷くとペトラに続き馬車に乗り込んだ。
「それでは私もペトラ先生と御一緒しましょう。『ザ・ウォウ』の湯の色は『ギンザーン』と異なると伺いましたし」
「あ、それ私も気になる! それにお客さんも少なめなんだよね。ゆっくりしたいから私もそっちの方がいいかも」
 続くビャッカも好奇心旺盛で足取りも軽やか。――しかしスナは馬車の外でちょこんと立つばかり。朱璃が尋ねる。
「スナ様はこちらの温泉を利用されるのですか?」
「夕方までなら温泉街のどこにいっても良いのでしたよね。わたし、元気に楽しいこと探しに行きます」
「なるほど、たしかに特産品の販売や見世物はこちらの方が多いでしょうからね」
「はい。それがとても楽しみなのです」
 どうやらスナは自分を囲む珍しいものに既に心がすっかり惹かれてしまったようだ。
 温泉だけではなく、雑貨屋や飲食店に並ぶ品々に次々と目移りしているよう。
 そんな彼女に朱璃は朗らかな笑みを向ける。
「素敵なものが沢山見つかると良いですね。私達は『ザ・ウォウ』でのんびりしていますので、スナ様……もし気が向かれましたら遊びにいらしてくださいね」
「はい。面白いもの大好きですから。あつあつの面白お風呂も楽しみにしています」
 スナは『いってらっしゃい』と馬車に乗った3人を見送ると物静かな印象の顔に微かな笑みを湛え、早速初めての温泉を体験するべく共同浴場へ向かった。

●湯けむりの中で
 スナはキャミソールタイプのトップスとキュロット風のパンツを組み合わせた所謂『タンキニ』スタイルの水着を着用し、露天風呂に入った。
 水着の色はアークライトの光の輪に良く似合う純白。それに白磁の顔色も相まって、一層可憐な装いとなる。
 そんな中ですれ違う男性達がスナに次々と振り向いても――当の本人はつゆ知らず。
 優しい香りの石鹸で丁寧に体を洗うと、肌触りの良い湯に肩までゆったりと浸かった。
(……確かに真っ青な空と大きな自然の風景が見えるのは気持ちいいです。お湯も丁度いい温度ですし。水着は少し窮屈ですけど、それでも吹き抜ける空気も美味しいですし……課題に参加して良かったのです)
 彼女の目の前に広がるのはトルミンの荒々しくも美しく彩られた山々。思わず見とれるスナに、ふいに現地民の少女が『お隣、いいですか?』と尋ねてきた。
「……はい、大丈夫です」
「良かった! お姉さん、頭に光の輪があるということはアークライト……学園から助けに来てくれた学生さんですよね? 私、トルミンを助けてくださってありがとうって言わなくちゃって思って」
「……それはわたしもです。ここは面白い場所だと思います。季節を肌で感じて、色んなものに触れて……それがもしなくなったらきっと寂しくなるから。ここを守れてよかったと、思います」
 これはスナの本心だった。彼女には記憶がない。自分の年齢さえも思い出せぬ身――だからこそこの世界の全てが初めてのものばかりで、愛おしく、楽しく、興味深い。
 この温泉で手にした花の香りのする石鹸、様々な絵が刷られた手ぬぐい、湯上りに纏う色とりどりの浴衣、足元を彩る様々な色の石。それら全てが彼女の眼には新鮮に映る。
 それにアークライトとなったからには残りの時間はそれほど長くはない。自身はそれを悲観しておらずむしろ楽しんでいるのだが、だからこそ彼女は貪欲に望むのだ。沢山の『楽しい』探しを。
 ――じゃぶん。
 現地民との対話を十分に堪能したスナは青緑色の美しい髪をタオルで軽く拭き、華奢な体に借り物の小鳥が描かれた浴衣を纏うと軽やかな足取りで外に出た。
 手にした巾着には購入したばかりの石鹸がぎっしり。一方で目の前の雑貨屋に並ぶ天然石を使った宝飾品にも目が留まる。
「あら! あれはなんでしょう。きらきら……素敵。すーちゃん、綺麗な色も大好きです」
 たまらず自身の瞳に似た赤瑪瑙の簪を手に取ると、スナはほっと溜息をついた。

