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Mid Winter Fes!


ストーリー Story

「はぁ……さむっ」
 それは誰の声だったのか? フトゥールム・スクエアには多くの学生が在籍しているが、その多くが特に寒さを感じる今年の気候に、体をぶるぶると震わせている。外で授業を受けていた学生は、授業が終わると駆け足で校舎や寮へと戻っていく。移動教室をしている学生は手袋を着用してなお、手をこすり合わながら吐息で暖を取ろうとしている。中には上着の下に何枚も着込み、だるまのようになっている学生もいた。その学生に雪が積もればそれこそ雪だるまというのだろうか?
 そんな、せっかくの快晴なのに、どんよりとした曇りのように感じる寒空の下。一人の女性が呟いた。
「ふぅ~……。こんな寒いんだからアガってかないと、やってらんないよ」
 彼女の名前は【ディージェイ・アンネリネ】。芸能・芸術コースの教官だ。噂によると、彼女の名前は本名ではなく自称らしい。おおよそ聞いたことのない言葉ではあるが……アンネリネはまだしもディージェイとはいったい何の意味があって自称しているのだろうか?
 
 閑話休題。
 
 確かにこんな寒い日がずっと続いていると皆から熱気が、やる気が失われていくのも頷ける。
 こういう時に自然界の動物たちはどうやって寒さを凌いでいるのだろうか?
 例えば冬眠というものが真っ先に挙げられる。体力を温存するためにじっと動かず、なるべく暖かいところで丸まって過ごす。もしくは地中であったり水中で過ごす。どれも厳しい自然を生き抜くためにそれぞれに適した方法なのだろう。
 しかし、この方法を学園生がとるわけにはいかない。そんなことをしようものならば、もれなく留年という恐ろしい言葉を聞く羽目になってしまうのだ。
 では他を考えてみよう。それは密集して、お互いの体温を使って寒さを凌ぐというものだ。なるほど、これならば一理あるかもしれない。そこに運動による熱が加われば……屋外だとしても寒さを忘れられるかもしれない!
 さて、こんなまどろっこしいことをつらつらと理屈をこねくり回して考えていたアンネリネであったが、ようはやりたいことは最初の一言に集約されていたのであった。
 『アガってく』。この場合ではテンションがアガってくるととらえるのが正しいだろう。即ちこういうことだ。
 
(クラブイベント。やってきますか!)
 
 M.W.F.……ミッドウィンターフェス。またの名を真冬の音楽祭。これはアンネリネが勝手にフェスを作りだし、勝手に準備を進めて、勝手に設営をし始めたイベント。
 もちろん開催の建前は決まっている。学生に舞台経験を積ませるということだ。つまり立派な実践的授業だ。なにも、問題ない。絶対面白くなるし、謎の力が働いて開催にこぎつける自身もあった。だからあとは――。
 
「ディージェ……もとい学生たちを集めないとね!」


エピソード情報 Infomation
タイプ EX 相談期間 7日 出発日 2021-01-30

難易度 簡単 報酬 通常 完成予定 2021-02-09

登場人物 2/8 Characters
《甲冑マラソン覇者》朱璃・拝
 ルネサンス Lv29 / 武神・無双 Rank 1
皆様こんにちは。拝朱璃(おがみ・しゅり)と申します。どうぞお見知りおきを。 私の夢はこの拳で全てを打ち砕く最強の拳士となる事。その為にこの学び舎で経験と鍛錬を積んでいきたいと思っておりますの。 それと、その、私甘い食べ物が大好きで私の知らないお料理やお菓子を教えて頂ければ嬉しいですわ。 それでは、これからよろしくお願いいたしますわね。
《熱華の麗鳥》シキア・エラルド
 ヒューマン Lv25 / 芸能・芸術 Rank 1
音楽と踊りが好きなヒューマンの青年 近況 自我の境界線が時々あやふやになる みっともない姿はさらしたくないんだけどなぁ 容姿 ・薄茶色の髪は腰の長さまで伸びた、今は緩く一つの三つ編みにしている ・翡翠色の瞳 ・ピアスが好きで沢山つけてる、つけるものはその日の気分でころころ変える 性格 ・音楽と踊りが大好きな自由人 ・好奇心>正義感。好き嫌いがハッキリしてきた ・「自分自身であること」に強いこだわりを持っており、自分の姿に他者を見出されることをひどく嫌う ・自分の容姿に自信を持っており、ナルシストな言動も。美しさを追及するためなら女装もする。 好きなもの 音楽、踊り、ともだち 苦手なもの ■■■■、理想を押し付けられること 自己犠牲 二人称:キミ、(気に入らない相手)あんた 初対面は名前+さん、仲良くなると呼び捨て

解説 Explan

●PL情報
 さてさて皆さん。M.W.F.……真冬の音楽祭が開催されるそうですよ! ステージに立ってフロア(広場)にいる観客をぶち上げしていきましょう! どのコースであっても参加できます!

★概要
・具体的に何をするの?
→ステージの上に立つ参加者の皆様には、自分の好きな音楽を一人一曲かけていただきます! そしてフロアに向けてダンス、楽器演奏、歌唱など思い思いのパフォーマンスをしてください! 

・音楽のイメージを文で伝えるのは難しい……。
→「○○みたいな曲」と書いてくだされば、その音楽をベースに音楽の描写をさせていただきます。某動画サイトなどで試聴できるものだとご希望に添いやすいです。また、ジャンルなどのざっくりした内容でお任せいただいても大丈夫です。
※注意:実際の曲の歌詞を使うことはできません。
例)
 レゲエで
「いぇー、めちゃはしゃぐぅ。それメメ・メメルぅ。」
 というラップを歌います。

・PCに歌わせたい!
→必ずオリジナルの歌詞を書いていただくようにお願いします。但し、ゆうがくの世界観を鑑みて調整をする場合がございますのでご了承ください。

・パフォーマンスって何するの?
→フロアをぶち上げるために、やりすぎない程度のアピールをします。
例)「あなたのこころにずっきゅ~ん」と言いながらウィンクをします!

・演奏順は?
→特にご要望がなければランダムです。

・二人以上でステージに立ちたい!
→もちろん大丈夫です! その場合、人数分曲をかけることできます。誰と組むのかをプランに明記してください。
例)メメル先生と一緒に演奏します。
※注意:NPCを希望する場合は、公式NPCとGMオリジナルのNPCに限ります。

★まとめ
・流す曲を決めよう! (必要であれば歌詞を書こう!)
・パフォーマンスを決めよう!

●NPC情報
【ディージェイ・アンネリネ】
一緒にアガろうぜ! M.W.F.の主催及び司会進行を務めてくれる芸能・芸術コースの教官。


作者コメント Comment
 あけましておめでとうございます。SIGINTです。
 皆さま、お正月はどのように過ごされましたでしょうか? 我が家は(姉の)猫二匹(と実家を出た姉)を迎えて楽しく過ごしました。
 ――もっともこれを書いているのは大晦日ですが。モウソウタノシイネ。
 
 さてさて。今回の授業はなにやら広場を使って音楽イベントをやるそうですよ!
 昨今は病魔しかり、寒さしかりでなかなかこのような盛り上がるイベントは開催が難しいかと思います。そんなストレスをぜひここで! 解消していってくださいね。盛り上がっていきましょ~↑↑!!

GM:SIGINTより


個人成績表 Report
朱璃・拝 個人成績:

獲得経験:112 = 75全体 + 37個別
獲得報酬:3000 = 2000全体 + 1000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
武神・無双コースのコルネ先生と参加いたしますわ。パフォーマンスとしてはコルネ先生と二人で曲に合わせ演武の演舞を行いますわ。舞台にあがって一礼、曲が始まったらお互い軽く拳を合わせて後、拳と蹴りの応酬を行いますわ

魅せる為の物ですのでなるべく大きな動きで解りやすく。時折は立体機動を用いて相手を投げ飛ばし空中で回転、着地等も織り交ぜますわ。事前に打ち合わせていますので、先生の拳や蹴りは当たらないよう躱せる筈ですが、先生の動きの素早さに見切りや精密行動を用いなんとかついていきますわね