●戦乙女の湯遊び
「わわっ、噂通り少し熱めのお湯だね。でも色がミルクのようで面白いね!」
 ビャッカは健康美あふれる体にスポーツタイプの青いラインが入った水着を着用すると、入浴前に念入りにかけ湯を行った。
 その姿にペトラは『おー、おー、そいつはいい心がけだ。ビャッカ、お前風呂の作法をしっかりわかってんじゃねえか、偉いぞ』と笑いながら豪快に体を石鹸で磨く。しかしその反応にビャッカは愛らしい頬をぷっと膨らませた。
「ペトラ先生、私こう見えても成人なんですよ? ……それはまぁ、年の離れた義妹にまで身長を越されたのはショックでしたけど! でもお酒だって飲めるんです。今日が泊りがけの課題だったら先生と温泉でお酒でも、と考えてたぐらいなんですっ」
「えっ!? そ、そいつは悪かったな。お前って声も可愛いし、なんていうか……信念はあるけれど無邪気でさ。それにお前も朱璃も肌が綺麗だろ? だから皆、これからの子なんだろうなってさ……」
 たしかにビャッカと朱璃の肌は瑞々しくきめ細やかで、水を珠のように弾いている。一方、ペトラは年齢相応。ビャッカに謝罪しているつもりがいつの間にか顎まで湯に浸して拗ねていた。
「……この年齢になるとよう、20歳前後の成人でさえ子供に見えてくるんだよなぁ。同僚にも『そろそろ外でビキニはやめろ。もういい年齢なんだし』とか言われるし……そんなこと言ってもガチの殴り合いをすんなら身軽な方がいいだろぉ。……コルネ先生だって腹出してンのに差別だよなー」
 どうやら彼女は外見年齢がコンプレックスのようだ。つまりビャッカとペトラは逆方向の悩みを抱えているということになる。
 そこで学園指定の水着を纏う朱璃はぱん、と軽く手を叩き朗らかに笑った。
「まぁまぁ、おふたりとも。折角ここまで湯浴みに来たのですから楽しみませんと。疲れには甘いものが一番と聞きますし、こちらをどうぞ召し上がって」
 彼女は小箱から酔いどれ饅頭を3つ取り出すと各々に配っては『いただきます』の挨拶とともに頬張る。たちまち酒粕の上品な香りが口内で華やかに広がった。
「ん、ありがと! 朱璃。このお饅頭、とってもおいしいね。身体が芯から温まるような気がするよ♪」
「それは何よりです。こういう品は家族や仲間と共に味わうのが一番ですもの、美味しいと思っていただけたのなら幸いですわ」
 ビャッカは大人らしく先ほどのことを忘れることにしたのだろう。明るい笑顔を浮かべ石段の上に座ると、饅頭片手に楽しそうに指先で水面を弾く。
「あぁ、それにしてもこの温泉丁度いい広さだよね。あんまり広いとギンザーンみたいに他のお客さんに気を遣うし、かといって家族風呂サイズだとのびのびできないもの」
「そうですね。寮での湯浴みも疲れは取れますけれど、あれは生活の一部ですし……」
 そう呟きながら朱璃は今日の戦に想いを馳せた。
 相手は知性も力も然程強くはない者ばかりだったが、より速く確実に仕留める手段があったのではないかと――彼女は経験を重ねた実力者だからこそ振り返るのだ。
「ん、どした? 朱璃。複雑な顔をして」
「ああ、いえ……今日の課題を振り返っていたのです。相手の力量がどうあれ、どうすればより自分の力を的確に扱えるのかと」
 朱璃は己の拳をまるで自身に問答を重ねるように見つめる。その様子にビャッカは深く感心した。
「『日々精進』の一端だね。敵を知ることも己を知ることも大切って」
「ふふ、それもそうだが朱璃もビャッカもスナもそれぞれ知恵と力を凝らした戦いぶりを見せてくれた。それだけでアタシには十分合格点だよ。これからも仲間と沢山の経験を積んで自分を高めていけばいい。色々試すうちにきっと最適解が見つかるはずさ」
 そんなペトラの言葉に深く頷くふたり。事情は異なれど、武の道を極めんとする朱璃とビャッカにとって学園での生活は掛け替えのないものなのだ。
 そこで朱璃がふと気になったことを問う。
「ならば一つお聞きしてもよいでしょうか。先生はどうして武神・無双コースを選択なされたのでしょう?」