ラストはお互いバク転で舞台の両端に立つと、走りながら飛び蹴り、空中で交差してそのまま両端に降り立つと一礼して退場しますわ

シキア・エラルド 個人成績:
成績優秀者

獲得経験:225 = 75全体 + 150個別
獲得報酬:6000 = 2000全体 + 4000個別
獲得友情:1000
獲得努力:200
獲得希望:20

獲得単位:0
獲得称号:---
本当に寒い時こそノッていかないとね!!先生わかってるー
なんだかんだで、純粋にステージに立つの久しぶりだからワクワクするよ

・曲
あーでもないこーでもないと言いながらギリギリまで悩む
盛り上がるって言ったら、あの流行りの曲か…
うーん歌詞付き…もうちょっと動き抑えてその分を回して…(ぶつぶつ
いやいっそアレンジ…音源があれば…(うろうろぶつぶつ
…うん、決めた


・パフォーマンス
みんなーっ!今日は盛り上がれぇーっ!!
「音楽」「歌唱」「踊り」自分の今の技術をフルで出し切る
歌も悩んだけど、どうせならアレンジしたかったし
ジェスチャーで手拍子を促し、盛り上がった所で歌を追加
合いの手を入れやすいように観客へも促す

リザルト Result

●M.W.F.
 皆が待ち望んだこの日がやってきた。真冬の音楽祭、ミッドウィンターフェス。通称M.W.F.――。
 フトゥールム・スクエアの広場に堂々と設置されたステージは、設営の段階で既にとても目立っていた。
 それがよい広報にもなっていただろう。広場を通る学生たちは設営を横目でちらちらと見ていたし、広報が出てからはすぐに噂話となって学内にすぐに広まった。
「ねぇねぇ、広場でなんかイベントやるらしいよ!」
「聞いた聞いた! 音楽系のだっけ?」
「そうそう!」
 そんなこんなで多くの学園生がこのイベントを楽しみにしていたようだ。当日、M.W.F.は開始前から多くの人でごった返していた。

 トップバッターを務める【朱璃・拝】と、一緒に演武を行う【コルネ・ワルフルド】は体を動かして緊張をほぐしていた。武神・無双コースの学生と先生の共演である。
 今回参加する学生で唯一の演武形式ということや、あのコルネ先生がステージに立つことで、注目を集めていた。
 朱璃とコルネ先生はおそろいのチャイナドレスを身に纏っている。朱璃はいつもの赤いもの、それに対してコルネ先生は緑のもの。あえて朱璃と真逆の色を選ぶことでお互いを目立たせる狙いだ。また、激しい動きをしても遠くの観客にどちらがどっちなのかわかりやすくしたいという意図もある。
「しかしこれは恥ずかしいね……」
 コルネ先生は着慣れない服を気にして動きづらそうにしていた。スリットが原因なのだろうか、少し気にしている。普段の服も下に着こんでいるはずなのだが……服を着た方が羞恥心が増すのだろうか?
「まぁまぁ、コルネ先生。とってもお似合いですよ」
 そう声をかけたのは【ディージェイ・アンネリネ】。本日の司会進行を務めてくれる、M.W.F.の主催でもある芸能・芸術コースの教官だ。
「あははぁ……。ありがとうございます。アンネリネ先生」
「そうですわ。コルネ先生。普段の軽装もかわいいですが、チャイナドレスみたいな服もまた違う魅力があってお綺麗ですわ」
 朱璃もチャイナドレスを着るコルネ先生に魅力を説く。
「うーん。でもこんなにガードのゆるい服でダンスなんて聞いてないよ……」
 練習や打ち合わせは何度かしたが、コルネ先生が衣装を着たのは今日が初めてであり、顔を赤らめている。
「以前も申しましたが、音楽はかけますが行うのはあくまで組手であって、ダンスではないので大丈夫ですわ!」
 しかし朱璃の強い説得もあって納得したのか、コルネ先生は頬を両の手でぱちんと叩いて気合を込めた。
「そうだね、これは組手だね! 教官として恥ずかしい姿は見せられないし、全力でやらさせてもらうよ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたしますわ」
 その様子をほほえましそうに見ていたアンネリネが二人に声をかける。
「お二人とも、間もなく開演ですよ。準備はばっちりですね! リハーサル通り、開幕宣言が終わってすぐお呼びしますのでよろしくお願いします!」
「わかりましたわ」
 
 アンネリネがステージへと上がり、短い挨拶をする。そしてついにこの時がやってきた!
「それでは皆様お待たせしました。第一回ミッドウィンターフェス、M.W.F。開幕します!」
 その一声で会場は早くも熱狂に包まれる。アンネリネ考案の、色とりどりに光る棒――通称ペンライトが、まだ昼間で明るい会場を様々な色に染めあげる。これだけの熱気、既にこのフェスは成功であるといって差し支えないだろう。しかし! 本番はこれからなのだ。
「皆さ~ん。アガってますかーーーー!」
『アガってまーーーーす!』
「最高ーー! もっとアガっていきますかーーーー!」
『いぇーーーーい!』
「ファビュラス! それでは一組目! 武神・無双コースの拝朱璃と、同じく武神・無双コースのコルネ・ワルフルド先生で『無双演武』!」
 演目が読み上げられると同時に、二人がステージへと飛び出し、中央で観客に向けて礼をする。湧き上がる歓声を受けながら、向かい合ってお互いの右腕を交わしてから、最初の立ち位置――両端につき、相手に対して一礼。
「お願いしますわ」
「お願いね!」
 観客には聞こえないだろう声量で挨拶。それが終わると二人は目の色を変えて構えを取った。
 朱璃は左足を軸足としてつま先立ちをして左手を前に出しバランスを取り、利き手である右腕を引いて右足は腿の高さまで上げた構えを取る。
 不安定な状態なはずだが、しっかりと鍛え上げられた肉体で構えを維持しているのは流石といったところか。この構えの特徴としては、不安定な状態だからこそ乗る、倒れこむときに発生する位置エネルギーを使い、拳を入れつつ右足を踏み込むことで高威力の一撃を狙うことができるということなどが挙げられる。
 一方でコルネ先生は腰を低く構え、両手を前に出している。ルネサンスの祖たる四足歩行を模した構えだ。かかとはあがっており重心はやや左にある。上体はやや倒れているが、顔は朱璃をじっととらえている。
 これは重心移動をすることで得られるエネルギーと腿の発達した筋肉の瞬発力、腹筋を使って体を起こすときに発生する前方向への推進力を使って仕掛けていくといったことが狙いの構えだろう。
(演武形式とわかってはいてもこの威圧感……気圧されてはいけないですわ)
 構えを終えたコルネ先生から発されている闘気は、普段の優しい笑顔が嘘かのように場を支配した。
 朱璃の喉がゴクリと鳴る。睨むように見つめるコルネ先生の黄色い目が、朱璃の背筋に冷たい汗を感じさせる。
 観客たちもこの圧を感じているのか、先ほどの盛り上がりが嘘だったかのように静まり返っている。
 緊張の糸を切るかのように、一音目が、鳴る。
 その音は朱璃にも、観客にも、始まってみればたいしたことがないはずなのに、異様に大きく聞こえていただろう。
 刹那、コルネ先生が驚異的な速さで間合いを詰めて朱璃に迫ってきた。
(早いですわ……!)
 確かに練習でも何度か見た動きのはずだった。笑顔でいいねと合わせたはずの演舞のはずだった。