 するとペトラは頭に生えている大きな角を指先でコリコリと掻く。
「……あー、それはだな。アタシは両親が早くに死んだんで、ガキの頃から酒場で住み込みの用心棒をしていたんだよ。でもそれだと毎日退屈だしな。そんで世の中の役に立つ仕事に就こうと考えたんだ」
「よ、用心棒!? それはまた大変そうな……」
「いーや、店で騒ぐ連中がいたら襟首掴んでゲットアウトするだけの単純な仕事さ。まぁ、抵抗された時にはそれなりにやったけどな?」
 心配するビャッカにペトラはへらりと笑い、小さな頭をぐりぐり撫でる。するとビャッカは『また子供扱いするんですねっ』と唇を尖らせた。
 それにくすりと微笑みながら朱璃は思う。
(今の私では必殺技を先生に使っても受けるか躱すかされそうですが、そういえばペトラ先生とコルネ先生、どちらが強いのでしょう?)
 するとその好奇心を帯びたまなざしに気づいたペトラが朱璃に『ん、どうしたよ。何か知りたいことがあんなら言ってみな』と告げる。その問いかけに朱璃が頷いた。
「それでは率直に伺います。コルネ先生とペトラ先生はどちらが強いのでしょう?」
 その質問にペトラが渋い顔で唸る。
「コルネ先生と研修や訓練を共にすることはあるんだが……今のとこ本気で試合はしていないんだよな。だからそれはアタシにもわからねえ」
「そうですか……」
「まぁ、得意分野や苦手分野ってのはそれぞれあるからなー。コルネ先生は仲間と連携をとっての戦術が本能の関係もあるから強そうだな。実戦にも役立つ知識を持ってると思う。んで、アタシは個人の能力を引き出す指導がメインだなぁ」
「なるほど、同じコースや種族でも得意分野や指導内容は異なると」
「だな。それこそ似たような境遇、親兄弟だろうと力は違うもんだ。本格的にやり合わないとわからないものさ」
 そう言って赤く染まった肌をぴしゃりと叩いて立ち上がるペトラ。
 するとそれまで興味深そうに話を聞いていたビャッカが急ぎ湯から足を引き上げた。
「どうした? ビャッカ」
「折角の温泉ですから! 湯上りの一杯でお酒が駄目ならアレですよ、アレ! 皆さんで飲みましょうっ!」
 水着姿のまま小銭入れを手に売店に駆け込むビャッカ。そこにスナがぽややんとした顔で訪れ、『あら……リョウランさん、どうしました?』と尋ねた。
「あっ、スナ! 丁度良かった~。これから湯上りの一杯を皆にご馳走しようと思って! ねぇ、スナはどの味が好き?」
 ビャッカの前にずらりと並ぶはトルミン名物トルミン牛の乳を使った様々なドリンク。
「えっ、わたしもご馳走になっていいのですか?」
「そりゃそうだよ~。折角一緒の課題頑張ったんだし! あ、そういえばその赤い簪似合うね。ギンザーンで買ったの?」
「あ、はい……きらきらしていて、髪を纏めるのに良いかなって……」
 白磁の頬を朱に染めて、スナは甘い果物味のミルクを選ぶ。ビャッカもいくつかの味をチョイスすると両手に抱えて浴室へ戻った。
「はいはーい、トルミン名物ミルクの配達でーすっ! スナも来たことですし皆で飲みましょう~!」
 ――こうしてビャッカのミルクは談笑とともにすぐに空っぽになっていく。
 そんな中でスナは幸せに満ちていた。今日は沢山の『大好き』に出逢えたのだから。
「……トルミンは、楽しくておいしいのです」



課題評価
課題経験:18
課題報酬:0
温泉シャバダ!
執筆:ことね桃 GM


《温泉シャバダ!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2020-10-17 08:49:22
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《大空の君臨者》 ビャッカ・リョウラン (No 2) 2020-10-19 20:50:58
勇者・英雄コースのドラゴニア。ビャッカ・リョウランだよ。
ギリギリの参加だけど、よろしくね。

私は中温泉郷『ザ・ウォウ』に行ってみるよ。