 ……しかし、今眼前に迫るコルネ先生の動きはまさしく本気を垣間見るものだ。
(これでも手加減されているのかしら……?)
「はっ!」
 朱璃が止めていた息を吐きだして体重を乗せた一撃が、コルネ先生の拳と交わる。
(……重いっ!?)
 震脚によって踏みとどまったものの、じっとしているだけでは音楽に合わせた演舞が成り立たなくなってしまう。いきなりの窮地……。
「成果を見せてよ♪」
 交差のさなか、コルネ先生が畏怖さえ感じる笑みを浮かべて囁いた。
「上等っ!」
 その声が、朱璃の本能を呼び覚ましたのか口調が荒くなる。それに合わせて、先ほどまで緊張で固かった動きが一気に滑らかになる。
 ドラムや音色の変わるキーボード、より高く強く響くギターの音色に合わせたノリの良いラップで始まった音楽に合わせた演舞はまさに乱舞。表の拍に合わせて一打一打が撃ち込まれるたびに、観客からため息がこぼれる。
 二人の演舞はまさに鬼気迫る。限りなく本気で打ち込みあうからこそ伝わる熱気が、会場の空気を掌握していく。
 サビでの打ち合いは果たして目で追えた観客が一体どれだけいただろうか? わかることが一つだけある。赤と緑の目立つ服を着た2人が驚くべき技量で拳を交わしていたということだ。
 メロディラインの主役がギターへと変わり、ここからは派手だが分かりやすい動きへと変化していった。
 残るはウィニングランといったところか? 朱璃は相当息が上がっており、肩をつかって空気を取り込んでいた。
(あと……少し!)
 態勢を立て直して見合ったかと思えば、間合いを一瞬で詰めたコルネ先生が朱璃の胸倉をつかんで背負い投げをする。背負われた朱璃はコルネ先生の首を腕を使ってしっかり締め、投げられた勢いを使ってコルネ先生を投げ返す。まるで車輪のように転がったのちに拘束を解いて勢いそのまま、最初とは逆の立ち位置へとバク転で立て直す。
 今度はお互いズシリと腰を落として正面に相手を見据える構えを作った。そしてギターがアウトしていくのに合わせて、両者がステージの中央で交わる瞬間、朱璃が煙幕を取り出して下に投げつけた!
 観客が最後に見たのは両者が交差するシルエットのみ……。皆が固唾を飲んで、どうなったのかと待ち――。
 演奏が、終わる。と同時に煙幕が晴れ、そこにはステージの中央で手を握って上に挙げている朱璃とコルネ先生がいた。二人が一礼をすると、割れんばかりの声援が飛び交う。
「コルネ先生、ありがとうございました!」
「いい演舞だったよ!」
 惜しまれつつ退場した二人。舞台袖に降りてなお響く歓声が、フェスのトップバッターとして大成功だったことを伝えてくれただろう。
「今度干しブドウ、おくりま……」
 そこまで言うと、疲労と緊張のゆるみで朱璃は眠ってしまった。
「強くなったね。朱璃ちゃん」
 それを抱きかかえたコルネ先生は、とても満足そうに朱璃を医務室へと運んでいくのだった。
 
 
 さて、楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもの。トップバッターをつとめた朱璃とコルネ先生の演舞がさっき終わったばかりのように思えるかもしれない。しかし、外はもう薄暗く。会場は多彩な蛍光色に光るペンライトが一層よく目立つようになっていた。
 本日のトリを任されているのは芸能・芸術コースの【シキア・エラルド】だ。
 シキアは出番直前まで、どのようなパフォーマンスをするか悩みに悩んでいた。顎に手をやり、うろうろと歩き回る。
(バラードにするか、ポップスにするか)
「あの子に教えてもらったラップも捨てがたい……」
 シキアが頭の中で考えを巡らせていたことは、知らず知らずのうちに口に出ていたようだ。
「どうしたの? ディージェイ・シキア」
 シキアがはっと我に返り振り返ると、そこにはアンネリネがいた。
「あぁ……先生。実はまだどんなパフォーマンスでいくか、決め切れていないんです」
 その悩みは顔に如実に出ていた。
「んー……そうだねぇ。会場の雰囲気はつかめてるの?」
「いえ、まだです」
「一度舞台袖に行ってごらん。会場の雰囲気がわかるだけでも、だいぶ方針が決まると思うからさ」
「ええ、そうしてみます」

 シキアが舞台袖を訪れると、そこにはシキアが見たこともないような光景が広がっていた。
 全力でパフォーマンスをする学生に、観客も全力で応えてペンライトを振る。光が生き物のように揺らめき、既に暗くなり始めている会場の様子がよく伝わってきている。
「っ!」
 シキアは目を見開いて、何かを思いついたのだろうか? 急いで楽屋に戻った。扉をバタンッと勢いよく開けて、アンネリネを呼ぶ。
「先生!」
「どうだった?」
「すごかったです」
「それはよかった。さっきよりいい表情してるわよ。それで、決まったのかしら?」
「はい、演目は『未来(あした)』でお願いします」
「『未来』、ね。いいじゃない」
「ありがとうございます」
「ふふっ。髪が乱れてるわ。出番はもうすぐだから、直しておくことをお勧めするわよ。せっかくのイケメンが台無し。それじゃあまた後でね~」
 アンネリネは妖艶に笑うと、ステージへと向かっていった。

 暫く。シキアは万全の準備を整えて舞台袖にて呼ばれるのを待っている。
「さぁさぁ、皆さん。宴もたけなわですが! 寂しいことにミッドウィンターフェス、M.W.F.もこれが最後の演目となります。トリを務めるのはこの人。芸能・芸術コースのシキア・エラルド! 演目は『未来(あした)』。最後までアガっていこーう!」
『いぇーーーーい!』
 シキアがステージに立ち一礼をすると、観客たちは静かに音楽の始まりを待つ。
 歌い出しの一音をミュージシャンが鳴らし、演奏が始まる。
 ベースとドラムの音が支配する心地よいアップテンポに、ギターのメロディラインが楽しい音楽だ。
 シキアが両手を上に挙げて、ドラムの音に合わせて手拍子を求める。それが観客に伝播していき、やがて音の渦となってシキアを襲う。
(これは……最高だね!)
 観客が乗ってきたのに合わせて青嵐を奏で始める。東方特有の音色が混じり、さらに音楽は独奏的な仕上がりへとなった。しかしこれがまた癖になるアレンジ。一度聴いたら忘れられず、思わず口ずさみたくなるビートだ。
 ステージから見る観客席は、絶景と見紛うものになった。シキアの長い指が弦を弾く度に揺れ動く光は夏の海。美しい髪が揺れる度にこぼれる吐息は雪の輝き。さぁ、早くその歌で魅了してはくれまいか?
 長く、楽しく、癖になるイントロで観客のハートとビートをがっちり掴んだところで始まった歌には、様々な哀愁を込めた涙を添えて。

♪~
遠い未来も気づけば今日
振り返って見えた
プライスレス
また次の未来に
 
 一音一音が丁寧に、つけられた強弱が観客の胸に響き、しみわたる。フェスの最後の曲としてアガりつつ、また明日への活力となるメッセージ。
 シキアの技量と、会場が一体になった音楽はこの場でしか得られない一期一会だ。シキアが体を揺らすように観客席もまた、体を揺らす。フェスの最終盤で、今が間違いなく一番熱くアガっているだろう。その揺れは広場の外にまで伝わって、すぐ近くにある巨大なフトゥールム・パレスにまで届くほどだ。
 サビに入ると、シキアは青嵐を降ろしてパフォーマンスを歌詞に合わせたダンスへと変える。

♪~
ゆっくり歩いていいじゃない?
だってぼくらの歩幅違うしさ
逃げるんだって そうじゃない
違う道が 見えてくるだけ

 前へ踏み出し腰を落として、右腕を後ろに回しながらバックステップ。自分の胸を二度叩いて前後にずらした足をステップで入れ替え。遠い方向を指でさし一度止め、自分の前に戻して人差し指を立てたまま横に腕を振る。今度は逆の方向を指さして、遠くをよく見るようなしぐさを取って下に回した腕を上へと上げる。
 よく歌詞を表現したキャッチーなキレのよいダンスに、歓声が湧く。サビということも相まって盛り上がりは最高潮。
 
♪~
積み重なった過去を そっと抱えて
わからない未来(あした) 見つめて
それでいいよ でも忘れないで今
生きているのは キミだから
一歩一歩 進んでいこうよ

 腕を重ねて左を指さし、両の手で掬い上げる。首をかしげて右を指さし、そちらの方向を見る。胸の前で拳を作り目をつむりうつむいて、前を見て前方へ指をさす。その指をそのまま上へとあげ、観客全員を示すように手のひらを向けて左から右へと流す。そして、一歩、一歩と前に向けて指をさしながら歩いていく。
 
 ここで音楽が終わり、シキアが一礼をすると、怒号のような歓声がシキアに伝わってくる。
(楽しかったな)
 これにて終演。余韻に浸る間もなく、シキアがステージを後にしようとしたその時。観客席からは大量のうれしい言葉が押し寄せてきた。
『アンコール! アンコール! アンコール!』
(さすが俺、いいステージになったな!)
 満足気なシキアの思う通り、フェスは素晴らしい締めくくりを迎えることができただろう。だが、観客もまだまだ、もっと盛り上がりたいと思っているようであり、何よりもこの人が。
「もう一曲、いっとく?」
 颯爽とステージへと上がってきたアンネリネが誰よりもアンコールを欲していた。
「はい!」
 そしてステージを終えたばかりのシキアもやる気は最高! アンコールもアガっていこうぜ!
「たくさんのアンコール、最高だぜ! アガってるねー! そんな皆さんの歓声に応えて~。もう一曲行ってみよう!」
 アンネリネがそうアナウンスすると、観客が喜びの渦に巻き込まれる。
 歓声がやまぬうちに、いつの間にかギターを手にしていたアンネリネがギュイーンと音を鳴らした。観客は一気に静まり、終わったと思っていたフェスの再会を待つ。
「ディージェイ・シキア。主役はあなただからよろしくね!」
 アンネリネがシキアに耳打ちし、返答を待たずに再び声をあげる。
「正真正銘、これがラストだー! 後悔しないように、燃え尽きるほどアゲてこーーーう!」
 そして、音が鳴る。アンネリネの奏でる、響くメロディライン。相も変わらず美しいシキアの歌声と、キレのいいダンス。肌を刺すほど寒い冬のはずなのに、気が付けば汗が滴り、真夏のような熱気に包まれた会場。最高にアガりきったアンコールで――、
「ミッドウィンターフェス、M.F.W.。これにて終了! ありがとうございました!」
 全員が燃え尽きた。アガりきった。楽しかった。最高だった。夢のようだった。言葉は探せばいくらでもあるかもしれないし、言葉に表すことはできないかもしれない。それくらい、素敵なフェスだった。
 閉幕。宴の終わりは突然に感じるものであり、その後はいつも寂しいものだ。
 観客が退場していく中、アンネリネがシキアに話しかける。
「どうだった?」
「最高、でした」
 シキアもまだ呆然と言った様子だ。それだけこのフェスは楽しかったということ。それに対してアンネリネはふふっと少し笑みをこぼして後片付けをし始める。
「そうだね! でも、片付けるまでがフェスだよ♪」
 その声にシキアは急に現実に引き戻されて、心に一つ、大きな思い出が残るのであった。



課題評価
課題経験:75
課題報酬:2000
Mid Winter Fes!
執筆:SIGINT GM


《Mid Winter Fes!》 会議室 MeetingRoom

コルネ・ワルフルド
課題に関する意見交換は、ここでできるよ!
まずは挨拶をして、一緒に課題に挑戦する仲間とコミュニケーションを取るのがオススメだよ!
課題のやり方は1つじゃないから、互いの意見を尊重しつつ、達成できるように頑張ってみてね!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 1) 2021-01-23 11:17:18
武神・無双コースのルネサンス、朱璃・拝と申します。どうぞよろしくお願いしますね。

《熱華の麗鳥》 シキア・エラルド (No 2) 2021-01-28 22:09:42
音楽祭?出ないわけにはいかないよね!
ってことで、芸能コースのシキア、飛び入りでやっちゃうよ!

《甲冑マラソン覇者》 朱璃・拝 (No 3) 2021-01-29 19:18:38
公式NPCは大丈夫のようですので、コルネ先生をお呼びしてみようかと思っておりますわ。